説明

電気スズめっき液および電子部品の製造方法

【課題】めっき中の素体の腐食を抑制し、セラミック電子部品の電気特性の劣化を防止することができる電気スズめっき液および当該電気スズめっき液を用いた電子部品の製造方法を提供する。
【解決手段】本実施形態に係るめっき液は、セラミック電子部品用の電気スズめっき液であって、スズイオンを含み、pHが5以上8以下であり、アンモニアおよびアンモニウムイオンの濃度が0.3mol/L以下であり、キレート剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度が2.5以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品に好適に使用される電気スズめっき液およびこのめっき液を用いた電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サーミスタ、コンデンサ、インダクタ、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)、バリスタやそれらの複合体からなるセラミック電子部品の端子電極形成工程において、電気Snめっきが用いられている。例えば、内部電極を備えるセラミック電子部品の表面に、銀、銅等の導電ペーストを塗布して焼成して下地電極を形成した後に、この下地電極表面に選択的に電気バレルめっきでNi層およびSn層を連続的に形成し、端子電極を構成する。このSn層の電気めっきには、pH4〜8の中性スズめっき液が用いられることが多い。
【0003】
従来、めっき後のセラミック電子部品の電気特性が、めっき前の電気特性に比べて劣化するという問題があった。その理由の1つとして、主としてセラミックスからなる素体に存在する多数の細孔を通じて素体の内部にめっき液が侵入し、素体を腐食させていることが挙げられる。このような観点から、特許文献1に示すように、めっき液の粘度を高めて、細孔内部へのめっき液の侵入を抑制する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平7−23554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者の研究によれば、単にめっき液の粘度を調整する手法では、素体の腐食を十分に抑制できないことが判明した。このため、素体の腐食を十分に抑制し、めっきによるセラミック電子部品の電気特性の劣化を防止し得るめっき液が要求されている。
【0006】
そこで、本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、めっき中の素体の腐食を抑制し、セラミック電子部品の電気特性の劣化を防止することができる電気スズめっき液および当該電気スズめっき液を用いた電子部品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の電気スズめっき液は、セラミック電子部品用の電気スズめっき液であって、スズイオンを含み、pHが5以上8以下であり、アンモニアおよびアンモニウムイオンの濃度が0.3mol/L以下であり、キレート剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の比(スズイオンのモル濃度に対するキレート剤のモル濃度の比の値)が2.5以下である。
【0008】
上記構成のように、キレート剤、アンモニアおよびアンモニウムイオンの濃度を最小限に抑え、pHをできるだけ高くすることにより、セラミック電子部品の素体の腐食を抑制することができる。可能であれば、キレート剤、アンモニアおよびアンモニウムイオンを含まないことが好ましい。
【0009】
好ましくは、2価スズイオンの濃度が0.15mol/L以下である。pHが高くキレート剤の濃度が低い環境下では、スズイオンの濃度が0.15mol/Lを超えて高いと、放置時もしくは通電時に沈殿が生じてしまい、この結果、めっき液の組成が変動し、安定しためっきが困難となる傾向にある。
【0010】
好ましくは、スルファミン酸イオン濃度が0.5mol/L未満である。スルファミン酸イオンの濃度が0.5mol/L以上と高いと、通電時に沈殿が生じ、めっき液の組成が変動し、安定しためっきが困難となる傾向にある。
【0011】
水に対する水酸化物の溶解度が0.5mol/L以上であるカチオンの濃度が、好ましくは0.5mol/L以下であり、さらに好ましくは0.3mol/L以下である。水に対して水酸化物の溶解度が斯様に高いカチオンとしては、Liイオン、Naイオン、Kイオン等のアルカリ金属イオンや、アンモニウムイオンが挙げられる。このようなカチオンは、通電時にカソード周辺部に移動して濃縮され、強アルカリを生成し、セラミック電子部品の素体を腐食させることから、その濃度を0.5mol/L以下に抑制することが望ましい。
【0012】
また、この観点より、Sr、Ca、もしくはMgの塩からなるキレート剤又は導電性塩を含んでいてもよい。Sr、Ca、Mgの塩は、水に対する水酸化物の溶解度が非常に低いことから、通電時もカソード周辺部で濃縮されて強アルカリを生成せず、素体を腐食させることもないからである。なお、アルカリ土類金属の溶解度は、Mg<Ca<Sr<Baである。
【0013】
さらに、上記の目的を達成するため、本発明のセラミック電子部品の製造方法は、本発明の電気スズめっき液を用いて好適に実施できる方法であり、すなわち、セラミック素子の下地電極上に電気スズめっきによりスズ層を形成する工程を備え、前記工程においては、スズイオンを含み、pHが5以上8以下であり、アンモニアおよびアンモニウムイオンの濃度の比が0.3mol/L以下であり、キレート剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度が2.5以下である電気スズめっき液を用いる。
【0014】
殊に、Znを含有するセラミック素体を用いる場合、本発明の効果が顕著である。Znを含む素体は、素体の耐薬品性に乏しいため、従来のめっき液による処理では素体の腐食が不都合な程度に大きくなってしまい、絶縁不良などの不具合が生じ易い場合があるのに対し、本発明によるセラミック電子部品の製造方法を用いることにより、かかる不具合を十分に抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、めっき液中におけるキレート剤、アンモニアおよびアンモニウムイオンの濃度を最小限に抑え、pHをできるだけ高くすることにより、めっき液による素体の腐食を抑制することができる。これにより、めっき後のセラミック電子部品の電気的特性の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】セラミック電子部品の概略構造を示す斜視図である。
【図2】図1のII−II線の断面図である。
【図3】セラミック電子部品の下地電極の外側にめっきにより端子電極が形成された構造を示す概略断面図である。
【図4】めっき液中のキレート剤濃度と腐食距離との関係を示す図である。
【図5】アンモニウムイオン濃度と腐食距離との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、図面中、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。また、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。さらに、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0018】
<セラミック電子部品の例>
図1は、本発明による電気めっき処理の対象となるセラミック電子部品の一例を示す斜視図である。図2は、図1のII−II線における断面図である。
【0019】
セラミック電子部品1は、セラミックスからなる素体2と、素体2内に形成された複数の内部電極3とを含む積層体4を有し、換言すれば、素体2と内部電極3が積層された単位構造10を少なくとも1つ備えたものである。より具体的には、積層体4の一方の側面に露出した端部を有する内部電極3と、積層体4の他方の側面に露出した端部を有する内部電極3とが交互に積層されている。積層体4の両側(端)面には、それらの側面を覆うように下地電極5,5が設けられており、各下地電極5は、積層体4の一方の側面から露出した内部電極3の群、あるいは積層体4の他方の面から露出した内部電極3の群に電気的に接続されている。
【0020】
セラミック電子部品1の素体2はセラミックス、具体的には、半導体セラミックスまたは誘電体セラミックスからなる。半導体セラミックス、および、誘電体セラミックスのいずれの場合にも、素体2にはZnが含まれることがある。半導体セラミックスでは、バリスタ、サーミスタなどの主成分として、また、誘電体では、焼結助剤としてZnを含むガラスが好ましく用いられる。特に後者では、LTCC(部品)の小型化に伴い薄層化が進み、このためにさらに焼結温度の低下が進んでおり、使用例も一段と増加している。
【0021】
内部電極3には、素体2との間での確実なオーミック接触を可能とする観点から、例えば、Ag、Pd、Ni、Cu、またはAlを主成分とする材料が用いられるが、特に材料に限定はない。
【0022】
下地電極5は、例えば、積層体4の側面への導電性ペーストの塗布および焼成により得られる。下地電極5を形成するための導電性ペーストとしては、主として、ガラス粉末(フリット)と、有機ビヒクル(バインダー)と、金属粉末とを含むものが挙げられ、導電性ペーストの焼成により、有機ビヒクルは揮散し、最終的にガラス成分および金属成分を含む下地電極5が形成される。なお、導電性ペーストには、必要に応じて、粘度調整剤、無機結合剤、酸化剤等種々の添加剤を加えてもよい。例えば、下地電極5は、金属成分としてAg、Cu、または、Znを含む。
【0023】
図3に示すように、セラミック電子部品1の下地電極5,5の表面に、さらに、電気めっきにより端子電極7,7が形成される。これらの端子電極7,7と、例えば、配線基板上の電極とがはんだ等により接合される。各端子電極7は、例えば、下地電極5側から積層形成されたNi層7aおよびSn層7bを含む2層構造を有する。Ni層7aは、はんだ付け時の熱によるSn層7bと下地電極5との相互拡散によるはんだ付け性不良を防止するバリアメタルとして機能するものであり、その厚さは例えば2μm程度である。また、Sn層7bは、はんだの濡れ性を向上させる機能を有するものであり、その厚さは例えば4μm程度とされる。
【0024】
<めっき液>
本実施形態に係るめっき液は、上述したSn層7bのようなセラミック電子部品の電極の形成に好適に用いられる。以下、本実施形態に係るめっき液について説明する。
【0025】
本実施形態の電気スズめっき液は、素体の腐食を抑制すべく、pHをできるだけ高くして、キレート剤、アンモニアおよびアンモニウムイオンの濃度を最小限としたものである。
【0026】
キレート剤はできるだけ含まないことが好ましく、全く含まなくてもよい。キレート剤は錯イオン生成定数が大きいため、キレート剤が含まれると、セラミックスからなる素体自体が溶解され易くなる傾向にある。具体的には、キレート剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の比が2.5以下となると、素体の腐食は大幅に抑制される。
【0027】
なお、キレート剤の材料に限定はないが、例えば、グルコン酸、グルコヘプトン酸、グルコノラクトン、グルコヘプトノラクトン、クエン酸、ピロリン酸およびこれらのアルカリ金属、アルカリ土類金属との塩が挙げられる。具体的にはグルコン酸ナトリウム、グルコン酸マグネシウム、クエン酸カルシウム、ピロリン酸ストロンチウム等がある。その中でもグルコン酸塩はめっき液の安定性を高めることができるので好ましい。
【0028】
アンモニアおよびアンモニウムイオンは、できる限り含まないことが好ましく、全く含まなくてもよい。アンモニアまたはアンモニウムイオンが含まれると、素体自体の腐食が進行し易くなる傾向にある。具体的には、アンモニウムイオンを0.3moL/L以下にすると、素体の腐食は大幅に抑制される。
【0029】
また、キレート剤をできるだけ含まず、かつpHが高いめっき液では、Snの濃度が高いと、放置時もしくは通電時に沈殿が生じることに起因してめっき液の組成が変動し、安定しためっきが困難となる傾向にある。そのためSnの濃度は小さい方がよいが、このSn濃度が小さすぎると、めっき電流が下がってしまいめっき時間が長くなり生産性が低下する傾向にある。このような観点から、めっき液中のSn濃度は0.05〜0.15mol/Lが好ましい。
【0030】
このSnの供給源としては、メタンスルホン酸スズ等のスズアルカンスルホン酸塩、硫酸スズ、スルファミン酸スズ塩化スズ、酢酸第1スズ、酸化第1スズ、ホウフッ化第1スズ、2−ヒドロキシエタンスルホン酸第1スズ、2−ヒドロキシプロパンスルホン酸第1スズ、およびフェノールスルホン酸第1スズの等が挙げられる。これらのなかで、硫酸スズ、およびスルファミン酸スズは原料自体が不安定であって取り扱い性に問題があり、さらにスルファミン酸スズを用いると、連続通電時に沈殿が生じやすいという更なる問題がある。したがって、上述したもののなかでは、メタンスルホン酸スズを用いることが好ましい。
【0031】
さらに、めっき液の導電性を高めるため、導電塩を含むことが好ましい。導電剤の例としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはアンモニアと、メタンスルホン酸等のアルカンスルホン酸、硫酸、スルファミン酸、酢酸、ホウフッ酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、およびフェノールスルホン酸等の酸との塩、もしくは塩化物が挙げられる。具体的にはメタンスルホン酸マグネシウム、メタンスルホン酸アンモニウム、塩化カルシウム、硫酸ストロンチウム、硫酸ナトリウム、塩化アンモニウム、スルファミン酸ナトリウム等が挙げられる。このなかで、塩化アンモニウム等のアンモニウム塩は、素体が腐食し易い傾向にあり、また、スルファミン酸ナトリウム等のスルファミン酸塩は、通電時に沈殿が生じ易い傾向にある。このようなスルファミン酸塩の沈殿を防止するためには、スルファミン酸イオン濃度が0.5mol/L未満であることが好ましい。
【0032】
またさらに、水に対する水酸化物の溶解度が0.5mol/L以上であるカチオンの濃度が、0.5mol/L以下であることが好ましく、0.3mol/L以下であることがさらに好ましい。このようなカチオンは、例えば、キレート剤、導電塩、またはアンモニウムイオンから生じ得る。水に対する水酸化物の溶解度が0.5mol/L以上であるカチオンの例としては、Liイオン、Naイオン、Kイオン等のアルカリ金属イオン、アンモニウムイオンが挙げられる。このようなカチオンは、通電時にカソード周辺部に移動して濃縮され強アルカリを生成し、セラミック電子部品の素体を腐食させる傾向にあることから、その濃度を抑制することが望ましい。
【0033】
例えば、キレート剤としてグルコン酸ナトリウムが用いられることが多いが、この場合めっき液中に多量のナトリウムイオンが存在し、めっき中にこのナトリウムイオンがSn2+イオンと共にセラミック電子部品(チップ)の周辺に移動し、水酸化ナトリウムの濃厚液が生成して強アルカリとなり、素体が腐食される傾向にある。キレート剤がK,Li等のアルカリ塩、もしくはアンモニウム塩の場合でも同様の傾向にある。
【0034】
従って、キレート剤または導電塩として例示した材料のうち、Liイオン、Naイオン、Kイオン等のアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン等の塩を使用する場合には、これらの塩の濃度を0.5mol/L以下とすることが望ましく、0.3mol/L以下とすることがさらに望ましい。このようなキレート剤の例としては、グルコン酸ナトリウムが挙げられる。また、導電塩の例として、硫酸ナトリウム、塩化アンモニウム、スルファミン酸ナトリウム、メタンスルホン酸アンモニウム等が挙げられる。
【0035】
あるいは、キレート剤または導電塩として例示した材料のうち、Sr、Ca、Mg等の金属の塩を好ましく用いることができる。これにより、めっき中もチップの周辺に強アルカリが生成することなく、素体の腐食が大幅に抑制される。このようなキレート剤として、グルコン酸マグネシウム、クエン酸カルシウム、ピロリン酸ストロンチウム等が挙げられる。また、このような導電塩として、メタンスルホン酸マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸ストロンチウム等が挙げられる。
【0036】
本実施形態に係るめっき液には、必要に応じて光沢剤や界面活性剤などの公知の添加剤を含んでいてもよく、その場合においても、上述した条件を満たすように添加剤の種類を選択し、またその量を調整することが好ましい。
【0037】
本実施形態に係るめっき方法は、上述した電気スズめっき液で、セラミック電子部品にスズを電気めっきするものである。めっき方法として、例えばバレルめっきを用いることができる。必要に応じてカソード遥動、ポンプなどによるめっき液の流動の方法で攪拌することができる。
【0038】
めっき条件としては、公知の条件を用いることができる。例えば、陽極としては、スズ金属が通常使用されるが、場合によっては白金めっきをしたチタン板などの不溶性電極を使用することもできる。浴温度は、特に制限されず、好ましくは10℃〜30℃である。陰極電流密度や、めっき時間等のめっき条件は、要求されるスズ層の膜厚等に応じて当業者が適宜決定することができる。このような本実施形態に係るめっき方法によれば、めっき液による素体の腐食を好適に抑制することが可能となる。
【0039】
また、本実施形態に係るめっき液およびめっき方法は、Znを含有する素体を備えるセラミック電子部品に好ましく用いることができる。Znを含む場合には、素体の耐薬品性が乏しくなることから、本実施形態に係るめっき液の効果が一層顕著になることによる。
【0040】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
予め、表1に示す5種類の電気スズめっき液A〜Eを調製した。そして、素体2の主組成がチタン酸バリウムで外形が1.6×0.8×0.8mmのチップコンデンサ(積層体4)の下地電極7に、まずワット浴でニッケルめっきを施して2μmのNi層7aを形成し、これに続いて上記のめっき液A〜Eでスズめっきを行って4μmのSn層7bを形成した。各めっき液で処理したチップについて素体の腐食距離を調べた。腐食距離は、めっき後のチップを10個抜き取り(サンプリングし)、SEMの断面観察より素体表面の腐食層の厚さを測定した場合の平均値を示す。表2および図4に、キレート剤/Snイオンのモル比とともに腐食距離の測定結果を示す。表1における数値の単位は、mol/Lである。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
表2および図4に示すように、キレート剤の量がSnイオンの2.5倍を超えると腐食距離が有意に増大する傾向にあることが判明した。このことから、キレート剤/Snイオンのモル比は2.5以下にすべきことが確認された。
【0045】
(実施例2)
表1に示すめっき液Bに導電塩としてメタンスルホン酸アンモニウムを添加してめっき液B0〜B4を調製し、実施例1と同じ条件でめっき液B0〜B4を用いてSn層7bを形成し、セラミック電子部品を作製した。このセラミック電子部品(チップ)について腐食距離を調べた。表3および図5に、アンモニウムイオン濃度とともに腐食距離の結果を示す。表3において、特に単位を明示していない数値の単位は、mol/Lである。
【0046】
【表3】

【0047】
表3および図5に示すように、アンモニウムイオン濃度が0.3moL/Lを超えると腐食が大幅に増えることが判明した。このことから、アンモニウムイオンの濃度は0.3mol/L以下に抑えることが好ましいことが確認された。
【0048】
(実施例3)
表3に示すめっき液B0に導電塩としてスルファミン酸ナトリウムを添加してめっき液B5〜B8を調製した。そして、めっき液B0およびB5〜B8に100Ah/Lの通電を行った後に沈殿の有無を調べた。結果を表4に示す。表4において、数値の単位はmol/Lである。
【0049】
【表4】

【0050】
表4に示すように、スルファミン酸イオン濃度が0.5mol/Lを超えると沈殿が発生することが確認された。この沈殿物は、スルファミン酸ニッケルであると推定される。
【0051】
(実施例4)
表5に示す主組成をもつ電気スズめっき液を調製した。めっき液の調製方法は次の通りである。0.11mol/Lのメタンスルホン酸スズ、1.10mol/Lのグルコン酸、1.86mol/Lのメタンスルホン酸を混ぜて、水酸化ストロンチウムでpHを4.0に調整する。Srの価数は2なのでキレート剤及び導電塩の量をモル数で同じにするためにはグルコン酸とメタンスルホン酸を2倍量入れる必要がある。そして、主組成がチタン酸ストロンチウムでありZnを2%含有する素体2からなり、1.6×0.8×0.8mmのサイズのコンデンサチップの下地電極7の上に4μmのSn層7bを形成した。このチップ30個をランダムに30個抜き取り、140℃、6.3V、12時間の条件で高温負荷試験を行い、試験前後の絶縁抵抗(IR)を測定した。めっき後に絶縁抵抗の低下したチップの割合は0/30であった。ここでチップの抵抗が5×108Ωを下回った場合に、抵抗が低下したと見なした。
【0052】
【表5】

【0053】
(実施例5)
つぎに実施例4のめっき液でSrをMgで置換した。めっき液の調製方法は次の通りである。実施例4と等量のメタンスルホン酸スズ、グルコン酸、メタンスルホン酸を混ぜて、水酸化マグネシウムでpHを4.0に調整した。当該めっき液を用いて、実施例4と同様の条件でコンデンサチップにSn層7bを形成した。そして実施例4と同様の方法で高温負荷試験をおこない、試験前後の絶縁抵抗を測定した。めっき後に絶縁抵抗の低下したチップの割合は0/30であった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、サーミスタ、コンデンサ、インダクタ、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)、バリスタ、それらの複合部品からなるセラミック電子部品のめっき処理に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1…セラミック電子部品、2…素体、3…内部電極、4…積層体、5…下地電極、7…端子電極、7a…Ni層、7b…Sn層、10…単位構造。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック電子部品用の電気スズめっき液であって、
スズイオンを含み、
pHが5以上8以下であり、
アンモニアおよびアンモニウムイオンの濃度が0.3mol/L以下であり、
キレート剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の比が2.5以下である、
電気スズめっき液。
【請求項2】
スズイオンの濃度が0.15mol/L以下である、
請求項1に記載の電気スズめっき液。
【請求項3】
スルファミン酸イオン濃度が0.5mol/L未満である、
請求項1または2に記載の電気スズめっき液。
【請求項4】
水に対する水酸化物の溶解度が0.5mol/L以上であるカチオンの濃度が、0.5mol/L以下である、
請求項1〜3のいずれかに記載の電気スズめっき液。
【請求項5】
Sr、Ca、もしくはMgの塩からなるキレート剤又は導電性塩を含む、
請求項1〜4のいずれかに記載の電気スズめっき液
【請求項6】
セラミック素子の下地電極上に電気スズめっきによりスズ層を形成する工程を備え、
前記工程においては、スズイオンを含み、pHが5以上8以下であり、アンモニアおよびアンモニウムイオンの濃度が0.3mol/L以下であり、キレート剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の比が2.5以下である電気スズめっき液を用いる、
セラミック電子部品の製造方法。
【請求項7】
前記セラミック素体は、Znを含有する、
請求項6に記載のセラミック電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−275613(P2010−275613A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131483(P2009−131483)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】