説明

電極芯体の製造方法、非焼結式ニッケル極の製造方法、電極芯体、非焼結式ニッケル極

【課題】製造効率を低下させることなく、優れた高率放電特性が得られるアルカリ蓄電池を製造できるようにする。
【解決手段】正極芯体7の製造には、有機繊維からなる繊維ウェブを用いる。不織布は、繊維ウェブに対し、まず長手方向の引張強度より幅方向の引張強度の方が高くなるように、繊維の配向性を制御する処理及び熱処理を行う。処理後の不織布は、多数の繊維が幅方向へ向いた状態となる。つづいて処理後の不織布に金属材料をめっきし、めっき後の不織布を加熱して有機繊維を融解する。これにより、金属めっきの骨格のみが残る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ蓄電池等に用いられる電極芯体、非焼結式ニッケル極に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルカドミウム二次電池、ニッケル水素二次電池等のアルカリ蓄電池の一例としては、例えば電極群及びアルカリ電解液を収容した円筒形状の外装缶を安全弁付きの蓋体で密封したものが一般的に知られている。このようなアルカリ蓄電池において電極群は、例えばセパレータを間に介在させて重ねた帯状の負極板と正極板とを渦巻状に巻回したものが用いられる。正極板は、例えば非焼結式ニッケル極が用いられる。非焼結式ニッケル極は、例えば3次元の網目形状の構造を有するニッケル製の金属多孔体(電極芯体)と、金属多孔体に保持された正極合剤とから構成される。正極合剤は、例えば正極活物質である水酸化ニッケル粒子と、添加剤粒子と、これら粒子を結着するバインダとを含んでいる。
【0003】
ニッケル製の金属多孔体の一例としては、スポンジ状の金属多孔体が公知である。このスポンジ状の金属多孔体は、例えば発泡ウレタンに金属めっきを施し、これを加熱して発泡ウレタンを融解させることで製造することができる。
【0004】
またニッケル製の金属体の他の一例としては、金属繊維によって構成された網目構造の金属多孔体が公知である。このような金属多孔体は、例えば有機材料からなる不織布に金属めっきを施し、これを加熱して不織布を融解させることで製造することができる(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−140676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スポンジ状の金属多孔体は、その構造上、電気抵抗の縦横比(幅方向/長手方向)は、1.0〜1.2程度になることが一般的である。また特許文献1に開示されている金属繊維によって構成された網目構造の金属多孔体は、構成する樹脂からなる不織布の繊維の配向を等方的にすることにより、電気抵抗の縦横比(幅方向/長手方向)が1.3以下になるようにしている。したがって従来の金属多孔体からなる非焼結式ニッケル極を用いたアルカリ蓄電池は、金属多孔体の幅方向を集電方向として製造しても長手方向を集電方向として製造しても、その高率放電特性は略同じであるため、優れた高率放電特性は得られない場合が多い。
【0007】
また金属繊維によって構成された網目構造の金属多孔体は、従来、その製造に用いられる不織布の構造に起因して、長手方向の電気抵抗より幅方向の電気抵抗の方が高くなる傾向となる。これは一般的な不織布の繊維が製造方向、すなわち長手方向に向きやすいことによるものであり、それによって金属多孔体の金属繊維も長手方向に向くこととなるからである。そのため金属繊維によって構成された網目構造の金属多孔体を用いる場合、より良好な高率放電特性が得られるアルカリ蓄電池を製造するためには、金属多孔体の長手方向を集電方向とする必要があり、それによってアルカリ蓄電池の製造効率が大幅に低下してしまうという課題が生ずる。
【0008】
このような状況に鑑み本発明はなされたものであり、その目的は、製造効率を低下させることなく、優れた高率放電特性が得られるアルカリ蓄電池を製造できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
<本発明の第1の態様>
本発明の第1の態様は、有機材料からなる繊維を含む繊維ウェブに対し、長手方向の引張強度より幅方向の引張強度の方が高くなるように、繊維の配向性を制御する処理及び熱処理を行って不織布を作製する工程と、前記不織布に金属材料をめっきする工程と、加熱して前記不織布を構成する有機材料を融解し、金属繊維によって構成された網目構造とする工程と、を含む電極芯体の製造方法である。
【0010】
不織布は、より多くの繊維が向いている方向の引張強度が相対的に高くなる。したがって長手方向の引張強度より幅方向の引張強度の方が高くなるように、繊維の配向性を制御する処理及び熱処理を行って作製した不織布は、より多くの繊維が幅方向へ向いている状態となっている。そのため、この不織布に金属材料をめっきした後、加熱して不織布を構成する有機材料を融解することで得られる電極芯体は、より多くの金属繊維が幅方向へ向いている状態となり、それによって長手方向の電気抵抗より幅方向の電気抵抗の方が低くなる。
【0011】
すなわち本発明の第1の態様によれば、長手方向の電気抵抗より幅方向の電気抵抗の方が低い電極芯体を効率的に製造することができる。そして上記の電極芯体の長手辺に集電部を設けて、より電気抵抗が低い、すなわちより導電性が高い幅方向を集電方向としてアルカリ蓄電池を製造することによって、優れた高率放電特性が得られるアルカリ蓄電池を効率的に製造することが可能になる。
【0012】
これにより本発明の第1の態様によれば、製造効率を低下させることなく、優れた高率放電特性が得られるアルカリ蓄電池を製造できるという作用効果が得られる。
また本発明の第1の態様によれば、製造された電極芯体の導電性が高い幅方向を集電方向とすることによって、この電極芯体に充填する活物質の利用率が向上する。したがって製造効率を低下させることなく、より長寿命なアルカリ蓄電池を製造できるという作用効果が得られる。
【0013】
<本発明の第2の態様>
本発明の第2の態様は、前述した本発明の第1の態様において、前記繊維ウェブの繊維の配向性を制御する処理及び熱処理は、前記不織布の幅方向の引張強度が長手方向の引張強度の2.5〜6.0倍になるように行う、ことを特徴とした電極芯体の製造方法である。
【0014】
電極芯体の長手方向に対する幅方向の電気抵抗は、不織布の長手方向に対する幅方向の引張強度が相対的に高いほど、相対的に低くなるため好ましい。他方、不織布の長手方向に対する幅方向の引張強度を相対的に高くしていくと、それによって電極芯体の長手方向における曲げ強度が低下していくため、巻いた状態で電極群を構成してアルカリ蓄電池を製造する際に、破断等が生じて不良品が発生する虞が高まることになる。
【0015】
本発明の第2の態様によれば、不織布の長手方向に対する幅方向の引張強度が適切な範囲となるように、繊維の配向性を制御する処理及び熱処理を繊維ウェブに対して行うことによって、より優れた高率放電特性が得られるアルカリ蓄電池をより効率的に製造することができる。
【0016】
<本発明の第3の態様>
本発明の第3の態様は、有機材料からなる繊維を含む繊維ウェブに対し、長手方向の引張強度より幅方向の引張強度の方が高くなるように、繊維の配向性を制御する処理及び熱処理を行って不織布を作製する工程と、前記不織布に金属材料をめっきする工程と、加熱して前記不織布を構成する有機材料を融解し、金属繊維によって構成された網目構造とする工程と、水酸化ニッケルを主体とする活物質を充填する工程と、長手辺に集電部を設ける工程と、を含む非焼結式ニッケル極の製造方法である。
【0017】
本発明の第3の態様によれば、長手方向の電気抵抗より幅方向の電気抵抗の方が低い非焼結式ニッケル極を効率的に製造することができる。そして上記の非焼結式ニッケル極の長手辺に集電部を設けて、より電気抵抗が低い、すなわちより導電性が高い幅方向を集電方向とすることによって、優れた高率放電特性が得られるアルカリ蓄電池を効率的に製造することが可能になる。
【0018】
これにより本発明の第3の態様によれば、製造効率を低下させることなく、優れた高率放電特性が得られるアルカリ蓄電池を製造できるという作用効果が得られる。
また本発明の第3の態様によれば、製造された非焼結式ニッケル極は集電方向の導電性が高いため、活物質の利用率が向上する。したがって製造効率を低下させることなく、より長寿命なアルカリ蓄電池を製造できるという作用効果が得られる。
【0019】
<本発明の第4の態様>
本発明の第4の態様は、前述した本発明の第3の態様において、前記繊維ウェブの繊維の配向性を制御する処理及び熱処理は、前記不織布の幅方向の引張強度が長手方向の引張強度の2.5〜6.0倍になるように行う、ことを特徴とした非焼結式ニッケル極の製造方法である。
本発明の第4の態様によれば、不織布の長手方向に対する幅方向の引張強度が適切な範囲となるように、繊維の配向性を制御する処理及び熱処理を繊維ウェブに対して行うことによって、より優れた高率放電特性が得られるアルカリ蓄電池をより効率的に製造することができる。
【0020】
<本発明の第5の態様>
本発明の第5の態様は、金属繊維によって構成された網目構造を有し、長手方向の電気抵抗より幅方向の電気抵抗の方が低い電極芯体である。
本発明の第5の態様によれば、前述した本発明の第1の態様と同様の作用効果が得られる。
【0021】
<本発明の第6の態様>
本発明の第6の態様は、前述した本発明の第5の態様において、幅方向の電気抵抗は、長手方向の電気抵抗の2/3〜1/4である、ことを特徴とした電極芯体である。
本発明の第6の態様によれば、前述した本発明の第2の態様と同様の作用効果が得られる。
【0022】
<本発明の第7の態様>
本発明の第7の態様は、前述した本発明の第5の態様又は第6の態様の電極芯体と、前記電極芯体に充填され、水酸化ニッケルを主体とする活物質と、前記電極芯体の長手片に設けられた集電部と、を備える非焼結式ニッケル極である。
本発明の第7の態様によれば、前述した本発明の第3の態様又は第4の態様と同様の作用効果が得られる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、製造効率を低下させることなく、優れた高率放電特性が得られるアルカリ蓄電池を製造できるという作用効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】ニッケル水素二次電池の縦断面を図示した斜視図。
【図2】ニッケル水素二次電池における正極板と正極集電板及び負極板と負極集電板との接続部を示す断面図。
【図3】図1のA−A線におけるニッケル水素二次電池の横断面図。
【図4】繊維の配向性を制御する処理及び熱処理行った後の不織布の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0026】
<ニッケル水素二次電池の構成>
ニッケル水素二次電池の構成について、図1〜図3を参照しながら説明する。
図1は、ニッケル水素二次電池の縦断面を図示した斜視図である。図2は、ニッケル水素二次電池の横断面を図示した平面図である。図3は、図1のA−A線におけるニッケル水素二次電池の横断面図である。
【0027】
「アルカリ蓄電池」の一例である円筒型のニッケル水素二次電池は、一端が開口した円筒状の外装缶2を備え、外装缶2は導電性を有している。外装缶2の中には、アルカリ電解液(図示せず)とともに略円筒状の電極群4が収容されている。電極群4は、それぞれ帯状の正極板6及び負極板8がセパレータ10を挟んで渦巻き状に巻回して形成されている。外装缶2の開口は蓋体14によって閉塞されている。
【0028】
蓋体14は、蓋板16、絶縁ガスケット18、弁体20、正極端子22及び圧縮コイルばね24を含む。蓋板16は、略円形をなし、中央に弁孔16aが設けられている。蓋板16は、絶縁ガスケット18が介装された状態で、外装缶2に開口縁をかしめ加工することによって外装缶2に固定されている。弁体20は、ゴムと金属板とを張り合わせた部材であり、弁孔16aを閉塞するように蓋板16の外面上に設けられている。正極端子22は、フランジ付きの円筒形状をなし、弁体20を覆うように固定されている。圧縮コイルばね24は、正極端子22内に収容されており、弁体20を付勢している。
【0029】
正極リード26は、折り曲げられた状態で設けられており、蓋板16の内面に一端が溶接され、正極集電板28に他端が溶接されている。正極集電板28は、電極群4の一端側において正極板6と電気的に接続されている。より具体的には、正極集電板28側の正極芯体7の端部には連結部30が形成されている。連結部30の径方向内面には、例えばニッケルリボン等からなる帯状の金属薄板32が溶接又は導電性接着剤によって接合され固定されている。金属薄板32は、ニッケル水素二次電池の軸線方向で視て連結部30から正極集電板28側に突出しており、正極集電板28に当接している。このようにして正極集電板28と正極板6とは、正極芯体7の端部に接合した金属薄板32を介して電気的に接続されている。
【0030】
負極板8は、ニッケル水素二次電池の負極端子をなす外装缶2の内周面に接した状態で、その外装缶2と電気的に接続されている。
【0031】
<正極板>
正極板6は、非焼結式ニッケル極であり、「電極芯体」としての正極芯体7と、正極芯体7に保持された正極合剤とからなる。正極芯体7は、耐アルカリ性を有する金属材料からなり、金属繊維によって構成されたフェルト状の3次元の網目構造を有する。耐アルカリ性を有する金属材料としては、例えばニッケルを用いることができる。正極合剤は、正極活物質粒子と、正極板の特性を改善するための種々の添加剤粒子と、これら正極活物質粒子及び添加剤粒子の混合粒子を正極芯体7に結着するための結着剤とからなる。
【0032】
正極活物質粒子は水酸化ニッケル粒子である。水酸化ニッケル粒子は、ニッケルの平均価数が2よりも大の高次水酸化ニッケル粒子であってもよい。また水酸化ニッケル粒子は、コバルト、亜鉛、カドミウム等を固溶していてもよく、あるいはコバルト化合物で表面が被覆されていてもよい。
【0033】
添加剤は、酸化イットリウムの他に、酸化コバルト、金属コバルト、水酸化コバルト等のコバルト化合物、金属亜鉛、酸化亜鉛、水酸化亜鉛等の亜鉛化合物、酸化エルビウム等の希土類化合物等を用いることができる。
【0034】
結着剤は、親水性若しくは疎水性のポリマー等をそれぞれ用いることができる。より具体的には結着剤は、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、及び、ポリアクリル酸ナトリウム(SPA)のうちから選択される1種以上を使用することができる。結着剤は、例えば正極活物質粒子100質量部に対して0.1質量部以上0.5質量部以下となるようにすればよい。
【0035】
<負極板>
負極板8は、帯状をなす導電性の負極芯体9を有している。負極芯体9には負極合剤が保持されている。負極芯体9は、複数の貫通孔を有するシート状の金属材からなり、例えばパンチングメタル、金属粉末焼結体基板、エキスパンデッドメタル、ニッケルネット等を用いることができる。特にパンチングメタルや金属粉末を成型してから焼結した金属粉末焼結体基板は負極芯体9に好適である。
【0036】
負極合剤は、負極活物質としての水素を吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金粒子と、結着剤とからなる。水素吸蔵合金粒子は、電池の充電時にアルカリ電解液中で電気化学的に発生させた水素を吸蔵でき、かつ放電時にその吸蔵水素を容易に放出できるものであればよい。このような水素吸蔵合金としては、特に限定されないが、例えばLaNiやMmNi(Mmはミッシュメタル)等のAB型系のものを用いることができる。また負極合剤は、水素吸蔵合金に代えて、例えばカドミウム化合物を用いることもできる。結着剤は、例えば親水性若しくは疎水性のポリマー等を用いることができる。
【0037】
<セパレータ>
セパレータ10は、例えばポリアミド繊維製不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維製不織布に親水性官能基を付与したものを材料として用いることができる。
【0038】
<正極芯体の製造方法>
金属繊維によって構成されたフェルト状の3次元の網目構造を有する正極芯体7の製造方法について説明する。
【0039】
正極芯体7の製造には、まず有機材料からなる繊維(以下、「有機繊維」ともいう。)を含む繊維ウェブを作製する。有機繊維としては、例えばPE(ポリエチレン)とPP(ポリプロピレン)等のポリオレフィン、PET(ポリエチレンテレフタレート)等のポリエステル、Ny6(ナイロン6)等のポリアミドの樹脂を二以上組み合わせた混合繊維、複合繊維を用いることができる。その中でも高融点樹脂を含む芯成分と、その芯成分よりも低融点の樹脂を含む鞘成分とで構成される芯鞘型複合繊維を有機繊維として用いれば、熱処理したときに高い熱接着強度が得られるため、好ましい。より具体的な芯成分と鞘成分との組み合わせとしては、例えばPPとPE、PETとPEが挙げられる。
【0040】
上記の繊維ウェブは、例えばカード法、エアレイド法等の乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法等により上記の有機繊維を加工することによって製造することができる。
【0041】
本発明に用いる不織布は、上記の繊維ウェブに対し、長手方向の引張強度より幅方向の引張強度の方が高くなるように、繊維の配向性を制御する処理及び熱処理を行うことによって製造することができる。繊維の配向性を制御する方法としては、例えば繊維ウェブをクロスレイヤーにより積層する方法、繊維ウェブを幅方向に拡幅する方法、水流交絡処理やニードルパンチ処理等の二次加工を行う方法、及びこれらの方法を組み合わせて用いる方法が挙げられる。その中でも繊維ウェブをクロスレイヤーにより積層する方法は、繊維が比較的長手方向に配向している繊維ウェブを、その繊維ウェブと交差する方向へ走行するコンベア等の搬送体の上に、所定間隔で連続的に折り返し供給して積層する方法であるため、得られる不織布は幅方向に対する繊維の配向性が高くなるので、好ましい。不織布の長手方向及び幅方向の引張強度の調整は、搬送体の搬送速度、クロスレイヤーの供給速度等を調整することによって行うことができる。
【0042】
繊維ウェブに対する熱処理は、有機繊維を熱接着したときの熱接着強度が高いほど、作製された不織布の幅方向の引張強度が高くなる傾向となる。繊維ウェブに対する熱処理としては、例えば熱風貫通式、熱風上下吹き付け式等のエアスルー法、熱ロール法、赤外線照射法、これらの方法を組み合わせた方法を用いることができる。その中でもエアスルー法は、繊維同士の交絡により形成される空隙が確保されるので、好ましい。
【0043】
繊維の配向性を制御する処理及び熱処理を行った後の不織布は、図4に図示したように多数の繊維が幅方向へ向いた状態となる。不織布の目付量は、例えば25g/m以上60g/m以下の範囲にあるのが好ましい。
【0044】
つづいて処理後の不織布に金属材料をめっきし、めっき後の不織布を加熱して不織布を融解する。より具体的には、金属めっきされた不織布を酸化雰囲気で加熱し、有機材料を加熱・分解する。これにより、金属めっきの骨格のみが残る。そして、この骨格を還元雰囲気で加熱(焙焼)することによって、金属繊維によって構成されたフェルト状の3次元の網目構造を有する正極芯体7を製造することができる。
【0045】
上記の製造方法により製造された正極芯体7は、不織布の有機繊維の外形形状を複製した多数の金属繊維によって構成されることになる。さらに正極芯体7は、不織布の有機繊維同士の接合部の外形形状をも複製しており、金属繊維同士が接合されている。また正極芯体7の単位面積当たりの質量、すなわち目付量は、250g/m以上400g/m以下の範囲にあるのが好ましい。
【0046】
不織布は、より多くの繊維が向いている方向の引張強度が相対的に高くなる。したがって長手方向の引張強度より幅方向の引張強度の方が高くなるように、繊維の配向性を制御する処理及び熱処理を行った後の不織布は、より多くの繊維が幅方向へ向いている状態となっている。そのため、この不織布に金属材料をめっきした後、加熱して不織布を融解することで得られる正極芯体7は、より多くの金属繊維が幅方向へ向いている状態となり、それによって長手方向の電気抵抗より幅方向の電気抵抗の方が低くなる。
【0047】
すなわち上記の製造方法によれば、長手方向の電気抵抗より幅方向の電気抵抗の方が低い正極芯体7を効率的に製造することができる。そして上記の正極芯体7の長手辺に「集電部」としての連結部30及び金属薄板32を設けて、より電気抵抗が低い、すなわちより導電性が高い幅方向を集電方向としてニッケル水素二次電池を製造することによって、優れた高率放電特性が得られるニッケル水素二次電池を効率的に製造することが可能になる。
【0048】
したがって本発明によれば、製造効率を低下させることなく、優れた高率放電特性が得られるニッケル水素二次電池を製造できる。また正極芯体7の導電性が高い幅方向を集電方向とすることによって、この正極芯体7に充填する活物質の利用率が向上する。したがって製造効率を低下させることなく、より長寿命なニッケル水素二次電池を製造できる。
【0049】
さらに不織布の長手方向に対する幅方向の引張強度が相対的に高いほど、正極芯体7の長手方向に対する幅方向の電気抵抗は相対的に低くなるため好ましい。他方、不織布の長手方向に対する幅方向の引張強度を相対的に高くしていくと、それによって正極芯体7の長手方向における曲げ強度が低下していくため、巻いた状態で電極群4を構成してニッケル水素二次電池を製造する際に、破断等が生じて不良品が発生する虞が高まることになる。
【0050】
したがって上記の製造方法において、不織布の繊維の配向性を制御する処理及び熱処理は、不織布の長手方向に対する幅方向の引張強度が適切な範囲となるように行うのが好ましく、例えば不織布の幅方向の引張強度が長手方向の引張強度の2.5〜6.0倍程度になるように行うのが好ましい。また製造された正極芯体7は、幅方向の電気抵抗が長手方向の電気抵抗の2/3〜1/4程度となるのが好ましい。それによって、より優れた高率放電特性が得られるニッケル水素二次電池をより効率的に製造することができる。
【0051】
<正極板(非焼結式ニッケル極)の製造方法>
非焼結式ニッケル極である正極板6の製造方法について説明する。
正極芯体7に正極合剤のペーストを充填して乾燥させる。つづいて乾燥後の正極芯体7を圧延して厚みを調整し、その正極芯体7の長手辺に集電部(連結部30及び金属薄板32)を設けた後、所定の寸法に裁断する。
【0052】
上記の製造方法によれば、長手方向の電気抵抗より幅方向の電気抵抗の方が低い正極板6を効率的に製造することができる。そして上記の正極板6の長手辺に集電部を設けて、より電気抵抗が低い、すなわちより導電性が高い幅方向を集電方向とすることによって、優れた高率放電特性が得られるニッケル水素二次電池を効率的に製造することが可能になる。また上記の正極板6を用いて製造したニッケル水素二次電池は、集電方向の導電性が高いことにより、正極活物質の利用率が向上する。したがって製造効率を低下させることなく、より長寿命なニッケル水素二次電池を製造できる。
【0053】
<評価試験>
以下、発明者が行った本発明の評価試験について表1を参照しながら説明する。
【0054】
1.正極板6の作製
まず繊維径20μm、繊維長51mm、芯成分がPP、鞘成分がPEの芯鞘型複合繊維を用いて、カード法(乾式法)によりカードウェブを作製した。次に長手方向の引張強度より幅方向の引張強度の方が高くなるように、繊維の配向性を制御する処理及び熱処理を行った。繊維の配向性制御としては、クロスレイヤーを用いてカードウェブを斜め方向に折り重ねるように集積し、カードウェブの集積条件、その繊維ウェブに対する水流交絡処理及び熱処理の条件を調整することによって、引張強度比が異なる目付量30g/mの不織布を複数作製した(実施例1〜8、比較例1)。
【0055】
より具体的には、例えば実施例2の不織布は、まずクロスレイヤーを用いてカードウェブを斜め方向に折り重ねるように集積して繊維ウェブを作製した。次に孔径0.1mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルを用いて、水圧0.98MPa(10kgf/cm)の柱状水流を繊維ウェブに1回噴射して水流交絡処理を施した。つづいて水流交絡処理後の繊維ウェブを、エアスルー熱処理機を用いて110℃で乾燥した。そしてエアスルー熱処理機を用いて140℃、13秒間の熱処理を行うことで、水流交絡処理後の繊維ウェブの構成繊維間を熱接着させた。実施例1、3〜8及び比較例1の不織布は、繊維ウェブの集積条件、水流交絡処理条件及び熱処理条件を変更することによって得た。実施例1〜8及び比較例1の不織布の引張強度比(幅方向の引張強度/長手方向の引張強度)は、表1に示した通りである。
【0056】
つづいて300g/mの目付量にて不織布にニッケルめっきを施した後、それを酸素の存在下で加熱することによってPP/PEの芯鞘型複合繊維を融解して分解した。そして残ったニッケルめっきを還元雰囲気下で焙焼することによって、実施例1〜8及び比較例1の正極芯体7を作製した。実施例1〜8及び比較例1の正極芯体7の抵抗値比(長手方向の抵抗値/幅方向の抵抗値)は、表1に示した通りである。
【0057】
また比較例2としては、不織布ではなく発泡ウレタンを用いた正極芯体7を作製した。より具体的には、300g/mの目付量にて発泡ウレタンにニッケルをめっきした後、それを酸素の存在下で加熱して発泡ウレタンを融解して分解し、残ったニッケルめっきを還元雰囲気下で焙焼することによって正極芯体7の比較例2を作製した。
【0058】
そして上記の実施例1〜8及び比較例1、2の正極芯体7を用いて正極板6を作製した。より具体的には、いずれかの長手辺に連結部30となる未充填部が形成されるように、正極合剤になるペーストを正極芯体7に充填し、乾燥させた。ペーストは、濃度が0.3質量%のヒドロキシプロピルセルロース水溶液30質量部を正極活物質粉末100質量部に添加混合して作製した。活物質粉末は、主成分として水酸化ニッケル粒子の表面に高導電性の被覆層が形成された粒子と、コバルト化合物とを含有するものを用いた。被覆層はナトリウムを含有する高次コバルト化合物を用いた。そして正極合剤が充填された正極芯体7を、厚さが0.5mmになるよう圧延した後、連結部30に金属薄板32を溶接し、所定寸法に裁断して正極板6を作製した。
【0059】
2.負極板8の作製
市販の金属元素をMm1.0Ni3.4Co0.8Al0.2Mn0.6となるように秤量して混合したものを高周波溶解炉にて溶解し、この溶湯を鋳型に流し込んで水素吸蔵合金インゴットを作製した。そして、このインゴットを予め粗粉砕してから、不活性ガス雰囲気中で機械的に粉砕した後、その粉末を篩い分けし、平均粒径が50μm程度の水素吸蔵合金粉末を得た。
【0060】
つづいて得られた水素吸蔵合金粉末に結着剤としてのポリエチレンオキサイド等及び適量の水を加えて混合して負極合剤になるスラリーを作製し、このスラリーをパンチングメタルからなる負極芯体9の両面に塗着して乾燥させた。そして乾燥した負極合剤が両面に保持された負極芯体9を所定の厚みに圧延した後、所定寸法に切断して負極板8を作製した。
【0061】
3.ニッケル水素二次電池の組立て
実施例1〜8及び比較例1、2の正極芯体7を用いて、実施例1〜8及び比較例1、2に対応するニッケル水素二次電池を各々作製した。
より具体的には、得られた正極板6及び負極板8を、セパレータ10として厚み0.15mmのポリプロピレン製不織布を介して渦巻状に巻回して電極群4を作製し、SCサイズの外装缶2にこの電極群4を挿入した。つづいて正極リード26を取り付けるとともに、7.0Nのアルカリ電解液を外装缶2に注液した。アルカリ電解液は、1.0NのLiOH、1.0NのNaOH、5.0NのKOHを含むものを用いた。そして外装缶2の開口縁をかしめて蓋板16を固定し、容量が3000mAhであるSCサイズの円筒形のニッケル水素二次電池を作製した。
【0062】
4.不織布の引張強度の測定方法
実施例1〜9の不織布の各々から、幅方向へ120mm、長手方向へ10mmとなる不織布ピース、及び幅方向へ10mm、長手方向へ120mmとなる不織布ピースを引張強度測定用に裁断して得た。そして不織布ピースの引張強度を各々測定し、表1に示す引張強度比を得た。
【0063】
5.正極芯体7の電気抵抗の測定方法
実施例1〜9の正極芯体7及び比較例の正極芯体7の各々から、幅方向へ120mm、長手方向へ10mmとなる芯体ピース、及び幅方向へ10mm、長手方向へ120mmとなる芯体ピースを電気抵抗測定用に裁断して得た。そして芯体ピースの電気抵抗を各々測定し、表1に示す抵抗値比を得た。
【0064】
6.ニッケル水素二次電池の評価方法
(1)高率放電試験
得られた各電池について、25℃の周囲温度にて、300mA(0.1It)の充電電流で16時間充電を行った後、30A(10It)の放電電流で0.6Vの放電終止電圧まで放電させた。この放電時に測定した各電池の平均作動電圧を高率放電作動電圧として表1に示す。
(2)サイクル試験
得られた各電池について、3A(1.0It)の充電電流でdV制御(ΔV=−10mV)にて充電し、30分の休止時間の後、9A(3.0It)の放電電流で0.8Vの終止電圧まで放電させる充放電サイクルを、放電容量が1800mAh以下になるまで繰り返し、そのサイクル数を測定した。この結果をサイクル寿命として表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
7.評価結果
抵抗値比1.3〜4.0の正極芯体7を用いた実施例1〜8は、幅方向と長手方向とで電気抵抗が等しい(抵抗値比1.0)正極芯体7を用いた比較例1よりも高率放電作動電圧が高く、サイクル寿命も長かった。これは実施例1〜8の正極板6の集電方向(幅方向)における導電性が比較例1より高いことによるものと言える。
【0067】
また抵抗値比1.5〜4.0(幅方向の電気抵抗が長手方向の電気抵抗の2/3〜1/4)の正極芯体7を用いた実施例2〜8は、発泡ウレタンを用いて作製した正極芯体7を用いた比較例2よりも高率放電作動電圧が高く、サイクル寿命も長かった。これは実施例2〜8の正極板6の集電方向(幅方向)における導電性が比較例2より高いことによるものと言える。
【0068】
尚、抵抗値比が4.3となる正極芯体7も作製したが、長手方向(巻き方向)における金属繊維の数が相対的に少ないことから、巻回して電極群4を作製する際に正極板6が破断してしまったため、評価試験ができなかった。
【0069】
<他の実施例、変形例>
本発明は、上記説明した実施例に特に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変形が可能であること言うまでもない。
例えば、アルカリ蓄電池の機械的な構造は、図1〜図3に図示したニッケル水素二次電池に特に限定されない。
【符号の説明】
【0070】
2 外装缶
4 電極群
6 正極板
7 正極芯体
8 負極板
9 負極芯体
10 セパレータ
14 蓋体
16 蓋板
16a 弁孔
18 絶縁ガスケット
20 弁体
22 正極端子
26 正極リード
28 正極集電板
30 連結部
32 金属薄板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機材料からなる繊維を含む繊維ウェブに対し、長手方向の引張強度より幅方向の引張強度の方が高くなるように、繊維の配向性を制御する処理及び熱処理を行って不織布を作製する工程と、
前記不織布に金属材料をめっきする工程と、
加熱して前記不織布を構成する有機材料を融解し、金属繊維によって構成された網目構造とする工程と、を含む電極芯体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電極芯体の製造方法において、前記繊維ウェブの繊維の配向性を制御する処理及び熱処理は、前記不織布の幅方向の引張強度が長手方向の引張強度の2.5〜6.0倍になるように行う、ことを特徴とした電極芯体の製造方法。
【請求項3】
有機材料からなる繊維を含む繊維ウェブに対し、長手方向の引張強度より幅方向の引張強度の方が高くなるように、繊維の配向性を制御する処理及び熱処理を行って不織布を作製する工程と、
前記不織布に金属材料をめっきする工程と、
加熱して前記不織布を構成する有機材料を融解し、金属繊維によって構成された網目構造とする工程と、
水酸化ニッケルを主体とする活物質を充填する工程と、
長手辺に集電部を設ける工程と、を含む非焼結式ニッケル極の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の非焼結式ニッケル極の製造方法において、前記繊維ウェブの繊維の配向性を制御する処理及び熱処理は、前記不織布の幅方向の引張強度が長手方向の引張強度の2.5〜6.0倍になるように行う、ことを特徴とした非焼結式ニッケル極の製造方法。
【請求項5】
金属繊維によって構成された網目構造を有し、長手方向の電気抵抗より幅方向の電気抵抗の方が低い電極芯体。
【請求項6】
請求項5に記載の電極芯体において、幅方向の電気抵抗は、長手方向の電気抵抗の2/3〜1/4である、ことを特徴とした電極芯体。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の電極芯体と、
前記電極芯体に充填され、水酸化ニッケルを主体とする活物質と、
前記電極芯体の長手片に設けられた集電部と、を備える非焼結式ニッケル極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−185927(P2012−185927A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46491(P2011−46491)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(510206213)FDKトワイセル株式会社 (36)
【出願人】(000002923)ダイワボウホールディングス株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】