説明

電気素子の経年劣化挙動の影響を予測する方法、およびその挙動をシミュレートするシミュレーションモデル

本発明は、少なくとも1つの抵抗器素子と電圧源とを利用して、コネクタ素子の経年劣化によって引き起こされた劣化状態をシミュレートする、コネクタ素子の経年劣化挙動の影響を予測する方法、さらには、前記方法を実行する実行するコンピュータプログラム、前記コンピュータプログラムを含むコンピュータ可読媒体、及び劣化したコネクタ素子をシミュレートするシミュレーションモデルに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気素子、特に、コネクタ素子の経年劣化挙動の影響を予測する方法と、該方法を利用して経年劣化挙動の影響を計算するコンピュータプログラムと、該コンピュータプログラムを含むコンピュータ可読媒体と、該電気素子の経年劣化挙動をシミュレートするシミュレーションモデルとに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電気コネクタ素子は、2つの金属面からなり、これらの金属面は、互いに押し付けられると、金属面の間で電流が流れるようになる。コネクタ素子の金属面は、たとえ完全にクリーンな面であっても、理想的な平坦であることはなく、むしろ、顕微鏡的に観察される隆起および窪みが顕現している。これら2つの金属面は、互いに押し付けられたときに、表面全体にわたって電気的接触を得ることはできず、表面凹凸の隆起同士が互いに到達する場所(接触スポット)においてのみ接触できる。
【0003】
金属面が完全にクリーンでない状態は、通常は、汚染物質や酸化物などの表面膜が原因で生じるが、そのような状態である場合、電子は、接触力が表面膜を剥ぎ取れる、または破壊できる場所においてのみ、流れることができる。その結果、ある種の接触抵抗が生じることになる。
【0004】
時間の経過に応じて、種々の経年劣化メカニズムが、接触状況を変化させる。例えば、接触力は、力学的緩和によって低下するものであり、その結果、表面膜を十分に破壊または剥ぎ取れるものではなくなる。一方、酸化物/汚染物質の量や、表面膜の厚さは、それぞれ、全面腐食および汚染物質の累積によって増加することになる。
【0005】
また、熱膨張または振動が原因で、接触面同士が相対的に移動し、フレッチングを引き起こすという他の問題もある。フレッチングは、ひいては、摩耗、疲労破損、塑性変形やフレッチング腐食によって、接触面の劣化を引き起こす。
【0006】
前述のメカニズムが原因で、導電性の接触面積はさらに減少し、その結果、接触抵抗が増加することになる。最終的には、劣化した接点が不安定になり、接触抵抗が上昇または変動することになる。
【0007】
この不安定性は、ひいては、劣化したコネクタ素子を含むシステム、サブシステム、または電気回路に影響を及ぼし、その結果、例えば、誤った表示のような誤動作のみならず、最悪の場合には、システム、サブシステム、または回路の完全な損傷に至る可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、システム、サブシステム、または電気回路上の劣化したコネクタ素子の影響を予測する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、請求項1に記載の方法と、請求項11に記載のコンピュータプログラムと、請求項13に記載のコンピュータ可読媒体と、請求項14に記載のシミュレーションモデルとによって達成される。
【0010】
稼働中の接点において、前述した不安定性の影響は、不連続または開放となった接触、温度の上昇、あるいは電磁放射の増加などとして検出することができる。
【0011】
従って、本発明の方法は、主要な要素として、少なくとも1つの抵抗器素子と電圧源とを利用して、劣化したコネクタ素子の異なる接触抵抗挙動をシミュレートする。シミュレーションモデルそのものに電圧源を組み込む利点は、この電圧源を利用して、劣化した状態が原因で接点によって取られるガルバニ電圧または他の電圧をモデル化できることである。このような電圧は、腐食または他の劣化状態によって生じ得るものであり、送信信号に大きな影響を及ぼす可能性がある。
【0012】
本方法は、シミュレートされた異なる接触抵抗に基づいて、システム、サブシステム、または回路上の劣化したコネクタ素子の影響を計算することができる。このことは、コネクタ素子の経年劣化に対して強固な回路を設計できる可能性を示唆する。
【0013】
システム、サブシステム、または回路上の劣化したコネクタ素子の影響を計算する必要性があるのは、上昇した抵抗の検出だけではむらが生じる場合があるためであり、このむらは、接触スポットが絶縁領域に移動したときに、その移動自体が、接触抵抗を急激に上昇させることになり、その後、接触スポットがさらに導電領域まで移動すると、良好な導電性が得られることに起因するからである。
【0014】
また、電気的特性は、劣化のメカニズムによって、必ずしも直ちに影響を受けるものではなく、これは、接点が、多くの場合、複数のコネクタ素子を並列に用いて設計されること、ならびに各コネクタ素子は、複数の接触スポットを含むことにより冗長なシステムが構築されている事実に起因する。
【0015】
本発明の主な利点は、本発明の方法が、システムまたはサブシステム上の劣化したコネクタ素子の影響を予測できることであり、この予測によって、例えば、ユーザは、移動などが原因で開放されたコネクタの影響と、システムの劣化が原因で開放されたコネクタの影響とを区別できるようになる。
【0016】
従って、本発明の方法を利用して、接点劣化の影響をシステムレベルで予測することができる。回路のシミュレーションに、毎回、例えば、それぞれ固有のパラメータ設定を用いて、本発明の方法を複数回繰り返して組み込むことで、大きなシステムの機能性に関して、接点劣化の複雑な相互作用的影響を把握できる能力が提供される。このような影響は、最新の他の方法によって予測できるものではない。
【0017】
本方法は、さまざまに調整できる少なくとも1つの抵抗器を利用して実行されるのが好ましく、該抵抗器が、電気コネクタ素子の劣化状態をシミュレートする。このことは、長さを調整できる指定の期間の間、抵抗を増やせることを意味する。この構成により、異なる劣化状態をシミュレートする。例えば、僅かに増加した抵抗は、表面膜の厚さの増加や、汚染物質/酸化物の量の増加に対応している場合がある。この場合、コネクタ素子は依然として閉じたままであるが、接続抵抗は増加し、この増加により、温度も上昇することになる。ただし、この温度上昇は、開放されたコネクタ素子によって引き起こされる温度上昇とは異なるものとなり、そのため、システムへの影響も異なるものとなり得る。
【0018】
本発明の他の好ましい実施形態において、本方法は、さらに、インダクタンスをシミュレートするインダクタ素子と、2つの接触面の間の静電容量をシミュレートするコンデンサ素子と、2つの抵抗器素子のうちの1つを選択するスイッチと、スイッチを制御するパルス発信源とのうちの少なくともいずれかを利用して実行される。これらの素子を利用することで、劣化状態のシミュレーションを微細に調整することができる。
【0019】
さらに、本方法は、コンピュータによって実行されることが好ましく、また、他の実施形態に示すように、抵抗器やインダクタなどの素子の挙動は、対応するコンピュータプログラムによって仮想的にシミュレートされて、例えば、デジタル/アナログ装置によって、アナログ信号に変換できることが好ましい。
【0020】
さらなる利点および好ましい実施形態は、従属請求項に定義される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、下記の図面の詳細な説明を参照することによって、より明確に理解されるものである。ただし、説明および図面は、好ましい実施形態を例示しただけのものであり、それらの実施形態に本発明を限定することを意図したものではない。
【0022】
図面は次のとおりである。
【0023】
図1に、システム、サブシステム、または回路上の劣化した電気コネクタの影響を予測する、本発明の方法を実行するシミュレーションモデルの好ましい実施形態を模式的に示した。
【0024】
このモデルは、6つの主要部品を含むことができ、そのうちの6個すべてを利用しても、またはそのうちの限定的組み合わせのみを利用してもよい。図1に示すように、このモデルは、ガルバニ電圧の挙動をシミュレートするための電圧源2と、コネクタ素子の挙動、特に、微小断線時の接触抵抗と直列抵抗とをそれぞれシミュレートするための2つの直列抵抗器4,6とを含む。このモデルは、微小断線の挙動をシミュレートするためのスイッチ8と、インダクタンスをシミュレートするためのインダクタ10と、静電容量をシミュレートするためのコンデンサ12と、該スイッチを制御するパルス源14とをさらに含む。
【0025】
微小断線とは、コネクタ素子の接続が短い間中断することであり、特に、接触スポットが絶縁領域に移動したときに、接触抵抗を急速に増加させ、その後、接触スポットがさらに導電領域に移動すると、良好な導電性を生じることになる移動によって引き起こされる。この短い中断、またはコネクタ素子の開放状態は、1マイクロ秒の10分の1の間しか続かないものであるが、例えば、デジタル通信を妨害する可能性のあるシステムへの大きな影響を与え得るものである。
【0026】
電圧源2は、定電圧源をシミュレートする。シミュレートされた電圧源は、物理的接触素子に表れるガルバニ電圧に対応する、パラメータ化された電圧になる。ガルバニ電圧は、一般に、2つの金属の間に生じ、その大きさは、接触要素の表面上の汚染物質または酸化物の増加量/減少量によって影響され得るものである。
【0027】
抵抗器4,6は、コネクタ素子内の典型的な抵抗をシミュレートする。この抵抗は、物理的接触要素に合わせて調整できるように、パラメータ化される。例えば、表面膜の厚さの増加や、摩耗による接触面の平坦さの低下によって抵抗が増加する場合は、単一の抵抗器4を利用することができ、その抵抗値は、増加/減少したコネクタ抵抗に合わせて調整することができる。
【0028】
これらの抵抗器が、微小断線をシミュレートすることを意図したものである場合は、異なる抵抗を持つ少なくとも2つの抵抗器であることが望ましい。図1に示すように、抵抗器4または6を選択するスイッチ8がさらに存在する。この2つの抵抗器4と6とを切り替えて、その結果、2つの抵抗の大きさを切り替えることによって、コネクタの良好な接続状態およびほぼ開放された状態をシミュレートできる。良好な接続状態は、非常に低い抵抗によってシミュレートされる。また、抵抗器が存在しない無抵抗状態(非常に良好な接続状態)と、抵抗状態とで切り替わる単一の抵抗器によって、微小断線をシミュレートすることも可能である。ただし、このシミュレーションモデルでは、閉じた接続状態にある、シミュレートされた無抵抗は調整可能ではないため、コネクタ素子の経年劣化による接続状態の低下を考慮することができない。
【0029】
スイッチ8は、パルス源14によって制御されて、ランダムまたは周期的なタイミング動作、あるいは任意の他の種類の関連タイミング動作を行うことができる。パルス源14は、自律的な要素であっても、または、シミュレーションを制御するプログラムを実行するコンピュータ内に組み込まれてもよい。
【0030】
また、前述の抵抗器およびスイッチを、トランジスタ内に組み込むこともできる。
【0031】
インダクタ10は、コネクタ素子内の直列インダクタンスをシミュレートし、コンデンサ12は、コネクタの2つの接触面の間の静電容量をシミュレートする。
【0032】
また、このシミュレーションモデルは、上昇した温度を有するシミュレーションモデル要素の材料特性を考慮して、抵抗器4および/または6の温度特性に拡張することもできる。
【0033】
さらに、図1のモデルは、劣化したコネクタ素子の影響をシミュレートする対象であるシステム、例えば車両や回路などに、当該モデルを接続するための結合点16を含む。図1の結合点18は、グラウンドとの接続を提供する。
【0034】
図2に、劣化した電気コネクタ素子をシミュレートする本方法の第2の好ましい実施形態を実行する、本発明に係るシミュレーションモデルを模式的に示す。このシミュレーションモデルには、さらに他の回路との結合点20が示されている。このさらに他の回路は、例えば、通信システムやセンサシステムであってよい。極めて好ましい実施形態において、接合点20は、エンジンに直接搭載されたセンサとの接続を提供する。これ以外の点において、図2のシミュレーションモデルは、図1のシミュレーションモデルと同様である。従って、図2の他の参照符号は、図1の参照符号と同一の意味を有する。
【0035】
シミュレートされる物理的コネクタ素子およびその環境に応じて、シミュレーションモデル内の1つまたは複数の部品を省略することができる。一方、複数のシミュレーションモデルの素子を直列または並列に接続して、多素子コネクタ内で失われた冗長性の影響をシミュレートすることも好ましい。これは、統計的手法を利用して実現できる。
【0036】
シミュレーションモデルの制御および/またはシミュレートされた劣化コネクタ素子の影響の計算は、コンピュータプログラムによって実行されてよい。また、シミュレーションモデルの1つ以上の素子を仮想的にシミュレートするコンピュータプログラムを利用することも好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】劣化した電気コネクタ素子をシミュレートする本方法の第1の好ましい実施形態を実行する、本発明に係る模式的シミュレーションモデルである。
【図2】劣化した電気コネクタ素子をシミュレートする本方法の第2の好ましい実施形態を実行する、本発明に係る模式的シミュレーションモデルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気素子、特に、コネクタ素子の経年劣化挙動の影響を予測する方法であって、
前記方法は、少なくとも1つの抵抗器素子と電圧源とを利用して、前記コネクタ素子の経年劣化によって引き起こされた劣化状態をシミュレートすること、を特徴とする前記方法。
【請求項2】
前記方法は、システム、サブシステム、および電気回路の少なくともいずれかの前記コネクタ素子の劣化状態の影響を、シミュレートされた前記劣化状態に基づいて計算する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抵抗器素子は、調整可能であり、かつ、前記コネクタ素子内の直列抵抗をシミュレートするものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、さらに、前記コネクタ素子の前記劣化状態をシミュレートする際に、
前記コネクタ要素内の直列インダクタンスをシミュレートするインダクタ素子と、
前記コネクタ素子の2つの接続面の間の静電容量をシミュレートするコンデンサ素子と、
抵抗素子を選択するスイッチとのうちの少なくともいずれかを利用する、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの抵抗器素子および前記スイッチは、1つの素子、好ましくはトランジスタとして設計される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記方法は、さらに、前記コネクタ素子の前記劣化状態を、前記スイッチを制御するパルス源を利用してシミュレートし、前記パルス源は、ランダム、周期的、または他のタイミング動作を有する、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記抵抗器素子は、さらに、前記コネクタ素子、前記インダクタ素子、および前記コンデンサ素子のうちの少なくともいずれかの温度特性をシミュレートする、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記コネクタ素子のシミュレートされた前記劣化状態は、前記コネクタ素子の経年劣化メカニズム、特に、力学的緩和、表面膜、酸化物、汚染物質、全面腐食、塑性変形、フレッチング腐食、疲労破損、異なる熱膨張、および振動のうちの少なくともいずれかに対応したものである、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、コンピュータによって実行される、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法を実行する少なくとも1つの要素は、対応する物理的要素の仮想モデルである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
コンピュータ上で実行され、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法を利用して、劣化したコネクタ素子の影響を予測するコンピュータプログラム。
【請求項12】
前記コンピュータプログラムは、コンピュータ可読媒体に格納される、請求項11に記載のコンピュータプログラム。
【請求項13】
請求項1から10のいずれか1項に記載の方法を利用して、劣化したコネクタ素子の影響を予測するコンピュータプログラムを含むコンピュータ可読媒体。
【請求項14】
少なくとも1つの抵抗器素子と電圧源とを含む、電気素子の経年劣化挙動をシミュレートするシミュレーションモデルであって、
前記電気素子は、コネクタ素子であり、
前記少なくとも1つの抵抗素器素子は、前記コネクタ素子の経年劣化によって引き起こされる劣化状態をシミュレートするように調整されることを特徴とするシミュレーションモデル。
【請求項15】
前記コネクタ素子内のインダクタンスをシミュレートするインダクタ素子と、
前記コネクタ素子の2つの接続面の間の静電容量をシミュレートするコンデンサ素子と、
抵抗素子を選択するスイッチと、
前記スイッチを制御するパルス源とのうちの少なくともいずれかを含み、前記パルス源は、ランダム、周期的、または他のタイミング挙動を有する、請求項14に記載のモデル。
【請求項16】
前記抵抗器および前記スイッチは、1つの素子、好ましくはトランジスタである、請求項15に記載のモデル。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−534650(P2009−534650A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−506446(P2009−506446)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際出願番号】PCT/SE2007/000375
【国際公開番号】WO2007/120104
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(502196511)ボルボ テクノロジー コーポレイション (52)
【Fターム(参考)】