説明

電気化学エネルギー蓄積デバイス

【課題】リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素材料を主体とする負極を備え、スピロ型のカチオンを有するアンモニウム塩、有機溶媒、及びリチウム塩とを含有する非水電解液を用いた電気化学エネルギー蓄積デバイスにおいて、設定電圧が高く、エネルギー密度が増大した電気化学エネルギー蓄積デバイスを提供することを目的とする。
【解決手段】正極、リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素材料を主体とする負極、及び、非水電解液を備える電気化学エネルギー蓄積デバイスであり、非水電解液は、リチウム塩及びスピロ型のカチオンを有するアンモニウム塩が非水溶媒に溶解されており、リチウム塩及びアンモニウム塩のアニオンが、ビス[トリフルオロメタンスルホニル]イミドイオン、パークロレートイオン、及びビス[オキサレート(2−)]ボレートイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のイオンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な炭素材料を主体とする負極、及び、非水電解液を備える、電気二重層キャパシタ,ハイブリッドキャパシタ,または二次電池等の電気化学エネルギー蓄積デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電気二重層キャパシタ,ハイブリッドキャパシタ,または二次電池等の電気化学エネルギー蓄積デバイスが知られている。
【0003】
電気二重層キャパシタは、正極および負極に分極性電極を用い、充電過程で電解液中のカチオンおよびアニオンを電極表面に吸着することによって、電気化学エネルギーを蓄積するデバイスである。カチオンやアニオンは電極に吸着するだけであるので、高速な充放電が可能になることが、電気二重層キャパシタの特長である。カチオンやアニオンを多く吸着させるために、分極性電極には、通常、活性炭などの高比表面積の炭素材料が用いられる。
【0004】
また、二次電池であるリチウムイオン電池は、正極材料にLiCoOのような層状遷移金属酸化物、負極材料にグラファイトのような層状化合物を用い、充電過程で正極材料が有するリチウムイオンを負極材料に移動させることにより、電気化学エネルギーを蓄えるデバイスである。充電過程においては、正極材料の層間からリチウムイオンが放出され、負極材料の層間に挿入されることになるので、電気二重層キャパシタにくらべると、高速な充電が難しくなる。しかし、リチウムイオン電池は、電気二重層キャパシタよりも、多くの電気化学エネルギーを蓄えることができる。その理由のひとつは、充電電圧をおよそ4.2Vまで高めることができるからであり、それは、充電終了後の負極電位を約0.1V vs. Li/Li+ にまで低くできることに起因する。
【0005】
そして、電気二重層キャパシタと二次電池の両方の作用を組み合わせた電気化学エネルギー蓄積デバイスとして、例えば、正極材料には活性炭を用い、負極材料にはグラファイトのような層状化合物を用いることで、高速な充放電が可能で、電気化学エネルギーも比較的多く蓄えられるハイブリッドキャパシタも知られている。
【0006】
上記のような電気二重層キャパシタ,ハイブリッドキャパシタ,または二次電池は、それぞれ、電解液、正極材料、負極材料等として、共通する材料が用いられることがあり、それぞれの用途に適した材料が組み合わされて構成される。例えば、電解液としては、耐電圧に優れる、広い電気化学的電位窓を持つ非水電解液が用いられている。
【0007】
電気二重層キャパシタに用いられる代表的な非水電解液としては、アンモニウム塩等の電解質をプロピレンカーボネート(以下、PCとも略記する場合がある。以下同様)等の非水溶媒に溶解して得られる非水電解液が知られている。
【0008】
しかしながら、電気二重層キャパシタの電解質としてアンモニウム塩を用いた場合には、以下のような問題があった。
【0009】
電気二重層キャパシタにおいて、蓄積される電気化学エネルギーを増やすために、電極として、一般的に用いられている活性炭の代わりに、ハイブリッドキャパシタの電極として広く用いられている非多孔性の炭素材料を用いる場合がある。このような非多孔性の炭素材料を電極として用いた電気二重層キャパシタに電圧を付加すると、非水電解液中のアンモニウム塩が非多孔性の炭素材料の層間に挿入され、電気二重層容量に加えて疑似容量を蓄えることができるために電気化学エネルギーの蓄積量が増加する。しかし、非多孔性の炭素材料の層間にアンモニウム塩が挿入されることにより、炭素材料の層間が広がり、負極が膨張する。炭素材料の層間が広がった場合には、反応活性な面の面積が増え、非水溶媒が還元分解されやすくなるという問題があった。なお、このときのアンモニウム塩のカチオンが炭素材料の層間に挿入する電位は、およそ1.0V vs. Li/Li+ である。
【0010】
ところで、電気二重層キャパシタのエネルギー密度を高めるためには、PC等の非水溶媒にアンモニウム塩等の電解質塩を高濃度で溶解させる必要がある。
【0011】
非水溶媒に高濃度で溶解する高溶解度の電解質塩としては、例えば、スピロ型のカチオンを有するアンモニウム塩である、スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウム・テトラフルオロボレート(SBP・BFと略記)が知られている(例えば特許文献1)。
【0012】
SBP・BFのようなスピロ型のカチオンを有するアンモニウム塩は、非水溶媒に高濃度で溶解する点から好ましい電解質塩である。また、電解質塩として用いた場合には、下記特許文献2等で開示されているように、炭素材料の層間の広がりが比較的小さくなることが知られている。しかしながら、上記炭素材料の層間が広がるという問題は充分には解決されず、依然、層間がある程度広がる。
【0013】
また、ハイブリッドキャパシタに用いられる非水電解液としても、SBP・BFのようなスピロ型のカチオンを有するアンモニウム塩をPCやEC等の非水溶媒に溶解して得られる非水電解液が知られている。
【0014】
例えば、特許文献3には、正極材料には活性炭を用い、負極材料にはグラファイトのような層状化合物を用い、SBP・BFのようなスピロ型のカチオンを有するアンモニウム塩を非水溶媒に溶解した非水電解液を用いたハイブリッドキャパシタが開示されている。このようなハイブリッドキャパシタに電圧を付加した場合においても、スピロ型のカチオンであるスピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムイオン(SBPイオンと略記)がグラファイトのような層状化合物の層間に挿入されて層間が広がり、負極が膨張するという問題があった。なお、この場合でも、SBPイオンが炭素材料の層間に挿入する電位は、およそ1.0V vs. Li/Li+ である。
【0015】
さらに、リチウムイオン電池に用いられる代表的な非水電解液としては、リチウム・ヘキサフルオロホスフェート(LiPFと略記)等のリチウム塩をエチレンカーボネート(ECと略記)等の非水溶媒に溶解して得られる非水電解液が知られている。
【0016】
ところで、上記説明した電気二重層キャパシタ,ハイブリッドキャパシタ,または二次電池等に用いられている非水電解液はいずれも有機溶媒である非水溶媒に電解塩を溶解させたものであるが、上記非水溶媒は、可燃性、揮発性を有するために、安全性の観点から好ましくなかった。
【0017】
上記観点から、近年、不燃性で不揮発性であり、常温付近で溶融塩状態にある塩であるイオン性液体を溶媒として用いた電解液が検討されている。
【0018】
例えば、特許文献4には、常温で液体のイオン性液体である、N−メチル−N−プロピルピロリジニウム・[トリフルオロメタンスルホニル][ペンタフルオロエタンスルホニル]イミド(13P・12イミドと略記)を溶媒として用い、前記溶媒にリチウム・ビス[トリフルオロメタンスルホニル]イミド(Li・11イミドと略記)を溶解させてなる電解液を用いたリチウムイオン電池が開示されている。このような電解液を用いたリチウムイオン電池においては、電解液中にアンモニウムイオンが存在しても、充電過程でグラファイトのような炭素材料の層間に、アンモニウムイオンではなく、リチウムイオンが挿入されることが示されている。これは、アンモニウムイオンを[トリフルオロメタンスルホニル][ペンタフルオロエタンスルホニル]イミドイオン(12イミドイオンと略記)のような非対称な構造のアニオンと組み合わせているためであると思われる。また、特許文献4には、イオン性液体として、カチオンの窒素原子(N)につながるアルキル基が環構造を形成している、スピロ型のカチオンを含有するアンモニウム塩を用いてもよいことが記載されている。
【特許文献1】特開2005−175239号公報
【特許文献2】特開2005−286179号公報
【特許文献3】特開2005−294780号公報
【特許文献4】特開2004−043407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上記特許文献1〜4に開示されたように、スピロ型のカチオンを有するアンモニウム塩は、非水電解質の電解塩として、または、イオン性液体として電解液の溶媒として用いられうることが開示されている。
【0020】
ところで、特許文献4に記載されたようなイオン性液体は、単独で電解液の溶媒として用いられるだけでなく、非水電解液の上記安全性や使用温度範囲を広げるなどの目的で、非水溶媒と混合しても用いられうる。なお、この場合においては、特許文献1や特許文献2等に記載されたような非水溶媒に電解質塩を溶解した場合と同様に、有機溶媒中にアニオンとカチオンとが存在する状態になるが、イオン性液体は元々液体であるために、少量の有機溶媒と混合するだけでイオン伝導度が高い非水電解液が得られる。
【0021】
本発明者らは、スピロ型のカチオンを含有するアンモニウム塩と、リチウム塩とを、上記のような非水溶媒に溶解して非水電解液を構成するに際して、例えば、常温で固体であるスピロ−(1,1’)−ビピロリジニウム・[トリフルオロメタンスルホニル][ペンタフルオロエタンスルホニル]イミド(SBP・12イミドと略記)とリチウム・[トリフルオロメタンスルホニル][ペンタフルオロエタンスルホニル]イミド(Li・12イミドと略記)とをECに溶解して得られる非水電解液を用いて構成される電気化学エネルギー蓄積デバイスに電圧を付加した場合に、炭素材料の層間にはリチウムイオンが挿入されず、SBPイオンが優先的に挿入されることを確認している。
【0022】
また、特許文献2および3には、非水溶媒に電解質塩としてSBP・BFのようなアンモニウム塩を溶解した非水電解液において、さらに電解質塩としてリチウム塩を共存させた非水電解液の特性については何ら記載されていないが、SBPイオンは電位がおよそ1.0V vs. Li/Li+以下になると優先的に炭素材料の層間に挿入されるために、非水電解液中にSBP・BFのようなスピロ型のカチオンを含有するアンモニウム塩とリチウム塩とを存在させた場合には、SBPイオンが炭素材料の層間に優先的に挿入されることが明らかである。
【0023】
以上のように、リチウム塩及びスピロ型のカチオンを有するアンモニウム塩を含有する非水電解液において、充電過程において炭素材料にリチウムイオンが優先的に挿入される組み合わせは知られておらず、そのために、非水電解液においては、スピロ型のカチオンの挿入による炭素材料の活性反応面積の増大を抑制することにより、非水電解液である有機溶媒の分解を充分に抑制できていなかった。従って、非水電解液中にリチウム塩とスピロ型のカチオンを含有するアンモニウム塩が存在する場合には、炭素材料を用いる負極において、充電過程で電位をアンモニウム塩のカチオンが炭素材料の層間に挿入する電位である、1.0V vs. Li/Li+付近よりも大幅に低い、例えば、0.1V vs. Li/Li+ 程度にまで低下させることは困難であると考えられていた。
【0024】
本発明は、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な炭素材料を主体とする負極を備え、スピロ型のカチオンを有するアンモニウム塩と、リチウム塩とを含有する非水電解液を用いた電気化学エネルギー蓄積デバイスにおいて、負極の電位を大幅に低下、好ましくは0.1V vs. Li/Li+ 程度にまで低下させることにより、設定電圧が高くてエネルギー密度が増大した電気化学エネルギー蓄積デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の電気化学エネルギー蓄積デバイスは、正極、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な炭素材料を主体とする負極及び、非水電解液を備える電気化学エネルギー蓄積デバイスであって、前記非水電解液は、リチウム塩及びスピロ型のカチオンを有するアンモニウム塩が非水溶媒に溶解されているものであり、前記リチウム塩及び前記アンモニウム塩のアニオンが、ビス[トリフルオロメタンスルホニル]イミドイオン(11イミドイオンと略記)、パークロレートイオン(ClOイオンと略記)、及びビス[オキサレート(2−)]ボレートイオン(BOBイオンと略記)から選ばれる少なくとも1種のイオンであることを特徴とする。このような構成によれば、非水電解液中にスピロ型のカチオンを有するアンモニウム塩とリチウム塩とを含有する場合であっても、炭素材料を主体とする負極にリチウムが優先的に挿入されることにより、炭素材料の層間が広がることを抑制することができる。これにより、負極の電位を下げることにより設定電圧を高めることができ、エネルギー密度の高い電気化学エネルギー蓄積デバイスが得られる。
【0026】
また、前記スピロ型のカチオンは、SBPイオンであることが炭素材料の層間に特に挿入されにくい点から好ましい。
【0027】
また、前記非水電解液が、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート(BCと略記)、及びγ−ブチロラクトン(γ−BLと略記)からなる群から選ばれる少なくとも1種の非水溶媒を含有することがリチウム塩とアンモニウム塩とを溶解させた場合において、炭素材料を主体とする負極にリチウムがより優先的に挿入される点から好ましい。
【0028】
また、前記非水電解液中の非水溶媒のモル量が、前記アンモニウム塩1モル当たり6モル以下、及び/又は前記リチウム塩1モル当たり6モル以下であることが炭素材料の層間へのアンモニウムイオンの優先的な挿入が、より抑制される点から好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、スピロ型のカチオンを有するアンモニウム塩と、リチウム塩とが溶解された非水電解液を用いたリチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な炭素材料を主体とする負極を備える電気化学エネルギー蓄積デバイスにおいて、充電過程で負極の炭素材料の層間にリチウムイオンが優先的に挿入されるものが得られる。これにより、リチウムイオン以外のカチオンが負極の層間に挿入されるのを抑制し、負極の電位を大幅に低下させることができる。したがって、電気化学エネルギー蓄積デバイスの設定電圧を高くすることができるために、高いエネルギー密度の電気化学エネルギー蓄積デバイスが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の電気化学エネルギー蓄積デバイスは、正極、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な炭素材料を主体とする負極、及び、非水電解液を備える電気化学エネルギー蓄積デバイスであって、前記非水電解液は、リチウム塩及びスピロ型のカチオンを有するアンモニウム塩が非水溶媒に溶解されているものであり、前記リチウム塩及び前記アンモニウム塩の対アニオンが、11イミドイオン、ClOイオン、及び、BOBイオンから選ばれる少なくとも1種のイオンであることを特徴とするものである。
【0031】
リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な負極は、炭素材料を主体とするものであり、充電過程においてリチウムイオンが層間に挿入され、放電過程においてリチウムイオンを層間から放出することができる。このような負極は、炭素材料自体の電気化学ポテンシャルエネルギーの変化により、電気化学エネルギーを蓄積する。
【0032】
上記のような炭素材料の具体例としては、例えば、カーボンブラック、難黒鉛化カーボン、グラファイト系材料、カーボンナノチューブ、フラーレンなどの炭素材料が挙げられる。なお、難黒鉛化カーボンやグラファイト系材料の層間距離は、おおむね、3.5Å以下であることが好ましい。
【0033】
また、負極は前記炭素材料を主体として、ポリアセチレンやポリパラフェニレンなどの導電性高分子、リチウムと合金化できる金属(例えば、Ag、Au、Zn、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Bi)、SiやSnなどの酸化物、リチウム含有遷移金属酸化物(例えば、LiTi12)等をさらに含有してもよい。さらに、リチウムと反応することにより金属と酸化リチウムに分解される、CoO、NiO、MnOなどの金属酸化物を含有してもよい。これらの負極材料の中では、カーボンブラック、またはグラファイト系材料を主体とする負極材料は、電気二重層キャパシタとしての機能と非水電解液二次電池としての機能の両方を具備できる点から好ましい。
【0034】
一方、正極は、正極材料自体の電気化学ポテンシャルエネルギーの変化や正極と非水電解液の界面に形成される電気二重層により電気化学エネルギーを蓄積する。
【0035】
上記のような正極材料の具体例としては、例えば、活性炭、カーボンブラック、難黒鉛化カーボン、グラファイト系材料、カーボンナノチューブ、フラーレンなどの炭素材料;ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性高分子;コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム等のリチウム複合酸化物等が挙げられる。これらの中では、活性炭、または、リチウム複合酸化物を含有する混合系の正極材料は、電気二重層キャパシタとしての機能と非水電解液二次電池としての機能の両方を具備する点から好ましい。
【0036】
本発明に用いられる非水電解液は、リチウム塩及びスピロ型のカチオンを有するアンモニウム塩が非水溶媒に溶解されたものであり、それらのアニオンは、11イミドイオン、ClOイオン、及び、BOBイオンから選ばれる少なくとも1種のイオンである。
【0037】
前記スピロ型のカチオンとしては、SBPイオン、ピペリジン−1−スピロ−1’−ピロリジニウム(PSPPイオンと略記する)、スピロ−(1,1’)−ビピペリジニウム(PPSPPと略記する)等が挙げられる。これらの中では、SBPイオンが炭素材料の層間に特に挿入されにくい点から好ましい。
【0038】
また、非水電解液中には、カチオンとして、前記スピロ型のアンモニウムイオンのほかに、炭素数が4以下の直鎖のアルキル基を有する4級アンモニウムイオンが含まれていてもよい。このような4級アンモニウムイオンにより、非水電解液中のアンモニウム塩の濃度を高めることができる。
【0039】
前記4級アンモニウムイオンとしては、アンモニウムイオンのN(窒素)に結合する4つのアルキル基が、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基のいずれかであるアンモニウムイオンが挙げられる。具体的には、テトラメチルアンモニウムイオン(TMAイオンと略記する)、トリメチルエチルアンモニウムイオン(TMEAイオンと略記する)、トリメチルプロピルアンモニウムイオン(TMPAイオンと略記する)、トリメチルブチルアンモニウムイオン(TMBAイオンと略記する)等の3つ以上のメチル基と直鎖のアルキル基を有するアンモニウムイオンが挙げられる。
【0040】
一方、非水電解液中のリチウム塩およびアンモニウム塩のアニオンとしては、11イミドイオン、ClOイオン、及び、BOBイオンから選ばれる少なくとも1種のイオンが挙げられる。このようなアニオンを含有する場合には、SBPイオン等のスピロ型のアンモニウムイオンやトリメチルプロピルアンモニウムイオン等のアンモニウムイオンが炭素材料の層間へ優先的に挿入することが抑制され、リチウムイオンが挿入されやすくなる。これらの中では、特に、BOBイオンが、負極上で分解されて、安定な皮膜を生成することにより、アンモニウムイオンの優先的な挿入を抑制する効果が高い点から好ましい。
【0041】
また、非水電解液中には、アニオンとして、ビス[ペンタフルオロエタンスルホニル]イミドイオン(22イミドイオンと略記)、[トリフルオロメタンスルホニル][ノナフルオロブタンスルホニル]イミドイオン(14イミドイオンと略記)、シクロヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス[スルホニル]イミドイオン(C6イミドイオンと略記する)、テトラフルオロボレートイオン(BFイオンと略記)、トリフルオロメチルトリフルオロボレートイオン(CFBFイオンと略記)、ペンタフルオロエチルトリフルオロボレートイオン(CBFイオンと略記)、ヘプタフルオロプロピルトリフルオロボレートイオン(CBFイオンと略記)、ヘキサフルオロホスフェートイオン(PFイオンと略記)、トリス[ペンタフルオロエチル]トリフルオロホスフェートイオン((CPFと略記)等をさらに含有してもよい。これらのイオンの含有割合は、アンモニウムイオンが炭素材料の層間へ優先的に挿入されない割合に調整される。
【0042】
アンモニウム塩とリチウム塩との組み合わせとしては、モル比で、Li・X/SBP・X=0.6/1〜1/0.6(Xは、11イミドイオン、ClOイオン、及び、BOBイオンから選ばれる少なくとも1種のイオン)の範囲の組成が、塩濃度が高い非水電解液が得られうる点から好ましい。特にXが11イミドイオンの場合には、より高塩濃度の非水電解液が得られる点から好ましい。
【0043】
非水電解液に含有される非水溶媒としては、環状カーボネートや環状エステルを含有する有機溶媒が好ましく用いられる。環状カーボネートの具体例としては、EC、PC、BC等が挙げられ、環状エステルの具体例としては、γ−BL等が挙げられる。これらの非水溶媒を用いた場合には、リチウム塩とアンモニウム塩とをそれぞれ単独で溶解させた飽和濃度よりも高い濃度の非水電解液を調製することができる。
【0044】
また、環状カーボネートとしては、フルオロエチレンカーボネートやC=C不飽和結合を有するビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ジビニルエチレンカーボネート、フェニルエチレンカーボネート、ジフェニルエチレンカーボネート等が、環状エステルとしては、α−メチル−γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンやC=C不飽和結合を有する、フラノン、3−メチル−2(5H)−フラノン、α−アンゲリカラクトン等が挙げられる。
【0045】
また、非水電解液の粘度を下げるために、環状カーボネートや環状エステルに加えて、ジメチルカーボネート(DMCと略記)、エチルメチルカーボネート(EMCと略記)、ジエチルカーボネート(DECと略記)等の鎖状カーボネートを含有してもよい。また、その他の鎖状カーボネートとして、メチルプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネートや、C=C不飽和結合を有するメチルビニルカーボネート、エチルビニルカーボネート、ジビニルカーボネート、アリルメチルカーボネート、アリルエチルカーボネート、ジアリルカーボネート、アリルフェニルカーボネート、ジフェニルカーボネート等が挙げられる。
【0046】
非水電解液に含有される非水溶媒の含有量としては、前記アンモニウム塩1モル当たり6モル以下、及び/又は前記リチウム塩1モル当たり6モル以下であることが好ましい。このような組成となるように調製することが、炭素材料の層間へのアンモニウムイオンの優先的な挿入がより抑制される点から好ましい。
【0047】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明は実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0048】
(実施例1)
負極材料として人造黒鉛粉末を用いて、負極板を以下のようにして作製した。
【0049】
人造黒鉛粉末75質量部と、導電剤としてアセチレンブラック20質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン樹脂5質量部と、分散溶剤として脱水N−メチル−2−ピロリドンを混合した。得られた混合物を、厚み20μmの銅箔集電体の片面に塗布した後、乾燥することにより厚みが80μmの活物質層を形成した。そして、活物質層が形成された銅箔集電体を35mm×35mmのサイズに切り出し、リードのついた厚み0.5mmの銅集電板に超音波溶接して負極板を得た。
【0050】
一方、ECと、Li・11イミドと、スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウム・ビス[トリフルオロメタンスルホニル]イミド(以下、SBP・11イミドと略記する)を、Li・11イミド/EC/SBP・11イミド=1/4/1(モル比)の組成となるように混合して、非水電解液を得た。
【0051】
得られた非水電解液に上記作製された負極板を試験極とし、それぞれリチウム金属箔からなる対極及び参照極を浸漬し、電気化学的に人造黒鉛粉末の層間へのリチウムイオンの挿入と層間からの放出を試みた。なお、挿入及び放出条件を、20℃、0.03mA/cmとした。
【0052】
図1に、試験極に人造黒鉛粉末に対し60mAh/gのカソード電気量を流した場合の電位変化を示すグラフを示す。図1より通電終了後の電位は約0.2Vであり、このことは、リチウムイオンが人造黒鉛粉末の層間に侵入し、第3ステージ構造を形成していることを示す。さらに、第3ステージ構造の形成後にアノード電流を流した場合の電位変化から、リチウムイオンが、人造黒鉛粉末の層間より放出されていることがわかる。
【0053】
20℃、0.03mA/cmの放出条件と図1の電位変化から求めたアノード電気量は、49.5mAh/gであった。
(比較例1)
ECとリチウム・テトラフルオロボレート(LiBFと略記)とSBP・BFとを、LiBF/EC/SBP・BF=1/4/1(モル比)の組成となるように混合して、非水電解液を得た。
【0054】
上記得られた非水電解液に実施例1で用いたものと同様の負極板を試験極とし、それぞれリチウム金属箔からなる対極及び参照極を浸漬し、電気化学的に人造黒鉛粉末の層間へのリチウムイオンの挿入と層間からの放出を試みた。
【0055】
図2に、試験極に人造黒鉛粉末に対し、60mAh/gのカソード電気量を流した場合の電位変化を示した。図2より通電終了後の電位は約1.1Vであり、このことは、アンモニウムイオンが人造黒鉛粉末の層間に侵入したことを示す。さらに、アノード電流を流した場合の電位変化から、アンモニウムイオンが、人造黒鉛粉末の層間より放出されていることがわかる。アノード電気量は8.1mAh/gであり、カソード電気量に比べて、アノード電気量がきわめて少ないのは、アンモニウムイオンの挿入により人造黒鉛の層間間隔が大きくなったためにカソード電流を流すことにより、ECの分解が活発に起きたためと思われる。
(実施例2A〜2F)
表1に示すような組成で、リチウム塩およびスピロ型のカチオンを有するアンモニウム塩のアニオンを種々変化させた電解質をECに溶解し、非水電解液を得た。
【0056】
得られた非水電解液に実施例1で用いたものと同様の負極板を試験極とし、それぞれリチウム金属箔からなる対極及び参照極を浸漬し、実施例1と同様に電気化学的に人造黒鉛粉末の層間へのリチウムイオンの挿入と層間からの放出を試みた。そして、リチウムイオンの放出量を求めた。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
非水電解液として、11イミドイオン、ClOイオン、及び、BOBイオンから選ばれる少なくとも1種のアニオンを含有させることにより、リチウムイオンが優先的に人造黒鉛へ挿入・放出されていることが分かる。
【0059】
ここで、BOBイオンを含む非水電解液を用いた実施例2C〜2Fにおいては、リチウムイオンの放出量が少なくなっている。これは、最初にカソード電流を流したときに、負極表面でBOBイオンの不可逆的な還元分解による皮膜生成が起こるためである。不可逆的な還元分解反応は、1回目のカソード電流を通電した時点でほぼ終了する。従って、それ以降の人造黒鉛粉末の層間へのリチウムイオンの挿入と放出においては、他の非水電解液と同様に、60mAh/gのカソード電気量の通電に対して、40mAh/gを超えるアノード電気量を得ることができる。
(実施例3A〜3C)
表2に示すように、リチウム塩をLi・11イミドとし、スピロ型のアンモニウムイオンを種々変化させた組成の電解質をECに溶解し、非水電解液を得た。
【0060】
得られた非水電解液に実施例1で用いたものと同様の負極板を試験極とし、それぞれリチウム金属箔からなる対極及び参照極を浸漬し、実施例1と同様に電気化学的に人造黒鉛粉末の層間へのリチウムイオンの挿入と層間からの放出を試みた。そして、リチウムイオンの放出量を求めた。結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表2の結果より、アンモニウムイオンの環が大きくなると、人造黒鉛粉末からのリチウムイオンの放出量が小さくなることがわかる。
【0063】
(実施例4A〜4F)
リチウム塩としてLi・11イミド、スピロ型のカチオン有するアンモニウム塩としてSBP・11イミドとし、それらを表3に示すような異なる種類の有機溶媒に溶解し、非水電解液を得た。
【0064】
上記得られた非水電解液に実施例1で用いたものと同様の負極板を試験極とし、それぞれリチウム金属箔からなる対極及び参照極を浸漬し、実施例1と同様に電気化学的に人造黒鉛粉末の層間へのリチウムイオンの挿入と層間からの放出を試みた。そして、リチウムイオンの放出量を求めた。結果を表3に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
表3の結果より、EC、PC、BC、γ−BLを溶媒に用いた場合には、人造黒鉛粉末へのリチウムイオンの挿入と放出が良好であることがわかる。
(実施例5A〜5F)
リチウム塩としてLi・11イミド、スピロ型のカチオン有するアンモニウム塩としてSBP・11イミドとし、それらを表4に示すような比率でECに溶解し、非水電解液を得た。
【0067】
上記得られた非水電解液に実施例1で用いたものと同様の負極板を試験極とし、それぞれリチウム金属箔からなる対極及び参照極を浸漬し、実施例1と同様に電気化学的に人造黒鉛粉末の層間へのリチウムイオンの挿入と層間からの放出を試みた。そして、リチウムイオンの放出量を求めた。結果を表4に示す。
【0068】
【表4】

【0069】
非水電解液中のエチレンカーボネートの割合が増加すると、人造黒鉛粉末からのリチウムイオンの放出量が少なくなることがわかる。非水電解液中の非水溶媒の比率は、前記アンモニウム塩1モル当たり6モル以下、及び/又は前記リチウム塩1モル当たり6モル以下であることが好ましいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の電気化学エネルギー蓄積デバイスでは、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な炭素材料を主体とする負極を備え、スピロ型のカチオンを有するアンモニウム塩、非水溶媒、及びリチウム塩とを含有する非水電解液を用いた電気化学エネルギー蓄積デバイスにおいて、炭素材料の層間にリチウムイオンが優先的に挿入することにより負極の電位が低くなり、デバイスの設定電圧を高くすることができる。従って、エネルギー密度が高い電気二重層キャパシタ,ハイブリッドキャパシタ,または二次電池等の電気化学エネルギー蓄積デバイスとして好ましく用いられうる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施例1における負極の充電および放電曲線を示す図である。
【図2】比較例1における負極の充電および放電曲線を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な炭素材料を主体とする負極、及び、非水電解液を備える電気化学エネルギー蓄積デバイスであって、
前記非水電解液は、リチウム塩及びスピロ型のカチオンを有するアンモニウム塩が非水溶媒に溶解されているものであり、前記リチウム塩及び前記アンモニウム塩のアニオンが、ビス[トリフルオロメタンスルホニル]イミドイオン、パークロレートイオン、及びビス[オキサレート(2−)]ボレートイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のイオンであることを特徴とする電気化学エネルギー蓄積デバイス。
【請求項2】
前記スピロ型のカチオンが、スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムイオンである請求項1に記載の電気化学エネルギー蓄積デバイス。
【請求項3】
前記非水溶媒が、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、及びγ−ブチロラクトンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1または2に記載の電気化学エネルギー蓄積デバイス。
【請求項4】
前記非水電解液中の前記非水溶媒のモル量が、前記アンモニウム塩1モル当たり6モル以下、及び/又は前記リチウム塩1モル当たり6モル以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気化学エネルギー蓄積デバイス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−283048(P2008−283048A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126876(P2007−126876)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】