説明

電気泳動装置および電気泳動法並びにそれを用いた生体関連物質の検出方法

電気泳動装置は、ゲル保持層と、前記ゲル保持層の両方または一方の外側に配置された2つまたは1つのサンプル液収容部と、前記サンプル液収容部の両外側に配置された2つの半透膜と、前記半透膜の両外側に配置されたバッファ液収容部と、前記バッファ液収容部の両外側に配置された一対の電極とを有し、サンプル液収容部とバッファ液収容部とにはそれぞれ少なくとも1つの液出入り口が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸等の生体関連物質の検出に適した電気泳動装置および電気泳動法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、病気の診断、原因の解明のために、DNAマイクロアレイやDNAチップ等と呼ばれるバイオチップが開発されている。このようなバイオチップの製法としては、シリコン等の基盤上にフォトグラフィー技術により短鎖の核酸を直接固相合成していく方法(特許文献1及び2)や、化学的又は物理的に修飾した基盤上に核酸等の生体関連物質プローブ(以下単にプローブという)をスポッティングして固定化する方法(非特許文献1)が知られている。また、多数の中空繊維を束ねて樹脂で固定化し、その中空繊維の中空部にゲル状物と共にプローブを導入した後、この固定化物を中空繊維に直交する方向に切断して薄片化する方法も知られている(特許文献3)。特許文献3のタイプのものは、チップの表面部だけでなく厚み方向においてもプローブを保持可能であるので、多量のプローブを導入可能であり、高い検出感度を得ることが出来る。
また、このようなプローブをゲルに固定化したバイオチップは、電気泳動法によってハイブリダイゼーション効率を高めることができる。電気泳動によるハイブリダイゼーション法としては、ハイブリダイゼーション反応とハイブリダイズしなかった不要な検体の洗浄処理を高速に行う方法が知られている(特許文献4)。
【非特許文献1】「サイエンス」(Science)、1995年、第270号、p.467−470
【特許文献1】米国特許第5,445,934号明細書
【特許文献2】米国特許第5,774,305号明細書
【特許文献3】日本国特開2000−270878号公報
【特許文献4】日本国特開2000−60554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献4で開示されている方法では、検体溶液と電極が接触しており、電極への検体分子の吸着、電気分解に起因する電極反応による検体分子の変質により、ハイブリ効率が低下する。
また、検体溶液と電極が接触しているために、電気分解により電極から発生するガスの発泡で、検体分子が意図した方向へ泳動することを阻害し、ハイブリダイゼーション反応,洗浄処理に時間がかかる。
【0004】
本発明の目的は、電極への検体分子の吸着や電気分解に起因する電極反応による検体分子の変質を抑制し、また電気分解により電極から発生するガスの影響を排除したハイブリ効率が高い電気泳動装置および電気泳動法を提供することにある。
また本発明の目的は、短時間で洗浄処理が可能な電気泳動装置および電気泳動法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ゲル保持層と、前記ゲル保持層の両方または一方の外側に配置された2つまたは1つのサンプル液収容部と、前記サンプル液収容部の両外側に配置された2つの半透膜と、前記半透膜の両外側に配置されたバッファ液収容部と、前記バッファ液収容部の両外側に配置された一対の電極とを有し、サンプル液収容部とバッファ液収容部とにはそれぞれ少なくとも1つの液出入り口が設けられてなる、電気泳動装置である。
また本発明は、前記の電気泳動装置を用いて、サンプル液収容部にサンプル液を導入し、バッファ液収容部にバッファ液を導入した状態で、一対の電極間に電圧を印加する電気泳動法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の電気泳動装置および電気泳動法によれば、電極への検体分子の吸着や電気分解に起因する電極反応による検体分子の変質を抑制することができ、また電気分解により電極から発生するガスを速やかに排出することでガスの影響を排除することができるので、ハイブリ効率を高めることができる。また本発明によれば短時間で洗浄処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
[図1]本発明の電気泳動装置の一例を示す概念図である。四角い破線で囲まれた電気泳動部100は分解状態で示されている。
[図2]図1の電気泳動部を示す分解図である。
[図3]図2のA−A’における断面図である。
[図4]本発明の電気泳動装置の他の一例を示す概念図である。この例ではサンプル液収容部は一つである。
[図5]図4の電気泳動部を示す模式図である。
[図6]図5のB−B’における断面図である。
[図7]比較例2の電気泳動部を示す断面図である。
[図8]図3のC−C’における断面図である。
【符号の説明】
【0008】
1 電極
2 バッファ液収容部
3 半透膜
4 サンプル液収容部
5 ゲル保持層
6 サンプル液収容部
7 半透膜
8 バッファ液収容部
9 電極
22 担体ゲル
32 サンプル液容器
42 温度制御装置
43 任意波形発生器
44 協調制御装置
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は本発明の電気泳動装置の第一態様を示す概念図であり、ゲル保持層の両外側にサンプル液収納部が配置されている構造のものである。この電気泳動装置の電気泳動部100は分解状態で示されている。電気泳動部100は、ゲル保持層5と、その両方の外側に配置された2つサンプル液収容部4及び6と、その両外側に配置された2つの半透膜3及び7と、その両外側に配置されたバッファ液収容部2及び8と、その両外側に配置された一対の電極1及び9とを備えている。
【0010】
図2は、電気泳動部100の斜視図、及び各構成要素の斜視図である。図3は、図2のA−A’に沿った断面を示す断面図である。なお、図1及び図2では、電気泳動部の各構成部材の積層面が水平方向となるように積層したものとして図示しているが、実際には図3に示すように各構成部材の積層面が鉛直方向となるように積層に配列されている。
この例では、ゲル保持層5の両外側にサンプル液スペーサ11、12が設置され、さらにその外側に半透膜3、7が設置されている。サンプル液スペーサ11、12はそれぞれ、ゲル保持層5に接する面からそれと反対側の面へ貫通する中空部を有し、それらの中空部がそれぞれサンプル液収容部4、6を形成している。そしてサンプル液収容部4、6は、それぞれ一方の面がゲル保持層5と接し、それぞれ他方の面が半透膜3、7と接している。
半透膜3、7の外側にはそれぞれ、バッファ液スペーサ10、13が設置されている。バッファ液スペーサ10、13は、半透膜3、7に接する面からそれと反対側の面へ貫通する中空部を有し、これらの中空部がそれぞれバッファ液収容部2、8を形成している。バッファ液収容部2、8は、それぞれ一方の面が半透膜3、7と接し、他方の面は電極1、9により密封される。電極1、9を用いて、外側からゲル保持層5に電圧が印加される。
【0011】
ゲル保持層5は、隣接するサンプル液収容部4、6に収容されたサンプル液がゲルに接触できるような構成を有する。例えば、貫通孔が一つ以上設けられた多孔平板の貫通孔部にゲルを保持させた構成である。図3には平板に所定間隔をもって形成された多数の貫通孔の中にゲル状物が保持されたゲル保持層が示されている。ゲル状物としてはアクリルアミド系ゲルやアガロースゲル等公知のゲルが使用できる。このゲル状物にはDNAプローブ等の生体関連物質が結合される。電気泳動の際には、検査対象となる試料溶液中の検体DNA等の生体関連物質がDNAプローブ等の生体関連物質とハイブリダイズする。
このゲル保持層5は、電気泳動部100を組み立てた状態で、電気泳動部から容易に着脱可能な構造であることが好ましい。即ち、例えば、図3のゲル保持層5の位置にゲル保持層収容部を有するスペーサを配置して、ゲル保持層を挿入方式によってゲル保持層収容部に配置できる構造とすることができる。
【0012】
ゲル保持層5に接合される側のサンプル液収容部4、6の面積は、ゲル保持層5のゲル保持部の断面積以上の面積であればよい。
サンプル液収容部4、6の形状は、四角形を初めてとして、円形、多角形等の種々の形態をとることができる。サンプル液スペーサ11、12の材料としては、サンプル液および洗浄液を漏出させず、化学的に安定であって、イオンやその他の成分をサンプル液中および洗浄液中へ溶出する量が少なく、かつサンプル液中の検体分子の吸着が少ないものを用いることが好ましい。例えばブチルゴム、ニトリルゴム、シリコンゴム、テフロン(登録商標)樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。
【0013】
この例では、図3及び図8に示すように、サンプル液スペーサ11に、サンプル液収容部4の最下部からサンプル液を導入または排出するサンプル液導入排出口16が形成され、サンプル液収容部4の最上部からサンプル液収容部4の内部の空間に給気または排気するサンプル液収容部用給排気口17が形成されている。同様に、サンプル液スペーサ12には、サンプル液収容部6の最下部からサンプル液を導入または排出するためのサンプル液導入排出口18が形成され、サンプル液収容部6の最上部からサンプル液収容部6の内部の空間に給気または排気するためのサンプル液収容部用給排気口19が形成されている。尚、この給排気口の位置は最上部に限定されず、サンプル液導入排出口の位置は最下部に限定されない。
サンプル液収容部にサンプル液を導入する際には、サンプル液収容部の気体を吸気する方法、またはサンプル液収容部に対してサンプル液を圧入する方法が採用される。これらの場合において給排気口は排気口として使用される。ここで、サンプル液収容部に気泡を残さずサンプル液を導入するためには、サンプル液収容部の最下部からサンプル液を導入し、最上部から空気を抜く配置が好ましい。またサンプル液収容部からサンプル液を排出する際には、サンプル液収容部に気体を圧入する方法、またはサンプル液収容部からサンプル液を吸引する方法が採用される。これらの場合において給排気口は給気口として使用される。
サンプル液導入排出口16、18の数およびサンプル液収容部用給排気口17、19の数は、いずれも1つ以上であればよい。またサンプル液導入排出口16、18とサンプル液収容部用給排気口17、19の材料としては、サンプル液および洗浄液が漏出せず、化学的に安定でイオンやその他の成分のサンプル液中および洗浄液中への溶出が少なく、且つサンプル液中の検体分子の吸着が少ないものを用いることが好ましい。
【0014】
サンプル液収容部4、6は、可能な限り容積が少ないことが好ましい。この容積が小さいほど、サンプル液中の検体濃度を高くし、検出感度を上げることができる。
サンプル液収容部4、6に導入されるサンプル液としては、生体関連物質の検体を含有する溶液を用いることができ、例えばDNA、RNA、蛋白質、ペプチド、界面活性剤、炭水化物等を含む溶液を用いることができる。生体関連物質の検体は、例えば蛍光物質、放射性同位体、化学発光性物質等公知の方法により標識して用いることができる。
【0015】
半透膜3、7としては、検体を透過させず、溶液中の水や塩類のような低分子は透過させるようなものであり、例えばゼラチン膜、アセテート膜、アクリルアミド系ポリマーやポリビニルアルコール等のハイドロゲル、再生セルロース膜等を用いることができる。これらの中で、機械的強度、取り扱い、入手の容易性から、アセテート膜が好ましい。
半透膜3、7を用いることにより、例えばバッファ液収容部2、8のバッファ液とサンプル液収容部4、6のサンプル液とが半透膜3、7を透過して交換され、かつ、サンプル液収容部4、6に含まれる検出対象の生体関連物質は、半透膜3、7を透過できずサンプル液収容部4、6に留まる。したがって、バッファ液を介してサンプル液の温度等の泳動条件を調整できるとともに、検出対象の生体関連物質を効率よくゲル保持層の担体ゲルに接触させて、ハイブリダイゼーション反応を効率よく行うことができる。
半透膜の中で、検出対象の生体関連物質に応じて適当なカットオフ分子量を有する半透膜を選択することがさらに好ましい。カットオフ分子量とは、17hr透析を行った際に90%残留する最小の分子量であり、カットオフ分子量が数千から数十万の半透膜が市販されている。すなわち、検出しようとしている生体関連物質の分子量よりも小さいカットオフ分子量を持つ半透膜を用いることが好ましい。
【0016】
この例では、バッファ液スペーサ10、13にはバッファ液収容部2、8の最下部からバッファ液を導入するバッファ液導入口14、20がそれぞれ形成され、バッファ液収容部の最上部からバッファ液を排出するバッファ液排出口15、21がそれぞれ形成されている。尚、このバッファ液導入口の位置は最下部に限定されず、バッファ液排出口の位置は最上部に限定されない。
バッファ液スペーサ10、13の材料としては、バッファ液を漏出させず、化学的に安定であって、イオンやその他の成分のバッファ液中への溶出が少ない材料を用いることができ、例えばブチルゴム、ニトリルゴム、シリコンゴム、テフロン(登録商標)樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。バッファ液収容部2、8の形状は特に限定されず、四角形、円形、多角形等の形状とすることができる。
なお、バッファ液導入口14、20の数およびバッファ液排出口15、21の数はいずれも制限されない。さらに、バッファ液導入口14、20とバッファ液排出口15、21の材料は、バッファ液が漏出せず、化学的に安定でイオンやその他の成分のバッファ液中への溶出の少ないものであることが好ましい。
【0017】
バッファ液収容部2、8に収容されるバッファ液としては、例えばトリス−ホウ酸バッファ(TB)、トリス−酢酸バッファ(TA)、塩化ナトリウム−クエン酸ナトリウム(SSC)等の電解質溶液を用いることができる。
【0018】
電極1、9の材質は特に限定されず導電性の材料であればよい。可逆電極を使用する場合を除けば、化学的に安定でイオンやその他の成分のバッファ液中へ溶出の少ないものが好適であり、例えば白金製のものが好ましい。電極1、9の形状は、平板状を初めとして種々の形状をとることができる。また、電極1、9を各々複数の電極で構成することもできる。
【0019】
電極1、9とバッファ液収容部2、8の位置関係は、電極1、9が少なくともバッファ液収容部2、8にそれぞれ接し、電気分解によって電極1、9の表面から発生するガスがバッファ液と共にバッファ液収容部2、8から排出されうる構造であることが好ましい。電極1、9がバッファ液収容部2、8に浸漬された構造にすることもできる。
また、図3において、バッファ導入口14、20及びバッファ排出口15,21の一部又は全部が電極としての役割を兼ねていても良い。その場合、電極1及び9は不要となる。
電極1、9、バッファ液スペーサ10、13、半透膜3、7、サンプル液スペーサ11、12は各々独立した部品として構成されている必要はなく、例えば電極1、バッファ液スペーサ10、半透膜3、サンプル液スペーサ11のうち少なくとも2つを一体として製作した部品として用いることができる。更に、これら全てを一体として用いることもできる。またこれらの各部材や各部品どうしを圧接、接着あるいは接合等によって電気泳動部を形成する構造とすることもできる。
【0020】
この例では電気泳動部100は電極1、バッファ液収容部2、半透膜3、サンプル液収容部4、ゲル保持層5、サンプル液収容部6、半透膜7、バッファ液収容部8、電極9の積層面が鉛直方向となるように設置されているが、これら構成部材の積層面が水平、鉛直、あるいは他のいずれの方向になるように設置することができる。ただし、サンプル液収容部4、6およびバッファ液収容部2、8から効率よくガスを排出させるためには、鉛直方向に設置することが好ましい。
【0021】
この例では、サンプル液収容部4、6にサンプル液または洗浄液を導入、排出する送給機構(以下、「サンプル液送給機構」という)が接続されている。図1に示すように、サンプル液送給機構は、サンプル液を貯留するサンプル液容器32と、サンプル液容器32からサンプル液収容部4、6へサンプル液を導入または排出するサンプル液用導入排出ポンプ37と、これらを接続する配管と、給排気口55と、第一の流路切り替え手段35とから構成される。なお、「流路切り替え手段」とは、バルブ機構や、可とう性配管を一つ以上の接続口に直接押し当て圧接接続し、或いは配管及び接続口にカプラ等の接続手段を設け、接続口と配管の脱着により流路を切り替える流体操作機構をいう。
図1に示すサンプル液容器32は、配管によって図2、図3に示すサンプル液導入排出口16、18に接続され、サンプル液用導入排出ポンプ37は、配管によって図2、図3に示すサンプル液収容部用給排気口17、19に接続される。
この例のサンプル液送給機構は、さらに、予め調製された洗浄液を貯留する洗浄液サーバ38と、洗浄液サーバ38からサンプル液収容部4、6へ洗浄液を導入または排出する洗浄液用導入排出ポンプ40と、サンプル液収容部4、6に導入、排出する溶液の種類をサンプル液または洗浄液に切り替える第二の流路切り替え手段33を有し、サンプル液収容部4、6から排出された洗浄液を貯留する排出洗浄液容器41と、洗浄液の流路を洗浄液サーバ38からサンプル液収容部4、6への導入またはサンプル液収容部4、6から排出洗浄液容器41への排出に切り替える第三の流路切り替え手段39を有し、更に、作動するポンプをサンプル液用導入排出ポンプ37または洗浄液用導入排出ポンプ40に切り替える第四の流路切り替え手段36を有する。
洗浄液としては、例えば、トリス−ホウ酸バッファ(TB)、トリス−酢酸バッファ(TA)、塩化ナトリウム−クエン酸ナトリウム(SSC)等を用いることができる。
【0022】
この例のサンプル液送給機構において、第二の流路切り替え手段33を用いて流路をサンプル液容器32側に開通した場合、サンプル液用導入排出ポンプ37を用いて吸引すると、サンプル液容器32に貯留されたサンプル液は、サンプル液導入排出口16、18を通ってサンプル液収容部4、6に導入される。サンプル液の導入量は、液体検知センサ34によって監視できる。
電気泳動の終了後、サンプル液を排出する。先ず、第一の流路切り替え手段35を用いて給排気口55とサンプル液用導入排出ポンプ37とを連通させて、サンプル液用導入排出ポンプ37へ空気を吸引する。次いで、第一の流路切り替え手段35を用いて流路をサンプル液用導入排出ポンプ37とサンプル液収容部4、6とを連通させた状態にして、サンプル液用導入排出ポンプ37を押出し側に設定して、サンプル液収容部4、6に空気を導入し、サンプル液収容部4、6に収容されていたサンプル液を排出する。
次に、サンプル液収容部4、6に洗浄液を導入する。第二の流路切り替え手段33と第三の流路切り替え手段39とを用いて、洗浄液サーバ38とサンプル液収容部4、6とを連通させた状態にして、洗浄液用導入排出ポンプ40を吸引側に設定して、洗浄液サーバ38に貯留された洗浄液を、サンプル液導入排出口16、18からサンプル液収容部4、6へ導入する。洗浄液の導入量は、液体検知センサ34によって監視できる。
洗浄液の排出は次の手順で行う。先ず、第四の流路切り替え手段36と第一の流路切り替え手段35とを用いて、給排気口55と浄液用導入排出ポンプ40とを連通させ、洗浄液用導入排出ポンプ40へ空気を吸引する。次いで、第三の流路切り替え手段39を排出洗浄液容器41への排出側に設定し、更に、第一の流路切り替え手段35を用いて洗浄液用導入排出ポンプ40とサンプル液収容部4、6とを連通させた状態にして、洗浄液用導入排出ポンプ40を押出し側に設定して、サンプル液収容部4、6に空気を導入し、サンプル液収容部4、6に収容されていた洗浄液を排出する。
尚、これらの洗浄液の導入操作と排出操作は、複数回繰り返すことができる。また、サンプル液収容部4、6に洗浄液を収容した状態で、電極間に電圧をかけて未結合検体を電気泳動させて除去することもできる。
【0023】
なお、サンプル液送給機構においては、放射性同位体、変異原等を含むサンプル液による汚染が問題となる場合は、汚染部分を容易に廃棄できる可とう性配管を一つ以上の接続口に直接押し当て圧接接続し、或いは配管及び接続口にカプラ等の接続手段を設け、接続口と配管の脱着により流路を切り替える流体操作機構を用いることが好ましい。
この例ではサンプル液用導入排出ポンプ37と洗浄液用導入排出ポンプ40が設けられているが、1台のポンプによってサンプル液または洗浄液をサンプル液収容部4、6へ導入または排出する構造とすることもできる。さらに、複数種のサンプル液および洗浄液を切り替えて使用できるように、流路切り替え手段をさらに加えた構成とすることもできる。
この例では、サンプル液収容部4、6は、サンプル液送給機構を共有しているが、サンプル液収容部4、6に対してそれぞれ、サンプル液または洗浄液を導入、排出する液送給機構を独立して設置することもできる。
また、サンプル液収容部4、6には、濃度、温度、組成のうちの1つ以上が異なるサンプル液または洗浄液を切り替えて導入するサンプル液供給機構を備えることが好ましい。
例えば洗浄液サーバ38に貯留された洗浄液と濃度、温度、組成のうち1つ以上が異なる洗浄液を貯留した第二の洗浄液サーバを設置し、この第二の洗浄液サーバと洗浄液サーバ38の一方に切り替える流路切り替え手段と、洗浄液用導入排出ポンプ40とによって、洗浄液を最適な条件に維持することができる。
【0024】
この例では、バッファ液収容部2、8にバッファ液を導入、排出する送給機構(以下、「バッファ液送給機構」という)が設けられている。図1に示すように、バッファ液供給機構は、予め調製されたバッファ液を貯留するバッファ液サーバ23、27と、これらバッファ液サーバ23、27からバッファ液収容部2、8へバッファ液を移送するバッファ液送液ポンプ24、28と、これらを接続する配管と、バッファ液収容部2、8から排出されたバッファ液を排出バッファ液容器31への排出またはバッファ液サーバ23、27との間の循環に切り替えるバッファ液流路切り替え手段26、30とから構成される。バッファ液サーバ23、27は、配管を介して図3に示すバッファ液導入口14、20に接続される。図3に示すバッファ液排出口15、21にはそれぞれ配管が接続され、これらの配管は図1に示す排出バッファ液容器31およびバッファサーバ23、27に至る。
この例のバッファ液送給機構において、バッファ液流路切り替え手段26、30を排出バッファ液容器31側に開通して設定した場合、バッファ液は、バッファ液送液ポンプ24、32によって、バッファ液サーバ23、27からバッファ液導入口14、20を通ってバッファ液収容部2、8へ移送され、ついで排出バッファ液容器31へ排出される。
バッファ液流路切り替え手段26、30をバッファ液収容部2、8とバッファ液サーバ23、27との間の循環系に設定した場合、バッファ液をバッファ液サーバ23とバッファ液収容部2、バッファ液サーバ27とバッファ液収容部8の間でそれぞれ循環できる。
このようなバッファ液送給機構において、バッファ液送液ポンプ24、32を連続的あるいは間欠的に運転して吸引しまたは押し出すことにより、バッファ液収容部2、8にバッファ液を連続的あるいは間欠的に導入または排出することができる。なお、バッファ液層送給機構においては、バッファ液収容部2、8に対しバッファ液送液ポンプ24、28と反対側に吸引ポンプを設置することができる。
【0025】
また、図1においては、バッファ液収容部2、8にバッファ液を送給するバッファ液送給機構がそれぞれ独立して設置されているが、これらのうちの一部または全部を共通のものとして設置することもできる。更に、濃度、温度、組成のうち1つ以上が異なるバッファ液をそれぞれ貯留した複数のバッファ液サーバと、バッファ液送液ポンプと、バッファ液収容部2、8に導入するバッファ液を各バッファ液サーバ側に切り替える流路切り替え手段とからなるバッファ液供給機構を設けることにより、バッファ液収容部2、8に、濃度、温度、組成のうち1つ以上が異なるバッファ液を切り替えて供給することができる。このことにより、バッファ液の濃度、温度、組成等を、ハイブリダイゼーションおよび洗浄に最適な条件に維持することができる。
【0026】
以下に、本発明の実施の第一の形態における好適な使用方法を図1及び図2を参照しつつ説明する。
DNA等の生体関連物質の溶液を調製し、公知の方法で標識してサンプル液とする。予め調製したサンプル液、バッファ液、洗浄液を、それぞれサンプル液容器32、バッファ液サーバ23、27、洗浄液サーバ38に貯留する。まず、第二の流路切り替え手段33をサンプル液側に設定し、サンプル液用導入排出ポンプ37を吸引側に設定することによって、サンプル液をサンプル液容器32からサンプル液収容部4、6へ導入する。
また、バッファ液流路切り替え手段26、30をバッファ液収容部2、8とバッファ液サーバ23、27との間の循環系に設定し、バッファ液送液ポンプ24、28を運転して、バッファ液をそれぞれ循環させる。
ついで、電極1を正極、電極9を負極として電圧を印加して、サンプル液に含まれるDNA検体を泳動させる。例えば、負に荷電したDNA検体は、サンプル液収容部6からゲル保持層5の担体ゲル22の内部へ泳動する。担体ゲル22に固定されたDNAプローブに特異的なDNA検体は、DNAプローブとハイブリダイズして担体ゲル22内に保持される。DNAプローブに相補的でないDNA検体は、DNAプローブとハイブリダイズせず、サンプル液収容部4を通過して半透膜7の方向に泳動する。以下、DNAプローブとハイブリダイズしていないDNA検体を「未結合検体」と称する。
ここで、電極の正負を反転させて電極1を負極、電極9を正極とすれば、未結合検体は、サンプル液収容部4から担体ゲル22の内部へ再び泳動する。従って、電極に印加している電圧を反転し、未結合検体をサンプル液収容部4とサンプル液収容部6との間で往復させれば、DNAプローブとハイブリダイズする確率を高めることができる。
電圧を印加している間、バッファ液送液ポンプ24、28を運転し続けることにより、バッファ液導入口14、20からバッファ液収容部2、8にバッファ液を導入させると同時に、電極1、9表面に発生したガスをバッファ液とともにバッファ液排出口15、21から排出させる。
電圧の印加を終了した後、第四の流路切り替え手段36を洗浄液用導入排出ポンプ40側に設定し、第三の流路切り替え手段39を導入側に設定して、洗浄液用導入排出ポンプ40を吸引側に設定して洗浄液サーバ38から洗浄液を吸引することにより、サンプル液収容部4、6のサンプル液を洗浄液で置換する。その後、電極1と電極9との間に電圧を印加すれば、負に荷電した未結合検体のみが正極側のサンプル液収容部へ泳動し、ゲル保持層5から除去される。ここで、洗浄液用導入排出ポンプ40を吸引または押し出して、サンプル液収容部4、6の洗浄液を攪拌しながら前記未結合検体の除去を行なうこともできる。
電圧の印加を終了し、その後、第三の流路切り替え手段39を排出側に設定して洗浄液用導入排出ポンプ40を押し出し側に設定することにより、サンプル液収容部4、6から、未結合検体を含む洗浄液を排出洗浄液容器41へ排出する。
次いでゲル保持層5を取り出して、サンプル液に用いた標識方法に対応する検出方法により、担体ゲル22に保持された生体関連物質を検出する。
【0027】
本実施形態においてはバッファ液スペーサ10、13の最下部にバッファ液導入口14、20が形成され、バッファ液スペーサ10、13の最上部にバッファ液排出口15、21が形成されていることが好ましく、これによって電圧を印加した際に電極1、9付近から発生するガスをバッファ液送2、8から効率よく排出することができる。この構造であれば、生体関連物質のサンプル液収容部4、6における移動速度、担体ゲル22中での拡散速度が改善され、電極1、9から発生したガスに起因する絶縁層の形成などの問題を起こすことなく電気泳動を行うことができ、検出精度が向上する。
また、バッファ液送給機構を用いてバッファ液をバッファ液収容部2、8に連続的に供給できることから、バッファ液収容部2、8および半透膜を介してこれらと接するサンプル液収容部3、7において、イオン濃度を均一にすることができ、検出の精度を上げることができる。
【0028】
この例では、バッファ液収容部2、8に供給されるバッファ液を所定の温度に加熱もしくは冷却するための温度調節機構が設けられている。
図1に示すように、温度調節機構は、バッファ液収容部2、8に流入するバッファ液を加熱もしくは冷却する熱交換器25、29と温度制御装置42とで構成される。
このような温度調節機構では、温度制御装置42に予め設定した信号にしたがって熱交換器25、29を運転してバッファ液を加熱または冷却することにより、バッファ液収容部2、8を所望の温度に保つことができ、さらには半透膜3、7を介してサンプル液収容部4、6のサンプル液とゲル保持層5の担体ゲル22の温度を一定に保持することができる。
バッファ液を加熱、冷却する方式としては、特に限定されるものでなく、例えば熱交換器25、29と温度制御装置42との間で熱媒を循環させる熱媒循環方式や、熱交換器25、29としてペルチェ素子を用いて加熱・冷却を行う方式を用いることができる。
更に、サンプル液収容部4、6の内部もしくは外部近傍に熱電対等の温度検出素子を設け、該温度検出素子の信号に応じてバッファ液の温度を最適に調節する機構を付加することもできる。
【0029】
この例では、電極1と電極9は、電気配線および信号発生機構を介して接続されている。信号発生機構は、外部信号によって任意の波形を設定し、或いは選択し、出力電圧を設定し、出力のオン/オフを制御できる任意波形発生器43と、予め定められた順序および時間に従って任意波形発生器43に制御信号を送出する協調制御装置44とから構成されている。この信号発生機構を用いて、電気泳動部に直流を含む任意の波形を有する任意の電圧を予め定められた順序、および時間に従って印加することができる。
【0030】
この例では、任意波形発生器43と、温度制御装置42と、バッファ液送液ポンプ24、32と、サンプル液または洗浄液の導入量や温度等を監視する液体センサ34と、バッファ液流路切り替え手段26と、第二の流路切り替え手段33と、第一の流路切り替え手段35と、第三の流路切り替え手段39とを、それぞれ協調制御装置44に信号回線で接続してなる協調制御機構が設置されている。
このような協調制御機構においては、液体センサ34により検知されたサンプル液または洗浄液の導入量や温度等の信号が、協調制御装置44に送信され、協調制御装置44から、バッファ液送液ポンプ24、28、温度制御装置42、任意波形発生器43へ、これらの作動を制御する信号が送信される。
このような協調制御機構を用いることにより、バッファ液送給機構およびサンプル液送給機構を協調させ、あるいはバッファ液送給機構、サンプル液送給機構および信号発生機構を協調させることができる。したがって、バッファ液やサンプル液の温度、組成、濃度、並びにゲル保持層5に印加される電流等を最適条件に維持して電気泳動を継続することができる。
さらに、流路切り替え手段の作動および温度調節機構の作動を協調させて実行することもできる。
【0031】
図4〜図6は、本発明の実施における第二の形態の電気泳動装置であり、ゲル保持層の片側のみにサンプル液収容部4が配置された構造を有する。
この例では、本発明の実施における第一の形態と同様に、サンプル液がサンプル液容器32からサンプル液収容部4へ導入される。電極1を負極、電極9を正極として電圧を印加した場合、サンプル液収容部4に含まれる負電荷の検体は、印加された電圧によってサンプル液収容部4からゲル保持層5の担体ゲル22の内部へ泳動する。負荷電の検体のうち、担体ゲル22に保持されたDNAプローブに相補的なDNA検体は、DNAプローブとハイブリダイズして担体ゲル22内に保持される。またDNAプローブに非相補的な検体はゲル保持層5を通過して半透膜7にせき止められ半透膜7とゲル保持層5との間に濃縮される。
ここで、電極に印加している電圧を反転させ、電極1を正極、電極9を負極とすれば、負電荷の未結合検体はサンプル液収容部4へ泳動する。このサンプル液収容部4の未結合検体は排出洗浄液容器41へ排出される。
【実施例】
【0032】
[実施例1](ゲル保持層用DNAチップの製造)
縦35mm、横35mm、厚さ0.1mmのSUS304製板の中央部2.1mm×2.1mmの範囲に、直径0.32mmの孔が縦横各方向に0.42mm間隔で5行、5列に25個設けられた多孔板を2枚準備した。これらの多孔板を積層し、その各孔に、ポリカーボネート製中空繊維(外径0.28mm、内径0.16mm、長さ100cm)を通した。次いで、2枚の多孔板の位置が中空繊維の一方の端部から10cmと60cmの位置となるように多孔板の間隔を50cmに広げ、さらにこれらの多孔板とその間の中空繊維束の周囲を厚さ10mmのポリテトラフルオロエチレン製板で囲った。
次に、この囲いの中にカーボンブラック(三菱化学(株)製、MA1000)で着色したポリウレタン樹脂(日本ポリウレタン工業(株)製、ニッポラン4276,コロネート4403)を流し込んだ。引き続き、室温で1週間静置し、樹脂を硬化させた。その後、多孔板とポリテトラフルオロエチレン製板の囲いを取り除き、20mm、20mm、長さ50mmの角柱からなる中空繊維配列体を得た。この中空繊維配列体には、その断面の中央部2.1mm×2.1mmの範囲に25本の中空繊維が配列されていた。
N,N−ジメチルアクリルアミド:4.5質量部、N,N−メチレンビスアクリルアミド:0.5質量部、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩:0.1質量部、水:95重量部からなる組成の混合溶液を調製した。この混合溶液を中空繊維配列体の22本の中空繊維の中空部に導入した。残り3本の中空繊維の中空部には、前記混合溶液に対して更に40塩基のDNAを濃度が5nmol/mlになるように添加した溶液を導入した。次いで、70℃で3時間かけて重合させ、中空繊維の中空部にゲル状物を生成させた。その後、ミクロトームを用いて中空繊維軸と直角方向に、厚みが0.5mmとなるように薄片を切り出した。更にその周囲をトリミングして12mm×12mm×0.5mmのDNAチップを得た。
【0033】
次いで以下の部品を用いて図1〜3に示す電気泳動装置を組み立てた。即ち、ゲル保持層5としてこのDNAチップを用い、半透膜3、7としてスペクトラム社製「スペクトロポア」(カットオフ分子量:3500)からなる半透膜を用いた。また、ブチルゴム製のバッファ液スペーサ10、13、ブチルゴム製のサンプル液スペーサ11、12、及び白金製の電極1、9を用いて図1の構成に配列させ、圧接して電気泳動部102を組み立てた。また、任意波形発生装置43を電極1、9に接続して、熱交換器25、29、及び温度制御装置42設置した。
バッファ液収容部のサイズは縦8mm、横8mm、厚み2mm、容積は128μlであり、サンプル液収容部のサイズは縦8mm、横8mm、厚み1mm、容積は64μlであった。
【0034】
まず、バッファ液サーバ23、27に0.5×TB−15mM NaCl溶液を各々50ml入れ、バッファ液流路切り替え手段26、30を共に循環側に設定して、バッファ液送液ポンプ24、28を運転し、バッファ液サーバ23とバッファ液収容部2の間、バッファ液サーバ27とバッファ液収容部8の間で、それぞれバッファ液を循環させた。このとき、バッファ液導入口14、20を通してバッファ液収容部2、8の最下部からバッファ液を導入させ、バッファ液排出口15、21を通してバッファ液収容部2、8の最上部からバッファ液を排出させた。バッファ液の温度は、温度制御装置42を用いて45℃に設定した。
Cy5染料(励起波長635nm、検出波長660nm)で標識されており、DNAチップ内に前記基材ゲルと共に固定されたDNA(以下「プローブA」という)と相補的に結合しうる40塩基対のDNA検体aの100fmolと、Cy3染料(励起波長530nm、検出波長570nm)で標識されており、プローブAと相補的に結合しない40塩基対のDNA検体bの100fmolとを、0.5×TB−15mMNaCl溶液100μlに溶解してサンプル液とした。このサンプル液をサンプル液容器32に貯留した後、第四の流路切り替え手段36をサンプル液側に設定し、サンプル液用導入排出ポンプ37を吸引側に設定してサンプル液を吸引し、サンプル液収容部4、6に導入した。
洗浄液として0.5×TB−15mMNaCl溶液を調製し、洗浄液サーバ38に貯留した。
【0035】
電極1が正極、電極9が負極になるように、任意波形発生器43により直流電圧を印加して、サンプル液に含まれるDNA検体aおよびDNA検体abを泳動させた。このときの印加電圧は3V、印加時間は10分であった。
その後、サンプル液用導入排出ポンプ37を押し出し側に設定して、サンプル液をサンプル液収容部4および6から排出洗浄液容器41へ排出した。引き続いて、第四の流路切り替え手段36を洗浄液側に設定し、第三の流路切り替え手段39を導入側に設定して、洗浄液用導入排出ポンプ40を用いて洗浄液サーバ38から洗浄液を吸引し、サンプル液収容部4および6のサンプル液を洗浄液で連続的に置換することにより、未結合検体をサンプル液収容部4および6から除去した。
次に、電極1が負極、電極9が正極となるように、任意波形発生装置43を用いて直流電圧を逆向きに印加することにより、ゲル保持層5からプローブAと結合していないDNA検体を除去した。このときの印加電圧は3V、時間は10分であった。
電圧の印加を終了後、ゲル保持層5を取り出し、励起波長532nmおよび633nmの蛍光顕微鏡で観察した。
その結果、ゲル保持層5の25箇所の担体ゲル部のうちプローブAが固定されている3個所でのみCy5染料が発する蛍光を検出できた。一方Cy3染料が発する蛍光は、何れの個所からも検出されなかった。
【0036】
(比較例1)
電気泳動によってDNA検体の濃縮とプローブとのハイブリダイズを行う代わりに、電圧を印加しないで10分間静置する以外はすべて実施例1と同様にハイブリダイズおよび洗浄を行い、実施例1と同様にDNAチップからなるゲル保持層5を蛍光顕微鏡で観察した。
その結果、ゲル保持層5においてプローブAが固定化されている3か所でのみ、Cy5染料が発する蛍光を検出することができたが、その蛍光強度は実施例1に比較して1/10以下であった。
【0037】
(比較例2)
図7に示すように、バッファ液収容部2、8と半透膜3、7を有しない電気泳動装置を用いたこと以外は、実施例1とすべて同様にハイブリダイズおよび電気泳動による洗浄を行い、実施例1と同様にゲル保持層5を蛍光顕微鏡で観察した。
その結果、ゲル保持層5において25箇所のどの個所においてもCy5染料が発する蛍光およびCy3染料が発する蛍光の両方が検出されなかった。電気分解に起因する電極反応による核酸検体の変質によりハイブリ効率が低下したものと思われる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル保持層と、前記ゲル保持層の両方または一方の外側に配置された2つまたは1つのサンプル液収容部と、前記サンプル液収容部の両外側に配置された2つの半透膜と、前記半透膜の両外側に配置されたバッファ液収容部と、前記バッファ液収容部の両外側に配置された一対の電極とを有し、サンプル液収容部とバッファ液収容部とにはそれぞれ少なくとも1つの液出入り口が設けられた電気泳動装置。
【請求項2】
ゲル保持層と、前記ゲル保持層の両方または一方の外側に配置された2つまたは1つのサンプル液収容部と、前記サンプル液収容部の両外側に配置された2つの半透膜と、前記半透膜の両外側に配置されたバッファ液収容部とを有し、サンプル液収容部とバッファ液収容部とにはそれぞれ少なくとも1つの液出入り口が設けられ、バッファ液収容部の液出入り口は電極を兼ねている電気泳動装置。
【請求項3】
バッファ液収容部にバッファ液を導入及び/又は排出する第一の送給機構が接続された請求項1又は2に記載の電気泳動装置。
【請求項4】
サンプル液収容部にサンプル液又は洗浄液を導入及び/又は排出する第二の送給機構が接続された請求項1又は2に記載の電気泳動装置。
【請求項5】
サンプル液収容部の最下部にサンプル液又は洗浄液を導入または排出する導入排出口が形成され、サンプル液収容部の最上部にサンプル液又は洗浄液を導入または排出するための給排気口が形成された請求項4に記載の電気泳動装置。
【請求項6】
バッファ液収容部の最下部にバッファ液を導入する導入口が形成され、バッファ液収容部の最上部にバッファ液を排出する排出口が形成された請求項1又は2に記載の電気泳動装置。
【請求項7】
バッファ液収容部に導入するバッファ液を所定の温度に加熱もしくは冷却するための温度調節機構が備えられた請求項1又は2に記載の電気泳動装置。
【請求項8】
バッファ液収容部に、濃度、温度、組成のうちの1つ以上が異なるバッファ液を切り替えて導入するためのバッファ液供給機構が備えられた請求項1又は2に記載の電気泳動装置。
【請求項9】
電極に、予め定めた順序および時間に従って、任意の波形及び/又は電圧を印加するための信号発生機構が備えられた請求項1又は2に記載の電気泳動装置。
【請求項10】
バッファ液収容部に、濃度、温度、組成の内の1つ以上が異なるバッファ液を切り替えて導入するためのバッファ液供給機構と、電極に、予め定めた順序および時間に従って任意の波形及び又は電圧を印加するための信号発生機構と、バッファ液供給機構と信号発生機構の作動を協調させるための協調制御機構とが備えられた請求項1又は2に記載の電気泳動装置。
【請求項11】
サンプル液収容部に、濃度、温度、組成のうちの1つ以上が異なるサンプル液又は洗浄液を切り替えて導入するためのサンプル液供給機構と、このサンプル液供給機構とバッファ液供給機構と信号発生機構とサンプル液供給機構の作動を協調させるための協調制御機構とが備えられた請求項10に記載の電気泳動装置。
【請求項12】
ゲル保持層が、貫通孔が一つ以上設けられた多孔平板の貫通孔の中に保持されたゲル状物の層であって、このゲル状物に生体関連物質が結合されたものである請求項1又は2に記載の電気泳動装置。
【請求項13】
生体関連物質がDNAプローブである請求項12に記載の電気泳動装置。
【請求項14】
請求項1又は2に記載の電気泳動装置を用いて、サンプル液収容部にサンプル液または洗浄液を導入する工程と、バッファ液収容部にバッファ液を導入した状態で、一対の電極間に電圧を印加する工程とを有する電気泳動法。
【請求項15】
サンプル液収容部にサンプル液又は洗浄液を連続的または間欠的に導入または排出する請求項14に記載の電気泳動法。
【請求項16】
バッファ液収容部にバッファ液を連続的または間欠的に導入または排出する工程を有する請求項14に記載の電気泳動法。
【請求項17】
バッファ液収容部の最下部の液出入り口からバッファ液を導入する工程と、バッファ液収容部の最上部の液出入り口からバッファ液を排出する工程とを有する請求項14に記載の電気泳動法。

【国際公開番号】WO2005/031335
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【発行日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514224(P2005−514224)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014097
【国際出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】