説明

電極構造体及びそれを含む体液中のリン酸測定用酵素センサー

【課題】 光学的な定量を必要とせず、体液中のリン酸を簡便に測定することが可能な、体液中のリン酸を測定するための手段を提供すること。
【解決手段】 体液中のリン酸濃度測定用酵素センサーの電極構造体は、過酸化水素電極と、該過酸化水素電極を被覆し、リン酸を消費して過酸化水素を生成する反応を触媒する酵素を固定化した酵素固定化膜と、該酵素固定化膜の外側に配置され、該酵素固定化膜を被覆する多孔膜とを具備する。体液中のリン酸濃度測定用酵素センサーは、上記電極構造体と、参照電極と、前記過酸化水素電極と前記参照電極の間に電圧を印加する手段と、前記電極構造体及び前記参照電極を収容するセンサー本体と、該センター本体内に収容される電解質液とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体液中のリン酸測定用酵素センサー及びそれに含まれる電極構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸は、生体内で各種のリン酸エステルとして糖質代謝に、また高エネルギーリン酸化合物としてエネルギー代謝に必須の物質である。また、核酸、リン脂質、タンパク質、ヌクレオチドなどの構成分として重要であり、生体にとって必要不可欠な構成要素の一種である。血清中のリン酸は腸管から吸収、骨からの動員、細胞内外の移行、腎からの排泄などの機序によって変動し、臨床診断上有用な測定対象物質である。特に、腎機能に障害のある場合には定期的にモニター、管理の必要な測定項目である。
【0003】
体液中のリン酸の測定方法としては、検体にモリブデン酸塩を加えてモリブデン酸を生成させ、これを還元剤で還元してモリブデン青とし、この青色を光学的に定量する、いわゆる「モリブデン青法」や、リン酸を消費する反応を触媒する、スクロースホスホリラーゼやヌクレオシドホスホリラーゼのようなホスホリラーゼ類やピルビン酸オシキダーゼを用いて、検体中のリン酸を消費する酵素反応を行ない、反応生成物を光学的に定量する、酵素法と総称される方法が用いられている。
【0004】
一方、膜に固定化したピルビン酸オキシダーゼによる過酸化水素生成反応を過酸化水素電極を用いて電気的に測定する方法を用いて、河川水中のリン酸を測定するリン酸センサーも知られている(非特許文献1、特許文献1)。
【0005】
【非特許文献1】Hideaki Nakamura et al., Talanta 50 (1999) 799-807
【特許文献1】特公平8−20401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の体液中のリン酸の測定方法は、いずれもリン酸が関与する反応の生成物を光学的に定量する方法である。光学的な定量のためには、光学系を含む装置が必要になるため、装置が複雑化して高価になるのみならず、全血は着色しているため検体として全血を用いることもできない。
【0007】
本発明の目的は、光学的な定量を必要とせず、体液中のリン酸を簡便に測定することが可能な、体液中のリン酸を測定するための手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
体液中のリン酸を電気的に測定することができれば、光学系を必要とせず、測定の自動化も容易である。しかしながら、体液中のリン酸を電気的に測定する方法は全く知られていない。一方、非特許文献1及び特許文献1に記載されているように、ピルビン酸オキシダーゼによる過酸化水素生成反応を過酸化水素電極で測定することにより河川水中のリン酸を測定する方法は知られているが、河川水と血液や尿のような体液とでは、含まれるリン酸濃度の範囲が大きく異なり、また、体液中には過酸化水素電極を用いた測定に影響を与える妨害物質が種々含まれているため、公知のリン酸センサーを用いて体液中のリン酸を測定することは全くできない。
【0009】
本願発明者は、鋭意研究の結果、驚くべきことに、ピルビン酸オキシダーゼを固定化した酵素固定化膜の外側に、多孔膜を配置することにより全血中のリン酸が定量可能になることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、過酸化水素電極と、該過酸化水素電極を被覆し、リン酸を消費して過酸化水素を生成する反応を触媒する酵素を固定化した酵素固定化膜と、該酵素固定化膜の外側に配置され、該酵素固定化膜を被覆する多孔膜とを具備する、体液中のリン酸濃度測定用酵素センサーの電極構造体を提供する。また、本発明は、電極構造体と、参照電極と、前記過酸化水素電極と前記参照電極の間に電圧を印加する手段と、前記電極構造体及び前記参照電極を収容するセンサー本体と、該センター本体内に収容される、電解質液とを含む、体液中のリン酸濃度測定用酵素センサーを提供する。さらに、本発明は、酵素センサーを使用して、生体から分離した体液中のリン酸濃度を電流変化として検出することにより該リン酸濃度を測定することを含む、体液中のリン酸濃度の測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の酵素センサーにより、体液中のリン酸を電気的に測定することが初めて可能になった。本発明の酵素センサーによれば、希釈や血球分離等の前処理を行なうことなく全血中のリン酸を測定することが可能であり、また、光学系を必要としないので、測定装置をより単純、安価なものとすることができ、さらに、電気的な値を測定するので、測定の自動化も容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の体液中のリン酸濃度測定用酵素センサーは、過酸化水素電極の電極構造体に特徴がある。上記の通り、本発明の電極構造体は、過酸化水素電極と、該過酸化水素電極を被覆し、リン酸を消費して過酸化水素を生成する反応を触媒する酵素を固定化した酵素固定化膜と、該酵素固定化膜の外側に配置され、該酵素固定化膜を被覆する多孔膜とを具備する。この構造の1例を図1に模式的に示す。
【0013】
図1に模式的に示す電極構造体10は、ガラス管12の底部を利用して構成されたものであり、ガラス管12の底部を貫通して、例えば白金から成る過酸化水素電極14が配置されている。電極14の先端部14aは、ガラス管12の底部から露出しており、この部分が過酸化水素電極として機能する。過酸化水素電極14の下部は、溶融後、固化したガラス16により固着されている。リン酸を消費して過酸化水素を生成する反応を触媒する酵素を固定化した酵素固定化膜18が過酸化水素電極の先端部14aを被覆している。さらに、多孔膜20が酵素固定化膜18の外側に配置され、該酵素固定化膜18を被覆している。酵素固定化膜18及び多孔膜20は、Oリング22によりガラス管12の底部に固着される。なお、図1は、単純な1例を模式的に示すものであり、要は、過酸化水素電極が、酵素固定化膜及び多孔膜によってこの順序で被覆されていればよい。また、図1は模式図であるので、各部材のサイズの比率も正確に記載しているものではない。
【0014】
過酸化水素電極自体は周知であり、白金がよく用いられているが、他の金属を採用することも可能である。
【0015】
酵素固定化膜に固定化する酵素は、リン酸を消費して過酸化水素を生成する反応を触媒する酵素であれば特に限定されるものではなく、ピルビン酸オキシダーゼを好ましい例として挙げることができる。酵素固定化膜は、液体を通すが固定化される酵素のような高分子は通さない、多孔性の半透膜であることが好ましい。このような半透膜は、多孔性の高分子膜から構成することができ、高分子膜を構成する高分子の例としては、酢酸セルロース等のセルロース類、塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、Azide-unit Pendant Water-soluble Photopolymer (AWP)、ポリカーボネート樹脂、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン、テフロン(登録商標)等を挙げることができる。これらの多孔性膜に酵素を固定化する方法自体は周知であり、周知の方法により容易に酵素を半透膜に固定化することができる。下記実施例にも好ましい方法が具体的に記載されている。酵素固定化膜の厚さは、特に限定されないが、通常、1μm〜30μm程度である。
【0016】
前記酵素固定化膜の外側に配置され、該酵素固定化膜を被覆する多孔膜を構成する材料としては、多孔性の膜を形成することができ、必要な機械的強度を有する材料であれば特に限定されず、ポリカーボネート、セルロース混合エステル、ポリテトラフルオロエチレン、ガラス繊維等を例示することができる。多孔膜の孔径は、血球による目詰まりが起きないように、血球のサイズよりも小さいことが好ましく、また、測定の信頼性向上や測定範囲域の拡大の観点から、孔径(直径)は、0.01μmないし1μmが好ましく、さらに0.1μmないし0.6μmが好ましい。「多孔性」は、スポンジ状のものであってもよいが、測定の信頼性や再現性をより高くする観点から、平膜に円筒状の貫通孔が多数開口したものが好ましい。この場合、貫通孔の密度は、測定の信頼性や再現性をより高くする観点から、107〜109個/cm2程度が好ましく、さらには108〜109個/cm2程度が好ましい。また、多孔膜の厚さは、特に限定されないが、通常、3μmないし50μm程度、好ましくは、5μmないし15μm程度である。なお、ポリカーボネートフィルムに、上記の範囲の孔径を有する円筒状の貫通孔が上記の密度に形成された膜が米国Sterlitech社から「Nuclepore」(登録商標)という商品名で市販されており、本発明における多孔膜としては、この市販のNuclepore(登録商標)を1枚から5枚積層して利用することができる。
【0017】
なお、酵素固定化膜を多孔膜で被覆することにより全血等の体液中のリン酸が、過酸化水素電極により測定可能になる理由は必ずしも明らかではないが、多孔膜によって、基質溶液が保持されると同時に検体中のリン酸の拡散が制限され、酵素には低減された量のリン酸が接触せず、また、血球をはじめとする妨害物質の酵素膜への接触も多孔膜によって防止されるか又はその拡散が制限される結果、全血中のリン酸であっても過酸化水素電極により測定可能になるのではないかと推測される。
【0018】
本発明の体液中のリン酸測定用酵素センサーは、上記した過酸化水素電極構造体を具備する点を特徴としており、他の構成は、公知のリン酸センサーと同様でよい。すなわち、本発明のリン酸測定用酵素センサーは、上記本発明の電極構造体と、参照電極と、前記過酸化水素電極と前記参照電極の間に電圧を印加する手段と、前記電極構造体及び前記参照電極を収容するセンサー本体と、該センター本体内に収容される、電解質液とを含む。この構造の1例を図2に模式的に示す。
【0019】
図2中、10は上記した本発明の電極構造体であり、24は参照電極である。センサー本体26内に電極構造体10及び参照電極24が収容されている。センサー本体26内には、電解質液28が収容されており(液面が破線で示されている)、過酸化水素電極14及び参照電極24は電解質液28中に浸漬されている。また、電池30により、過酸化水素電極14には、参照電極24に対して正の電圧が印加されている。なお、参照電極としては、Ag/AgCl電極がよく用いられている。また、電解質液としては、食塩を含む緩衝液等を用いることができる。また、酵素反応に必要な基質並びに酵素が補酵素の供給を必要とする場合には該補酵素を電解質液に添加しておくことができる。例えば、固定化する酵素がピルビン酸オキシダーゼである場合には、基質としてピルビン酸、補酵素としてFAD及びチアミンピロリン酸(チアミン2リン酸、TPP)が必要になるが、これらは電解質液に添加しておくことができる。
【0020】
使用時には、電極構造体10の多孔膜を検体と接触させる。酵素センサーが自動化装置に組み込まれている場合、検体は図2に矢印で示す方向に流れている。検体の一部は、電極構造体の多孔膜を介して酵素固定化膜に至る。一方、電解質液に含まれる基質及び必要な補酵素も酵素固定化膜に到達し、酵素の触媒作用により、ここで酵素反応が起きる。酵素反応により、検体中のリン酸が消費され、過酸化水素が生成する。例えば、酵素がピルビン酸オキシダーゼである場合には、次の反応が起きる。
ピルビン酸+H2O + O2 + リン酸→アセチルリン酸 + CO2 + H2O2
このように、検体中のリン酸が消費されて、それと等モルの過酸化水素が生成する。従って、この時の過酸化水素の生成量は、検体中のリン酸濃度に依存して変化し、検体中のリン酸濃度が高くなるほど過酸化水素の生成量が増大する。このため、生じた過酸化水素を過酸化水素電極を用いて定量することにより、検体中のリン酸濃度を電気的な数値として測定することができる。なお、生成した過酸化水素は、過酸化水素電極上で、次のように分解されて、この際に電流を生じる。
H2O2 → 2H+ + O2 + 2e-
過酸化水素の定量は、過酸化水素電極を流れるこの電流を測定することにより行うことができる。、これは例えば、過酸化水素が酸化する電位を作用極である過酸化水素電極に参照電極の電位に対して印加して、過酸化水素濃度に応じた電流量を作用極である過酸化水素電極と参照極に接続した電流計で計測することにより行うことができる。予め既知濃度のリン酸を含む標準試料を複数用いて検量線を作成しておくと、測定された電流値から未知検体中のリン酸濃度を知ることができる。
【0021】
本発明のリン酸測定用酵素センサーを用いたリン酸測定に供される体液は特に限定されず、全血、血清、血漿、尿等を挙げることができる。これらの中でも、全血や尿を、希釈や血球分離等の何らの前処理を行なうことなく、測定に供することができることは本発明の大きな利点である。
【0022】
なお、酵素の基質及び補酵素は、上記の通り、電解質液に含めておくこともできるが、基質及び補酵素を含む液を別途酵素固定化膜に導入することもできる。基質及び補酵素を含む液を供給する供給路を有する酵素センサーを装着する測定システムの1例を模式的に図3に示す。図3中、基質および補酵素を含む液を保持した試薬槽40に繋がる流路位置にサンプリングノズルを移動させ、ペリスタリックポンプ(送液ポンプ)38により基質および補酵素を含む液をリン酸センサー部に導入する。次にサンプリングノズルを測定検体が吸引できる位置に移動させ、ペリスタリックポンプ38により測定検体を吸引、リン酸センサー部32に導入する。なお、図3中、34は三方バルブ、40は基質液(補酵素も含む)、42は検体、44は電流−電圧転換器、46はA/Dコンバーター、48はコンピューター、50はプリンター、54は廃液タンクである。
【0023】
なお、基質や必要な補酵素は、十分な量供給することが好ましい。特に、酵素としてピルビン酸オキシダーゼを用いる場合、その基質となるピルビン酸は血液等の体液中にも含まれているので、体液中のピルビン酸の濃度によって測定値が実質的に変化しないように、体液中のピルビン酸量に比べて十分大きな量のピルビン酸を供給することが好ましい。酵素としてピルビン酸オキシダーゼを用い、基質液を図3に示すような供給路を介して別途供給する場合、基質液中のピルビン酸濃度は、好ましくは1〜10mmol/L程度、TPP濃度は好ましくは0.1〜2mmol/L程度、FAD濃度は好ましくは0.1〜100μmol/L程度である。
【0024】
体液中には、アスコルビン酸、尿酸等の、過酸化水素電極による測定に影響を与える妨害物質が種々含まれている。上記した本発明の酵素センサーでは、これらの妨害物質が共存していても体液中のリン酸濃度を測定することが可能であるが、本発明はさらに、妨害物質の影響をさらに排除してより正確な測定値を得ることができる酵素センサー(以下、便宜的に「第2の酵素センサー」)をも提供する。第2の酵素センサーは、上記した本発明の酵素センサー(以下、便宜的に「第1の酵素センサー」ということがある)の構成要素に加え、さらに第2の過酸化水素電極構造体を具備する。第2の電極構造体は、上記した本発明の電極構造体(以下、便宜的に「第1の電極構造体」ということがある)から固定化酵素膜を除いたものである。この第2の電極構造体も、第1の電極構造体と同様、参照電極との間で電圧を印加され、また、上記した電解質液に浸漬されている。第2の電極構造体の参照電極は、第1の電極構造体の参照電極と共用することもできるし、別途設けてもよい。第2の電極構造体も、上記したセンサー本体内に収容され、その多孔膜は、第1の電極構造体の多孔膜と隣接して配置され、同時に検体に接触する。
【0025】
使用時には、第1の酵素センサーの場合と同様、第1及び第2の電極構造体を検体と接触させ、各電極構造体の過酸化水素電極を流れる電流値を測定し、それらの差をとる。この電流値の差を真の電流値として検量線を作成し、未知検体中のリン酸濃度の測定を行う。
【0026】
第2の酵素センサーでは、第2の電極構造体が固定化酵素膜を有さないので、検体中のリン酸を消費して過酸化水素を生成する酵素反応が起きない。したがって、理想的には第2の電極構造体の過酸化水素電極には電流は流れないはずであるが、流れる場合には、それはアスコルビン酸や尿酸等の、リン酸以外の妨害物質に起因するものである。第2の酵素センサーでは、このように妨害物質に起因する電流値を別途測定することができ、これを差し引くことにより、検体中のリン酸に起因する真の電流値を測定することができる。このため、妨害物質の影響を排除してより正確な測定が可能になる。
【0027】
なお、第2の電極構造体は、第1の電極構造体を含む酵素センサーと同じ酵素センサーのセンサー本体内に収容してもよいが、第2の電極構造体を単独で含む酵素センサーを別途構成し、それで妨害物質に起因する電流値を測定するようにしてもよい。すなわち、本発明は、上記本発明の酵素センサーと、上記本発明の酵素センサーから酵素固定膜を除いた構造を有する無酵素センサーとを具備する体液中のリン酸濃度測定用酵素センサーをも提供するものである。
【0028】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
1. 電極構造体の作製
図1に示す構造を有する過酸化水素電極構造体を次のようにして作製した。すなわち、 ガラス管の底部をバーナーで加熱溶融し、直径0.3mmの白金棒を貫通させた。室温に冷却すると、ガラス管の底部から白金棒の先端が露出し、かつ、白金棒が、溶融、固化したガラス(図1中の16)で固着された基本構造が得られた。次に、酵素固定化膜(製法は後述)及び多孔性ポリカーボネート膜(米国Sterlitech社製「Nuclepore」(登録商標)、孔径0.2μm、孔密度3 x 108個/cm2、厚さ10μm)を重ねたものを、酵素固定化膜が白金電極と接する側にくるように上記ガラス管の側部にOリングで固着し、本発明の電極構造体を得た。
【0030】
用いた酵素固定化膜は次のようにして作製した。先ず、2%酢酸セルロース水溶液を調製した。該溶液の500μLを採取し、基板上の7 x 10cmの範囲に展開した。展開後、10秒以内に基板をヘキサン槽に浸漬して酢酸セルロース膜を得た。ビルビン酸オキシダーゼの160U/150μL MES緩衝液 + 2% GA(グルタルアルデヒド) 30μLを、上記酢酸セルロース膜上(5cm x 8cm)に広げ、4℃で1時間放置し、酵素固定化膜を得た。なお、得られた酵素固定化膜は、MES緩衝液で繰返し洗浄した後、上記Nuclepore(登録商標)膜を1枚載せ、4℃にて一夜乾燥後、上記のように電極構造体の作製に供した。
【0031】
2. 酵素センサーの作製
1で作製した電極構造体を用い、図2に示す構造を有する酵素センサーを作製した。なお、参照電極としては、Ag/AgCl電極を用い、過酸化水素電極には、参照電極に対して+0.6Vを印加した。電解質液として、NaClを0.2630g/100mL、Na2HPO4を0.4216g/100mL、NaH2PO4を0.1836g/100mLの濃度で含む水溶液を調製し、これをセンサー本体内に約0.3mL充填して白金電極及び参照電極を電解質液中に浸漬した。
【実施例2】
【0032】
リン酸の測定
1. 測定装置
実施例1で作製した酵素センサーを、自動化装置に組み込んだ。自動化装置は、図4に示す構成を有するものである。図4中、酵素センサーは32である。34は三方バルブ、36は定量シリンジ、38は送液ポンプ、40は基質液(補酵素も含む)、42は検体、44は電流−電圧転換器、46はA/Dコンバーター、48はコンピューター、50はプリンター、52は廃液ポンプ、54は廃液タンクである。
【0033】
測定時には、送液ポンプ38とこれに連結しているノズルで検体20を吸引し、酵素センサー32に移送した。また、定量シリンジ36で基質溶液40を吸引した。酵素センサーの信号出力を計測しながら、基質溶液を酵素センサーの酵素固定化膜近傍に導入、混合した。ここで発生した過酸化水素水の濃度の測定を、過酸化水素電極を流れる電流値に基づいて自動的に行なった。なお、基質液は、1mmol/Lのピルビン酸、10μMのFAD及び200μMのTPPを含むMOPS緩衝溶液(0.2M, pH7.0)であった。
【0034】
2. 検量線
検体として、各種濃度のリン酸水溶液(標準試料)を用いて作成した検量線を図5に示す。図5から、リン酸の濃度が大きくなるほど電流値が大きくなっており、本発明の酵素センサーで検体中のリン酸濃度が測定できることがわかる。ここで、菱形マークは基質液を予め検体と今後した状態で酵素センサー部に導入したときの検量線を表し、丸マークおよび三角マークはそれぞれ基質溶液を導入したあと検体を導入して測定した1回目の検量線と2回目の検量線を表している。
【0035】
3. 実際の検体を用いた測定
検体試料として血清及び全血を使用して測定した場合に得られた結果が表1に示されている。表1に示す結果は、これらの検体についての同時再現性の結果である。全血および血清のサンプル1及び2は、異なる提供者から採取した試料である。なお、表1中のnは測定回数であり、SDは標準偏差であり、CV%は変動係数である。
【0036】
【表1】

【0037】
これらの結果から、本発明の酵素センサーによれば、正確に体液中のリン酸濃度を測定できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の電極構造体の一例を模式的に示す図である。
【図2】本発明の酵素センサーの一例を模式的に示す図である。
【図3】基質供給液の供給路を具備する測定システムの一例を模式的に示す図である。
【図4】実施例における測定に用いた、本発明の酵素センサーを組み込んだ自動測定装置の構成を示すブロックチャート図である。
【図5】本発明の実施例において、標準試料中のリン酸濃度を測定した検量線を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
10 電極構造体
12 ガラス管
14 過酸化水素電極
16 固化したガラス
18 酵素固定化膜
20 多孔膜
22 Oリング
24 参照電極
26 センサー本体
28 電解質液
30 電池
32 酵素センサー
34 三方バルブ
36 定量シリンジ
38 送液ポンプ
40 試薬液
42 被検試料
44 電流−電圧転換器
46 A/Dコンバーター
48 コンピューター
50 プリンター
52 廃液ポンプ
54 廃液タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素電極と、該過酸化水素電極を被覆し、リン酸を消費して過酸化水素を生成する反応を触媒する酵素を固定化した酵素固定化膜と、該酵素固定化膜の外側に配置され、該酵素固定化膜を被覆する多孔膜とを具備する、体液中のリン酸濃度測定用酵素センサーの電極構造体。
【請求項2】
前記酵素がピルビン酸オキシダーゼ酵素である請求項1記載の電極構造体。
【請求項3】
前記多孔膜の孔径は、血球が通過できない大きさである請求項1又は2記載の電極構造体。
【請求項4】
前記多孔膜の孔径は、0.01μmないし1μmである請求項3記載の電極構造体。
【請求項5】
前記多孔膜の孔径は、0.1μmないし0.6μmである請求項4記載の電極構造体。
【請求項6】
前記多孔膜は、平膜に円筒状の貫通孔が開口したものである請求項4又は5記載の電極構造体。
【請求項7】
前記貫通孔の密度が、107〜109個/cm2である請求項6記載の電極構造体。
【請求項8】
前記貫通孔の密度が、108〜109個/cm2である請求項7記載の電極構造体。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の電極構造体と、参照電極と、前記過酸化水素電極と前記参照電極の間に電圧を印加する手段と、前記電極構造体及び前記参照電極を収容するセンサー本体と、該センター本体内に収容される、電解質液とを含む、体液中のリン酸濃度測定用酵素センサー。
【請求項10】
前記内部液が、前記酵素の基質及び酵素が補酵素の供給を必要とする場合には該補酵素を含む請求項9記載の酵素センサー。
【請求項11】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の電極構造体から前記酵素固定化膜を除いた構造を有する第2の電極構造体を前記センサー本体内にさらに含み、該第2の電極構造体に含まれる第2の過酸化水素電極と前記参照電極又は第2の参照電極との間に電圧を印加する手段をさらに含む請求項9又は10記載の酵素センサー。
【請求項12】
請求項9又は10記載の酵素センサーと、請求項9又は10記載の酵素センサーから酵素固定膜を除いた構造を有する無酵素センサーとを具備する体液中のリン酸濃度測定用酵素センサー。
【請求項13】
前記体液が全血又は尿である請求項9ないし12のいずれか1項に記載の酵素センサー。
【請求項14】
請求項9ないし13のいずれか1項に記載の酵素センサーを使用して、生体から分離した体液中のリン酸濃度を電流変化として検出することにより該リン酸濃度を測定することを含む、体液中のリン酸濃度の測定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−3265(P2007−3265A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−181717(P2005−181717)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(503259598)株式会社テクノメディカ (8)
【Fターム(参考)】