説明

電気伝導度検出装置

【課題】複雑な操作を行う必要がなく、イオンクロマトグラフィー等により分離されたイオンを連続的に検出可能な新規な電気伝導度検出装置を提供する。
【解決手段】分析物イオンを検出するための本発明の電気伝導度検出装置30は、分析物イオンを含む溶離液10を導入する入り口、並びに導入された前記溶離液の第一の出口及び第二の出口と、前記入り口から第一の出口へ前記溶離液を導く第一の通路32、及び前記入り口から第二の出口へ前記溶離液を導く第二の通路33と、ここで、当該第一及び第二の通路は互いに連通してなり、かつ当該通路内にはイオン交換樹脂又はシリカゲルが充填され、前記第一及び第二の出口の近傍に、溶離液と接してそれぞれ配置された第一及び第二の電極61、62と、前記第一及び第二の電極間に電圧を印加するための電源50と、前記第一又は第二の通路に設置された非接触型電気伝導度検出器40と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な電気伝導度検出装置、及びこれを用いて陰イオン又は陽イオンの分析を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンクロマトグラフィーはイオンを分析する既知の技術であり、一般に、電解液を含む溶離液を用いたクロマトグラフ分離段階と、溶離液抑制段階とからなり、この後で一般的に、電気伝導率検出器による検出が行なわれる。クロマトグラフ分離段階では、注入された試料のイオンが溶離液のような電解液を用いた分離カラムを通って溶出される。抑制段階では、電解液の電気伝導率は抑制されるが、分離イオンの電気伝導率は抑制されずに伝導率セルで測定される。この技術は、特許文献1〜4等において詳細に説明されている。
【0003】
電解液の抑制又はストリッピングは、一般に充填層抑制器(packed bed suppressor:PBS)と呼ばれるイオン交換樹脂層で行なわれることが上記従来技術文献において説明されている。PBSは、酸又は塩基溶液によるフラッシングにより周期的に再生させる必要がある(化学的再生方法)。
【0004】
充填層抑制器(PBS)はイオンクロマトグラフィーに有効であることが証明されているが、PBSには多くの問題がある。これらの欠点として、a)試料の分析を中断するPBSの周期的な再生、b)PBSの体積が増えることによる分解能の低下、及びc)PBSの再生過程における再生度のばらつきよる検体イオンの信号の大きさの変化、などである。
【0005】
一般に、PBSの体積は再生の前に多数(例えば15〜50回)の抑制反応を行なうことができる充分なイオン交換樹脂を収容しなければならないため大きい。抑制器の体積及び容量を充分に大きくすることにより再生の必要回数は少なくなり、このため、抑制器を再生するためシステムを中断させる前に多数の試料を分析できる。一般に、再生を行なうには抑制器を分析システムのラインから切り離し、且つ濃縮された酸又は塩基溶液(再生剤)を抑制器に通してポンピングする必要がある。
【0006】
抑制器の体積が非常に大きい場合には、空洞体積内での検体の再混合により分離カラムで行なわれる検体の分離が不充分になり分解能が低下する。従って、抑制器体積は再生頻度とクロマトグラフ分解能との間の妥協である。
【0007】
再生プロセスは、抑制器の体積によっても異なるが、一般に20〜60分を要する。先ず、強酸又は強塩基溶液をPBSに通してポンピングし、樹脂を酸(H)又は塩基(OH)の形態に変換する。この変換後、高伝導率の酸又は塩基再生剤の微量成分が完全に除去されるまで脱イオン水が抑制器を通ってポンピングされる。次にPBSが分析システムのラインに戻され、試料の分析を行う前に平衡状態にされる。特許文献5及び6には、充填床サプレッサーを各分析の後に再生する方法が記載されている。
【0008】
充填床の除去における他の形態では、特許文献7に記載されているように、断続的な電解再生が採用されている。この形態を使用する市販の製品では、充填床サプレッサー中の樹脂を通して電位差を印加する一方、水性液体流を流して、この流れ中で水を電解する。アニオンを分析するには、十分にスルホン化されたカチオン交換材を含むPBSをサプレッサーの入口で樹脂中に埋め込んだカソード及びサプレッサーの出口で樹脂中に埋め込んだアノードに適合させる。アノードで発生したヒドロニウムイオンは、廃棄の経路(この場合には導電率セルを通る経路)のための水酸化物イオンに関連するナトリウムイオンを置換する。このプロセスは、電気化学的にサプレッサーを再生し、電位差の印加を停止した後、装置を通常のPBSとして使用することが可能となる。
【0009】
充填床の除去における他の形態では、特許文献8に記載されているように、充填床サプレッサーの連続的な電気化学的再生を使用したイオンクロマトグラフィーに関する。この文献では、イオン交換樹脂を備えた充填床サプレッサーの電解再生を使用する方法及び装置が開示される。充填床サプレッサーは、樹脂と電気的に接触している電極を有し、これによって連続的な電気化学的再生が可能となる。イオンを移動させる一方、通常の操作圧力下では液体流に対し不透過性のバリヤによって,電極は樹脂から分離されている。この装置は、数個のイオン交換コネクタ及び電極を有することにより、再生剤イオン及び溶離剤の対イオンの流れを増加させるものであってもよい。イオン交換コネクタによって溶離剤流から分離されている水性液体流を電解的に分離するため、直流(DC)電圧の印加による充填床サプレッサーの電気化学的再生は分析の間連続的である。電解により発生したヒドロニウム又は水酸化物は、イオン交換コネクタを通って進み、イオン交換樹脂を通って移動して溶離剤を中和する。溶離剤の対イオンは、イオン交換コネクタを通って進み、水性液体流によって除去されて廃棄される。一形態において、水性液体流は,除去された溶離剤である。他の形態では、水性液体流は独立した水源であり、好ましくは脱イオン水である。
【0010】
充填床の除去における他の形態では、特許文献9に記載されているように、連続して電気化学的にサプレッションを受けたイオンクロマトグラフィー用サプレッサー及び方法がある。電解質を含む移動相中の検体イオンをクロマトグラフィーカラムで分離して、電解質及び分離した検体を含むクロマトグラフィー流出液を得る。クロマトグラフィー流出液を、次いで第一クロマトグラフィー流出液の流れと第二クロマトグラフィー流出液の流れに分ける。水を電気分解してヒドロニウムイオン及びヒドロキシドイオンからなる群から選択する電解イオンを生成させる。電解質と同じ電荷を有する電解イオン並びに電解質及び検体イオンを含む第二クロマトグラフィー流出液の流れを同時に固定相に流し、これによって電解質を含んだ第二クロマトグラフィー流出液をサプレッションする。好ましい観点では、電解イオンが第二クロマトグラフィー流出液の流れから電解質を取り去って第一クロマトグラフィー流出流に移動させ、これによって第二クロマトグラフィー流出液の流れを効果的にサプレッションする。サプレッションを受けた第二クロマトグラフィー流出液の中の検体イオンを次いで検出する。
【0011】
非接触型電気伝導度検出器に関しては1988年に報告させた「シリコンラッカー又はテフロン(登録商標)コーティングによって電解質から離された電極を使用したイオンクロマトグラフィーのための振動発生検出器」の中で述べられている(非特許文献1参照)。
【0012】
一般的な高周波電圧を使用した検出器に関しては、非特許文献1〜3の中で述べられている。誘電を用いた非接触型電気伝導度に関しては非特許文献4の中で述べられている。いくつかの試みの中にキャピラリー等電点電気泳動のために作られた非接触型電気伝導度検出器がある。これはテフロン(登録商標)チューブの外側に4つの電極を置いた構造であり,高周波電圧が用いられる(例えば、非特許文献5及び6参照)。
【0013】
【特許文献1】米国特許第3,897,213号明細書
【特許文献2】米国特許第3,920,397号明細書
【特許文献3】米国特許第3,925,019号明細書
【特許文献4】米国特許第3,926,559号明細書
【特許文献5】米国特許第5,597,734号明細書
【特許文献6】米国特許第5,567,307号明細書
【特許文献7】米国特許第5,633,171号明細書
【特許文献8】特開2002−509238号公報
【特許文献9】特開2001−188063号公報
【非特許文献1】Pal, F.; Pungor, E.; Kovats, E. Anal. Chem. 1988, 60, 2254.
【非特許文献2】Gas, B.; Demjanenko, M.; Vacik, J. J. Chromatogr.1980, 192, 253.
【非特許文献3】Decristoforo, G. Thesis, University of Innsbruck, 1979.
【非特許文献4】Alder, J. F.; Drew, P. k. P. Anal. Chim. Acta 1979, 110, 325.
【非特許文献5】Everaerts, F. M.; Rommers, P. J. J. Chromatogr. 1974, 91, 809.
【非特許文献6】Vacik, J.; Zuska, J.; Muselasova, I. J. Chromatogr. 1985, 320, 233.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
これまで充填床サプレッサー、又はPBSの周期的な再生操作を回避するために、上述した種々の改良が行われてきたが、その性能及び操作の簡便性の観点において未だ十分ではない。本発明は、複雑な操作を行う必要がなく、イオンクロマトグラフィー等により分離されたイオンを連続的に検出可能な新規な電気伝導度検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、非接触型電気伝導度検出器を設置したカラム内にイオン交換樹脂を充填し、当該イオン交換樹脂の交換基の乖離を抑制して分析物イオンの高感度な検出を可能にすると共に、溶離液中の電解質を別の流れとして排出することにより簡便かつ連続的な操作が可能な新規な電気伝導度検出装置及びこれを用いるイオンの分析方法に関する。
【0016】
すなわち、第一の観点において、本発明は、分析物イオンを検出するための電気伝導度検出装置であって、分析物イオンを含む溶離液を導入する入り口、並びに導入された前記溶離液の第一の出口及び第二の出口と、前記入り口から第一の出口へ前記溶離液を導く第一の通路、及び前記入り口から第二の出口へ前記溶離液を導く第二の通路と、ここで、当該第一及び第二の通路は互いに連通してなり、かつ当該通路内にはイオン交換樹脂又はシリカゲルが充填され、前記第一及び第二の出口の近傍に、溶離液と接してそれぞれ配置された第一及び第二の電極と、前記第一及び第二の電極間に電圧を印加するための電源と、前記第一又は第二の通路に設置された非接触型電気伝導度検出器と、を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明において、高感度な検出を行うために非接触型電気伝導度検出器を設置したカラム(通路)内にイオン交換樹脂を充填する。非接触型電気伝導度検出器により、カラム内のイオンの動き易さである伝導度を測定する。非接触型電気伝導度検出器の測定は交流電場下で行われ、一般的に自由に動けるイオンと拘束されたイオンが混在する条件下では共鳴が起こり感度(s/n比)が減少し、高感度な検出を行うことができない。そこで、高感度な検出を行うためには、カラム内に充填したイオン交換基の乖離を抑制すること、またはイオン交換容量が小さいイオン交換樹脂を使用することが必要である。あるいは、イオン交換基を結合していないシリカゲルのような樹脂を使用してもよい。
【0018】
本発明の上記観点において、非接触型電気伝導度検出器を設置したカラム内に弱電解質のイオン交換基を持つイオン交換樹脂を充填する。例えば、弱電解質であるカルボキシル基が結合したイオン交換樹脂の場合、イオン交換基の対イオンをH型にすることによりイオン交換基の乖離を抑制することができる。弱電解質であるカルボキシル基の解離定数が約1.8×10−5(酢酸の乖離定数と同じとする)であり、対イオンをH型にすると
〔H〕〔C〕/〔HC〕 = Ka (1)
式(1)にKa=1.8×10−5、HCが1molとし、代入すると
〔H〕=〔C〕=4.24×10−3
となり1eq/Lのイオン交換基があるにも関わらず、ほとんどのイオン交換基が解離していないことになる。これによりs/nが高くなり高感度な検出ができる。しかし、実際の操作では分離カラムからの溶出液中にはイオン交換樹脂に吸着したイオンを溶出させるために電解質が含まれており、例えばナトリウム、カリウムなどの陽イオンが含まれている。そのため、カルボキシル基は溶出液中の陽イオン(ナトリウム、カリウムなど)の吸着が起こり乖離状態となる。カルボキシル基をH型にするためには常時、陽イオンを取り除く必要がある。
【0019】
他の側面において、本発明はイオンの分析方法であって、少なくとも2種類の分析物イオンをイオン交換カラムに導入する工程と、前記イオン交換カラムに溶離液を流して前記分析物イオンを分離して溶出する工程と、前記溶出液を、入り口、第一の出口、及び第二の出口を有する電気伝導度検出装置に導入する工程と、前記電気伝導度検出装置の中を流れる溶離液を前記入り口から第一の出口へ導く第一の流れ、及び前記入り口から第二の出口へ導く第二の流れに分け、ここで、当該第一及び第二の流れは互いに連通してなり、かつ当該流路内にはイオン交換樹脂又はシリカゲルが充填され、並びに前記第一及び第二の出口の近傍に溶離液と接してそれぞれ配置された第一及び第二の電極間に電圧を印加することにより分析物イオンを第一の流れから離して第二の流れへ流すと共に、溶離液中の電解質は前記第一の流れを通して第一の出口から排出する工程、及び前記第二の流れを流れる分析物イオンを非接触型電気伝導度検出器により検出する工程、を含むことを特徴とする。
【0020】
陰イオン分析の場合は陽イオン交換樹脂を用いて界面動電現象により陽イオンの除去を行い、陽イオン分析の場合は陰イオン交換樹脂を用いて界面動電現象により陰イオンの除去を行う。すなわち、第一溶出流出口、及び第二溶出流出口に設置した電気泳動用電極に電圧を印加することで発生する界面動電現象により電気泳動、電気浸透流によって樹脂に吸着した非検体イオンは対極に向かって移動し、第一溶出流と共に第一溶出口から溶出する。これによって第二溶出流の液から非検体イオンは取り除かれ、第二溶出口側に充填したイオン交換樹脂のイオン交換基の乖離は抑制される。電気伝導度検出器は第二溶出口側のカラム上の一部分に設置し、第二溶出流中に含まれる検体イオンは検出される。また,弱電解質のイオン交換樹脂の代わりにシリカゲルを用いた場合は、高電圧を印加することにより弱電解質イオン交換樹脂を充填した時と同様の効果が得られる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の電気伝導度検出装置は、直流高電圧を印加することで分析物イオンと電解質等の非分析物イオンとを分離し、さらに高電圧下においても非接触型電気伝導度検出器を用いているため、高感度な電気伝導度検出が可能である。従来のサプレッサーカラムのような再生の必要がなく、これによってピークの広がりが抑えられ、試料の濃縮効果も得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の好ましい1つの実施形態を図1に示す。本実施形態におけるイオンクロマトグラフィーシステムは、移動相である溶離液10と、デガッサ12を通った溶離液をカラムへ送液するためのポンプ13と、サンプルを導入するためのインジェクションポート14と、分離カラム20と、本発明の電気伝導度検出装置30とからなる。電気伝導度検出装置30は、第一の流路32と第二の流路33とに別れるがジョイント部31を介して互いに連通している。これらの流路内には、弱電解質のイオン交換樹脂又はシリカゲルが充填され、これらの出口の近傍にはそれぞれ第一の電極61及び第二の電極62が配置されてなる。第二の流路33には、非接触型の電気伝導度検出器40が設置されている。この部分をさらに詳細に説明する構成例を図2に示す。図2に示したように、非接触型の電気伝導度検出器40は、2つのセンサー電極41a及び41bと、これにつながる2つの増幅器42a及び42bと、機能発生器(function generator)43と、同調検出器(synchronous detector)44とからなる。
【0023】
1つの実施形態としての陰イオン分析において、溶離液として炭酸ナトリウム又は水酸化ナトリウムなどの水溶液が使用される。サンプルはインジェクションポート14から注入され、ポンプからの溶離液流と共に分離カラム20に輸送される。サンプルは分離カラムにおいて溶離液中の電解質との交換反応によって分離・溶出される。分離カラムからの溶出液はカルボキシル基を持つイオン交換樹脂が充填された第一の流路と第二の流路に分けられる。第一の流路出口及び第二の流路出口には第一の電極61及び第二の電極62を設置する。このとき第一の流路出口側を負極に、第二の流路出口側を正極とする。直流電源50に電圧を印加することで界面動電現象である電気泳動、電気浸透流によってカルボキシル基に吸着した陽イオンは負電極に向かって移動し、第一溶出流と共に第一溶出口から溶出する。これによって第二溶出流の液から陽イオンが取り除かれ、第二溶出口側のイオン交換樹脂はH型となる。非接触型電気伝導度検出器40は第二溶出口付近に設置し、第二溶出流中に含まれる検体イオンを検出する。また水の電気分解によって発生する水素または酸素ガスの泡は第一及び第二の電極を第一溶出口と第二溶出口に設置することで即座に排出される。よって検出器への泡の影響は改善できる。
【0024】
本発明の他の実施形態における陽イオン分析は、硝酸、硫酸などの電解質を含んだ溶離液を用いて行う。サンプルはインジェクションポート14から注入され、ポンプからの流れと共に分離カラム20に輸送される。サンプルは分離カラムにおいて溶離液中の電解質との交換反応によって分離・溶出される。陽イオンを検出するための好ましい実施形態においては、本発明に係る電気伝導度検出装置30の第一及び第二の流路にアミン基を持つイオン交換樹脂が充填される。分離カラムからの溶出液は、これによって第一溶出流と第二溶出流に分かれ、第一の流路出口及び第二の流路出口には第一の電極61及び第二の電極62を設置する。このとき第一の流路出口側を正極に、第二の流路出口側を負極とする。第一及び第二の電極間に電圧を印加することで界面動電現象である電気泳動、電気浸透流によってアミン基に吸着した陰イオンは正電極に向かって移動し、第一溶出流と共に第一溶出口から溶出する。これによって第二溶出流の液から陰イオンが取り除かれ、第二溶出口側のイオン交換樹脂はOH型となる。非接触型電気伝導度検出器40は第二溶出口付近に設置し、第二溶出流中に含まれる検体イオンを検出する。また水の電気分解によって発生する水素または酸素ガスの泡は前記第一及び第二の電極を第一溶出口と第二溶出口に設置することで即座に排出される。よって検出器への泡の影響は改善できる。
【0025】
本発明の電気伝導度検出装置に用いることのできる非接触型電気伝導度検出器は、溶離液と検出電極が非接触状態にもかかわらず、溶離液流路内のイオンの動き易さである伝導度を測定することができるものであれば特に限定されない。図2には、典型的な非接触型電気伝導度検出器40が示される。これによると、第二の流路を流れる分析物イオンは2つのセンサー電極41a、及び41bを通過するときに検出される。このとき、機能発生器43として、例えば、交流電源のようなオシレーターからの信号が一方のセンサー電極に印加される。この信号が他方のセンサー電極を通って同調検出器44へ流れる間に、溶離液とセンサー電極が非接触状態において第二の流路内を流れるイオンの量に応じて信号の変化量を検出することが可能となる。また水の電気分解によって発生する水素または酸素ガスの泡は、前記第一及び第二の電極を第一溶出口と第二溶出口に設置することで即座に排出される。
【0026】
現在、主流となっている非接触型電気伝導度検出器の基本技術はA. J. Zemann, E. Schnell, D. Volgger and G. Bonn, Anal .Chem., 1998, 70, 563、及びJ. A. Fracassi da Silva and C. L. do Lago, Anal. Chem., 1998, 70, 4339.に報告されており、キャピラリ−の外側にキャパシティ電極としてペイントした銀または伝導性の金属チューブを二つマウントした非接触型電気伝導度システムである。キャピラリ−チューブ内にイオン交換体を充填した非接触型電気伝導度検出については、Hilder et al., “Anion-exchange capillary electrochromatography with indirect UV and direct contactless conductivity detection.” Electrophoresis, 2001, Vol.22, pp.1273-81に記載されている。
【0027】
本発明のイオンの分析方法は、陰イオン、及び陽イオンを含む分析物イオンを検出するために使用することができる。水質の検査や食品等の分析において、フッ化物イオン(F)、塩化物イオン(Cl)、亜硝酸イオン(NO)、臭化物イオン(Br)、硝酸イオン(NO)、硫酸イオン(SO2−)、リン酸イオン(PO3−)の7種類のイオンの分析は重要であり、これらのイオンは「陰イオン混合標準液」と言われている。陰イオン分析について、好ましい溶離液として、水酸化ナトリウム又は炭酸ナトリウム/重炭酸ナトリウムの水溶液が挙げられる。
【0028】
陽イオンの分析については、1価陽イオン、2価陽イオン、金属イオンなどの分析にイオンクロマトグラフィーが用いられている。1価陽イオン分離用の溶離液としては、通常、希硝酸が使用される。アルカリ土類金属イオンなど2価陽イオンの分離には、フェニレンジアンモニウムクロライドを含む希硝酸溶液が溶離液として用いられる。この他、好ましい溶離液として、塩酸、メタンスルホン酸又は硫酸等の強酸を主成分とするものや、フタル酸、グルコン酸、安息香酸、馬尿酸、酒石酸、クエン酸等の有機酸を主成分とするものが用いられる。
【実施例】
【0029】
本発明は、以下の実施例においてより具体的に説明される。実施例は、図1に示したイオンクロマトグラフィーシステムを用いて陰イオンの分析を行った結果である。分離カラムにはTSKgel super IC Anion(φ0.75 mm × 50 mm)を用い、2mM水酸化カリウム溶液を溶離液として0.02ml/分の流速でクロマトグラフィーを行った。サンプルには、0.1mMのClと0.5mMのPO3−との混合溶液、又は10mMのCl溶液を用い、それぞれ20μl注入した。非接触型電気伝導度検出器による検出条件は、印加電圧=180V、周波数=100kHzで行った。また分離カラムからの溶出液を脱塩するために、第一及び第二の通路としてTSKgel super IC Cation(φ0.75 mm × 50 mm)を用いた。
【0030】
その結果を図3及び図4に示す。図3は、サンプルとして0.1mMのClと0.5mMのPO3−との混合溶液を用い、第一及び第二の電極に直流電圧を印加して脱塩カラムに100〜200mAの電流を流したときのクロマトグラムである。塩素イオンClとリン酸イオンPO3−とを分離して検出することができる。さらに脱塩により溶離液の伝導度とカルボキシル基の乖離は抑制されるため、塩素イオンとリン酸イオンのピークはプラス方向に大きく現れる。一方、サンプルとして10mMのCl溶液を用い、脱塩カラムに電流を流さなかった場合のクロマトグラムを図4に示す。溶離液の伝導度とカルボキシル基の乖離は抑制されないため、100倍高い濃度の塩素イオンを注入し測定を行ったにもかかわらず、塩素イオンのピークはマイナス方向に小さく現れた。したがって、図3及び図4の結果より、本発明の方法を用いた場合に、簡便かつ感度よく電気伝導度検出によるイオンの分析が行えることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】電気伝導度検出装置を使用した、本発明による一つのイオンクロマトグラフィーシステムの概略図である。
【図2】本発明の電気伝導度検出装置の一つの概略図である。
【図3】本発明によるイオンクロマトグラフィーシステムを用いて陰イオン分析を行ったときのクロマトグラムである。
【図4】本発明によるイオンクロマトグラフィーシステムにおいて、脱塩カラムに電流を流さなかった場合のクロマトグラムである。
【符号の説明】
【0032】
10 溶離液
12 デガッサ
13 ポンプ
14 インジェクションポート
20 分離カラム
30 電気伝導度検出装置
31 通路のジョイント部
32 第一の通路(流路)
33 第二の通路(流路)
40 非接触型電気伝導度検出器
41a、41b センサー電極
42a、42b 増幅器
43 機能発生器
44 同調検出器
50 直流電源
61 第一の電極
62 第二の電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析物イオンを検出するための電気伝導度検出装置であって、
分析物イオンを含む溶離液を導入する入り口、並びに導入された前記溶離液の第一の出口及び第二の出口と、
前記入り口から第一の出口へ前記溶離液を導く第一の通路、及び前記入り口から第二の出口へ前記溶離液を導く第二の通路と、ここで、当該第一及び第二の通路は互いに連通してなり、かつ当該通路内にはイオン交換樹脂又はシリカゲルが充填され、
前記第一及び第二の出口の近傍に、溶離液と接してそれぞれ配置された第一及び第二の電極と、
前記第一及び第二の電極間に電圧を印加するための電源と、
前記第一又は第二の通路に設置された非接触型電気伝導度検出器と、
を備えることを特徴とする電気伝導度検出装置。
【請求項2】
前記イオン交換樹脂が、弱電解質のイオン交換樹脂である請求項1に記載の電気伝導度検出装置。
【請求項3】
前記弱電解質のイオン交換樹脂が、カルボキシル基を有するか、又はアミン基を有する請求項2に記載の電気伝導度検出装置。
【請求項4】
試料のインジェクションポートと、当該インジェクションポートと流体伝達状態にある分離カラムと、当該分離カラムからの溶出液を導入する請求項1〜3何れか記載の電気伝導度検出装置とを備えることを特徴とするイオンクロマトグラフィーシステム。
【請求項5】
少なくとも2種類の分析物イオンを分離カラムに導入する工程と、
前記分離カラムに溶離液を流して前記分析物イオンを分離して溶出する工程と、
前記溶出液を、入り口、第一の出口、及び第二の出口を有する電気伝導度検出装置に導入する工程と、
前記電気伝導度検出装置の中を流れる溶離液を前記入り口から第一の出口へ導く第一の流れ、及び前記入り口から第二の出口へ導く第二の流れに分け、ここで、当該第一及び第二の流れは互いに連通してなり、かつ当該流路内にはイオン交換樹脂又はシリカゲルが充填され、並びに前記第一及び第二の出口の近傍に、溶離液と接してそれぞれ配置された第一及び第二の電極間に電圧を印加することにより分析物イオンを第一の流れから離して第二の流れへ流すと共に、溶離液中の電解質は前記第一の流れを通して第一の出口から排出する工程、及び
前記第二の流れを流れる分析物イオンを非接触型電気伝導度検出器により検出する工程、
を含むことを特徴とするイオンの分析方法。
【請求項6】
前記分析物イオンが陰イオンのとき、前記イオン交換樹脂がカチオン交換樹脂である請求項5に記載のイオンの分析方法。
【請求項7】
前記分析物イオンが陽イオンのとき、前記イオン交換樹脂がアニオン交換樹脂である請求項5に記載のイオンの分析方法。
【請求項8】
前記分析物イオンが陰イオン及び陽イオンの何れの場合においても、前記流路内にシリカゲルが充填されてなる請求項5に記載のイオンの分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−236739(P2009−236739A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84280(P2008−84280)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(592157722)日理工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】