電極基板及びその製造方法
【課題】電極領域と電極間領域とが電極形成面の面方向に沿って交互に繋がるかたちに電極が構成される電極基板及びその製造方法において、その透明性を向上する電極基板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】透明な金属酸化物となる金属微粒子を分散させた液体材料を用いて、ガラス基板に互いに離間した第1パターンを形成し、非酸化焼成工程と第1酸化焼成工程とにより電極領域を形成する。続いて、上記液体材料を用いて電極領域の間を埋める第2パターンを形成し、第2酸化焼成工程により電極間領域を形成する。電極領域は、平均粒子径が非酸化焼成工程によって電極間領域よりも大きく、電子伝導路が長くなることで導電性を有する。一方電極間領域は、平均粒子径が小さく電子伝導路も短いため絶縁性を有する。電極領域及び電極間領域は、平均粒子径が異なるだけであることから、電極領域の輪郭が視認し難くなり電極基板の透明性が向上する。
【解決手段】透明な金属酸化物となる金属微粒子を分散させた液体材料を用いて、ガラス基板に互いに離間した第1パターンを形成し、非酸化焼成工程と第1酸化焼成工程とにより電極領域を形成する。続いて、上記液体材料を用いて電極領域の間を埋める第2パターンを形成し、第2酸化焼成工程により電極間領域を形成する。電極領域は、平均粒子径が非酸化焼成工程によって電極間領域よりも大きく、電子伝導路が長くなることで導電性を有する。一方電極間領域は、平均粒子径が小さく電子伝導路も短いため絶縁性を有する。電極領域及び電極間領域は、平均粒子径が異なるだけであることから、電極領域の輪郭が視認し難くなり電極基板の透明性が向上する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の電極形成面に電極を備えた電極基板及びその製造方法、例えばタッチパネル等に適用される透明電極基板であって、電極領域と電極間領域とが電極形成面の面方向に沿って交互に繋がるかたちに透明電極が構成される電極基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば液晶ディスプレイ等に適用されて、表示内容に応じて指先やペンなどで画面を操作することにより、その入力位置を認識して各種操作を実行可能にする入力装置としてタッチパネルが知られている。こうしたタッチパネルの駆動方式には様々なものが提案されており、抵抗接触方式や静電容量方式などのように、入力操作に伴う画面の物理的な変化を電気的な変化に変換してその入力位置を認識する方式も知られている(例えば特許文献1や特許文献2)。こうした変換方式を利用するタッチパネルには、短冊状の複数の透明電極が互いに離間するように透明基板上に敷設されてなる透明電極基板が用いられている。そして、タッチパネルの表面に指先やペンなどが接触すると、接触箇所に対応した透明電極基板の物理的な変化が、当該接触箇所に対応した透明電極の電気的な変化に変換されて、当該透明電極を通じて検出される電気的な信号に基づいて、その入力位置が認識される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−241717号公報
【特許文献2】特開平10−63403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述するような透明電極基板がタッチパネルに適用される場合には、タッチパネルの表示面に画像を表示させるための光が、当該透明電極基板に照射され、上述した複数の透明電極の各々にも、こうした光が照射されることになる。この際、光透過性を有した透明電極であれども、透明電極とそれの外部との間には少なからず光の屈折及び吸収の差異が生じることになり、当該透明電極に光が照射されれば、透明電極の表面にて光の屈折や反射が生じることになる。その結果、透明電極の表面にて生じるこうした光学的な現象により、当該透明電極の輪郭が視認可能になってしまい、複数の透明電極が互いに離間するように敷設された透明基板にあっては、複数の透明電極の輪郭からなる濃淡模様が視認可能となってしまう。それゆえ、こうした透明電極基板においては、その透明性のさらなる向上が切望されている。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、電極領域と電極間領域とが電極形成面の面方向に沿って交互に繋がるかたちに電極が構成される電極基板及びその製造方法において、その透明性を向上する電極基板及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の電極基板は、基板と、該基板の電極形成面に敷設された電極とを備える電極基板であって、前記電極は、相互に離間した複数の電極領域に形成された金属酸化物と、当該電極領域の間の電極間領域に形成された金属酸化物とからなり、前記電極領域に形成された前記金属酸化物の結晶粒子の平均粒子径が10nmよりも大きく、かつ、前記電極
間領域に形成された前記金属酸化物の結晶粒子の平均粒子径が10nm以下である。
【0007】
金属酸化物の結晶粒子からなる電極では、結晶粒子の平均粒子径が大きくなるほど、粒子内における電子伝導路が長くなるため、粒子間における伝導電子の散乱頻度が低くなり、当該電極における電気伝導性が高くなる。また、結晶粒子の平均粒子径が小さくなるほど、粒子内における電子伝導路が短くなり、かつ粒子間における伝導電子の散乱頻度が高くなるため、当該電極における電気伝導性が低くなる。
【0008】
本発明の電極基板によれば、電極領域における平均粒子径が10nmよりも大きく、かつ、電極間領域における平均粒子径が10nm以下である。このため、電極領域においては、電極領域の間に比べて高い電気伝導性が得られることになり、電極間領域においては、電気伝導性が抑えられることになる。そして、これら電極領域及び電極間領域が同じ金属酸化物から構成されるため、電極領域とそれを囲う外部との境界は、電極領域と電極間領域との境界、つまり平均粒子径の差異のみからなる境界となる。このため、上述する電極間領域が無い従来の構成と比較して、電極領域とそれを囲う外部との境界では、当該境界を挟む両側において光の屈折及び吸収の差異が大幅に抑制されることになり、光の反射や屈折といった光学的な現象が生じ難くなる。それゆえ、電極として機能する電極領域が互いに離間するように敷設される構成であっても、こうした構成であれば、各電極領域の輪郭を示す濃淡模様が視認し難くなり、その透明性のさらなる向上が可能になる。
【0009】
またこの発明の電極基板は、前記電極領域における結晶粒子の平均粒子径が40nm〜80nmである。
電極領域における平均粒子径が過剰に大きくなる場合には、そこにおける電気伝導性が高くなるものの、電極領域の表面における段差までもが大きくなる場合がある。こうした場合には、当該段差における反射や屈折といった光学的な現象が、かえって透明性を損なう原因となる。
【0010】
この電極基板によれば、電極領域の平均粒子径が80nm以下であることから、上述するような段差に起因する問題も確実に抑えることが可能になる。そのうえ、電極領域の平均粒子径が40nm以上であることから、電極領域の電気伝導率も確保されることになる。つまり、この電極基板によれば、電極領域の良好な導電性を得つつ、その表面の平坦性を得ることも可能になる。
【0011】
またこの発明の電極基板は、前記電極領域における膜厚と前記電極間領域における膜厚とが等しくなるように構成される。
この電極基板によれば、電極領域の膜厚と電極間領域の膜厚とが等しいことから、電極の表面全体において平坦性が確保されることになる。それゆえ、各電極領域の輪郭を示す濃淡模様がより視認し難くなり、その透明性のさらなる向上が可能になる。
【0012】
またこの発明の電極基板は、前記電極領域におけるシート抵抗値が100〜300Ω/□であり、前記電極間領域におけるシート抵抗値が5MΩ/□以上である。
この電極基板によれば、電極領域が導電膜として確実に機能し、かつ、電極間領域が絶縁膜として確実に機能するようになる。
【0013】
この発明の電極基板の製造方法は、酸化により透明性を発現する金属微粒子が溶媒中に分散された液体材料からなる液状膜が透明基板の電極形成面に形成されて、当該液状膜が酸化されることにより金属酸化物の結晶粒子膜である透明電極が同電極形成面に形成されてなる透明電極基板の製造方法において、前記液状膜が酸化される前に、前記液状膜のうちで相互に離間した複数の電極領域のみがそこにおける平均粒子径を大きくする態様で、当該電極領域のみが酸素を含有しない雰囲気にて焼成される。
【0014】
金属微粒子が溶媒中に分散された液体材料からなる液状膜が基板の電極形成面に形成され、当該液状膜が酸化されることにより金属酸化物の結晶粒子膜である電極が前記電極形成面に形成されてなる電極基板の製造方法において、相互に離間した複数の電極領域に形成される前記液状膜を酸素を含有しない雰囲気にて焼成する工程を有する。
【0015】
金属酸化物の結晶粒子からなる電極では、結晶粒子の平均粒子径が大きくなるほど、粒子内における電子伝導路が長くなるため、粒子間における伝導電子の散乱頻度が低くなり、当該電極における電気伝導性が高くなる。また、結晶粒子の平均粒子径が小さくなるほど、粒子内における電子伝導路が短くなるため、粒子間における伝導電子の散乱頻度が高くなり、当該電極における電気伝導性が低くなる。
【0016】
この電極基板の製造方法によれば、液状膜の酸化に先駆けて電極領域の焼成が行われることになり、電極領域における平均粒子径が電極間領域における平均粒子径よりも大きくなる。それゆえ電極領域においては、電極領域の間に比べて高い電気伝導性が得られることになり、電極間領域においては、電気伝導性が抑えられることになる。そして、これら電極領域及び電極間領域が同じ金属酸化物から構成されるため、電極領域とそれを囲う外部との境界は、電極領域と電極間領域との境界、つまり平均粒子径の差異のみからなる境界となる。このため、上述する電極間領域が無い従来の構成と比較して、電極領域とそれを囲う外部との境界では、当該境界を挟む両側において誘電率の差異が大幅に抑制されることになり、光の反射や屈折といった光学的な現象が生じ難くなる。それゆえ、透明電極として機能する電極領域が互いに離間するように敷設される構成であっても、こうした構成であれば、各電極領域の輪郭を示す濃淡模様が視認し難くなり、その透明性のさらなる向上が可能になる。
【0017】
この電極基板の製造方法は、前記液体材料の前記電極形成面への吐出により前記電極領域に前記液状膜を形成する工程と、前記酸素を含有しない雰囲気にて前記電極領域に形成された前記液状膜を焼成する工程と、前記電極領域の間の電極間領域に前記液体材料を吐出し液状膜を形成する工程と、前記電極間領域に形成された液状膜と、前記焼成された前記液状膜とを酸化する工程とを備えた。
【0018】
この電極基板の製造方法によれば、電極領域が焼成される工程において、電極領域を構成している金属微粒子のみが、相互の融着により平均粒子径を大きくする。こうした電極領域の焼成工程が電極間領域の形成工程に先駆けて実行されるため、電極間領域を構成している金属微粒子がその粒子径を維持し易くもなり、電極領域における高い電気伝導性と電極間領域における低い電気伝導性とがより確実なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明にかかる透明電極基板の斜視構造を示す斜視図。
【図2】透明電極基板の製造工程を示すフローチャート。
【図3】第1パターンを形成する工程を示す工程図。
【図4】非酸化焼成工程後の第1パターンの断面構造を示すTEM断面像。
【図5】第2パターンを形成する工程を示す工程図。
【図6】第2酸化焼成工程後の第2パターン断面構造を示すTEM断面像。
【図7】(a)電極膜のX線回折パターンを示すX線回折スペクトル、(b)電極間膜のX線回折パターンを示すX線回折スペクトル、(c)スパッタ法により形成されたITO膜のX線回折パターンを示すX線回折スペクトル。
【図8】電極膜の回折ピークの面積と非酸化焼成工程の処理温度との関係を非酸化焼成工程の処理条件ごとに示すグラフ。
【図9】(a)(b)(c)電極膜の断面構造を非酸化焼成工程の処理条件ごとに示すTEM断面像。
【図10】X線回折スペクトルのピークの面積とシート抵抗値との関係を示すグラフ。
【図11】平均粒子径とシート抵抗値との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の透明電極基板及びその製造方法を具体化した一実施形態について図1〜図11を参照して説明する。
図1に示されるように、透明電極基板10は、矩形板状をなす無色透明なガラス基板11を備えており、このガラス基板11の上面11aには、同上面11aの一辺に沿って延びる無色透明な短冊状の複数の電極膜12がそれの長手方向と交差する方向に沿って配列されている。またガラス基板11の上面11aには、上記電極膜12の間を埋めるように、これもまた無色透明な短冊状の複数の電極間膜13が配列されている。つまり、可視領域の光をその全帯域にわたり所定の透過率で透過させる特性を共通に有した電極膜12と電極間膜13とが、ガラス基板11の上面11aを埋めるように、同上面11aに敷設されている。そして、電極領域を構成する電極膜12と電極間領域を構成する電極間膜13とによって、1つの透明電極が構成されている。なお、これら電極膜12と電極間膜13とが有する透過率は、透明電極基板10が適用される装置、例えばタッチパネル等の装置仕様に応じて異なるものであり、電極膜12及び電極間膜13を構成する材料により適宜変更されるものである。
【0021】
これら電極膜12及び電極間膜13は、同じ膜厚にて構成されており、例えば200nmにて構成されている。電極膜12及び電極間膜13は、光透過性が付与された同一組成の金属酸化物の結晶粒子からなる結晶粒子膜であり、それらに含まれる金属酸化物の平均粒子径の違いによって、透明電極が電極膜12と電極間膜13とに区画されている。
【0022】
詳しくは、電極膜12を構成する金属酸化物の平均粒子径が、電極間膜13を構成する金属酸化物の平均粒子径よりも大きくなるかたちで、これら2種類の結晶粒子膜が構成されている。こうした金属酸化物の粒子径は、電極膜12及び電極間膜13の電子伝導性(電気伝導率)を規定するものであり、その粒子径が大きくなるほど、結晶粒子内の電子伝導路が長くなるため、粒子間における伝導電子の散乱頻度が低くなり、電極膜の電気伝導率が高くなる。反対に、その粒子径が小さくなるほど、結晶粒子内の電子伝導路が短くなるため、電極膜の電気伝導率が低くなる。電極膜12を構成する金属酸化物の平均粒子径は、それが導電膜として機能するサイズに調整されており、10nmよりも大きくなるように調整されている。一方、電極間膜13を構成する金属酸化物の平均粒子径は、それが電極膜12間を絶縁するサイズに調整されており、10nm以下になるように調整されている。
【0023】
なお、導電膜としての電極膜12に要求される電気伝導率、さらには絶縁膜としての電極間膜13に要求される電気伝導率は、透明電極基板10が適用される装置の装置仕様に応じて異なるものである。電極膜12の平均粒子径と電極間膜13の平均粒子径とは、こうした要請に応じて、上述する範囲から適宜選択されるものである。ちなみに、この透明電極基板10がタッチパネルに適用される場合、電極膜12に要求される電気伝導性は、それのシート抵抗値が約100〜300Ω/□のものであり、また電極間膜13に要求される電気伝導性は、それのシート抵抗値が5MΩ/□以上であり、これらを満たす平均粒子径が上述する範囲から選択される。
【0024】
このように構成される透明電極基板10によれば、電極膜12においては、当該電極膜12の間に比べて高い電気伝導性が得られることになり、電極間膜13においては、電気伝導性が抑えられることになる。そして、これら電極膜12及び電極間膜13が同じ金属
酸化物から構成されるため、電極膜12とそれを囲う外部との境界は、電極膜12と電極間膜13との境界、つまり平均粒子径の差異のみからなる境界となる。このため、上述する電極間膜13が無い構成と比較して、電極膜12とそれを囲う外部との境界では、当該境界を挟む両側において誘電率の差異が大幅に抑制されることになり、光の反射や屈折といった光学的な現象が生じ難くなる。それゆえ、各電極膜12の輪郭を示す濃淡模様が視認し難くなり、透明電極基板10の透明性のさらなる向上が可能になる。ちなみに電極膜12及び電極間膜13の屈折率はともに1.72〜1.75であり、透過率はともに92〜97%である。
【0025】
なお、ガラス基板11に電極膜12のみが敷設された場合には、その電極膜12の輪郭が視認されやすいばかりか、透明電極基板10が外部から機械的な力を受けた場合に同透明電極基板10に応力集中が生じることとなり、電極膜12、ひいては透明電極基板10の機械的強度を低下させてしまう虞がある。これに対し、上述する構成であれば、電極膜12の間に同電極膜12と同じ膜厚となるように電極間膜13が敷設されていることから、透明電極基板10の平坦化を図ることができ、透明電極基板10に機械的な外力が作用したとしても、その外力が電極膜12及び電極間膜13に分散されることになり、透明電極基板10に応力集中が生じ難くなる。それゆえ透明電極基板10の機械的強度を向上させることも可能になる。それゆえ透明電極基板10をタッチパネルに適用した場合には、同タッチパネルの機械的強度に対する信頼性が向上することになる。
【0026】
次に、上述した透明電極基板10の製造方法について説明する。図2で示されるように、この透明電極基板の製造方法では、第1パターン形成工程(ステップS11)、非酸化焼成工程(ステップS12)、第1酸化焼成工程(ステップS13)、第2パターン形成工程(ステップS14)、第2酸化焼成工程(ステップS15)が、この順に実行される。なお工程短縮のため、第1酸化焼成工程ステップS13を省略し、第2酸化焼成工程(ステップS15)にて第1パターン15、第2パターン21を一括酸化焼成する事も可能である。
【0027】
第1パターン形成工程(ステップS11)は、ガラス基板11の上面11aにおいて電極膜12が敷設される領域に、液状膜としての第1パターン15が形成される工程である。この第1パターン15は、金属微粒子を溶媒中に分散させた液体材料を用いた印刷法、例えばインクジェット法で形成される。これに用いられる金属微粒子は、透明導電性酸化物である上記金属酸化物の前駆体であって、金属或いは合金からなり、その粒子径が5〜10nmのナノ粒子である。
【0028】
この液体材料の金属微粒子としては、酸化物となることで高い光透過性を発現するものであればよく、例えば、インジウム−錫(In−Sn)合金をはじめ、インジウムーガリウムー亜鉛(In−Ga−Zn)合金、亜鉛−アルミニウム(Zn−Al)合金、亜鉛−ガリウム(Zn−Ga)合金、フッ化錫(SnF2)などを挙げることができる。一方、この液体材料の溶媒としては、上記金属微粒子を良好に分散させ、それの凝集を起こさないものであればよく、テトラデカンをはじめ、ドデカン、デカリン、シクロヘキシルベンゼン、シクロドデセンなどの炭素水素系化合物を挙げることができる。
【0029】
そして、図3に示されるように、ガラス基板11と液滴吐出ヘッド17とを相対移動させながら、ガラス基板11の上面11aにおける電極膜12の形成領域に向かって、上述した液体材料からなる液滴19を液滴吐出ヘッド17から吐出する。これにより、同ガラス基板11の上面11aに、短冊状の複数の第1パターン15が互いに離間するように形成される。
【0030】
このようにして第1パターン形成工程が終了すると、次に、第1パターン15が敷設さ
れたガラス基板11に対して非酸化焼成工程(ステップS12)が行われる。この非酸化焼成工程では、酸素が含まれない、あるいは第1パターン15中の金属微粒子が酸素により酸化されない雰囲気である酸素非含有雰囲気中に、上記ガラス基板11が配置されて、同酸素非含有雰囲気の下で第1パターン15が焼成される工程である。
【0031】
例えば、図示しない赤外線加熱炉の炉内に第1パターン15が敷設されたガラス基板11が配置されて、炉内を酸素非含有雰囲気にすべく、同炉内が所定の圧力(例えば、8Pa)に減圧される。そして、この減圧状態からガラス基板11が230℃まで昇温されて1時間だけ保持されることにより非酸化焼成工程が行われる。
【0032】
このようにして減圧・酸素非含有雰囲気の下でガラス基板11が焼成されることにより、まず、第1パターン15の液体材料中の溶媒が蒸発するとともに、金属微粒子をコーティングしている分散剤が熱分解して除去されて、金属微粒子の表面が露出するようになる。この際、溶媒が蒸発した段階で金属微粒子の表面に既に薄い酸化被膜が形成されている場合もあるが、上述する減圧雰囲気の下での焼成であれば、こうした酸化被膜の酸素が分散剤の還元反応により金属微粒子から脱離するかたちに消費され、結局、金属微粒子がその表面を露出させることになる。このようにして表面を露出された金属微粒子は、隣接する他の金属微粒子との融着を進行させて、その粒子径を大きくさせる。なお、インジウム−錫合金のような透明導電性酸化物の前駆体は、酸化物となることによりはじめて光透過性を発現させる。そのため、こうした非酸化焼成工程が実行されたガラス基板11の第1パターン15にあっては、それを構成する粒子の粒子径が大きくなれども、依然として光透過性が発現されていない状態である。
【0033】
図4は、こうした非酸化焼成工程後の第1パターン15(電極膜12)の断面構造について、その一例を示すものである。ここでは、金属微粒子として粒子径が5〜10nmのインジウム−錫合金が用いられ、その溶媒としてテトラデカンが用いられ、この金属微粒子の溶媒中における分散性が向上されるべく、金属微粒子の表面には分散剤としてのコーティングが用いられた。図4のTEM(Transmission Electron Microscope)断面像に示されるように、吐出時には5〜10nmであった金属微粒子の粒子径が、こうした非酸化焼成工程により、その粒子径が10nmよりも大きく、数十nmに達していることが認められた。なお、上述したように、分散剤が酸化被膜を還元するためには、炉内の圧力が100Pa以下であることが好ましい。
【0034】
このようにして非酸化焼成工程が終了すると、次に、第1酸化焼成工程(ステップS13)が実行される。この工程では、第1パターン15が敷設されたガラス基板11を酸素が含有される酸素含有雰囲気の下で焼成する工程である。例えば、この第1酸化焼成工程(ステップS13)では、大気雰囲気など、常圧・酸素含有雰囲気の下でガラス基板11が250℃まで昇温されて1時間保持されることにより第1酸化焼成工程が実行される。このようにして第1酸化焼成工程が実行されると、第1パターン15を構成しているインジウム−錫合金の金属粒子は、先行する非酸化焼成工程にて大きくした粒子径を維持しつつ、この第1酸化焼成工程により酸化物となる。つまり、第1パターン15は、粒子径が大きくなった状態からそれの酸化が進行して、透明導電性酸化物(金属酸化物)からなる電極膜12になる。
【0035】
このようにして第1酸化焼成工程(ステップS13)が終了すると、次に、第2パターン形成工程(ステップS14)が実行される。第2パターン形成工程は、図5に示されるように、ガラス基板11の上面11aにおいて電極間膜13が敷設される領域に、液状膜としての第2パターン21が形成される工程である。この第2パターン21は、ガラス基板11の上面11aにおける電極膜12の間に、第1パターン形成工程(ステップS11)で用いた液体材料と同じ液滴材料を用いた印刷法、例えばインクジェット法が適用され
ることにより得られる。また第2パターン21は、その膜厚が第2酸化焼成工程(ステップS15)後に上記電極膜12と等しくなるように、第1パターン15と同じ膜厚で形成される。
【0036】
なお、インクジェット法は、液滴19の吐出位置や吐出量を高い精度の下で制御することが可能である。そのため、このインクジェット法を用いて第1及び第2パターン15,21を形成することにより、その形成位置や膜厚などを高い精度の下で制御することが可能であり、たとえ第1及び第2パターン15,21の形成位置や膜厚が複雑になったとしても容易に対応することが可能である。
【0037】
第2パターン形成工程が終了すると、次に、第2パターン21が敷設されたガラス基板11に対して第2酸化焼成工程(ステップS15)が行われる。この第2酸化焼成工程では、第2パターン21を常圧・酸素含有雰囲気の下で焼成する工程である。例えば、第1酸化焼成工程と同様に、大気雰囲気の下でガラス基板11が250℃まで昇温されて1時間だけ保持することにより第2酸化焼成工程が実行される。つまり、第2パターン21に対しては、第1パターン15とは異なり、非酸化焼成工程を経ることなく第2酸化焼成工程が実行される。こうすることにより、第2パターン21においては、インジウム−錫合金の金属微粒子が、それよりも大径の結晶粒に成長する前に酸化が開始される。それゆえ、第2パターン21は、粒子径が小さい金属微粒子の状態でそれの酸化が進行して、透明な電極間膜13となる。
【0038】
図6は、こうした第2焼成工程後の第2パターン21(電極間膜13)の断面構造について、その一例を示すものである。ここでは、上述した図4と同じく、金属微粒子として粒子径が5〜10nmのインジウム−錫合金が用いられ、その溶媒としてテトラデカンが用いられた例を示す。図6のTEM断面像に示されるように、電極間膜13を構成する結晶粒子は、その粒子径が10nm以下となる小さいものであり、電極膜12を構成する結晶粒子よりも、その粒子径が大幅に小さく、むしろ吐出時の粒子径と略同じであることが認められた。
【0039】
したがって、上述するような製造方法によれば、第1パターン15の酸化に先駆けて、非酸素含有雰囲気下にて第1パターン15の焼成が行われるため、こうした焼成が行われない第2パターン21と比べて、第1パターン15(電極膜12)における平均粒子径が大きくなる。それゆえ電極膜12においては、当該電極膜12の間に比べて高い電気伝導性が得られることになり、電極間膜13においては、電気伝導性が抑えられることになる。そのうえ、非酸素含有雰囲気下における第1パターン15の焼成が第2パターン21の形成に先駆けて実行されるため、第2パターン21を構成している金属微粒子が吐出時の粒子径を維持し易くもなり、電極膜12における高い電気伝導性と電極間膜13における低い電気伝導性とがより確実なものとなる。そして、これら電極膜12及び電極間膜13が、同じ液体材料からなる金属酸化物により構成されるため、電極膜12とそれを囲う外部との境界は、電極膜12と電極間膜13との境界、つまり平均粒子径の差異のみからなる境界となる。つまり、上述したような透明性のさらなる向上が可能な透明電極基板10が製造可能になる。
【0040】
次に、上述したように、非酸化焼成工程(ステップS12)により結晶粒の粒子径が大きくなることを、X線回折スペクトルの回折ピークに基づいて、実施例を挙げて説明する。図7は、各種条件の下で形成された結晶粒子膜に対して、θ−2θ法を用いて検出されたX線の回折強度スペクトルを示す。図7は、上記製造方法により得られたITOからなる結晶粒子膜の回折強度スペクトルを示し((a)電極膜12、(b)電極間膜13)、金属微粒子としてインジウム−錫合金、溶媒としてテトラデカンが用いられた例を示す。図7(c)は、比較例として、ITOターゲットを用いたスパッタ法によるITO膜の回
折強度スペクトルを示す。なお、スパッタ法を用いて形成したITO膜は、高い電気伝導率と高い結晶性とを有したITO膜である。
【0041】
図7(a)に示されるように、電極膜12が示す回折強度スペクトルには、スパッタ法にて形成されたITO膜と同じく、(222)面及び(444)面からの大きく鋭い強度ピークが認められた。つまり、スパッタ法にて得られるITO膜と同じく、電極膜12は高い結晶性を有した膜であり、言い換えれば、粒子径が大きい結晶粒からなる結晶粒子膜であることが分かった。これに対し、図7(b)に示されるように、電極間膜13が示す回折強度スペクトルには、上述した回折角に大きなピークが認められなかった。つまり、電極間膜13は、粒子径が小さい結晶粒からなる微結晶粒子膜であることが分かる。これらのことから、上記非酸化焼成工程(ステップS12)が実行されることにより、金属微粒子同士が相互に融着して、金属微粒子の粒子径が大きくなることが分かる。
【0042】
次に、上記非酸化焼成工程(ステップS12)の焼成条件に関し、より好適な条件を電極膜のシート抵抗値に基づいて、実施例を挙げて説明する。図8は、電極膜12のX線回折スペクトルから得たピーク面積(2θ=33.56°)と、非酸化焼成工程における焼成温度(処理温度)との関係を示すグラフである。なお、同図に示す電極膜12は、これもまた、金属微粒子としてインジウム−錫合金、溶媒としてテトラデカンを用いて得たものである。なお、同図に示される「×」、「▲」、「●」、「◆」印は、それぞれ非酸化焼成工程における処理圧力(8Pa)と、当該非酸化焼成工程の後の酸化焼成工程の処理条件(常圧、250℃の下で1時間保持)とを同じくして、非酸化焼成工程における紫外線の照射状態、又は処理温度を変更して得られた結果を示す。詳しくは、
・「×」印は、処理温度を、25℃、75℃、125℃、150℃、175℃、225℃、275℃に変更して、同処理温度に到達後、速やかに降温させて得られた結果を示し、・「▲」印は、上記各処理温度にて、さらに紫外線を照射して得られた結果を示し、
・「●」印は、上記各処理温度にて、さらに1時間保持させて得られた結果を示し、
・「◆」印は、上記各処理温度にて、紫外線を照射しつつ1時間保持させて得られた結果を示す。
【0043】
また図9(a)〜(c)は、それぞれ図8にて「◆」印の条件の(a)〜(c)の各地点に対応する第1パターン(電極膜)の断面構造を示すTEMの断面像である。また図10は、各条件におけるピーク面積と第1パターン(電極膜)のシート抵抗値との関係を示したグラフであり、図11は、TEMの断面像等から計測した各条件における平均粒子径とシート抵抗値との関係を示したものである。
【0044】
図8に示されるように、非酸素焼成工程の開始時、つまり処理温度が25℃である状態では、いずれの条件のピーク面積も0に近い小さい値を示し(図8の(a)地点参照)、金属微粒子の融着による粒子径の拡大が進行していないことが認められた(図9(a)参照)。これは、金属微粒子の温度がインジウムの融点(約156℃)よりも十分に低い温度であるためと想定される。こうした状態の電極膜、つまり平均粒子径が吐出時と同じく10nm以下であって、ピーク面積が0に近い状態では、図10、図11にも示されるように、そのシート抵抗値が約107Ω/□と非常に高い値であることが認められた。これは、電極膜を構成する金属粒子の粒子径が小さいことから、結晶粒子内における電子伝導路も十分に確保できていないためと想定される。
【0045】
これに対して、非酸素焼成工程の処理温度が75℃を越えると、いずれの条件のピーク面積も急激な増大を示し(図8の(b)地点参照)、こうした温度以上で焼成が行われることにより、粒子径の拡大が急激に進行することが認められた(図9(b)参照)。こうした粒子径の拡大は、紫外線が照射されることにより顕著になり、保持時間(焼成時間)が1時間になることにより、さらに顕著になることが認められた。つまり、焼成時に紫外
線が照射される条件や焼成時間が1時間になる条件であれば、非酸素雰囲気下で単に昇温がなされる条件よりも、より粒子径の拡大が早期に実現可能になる(図9(b)参照)。これは、金属微粒子の融着反応が、反応律速の段階にあり、紫外線や加熱のような外部エネルギーの印加によって、さらに進行する段階にあるものと想定される。こうした焼成状態の電極膜、つまり平均粒子径が10nmよりも大きく、ピーク面積が数十〜数百になる状態では、図10、図11にも示されるように、そのシート抵抗値が約104Ω/□以下まで低下していることが認められた。これは、電極膜を構成する金属粒子の粒子径が、それの焼成開始時と比較して大きくなっていることから、結晶粒子内における電子伝導路も確保されるようになっているためと想定される。
【0046】
さらに、非酸素焼成工程の処理温度が150℃を越えると、いずれの条件のピーク面積も高い範囲で安定し(図8の(c)地点参照)、こうした温度以上で焼成が行われることにより、十分に大きいサイズの粒子径が得られることが認められた(図9(c)参照)。つまり、焼成時に紫外線が照射される条件や焼成時間が1時間になる条件は、処理温度が150℃以下になるときに、粒子径の拡大に有効的であり、処理温度がこれよりも高くなるときには、上述するような有効性が特に認められなかった。言い換えれば、焼成時に紫外線が照射される条件や焼成時間が1時間になる条件が適用されれば、処理温度の低温下が可能にもなる。こうした焼成状態の電極膜、つまり平均粒子径が40nm以上であって、ピーク面積が200以上になる状態では、図10、図11にも示されるように、そのシート抵抗値が約102Ω/□近くまで低下していることが認められた。
【0047】
なお、処理温度が230℃の条件と270℃の条件とにおいては、いずれもピーク面積に差異がなく、金属微粒子の十分な融着・結晶成長がなされている。ただし、減圧状態の下、270℃で非酸化焼成工程を実行した場合には、結晶成長が過度に進行してしまうためか電極膜の表面に凹凸が生じやすくなった。こうした凹凸が表面に形成されてしまうと、透明電極基板10に外力が作用したときにその凹凸部分に応力集中が生じ易くなり、透明電極基板10の機械的強度が低下してしまう虞がある。このことから、金属微粒子としてインジウム−錫合金を用いる場合にあっては、非酸化焼成工程の焼成温度を230℃とする、あるいは230℃まで昇温させ、その状態を1時間保持する焼成条件が好ましい。また電極膜12の平均粒子径としても、図11に示されるように、40nm〜80nmの範囲であることが好ましい。
【0048】
なお、ガラス基板11の上面11aに短冊状の電極膜12を形成する方法としては、上述した液体材料を上面11aの所定領域に塗布して非酸化焼成工程及び酸化焼成工程を実行したのち、その形成された酸化膜に対してレーザー加工を施して酸化膜の一部を除去することにより短冊状の電極膜12を形成する方法もある。しかしながら、こうした方法にあっては、酸化膜を除去する際にレーザー光がガラス基板11に照射されてしまうことで同ガラス基板11にダメージを与えてしまうことがある。これに対し、本実施形態では、ガラス基板11に電極膜12となる第1パターン15を形成し、そのガラス基板11を焼成するだけで短冊状の電極膜12が形成される。こうすることにより、短冊状の電極膜12を形成する際におけるガラス基板11へのダメージを低減することが可能であり、透明電極基板10の歩留まりを向上させることが可能になる。また、製造プロセスの簡素化が図られることから、透明電極基板10の生産効率を向上させることも可能である。
【0049】
以上説明したように本実施形態の透明電極基板及びその製造方法によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態によれば、インジウム−錫合金の金属微粒子を溶媒中に分散させた液体材料を用いて第1パターン15を形成し、この第1パターン15を非酸化焼成工程(ステップS12)及び第1酸化焼成工程(ステップS13)を実行して電極膜12を形成した。続いて、上記液体材料を用いて電極膜12の間を埋めるように第2パターン21を
形成し、第2酸化焼成工程を実行して電極間膜13を形成した。
【0050】
このようにして電極膜12及び電極間膜13を形成することにより、電極膜12における金属微粒子が融着してその平均粒子径が10nmよりも大きくなる一方、電極間膜13における平均粒子径が電極膜12よりも小さい10nm以下となる。こうすることにより、電極膜12は結晶粒子内の電子伝導路が長くなるため電気伝導性が高くなる一方、電極間膜13は結晶粒子内の電子伝導路が短くなるため電気伝導性が低くなる。電極膜12及び電極間膜13は、同じ金属酸化物から構成されているため、電極膜12と電極間膜13との境界は、その平均粒子径の差異からなる境界となる。そして、電極膜12の間を埋めるように電極間膜13を設けることで、電極膜12と電極間膜13との境界を挟む両側においては、誘電率の差異が大幅に抑制されることになり、光の屈折や反射といった光学的な現象が生じ難くなる。それゆえ、各電極膜12の輪郭を示す濃淡模様が視認し難くなることから、透明電極基板10の透明性を向上させることが可能になる。
【0051】
(2)上記実施形態によれば、電極膜12及び電極間膜13をその膜厚が等しくなる態様で形成した。すなわち、透明電極基板10の表面全体において平坦性が確保される態様で電極膜12及び電極間膜13を形成した。こうすることにより、透明電極基板10に機械的な外力が作用したとしても、その外力が電極膜12及び電極間膜13に分散されることとなり、透明電極基板10に応力集中が生じ難くなる。それゆえ、透明電極基板10の機械的強度を向上させることも可能になる。
【0052】
(3)また、透明電極基板10の表面全体において平坦性が確保されることにより、電極膜12の輪郭を示す濃淡模様がより視認し難くなり、透明性のさらなる向上が可能になる。
【0053】
(4)上記実施形態の非酸化焼成工程(ステップS12)のように、第1パターン15を減圧状態の下で230℃まで昇温させて1時間保持すれば、導電膜としての電極膜12のシート抵抗値を100〜300Ω/□、絶縁膜としての電極間膜13のシート抵抗値を7MΩ/□とすることもできる。こうすることにより、電極膜12を導電膜として確実に機能させることが可能であるとともに、電極間膜13を絶縁膜として確実に機能させることが可能である。
【0054】
(5)上記実施形態によれば、電極膜12における平均粒子径を40nm〜80nmにすることによって、電極膜12の良好な導電性を得つつ、透明電極基板10の表面の平坦性を確実に得ることが可能である。
【0055】
(6)上記実施形態によれば、第1パターン15が形成されたガラス基板11に対して、非酸化焼成工程(ステップS12)及び第1酸化焼成工程(ステップS13)を実行するだけで短冊状の複数の電極膜12からなる透明電極が形成される。
【0056】
こうすることにより、ガラス基板11の上面11aの略全領域に酸化膜を形成したのちにレーザー加工などを施すことにより短冊状の複数の電極膜を形成する場合に比べて、短冊状の複数の電極膜を形成する上でのガラス基板11に対するダメージを低減することが可能である。それゆえ透明電極基板10の歩留まりを向上させることが可能である。
【0057】
(7)また、短冊状の複数の電極膜12を形成する上での製造工程の簡素化が図られることから、透明電極基板10の生産効率を向上させることも可能である。
(8)上記実施形態のような透明電極基板10を例えばタッチパネルに適用することにより、透明性及び機械的強度に優れたタッチパネルを得ることが可能になり、タッチパネルの品位を向上させることが可能である。
【0058】
なお、上記実施形態は以下のように変更して実施することもできる。
・上記実施形態では、第1パターン15を形成して非酸化焼成工程(ステップS12)を実行して第1酸化焼成工程(ステップS13)を実行することにより電極膜12を形成した。これに限らず、非酸化焼成工程が実行された第1パターン15を酸素含有雰囲気で焼成する上では、非酸化焼成工程後に第1酸化焼成工程を実行せずに第2パターン21を形成し、第2酸化焼成工程(ステップS15)を実行することにより第1パターン15を酸素含有雰囲気で焼成するようにしてもよい。すなわち、第1酸化焼成工程を省略してもよい。
【0059】
・上記実施形態では、液体材料としてナノ粒子からなる金属微粒子を溶媒中に分散させたものを用いた。これに限らず、液体材料としては、溶媒中にアセチルアセトンインジウムとアセチルアセトン錫とを混合させた混合液や、蟻酸インジウムと錫−t−ブキシドを混合させた混合液など、有機系化合物から構成されるものであってもよい。なお、このときの溶媒としては、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルアセトアミド、N−メチルーピロリドン、γブチルラクトン、アセチルアセトンなどの極性溶媒を用いることができる。
【0060】
このときの非酸化焼成工程の焼成条件としては、常圧、不活性ガス雰囲気(例えばN2ガス雰囲気)、350℃の下で30分間焼成したのち、常圧、還元性ガス雰囲気(例えばH2(1%)/N2ガス雰囲気)、350℃の下で1時間焼成することが好ましい。また酸化焼成工程の焼成条件としては、大気雰囲気、350℃の下で30分間焼成したのち、常圧、還元性ガス雰囲気(例えばH2(1%)/N2ガス雰囲気)、350℃の下で1時間焼成することが好ましい。なお、こうした有機系化合物から液体材料を構成した場合には、非酸化焼成工程(ステップS12)において有機物の熱分解時に有機系化合物が酸化物へと変換されることが多い場合がある。こうした場合には、第1酸化焼成工程(ステップS13)を省略してもよい。
【0061】
・上記実施形態の非酸化焼成工程(ステップS12)では、非酸素含有雰囲気として減圧雰囲気の下で第1パターン15を焼成した。これに限らず、非酸素含有雰囲気の下で第1パターン15を焼成するのであれば、不活性ガス雰囲気(例えば、N2ガスやArガス雰囲気)や還元性ガス雰囲気(例えばH2(1%)/N2ガス雰囲気)、還元性ラジカル雰囲気であってもよい。ただし、分散剤の還元反応により金属微粒子から酸化被膜の酸素を脱離させる上では、還元性雰囲気あるいは還元性ラジカル雰囲気の方が好ましい。このときの好ましい焼成条件としては、例えば還元性雰囲気(H2(1%)/N2ガス雰囲気)にて第1パターン15を350℃で1時間保持することが好ましい。
【0062】
・第1パターン15及び第2パターン21を形成する方法は、インクジェット法に限らず、上述した液体材料を用いて所定のパターンに形成するのであれば、例えばスクリーン印刷法、グラビア印刷法などを用いてもよい。
【0063】
・上記実施形態では、第1及び第2酸化焼成工程(ステップS13,S15)の焼成条件を大気雰囲気の下で第1及び第2パターン15,21を250℃で1時間保持することとしたが、常圧・酸素含有雰囲気の下で第1及び第2パターン15,21を焼成するのであれば、焼成条件はこれに限られない。
【0064】
・上記実施形態では、透明電極基板10の適用例としてタッチパネルに具体化する場合を想定し、電極膜12のシート抵抗値が300Ω/□以下、電極間膜13のシート抵抗値が7MΩ/□となる平均粒子径を選択するようにした。これに限らず、透明電極基板10の用途に合わせて、選択する平均粒子径を適宜変更してもよい。また、こうした変更にあわせて、非酸化焼成工程(ステップS12)の焼成条件を適宜変更してもよい。
【0065】
・上記実施形態では、短冊状に形成された複数の電極膜12を有する透明電極基板10に具体化したが、透明電極基板としては、導電性を有する透明な電極膜を有していればよく、電極膜12のパターンは短冊状に限られない。また、透明電極基板としては、例えば、電極膜12及び電極間膜13が形成された透明電極基板10に透明な誘電体層を積層し、その誘電体層に積層されるかたちでさらに電極膜及び電極間膜が形成される透明電極基板であってもよい。
【0066】
・上記実施形態では、電極膜12と電極間膜13との膜厚が等しくなるように形成した。これに限らず、予め定めた設計ルールに基づいて形成された複数の電極膜12の間に、電極間膜13がその間を埋めるように形成されているならば、電極膜12及び電極間膜13の膜厚は等しくなくてもよい。こうした構成であっても、電極間膜13が形成されている分だけ電極膜12の輪郭を視認し難くなり透明電極基板10の透明性を向上させることが可能である。
【0067】
・上記実施形態では、基板本体を矩形状のガラス基板11とした。これに限らず、基板本体の形状は、矩形状でなくてもよい。また、基板本体は、絶縁性を有する透明なものであればよくガラス基板11の他に、例えばポリエチレンテレフタラート等のプラスチック基板を用いてもよい。
【符号の説明】
【0068】
10…透明電極基板、11…ガラス基板、11a…上面、12…電極膜、13…電極間膜、15…第1パターン、17…液滴吐出ヘッド、19…液滴、21…第2パターン。
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の電極形成面に電極を備えた電極基板及びその製造方法、例えばタッチパネル等に適用される透明電極基板であって、電極領域と電極間領域とが電極形成面の面方向に沿って交互に繋がるかたちに透明電極が構成される電極基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば液晶ディスプレイ等に適用されて、表示内容に応じて指先やペンなどで画面を操作することにより、その入力位置を認識して各種操作を実行可能にする入力装置としてタッチパネルが知られている。こうしたタッチパネルの駆動方式には様々なものが提案されており、抵抗接触方式や静電容量方式などのように、入力操作に伴う画面の物理的な変化を電気的な変化に変換してその入力位置を認識する方式も知られている(例えば特許文献1や特許文献2)。こうした変換方式を利用するタッチパネルには、短冊状の複数の透明電極が互いに離間するように透明基板上に敷設されてなる透明電極基板が用いられている。そして、タッチパネルの表面に指先やペンなどが接触すると、接触箇所に対応した透明電極基板の物理的な変化が、当該接触箇所に対応した透明電極の電気的な変化に変換されて、当該透明電極を通じて検出される電気的な信号に基づいて、その入力位置が認識される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−241717号公報
【特許文献2】特開平10−63403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述するような透明電極基板がタッチパネルに適用される場合には、タッチパネルの表示面に画像を表示させるための光が、当該透明電極基板に照射され、上述した複数の透明電極の各々にも、こうした光が照射されることになる。この際、光透過性を有した透明電極であれども、透明電極とそれの外部との間には少なからず光の屈折及び吸収の差異が生じることになり、当該透明電極に光が照射されれば、透明電極の表面にて光の屈折や反射が生じることになる。その結果、透明電極の表面にて生じるこうした光学的な現象により、当該透明電極の輪郭が視認可能になってしまい、複数の透明電極が互いに離間するように敷設された透明基板にあっては、複数の透明電極の輪郭からなる濃淡模様が視認可能となってしまう。それゆえ、こうした透明電極基板においては、その透明性のさらなる向上が切望されている。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、電極領域と電極間領域とが電極形成面の面方向に沿って交互に繋がるかたちに電極が構成される電極基板及びその製造方法において、その透明性を向上する電極基板及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の電極基板は、基板と、該基板の電極形成面に敷設された電極とを備える電極基板であって、前記電極は、相互に離間した複数の電極領域に形成された金属酸化物と、当該電極領域の間の電極間領域に形成された金属酸化物とからなり、前記電極領域に形成された前記金属酸化物の結晶粒子の平均粒子径が10nmよりも大きく、かつ、前記電極
間領域に形成された前記金属酸化物の結晶粒子の平均粒子径が10nm以下である。
【0007】
金属酸化物の結晶粒子からなる電極では、結晶粒子の平均粒子径が大きくなるほど、粒子内における電子伝導路が長くなるため、粒子間における伝導電子の散乱頻度が低くなり、当該電極における電気伝導性が高くなる。また、結晶粒子の平均粒子径が小さくなるほど、粒子内における電子伝導路が短くなり、かつ粒子間における伝導電子の散乱頻度が高くなるため、当該電極における電気伝導性が低くなる。
【0008】
本発明の電極基板によれば、電極領域における平均粒子径が10nmよりも大きく、かつ、電極間領域における平均粒子径が10nm以下である。このため、電極領域においては、電極領域の間に比べて高い電気伝導性が得られることになり、電極間領域においては、電気伝導性が抑えられることになる。そして、これら電極領域及び電極間領域が同じ金属酸化物から構成されるため、電極領域とそれを囲う外部との境界は、電極領域と電極間領域との境界、つまり平均粒子径の差異のみからなる境界となる。このため、上述する電極間領域が無い従来の構成と比較して、電極領域とそれを囲う外部との境界では、当該境界を挟む両側において光の屈折及び吸収の差異が大幅に抑制されることになり、光の反射や屈折といった光学的な現象が生じ難くなる。それゆえ、電極として機能する電極領域が互いに離間するように敷設される構成であっても、こうした構成であれば、各電極領域の輪郭を示す濃淡模様が視認し難くなり、その透明性のさらなる向上が可能になる。
【0009】
またこの発明の電極基板は、前記電極領域における結晶粒子の平均粒子径が40nm〜80nmである。
電極領域における平均粒子径が過剰に大きくなる場合には、そこにおける電気伝導性が高くなるものの、電極領域の表面における段差までもが大きくなる場合がある。こうした場合には、当該段差における反射や屈折といった光学的な現象が、かえって透明性を損なう原因となる。
【0010】
この電極基板によれば、電極領域の平均粒子径が80nm以下であることから、上述するような段差に起因する問題も確実に抑えることが可能になる。そのうえ、電極領域の平均粒子径が40nm以上であることから、電極領域の電気伝導率も確保されることになる。つまり、この電極基板によれば、電極領域の良好な導電性を得つつ、その表面の平坦性を得ることも可能になる。
【0011】
またこの発明の電極基板は、前記電極領域における膜厚と前記電極間領域における膜厚とが等しくなるように構成される。
この電極基板によれば、電極領域の膜厚と電極間領域の膜厚とが等しいことから、電極の表面全体において平坦性が確保されることになる。それゆえ、各電極領域の輪郭を示す濃淡模様がより視認し難くなり、その透明性のさらなる向上が可能になる。
【0012】
またこの発明の電極基板は、前記電極領域におけるシート抵抗値が100〜300Ω/□であり、前記電極間領域におけるシート抵抗値が5MΩ/□以上である。
この電極基板によれば、電極領域が導電膜として確実に機能し、かつ、電極間領域が絶縁膜として確実に機能するようになる。
【0013】
この発明の電極基板の製造方法は、酸化により透明性を発現する金属微粒子が溶媒中に分散された液体材料からなる液状膜が透明基板の電極形成面に形成されて、当該液状膜が酸化されることにより金属酸化物の結晶粒子膜である透明電極が同電極形成面に形成されてなる透明電極基板の製造方法において、前記液状膜が酸化される前に、前記液状膜のうちで相互に離間した複数の電極領域のみがそこにおける平均粒子径を大きくする態様で、当該電極領域のみが酸素を含有しない雰囲気にて焼成される。
【0014】
金属微粒子が溶媒中に分散された液体材料からなる液状膜が基板の電極形成面に形成され、当該液状膜が酸化されることにより金属酸化物の結晶粒子膜である電極が前記電極形成面に形成されてなる電極基板の製造方法において、相互に離間した複数の電極領域に形成される前記液状膜を酸素を含有しない雰囲気にて焼成する工程を有する。
【0015】
金属酸化物の結晶粒子からなる電極では、結晶粒子の平均粒子径が大きくなるほど、粒子内における電子伝導路が長くなるため、粒子間における伝導電子の散乱頻度が低くなり、当該電極における電気伝導性が高くなる。また、結晶粒子の平均粒子径が小さくなるほど、粒子内における電子伝導路が短くなるため、粒子間における伝導電子の散乱頻度が高くなり、当該電極における電気伝導性が低くなる。
【0016】
この電極基板の製造方法によれば、液状膜の酸化に先駆けて電極領域の焼成が行われることになり、電極領域における平均粒子径が電極間領域における平均粒子径よりも大きくなる。それゆえ電極領域においては、電極領域の間に比べて高い電気伝導性が得られることになり、電極間領域においては、電気伝導性が抑えられることになる。そして、これら電極領域及び電極間領域が同じ金属酸化物から構成されるため、電極領域とそれを囲う外部との境界は、電極領域と電極間領域との境界、つまり平均粒子径の差異のみからなる境界となる。このため、上述する電極間領域が無い従来の構成と比較して、電極領域とそれを囲う外部との境界では、当該境界を挟む両側において誘電率の差異が大幅に抑制されることになり、光の反射や屈折といった光学的な現象が生じ難くなる。それゆえ、透明電極として機能する電極領域が互いに離間するように敷設される構成であっても、こうした構成であれば、各電極領域の輪郭を示す濃淡模様が視認し難くなり、その透明性のさらなる向上が可能になる。
【0017】
この電極基板の製造方法は、前記液体材料の前記電極形成面への吐出により前記電極領域に前記液状膜を形成する工程と、前記酸素を含有しない雰囲気にて前記電極領域に形成された前記液状膜を焼成する工程と、前記電極領域の間の電極間領域に前記液体材料を吐出し液状膜を形成する工程と、前記電極間領域に形成された液状膜と、前記焼成された前記液状膜とを酸化する工程とを備えた。
【0018】
この電極基板の製造方法によれば、電極領域が焼成される工程において、電極領域を構成している金属微粒子のみが、相互の融着により平均粒子径を大きくする。こうした電極領域の焼成工程が電極間領域の形成工程に先駆けて実行されるため、電極間領域を構成している金属微粒子がその粒子径を維持し易くもなり、電極領域における高い電気伝導性と電極間領域における低い電気伝導性とがより確実なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明にかかる透明電極基板の斜視構造を示す斜視図。
【図2】透明電極基板の製造工程を示すフローチャート。
【図3】第1パターンを形成する工程を示す工程図。
【図4】非酸化焼成工程後の第1パターンの断面構造を示すTEM断面像。
【図5】第2パターンを形成する工程を示す工程図。
【図6】第2酸化焼成工程後の第2パターン断面構造を示すTEM断面像。
【図7】(a)電極膜のX線回折パターンを示すX線回折スペクトル、(b)電極間膜のX線回折パターンを示すX線回折スペクトル、(c)スパッタ法により形成されたITO膜のX線回折パターンを示すX線回折スペクトル。
【図8】電極膜の回折ピークの面積と非酸化焼成工程の処理温度との関係を非酸化焼成工程の処理条件ごとに示すグラフ。
【図9】(a)(b)(c)電極膜の断面構造を非酸化焼成工程の処理条件ごとに示すTEM断面像。
【図10】X線回折スペクトルのピークの面積とシート抵抗値との関係を示すグラフ。
【図11】平均粒子径とシート抵抗値との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の透明電極基板及びその製造方法を具体化した一実施形態について図1〜図11を参照して説明する。
図1に示されるように、透明電極基板10は、矩形板状をなす無色透明なガラス基板11を備えており、このガラス基板11の上面11aには、同上面11aの一辺に沿って延びる無色透明な短冊状の複数の電極膜12がそれの長手方向と交差する方向に沿って配列されている。またガラス基板11の上面11aには、上記電極膜12の間を埋めるように、これもまた無色透明な短冊状の複数の電極間膜13が配列されている。つまり、可視領域の光をその全帯域にわたり所定の透過率で透過させる特性を共通に有した電極膜12と電極間膜13とが、ガラス基板11の上面11aを埋めるように、同上面11aに敷設されている。そして、電極領域を構成する電極膜12と電極間領域を構成する電極間膜13とによって、1つの透明電極が構成されている。なお、これら電極膜12と電極間膜13とが有する透過率は、透明電極基板10が適用される装置、例えばタッチパネル等の装置仕様に応じて異なるものであり、電極膜12及び電極間膜13を構成する材料により適宜変更されるものである。
【0021】
これら電極膜12及び電極間膜13は、同じ膜厚にて構成されており、例えば200nmにて構成されている。電極膜12及び電極間膜13は、光透過性が付与された同一組成の金属酸化物の結晶粒子からなる結晶粒子膜であり、それらに含まれる金属酸化物の平均粒子径の違いによって、透明電極が電極膜12と電極間膜13とに区画されている。
【0022】
詳しくは、電極膜12を構成する金属酸化物の平均粒子径が、電極間膜13を構成する金属酸化物の平均粒子径よりも大きくなるかたちで、これら2種類の結晶粒子膜が構成されている。こうした金属酸化物の粒子径は、電極膜12及び電極間膜13の電子伝導性(電気伝導率)を規定するものであり、その粒子径が大きくなるほど、結晶粒子内の電子伝導路が長くなるため、粒子間における伝導電子の散乱頻度が低くなり、電極膜の電気伝導率が高くなる。反対に、その粒子径が小さくなるほど、結晶粒子内の電子伝導路が短くなるため、電極膜の電気伝導率が低くなる。電極膜12を構成する金属酸化物の平均粒子径は、それが導電膜として機能するサイズに調整されており、10nmよりも大きくなるように調整されている。一方、電極間膜13を構成する金属酸化物の平均粒子径は、それが電極膜12間を絶縁するサイズに調整されており、10nm以下になるように調整されている。
【0023】
なお、導電膜としての電極膜12に要求される電気伝導率、さらには絶縁膜としての電極間膜13に要求される電気伝導率は、透明電極基板10が適用される装置の装置仕様に応じて異なるものである。電極膜12の平均粒子径と電極間膜13の平均粒子径とは、こうした要請に応じて、上述する範囲から適宜選択されるものである。ちなみに、この透明電極基板10がタッチパネルに適用される場合、電極膜12に要求される電気伝導性は、それのシート抵抗値が約100〜300Ω/□のものであり、また電極間膜13に要求される電気伝導性は、それのシート抵抗値が5MΩ/□以上であり、これらを満たす平均粒子径が上述する範囲から選択される。
【0024】
このように構成される透明電極基板10によれば、電極膜12においては、当該電極膜12の間に比べて高い電気伝導性が得られることになり、電極間膜13においては、電気伝導性が抑えられることになる。そして、これら電極膜12及び電極間膜13が同じ金属
酸化物から構成されるため、電極膜12とそれを囲う外部との境界は、電極膜12と電極間膜13との境界、つまり平均粒子径の差異のみからなる境界となる。このため、上述する電極間膜13が無い構成と比較して、電極膜12とそれを囲う外部との境界では、当該境界を挟む両側において誘電率の差異が大幅に抑制されることになり、光の反射や屈折といった光学的な現象が生じ難くなる。それゆえ、各電極膜12の輪郭を示す濃淡模様が視認し難くなり、透明電極基板10の透明性のさらなる向上が可能になる。ちなみに電極膜12及び電極間膜13の屈折率はともに1.72〜1.75であり、透過率はともに92〜97%である。
【0025】
なお、ガラス基板11に電極膜12のみが敷設された場合には、その電極膜12の輪郭が視認されやすいばかりか、透明電極基板10が外部から機械的な力を受けた場合に同透明電極基板10に応力集中が生じることとなり、電極膜12、ひいては透明電極基板10の機械的強度を低下させてしまう虞がある。これに対し、上述する構成であれば、電極膜12の間に同電極膜12と同じ膜厚となるように電極間膜13が敷設されていることから、透明電極基板10の平坦化を図ることができ、透明電極基板10に機械的な外力が作用したとしても、その外力が電極膜12及び電極間膜13に分散されることになり、透明電極基板10に応力集中が生じ難くなる。それゆえ透明電極基板10の機械的強度を向上させることも可能になる。それゆえ透明電極基板10をタッチパネルに適用した場合には、同タッチパネルの機械的強度に対する信頼性が向上することになる。
【0026】
次に、上述した透明電極基板10の製造方法について説明する。図2で示されるように、この透明電極基板の製造方法では、第1パターン形成工程(ステップS11)、非酸化焼成工程(ステップS12)、第1酸化焼成工程(ステップS13)、第2パターン形成工程(ステップS14)、第2酸化焼成工程(ステップS15)が、この順に実行される。なお工程短縮のため、第1酸化焼成工程ステップS13を省略し、第2酸化焼成工程(ステップS15)にて第1パターン15、第2パターン21を一括酸化焼成する事も可能である。
【0027】
第1パターン形成工程(ステップS11)は、ガラス基板11の上面11aにおいて電極膜12が敷設される領域に、液状膜としての第1パターン15が形成される工程である。この第1パターン15は、金属微粒子を溶媒中に分散させた液体材料を用いた印刷法、例えばインクジェット法で形成される。これに用いられる金属微粒子は、透明導電性酸化物である上記金属酸化物の前駆体であって、金属或いは合金からなり、その粒子径が5〜10nmのナノ粒子である。
【0028】
この液体材料の金属微粒子としては、酸化物となることで高い光透過性を発現するものであればよく、例えば、インジウム−錫(In−Sn)合金をはじめ、インジウムーガリウムー亜鉛(In−Ga−Zn)合金、亜鉛−アルミニウム(Zn−Al)合金、亜鉛−ガリウム(Zn−Ga)合金、フッ化錫(SnF2)などを挙げることができる。一方、この液体材料の溶媒としては、上記金属微粒子を良好に分散させ、それの凝集を起こさないものであればよく、テトラデカンをはじめ、ドデカン、デカリン、シクロヘキシルベンゼン、シクロドデセンなどの炭素水素系化合物を挙げることができる。
【0029】
そして、図3に示されるように、ガラス基板11と液滴吐出ヘッド17とを相対移動させながら、ガラス基板11の上面11aにおける電極膜12の形成領域に向かって、上述した液体材料からなる液滴19を液滴吐出ヘッド17から吐出する。これにより、同ガラス基板11の上面11aに、短冊状の複数の第1パターン15が互いに離間するように形成される。
【0030】
このようにして第1パターン形成工程が終了すると、次に、第1パターン15が敷設さ
れたガラス基板11に対して非酸化焼成工程(ステップS12)が行われる。この非酸化焼成工程では、酸素が含まれない、あるいは第1パターン15中の金属微粒子が酸素により酸化されない雰囲気である酸素非含有雰囲気中に、上記ガラス基板11が配置されて、同酸素非含有雰囲気の下で第1パターン15が焼成される工程である。
【0031】
例えば、図示しない赤外線加熱炉の炉内に第1パターン15が敷設されたガラス基板11が配置されて、炉内を酸素非含有雰囲気にすべく、同炉内が所定の圧力(例えば、8Pa)に減圧される。そして、この減圧状態からガラス基板11が230℃まで昇温されて1時間だけ保持されることにより非酸化焼成工程が行われる。
【0032】
このようにして減圧・酸素非含有雰囲気の下でガラス基板11が焼成されることにより、まず、第1パターン15の液体材料中の溶媒が蒸発するとともに、金属微粒子をコーティングしている分散剤が熱分解して除去されて、金属微粒子の表面が露出するようになる。この際、溶媒が蒸発した段階で金属微粒子の表面に既に薄い酸化被膜が形成されている場合もあるが、上述する減圧雰囲気の下での焼成であれば、こうした酸化被膜の酸素が分散剤の還元反応により金属微粒子から脱離するかたちに消費され、結局、金属微粒子がその表面を露出させることになる。このようにして表面を露出された金属微粒子は、隣接する他の金属微粒子との融着を進行させて、その粒子径を大きくさせる。なお、インジウム−錫合金のような透明導電性酸化物の前駆体は、酸化物となることによりはじめて光透過性を発現させる。そのため、こうした非酸化焼成工程が実行されたガラス基板11の第1パターン15にあっては、それを構成する粒子の粒子径が大きくなれども、依然として光透過性が発現されていない状態である。
【0033】
図4は、こうした非酸化焼成工程後の第1パターン15(電極膜12)の断面構造について、その一例を示すものである。ここでは、金属微粒子として粒子径が5〜10nmのインジウム−錫合金が用いられ、その溶媒としてテトラデカンが用いられ、この金属微粒子の溶媒中における分散性が向上されるべく、金属微粒子の表面には分散剤としてのコーティングが用いられた。図4のTEM(Transmission Electron Microscope)断面像に示されるように、吐出時には5〜10nmであった金属微粒子の粒子径が、こうした非酸化焼成工程により、その粒子径が10nmよりも大きく、数十nmに達していることが認められた。なお、上述したように、分散剤が酸化被膜を還元するためには、炉内の圧力が100Pa以下であることが好ましい。
【0034】
このようにして非酸化焼成工程が終了すると、次に、第1酸化焼成工程(ステップS13)が実行される。この工程では、第1パターン15が敷設されたガラス基板11を酸素が含有される酸素含有雰囲気の下で焼成する工程である。例えば、この第1酸化焼成工程(ステップS13)では、大気雰囲気など、常圧・酸素含有雰囲気の下でガラス基板11が250℃まで昇温されて1時間保持されることにより第1酸化焼成工程が実行される。このようにして第1酸化焼成工程が実行されると、第1パターン15を構成しているインジウム−錫合金の金属粒子は、先行する非酸化焼成工程にて大きくした粒子径を維持しつつ、この第1酸化焼成工程により酸化物となる。つまり、第1パターン15は、粒子径が大きくなった状態からそれの酸化が進行して、透明導電性酸化物(金属酸化物)からなる電極膜12になる。
【0035】
このようにして第1酸化焼成工程(ステップS13)が終了すると、次に、第2パターン形成工程(ステップS14)が実行される。第2パターン形成工程は、図5に示されるように、ガラス基板11の上面11aにおいて電極間膜13が敷設される領域に、液状膜としての第2パターン21が形成される工程である。この第2パターン21は、ガラス基板11の上面11aにおける電極膜12の間に、第1パターン形成工程(ステップS11)で用いた液体材料と同じ液滴材料を用いた印刷法、例えばインクジェット法が適用され
ることにより得られる。また第2パターン21は、その膜厚が第2酸化焼成工程(ステップS15)後に上記電極膜12と等しくなるように、第1パターン15と同じ膜厚で形成される。
【0036】
なお、インクジェット法は、液滴19の吐出位置や吐出量を高い精度の下で制御することが可能である。そのため、このインクジェット法を用いて第1及び第2パターン15,21を形成することにより、その形成位置や膜厚などを高い精度の下で制御することが可能であり、たとえ第1及び第2パターン15,21の形成位置や膜厚が複雑になったとしても容易に対応することが可能である。
【0037】
第2パターン形成工程が終了すると、次に、第2パターン21が敷設されたガラス基板11に対して第2酸化焼成工程(ステップS15)が行われる。この第2酸化焼成工程では、第2パターン21を常圧・酸素含有雰囲気の下で焼成する工程である。例えば、第1酸化焼成工程と同様に、大気雰囲気の下でガラス基板11が250℃まで昇温されて1時間だけ保持することにより第2酸化焼成工程が実行される。つまり、第2パターン21に対しては、第1パターン15とは異なり、非酸化焼成工程を経ることなく第2酸化焼成工程が実行される。こうすることにより、第2パターン21においては、インジウム−錫合金の金属微粒子が、それよりも大径の結晶粒に成長する前に酸化が開始される。それゆえ、第2パターン21は、粒子径が小さい金属微粒子の状態でそれの酸化が進行して、透明な電極間膜13となる。
【0038】
図6は、こうした第2焼成工程後の第2パターン21(電極間膜13)の断面構造について、その一例を示すものである。ここでは、上述した図4と同じく、金属微粒子として粒子径が5〜10nmのインジウム−錫合金が用いられ、その溶媒としてテトラデカンが用いられた例を示す。図6のTEM断面像に示されるように、電極間膜13を構成する結晶粒子は、その粒子径が10nm以下となる小さいものであり、電極膜12を構成する結晶粒子よりも、その粒子径が大幅に小さく、むしろ吐出時の粒子径と略同じであることが認められた。
【0039】
したがって、上述するような製造方法によれば、第1パターン15の酸化に先駆けて、非酸素含有雰囲気下にて第1パターン15の焼成が行われるため、こうした焼成が行われない第2パターン21と比べて、第1パターン15(電極膜12)における平均粒子径が大きくなる。それゆえ電極膜12においては、当該電極膜12の間に比べて高い電気伝導性が得られることになり、電極間膜13においては、電気伝導性が抑えられることになる。そのうえ、非酸素含有雰囲気下における第1パターン15の焼成が第2パターン21の形成に先駆けて実行されるため、第2パターン21を構成している金属微粒子が吐出時の粒子径を維持し易くもなり、電極膜12における高い電気伝導性と電極間膜13における低い電気伝導性とがより確実なものとなる。そして、これら電極膜12及び電極間膜13が、同じ液体材料からなる金属酸化物により構成されるため、電極膜12とそれを囲う外部との境界は、電極膜12と電極間膜13との境界、つまり平均粒子径の差異のみからなる境界となる。つまり、上述したような透明性のさらなる向上が可能な透明電極基板10が製造可能になる。
【0040】
次に、上述したように、非酸化焼成工程(ステップS12)により結晶粒の粒子径が大きくなることを、X線回折スペクトルの回折ピークに基づいて、実施例を挙げて説明する。図7は、各種条件の下で形成された結晶粒子膜に対して、θ−2θ法を用いて検出されたX線の回折強度スペクトルを示す。図7は、上記製造方法により得られたITOからなる結晶粒子膜の回折強度スペクトルを示し((a)電極膜12、(b)電極間膜13)、金属微粒子としてインジウム−錫合金、溶媒としてテトラデカンが用いられた例を示す。図7(c)は、比較例として、ITOターゲットを用いたスパッタ法によるITO膜の回
折強度スペクトルを示す。なお、スパッタ法を用いて形成したITO膜は、高い電気伝導率と高い結晶性とを有したITO膜である。
【0041】
図7(a)に示されるように、電極膜12が示す回折強度スペクトルには、スパッタ法にて形成されたITO膜と同じく、(222)面及び(444)面からの大きく鋭い強度ピークが認められた。つまり、スパッタ法にて得られるITO膜と同じく、電極膜12は高い結晶性を有した膜であり、言い換えれば、粒子径が大きい結晶粒からなる結晶粒子膜であることが分かった。これに対し、図7(b)に示されるように、電極間膜13が示す回折強度スペクトルには、上述した回折角に大きなピークが認められなかった。つまり、電極間膜13は、粒子径が小さい結晶粒からなる微結晶粒子膜であることが分かる。これらのことから、上記非酸化焼成工程(ステップS12)が実行されることにより、金属微粒子同士が相互に融着して、金属微粒子の粒子径が大きくなることが分かる。
【0042】
次に、上記非酸化焼成工程(ステップS12)の焼成条件に関し、より好適な条件を電極膜のシート抵抗値に基づいて、実施例を挙げて説明する。図8は、電極膜12のX線回折スペクトルから得たピーク面積(2θ=33.56°)と、非酸化焼成工程における焼成温度(処理温度)との関係を示すグラフである。なお、同図に示す電極膜12は、これもまた、金属微粒子としてインジウム−錫合金、溶媒としてテトラデカンを用いて得たものである。なお、同図に示される「×」、「▲」、「●」、「◆」印は、それぞれ非酸化焼成工程における処理圧力(8Pa)と、当該非酸化焼成工程の後の酸化焼成工程の処理条件(常圧、250℃の下で1時間保持)とを同じくして、非酸化焼成工程における紫外線の照射状態、又は処理温度を変更して得られた結果を示す。詳しくは、
・「×」印は、処理温度を、25℃、75℃、125℃、150℃、175℃、225℃、275℃に変更して、同処理温度に到達後、速やかに降温させて得られた結果を示し、・「▲」印は、上記各処理温度にて、さらに紫外線を照射して得られた結果を示し、
・「●」印は、上記各処理温度にて、さらに1時間保持させて得られた結果を示し、
・「◆」印は、上記各処理温度にて、紫外線を照射しつつ1時間保持させて得られた結果を示す。
【0043】
また図9(a)〜(c)は、それぞれ図8にて「◆」印の条件の(a)〜(c)の各地点に対応する第1パターン(電極膜)の断面構造を示すTEMの断面像である。また図10は、各条件におけるピーク面積と第1パターン(電極膜)のシート抵抗値との関係を示したグラフであり、図11は、TEMの断面像等から計測した各条件における平均粒子径とシート抵抗値との関係を示したものである。
【0044】
図8に示されるように、非酸素焼成工程の開始時、つまり処理温度が25℃である状態では、いずれの条件のピーク面積も0に近い小さい値を示し(図8の(a)地点参照)、金属微粒子の融着による粒子径の拡大が進行していないことが認められた(図9(a)参照)。これは、金属微粒子の温度がインジウムの融点(約156℃)よりも十分に低い温度であるためと想定される。こうした状態の電極膜、つまり平均粒子径が吐出時と同じく10nm以下であって、ピーク面積が0に近い状態では、図10、図11にも示されるように、そのシート抵抗値が約107Ω/□と非常に高い値であることが認められた。これは、電極膜を構成する金属粒子の粒子径が小さいことから、結晶粒子内における電子伝導路も十分に確保できていないためと想定される。
【0045】
これに対して、非酸素焼成工程の処理温度が75℃を越えると、いずれの条件のピーク面積も急激な増大を示し(図8の(b)地点参照)、こうした温度以上で焼成が行われることにより、粒子径の拡大が急激に進行することが認められた(図9(b)参照)。こうした粒子径の拡大は、紫外線が照射されることにより顕著になり、保持時間(焼成時間)が1時間になることにより、さらに顕著になることが認められた。つまり、焼成時に紫外
線が照射される条件や焼成時間が1時間になる条件であれば、非酸素雰囲気下で単に昇温がなされる条件よりも、より粒子径の拡大が早期に実現可能になる(図9(b)参照)。これは、金属微粒子の融着反応が、反応律速の段階にあり、紫外線や加熱のような外部エネルギーの印加によって、さらに進行する段階にあるものと想定される。こうした焼成状態の電極膜、つまり平均粒子径が10nmよりも大きく、ピーク面積が数十〜数百になる状態では、図10、図11にも示されるように、そのシート抵抗値が約104Ω/□以下まで低下していることが認められた。これは、電極膜を構成する金属粒子の粒子径が、それの焼成開始時と比較して大きくなっていることから、結晶粒子内における電子伝導路も確保されるようになっているためと想定される。
【0046】
さらに、非酸素焼成工程の処理温度が150℃を越えると、いずれの条件のピーク面積も高い範囲で安定し(図8の(c)地点参照)、こうした温度以上で焼成が行われることにより、十分に大きいサイズの粒子径が得られることが認められた(図9(c)参照)。つまり、焼成時に紫外線が照射される条件や焼成時間が1時間になる条件は、処理温度が150℃以下になるときに、粒子径の拡大に有効的であり、処理温度がこれよりも高くなるときには、上述するような有効性が特に認められなかった。言い換えれば、焼成時に紫外線が照射される条件や焼成時間が1時間になる条件が適用されれば、処理温度の低温下が可能にもなる。こうした焼成状態の電極膜、つまり平均粒子径が40nm以上であって、ピーク面積が200以上になる状態では、図10、図11にも示されるように、そのシート抵抗値が約102Ω/□近くまで低下していることが認められた。
【0047】
なお、処理温度が230℃の条件と270℃の条件とにおいては、いずれもピーク面積に差異がなく、金属微粒子の十分な融着・結晶成長がなされている。ただし、減圧状態の下、270℃で非酸化焼成工程を実行した場合には、結晶成長が過度に進行してしまうためか電極膜の表面に凹凸が生じやすくなった。こうした凹凸が表面に形成されてしまうと、透明電極基板10に外力が作用したときにその凹凸部分に応力集中が生じ易くなり、透明電極基板10の機械的強度が低下してしまう虞がある。このことから、金属微粒子としてインジウム−錫合金を用いる場合にあっては、非酸化焼成工程の焼成温度を230℃とする、あるいは230℃まで昇温させ、その状態を1時間保持する焼成条件が好ましい。また電極膜12の平均粒子径としても、図11に示されるように、40nm〜80nmの範囲であることが好ましい。
【0048】
なお、ガラス基板11の上面11aに短冊状の電極膜12を形成する方法としては、上述した液体材料を上面11aの所定領域に塗布して非酸化焼成工程及び酸化焼成工程を実行したのち、その形成された酸化膜に対してレーザー加工を施して酸化膜の一部を除去することにより短冊状の電極膜12を形成する方法もある。しかしながら、こうした方法にあっては、酸化膜を除去する際にレーザー光がガラス基板11に照射されてしまうことで同ガラス基板11にダメージを与えてしまうことがある。これに対し、本実施形態では、ガラス基板11に電極膜12となる第1パターン15を形成し、そのガラス基板11を焼成するだけで短冊状の電極膜12が形成される。こうすることにより、短冊状の電極膜12を形成する際におけるガラス基板11へのダメージを低減することが可能であり、透明電極基板10の歩留まりを向上させることが可能になる。また、製造プロセスの簡素化が図られることから、透明電極基板10の生産効率を向上させることも可能である。
【0049】
以上説明したように本実施形態の透明電極基板及びその製造方法によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態によれば、インジウム−錫合金の金属微粒子を溶媒中に分散させた液体材料を用いて第1パターン15を形成し、この第1パターン15を非酸化焼成工程(ステップS12)及び第1酸化焼成工程(ステップS13)を実行して電極膜12を形成した。続いて、上記液体材料を用いて電極膜12の間を埋めるように第2パターン21を
形成し、第2酸化焼成工程を実行して電極間膜13を形成した。
【0050】
このようにして電極膜12及び電極間膜13を形成することにより、電極膜12における金属微粒子が融着してその平均粒子径が10nmよりも大きくなる一方、電極間膜13における平均粒子径が電極膜12よりも小さい10nm以下となる。こうすることにより、電極膜12は結晶粒子内の電子伝導路が長くなるため電気伝導性が高くなる一方、電極間膜13は結晶粒子内の電子伝導路が短くなるため電気伝導性が低くなる。電極膜12及び電極間膜13は、同じ金属酸化物から構成されているため、電極膜12と電極間膜13との境界は、その平均粒子径の差異からなる境界となる。そして、電極膜12の間を埋めるように電極間膜13を設けることで、電極膜12と電極間膜13との境界を挟む両側においては、誘電率の差異が大幅に抑制されることになり、光の屈折や反射といった光学的な現象が生じ難くなる。それゆえ、各電極膜12の輪郭を示す濃淡模様が視認し難くなることから、透明電極基板10の透明性を向上させることが可能になる。
【0051】
(2)上記実施形態によれば、電極膜12及び電極間膜13をその膜厚が等しくなる態様で形成した。すなわち、透明電極基板10の表面全体において平坦性が確保される態様で電極膜12及び電極間膜13を形成した。こうすることにより、透明電極基板10に機械的な外力が作用したとしても、その外力が電極膜12及び電極間膜13に分散されることとなり、透明電極基板10に応力集中が生じ難くなる。それゆえ、透明電極基板10の機械的強度を向上させることも可能になる。
【0052】
(3)また、透明電極基板10の表面全体において平坦性が確保されることにより、電極膜12の輪郭を示す濃淡模様がより視認し難くなり、透明性のさらなる向上が可能になる。
【0053】
(4)上記実施形態の非酸化焼成工程(ステップS12)のように、第1パターン15を減圧状態の下で230℃まで昇温させて1時間保持すれば、導電膜としての電極膜12のシート抵抗値を100〜300Ω/□、絶縁膜としての電極間膜13のシート抵抗値を7MΩ/□とすることもできる。こうすることにより、電極膜12を導電膜として確実に機能させることが可能であるとともに、電極間膜13を絶縁膜として確実に機能させることが可能である。
【0054】
(5)上記実施形態によれば、電極膜12における平均粒子径を40nm〜80nmにすることによって、電極膜12の良好な導電性を得つつ、透明電極基板10の表面の平坦性を確実に得ることが可能である。
【0055】
(6)上記実施形態によれば、第1パターン15が形成されたガラス基板11に対して、非酸化焼成工程(ステップS12)及び第1酸化焼成工程(ステップS13)を実行するだけで短冊状の複数の電極膜12からなる透明電極が形成される。
【0056】
こうすることにより、ガラス基板11の上面11aの略全領域に酸化膜を形成したのちにレーザー加工などを施すことにより短冊状の複数の電極膜を形成する場合に比べて、短冊状の複数の電極膜を形成する上でのガラス基板11に対するダメージを低減することが可能である。それゆえ透明電極基板10の歩留まりを向上させることが可能である。
【0057】
(7)また、短冊状の複数の電極膜12を形成する上での製造工程の簡素化が図られることから、透明電極基板10の生産効率を向上させることも可能である。
(8)上記実施形態のような透明電極基板10を例えばタッチパネルに適用することにより、透明性及び機械的強度に優れたタッチパネルを得ることが可能になり、タッチパネルの品位を向上させることが可能である。
【0058】
なお、上記実施形態は以下のように変更して実施することもできる。
・上記実施形態では、第1パターン15を形成して非酸化焼成工程(ステップS12)を実行して第1酸化焼成工程(ステップS13)を実行することにより電極膜12を形成した。これに限らず、非酸化焼成工程が実行された第1パターン15を酸素含有雰囲気で焼成する上では、非酸化焼成工程後に第1酸化焼成工程を実行せずに第2パターン21を形成し、第2酸化焼成工程(ステップS15)を実行することにより第1パターン15を酸素含有雰囲気で焼成するようにしてもよい。すなわち、第1酸化焼成工程を省略してもよい。
【0059】
・上記実施形態では、液体材料としてナノ粒子からなる金属微粒子を溶媒中に分散させたものを用いた。これに限らず、液体材料としては、溶媒中にアセチルアセトンインジウムとアセチルアセトン錫とを混合させた混合液や、蟻酸インジウムと錫−t−ブキシドを混合させた混合液など、有機系化合物から構成されるものであってもよい。なお、このときの溶媒としては、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルアセトアミド、N−メチルーピロリドン、γブチルラクトン、アセチルアセトンなどの極性溶媒を用いることができる。
【0060】
このときの非酸化焼成工程の焼成条件としては、常圧、不活性ガス雰囲気(例えばN2ガス雰囲気)、350℃の下で30分間焼成したのち、常圧、還元性ガス雰囲気(例えばH2(1%)/N2ガス雰囲気)、350℃の下で1時間焼成することが好ましい。また酸化焼成工程の焼成条件としては、大気雰囲気、350℃の下で30分間焼成したのち、常圧、還元性ガス雰囲気(例えばH2(1%)/N2ガス雰囲気)、350℃の下で1時間焼成することが好ましい。なお、こうした有機系化合物から液体材料を構成した場合には、非酸化焼成工程(ステップS12)において有機物の熱分解時に有機系化合物が酸化物へと変換されることが多い場合がある。こうした場合には、第1酸化焼成工程(ステップS13)を省略してもよい。
【0061】
・上記実施形態の非酸化焼成工程(ステップS12)では、非酸素含有雰囲気として減圧雰囲気の下で第1パターン15を焼成した。これに限らず、非酸素含有雰囲気の下で第1パターン15を焼成するのであれば、不活性ガス雰囲気(例えば、N2ガスやArガス雰囲気)や還元性ガス雰囲気(例えばH2(1%)/N2ガス雰囲気)、還元性ラジカル雰囲気であってもよい。ただし、分散剤の還元反応により金属微粒子から酸化被膜の酸素を脱離させる上では、還元性雰囲気あるいは還元性ラジカル雰囲気の方が好ましい。このときの好ましい焼成条件としては、例えば還元性雰囲気(H2(1%)/N2ガス雰囲気)にて第1パターン15を350℃で1時間保持することが好ましい。
【0062】
・第1パターン15及び第2パターン21を形成する方法は、インクジェット法に限らず、上述した液体材料を用いて所定のパターンに形成するのであれば、例えばスクリーン印刷法、グラビア印刷法などを用いてもよい。
【0063】
・上記実施形態では、第1及び第2酸化焼成工程(ステップS13,S15)の焼成条件を大気雰囲気の下で第1及び第2パターン15,21を250℃で1時間保持することとしたが、常圧・酸素含有雰囲気の下で第1及び第2パターン15,21を焼成するのであれば、焼成条件はこれに限られない。
【0064】
・上記実施形態では、透明電極基板10の適用例としてタッチパネルに具体化する場合を想定し、電極膜12のシート抵抗値が300Ω/□以下、電極間膜13のシート抵抗値が7MΩ/□となる平均粒子径を選択するようにした。これに限らず、透明電極基板10の用途に合わせて、選択する平均粒子径を適宜変更してもよい。また、こうした変更にあわせて、非酸化焼成工程(ステップS12)の焼成条件を適宜変更してもよい。
【0065】
・上記実施形態では、短冊状に形成された複数の電極膜12を有する透明電極基板10に具体化したが、透明電極基板としては、導電性を有する透明な電極膜を有していればよく、電極膜12のパターンは短冊状に限られない。また、透明電極基板としては、例えば、電極膜12及び電極間膜13が形成された透明電極基板10に透明な誘電体層を積層し、その誘電体層に積層されるかたちでさらに電極膜及び電極間膜が形成される透明電極基板であってもよい。
【0066】
・上記実施形態では、電極膜12と電極間膜13との膜厚が等しくなるように形成した。これに限らず、予め定めた設計ルールに基づいて形成された複数の電極膜12の間に、電極間膜13がその間を埋めるように形成されているならば、電極膜12及び電極間膜13の膜厚は等しくなくてもよい。こうした構成であっても、電極間膜13が形成されている分だけ電極膜12の輪郭を視認し難くなり透明電極基板10の透明性を向上させることが可能である。
【0067】
・上記実施形態では、基板本体を矩形状のガラス基板11とした。これに限らず、基板本体の形状は、矩形状でなくてもよい。また、基板本体は、絶縁性を有する透明なものであればよくガラス基板11の他に、例えばポリエチレンテレフタラート等のプラスチック基板を用いてもよい。
【符号の説明】
【0068】
10…透明電極基板、11…ガラス基板、11a…上面、12…電極膜、13…電極間膜、15…第1パターン、17…液滴吐出ヘッド、19…液滴、21…第2パターン。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
該基板の電極形成面に敷設された電極と
を備える電極基板であって、
前記電極は、
相互に離間した複数の電極領域に形成された金属酸化物と、当該電極領域の間の電極間領域に形成された金属酸化物とからなり、
前記電極領域に形成された前記金属酸化物の結晶粒子の平均粒子径が10nmよりも大きく、かつ、前記電極間領域に形成された前記金属酸化物の結晶粒子の平均粒子径が10nm以下である
ことを特徴とする電極基板。
【請求項2】
前記電極領域における結晶粒子の平均粒子径が40nm〜80nmである
請求項1に記載の電極基板。
【請求項3】
前記電極領域における膜厚と前記電極間領域における膜厚とが等しい
請求項1または2に記載の電極基板。
【請求項4】
前記電極領域におけるシート抵抗値が100〜300Ω/□であり、
前記電極間領域におけるシート抵抗値が5MΩ/□以上である
請求項1〜3のいずれか一項に記載の電極基板。
【請求項5】
金属微粒子が溶媒中に分散された液体材料からなる液状膜が基板の電極形成面に形成され、当該液状膜が酸化されることにより金属酸化物の結晶粒子膜である電極が前記電極形成面に形成されてなる電極基板の製造方法において、
相互に離間した複数の電極領域に形成される前記液状膜を酸素を含有しない雰囲気にて焼成する工程を有する
ことを特徴とする電極基板の製造方法。
【請求項6】
前記液体材料の前記電極形成面への吐出により前記電極領域に前記液状膜を形成する工程と、
前記酸素を含有しない雰囲気にて前記電極領域に形成された前記液状膜を焼成する工程と、
前記電極領域の間の電極間領域に前記液体材料を吐出し液状膜を形成する工程と、
前記電極間領域に形成された前記液状膜と、前記焼成された前記液状膜とを酸化する工程と
を備えたことを特徴とする請求項5に記載の電極基板の製造方法。
【請求項1】
基板と、
該基板の電極形成面に敷設された電極と
を備える電極基板であって、
前記電極は、
相互に離間した複数の電極領域に形成された金属酸化物と、当該電極領域の間の電極間領域に形成された金属酸化物とからなり、
前記電極領域に形成された前記金属酸化物の結晶粒子の平均粒子径が10nmよりも大きく、かつ、前記電極間領域に形成された前記金属酸化物の結晶粒子の平均粒子径が10nm以下である
ことを特徴とする電極基板。
【請求項2】
前記電極領域における結晶粒子の平均粒子径が40nm〜80nmである
請求項1に記載の電極基板。
【請求項3】
前記電極領域における膜厚と前記電極間領域における膜厚とが等しい
請求項1または2に記載の電極基板。
【請求項4】
前記電極領域におけるシート抵抗値が100〜300Ω/□であり、
前記電極間領域におけるシート抵抗値が5MΩ/□以上である
請求項1〜3のいずれか一項に記載の電極基板。
【請求項5】
金属微粒子が溶媒中に分散された液体材料からなる液状膜が基板の電極形成面に形成され、当該液状膜が酸化されることにより金属酸化物の結晶粒子膜である電極が前記電極形成面に形成されてなる電極基板の製造方法において、
相互に離間した複数の電極領域に形成される前記液状膜を酸素を含有しない雰囲気にて焼成する工程を有する
ことを特徴とする電極基板の製造方法。
【請求項6】
前記液体材料の前記電極形成面への吐出により前記電極領域に前記液状膜を形成する工程と、
前記酸素を含有しない雰囲気にて前記電極領域に形成された前記液状膜を焼成する工程と、
前記電極領域の間の電極間領域に前記液体材料を吐出し液状膜を形成する工程と、
前記電極間領域に形成された前記液状膜と、前記焼成された前記液状膜とを酸化する工程と
を備えたことを特徴とする請求項5に記載の電極基板の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図4】
【図6】
【図9】
【図2】
【図3】
【図5】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図4】
【図6】
【図9】
【公開番号】特開2010−257798(P2010−257798A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107133(P2009−107133)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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