説明

電極間絶縁特性測定装置

【課題】微小放電電流でも感度よく測定できる電極間絶縁特性測定装置を提供すること。
【解決手段】電極間静電容量が大きな測定対象の絶縁検査を行う電極間絶縁特性測定装置であって、前記電極間に、可変高圧直流電源と直流電流計と高域阻止フィルタとパルス電流計が直列接続されるとともに、前記パルス電流計と測定対象の直列回路と並列に高耐圧キャパシタが接続されたことを特徴とするもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極間絶縁特性測定装置に関し、詳しくは、二次電池や大容量キャパシタなどの電極間の静電容量が大きな測定対象における絶縁抵抗や微小放電電流の有無などの電極間絶縁特性を測定する装置に関するものである。
【0002】
たとえば円筒形の二次電池は、シート状のセパレータを介して積層されている正電極部材と負電極部材をスパイラル状に巻きつけてこれら正電極部材と負電極部材を外部と電気的に導通するようにして円筒形の外装缶に収納した後、外装缶内に電解液を注入して封止するように構成されている。ここで、電解液を注入する前の段階では、大容量のキャパシタとなっている。
【0003】
ところで、このような二次電池において、正電極部材と負電極部材が外装缶の内部で接触あるいは耐圧劣化しているにも拘わらず電解液を注入した場合、二次電池として正常に機能しないことから最終段階の検査工程で不良品と判定されることになり、電解液の注入封止工程が無駄になってしまう。
【0004】
そこで、たとえば図6に示すように、絶縁抵抗計(メガー)を用い、測定対象1の電極間に可変高圧直流電源2から直流高電圧を印加して直流電流計3における数mA程度の測定電流値に基づいて絶縁抵抗を測定することも行われている。
【0005】
これにより、一般的な直流抵抗の測定はできるが、トランジェント的に発生するパルス放電の測定は感度不足や周波数特性不足で測定できない。1回の放電で数mAのピーク電流が流れる場合でも、放電時間が10nS程度と短いため、放電回数が少ない場合にはその電荷は数pクーロン(数pA相当)となり、通常の簡易的なメガー測定では検出できない。
【0006】
他の方法として、図7に示すように、測定対象1の電極間に可変高圧交流電源4から周波数が50Hzから1kHz程度で10kV程度の高圧交流電圧を印加し、パルス電流計5の測定電流値に基づいて測定対象1の電極間で間欠的に発生する部分放電を測定することも行われている。
【0007】
これにより、数mAレベルの信号も検出できるが、高感度測定の前提条件は、測定対象のインピーダンスが大きいことである。インピーダンスが小さい場合は、印加している信号電圧によって発生する測定対象外の電流が大きくなり、この電流値がバックグラウンドになって測定が困難になる。
【0008】
交流方式は、測定対象1が数pF〜数百pFレベルの容量を持っている場合、有効な測定となる。たとえば50Hz/5kVrms/100pFの例では、この容量分による電流は150mA程度となり数mAの高周波信号の分離は可能であるが、容量分が1μFの二次電池間電極では2.5Aとなって実用域の電流値ではなくなり、数mAのパルス電流測定には適さないことになる。
【0009】
特許文献1には、電解液を注入する前に外装缶に収納された正電極部材と負電極部材間の絶縁状態を測定し、正電極部材と負電極部材が接触しているものを選別排除することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−173644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
具体的には、たとえば一般的な絶縁耐圧試験機を用いた場合、数mAの限界値を超える電流が流れると不良と判定されるが、微小電流のリーク判定には不向きであり、不良となった検査対象物は破損してしまうことから、その不良原因を追究することは困難である。
【0012】
絶縁耐圧テストの際にスポット的に発生する恐れがある微小放電電流が発生してしまうと、小さな絶縁破壊が発生したことになる。この微小放電電流が検出されなかった場合であっても潜在的な短絡状態が発生していることから、その後の品質劣化につながることになり、二次電池の長期品質を低下させることになる。
【0013】
二次電池の正電極部材と負電極部材間における微小放電電流の測定は、二次電池の長期品質を保証する観点からも重要であるが、従来このような目的に適合する測定装置は提案されていなかった。絶縁特性として直流的な挙動だけではなくトランジェント特性を明確に把握することは、今後、静電容量が大きく、実用化が難しかった分野で適用範囲が広がるものと思われる。
【0014】
本発明は、このような従来の問題点に着目したものであり、その目的は、微小放電電流でも感度よく測定できる電極間絶縁特性測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このような課題を達成する請求項1の発明は、
電極間静電容量が大きな測定対象の絶縁検査を行う電極間絶縁特性測定装置であって、
前記電極間に、可変高圧直流電源と直流電流計と高域阻止フィルタとパルス電流計が直列接続されるとともに、
前記パルス電流計と測定対象の直列回路と並列に高耐圧キャパシタが接続されたことを特徴とする。
【0016】
請求項2の発明は、請求項1記載の電極間絶縁特性測定装置において、
前記パルス電流計として、前記測定対象に流れる電流Ixと前記高耐圧キャパシタに流れる電流Irefの差電流Ix−Irefを検出する差動電流検出器を用いることを特徴とする。
【0017】
請求項3の発明は、請求項2記載の電極間絶縁特性測定装置において、
前記パルス電流に影響を与えない交流信号を重畳する交流電源を設け、前記測定対象に流れる電流Ixに重畳される電流と前記高耐圧キャパシタに流れる電流Irefに重畳される電流が等しくなるようにこれらIxおよびIrefの利得を調整することを特徴とする。
【0018】
請求項4の発明は、請求項2または請求項3記載の電極間絶縁特性測定装置において、
前記差動電流検出器は貫通形変流器であり、前記測定対象に流れる電流の線路はこの貫通形変流器を貫通して測定対象の一方の電極に接続され、前記高耐圧キャパシタに流れる電流の線路はこの貫通形変流器の軸方向に沿って逆方向に少なくとも1回巻き付けられて高耐圧キャパシタの一端に接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
これらにより、大きな静電容量を持つ測定対象の電極間の絶縁抵抗および電極間に発生する微小な部分放電電流も感度よく測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施例を示すブロック図である。
【図2】本発明の他の実施例を示すブロック図である。
【図3】図2で用いる差動電流検出器の具体例を示す構成説明図である。
【図4】図1の変形例を示すブロック図である。
【図5】図2の変形例を示すブロック図である。
【図6】従来の絶縁抵抗測定の一例を示すブロック図である。
【図7】従来の絶縁抵抗測定の他の例を示すブロック図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について、図面を用いて詳しく説明する。図1は本発明の一実施例を示すブロック図であり、図6および図7と共通する部分には同一の符号を付けている。図1において、測定対象1の電極間には、可変高圧直流電源2と直流電流計3と高域阻止フィルタ6とパルス電流計5が直列接続されるとともに、高域阻止フィルタ6とパルス電流計5の接続点には高耐圧キャパシタ7の一端が接続され、可変高圧直流電源2のマイナス端子と測定対象1の電極との接続点には高耐圧キャパシタ7の他端が接続されている。すなわち、高耐圧キャパシタ7は、パルス電流計5と測定対象1の直列回路と並列に接続されている。
【0022】
ここで、測定対象1は、二次電池を構成する電極である。
可変高圧電源2は、100V〜10kV程度の可変直流電圧を出力する。
直流電流計3は、数mAの分解能で測定可能なものを用いる。
【0023】
パルス電流計5は、0.01〜10μS程度のパルス電流を検出でき、できれば電流波形を観測できることが望ましい。
【0024】
高域阻止フィルタ6は、直流成分は通過させて交流電流成分は阻止するものであり、たとえば簡易な例では数mHのインダクであってもよい。
【0025】
高耐圧キャパシタ7は、印加電圧に対して静電容量成分を保持するキャパシタであり、測定対象1の静電容量と同等の容量を持ち、印加電圧に対して静電容量成分を保持することが望ましい。
【0026】
図1の動作について説明する。測定対象1の電極間に、可変高圧直流電源2から、測定対象1を検査するための高電圧Vhを徐々に印加する。ここで、測定対象1が直流的な抵抗分を持つ場合、直流電流計3で直流電流測定値Idcが検出される。
【0027】
これにより、測定対象1の絶縁抵抗Rは、
絶縁抵抗R=電圧Vh/電流測定値Idc
で求めることができ、電流測定値Idcはそのまま絶縁抵抗Rとしての測定値となる。
なお、直流的には高域阻止フィルタ6の抵抗値は0、高耐圧キャパシタ7の抵抗値は∞となり、電流測定値Idcには影響しない。
【0028】
測定対象1にパルス的な放電現象がある場合、パルス電流計5には測定対象1が発生させたパルス電流が流れる。このパルス電流は、高域阻止フィルタ6で直流電流計3に流れることが阻止され、直流電流計3は直流電流分のみを測定するが、パルス電流の発生頻度が少ない場合には直流電流計3の測定値への影響は小さく、実質的に無視できる。
【0029】
パルス電流計5に流れる電流は、測定対象1の静電容量Cxと高耐圧キャパシタの静電容量Crefで分流され、パルス電流計5には、
Cref/(Cx+Cref)
の比で測定電流が流れる。
【0030】
ここで、Cref=Cxとすると、発生したパルス電流の1/2がパルス電流計5に流れることになり、十分測定可能な電流値となる。
【0031】
図2は本発明の他の実施例を示すブロック図であり、図1と共通する部分には同一の符号を付けている。図2において、図1のパルス電流計5に代えて、差動電流検出器8が接続されている。
【0032】
差動電流検出器8は、たとえば図3に示すように、貫通形変流器として構成されたものを用いる。図3において、高域阻止フィルタ6から出力される電流Ix+Irefの線路は、測定対象1に流れる電流Ixの線路と高耐圧キャパシタ7に流れる電流Irefの線路に分岐されていて、0.01〜10μS程度のパルス電流を測定するのにあたり、測定対象1に流れる電流Ixと基準となる高耐圧キャパシタ7に流れる電流Irefの差電流Ix−Irefを検出する。
【0033】
測定対象1に流れる電流Ixの線路は貫通形変流器8を貫通して測定対象1の一方の電極に接続され、高域阻止フィルタ6から高耐圧キャパシタ7に流れる電流Irefの線路は貫通形変流器8の軸方向に沿って逆方向に少なくとも1回巻き付けられて高耐圧キャパシタ7の一端に接続されている。これにより、貫通形変流器8は、Ix−Irefを演算する差動電流検出器として機能する。
【0034】
図2の動作を説明する。測定対象1の電極間に、可変高圧直流電源2から、測定対象1を検査するための高電圧Vhを徐々に印加する。ここで、測定対象1が直流的な抵抗分を持つ場合、直流電流計3で直流電流測定値Idcが検出される。
【0035】
これにより、測定対象1の絶縁抵抗Rは、
絶縁抵抗R=電圧Vh/電流測定値Idc
で求めることができ、電流測定値Idcはそのまま絶縁抵抗Rとしての測定値となる。
なお、直流的には高域阻止フィルタ6の抵抗値は0、高耐圧キャパシタ7の抵抗値は∞となり、電流測定値Idcには影響しない。
【0036】
測定対象1にパルス的な放電現象がある場合、パルス電流計5には測定対象1が発生させたパルス電流が流れる。このパルス電流は、高域阻止フィルタ6で直流電流計3に流れることが阻止され、直流電流計3は直流電流分のみを測定するが、パルス電流の発生頻度が少ない場合には直流電流計3の測定値への影響は小さく、実質的に無視できる。
【0037】
差動電流検出器8に流れる電流Ix+Irefは、測定対象1の静電容量Cxと高耐圧キャパシタ7の静電容量Crefで分流され、差動電流検出器8には、Cref/(Cx+Cref)の比で流れる。
【0038】
ここで、Cref=Cxとすると、発生した電流の1/2が高耐圧キャパシタ7に流れる。高耐圧キャパシタ7に流れる電流をIref、測定対象1に流れる電流をIxとすると、Iref=−IxなのでIx−Iref=2*Ixとなり、測定対象1に流れる電流Ixが測定できる。
【0039】
これらにより、高電圧を印加した状態での測定対象1の微小な高速パルス電流の測定が可能になり、パルス電流と直流電流を同時に測定することも可能になる。
【0040】
従来の方式では測定検査が困難であった二次電池の微小放電電流の測定が可能になり、二次電池の製造工程における品質の安定性や、安全性の確保に貢献できる。
【0041】
さらに、図2の構成によれば、特に測定対象1の静電容量Cxおよび高耐圧キャパシタ7の静電容量Crefが大きいため、印加する高圧電圧のノイズ成分によるこれら静電容量Cx、Crefへのノイズ電流が無視できないが、これらのノイズ電流をキャンセルできる。すなわち、ノイズ電流は静電容量Cx,Crefに流れる電流と同じ方向に同じ大きさで流れるが、測定対象1の静電容量Cxで発生する絶縁特性に関わる電流と逆方向となることから、差電流をとることでノイズをキャンセルできる。
【0042】
図4は図1の変形例であり、直流電流計3と高域阻止フィルタ6の接続順序を入れ替えたものである。必要に応じて、パルス電流計5と測定対象1の接続順序を入れ替えてもよい。これらの接続構成においても、図1と同様な測定結果が得られる。
【0043】
図5は図2の変形例であり、可変高圧直流電源2を用いて測定するパルス電流に影響を与えない交流信号を可変高圧交流電源4から重畳する。この電流は、IxおよびIrefにも重畳して測定される。このIxおよびIrefに重畳した電流を測定し、その測定値が等しくなるようにIxおよびIrefの利得を調整してから差分データを求める。
【0044】
これらIxおよびIrefに重畳した電流を測定する手法としては、たとえば図5に示すように、可変高圧交流電源4から同期信号を得て同期検波を行う。すなわち、重畳信号成分と判別できるように構成する。
【0045】
以上説明したように、本発明によれば、一般的な直流絶縁抵抗測定の構成に、高域阻止フィルタとパルス電流計と高耐圧キャパシタを追加する比較的簡単な構成で、大容量を持つ測定対象の電極間に発生する微小な部分放電電流も感度よく測定できる電極間絶縁特性測定装置を実現できる。
【符号の説明】
【0046】
1 測定対象
2 可変高圧直流電源
3 直流電流計
4 可変高圧交流電源
5 パルス電流計
6 高域阻止フィルタ
7 高耐圧キャパシタ
8 差動電流検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極間静電容量が大きな測定対象の絶縁検査を行う電極間絶縁特性測定装置であって、
前記電極間に、可変高圧直流電源と直流電流計と高域阻止フィルタとパルス電流計が直列接続されるとともに、
前記パルス電流計と測定対象の直列回路と並列に高耐圧キャパシタが接続されたことを特徴とする電極間絶縁特性測定装置。
【請求項2】
前記パルス電流計として、前記測定対象に流れる電流Ixと前記高耐圧キャパシタに流れる電流Irefの差電流Ix−Irefを検出する差動電流検出器を用いることを特徴とする請求項1記載の電極間絶縁特性測定装置。
【請求項3】
前記パルス電流に影響を与えない交流信号を重畳する交流電源を設け、前記測定対象に流れる電流Ixに重畳される電流と前記高耐圧キャパシタに流れる電流Irefに重畳される電流が等しくなるようにこれらIxおよびIrefの利得を調整することを特徴とする請求項2記載の電極間絶縁特性測定装置。
【請求項4】
前記差動電流検出器は貫通形変流器であり、前記測定対象に流れる電流の線路はこの貫通形変流器を貫通して測定対象の一方の電極に接続され、前記高耐圧キャパシタに流れる電流の線路はこの貫通形変流器の軸方向に沿って逆方向に少なくとも1回巻き付けられて高耐圧キャパシタの一端に接続されていることを特徴とする請求項2または請求項3記載の電極間絶縁特性測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−158253(P2011−158253A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17545(P2010−17545)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】