説明

電気機器絶縁用樹脂組成物及びそれを用いて処理した電気機器

【課題】 作業性の観点から必要な安定性を確保した上で、硬化性が優れ、電磁振動に対する信頼性向上の観点からコイルの固着性がより高く、耐久性向上の観点から、耐湿熱性に優れ、更に、環境対応の面からワニス処理時に発生するVOCを低減することが可能となる電気機器絶縁用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 (A)ポリエポキシドとα、β-不飽和塩基酸とを反応させ、更に不飽和二塩基酸を反応させて得られる不飽和エポキシエステル樹脂10〜60質量部、(B)ジシクロペンタジエニルモノマレエートまたはジシクロペンタジエニルモノマレエート樹脂1〜30質量部、(C)ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレ−ト30〜80質量部及び(D)3官能以上のアクリル基を持つアクリレートまたは3官能以上のメタクリル基を持つメタクリレート1〜40質量部を含有してなる電気機器絶縁用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器絶縁用樹脂組成物及びそれを用いて処理した電気機器に関し、ツイ
ストペアの寿命評価において、20,000時間の耐熱温度が155℃以上のモータ、ト
ランスなどの電気機器の処理方法に用いる電気機器絶縁用樹脂組成物、及び、この電気機
器絶縁用樹脂組成物を用いて電気絶縁処理されてなる電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ、トランス等の電気機器は、鉄コアの固着又は防錆、コイルの絶縁若しくは固着
等を目的として、電気機器絶縁用樹脂組成物で処理されている。電気機器絶縁用樹脂組成
物としては、固着性、硬化性、電気絶縁性、作業性、安定性などのバランスに優れた不飽和ポリエステル樹脂組成物が広く用いられている。
【0003】
近年の電気機器は、小型・軽量化、高出力化が進んだため、電磁振動に対する信頼性向
上の観点からコイルの固着性がより高く、耐久性向上の観点から耐湿熱性に優れた電気機器絶縁用樹脂組成物が求められるようになってきた。
また、作業性の観点から、必要な安定性を確保した上で、硬化性が優れた電気機器絶縁用樹脂組成物が求められるようになってきた。
更に、環境対応の面から、ワニス処理時に発生するVOCを従来の不飽和エポキシエステル樹脂よりも、大幅に低減することが可能となる電気機器絶縁用樹脂組成物が求められるようになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−235813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、電気機器絶縁用樹脂組成物を用いた電気機器の電気絶縁処理において
作業性の観点から、必要な安定性を確保した上で、硬化性が優れた電気機器絶縁用樹脂組成物を提供すること、更に、電磁振動に対する信頼性向上の観点から、コイルの固着性がより高く、耐久性向上の観点から、耐湿熱性に優れた電気機器絶縁用樹脂組成物を提供すると共に、それを用いて処理した電気機器を提供する。
更に、環境対応の面から、ワニス処理時に発生するVOCを従来の不飽和エポキシエステル樹脂よりも、大幅に低減することが可能となる電気機器絶縁用樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、次のものに関する。
[1] (A)ポリエポキシドとα、β−不飽和塩基酸とを反応させ、更に不飽和二塩基酸を反応させて得られる不飽和エポキシエステル樹脂 10〜60質量部、
(B)ジシクロペンタジエニルモノマレエートまたはジシクロペンタジエニルモノマレエート樹脂1〜30質量部、
(C)ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレ−ト 30〜80質量部、
(D)3官能以上のアクリル基を持つアクリレートまたは3官能以上のメタクリル基を持つメタクリレート 1〜40質量部
を含有してなる電気機器絶縁用樹脂組成物。
[2] 上記[1]に記載のVOCが5%以下である電気機器絶縁用樹脂組成物とMW30またはMW35またはMW73またはMW81の電線を組み合わせた時のツイストペアの寿命評価において、20,000時間の耐熱温度が155℃以上である上記[1]に記載の電気機器絶縁用樹脂組成物。
[3] 上記[1]または[2]に記載の電気機器絶縁用樹脂組成物を用い、浸漬処理し電気絶縁処理してなる電気機器。
【発明の効果】
【0007】
本発明になる電気機器絶縁用樹脂組成物は、作業性の観点から、必要な安定性を確保した上で、硬化性が優れた電気機器絶縁用樹脂組成物を提供すること、更に、更に、コイルの固着性及び耐湿熱性にも優れ、これを用いて電気絶縁処理された電気機器は工業的に極めて優れる。
更に、環境対応の面から、ワニス処理時に発生するVOCを従来の不飽和エポキシエステル樹脂よりも、大幅に低減することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に用いられる(A)成分は、ポリエポキシドとα、β−不飽和塩基酸を反応させて、樹脂酸価を0〜50mgKOH/g、より好ましくは、0〜30mgKOH/g、特に好ましくは0〜10mgKOH/gとし、次いで、不飽和二塩基酸を反応させて得られる樹脂酸価が20〜300mgKOH/g、より好ましくは、50〜150mgKOH/g、特に好ましくは10〜30mgKOH/gの不飽和エポキシエステル樹脂である。
【0009】
不飽和エポキシエステル樹脂の製造条件には特に制限が無く、例えば、触媒を用いて反応させて合成される。
【0010】
本発明に用いられるポリエポキシドとは、分子あたり1個以上のエポキシ基を含有する化合物で、多価アルコールもしくは、多価フェノールのグリシジルポリエーテル、エポキシ化脂肪酸もしくは、乾性油酸、エポキシジオレフィン、エポキシ化ジ不飽和酸のエステル、エポキシ化飽和ポリエステル等が挙げられる。
【0011】
さらに、ポリエポキシドについて、説明すると、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物のジグリシジルエーテル等のビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレンノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、1,3−ジグリシジル−5,5−ジメチルヒダントイン、トリグリシジルイソシアヌレート等の複素環式エポキシ樹脂、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、1−エポキシエチル−3,4−エポキシシクロヘキサン等の脂環式エポキシ樹脂、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ナフタレンジオールジグリシジルエーテル等の多価アルコール類のグリシジルエーテル類、フタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ジグリシジルp−オキシ安息香酸、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル類、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルm−キシレンジアミン、トリグリシジルp−アミノフェノール、N,N−ジグリシジルアニリン等のグリシジルアミン類、2,2′,4,4′−テトラグリシドキシビフェニル、ジメチルビスフェノールCジグリシジルエーテル、ビス−β−トリフルオロメチルジグリシジルビスフェノールA、グリシジルメタクリレート等、脂肪族エポキシ樹脂、エポキシ化ポリブタジエン樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂など、一般に知られているもの、およびこれらのアルキル置換体、ハロゲン化物、水素添加物などを併用することもでき、これらの1種または2種以上を併用することもできる。
【0012】
このようなポリエポキシドとしては、市販のものでは、例えば、jER807,jER815,jER825,jER827,jER828,jER834,jER1001,jER1002,jER1003,jER1055,jER1004,jER1004AF,jER1007,jER1009,jER1003F,jER1004F(以上、三菱化学(株)製、商品名)、DER−330,DER−331,DER−301,DER−361,DER−661,DER−662,DER−663U,DER−664,DER−664U,DER−667,DER−642U,DER−672U,DER−673MF,DER−668,DER−669(以上、ザ・ダウ・ケミカル・カンパニー製、商品名)、エポトートYD8125,エポトートYDF8170(以上、東都化成(株)製、商品名)などのビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポトートYDF−2004(東都化成(株)製、商品名)などのビスフェノールF型エポキシ樹脂、jER152,jER154(以上、三菱化学(株)製、商品名)、EPPN−201(日本化薬(株)製、商品名)、DEN−438(ザ・ダウ・ケミカル・カンパニー製、商品名)などのフェノールノボラック型エポキシ樹脂、jER180S65(三菱化学(株)製、商品名)、アラルダイトECN1273,アラルダイトECN1280,アラルダイトECN1299(以上、ハンツマン アドバンスト マテリアルズ(スウィッツァーランド)ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング製、商品名)、エポトートYDCN−701,エポトートYDCN−702,エポトートYDCN−703,エポトートYDCN−704(以上、東都化成(株)製、商品名)、EOCN−102S,EOCN−103S,EOCN−104S,EOCN−1012,EOCN−1020,EOCN−1025,EOCN−1027(以上、日本化薬(株)製、商品名)、ESCN−195X,ESCN−200L,ESCN−220(以上、住友化学工業(株)製、商品名)などのクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポン1031S(シェル・ケミカル・コーポレーション製),jER1032H60,jER157S70(以上、三菱化学(株)製、商品名)、アラルダイト0163(ハンツマン アドバンスト マテリアルズ(スウィッツァーランド)ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング製、商品名)、デナコールEX−611,デナコールEX−614,デナコールEX−614B,デナコールEX−622,デナコールEX−512,デナコールEX−521,デナコールEX−421,デナコールEX−411,デナコールEX−321(以上、ナガセ化成(株)製、商品名)、EPPN501H,EPPN502H(以上、日本化薬(株)製、商品名)などの多官能エポキシ樹脂、jER604(ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名)、YH−434(東都化成(株)製、商品名)、TETRAD−X,TETRAD−C(以上、三菱瓦斯化学(株)製、商品名)、ELM−120(住友化学(株)製、商品名)などのアミン型エポキシ樹脂、アラルダイトPT810(ハンツマン アドバンスト マテリアルズ(スウィッツァーランド)ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング製、商品名)などの複素環含有エポキシ樹脂、セロキサイド2021P(ダイセル化学工業(株)製、商品名)などの脂環式エポキシ樹脂などが例示される。
【0013】
α、β−不飽和塩基酸としては、メタクリル酸、アクリル酸、クロトン酸等が挙げられ、併用してもさしつかえない。
【0014】
不飽和二塩基酸としては、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸等の不飽和酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸などが用いられる。
【0015】
付加触媒としては、塩化亜鉛、塩化リチウムなどのハロゲン化物、ジメチルサルファイト、メチルフェニルサルファイトなどのサルファイト類、ジメチルスルホキサイド、メチルスルホキサイド、メチルエチルスルホキサイドなどのスルホキサイド類、N,N−ジメチルアニリン、ピリジン、トリエチルアミン、ヘキサメチレンジアミンなどの3級アミン及びその塩基酸または臭酸塩、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリメチルドデシルベンジルアンモニウムクロライドなどの4級アンモニウム塩、パラトルエンスルホン酸などのスルホン酸類、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタンなどのメルカプタン類などが用いられる。
【0016】
ポリエポキシドとα、β−不飽和塩基酸との反応は、ポリエポキシド1.0モルに対し、α、β−不飽和塩基酸を1.0〜2.0モル反応させる事が望ましい。
【0017】
更に、次の不飽和エポキシエステルと不飽和二塩基酸との反応は、ポリエポキシド1.0モルに対し、α、β−不飽和塩基酸を1.0〜2.0モル反応させて得られた不飽和エポキシエステルに対し、不飽和二塩基酸を、0.1〜1.0モル反応させる事が望ましく、不飽和エポキシエステルのモル数と、α、β−不飽和塩基酸及び不飽和二塩基酸のモル数の合計が、ほぼ同じモル数になる事が望ましい。
【0018】
更に、反応を促進させる目的で、上記触媒を用いることは好ましい。触媒の使用量は、反応原料混合物に対して、好ましくは、0.1〜10質量%、より好ましくは、0.3〜5質量%である。
【0019】
また、反応中の重合を防止するために、重合禁止剤を使用することは好ましいことである。重合禁止剤としては、例えば、メトキノン、ハイドロキノン、フェノチアジン等が挙げられる。重合禁止剤の使用量は、反応原料混合物に対して、好ましくは、0.01〜3質量%、より好ましくは、0.05〜1質量%である。
【0020】
反応温度は、触媒により異なるが、ポリエポキシドとα、β−不飽和塩基酸との反応が進行し、かつ、原料、反応中間体、生成物等の熱重合が起こらない温度が好ましく、60℃〜150℃であり、より好ましくは、80℃〜130℃であり、特に好ましくは、100〜120℃である。反応時間は、反応温度にも依存するが、2〜70時間、好ましくは、4〜50時間であり、より好ましくは、5〜10時間である。反応終了後は、余剰のα、β−不飽和塩基酸、必要に応じて用いる希釈剤等を留去等の方法で除去しても良いし、これらを除去することなく次の反応に用いてもよい。
【0021】
本発明で用いる不飽和エポキシエステル樹脂は、前述の方法によって得られたポリエポキシドとα、β−不飽和塩基酸との反応物である不飽和エポキシエステルに、更に不飽和二塩基酸またはその無水物と反応させることにより製造することができる。
【0022】
これらの不飽和二塩基酸またはその無水物の使用量は、前記不飽和エポキシエステルの水酸基1当量に対しては、0.01〜1.2当量であり、好ましくは、0.05〜1.0当量とすることが好ましい。また、反応の際、所望に応じて各種公知のエステル化触媒、希釈剤等をさらに添加しても差し支えない。
【0023】
反応温度は前記不飽和エポキシエステル等が熱重合しない温度が好ましく、50℃〜180℃、より好ましくは、80℃〜150℃であり、特に好ましくは、100〜120℃である。反応時間は、反応温度にも依存するが、好ましくは、0.5〜70時間であり、より好ましくは、1〜50時間である。
【0024】
このようにして得られた不飽和エポキシエステル樹脂の酸価は、上述のように好ましくは10〜30mgKOH/gである。
【0025】
本発明に用いられる(B)成分のジシクロペンタジエニルモノマレエートは、ジシクロペンタジエン、無水マレイン酸および水またはジシクロペンタジエンおよびマレイン酸を好ましくは150℃以下で反応させて得られる。
【0026】
ジシクロペンタジエン、無水マレイン酸及び水はほぼ等モルで反応され、またジシクロペンタジエン及びマレイン酸もほぼ等モルで反応される。
【0027】
本発明に用いられる(B)成分のジシクロペンタジエニルモノマレエート樹脂は、上記で得られたジシクロペンタジエニルモノマレエート、不飽和二塩基酸、飽和酸、アルコール成分を200〜220℃で常法に従い脱水縮合反応によって得られる。
【0028】
不飽和二塩基酸としては、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸などが用いられる。これらは単独で用いても併用してもよい。
【0029】
飽和酸としては、無水フタル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、アジピン酸、セバチン酸などが用いられる。これらは単独で用いても併用してもよい。
【0030】
アルコール成分としては、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが用いられる。これらは単独で用いても併用してもよい。
【0031】
ジシクロペンタジエニルモノマレエート、不飽和二塩基酸、飽和酸及びアルコール成分の配合割合には特に制限はないが、ジシクロペンタジエニルモノマレエート30〜50当量、不飽和二塩基酸10〜40当量、飽和酸10〜50当量、アルコール成分100〜120当量の範囲が好ましい。
(B)成分の使用量は、(A)成分10〜60質量部に対して1〜30質量部の範囲とされる。(A)成分10〜60質量部に対して、(B)成分は、3〜25質量部が好ましく、5〜20質量部がより好ましい。
【0032】
本発明に用いられる(C)成分としては、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレ−ト以外に、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレートを用いても良い。(C)成分の使用量は、(A)成分10〜60質量部に対して30〜80質量部の範囲とされる。
(A)成分10〜60質量部に対して、(C)成分は、40〜70質量部が好ましく、50〜60質量部がより好ましい。
【0033】
本発明に用いられる(D)成分は、3官能以上のアクリル基を持つアクリレートまたは3官能以上のメタクリル基を持つメタクリレートであればよい。
【0034】
3官能以上のアクリル基を持つアクリレートとしては、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、ジメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0035】
3官能以上のメタクリル基を持つメタクリレートとしては、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジメチロールプロパンテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、トリス(2−メタクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。 これらは、単品で用いても、複数の種類を組み合わせて用いてもよい。
(D)成分の使用量は、(A)成分10〜60質量部に対して1〜40質量部の範囲とされる。(A)成分10〜60質量部に対して、(C)成分は、3〜30質量部が好ましく、5〜20質量部がより好ましい。
【0036】
本発明の電気機器絶縁用樹脂組成物は、作業性の観点から、必要な安定性を確保した上で、硬化性が優れていることが好ましい。
【0037】
本発明の電気機器絶縁用樹脂組成物は、電気機器絶縁処理時の作業性において、電気機器を電気機器絶縁用樹脂組成物を用いて滴下処理または浸漬処理などのワニス処理を行った後、除滴工程を経て、乾燥機へ投入し、熱硬化を行うが、硬化性が低い場合は、硬化時間がより多く必要になってしまう。
また、硬化性が高すぎる場合は、コイルへ浸透する途中でゲル化してしまい十分な含浸性が得られない場合がある。更に、硬化性が高すぎる場合は、ポットライフが短く、タンク内ワニスがゲル化してしまう場合がある。
【0038】
本発明の電気機器絶縁用樹脂組成物は、この電気機器絶縁用樹脂組成物と、MW30またはMW35またはMW73またはMW81の電線(エナメル線)を組み合わせた時のツイストペアの寿命評価において、20,000時間の耐熱温度が155℃以上であることが好ましく、180℃以上であることが好ましい。この耐熱温度は、MW30またはMW35またはMW73またはMW81のエナメル線を用い、UL1446に準拠して測定される。
更に、本発明の電気機器絶縁用樹脂組成物は、環境対応の面から、ワニス処理時に発生するVOCを従来の不飽和エポキシエステル樹脂よりも、大幅に低減することが可能となる。
【0039】
本発明の電気機器絶縁用樹脂組成物は、不飽和エポキシエステル樹脂の他に特性を損なわない範囲で、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アルキド樹脂等の熱硬化性樹脂を併用することができる。 また、これらの電気絶縁用樹脂組成物に、二酸化珪素、窒化アルミニウム、タルク等のフィラーを用いても良く、フィラーは特に制限は無く、単独で用いても、複数を組合せて用いても良い。
【0040】
また、不飽和二重結合等による架橋を形成させるため有機過酸化物を用いる。有機過酸化物としては、特に制限はないが、例えば、メチルエチルケトンパーオキシド、メチルイソブチルケトンパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド等のケトンパーオキシド類、ベンゾイルパーオキシド、イソブチルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類、クメンハイドロパーオキシド、t−ブチルハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド類、ジクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド等のジアルキルパーオキシド類、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−シクロヘキサン、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ−t−ヘキシルパーオキシ−シクロヘキサン、1,1−ジ−t−ヘキシルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ジ−4,4−ジ−t−ブチルパーオキシ−シクロヘキシル−プロパン、2,2−ジ−(t−ブチルパーオキシ)−ブタン等のパーオキシケタール類、t−ブチルパーオキシベンゾエイト、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,4,4−トリメチルペンチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等のアルキルパーエステル類、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネイト、t−ブチルパーオキシイソブチルカーボネイト等のパーカーボネイト類等があげられ、これらを用いて加熱硬化を行なうことができる。また、これら有機過酸化物は、1種または2種以上を併用することができる。
有機過酸化物の使用量は、適宜、決定され、特に制限はないが、(A)〜(D)の総量100質量部に対して、通常、0.01〜5質量部が好ましく使用される。
【0041】
本発明の電気機器絶縁用樹脂組成物はエアコン用ファン、扇風機、洗濯機等のコンデンサー、モートル、電気ドリルなどのアマチュア、テレビ、ステレオ、コンパクトディスクプレーヤー等電源トランスなどの電気機器の絶縁処理に適用される。電気機器絶縁用樹脂組成物を、電気機器自体、又は電気機器の部品に塗布、含浸、又は充填した後、通常、100〜200℃、好ましくは120〜150℃で加熱することにより、電気機器絶縁用樹脂組成物を硬化させる。加熱時間は、通常、0.2〜3.0時間である。
【0042】
本発明では、電気機器絶縁用樹脂組成物を用い、浸漬処理方法を用いて電気絶縁処理して電気機器を得ることが、作業性において好ましい。
【0043】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。下記例中の部は、質量部を意味する。
【実施例1】
【0044】
[製造例1]
不飽和エポキシエステル樹脂(A−1)の合成
ポリエポキシドとして4,4−イソピリデンジフェノールのジグリシジルエーテル(シェル化学株式会社製、EP−828,エポキシ当量188)376部、α、β−不飽和塩基酸としてメタクリル酸172部、触媒のベンジルジメチルアミン2部、重合禁止剤としてハイドロキノン0.05部を反応釜に仕込み、115℃、10時間反応させ、樹脂酸価が8mgKOH/gとなった所で、不飽和二塩基酸としてフマル酸5部を仕込み、115℃2時間反応させて樹脂酸価20mgKOH/gの不飽和エポキシエステル樹脂を得た。
【0045】
[製造例2]
ジシクロペンタジエニルモノマレエート(B−1)の合成ジシクロペンタジエン900部、無水マレイン酸700部、水130部を窒素ガス気流中、140℃で2時間反応させた後、冷却して得た。
【0046】
[製造例3]
ジシクロペンタジエニルモノマレエート樹脂(B−2)の合成
上記に従い合成したジシクロペンタジエニルモノマレエート(B−1)248部、無水マレイン酸29部、無水フタル酸30部、エチレングリコール48部およびジエチレングリコール35部を窒素ガス気流中200〜220℃で脱水縮合反応を行い、酸価が10となった後、冷却して得た。
【0047】
上記で合成した不飽和エポキシエステル樹脂(A−1)((A)成分)40部、
ジシクロペンタジエニルモノマレエート(B−1)((B)成分)10部、
(C)成分のジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレ−トとしてFA−512MT(日立化成工業株式会社製) 40部、
(D)成分としてトリメチロールプロパントリアクリレート 10部、
ベンゾイルパーオキシド 1.0部を撹拌混合して電気機器絶縁用樹脂組成物を調製した。
【実施例2】
【0048】
上記で合成した不飽和エポキシエステル樹脂(A−1)((A)成分)40部、
ジシクロペンタジエニルモノマレエート樹脂(B−2)((B)成分)10部、
(C)成分のジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレ−トとしてFA−512MT(日立化成工業株式会社製) 40部、
(D)成分としてトリメチロールプロパントリアクリレート 10部、
ベンゾイルパーオキシド 1.0部を撹拌混合して電気機器絶縁用樹脂組成物を調製した。
【0049】
(比較例1)
上記で合成した不飽和エポキシエステル樹脂(A−1)((A)成分)40部、
(C)成分のジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレ−トとしてFA−512MT(日立化成工業株式会社製) 40部、
(D)成分としてトリメチロールプロパントリアクリレート 10部、
ベンゾイルパーオキシド 1.0部を撹拌混合して電気機器絶縁用樹脂組成物を調製した。
【0050】
(比較例2)
上記で合成した不飽和エポキシエステル樹脂(A−1)((A)成分)40部、
スチレン 40部、
ベンゾイルパーオキシド 1.0部を撹拌混合して電気機器絶縁用樹脂組成物を調製した。
【0051】
得られた電気機器絶縁用樹脂組成物について、乾燥時間、ヘリカルコイル接着力、ヘリカルコイルを試験片に用いた耐湿熱試験を調べた。その結果を表1に示した。
【0052】
尚、乾燥時間、ポットライフの試験方法は、JIS C 2105に準じて試験を行った。また、ヘリカルコイル接着力の試験方法は、JIS C 2103に準じて試験を行った。
【0053】
耐湿熱試験は、以下の試験方法に準じて評価を行った。
(1)耐湿熱試験
JIS C 2103に準じ、EIW(H種ポリエステルイミド銅線)直径1.0mm
を用いてヘリカルコイルを作製し、所定の電気機器絶縁用樹脂組成物を用いてワニス処理
を行った。ワニスの硬化は、130℃で30分間硬化させた。
【0054】
得られた試験片を、85℃、85%RH(相対湿度)の恒温高湿曹に投入し、1,00
0時間後に取り出し、接着力を測定した。
【0055】
(2)VOC(揮発性有機化合物、volatile organic compounds)
ワニス5.0gを直径60mm金属シャーレに投入し、130℃、1時間硬化を行い、
硬化時に減少した質量減少率(%)とした。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示されるように、実施例1及び2で得られた電気機器絶縁用樹脂組成物は、乾燥期間が短く、また、短い硬化時間でも高いヘリカルコイル接着力が得られるので、硬化時間を短縮する事が出来、生産性を向上する事が出来る。また、VOCが少ない。
これに対し、(B)成分を用いていない比較例1では、乾燥期間が長く、また、長い硬化時間を必要とする。また、スチレンを用いた比較例2では、VOCが多く、乾燥期間が長い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリエポキシドとα、β−不飽和塩基酸とを反応させ、更に不飽和二塩基酸を反応させて得られる不飽和エポキシエステル樹脂 10〜60質量部、
(B)ジシクロペンタジエニルモノマレエートまたはジシクロペンタジエニルモノマレエート樹脂1〜30質量部、
(C)ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレ−ト 30〜80質量部、
(D)3官能以上のアクリル基を持つアクリレートまたは3官能以上のメタクリル基を持つメタクリレート 1〜40質量部
を含有してなる電気機器絶縁用樹脂組成物。
【請求項2】
VOCが5%以下で、請求項1に記載の電気機器絶縁用樹脂組成物とMW30またはMW35またはMW73またはMW81の電線を組み合わせた時のツイストペアの寿命評価において、20,000時間の耐熱温度が155℃以上である請求項1に記載の電気機器絶縁用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電気機器絶縁用樹脂組成物を浸漬処理し電気絶縁処理
してなる電気機器。

【公開番号】特開2011−233465(P2011−233465A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105104(P2010−105104)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】