説明

電気化学セル

【課題】 活物質としてプロトン伝導型化合物を含有する電気化学セルにおいて、塗膜乾燥時の収縮によるゴムからなる集電体の亀裂を抑制するとともに、パワー特性に優れた電気化学セルを提供する。
【解決手段】 正極電極および/または負極電極が、活物質であるプロトン伝導型化合物と、導電補助材と、可塑剤とを含む溶液を、塗布・乾燥後に、可塑剤を除去して製造されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極活物質としてプロトン伝導型化合物を含有する電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
プロトン伝導型化合物を電極活物質として用いた二次電池や電気二重層キャパシタ、ハイブリッドキャパシタなどの電気化学セルが提案され、実用に供されている。
【0003】
このような電気化学セルは、例えば図1の断面図に示されるように、正極集電体1上にプロトン伝導型化合物を電極活物質として含む正極電極2を、負極集電体4上にプロトン伝導型化合物を電極活物質として含む負極電極3をそれぞれ形成し、これらを、セパレータ5を介して貼り合わせた構成であり、電荷キャリアとしてプロトンのみが関与するものである。また、電解液としてプロトン源を含む水溶液が充填され、ガスケット6により封止されている。
【0004】
電極活物質として使用されるプロトン伝導型化合物としては、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリペリナフタレン、ポリフラン、ポリフルラン、ポリチエニレン、ポリピリジンジイル、ポリイソチアナフテン、ポリキノキサリン、ポリピリジン、ポリピリミジン、ポリインドール、インドール三量体等のインドール化合物、ポリアミノアントラキノン、ポリイミダゾール及びこれらの誘導体などのπ共役系高分子、ポリアントラキノン、ポリベンゾキノンなどのヒドロキシル基(キノン酸素が共役によりヒドロキシル基になったもの)含有高分子、2種以上のモノマーから共重合化されたプロトン伝導型高分子などが挙げられ、これらの化合物にドーピングを施すことによりレドックス対が形成され、導電性が発現するものである。これら化合物は、その酸化還元電位の差を適宜調整することによって正極及び負極活物質として選択使用される。
【0005】
正負極集電体1、4には、カーボンなどの添加により導電性を付与したブチルゴムやエラストマー等の軟質プラスチックが用いられている。
【0006】
前述のような電極活物質を含む電極の製造方法としては、電極活物質と導電補助材と結着材の混合粉末を型に入れプレスする方法や、溶剤を用いて塗布・乾燥して塗膜とする方法が一般的である。このうち前者の方法では、薄い電極を製造する際に割れが発生する、また大面積の電極の製造には向かないという問題がある。また、後者の方法では、塗膜を乾燥していく間に、溶媒の蒸発に伴う収縮によりしばしば電極に亀裂が生じたり、収縮による張力によりゴムからなる集電体に亀裂が入るという問題があった。
【0007】
特許文献1には、可塑剤を含有させた高分子材料を電極に用いる二次電池用電極および二次電池が開示されている。しかしながら、このような二次電池においては、不活性で非導電性の可塑剤が電極中に含まれるためのインピーダンス上昇、可塑剤の電解液への溶け出しによる電解液導電率の低下などにより、パワー特性に優れないという欠点があった。
【0008】
特許文献2には、高分子活物質、導電補助材、可塑剤からなる電極形成体とその製造方法が開示されている。このような方法では、エネルギー密度に優れた二次電池は提供できるが、パワー特性は不十分であった。
【0009】
【特許文献1】特開平8−64200号公報
【特許文献2】特許第3479618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、活物質としてプロトン伝導型化合物を含有する電気化学セルにおいて、塗膜乾燥時の収縮によるゴムからなる集電体の亀裂を抑制するとともに、パワー特性に優れた電気化学セルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、正極電極および/または負極電極が、活物質であるプロトン伝導型化合物と、導電補助材と、可塑剤とを含む溶液を、塗布・乾燥後に、可塑剤を除去して製造することにより、上記課題を解決できることを見出したものである。
【0012】
本発明の電気化学セルは、電極活物質として、プロトン伝導型化合物を含有する正極電極と、電極活物質としてプロトン伝導型化合物を含有する負極電極と、プロトン源を含む電解質水溶液を含有し、電荷キャリアとしてプロトンが作用する電気化学セルであって、前記正極電極および/または負極電極が、活物質であるプロトン伝導型化合物と、導電補助材と、可塑剤とを含む溶液を、塗布・乾燥後に、可塑剤を除去して製造されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の電気化学セルは、前記正極電極および/または負極電極が、集電体と一体化されていることが好ましく、前記正極電極および/または負極電極を不活性溶媒中に浸漬し可塑剤を溶解させて除去してもよいし、可塑剤を揮発させて除去してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、第一に可塑剤を含んだ溶液の塗膜を乾燥した後、電極中の可塑剤を除去することで、不活性であり、かつ非導電性の可塑剤を電極中に含有しないために、インピーダンス上昇を抑制し、パワー密度に優れた電気化学セルを提供することが可能となる。第二に、可塑剤を含んだ溶液の塗膜を乾燥した後、電極中の可塑剤を除去して製造された電極では、溶媒の蒸発に伴う収縮が抑制され、ゴムからなる集電体と一体化する際にもゴムからなる集電体に亀裂が生じることを抑制することが可能である。これらにより本発明による電気化学セルでは、パワー密度に優れた電気化学セルを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の電気化学セルに用いる電極は、電極活物質としてプロトン伝導型化合物を含有する。ここでは、ポリフェニルキノキサリン(以下、PPQxと記載する)を電極活物質として使用する場合について説明する。
【0016】
本発明による電気化学セルは、電極が活物質であるプロトン伝導型化合物と、導電補助材と、可塑剤とを含む溶液を、塗布・乾燥後に、可塑剤を除去して製造されていることを特徴とする。
【0017】
まず、PPQxと導電補助材を70/30の重量比で混合する。ここに、PPQxが可溶な溶媒と可塑剤を加え、PPQxが溶け、インク状になるまで良く攪拌する。
【0018】
このとき用いる溶媒としては、PPQxが可溶であり、可塑剤と相溶性があれば用いることが可能である。具体的には、ベンゼン、トルエン、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルホルムアミドなどを挙げることができる。
【0019】
可塑剤としては、沸点200℃以上、蒸気圧5mmHg(85℃)以下である有機溶媒が好ましく、具体的には、ジブチルフタレート、ブチルフタリルグリコール酸ブチル、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジイソヘプチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジエチルヘキシルアジペート、ジエチルヘキシルセバケート、トリオクチルトリメリテート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、メチルアセチルリシノレート、エポキシアルキルステアレート、エポキシトリグリセライド、エポキシ化テトラヒドロフタル酸オクチル、塩素化パラフィン、塩素化ジフェニル、塩素化ポリエチレンなどを挙げることができる。この中でも、ジブチルフタレート、ブチルフタリルグリコール酸ブチル、ジエチルヘキシルアジペート、トリオクチルトリメリテートが特に好ましい。
【0020】
導電補助材としては、ケッチェンブラック(KB)、気相成長カーボン(VGCF)、アセチレンブラック、黒鉛、活性炭などの導電性カーボンであれば使用可能である。
【0021】
このように作製したインク状溶液を製膜し、乾燥する。乾燥条件としては、50〜120℃、13〜100kPa程度で、1〜10時間乾燥する。
【0022】
次に乾燥した電極に含まれる可塑剤を除去する。その方法としては、高温減圧下での蒸発、あるいは不活性な溶媒中に浸漬させて除去する。高温減圧化で除去する場合、50℃〜200℃好ましくは80〜150℃、6kPa以下、好ましくは2.5kPa以下の減圧下において行う。溶媒を用いて除去する方法として、用いる溶媒としては例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどを挙げることができる。これらの溶媒中に、1〜24時間、好ましくは5〜24時間浸漬させて可塑剤を除去する。
【0023】
以上のように説明した方法により、集電体上にインク状溶液を製膜することで、インク状溶液中のPPQxが乾燥・固化する際の、集電体へのアンカー効果により、集電体に接着された電極を得ることができる。この状態で電極が集電体と一体化される。
【0024】
電解液は、プロトンを含有する水溶液を用いる。プロトンの含有量としては、10-3〜18mol/lが好ましく、より好ましくは10-1〜7mol/lである。18mol/lを超えると酸性が強いため材料の活性が低下、又は溶解するため好ましくはない。
【0025】
セパレータ5は、厚さ10〜50μmのポリオレフィン系多孔質膜もしくは陽イオン交換膜を用いる。
【0026】
図1は、本発明の一実施の形態の電気化学セルの断面図である。本発明の電気化学セルの基本構成は、図1に示すように、上述のように作製したプロトン伝導型化合物を活物質として含む正極電極2を正極集電体1上に、負極電極3を負極集電体4上にそれぞれ形成し、これらをセパレータ5を介して貼り合わせた構成であり、電荷キャリアとしてプロトンのみが関与するものである。また、電解液としてプロトン源を含む水溶液が充填されており、ガスケット6により封止されている。また、セルの外装形状は、コイン型、ラミネート型などが可能であり、特に限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
以下、本発明を実施例に基づき、図面を参照してさらに具体的に説明する。正極活物質としてプロトン伝導型化合物であるインドール−6−カルボン酸メチル三量体、導電補助剤として気相成長カーボン(昭和電工株式会社製:VGCF(商標)、以下VGCFと記す)、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを用いた。これらを活物質/カーボン/結着剤 = 69/23/8の重量比にてブレンダーで攪拌・混合した。この混合粉末を200℃で加圧成形した電極を、正極電極2として用いた。
【0028】
負極活物質としてPPQx、導電補助材としてKB、溶媒としてm−クレゾール、可塑剤としてブチルフタリルグリコール酸ブチルを選択し、活物質/KB/溶媒/可塑剤を70/30/500/20重量比で混合しインク状溶液とした。このインク状溶液をドクターブレードを用いてPET上に製膜し、100℃、13kPaの条件で2時間乾燥させた。乾燥した電極をエタノール中に10時間浸漬し、可塑剤を除去して負極電極3とした。作製した負極電極について、4端子測定法により抵抗率を測定した。表1に結果を示す。
【0029】
電解液には、20重量%硫酸水溶液を用い、セパレータ5には、厚さ15μmの陽イオン交換膜を用いた。セパレータを介して、上記正極および負極を対向させて、ガスケット6で外装して、電気化学セルを得た。
【0030】
作製した電気化学セルについて、定電流(5C)定電圧(10分)充電方式にて充電し、定電流放電(1C)にて放電深度が100%になるまで放電を行った。表1に本試験より求められたパワー密度(mW/cm3)を示す。
【実施例2】
【0031】
可塑剤の除去を、120℃、1kPa、5時間の条件下で可塑剤の揮発により行った以外は、実施例1と同様にして負極電極を作製し、それを用いて電気化学セルを作製した。電極の抵抗率、電気化学セルのパワー密度を表1に示す。
【実施例3】
【0032】
実施例1に記載の負極電極でゴムからなる集電体上に塗工した以外は、実施例1と同様にして負極電極を作製し、それを用いて電気化学セルを作製した。電極の抵抗率、電気化学セルのパワー密度を表1に示す。なお、電極の収縮に伴う、集電ゴムの亀裂は認められなかった。
【実施例4】
【0033】
可塑剤の除去を、100℃、0.6kPaの条件下で可塑剤の揮発によって行った以外は、実施例3と同様にして負極電極を作製し、それを用いて電気化学セルを作製した。電極の抵抗率、電気化学セルのパワー密度を表1に示す。なお、電極の収縮に伴う、集電ゴムの亀裂は認められなかった。
【0034】
(比較例1)
実施例1に記載の負極電極で可塑剤を除去する工程を除いた以外は、実施例1と同様にして負極電極を作製し、それを用いて電気化学セルを作製した。電極の抵抗率、電気化学セルのパワー密度を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1より、可塑剤を除去する工程を含まない比較例1に対し、実施例1では抵抗率が59%減少し、パワー密度が19%向上した。可塑剤の除去方法を変更した実施例2においては、抵抗率が47%減少し、パワー密度が30%向上した。可塑剤の除去方法により差はあるが、実施例1の溶媒を用いた除去方法においては微量の可塑剤が残留しているため、実施例2で特性がより高められたが、いずれの除去方法においても比較例1に対し特性が向上していることは明らかであり、本発明による電気化学セルではパワー特性に優れた電気化学セルを提供することが可能である。
【0037】
次に、ゴムからなる集電体と一体化させた実施例3では、抵抗率が55%まで減少し、パワー密度が35%向上した。可塑剤の除去方法を変更した実施例4においては、抵抗率が44%まで減少し、パワー密度が42%向上した。集電体と電極を一体化することで、電極の抵抗率の変化は無いものの、集電体と電極の接触抵抗の低減が図られ、パワー密度が向上した。
【0038】
以上のように本発明による電気化学セルでは、不活性で非導電性の可塑剤が電極中に含まれないため電極の抵抗率が低く、該電極を用いた電気化学セルではインピーダンスの上昇を抑制することが可能となり、パワー密度に優れた電気化学セルを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施の形態の電気化学セルの断面図。
【符号の説明】
【0040】
1 正極集電体
2 正極電極
3 負極電極
4 負極集電体
5 セパレータ
6 ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質としてプロトン伝導型化合物を含有する正極電極と、電極活物質としてプロトン伝導型化合物を含有する負極電極と、プロトン源を含む電解質水溶液とを含有し、電荷キャリアとしてプロトンが作用する電気化学セルであって、
前記正極電極および/または負極電極が、電極活物質であるプロトン伝導型化合物と、導電補助材と、可塑剤とを含む溶液を、塗布・乾燥後に、可塑剤を除去して製造されていることを特徴とする電気化学セル。
【請求項2】
前記正極電極および/または負極電極が、集電体と一体化されていることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記正極電極および/または負極電極を、不活性溶媒中に浸漬し、可塑剤を溶解させて除去することを特徴とする請求項1または2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記可塑剤を揮発させて除去することを特徴とする請求項1または2に記載の電気化学セル。

【図1】
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【公開番号】特開2008−123876(P2008−123876A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307380(P2006−307380)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】