説明

電気コネクタ及びハーネス

【課題】1次係止状態において、コンタクトに引き抜き力が作用した際に、コンタクトをハウジングから抜け難くする技術を提供する。
【解決手段】防水コネクタは、メスコンタクト9と、ハウジング6と、リテーナと、を備える。ハウジングは、第1内壁面11と、第2内壁面12と、第1係合部19と、ランス20と、を有する。メスコンタクトは、ランスによって押圧される被押圧面21と、被押圧面21から離れる方向へ突出するように形成される第1被係合部22と、を有する。メスコンタクトの中心軸線Cを挟んで、第1係合部と第1被係合部による第1係合Jと反対側で、ハウジングとメスコンタクトとの第2係合Kが実現されるように、ハウジングには第2係合部35が形成され、メスコンタクトには第2係合部35に係合可能な第2被係合部24が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気コネクタ及びハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術として、特許文献1は、本願の図22に示すように、コネクタハウジング100とリテーナ101、端子金具102を備えたコネクタを開示している。コネクタハウジング100内には端子金具102が挿入されるキャビティ103が形成されている。リテーナ101には片持ち梁状のランス104が形成されている。ランス104の先端にはキャビティ103側に突出する係合突起104aが形成されている。コネクタハウジング100のキャビティ103に端子金具102を挿入する際は、コネクタハウジング100に対してリテーナ101を予め図22に示す仮係止位置に保持しておく。そして、端子金具102をキャビティ103へ挿入していくと、端子金具102の先端がランス104の係合突起104aに当たり、ランス104は一時的に撓み変形する。続けて、端子金具102をキャビティ103に挿入していくと、ランス104の弾性復帰を伴いつつ、ランス104の係合突起104aが端子金具102の係合孔102aと係合し、端子金具102がランス104に保持される。その上で、リテーナ101を上方へ押し込むと、端子金具102の箱形部102bの後縁部がキャビティ103上面の係止段差105に対して係合し、もって、端子金具102は二重に係止された状態になり、大きな保持力が発揮される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−268915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本願発明者らは、本願に先立って、図23〜26に示すように、ハウジング200のキャビティ201に挿入されたコンタクト203をリテーナ204(図26参照)によって2次係止する前にランス205を用いて1次係止しておくコネクタ206を開発した。
【0005】
具体的には、図23に示す矢印Xの方向でキャビティ201にコンタクト203を挿入していく。すると、コンタクト203は、図24に示すように、キャビティ201に片持ち梁状に形成されたランス205を押し倒すように弾性変形させる。図24の状態から更に矢印Xの方向でキャビティ201にコンタクト203を挿入すると、やがてコンタクト203のコンタクト部203aはキャビティ201内に形成された係合部207を乗り越える。これにより、図25に示すように、コンタクト203は、ランス205の自己弾性復元力によって矢印Yの方向に押し上げられ、コンタクト部203aが係合部207に係合することで1次係止された状態となる。そして、図25及び図26に示すように、コンタクト部203aと内壁面201aとの間のギャップ空間208にリテーナ204を矢印Zの方向で挿入すると、コンタクト203はハウジング200のキャビティ201内で2次係止された状態となる。
【0006】
このようにコネクタ206は、コンタクト203がハウジング200内に係止された状態である1次係止状態と、コンタクト203がハウジング200内に確実に係止された状態である2次係止状態と、の双方を実現可能に構成されており、もって、コネクタ206の組立作業性が良好とされている。
【0007】
しかし、実際の製造ラインにおいては、ハウジング200のキャビティ201にコンタクト203を挿入してからハウジング200にリテーナ204が取り付けられるまでの間、換言すれば、コンタクト203のハウジング200に対する係止状態が1次係止状態となった時点から2次係止状態へと切り替えられる時点までの間に、コンタクト203がハウジング200から抜け出てしまう問題が発生していた。この問題は、図27及び図28に示すメカニズムにより発生する。即ち、図27の1次係止状態でコンタクト203に接続されているケーブル210に引き抜き力F1が作用すると、コンタクト203には、この引き抜き力F1と釣り合うような反作用力F2を係合部207から受ける。ここで、引き抜き力F1と反作用力F2は同一作用線上にない。従って、引き抜き力F1と反作用力F2は偶力を形成し、コンタクト203には、図27に示すような反時計回りのモーメントM1が発生する。そして、このモーメントM1の発生により、図28に示すようにコンタクト部203aが傾き、この結果、コンタクト203のコンタクト部203aとハウジング200の係合部207との係合関係が弱まり、場合によってはコンタクト203がハウジング200から抜け出てしまう。
【0008】
この問題を解決するためには、例えば、ランス205の断面二次モーメントを高くすることでモーメントM1に対抗するという対策が挙げられる。ランス205の断面二次モーメントを高くするには、例えば、ランス205の断面積を大きくすることが有効である。しかしながら、この対策では、昨今要求されるコネクタ206の小型化の要請に対して全く逆行するものであり、採用することはできない。
【0009】
そこで、本願発明の目的は、1次係止状態において、コンタクトに引き抜き力が作用した際に、コンタクトをハウジングから抜け難くする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明の観点によれば、以下のように構成される電気コネクタが提供される。即ち、電気コネクタは、コンタクトと、前記コンタクトを挿入可能なキャビティを有するハウジングと、を備える。前記ハウジングは、前記キャビティを区画すると共に前記コンタクトを前記キャビティに挿入する方向であるコンタクト挿入方向に対して実質的に平行となる第1内壁面と、前記第1内壁面に対向する第2内壁面と、前記第1内壁面から前記第2内壁面へ向かって突出するように形成される第1係合部と、前記第2内壁面に形成されると共に、前記キャビティに挿入された前記コンタクトを前記第1内壁面に向かって押圧する押圧片と、を有している。前記コンタクトは、前記押圧片によって押圧される被押圧面と、前記被押圧面から離れる方向へ突出するように形成される第1被係合部と、を有している。前記キャビティに前記コンタクトを挿入し、前記第1被係合部が前記第1係合部を乗り越えると、前記押圧片の押圧により前記コンタクトが前記第1内壁面に向かって移動することで、前記第1被係合部が前記第1係合部に係合される1次係止状態となる。前記コンタクトの中心軸線を挟んで、前記第1係合部と前記第1被係合部による第1の係合と反対側で、前記ハウジングと前記コンタクトとの第2の係合が実現されるように、前記ハウジングには第2係合部が形成され、前記コンタクトには前記第2係合部に係合可能な第2被係合部が形成されている。
好ましくは、前記第2係合部は、前記押圧片に形成されている。
好ましくは、前記第2被係合部は、前記被押圧面に孔を形成し、又は前記被押圧面を窪ませることで形成されている。
好ましくは、前記第2の係合は、前記第1の係合と比較して、前記コンタクト挿入方向の手前側で行われる。
好ましくは、前記押圧片は、前記第2内壁面に支持される片持ち梁状に形成されている。前記第2係合部は、前記押圧片の自由端に形成されている。前記押圧片の前記自由端と固定端との間には、前記1次係止状態において前記コンタクトの前記被押圧面に接触する当接部が形成されている。
好ましくは、前記第2係合部に対する前記第2被係合部の第2被係合面には、前記第2内壁面に向かうにつれて前記第2係合部から離れるように傾斜する傾斜面が形成されている。
好ましくは、前記第2係合部には、前記第2被係合面に対応した第2係合部先端面が形成されている。
好ましくは、前記電気コネクタは、前記キャビティに挿入された前記コンタクトの、前記コンタクト挿入方向と直交する方向における移動を防止するリテーナを更に備えている。前記1次係止状態において、前記コンタクトと前記第2内壁面との間に前記リテーナを挿入することで、前記コンタクトの前記コンタクト挿入方向と直交する方向における前記移動が防止された2次係止状態になる。
前記コンタクトが取り付けられる芯線を有する電線と、上記の電気コネクタと、を備えたハーネスが提供される。
【発明の効果】
【0011】
前記1次係止状態において、前記コンタクトを前記ハウジングから引き抜くような力である引き抜き力が前記コンタクトに作用すると、前記コンタクトには前記第1の係合に起因した第1のモーメントが発生する。前記第1のモーメントは、前記コンタクトを前記キャビティ内で傾斜させて前記第1の係合を解除させようとする。これに対し、本願発明によれば、前記第2の係合に起因して、前記第1のモーメントと反対向きの第2のモーメントが発生する。従って、前記1次係止状態において、前記引き抜き力が前記コンタクトに作用した際に、前記コンタクトが前記キャビティ内で傾斜し難くなって前記第1の係合が解除され難くなるので、前記コンタクトが前記ハウジングから抜け難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、電気コネクタの分解斜視図である。(第1実施形態)
【図2】図2は、電気コネクタの断面斜視図であり、フロントリテーナは省略してある。(第1実施形態)
【図3】図3は、図2の部分拡大図である。(第1実施形態)
【図4】図4は、1次係止状態を示す断面図である。(第1実施形態)
【図5】図5は、2次係止状態を示す断面図である。(第1実施形態)
【図6】図6は、コンタクトの斜視図である。(第1実施形態)
【図7】図7は、コンタクトの一部切り欠き側面図である。(第1実施形態)
【図8】図8は、図6の部分拡大図である。(第1実施形態)
【図9】図9は、ランスロック孔の断面図である。(第1実施形態)
【図10】図10は、ハウジングの部分側面断面図である。(第1実施形態)
【図11】図11は、ランスの側面断面図である。(第1実施形態)
【図12】図12は、ランスの斜視図である。(第1実施形態)
【図13】図13は、ハウジングにコンタクトを挿入している様子を示す第1断面図である。(第1実施形態)
【図14】図14は、ハウジングにコンタクトを挿入している様子を示す第2断面図である。(第1実施形態)
【図15】図15は、ハウジングにコンタクトを挿入している様子を示す第3断面図である。(第1実施形態)
【図16】図16は、図4の部分拡大図である。(第1実施形態)
【図17】図17は、第1係合を強制的に解除している様子を示す断面図である。(第1実施形態)
【図18】図18は、図17の部分拡大図である。(第1実施形態)
【図19】図19は、ランスロック孔の断面図である。(第2実施形態)
【図20】図20は、ランスの側面断面図である。(第3実施形態)
【図21】図21は、ランスの側面断面図である。(第4実施形態)
【図22】図22は、特許文献1の図6に相当する図である。
【図23】図23は、ハウジングにコンタクトを挿入している様子を示す第1断面図である。(比較例)
【図24】図24は、ハウジングにコンタクトを挿入している様子を示す第2断面図である。(比較例)
【図25】図25は、1次係止状態を示す断面図である。(比較例)
【図26】図26は、2次係止状態を示す断面図である。(比較例)
【図27】図27は、比較例の課題を説明するための第1図である。(比較例)
【図28】図28は、比較例の課題を説明するための第2図である。(比較例)
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
図1に示すように、本実施形態においてハーネス1は、例えば4輪自動車や2輪自動車の電気系統の配線に用いられるものである。ハーネス1は、防水コネクタ2(電気コネクタ)と複数の電線3によって構成されている。
【0014】
(防水コネクタ2)
防水コネクタ2は、フロントリテーナ4と、シール部材5と、ハウジング6と、グロメット7と、リアカバー8と、複数のメスコンタクト9(コンタクト)と、回転させることによって相手側コネクタ(図示せず)と接続させるための回転レバー66と、を主たる構成として備えている。
【0015】
図2〜5には、ハウジング6に挿入されたメスコンタクト9が保持されている状態を示している。図2〜4には、フロントリテーナ4が取り付けられる前の状態であって、メスコンタクト9がハウジング6内に係止された状態である1次係止状態が示されている。図5には、フロントリテーナ4が取り付けられた後の状態であって、メスコンタクト9がハウジング6内に確実に係止された状態である2次係止状態が示されている。
【0016】
ここで、図2において、相手側コネクタ(図示せず)との嵌合側である左側を「先端側」と定義し、電線3が引き出されている側である右側を「後端側」と定義する。
【0017】
(ハウジング6の概要:図2〜5)
図2〜5に示すように、ハウジング6は、メスコンタクト9を挿入可能なキャビティ10を有している。図4において、メスコンタクト9は、後端側から先端側に向かってハウジング6のキャビティ10に挿入される。換言すれば、メスコンタクト9のコンタクト挿入方向Fは、後端側から先端側へ向かう方向である。ハウジング6には、先端側からフロントリテーナ4とシール部材5が取り付けられ、後端側からグロメット7とリアカバー8が取り付けられる。シール部材5は、湿気や異物がキャビティ10内に先端側から侵入するのを防止するものであり、相手側コネクタ(図示せず)と嵌合することによりシールされる。グロメット7は、同様に湿気や異物がキャビティ10内に後端側から侵入するのを防止する。リアカバー8は、グロメット7をハウジング6に取り付けられた状態で保持するものである。
【0018】
図4に示すように、ハウジング6は、第1内壁面11と、第2内壁面12と、第1係合部19と、ランス20(押圧片)と、を有している。第1内壁面11は、キャビティ10を区画すると共に、コンタクト挿入方向Fに対して実質的に平行である。第2内壁面12は、第1内壁面11に対して平行であって、第1内壁面11に対向する。第1係合部19は、第1内壁面11から第2内壁面12へ向かって突出するように形成されている。ランス20は、第2内壁面12に形成されると共に、キャビティ10に挿入されたメスコンタクト9を第1内壁面11に向かって押圧する。
【0019】
(メスコンタクト9:図6〜9)
次に、図6〜9を参照しつつ、メスコンタクト9を説明する。図6及び図7に示すように、本実施形態においてメスコンタクト9は、板金加工により一体形成されており、図示しないオスコンタクトの接触部が挿入されるコンタクト本体13と、電線3の芯線14(中心導体)をメスコンタクト9に圧着固定するための芯線バレル15と、電線3の絶縁被覆16をメスコンタクト9に圧着固定するための被覆バレル17と、コンタクト本体13と芯線バレル15を連結する連結部18とによって構成されている。また、図7に示すように、コンタクト本体13と連結部18には、ランス20(図4を併せて参照)によって押圧される被押圧面21が形成されている。
【0020】
コンタクト本体13は、図7に示すように、被押圧面21から離れる方向へ突出するように形成されており、図6に示すように略箱型形状を呈している。コンタクト本体13は、図6及び図7に示すように先端側壁面13aと後端側壁面13b(第1被係合面)を有している。後端側壁面13bの近傍には、第1被係合部22が形成されている。換言すれば、コンタクト本体13は第1被係合部22を含んでおり、第1被係合部22は被押圧面21から離れる方向へ突出するように形成されており、第1被係合部22は後端側壁面13bを有している。
【0021】
連結部18は、被押圧面21の一部を構成する底板18aと、一対の保護側板18bと、によって断面略U字状に構成されている。保護側板18bは、芯線バレル15から突出している芯線14を包囲することで、図2に示すようにメスコンタクト9をハウジング6のキャビティ10に挿入した際に、芯線14がグロメット7に引っ掛かるのを防止する機能を有する。また、図8に示すように、底板18aには、平面視で略長方形状のランスロック孔23(孔)が形成されている。図9に示すように、底板18aは、ランスロック孔23に対して先端側に隣接する第2被係合部24を有している。この第2被係合部24は、第2被係合面25を有している。第2被係合面25は、ランスロック孔23の内周面の一部として形成されている。第2被係合面25は、第1内壁面11側に位置するストレート面25aと、第2内壁面12側に位置するテーパ面25b(傾斜面)と、によって構成されている。ストレート面25aは、コンタクト挿入方向Fに対して直交するように形成されている。テーパ面25bは、ストレート面25aに接続すると共に、コンタクト挿入方向F側へ傾斜して形成されている。
【0022】
(ハウジング6の詳細:図10〜12)
図10に示すように、第1係合部19は、乗り上げガイド面19aと水平ガイド面19b、第1係合面19cを有している。乗り上げガイド面19aは、第1係合部19の後端側の面であって、後端側から先端側に向かうにつれて第2内壁面12に近づくように傾斜して形成されている。水平ガイド面19bは、第1内壁面11に対して略平行となるように形成されている。第1係合面19cは、第1係合部19の先端側の面であって、コンタクト挿入方向Fに対して略直交するように形成されている。
【0023】
図10に示すように、ランス20は、第2内壁面12に支持されると共に、キャビティ10内で後端側から先端側に向かって延びる片持ち梁状に形成されている。ランス20は、図10に示すランス20の無負荷状態において、ランス20の固定端30を有するランス水平部31と、ランス20の自由端32を有するランス傾斜部33と、によって構成されている。ランス水平部31は、無負荷状態においてコンタクト挿入方向Fと略平行に延びている。ランス傾斜部33は、無負荷状態において先端側に向かうにつれて第2内壁面12から離れ、第1内壁面11に近づくように傾斜して形成されている。
【0024】
図10〜12に示すように、ランス20の自由端32には、水平面34と第2係合部35が形成されている。水平面34は、無負荷状態において第2内壁面12と略平行となる面である。第2係合部35は、水平面34に形成されている。図10に示すように、第2係合部35は、水平面34から第1内壁面11に向かって突出するように形成されている。図10に示すように、第2係合部35は、第1内壁面11に向かって窄まるように、側面断面視で略台形状に形成されている。図11に示すように、第2係合部35は、第2係合部35の先端側の面である第2係合部先端傾斜面35a(第2係合面)と、水平面34に対して水平となる第2係合部水平面35bと、第2係合部35の後端側の面である第2係合部後端傾斜面35cと、を有している。また、図12に示すようにランス20の自由端32と固定端30の間には、V字屈曲部36が形成されている。詳しくは、図11及び図12に示すように、V字屈曲部36は、水平面34と、水平面34に対して後端側に隣接する傾斜面37と、の間に形成されている。
【0025】
そして、図10に示すように、ランス20は、第1係合部19よりも後端側に形成されている。詳しくは、ランス20の第2係合部35は、第1係合部19よりも後端側に形成されている。なお、第2係合部35の第2係合部先端傾斜面35a(第2係合面)と第2被係合面25(ストレート面25aまたはテーパ面25b)とは、1次及び2次係止状態のそれぞれにおいて、当接していても当接していなくても、どちらの状態でも良い。
【0026】
(フロントリテーナ4:図5)
図5に示すようにフロントリテーナ4は、図4に示す1次係止状態でメスコンタクト9と第2内壁面12の間に形成されたリテーナギャップgに挿入されるリテーナ40と、複数のリテーナ40同士を連結するリテーナ連結体41と、によって構成されている。図5に示すように、リテーナ40は、リテーナギャップg(図4参照)に挿入されることで、キャビティ10に挿入されたメスコンタクト9の、コンタクト挿入方向Fと直交する方向における移動を実質的に防止するものである。即ち、ランス20が第2内壁面12側へ弾性変位することを防止する。図5に示すように、リテーナ40の先端には、先端先細り形状の誤挿入検知部42が設けられている。誤挿入検知部42は、図4に示すように1次係止状態のランス20と第2内壁面12との間に挿入可能である一方、第2内壁面12側へ変位した状態のランス20に対しては先端同士で突き当たるように形成されている。従って、リテーナ40がリテーナギャップgに滞り無く挿入できたということは、図4に示すようにメスコンタクト9の係止状態が1次係止状態になっていることを意味している。
【0027】
(ハーネス1の組立:図13〜16)
次に、ハーネス1の組立について説明する。ハーネス1を組み立てるには、図2に示すように、ハウジング6にグロメット7とリアカバー8を予め取り付け、フロントリテーナ4は取り外した状態にしておく。そして、図13に示すように、メスコンタクト9をキャビティ10に後端側から挿入していく。すると、メスコンタクト9のコンタクト本体13が第1係合部19の乗り上げガイド面19aに沿って第2内壁面12側へと案内され、これに伴い、メスコンタクト9の被押圧面21はランス20を第2内壁面12側へと押圧する。
【0028】
続けて、図14に示すように、メスコンタクト9をキャビティ10に挿入していくと、メスコンタクト9のコンタクト本体13は、コンタクト挿入方向Fに対して直交する方向で第1係合部19とランス20に挟まれた状態となる。
【0029】
続けて、図15に示すように、メスコンタクト9をキャビティ10に挿入していくと、メスコンタクト9のコンタクト本体13の第1被係合部22が第1係合部19を乗り越え、ランス20は、自己弾性復元力によってメスコンタクト9の被押圧面21を第1内壁面11へ向けて押圧する。このランス20の押圧によりメスコンタクト9は、第1内壁面11に向かって移動する。この結果、図16に示すように、メスコンタクト9の第1被係合部22が第1係合部19に係合される。以下、メスコンタクト9の第1被係合部22と第1係合部19との係合を第1係合J(第1の係合)と称する。図16は、1次係止状態を示している(図4も併せて参照)。図16に示す1次係止状態において、メスコンタクト9の被押圧面21にはランス20のV字屈曲部36が接触している。また、ランス20の第2係合部35がメスコンタクト9のランスロック孔23内に侵入し、第2係合部先端傾斜面35aと第2被係合面25とが当接している。これにより、メスコンタクト9の第2被係合部24は、ランス20の第2係合部35に係合可能となっている。以下、メスコンタクト9の第2被係合部24とランス20の第2係合部35との係合を第2係合K(第2の係合)と称する。ここで、第1係合Jと第2係合Kは、電線3の芯線14又はメスコンタクト9(図6を併せて参照)の中心軸線Cを挟むように実現される。即ち、図16に示す側面断面視で、第1係合Jは中心軸線Cから見て第1内壁面11側で実現されており、第2係合Kは中心軸線Cから見て第2内壁面12側で実現されている。従って、図16に示す1次係止状態で、メスコンタクト9をハウジング6から引き抜くような力である引き抜き力Gがメスコンタクト9に作用すると、メスコンタクト9には、第1係合Jに起因した反時計回りの第1モーメントM1と、第2係合Kに起因した時計回りの第2モーメントM2が発生する。ここで、第1モーメントM1と第2モーメントM2は互いに打ち消し合う関係にあるので、メスコンタクト9がキャビティ10内で傾斜し難くなって第1係合Jが解除され難くなり、ひいては、メスコンタクト9がハウジング6から意に反して抜け難くなる。
【0030】
図16に示す1次係止状態で、ハウジング6にフロントリテーナ4を取り付ける。即ち、リテーナ40を図4に示すリテーナギャップgに挿入する。これにより、図5に示すように、メスコンタクト9の、コンタクト挿入方向Fと直交する方向における移動が防止された2次係止状態となる。
【0031】
(ハーネス1の分解:図16〜20)
図5に示す2次係止状態にあるハーネス1を分解するには、先ず、ハウジング6からフロントリテーナ4を取り外して、図4に示す1次係止状態へと戻す。次に、図17に示すように、メスコンタクト9のコンタクト本体13と第1内壁面11との間に、先端が鋭利な係合解除治具50を挿入することで、メスコンタクト9を第2内壁面12側に移動させる。これにより、図16に示す第1係合Jが強制的に解除される。また、図18に示すように、メスコンタクト9が第2内壁面12側に移動するに際し、メスコンタクト9の被押圧面21はランス20のV字屈曲部36に対して接触し続けるようになっている。従って、ランス20が第2内壁面12側に移動した際、メスコンタクト9から見てランス20の第2係合部35は、あたかもV字屈曲部36を中心にして反時計回りに回転するように変位する。そして、この結果、第2係合部35はランスロック孔23から第2内壁面12側へ部分的に抜脱し、第2係合Kが弱まる。図18の状態になったら、後は、電線3を引っ張るなどして、メスコンタクト9をハウジング6からコンタクト挿入方向Fと反対の方向に引き抜けばよい。図18の状態からメスコンタクト9をコンタクト挿入方向Fと反対の方向へ引き抜くと、既に弱まった状態の第2係合Kは容易にかつ完全に解除され、メスコンタクト9をハウジング6からスムーズに取り出すことができる。ここで、第2被係合部24の第2被係合面25にはテーパ面25bが形成されているので、若干第2係合Kが残存しているにも拘らずメスコンタクト9を引き抜こうとした際に、第2被係合部24の第2被係合面25がランス20の第2係合部35を欠損し難い。
【0032】
以上に、本願発明の好適な第1実施形態を説明したが、上記第1実施形態は、要するに、以下の特長を有している。
【0033】
防水コネクタ2(電気コネクタ)は、メスコンタクト9(コンタクト)と、メスコンタクト9を挿入可能なキャビティ10を有するハウジング6と、を備える。ハウジング6は、キャビティ10を区画すると共にコンタクト挿入方向Fに対して実質的に平行となる第1内壁面11と、第1内壁面11に対向する第2内壁面12と、第1内壁面11から第2内壁面12へ向かって突出するように形成される第1係合部19と、第2内壁面12に形成されると共に、キャビティ10に挿入されたメスコンタクト9を第1内壁面11に向かって押圧するランス20(押圧片)と、を有する。メスコンタクト9は、ランス20によって押圧される被押圧面21と、被押圧面21から離れる方向へ突出するように形成される第1被係合部22と、を有する。キャビティ10にメスコンタクト9を挿入し、第1被係合部22が第1係合部19を乗り越えると、ランス20の押圧によりメスコンタクト9が第1内壁面11に向かって移動することで、第1被係合部22が第1係合部19に係合される1次係止状態となる。メスコンタクト9の中心軸線Cを挟んで、第1係合部19と第1被係合部22による第1係合J(第1の係合)とこれとは反対側で、ハウジング6とメスコンタクト9との第2係合K(第2の係合)が実現されるように、ハウジング6には第2係合部35が形成され、メスコンタクト9には第2係合部35に係合可能な第2被係合部24が形成されている。以上の構成で、1次係止状態において、メスコンタクト9をハウジング6から引き抜くような力である引き抜き力Gがメスコンタクト9に作用すると、メスコンタクト9には第1係合Jに起因した第1モーメントM1(第1のモーメント)が発生する。第1モーメントM1は、メスコンタクト9をキャビティ10内で傾斜させて第1係合Jを解除させようとする。本願発明の構成によれば、第2係合K(第2の係合)に起因して、第1モーメントM1と反対向きの第2モーメントM2(第2のモーメント)も発生する。従って、1次係止状態において、引き抜き力Gが電線3あるいはメスコンタクト9に作用した際に、メスコンタクト9がキャビティ10内で傾斜し難くなって第1係合Jが解除され難くなるので、メスコンタクト9がハウジング6から抜け難くなる。
【0034】
また、第2係合部35は、ランス20に形成されている。
【0035】
また、第2被係合部24は、被押圧面21にランスロック孔23を形成することで形成されている。以上の構成によれば、底板18aが芯線14と干渉することがない。
【0036】
また、ランス20は、第2内壁面12に支持される片持ち梁状に形成されている。第2係合部35は、ランス20の自由端32に形成されている。ランス20の自由端32と固定端30との間には、1次係止状態においてメスコンタクト9の被押圧面21に接触するV字屈曲部36(当接部)が形成されている。以上の構成によれば、メスコンタクト9と第1内壁面11との間に係合解除治具50を挿入してメスコンタクト9を第2内壁面12側に移動させることで第1係合Jを解除した際、第2係合Kは略同時に弱まることになる。従って、第2係合Kを強制的に解除するための特別な係合解除治具を用意しなくても、メスコンタクト9をハウジング6から意図的に引き抜くことが可能となる。
【0037】
また、第2係合部35に対する第2被係合部24の第2被係合面25には、第2内壁面12に向かうにつれて第2係合部35から離れるように傾斜するテーパ面25b(傾斜面)が形成されている。仮に、メスコンタクト9をハウジング6から意図的に引き抜く際に第2係合Kが完全には解除されていないとすると、第2被係合部24が第2係合部35を部分的に欠損させてしまう虞がある。これに対し、以上の構成によれば、テーパ面25bの存在により、メスコンタクト9をハウジング6から意図的に引き抜く際に第2係合Kが完全には解除されていなくても、第2被係合部24が第2係合部35を欠損し難くなる。
【0038】
また、図16に示すように、第2係合Kは、第1係合Jと比較して、コンタクト挿入方向Fの手前側で行われている。
【0039】
また、図7に示すように、ランスロック孔23は、コンタクト本体13を避けるように形成されている。以上の構成によれば、コンタクト本体13の導通動作、すなわち相手側コンタクト(図示せず)との接続にランスロック孔23が影響を与えることがない。
【0040】
また、図7に示すように、ランスロック孔23は、側面視で連結部18の保護側板18bと同じ位置に形成されている。以上の構成によれば、ランスロック孔23を形成したことによるメスコンタクト9の強度不足を保護側板18bが補完する相互補完関係が成立するので、メスコンタクト9の強度が確保し易くなる。
【0041】
(第2実施形態)
次に、図19を参照しつつ、本願発明の第2実施形態を説明する。ここでは、本実施形態が上記第1実施形態と異なる点を中心に説明し、重複する説明は適宜省略する。また、上記第1実施形態の各構成要素に対応する構成要素には原則として同一の符号を付すこととする。
【0042】
上記第1実施形態において第2被係合部24は、図9に示すように、メスコンタクト9の連結部18の底板18aにランスロック孔23を形成することで実現されている。これに対し、本実施形態において第2被係合部24は、図19に示すように、メスコンタクト9の連結部18の底板18aに凹部60(窪み)を形成することで実現している。このように第2被係合部24を凹部60によって形成することで、上記第1実施形態と比較して、メスコンタクト9の強度低下を効果的に抑制することができる。
【0043】
(第3実施形態)
次に、図20を参照しつつ、本願発明の第3実施形態を説明する。ここでは、本実施形態が上記第1実施形態と異なる点を中心に説明し、重複する説明は適宜省略する。また、上記第1実施形態の各構成要素に対応する構成要素には原則として同一の符号を付すこととする。
【0044】
上記第1実施形態において第2係合部35は、図11に示すように第2係合部先端傾斜面35aを有することとしたが、これに代えて、図20に示すように湾曲面である第2係合部先端R面61を有することとしてもよい。この第2係合部先端R面61によれば、上記第1実施形態と比較して、第2係合部35がメスコンタクト9の第2被係合部24との接触の際に更に欠損し難くなる。
【0045】
(第4実施形態)
次に、図21を参照しつつ、本願発明の第4実施形態を説明する。ここでは、本実施形態が上記第1実施形態と異なる点を中心に説明し、重複する説明は適宜省略する。また、上記第1実施形態の各構成要素に対応する構成要素には原則として同一の符号を付すこととする。
【0046】
上記第1実施形態において第2係合部35は、図11に示すように第2係合部先端傾斜面35aを有することとしたが、これに代えて、図21に示すように、コンタクト挿入方向Fに対して直交する第2係合部先端直交面62を有することとしてもよい。この第2係合部先端直交面62によれば、上記第1実施形態と比較して、図16に示す第2係合Kの係合力が一層強力になる。
【符号の説明】
【0047】
1 ハーネス
2 防水コネクタ(電気コネクタ)
3 電線
4 フロントリテーナ
5 シール部材
6 ハウジング
7 グロメット
8 リアカバー
9 メスコンタクト(コンタクト)
10 キャビティ
11 第1内壁面
12 第2内壁面
13 コンタクト本体
13a 先端側壁面
13b 後端側壁面(第1被係合面)
14 芯線
15 芯線バレル
16 絶縁被覆
17 被覆バレル
18 連結部
18a 底板
18b 保護側板
19 第1係合部
19a 乗り上げガイド面
19b 水平ガイド面
19c 第1係合面
20 ランス(押圧片)
21 被押圧面
22 第1被係合部
23 ランスロック孔(孔)
24 第2被係合部
25 第2被係合面
25a ストレート面
25b テーパ面(傾斜面)
30 固定端
31 ランス水平部
32 自由端
33 ランス傾斜部
34 水平面
35 第2係合部
35a 第2係合部先端傾斜面(第2係合部先端面)
35b 第2係合部水平面
35c 第2係合部後端傾斜面
36 V字屈曲部(当接部)
37 傾斜面
40 リテーナ
41 リテーナ連結体
42 誤挿入検知部
50 係合解除治具
60 凹部
61 第2係合部先端R面(第2係合部先端面)
62 第2係合部先端直交面(第2係合部先端面)
C 中心軸線
F コンタクト挿入方向
g リテーナギャップ
G 引き抜き力
J 第1係合(第1の係合)
K 第2係合(第2の係合)
M1 第1モーメント(第1のモーメント)
M2 第2モーメント(第2のモーメント)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンタクトと、
前記コンタクトを挿入可能なキャビティを有するハウジングと、
を備え、
前記ハウジングは、
前記キャビティを区画すると共に前記コンタクトを前記キャビティに挿入する方向であるコンタクト挿入方向に対して実質的に平行となる第1内壁面と、
前記第1内壁面に対向する第2内壁面と、
前記第1内壁面から前記第2内壁面へ向かって突出するように形成される第1係合部と、
前記第2内壁面に形成されると共に、前記キャビティに挿入された前記コンタクトを前記第1内壁面に向かって押圧する押圧片と、
を有し、
前記コンタクトは、
前記押圧片によって押圧される被押圧面と、
前記被押圧面から離れる方向へ突出するように形成される第1被係合部と、
を有し、
前記キャビティに前記コンタクトを挿入し、前記第1被係合部が前記第1係合部を乗り越えると、前記押圧片の押圧により前記コンタクトが前記第1内壁面に向かって移動することで、前記第1被係合部が前記第1係合部に係合される1次係止状態となる、
電気コネクタであって、
前記コンタクトの中心軸線を挟んで、前記第1係合部と前記第1被係合部による第1の係合と反対側で、前記ハウジングと前記コンタクトとの第2の係合が実現されるように、前記ハウジングには第2係合部が形成され、前記コンタクトには前記第2係合部に係合可能な第2被係合部が形成されている、
電気コネクタ。
【請求項2】
請求項1に記載の電気コネクタであって、
前記第2係合部は、前記押圧片に形成されている、
電気コネクタ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電気コネクタであって、
前記第2被係合部は、前記被押圧面に孔を形成し、又は前記被押圧面を窪ませることで形成されている、
電気コネクタ。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の電気コネクタであって、
前記第2の係合は、前記第1の係合と比較して、前記コンタクト挿入方向の手前側で行われる、
電気コネクタ。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の電気コネクタであって、
前記押圧片は、前記第2内壁面に支持される片持ち梁状に形成されており、
前記第2係合部は、前記押圧片の自由端に形成されており、
前記押圧片の前記自由端と固定端との間には、前記1次係止状態において前記コンタクトの前記被押圧面に接触する当接部が形成されている、
電気コネクタ。
【請求項6】
請求項5に記載の電気コネクタであって、
前記第2係合部に対する前記第2被係合部の第2被係合面には、前記第2内壁面に向かうにつれて前記第2係合部から離れるように傾斜する傾斜面が形成されている、
電気コネクタ。
【請求項7】
請求項6に記載の電気コネクタであって、
前記第2係合部には、前記第2被係合面に対応した第2係合部先端面が形成されている、
電気コネクタ。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の電気コネクタであって、
前記キャビティに挿入された前記コンタクトの、前記コンタクト挿入方向と直交する方向における移動を防止するリテーナを更に備え、
前記1次係止状態において、前記コンタクトと前記第2内壁面との間に前記リテーナを挿入することで、前記コンタクトの前記コンタクト挿入方向と直交する方向における前記移動が防止された2次係止状態になる、
電気コネクタ。
【請求項9】
前記コンタクトが取り付けられる芯線を有する電線と、
請求項1〜8の何れかに記載の電気コネクタと、
を備えたハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2012−238534(P2012−238534A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108062(P2011−108062)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000231073)日本航空電子工業株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】