説明

電気光学装置及び電子機器

【課題】本発明は、酸素,水分等のガスや紫外線による電気光学層等の劣化を防止できるようにした電気光学装置の製造方法、及びこれにより製造された電気光学装置,電子機器を提供することを目的とする。
【解決手段】基板20上に、第1の電極23,電気光学層60,第2の電極50を順に積層してなる電気光学素子を有する電気光学装置の製造方法であって、気相成長法により、上記基板20上に、上記電気光学素子を覆うように紫外線吸収層30を形成する工程と、プラズマ雰囲気を伴う気相成長法により、上記紫外線吸収層30を覆うようにガスバリア層40を形成する工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学装置及びその製造方法と、この電気光学装置を備えた電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気光学装置の分野では、酸素や水分等に対する耐久性向上が課題となっている。例えば、有機ELディスプレイを構成する有機EL素子は、無機陽極/(有機正孔注入層)/有機発光層/(電子注入層)/無機陰極からなるものであるが、特に電子を放出し易い材料特性を持つ電子注入層は、大気中に存在する水分と反応しやすく、水と反応することによって電子注入効果がなくなり、ダークスポットと呼ばれる非発光領域を形成してしまう。
そこで、水分を遮断する封止構造が必要となるが、従来は水分を遮断するガラス又は金属製の封止基板を接着剤で貼り合わせて中空構造とし、接着剤断面から侵入する水分は乾燥剤で捕まえて素子に到達させない構造を一般に用いてきた(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平7−169567号公報
【特許文献2】特開平10−12376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ディスプレイの大型化及び薄型化/軽量化に伴い、外部応力に耐えるパネル強度を保持するために中空構造からソリッド構造に切り替える必要がある。また、大型化に伴ってTFTや配線回路の面積を十分に確保するため、回路基板の反対側から発光させるトップエミッション構造を用いる必要がある。そこで、封止構造は、透明で且つ軽量、耐強度性に優れた薄い構造をとる必要があり、又、乾燥剤を除いても防湿性能が得られる構造が求められている。
【0005】
近年、薄膜封止と呼ばれる透明でガスバリア性に優れたSiOx,SiNx,AlOx薄膜が研究されており、高密度プラズマ源を用いた高密度プラズマ成膜法(イオンプレーティング,ECRプラズマスパッタ,ECRプラズマCVD,表面波プラズマCVD,ICP−CVD等)を用いることで、水分を完全に遮断する薄膜形成ができる。しかし、この方法では、成膜時に生じる紫外線やプラズマイオンの影響で下地の発光層等が劣化してしまうという課題があった。なお、製造工程中のみならず、このような電気光学装置を屋外で使用する際にも、外光に含まれる紫外線は素子の寿命を低下させるため、発光素子等をこのような紫外線から保護する必要がある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑み創案されたものであり、ガスバリア層の形成による電気光学層等の劣化を防止できるようにした、電気光学装置及びその製造方法、電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の電気光学装置の製造方法は、基板上に、少なくとも第1の電極,電気光学層,第2の電極を順に積層してなる電気光学素子を有する電気光学装置の製造方法であって、気相成長法により、上記基板上に、上記電気光学素子を覆うように紫外線吸収層を形成する工程と、プラズマ雰囲気を伴う気相成長法により、上記紫外線吸収層を覆うようにガスバリア層を形成する工程とを備えたことを特徴とする。
【0008】
本製造方法では、ガスバリア層を形成する前に予め紫外線吸収層を形成しているため、ガスバリア層を例えばプラズマCVDにより形成した際に発生した紫外線は下地の紫外線吸収層に吸収され、これよりも下層側に配された電気光学層等の光劣化が防止される。さらに、紫外線を吸収することで紫外線吸収層が励起状態となり表面活性を得ることでガスバリア層がより緻密で高品質なものになる。
なお、紫外線吸収層は、例えばプラズマ雰囲気を伴わない気相成長法を用いることや、またプラズマ源を用いたとしてもガスバリア性能を得るのに必要なまでの高密度プラズマ源を用いなくても良いため、電気光学層や電極等にダメージを与えることはない。また、電気光学装置を屋外等で使用する場合には、紫外線吸収層が外光に含まれる紫外線を吸収するため、通常使用時における耐光性も向上する。
【0009】
なお、上記電気光学層には、液晶やエレクトロルミネッセンス(EL)材料等の種々の電気光学材料を適用することができる。また、電気光学層は、単一の層のみならず、複数の機能層の積層膜として構成することができる。例えば、第1の電極と第2の電極との間に、正孔注入層,正孔輸送層,EL発光層,電子輸送層,電子注入層等からなる複数の機能層を積層して設けることで、電気光学素子としてEL発光素子を形成することができる。特に、EL発光素子のように第1の電極または第2の電極から供給されるキャリアが前記電気光学層を通過することによって機能を発現する素子の場合、少なくとも一部に電子と正孔の存在確率が異なる部分が生成し、その部分の電荷バランスが崩れることがある。このような部分は概して反応性が高く、例えば、酸素や水などと反応して構造欠陥(即ち、キャリアの捕捉サイト)となり、電気光学層の機能低下の要因となる。このため、他の方法により機能を発現するものに比べてガスバリア層を設ける効果は大きい。
【0010】
また、本発明の電気光学装置の製造方法は、基板上に第1の電極を複数形成する工程と、上記基板上に、上記第1の電極の形成位置に対応した複数の開口部を有するバンク構造体を形成する工程と、上記バンク構造体の各開口部にそれぞれ電気光学層を形成する工程と、上記バンク構造体及び上記各電気光学層を覆うように第2の電極を形成する工程と、気相成長法により上記第2の電極を覆うように紫外線吸収層を形成する工程と、プラズマ雰囲気を伴う気相成長法により、上記紫外線吸収層を覆うようにガスバリア層を形成する工程とを備えたことを特徴とする。
【0011】
本製造方法は、電気光学素子がバンク構造体により互いに仕切られた状態で基板上に複数設けられた電気光学装置の製造方法である。本製造方法でもガスバリア層形成工程時及び通常使用時における電気光学素子の光劣化を効果的に防止することができる。また、基板上に設けられた複数の電気光学層の内、最外周部に配置されたものの外側部は、バンク構造体,第2の電極,紫外線吸収層,ガスバリア層によって4重に積層されることとなり、ガスバリア層が酸素や水分の侵入を確実に防止することができる。なお、第2の電極,紫外線吸収層,ガスバリア層を形成する際に、バンク構造体の外側部が基板に対して垂直又は逆テーパ形状となっていると、ここで上記電極や層が段切れする虞がある。このため、バンク構造体の外側部を構成する面の、基板表面に対する角度は110°以上であることが好ましい。
【0012】
上記各製造方法において、上記ガスバリア層は減圧下の高密度プラズマ雰囲気下で成膜されることが好ましい。これにより、ガスバリア性の高い緻密な膜を形成することができる。
また、紫外線吸収層は、例えば、エネルギーバンドギャップが2eVから6eVまでの酸化物半導体材料を主成分とすることが好ましい。ガスバリア層の形成工程では高強度の紫外領域の光が発生するため、ここで生じた紫外光は電気光学層を劣化させる虞がある。このため、紫外線吸収層を上述の材料を主体として構成し、広い波長範囲の光を吸収しつつ成膜面の励起エネルギーに変換させることで、電気光学層の劣化防止とガスバリア層の高品質化を確実にすることができる。なお、エネルギーバンドギャップが3eVを下回る材料は、電気光学層からの可視光域の光を吸収し電気光学装置の輝度が低下するため、トップエミッション構造には用いることができない。このため、トップエミッション構造を採用した場合には、上記紫外線吸収層は、エネルギーバンドギャップが3eVから6eVまでの酸化物半導体材料を主成分とするものであることが望ましい。
【0013】
また、上記紫外線吸収層には、上記ガスバリア層形成工程で使用するプラズマより発生する紫外線により光触媒活性を有するものを用いることが好ましい。この場合、紫外線吸収層の最表面は、ガスバリア層形成工程で発生した紫外線等の光によって励起され、強い触媒作用を発揮する。このため、仮に上記ガスバリア層形成工程中又はガスバリア層形成前に紫外線吸収層の表面に有機物等の不純物が付着しても、この不純物は上記触媒作用により分解,除去され、紫外線吸収層の表面をガスバリア層の形成工程中、常に清浄に保つことができる。
【0014】
このような光触媒活性を有する材料としては、例えば酸化チタン(TiO2),チタン酸ストロンチウム(SrTiO3),酸化亜鉛(ZnO),酸化タングステン(WO3),酸化錫(SnO2),酸化ニオブ(Nb26),タンタル酸カリウム(KTaO3),酸化鉄(Fe23)等の酸化物半導体が知られており、本発明の紫外線吸収層にも上述の材料を主成分として用いることができる。なお、トップエミッション型の構造に適用する場合には、上記紫外線吸収層がチタン,亜鉛,錫の内のいずれかを含む透光性のn型酸化粒半導体材料を主成分とすることが望ましい。このように透明性の高い材料を用いることで、光の取り出し効率を高めることができる。また上記紫外線吸収層には、光触媒活性を高めるために、白金,金,銀,銅の内の少なくとも1つの元素を助触媒として含有させてもよい。
【0015】
ところで、上記本発明の電気光学装置の製造方法では、上記紫外線吸収層を上記第2の電極の露出面に形成することができる。この場合、紫外線吸収層の少なくとも上記第2の電極と接する面側に窒素を含有させ、上記第2の電極との界面における紫外線吸収層の導電性を低下させる(即ち、絶縁性を高める)ことが望ましい。これにより、紫外線吸収層が光励起されて生じた電荷が第2の電極側に流れて電気光学層が劣化されるのを防止することができる。
また、紫外線吸収層に酸化物半導体を用いる場合には、第2の電極の少なくとも紫外線吸収層と接する面側を、無機酸化物で形成することが好ましい。これによりトップエミッション型に対応するための可視光透過性を付与することができ、酸化物半導体を主体とする紫外線吸収層と第2の電極との間の密着性も高めることができる。
また、上記方法では、上記第2の電極の形成工程から上記ガスバリア層の形成工程までを気相成長法により減圧下で連続して行うことが望ましい。このように各層を大気圧に戻すことなく減圧下で連続して形成することで、不純物の混入防止と処理の迅速化を図ることができる。
【0016】
また、本発明の電気光学装置の製造方法では、上記第2の電極と上記紫外線吸収層との間に、下地の凹凸形状(例えばバンク構造体によって形成された凹凸形状)を平坦化するための緩衝層を形成することが望ましい。このように、ガスバリア層を形成する前に基板を平坦化しておくことで、基板側からかかる外部応力を分散し、ガスバリア層や紫外線吸収層にクラックが発生するのを防止することができる。つまり、ガスバリア薄膜は水分遮断性があるため、緻密で非常に硬い膜であり、成膜時に表面に凹凸や急峻な段差があると、外部応力が集中してクラックや剥離等を起こす。そのため、密着性や平坦性を考慮した緩衝層の追加が必要となる。なお、基板側からの応力を吸収するために、緩衝層の材料としてはある程度柔軟性を持った材料が好ましく、例えば有機材料が好適である。
【0017】
上記方法では、上記緩衝層を液相法により形成することが好ましい。こうすることで、平坦性のよい膜を容易に形成することができる。なおこの場合には、緩衝層形成時に第2の電極が大気或いは有機溶剤に暴露されるのを防ぐために、上記第2の電極と上記緩衝層との間に、上記第2の電極を保護するための電極保護層を形成する工程を設けることが望ましい。この電極保護層としては、酸化珪素,窒化珪素,酸窒化珪素等の珪素化合物が好適である。特に、窒素を含有した窒化珪素や酸窒化珪素は、酸化物半導体等からなる第2の電極との間で良好な密着性が得られるとともに、緻密な膜を形成することから、酸素や水分に対するバリア性もより良好になる。
【0018】
また、上記方法では、上記緩衝層と上記紫外線吸収層との間に緩衝層保護層を形成することが望ましい。これにより、緩衝層が、紫外線吸収層やガスバリア層の形成によって劣化されるのを防止することができる。なお、紫外線吸収層が光触媒活性を有する場合には、励起された電子によって緩衝層がダメージを受け易くなるので、上記緩衝層保護層としては、このような励起電子をブロックできる絶縁性の材料が望ましい。具体的には、珪素化合物等が好適である。
また本発明の電気光学装置の製造方法では、ガスバリア層は酸化珪素,窒化珪素,酸窒化珪素等の珪素化合物で形成することが好ましい。特に、窒素を含有した窒化珪素や酸窒化珪素は酸化物半導体等からなる第2の電極との間で良好な密着性が得られるとともに、緻密な膜を形成することから、酸素や水分に対するバリア性もより良好になる。また、窒化珪素や酸窒化珪素は絶縁性に優れるため、通電時の漏電を防ぐ効果もある。
【0019】
なお、紫外線吸収層による光吸収を確実にするために、紫外線吸収層の層厚を10nm以上とすることが望ましい。また、第2の電極を透明電極とし、表示光をガスバリア層が通すトップエミッション型の電気光学装置を構成する場合には、光取り出し側の透明性を損なわないように、紫外線吸収層とガスバリア層との積層膜の層厚を500nm以下とすることが望ましい。
【0020】
本発明の電気光学装置は、上述の製造方法により製造され、基板上に第1の電極,電気光学層,第2の電極,紫外線吸収層,ガスバリア層が順に積層されたことを特徴とする。
本構成によれば、屋外等での通常使用時において、外光に含まれる紫外線を上記紫外線吸収層により吸収することで耐光性を向上でき、ガスバリア層による耐湿性及び耐酸素性の向上とともに、装置の長寿命化を図ることができる。
このような電気光学装置では、ガスバリア層の上に保護層を設けて電気光学層や電極等を保護することが望ましい。また、この際、保護層の上に、更に、耐圧性,耐磨耗性,光反射防止性,ガスバリア性,紫外線遮蔽性等の機能を有する表面保護層を設けることが好ましい。これにより、電気光学層層や電極等の他、紫外線吸収層やガスバリア層をも保護することができる。
なお、上記保護層は、上記ガスバリア層に密着し、且つ、機械的衝撃に対して緩衝機能を有する緩衝層を有することが好ましい。このように緩衝層を設けて機械的衝撃を緩和させることで、装置の耐衝撃性を高めることができる。
【0021】
また、本発明の電子機器は、上述の電気光学装置を備えたことを特徴とする。これにより、耐湿性,耐酸素性,耐光性に優れた電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
[第1実施形態]
図1〜図10を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る電気光学装置について説明する。
まず、本発明の電気光学装置の製造方法を説明するに先立ち、本発明の製造方法が適用される電気光学装置の一例として、有機エレクトロルミネッセンス(EL)材料を用いたEL表示装置について説明する。
本例のEL表示装置の配線構造を、図1を参照して説明する。
図1に示すEL表示装置(電気光学装置)1は、スイッチング素子として薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、以下ではTFTと略記する)を用いたアクティブマトリクス型のEL表示装置である。
【0023】
このEL表示装置1は、図1に示すように、複数の走査線101と、各走査線101に対して直角に交差する方向に延びる複数の信号線102と、各信号線102に並列に延びる複数の電源線103とがそれぞれ配線された構成を有するとともに、走査線101と信号線102の各交点付近に、それぞれ画素領域Xが設けられている。
信号線102には、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン及びアナログスイッチを備えるデータ線駆動回路100が接続されている。また、走査線101には、シフトレジスタ及びレベルシフタを備える走査線駆動回路80が接続されている。
【0024】
さらに、画素領域Xの各々には、走査線101を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用TFT112と、このスイッチング用TFT112を介して信号線102から共有される画素信号を保持する保持容量113と、該保持容量113によって保持された画素信号がゲート電極に供給される駆動用TFT123と、この駆動用TFT123を介して電源線103に電気的に接続したときに該電源線103から駆動電流が流れ込む画素電極(電極)23と、この画素電極23と陰極(電極)50との間に挟み込まれた電気光学層110とが設けられている。画素電極23と陰極50と電気光学層110により、発光素子(有機EL素子)が構成されている。
【0025】
このEL表示装置1によれば、走査線101が駆動されてスイッチング用TFT112がオン状態になると、そのときの信号線102の電位が保持容量113に保持され、該保持容量113の状態に応じて、駆動用TFT123のオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用TFT123のチャネルを介して、電源線103から画素電極23に電流が流れ、さらに電気光学層110を介して陰極50に電流が流れる。電気光学層110は、これを流れる電流量に応じて発光する。
【0026】
次に、本例のEL表示装置1の具体的な構成を図2〜図5を参照して説明する。
本例のEL表示装置1は、図2に示すように電気絶縁性を備えた基板20と、スイッチング用TFT(図示せず)に接続された画素電極が基板20上にマトリックス状に配置されてなる画素電極域(図示せず)と、画素電極域の周囲に配置されるとともに各画素電極に接続される電源線(図示せず)と、少なくとも画素電極域上に位置する平面視ほぼ矩形の画素部3(図2中一点鎖線枠内)とを具備して構成されたアクティブマトリクス型のものである。なお、本発明においては、基板20と後述するようにこれの上に形成されるスイッチング用TFTや各種回路、及び層間絶縁膜などを含めて、基体と称している(図3、4中では符号200で示している)。
【0027】
画素部3は、中央部分の実表示領域4(図2中二点鎖線枠内)と、実表示領域4の周囲に配置されたダミー領域5(一点鎖線および二点鎖線の間の領域)とに区画されている。
実表示領域4には、それぞれ画素電極を有する表示領域R、G、BがA−B方向およびC−D方向にそれぞれ離間してマトリックス状に配置されている。
また、実表示領域4の図2中両側には、走査線駆動回路80、80が配置されている。これら走査線駆動回路80、80は、ダミー領域5の下側に配置されたものである。
【0028】
さらに、実表示領域4の図2中上側には、検査回路90が配置されている。この検査回路90は、EL表示装置1の作動状況を検査するための回路であって、例えば検査結果を外部に出力する検査情報出力手段(図示せず)を備え、製造途中や出荷時の表示装置の品質、欠陥の検査を行うことができるように構成されたものである。なお、この検査回路90も、ダミー領域5の下側に配置されたものである。
【0029】
走査線駆動回路80および検査回路90は、その駆動電圧が、所定の電源部から駆動電圧導通部310(図3参照)および駆動電圧導通部340(図4参照)を介して、印加されるよう構成されている。また、これら走査線駆動回路80および検査回路90への駆動制御信号および駆動電圧は、このEL表示装置1の作動制御を行う所定のメインドライバなどから駆動制御信号導通部320(図3参照)および駆動電圧導通部350(図4参照)を介して、送信および印加されるようになっている。なお、この場合の駆動制御信号とは、走査線駆動回路80および検査回路90が信号を出力する際の制御に関連するメインドライバなどからの指令信号である。
【0030】
また、このEL表示装置1は、図3、図4に示すように基体200上に画素電極(第1の電極)23と発光層(電気光学層)60と陰極(第2の電極)50とを備えた発光素子(有機EL素子)を多数形成し、さらにこれらを覆うように紫外線吸収層30,ガスバリア層40を順次積層して形成したものである。
なお、図3,図4では電気光学層として発光層60のみ示したが、このように電気光学層を単一の層として構成する代わりに、複数の層を積層した積層膜として構成することもできる。実際に本実施形態では、後述するように、電気光学層を、正孔注入層,正孔輸送層,電子注入層,電子輸送層などのキャリア注入層又はキャリア輸送層や正孔阻止層(ホールブロッキング層),電子阻止層(エレクトロン阻止層)と、上記発光層との積層膜としている。
【0031】
基体200を構成する基板本体20としては、いわゆるトップエミッション型のEL表示装置の場合、この基板20の対向側であるガスバリア層40側から表示光を取り出す構成であるので、透明基板及び不透明基板のいずれも用いることができる。不透明基板としては、例えばアルミナ等のセラミックス、ステンレススチール等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したもの、また熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、さらにはそのフィルム(プラスチックフィルム)などが挙げられる。
【0032】
また、いわゆるボトムエミッション型のEL表示装置の場合には、基板20側から表示光を取り出す構成であるので、基板20としては、透明あるいは半透明のものが採用される。例えば、ガラス、石英、樹脂(プラスチック、プラスチックフィルム)等が挙げられ、特にガラス基板が好適に用いられる。なお、本実施形態では、ガスバリア層40側から発光光を取り出すトップエミッション型としている。
【0033】
また、基板20上には、画素電極23を駆動するための駆動用TFT123などを含む回路部11が形成されており、その上に発光素子(有機EL素子)が多数設けられている。発光素子は、図5に示すように、陽極として機能する画素電極(第1の電極)23と、この画素電極23からの正孔を注入/輸送する正孔輸送層70と、電気光学材料の一つである有機EL物質を備える発光層60と、陰極(第2の電極)50とが順に形成されたことによって構成されたものである。
このような構成のもとに、発光素子はその発光層60において、正孔輸送層70から注入された正孔と陰極50からの電子とが結合することにより、発光光を生じるようになっている。
【0034】
画素電極23は、本例ではトップエミッション型であることから透明である必要がなく、したがって適宜な導電材料によって形成されている。
正孔輸送層70の形成材料としては、例えばポリチオフェン誘導体、ポリピロール誘導体など、またはそれらのドーピング体などが用いられる。具体的には、3,4−ポリエチレンジオシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)などが用いられる。
【0035】
発光層60を形成するための材料としては、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の発光材料を用いることができる。具体的には、(ポリ)フルオレン誘導体(PF)、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)などのポリシラン系などが好適に用いられる。
また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子系材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等の低分子材料をドープして用いることもできる。
なお、前記の高分子材料に代えて、従来公知の低分子材料を用いることもできる。
また、必要に応じて、このような発光層60の上に電子注入層を形成してもよい。
【0036】
また、図3〜図5に示すように、本実施形態において正孔輸送層70と発光層60とは、親液性制御層25と有機バンク層221とからなるバンク構造体におより互いに仕切られた状態で基板200上に配置されている。すなわち、親液性制御層25,有機バンク層221は、基板200上にマトリクス状に配置された各画素電極23に対応する位置に開口部を有し、正孔輸送層70,発光層60は各開口部のそれぞれに設けられている。なお、格子状に形成された親液性制御層25および有機バンク層221にあって、特に最外周を形成する部分、すなわち発光層60の最外周位置のものの外側部を覆った状態でこれを囲む部分が、囲み部材201となっている。そして、この囲み部材201により囲まれた略矩形の領域が実表示領域4となっている。
【0037】
ここで、囲み部材201については、特にその上部を形成する有機バンク層221における、外側部を形成する面201aの基体200表面に対する角度θが、110度以上となっている。このような角度としたのは、後述するようにこの上に形成する陰極50、さらにはガスバリア層40のステップカバレージ性を良好にし、外側部上での陰極やガスバリア層40の連続性を確保するためである。
【0038】
陰極50は、図3〜図5に示すように、実表示領域4およびダミー領域5の総面積より広い面積を備え、それぞれを覆うように形成されたもので、前記発光層60と有機バンク層221及び囲み部材201の上面、さらには囲み部材201の外側部を形成する面201aを覆った状態で基体200上に形成されたものである。なお、この陰極50は、図4に示すように前記囲み部材201の面201aの外側で基体200の外周部に形成された陰極用配線202に接続されている。この陰極用配線202にはフレキシブル基板203が接続されており、これによって陰極50は、陰極用配線202を介してフレキシブル基板203上の図示しない駆動IC(駆動回路)に接続されたものとなっている。
【0039】
陰極50を形成するための材料としては、本例はトップエミッション型であることから光透過性である必要があり、したがって透明導電材料が用いられる。透明導電材料としてはITO(インジウム錫酸化物)が好適とされるが、これ以外にも、例えば酸化インジウム・酸化亜鉛系アモルファス透明導電膜(Indium Zinc Oxide :IZO/アイ・ゼット・オー)(登録商標))(出光興産社製)、AZO(アルミニウム亜鉛酸化物)等を用いることができる。なお、本例ではITOを用いるものとする。
【0040】
このような陰極50の上には、この陰極50の基体200上で露出する部位を覆った状態で紫外線吸収層30が設けられている。
ガスバリア層40は、その内側に酸素や水分が浸入するのを防止するためのもので、これにより陰極50や発光層60への酸素や水分の浸入を防止し、酸素や水分による陰極50や発光層60の劣化等を抑えるようにしたものである。このガスバリア層40は、後述するように、低温高密度プラズマ雰囲気下の減圧気相成長法(スパッタ、プラズマCVD等)によって形成されたものである。
このガスバリア層40は無機化合物からなるもので、好ましくは珪素化合物、例えば珪素窒化物や珪素酸窒化物、珪素酸化物などによって形成されている。このようにガスバリア層40を珪素化合物で形成することにより、ガスバリア層40が緻密な膜となり、良好なガスバリア性能が得られる。
【0041】
一方、紫外線吸収層30は、上記ガスバリア層40を形成する際に生じた紫外線等の光を吸収し、発光層60の光劣化を防止するようにしたものである。このため、紫外線吸収層30には、上記光の波長に対応したエネルギーバンドギャップを有する半導体材料が用いられている。なお、上記ガスバリア層形成工程では、高強度の光が発生するため、ここで生じた光は、例えば赤外線や可視光等、紫外線以外の光であっても発光層60を劣化させる虞がある。このため、本実施形態では、紫外線吸収層30を例えば2eVから6eVまでのエネルギーバンドギャップを有する半導体材料を主成分とした材料で構成し、紫外線吸収層30に広い波長範囲の光を吸収させることで、発光層60の劣化防止を確実にしている。
【0042】
この際、本実施形態のようなトップエミッション型の構造では、紫外線吸収層30は可視光(例えば400nm〜700nmの波長範囲の光)に対して透明性を有する必要があるため、上記半導体材料としては、紫外線域にのみ吸収波長域を有する材料を選定する必要がある。具体的には、エネルギーバンドギャップが3eVから6eVまでの半導体材料が好適である。エネルギーバンドギャップが3eV以下の材料では可視光の一部(青色光等)が遮断されるが、3eV以上の材料では413nm以下の紫外線領域の光が選択的に吸収され、430nm付近の青色光の発光が妨げられることはない。一方、6eV以上の材料では、200nm〜400nmの紫外線を遮断できなくなるので効果がない。これに対して、基板本体20側から表示光を取り出すボトムエミッション型の構造では、紫外線吸収層30は可視光域に透明性を有する必要がないため、上記半導体材料としては、赤外線域や可視光域に吸収波長域を有するもの(即ち、エネルギーバンドギャップが2eVから6eVまでの半導体材料)でも構わない。なお、光吸収を確実にするため、紫外線吸収層30の層厚は10nm以上とすることが望ましい。
【0043】
また、本実施形態では、上記光を単に吸収するのでなく、この紫外光エネルギーにより紫外線吸収層30表面を清浄化するエネルギーとして積極的に利用すべく、紫外線吸収層30の主成分となる上記半導体材料として光触媒活性を有するものを採用している。光触媒活性を有する材料としては、例えば以下の表に示す公知のn型酸化物半導体材料を用いることができる。中でも、TiO2は化学的安定性に優れるため、紫外線吸収層30として好適である。また、光触媒活性を高めるために、白金(Pt),金(Au),銀(Ag),銅(Cu)の内の少なくとも1つの元素を助触媒として紫外線吸収層30に含有させてもよい。
【0044】
【表1】

【0045】
このように紫外線吸収層30に光触媒活性な材料を用いた場合、紫外線吸収層30は、ガスバリア層40の形成工程で使用される高密度プラズマより発生する紫外線等によって励起され、強い触媒作用を発揮する。このため、仮にガスバリア層形成中又はガスバリア層形成前に紫外線吸収層30の表面に有機物等の不純物が付着しても、この不純物は上記触媒作用により分解,除去されるため、紫外線吸収層30の表面をガスバリア層形成工程中、常に清浄に保つことができる。
【0046】
なお、本実施形態ではトップエミッション型としていることから、紫外線吸収層30及びガスバリア層40からなる積層膜は透明性(例えば可視光域における光線透過率が80%以上)を有する必要がある。このため、紫外線吸収層30,ガスバリア層40の積層膜の層厚は例えば500nm以下とすることが望ましい。
【0047】
前記の発光素子の下方には、図5に示したように回路部11が設けられている。この回路部11は、基板20上に形成されて基体200を構成するものである。すなわち、基板20の表面にはSiO2を主体とする下地保護層281が下地として形成され、その上にはシリコン層241が形成されている。このシリコン層241の表面には、SiO2および/またはSiNxを主体とするゲート絶縁層282が形成されている。
【0048】
また、前記シリコン層241のうち、ゲート絶縁層282を挟んでゲート電極242と重なる領域がチャネル領域241aとされている。なお、このゲート電極242は、図示しない走査線101の一部である。一方、シリコン層241を覆い、ゲート電極242を形成したゲート絶縁層282の表面には、SiO2を主体とする第1層間絶縁層283が形成されている。
【0049】
また、シリコン層241のうち、チャネル領域241aのソース側には、低濃度ソース領域241bおよび高濃度ソース領域241Sが設けられる一方、チャネル領域241aのドレイン側には低濃度ドレイン領域241cおよび高濃度ドレイン領域241Dが設けられて、いわゆるLDD(Light Doped Drain )構造となっている。これらのうち、高濃度ソース領域241Sは、ゲート絶縁層282と第1層間絶縁層283とにわたって開孔するコンタクトホール243aを介して、ソース電極243に接続されている。このソース電極243は、前述した電源線103(図1参照、図5においてはソース電極243の位置に紙面垂直方向に延在する)の一部として構成されている。一方、高濃度ドレイン領域241Dは、ゲート絶縁層282と第1層間絶縁層283とにわたって開孔するコンタクトホール244aを介して、ソース電極243と同一層からなるドレイン電極244に接続されている。
【0050】
ソース電極243およびドレイン電極244が形成された第1層間絶縁層283の上層は、例えば酸化珪素や窒化珪素などの珪素化合物からなる第2層間絶縁層284によって覆われている。また、この第2層間絶縁層284は、配線等の平坦化効果を考慮してアクリル樹脂など樹脂層との2層構造を用いることもできるが、ガスバリア性の高い珪素化合物(特に窒化珪素や酸窒化珪素)で表面及び側面が被覆されることにより、基板本体20を透湿性の高い樹脂基板とした場合でも、基板側から発光層60へ酸素や水分等が浸入することを防ぐことができる。特に本実施形態では、後述のように、基板200上に窒素化合物からなるガスバリア層40を、バンク構造体及び陰極50全体を覆い且つ珪素化合物からなる第2層間絶縁膜284に接触するように形成している。このため、第2層間絶縁膜284をガスバリア性の高い珪素化合物により形成することで、発光素子部分の上層,下層,側部の全てが上記珪素化合物で包まれることとなり、装置の耐湿性や耐酸素性を格段に高めることができる。
【0051】
そして、この第2層間絶縁層284の表面上にはITOからなる画素電極23が形成されるとともに、該第2層間絶縁層284に設けられたコンタクトホール23aを介してドレイン電極244に接続されている。すなわち、画素電極23は、ドレイン電極244を介して、シリコン層241の高濃度ドレイン領域241Dに接続されている。
なお、走査線駆動回路80および検査回路90に含まれるTFT(駆動回路用TFT)、すなわち、例えばこれらの駆動回路のうち、シフトレジスタに含まれるインバータを構成するNチャネル型又はPチャネル型のTFTは、画素電極23と接続されていない点を除いて前記駆動用TFT123と同様の構造とされている。
【0052】
画素電極23が形成された第2層間絶縁層284の表面には、画素電極23と、前記した親液性制御層25及び有機バンク層221とからなるバンク構造体が設けられている。親液性制御層25は、例えばSiO2などの親液性材料を主体とするものであり、有機バンク層221は、アクリルやポリイミドなどからなるものである。そして、画素電極23の上には、親液性制御層25に設けられた開口部25a、および有機バンク221に囲まれてなる開口部221aの内部に、正孔輸送層70と発光層60とがこの順に積層されている。なお、本例における親液性制御層25の「親液性」とは、少なくとも有機バンク層221を構成するアクリル、ポリイミドなどの材料と比べて親液性が高いことを意味するものとする。
以上に説明した基板20上の第2層間絶縁層284までの層が、回路部11を構成するものとなっている。
【0053】
ここで、本例のEL表示装置1は、カラー表示を行うべく、各発光層60が、その発光波長帯域が光の三原色にそれぞれ対応して形成されている。例えば、発光層60として、発光波長帯域が赤色に対応した赤色用発光層60R、緑色に対応した緑色用発光層60G、青色に対応した青色用有機EL層60Bとをそれぞれに対応する表示領域R、G、Bに設け、これら表示領域R、G、Bをもってカラー表示を行う1画素が構成されている。また、各色表示領域の境界には、金属クロムをスパッタリングなどにて成膜した図示略のBM(ブラックマトリクス)が、例えば有機バンク層221と親液性化制御層25との間に形成されている。
【0054】
次に、本発明の一実施形態として、前記EL表示装置1の製造方法の一例を、図6〜図10を参照して説明する。なお、本実施形態においては、電気光学装置としてのEL表示装置1が、トップエミッション型である場合について説明する。また、図6〜図10に示す各断面図は、図2中のA−B線の断面図に対応した図である。
まず、図6(a)に示すように、基板20の表面に、下地保護層281を形成する。次に、下地保護層281上に、ICVD法、プラズマCVD法などを用いてアモルファスシリコン層501を形成した後、レーザアニール法又は急速加熱法により結晶粒を成長させてポリシリコン層とする。
【0055】
次いで、図6(b)に示すように、ポリシリコン層をフォトリソグラフィ法によりパターニングし、島状のシリコン層241、251および261を形成する。これらのうちシリコン層241は、表示領域内に形成され、画素電極23に接続される駆動用TFT123を構成するものであり、シリコン層251、261は、走査線駆動回路80に含まれるPチャネル型およびNチャネル型のTFT(駆動回路用TFT)をそれぞれ構成するものである。
【0056】
次に、プラズマCVD法、熱酸化法などにより、シリコン層241、251および261、下地保護層281の全面に厚さが約30nm〜200nmのシリコン酸化膜によって、ゲート絶縁層282を形成する。ここで、熱酸化法を利用してゲート絶縁層282を形成する際には、シリコン層241、251および261の結晶化も行い、これらのシリコン層をポリシリコン層とすることができる。
【0057】
また、シリコン層241、251および261にチャネルドープを行う場合には、例えば、このタイミングで約1×1012/cm2のドーズ量でボロンイオンを打ち込む。その結果、シリコン層241、251および261は、不純物濃度(活性化アニール後の不純物にて算出)が約1×1017/cm3の低濃度P型のシリコン層となる。
【0058】
次に、Pチャネル型TFT、Nチャネル型TFTのチャネル層の一部にイオン注入選択マスクを形成し、この状態でリンイオンを約1×1015/cm2のドーズ量でイオン注入する。その結果、パターニング用マスクに対してセルフアライン的に高濃度不純物が導入されて、図6(c)に示すように、シリコン層241及び261中に高濃度ソース領域241Sおよび261S並びに高濃度ドレイン領域241Dおよび261Dが形成される。
【0059】
次に、図6(c)に示すように、ゲート絶縁層282の表面全体に、ドープドシリコンやシリサイド膜、あるいはアルミニウム膜やクロム膜、タンタル膜という金属膜からなるゲート電極形成用導電層502を形成する。この導電層502の厚さは概ね500nm程度である。その後、パターニング法により、図6(d)に示すように、Pチャネル型の駆動回路用TFTを形成するゲート電極252、画素用TFTを形成するゲート電極242、Nチャネル型の駆動回路用TFTを形成するゲート電極262を形成する。また、駆動制御信号導通部320(350)、陰極電源配線の第1層121も同時に形成する。なお、この場合、駆動制御信号導通部320(350)はダミー領域5に配設するものとされている。
【0060】
続いて、図6(d)に示すように、ゲート電極242,252および262をマスクとして用い、シリコン層241、251および261に対してリンイオンを約4×1013/cm2のドーズ量でイオン注入する。その結果、ゲート電極242、252および262に対してセルフアライン的に低濃度不純物が導入され、図6(d)に示すように、シリコン層241および261中に低濃度ソース領域241bおよび261b、並びに低濃度ドレイン領域241cおよび261cが形成される。また、シリコン層251中に低濃度不純物領域251Sおよび251Dが形成される。
【0061】
次に、図7(e)に示すように、Pチャネル型の駆動回路用TFT252以外の部分を覆うイオン注入選択マスク503を形成する。このイオン注入選択マスク503を用いて、シリコン層251に対してボロンイオンを約1.5×1015/cm2のドーズ量でイオン注入する。結果として、Pチャネル型駆動回路用TFTを構成するゲート電極252もマスクとして機能するため、シリコン層252中にセルフアライン的に高濃度不純物がドープされる。したがって、低濃度不純物領域251Sおよび251Dはカウンタードープされ、P型チャネル型の駆動回路用TFTのソース領域およびドレイン領域となる。
【0062】
次いで、図7(f)に示すように、基板20の全面にわたって第1層間絶縁層283を形成するとともに、フォトリソグラフィ法を用いて該第1層間絶縁層283をパターニングすることにより、各TFTのソース電極およびドレイン電極に対応する位置にコンタクトホールCを形成する。
【0063】
次に、図7(g)に示すように、第1層間絶縁層283を覆うように、アルミニウム、クロム、タンタルなどの金属からなる導電層504を形成する。この導電層504の厚さは概ね200nmないし800nm程度である。この後、導電層504のうち、各TFTのソース電極およびドレイン電極が形成されるべき領域240a、駆動電圧導通部310(340)が形成されるべき領域310a、陰極電源配線の第2層が形成されるべき領域122aを覆うようにパターニング用マスク505を形成するとともに、該導電層504をパターニングして、図8(h)に示すソース電極243、253、263、ドレイン電極244、254、264を形成する。
【0064】
次いで、図8(i)に示すように、これらが形成された第1層間絶縁層283を覆う第2層間絶縁層284を形成する。この第2層間絶縁層284は、200nm〜2μm程度の厚さに形成されることが望ましい。
【0065】
次いで、図8(j)に示すように、第2層間絶縁層284のうち、駆動用TFTのドレイン電極244に対応する部分をエッチングにより除去してコンタクトホール23aを形成する。
その後、基板20の全面を覆うように画素電極23となる導電膜を形成する。そして、この透明導電膜をパターニングすることにより、図9(k)に示すように、第2層間絶縁層284のコンタクトホール23aを介してドレイン電極244と導通する画素電極23を形成すると同時に、ダミー領域のダミーパターン26も形成する、なお、図3、4では、これら画素電極23、ダミーパターン26を総称して画素電極23としている。
【0066】
ダミーパターン26は、第2層間絶縁層284を介して下層のメタル配線へ接続しない構成とされている。すなわち、ダミーパターン26は、島状に配置され、実表示領域に形成されている画素電極23の形状とほぼ同一の形状を有している。もちろん、表示領域に形成されている画素電極23の形状と異なる構造であってもよい。なお、この場合、ダミーパターン26は少なくとも前記駆動電圧導通部310(340)の上方に位置するものも含むものとする。
【0067】
次いで、図9(l)に示すように、画素電極23、ダミーパターン26上、および第2層間絶縁膜上に絶縁層である親液性制御層25を形成する。なお、画素電極23においては一部が開口する態様にて親液性制御層25を形成し、開口部25a(図3も参照)において画素電極23からの正孔移動が可能とされている。逆に、開口部25aを設けないダミーパターン26においては、絶縁層(親液性制御層)25が正孔移動遮蔽層となって正孔移動が生じないものとされている。続いて、親液性制御層25において、異なる2つの画素電極23の間に位置して形成された凹状部にBM(図示せず)を形成する。具体的には、親液性制御層25の前記凹状部に対して、金属クロムを用いスパッタリング法にて成膜する。
【0068】
次いで、図9(m)に示すように、親液性制御層25の所定位置、詳しくは前記BMを覆うように有機バンク層221を形成する。具体的な有機バンク層の形成方法としては、例えばアクリル樹脂、ポリイミド樹脂などのレジストを溶媒に溶解したものを、スピンコート法、スリットダイコート法などの各種塗布法により塗布して有機質層を形成する。なお、有機質層の構成材料は、後述するインクの溶媒に溶解せず、しかもエッチングなどによってパターニングし易いものであればどのようなものでもよい。
【0069】
続いて、有機質層をフォトリソグラフィ技術、エッチング技術を用いてパターニングし、有機質層にバンク開口部221aを形成することにより、開口部221aに壁面を有した有機バンク層221を形成する。ここで、この有機バンク層221にあたっては、特にその最外周を形成する部分、すなわち前述した本発明における囲み部材201の外側部を形成する面201aについて、その基体200表面に対する角度θを110度以上となるように形成するのが好ましい。このような角度に形成することにより、この上に形成する陰極50、さらにはガスバリア層40のステップカバレージ性を良好にすることができる。
なお、この場合、有機バンク層221は、少なくとも前記駆動制御信号導通部320の上方に位置するものを含むものとする。
【0070】
次いで、有機バンク層221の表面に、親液性を示す領域と、撥液性を示す領域とを形成する。本実施形態においては、プラズマ処理によって各領域を形成するものとする。具体的には、該プラズマ処理を、予備加熱工程と、有機バンク層221の上面および開口部221aの壁面ならびに画素電極23の電極面23c、親液性制御層25の上面をそれぞれ親液性にする親インク化工程と、有機バンク層の上面および開口部の壁面を撥液性にする撥インク化工程と、冷却工程とで構成する。
【0071】
すなわち、基材(バンクなどを含む基板20)を所定温度、例えば70〜80℃程度に加熱し、次いで親インク化工程として大気雰囲気中で酸素を反応ガスとするプラズマ処理(O2プラズマ処理)を行う。次いで、撥インク化工程として大気雰囲気中で4フッ化メタンを反応ガスとするプラズマ処理(CF4プラズマ処理)を行い、その後、プラズマ処理のために加熱された基材を室温まで冷却することで、親液性および撥液性が所定箇所に付与されることとなる。
【0072】
なお、このCF4プラズマ処理においては、画素電極23の電極面23cおよび親液性制御層25についても多少の影響を受けるが、画素電極23の材料であるITOおよび親液性制御層25の構成材料であるSiO2、TiO2などはフッ素に対する親和性に乏しいため、親インク化工程で付与された水酸基がフッ素基で置換されることがなく、親液性が保たれる。
【0073】
次いで、正孔輸送層形成工程によって正孔輸送層70の形成を行う。この正孔輸送層形成工程では、例えばインクジェット法等の液滴吐出法や、スクリーン印刷法などにより、正孔輸送層材料を電極面23c上に塗布し、その後、乾燥処理および熱処理を行い、電極23上に正孔輸送層70を形成する。正孔輸送層材料を例えばインクジェット法で選択的に塗布する場合には、まず、インクジェットヘッド(図示略)に正孔輸送層材料を充填し、インクジェットヘッドの吐出ノズルを親液性制御層25に形成された前記開口部25a内に位置する電極面23cに対向させ、インクジェットヘッドと基材(基板20)とを相対移動させながら、吐出ノズルから1滴当たりの液量が制御された液滴を電極面23cに吐出する。次に、吐出後の液滴を乾燥処理し、正孔輸送層材料に含まれる分散媒や溶媒を蒸発させることにより、正孔輸送層70を形成する。
【0074】
ここで、吐出ノズルから吐出された液滴は、親液性処理がなされた電極面23c上にて広がり、親液性制御層25の開口部25a内に満たされる。その一方で、撥インク処理された有機バンク層221の上面では、液滴がはじかれて付着しない。したがって、液滴が所定の吐出位置からはずれて有機バンク層221の上面に吐出されたとしても、該上面が液滴で濡れることがなく、弾かれた液滴が親液性制御層25の開口部25a内に転がり込む。
なお、この正孔輸送層形成工程以降は、正孔輸送層70および発光層60の酸化を防止すべく、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などの不活性ガス雰囲気で行うのが好ましい。
【0075】
次いで、発光層形成工程によって発光層60の形成を行う。この発光層形成工程では、例えば前記のインクジェット法により、発光層形成材料を正孔輸送層70上に吐出し、その後、乾燥処理および熱処理を行うことにより、有機バンク層221に形成された開口部221a内に発光層60を形成する。この発光層形成工程では、正孔輸送層70の再溶解を防止するため、発光層形成材料に用いる溶媒として、正孔輸送層70に対して不溶な無極性溶媒を用いる。
なお、この発光層形成工程では、前記のインクジェット法によって例えば青色(B)の発光層形成材料を青色の表示領域に選択的に塗布し、乾燥処理した後、同様にして緑色(G)、赤色(R)についてもそれぞれその表示領域に選択的に塗布し、乾燥処理する。
また、必要に応じて、前述したようにこのような発光層60の上に電子注入層を形成してもよい。
【0076】
次いで、図10(n)に示すように、陰極層形成工程によって陰極50の形成を行う。この陰極層形成工程では、例えばイオンプレーティング法等の物理気相成長法によって減圧下でITOを成膜して、陰極50とする。ターゲット原料としてInSnOを用いる。導入ガスをAr、O2として成膜を行い、厚さ100nmのITO膜を作製し、陰極50とする。このとき、この陰極50については、前記発光層60と有機バンク層221及び囲み部材201の上面を覆うのはもちろん、囲み部材201の外側部を形成する面201aについてもこれを覆った状態となるように形成する。
【0077】
次いで、図10(o)に示すように陰極50を覆って、すなわち基体200上にて露出する陰極50の全ての部位を覆った状態に紫外線吸収層30を形成する。この紫外線吸収層30の形成方法としては、プラズマダメージを防ぐために、低パワーで成膜できる方法が採用される。例えば本例では、成膜装置としてイオンプレーティング成膜装置を用い、真空度を1.0×10-2Paとして酸化チタンまたは酸化亜鉛を厚さ10nm〜100nm、好ましくは50nm程度成膜して紫外線吸収層30とする。
【0078】
次いで、紫外線吸収層30を覆って、すなわち基体200上にて露出する紫外線吸収層30の全ての部位を覆った状態にガスバリア層40を形成する。このガスバリア層40の形成工程は、低温プラズマ雰囲気下の気相成長法によって行う。具体的には、成膜装置として高密度プラズマCVD装置を用い、原料ガスとしてSiH4(モノシラン),O2(酸素),N2(窒素)を用いる。そして、厚さ30nm〜500nm、好ましくは100nm程度の膜厚の珪素窒酸化物膜を作製し、ガスバリア層40とする。このように化学的気相成長法でガスバリア層40を形成することにより、ガスバリア性(酸素や水分に対するバリア性)に優れたものとなる。また、このガスバリア層形成工程で発生する紫外線等の高エネルギーの光は、下地の紫外線吸収層30を励起させるため、紫外線吸収層30に強い光触媒作用が生じる。そして、この光触媒作用により、仮に紫外線吸収層30の表面に有機物等の不純物が付着しても、これが分解,除去され、紫外線吸収層30表面が清浄に保たれる。これにより、紫外線吸収層30とガスバリア層40との密着性が高まり、ガスバリア層40を欠陥の少ない緻密な膜とすることができる。
【0079】
このようなEL表示装置1の製造方法にあっては、ガスバリア層40を形成する前に予め紫外線吸収層30を形成しているため、高密度プラズマ雰囲気下のガスバリア層形成工程で発生する紫外線等の光はこの紫外線吸収層30に吸収され、これよりも下層側に配された発光層60の光劣化を防止することができる。また、このような方法で製造されたEL表示装置1を屋外等で使用する場合、紫外線吸収層30が外光等に含まれる紫外線を吸収するため、装置の耐光性が向上する。
【0080】
また、本実施形態の製造方法では、紫外線吸収層30に光触媒活性を有する材料を用いているため、上記紫外線等の光が単に吸収されるだけでなく、不純物等の分解反応のエネルギーとして積極的に利用され、紫外線吸収層30の表面をガスバリア層形成工程中、表面が励起したエネルギーを保ちつつ常に清浄な状態に保つことができる。これにより、ガスバリア層40が欠陥のないより緻密な膜となり、ガスバリア性が高まる。
また、陰極50,紫外線吸収層30,ガスバリア層40の各形成工程を大気圧に戻すことなく減圧下で連続して行っているため、処理を迅速に行うことができる。また、大気圧に戻すことによる不純物の混入がないため、良質な膜が形成される。
【0081】
また、前記製造方法によって得られたEL表示装置1では、囲み部材201の外側部を陰極50,紫外線吸収層30,ガスバリア層40によって覆う状態となる(即ち、発光層60の外側部側が囲み部材201,陰極50,紫外線吸収層30,ガスバリア層40によってガスバリア層に囲まれる)ため、酸素や水分の浸入を確実に防止できる。これにより、酸素や水分による発光層や電極の劣化等が抑えられ、発光素子を長寿命化することができる。
【0082】
[第2実施形態]
次に、図11を参照しながら、本発明の第2実施形態に係る電気光学装置について説明する。
本実施形態は、上記第1実施形態の構成において、紫外線吸収層の陰極50側の界面に窒素を含有させ、紫外線吸収層と陰極との絶縁性を高めたものである。
すなわち、本電気光学装置1’では、陰極50を覆うように設けられた紫外線吸収層30’が第1の吸収層30aと第2の吸収層30bとの積層膜からなり、この第2の吸収層30bの上にガスバリア層40が設けられている。
【0083】
具体的には、陰極50と接する第1の吸収層30aと、ガスバリア層40と接する第2の吸収層30bとは、それぞれTiON(酸窒化チタン),TiO2からなる。TiO2に窒素を添加すると絶縁性が高まるため、ガスバリア形成工程で第1の吸収層30aが光励起されて生じた電荷が陰極50側に流れることを防止できる。これにより、このような電荷による発光層60の劣化が防止され、装置の長寿命化を図ることができる。また、第1の吸収層30aに窒素を含有させることで、陰極50やガスバリア層40との密着性が高まり、緻密な膜を形成することができる。
【0084】
なお、本実施形態のように紫外線吸収層30’を多層膜とする構成以外にも、例えば、酸化物半導体からなる紫外線吸収層の窒素含有量を下層側(即ち、陰極50側)から連続的に変化させた構造としてもよい。
そして、これ以外は上記第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0085】
したがって、本実施形態では、耐湿性,耐酸素性,耐光性に優れた電気光学装置を製造することができる他、第2の吸収層30bが光励起されて生じた電荷により発光層60が劣化される事態を回避できることにより、更に装置寿命を長くすることができる。
【0086】
[第3実施形態]
次に、図12を参照しながら、本発明の第3実施形態に係る電気光学装置について説明する。
本実施形態は、上記第1実施形態の構成において、ガスバリア層40の外側を保護層204により封止したものである。すなわち、本実施形態では、基板200上にガスバリア層40を覆うように保護層204が設けられている。この保護層204は、ガスバリア層40側に設けられた接着層205と、この上に設けられた保護基板206とからなっている。
【0087】
接着層205は、前記ガスバリア層40に密着し、かつ外部からの機械的衝撃に対して緩衝機能を有するもので、例えばウレタン系、アクリル系、エポキシ系、ポリオレフィン系、シリコーン系などの樹脂で、後述する保護基板206より柔軟でガラス転移点の低い材料からなる接着剤によって形成されたものである。なお、このような接着剤には、シランカップリング剤またはアルコキシシランを添加しておくのが好ましく、このようにすれば、形成される接着層205とガスバリア層40との密着性がより良好になり、したがって機械的衝撃耐性が高くなる。また、特にガスバリア層40が珪素化合物で形成されている場合などでは、シランカップリング剤やアルコキシシランによってこのガスバリア層40との密着性を向上させることができ、したがってガスバリア層40のガスバリア性を高めることができる。
【0088】
保護基板206は、接着層205上に設けられることにより、保護層204の表面側を構成するものであり、耐圧性や耐摩耗性、外部光反射防止性、ガスバリア性、紫外線遮断性などの機能の少なくとも一つを有してなる層である。具体的には、高分子層(PET,アクリル樹脂,ポリカーボネート,ポリオレフィン等のプラスチックフィルム)やDLC(ダイアモンドライクカーボン)層、ガラスなどによって形成されるものである。
本実施形態において、接着層205は本発明の緩衝層を構成し、保護基板206は本発明の表面保護層を構成する。なお、この例のEL表示装置においては、トップエミッション型にする場合に前記表面保護層206、緩衝層205を共に透光性のものにする必要があるが、ボトムエミッション型とする場合にはその必要はない。
【0089】
このようにガスバリア層40上に保護層204を設ければ、保護基板206が耐圧性や耐摩耗性、光反射防止性、ガスバリア性、紫外線遮断性などの機能を有していることにより、発光層60や陰極50、さらにはガスバリア層もこの保護基板206によって保護することができ、したがって発光素子の長寿命化を図ることができる。
また、接着層205が機械的衝撃に対して緩衝機能を発揮するので、外部から機械的衝撃が加わった場合に、ガスバリア層40やこの内側の発光素子への機械的衝撃を緩和し、この機械的衝撃による発光素子の機能劣化を防止することができる。
【0090】
[第4実施形態]
次に、図13を参照しながら、本発明の第4実施形態に係る電気光学装置について説明する。
本実施形態は、上記第3実施形態の構成において、陰極50と紫外線吸収層30との間に、下層側から順に陰極保護層(電極保護層)21、緩衝層22、緩衝層保護層24を設けたものである。
【0091】
緩衝層22は、主に下地の凹凸形状(バンク構造体によって形成される基板表面の凹凸形状)を平坦化することで、ガスバリア層形成時に基板側からかかる外部応力を分散し、窒化珪素や酸窒化珪素等の珪素化合物からなる硬い被膜のガスバリア層にクラックが生じるのを防止することを目的とする。この緩衝層22としては、基板側からの応力を吸収するために、ある程度の柔軟性を持つ材料が好ましく、例えば窒素原子を含む透明な有機材料が好適である。また、140℃以下の低温で硬化する材料が好ましく、例えばアクリルポリオール,ポリエステルポリオール,ポリウレタンポリオール等を主成分とし、トリレンジイソシアネートやキシリレンジイソシアネート等のイソシアネート化合物を混合して重合した誘導体や、ビスフェノール系エポキシとアミン化合物を混合して重合した誘導体等を好適に採用することができる。なお、緩衝層22の膜厚は、十分な応力緩和機能を持たせるために、0.5μm〜10μmが好ましい。また、この緩衝層22には、後述の陰極保護層21や緩衝層保護層24との密着性を向上させるためのシランカップリング剤やシラザン化合物等のシラン化合物、硬化収縮を防止するための微粒子等が混入されていてもよい。
【0092】
このような緩衝層22は液相法にて形成することができる。緩衝層22の形成材料を含む液体材料の塗布方法としては、大面積に均一に塗布することができるスリットコート法、ダイコート法、カーテンコート法等が好適である。液体材料の粘度は、例えば100mPa・s以下、より好ましくは1mPa・s〜30mPa・sがよい。また、粘度を下げるために有機溶剤で希釈することが好ましい。この場合、陰極や有機発光層は水分を嫌うため、トルエン,キシレン,シクロヘキサン,メチルエチルケトン,酢酸エチル等の親油性有機溶剤で希釈することが望ましい。
【0093】
陰極保護層21は、陰極50と緩衝層22との接着性を保つとともに、緩衝層22の形成時に基板を大気暴露することによるガス成分の遮断や、陰極50に接触する溶媒やアウトガスから陰極50を保護するといったプロセス工程時の素子保護性を目的として設けられるものであり、例えば窒化珪素や酸窒化珪素等の透明性を有する珪素化合物が好適に採用される。この陰極保護層21は、例えばECRプラズマスパッタ法,ECR−CVD法,ICP−CVD法,ヘリコン波プラズマCVD法,表面波プラズマCVD法,イオンプレーティング法等の高密度プラズマ成膜法にて形成することができる。この際、プラズマダメージを防ぐために低いパワーで成膜することが好ましく、膜厚は10nm〜200nmが好ましい。
【0094】
緩衝層保護層24は、紫外線吸収層30がガスバリア層形成時に励起されて放出された活性電子から緩衝層22を保護するために設けられるものであり、例えば珪素化合物等の透明な絶縁材料を好適に用いることができる。この緩衝層保護層24は、例えばECRプラズマスパッタ法,ECR−CVD法,ICP−CVD法,ヘリコン波プラズマCVD法,表面波プラズマCVD法,イオンプレーティング法等の高密度プラズマ成膜法にて形成することができる。この成膜条件は陰極保護層21の成膜条件と同様でよい。なお、緩衝層保護層24と緩衝層22との密着性を高めるために、緩衝層保護層24を形成する前に緩衝層22の表面を酸素プラズマ処理等により活性化させてもよい。
なお、陰極保護層21は陰極50全体を覆う形で形成され、緩衝層22は陰極保護層21全体を覆う形で形成され、更に、緩衝層保護層24は緩衝層22全体を覆う形で形成されている。
【0095】
そして、このように形成された緩衝層保護層24の上には、紫外線吸収層30とガスバリア層40とが順に積層されている。ガスバリア層40は、緩衝層保護層24全体を覆った状態で珪素化合物等からなるガスバリア性の第2層間絶縁膜284に接しており、実表示領域に配置された発光素子は、これらのガスバリア層40及び第2層間絶縁膜284によって包み込まれる形で水分等の侵入から保護されている。そして、このガスバリア層40の上には更に、パネル全体強度保持とガスバリア層40等の損傷防止を目的として保護層204が設けられている。この保護層204は、透明な接着層205と透明な保護基板206とからなる。
【0096】
接着層205及び保護基板206は、それぞれ上記第3実施形態における緩衝層205及び表面保護層206と同様の材料からなる。すなわち、接着層205としては、エポキシ樹脂,アクリル樹脂,ウレタン樹脂,シリコーン樹脂等の透明樹脂材料からなる接着剤を好適に用いることができる。また、低温で硬化させるために、イソシアネート等の硬化剤を添加する2液混合型のものを用いてもよい。また、保護基板206としては、ガラスや透明なプラスチックフィルム(PET,アクリル,ポリカーボネート,ポリオレフィン等)等を用いることができる。プラスチックフィルムを用いた場合には、フィルム上に予め接着層205を形成することで、貼り合わせに特化した装置構造とすることができ、大面積化への対応が容易となる。なお、保護基板206には、紫外線吸収層,光反射防止層,放熱層や、レンズ,ミラー等の光学構造が設けられていてもよい。
なお、保護層204は、例えば接着層205を保護基板206側又はガスバリア層40上に塗布し、保護基板206と基板200を圧着して貼り合わせ、接着層205を120℃以下で加熱硬化することにより取り付けられる。
【0097】
これ以外は上記第3実施形態と同様である。
本実施形態では、ガスバリア層40の下層側に平坦化膜として緩衝層22を設けたため、ガスバリア層40を、より緻密で欠陥の少ない膜とすることができる。
【0098】
次に、本発明の電子機器を説明する。本発明の電子機器は、前記のEL表示装置(電気光学装置)を表示部として有したものであり、具体的には図14に示すものが挙げられる。
図14は、携帯電話の一例を示した斜視図である。図14において、符号1000は携帯電話本体を示し、符号1001は前記のEL表示装置を用いた表示部を示している。
図14に示す電子機器は、前記EL表示装置(電気光学装置)を有した表示部を備えているので、表示部を構成するEL表示装置の発光素子の長寿命化が図られたものとなる。
【0099】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
例えば、上記各実施形態では、ガスバリア層40を単層として構成したが、このガスバリア層は複数の層からなる多層膜とすることができる。例えば、ガスバリア層を、紫外線吸収層30側から順に第1のバリア層,第2のバリア層を積層した構造とし、第1のバリア層を酸窒化珪素とし第2のバリア層を窒化珪素としてもよい。これにより、紫外線吸収層とガスバリア層との密着性が高くなり、欠陥の少ない緻密なガスバリア層を形成できる結果、ガスバリア性を一層高めることができる。なお、第1のバリア層や第2のバリア層は、珪素化合物以外でも、例えばアルミナや酸化タンタル、酸化チタンなどの無機化合物からなっていてもよい。このように少なくとも第1のバリア層が無機化合物で形成されていれば、紫外線吸収層が酸化物半導体からなっていることにより、ガスバリア層(第1のバリア層)と紫外線吸収層との密着性はよくなる。
【0100】
また、上記実施形態では、EL表示装置としてトップエミッション型の構造を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されることなく、ボトムエミッション型にも、また、両側に表示光を出射するタイプのものにも適用可能である。特にボトムエミッション型とした場合、陰極50には透明電極を用いる必要はないが、その場合にも、この陰極50の少なくともガスバリア層40と接する面側を、無機酸化物によって形成するのが好ましい。このようにすれば、無機化合物からなる紫外線吸収層30と陰極50との密着性がよくなり、紫外線吸収層30を欠陥の少ない緻密な層とすることができる。
【0101】
また、ボトムエミッション型、あるいは両側に発光光を出射するタイプのものとした場合、基体200に形成するスイッチング用TFT112や駆動用TFT123については、発光素子の直下ではなく、親液性制御層25および有機バンク層221の直下に形成するようにし、開口率を高めるのが好ましい。
さらに、各実施形態のEL表示装置では、本発明における第1の電極を陽極として機能させ、第2の電極を陰極として機能させたが、これらを逆にして第1の電極を陰極、第2の電極を陽極としてそれぞれ機能させるよう構成してもよい。ただし、その場合には、発光層60と正孔輸送層70との形成位置を入れ替える必要がある。
【0102】
また、前記実施形態では本発明の電気光学装置にEL表示装置1を適用した例を示したが、本発明はこれに限定されることなく、基本的に第2の電極が基体の外側に設けられるものであれば、どのような形態の電気光学装置にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電気光学装置の配線構造を示す模式図である。
【図2】同、電気光学装置の構成を模式的に示す平面図である。
【図3】図2のA−B線に沿う断面図である。
【図4】図2のC−D線に沿う断面図である。
【図5】図3の要部拡大断面図である。
【図6】同、電気光学装置の製造方法を工程順に説明する断面図である。
【図7】図6に続く工程を説明するための断面図である。
【図8】図7に続く工程を説明するための断面図である。
【図9】図8に続く工程を説明するための断面図である。
【図10】図9に続く工程を説明するための断面図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係る電気光学装置の断面図である。
【図12】本発明の第3実施形態に係る電気光学装置の断面図である。
【図13】本発明の第4実施形態に係る電気光学装置の断面図である。
【図14】本発明の電子機器の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0104】
1…EL表示装置(電気光学装置)、21…陰極保護層(電極保護層)、22…緩衝層、23…画素電極(第1の電極)、24…緩衝層保護層、30…紫外線吸収層、40…ガスバリア層、50…陰極(第2の電極)、60…発光層(電気光学層)、200…基板、204…保護層、205…接着層、206…保護基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、少なくとも第1の電極,電気光学層,第2の電極を順に積層してなる電気光学素子を有する電気光学装置の製造方法であって、
気相成長法により、上記基板上に、上記電気光学素子を覆うように紫外線吸収層を形成する工程と、
プラズマ雰囲気を伴う気相成長法により、上記紫外線吸収層を覆うようにガスバリア層を形成する工程とを備えたことを特徴とする、電気光学装置の製造方法。
【請求項2】
基板上に第1の電極を複数形成する工程と、
上記基板上に、上記第1の電極の形成位置に対応した複数の開口部を有するバンク構造体を形成する工程と、
上記バンク構造体の各開口部にそれぞれ電気光学層を形成する工程と、
上記バンク構造体及び上記各電気光学層を覆うように第2の電極を形成する工程と、
気相成長法により、上記基板上に、上記第2の電極を覆うように紫外線吸収層を形成する工程と、
プラズマ雰囲気を伴う気相成長法により、上記紫外線吸収層を覆うようにガスバリア層を形成する工程とを備えたことを特徴とする、電気光学装置の製造方法。
【請求項3】
上記バンク構造体の外側部を構成する面の、上記基板表面に対する角度は110°以上であることを特徴とする、請求項2記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項4】
上記ガスバリア層を減圧下の高密度プラズマ雰囲気下で成膜することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかの項に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項5】
上記紫外線吸収層は、エネルギーバンドギャップが2eVから6eVまでの酸化物半導体材料を主成分とすることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかの項に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項6】
上記紫外線吸収層は、エネルギーバンドギャップが3eVから6eVまでの酸化物半導体材料を主成分とすることを特徴とする、請求項5記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項7】
上記紫外線吸収層は、上記ガスバリア層形成工程で使用するプラズマより発生する紫外線により光触媒活性を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかの項に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項8】
上記紫外線吸収層はチタン,亜鉛,錫の内のいずれかを含む透光性のn型酸化物半導体材料を主成分とすることを特徴とする、請求項7記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項9】
上記紫外線吸収層は白金,金,銀,銅の内の少なくとも1つの元素を含有することを特徴とする、請求項7又は8記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項10】
上記紫外線吸収層を上記第2の電極の露出面に形成することを特徴とする、請求項7〜9のいずれかの項に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項11】
上記紫外線吸収層の少なくとも上記第2の電極と接する面側に窒素を含有させることを特徴とする、請求項10記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項12】
上記第2の電極の少なくとも紫外線吸収層と接する面側を、無機酸化物で形成することを特徴とする、請求項10又は11記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項13】
上記第2の電極の形成工程から上記ガスバリア層の形成工程までを気相成長法により減圧下で連続して行なうことを特徴とする、請求項10〜12のいずれかの項に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項14】
上記第2の電極と上記紫外線吸収層との間に、下地の凹凸形状を平坦化するための緩衝層を形成する工程を備えたことを特徴とする、請求項1〜9のいずれかの項に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項15】
上記緩衝層が有機材料からなることを特徴とする、請求項14記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項16】
上記緩衝層を液相法により形成することを特徴とする、請求項14又は15記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項17】
上記第2の電極と上記緩衝層との間に、上記第2の電極を保護するための電極保護層を形成する工程を備えたことを特徴とする、請求項16記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項18】
上記電極保護層が珪素化合物からなることを特徴とする、請求項17記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項19】
上記緩衝層と上記紫外線吸収層との間に緩衝層保護層を形成する工程を備えたことを特徴とする、請求項14〜18のいずれかの項に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項20】
上記緩衝層保護層が絶縁材料からなることを特徴とする、請求項19記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項21】
上記ガスバリア層を珪素化合物で形成することを特徴とする、請求項1〜20のいずれかの項に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項22】
上記ガスバリア層に窒素を含有させることを特徴とする特徴とする、請求項21記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項23】
上記紫外線吸収層と上記ガスバリア層との積層膜の層厚は500nm以下であることを特徴とする、請求項1〜22のいずれかの項に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項24】
基板上に第1の電極,電気光学層,第2の電極,紫外線吸収層,ガスバリア層が順に積層されたことを特徴とする、電気光学装置。
【請求項25】
上記ガスバリア層の上に保護層が設けられたことを特徴とする、請求項24記載の電気光学装置。
【請求項26】
上記保護層の上に表面保護層が設けられたことを特徴とする、請求項25記載の電気光学装置。
【請求項27】
請求項24〜26のいずれかの項に記載の電気光学装置を備えたことを特徴とする、電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−218423(P2008−218423A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103109(P2008−103109)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【分割の表示】特願2004−1218(P2004−1218)の分割
【原出願日】平成16年1月6日(2004.1.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】