説明

電気−機械変換膜の形成方法、電気−機械変換膜、電気−機械変換素子、液体吐出ヘッドおよび画像形成装置

【課題】クラックが発生し難い電気−機械変換膜、電気特性が安定する電気−機械変換素子等を提供する。
【解決手段】パターニングされた親水領域4に、インクジェット塗布装置によりPZT前駆体溶液(ゾルゲル液)5を塗布し、次いで、PZT前駆体溶液5の液滴6を、基板1上のPt面における所定パターン領域の塗布領域内(親水領域4)と、所定パターン領域外(SAM膜2:撥水領域)とを跨ぐように着弾させた。所定パターン領域外は、親水性領域4である所定パターン領域内より接触角が非常に大きいので、着弾したゾルゲル液滴5の所定パターン領域外の塗布部分は所望パターン領域内へ吸い寄せられ、所望の形成パターン内にてレベリングされた。この塗布工程においてミストの発生はなく、所定パターン領域外に微小なゾルゲル液滴による独立した塗布欠陥は発生しなかった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気−機械変換膜の形成方法、電気−機械変換膜、電気−機械変換素子、液体吐出ヘッドおよびこの液体吐出ヘッドを備えた画像形成装置に関し、画像形成装置として使用されるインクジェット記録装置、或いはプリンタ、ファクシミリ、複写機、プロッタ、孔版印刷機を含む印刷機等またはそれら複数の機能を備えた複合機等の画像形成装置に備えられる液体吐出ヘッドの圧電素子となる電機−機械変換素子、この素子を構成する電気−機械変換膜、およびその電気−機械変換膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリ、複写装置等の画像記録装置、或いは画像形成装置として使用されるインクジェット記録装置では、記録ヘッドからインク滴を記録媒体となるシート等の対象物に吐出することで、対象物に画像を形成している。記録ヘッドは、インク滴を吐出するノズルと、このノズルが連通する加圧室(インク流路、加圧液室、圧力室、吐出室、液室等とも称される。)と、加圧室内のインクを加圧する圧電素子などの電気−機械変換素子、或いはヒータなどの電気熱変換素子、もしくはインク流路の壁面を形成する振動板とこれに対向する電極とからなるエネルギー発生手段とを備えて、そのエネルギー発生手段で発生したエネルギーで加圧室内のインクを加圧することによってノズルからインク滴を吐出させている(例えば、特許文献1〜3参照)。
特許文献3には、基板上に配置した下部電極(第1の電極)、電気−機械変換層、上部電極(第2の電極)の積層した圧電素子を備えた記録ヘッドの構成が開示されている。
【0003】
一般に、記録ヘッドは、圧力室にインク吐出の圧力を発生させるのに個別の圧電素子が配置され、この圧電素子は電気−機械変換素子と総称される。電気−機械変換素子は、電気的入力を機械的な変形に変換するもので、構成は電気的入力を実行する上部、下部の電極対とその間に圧電体などの膜が挟まれた積層構造をもつ。圧電体にはジルコン酸チタン酸鉛(以下、「PZT」と略称する)セラミックスなどが用いられ、これらは複数の金属酸化物を主成分としているので一般に金属複合酸化物と称される。
【0004】
(従来の個別圧電素子の形成方法)
下部電極上に各種の真空成膜法(例えばスパッタリング法、MO−CVD法(金属有機化合物を用いた化学的気相成長法)、真空蒸着法、イオンプレーティング法)やゾルゲル法、水熱合成法、エアロゾルデポジション法(以下、「AD法」と略称する)、塗布・熱分解法(MOD)などの周知の成膜技術により堆積させ、引き続き、上部電極を形成した後、フォトリソグラフィ・エッチングにより、上部電極のパターニングを行い、同様に圧電膜、下部電極のパターニングを行い、個別化を実施している。
【0005】
金属複合酸化物、特にPZTはドライエッチングが容易な加工材ではない。反応性イオンエッチング(以下、「RIE」と略称する)でSi半導体デバイスは容易にエッチング加工できるが、この種の材料はイオン種のプラズマエネルギーを高めるため、ICPプラズマ、ECRプラズマ、ヘリコンプラズマを併用した特殊なRIEが成されるが、これは製造装置のコスト高を招く。また、下地電極膜との選択比を稼ぐことは困難で、特に大面積基板ではエッチング速度の不均一性は成膜上大きな障害となる。予め、所望する部位のみに難エッチング性のPZT膜を配置すれば、上記加工工程が省略できるが、その試みは一部を除いて成されていない。
【0006】
なお、非特許文献1には、ゾルゲル法による金属複合酸化物の薄膜形成に関する技術が開示されている。また、非特許文献2には、Au膜上にアルカンチオールが自己組織化単分子膜(SAM:Self Assembled Monolayer)として形成でき、この現象を用いたマイクロコンタクトプリント法でSAMパターンを転写し、その後のエッチングなどのプロセスに利用することが開示されている。
【0007】
(個別PZT膜形成の従来例)
個別PZT膜形成の従来の方法には、水熱合成法、真空蒸着法、AD法、インクジェット方式がある。インクジェット方式では、PZT前駆体液(ゾルゲル液)の塗布を、高解像度で液滴を吐出し、実施可能であることが公知である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
インクジェット方式では、同方式によりインク化したゾルゲル液を第1の電極を形成する金属表面上に塗布することで得られる所望のパターンが、微細になればなるほど、より高い解像度が求められる。高解像度のパターンを形成するためには、インクジェットヘッドのノズルから吐出されるゾルゲル液滴を小滴化する必要がある。
しかしながら、小滴化によって、インク化されたゾルゲル液滴は軽量化し、液滴の着弾位置の制御が困難になるため、所望パターンの形成が困難になる。また、ゾルゲル液滴の小滴化に伴って、インクジェットヘッドのノズルからはゾルゲル液滴と共に、ゾルゲル液のミストが発生しやすくなる。このミストはゾルゲル液滴よりもさらに微小であり(ドット径で1/4以下)、ノズル面周辺より各方向へ飛散し易い。それ故に、所望パターン領域外へもゾルゲル液が着弾してしまうことから、第1の電極を形成する金属表面上に多量の欠陥を生じ、電気−機械変換素子としての安定な特性が得られない。
【0009】
一方で、小滴化されたゾルゲル液滴が所望パターン領域内に着弾しても、液量が微小であるため、塗れ性の高い第1の電極を形成する金属表面上においても着弾位置からレベリングできる領域が大きく取れず、ゾルゲル液が所望パターン端部まで塗れ広がらない。また、ゾルゲル液滴着弾後の乾燥が遅い場合、第1の電極を形成する金属表面上に着弾した、隣接するゾルゲル液滴ドット同士が凝集し、所望の形成パターン内で局所的に一体化する。この状態でゾルゲル液の乾燥・熱分解・結晶化工程を経て形成された電気−機械変換膜は所望パターン領域より狭くなり、かつ、表面上の膜厚が不均一となるためクラックが発生し易くなる。また、生じた膜厚ムラにより、前記膜から形成された電気−機械変換素子の電気特性に不具合を生じることとなる。
【0010】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、クラックが発生し難い電気−機械変換膜と、電気特性が安定する電気−機械変換素子と、安定したインク滴吐出特性が得られる液体吐出ヘッドと、この液体吐出ヘッドを備え画像品質が良好な画像形成装置を実現し提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するとともに上述した目的を達成するために、本発明では、以下のような特徴ある手段・発明特定事項(以下、「構成」という)を採っている。
すなわち、本発明は、第1の電極上に部分的に表面改質を行う表面改質工程と、前記表面改質工程により表面改質された第1の電極上にインクジェット方式によりゾルゲル液を部分的に塗布する塗布工程と、前記塗布工程により部分的に塗布されたゾルゲル液を乾燥・熱分解・結晶化する乾燥・熱分解・結晶化工程とを有し、前記表面改質工程、前記塗布工程および前記乾燥・熱分解・結晶化工程を繰返し行い、ゾルゲル法にて所望パターン領域に所望する膜厚の電気−機械変換膜を得る電気−機械変換膜の形成方法において、前記塗布工程内において、前記インクジェット方式により塗布する前記ゾルゲル液滴のドット滴下が、前記表面改質工程で表面改質された親水領域に対応した前記所望パターン領域内と、前記表面改質工程で表面改質された疎水領域に対応した所望パターン領域外とに跨って着弾されるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、前記課題を解決して前記目的を達成できる新規な、電気−機械変換膜の形成方法、電気−機械変換膜、電気−機械変換素子、液体吐出ヘッドおよびこの液体吐出ヘッドを備えた画像形成装置を実現し提供することができる。
すなわち、本発明によれば、塗布工程内において、インクジェット方式により塗布するゾルゲル液滴のドット滴下が、表面改質工程で表面改質された親水領域に対応した所望パターン領域内と、表面改質工程で表面改質された疎水領域に対応した所望パターン領域外とに跨って着弾されるようにしたことにより、着弾したゾルゲル液滴の所望パターン領域外の塗布部分は所望パターン領域内へ吸い寄せられ、所望の形成パターン内にレベリングされるため、ゾルゲル液の乾燥・熱分解・結晶化工程を経て電気−機械変換膜を形成しても、表面上の膜厚が均一となり、クラックが発生し難くなるとともに、この膜から形成された電気−機械変換素子の電気特性を安定することができる。また、電気−機械変換素子の電気特性が安定することで、その電気−機械変換素子を備えたインク吐出ヘッドにおけるインク滴吐出不良がなくなり、安定したインク滴吐出特性が得られるとともに、そのインク吐出ヘッドを備えた画像形成装置においても画像品質が向上するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)〜(d)は、本発明の実施例1等を示す電気−機械変換膜の形成方法における表面改質工程を説明する模式的な断面図である。
【図2】(a)〜(g)は、本発明の実施例1〜3を示す電気−機械変換膜の形成方法における表面改質工程後の塗布工程、塗布工程後の乾燥・熱分解・結晶化工程を説明する模式的な断面図である。
【図3】(a)は、実施例1において、間引き量1/2で、PZT前駆体溶液(ゾルゲル液)の液滴が細線パターン領域に滴下・着弾された状態、および塗布回数毎の滴下・着弾された液滴の推移状態を表す簡略的な平面図、(b)は、実施例1において、間引き量1/3で、PZT前駆体溶液(ゾルゲル液)の液滴が細線パターン領域に滴下・着弾された状態、および塗布回数毎の滴下・着弾された液滴の推移状態を表す簡略的な平面図、(c)は、比較例において、間引き量1/3で、PZT前駆体溶液(ゾルゲル液)の液滴が細線パターン領域に滴下・着弾された状態、および塗布回数毎の滴下・着弾された液滴の推移状態を表す簡略的な平面図である。
【図4】P−Eヒステリシス曲線の一例を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例1〜3が適用された電気−機械変換膜を含む電気−機械変換素子を有する本発明の実施例4を示すインクカートリッジの要部の断面図である。
【図6】本発明の実施例5を示すインクジェット記録装置の機構部の概略的な一部断面正面図である。
【図7】図6のインクジェット記録装置の要部を透視した概略的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図を参照して本発明の実施の形態(以下、「実施形態」という)および実施例を詳細に説明する。実施形態や各実施例等に亘り、同一の機能もしくは形状等を有する部材や構成部品等の構成要素については、判別が可能な限り同一符号を付すに留め、重複説明を避ける。なお、実施形態に記載した内容は、一形態に過ぎず、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0015】
本発明に係る画像形成装置は、一般的にはインクジェット記録装置と呼ばれているもので、以下、画像形成装置はインクジェット記録装置と称する。このインクジェット記録装置には、騒音が極めて小さく、かつ、高速印字が可能であり、更にはインクの自由度があり安価な記録媒体である普通紙を使用できるなど多くの利点があるため、プリンタ、ファクシミリ、複写装置、上述したように複数の画像形成機能を備えた複合機等の画像記録装置或いは画像形成装置として広く展開されている。
【0016】
インクジェット記録装置において使用する液体吐出ヘッドは、インク滴を吐出するノズルと、このノズルが連通する液室と、液室内のインクを吐出するための圧力発生手段とで構成されている。
圧力発生手段としては、圧電素子などの電気−機械変換素子を用いて液室の壁面を形成している振動板を変形変位させることでインク滴を吐出させるピエゾ型のもの、液室内に配設した発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いてインクの膜沸騰でバブルを発生させてインク滴を吐出させるバブル型(サーマル型)のものなどがある。更にピエゾ型のものにはd33方向の変形を利用した縦振動型、d31方向の変形を利用した横振動(ベンドモード)型、更には剪断変形を利用したシェアモード型等があるが、最近では半導体プロセスやマイクロ・エレクトロ・メカニカル・システム(以下、「MEMS」と略記する。)の進歩により、Si基板に直接、液室およびピエゾ素子を作り込んだ薄膜アクチュエータが考案されている。本発明に係る圧力発生手段として機能する電気−機械変換素子は、d31方向の変形を利用した横振動(ベンドモード)型である。
【0017】
まず、本発明の特徴の1つである電気−機械変換素子の基礎となるゾルゲル法によるパターン化した電気−機械変換膜(層)の形成方法について述べる。
(1)下地基板の濡れ性を制御したゾルゲル液(以下、「PZT前駆体液」と記す)の塗り分けをする。これは、アルカンチオールの特定金属上に自己配列する現象である。
(2)白金族金属にチオールで、自己組織化単分子膜(Self−assembled Monolayer:以下、「SAM膜」と記す)を形成する。
(3)第1の電極としての下部電極にPt(白金)を用い、その全面にSAM処理を行う。
・SAM膜上はアルキル基が配置しているので疎水性になる。
(4)周知のフォトリソグラフィ・エッチングにより、前記SAM膜をパターニングする。
(5)レジスト剥離後も、パターン化SAM膜は残っているので、この部位は疎水性になる。一方、SAM膜除去した部位は白金表面なので親水性になる。
なお、上記(1)〜(5)までの処理工程は、第1の電極としての下部電極に部分的に表面改質を行う表面改質工程に相当する。
【0018】
(6)インクジェット方式により親水性の領域にPZT前駆体液(ゾルゲル液)を塗布する。
・表面エネルギーのコントラストにより、塗布領域は親水性の領域のみとなる。
・PZT前駆体液はインクジェットヘッドで塗布可能なように粘度、表面張力を調整する。
なお、上記(6)の処理工程は、表面改質された下部電極上の親水性の領域にPZT前駆体液(ゾルゲル液)をインクジェット方式により部分的に塗布する塗布工程に相当する。
【0019】
このようにして第1のパターン化PZT前駆体塗膜を下地基板上にインクジェット方式で形成し、通常のゾルゲルプロセスに従って熱処理を行う。2回目以降の工程は以下の理由から簡便化できる。
・SAM膜は酸化物薄膜上には形成されない。このため、上記(1)の処理工程によりPZT膜の無い露出している白金膜上のみにSAM膜が形成される。
・第1のパターン形成した試料にSAM処理を行った後、PZT前駆体液のインクジェット方式により塗り分け塗工を行い、熱処理を施す。
なお、塗布工程後のこれまでの工程は、塗布工程により部分的に塗布されたゾルゲル液を乾燥・熱分解・結晶化する乾燥・熱分解・結晶化工程に相当する。
【0020】
(7)所望の膜厚になるまで、上述の表面改質工程、塗布工程および乾燥・熱分解・結晶化工程を繰り返す。
・この方法によるパターン化はセラミックス膜厚が5μmの厚さまで形成できる。
つまり、PZT前駆体液(ゾルゲル液)をインクジェット方式で塗布するのが本発明の特徴であり、従来法のスピンコーターによる塗布と比較して少量の材料の使用で済み、工程の飛躍的な簡略化を図ることができる。
【0021】
以下、本発明の実施例1〜5について、図を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0022】
この実施例は、請求項1,2,3に対応する内容を含んでおり、本発明に係るゾルゲル法による電気−機械変換膜の形成方法に関するものである。
図1は、基板1表面を部分的に表面改質を行う表面改質工程を説明する模式的な断面図である。図1(a)に示す基板1上には、第1の電極または下部電極としての図示されていない例えば白金(Pt)電極が、基板1の表面に形成されている。
図1(b)は、基板1の表面全体にSAM膜2を形成した状態を示す。SAM膜2は、アルカンチオール液に基板1をディップして自己配列させることで得ている。ここでは1−ドデカンチオール(CH(CH11SH)を使用した。
図1(c)は、PZT前駆体を形成する部分のSAM膜2を除去するために、また必要部分のSAM膜2を保護するために、フォトリソグラフィによりフォトレジスト層3をパターニング形成した状態を示している。図1(c)の状態で、例えば酸素プラズマを基板1の表面に照射することにより、PZT前駆体を形成する部分のSAM膜2を除去する。
図1(d)は、上記したSAM膜2の除去後に、フォトレジスト層3を剥離した状態を示す。本工程により形成されたSAM膜2の純水に対する接触角は116度であり疎水(撥水)性を示し、SAM膜2を除去した部分4(以下、「親水領域4」ともいう)の基板1上のPtの接触角は10度以下となり親水性となる。本実施例ではSAM膜2を酸素プラズマで除去する例を説明したが、これに限らず、UV光(紫外線)を照射してSAM膜2を部分的に除去してもよい。
【0023】
次に図2を参照して、PZT前駆体液をインクジェット法により、図1の表面改質工程で形成した基板1上の親水領域4に塗布する塗布工程および方法について説明する。なお、ゾルゲル液は、以下、PZT前駆体液またはPZT前駆体溶液ともいう。
図2(a)に示すように、図1の表面改質工程でパターニングされた親水領域4に、インクジェットヘッド9を備えたインクジェット塗布装置によりPZT前駆体溶液(ゾルゲル液)5を塗布する。
PZT前駆体溶液(ゾルゲル液)5は、出発材料に酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水はメトキシエタノールに溶解後、脱水した。化学両論組成に対し鉛量を10モル%過剰にしてある。これは熱処理中のいわゆる鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、前記の酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と混合することでPZT前駆体溶液5を合成した。このPZT前駆体溶液5のPZT濃度は0.1mol/リットルにした。
【0024】
前記の溶媒・反応系で合成されたPZT前駆体溶液5は、インクジェット方式の特長を生かし、図3(a)に示すように、所望パターン領域である幅W=30μm×長さL=1mmの細線パターン領域(親水領域4)内で液滴6のドットを間引いて塗布し、前記間引き量に応じて塗布回数を変えて最終的に一つの前駆体層パターンが形成されるようにした。
図3(a)、図3(b)、図3(c)において、ハッチ(斜線)を施した部分は、疎水部・疎水領域(撥水部・撥水領域)としてのSAM膜2が形成されている、PZT前駆体溶液5の塗布領域外を示し、白抜き部分は、PZT前駆体溶液5の塗布領域である親水領域4を示している。なお、図の簡明化を図るため、各図3(a)、図3(b)、図3(c)において、一番左側の塗布回数1回目に対応した細線パターン領域外のSAM膜2形成部(撥水部・撥水領域)のみにハッチ(斜線)を施すとともに、細線パターンの寸法を表示しており、塗布回数2回目以降の各図3(a)、図3(b)、図3(c)ではハッチ(斜線)および細線パターンの寸法表示を省略している。
【0025】
本発明では、図2(b)および図3(a)に示すように、PZT前駆体溶液5の液滴6を、基板1上のPt面における所望パターン領域としての所定パターン領域の塗布領域内(親水領域4)と、所定パターン領域外(SAM膜2)とを跨ぐように着弾させた。すなわち、PZT前駆体溶液(ゾルゲル液)5の液滴6の着弾ドット径を40μmとし、ドット径が細線パターン幅(30μm)よりも大きくなるように着弾させた。前記の通り、所定パターン領域外はSAM膜2形成による撥水領域であり、親水性領域4である所定パターン領域内より接触角が非常に大きいので、図2(b)に示すように着弾したゾルゲル液滴の所定パターン領域外の塗布部分は所望パターン領域内へ吸い寄せられ、図2(c)に示すように所望の形成パターン内にてレベリングされた。この塗布工程においてミストの発生はなく、所定パターン領域外に微小なゾルゲル液滴による独立した塗布欠陥は発生しなかった。
【0026】
また、このときの隣接ドットは、図3(a)に示すように、液滴6のレベリングにより互いに凝集しないような間隔で配置させることとした。隣接ドットの間隔は、塗布する溶液に使用されている溶媒の乾燥速度や溶液の粘度によって最適化する必要があるが、少なくとも着弾する液滴6のドット径Rの半分以上を確保することが望ましく、着弾後の隣接液滴の凝集や乾燥・熱分解・結晶化工程におけるクラックの発生を制御できる。本実施例で使用したPZT前駆体溶液(ゾルゲル液)5においては、着弾した液滴6のドット径は40μmであるため、隣接ドット間隔はこのドット1個分である40μm(間引き量1/2)としたところ、塗布回数1回目の塗布工程で隣接する着弾ドット間でのゾルゲル液の凝集は見られなかった。なお、使用される溶媒によりPZT前駆体溶液5の乾燥速度やレベリングの程度が異なるため、前記隣接ドット間隔は前述の固有値に何ら限定されない。着弾させた液滴6から成る隣接ドットの間隔(間引き量)は、インクジェット塗布装置の制御部(コンピュータ)上の画像ソフト処理で容易に変更することが可能であり、本実施例では、図3(a)、図3(b)に示すように、塗布回数1回目のPZT前駆体溶液5の塗布を間引き量1/2、1/3で実施した。
【0027】
また、図3(c)に示す比較例として、液滴6のドット径を20μm、隣接ドット間隔40μm(間引き量1/3)として塗布工程を実施した。比較例においては、着弾した液滴6が細線パターン領域の幅方向端部までレベリングしなかった。加えて塗布工程実施中に、ゾルゲル液滴が吐出されるインクジェットヘッドのノズル孔よりゾルゲル液のミストが発生し、径4μmのドットとして所定パターン領域外に散布された。
【実施例2】
【0028】
この実施例は、請求項4に対応する内容を含んでおり、実施例1の電気−機械変換膜の形成方法により、塗布回数2回目以降のゾルゲル液(PZT前駆体溶液)5の塗布も同様に実施した。このときのPZT前駆体溶液5の塗布は、図3(a)の塗布回数2に示すように、所望パターン領域内(親水領域4)において、形成させたい層中の液滴6が塗布回数1回目の滴下されていない領域4Aへ液滴6のドットが着弾され、かつ、1ドットの中心が所定パターン幅方向の中心に着弾されるように塗布させた。着弾したゾルゲル液滴6の所望パターン領域外の塗布部分は所望パターン領域内へ吸い寄せられ、実施例1と同様に所望の形成パターン内にてレベリングされた。また、これより前に塗布されたドット状のPZT前駆体膜は、溶媒の大部分が経時で乾燥されているため、新たに塗布されたPZT前駆体溶液5と既存のPZT前駆体膜との凝集は見られなかった。
なお、図3(a)、図3(b)、図3(c)の細線パターン領域内において、塗布回数2回目に着弾された図において上下の略真円状の液滴・ドット6で挟まれた上下に長い楕円状の部分8−1は、塗布回数1回目の乾燥・熱分解・結晶化工程を経て成膜されたPZT膜部分を表わしている。塗布回数3回目以降のPZT膜部分は図の簡明化のため省略しているが、前述したと同様である。
【0029】
これを所望パターンが滴下・形成された液滴6のドットで埋まるまで順次繰り返し、一つのパターン層(成膜)7を形成させた(図2(b)〜図2(c)参照)。すなわち、塗布回数は間引き量の逆数回であり、間引き量1/2では2回、1/3では3回塗布することで、一層の所望パターンを形成した。
前記の成膜7で得られる一層の膜厚は100〜150nm程度が好ましく、前駆体濃度は成膜面積と前駆体塗布量の関係から適正化される。図2(d)はインクジェット塗布装置により所望のパターン層(一層の成膜)7が塗布された状態を示しており、接触角のコントラストのため前駆体溶液は親水部のみに広がりパターンを形成する。これを第1の加熱(溶媒の完全乾燥)として120℃処理後、有機物の熱分解を行うことで、図2(d)に示すPZT膜8を得た。このときの膜厚は100nmであり、膜表面が均一に形成された。
【実施例3】
【0030】
この実施例は、請求項5に対応する内容を含んでおり、実施例2の引き続き繰返し処理としてイソプロピルアルコール洗浄後、前記同様の浸漬処理にてSAM膜2を形成した。2回目以降においてSAM膜2は酸化膜上には形成されないので、図2(e)に示すように、フォトリソグラフィの工程を実施せずにSAM膜2のパターンが得られる。またこのときの接触角は純水に対してSAM膜2上は110度、PZT膜上8は18度であった。この状態で1度目に形成したPZT膜8上に位置合わせを行い、再度インクジェット塗布装置により実施例1および実施例2の方法でゾルゲル液(PZT前駆体溶液)5を塗布した。実施例1および2と同様に、着弾したゾルゲル液滴の所定パターン領域外の塗布部分は所望パターン領域内へ吸い寄せられ、所望の形成パターン内にてレベリングされた。この状態を図2(f)に示す。そして1回目と同じ加熱プロセスを実施すると、図2(g)に示すように重ね塗りされたPZT膜8Aが得られた。このときの膜厚は200nmであった。
前記工程をさらに4層繰り返して600nmのPZT膜8Aを得た後、結晶化熱処理(温度700℃)をRTA(急速熱処理)にて行った。PZT膜8Aにクラックなどの不良は生じなかった。さらに6層分のSAM膜処理→PZT前駆体溶液のパターン塗布→120℃乾燥→500℃熱分解を行い、結晶化熱処理をした。ここでもPZT膜8Aにクラックなどの不良は生じず、膜厚は1.2μmに達した。
【0031】
(比較例)
一方、図3(c)に示した比較例の方法で繰り返しPZT前駆体層を12層分重ね塗りした膜では、所定パターン化膜の幅が15μmとなり、膜表面上に多数のクラックが発生した。また、所定パターン化膜周囲の基板表面(Pt膜)上には、前記ミストから派生した無数の塗布欠陥が散見された。
【0032】
実施例3で最終的に得られた所望パターンのPZT膜8A(膜厚1.2μm)に上部電極(白金)を成膜し、その電気特性、電気−機械変換能(圧電定数)の評価を行った。PZT膜8Aの比誘電率は1600、誘電損失は0.04、残留分極は18.3μC/cm、抗電界(電界強度)は36.2kV/cmであり、通常のセラミック焼結体と同等の特性を持った。このP−Eヒステリシス曲線を図4に示す。
【0033】
電気−機械変換能は電界印加による変形量をレーザードップラー振動計で計測し、シミュレーションによる合わせ込みから算出した。その圧電定数d31は135pm/Vとなり、こちらもセラミック焼結体と同等の値であった。これは液体吐出ヘッドとして十分設計できうる特性値であった。すなわち、圧電素子として使用可能である。
一方で、上部電極を配置せずに電気−機械変換膜の更なる厚膜化を試みた。すなわち、6層までの熱分解アニールのたびに結晶化処理を行い、これを都合24回繰り返したところ2.4μmのパターン化PZT膜がクラックなどの欠陥を伴わずに得られた。
【0034】
以上説明した通り、実施例1〜3によるPZT前駆体溶液5の塗布において、1回の塗布工程で液滴6の着弾から所定パターン領域内でレベリングされ、工程中にミストが発生しない。この塗布方法を繰り返し行って所定のパターン層を形成することにより、パターン層を形成するPZT前駆体膜8Aが塗布欠陥がなく緻密に、かつ、膜表面が均一な膜厚で成膜される。従って、ゾルゲル法にて電気−機械変換膜(PZT前駆体膜)を形成する方法において、乾燥・熱分解・結晶化工程におけるクラックの発生を防止することができる。また、上述の良好な膜により形成された電気−機械変換膜(PZT前駆体膜)は、良好な電気特性をもつことができる。
【実施例4】
【0035】
次に、図5を参照して、本発明が適用された実施例4を示すインクカートリッジ103について説明する。
このインクカートリッジ103は、上記実施例1〜3の方法で形成した電気−機械変換膜43を含む電気−機械変換素子40を有するインクジェットヘッド102と、このインクジェットヘッド102に対してインクを供給する図示しないインクタンクとを一体化したものである。
インクジェットヘッド102は、ノズル板10に形成されていてインク滴を吐出するノズル11と、このノズル11が連通する圧力室とも呼ばれる液室21と、この液室21内のインク(図示せず)を吐出するための圧力発生手段となる電気−機械変換素子40とで構成されている。液室21は、ノズル板10にSi基板製の液室基板20を配置することで空間として形成されている。
【0036】
電気−機械変換素子40は、ノズル板10と対向側に配置され液室21の壁面を構成する振動板30を変形変位させることで液室21内のインクをインク滴としてノズル11から吐出させるピエゾ型のものである。電気−機械変換素子40は、Si基板で構成された振動板30上に酸化物電極41が形成されていて、酸化物電極41上に第1の電極となる白金族電極42が形成されている。この白金族電極42上に電気−機械変換膜43が形成され、この電気機械変換膜43上に第2の電極となる上部電極44を形成されている。すなわち、第1の電極となる酸化物電極41と第2の電極となる上部電極44との間に電気−機械変換膜43が介層されている。
【0037】
このような構成のインクジェットヘッド102を有するインクタンク一体型のインクカートリッジ103の場合、ヘッドの低コスト化、信頼性向上は、直ちにインクカートリッジ103全体の低コスト化、信頼性向上につながるので、上述したように低コスト化および高信頼性化が図れるとともに、製造不良が低減することで、インクカートリッジ103の歩留まり、信頼性が向上し、ヘッド一体型インクカートリッジの低コスト化を図れる。
【実施例5】
【0038】
次に、図6および図7を参照して、本発明に係るインクジェットヘッド102を搭載したインクカートリッジ103を有する画像形成装置としてのインクジェット記録装置の一例について説明する。図6は、インクジェット記録装置の機構部の概略的な一部断面正面図、図7は同記録装置の要部を透視した概略的な斜視図である。
インクジェット記録装置100は、いわゆるシリアル型のインクジェット記録装置であり、記録装置本体100Aの内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ101と、キャリッジ101に搭載した本発明を実施したインクジェットヘッド102(以下、「記録ヘッド102」ともいう)と、記録ヘッド102へインクを供給するインクカートリッジ103とを含んで構成される印字機構部104とを有している。
【0039】
記録装置本体100Aの下方部には、図6における左側の前方側から多数枚の用紙105を積載可能な給紙カセット106を抜き差し・挿脱自在に装着することができ、また、用紙105を手差しで給紙するための手差しトレイ107を開倒することができるよう設けられている。給紙カセット106或いは手差しトレイ107から給送される用紙105を取り込み、印字機構部104によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ108に排紙する。なお、給紙カセット106は、給紙トレイでもよい。
【0040】
印字機構部104は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド109と従ガイドロッド110とでキャリッジ101を主走査方向に摺動自在に保持している。このキャリッジ101には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する本発明に係るインクジェットヘッド(記録ヘッド)102を複数のインク吐出口(図5のノズル11)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。
【0041】
キャリッジ101には、インクジェットヘッド(記録ヘッド)102に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ103を交換可能に装着している。インクカートリッジ103は上方に大気と連通する大気口を、下方にはインクジェットヘッド102へインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を、それぞれ有しており、多孔質体の毛管力によりインクジェットヘッド102へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、記録ヘッドとして、ここでは各色のインクジェットヘッド102を用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個の記録ヘッドでもよい。
キャリッジ101は、図7に示すように、後方側(用紙(シート)搬送方向下流側)を主ガイドロッド109に摺動自在に保持され、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド110に摺動自在に載置されている。そして、このキャリッジ101を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ111で回転駆動される駆動プーリ112と従動プーリ113との間にタイミングベルト114を張装し、このタイミングベルト104をキャリッジ101に固定しており、主走査モータ111の正逆回転によりキャリッジ101が往復駆動される。
【0042】
一方、給紙カセット106にセットした用紙105をインクジェットヘッド(記録ヘッド)102の下方側に搬送するために、給紙カセット106から用紙105を分離給装する給紙ローラ115およびフリクションパッド116と、用紙105を案内するガイド部材117と、給紙された用紙105を反転させて搬送する搬送ローラ118と、この搬送ローラ118の周面に押し付けられる搬送コロ119および搬送ローラ118からの用紙105の送り出し角度を規定する先端コロ120とを設けている。
【0043】
搬送ローラ118は図示しない副走査モータによってギヤ列を介して回転駆動される。記録ヘッド102との対向部には、キャリッジ101の主走査方向の移動範囲に対応して、搬送ローラ118から送り出された用紙105をインクジェットヘッド(記録ヘッド)102の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材122が配置されている。この印写受け部材122の用紙搬送方向下流側には、用紙105を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ123、拍車124を設け、さらに用紙105を排紙トレイ108に送り出す排紙ローラ125および拍車126と、排紙経路を形成するガイド部材127,128とを配設している。
【0044】
インクジェットヘッド記録装置100は、記録時において、キャリッジ101を移動させながら画像信号に応じて対応する色のインクジェットヘッド(記録ヘッド)102を駆動することにより、停止している用紙105にインクを吐出して1行分を記録し、用紙105を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号、または用紙105の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙105を排紙する。
また、キャリッジ101の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、インクジェットヘッド(記録ヘッド)102の吐出不良を回復するための回復装置129を配置している。回復装置129はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ101は印字待機中にはこの回復装置129側に移動されてキャッピング手段でインクジェットヘッド(記録ヘッド)102をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
【0045】
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段でインクジェットヘッド(記録ヘッド)102の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(図示せず)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
【0046】
上述したとおり、このインクジェット記録装置100においては本発明を実施したインクジェットヘッド102を搭載しているので、振動板30の駆動不良によるインク滴吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られて、画像品質が向上する。
【0047】
上述した実施形態や変形例では、以下の技術構成を採用していた。
請求項1記載の技術構成では、第1の電極上に部分的に表面改質を行う表面改質工程と、前記表面改質工程により表面改質された第1の電極上にインクジェット方式によりゾルゲル液を部分的に塗布する塗布工程と、前記塗布工程により部分的に塗布されたゾルゲル液を乾燥・熱分解・結晶化する乾燥・熱分解・結晶化工程とを有し、前記表面改質工程、前記塗布工程および前記乾燥・熱分解・結晶化工程を繰返し行い、ゾルゲル法にて所望パターン領域に所望する膜厚の電気−機械変換膜を得る電気−機械変換膜の形成方法において、前記塗布工程内において、前記インクジェット方式により塗布する前記ゾルゲル液滴のドット滴下が、前記表面改質工程で表面改質された親水領域に対応した前記所望パターン領域内と、前記表面改質工程で表面改質された疎水領域に対応した所望パターン領域外とに跨って着弾されるようにしたことを特徴とする。
【0048】
請求項2記載の技術構成では、請求項1記載の電気−機械変換膜の形成方法において、前記ゾルゲル液滴の着弾ドット径が、少なくとも前記所望パターン領域の短辺側の長さよりも大きいことを特徴とする。
請求項3記載の技術構成では、請求項1記載の電気−機械変換膜の形成方法において、前記所望パターン領域外の接触角が、前記所望パターン領域内の接触角より大きいことを特徴とする。
【0049】
請求項4記載の技術構成は、請求項1ないし3の何れか一つに記載の電気−機械変換膜の形成方法により、前記ゾルゲル液滴の前記所望パターン領域内・外へ跨る滴下を順次繰り返すことで形成された層からなることを特徴とする電気−機械変換膜である。
請求項5記載の技術構成は、請求項1ないし3の何れか一つに記載の電気−機械変換膜の形成方法により、前記ゾルゲル液滴の前記所望パターン内・外へ跨る滴下を順次繰り返すことで形成された層を順次重畳させることで形成されたことを特徴とする電気−機械変換膜である。
請求項6記載の技術構成では、第1の電極と第2の電極との間に電気−機械変換膜が介層される電気−機械変換素子において、前記電気−機械変換膜が、請求項4または5記載の電気−機械変換膜であることを特徴とする電気−機械変換素子である。
【0050】
請求項7記載の技術構成は、請求項6記載の電気−機械変換素子において、前記電気−機械変換膜が、金属の複合酸化物からなり、第1の電極と第2の電極との上が白金族元素、およびその酸化物、またはこれら数種の積層膜からなる電極で構成されたことを特徴とする。
請求項8記載の技術構成は、請求項7記載の電気−機械変換素子を用いたことを特徴とする液体吐出ヘッドである。
請求項9記載の技術構成は、請求項8記載の液体吐出ヘッドを備えたことを特徴とする画像形成装置である。
【0051】
以上述べたとおり、本発明を特定の実施形態および実施例等について説明したが、本発明が開示する技術は、上述した実施形態および実施例等に例示されているものに限定されるものではなく、それらを適宜組み合わせて構成してもよく、本発明の範囲内において、その必要性および用途等に応じて種々の実施形態や実施例或いは変形例を構成し得ることは当業者ならば明らかである。
【0052】
本発明の実施例4の電気−機械変換素子40を用いた液体吐出ヘッドとして、微小インクを吐出するインクジェットヘッド102を例示して説明したが、これに限定されず、本発明の適用範囲は、例えばインクに代えて、その用途に応じて使用する任意の微小液体を吐出する液体吐出ヘッドであってもよく、また液体吐出ヘッドを用いたパターニング装置等にも適用可能なことは言うまでもない。
【0053】
本発明に係る画像形成装置は、図6および図7に示したインクジェット記録装置100に限らず、本発明のインクジェット方式の画像形成装置を含む画像形成装置、すなわち例えば、プリンタ、プロッタ、ワープロ、ファクシミリ、複写機、孔版印刷機を含む印刷装置等またはこれら2つ以上の機能を備えた複合機等においてインクジェット記録装置を含む画像形成装置にも適用可能である。
本発明の適用分野としては、直接的には印刷分野、特にデジタル印刷分野が挙げられ、画像形成装置としては、マルチファンクション・プリンタ(以下、「MFP」という)を使用するデジタル印刷装置、オフィス、パーソナルで使用するプリンタ、MFPなどが挙げられる。また、応用分野としては、インクジェット技術を利用する三次元造型技術などにも適用可能である。
また、被記録媒体・シートとしては、用紙105に限らず、使用可能な薄紙から厚紙、はがき、封筒、或いはOHPシート等まで、インクジェットヘッドを用いて画像形成可能な全ての記録媒体・シートを含むものである。
【符号の説明】
【0054】
1 基板
2 SAM膜
3 フォトレジスト層
4 親水領域
5 ゾルゲル液
6 液滴
7 パターン層
8,8A PZT膜、PZT前駆体膜
10 ノズル板
11 ノズル
20 液室基板
21 液室
30 振動板
40 電気−機械変換素子
41 酸化物電極
42 白金属電極
43 電気−機械変換膜
44 上部電極(第2の電極)
100 インクジェットヘッド記録装置
100A 記録装置本体
101 キャリッジ
102 記録ヘッド(インクジェットヘッド)
103 インクカートリッジ
104 印字機構部
105 用紙(被記録媒体、シート)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0055】
【特許文献1】特開平4−168277号公報
【特許文献2】特開2003−297825号公報
【特許文献3】特許第4432776号公報
【0056】
【非特許文献1】K. D. Budd, S. K. Dey, D. A. Payne, Proc. Brit. Ceram. Soc. 36, 107 (1985).
【非特許文献2】A. Kumar and G. M. Whitesides, Appl.Phys.Lett., 63, 2002 (1993).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極上に部分的に表面改質を行う表面改質工程と、
前記表面改質工程により表面改質された第1の電極上にインクジェット方式によりゾルゲル液を部分的に塗布する塗布工程と、
前記塗布工程により部分的に塗布されたゾルゲル液を乾燥・熱分解・結晶化する乾燥・熱分解・結晶化工程とを有し、
前記表面改質工程、前記塗布工程および前記乾燥・熱分解・結晶化工程を繰返し行い、ゾルゲル法にて所望パターン領域に所望する膜厚の電気−機械変換膜を得る電気−機械変換膜の形成方法において、
前記塗布工程内において、前記インクジェット方式により塗布する前記ゾルゲル液滴のドット滴下が、前記表面改質工程で表面改質された親水領域に対応した前記所望パターン領域内と、前記表面改質工程で表面改質された疎水領域に対応した所望パターン領域外とに跨って着弾されるようにしたことを特徴とする電気−機械変換膜の形成方法。
【請求項2】
請求項1記載の電気−機械変換膜の形成方法において、
前記ゾルゲル液滴の着弾ドット径が、少なくとも前記所望パターン領域の短辺側の長さよりも大きいことを特徴とする電気−機械変換膜の形成方法。
【請求項3】
請求項1記載の電気−機械変換膜の形成方法において、
前記所望パターン領域外の接触角が、前記所望パターン領域内の接触角より大きいことを特徴とする電気−機械変換膜の形成方法。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか一つに記載の電気−機械変換膜の形成方法により、前記ゾルゲル液滴の前記所望パターン領域内・外へ跨る滴下を順次繰り返すことで形成された層からなることを特徴とする電気−機械変換膜。
【請求項5】
請求項1ないし3の何れか一つに記載の電気−機械変換膜の形成方法により、前記ゾルゲル液滴の前記所望パターン内・外へ跨る滴下を順次繰り返すことで形成された層を順次重畳させることで形成されることを特徴とする電気−機械変換膜。
【請求項6】
第1の電極と第2の電極との間に電気−機械変換膜が介層される電気−機械変換素子において、
前記電気−機械変換膜が、請求項4または5記載の電気−機械変換膜であることを特徴とする電気−機械変換素子。
【請求項7】
請求項6記載の電気−機械変換素子において、
前記電気−機械変換膜が、金属の複合酸化物からなり、第1の電極と第2の電極との上が白金族元素、およびその酸化物、またはこれら数種の積層膜からなる電極で構成されたことを特徴とする電気−機械変換素子。
【請求項8】
請求項7記載の電気−機械変換素子を用いたことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項9】
請求項8記載の液体吐出ヘッドを備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−256756(P2012−256756A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129418(P2011−129418)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】