説明

電気絶縁性樹脂組成物及び低耐圧ケーブル

【課題】 本発明は、燃焼時樹脂組成物のつぶれを抑えて耐火性の向上を図った電気絶縁性樹脂組成物を提供するものである。
【解決手段】 かゝる本発明は、エチレン・プロピレン・ジェン三元共重合体系樹脂100質量部と有機化処理の施された有機化無機充填剤(珪酸塩系無機充填剤である有機化クレイなど)1〜5質量部と充填剤(タルク、焼成クレイ、炭酸カルシウムの無機充填剤)100〜200質量部からなる電気絶縁性樹脂組成物にあり、これにより、樹脂組成物の機械的特性を維持しつつ、優れた耐火性を有する組成物を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼時樹脂組成物のつぶれを抑えて耐火性の向上を図った電気絶縁性樹脂組成物及びこれを用いた低圧耐火ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
導体上に耐火性の絶縁体を被覆させた低圧耐火ケーブルとしては、従来、絶縁体をシリコーン樹脂組成物を用いたものが提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−231885号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、シリコーン樹脂組成物は高価であり、ケーブルのコストダウンが困難であるという問題があった。
【0004】
そこで、本発明者等は、より安価な樹脂をベース樹脂として用いて、耐火性の優れた絶縁性樹脂組成物が得られないものかと、鋭意研究したところ、ベース樹脂としてエチレン・プロピレン・ジェン三元共重合体系樹脂(EPDM系樹脂)を用い、かつ、特定の無機充填剤を用いることにより、良好な機械的特性を失うことなく、良好な耐火性が得られることを見い出した。
【0005】
つまり、シリコーン樹脂組成物に替えて単に安価なEPDM系樹脂をベース樹脂として用い、シリコーン樹脂組成物と同様の耐火性を確保するには、大量のタルクなどの無機充填剤(EPDM系樹脂100質量部に対して200質量部超、例えば250質量部程度まで)を添加する必要があり、そうすると、十分な機械的特性を維持することができないという問題があった。
【0006】
この状況下で、本発明者等が、種々試験したところ、EPDM系樹脂100質量部に対して、有機化処理の施された有機化無機充填剤を比較的少量添加(1〜5質量部)すると、通常の無機充填剤の量を100〜200質量部に抑えることが可能となり、十分な機械的特性を維持したままで、良好な耐火性が得られることが分ったのである。
【0007】
本発明は、この観点に立ってなされたもので、基本的には、ベース樹脂をEPDM系樹脂とし、これに少量の有機化無機充填剤と通常の無機充填剤であるタルクなどの充填剤を添加することで、良好な機械的特性と耐火性を確保できる、電気絶縁性樹脂組成物及びこれを用いた低耐圧ケーブルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の本発明は、エチレン・プロピレン・ジェン三元共重合体系樹脂100質量部と有機化処理の施された有機化無機充填剤1〜5質量部と充填剤100〜200質量部からなることを特徴とする電気絶縁性樹脂組成物にある。
【0009】
請求項2記載の本発明は、前記有機化無機充填剤が、有機化クレイであることを特徴とする請求項1記載の電気絶縁性樹脂組成物にある。
【0010】
請求項3記載の本発明は、前記充填剤が、タルク、焼成クレイ、炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項1又は2記載の電気絶縁性樹脂組成物にある。
【0011】
請求項4記載の本発明は、前記請求項1〜3から選ばれる電気絶縁性樹脂組成物を、耐火絶縁体として被覆したことを特徴とする低圧耐火ケーブルにある。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電気絶縁性樹脂組成物によると、少なめの通常充填剤の他に、少量であるが有機化無機充填剤が添加してあるため、機械的特性などを損なうことなく、良好な耐火性が得られる。その理由はベース樹脂のEPDM系樹脂中に充填された有機化無機充填剤、例えば有機化クレイが、樹脂との相溶性がよく、ベース樹脂中にナノオーダで良好に分散される一方、燃焼時層状粘度鉱物である有機化クレイ中の有機物が炭化されて一種の殻を作るため、組成物の潰れが抑制されるようになるからと推測される。これによって、通常充填剤の添加量が少なめでも、良好な耐火性が得られるものと考えられる。この樹脂組成物の用途としては、特に限定されず、耐火性の求められる用途には、広く使用することができる。
【0013】
本発明の低圧耐火ケーブルによると、請求項1〜3から選ばれる電気絶縁性樹脂組成物を、耐火絶縁体として被覆してあるため、安価で、耐火性及び機械的特性に優れたケーブルが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のエチレン・プロピレン・ジェン三元共重合体系樹脂(EPDM系樹脂)は、エチレン・プロピレンと、1,4−ヘキサジェン・シクロペンタジェン・5−エチリデン−2−ノルボルネンなどの非共役ジェン成分の三元共重合体であり、ジェン成分の含有量が20以上の比較的高ジェンのものの使用が望ましい。それは高ジェン態様のものとすると、EPDM系樹脂組成物の硬度や破断強度を向上させることができるからである。また、このEPDM系樹脂には、必要に応じて、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系の樹脂を混合することができる。その場合のポリオレフィン系樹脂の配合量としては、EPDM系樹脂100質量部に対して、50質量部程度までとすることができるが、20質量部以下が好ましくい。その理由はこのような混合物とすることによって、耐熱性を向上させることができるからである。EPDM系樹脂の具体的な市販品としては、三井化学社製のEPT4021(商品名)を挙げることができる。
【0015】
本発明の電気絶縁性樹脂組成物では、ベース樹脂(EPDM系樹脂)を非架橋で用いることもできるが、架橋することが望ましい。その場合、架橋剤としては例えばジクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物が使用できる。また、他の使用可能な有機過酸化物としては、1,3−ビス(第三ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(第三ブチル)ヘキシン−3などがある。そして、その添加量は、特に制限されないが、EPDM系樹脂100質量部に対して0.5〜5質量部の添加量が好ましい。
【0016】
本発明で用いる有機化無機充填剤は、有機化処理の施されたものである。ここで、有機化処理とは、例えば、珪酸塩系の無機充填剤である有機化クレイを例にとると、クレイ層間に含まれる金属イオンを有機カチオンなどと交換(インターカレーション)する場合をいう。これにより、クレイ層間に有機物が侵入し層間が広げられる一方、ベース樹脂との相溶性が高められる。このクレイとしては、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライトなどを挙げることができる。また、インターカレーションする有機カチオンとしては、アンモニウムイオン、スルホニウムイオンなどを挙げることができる。そして、また、ベース樹脂中で良好な分散状態を得るためには、1000℃における強熱減量(JIS−A6201に準拠)が35%以上であるものが望ましい。このようなものの市販品としては、例えばNanofil948(商品名、ズードケミー触媒社製)、Nanmer(商品名、NANOCOR社製)などがある。
【0017】
ここで、その添加量を、EPDM系樹脂100質量部に対して1〜5質量部としたのは、1質量部未満では耐火性の向上効果が得られず、5質量部を超えるようになると、多過ぎて引張り伸びなどの機械的特性が低下するようになるからである。
【0018】
本発明で用いる通常の充填剤としては、タルク、焼成クレイ、炭酸カルシウムなどの無機充填剤を挙げることができる。これらの市販品としては、ミストロンベーパータルク(商品名、日本ミストロン社製)、バーゲスKE(焼成クレイ、商品名、白石カルシウム社製)、ズゴットー15(炭化カルシウム、商品名、白石工業社製)などがある。また、こられの無機充填剤としては、必要に応じて種々の表面処理を施したものを使用することもできる。
【0019】
そして、これらの充填剤量を、EPDM系樹脂100質量部に対して100〜200質量部としたのは、100質量部未満では、所望の耐火性が得られず、200質量部を超えるようになると、多過ぎて引張り破断強度(強さ)や引張り伸びなどの機械的特性が低下するようになるからである。
【0020】
上記した構成からなる本発明の電気絶縁性樹脂組成物には、必要によりその他の添加剤を適宜添加することができる。例えば上記したジクミルパーオキサイドなどの架橋剤、亜鉛華などの架橋助剤、水酸化マグネシウムなどの難燃剤、イルガノックス1010(商品名、チバスペシャルティケミカルズ社製)などの老化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、安定剤などである。
【0021】
図1は、本発明に係る低圧耐火ケーブルの一例を示したものである。図中、1は撚線などからなる例えば3本の導体、2は導体1の外周に被覆させた本発明の電気絶縁性樹脂組成物からなる耐火絶縁体、3はこの外周に被覆させたエラストマーなどの樹脂からなるシース、4は銅、鉄などからなるシールド層である。
【0022】
〈実施例、比較例〉
表1〜表2に示す配合からなる樹脂組成物(実施例1〜4、比較例1〜6)を用いて、先ず、表1〜表2の配合からなる樹脂組成物でシートを形成し、これを架橋(180°×40分)した後、厚さ2.0mmの試験片として各サンプルを製造した。そして、このサンプルの各試験片について、機械的特性を測定するため、引張り試験を行った。
【0023】
一方、断面積4mm2 の導体上に、表1〜表2の配合からなる樹脂組成物を、耐火絶縁体として厚さ1.0mmで被覆した後、架橋し、エラストマーのシース、銅製のシールド層を施して、図1と同構造をなす各サンプルの低圧耐火ケーブルを製造した。そして、このサンプルの各低圧耐火ケーブルについて、耐火試験を行った。
【0024】
なお、上記表1〜表2におけるEPDM系樹脂はEPT4021(商品名、三井化学社製)、タルクはミストロンベーパータルク(商品名、日本ミストロン社製)、有機化クレイ(有機化無機充填剤)はNanofil948(商品名、ズードケミー触媒社製)、亜鉛華、老化防止剤はイルガノックス1010(商品名、チバスペシャルティケミカルズ社製)である。また、上記引張り試験及び耐火試験は以下のようにして行い、その結果は表1〜表2に併記した。また、各表1〜表2中の配合量の数値は質量部数を示す。
【0025】
〈引張り試験〉
サンプルの各試験片について、JIS−K6251に準拠して行った。ここで、引張り破断強度は、4.3MPa以上の場合を合格として(○)で表示し、4.3MPa未満の場合を不合格として(×)で表示した。引張り伸びは、200%以上の場合を合格として(○)で表示し、200%未満の場合を不合格として(×)で表示した。
【0026】
〈耐火試験〉
サンプルの各ケーブルについて、IEC331に準拠して行った。ここで、90分燃焼後導体とシールド層との導通が見られなかった場合を合格として(○)で表示し、導体とシールド層との導通が発生した場合を不合格として(×)で表示した。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
上記の表1〜表2から明らかなように、本発明の電気絶縁性樹脂組成物及び低圧耐火ケーブル(実施例1〜4)では、全ての試験、即ち特性において合格であることが分る。
【0030】
これに対して、本発明の条件を欠く電気絶縁性樹脂組成物及び低圧耐火ケーブル(比較例1〜6)では、いずれの特性において問題があることが分る。
つまり、比較例1〜3では、有機化クレイが無添加であって、タルク(無機充填剤)の添加量が少ないため(100〜200質量部)、十分な耐火性が得られないことが分る。比較例4では、有機化クレイが無添加であっても、タルクの添加量が多いため(250質量部)ため、十分な耐火性が得られるものの、機械的特性が低下することが分る。比較例5では、有機化クレイの添加量が少ないため(0.5質量部)、タルクの添加量が適量であっても(150質量部)、十分な耐火性が得られないことが分る。比較例6では、タルクの添加量が適量であって(150質量部)、十分な耐火性が得られるものの、有機化クレイの添加量が多過ぎるため(7質量部)、機械的特性、特に引張り伸びが低下することが分る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る低圧耐火ケーブルの一例を示した縦断端面図である。
【符号の説明】
【0032】
1・・・導体、2・・・耐火絶縁体、3・・・シース、4・・・シールド層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・プロピレン・ジェン三元共重合体系樹脂100質量部と有機化処理の施された有機化無機充填剤1〜5質量部と充填剤100〜200質量部からなることを特徴とする電気絶縁性樹脂組成物。
【請求項2】
前記有機化無機充填剤が、有機化クレイであることを特徴とする請求項1記載の電気絶縁性樹脂組成物。
【請求項3】
前記充填剤が、タルク、焼成クレイ、炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項1又は2記載の電気絶縁性樹脂組成物。
【請求項4】
前記請求項1〜3から選ばれる電気絶縁性樹脂組成物を、耐火絶縁体として被覆したことを特徴とする低圧耐火ケーブル。


【図1】
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【公開番号】特開2007−169381(P2007−169381A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−366539(P2005−366539)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】