説明

電極リードおよび絶縁不良検出装置

【課題】リードワイヤの絶縁不良を精度よく検出する。
【解決手段】絶縁被覆されたリードワイヤ21A,21Bと、リードワイヤ21A,21Bの一端に接続されるリード端子25A,25Bと、リードワイヤ21A,21Bの他端に接続される電極部23,24と、リードワイヤ21A,21Bが延びる方向に沿ってリードワイヤ21A,21Bに隣接して配置され、絶縁被覆されていない裸線導体からなる検出ワイヤ22と、検出ワイヤ22の一端に接続される検出端子26とを備える電極リード10を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極リードおよび絶縁不良検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生体に電気的に刺激を与えるペースメーカや除細動器等の医療装置、および、これらの医療装置と生体とを電気的に接続する電極リードが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のリード完全試験システムは、頻脈性不整脈に対する処置を行うIPG(パルス・ジェネレータ)と、絶縁被覆された少なくとも3本のリード導体(ワイヤ)とを備えている。このリード完全試験システムは、いずれかのリード導体のインピーダンスの値が適正インピーダンス範囲の下限値よりも低くなると、短絡が発生したと認識することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2001−505093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、短絡現象は、2本のリード導体の絶縁被膜が破れ、電流が体液を経由するかあるいはリード導体どうしが直接接触することにより発生するが、2本のリード導体がこのような状態になるまでインピーダンスは正常状態に保たれていることが多い。そのため、特許文献1に記載のリード完全試験システムは、端子間の短絡の発生を検出することができても、短絡の兆候(≒金属線(ワイヤ)の絶縁不良)を前もって検出することはできないという問題がある。また、端子間の短絡が発生してしまうとセンシング不全やペーシング不全等が生じるという問題がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、ワイヤの絶縁不良を精度よく検出することができる電極リードおよび絶縁不良検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、絶縁被覆されたリードワイヤと、該リードワイヤの一端に接続されるリード端子と、前記リードワイヤの他端に接続されるリード電極部と、前記リードワイヤが延びる方向に沿って該リードワイヤに隣接して配置され、絶縁被覆されていない裸線導体からなる検出ワイヤと、該検出ワイヤの一端に接続される検出端子とを備える電極リードを提供する。
【0007】
本発明によれば、生体に接触させたリード電極部に対してリードワイヤを介して接続されるリード端子に電位を加え、生体に対してリード電極部とは異なる位置に接触させた他の電極部との間で通電させることにより、生体に電気的な刺激を与えることができる。
【0008】
本発明に係る電極リードは、リードワイヤが絶縁被覆されているため、リードワイヤに絶縁不良が生じていなければリードワイヤと検出ワイヤは電気的に接触しない。そのため、リード端子と検出端子との間で電気を流すと、これらの端子間のインピーダンスは十分に高くなる。一方、リードワイヤに絶縁不良が生じると、リードワイヤと検出ワイヤとが直接あるいは体液を介して電気的に接触する。そのため、リード端子と検出端子との間で電気を流すと、これらの端子間のインピーダンスが低減する。
【0009】
したがって、リード端子と検出端子との間で電気を流し、リード端子と検出端子との間のインピーダンスの変動を検出することにより、リードワイヤの絶縁不良を精度よく検出することができる。
【0010】
本発明は、互いに並行し隣接して延びる裸線導体からなるリードワイヤおよび検出ワイヤと、前記リードワイヤの一端に接続されるリード端子と、前記リードワイヤの他端に接続されるリード電極部と、前記検出ワイヤの一端に接続される検出端子と、前記リードワイヤと前記検出ワイヤとの間に配置される絶縁材料からなる絶縁部材とを備える電極リードを提供する。
【0011】
本発明によれば、絶縁部材によりリードワイヤと検出ワイヤとが電気的に絶縁される。そのため、リード端子と検出端子との間で電気を流すと、これらの端子間のインピーダンスは十分に高くなる。しかしながら、絶縁部材に亀裂等が生じリードワイヤに絶縁不良が生じると、リードワイヤと検出ワイヤとが電気的に接触する。そのため、リード端子と検出端子との間で電気を流すと、これらの端子間のインピーダンスが低減する。
【0012】
したがって、リード端子と検出端子との間で電気を流し、リード端子と検出端子との間のインピーダンスの変動を検出することで、リードワイヤの絶縁不良を精度よく検出することができる。
【0013】
本発明は、上記本発明の電極リードと、前記リード端子と前記検出端子との間を導通状態に設定する端子選択部と、該端子選択部により導通状態に設定された前記リード端子と前記検出端子との間のインピーダンスを測定するインピーダンス測定部と、該インピーダンス測定部により測定されたインピーダンスが所定の閾値より高いか低いかを判定する判定部とを備える絶縁不良検出装置を提供する。
【0014】
本発明によれば、端子選択部により導通状態に設定されたリード端子に接続されるリードワイヤの絶縁状態が保たれているか否かによって、インピーダンス測定部により測定されるインピーダンスが変化する。すなわち、リードワイヤの絶縁状態が保たれている場合はインピーダンスが十分に高く、リードワイヤに絶縁不良が発生するとインピーダンスが低減する。したがって、判定部によりインピーダンスが所定の閾値より高いか低いかを判定することで、リードワイヤの絶縁不良を精度よく検出することができる。
【0015】
上記発明においては、前記リードワイヤおよび前記検出ワイヤを被覆する絶縁材料からなるアウターチューブと、前記端子選択部、前記インピーダンス測定部、および、前記判定部を覆い、前記生体に対して前記リード電極部とは異なる位置に接触可能に配置される金属材料からなる筐体とを備えることとしてもよい。
【0016】
このように構成することで、生体に対して筐体を接触させることにより、金属材料からなる筐体を電極部として機能させることができる。この場合において、アウターチューブに異常がなければ、検出ワイヤと筐体とが電気的に絶縁される。そのため、検出端子と筐体との間に電気を流すと、これらの間のインピーダンスは十分に高くなる。一方、アウターチューブが破れると、検出ワイヤと筐体とが直接あるいは体液を介して電気的に接触する。そのため、検出端子と筐体との間に電気を流すと、これらの間のインピーダンスが低減する。
【0017】
したがって、検出端子と筐体との間で電気を流し、これらの間のインピーダンスの変動を検出することで、アウターチューブの破損を検出することができる。また、アウターチューブが破れると、リードワイヤも絶縁不良を起こす可能性が高い。したがって、アウターチューブの破損を検出することにより、リードワイヤの絶縁不良によるリード端子間の短絡を予防することが可能になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ワイヤの絶縁不良を精度よく検出することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る医療装置の概略構成図である。
【図2】図1の電極リードの縦断面図である。
【図3】図1の医療装置によるペーシング時の回路図である。
【図4】図1の医療装置による絶縁不良検出工程を示すフローチャートである。
【図5】図1の医療装置の絶縁不良検出処理における充電時の回路図である。
【図6】図1の医療装置の絶縁不良検出処理における放電時の回路図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る医療装置を示す概略構成図である。
【図8】図7の電極リードのアウターチューブ被覆破れ時の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔第1の実施形態〕
以下、本発明の第1の実施形態に係る電極リードおよび絶縁不良検出装置について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る医療装置(絶縁不良検出装置)100は、図1に示すように、心筋から発せられる活動電位を検出したり心筋を興奮させるパルスエネルギーを発生したりする植込み型除細動器(Implantable Cardioverter Defibrillator、以下「ICD」という。)またはペースメーカ等の装置本体30と、心臓(生体)と心臓から離れた場所に配置する装置本体30とを電気的に接続可能な電極リード10とを備えている。
【0021】
まず、電極リード10について、図2を参照して以下に説明する。
電極リード10は、絶縁材料からなる中空構造のアウターチューブ11と、アウターチューブ11の先端側、すなわち、生体側に配置される先端部13と、アウターチューブ11の基端側、すなわち、装置本体30側に配置されるリードコネクタ15とを備えている。
【0022】
電極リード10の内部には、アウターチューブ11内を長手方向に沿って延び、互いに並行して配置されるTipリードワイヤ(リードワイヤ)21AおよびRingリードワイヤ(リードワイヤ)21Bと、これらのリードワイヤ21A,21Bに並行して延び、各リードワイヤ21A,21Bに隣接して配置される検出ワイヤ22とが備えられている。
【0023】
各リードワイヤ21A,21Bは、例えば、ETFE(四フッ化エチレン―エチレン共重合体)のような樹脂材料からなるチューブ状の絶縁被覆によりそれぞれ覆われている。これらの各リードワイヤ21A,21Bは、耐久性に優れ、電気抵抗が低いことが好ましい。また、各リードワイヤ21A,21Bは、先端部13からリードコネクタ15まで延びている。
【0024】
検出ワイヤ22は、絶縁被覆されていない裸線導体により構成されている。この検出ワイヤ22は、例えば、Tipリードワイヤ21AとRingリードワイヤ21Bとの間に配置され、先端部13からリードコネクタ15まで延びている。
【0025】
電極リード10の先端部13には、Tipリードワイヤ21Aに接続されるTip電極(電極部)23と、Ringリードワイヤ21Bに接続されるRing電極(電極部)24とが備えられている。
Tip電極23およびRing電極24は、心臓に対して異なる位置に接触させられるように、互いに位置をずらして露出して配置されている。
【0026】
Tip電極23は、例えば、螺旋状のネジ型(スクリューイン)形状に形成されており、心筋にねじ込んで固定することができるようになっている。このTip電極23は、一端が先端部13に固定され、他端が先端部13から突出するように配置されている。Tip電極23の一端には、Tipリードワイヤ21Aが内側から電気的に接続されている。
【0027】
Ring電極24は、Tip電極23より基端側に数mm以上10数mm以下程度ずらした位置に配置されている。このRing電極24は、円環形状に形成され、先端部13の外周面を周方向に覆うように配置されている。Ring電極24の内周面には、Ringリードワイヤ21Bが電気的に接続されている。
この先端部13において、検出ワイヤ22はTip電極23およびRing電極24のいずれに対しても電気的に接触しないように配置されている。
【0028】
電極リード10のリードコネクタ15は、長手方向に沿ってずらして配置された互いに径寸法が異なるTipコネクタ17とRingコネクタ18とにより構成されている。
Tipコネクタ17には、Tipリードワイヤ21Aに接続されるTipリード端子25Aと、検出ワイヤ22に接続される検出端子26とが備えられている。
【0029】
Tipリード端子25Aと検出端子26は、それぞれ円環形状に形成され、Tipコネクタ17の外周面を周方向に覆うように露出して配置されている。また、Tipリード端子25Aと検出端子26は、互いに長手方向にずらして配置されている。例えば、検出端子26は、Tipコネクタ17の最も基端側に配置されている。Tip端子25Aの内周面にTipリードワイヤ21Aが電気的に接続され、検出端子26の内周面に検出ワイヤ22が電気的に接続されている。
【0030】
Ringコネクタ18には、Ringリードワイヤ21Bに接続されるRingリード端子25Bが備えられている。Ringリード端子25Bは、Tipリード端子25Aと同様に円環形状に形成され、Ringコネクタ18の外周面を周方向に覆うように露出して配置されている。また、Ringリード端子25Bの内周面にRingワイヤ21Bが電気的に接続されている。
このリードコネクタ15において、検出ワイヤ22はTipリード端子25AおよびRingリード端子25Bのいずれに対しても電気的に接触しないように配置されている。
【0031】
次に、装置本体30について、図1を参照して以下に説明する。
装置本体30は、金属製の筺体に覆われている。また、装置本体30は、リード端子25A,25Bおよび検出端子26のいずれか2つの端子間の導通状態を設定する端子選択部31と、心臓の電気現象を観測して心臓の状態を検出する状態検出部33と、心臓に対して所定のタイミングでペーシングパルスエネルギーを出力する心臓刺激部35と、端子選択部31により導通状態に設定された端子間のインピーダンスを測定する回路を構成するインピーダンス測定回路37と、これら端子選択部31、状態検出部33、心臓刺激部35およびインピーダンス測定回路37を制御する制御部とを備えている。
【0032】
心臓刺激部35は、図3に示すように、ペーシングパルスエネルギーを発生する電源41と、電源41から発せられたペーシングパルスエネルギーを一時的に貯留するキャパシタ43と、ペーシングパルスエネルギーの充電と放電とを切り替えるスイッチ45Aおよびスイッチ45Bとを備えている。
【0033】
インピーダンス測定回路37は、図5に示すように、測定エネルギーを発生する電源51と、電源51から発せられた測定エネルギーを一時的に貯留するキャパシタ53と、1Ωの抵抗値を有する電流検出抵抗55と、キャパシタ53の両端の電圧を測定する第1のA/Dコンバータ57Aと、電流検出抵抗55の両端に流れる電流を測定する第2のA/Dコンバータ57Bと、測定エネルギーの充電と放電とを切り替えるスイッチ59Aおよびスイッチ59Bとを備えている。
【0034】
制御部39は、第1のA/Dコンバータ57Bにより測定された電圧値を第2のA/Dコンバータ57Bにより測定された電流値によって除算し、端子選択部31により導通状態に設定された端子間のインピーダンスを測定するインピーダンス測定部として機能するようになっている。また、制御部39は、測定したインピーダンスが所定の閾値より高いか否かを判定する判定部としても機能するようになっている。
【0035】
インピーダンスの所定の閾値としては、例えば、リードワイヤ21A,21Bが絶縁状態に保たれている場合の各リード端子25A,25Bと検出端子26との間のインピーダンスと、リードワイヤ21B,21Bに絶縁不良が生じている場合の各リード端子25A,25Bと検出端子26との間のインピーダンスとの中間値が用いられる。
【0036】
また、装置本体30には、電極リード10のリードコネクタ15が挿脱可能なコネクタブロック32が備えられている。コネクタブロック32は、一般にIS−1やDF−1等の規格で定められている特定形状を有している。コネクタブロック32の内部には、装置本体30の電極選択部31に配線される3つの電極(図示略)が備えられている。
【0037】
コネクタブロック32にリードコネクタ15を挿入した状態で、3つの固定ネジ34により、リード端子25A,25Bおよび検出端子26をそれぞれネジ止め固定することができるようになっている。コネクタブロック32内の3つの電極とこれらの各リード端子25A,25Bおよび検出端子26とが接触することにより、電極リード10と電極選択部31とが電気的に接続される。
【0038】
次に、このように構成された医療装置100の作用について説明する。
本実施形態に係る医療装置100においては、制御部39により、治療のためのペーシングとリードワイヤ21A,21Bの絶縁不良検出とが同時に行われないように制御される。最初に、本実施形態に係る医療装置100を用いて、患者に対してセンシングあるいはペーシング等を行う場合(通常モード)について説明する。
【0039】
まず、Tip電極23およびRing電極24をそれぞれ心臓の異なる位置に接触させて固定する。制御部39からの指示により、図3に示すように、端子選択部31がTipリード端子25AとRingリード端子25Bとが導通状態に設定される。これにより、リード端子25A,25Bがそれぞれ状態検出部33および心臓刺激部35に対して電気的に接続される。
【0040】
次に、センシング工程では、状態検出部33の作動により、電極リード10を介して心臓から送られてくる電気現象が観測され、心臓が活動しているか否かが判定される。観測方法としては、公知の方法を用いることができる。状態検出部33による観測結果は制御部39に入力される。状態検出部33により心臓が活動していないと判定されると、制御部39により、以下に示すようにペーシングが行われる。
【0041】
ペーシング工程では、制御部39により、心臓刺激部35のスイッチ45Bが開放されスイッチ45Aが短絡される。この状態で、電源41からペーシングパルスエネルギーが発生され、キャパシタ43に貯留される。
【0042】
ペーシングパルスエネルギーの充電が完了すると、制御部39により、予め設定された時間(例えば、0.4ms)だけ心臓刺激部35のスイッチ45Aが開放されスイッチ45Bが短絡される。これにより、キャパシタ43に貯留されているペーシングパルスエネルギーが所定のタイミングで出力され、電極リード10を介して心臓に供給される。ペーシングパルスエネルギーが心臓に供給されることにより、心臓に電気的な刺激が与えられる。
【0043】
次に、本実施形態に係る医療装置100を用いて、電極リード10の各リードワイヤ21A,21Bの絶縁不良検出を行う場合について、図4のフローチャートを参照して説明する。
まず、不整脈が発生しているか否かを判定する(ステップSA1)。不整脈が発生中の場合は(ステップSA1「YES」)、不整脈の処置を優先し絶縁不良検出を終了する。
【0044】
不整脈が発生中でない場合は(ステップSA1「NO」)、Tipリードワイヤ21Aの絶縁不良検出処理とRingワイヤ21Bの絶縁不良検出処理をそれぞれ1通りずつ行う。
例えば、Ringリードワイヤ21Bの絶縁不良検出処理においては、まず、状態検出部33により、ペーシングを行う必要があるか否かが判断される(ステップSA2)。ペーシングが必要な場合は(ステップSA2「YES」)、制御部39の指示により、心臓刺激部35が作動しペーシング処理が行われる(ステップSA3)。
【0045】
ステップSA2においてペーシングを行う必要がないか(ステップSA2「NO」)、または、ステップSA3においてペーシング処理が終了すると、制御部39およびインピーダンス測定回路37により、Ringリードワイヤ21Bの絶縁不良検出が行われる(ステップSA4)。以下、絶縁不良検出処理について、図5および図6を参照して説明する。
【0046】
まず、図5に示すように、端子選択部31により、Ringリード端子25Bと検出端子26間が導通状態に設定される。続いて、制御部39により、インピーダンス測定回路37のスイッチ59Bが開放されスイッチ59Aが短絡される。この状態で、電源51から測定エネルギーが発生され、キャパシタ53に貯留される。
【0047】
測定エネルギーの充電が完了すると、例えば、図6に示すように、制御部39により、予め設定された時間(例えば、1ms)だけインピーダンス測定回路37のスイッチ59Aが開放されスイッチ59Bが短絡される。これにより、キャパシタ43に貯留されていた測定エネルギーがRingリードワイヤ21Bと検出ワイヤ22とに出力される。そして、第1のA/Dコンバータ57Aによりキャパシタ53の両端の電圧が測定され、第2のA/Dコンバータ57Bにより電流検出抵抗55の両端に流れる電流が測定される。
【0048】
A/Dコンバータ57A,57Bによって測定されたキャパシタ53の両端の電圧値および電流検出抵抗55の両端に流れる電流値は制御部39に入力される。制御部39においては、入力された電流値により電圧値が除算されることで、Ringリード端子25Bと検出端子26との間のインピーダンスが測定される。
【0049】
この場合において、Ringリードワイヤ21Bの絶縁状態が保たれていれば、Ringリードワイヤ21Bと検出ワイヤ22は電気的に接触しない。そのため、Ringリード端子25Bと検出端子26との間に開回路が形成され、これらの端子間のインピーダンスは十分に高くなる。一方、Ringリードワイヤ21Bに絶縁不良が生じると、Ringリードワイヤ21Bと検出ワイヤ22とが直接あるいは体液を介して電気的に接触する。そのため、Ringリード端子25Bと検出端子26との間に閉回路が形成され、これらの端子間のインピーダンスが低減する。
【0050】
したがって、制御部39により、測定されたインピーダンスが所定の閾値より高ければ、Ringリードワイヤ21Bの絶縁状態が保たれていると判定される。一方、測定されたインピーダンスが所定の閾値より低ければ、Ringリードワイヤ21Bに絶縁不良が発生していると判定される。
【0051】
同様にして、Tipリードワイヤ21Aの絶縁不良検出においても、ペーシングの判定(ステップSA2)およびペーシング処理(ステップSA3)が行われた後、端子選択部31によりTipリード端子25Aと検出端子26との間が導通状態に設定される。そして、制御部39およびインピーダンス測定回路37により、Tipリード端子25Aと検出端子26との間のインピーダンスが測定され、Tipリードワイヤ21Aの絶縁不良検出処理が行われる(ステップSA4)。
Ringリードワイヤ21BおよびTipリードワイヤ21Aの絶縁不良検出処理が1通り終了すると、絶縁不良検出は終了し通常モードに戻る。
【0052】
以上説明したように、本実施形態に係る医療装置100によれば、Tipリード端子25AまたはRingリード端子25Bと検出端子26とを導通状態に設定して電気を流し、各リード端子25A,25Bと検出端子26との間のインピーダンスの変動を検出することにより、リードワイヤ21A,21Bの絶縁不良を精度よく検出することができる。
【0053】
また、両電極23,24が短絡する兆候であるリードワイヤ21A,21Bのいずれか一方の絶縁不良を検出することで、両電極23,24が短絡するのを事前に回避することができる。また、通常はリードワイヤ21A,21Bのいずれか一方に絶縁不良が発生しただけではセンシング不良やペーシング不良は起きないが、両電極23,24が短絡する兆候を事前に検出することにより、センシング不良やペーシング不良を未然に防ぐことができる。
【0054】
本実施形態においては、1本のTipリードワイヤ21Aおよび1本のRingリードワイヤ21Bを例示して説明したが、各電極23,24に接続されるリードワイヤの数はこれに限定されるものではなく、各電極23,24に2本以上のリードワイヤを接続することとしてもよい。この場合、各リードワイヤの他端にはリードワイヤごとに個別にリード端子を接続することとすればよい。
【0055】
また、本実施形態においては、心臓刺激部35がキャパシタ43を備え、インピーダンス測定回路37がキャパシタ53を備えることとしたが、これに代えて、心臓刺激部35およびインピーダンス測定回路37が共通のキャパシタを備え、共通のキャパシタによりペーシングおよび絶縁不良検出を行うこととしてもよい。また、電源51およびキャパシタ33に代えて、例えば、周波数が100KHzで、振幅が100mVp−pの正弦波などを発生する高周波電源を採用することとしてもよい。
【0056】
また、本実施形態においては、検出端子26がTipコネクタ17の最も基端側に配置されていることとしたが、検出端子26はリードコネクタ15に配置されていればよく、例えば、Ringコネクタ18に配置されていることとしてもよい。また、本実施形態においては、検出ワイヤ22が先端部13まで延びていることとしたが、例えば、先端部13より基端側のアウターチューブ11の途中までしか延びていなくてもよい。また、本実施形態においては、Tip電極23がネジ型形状に形成されていることとしたが、Tip電極23を心筋に固定することができればよく、例えば、描型(タインド)形状に形成されていてもよい。
【0057】
また、本実施形態においては、リードワイヤとして、1本のTipリードワイヤ21AおよびRingワイヤ21Bを例示して説明したが、例えば、リードワイヤとして、数本の細い縒り線(ワイヤ)を縒り集めて構成したワイヤセットを採用することとしてもよい。このようにすることで、リードワイヤの電気抵抗を低減し、強度を向上することができる。
【0058】
また、本実施形態は以下のように変形することができる。
例えば、本実施形態においては、リードワイヤ21A,21Bがそれぞれ樹脂材料からなるチューブ状の絶縁被覆により覆われ、検出ワイヤ22が裸線導体からなることとしたが、第1の変形例としては、リードワイヤ21A,21Bをそれぞれ検出ワイヤ22と同様に裸線導体により構成することとしてもよい。また、各リードワイヤ21A,21Bおよび検出ワイヤ22間に絶縁材料からなる絶縁部材(図示略)を充填し、各リードワイヤ21A,21Bをそれぞれ絶縁状態に保つこととしてもよい。
【0059】
本変形例によれば、絶縁部材により各リードワイヤ21A,21Bと検出ワイヤ22とが電気的に絶縁される。そのため、Tipリード端子25AまたはRingリード端子25Bと検出端子26との間で電気を流しても、絶縁部材に異常がない限りこれらの端子間のインピーダンスは十分に高くなる。しかしながら、リードワイヤ21A,21Bと検出ワイヤ22との間の絶縁部材に亀裂等が生じ、リードワイヤ21A,21Bに絶縁不良が生じると、リードワイヤ21A,21Bと検出ワイヤ22とが電気的に接触する。そのため、Tipリード端子25AまたはRingリード端子25Bと検出端子26との間で電気を流すと、これらの端子間のインピーダンスが低減する。
【0060】
したがって、Tipリード端子25AまたはRingリード端子25Bと検出端子26との間で電気を流し、これらの端子間のインピーダンスの変動を検出することで、リードワイヤ21A,21Bの絶縁不良を精度よく検出することができる。
【0061】
第1の変形例において、例えば、2本以上のTipリードワイヤ21AおよびRingリードワイヤ21Bを採用した場合には、複数本の検出ワイヤ22を各リードワイヤ21A,21Bごとに隣接して配置することとしてもよい。この場合、隣接するTipリードワイヤ21A間または隣接するRingワイヤ21B間の距離より短い距離で、各リードワイヤ21A,21Bと検出ワイヤ22とが隣接するように配置することとすればよい。
【0062】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態に係る電極リードおよび絶縁不良検出装置について説明する。
本実施形態に係る医療装置(絶縁不良検出装置)200は、図7に示すように、リード端子25A,25B、検出端子26および装置本体30が金属製のICD筐体(筺体)127により覆われ、絶縁不良検出にICD筐体127をCAN電極として使用するようになっている。
以下、第1の実施形態に係る医療装置100と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0063】
生体に医療装置200が埋め込まれると、ICD筐体127は、生体に対してTip電極25AおよびRing電極25Bとは異なる位置に密着し、CAN電極として機能するようになっている。
【0064】
インピーダンス測定回路37は、電源51に代えて、生体組織を透過し難いパルス波形の測定エネルギーではなく、例えば、周波数が100kHzで、振幅が100mVp−pの正弦波など、生体組織をより透過し易い交流波形の測定エネルギーを発生する高周波電源151を備えている。高周波電源151を採用することで、アウターチューブ11の破損に対する検出感度を向上することができる。
【0065】
このように構成された医療装置200を用いて、アウターチューブ11の破損を検出する場合は、端子選択部31により検出端子26とICD筐体127、すなわち、CAN電極との間を導通状態に設定する。そして、電源51から発せられた測定エネルギーを生体を介して検出ワイヤ22およびCAN電極に供給し、制御部39およびインピーダンス測定回路37により、検出端子26とCAN電極との間のインピーダンスを測定する。
【0066】
この場合において、アウターチューブ11に異常がなければ、検出ワイヤ22とCAN電極とが電気的に絶縁される。そのため、検出端子26とCAN電極との間のインピーダンスは十分に高くなる。一方、図8に示すように、アウターチューブ11が破れると、検出ワイヤ22とCAN電極とが直接あるいは体液を介して電気的に接触する。そのため、検出端子26とCAN電極との間のインピーダンスは低減する。
【0067】
したがって、制御部39により検出端子26とCAN電極との間のインピーダンスの変動を検出することで、アウターチューブ11の破損を検出することができる。また、アウターチューブ11が破れると、リードワイヤ21A,21Bも絶縁不良を起こす可能性が高い。したがって、アウターチューブ11の破損を検出することにより、リードワイヤ21A,21Bの絶縁不良によるリード端子25A,25B間の短絡を予防することが可能になる。例えば、アウターチューブ11の破損を早期に発見すれば、電極リード10の交換や補修等の対応を迅速に行うことができる。
【0068】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、本発明を上記の一実施形態および変形例に適用したものに限定されることなく、これらの実施形態および変形例を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよく、特に限定されるものではない。
【0069】
また、例えば、上記各実施形態およびその変形例においては、電極部として、2つの電極23,24(双極電極、バイポーラ電極)を例示して説明したが、これに代えて、1つの電極(単極電極、モノポーラ電極)を採用することとしてもよい。この場合、装置本体30を電極として機能させ、電極リード10の単極の電極と装置本体30との間で通電させることとすればよい。
【符号の説明】
【0070】
10 電極リード
21A Tipリードワイヤ(リードワイヤ)
21B Ringリードワイヤ(リードワイヤ)
22 検出ワイヤ
23 Tip電極(電極部)
24 Ring電極(電極部)
25A Tipリード端子(リード端子)
25B Ringリード端子(リード端子)
31 端子選択部
39 制御部(インピーダンス測定部、判定部)
100,200 医療装置(絶縁不良検出装置)
127 ICD筐体(筺体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁被覆されたリードワイヤと、
該リードワイヤの一端に接続されるリード端子と、
前記リードワイヤの他端に接続されるリード電極部と、
前記リードワイヤが延びる方向に沿って該リードワイヤに隣接して配置され、絶縁被覆されていない裸線導体からなる検出ワイヤと、
該検出ワイヤの一端に接続される検出端子とを備える電極リード。
【請求項2】
互いに並行し隣接して延びる裸線導体からなるリードワイヤおよび検出ワイヤと、
前記リードワイヤの一端に接続されるリード端子と、
前記リードワイヤの他端に接続されるリード電極部と、
前記検出ワイヤの一端に接続される検出端子と、
前記リードワイヤと前記検出ワイヤとの間に配置される絶縁材料からなる絶縁部材とを備える電極リード。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電極リードと、
前記リード端子と前記検出端子との間を導通状態に設定する端子選択部と、
該端子選択部により導通状態に設定された前記リード端子と前記検出端子との間のインピーダンスを測定するインピーダンス測定部と、
該インピーダンス測定部により測定されたインピーダンスが所定の閾値より高いか低いかを判定する判定部とを備える絶縁不良検出装置。
【請求項4】
前記リードワイヤおよび前記検出ワイヤを被覆する絶縁材料からなるアウターチューブと、
前記端子選択部、前記インピーダンス測定部、および、前記判定部を覆い、前記生体に対して前記リード電極部とは異なる位置に接触可能に配置される金属材料からなる筐体とを備える請求項3に記載の絶縁不良検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−61097(P2012−61097A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206999(P2010−206999)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】