説明

電歪アクチュエータおよびその使用方法

【課題】可撓性の素子を用いながらも、自己保持性を有し、かつ、信頼性の高いアクチュエータを提供する。
【解決手段】電歪材料層と、電歪材料層の両面に各々配置された2つの電極と、いずれか一方の電極を介して電歪材料層の片面に接合された基材とにより構成された、可撓性を有する電歪素子(10)を含む電歪アクチュエータ(20)において、電歪素子(10)を中空螺旋状の形態を有するものとし、電歪素子(10)の螺旋回転方向(R)に沿った両側部(10a、10b)を螺旋中心軸(C)に垂直な方向において重なり合わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電歪アクチュエータに関し、より詳細には、ユニモルフ構造を有する電歪素子を用いた電歪アクチュエータに関する。また、本発明はそのような電歪アクチュエータの使用方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療、福祉、ロボット産業などの様々な分野において、小型で軽量、かつ柔らかな動きが可能なアクチュエータ(いわゆるソフトアクチュエータ)が開発されている。
【0003】
かかるソフトアクチュエータとして、従来、イオン導電性高分子を用いたアクチュエータが知られている。イオン導電性高分子を用いたアクチュエータは、イオンおよび水分子を含むイオン導電性高分子膜(ICPF: Ionic Conductive Polymer Film)の両面に電極を形成した素子(以下、単にIPMC素子(IPMC: Ionic Polymer Metal Composite)と言う)を用いたものであって、これら電極間に電圧が印加されると、イオン導電性高分子膜中のイオンが水分子を伴って片面に引き寄せられ、これにより、素子の片面が膨潤して屈曲するものである(例えば特許文献1を参照のこと)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−192892号公報
【特許文献2】特開2007−37356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなソフトアクチュエータを、例えば人工筋肉やマイクロハンドなどに応用するためには、単なる屈曲動作のほか、ひねりや伸縮などの様々な動作を実現することが求められる。
【0006】
従来のイオン導電性高分子を用いたアクチュエータでは、IPMC素子にスリットを設けることにより、その屈曲方向を制御し、ひねりや伸縮などの動作を実現することが提案されている(特許文献1を参照のこと)。例えば、同心に延びる渦巻き状のスリットを設けることにより、素子全体を螺旋状に変形させることができるとされている(特許文献1の図3(C)を参照のこと)。
【0007】
しかしながら、もともと可撓性で剛性が低い素子にスリットを設けると、更に剛性が低くなって、自身で姿勢を保持することが困難になるので、アクチュエータとして使用しづらいという問題がある。
【0008】
更に、両面に電極が形成された構造を有する素子に、同心に延びる渦巻き状のスリットを設けて素子全体を螺旋状に変形させると、スリットを挟んで素子上面に位置する電極と素子下面に位置する電極とが近接するようになるので、電極間放電を起こしやすく、信頼性が低いという難点がある。また、螺旋中心軸方向に大きな変位を得る(換言すれば、伸縮動作を提供する)ために螺旋高さを高くすると、高くなるにつれて、より大きな占有面積を要することとなるので、小型化に適さないという難点もある。
【0009】
本発明は、可撓性の素子を用いながらも、自己保持性を有し、かつ、信頼性の高いアクチュエータを提供することを目的とする。加えて、本発明は、かかるアクチュエータの使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ソフトアクチュエータでないアクチュエータとして、圧電素子(圧電セラミック素子)を用いた圧電アクチュエータがあり、これについては、ヘリモルフと呼ばれる形状のものがある。ヘリモルフは、圧電素子を中空螺旋状に、ターン間に隙間を設けるように長く延ばした形状としたものであり、螺旋中心軸を曲線状にして用いられる(例えば特許文献2の図9を参照のこと)。かかるヘリモルフ形状は、圧電セラミック素子などの極めて剛性の高い素子に適用され得るが、可撓性の素子には適さない。更に、圧電セラミック素子は、耐衝撃性が低く、壊れやすいという難点がある。本発明者は、ユニモルフ構造を有する電歪アクチュエータを用い、その素子形状について更なる鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の1つの要旨によれば、電歪材料層と、電歪材料層の両面に各々配置された2つの電極と、いずれか一方の電極を介して電歪材料層の片面に接合された基材とにより構成された、可撓性を有する電歪素子を含む電歪アクチュエータであって、
電歪素子が中空螺旋状の形態を有し、電歪素子の螺旋回転方向に沿った両側部が螺旋中心軸に垂直な方向において重なり合っている、電歪アクチュエータが提供される。
【0012】
本発明の上記電歪アクチュエータは、電歪材料層と、電歪材料層の両面に各々配置された2つの電極と、いずれか一方の電極を介して電歪材料層の片面に接合された基材とにより構成された電歪素子を用いたものである。かかる電歪素子は、ユニモルフ構造を有する電歪素子である。
【0013】
そして、本発明の上記電歪アクチュエータによれば、電歪素子を中空螺旋状の形状とし、電歪素子の螺旋回転方向に沿った両側部を螺旋中心軸に垂直な方向において重なり合わせているので、可撓性の電歪素子を用いながらも、電歪素子に自己保持性(自身で姿勢を保持できる性質)を付与することができる。
【0014】
更に、本発明の上記電歪アクチュエータによれば、上記ユニモルフ構造を有する電歪素子を用いており、上記一方の電極は電歪材料層と基材との間に挟まれているため、上記2つの電極が電気的に接触することがないので、電極間放電が起こらず、信頼性の高いアクチュエータを提供することができる。
【0015】
本発明の上記電歪アクチュエータに関して、中空螺旋状の電歪素子において、電歪材料層は、基材よりも、内側および外側のいずれに位置してもよい。電歪材料層をこれらのいずれ側に位置させるかによって、異なる動作を提供することができる。
【0016】
すなわち、本発明のもう1つの要旨によれば、上記電歪アクチュエータの使用方法が提供される。電歪材料層が基材より内側に位置する電歪アクチュエータを使用する場合、2つの電極間に電圧を印加することによって、電歪素子が螺旋中心軸方向に伸びる動作を提供することができる。電歪材料層が基材より外側に位置する電歪アクチュエータを使用する場合、2つの電極間に電圧を印加することによって、電歪素子が螺旋中心軸方向に縮む動作を提供することができる。
【0017】
加えて、本発明のもう1つの要旨によれば、上記電歪アクチュエータの別の使用方法も提供される。本発明のいずれの電歪アクチュエータを使用しても、2つの電極間に交流電圧を印加することによって、中空螺旋状の電歪素子の内部において物品を搬送することができる。2つの電極間に交流電圧を印加することによって、電歪素子は、伸びる動作または縮む動作と、元に戻る動作とを繰り返す。その結果、中空螺旋状の電歪素子の内部に配置または供給された物品に一方向の摩擦力を加えることが可能となり、これにより、物品を搬送することができる。かかる使用方法は、電歪素子の螺旋回転方向に沿った両側部が螺旋中心軸に垂直な方向において重なり合っていることにより実現されるものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、可撓性の電歪素子を用いながらも、自己保持性を有し、かつ、信頼性の高い電歪アクチュエータが提供される。加えて、本発明によれば、かかる電歪アクチュエータの使用方法もまた提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の電歪アクチュエータを製造するために使用されるユニモルフ(ユニモルフ構造を有するシート)を示す図であって、図1(a)はユニモルフの概略断面図を示し、図1(b)はユニモルフの屈曲動作を説明する図である。
【図2】図1(a)に示すユニモルフを成形して電歪素子とする方法を説明するための図である。
【図3】本発明の電歪アクチュエータを示す図であって、図3(a)は電歪アクチュエータの概略斜視図を示し、図3(b)は電歪アクチュエータを螺旋中心軸を含む面で切断して見た概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の電歪アクチュエータについて、以下、図面を参照しながら、その製造方法を通じて詳述する。
【0021】
まず、ユニモルフ構造を有する可撓性のシート(以下、本明細書において単に「ユニモルフ」と呼ぶ)を準備する。図1(a)を参照して、ユニモルフ7は、電歪材料層1と、電歪材料層1の両面に各々配置された2つの電極3a、3bと、これら電極3a、3bのいずれか一方(図示する態様では電極3a)を介して電歪材料層1の片面に接合された基材5とにより構成され、全体として可撓性を有するものとされる。なお、かかるユニモルフ7は、これら2つの電極3a、3b間に電圧を印加すると、電歪材料層1が厚さ方向(電界方向)に縮み、面内方向で伸びるため、電歪材料層1と基材5との間で寸法差が生じて、図1(b)に示すように、電歪材料層1を外側とし、基材5を内側として屈曲するものである。
【0022】
本発明において、電歪材料層1は、高分子電歪材料から形成される。高分子電歪材料は、永久双極子を有する高分子材料であれば、特に限定されない。高分子電歪材料の例としては、PVDF(ポリビニリデンフルオロイド)、PVDF系の共重合体、例えば、P(VDF−TrFE)などのコポリマーや、P(VDF−TrFE−CFE)、P(VDF−TrFE−CTFE)、P(VDF−TrFE−CDFE)、P(VDF−TrFE−HFA)、P(VDF−TrFE−HFP)、P(VDF−TrFE−VC)などのターポリマーが挙げられる(Pはポリを、VDFはビニリデンフルオライドを、TrFEはトリフルオロエチレンを、CFEはクロロフルオロエチレンを、CTFEはクロロトリフルオロエチレンを、CDFEはクロロジフルオロエチレンを、HFAはヘキサフルオロアセトンを、HFPはヘキサフルオロプロピレンを、VCはビニルクロライドを意味する)。なかでも、P(VDF−TrFE−CFE)が、大きな歪みが得られる点で特に好ましい。電歪材料層1の厚さは適宜設定してよいが、例えば数μm〜100μm程度とし得る。
【0023】
2つの電極3a、3bは、電極として機能し得る限り、任意の適切な導電性材料から形成してよい。かかる導電性材料の例としては、Ni(ニッケル)、Pt(白金)、Pt−Pd(白金−パラジウム合金)、Al(アルミニウム)、Au(金)、Au−Pd(金パラジウム合金)などの金属材料、PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)、PPy(ポリピロール)、PANI(ポリアニリン)などの有機導電性材料などが挙げられる。このうち、有機導電性材料は、クラックが導入され難いので好ましい。2つの電極3a、3bは、同じ導電性材料から成っていても、異なる導電性材料から成っていてもよい。電極3a、3bの厚さは、使用する導電性材料などに応じて適宜設定してよいが、例えば20nm〜10μm程度とし得る。
【0024】
基材5は、後述する成形を実施し得る限り、任意の適切な可撓性材料から形成してよい。かかる可撓性材料の例としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、セロファン、塩化ビニル、ポリイミド、ポリエステルなどが挙げられる。また、基材5は、上述したような電歪材料から形成してもよい。基材5の厚さは適宜設定してよいが、例えば数μm〜100μm程度とし得る。
【0025】
このようなユニモルフ7は、例えば以下のようにして作製可能である。電歪材料層1の両面に電極3a、3bを形成する。電極材料に金属材料を用いる場合には、蒸着またはスパッタリングなどによって電極を形成できる。電極材料に有機導電性材料を用いる場合には、シルクスクリーン印刷、インクジェット印刷、刷毛塗布などによって電極を形成できる。図示する態様では、電極3a、3bは電歪材料層1の全面にそれぞれ形成されるものとしているが、このことは必ずしも本発明に要せず、電極3a、3bは、適宜、パターニングされていてもよい。これにより得られた電極3a、3b付き電歪材料層1の片面に(図示する態様では電極3aを介して)基材5を接合させる。この接合は、例えば、熱硬化型または紫外線硬化型などの接着剤を用いて実施できる。これにより、ユニモルフ7が作製される。しかしながら、ユニモルフ7の作製方法はかかる例に限定されず、例えば、基材5の上に電極3aを予め形成しておき、その電極3aの上に電歪材料を塗布またはキャスティングすることにより電歪材料層1を形成し、更に、その電歪材料層1の上に電極3bを形成してもよい。
【0026】
次に、このユニモルフ7を所定の形状に成形して、電歪素子10を得る。具体的には、図2(a)および(b)に示すように、帯状のユニモルフ7を、例えば円筒状の外表面を有する型9の周囲に、ユニモルフ7の両側部が重なり合うようにして螺旋状に巻き回し、そのまま熱処理に付して基材5を熱成形し、その後、型9から外すことによって、成形を実施できる。熱処理の温度および時間は、使用する基材5の材料に応じて適宜設定し得る。例えば、基材5がPETから成る場合、80〜100℃で5〜10分間の熱処理により熱成形できる。
【0027】
これにより得られる電歪素子10は、図3(a)に示すように、螺旋中心軸Cの回りで螺旋回転方向Rに沿って巻き回された中空螺旋状の形態を有し、全体としては略円筒状の外観を呈する。より詳細には、図3(b)に示すように、電歪素子10の螺旋回転方向Rに沿った両側部10a、10bが、螺旋中心軸Cに垂直な方向において(図3(b)に示す断面において)重なり合っている。この電歪素子10において、電極材料層1を基材5(図2および図3中、いずれも図示を省略)よりも内側および外側のいずれに配置するかは、所望する動作に応じて適宜選択される。
【0028】
この電歪素子10において、両側部10a、10bは、互いに接合されていないが、接触により相互支持が可能である。これにより、電歪素子10は、可撓性を有しつつ、自己保持性を有するものとなる。両側部10a、10bの重なり幅Wは、例えば0.1mm〜10mm程度とし得る。
【0029】
中空螺旋状の電歪素子10の内径IDおよび高さH、ねじり角(螺旋中心軸Cと螺旋回転方向Rのなす角)θ、ピッチP(または使用した帯状のユニモルフ7の幅)、ターン数(または巻数)などは、電歪アクチュエータ20の用途などに応じて適宜設定し得る。なお、電歪素子10の円筒端部の形状は特に限定されない。例えば、図2(a)に示すように、使用する帯状のユニモルフの両端を、予め幅方向に対して傾斜させて切断したものを用いてもよいし、あるいは、上記成形後に円筒端部を適宜、切断してもよい。
【0030】
以上のようにして、電歪アクチュエータ20が製造される。電歪アクチュエータ20は、電極3a、3bを電源(図示せず)に接続して使用される。
【0031】
電歪アクチュエータ20は、可撓性の(柔らかい)電歪素子10で構成されているため、耐衝撃性が高く、壊れにくい。また、2つの電極3a、3bのうち、一方の電極3aは電歪材料層1と基材5との間に挟まれているので、電極3a、3bが電気的に接触しない。これにより、電歪アクチュエータ20では、電極間放電が起こらず、高い信頼性を得ることができる。加えて、螺旋中心軸方向に大きな変位を得るために、電歪素子10の高さHを高くしても、螺旋中心軸に対して垂直な断面積(または電歪素子10の外径)は一定であるので、より大きな占有面積を要しない。
【0032】
次に、電歪アクチュエータ20の使用方法について説明する。
【0033】
電歪アクチュエータ20を、電歪材料層1が基材5より内側に位置するようにして構成した場合、2つの電極3a、3b間に電圧を印加すると、電歪素子10は内側にわずかに狭まろうとする。わずかに狭まることにより、同一高さでは、円筒周長が短くなってしまう。電歪素子10の螺旋長さおよびねじり角θは、ほぼ変化しないことから、ターン数が増加し、電歪素子10の高さHが高くなる。これにより、電歪素子10が螺旋中心軸Cの方向に伸びる動作を提供することができる。また、電歪素子10の先端部に着目すれば、内側にわずかに狭まりながら、螺旋中心軸まわりに螺旋回転方向と同方向に回転する(ひねる)動作を提供することができる。
【0034】
反対に、電歪アクチュエータ20を、電歪材料層1が基材5より外側に位置するようにして構成した場合、2つの電極3a、3b間に電圧を印加すると、電歪素子10は外側にわずかに広がろうとする。わずかに広がることにより、同一高さでは、円筒周長が長くなってしまう。電歪素子10の螺旋長さおよびねじり角θは、ほぼ変化しないことから、ターン数が減少し、電歪素子10の高さHが低くなる。これにより、電歪素子10が螺旋中心軸Cの方向に縮む動作を提供することができる。また、電歪素子10の先端部に着目すれば、外側にわずかに広がりながら、螺旋中心軸まわりに螺旋回転方向と逆方向に回転する(ひねる)動作を提供することができる。
【0035】
これらの動作は、電歪素子10の両側部10a、10bが重なり合ったままで行われるので、動作によって電歪素子10の剛性は大きく変わらず、自己保持性を維持したままである。
【0036】
以上より、電歪アクチュエータ20を用いて、2つの電極間に直流電圧を印加および除去すれば、リニア動作を行うことができる。変位の大きさ(伸びまたは縮みの大きさ)は、電歪素子10の螺旋長さ、電歪材料層1の厚み、基材5の厚み、電歪材料の電歪定数、電歪材料や基材の弾性率、印加する電圧の大きさなどにもよるが、例えば、電歪素子10の高さHの1〜20%、代表的には10%程度とすることができる。
【0037】
なお、図示する態様では、電歪アクチュエータ20を縦配置にて示し、電歪素子10について「高さ」という表現を用いて説明したが、電歪アクチュエータ20は任意の適切な向きに配置して使用することができる。また、図示する態様では、電歪素子10の螺旋中心軸を直線として示したが、曲線(例えば円または螺旋)に改変することも可能である。
【0038】
次に、電歪アクチュエータ20の別の使用方法について説明する。
【0039】
上述の電歪アクチュエータ20を略水平に配置し、2つの電極間に交流電圧を印加すると、電歪素子が螺旋回転方向に沿って伸びる動作(電歪材料層1が基材5より内側に位置する場合)または縮む動作(電歪材料層1が基材5より外側に位置する場合)と、材料固有の弾性特性(主に、電歪材料層1および基材5に使用した材料固有の弾性特性)を利用しつつ元に戻る動作とを繰り返す。その結果、中空螺旋状の電歪素子10の内部に配置または供給された物品には、(螺旋中心軸に平行な)一方向の摩擦力が加わって、物品は電歪素子10の内部を通って搬送される。より詳細には、伸びる動作と元に戻る動作とを繰り返す場合には、伸びる方向に物品が搬送され、縮む動作と元に戻る動作とを繰り返す場合には、縮む方向に物品が搬送される。電歪素子10の両側部10a、10bが重なり合っているため、物品が電歪素子10の周囲から外にこぼれ出ることがない。
【0040】
以上、本発明の電歪アクチュエータおよびその使用方法について詳述したが、本発明は種々の改変が可能であろう。
【0041】
例えば、イオン導電性高分子膜(ICPF)や、バッキーゲルなどを利用してよい。
【0042】
イオン導電性高分子膜を利用する場合、概略的には、上記電歪材料層に代えて、イオン交換樹脂層を用いることにより、アクチュエータを作製することができる。より詳細には、イオン交換樹脂層(例えば、デュポン株式会社製の「ナフィオン」(登録商標)など)の両面にAu、Ptなどの金属材料を化学めっきして電極を形成し、その片面を(よって、いずれか一方の電極を介して)PETなどから成る基材に接合する。これにより得られた構造体を、上述した成形方法と同様にして成形する(例えば円筒状の外表面を有する型の周囲に巻き回し、そのまま熱処理に付す)ことによって、素子が中空螺旋状の形態を有し、素子の螺旋回転方向に沿った両側部が螺旋中心軸に垂直な方向において重なり合うようにすることができる。この場合、電極間に印加する電圧の極性を正または負とすることにより、伸びる動作または縮む動作を提供することができる。よって、中空螺旋状の素子において、イオン交換樹脂層が基材より内側および外側のいずれにあっても、印加する電圧の極性によって、伸びる動作および縮む動作を選択可能に提供することができる。
【0043】
バッキーゲルは、イオン性液体とカーボンナノチューブとのゲル状複合体である。バッキーゲルを利用する場合、概略的には、上記電極に代えて、バッキーゲルを利用したシートを用いることにより、アクチュエータを作製することができる。より詳細には、まず、3つのシートを次のようにして準備する。イミダゾリウム系イオン液体(例えば1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(BMITFSI))に単層カーボンナノチューブおよびフッ素系材料(例えばP(VDF−HFP))を加えた懸濁液を乳鉢で、乳棒を使ってすり潰し、これをキャスティングすることにより、カーボンナノチューブを含んだ第1のシートを2つ作製する。また、イオン液体およびフッ素系材料を混合し、これをキャスティングすることにより、イオン液体およびフッ素系材料からなる第2のシートを1つ作製する。そして、これら3つのシートを、2つの第1のシートの間に第2のシートを配置した状態で重ね合わせ、これを熱プレスすることにより、三層構造を有する複合シートを作製する。ここで、第2のシートが電歪材料層に代わるものであり、その両面に各々配置された2つの第1のシートが2つの電極に該当する。そして、この複合シートの片面を(よって、いずれか一方の電極を介して)PETなどから成る基材に接合する。これにより得られた構造体を、上述した成形方法と同様にして成形する(例えば円筒状の外表面を有する型の周囲に巻き回し、そのまま熱処理に付す)ことによって、素子が中空螺旋状の形態を有し、素子の螺旋回転方向に沿った両側部が螺旋中心軸に垂直な方向において重なり合うようにすることができる。
【実施例1】
【0044】
電歪材料層として厚さ5μmのP(VDF−TrFE−CFE)から成る層を用い、その両面にAlを蒸着して、厚さ20nmのAl電極をそれぞれ形成した。電極を形成した電歪材料層の片面に、厚さ12μmのPETから成る基材を、熱硬化型の接着剤を用いて接合した。これにより、幅15mm、長さ80mmのユニモルフを得た。
このユニモルフを、電歪材料層が基材よりも内側に位置するようにして、ねじり角θ=45℃として、耐熱性樹脂から成る丸棒の周囲に螺旋状に3ターン巻き回した。
そのまま80℃の空気雰囲気中に5分間維持し、その後、自然冷却して、型から外して、中空螺旋状の電歪素子を得た。得られた電歪素子は、内径ID=8mm、高さH=50mmの略円筒状の外観を呈し、電歪素子の両端の重なり幅W=1mmであった。
以上により、中空螺旋状の電歪素子を有する電歪アクチュエータを作製した。
この電歪アクチュエータを使用して、電極間に100Vの直流電圧を印加したところ、電歪素子は、内側にわずかに狭まりながら、螺旋中心軸まわりに螺旋回転方向と同方向に30°回転すると共に、螺旋中心軸方向に2mm伸びた。
【実施例2】
【0045】
電歪材料層が基材よりも外側に位置するようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、電歪アクチュエータを作製した。
この電歪アクチュエータを使用して、電極間に100Vの直流電圧を印加したところ、電歪素子は、外側にわずかに広がりながら、螺旋中心軸まわりに螺旋回転方向と逆方向に30°回転すると共に、螺旋中心軸方向に2mm縮んだ。
【実施例3】
【0046】
実施例1にて作製した電歪アクチュエータを使用して、電極間に最大電圧400Vおよび周波数10Hzの正弦波交流電圧を印加した状態で、寸法1mm×1mm×2mmおよび重さ10mgの複数の物品を、電歪素子の円筒状内部に、一方の開口部から供給したところ、物品はその中を通って搬送されて、他方の開口部から排出された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の電歪アクチュエータは、特に制限されるものではないが、例えば人工筋肉、マイクロハンド、分析機器、民生用電子機器などのソフトアクチュエータとして、医療、福祉、ロボット産業、エンターテイメント産業、メカトロニクス、化学、電気などの様々な分野において幅広く利用され得る。
【符号の説明】
【0048】
1 電歪材料層
3a、3b 電極
5 基材
7 ユニモルフ
9 型
10 電歪素子
10a、10b 側部
20 電歪アクチュエータ
C 螺旋中心軸
R 螺旋回転方向
W 重なり幅
ID 内径
H 高さ
θ ねじり角
P ピッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電歪材料層と、電歪材料層の両面に各々配置された2つの電極と、いずれか一方の電極を介して電歪材料層の片面に接合された基材とにより構成された、可撓性を有する電歪素子を含む電歪アクチュエータであって、
電歪素子が中空螺旋状の形態を有し、電歪素子の螺旋回転方向に沿った両側部が螺旋中心軸に垂直な方向において重なり合っている、電歪アクチュエータ。
【請求項2】
中空螺旋状の電歪素子において、電歪材料層が基材より内側に位置する、請求項1に記載の電歪アクチュエータ。
【請求項3】
中空螺旋状の電歪素子において、電歪材料層が基材より外側に位置する、請求項1に記載の電歪アクチュエータ。
【請求項4】
請求項2に記載の電歪アクチュエータの使用方法であって、2つの電極間に電圧を印加することによって、電歪素子が螺旋中心軸方向に伸びる動作を提供する方法。
【請求項5】
請求項3に記載の電歪アクチュエータの使用方法であって、2つの電極間に電圧を印加することによって、電歪素子が螺旋中心軸方向に縮む動作を提供する方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の電歪アクチュエータの使用方法であって、2つの電極間に交流電圧を印加することによって、中空螺旋状の電歪素子の内部において物品を搬送する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−248670(P2012−248670A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119076(P2011−119076)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】