説明

電極の評価方法

【課題】電池を組み立てることなく、電極の状態で組立後の電池の特性を直接的に反映し得る電極の評価方法を提供する。
【解決手段】
かかる電極の評価方法は、電極活物質とバインダとを含む多孔性の電極活物質層が集電体上に備えられてなる電極を評価する方法である。電極を少なくとも2枚用意し、電解質中において電極活物質層が対向するように前記電極を重ね合わせた評価用セルを用意する工程と、評価用セルにおいて、重ねられた一方の電極の前記電極集電体と、他方の前記電極集電体との間に電圧を印加する工程とを包含する。電圧は、交流電圧を高周波側から低周波側に変化させて印加するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極の評価方法に関する。
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充電可能な電池一般をいう。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」は、電解質イオンとしてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電子の移動により充放電が実現される二次電池をいう。
【背景技術】
【0002】
近年、非水電解質二次電池(典型的には、リチウムイオン二次電池)や電気二重層キャパシタおよびこれらの複合体(典型的にはリチウムイオンキャパシタ)等に代表される蓄電デバイスの重要性が高まっている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン二次電池は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられる。
【0003】
リチウムイオン二次電池の一つの典型的な構成では、電荷担体となるリチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出し得る電極活物質を含む電極活物質層が、導電性部材(電極集電体)に保持された電極を備えている。この電極は、代表的には、まず、電極活物質と、高導電性の導電材と、バインダ(結着剤)等の固形分材料を適切な溶媒に分散させて電極活物質層形成用組成物を調製し、この組成物を集電体の表面に層状に塗布する。次いでこの塗布した組成物を乾燥させて溶媒を除去し、集電体上に電極活物質を含む電極活物質層を形成することで、製造している。
【0004】
かかる蓄電デバイスの評価方法としては、当該蓄電デバイスを構築した後に、各種の特性評価をしている。たとえば、特許文献1には、非水電解質二次電池を組立てた後、初回充電前に、電極体の開回路電圧を測定することにより電極体の電池特性を評価することが開示されている。かかる構成によると、初回充電の前段階において、予め電池の内部抵抗、自己放電特性等の電池特性が評価できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−352862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、蓄電デバイスの評価は、蓄電デバイスの製造工程中にも抜き取り検査という形で行われている。例えば、電極については、電池に組み立てられる前の電極の電極活物質層の密度や空隙率を調べたり、電子抵抗を測定したりしている。しかしながら、このような抜き取り検査では、該電極を用いて得られる電池の特性を直接的に反映する結果を得ることはできなかった。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、電池を組み立てることなく、電極の状態で電池の特性を直接的に反映し得る電極の評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明が提供する電極の評価方法は、電極活物質とバインダとを含む多孔性の電極活物質層が集電体上に備えられてなる電極を評価する方法である。かかる評価方法は、上記電極を少なくとも2枚用意し、電解質中において前記電極活物質層が対向し、かつ、互いに絶縁された状態で前記電極を配置した評価用セルを用意する工程と、上記評価用セルにおいて、一方の電極の電極集電体と、他方の電極の電極集電体との間に電圧を印加する工程と、を包含する。
【0008】
例えば、蓄電デバイスの一例としての二次電池を例にすると、二次電池の特性評価は、従来では、例えば正極と負極と所定の電解質とを用いて電池を構築してから、この電池に対して評価するようにしている。該電池は、正負両電極に含まれる電極活物質の間に発生する電位差を利用して充放電を行っている。したがって、この電池に電圧を印加して電池特性の評価を行うと、電荷担体であるイオンが電解質中を移動し、電極活物質の中に挿入または脱離する挙動と、これに伴う電子の挙動が、評価内容に含まれることになる。
【0009】
これに対し、ここに開示される評価方法においては、電池を組み立てての評価は行わず、正極または負極のいずれか一方の電極のみを用いて構築する評価用セルに対して評価を行う。ここに開示される評価用セルは、同一の電極を対向配置させているため、それぞれの電極活物質の間には電位差は発生しない。したがって、この評価用セルに電圧を印加した場合に移動し得る電荷担体としてのイオンは、電解質に由来するものに限定される。また、電極活物質の間の電位差がゼロのためこのイオンが電極活物質に挿入または脱離することはない。したがって、この評価用セルに電圧を印加することで、電荷担体であるイオンが電極活物質間を移動する挙動と、これに伴う電子の挙動に焦点を当てて評価することができる。すなわち、これは、この電極を用いて構築する電池の本質的な特性を反映するものとなり得る。
【0010】
かかる構成により、電池特性を反映し得る電極の評価方法が提供される。これによると、電池を構築することなく、評価対象である電極を用意することで、該電極を用いて構築する電池の特性を評価することが可能となる。
【0011】
ここに開示される電極の評価方法の好ましい一態様では、上記電圧を印加する工程において、上記一方の電極の電極集電体と上記他方の電極の電極集電体との間に交流電圧が印加され、上記交流電圧が印加された電極集電体間の電圧と電流の関係から、上記電極集電体間のインピーダンスを測定する工程を含む。電極および電池の特性を評価するにあたり、最も基本的で、かつ重要となるのが抵抗特性である。上記の評価用セルにおいては、直流電圧を印加することで系全体の抵抗を測定することに加え、交流電圧を印加することで、たとえば、上述の電子の移動およびイオンの移動に伴う抵抗をそれぞれ切り分けて評価することができる。
【0012】
そこで、ここに開示される電極の評価方法の好ましい一態様では、上記測定する工程において、上記交流電圧の周波数を変化させながら上記電極集電体間のインピーダンスを測定する。周波数は、高周波側から低周波側に変化させるのがより好ましい。一般に、電子の移動速度とイオンの移動速度を比較すると、電子の移動速度のほうが大幅に速い。したがって、より高周波の交流電圧を印加することで、電子の移動に係るインピーダンスを抽出して測定することができ、より低周波の交流電圧を印加することで、電子の移動に係るインピーダンスとイオンの移動に係るインピーダンスとを併せて測定することができる。
【0013】
ここに開示される電極の評価方法の好ましい一態様では、上記インピーダンス測定を解析することにより得られる上記電極集電体間の直流抵抗成分Rsおよび/またはワールブルグインピーダンス成分WRに基づいて、上記電極を評価する工程をさらに含む。ここに開示される評価用セルの抵抗は、典型的には、直流抵抗成分Rsとワールブルグインピーダンス成分WRが直列に接続された等価回路により表わし得る。かかる構成によると、上記評価セルの直流抵抗成分Rsおよび/またはワールブルグインピーダンス成分WRを精確に求めることができ、これらの抵抗成分に基づいた電極および電池特性の評価を行うことができる。
【0014】
たとえば、上記ワールブルグインピーダンス成分WRが所定の範囲内の値である場合に、上記電極を良品と判定することができる。ワールブルグインピーダンス成分WRは、物質拡散の関与した抵抗成分であり得る。かかる構成により、電極および電池におけるイオンの拡散抵抗に関する評価を行うことができる。また、このワールブルグインピーダンス成分WRに所定の閾値を設け、該閾値の範囲内(例えば、基準値の±10%の範囲内)の値である場合に、この電極を良品と判定することができる。
【0015】
ここに開示される電極の評価方法の好ましい一態様では、上記電圧を印加する工程において、上記電極活物質層に圧力を加える。かかる構成によると、例えば電極活物質層の状態を変化させた時の電池特性の変化等を調べることができる。また、該電極を用いて電池を構築する際の拘束圧による電池特性の影響なども調べることができる。また、該電極を用いて電池を構築する際の最適な拘束圧を調べること等も可能とされる。
【0016】
ここに開示される電極の評価方法の好ましい一態様では、上記評価用セルを用意する工程において、対向する上記電極活物質層の間にセパレータを介在させるようにする。上記評価用セルに電圧を印加すると、電荷担体は、2枚の電極集電体の間を移動する。具体的には、電解質に由来するイオンは電解質中を移動して電極(実質的には、電極活物質層)の表面に到達し、さらに電極活物質層に含まれる空孔内を移動して電極活物質の表面に到達する。また、電子は、電極活物質層中の電極活物質(導電材が含まれる場合は導電材であり得る。)を通って電極集電体へと移動する。ここで、電子の移動については、2枚の電極間にセパレータが有るか無いかには影響を受けない。一方で、イオンの移動については、2枚の電極間のセパレータの有無に大きな影響を受けることになる。
【0017】
すなわち、2枚の電極がセパレータを介することなく、絶縁されて対向配置されている場合には、イオンは電解質が存在し得る電極活物質中の空孔内等を移動するため、該空孔内で電極活物質の表面に到達する移動に関して評価を行うことができる。また、2枚の電極がセパレータを介して重ね合わされている場合には、上記移動に加えて、セパレータ内をイオンが移動し、セパレータから上記空孔に入り込む際の挙動についても、評価することができる。このようなイオンの移動は、電池におけるイオンの移動と等しいと考えることができる。したがって、かかる構成によると、セパレータ内のイオンの移動、ひいては電池におけるイオンの移動を評価可能な電極の評価方法が提供される。
【0018】
かかる電極の評価方法によると、例えば、電荷担体であるイオンが電極に入る(電極活物質層内の空孔に入る)スピードを評価することができる。この情報は、該電極を用いて電池を構成した場合の入出力特性を反映し得る。一方で、ハイレート特性が求められるリチウムイオン二次電池において入出力特性は重要な要素である。したがって、リチウム遷移金属酸化物とバインダとを含む多孔性の正極活物質層が所定の正極集電体上に備えられてなるリチウムイオン二次電池用正極に対して、本発明の電極評価方法を特に好ましく適用することができる。すなわち、上記の電極は、リチウムイオン二次電池用正極であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、リチウムイオン二次電池の構造の一例を示す図である。
【図2】図2は、図1中のII−II断面を示す断面図である。
【図3】図3は、リチウムイオン二次電池の捲回電極体を示す図である。
【図4】図4は、図3中のIV−IV断面を示す断面図である。
【図5】図5は、本発明の一実施形態に係る評価用セルの構造を示す断面図である。
【図6】図6は、Cole−Coleプロット(ナイキスト・プロット)の典型的な図である。
【図7】図7は、図6のCole−Coleプロットの等価回路を示す図である。
【図8】図8は、本発明の他の実施形態に係る評価用セルの構造を示す断面図である。
【図9】図9は、本発明の他の実施形態に係る評価用セルの構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明において、「電極」とは、電極集電体上に電極活物質を含む多孔性の電極活物質層が形成されている多孔性電極一般を意味する。例えば、二次電池、キャパシタ(コンデンサともいう)等に代表される繰り返し充電可能な蓄電デバイス一般に用いる電極等であり得る。典型的には、リチウムイオン二次電池(リチウムイオンポリマー電池を含む)、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ等のキャパシタ用の電極を包含する。このように本発明に関して「電極」は、二次電池等のいわゆる化学反応(ファラデー反応)を蓄電機構とする電極に限定されず、電気二重層キャパシタ等の化学反応を伴わない(非ファラデー反応)いわゆる物理現象(誘電分極)を蓄電機構とする電極をも含み得る。
【0021】
ここではまず、本発明の評価対象である電極を備え得る電池の例として、リチウムイオン二次電池の構造例を簡単に示し、併せて本発明の評価対象である電極の構成について説明を行う。その後、本発明の一実施形態に係る電極の評価方法を、リチウムイオン二次電池用電極を例にして説明する。なお、同じ作用を奏する部材、部位には適宜に同じ符号を付している。そして、各図面は、模式的に描いており、必ずしも実物の形態、寸法等を反映するものではない。また、各図面は、一例を示すのみであり、特に言及されない限りにおいて本発明を限定しない。
【0022】
図1は、リチウムイオン二次電池100を示している。図2は、図1中のII−II断面を示している。このリチウムイオン二次電池100は、図2に示すように、捲回電極体200と電池ケース300とを備えている。また、図3は、捲回電極体200を示す図である。図4は、図3中のIV−IV断面を示している。
【0023】
捲回電極体200は、図2および図3に示すように、正極(正極シート)220、負極(負極シート)240およびセパレータ262、264を有している。ここで、正極シート220、負極シート240およびセパレータ262、264は、それぞれ帯状のシート材である。
【0024】
≪正極シート220≫
正極シート220は、図3に示すように、帯状の正極集電体221と、正極活物質層223とを備えている。正極集電体221には、正極に適する金属箔が好適に使用され得る。この実施形態では、正極集電体221には、所定の幅を有し、厚さがおよそ10μmの帯状のアルミニウム箔が用いられている。正極集電体221の幅方向片側の縁部に沿って未塗工部222が設定されている。正極活物質層223は、正極集電体221に設定された未塗工部222を除いて、正極集電体221の両面に形成されている。
【0025】
≪正極活物質層223≫
正極活物質層223は、正極集電体221に保持され、少なくとも正極活物質が含まれている。この実施形態では、正極活物質層223は、正極活物質を含む正極活物質層形成用組成物が正極集電体221に塗工されている。正極活物質層223には、正極活物質や導電材やバインダが含まれ得る。
【0026】
<正極活物質>
正極活物質には、リチウムイオン二次電池100の正極活物質として用いることができる物質を使用することができる。正極活物質の例を挙げると、LiNiCoMnO(リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物)、LiNiO(ニッケル酸リチウム)、LiCoO(コバルト酸リチウム)、LiMn(マンガン酸リチウム)、LiFePO(リン酸鉄リチウム)などのリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。また、一般式:
Li(LiMnCoNi)O
(前式中のa、x、y、zはa+x+y+z=1を満たす。)
で表わされるような、遷移金属元素を3種含むいわゆる三元系リチウム過剰遷移金属酸化物や、一般式:
xLi[Li1/3Mn2/3]O・(1−x)LiMeO
(前式中、Meは1種または2種以上の遷移金属であり、xは0<x≦1を満たす。)
で表わされるような、いわゆる固溶型のリチウム過剰遷移金属酸化物等であってもよい。
【0027】
<導電材>
導電材としては、例えば、カーボン粉末やカーボンファイバーなどのカーボン材料が例示される。このような導電材から選択される一種を単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。カーボン粉末としては、種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、黒鉛化カーボンブラック、カーボンブラック、黒鉛、ケッチェンブラック)、グラファイト粉末などのカーボン粉末を用いることができる。
【0028】
<バインダ>
また、バインダは、正極活物質や導電材の各粒子を結着させたり、これらの各粒子と正極集電体221とを結着させたりする。かかるバインダとしては、使用する溶媒に溶解または分散可能なポリマーを用いることができる。例えば、水性溶媒を用いた正極活物質層形成用組成物においては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)などのセルロース系ポリマー、また例えば、ポリビニルアルコール(PVA)や、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系樹脂、酢酸ビニル共重合体やスチレンブタジエン共重合体(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)などのゴム類;などの水溶性または水分散性ポリマーを好ましく採用することができる。また、非水溶媒を用いた正極活物質層形成用組成物においては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアクリルニトリル(PAN)などのポリマーを好ましく採用することができる。
【0029】
<増粘剤、溶媒>
正極活物質層223は、例えば、上述した正極活物質や導電材を溶媒にペースト状(スラリ状)に混ぜ合わせた正極活物質層形成用組成物を作成し、正極集電体221に塗布し、乾燥させ、圧延することによって形成されている。この際、正極活物質層形成用組成物の溶媒としては、水性溶媒および非水溶媒の何れも使用可能である。非水溶媒の好適な例としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)が挙げられる。上記バインダとして例示したポリマー材料は、バインダとしての機能の他に、正極活物質層形成用組成物の増粘剤その他の添加剤としての機能を発揮する目的で使用されることもあり得る。
【0030】
特に限定するものではないが、正極活物質層223全体に占める正極活物質の質量割合は、およそ50質量%以上(典型的には50〜95質量%)であることが好ましく、通常はおよそ70〜95質量%(例えば75〜90質量%)であることがより好ましい。また、正極活物質層223全体に占める導電材の割合は、例えばおよそ2〜20質量%とすることができ、通常はおよそ2〜15質量%とすることが好ましい。バインダを使用する組成では、正極活物質層223全体に占めるバインダの割合を例えばおよそ1〜10質量%とすることができ、通常はおよそ2〜5質量%とすることが好ましい。
【0031】
≪負極シート240≫
負極シート240は、図3に示すように、帯状の負極集電体241と、負極活物質層243とを備えている。負極集電体241には、負極に適する金属箔が好適に使用され得る。この実施形態では、この負極集電体241には、所定の幅を有し、厚さがおよそ10μmの帯状の銅箔が用いられている。負極集電体241の幅方向片側には、縁部に沿って未塗工部242が設定されている。負極活物質層243は、負極集電体241に設定された未塗工部242を除いて、負極集電体241の両面に形成されている。
【0032】
≪負極活物質層243≫
負極活物質層243は、負極集電体241に保持され、少なくとも負極活物質が含まれている。この実施形態では、負極活物質層243は、負極活物質を含む負極活物質層形成用組成物が負極集電体241に塗工されている。この負極活物質層243には、例えば、負極活物質やバインダや増粘剤等が含まれ得る。バインダや増粘剤等は、正極活物質層223に用いるのと同様のものを使用することができる。
【0033】
<負極活物質>
負極活物質としては、従来からリチウムイオン電池に用いられる材料の一種または二種以上を特に限定なく使用することができる。例えば、少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)が挙げられる。より具体的には、負極活物質は、例えば、天然黒鉛、非晶質の炭素材料でコートした天然黒鉛、黒鉛質(グラファイト)、難黒鉛化炭素質(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質(ソフトカーボン)、または、これらを組み合わせた炭素材料でもよい。また、例えば、Si、Ge、Sn、Pb、Al、Ga、In、As、Sb、Bi等を構成金属元素とする金属化合物(好ましくは金属酸化物)などとしても良い。また、負極活物質粒子として、LTO(チタン酸リチウム)を用いることも提案されている。また、金属化合物からなる負極活物質については、例えば、炭素被膜によって、金属化合物の表面を充分に被覆し、導電性に優れた粒状体として用いてもよい。この場合、負極活物質層に導電材を含有させなくてもよいし、従来よりも導電材の含有率を低減させてもよい。これらの負極活物質の付加的な態様や、粒径等の形態は、所望の特性に応じて適宜に選択することができる。
【0034】
<溶媒、増粘剤>
負極活物質層243は、例えば、上述した負極活物質やバインダ等を溶媒にペースト状(スラリ状)に混ぜ合わせた負極活物質層形成用組成物を作成し、負極集電体241に塗布し、乾燥させ、圧延することによって形成されている。この際、負極活物質層形成用組成物の溶媒としては、水性溶媒および非水溶媒の何れも使用可能である。非水溶媒の好適な例としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)が挙げられる。バインダには、上記正極活物質層223のバインダとして例示したポリマー材料を用いることができる。また、上記正極活物質層223のバインダとして例示したポリマー材料は、バインダとしての機能の他に、負極活物質層形成用組成物においても増粘剤その他の添加剤としての機能を発揮する目的で使用されることもあり得る。
【0035】
特に限定するものではないが、負極活物質層243全体に占める負極活物質の質量割合は、例えば、およそ85質量%以上(典型的には85〜99.9質量%)であることが好ましく、通常はおよそ95〜99質量%であることがより好ましい。また、バインダを使用する組成では、負極活物質層243全体に占めるバインダの割合を、例えば、およそ0.1〜15質量%とすることができ、通常はおよそ1〜5質量%とすることが好ましい。
【0036】
≪セパレータ262、264≫
セパレータ262、264は、図2〜図4に示すように、正極シート220と負極シート240とを隔てる部材である。この例では、セパレータ262、264は、微小な孔を複数有する所定幅の帯状のシート材で構成されている。セパレータ262、264には、例えば、多孔質ポリオレフィン系樹脂で構成された単層構造のセパレータや積層構造のセパレータを用いることができる。この例では、図3に示すように、負極活物質層243の幅b1は、正極活物質層223の幅a1よりも少し広い。さらにセパレータ262、264の幅c1、c2は、負極活物質層243の幅b1よりも少し広い(c1、c2>b1>a1)。
【0037】
≪電池ケース300≫
また、この例では、電池ケース300は、図1に示すように、いわゆる角型の電池ケースであり、容器本体320と、蓋体340とを備えている。容器本体320は、有底四角筒状を有しており、一側面(上面)が開口した扁平な箱型の容器である。蓋体340は、当該容器本体320の開口(上面の開口)に取り付けられて当該開口を塞ぐ部材である。
【0038】
車載用の二次電池では、車両の燃費を向上させるため、重量エネルギー効率(単位重量当りの電池の容量)を向上させることが望まれる。このため、この実施形態では、電池ケース300を構成する容器本体320と蓋体340は、アルミニウムやアルミニウム合金などの軽量金属が採用されている。これにより重量エネルギー効率を向上させることができる。
【0039】
電池ケース300は、捲回電極体200を収容する空間として、扁平な矩形の内部空間を有している。また、図2に示すように、電池ケース300の扁平な内部空間は、捲回電極体200よりも横幅が少し広い。この実施形態では、電池ケース300は、有底四角筒状の容器本体320と、容器本体320の開口を塞ぐ蓋体340とを備えている。また、電池ケース300の蓋体340には、電極端子420、440が取り付けられている。電極端子420、440は、電池ケース300(蓋体340)を貫通して電池ケース300の外部に出ている。また、蓋体340には安全弁360が設けられている。
【0040】
捲回電極体200は、図3に示すように、捲回軸WLに直交する一の方向において扁平に押し曲げられている。捲回電極体200は、セパレータ262、264の両側において、正極集電体221の未塗工部222、負極集電体241の未塗工部242は渦巻状に露出している。この実施形態では、未塗工部222、242の中間部分224、244を寄せ集め、電極端子420、440の先端部420a、440aに溶接している。この際、それぞれの材質の違いから、電極端子420と正極集電体221の溶接には、例えば、超音波溶接が用いられる。また、電極端子440と負極集電体241の溶接には、例えば、抵抗溶接が用いられる。
【0041】
捲回電極体200は、扁平に押し曲げられた状態で、蓋体340に固定された電極端子420、440に取り付けられる。かかる捲回電極体200は、図2に示すように、容器本体320の扁平な内部空間に収容される。容器本体320は、捲回電極体200が収容された後、蓋体340によって塞がれる。蓋体340と容器本体320の合わせ目は、例えば、レーザ溶接によって溶接されて封止されている。このように、この例では、捲回電極体200は、蓋体340(電池ケース300)に固定された電極端子420、440によって、電池ケース300内に位置決めされている。
【0042】
≪電解液≫
その後、蓋体340に設けられた注入孔350から電池ケース300内に電解液が注入される。電解液は、水を溶媒としていない、いわゆる非水電解液が用いられている。この例では、電解液は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒(例えば、体積比1:1程度の混合溶媒)にLiPFを約1mol/リットルの濃度で含有させた電解液が用いられている。その後、注液孔350に金属製の封止キャップ352を取り付けて(例えば溶接して)電池ケース300を封止する。なお、電解液は、ここで例示された電解液に限定されない。例えば、従来からリチウムイオン二次電池に用いられている非水電解液を適宜使用することができる。
【0043】
≪空孔≫
ここで、正極活物質層223は多孔性であって、例えば、正極活物質と導電材の粒子間などに、空孔とも称すべき微小な隙間を有している。かかる正極活物質層223の微小な隙間には電解液が浸み込み得る。また、負極活物質層243は多孔性であって、例えば、負極活物質の粒子間などに、空洞とも称すべき微小な隙間を有している。ここでは、かかる隙間を適宜に「空孔」と称する。このように、リチウムイオン二次電池100の内部では正極活物質層223と負極活物質層243には、電解液が染み渡っている。
【0044】
≪ガス抜け経路≫
また、この例では、当該電池ケース300の扁平な内部空間は、扁平に変形した捲回電極体200よりも少し広い。捲回電極体200の両側には、捲回電極体200と電池ケース300との間に隙間322、324が設けられている。当該隙間322、324は、ガス抜け経路になる。例えば、過充電が生じた場合などにおいて、リチウムイオン二次電池100の温度が異常に高くなると、電解液が分解されてガスが異常に発生する場合がある。この実施形態では、異常に発生したガスは、捲回電極体200の両側における捲回電極体200と電池ケース300との隙間322、324および、安全弁360を通して、電池ケース300の外にスムーズに排気される。
【0045】
かかるリチウムイオン二次電池100では、正極集電体221と負極集電体241は、電池ケース300を貫通した電極端子420、440を通じて外部の装置に電気的に接続される。以下、充電時と放電時のリチウムイオン二次電池100の動作を説明する。
【0046】
≪充電時の動作≫
リチウムイオン二次電池100は、正極と負極の標準電極電位の差(いわゆる電位差)に応じて起電力が決定する。充電時においては、リチウムイオン二次電池100の電極端子420、440(図1参照)は、外部の充電器(図示せず)に接続される。充電器の作用によって、充電時には、正極活物質層223中の正極活物質からリチウムイオンが電解液に放出される。また、正極活物質層223からは電荷(電子)が放出される。放出された電荷は、導電材を通じて正極集電体221に送られ、さらに、充電器を通じて負極240へ送られる。また、負極240では電荷が蓄えられるとともに、電解液中のリチウムイオンが、負極活物質層243中の負極活物質に吸収され、かつ、貯蔵される。
【0047】
≪放電時の動作≫
放電時には、負極240から正極220に電荷が送られるとともに、負極活物質層243に貯蔵されたリチウムイオンが、電解液に放出される。また、正極では、正極活物質層223中の正極活物質に電解液中のリチウムイオンが取り込まれる。
【0048】
このようにリチウムイオン二次電池100の充放電において、電解液を介して、正極活物質層223と負極活物質層243との間でリチウムイオンが行き来する。また、充電時においては、正極活物質から導電材を通じて正極集電体221に電荷が送られる。これに対して、放電時においては、正極集電体221から導電材を通じて正極活物質に電荷が戻される。
【0049】
充電時においては、リチウムイオンの移動および電子の移動がスムーズなほど、効率的で急速な充電が可能になると考えられる。放電時においては、リチウムイオンの移動および電子の移動がスムーズなほど、電池の抵抗が低下し、放電量が増加し、電池の出力が向上すると考えられる。また、充電時や放電時に電池反応に活用されるリチウムイオンの数が多いほど、電池容量が多くなると考えられる。
【0050】
以下、本発明の電極の評価の方法を、リチウムイオン二次電池の正極を評価する場合を例にしてより詳しく説明する。図5は、ここで開示される評価方法で用意する評価用セル10の構成の一実施形態を模式的に示した断面図である。かかる評価方法は、典型的には、例えば、正極活物質42A、42Bと、導電材44A、44Bと、バインダ46A、46Bとを含む多孔性の正極活物質層40A、40Bが正極集電体30A、30B上に備えられてなる正極20A、20Bを評価の対象とすることができる。
【0051】
≪評価用セルの用意≫
評価用セル10は、例えば、以下の手順で用意することができる。すなわち、まず、少なくとも2枚の正極20A、20Bを用意する。正極は、2枚以上を用意してもよい。これらの正極20A、20Bは同一規格のものとする。例えば、同一の製造ロットで作製されたものや、同一の正極シートから切り出されたものであることが好ましい。これらの正極20A、20Bを、図5に示すように、電解質(図示せず)中において正極活物質層40A、40Bが対向するように重ね合わせる。なお、図5に示す形態では、正極20A、20Bは、対向する正極活物質層40A、40Bの間にセパレータ50を介在させている。かかる評価用セル10は、例えば、一方の正極20Aと、セパレータ50と、他方の正極20Bとを重ね合わせたものを、電解質とともに適切な電池ケース(図示せず)に挿入し、封口することで用意することができる。なお、正極集電体30A、30Bには外部接続端子32A、32Bを接続し、電池ケースの外に延設しておくのが好ましい。電池ケースとしては、ラミネートセル型の電池ケースを用いるのが簡便であるために好ましい。
【0052】
ここで、正極20Aの正極活物質42Aと、正極20Bの正極活物質42Bとは実質的に同電位であるため、これらの間に電位差はない。このため、ここに開示される評価用セル10は、起電力を有しておらず、電池ではない。このような評価用セル10に基づく、電極の評価方法は、電池を構築して、これを評価の対象とするこれまでの方法とは全く異なる視点および発想で構成されるものである。
【0053】
≪電圧の印加≫
そして、かかる評価方法においては、一方の正極20Aの正極集電体30Aと、他方の正極20Bの正極集電体30Bとの間に、電圧を印加する。外部接続端子32A、32Bを外部電源(図示せず)に接続することで電圧を印加することができる。
【0054】
ここで、直流電圧を印加した場合には、評価用セル10の系全体の抵抗を測定することができる。また、交流電圧を印加した場合には、電子の移動およびイオンの移動に伴う抵抗をそれぞれ調べることができる。
より詳細には、正極活物質層40A、40Bおよびセパレータ50は多孔性であるため、正極活物質層40A、40Bおよびセパレータ50の空孔内に電解質は含浸される。交流電圧を印加することで、正極活物質層40A、40Bおよびセパレータ50内に含浸される電解質に含まれるリチウムイオンは、測定周波数が高周波数から低周波数に変化するにつれて、測定時間が長くなるため、セパレータ50近傍から順にリチウムイオンの動きを測定できる。このようなリチウムイオンの挙動は、電池構造におけるリチウムイオンの充放電挙動を反映し得るものである。すなわち、ここに開示される正極20A、20Bの評価方法によると、電池を構築することなく、この正極20A、20Bを用いて構築される電池の特性をも評価し得る。
【0055】
なお、正極20Aと正極20Bの間にセパレータ50を介在させない場合は、例えば、正極20Aの表面に耐熱層等の機能性層を設けるなどして正極20Aと正極20Bとの間の絶縁を図ることができる。このような場合、評価用セル10に電圧を印加すると、セパレータ50に替えて、該機能性層に関する抵抗等の特性を評価することができる。また、機能性層の厚みを薄くしてゆくと、該機能性層に係る抵抗は減少してゆく。すなわち、機能性層やセパレータ50などの絶縁性部材の抵抗に係る特性を評価することができる。
【0056】
電子については、正極活物質42A、42Bから導電材44A、44Bを通じて正極集電体30A、30Bへと移動する様子を評価することができる。したがって、電子の挙動については、セパレータ50が無い場合でも同様に評価することができる。
なお、プラスの電荷をもつリチウムイオンの挙動は、マイナスの電荷をもつ電子と対をなし、電子の動きを通じて評価される。したがって、正極活物質42A、42Bから導電材44A、44Bを通じて正極集電体30A、30Bに至る導電経路の抵抗が高いと、リチウムイオンの詳細な移動の様子を評価することができない。とりわけリチウムイオン二次電池用の正極活物質42A、42Bに多い絶縁性の材料を電極活物質として用いた電極については、導電材が好適に導電経路を形成していないと抵抗が高くなる。したがって、正極活物質層40A、40Bを、例えば所定の密度となるように圧延することで、正極活物質層40A、40Bに導電経路を良好に形成した状態の電極を評価することができる。また、例えば、正極活物質層40A、40Bを異なる何通りかの所定の密度に圧延し、正極20A、20Bの評価を行うことで、正極活物質層40A、40Bの圧延密度あるいは空孔分布等による正極20A、20B性能の評価を行うこと等も可能とされる。
【0057】
≪抵抗成分に基づく評価≫
以上のリチウムイオンおよび電子の移動は、上記評価用セル10に交流電圧を印加した際の電流値を測定することで、交流インピーダンス特性として具体的に表わすことができる。例えば、いわゆる交流インピーダンス法を用いて、交流電圧を高周波から低周波に変化させながら印加することで、上記の電子の移動およびイオンの移動に伴う抵抗成分をそれぞれ切り分けて評価することができる。そこで、以下に、ここに開示される評価用セル20の交流インピーダンス用による評価について説明する。
【0058】
評価用セル20を交流インピーダンス法により評価する場合は、例えば、交流電圧の周波数を100000Hz程度の高周波から0.1Hz程度の低周波へと変化させることができる。このときの各周波数における電流値からインピーダンスを算出し、インピーダンスの周波数特性を求める。一般に、イオンの移動速度よりも電子の移動速度のほうが速く、高周波の交流電圧を印加した際には電子は電圧の向きの変化に敏感に対応して移動し得るものの、イオンは反応が遅く移動が追い付かない。したがって、高周波の交流電圧を印加した際には、系から電子の移動に関するインピーダンスを抽出して測定することができる。その後、交流電圧の周波数を低くしていくと、イオンの移動が交流電圧の向きの変化に対応し得るようになる。したがって、交流電圧の周波数を低くすることで、電子の移動に係るインピーダンスに加えて、イオンの移動に係るインピーダンスを測定することができる。このインピーダンスの周波数特性を、例えば、Cole−Coleプロット(ナイキストプロット)に表わし、等価回路を利用して解析することで、評価用セル10の詳細な抵抗特性を評価することができる。
【0059】
図6は、図5に示した評価用セル10の交流インピーダンスの測定結果を示した典型的なCole−Coleプロット(ナイキストプロット)の一例である。Cole−Coleプロットは、各周波数において測定したインピーダンス(Z,θ)を複素平面上に示したものであり、インピーダンスの実数成分Z’をX軸に、虚数成分Z''をY軸にプロットしている。なお、虚数成分Z''は主として負の値となるため、Cole−Coleプロットにおいては、一般的に、Y軸は原点より上方に負の値をとる。このCole−Coleプロットでは、左下側がより高周波での測定値を、右上側がより低周波での測定値を示している。
【0060】
また、Cole−Coleプロットは、そのプロット形状から適切に選択した等価回路に照らし合わせて(カーブフィッティングして)解析することで、等価回路の各パラメータ値を求めることができる。
図6に示したCole−Coleプロットの場合、例えば、その形状から、おおまかに3つのパートP1、P2、P3に分けることができる。パートP1は、より高周波側の領域であり、その接線の傾き(実数成分Z’に対する虚数成分Z''の変化量)が45度よりも明らかに大きい(例えば、50度以上、典型的には60度以上)。パートP2は、中周波の領域(上記高周波の領域に続く低周波側の領域)であり、その接線の傾きが45度もしくはその近傍(例えば、45±5度程度)である。パートP3は、より低周波側の領域(上記中周波の領域に続く低周波側の領域)であり、その接線の傾きは45度よりも明らかに大きい(例えば、50度以上、典型的には80度以上)。
【0061】
このようなCole−Coleプロットの等価回路は、図7に示したものとなる。すなわち、等価回路は、回路パラメータとして、直流抵抗成分Rsと、ワールブルグインピーダンス成分WRとが、直列に接続された構成となり得る。
直流抵抗成分RSは、電子の移動に係る抵抗成分の総和であり、ここに開示される評価セル10に関しては、正極20A、20Bの電子抵抗(正極活物質間の接触抵抗)およびセパレータ50中の電解液の抵抗を含み、2枚の正極集電体30A、30B間の電子の移動抵抗に相当する。直流抵抗成分RSは、インピーダンス曲線の虚数成分Z''=0の時の実数成分Z’値に一致し、図6のプロット曲線におけるパートP1に含まれる。
【0062】
ワールブルグインピーダンス成分WRは、電極の酸化還元反応に関与する物質の拡散によってもたらされ、周波数が低くなるにしたがって影響力を増す。ここに開示される評価セル10については、ワールブルグインピーダンス成分WRは、上記電子の移動抵抗にリチイウムイオンが正極集電体30A、30B間を移動する際の抵抗を加えたものに相当する。なお、このワールブルグインピーダンス成分WRをより詳細に検討することで、リチウムイオンが正極活物質層40A、40Bに侵入する際の抵抗やスピードを調べることができる。ワールブルグインピーダンスの理論式は次式(1)に示すとおりである。
【0063】
【数1】

【0064】
式(1)からも解るように、このワールブルグインピーダンス成分WRはCole−Coleプロットにおいて傾きが約45度の線として現れ、図6のプロット曲線におけるパートP2に含まれる。
その他、実際のインピーダンスの測定値には、測定装置の性能や測定器具の抵抗等の影響が含まれる。そのため、フィッティングにおいては補正抵抗成分を別途考慮してもよい。
【0065】
図6のCole−Coleプロットのフィッティングにおいては、最初に直流抵抗成分Rsを得ることができる。そして、上記式(1)から得られるWRが、図6のプロット曲線におけるパートP2の領域と最も近似するようにフィッティングさせることで、ワールブルグインピーダンス成分WRの値を算出することができる。
なお、上述したように、ワールブルグインピーダンス成分WRからは、リチウムイオンの移動や、リチウムイオンが正極に入る際のスピードなどを読み取ることができる。具体的には、図5の正極活物質層40Aと正極活物質層40Bの間には電位差が発生していないため、それぞれの内部に存在する活物質とリチウムイオンの反応は起こらない。つまり、リチウムイオンが電極内に存在する電解液内を移動(拡散)する際の難しさがWRとして表される。
このことから、例えば、この電極を用いて電池を構築した場合の、電池の出入力特性を評価することが可能となる。
なお、交流インピーダンスの測定は、例えば、交流周波数を100000Hz〜0.1Hzへと変化させたときのインピーダンスを測定することで実施できるが、得られたデータを全て解析に供する必要はない。例えば、必要な範囲のデータから解析を行うことができる。このような解析データ範囲は、評価対象である電極の特性等に因るため一概には言えないが、例えば、10000Hz〜10Hzの範囲のデータを用いることなどが例示される。
【0066】
≪良品判定≫
また、かかる評価方法は、上記算出された直流抵抗成分RSまたはワールブルグインピーダンス成分WRの値が所定の範囲に入っているかどうかを判定することにより、良品判定を行うことができる。例えば、複数の評価用セル10について直流抵抗成分RSおよび/またはワールブルグインピーダンス成分WRを調べ、これらの抵抗値が所定のばらつきの範囲内に含まれる場合に、良品と判定することができる。例えば、基準値の±10%に入る電極を、良品と判定することができる。このような範囲は任意に設定することができ、例えば、基準値の±5%、±3%、±1%等のように様々に設定することができる。もちろん、その他にも、様々な範囲の設定の態様があることは言うまでもない。この場合、良品と判定された電極群は、電極性能にばらつきが少ないものとなり得る。
【0067】
また、直流抵抗成分RSおよび/またはワールブルグインピーダンス成分WRを調べ、これらの抵抗値が所望の範囲に入るものかどうかを判断することでも、電極の良品判定を行うことができる。すなわち、良品と判定された電極群は、所定の電極特性(典型的には抵抗値)を有するものとなり得る。
また、このように良品と判定された電極を用いて構築される電池は、より品質にばらつきが少ないものとなり得る。また、所定の電池特性が信頼性良く確保された電池となり得る。
これらの評価に際して、例えば、予め所定の範囲あるいは閾値を設定しておき、抵抗成分RSおよび/またはWR抵抗値が所定の範囲外あるいは閾値を超える場合には「NG」と表示し、該抵抗成分が所定の範囲内あるいは閾値内の場合には「GOOD」等の評価結果を表示する構成を備えるようにしてもよい。判断の基準となる「所定の範囲」の抵抗値は、評価対象である電極の特性や所望の品質に応じて、適宜決定することができる。
【0068】
≪電極への圧力付加≫
かかる電極の評価は、例えば、正極活物質層40A、40B間に圧力を加えて実施することができる。すなわち、例えば、図8は、正極集電体30A、30Bの両面に正極活物質層40A、40Bを備える正極20A、20Bを、多孔質フィルムからなる絶縁膜60を介して対向させて、評価用セル10を構築したものである。この評価用セル10は、更に加圧板62A、62Bによって積層方向で挟持されており、この加圧板62A、62Bの表面に垂直な方向に圧力Pを加えることで、正極活物質層40A、40Bに圧力を加えることができる。正極活物質層40A、40Bに圧力が加わると、正極活物質層40A、40Bの密度、空孔量および空孔分布状況が変化する。したがって、これらの変化に伴ってリチウムイオンおよび電子の挙動にも変化が見られる。このように正極活物質層40A、40Bの状態に変化を加えてインピーダンスを測定することで、正極活物質層40A、40Bの状態に変化によるリチウムイオンおよび電子の抵抗特性の変化を調べることができる。
【0069】
より具体的には、例えば、加圧板62A、62B間の距離を縮めることで、正極活物質層40A、40Bに圧力を加える。すると、この評価セル10の一般的な傾向として、直流抵抗成分RSの値は減少する。
したがって、例えば、評価対象である電極に関して得られた直流抵抗成分Rsが所定の範囲より大きい場合には、該電極の活物質層に圧力を加えたり、該電極の活物質層に加わる圧力を増大させることで、直流抵抗成分Rsを低減させることができる。これとは逆に、直流抵抗成分Rsが所定の範囲より大きい場合には、該電極の活物質層に加わる圧力を減少させることで、直流抵抗成分Rsを高めることができる。
また、評価対象である電極に関して得られたワールブルグインピーダンス成分WRが所定の範囲より大きい場合には、該電極の活物質層に圧力を加えたり、該電極の活物質層に加わる圧力を増大させることで、ワールブルグインピーダンス成分WRを低減させることができる。また、ワールブルグインピーダンス成分WRが所定の範囲より小さい場合には、該電極の活物質層に加わる圧力を減少させることで、ワールブルグインピーダンス成分WRを高めることができる。
【0070】
かかる構成は、例えば、この正極20A、20Bを用いてリチウムイオン二次電池100を構築する際に、捲回電極体200の拘束圧を変化させた場合の電池特性の変化を反映し得るものである。したがって、例えば、電極を用いて電池を構築する際の最適な拘束圧を調べること等が可能とされる。
また、リチウムイオン二次電池100を構築するに際し、かかる電極の評価を上記の正極20A、20Bに加えて、負極についても実施し、より良い正極と負極の組み合わせを決定することなども可能とされる。
【0071】
また、評価対象である電極に因るセルの構築の形態も、様々に考慮することができる。例えば、同種の電極を複数積層させて評価用セルを構築することもできる。図9に示した例では、4つの正極20A、20B、20C、20Dを絶縁膜60を介して積層することで評価用セル10を構築している。このような構成によると、電極間を移動するイオンおよび電子の挙動を増幅して得ることができる。
【0072】
以上詳しく説明した通り、ここに開示される電極の評価方法によると、同一の種類の電極を少なくとも2枚用いて所定の評価用セルを用意し、この評価用セルに電圧を印加することで抵抗特性を評価する。例えば、具体的には、周波数毎の交流インピーダンスを測定し、ワールブルグインピーダンスを備える等価回路でフィッティングを行うことで抵抗特性の解析を行う。これにより、電子の移動抵抗と、イオンの移動抵抗とを含む所定のワールブルグインピーダンスWR(合算抵抗)を求めることができる。したがって、電池を組み立てることなく、電池性能に係る様々な抵抗を定量的に評価することができる。
【0073】
かかる電極の評価方法によると、上記のとおり、電荷担体であるイオンが電極に入る(電極活物質層内の空孔に入る)スピードを評価することができる。この情報は、該電極を用いて電池を構成した場合の入出力特性を反映し得る。ハイレート特性が求められるリチウムイオン二次電池において入出力特性は重要な要素である。したがって、上記電極として、リチウム遷移金属酸化物とバインダとを含む多孔性の正極活物質層が所定の正極集電体上に備えられてなるリチウムイオン二次電池用正極に対して、本発明の電極評価方法を特に好ましく適用することができる。
【0074】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
たとえば、図5の場合では、評価対象のリチウムイオン二次電池用正極20A、20Bとしたが、電池の種類、電極の正負、および構成材料の種類、形態、製法等は制限されない。たとえば、リチウムイオン二次電池用負極を評価対象とすることもできる。その場合、負極活物質が炭素材料である場合は、負極活物質層に導電材は含まれなくてもよい。また、負極活物質がシリコン化合物である場合は、負極活物質層に導電材が含まれることが好ましく、その導電材の形態は、粒状で含まれていても、負極活物質を被覆する形態で含まれていてもよい。
また、評価の対象となる電極は、リチウムイオン二次電池用の電極に限定されることはない。例えば、電気二重層キャパシタおよびこれらの複合体(典型的にはリチウムイオンキャパシタ)等のキャパシタ用電極や、その他の各種の電池用電極にも適用し得る。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の構成によれば、電池を組み立てることなく、電極の状態で電池特性を反映し得る電極の評価方法が提供される。
【符号の説明】
【0076】
1 車両
10 評価用セル
20A、20B 正極
30A、30B 正極集電体(電極集電体)
32A、32B 接続端子
40A、40B 正極活物質層(電極活物質層)
42A、42B 正極活物質(電極活物質)
44A、44B 導電材
46A、46B バインダ
50 セパレータ
60 絶縁膜
62A、62B 加圧板
100 リチウムイオン二次電池
200 捲回電極体
220 正極シート
221 正極集電体
222 未塗工部
223 正極活物質層
224 中間部分
240 負極シート
241 負極集電体
242 未塗工部
243 負極活物質層
244 中間部分
262、264 セパレータ
300 電池ケース
320 容器本体
322、324 隙間
340 蓋体
350 注入孔
352 封止キャップ
360 安全弁
420 電極端子(正極)
420a 先端部
440 電極端子(負極)
440a 先端部
WL 捲回軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質とバインダとを含む多孔性の電極活物質層が集電体上に備えられてなる電極を評価する方法であって、
前記電極を少なくとも2枚用意し、電解質中において前記電極活物質層が対向し、かつ、互いに絶縁された状態で前記電極を配置した評価用セルを用意する工程と、
前記評価用セルにおいて、一方の電極の電極集電体と、他方の電極の電極集電体との間に電圧を印加する工程と、
を包含する、電極の評価方法。
【請求項2】
前記電圧を印加する工程において、前記一方の電極の電極集電体と前記他方の電極の電極集電体との間に交流電圧が印加され、
前記交流電圧が印加された電極集電体間の電圧と電流の関係から、前記電極集電体間のインピーダンスを測定する工程を含む、請求項1に記載された電極の評価方法。
【請求項3】
前記測定する工程において、前記交流電圧の周波数を高周波から低周波に変化させながら前記電極集電体間のインピーダンスを測定する、請求項2に記載された電極の評価方法。
【請求項4】
前記インピーダンス測定を解析することにより得られる前記電極集電体間の直流抵抗成分Rsおよび/またはワールブルグインピーダンス成分WRに基づいて、前記電極を評価する工程をさらに含む、請求項3に記載された電極の評価方法。
【請求項5】
前記ワールブルグインピーダンス成分WRが所定の範囲内の値である場合に、前記電極を良品と判定する、請求項4に記載された電極の評価方法。
【請求項6】
前記電圧を印加する工程において、前記電極活物質層に圧力を加える、請求項1から5までの何れか一項に記載された電極の評価方法。
【請求項7】
評価用セルを用意する工程において、
対向する前記電極活物質層の間にセパレータを介在させた、請求項1から6までの何れか一項に記載された電極の評価方法。
【請求項8】
前記電極は、リチウム遷移金属酸化物とバインダとを含む多孔性の正極活物質層が所定の正極集電体上に備えられてなるリチウムイオン二次電池用正極である、請求項1〜7までの何れか一項に記載された電極の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−110082(P2013−110082A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256533(P2011−256533)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】