説明

電気機器

【課題】装置形態によりマイグレーションの発生可能性のある部位を完全に密閉できないような場合にも、マイグレーション発生可能性部位を高湿度(や高温)の雰囲気にできるだけ曝さないようにすることにより、マイグレーションの発生が効果的に抑制された電気機器を提供する。
【解決手段】車載用エアコンの操作入力装置において、内部に装備された回路基板4上におけるマイグレーション発生の可能性がある電気素子へ向けて、リヤカバー3からリブ30を延設して、電気素子の全周をリブ30で覆う。これにより電気素子が高湿度、高温度の雰囲気に曝されることがリブ30によって抑制されて、簡易な構造によりマイグレーションの発生が効果的に抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電気機器においては、誤動作を生じさせるマイグレーションと呼ばれる問題がある。マイグレーションは、高湿度(かつ高温度)の状況におかれたプリント基板において、電極部に金属や化合物が析出する現象であり、この現象が進行すると電極間の短絡が発生する。例えば下記特許文献1には、マイグレーション発生による誤動作を防止するパン製造機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−137133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば車載用空調装置などにおいては、装置構成上、回路基板を筐体内に完全に密閉することができないので、回路基板上の電気素子にマイグレーションを起こさないようにするには、素子を高湿度(かつ高温度)の雰囲気にできるだけ曝さないようにする工夫が必要となる。
【0005】
従来技術においては、例えばプリント基板のマイコンのポート間などマイグレーションが発生しやすい箇所に防滴剤を塗布し、高湿高温の雰囲気への暴露を防止する手法がある。しかし、この手法は作業工程が増加しコストアップとなる問題があった。
【0006】
また上記特許文献1では、カバー部材によって制御部分(プリント基板)を完全に覆い、かつリブによってカバー部材の外周を完全にオーバーラップさせている。しかし同手法では、リブとカバー部材との間に隙間をつくらないことが要求されるが、外部用コネクタなどの開口がある等、装置、製品の形態によっては実施不可能な場合があった。
【0007】
そこで本発明が解決しようとする課題は、上記問題点に鑑み、装置形態によりマイグレーションの発生可能性のある部位を完全に密閉できないような場合にも、マイグレーション発生可能性部位を高湿度(かつ高温度)の雰囲気にできるだけ曝さないようにすることにより、マイグレーションの発生が効果的に抑制された電気機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
上記課題を達成するために、本発明に係る電気機器は、電気機器の内部に収容されて、その電気機器における制御処理を実行する回路基板と、その回路基板の基板面の少なくとも一部の領域を、前記回路基板との間に間隔を置いて覆う覆い面を備えたカバー部と、を備え、前記回路基板における前記一部の領域内に配置された所定の電気素子の全周を囲む基板面上の仮想線を基板仮想線として、前記カバー部は、そのカバー部の内面において前記基板仮想線と対向する位置から、前記所定の電気素子の全周を囲むように、その基板仮想線に向けて突出する筒形状で形成された突出部を備えたことを特徴とする。
【0009】
これにより本発明に係る電気機器では、回路基板をカバー部で覆う構造において、基板上の所定の素子を囲む仮想線に向けて突出するようにカバー部から突出部が形成されているので、簡易な構造によって、所定の素子を望ましくない雰囲気に晒すことを効果的に抑制できる。したがって例えば回路基板を高湿度、高温度の雰囲気に曝すことによっておきるマイグレーションの発生を効果的に抑制できる。
【0010】
また前記突出部の筒形状は前記基板面に平行な先端部を備え、前記突出部は、前記先端部が前記基板面から所定の距離となるように前記カバー部の内面から延設して形成されたとしてもよい。
【0011】
これにより突出部の先端部が基板面から所定の距離となるように突出部を配置するので、基板上の所定の素子を所定の距離だけ隙間をもたせて、その全周を突出部で囲むことができる。したがって適切に回路基板上の素子を囲んで、所定の素子を望ましくない雰囲気に晒すことを効果的に抑制できる。
【0012】
また前記電気機器はマイグレーションを発生させ得る高湿度の雰囲気内に設置され、前記所定の電気素子は、前記回路基板上に配置された電気素子のうちで、マイグレーションが生じる可能性のある電気素子であるとしてもよい。
【0013】
これによりマイグレーションを発生させ得る高湿度の雰囲気内に設置された電気機器に対して、マイグレーションが生じる可能性のある電気素子の全周を、カバー部から延設された突出部で囲むので、その電気素子が高湿度、高温度の雰囲気に曝すことを簡易な構造によって効果的に抑制して、マイグレーションの発生を効果的に抑制できる。
【0014】
また前記カバー部は、前記電気機器の内部を密封しないとしてもよい。
【0015】
これにより、カバー部が電気機器の内部を密封しない構造においては、内部に高湿度、高温度の空気が流入して回路基板上でマイグレーションが発生する可能性があるが、本発明では回路基板をカバー部で覆う構造において、基板上の所定の素子を囲む仮想線に向けて突出するようにカバー部から突出部が形成されているので、簡易な構造によって、所定の素子を望ましくない雰囲気に晒すことを効果的に抑制できる。したがって例えば回路基板を高湿度、高温度の雰囲気に曝すことによっておきるマイグレーションの発生を効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例1における車載用エアコン操作入力装置の斜視図。
【図2】車載用エアコン操作入力装置の正面図、背面図、およびA−A断面図。
【図3】車載用エアコン操作入力装置のB−B断面図。
【図4】実施例2における車載用エアコン操作入力装置のB−B断面図を示す図。
【図5】実施例3における車載用エアコン操作入力装置のB−B断面図を示す図。
【図6】実施例4における車載用エアコン操作入力装置のB−B断面図を示す図。
【図7】カバー部の斜視図。
【図8】回路基板の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ説明する。図1から図3には本発明の実施例1の車載用エアコンの操作入力装置1の例が示されている。図1は斜視図、図2(a)は背面図、図2(b)はA−A断面図、図2(c)は正面図、図3はB−B断面図である。
【0018】
操作入力装置1は、操作パネル部2、リヤカバー3、プリント基板4(回路基板)を備える。操作パネル部2は、液晶ディスプレイ部20、空調オンオフボタン21、モード切替ボタン22、設定値低下ボタン23、設定値増加ボタン24を備える。液晶ディスプレイ部20には空調の設定温度や設定風量などの各種情報が表示される。
【0019】
空調オンオフボタン21をユーザが押下することにより車内空調のオンオフが切り替えられる。モード切替ボタン22をユーザが押下することによって例えば送風位置(フェイス、フット、デフロスタなど)が切り替えられる。設定値低下ボタン23をユーザが押下することにより、設定温度や設定風量が低下する。設定値増加ボタン24をユーザが押下することにより、設定温度や設定風量が増加する。
【0020】
リヤカバー3(カバー部)は、操作入力装置1の後部(操作パネル部2とは反対側)を覆うカバーである。リアカバー3の詳細については後述する。プリント基板4(回路基板、基板)には、操作パネル、空調装置の制御のための電気回路(電子回路)がプリントされ、ICなどの各種電気素子(電子素子)が配置されている。操作入力装置1は、以上の構成で、自動車車両の車室内の例えばインストルメントパネル(インパネ、ダッシュボード)の一部に配置される。
【0021】
リヤカバー3の詳細を以下で説明する。図7にはリアカバー3の斜視図が示されている。図2(a)、(b)にはリアカバーの背面図、A−A断面図が示されている。
【0022】
リヤカバー3は開口部36を備えて、図7はその開口部36の側から見た斜視図である。図7のリヤカバー3は、内部が空洞状態となった直方体の箱形状であり、その1つの面が開口部36となっている。箱形状は底面部37(底面、覆い面)と4つの側面部38とを有する。なおリヤカバー3のこうした形状は本発明の一実施例に過ぎず、直方体の形状でなく任意の歪んだ立体形状でもよい。さらにリヤカバー3は、回路基板4の少なくとも一部の領域を覆うものであればよい。
【0023】
リヤカバー3の底面部37には、リブ30、35とが形成されている。リブ30は、底面部37と平行な方向の断面が長方形となる筒形状によって底面部37の内面側(操作入力装置1に組み付けた状態での内面側)から延設されて突出するように形成されている。リブ30は本発明の主要部であり、詳細は後述する。リブ35はリヤカバー3の強度を上げるために形成されている。リブ35は、格子状(すなわち複数の交差する線状)の突出部が底面部37から突出するように延設されている。
【0024】
リブ35は底面部37全体に渡って形成されて、その側方端部は側面部38に接して一体化している。リヤカバー3の材質は例えば樹脂(ポリプロピレンなど)とし、射出成型によって底面部37、側面部38、リブ30、35を一体に成型すればよい。
【0025】
図8には回路基板4の斜視図が示されている(図8は簡略化された図であり、回路基板上に形成された配線パターンや配置された各種素子の図示は省略している)。上述のとおり、高湿度(かつ高温度)の雰囲気に曝された回路基板においては、例えば電圧値が異なる隣接する端子間などでイオンの移動が起き、金属などが析出して腐食が起きるいわゆるマイグレーションと呼ばれる反応が起きる。マイグレーションが進行した箇所では配線間の短絡が生じてしまう。
【0026】
特に操作入力装置1の場合、他の装置との間で情報や電力の授受を行うためのコネクタ部分のための孔部39が形成されており、装置内部をリヤカバー3によって密閉できない。図8の回路基板4を装備する操作入力装置1は自動車車両のインパネに装備されるが、この場所も高湿度、高温度になりやすい場所である。したがって操作入力装置1の内部には高湿高温の空気が流入する。図8の回路基板4においては、IC40(マイコン素子)に電圧値の異なる隣り合う端子があり、IC40のその部分にマイグレーション発生の可能性があるとする。
【0027】
図8に示された線41は、IC40の全周を囲む仮想線(基板仮想線)を示している。つまり仮想線41は、基板面内でIC40の周囲すべてを囲む閉じた線である。仮想線41は、マイグレーションの可能性がある素子40をその内部に囲み、マイグレーションの可能性が低い(ない)素子をその外部におくように、そして仮想線41上には素子がないように形成すればよい。仮想線41はあくまで仮想的な線であり実際に基板上に描く必要はない。
【0028】
また仮想線41の形状は図3などに示されているような単純な長方形などでなくともよく、マイグレーションが起きる可能性のある部位、素子などの形状に応じた任意形状の閉じた線、ただしマイグレーションが生じる可能性のある部分の全周を囲む閉じた線であればよい。リヤカバー3におけるリブ30の(底面部37と平行な方向の)断面形状は、回路基板4における仮想線41と一致するようにすればよい。そのように形成されたリヤカバー3を、図2に示されたように操作入力装置1の後側を覆うように配置する。
【0029】
操作パネル部2とリヤカバー3とは、例えば図示しないねじ構造や嵌合構造により固定すればよい。また回路基板も図示しないねじ構造や嵌合構造により操作パネル部2に固定すればよい。回路基板における各種素子を配置する基板面は操作入力装置1の後部側になるようにする。これにより回路基板4の基板面はリヤカバー3(の底面部37)と対向する位置に配置される。
【0030】
そしてリヤカバー3のリブ30が仮想線41に近接するように配置される。図7に示されているように、リブ30は先端面30a(先端部)を有する。先端面30aは底面部37と平行とすればよい。リヤカバー3を組み付けることにより、先端面30aは、基板4の基板面と平行に配置される。図2(b)に示されているように、リブ30の先端面30aと回路基板4(の仮想線41)との間は接してもよく、所定距離だけ離間させてもよい。
【0031】
先端面30aと基板面との間を離間させる場合、リヤカバー3における寸法誤差や、温度変化によるリヤカバー3の膨張、収縮などを考慮して、寸法誤差や膨張などによっても、リブ30の先端面30aが回路基板4を押圧し(て基板を変形させ)ない必要最小限の距離を先端面30aと基板面との間の距離として設定する。これによりリブ30と基板面との間の距離は必要最小限の距離となって、リブ30がマイグレーションの可能性のある素子40の全周を囲むこととなる。
【0032】
マイグレーションの抑制(回避)のためには、素子40を高湿度(高温度)の雰囲気に曝さないことが重要となるが、上記のとおりリブ30によってマイグレーションの可能性のある素子40の全周が囲まれるので、素子40が高湿度(高温度)の雰囲気に曝されなくなる(曝されにくくなる)。発明者は、実験により、(リブ30の先端面30aと回路基板4の基板面との間に上記の最小限の隙間があっても)上記のとおり構成されたリブ30によってマイグレーションの可能性が低下することを実験により検証している。
【0033】
本発明は以上の実施例1の構造に限定されず、各種の変形が可能である。以下で実施例2を説明する。実施例2(及び実施例3、4)はリブ30の構造、形状などのみが実施例1から変更される。以下で実施例1と異なる部分を説明する。実施例2におけるリブの構造は図4に示されている。図4(及び図5、図6)は、図3と同様にB−B断面図である。図4の例では、マイグレーションの可能性のある素子40が複数ある。
【0034】
そして複数の素子40のそれぞれの全周を囲むように、リヤカバー3にリブ30、31が形成されている。発明者は、このような構造によって、個々の素子40を囲むことにより、個々の素子40におけるマイグレーション発生を効果的に抑制できることを検証している。なお図4の構造は、リブが2個の構造に限定されず、マイグレーションの可能性がある素子の数に応じて、リブ30の数を増加させればよい。
【0035】
次に実施例3を説明する。実施例3におけるリブの構造は図5に示されている。図5の例では、マイグレーションの可能性がある素子40が2個あり、それらを囲む1個のリブ32を形成している。このように複数の素子40の属する領域の全周を囲むように1個のリブ32を形成しても、個々の素子40に高湿度(高温度)の空気が流動しなくなり、マイグレーションが効果的に抑制できることを発明者は実験で検証している。
【0036】
次に実施例4を説明する。実施例4におけるリブの構造は図6に示されている。図6の例においては、2重のリブ33、34によってマイグレーションの可能性のある素子40の全周を囲んでいる。このように1個の素子40の全周を囲むように多重(2重でなくともよい)のリブを形成した場合、素子40に高湿度(高温度)の空気が流動することがさらに抑制できて、1重のリブの場合よりもマイグレーションがさらに効果的に抑制できる場合があることを、発明者は実験で検証している。以上の実施例の任意の組み合わせを用いてもよい。すなわち、例えば複数の素子を多重のリブで囲む構造を用いてもよい。
【0037】
上記実施例は本発明の一部の実施例であり、特許請求の範囲に記載された趣旨を逸脱しない範囲内で適宜変更してよい。例えば本発明は車載エアコン装置に限らず、車載の他の装置に適用してもよい。さらに車載装置に限定せず、高湿度(高温度)の雰囲気に曝される回路基板と、そのカバーとを有するあらゆる電気機器に適用可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 車載用エアコンの操作入力装置(電気機器)
2 操作入力パネル
3 リヤカバー
4 回路基板
30、31、32、33、34 リブ(突出部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器の内部に収容されて、その電気機器における制御処理を実行する回路基板と、
その回路基板の基板面の少なくとも一部の領域を、前記回路基板との間に間隔を置いて覆う覆い面を備えたカバー部と、
を備え、
前記回路基板における前記一部の領域内に配置された所定の電気素子の全周を囲む基板面上の仮想線を基板仮想線として、
前記カバー部は、そのカバー部の内面において前記基板仮想線と対向する位置から、前記所定の電気素子の全周を囲むように、その基板仮想線に向けて突出する筒形状で形成された突出部を備えたことを特徴とする電気機器。
【請求項2】
前記突出部の筒形状は前記基板面に平行な先端部を備え、
前記突出部は、前記先端部が前記基板面から所定の距離となるように前記カバー部の内面から延設して形成された請求項1に記載の電気機器。
【請求項3】
前記電気機器はマイグレーションを発生させ得る高湿度の雰囲気内に設置され、
前記所定の電気素子は、前記回路基板上に配置された電気素子のうちで、マイグレーションが生じる可能性のある電気素子である請求項1又は2に記載の電気機器。
【請求項4】
前記カバー部は、前記電気機器の内部を密封しない請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電気機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−69722(P2012−69722A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213097(P2010−213097)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】