説明

電気絶縁用立体形状物及び電気絶縁性シート材

【課題】 立体加工時の成形性に優れ電気絶縁性の低下が抑制された電気絶縁用立体形状物を提供することを課題とする。
【解決手段】 電気絶縁性を有するシート材が少なくとも曲げ加工された電気絶縁用立体形状物であって、前記シート材が、分子中に窒素又は硫黄を有する熱可塑性樹脂を含むシート状の樹脂層と、該樹脂層の両面側にそれぞれ配されたシート状の保護層とを備えていることを特徴とする電気絶縁用立体形状物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁性を有するシート材が立体的に加工された電気絶縁用立体形状物に関する。また、立体的に加工されて立体形状物になる電気絶縁性シート材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電気絶縁用立体形状物としては、様々なものが知られており、具体的には例えば、コイルが巻かれて使用されるモーター用ボビンなどが知られている。
【0003】
斯かる電気絶縁用立体形状物としては、具体的には例えば、電気絶縁性を有する樹脂を含むシート状の樹脂層の両面側に樹脂層を保護する保護層が配され、3次元架橋などにより硬化する接着剤を介して樹脂層と保護層とが積層されたシート材を、曲げ加工によって立体的に加工し、立体的に加工した複数のシート材をさらにそれぞれの端部にて貼り合わせることによりボビン形状に成形したものが知られている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、特許文献1のごとく、複数のシート材を貼り合わせた電気絶縁用立体形状物においては、例えば、巻かれたコイルによる締め付け荷重、モーターの振動、又はコイルからの発熱などにより、モーター用ボビンにおける貼り合わせ部分の一部が剥がれ電気絶縁性が経時的に低下し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−263704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これに対して、貼り合わせ部分の剥がれを防止すべく、3次元架橋などにより硬化する接着剤を介して樹脂層と保護層とが積層されたシート材を、貼り合わせることなく、絞り加工などの曲げ加工により立体的形状に加工した電気絶縁用立体形状物が考えられる。
【0007】
斯かる電気絶縁用立体形状物は、複数のシート材を貼り合わせた部分を有さない分、経時的な電気絶縁性の低下が抑制されているものの、絞り加工などの曲げ加工に伴って接着剤が変形することが困難であるため、例えば、曲げ加工における力により樹脂層と保護層との間で層間剥離が生じるという問題がある。また、硬化した接着剤を含むため、曲げ加工後における硬化した接着剤の弾性回復により、例えば、シート材の曲げ加工後に所定の形状を保てない、即ち、加工時における金型の形状の転写精度が十分なものでないという問題がある。このように、斯かる電気絶縁用立体形状物は、経時的な電気絶縁性の低下が抑制されているものの立体加工時の成形性に必ずしも優れていないという問題がある。
【0008】
本発明は、上記問題点等に鑑みてなされたものであり、立体加工時の成形性に優れ電気絶縁性の低下が抑制された電気絶縁用立体形状物を提供することを課題とする。また、優れた立体加工時の成形性を有し電気絶縁性の低下が抑制された電気絶縁用立体形状物を製造できる電気絶縁性シート材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電気絶縁用立体形状物は、電気絶縁性を有するシート材が少なくとも曲げ加工された電気絶縁用立体形状物であって、前記シート材が、分子中に窒素又は硫黄を有する熱可塑性樹脂を含むシート状の樹脂層と、該樹脂層の両面側にそれぞれ配されたシート状の保護層とを備えていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る電気絶縁用立体形状物においては、前記樹脂層が、ポリアミド樹脂、ポリスルホン樹脂、及び、ポリフェニレンスルフィド樹脂からなる群より選択された少なくとも1種を前記熱可塑性樹脂として含んでいることが好ましい。前記樹脂層がポリアミド樹脂、ポリスルホン樹脂、及びポリフェニレンスルフィド樹脂からなる群より選択された少なくとも1種を含んでいることにより、前記シート材を曲げ加工したときの前記保護層と前記樹脂層との間の層間剥離がより抑制されるという利点がある。
【0011】
本発明に係る電気絶縁用立体形状物においては、前記ポリアミド樹脂が、分子中に芳香族炭化水素を有する芳香族ポリアミド樹脂であることが好ましい。前記ポリアミド樹脂が分子中に芳香族炭化水素を有する芳香族ポリアミド樹脂であることにより、前記シート材を曲げ加工したときの前記保護層と前記樹脂層との間の層間剥離がより抑制されるという利点がある。
【0012】
本発明に係る電気絶縁用立体形状物においては、前記ポリスルホン樹脂が、分子中に複数のエーテル結合をさらに有するポリエーテルスルホン樹脂であることが好ましい。また、前記ポリスルホン樹脂が、分子中に複数の芳香族炭化水素をさらに有するポリフェニルスルホン樹脂であることが好ましい。
【0013】
本発明に係る電気絶縁用立体形状物においては、前記樹脂層が熱可塑性エラストマー樹脂をさらに含んでいることが好ましい。また、前記熱可塑性エラストマー樹脂が、無水マレイン酸変性ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーであることが好ましい。
【0014】
本発明に係る電気絶縁用立体形状物においては、前記シート材の引張弾性率(MPa)と厚み(mm)との積が100MPa・mm〜750MPa・mmであることが好ましい。
【0015】
本発明に係る電気絶縁用立体形状物は、前記保護層が全芳香族ポリアミド又はポリエチレンテレフタレートを含んでいることが好ましい。斯かる構成により、前記シート材を曲げ加工したときの前記保護層と前記樹脂層との間の層間剥離がより抑制されるという利点がある。
【0016】
本発明に係る電気絶縁用立体形状物においては、前記保護層が、湿式抄紙法により作製された紙であることが好ましい。また、前記保護層が、全芳香族ポリアミド繊維を含む全芳香族ポリアミド紙又はポリエチレンテレフタレート繊維を含むポリエチレンテレフタレート紙であることが好ましい。
また、前記保護層が不織布であることが好ましい。
【0017】
本発明に係る電気絶縁用立体形状物は、前記保護層の少なくとも樹脂層側にコロナ処理が施されていることが好ましい。斯かる構成により、前記シート材を曲げ加工したときの前記保護層と前記樹脂層との間の層間剥離がより抑制されるという利点がある。
【0018】
本発明に係る電気絶縁用立体形状物は、モーターコイルの電気絶縁用途で使用されることが好ましい。
【0019】
本発明に係る電気絶縁性シート材は、少なくとも曲げ加工により立体形状物に加工される電気絶縁性シート材であって、分子中に窒素又は硫黄を有する熱可塑性樹脂を含むシート状の樹脂層と、該樹脂層の両面側にそれぞれ配されたシート状の保護層とを備えている。
【発明の効果】
【0020】
本発明の電気絶縁用立体形状物は、立体加工時の成形性に優れ電気絶縁性の低下が抑制されているという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】平板状のシート材が厚み方向に切断された断面を模式的に示した断面図。
【図2】シート材が曲げ加工された電気絶縁用立体形状物を斜め上方から見た様子を模式的に表した図。
【図3】シート材が貼り合わされて形成された電気絶縁用立体形状物を斜め上方から見た様子を模式的に表した図。
【図4】絶縁破壊電圧を測定するための電気絶縁用立体形状物の断面を模式的に表した図。
【図5】シート材が曲げ加工された電気絶縁用立体形状物を斜め上方から見た様子を模式的に表した図。
【図6】電気絶縁用立体形状物及び該電気絶縁用立体形状物を構成する部材を表した図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る電気絶縁用立体形状物及び電気絶縁性シート材の実施形態について説明する。
【0023】
本実施形態の電気絶縁用立体形状物は、電気絶縁性を有するシート材が少なくとも曲げ加工された電気絶縁用立体形状物であって、前記シート材が、分子中に窒素又は硫黄を有する熱可塑性樹脂を含むシート状の樹脂層と、該樹脂層の両面側にそれぞれ配されたシート状の保護層とを備えているものである。
【0024】
また、本実施形態の電気絶縁性シート材は、少なくとも曲げ加工により立体形状物に加工される電気絶縁性シート材であって、分子中に窒素又は硫黄を有する熱可塑性樹脂を含むシート状の樹脂層と、該樹脂層の両面側にそれぞれ配されたシート状の保護層とを備えているものである。
【0025】
先ず、前記電気絶縁性シート材(以下、単にシート材ともいう)について、1層の前記樹脂層と、該樹脂層の両面側にて前記樹脂層に接するように配された保護層とを備えたものを具体例として挙げ、図面を参照しながら詳しく説明する。
【0026】
図1は、前記樹脂層2の両面側に保護層3が配されたシート材1を厚み方向に切断した断面を模式的に示した断面図である。
図1に示すように、前記シート材1は、シート状の樹脂層2を介して、2層の保護層3が貼り合わされて形成されており、樹脂層2の両面に接するように2層の保護層3が配されている。即ち、樹脂層2と保護層3とが互いに接するように積層されている。
【0027】
前記シート材1は、引張弾性率(MPa)と厚み(mm)との積が750MPa・mm以下であることが好ましく、600MPa・mm以下であることがより好ましい。該積が750MPa・mm以下であることにより、前記シート材1を曲げ加工したときに前記樹脂層が加工時の力に応じて変形し、前記保護層3と前記樹脂層2との間の層間剥離が抑制されるという利点がある。また、前記シート材が加工後の所定形状を保つことができるという点で、引張弾性率(MPa)と厚み(mm)との積が100MPa・mm以上であることが好ましい。
【0028】
前記引張弾性率は、JIS K7161に基づいて23℃において引張試験を行って求めるものである。詳しくは、実施例に記載された方法によって測定することにより求めるものである。
【0029】
前記樹脂層2は、シート状に形成されており、分子中に窒素又は硫黄を有する熱可塑性樹脂を含んでいる。なお、前記樹脂層2は、分子中に窒素又は硫黄を有する熱可塑性樹脂以外の他の熱可塑性樹脂などを含み得る。
【0030】
前記分子中に窒素(N)を有する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂;分子中に複数の芳香族炭化水素とイミド結合とエーテル結合とを有するポリエーテルイミド(PEI)樹脂;分子中に複数のイミド結合及び複数のアミド結合を有する熱可塑性ポリアミドイミド樹脂;アクリロニトリルとブタジエンとスチレンとの共重合体(ABS樹脂)などの芳香族含有ビニル系樹脂等が挙げられる。なかでも、前記シート材1を立体的に加工するときの前記樹脂層2の成形性が良好なものになるという点で、ポリアミド樹脂が好ましい。
【0031】
前記分子中に硫黄(S)を有する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスルホン樹脂;分子中に複数の芳香族炭化水素及び複数のスルフィド結合(−S−)を有するポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂等が挙げられる。
【0032】
さらに、分子中に窒素又は硫黄を有する熱可塑性樹脂としては、分子中に窒素(N)含有極性官能基又は硫黄(S)含有極性官能基を有し、常温(20℃)にてゴム状弾性を示す熱可塑性エラストマー樹脂が挙げられる。
前記窒素(N)含有極性官能基としては、−NRR’、−NHR、−NH2、>C=N−、−CN、−NCO、−OCN、−SCN、−NO、−NO2、−CONH2、−CONHR、−CONH−、>C=NH等が挙げられる。なかでも、イソシアネート基(−NCO)、又は、−NRR’、−NHR、−NH2などのアミノ基が好ましい。
前記硫黄(S)含有極性官能基としては、−SH、−SO3H、−SO2H、−SOH、>C=S、−CH=S、−CSOR等が挙げられる。
なお、上記官能基におけるR、R’は、水素原子、アルキル基、アリール基等を示す。
前記熱可塑性エラストマー樹脂としては、具体的には、例えば、ポリウレタン系、ニトリル系、又はポリアミド系の各熱可塑性エラストマー樹脂などが挙げられる。
【0033】
前記熱可塑性樹脂としては、前記シート材1を曲げ加工したときの前記保護層3と前記樹脂層2との間の層間剥離がより抑制されるという点で、前記分子中に窒素を有する熱可塑性樹脂としての前記ポリアミド樹脂、又は、前記分子中に硫黄を有する熱可塑性樹脂としての前記ポリスルホン樹脂若しくは前記ポリフェニレンスルフィド樹脂が好ましい。即ち、前記熱可塑性樹脂としては、前記ポリアミド樹脂、前記ポリスルホン樹脂、及び前記ポリフェニレンスルフィド樹脂からなる群より選択された少なくとも1種が好ましい。
具体的には、前記樹脂層2は、前記シート材1を曲げ加工したときの前記保護層3と前記樹脂層2との間の層間剥離がより抑制されるという点で、前記ポリアミド樹脂を含んでいることが好ましい。また、前記ポリスルホン樹脂をさらに含んでいることがより好ましい。
前記熱可塑性樹脂が、比較的高い極性を有するポリアミド樹脂を含んでいることにより、前記樹脂層2がより前記保護層3と密着し得ることから、前記樹脂層2と前記保護層3との間の層間剥離がより抑制されるという利点がある。また、前記熱可塑性樹脂が、さらに前記ポリスルホン樹脂を含んでいることにより、前記樹脂層2の流動性がより安定なものになり、前記シート材1が立体形状物に加工されたときの形状の転写性がより優れたものになるという利点がある。また、前記樹脂層2がさらに耐熱性に優れたものになるという利点、具体的には、例えば、電気絶縁用立体形状物としてのモーター用ボビンが、電気絶縁性を維持しつつコイルから生じる熱に対してより耐性に優れたものになるという利点がある。
【0034】
前記ポリアミド樹脂は、少なくともポリアミン化合物とポリカルボン酸化合物とが脱水縮合により重合されてなるものである。
【0035】
前記ポリアミド樹脂としては、分子中に芳香族炭化水素を有する芳香族ポリアミド樹脂、分子中に炭化水素として脂肪族炭化水素のみを有する脂肪族ポリアミド樹脂が挙げられる。なかでも、前記樹脂層2がより耐熱性に優れたものになり得るという点で、分子中に芳香族炭化水素を有する芳香族ポリアミド樹脂が好ましい。前記ポリアミド樹脂が、分子中に芳香族炭化水素を有する芳香族ポリアミド樹脂であることにより、具体的には、例えば、電気絶縁用立体形状物としてのモーター用ボビンが、電気絶縁性を維持しつつコイルから生じる熱に対してより耐性に優れたものになるという利点がある。
【0036】
また、分子中に芳香族炭化水素を有する芳香族ポリアミド樹脂としては、分子中に炭化水素として芳香族炭化水素のみを有する全芳香族ポリアミド樹脂、分子中に炭化水素として脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素の両方を有する半芳香族ポリアミド樹脂等が挙げられる。
分子中に芳香族炭化水素を有する芳香族ポリアミド樹脂としては、樹脂層2が耐熱性に優れ、前記保護層3との間でより層間剥離しにくくなるという点で、前記半芳香族ポリアミド樹脂が好ましい。
【0037】
前記ポリアミド樹脂の重合において用いられる前記ポリアミン化合物としては、具体的には、例えば、ジアミン化合物が挙げられる。
該ジアミン化合物としては、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を含む脂肪族ジアミン、環状の飽和炭化水素基を含む脂環族ジアミン、芳香族炭化水素基を含む芳香族ジアミンなどが挙げられる。
【0038】
前記脂肪族ジアミン、前記脂環族ジアミン、又は前記芳香族ジアミンとしては、例えば、下記式(1)で表されるものが挙げられる。なお、下記式(1)中のR1は、炭素数4〜12の脂肪族炭化水素基、若しくは環状飽和炭化水素を含む炭素数4〜12の脂環族炭化水素基を表しているか、又は、芳香族環を含む炭化水素基を表している。
2N−R1−NH2 ・・・(1)
【0039】
前記脂肪族ジアミンとしては、樹脂層2の電気絶縁性がより優れたものになり得るという点で、式(1)においてR1の炭素数が9のノナンジアミンが好ましく、1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンを混合したものがより好ましい。
前記芳香族ジアミンとしては、フェニレンジアミン、キシリレンジアミンなどが挙げられる。
【0040】
前記ポリアミド樹脂の重合において用いられる前記ポリカルボン酸化合物としては、具体的には、例えば、ジカルボン酸化合物が挙げられる。
該ジカルボン酸化合物としては、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を含む脂肪族ジカルボン酸、環状の飽和炭化水素基を含む脂環族ジカルボン酸、芳香族炭化水素基を含む芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0041】
前記脂肪族ジカルボン酸、前記脂環族ジカルボン酸、又は前記芳香族ジカルボン酸としては、例えば、下記式(2)で表されるものが挙げられる。なお、下記式(2)中のR2は、炭素数4〜25の脂肪族炭化水素基、若しくは環状飽和炭化水素を含む炭素数4〜12の脂環族炭化水素基を表しているか、又は、芳香族環を含む炭化水素基を表している。
HOOC−R2−COOH ・・・(2)
【0042】
前記脂肪族ジカルボン酸としては、アジピン酸、セバシン酸などが挙げられる。
前記芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、メチルテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、該芳香族ジカルボン酸としては、前記ポリアミド樹脂の耐熱性がより優れたものになり得るという点で、テレフタル酸が好ましい。
【0043】
前記ポリアミド樹脂は、上述したジアミン化合物の1種とジカルボン酸化合物の1種とが重合してなるものであってもよく、それぞれの化合物の複数種を組み合わせて重合してなるものであってもよい。また、要すれば、ジアミン化合物とジカルボン酸化合物以外のものがさらに重合されてなるものであってもよい。
【0044】
前記ポリアミド樹脂としては、上述したように前記半芳香族ポリアミド樹脂が好ましく、該半芳香族ポリアミド樹脂としては、ジアミン化合物としての脂肪族ジアミンと、ジカルボン酸化合物としての芳香族ジカルボン酸とが重合してなるものがより好ましく、脂肪族ジアミンとしてのノナンジアミンと、芳香族ジカルボン酸としてのテレフタル酸とが重合してなるもの(PA9T)が特に好ましい。
【0045】
前記樹脂層2においては、前記ポリアミド樹脂の含有割合が1重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましい。また、90重量%以下であることが好ましく、70重量%以下であることがより好ましい。
前記ポリアミド樹脂の含有割合が1重量%以上であることにより、前記シート材1を曲げ加工したときの前記保護層3と前記樹脂層2との間の層間剥離がより抑制されるという利点がある。また、前記ポリアミド樹脂の含有割合が90重量%以下であることにより、絞り加工などの曲げ加工において、前記樹脂層2の流動性がより安定なものになり、前記シート材1が立体形状物に加工されたときの形状の転写性がより優れたものになるという利点がある。
【0046】
前記ポリスルホン樹脂は、分子中に複数のスルホニル基を有するものである。即ち、スルホニル基(−SO2−)を複数含む分子構造を有するものである。
該ポリスルホン樹脂としては、分子中に複数のエーテル結合(−O−)をさらに有するポリエーテルスルホン樹脂、又は、分子中に複数の芳香族炭化水素をさらに有するポリフェニルスルホン樹脂などが挙げられる。また、該ポリスルホン樹脂としては、分子中に複数のエーテル結合と複数の芳香族炭化水素とをさらに有するポリエーテルポリフェニルスルホン樹脂が挙げられる。
【0047】
前記ポリスルホン樹脂としては、前記シート材1を立体的に加工するときの前記樹脂層2の成形性が良好なものになるという点で、ポリエーテルスルホン樹脂又はポリフェニルスルホン樹脂が好ましく、前記ポリエーテルポリフェニルスルホン樹脂がより好ましい。
【0048】
前記ポリエーテルポリフェニルスルホン樹脂としては、下記式(3)の分子構造を有するものが好ましい。
【0049】
【化1】

【0050】
前記ポリエーテルポリフェニルスルホン樹脂としては、市販されているものを用いることができ、例えば、BASF社製の「ウルトラゾーンEシリーズ」、ソルベイ社製の「レーデルAシリーズ」、住友化学社製の「スミカエクセルシリーズ」等が挙げられる。
【0051】
前記樹脂層2においては、前記ポリスルホン樹脂の含有割合が20重量%以上であることが好ましく、40重量%以上であることがより好ましい。また、前記ポリスルホン樹脂の含有割合が90重量%以下であることが好ましく、70重量%以下であることがより好ましい。
前記ポリスルホン樹脂の含有割合が20重量%以上であることにより、樹脂層2の耐熱性がより優れたものになるという利点がある。また、前記ポリスルホン樹脂の含有割合が90重量%以下であることにより、前記樹脂層2がより前記保護層3と密着し得ることから、前記樹脂層2と前記保護層3との間の層間剥離がより抑制されるという利点がある。
【0052】
前記他の熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、例えば、分子中に複数のオキシメチレン(−CH2O−)基を有するポリアセタール(POM)樹脂;ビスフェノール類とエピクロルヒドリンとが反応してなる熱可塑性のポリヒドロキシポリエーテルフェノキシ樹脂;分子中で芳香族炭化水素−エーテル結合の基本構造が繰り返されてなるポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂などのポリフェニレンオキシド(PPO)樹脂;分子中で芳香族炭化水素−エーテル結合−芳香族炭化水素−ケトン結合の基本構造が繰り返されてなる芳香族ポリエーテルケトン(PEK)樹脂;分子中で芳香族炭化水素−エーテル結合−芳香族炭化水素−エーテル結合−芳香族炭化水素−ケトン結合の基本構造が繰り返されてなる芳香族ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリシクロオレフィンなどのポリオレフィン樹脂;ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂などのポリエステル樹脂;ポリカーボネート(PC)樹脂;液晶ポリマー(LCP)等が挙げられる。
【0053】
さらに、前記他の熱可塑性樹脂としては、常温(20℃)にてゴム状弾性を示す熱可塑性エラストマー樹脂が挙げられる。
【0054】
該熱可塑性エラストマー樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系、ポリエステル系の各熱可塑性エラストマー樹脂などが挙げられ、具体的には、例えば、ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、スチレン・ブタジエン系熱可塑性エラストマー、又は、スチレン・イソプレンブロックコポリマーなどが挙げられる。
また、該熱可塑性エラストマー樹脂としては、−COOH(カルボキシル基)、カルボキシル基の酸無水物基、−OH、>C=O、−CH=O、−COOR(Rは、水素原子、アルキル基、アリール基等を示す)、エポキシ基、又は、ハロゲン基などの極性官能基を分子中に有するものなどが挙げられる。
前記極性官能基としては、カルボキシル基、カルボキシル基の酸無水物基、ヒドロキシ基(−OH)などが好ましく、カルボキシル基の酸無水物基がより好ましく、マレイン酸の酸無水物(無水マレイン酸基)がさらに好ましい。
【0055】
前記熱可塑性エラストマー樹脂としては、シート材1の引張弾性率がさらに小さくなり、前記シート材1を立体的に加工するときの成形性がさらに良好なものになるという点で、分子中に極性官能基を有する熱可塑性エラストマー樹脂が好ましく、無水マレイン酸変性ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーがより好ましい。
【0056】
前記無水マレイン酸変性ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、前記シート材1を立体的に加工するときの前記樹脂層2の成形性がさらに良好なものになるという点で、エチレン−プロピレン無水マレイン酸変性共重合体が好ましい。
【0057】
前記樹脂層2においては、前記熱可塑性エラストマー樹脂の含有割合が0.1重量%以上であることが好ましく、0.5重量%以上であることがより好ましい。また、前記熱可塑性エラストマー樹脂の含有割合が5.0重量%以下であることが好ましく、4.0重量%以下であることがより好ましい。
前記熱可塑性エラストマー樹脂の含有割合が0.1重量%以上であることにより、シート材1の引張弾性率がより小さくなり、前記シート材1を立体的に加工するときの成形性がより良好なものになるという利点がある。また、前記熱可塑性エラストマー樹脂の含有割合が5.0重量%以下であることにより、樹脂層2の耐熱性がより優れたものになり得るという利点がある。
【0058】
前記樹脂層2の厚みは、特に限定されるものではなく、通常、1μm〜500μmである。
【0059】
前記樹脂層2には、本発明の効果を損ねない範囲において、種々の添加剤が配合されていても良い。
該添加剤としては、例えば、アルキルフェノール樹脂、アルキルフェノール−アセチレン樹脂、キシレン樹脂、クマロン−インデン樹脂、テルペン樹脂、ロジンなどの粘着付与剤、ポリブロモジフェニルオキサイド、テトラブロモビスフェノールAなどの臭素系難燃剤、塩素化パラフィン、パークロロシクロデカンなどの塩素系難燃剤、リン酸エステル、含ハロゲンリン酸エステルなどのリン系難燃剤、ホウ素系難燃剤、三酸化アンチモンなどの酸化物系難燃剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの水和金属化合物、フェノール系、リン系、硫黄系の酸化防止剤、シリカ、クレー、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化硼素、窒化珪素、窒化アルミニウムといった無機フィラー、ガラス繊維などの無機繊維、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、顔料、架橋剤、架橋助剤、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などの一般的なプラスチック用配合成分などが挙げられる。また、芳香族ポリアミド繊維、数nm〜数百nmの粒径のモンモリロナイトなどが挙げられる。これら添加剤は、前記熱可塑性樹脂100重量部に対して、例えば0.1〜5重量部用いることができる。
【0060】
前記保護層3は、前記樹脂層2を保護するものである。前記シート材1においては、前記樹脂層2の両面側に前記保護層3があるため、シート材1が曲げ加工により立体的に成形されるときに、樹脂層2の表面が曲げ加工により損傷することが抑制される。
前記保護層3は、シート状のものであれば特に限定されない。
また、前記保護層3は、厚みが特に限定されるものではなく、通常、10〜100μmである。
【0061】
前記保護層3としては、例えば、不織布、紙、又はフィルム等が挙げられる。前記保護層3としては、電気絶縁用立体形状物の電気絶縁性がより優れたものになるという点で、不織布又は紙が好ましい。
【0062】
前記保護層3としては、湿式抄紙法により作製されたもの、大気中で乾式法により作製されたものなどが挙げられる。
前記保護層3としては、電気絶縁用立体形状物の電気絶縁性がより優れたものになるという点で、湿式抄紙法により作製された紙が好ましい。
【0063】
前記保護層3の材質としては、ポリアミド、ポリエステルなどの合成高分子化合物、セルロースなどの天然高分子化合物等が挙げられ、電気絶縁用立体形状物の電気絶縁性に優れ、しかも前記シート材1を曲げ加工したときの前記保護層3と前記樹脂層2との間の層間剥離がより抑制されるという点で、ポリアミド又はポリエステルが好ましい。
【0064】
該ポリアミドとしては、構成モノマーの全てが芳香族炭化水素を有する全芳香族ポリアミド、構成モノマーの全てが脂肪族炭化水素のみを有する脂肪族ポリアミド、構成モノマーの一部が芳香族炭化水素を有する半芳香族ポリアミドなどが挙げられ、電気絶縁用立体形状物の電気絶縁性に優れ、しかも前記シート材1を曲げ加工したときの前記保護層3と前記樹脂層2との間の層間剥離がさらに抑制されるという点で、全芳香族ポリアミドが好ましい。即ち、前記保護層3は、前記全芳香族ポリアミドを含んでいることが好ましい。
【0065】
また、前記保護層3としては、電気絶縁用立体形状物の電気絶縁性がより優れたものになるという点で、全芳香族ポリアミド繊維を含む全芳香族ポリアミド紙がさらに好ましい。即ち、全芳香族ポリアミド繊維を用いて湿式抄紙法により作製された全芳香族ポリアミド紙がさらに好ましい。
【0066】
前記全芳香族ポリアミド紙としては、例えば、アミド基以外がベンゼン環で構成された、フェニレンジアミンとフタル酸との縮合重合物(全芳香族ポリアミド)を繊維化し、繊維化した全芳香族ポリアミド繊維を主たる構成材として形成されたものが挙げられる。
前記全芳香族ポリアミド紙は、力学的特性に優れ、電気絶縁用立体形状物の製造工程におけるハンドリングが良好であるという点で、坪量が5g/m2以上であることが好ましい。坪量が5g/m2以上であることにより、力学的強度の不足が抑制され電気絶縁用立体形状物の製造中に破断しにくいという利点がある。
なお、前記全芳香族ポリアミド紙には、本発明の効果を損なわない範囲において他の成分を加えることができ、該他の成分としては、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリエステル繊維、アリレート繊維、液晶ポリエステル繊維、ポリエチレンナフタレート繊維などの有機繊維、又は、ガラス繊維、ロックウール、アスベスト、ボロン繊維、アルミナ繊維などの無機繊維が挙げられる。
前記全芳香族ポリアミド紙としては、例えば、デュポン社より商品名「ノーメックス」で市販されているもの等を用いることができる。
【0067】
一方、前記保護層3の材質として挙げられるポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどが挙げられる。該ポリエステルとしては、柔軟性に優れるという点、前記シート材1を曲げ加工したときの前記保護層3と前記樹脂層2との間の層間剥離がさらに抑制されるという点で、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。即ち、前記保護層3は、ポリエチレンテレフタレートを含んでいることが好ましく、前記保護層3としては、ポリエチレンテレフタレート繊維を含むポリエチレンテレフタレート紙が好ましい。
前記ポリエチレンテレフタレート紙としては、例えば、デュポン社より商品名「ノーメックスLT」で市販されているもの等を用いることができる。
【0068】
前記保護層3の樹脂層2側には、コロナ処理が施されていることが好ましい。該コロナ処理が施されていることにより、保護層3と樹脂層2との間における層間剥離がより抑制され得るという利点がある。
前記コロナ処理は、樹脂層2と接する保護層3の一方の面に放電処理を行い、極性を持つカルボキシル基や水酸基を生成させ粗面化する処理である。前記コロナ処理においては、従来公知の一般的な方法を採用することができる。
【0069】
前記シート材1は、樹脂層2の両面に接するように保護層3が配され、しかも前記樹脂層2及び前記保護層3の各凝集破壊力より、前記樹脂層2と前記保護層3との間の層間接着力が大きくなるように構成されていることが好ましい。斯かる構成により、前記樹脂層2と前記保護層3との間における層間剥離が抑制される。
【0070】
前記シート材1は、JIS K6911に基づいて測定した電気絶縁性の指標としての絶縁破壊電圧(BDV)の値が、通常、2kV以上のものである。
【0071】
前記シート材1は、分子架橋により硬化した樹脂を含む層を備えていないことが好ましい。即ち、3次元架橋により硬化した樹脂を含む層を備えていないことが好ましい。斯かる層を備えていないことにより、シート材1を曲げ加工したときの形状転写性がより優れたものになるという利点がある。
【0072】
前記シート材1は、前記樹脂層2の融点が前記保護層3の融点以下であることが好ましい。前記樹脂層2の融点が前記保護層3の融点以下であることにより、例えば加熱を伴う絞り加工などの曲げ加工時において、前記樹脂層2の熱変形がより安定的なものになり、前記樹脂層2の流動性がより安定的なものになるという利点がある。また、絞り加工などの曲げ加工後において、前記シート材1の寸法安定性がより優れたものになるという利点がある。
【0073】
前記シート材1は、前記保護層3が前記合成高分子化合物を含み、前記樹脂層2に含まれている熱可塑性樹脂を構成する少なくとも1種の構成単位と、前記保護層3に含まれている前記合成高分子化合物を構成する少なくとも1種の構成単位とが同じであることが好ましい。具体的には、樹脂層2及び保護層3のそれぞれに含まれている熱可塑性樹脂又は合成高分子化合物を構成する少なくとも1種の構成単位が、ともにアミド基、カルボキシル基、又はヒドロキシ基であることが好ましく、アミド基であることがより好ましい。
【0074】
次に、前記電気絶縁用立体形状物について、図面を参照しながら説明する。図2は、前記電気絶縁用立体形状物の一具体例を斜め上方側から見た斜視図である。
【0075】
前記電気絶縁用立体形状物10は、図2に示すように、前記シート材1が少なくとも曲げ加工されることにより、立体的な形状に形成されている。
前記電気絶縁用立体形状物10としては、具体的には例えば、図2に示すように、上方視矩形状の前記シート材1において、対向する辺に沿ったシート材1の端部が該辺に沿って、絞り加工などによって曲げ加工されたもの等が挙げられる。
【0076】
前記電気絶縁用立体形状物10としては、複数の前記シート材1が貼り合わされることなく曲げ加工によって立体的に加工されたものが好ましい。即ち、1枚の前記シート材1が絞り加工などの曲げ加工によって立体的に加工されたものが好ましい。1枚の前記シート材1が立体的に加工されていることにより、シート材1同士を貼り合わせた部分がないため、貼り合わせ部分の剥がれが生じない。具体的には例えば、1枚の前記シート材1が立体的に加工された前記電気絶縁用立体形状物10は、モーターコイルにおける電気絶縁用途にて使用した場合、モーターコイルからの熱、又はモーターの振動などによる貼り合わせ部分の剥がれが生じない。従って、貼り合わせ部分が剥がれることによる漏電が生じず、貼り合わせ部分を有さない分、電気絶縁用立体形状物10の電気絶縁性がより優れたものになる。
【0077】
前記電気絶縁用立体形状物10は、JIS K6911に基づいて測定した電気絶縁性の指標としての絶縁破壊電圧(BDV)の値が、通常、2kV以上のものである。
【0078】
前記電気絶縁用立体形状物10は、モーターコイルの電気絶縁用途に使用されることが好ましい。
【0079】
続いて、前記電気絶縁用立体形状物10の製造方法について説明する。
【0080】
前記電気絶縁用立体形状物10は、前記シート材1を作製した後に、該シート材1を曲げ加工することにより製造することができる。
【0081】
前記シート材1の前記樹脂層2は、前記熱可塑性樹脂を所定温度に加熱しながら撹拌したものを、従来公知の一般的な方法によってシート状に成形することにより作製することができる。具体的には、例えば、ニーダー、加圧ニーダー、混練ロール、バンバリーミキサー、二軸押し出し機などの一般的な混合手段により加熱しながら撹拌したものを、T−ダイを取り付けた押出機によってシート状に押し出すこと等により作製することができる。
前記シート材1の保護層3としては、例えば、市販されているシート状の紙や不織布を用いることができる。
そして、前記シート材1は、例えば、2枚の保護層3で樹脂層2を挟み込んだ状態のものを押圧することなどにより作製することができる。
さらに、様々な方法によって前記シート材1を立体的な形状に曲げ加工することにより、前記電気絶縁用立体形状物10を製造することができる。
前記シート材1の曲げ加工の方法としては、具体的には例えば、折り曲げ加工、絞り加工などが挙げられる。前記絞り加工においては、例えば、加熱プレス加工、真空成形加工、圧空成形加工、真空圧空成形加工等を採用することができる。
なお、前記電気絶縁用立体形状物10は、前記シート材1を作製しつつ製造することができる。即ち、前記シート材1を所定の立体的な形状になるように作製することにより、立体的な形状を有する電気絶縁用立体形状物10を製造することができる。
【0082】
前記電気絶縁用立体形状物10は、電気絶縁性を有する点を利用して、例えば、自動車などにおけるモーター用の電気絶縁用部材、変圧器(トランス)用の電気絶縁用部材、バスバー用の電気絶縁用部材などにおいて使用することができる。
【0083】
本実施形態の電気絶縁用立体形状物は、上記例示の通りであるが、本発明は、上記例示の電気絶縁用立体形状物及び電気絶縁性シート材に限定されるものではない。
また、一般の電気絶縁用立体形状物及び電気絶縁性シート材において用いられる種々の態様を、本発明の効果を損ねない範囲において、採用することができる。
【0084】
例えば、上記実施形態では、シート状の樹脂層の両面側にそれぞれ1層の保護層が配されてなるシート材(図1に図示)を立体的な形状に加工した電気絶縁用立体形状物について説明したが、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、2層の保護層の間に複数の樹脂層を備えたシート材を立体的に加工したものであってもよい。
【実施例】
【0085】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0086】
(実施例1)
まず、下記の原料を用意した。
・ポリアミド(PA)樹脂(構成モノマー:
ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、テレフタル酸)
(デュポン社製 商品名「ザイテルHTN501」)
・熱可塑性のポリヒドロキシポリエーテルフェノキシ樹脂
(ビスフェノール類とエピクロルヒドリンとが反応したもの、
重量平均分子量:52000)
(東都化成社製 商品名「フェノトートYP−50S」)
次に、「ザイテルHTN501」(PA樹脂)/「フェノトートYP−50S」(ポリヒドロキシポリエーテルフェノキシ樹脂)=60/40の重量比になるように、2軸混練機(テクノベル社製)を用いて310℃で混合し、樹脂混合物を調製した。
続いて、樹脂混合物を押出成形により310℃で70μm厚のシート状に成形して樹脂層を形成した。
一方、2枚の全芳香族ポリアミド紙(デュポン社製 商品名「ノーメックスT410」厚み50μm)を保護層として用意した。さらに、それぞれの保護層の樹脂層と接する側の面には、コロナ処理を施した。コロナ処理は、機器としてPILLAR TECHNOLOGIES社製「500シリーズ」を用いて、大気圧下で、出力500W、処理速度4m/分、試料幅0.4mの条件により行った。
そして、作製した樹脂層の両面側に2枚の全芳香族ポリアミド紙を配置した状態のものを2枚の金属板で挟み、350℃に加熱した熱プレス機を用いて、圧力200N/cm2で60秒間プレスし、樹脂層の両面側に2枚の保護層を備えた170μm厚のシート材を作製した。
作製したシート材を真空圧空成形機(トーコー社製)によって絞り加工することにより、シート材を立体的形状に加工した。加工条件は、加熱温度400℃、圧力0.08MPa、絞り深さ7mm、幅35mmとした。このようにして、図2に示す形状の電気絶縁用立体形状物を製造した。
【0087】
(実施例2)
まず、下記の原料を用意した。
・ポリスルホン樹脂:ポリエーテルポリフェニルスルホン樹脂(PES)樹脂
(分子中にスルホニル基、エーテル結合、及び芳香族炭化水素を複数有し且つ式(3)の分子構造を有する)
(ソルベイ社製 商品名「レーデルA−300A」)を用いた。
・5重量%濃度の無水マレイン酸変性ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーと、
95重量%濃度のポリアミド(PA)樹脂との混合物
(クラレ社製 商品名「ジェネスタN1001A」)
(無水マレイン酸変性ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー;
エチレン−プロピレン無水マレイン酸変性共重合体(EPMA))
(PA樹脂;分子中にテレフタル酸単位及びノナンジアミン単位を有するPA9T)
次に、PES樹脂、PA樹脂、及びEPMAがPES/PA/EPMA=80/19/1の重量比になるように、2軸混練機(テクノベル社製)を用いて310℃で混合し、樹脂混合物を調製した。
続いて、樹脂混合物を押出成形により310℃で100μm厚のシート状に成形して樹脂層を形成した。
その後、実施例1と同様にして200μm厚のシート材を作製し、さらに、実施例1と同様にして電気絶縁用立体形状物を製造した。
【0088】
(実施例3)
分子中に複数の芳香族炭化水素及び複数のスルフィド結合(−S−)を有するポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂フィルム(100μm厚)の両面側に、保護層としての2枚の全芳香族ポリアミド紙(デュポン社製 商品名「ノーメックスT410」厚み50μm)を貼り合わせて形成された厚み200μmのシート材(河村産業社製 商品名「NSN242」)を用いて、実施例1と同様にして電気絶縁用立体形状物を製造した。
【0089】
(実施例4)
樹脂層として実施例2と同様にして作製したものを用い、保護層として2枚のポリエチレンテレフタレート紙(デュポン社製 商品名「ノーメックスLT」厚み60μm)を用いた点以外は、実施例1と同様にして電気絶縁用立体形状物を製造した。
【0090】
(比較例1)
下記の原材料を用意した。
・ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム
(帝人デュポンフィルム社製 商品名「テオネックスQ51 125μm」)
・接着剤 ポリアクリル系架橋型接着剤(日東シンコー社製」)
・全芳香族ポリアミド紙
(デュポン社製 商品名「ノーメックスT410」厚み50μm)
上記フィルムの両面に、硬化後の厚みが30μmとなるように上記の接着剤を塗工し、120℃で3分間の乾燥条件の置き、さらに上記のポリアミド紙を貼り付け、90℃で0.2MPaの加圧条件にて加圧した。そして、130℃で24時間経過させる硬化条件により接着剤を硬化させ、285μm厚のシート材を作製した。
作製したシート材を実施例1と同様にして立体的形状に加工することにより、立体形状物を製造した。
【0091】
(比較例2)
厚み75μmの同様なPENフィルムを用いた点、厚み75μmの同様なポリアミド紙を用いた点、硬化後の厚みが15μmとなるように上記の接着剤を塗工した点以外は、比較例1と同様にして255μm厚のシート材を作製し、さらに該シート材を実施例1と同様にして立体的形状に加工することにより、立体形状物を製造した。
【0092】
(比較例3)
厚み75μmの同様なPENフィルムを用いた点、厚み75μmの同様なポリアミド紙を用いた点、硬化後の厚みが15μmとなるように接着剤を塗布した点以外は、比較例1と同様にして255μm厚のシート材を作製した。
さらに、製造したシート材を適当な大きさに切断し、上記と同様にして真空成形加工することにより、図3に示すようなA、B、及びCの各シート材を用意した。そして、各シート材を図3に示すように配置して、上記のポリアクリル系架橋型接着剤を用いて、比較例1と同様な加圧条件及び硬化条件により、各シート材を貼り合わせた。
【0093】
<シート材の引張弾性率の測定>
JIS K7161に準じて、23℃において、引張速度200mm/分、標線100mmの引張条件にて、シート材の押出方向(MD方向)及びその直交方向(TD方向)について引張弾性率をそれぞれ測定した。測定した引張弾性率にシート材の厚みを引張弾性率に積算し、引張弾性率×厚み(MPa・mm)の値を算出した。
【0094】
<形状転写性の評価>
シート材を加工した後における転写された形状の精度を目視で観察することにより、成形性を評価した。
全体的に形状が転写されている:○
部分的に形状が転写されている:△
形状が転写されていない:×
【0095】
<層間剥離の評価>
シート材を加工した後の様子を目視により観察し、層間剥離の程度を確認することにより成形性を評価した。
層間剥離なし:○
部分的な浮きやしわが発生している:△
全体的に浮きやしわが発生している:×
【0096】
<耐荷重変形性の評価>
図4に示すように、製造した立体形状物を配置し、上方側から500gの荷重(E)をかけた状態で200℃にて1時間放置した。その後、目視により状態を観察した。
変形なし:○
部分的に変形しているか又は部分的に貼り合わせ部分が浮いている:△
全体的に変形しているか又は全体的に貼り合わせ部分が浮いている:×
【0097】
<絶縁破壊電圧(BDV)保持率の評価>
上記の耐荷重変形性の試験前後の立体形状物において、図4のDに示す傾斜部分の絶縁破壊電圧(BDV)をJIS K6911に基づいて測定した。
上記の耐荷重変形性の試験前のBDV値を初期値とし、該初期値に対する上記の耐荷重変形性の試験後のBDV値を保持率として算出した。
【0098】
各評価試験の結果を表1に示す。
【0099】
【表1】

【0100】
(実施例5)
まず、実施例1と同様にして170μm厚のシート材を作製した。
次に、作製したシート材を真空圧空成形機(トーコー社製)によって絞り加工することにより、シート材を立体的形状に加工した。加工条件は、加熱温度400℃、圧力0.08MPa、絞り深さ7mm、長辺100mm、短辺35mmとした。このようにして、シート材を貼り合わせることなく立体的に加工された電気絶縁用立体形状物を製造した。即ち、上方側から見て矩形の底部及び該底部の周方向に沿った端縁から上方側へ延びた側壁部を有する箱部材(F)と、該箱部材の周方向に沿った上端から外方側へ延びたフランジ部材(G)とを備えた図5に示す形状の電気絶縁用立体形状物を製造した。
【0101】
(実施例6)
実施例2と同様にして作製したシート材を用いた点以外は、実施例5と同様にして、図5に示す形状の電気絶縁用立体形状物を製造した。
【0102】
(比較例4)
図6(a)に示す立体形状物を構成する箱部材F及びフランジ部材Gを貼り合わせることにより立体形状物を製造すべく、比較例3で作製したシート材を適当な大きさに切断した。即ち、図6(b)に示す形状となるようにシート材を切り出し、図6(b)に示す破線に沿って折り曲げ、側壁部に取り付けられた接着部分Hを、隣接する側壁部に貼り付けることにより箱部材Fを作製した。さらに、図6(c)に示す形状となるようにシート材を切り出し、図6(c)に示す破線に沿って折り曲げ、フランジ部材に取り付けられた接着部分Hを、箱部材Fの側壁部の内方側に貼り付けることにより立体形状物を製造した。なお、貼り付けは、接着部分Hに塗布した上述のポリアクリル系架橋型接着剤により行った。また、図6に示す立体形状物は、図5に示す立体形状物の形状及び大きさとほぼ等しい形状及び大きさになるように製造した。
【0103】
実施例5及び6と比較例4とで製造した立体形状物について、上述した方法と同様の方法によって、形状転写性、層間剥離、耐荷重変形性、絶縁破壊電圧保持率をそれぞれ評価した。それらの結果を表2に示す。
【0104】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の電気絶縁用立体形状物は、立体的形状を有する電気絶縁性部材などとして好適に用いられ得る。具体的には、例えば、モーターのコイル線の周囲に配される電気絶縁用部材、トランス、バスバー、コンデンサ、ケーブル用の電気絶縁用部材、又は、電子回路基板の絶縁部材などの用途に好適である。
【符号の説明】
【0106】
1:シート材、 2:樹脂層、 3:保護層、10:電気絶縁用立体形状物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁性を有するシート材が少なくとも曲げ加工された電気絶縁用立体形状物であって、
前記シート材が、分子中に窒素又は硫黄を有する熱可塑性樹脂を含むシート状の樹脂層と、該樹脂層の両面側にそれぞれ配されたシート状の保護層とを備えていることを特徴とする電気絶縁用立体形状物。
【請求項2】
前記樹脂層が、ポリアミド樹脂、ポリスルホン樹脂、及び、ポリフェニレンスルフィド樹脂からなる群より選択された少なくとも1種を前記熱可塑性樹脂として含んでいる請求項1記載の電気絶縁用立体形状物。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂が、分子中に芳香族炭化水素を有する芳香族ポリアミド樹脂である請求項2記載の電気絶縁用立体形状物。
【請求項4】
前記ポリスルホン樹脂が、分子中に複数のエーテル結合をさらに有するポリエーテルスルホン樹脂である請求項2又は3に記載の電気絶縁用立体形状物。
【請求項5】
前記ポリスルホン樹脂が、分子中に複数の芳香族炭化水素をさらに有するポリフェニルスルホン樹脂である請求項2〜4のいずれか1項に記載の電気絶縁用立体形状物。
【請求項6】
前記樹脂層が、熱可塑性エラストマー樹脂をさらに含んでいる請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気絶縁用立体形状物。
【請求項7】
前記熱可塑性エラストマー樹脂が、無水マレイン酸変性ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーである請求項6に記載の電気絶縁用立体形状物。
【請求項8】
前記シート材の引張弾性率(MPa)と厚み(mm)との積が100MPa・mm〜750MPa・mmである請求項1〜7のいずれか1項に記載の電気絶縁用立体形状物。
【請求項9】
前記保護層が全芳香族ポリアミド又はポリエチレンテレフタレートを含んでいる請求項1〜8のいずれか1項に記載の電気絶縁用立体形状物。
【請求項10】
前記保護層が、湿式抄紙法により作製された紙である請求項1〜9のいずれか1項に記載の電気絶縁用立体形状物。
【請求項11】
前記保護層が、全芳香族ポリアミド繊維を含む全芳香族ポリアミド紙又はポリエチレンテレフタレート繊維を含むポリエチレンテレフタレート紙である請求項1〜10のいずれか1項に記載の電気絶縁用立体形状物。
【請求項12】
前記保護層が不織布である請求項1〜9のいずれか1項に記載の電気絶縁用立体形状物。
【請求項13】
前記保護層の少なくとも樹脂層側には、コロナ処理が施されている請求項1〜12のいずれか1項に記載の電気絶縁用立体形状物。
【請求項14】
前記樹脂層の両面に接するように保護層が配され、しかも前記樹脂層及び前記保護層の各凝集破壊力より、前記樹脂層と前記保護層との間の層間接着力が大きくなるように構成されている請求項1〜13のいずれか1項に記載の電気絶縁用立体形状物。
【請求項15】
モーターコイルの電気絶縁用途で使用される請求項1〜14のいずれか1項に記載の電気絶縁用立体形状物。
【請求項16】
少なくとも曲げ加工により立体形状物に加工される電気絶縁性シート材であって、
分子中に窒素又は硫黄を有する熱可塑性樹脂を含むシート状の樹脂層と、該樹脂層の両面側にそれぞれ配されたシート状の保護層とを備えていることを特徴とする電気絶縁性シート材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−232570(P2012−232570A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−68663(P2012−68663)
【出願日】平成24年3月26日(2012.3.26)
【出願人】(000190611)日東シンコー株式会社 (104)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】