説明

電極成形装置及び電極成形方法

【課題】信頼性に優れる電極を製造可能な電極成形装置を提供すること。
【解決手段】電極活物質及びバインダを含有する複合粒子を供給するための供給部10と、前記供給部10から供給された前記複合粒子12をシート状に成形し、シート状の電極成形体200を形成する電極成形部と、を備え、前記供給部10が、前記供給部10から供給するための複合粒子12に含有される磁性異物を除去するための磁気フィルタ14を有していることを特徴とする電極成形装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極成形装置及び電極成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型で軽量であり、エネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能な特性を活かして、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ及びリチウムイオンキャパシタなどの電気化学素子は、その需要を急速に拡大している。リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が比較的大きいことから、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータなどのモバイル分野で利用されている。一方、電気二重層キャパシタは急速な充放電が可能なので、パーソナルコンピュータ等のメモリーバックアップ小型電源として利用されている他、電気二重層キャパシタは電気自動車等の補助電源としての応用が期待されている。さらに、リチウムイオン二次電池と電気二重層キャパシタの長所を生かしたリチウムイオンキャパシタは、電気二重層キャパシタよりエネルギー密度、出力密度ともに高いことから電気二重層キャパシタが適用される用途、および電気二重層キャパシタの性能では仕様を満たせなかった用途への適用が検討されている。これらのうち、特に、リチウムイオン二次電池では近年ハイブリッド電気自動車、電気自動車などの車載用途のみならず、電力貯蔵用途にまでその応用が検討されている。
【0003】
これら電気化学素子への期待が高まる一方で、これら電気化学素子には、用途の拡大や発展に伴い、低抵抗化、高容量化、機械的特性や生産性の向上など、より一層の改善が求められている。このような状況において、電気化学素子用電極に関してもより生産性の高い製造方法が求められており、高速成形可能な製造方法及び該製造方法に適合する電気化学素子用電極用材料について様々な改善が行われている。
【0004】
電気化学素子用電極は、通常、電極活物質と、必要に応じて用いられる導電材とをバインダで結着することにより形成された電極活物質層(電極合材層)を集電体上に積層してなるものである。このような電極活物質層を形成する方法として、特許文献1には、電極活物質、ゴム粒子及び分散媒としての水を含む水系スラリーを得て、得られた水系スラリーを噴霧乾燥することにより粒子状の電極材料を得て、得られた電極材料を用いて電極活物質層(電極合材層)を形成する方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、電極活物質、ゴム粒子及び分散媒としての水を混合して水系スラリーを得る工程や、水系スラリーを噴霧乾燥して粒子状の電極材料を得る工程などにおいて、得られる水系スラリーや粒子状の電極材料に、ステンレス(Fe,Cr,Ni)等に由来する磁性異物が混入する場合がある。そして、このような磁性異物は、電気化学素子中において、内部短絡の原因や性能劣化の原因となるため、電気化学素子の内部短絡や性能劣化を抑制する上で、製造工程中における磁性異物の管理は非常に重要な要素となっている。
【0006】
これに対し、たとえば、特許文献2では、電池用極板材料を搬送するための搬送配管の摩耗による金属粉などの磁性異物の発生を防止するために、電池用極板の製造装置において、製造装置の各工程を接続し、電池用極板材料を搬送するための搬送配管の内壁をセラミック材料によりコ−ティングする技術が開示されている。しかしながら、この特許文献2に記載の方法では、製造装置の製造やメンテナンスに係るコストが高くなってしまうという問題があることに加えて、原料の段階で混入した磁性異物については取り除くことができないという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4219705号公報
【特許文献2】特開2006−294289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、信頼性に優れる電極を製造可能な電極成形装置及び電極成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、電極活物質及びバインダを含有する複合粒子をシート状に成形するための電極成形手段に、複合粒子を供給する際に、該複合粒子を磁気フィルタを通過させた後に電極成形手段に供給することで、得られる電気化学素子の信頼性の向上、および電極成形工程における生産性の向上が達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、電極活物質及びバインダを含有する複合粒子を供給するための供給部と、前記供給部から供給された前記複合粒子をシート状に成形し、シート状の電極成形体を形成する電極成形部と、を備え、前記供給部が、前記供給部から供給するための複合粒子に含有される磁性異物を除去するための磁気フィルタを有していることを特徴とする電極成形装置が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、電極活物質及びバインダを含有する複合粒子を、シート状に成形して電極成形体を製造する方法であって、前記複合粒子を成形手段に供給する供給工程と、前記成形手段により、前記成形手段に供給された前記複合粒子をシート状に成形し、シート状の電極成形体を得るシート化工程と、を備え前記供給工程において、前記複合粒子を磁気フィルタを通過させた後に前記成形手段に供給することで、前記複合粒子に含有される磁性異物を除去することを特徴とする電極成形方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電極活物質及びバインダを含有する複合粒子をシート状に成形するための電極成形手段に、複合粒子を供給する際に、該複合粒子を磁気フィルタを通過させた後に電極成形手段に供給することで、複合粒子への磁性異物の混入に起因する電気化学素子の内部短絡を抑制し、信頼性を向上することができる。
また、本発明によれば、前記複合粒子に含有される磁性異物を除去することで磁性異物の混入による電極成形工程における集電体の破断等の製造上の工程不良を抑制し、電極成形工程の生産性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る電極成形装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る電極成形装置及び電極成形方法について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る電極成形装置2の概略を示す図である。
【0015】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る電極成形装置2は、水平かつ平行に配列された一対のロール6A,6Bからなるプレ成形ロール6、プレ成形ロール6の下方に水平かつ平行に配列された一対のロール8A,8Bからなる成形ロール8を備え、電極用複合粒子12が、プレ成形ロール6と仕切板10によりプレ成形ロール6の上部に形成された粒子供給部内に貯蔵されるようになっている。なお、電極用複合粒子12の詳細について後述する。
【0016】
そして、電極成形装置2においては、まず、プレ成形ロール6を構成する一対のロール6A,6Bが、それぞれ図1に示す矢印方向へ回転することにより電極用複合粒子12を咬み込み、電極用複合粒子12を集電体300の両面又は片面に予備的に圧縮する。そして、これにより一対のロール6A,6B間を通過した集電体300の両面もしくは片面に、電極用複合粒子12が予備圧縮され、電極用複合粒子12からなるシート状のプレ成形体16が成形され、これにより、シート状のプレ成形体16が集電体300の両面又は片面に形成されたプレ電極積層体20が形成される。なお、集電体300としては、導電材とバインダとを含有するスラリーを塗布することにより、その表面に、予め導電性接着剤層を形成したものを用いてもよい。
【0017】
ここで、プレ成形ロール6により、シート状のプレ成形体16を形成する際には、シート状のプレ成形体16の密度を、圧縮する前の電極用複合粒子12の嵩密度の130%〜300%となるように圧縮することが好ましく、特に、150%程度となるように圧縮することが好ましい。たとえば、電極用複合粒子12の嵩密度が0.45g/ccである場合には、プレ成形ロール6により圧縮された後のシート状のプレ成形体16の密度は0.75g/ccとなり、また、後述する成形ロール8により圧縮された後の電極合材層200の密度は、1.5g/ccとなる。
【0018】
そして、プレ成形ロール6を構成する一対のロール6A,6Bにより、電極用複合粒子12を圧縮することにより得られたプレ電極積層体20は、成形ロール8側に送られ、成形ロール8を構成する一対のロール8A,8Bが、図1に示す矢印方向へ回転することにより、プレ電極積層体20を構成するシート状のプレ成形体16がさらに圧縮される。そして、これにより一対のロール8A,8Bによって、プレ電極20を構成するシート状のプレ成形体16が圧縮され、集電体300の両面又は片面に、電極合材層200が形成された電気化学素子用電極100を製造することができる。
尚、前記の、複合粒子12を圧縮することにより得られたプレ成形体16およびプレ電極積層体20、それらをさらに圧縮して得られる電極合材層200および電気化学素子用電極100、などが本発明における「電極成形体」である。
【0019】
成形ロール8により、シート状のプレ成形体16をさらに圧縮し、電極合材層200を形成する際における圧力は、特に限定されず、圧縮後の電極合材層200の密度が、圧縮前のシート状のプレ成形体16の密度よりも高くなるような圧力とすればよい。具体的には、成形ロール8により圧縮する際の圧力を、プレ成形ロール6による圧力よりも高い圧力とすることが好ましく、成形ロール8により圧縮する際の線圧を、好ましくは150〜1000kN/mの範囲、より好ましくは250〜800kN/m、さらに好ましくは300〜500kN/mとする。
【0020】
また、図1に示すように、本発明の一実施形態に係る電極成形装置2においては、電極用複合粒子12が貯蔵される粒子供給部には、電極用複合粒子12を供給するための供給口に、磁気フィルタ14が設けられている。そのため、粒子供給部に貯蔵される電極用複合粒子12は、磁気フィルタ14を通過して粒子供給部に供給されることとなるため、粒子供給部に貯蔵される電極用複合粒子12に、磁性異物が含有されている場合に、このような磁性異物を磁気フィルタ14の作用により取り除くことができる。そのため、粒子供給部に貯蔵される電極用複合粒子12を、磁性異物を実質的に含有しないものとすることができ、磁性異物を実質的に含有しない状態で、プレ成形ロール6を構成する一対のロール6A,6Bに送ることができる。そして、その結果として、プレ成形ロール6により圧縮して得られるシート状のプレ成形体16、さらには、成形ロール8により圧縮して得られる電極合材層200中に磁性異物が含有されてしまうことを適切に防止することができる。
尚、複合粒子に磁性異物が含有されている状態とは、複合粒子の集合体(粉体)の中に磁性異物が含有されていることを意味し、複合粒子中において活物質やバインダで包囲(一部包囲されている場合も含む)された空隙中に磁性異物が存在している場合、複合粒子を形成する活物質やバインダのそれぞれの表面や表面近傍などに磁性異物が付着等により存在している場合、複合粒子とは別個に複合粒子の粉体中に磁性異物が混入している場合、など、本発明における磁気フィルタで補集可能な全ての状態を含む。
また、プレ成形ロール6への粒子供給部において、磁気フィルタ14通過後からプレ成形ロール6までの区間の粒子供給部の材質がSUS等の金属である場合には、磁気フィルタ14通過後の金属磨耗による磁性異物の再混入を抑制するため、電極用複合粒子12が接触する部位の金属表面を樹脂もしくはセラミック材料等でコーティングすることが好ましい。
【0021】
磁気フィルタ14は、電極用複合粒子12に混入する可能性のある磁性異物を捕集できる磁束密度の磁場を形成すればよいが、磁束密度としては好ましくは200ガウス以上、より好ましくは400ガウス以上、さらに好ましくは1000ガウス以上とする。なお、上限は特に限定されないが、通常、電極活物質等の、異物ではない材料が捕集される磁束密度よりも100ガウス以上低い磁束密度以下である。磁気フィルタ14から放たれる磁束密度を上記範囲とすることにより、電極用複合粒子12に、磁性異物が含有されている場合に、磁性異物を適切に吸着除去することができる。
【0022】
なお、磁気フィルタ14により除去する磁性異物としては、特に限定されないが、鉄粉、ステンレス粉などが代表的に挙げられる。上記した磁性異物は、磨耗等、異物の発生の仕方によって様々な態様の粒状の形態を示し、鋭利な角を有する粒子も存在する。磁性異物の除去を実施しない場合、複合粒子12に上記した鋭角を有する磁性異物粒子が混入すると電気化学素子用電極に異物が混入することはもとより、プレ成形ロール6によって電極用複合粒子12を圧縮してプレ成形体16を形成する時点、および成形ロール8によってプレ成形体16をさらに圧縮して電極合材層200を形成する時点において磁性異物粒子の鋭角部が集電体300を傷つけ破断させるおそれがある。集電体の破断は電極成形工程における工程不良となり、電気化学素子用電極の生産上好ましくない。従って、磁気フィルタ14の設置による磁性異物の除去は、電気化学素子用電極への異物混入の抑制という観点だけでなく、電極成形工程における生産性の向上という観点においても効果的である。
【0023】
また、図1に示す電極成形装置2の例においては、電極用複合粒子12を供給するための供給口に、磁気フィルタ14を形成する態様を例示したが、たとえば、磁気フィルタ14を、粒子供給部内(たとえば、粒子供給部の深さ方向真ん中の位置など)に設け、粒子供給部に貯蔵された電極用複合粒子12が、ロール6側に移動する途中に、磁気フィルタ14を通過するような構成としてもよい。あるいは、図1に示す例においては、粒子供給部に貯蔵された電極用複合粒子12が、粒子供給部から、直接、プレ成形ロール6に供給されるような構成としたが、粒子供給部と、プレ成形ロール6との間に磁気フィルタ14を設け、粒子供給部に貯蔵された電極用複合粒子12が、粒子供給部から、磁気フィルタ14を通過した後に、プレ成形ロール6に供給されるような構成としてもよい。また、磁気フィルタ14は、これらのうち複数個所に設けてもよく、この場合には、複数個所に設けた複数の磁気フィルタ14から放たれる磁束密度は同じとしてもよし、あるいは、異なる大きさとしてもよい。
【0024】
なお、電極成形装置2において、プレ成形ロール6、成形ロール8は電極用複合粒子12の種類、性質に応じて冷却、加温等の温度調節を行うことができる温度調節機構を備えていてもよく、温度調節機構としては、ロール6A,6B、ロール8A,8Bの内部に配置された熱媒を使用する方法、直接伝熱線等で加温する方法等が挙げられる。
【0025】
また、プレ成形ロール6を構成する一対のロール6A,6B、及び成形ロール8を構成する一対のロール8A,8Bはそれぞれモータ等により駆動されることにより回転するが、ロール6A,6B、及びロール8A,8Bの回転速度はそれぞれ自在に変更することができる。また、ロール6A,6B、ロール8A,8Bをそれぞれ同一の速度で回転させてもよいし、異なる速度で回転させてもよい。異なる速度で回転させる場合には、電極用複合粒子12や、シート状のプレ成形体16に対して、せん断力を加えながら圧縮を行うことができる。
【0026】
プレ成形ロール6により、電極用複合粒子12を圧縮する際において、プレ成形ロール6を構成する一対のロール6A,6Bのロール径が小さくなるほど、電極用複合粒子12の咬み込み量を小さくすることができ、シート状のプレ成形体16及び最終的に得られる電極合材層200の厚みを小さくすることができる。一方、プレ成形ロール6を構成する一対のロール6A,6Bのロール径が小さすぎると電極用複合粒子12を圧縮する際にロールのゆがみ等が生じることにより、シート状のプレ成形体16の厚みにバラツキが生じるおそれがある。
【0027】
ここで、ロールニップ点(一対のロール6A,6B間の間隙が最も狭くなる点)近傍のロールの周速度と電極用複合粒子12の移動速度とが同じになる点をP点というが、坪量が決定されるP点から電極用複合粒子12の出口(プレ成形ロール6のロール6A及び6Bの下部)までの間が電極用複合粒子12で満たされていないと、シート状のプレ成形体16を成形する際に電極用複合粒子12の流動・凝集によって、まだら模様やスジが生じる場合がある。また、ロール6A,6Bの回転速度が一定である場合にはロール径が小さいほどP点は下がる。従って、ロール径を小さくすることによりP点と電極用複合粒子12の出口までの間の容量を小さくすることができ、また、シート状のプレ成形体16の成形の際に粉体の流動・凝集を抑えることができるため、最終的に得られる電極合材層200を薄膜とすることができる。
【0028】
そのため、このような点を考慮し、プレ成形ロール6を構成する一対のロール6A,6Bのロール径は、好ましく10〜500mm、より好ましくは10〜250mm、さらに好ましくは10〜150mmである。
【0029】
また、成形ロール8を構成する一対のロール8A,8Bのロール径は、シート状のプレ成形体16を圧縮する際における圧力が、プレ成形ロール6による圧力よりも大きくなるように、プレ成形ロール6を構成する一対のロール6A,6Bのロール径よりも大きなものとすればよいが、そのロール径は、好ましくは50〜1000mm、より好ましくは100〜500mmである。
【0030】
(電極用複合粒子)
次いで、上述した電極成形装置2により、圧縮され、シート状のプレ成形体16及び電極合材層200を形成することとなる電極用複合粒子について説明する。
本発明に用いる電極用複合粒子は、電極活物質及びバインダを含み、必要に応じてその他の分散剤、導電材および添加剤を含んでもよい。
【0031】
本発明で用いる電極活物質は、製造される電気化学素子用電極の種類によって適宜選択される。たとえば、製造される電気化学用素子用電極が、リチウムイオン二次電池用の正極である場合、正極活物質としては、リチウムイオンを可逆的にドープ・脱ドープ可能な金属酸化物が挙げられる。かかる金属酸化物としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、燐酸鉄リチウム、燐酸マンガンリチウム、燐酸バナジウムリチウム、バナジン酸鉄リチウム、ニッケル− マンガン− コバルト酸リチウム、ニッケル− コバルト酸リチウム、ニッケル− マンガン酸リチウム、鉄− マンガン酸リチウム、鉄−マンガン− コバルト酸リチウム、珪酸鉄リチウム、珪酸鉄− マンガンリチウム、酸化バナジウム、バナジン酸銅、酸化ニオブ、硫化チタン、酸化モリブデン、硫化モリブデン、等を挙げることができる。なお、上記にて例示した正極活物質は適宜用途に応じて単独で使用してもよく、複数種混合して使用してもよい。さらに、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン、ポリキノンなどのポリマーが挙げられる。これらのうち、リチウム含有金属酸化物を用いることが好ましい。
ここで、本発明においてドープとは、吸蔵、担持、吸着または挿入を意味し、正極にリチウムイオンおよび/ 又はアニオンが入る現象、あるいは負極にリチウムイオンが入る現象と定義する。また、脱ドープとは、放出、脱着、脱離をも意味し、上記ドープの逆の現象をいうものと定義する。
【0032】
また、製造される電気化学用素子用電極が、上述したリチウムイオン二次電池用の正極の対極としての負極である場合には、負極活物質としては、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素、活性炭、熱分解炭素などの低結晶性炭素(非晶質炭素)、グラファイト(天然黒鉛、人造黒鉛)、カーボンナノウォール、カーボンナノチューブ、あるいはこれら物理的性質の異なる炭素の複合化炭素材料、錫やケイ素等の合金系材料、ケイ素酸化物、錫酸化物、バナジウム酸化物、チタン酸リチウム等の酸化物、ポリアセン等が挙げられる。なお、上記に例示した電極活物質は適宜用途に応じて単独で使用してもよく、複数種混合して使用してもよい。
【0033】
リチウムイオン二次電池電極用の電極活物質の形状は、粒状に整粒されたものが好ましい。粒子の形状が球形であると、電極成形時により高密度な電極が形成できる。また、リチウムイオン二次電池用の正極活物質及び負極活物質の体積平均粒子径は、正極、負極ともに通常0.1〜100μm、好ましくは0.5〜50μm、より好ましくは0.8〜20μmである。さらに、リチウムイオン二次電池用の正極活物質及び負極活物質のタップ密度は、特に制限されないが、正極では2g/cm以上、負極では0.6g/cm以上のものが好適に用いられる。
【0034】
あるいは、製造される電気化学用素子用電極が、リチウムイオンキャパシタの正極である場合、正極用活物質としては、アニオン及び/又はカチオンを可逆的にドープ・脱ドープ可能な活性炭、ポリアセン系有機半導体(PAS)、カーボンナノチューブ、カーボンウィスカー、グラファイト等が挙げられる。これらのなかでも、活性炭、カーボンナノチューブが好ましい。
【0035】
また、製造される電気化学用素子用電極が、上述したリチウムイオンキャパシタの正極の対極としての負極である場合には、負極活物質としては、リチウムイオン二次電池用の負極活物質として例示した材料をいずれも使用することができる。
【0036】
リチウムイオンキャパシタ用の正極活物質及び負極活物質の体積平均粒子径は、通常0.1〜100μm、好ましくは0.5〜50μm、更に好ましくは0.8〜20μmである。また、リチウムイオンキャパシタ用の正極活物質として活性炭を用いる場合、活性炭の比表面積は、30m/g以上、好ましくは500〜3,000m/g、より好ましくは1,500〜2,600m/gである。比表面積が約2,000m/gまでは比表面積が大きくなるほど活性炭の単位重量あたりの静電容量は増加する傾向にあるが、それ以降は静電容量は然程増加せず、かえって電極合材層の密度が低下し、静電容量密度が低下する傾向にある。また、活性炭が有する細孔のサイズは電解質イオンのサイズに適合していることがリチウムイオンキャパシタとしての特徴である急速充放電特性の面で好ましい。従って、電極活物質を適宜選択することで、所望の容量密度、入出力特性を有する電極合材層を得ることができる。
【0037】
また、製造される電気化学用素子用電極が、電気二重層キャパシタ用の正極又は負極である場合には、正極活物質及び負極活物質としては、上述したリチウムイオンキャパシタ用の正極活物質として例示された材料をいずれも使用することができる。
【0038】
(バインダ)
本発明で用いるバインダとしては、上述した電極活物質を相互に結着させることができる化合物であれば特に制限はないが、本発明においては、溶媒に分散する性質を有する分散型のバインダが好ましい。分散型のバインダとしては、たとえば、シリコン系重合体、フッ素含有重合体、共役ジエン系重合体、アクリレート系重合体、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン等の高分子化合物が挙げられ、これらのなかでもフッ素系含有重合体、共役ジエン系重合体及びアクリレート系重合体が好ましく、共役ジエン系重合体及びアクリレート系重合体がより好ましい。
【0039】
共役ジエン系重合体は、共役ジエンの単独重合体もしくは共役ジエンを含む単量体混合物を重合して得られる共重合体、又はそれらの水素添加物である。前記単量体混合物における共役ジエンの割合は、通常40重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上である。共役ジエン系重合体の具体例としては、ポリブタジエンやポリイソプレンなどの共役ジエン単独重合体;カルボキシ変性されていてもよいスチレン・ブタジエン共重合体(SBR)などの芳香族ビニル・共役ジエン共重合体;アクリロニトリル・ブタジエン共重合体(NBR)などのシアン化ビニル・共役ジエン共重合体;水素化SBR、水素化NBR等が挙げられる。
【0040】
アクリレート系重合体は、一般式(1):CH=CR−COOR(式中、Rは水素原子又はメチル基を、Rはアルキル基又はシクロアルキル基を表す。Rはさらにエーテル基、水酸基、カルボン酸基、フッ素基、リン酸基、エポキシ基、アミノ基を有していてもよい。)で表される化合物由来の単量体単位を含む重合体、具体的には、一般式(1)で表される化合物の単独重合体、又は前記一般式(1)で表される化合物を含む単量体混合物を重合して得られる共重合体である。一般式(1)で表される化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソボニル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、及び(メタ)アクリル酸トリデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシジプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等のエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸等のカルボン酸含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸パーフロロオクチルエチル等のフッ素基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸リン酸エチル等のリン酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル;等が挙げられる。
【0041】
これら(メタ)アクリル酸エステルは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、及び(メタ)アクリル酸n―ブチルやアルキル基の炭素数が6〜12である(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましい。これらを選択することにより、電解液に対する膨潤性の低くすることが可能となり、サイクル特性を向上させることができる。
さらに、アクリレート系重合体は、たとえば、2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類、芳香族ビニル系単量体、アミド系単量体、オレフィン類、ジエン系単量体、ビニルケトン類、複素環含有ビニル化合物などの、共重合可能な単量体を共重合することもできる。また、α,β−不飽和ニトリル化合物や酸成分を有するビニル化合物を共重合することもできる。
【0042】
アクリレート系重合体中における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有割合は、好ましくは50〜95重量%であり、より好ましくは60〜90重量%である。(メタ)アクリル酸エステル単位の含有割合を上記範囲とすることにより、本発明の電気化学素子用電極の柔軟性を向上させることができ、割れに対する耐性を高いものとすることができる。
【0043】
また、アクリレート系重合体としては、上述した(メタ)アクリル酸エステルと、これと共重合可能な単量体との共重合体であってもよく、このような共重合可能な単量体としては、たとえば、α,β−不飽和ニトリル化合物、酸成分を有するビニル化合物などが挙げられる。
【0044】
α,β−不飽和ニトリル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。
【0045】
アクリレート系重合体中におけるα,β−不飽和ニトリル化合物単位の含有割合は、通常0.1〜40重量%、好ましくは0.5〜30重量%、より好ましくは1〜20重量部の範囲である。α,β−不飽和ニトリル化合物単位の含有割合を上記範囲とすることにより、バインダとしての結着力をより高めることができる。
【0046】
また、酸成分を有するビニル化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸が好ましく、メタクリル酸、イタコン酸がより好ましく、特に、メタクリル酸とイタコン酸とを併用して用いることが好ましい。
【0047】
アクリレート系重合体における酸成分を有するビニル化合物単位の含有割合は、好ましくは1〜10重量%であり、より好ましくは1.5〜5.0重量%である。酸成分を有するビニル化合物単位の含有割合を上記範囲とすることにより、スラリーとした際における安定性を向上させることができる。
【0048】
さらに、アクリレート系重合体としては、上述した各単量体と共重合可能な他の単量体を共重合したものであってもよく、このような他の単量体としては、たとえば、2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類、芳香族ビニル系単量体、アミド系単量体、オレフィン類、ジエン系単量体、ビニルケトン類、複素環含有ビニル化合物などが挙げられる。
【0049】
本発明で用いる分散型のバインダの形状は、特に制限はないが、粒子状であることが好ましい。粒子状であることにより、結着性が良く、また、作製した電極の容量の低下や充放電の繰り返しによる劣化を抑えることができる。粒子状のバインダとしては、例えば、ラテックスのごときバインダの粒子が水に分散した状態のものや、このような分散液を乾燥して得られる粒子状のものが挙げられる。
【0050】
本発明で用いる分散型のバインダの体積平均粒子径は、好ましくは0.001〜100μm、より好ましくは10〜1000nm、さらに好ましくは50〜500nmである。本発明で用いる分散型のバインダ粒子の平均粒子径を上記範囲とすることにより、スラリーとした際における安定性を良好なものとしながら、本発明の電気化学素子用電極としての強度及び柔軟性が良好となる。
【0051】
バインダの含有量は、電極活物質100重量部に対して、乾燥重量基準で通常は0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜20重量部、より好ましくは1〜15重量部である。バインダの含有量がこの範囲にあると、電極合材層と集電体との密着性が充分に確保でき、かつ、内部抵抗を低くすることができる。
【0052】
また、電極用複合粒子には、電極活物質及びバインダに加えて、必要に応じて、導電材や分散剤を含有させてもよい。
【0053】
導電材としては、導電性を有する粒子状の材料であればよく、導電材の具体例としては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、及びケッチェンブラック(アクゾノーベル ケミカルズ ベスローテン フェンノートシャップ社の登録商標)などの導電性カーボンブラックが挙げられる。これらの中でも、アセチレンブラックおよびケッチェンブラックが好ましい。導電材の平均粒子径は、特に限定されないが、電極活物質の平均粒子径よりも小さいものが好ましく、通常、0.001〜10μm、より好ましくは0.05〜5μm、さらに好ましくは0.01〜1μmの範囲である。導電材の平均粒子径が上記範囲にあると、より少ない使用量で十分な導電性を発現させることができる。導電材を添加する場合における、導電材の含有割合は、電極活物質100重量部に対して、好ましくは0.1〜50重量部、より好ましくは0.5〜15重量部、さらに好ましくは1〜10重量部である。導電材の含有割合を上記範囲とすることにより、得られる電気化学素子の容量を高く保ちながら、内部抵抗を十分に低減することが可能となる。
【0054】
また、分散剤は、電極用複合粒子を構成する各成分を、溶媒に分散又は溶解させてスラリー化する際に、各成分を溶媒中に均一に分散させる作用を有する成分である。分散剤の具体例としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマー、ならびにこれらのアンモニウム塩又はアルカリ金属塩、アルギン酸プロピレングリコールエステルなどのアルギン酸エステル、ならびにアルギン酸ナトリウムなどのアルギン酸塩、ポリアクリル酸、及びポリアクリル酸(又はメタクリル酸)ナトリウムなどのポリアクリル酸(又はメタクリル酸)塩、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリカルボン酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、キチン、キトサン誘導体などが挙げられる。これらの分散剤は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。中でも、セルロース系ポリマーが好ましく、カルボキシメチルセルロース又はそのアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩が特に好ましい。これらの分散剤の使用量は、本発明の効果を損ねない範囲であれば格別な限定はないが、電極活物質100重量部に対して、通常は0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部、より好ましくは0.8〜2重量部の範囲である。
【0055】
そして、本発明の電極用複合粒子は、原料となる電極活物質、及びバインダ、ならびに必要に応じて添加される導電材や分散剤を用いて造粒することにより得られ、少なくとも電極活物質、及びバインダを含んでなるが、これらのそれぞれが個別に独立した粒子として存在するのではなく、構成成分である電極活物質、バインダを含む2成分以上によって一粒子を形成するものである。具体的には、これら2成分以上の個々の粒子の複数個が結合して二次粒子を形成しており、複数個(好ましくは数個〜数十個)の電極活物質が、バインダによって結着されて粒子を形成しているものが好ましい。
【0056】
また、電極用複合粒子の形状は、流動性の観点から実質的に球形であることが好ましい。すなわち、複合粒子の短軸径をL、長軸径をL、L=(L+L)/2とし、(1−(L−L)/L)×100の値を球形度(%)としたとき、球形度が80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。ここで、短軸径L及び長軸径Lは、走査型電子顕微鏡写真像より測定される値である。
【0057】
さらに、電極用複合粒子の体積平均粒子径は、通常0.1〜1000μm、好ましくは1〜200μm、より好ましくは30〜150μmの範囲である。複合粒子の体積平均粒子径をこの範囲にすることにより、所望の厚みの電極合材層を容易に得ることができるため好ましい。複合粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(たとえば、SALD−3100;島津製作所製)にて測定し、算出される体積平均粒子径である。
【0058】
また、電極用複合粒子としての構造は特に限定されないが、バインダが複合粒子の表面に偏在することなく、複合粒子内に均一に分散する構造が好ましい。
【0059】
次いで、このような電極用複合粒子の具体的な製造方法について説明する。
本発明で用いる電極用複合粒子の製造方法としては、特に限定されないが、次に述べる二つの製造方法によって電極用複合粒子を容易に得ることができる。
【0060】
まず、第一の製造方法は、流動層造粒法である。流動層造粒法は、バインダ、及び必要に応じて添加される導電材、分散剤等の任意成分を含有するスラリーを得る工程、加熱された気流中に電極活物質を流動させ、そこに得られたスラリーを噴霧し、電極活物質同士を結着させると共に乾燥する工程を有するものである。
以下、流動層造粒法について説明する。
【0061】
まず、バインダ、及び必要に応じて添加される導電材、分散剤等の任意成分を含有するスラリーを得る。なお、この場合において、バインダが分散媒としての水に分散されたものである場合には、水に分散させた状態で添加することができる。また、スラリーを得るために用いる溶媒として、最も好適には水が用いられるが、有機溶媒を用いることもできる。有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどのアルキルアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのアルキルケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム等のエーテル類;ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン等のアミド類などが挙げられるが、アルキルアルコール類が好ましい。水よりも沸点の低い有機溶媒を併用すると、流動造粒時に、乾燥速度を速くすることができる。また、水よりも沸点の低い有機溶媒を併用すると、バインダの分散性又は溶解型樹脂の溶解性が変わると共に、スラリーの粘度や流動性を溶媒の量又は種類によって調製できるので、生産効率を向上させることができる。
【0062】
スラリーを調製する際に使用する溶媒の量は、スラリーの固形分濃度が、通常は1〜50重量%、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜30重量%の範囲となるような量である。溶媒の量がこの範囲にあるときに、バインダが均一に分散するため好適である。
【0063】
また、バインダ、及び必要に応じて添加される導電材、分散剤等の任意成分を溶媒に分散又は溶解する方法又は手順は特に限定されず、例えば、溶媒にバインダ、及び必要に応じて添加される導電材、分散剤等の任意成分を添加し混合する方法、溶媒に分散剤を溶解した後、溶媒に分散させたバインダ(例えば、ラテックス)を添加して混合し、最後に導電材やその他の添加剤を添加して混合する方法、溶媒に溶解させた分散剤に導電材を添加して混合し、それに溶媒に分散させたバインダを添加して混合する方法などが挙げられる。混合装置としては、例えば、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサーなどの混合機器が挙げられる。混合は、通常、室温〜80℃の範囲で、10分〜数時間行う。
【0064】
次いで、電極活物質を流動化させ、そこに上記にて得られたスラリーを噴霧して、流動造粒する。流動造粒としては、流動層によるもの、変形流動層によるもの、噴流層によるものなどが挙げられる。流動層によるものは、熱風で電極活物質を流動化させ、これにスプレー等から、上記にて得られたスラリーを噴霧して凝集造粒を行う方法である。変形流動層によるものは、上述した流動層によるものと同様であるが、層内の粉体に循環流を与え、かつ分級効果を利用して比較的大きく成長した造粒物を排出させる方法である。また、噴流層によるものは、噴流層の特徴を利用して粗い粒子にスプレー等からのスラリーを付着させ、同時に乾燥させながら造粒する方法である。本発明における複合粒子の製造方法としては、この3つ方式のうち流動層又は変形流動層によるものが好ましい。
【0065】
噴霧されるスラリーの温度は、通常は室温であるが、加温して室温以上にしたものであってもよい。流動化に用いる熱風の温度は、通常70〜300℃、好ましくは80〜200℃である。
【0066】
流動層造粒法によれば、以上の製造方法によって、電極活物質、及びバインダ、ならびに必要に応じて添加される導電材、分散剤等の任意成分を含む電極用複合粒子を得ることができる。
【0067】
また、電極用複合粒子の第二の製造方法は、噴霧乾燥造粒法である。以下に説明する噴霧乾燥造粒法によれば、本発明で用いる電極用複合粒子を比較的容易に得ることができるため、好ましい。以下、噴霧乾燥造粒法について説明する。
【0068】
まず、電極活物質、及びバインダを含有する複合粒子用スラリーを調製する。複合粒子用スラリーは、電極活物質、及びバインダ、ならびに必要に応じて添加される導電材、分散剤等の任意成分を、溶媒に分散又は溶解させることにより調製することができる。なお、この場合において、バインダが分散媒としての水に分散されたものである場合には、水に分散させた状態で添加することができる。複合粒子用スラリーを得るために用いる溶媒としては、通常、水が用いられるが、水と有機溶媒との混合溶媒を用いてもよい。この場合に用いることができる有機溶媒としては、上述した流動層造粒法と同様のものを用いることができる。
【0069】
また、複合粒子用スラリーの粘度は、室温において、好ましくは10〜3,000mPa・s、より好ましくは30〜1,500mPa・s、さらに好ましくは50〜1,000mPa・sの範囲である。複合粒子用スラリーの粘度がこの範囲にあると、噴霧乾燥造粒工程の生産性を上げることができる。
【0070】
電極活物質、及びバインダ、ならびに必要に応じて添加される導電材、分散剤等の任意成分を溶媒に分散又は溶解する方法又は順番は、特に限定されない。また、混合装置としては、上述した流動層造粒法と同様のものを用いることができ、混合は、通常、室温〜80℃の範囲で、10分〜数時間行う。
【0071】
次いで、得られた複合粒子用スラリーを噴霧乾燥して造粒する。噴霧乾燥は、熱風中にスラリーを噴霧して乾燥する方法である。スラリーの噴霧に用いる装置としてアトマイザーが挙げられる。アトマイザーとしては、回転円盤方式と加圧方式との二種類の装置が挙げられ、回転円盤方式は、高速回転する円盤のほぼ中央にスラリーを導入し、円盤の遠心力によってスラリーが円盤の外に放たれ、その際にスラリーを霧状にする方式である。回転円盤方式において、円盤の回転速度は円盤の大きさに依存するが、通常は5,000〜30,000rpm、好ましくは15,000〜30,000rpmである。円盤の回転速度が低いほど、噴霧液滴が大きくなり、得られる複合粒子の平均粒子径が大きくなる。回転円盤方式のアトマイザーとしては、ピン型とベーン型が挙げられる。ピン型アトマイザーは、噴霧盤を用いた遠心式の噴霧装置の一種であり、該噴霧盤が上下取付円板の間にその周縁に沿ったほぼ同心円上に着脱自在に複数の噴霧用コロを取り付けたもので構成されている。複合粒子用スラリーは噴霧盤中央から導入され、遠心力によって噴霧用コロに付着し、コロ表面を外側へと移動し、最後にコロ表面から離れ噴霧される。また、ベーン型アトマイザーは、噴霧盤の内側にスリットが切ってあり、複合粒子用スラリーがその中を通過するように形成されている。一方、加圧方式は、複合粒子用スラリーを加圧してノズルから霧状にして乾燥する方式であり、加圧ノズル方式や、加圧二流体ノズル方式などが挙げられる。
【0072】
噴霧される複合粒子用スラリーの温度は、通常は室温であるが、加温して室温より高い温度としてもよい。また、噴霧乾燥時の熱風温度は、通常80〜250℃、好ましくは100〜200℃である。噴霧乾燥法において、熱風の吹き込み方法は特に制限されず、たとえば、熱風と噴霧方向が横方向に並流する方式、乾燥塔頂部で噴霧され熱風と共に下降する方式、噴霧した滴と熱風が向流接触する方式、噴霧した滴が最初熱風と並流し次いで重力落下して向流接触する方式等が挙げられる。
【0073】
噴霧乾燥造粒法によれば、以上の製造方法によって、電極活物質、及びバインダ、ならびに必要に応じて添加される導電材、分散剤等の任意成分を含む電極用複合粒子を得ることができる。
以上のようにして、本発明で用いられる電極用複合粒子は製造される。
【0074】
本発明によれば、図1に示すように、電極用複合粒子12が貯蔵される粒子供給部に、磁気フィルタ14を設け、電極用複合粒子12を、磁気フィルタを通過させた後に、プレ成形ロール6に供給し、予備圧縮することで、これにより、シート状のプレ成形体16を得て、さらに、得られたシート状のプレ成形体16を、成形ロール8により圧縮することで、集電体300上に電極合材層200が形成された電気化学素子用電極100を得るものである。そして、このような本発明によれば、電極用複合粒子12を、磁気フィルタを通過させることで、電極用複合粒子12に、磁性異物が含有されている場合に、このような磁性異物を磁気フィルタ14の作用により取り除くことができ、これにより、プレ成形ロール6により圧縮して得られるシート状のプレ成形体16、及び成形ロール8により圧縮して得られる電極合材層200中に磁性異物が含有されてしまうことを適切に防止することができる。そして、その結果として、得られた電気化学素子用電極100を用いて、電気化学素子を得た際に、このような磁性異物の混入に起因する内部短絡や性能劣化を有効に抑制することができ、得られる電気化学素子の信頼性を向上させることができる。また、磁性異物を磁気フィルタ14の作用により取り除くことで、磁性異物がプレ成形ロール6、および成形ロール8間に咬み込まれることで生じる集電体の破断等の工程不良を抑制し、電極成形工程の生産性を向上させることができる。
なお、上述した電気化学用素子用電極への磁性異物の混入による内部短絡や性能劣化は、電気化学素子用電極をリチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタの、特に正極として使用した場合にその異常発生確率がより高まる。そのため、本発明における第一の効果である電気化学素子の信頼性の向上は、リチウムイオン二次電池用正極やリチウムイオンキャパシタ用正極において、その効果をより大きく発揮させることができる。
【0075】
加えて、本発明によれば、磁性異物の除去を、電気化学素子用電極の製造工程のうち、比較的最終工程に近い段階で行うため、磁性異物の管理を厳密に行なうことが必要となる工程数を低減することができ、これにより、電気化学素子用電極の製造に係るコストを低減することが可能となる。
【0076】
なお、上記においては、本発明の電極成形装置及び電極成形方法を、図1に示す一実施形態に基づいて説明したが、本発明の電極成形装置及び電極成形方法は、図1に示す一実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【符号の説明】
【0077】
2…電極成形装置
6…プレ成形ロール
8…成形ロール
12…電極用複合粒子
14…磁気フィルタ
16…シート状のプレ成形体
100…電気化学素子用電極
200…電極合材層
300…集電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質及びバインダを含有する複合粒子を供給するための供給部と、
前記供給部から供給された前記複合粒子をシート状に成形し、シート状の電極成形体を形成する電極成形部と、を備え、
前記供給部が、前記供給部から供給するための複合粒子に含有される磁性異物を除去するための磁気フィルタを有していることを特徴とする電極成形装置。
【請求項2】
電極活物質及びバインダを含有する複合粒子を、シート状に成形して電極成形体を製造する方法であって、
前記複合粒子を成形手段に供給する供給工程と、
前記成形手段により、前記成形手段に供給された前記複合粒子をシート状に成形し、シート状の電極成形体を得るシート化工程と、を備え
前記供給工程において、前記複合粒子を磁気フィルタを通過させた後に前記成形手段に供給することで、前記複合粒子に含有される磁性異物を除去することを特徴とする電極成形方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−62202(P2013−62202A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201317(P2011−201317)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】