説明

電極箔とその製造方法およびこの電極箔を用いたコンデンサ

【課題】コンデンサの大容量化と漏れ電流の低減とを実現する事を目的とする。
【解決手段】この目的を達成するため本発明は、基材18と、この基材18上に形成された疎膜層19と、この疎膜層19上に形成された誘電膜8とを備え、疎膜層19は、基材18の表面から金属または金属化合物の少なくともいずれか一方からなる微粒子20が不規則に複数個連なって構成されるとともに、内部に多数の空間を有する疎な構造体であり、誘電膜8は、疎膜層19の微粒子20の主成分とは異なる金属の化合物で構成された電極箔である。これにより本発明は、誘電率の高い材料で誘電膜8を構成するとともに、この誘電膜8で疎膜層19を保護することができ、結果としてコンデンサの大容量化と漏れ電流の低減とを実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電極箔とその製造方法およびこの電極箔を用いたコンデンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンデンサとしては、パーソナルコンピュータのCPU周りに使用される低ESRの固体電解コンデンサや、大型機器用インバータ電源、ハイブリッドカー等の自動車用インバータ電源に使用される高耐圧のアルミ電解コンデンサなどが挙げられる。これらのコンデンサには、小型大容量化が強く望まれている。
【0003】
例えば従来の固体電解コンデンサは、表面に誘電膜が形成された電極箔と、誘電膜上に形成された導電性高分子からなる固体電解質層と、この固体電解質層上に形成された陰極層とを有している。そして図6に示すように、従来の電極箔1は、弁作用金属箔からなる基材2と、この基材2上に形成された疎膜層3と、疎膜層3上に形成された誘電膜(図示せず)とを有している。基材2と疎膜層3とは、固体電解コンデンサの陽極層として機能する。
【0004】
疎膜層3は、蒸着により形成され、基材2の表面から複数の微粒子4が不規則に連なって形成された、疎な構造体をしている。これにより電極箔1の単位面積当たりの表面積を拡大することができ、高容量のコンデンサを実現できる。
【0005】
誘電膜は、疎膜層3の微粒子4を陽極酸化し、疎膜層3の表面を金属酸化物で被覆することで形成できる。
【0006】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1、2が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−258404号公報
【特許文献2】特開2009−79275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の電極箔1では、コンデンサの大容量化に限界がある。
【0009】
その理由は、誘電膜を疎膜層3の陽極酸化によって形成していたからである。すなわち誘電膜は、疎膜層3の微粒子の主成分と同金属の酸化物で構成されるため、その誘電率は疎膜層3の材料に影響を受ける。したがって誘電率を高めるにあたって設計の自由度が狭く、コンデンサの大容量化に限界がある。
【0010】
さらに疎膜層3は、その構造上、機械的強度が低いうえに、従来は陽極酸化によって微粒子4の内側を侵食するように劈開性の高い誘電膜が形成され、より折れやすくなっていた。
【0011】
そして折れた部分には金属面が露出して、陰極層と陽極層との電気的パスとなり、結果としてコンデンサの漏れ電流が増大することがある。
【0012】
そこで本発明は、コンデンサの大容量化を図るとともに、漏れ電流を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そしてこの目的を達成するため本発明は、基材と、この基材上に形成された疎膜層と、この疎膜層上に形成された誘電膜とを備え、疎膜層は、基材の表面から金属または金属化合物の少なくともいずれか一方からなる微粒子が不規則に複数個連なって構成されるとともに、内部に多数の空間を有する疎な構造体であり、誘電膜は、疎膜層の微粒子の主成分とは異なる金属の化合物で構成された電極箔としたものである。
【発明の効果】
【0014】
これにより本発明は、コンデンサの大容量化と漏れ電流の低減を実現できる。
【0015】
その理由は、誘電膜を疎膜層の微粒子とは異なる金属の化合物で形成したからである。
【0016】
すなわち本発明は、誘電率を高めるにあたり材料選択の自由度が高く、容易にコンデンサの大容量化が図れる。
【0017】
さらに本発明は、陽極酸化法を用いずに形成されるものであり、誘電膜を微粒子の外表面に積層するように形成できる。したがって本発明は、誘電膜が微粒子の外表面を補強する保護層として働き、微粒子間の欠損を抑制でき、漏れ電流の少ないコンデンサを実現できる。
【0018】
以上のように本発明は、コンデンサの大容量化と漏れ電流の低減とを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例1におけるコンデンサの斜視図
【図2】(a)同コンデンサに使用されるコンデンサ素子の平面図、(b)図2(a)の断面図(XX断面)
【図3】本発明の実施例1における電極箔の模式断面図
【図4】同電極箔を3万倍にしたSEM写真
【図5】本発明の実施例2におけるコンデンサの一部切り欠き斜視図
【図6】従来のコンデンサの電極箔の模式断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施例1)
以下、本実施例における電極箔と、この電極箔を用いたコンデンサについて説明する。本実施例のコンデンサは、電解質として導電性高分子材料を用いた固体電解コンデンサである。
【0021】
図1はコンデンサ素子6を積層した本実施例のコンデンサ7の斜視図であり、図2(a)(b)は平板状のコンデンサ素子6の平面図および断面図である。
【0022】
図2(b)に示すように、コンデンサ素子6は、表面に誘電膜8が形成された電極箔9と、誘電膜8を形成した後に電極箔9上に設けられて、電極箔9を陽極電極部10と陰極形成部に分離する絶縁性のレジスト部11と、陰極形成部の誘電膜8上に形成された陰極電極部12とを有している。陰極電極部12は、誘電膜8上に形成された導電性高分子からなる固体電解質層13と、この固体電解質層13上に形成されたカーボン層および銀ペースト層からなる陰極層14とから構成される。
【0023】
そして図1に示すように、コンデンサ素子6は複数枚積層され、夫々の陽極電極部10を陽極コム端子15にレーザー溶接によって接続する。
【0024】
また陰極電極部12には陰極コム端子16が接続され、陰極コム端子16には、コンデンサ素子6の搭載部分の両側面を上方に折り曲げた折り曲げ部16aが形成されている。陰極コム端子16の素子搭載部分とコンデンサ素子6の陰極電極部12間、折り曲げ部16aと陰極電極部12間、ならびに各コンデンサ素子6の陰極電極部12間は、それぞれ導電性接着材31で接合できる。
【0025】
陽極コム端子15と陰極コム端子16は、夫々一部が外表面に露呈する状態で、上記複数枚のコンデンサ素子6とともに絶縁性樹脂からなる外装樹脂体17で一体に被覆される。この外装樹脂体17から表出した陽極コム端子15と陰極コム端子16の一部を外装樹脂体17に沿って底面へと折り曲げると、コンデンサ7の底面に陽極端子と陰極端子を形成した面実装型のコンデンサ7となる。
【0026】
そして本実施例では、電極箔9は、図2(b)に示すように、基材18と、この基材18上に形成された疎膜層19と、この疎膜層19上に形成された誘電膜8とを有している。
【0027】
また図3の断面図、図4のSEM写真に示すように、疎膜層19は、基材18の表面から複数の微粒子20が不規則に連なって、伸びるように形成され、複数の枝に枝分かれした構造体である。また内部には多数の空間が存在している。
【0028】
なお、疎膜層19の微粒子20は、ほぼ同じ粒径のものを積み重ねてもよく、また粒径の異なる微粒子20をランダムに積層してもよいが、本実施例では、基材18に近い根元部分は粒径が大きい微粒子20、表層側には粒径の小さい微粒子20を積層している。このように根元部分の微粒子20の粒径を大きくすることで、疎膜層19と基材18との密着性を高めることができる。また表層側の微粒子20の粒径を小さくすることで、疎膜層19全体の表面積を大きくできる。
【0029】
ここで本実施例では、基材18としてアルミニウム箔を用い、微粒子20もアルミニウムを主成分とした。そして微粒子20の外表面において、微粒子20の表面形状に沿って積層された誘電膜8は、微粒子20の酸化物である酸化アルミニウムよりも誘電率の高い二酸化チタンで構成した。このように、複数の微粒子20同士が結合した接続部分21を除き、各微粒子20の表面全体に誘電膜8を形成することによって、誘電膜8の表面積が拡大され、電極箔9の静電容量を大きくすることが出来る。なお、誘電膜8の誘電率が低い場合であっても、二酸化シリコンなどの薄膜形成が可能な金属化合物であれば、コンデンサの大容量化に寄与する。
【0030】
そして基材18や微粒子20の主成分は、アルミニウム以外にも、アルミニウム合金やチタン、ニオブ、タンタルなど、種々の金属が挙げられ、一部の微粒子20が金属酸化物または金属窒化物等の金属化合物粒子であるものや、微粒子20の一部に金属化合物を含むものでもよく、疎膜層19が導電性を有していればよい。なお本実施例では、基材18および微粒子20のいずれも比較的融点の低いアルミニウムで構成した。疎膜層19を融点の低いアルミニウムで構成することで、蒸着するときの生産性に優れる。また疎膜層19と基材18の主成分は異なっていてもよいが、同じ金属とすることで、蒸着時の熱で基材18が適度に軟化し、基材18の形状を維持しつつ、微粒子20との結合が強まる。
【0031】
さらに本実施例では、誘電膜8の材料として二酸化チタンを用いたが、ジルコニウム、シリコン、タンタル、ニオブなどの金属の酸化物や、窒化物などの化合物で形成できる。
【0032】
以下、本実施例の製造方法について説明する。
【0033】
本実施例では、下記のように疎膜層19を形成した。
(1)弁作用金属の基材18を蒸着槽内に配置して0.01〜0.001Paの真空に保つ。
(2)基材18周辺に酸素ガスに対してアルゴンガスの流量を4〜6倍にした不活性ガスを流入して基材18周辺の圧力を10〜20Paの状態にする。
(3)基材18の温度を200〜300℃の範囲に保つ。
(4)蒸着源にアルミニウムを配設した状態で真空蒸着により平均粒径の大きい疎膜層19aを形成する。
(5)基材18周辺に、アルゴンガスの流量比を上記(2)の工程よりも下げ、酸素ガスに対してアルゴンガスの流量を2〜4倍にした不活性ガスを流入して基材18周辺の圧力を20〜30Paの状態にする。
(6)基材18の温度を150〜200℃の範囲に保つ。
(7)蒸着源にアルミニウムを配設した状態で真空蒸着により粒系の小さい第二の疎膜層19bを形成する。
【0034】
なお、本実施例においては、基材18として、厚みが50μmの高純度アルミニウム箔を用いた。基材18の材料は、例えばアルミニウム以外にもアルミニウム合金やタンタル、チタンなどの金属材料を用いてもよく、導電性高分子からなるフィルム、あるいは透明導電性ガラスのようなものでもよい。
【0035】
疎膜層19aの微粒子20は平均粒子径が、0.1μm以上0.3μm以下となるものが好ましく、本実施例では0.2μmとした。なお、機械的強度を保つため、微粒子20の接続部分21の直径は、微粒子20の粒子径の30%以上となる構成が好ましい。したがって、疎膜層19aの平均粒子径が上記の範囲の場合、その接続部分は0.03μm以上、0.3μm未満が望ましい。
【0036】
さらに本実施例では、第二の疎膜層19bにおいて、空孔径の最頻値が約0.03μmと極めて微細なものとなった。これは、通常のエッチングで粗面化した電極箔の空孔径の最頻値と比較して極めて微細化されたものであり、これにより、表面積を大きく拡大することができる。
【0037】
なお、第二の疎膜層19bの厚みは容量に寄与するため、第一の疎膜層19aより厚く形成することが好ましい。そして疎膜層19全体では、空孔径の最頻値を0.01μm以上、0.1μm以下とする事が好ましい。本実施例では、空孔径を小さくすることで粒径も小さくなり、容量を大きくすることができるが、ある程度の大きさは維持することで、誘電膜8や固体電解質の積層を容易にできる。なお第二の疎膜層19bにおいても、機械的強度を保つため、微粒子20の接続部分の直径は、微粒子20の直径の30%以上とし、本実施例では0.003μm以上、0.1μm未満が望ましい。
【0038】
また、図3、図4からも明らかなように、同種類の金属材料を用い、同一真空内で形成するため第一の疎膜層19aと第二の疎膜層19bの境界は明確に現れない。
【0039】
また、本実施例では、上記形成方法(5)〜(7)に示すように、第二の疎膜層19bを形成する工程では、酸素ガスとアルゴンガスの流量比、周辺の圧力、基材18の温度を、第一の疎膜層19aを形成する工程とは変えたことで、微粒子20の運動エネルギーおよび粒子表面の活性度が抑えられ、微粒子20が成長しにくくなり、第二の疎膜層19bの微粒子20を第一の疎膜層19aよりも小さくなるように形成できたと考えられる。
【0040】
なお、図3に示すように、第一の疎膜層19a、第二の疎膜層19bは、いずれも複数の微粒子20が結合した状態である。したがって、垂直方向(積層方向)の断面には、微粒子間に接続部分21が多く存在し、個々の粒子径を測定しにくい場合がある。その場合は、微粒子20の平均粒子径を、粒子の水平断面のSEM写真を画像処理することで測定しやすくなる。
【0041】
以上のように本実施例では、複数の枝分かれ構造の第一の疎膜層19aおよび第二の疎膜層19bが基材18から表層に向かってアルミニウムの複数の微粒子20が連なって形成され、かつ、夫々複数の枝に枝分かれして形成されているために、コンデンサとしてみた場合に、液(ポリマー等)の含浸性に優れる。
【0042】
なお、上記(2)の工程では、その他の例として、酸素ガスおよびアルゴンガスを流入させずに蒸着を行ってもよい。
【0043】
また、その他の例として、上記(5)〜(7)の工程では、第二の疎膜層19bが第一の疎膜層19aの表面から段階的に粒子径が小さくなるように形成するため、上記(2)、(3)の条件から酸素ガスに対してアルゴンガスの流量比を2〜4、不活性ガスを流入して基材18周辺の圧力を20〜30Pa、基材18の温度を150〜200℃の範囲に段階的に変化させてもよい。
【0044】
以上のプロセスで疎膜層19を形成することができる。本実施例では、疎膜層19の膜厚は、片面で20μm以上80μm以下とした程度とし、基材18の両面に形成した。疎膜層19は片面のみに形成してもよい。疎膜層19の厚みは20μm以上の膜厚とすることで、容量の大きいコンデンサ7を実現できる。80μm以下としたのは、この厚みが本実施例における蒸着プロセスで精度よく形成できる限界厚みだからである。なお、本実施例では、疎膜層19を形成するプロセスとして蒸着を例に挙げたが、本実施例のような複数の微粒子20が連なり、それぞれの微粒子20間に隙間が形成された疎な構造体が形成できれば、蒸着以外の手法を用いてもよい。
【0045】
以下、本実施例の誘電膜8の形成方法について、説明する。
【0046】
本実施例では、誘電膜8を湿式法の一例であるめっき法により形成した。めっき法は、無電解めっき法、電解めっき法のいずれでもよいが、本実施例では、電解めっき法を用いた。
【0047】
すなわち本実施例では、溶液中にチタンフッ化アンモニウムなどのチタン化合物、pH調整剤や還元剤などの各種添加剤を溶解させておき、その溶液に基材18を浸漬し、外部電源を用いて電位を制御することで、誘電膜8を析出することができる。
【0048】
このとき、チタン以外であっても誘電体材料となりうる元素の化合物を溶解させておけば、種々の材料からなる誘電膜8を形成することができる。
【0049】
例えばシリコン化合物を溶解させておけば、高耐圧な誘電膜8を形成することができる。
【0050】
また電解めっき法の場合、析出時間を制御すれば、誘電膜8の厚みを適宜調整することができる。例えば誘電膜8の厚みを薄くすれば、容量の大きな電極箔とすることができる。
【0051】
以上のように形成することで、膜厚0.01μm〜0.1μm程度の誘電膜8を形成できる。
【0052】
下記の(表1)において、本実施例における誘電膜8と、陽極酸化によって形成した従来の誘電膜とを対比した。
【0053】
比較したのは、夫々の誘電膜の誘電率と、これらの誘電膜を形成した後の、微粒子間の接続部分の直径である。この接続部分には、誘電膜が形成された部分を含まないものとした。すなわち微粒子の主成分であるアルミニウム部分の直径を測定したものである。容量値、LC値(漏れ電流値)は、電極箔の値である。電極箔は、それぞれ疎膜層を片面に形成したものであり、疎膜層の厚みはそれぞれ約30μmとした。
【0054】
なお従来の誘電膜は、本実施例の電極箔9と同様の方法によって疎膜層3を蒸着により形成した後、化成電圧5V、保持時間20分、7%アジピン酸アンモニウム水溶液、70℃、0.05A/cm2で化成を行い、測定条件としては、インピーダンスアナライザーを用い、8%ホウ酸アンモニウム水溶液、30℃、測定面積10cm2、測定周波数120Hzで行ったものである。
【0055】
【表1】

【0056】
本実施例の効果を以下に説明する。
【0057】
本実施例の電極箔9を用いると、コンデンサ7の漏れ電流を500μAから300μAまで低減することができる。
【0058】
その理由は、誘電膜8を疎膜層19の微粒子20とは異種の金属の化合物で形成したからである。
【0059】
すなわち微粒子20をランダムに積み上げた疎膜層19は、元来、機械的強度の弱い構造である。さらに従来の誘電膜は、陽極酸化により形成していたため、微粒子(図6の図番4)の外表面だけでなく、微粒子4の内側を侵食するように劈開性の高い誘電膜が形成され、さらに折れやすくなる。特に微粒子4間の接続部分5は、陽極酸化により直径が細くなり、欠損は顕著となる。そしてこのように折れた部分には金属面が露出して、陰極層と陽極層との電気的パスとなることがある。
【0060】
これに対し本実施例の誘電膜(図3の図番8)は、陽極酸化法を用いずに形成されるものであり、微粒子20の外表面に積層するように形成される。
【0061】
したがって本実施例では、誘電膜8は微粒子20の内側を侵食することなく形成され、接続部分21が過剰に細くなるのを防ぐことが出来る。さらにこの誘電膜8自体が微粒子20の外表面を補強する保護層として働く。よって折れやすい微粒子20間のくびれ部分(接続部分21)においても欠損を抑制し、結果として漏れ電流の少ないコンデンサ7を実現できる。
【0062】
なお本実施例のように、疎膜層19を厚み20μm以上でかつ空孔径が0.1μm以下となるように形成すると、機械的強度の弱い微粒子20間の接続部分21が多数個形成されることになる。したがって本実施例のように、疎膜層19の強度を上げることは有用である。
【0063】
さらに本実施例のようにコンデンサ7では、電解質として固体の導電性高分子を用いているため、微粒子20が欠損し、一旦金属面が露出すると、誘電膜8を修復する作用がない。したがって本実施例のように、誘電膜8を用いて疎膜層19の機械的強度を高めることは、漏れ電流を低減し、高耐圧の電解コンデンサを実現するのに効果がある。
【0064】
また、本実施例における誘電膜8は、物理蒸着やスパッタ、化学蒸着等のドライ雰囲気下で形成してもよいが、このような乾式法で形成すると、本実施例のような複数に枝分かれした構造体の疎膜層19に、均一に誘電膜8を形成する事は難しく、誘電膜8が不連続となりやすい。これに対し本実施例では、液系の存在下で成膜する湿式のめっき法により形成したため、乾式法で形成した場合と比較して、均一に膜を形成しやすい。さらに本実施例では、湿式法により誘電膜8を形成したため、複数の微粒子20が接続したくびれ部分(接続部分21)の外表面にも、ほぼ連続的に形成でき、漏れ電流を低減することができる。
【0065】
さらに湿式法には、LPD法(Liquid Phase Deposition法)、ゾルゲル法、めっき法など種々あるが、特にめっき法のうち電解めっき法であれば、疎膜層19の立体的な構造に問わず、導電性の微粒子20上に形成できるため、より連続的で均一な膜厚の誘電膜8が形成できる。まためっき法で微粒子20の主成分とは異なる金属を形成し、その後析出した金属のみを例えば陽極酸化することで、誘電膜8を形成することも可能である。
【0066】
なお、成分分析をすれば、LPD法で形成する場合は、誘電膜8内にフッ素、ゾルゲル法で形成する場合は炭素、めっき法の場合は、窒素や炭素などの元素が不純物として残留する。また湿式法で形成する場合は、乾式で形成する場合と比較し、誘電膜8に混入する水酸化物の割合が多くなっていることが分かる。
【0067】
また本実施例で用いた湿式法は、乾式法よりも設備が簡易であり、生産コストを下げることができる。
【0068】
なお、本実施例では、疎膜層19は、複数の微粒子20が不規則に連なった疎な構造体であるが、例えば微粒子20を成長させ、柱状に積み上げた構造体や、塊状に積層した緻密な構造体の疎膜層においても、湿式法を用いることで、連続的で均一な誘電膜を効率よく生産することができる。
【0069】
また本実施例の電極箔9を用いれば、コンデンサの容量の低減を抑制できる。すなわち従来は誘電膜8を陽極酸化で形成していたため、誘電膜8が微粒子20の内側へ侵食するように形成され、微粒子20間の接続部分21が誘電体で繋がってしまうことがあった。このように微粒子20間が絶縁体の誘電体で繋がると、容量の低下の要因となる。これに対し本実施例では、誘電膜8を疎膜層19の微粒子20とは異種の金属の酸化物で形成したため、陽極酸化で形成するものではない。したがって疎膜層19の内側への浸食は殆どなく、微粒子20の外表面に積層するように形成される。よって本実施例では、微粒子20間の接続部分21の絶縁を抑制し、結果として大容量のコンデンサを実現できる。
【0070】
さらに本実施例の電極箔9では、誘電膜8を、疎膜層19の主成分となる金属とは異なる金属の化合物で形成したため、誘電率や成膜プロセスによって自由に材料を選択できる。したがって、誘電膜8の誘電率を高めたり、あるいは誘電膜8を薄くしたりすることによって、大容量のコンデンサを効率よく生産できる。
【0071】
すなわち上記の(表1)に示すように、従来酸化アルミニウム皮膜を誘電膜とした場合は、酸化アルミニウムの誘電率が10であり、その電極箔の静電容量は2000μmFであったのに対し、本実施例では、二酸化チタンを誘電膜8として用いることで、誘電率を40にまで高め、静電容量を2800μFまで高めることができた。
【0072】
また本実施例では、疎膜層19の表層側(疎膜層19b側)の粒径を根元よりも小さくしたため、より根元側(疎膜層19a側)にまで液が到達しやすく、連続的で均一な誘電膜8を形成しやすくなる。
【0073】
(実施例2)
本実施例では、上記実施例1と同様の電極箔を用いた、別の種類の電解コンデンサについて説明する。この電解コンデンサは、電解質として導電性溶液を用いたものである。
【0074】
図5に示すように、本実施例の電解コンデンサ22は、表面に誘電膜(図示せず)が形成された陽極用の第1の電極箔(以下陽極箔23という)と、陰極用の第2の電極箔(以下陰極箔24という)とを、陽極箔23に形成された誘電膜と陰極箔24との間にセパレータ25を介して巻回したものをコンデンサ素子26とし、このコンデンサ素子26を駆動用電解液とともにケース27に入れたものである。駆動用電解液は、セパレータ25に含浸させ、誘電膜と陰極箔24に接触させている。
【0075】
本実施例の陽極箔23は、実施例1と同様に、基材と、この基材上に複数の微粒子が連なり、複数に枝分かれしたツリー構造体からなる疎膜層と、この疎膜層上に形成された誘電膜とからなる。
【0076】
またこの電解コンデンサ22は、陽極箔23に形成した誘電膜と微粒子の一部を削り取り、露出させた基材の表面に陽極リード端子28を接合させている。さらに陰極箔24に陰極リード端子29を接合させている。
【0077】
さらにケース27の開口部は、ゴム製の封止材30で封止し、封止材30に陽極リード端子28、陰極リード端子29を挿入して露出させている。
【0078】
本実施例では、たとえば陰極箔24として、エッチングしたアルミニウム箔、駆動用電解液として酢酸、シュウ酸、蟻酸等、セパレータ25として、マニラ麻、クラフト、ヘンプ、エスパルト等のセルロース繊維を用いることができる。
【0079】
このような本実施例におけるコンデンサ22においても、上記実施例1と同じ陽極箔23を用いたため、もともとの疎膜層の機械的強度に起因する疎膜層の欠損を抑制し、漏れ電流を低減できる。また誘電膜が微粒子の内側に形成されることによる微粒子間の絶縁化を抑制し、容量の低下を低減することができる。
【0080】
なお、本実施例では、巻回型の電解コンデンサを例に挙げたが、その他積層型であってもよい。また本実施例では、電解液として駆動用電解液のみを用いたが、陽極箔23の誘電膜上に固体電解質層を形成し、駆動用電解液と併用してもよい。
【0081】
その他実施例1と同様の構成および効果については、説明を省略する。
【0082】
以上のように上記実施例1、2では、本発明による電極箔をコンデンサの電極箔として用いたが、電極箔はコンデンサ以外にも応用が可能である。
【0083】
なお、上記実施例1、2ではコンデンサの電極を例に挙げたが、例えば誘電膜を二酸化チタンで構成し、基材として導電性ガラスやアルミニウムを用い、さらにルテニウム錯体などの色素や電解質を用いれば、色素増感太陽電池などの電極として利用することができる。
【0084】
また誘電膜を二酸化チタンで構成し、二酸化チタンの光触媒作用による有機物や有害物質の分解機能を利用した抗菌・消臭・水質浄化用品にも利用できる。
【0085】
この場合は、疎膜層で表面積を拡大させているため、抗菌・消臭・水質浄化機能を高めることができるとともに、疎膜層の機械的強度が高く、信頼性に富むアプリケーションを実現できる。その他ガスセンサーなど種々の電極として利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明による電極箔は、小型大容量化でかつ、漏れ電流が少なく、高耐圧な電解コンデンサ薄膜化を実現できる。また本発明による電極箔は、機械的強度が強く、高い信頼性の必要なアプリケーションに応用可能である。
【符号の説明】
【0087】
6 コンデンサ素子
7 コンデンサ
8 誘電膜
9 電極箔
10 陽極電極部
11 レジスト部
12 陰極電極部
13 固体電解質層
14 陰極層
15 陽極コム端子
16 陰極コム端子
16a 折り曲げ部
17 外装樹脂体
18 基材
19 疎膜層
19a 疎膜層
19b 疎膜層
20 微粒子
21 接続部分
22 コンデンサ
23 陽極箔
24 陰極箔
25 セパレータ
26 コンデンサ素子
27 ケース
28 陽極リード端子
29 陰極リード端子
30 封止材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
この基材上に形成された疎膜層と、
この疎膜層上に形成された誘電膜とを備え、
前記疎膜層は、前記基材の表面から金属または金属化合物の少なくともいずれか一方からなる微粒子が不規則に複数個連なって構成されるとともに、内部に多数の空間を有する疎な構造体であり、
前記誘電膜は、前記疎膜層の微粒子の主成分とは異なる金属の化合物で構成された電極箔。
【請求項2】
前記誘電膜は、前記複数の微粒子同士が結合した接続部分を除く各微粒子の表面に形成された請求項1に記載の電極箔。
【請求項3】
前記疎膜層は、
複数の枝に枝分かれした構造体である請求項1に記載の電極箔。
【請求項4】
前記疎膜層の空孔径の最頻値は、
0.01μm以上0.1μm以下である請求項1に記載の電極箔。
【請求項5】
前記複数の微粒子が結合した接続部分は、くびれている請求項1に記載の電極箔。
【請求項6】
くびれた前記接続部分の外表面に、前記誘電膜が形成されている請求項5に記載の電極箔。
【請求項7】
基材上に疎膜層を形成する第一の工程と、この疎膜層上に誘電膜を形成する第二の工程とを備え、
前記第一の工程では、前記基材の表面から金属または金属化合物の少なくともいずれか一方からなる微粒子を複数個不規則に連なるように積層させ、内部に複数の空間を有する疎な構造体を形成するとともに、
前記第二の工程では、前記疎膜層の表面を、この疎膜層の前記微粒子の主成分とは異なる金属の化合物で被覆して前記誘電膜を形成する電極箔の製造方法。
【請求項8】
前記第二の工程では、湿式法で前記誘電膜を形成する請求項7に記載の電極箔の製造方法。
【請求項9】
基材上に疎膜層を形成する第一の工程と、この疎膜層上に誘電膜を形成する第二の工程とを備え、
前記第一の工程では、前記基材の表面から金属または金属化合物の少なくともいずれか一方からなる微粒子を積層させ、
前記第二の工程では、湿式法を用い、前記疎膜層の表面を、この疎膜層の前記微粒子の主成分とは異なる金属の化合物で被覆して前記誘電膜を形成する電極箔の製造方法。
【請求項10】
表面に誘電膜が形成された電極箔と、前記誘電膜上に形成された導電性高分子からなる固体電解質層と、この固体電解質層上に形成された陰極層とを有するコンデンサ素子を備え、
前記電極箔は、
基材およびこの基材上に形成された疎膜層からなる陽極層と、前記疎膜層上に形成された前記誘電膜とを有し、
前記疎膜層は、前記基材の表面から金属または金属化合物の少なくともいずれか一方からなる微粒子が複数個不規則に連なって構成されるとともに、内部に複数の空間を有する疎な構造体であり、
前記誘電膜は、前記疎膜層の微粒子の主成分とは異なる金属の化合物で構成されている、コンデンサ。
【請求項11】
表面に誘電膜が形成された第一の電極箔と、前記誘電膜と第二の電極箔との間に設けられたセパレータとを有するコンデンサ素子と、
前記セパレータに含浸されて前記誘電膜と前記第二の電極箔に接触する駆動用電解液と、
この駆動用電解液および前記コンデンサ素子を収容するケースと、
を少なくとも備え、
前記第一の電極箔は、
基材と、この基材上に形成された疎膜層とからなる電極層と、前記疎膜層上に形成された前記誘電膜とを有し、
前記疎膜層は、前記基材の表面から金属または金属化合物の少なくともいずれか一方からなる微粒子が複数個不規則に連なるとともに、内部に複数の空間を有する疎な構造体であり、
前記誘電膜は、前記疎膜層の微粒子の主成分とは異なる金属の化合物で構成されている、コンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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