説明

電気脱イオン装置の洗浄方法

【課題】通水差圧を十分に小さくすることができる電気脱イオン装置の洗浄方法を提供する。
【解決手段】陽極1,陰極2の間に複数のアニオン交換膜3及びカチオン交換膜4を交互に配列して濃縮室5と脱塩室6とを交互に形成し、脱塩室6にイオン交換樹脂10が充填されている。脱塩室5の通水差圧が上昇してきた場合、電極への電圧印加を停止した後、流出口から流入口へ向う方向に逆洗水を通水する。この逆洗水としては、純水、超純水、又は脱塩室処理水のイオン濃度以下の清浄水が用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気脱イオン装置の洗浄方法に係り、特に電気脱イオン装置の通水時の差圧上昇を防止ないし抑制するための電気脱イオン装置の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気脱イオン装置は、カチオン交換膜とアニオン交換膜で形成される室にイオン交換樹脂を充填して脱塩室とし、この脱塩室に被処理水を通過させると共に、前記両イオン交換膜を介して直流電流を作用させて、両イオン交換膜の外側に流れている濃縮水中に被処理水中のイオンを電気的に排除しながら脱イオン水を製造するよう構成されている。
【0003】
この電気脱イオン装置の脱塩室に被処理水を通水すると、被処理水中の不純物イオンは脱塩室内のイオン交換樹脂に吸着されて高度に脱塩された純水が製造される。一方、脱塩室内のイオン交換樹脂には不純物イオンが吸着されるが、このイオン交換樹脂に直流電流を通電することにより、イオンは濃縮室に移動するので、イオン交換樹脂は連続的に再生される。
【0004】
このような電気脱イオン装置に通水を継続すると、種々の原因により、通水差圧が次第に上昇してくる。
【0005】
特開2004−113973には、電気脱イオン装置にヒドラジン水和物やアルカリを通水してスライムを除去し、通水差圧の上昇を防止する電気脱イオン装置の洗浄方法が記載されている。同号公報には、洗浄液の通水方向についての記載はない。
【0006】
特開2000−5762には、シリカを吸着したイオン交換樹脂を洗浄するために、脱塩処理時と同方向にアルカリ性液を通水する電気脱イオン装置の薬品洗浄方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−113973
【特許文献2】特開2000−5762
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が種々検討を重ねた結果、脱塩処理時の通水方向と同方向に洗浄液を流通させて電気脱イオン装置を洗浄しても通水差圧を十分に小さくすることはできないことが見出された。
【0009】
本発明は、通水差圧を十分に小さくすることができる電気脱イオン装置の洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電気脱イオン装置の洗浄方法は、イオン交換樹脂を収容した室と、該室に設けられた第1通水口及び第2通水口を有し、脱塩処理時には該第1通水口から第2通水口へ通水される電気脱イオン装置を洗浄する方法において、該第2通水口から第1通水口へ洗浄液体を通水して電気脱イオン装置を洗浄することを特徴とするものである。
【0011】
本発明の電気脱イオン装置の洗浄方法は、特に脱塩室を洗浄するのに好適である。
【0012】
上記の洗浄液体としては、純水、超純水、または脱塩処理時の処理水のイオン濃度以下の清浄水が好適である。
【発明の効果】
【0013】
電気脱イオン装置の脱塩室及び濃縮室にはイオン交換樹脂などのイオン交換体が充填されている。なお、濃縮室はスペーサー等のみが充填される場合もある。
【0014】
充填されているイオン交換樹脂等は、室内に一杯に充填されているのが普通であり、これらの室内に汚れが混入した場合、いわゆる逆洗を行っても汚れの除去は困難と一般的には考えられてきた。
【0015】
しかしながら、本発明者が種々研究を重ねた結果、電気脱イオン装置の出口側から液体を流入させ、入口側から排出することにより洗浄効果が奏され、差圧が解消されることが見出された。
【0016】
このように差圧が小さくなる理由は、明確ではないが、脱塩室入り口のストレーナーが詰まっている場合、この詰まりが除去されることにより、洗浄による差圧回復効果が奏されるためであると推察される。
【0017】
また、電気脱イオン装置内部のイオン交換樹脂のうち被処理水流入口側のイオン交換樹脂が酸化等により微細化した場合は、脱塩処理時と反対方向に洗浄液を通水することにより、この被処理水流入口側の微細なイオン交換樹脂が排出され、差圧回復効果が奏されるものと推察される。
【0018】
また、電気脱イオン装置へのスケール付着防止のために、電気脱イオン装置の前段にカチオンのイオン交換樹脂塔(デミナー)を設けたり、またホウ素除去のためにホウ素吸着樹脂塔を設けることがある。これらの樹脂塔の樹脂を交換した際には、微細樹脂が電気脱イオン装置に混入し、差圧が上昇することがある。本発明の電気脱イオン装置の洗浄方法によると、微細樹脂が電気脱イオン装置の被処理水流入口から電気脱イオン装置外へ速やかに排除されるので、このような樹脂塔の樹脂交換時に生じる微細樹脂に起因した差圧上昇が解消される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】電気脱イオン装置の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明について詳細に説明する。図1は電気脱イオン装置の模式的な断面図であり、陽極1,陰極2の間に複数のアニオン交換膜3及びカチオン交換膜4を交互に配列して濃縮室5と脱塩室6とを交互に形成し、脱塩室6にイオン交換樹脂10が充填されている。濃縮室5にはイオン交換樹脂又はスペーサが充填または配置される。陽極1が配置された陽極室7は、それに直近の濃縮室5とカチオン交換膜4を介して隔てられている。陰極32が配置された陰極室8は、それに直近の濃縮室5とアニオン交換膜3を介して隔てられている。被処理水は、この脱塩室6に対し図の上端側の流入口(第1通水口)から流入し、処理水が図の下端側の流出口(第2通水口)から取り出される。
【0021】
このイオン交換樹脂10の平均粒径は、好ましくは0.4〜1.0mm特に0.5〜0.7mm程度である。脱塩室6の流入口(第1通水口)及び流出口(第2通水口)にはそれぞれ目開き0.1〜0.3mm特に0・2〜0.3mm程度のストレーナが設けられている。
【0022】
被処理水の脱塩処理時の通水LVは10〜200m/h特に50〜150m/h程度である。
【0023】
この脱塩室5の通水差圧が上昇してきた場合、電極への電圧印加を停止した後、流出口から流入口へ向う方向、即ち図の下から上へ向って逆洗水を通水する。
【0024】
この逆洗水としては、逆洗水中にイオン交換樹脂10にイオンが吸着することを防止するために、純水、超純水、又は脱塩室処理水のイオン濃度以下の清浄水が好ましい。すなわちイオン交換樹脂は通常脱塩室出口側ほど再生型が多くなっているが、これが塩型となると、再生型に回復するまでの時間は数日から数週間かかるため、その期間の処理水質はよくならない。そのため、逆洗水として上記のように超純水等の清浄な水を用いるのが好ましい。
【0025】
逆洗時の通水速度は、脱塩処理時の被処理水の通水LVの0.1〜10倍、特に0.5〜1.5倍程度が好ましく、通常は50〜100m/h程度が好適である。
【0026】
この逆洗は、定期的に行ってもよいが、脱塩処理運転中の脱塩室6の通水差圧が所定値にまで上昇したときに行うのが好ましい。
【0027】
1回の逆洗時間は3〜30分、特に5〜25分程度が好適である。この1回の逆洗後、一旦逆洗を停止し、再び逆洗を再開するという逆洗・停止を複数回(例えば2〜5回)行うのが好ましい。このように逆洗・停止を繰り返すことにより、脱塩室6内に偏流が生じることが防止され、イオン交換樹脂10が満遍なく洗浄される。
【0028】
また、逆洗を開始するに際しては、洗浄水量を徐々に増加させ、漏水等の異常がないことを確認しながら逆洗を行うようにするのが好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例について説明する。
【0030】
この実施例では、地下水を外圧型中空糸膜装置(中空糸の孔径は0.2μm)→活性炭吸着塔→RO装置→脱気膜装置→ホウ素吸着キレート樹脂塔→電気脱イオン装置の順に通水した。
【0031】
この電気脱イオン装置は、脱塩室を136室備えるものであり、脱塩室の合計の容積は約20mである。脱塩室にはアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂を体積比で70/30の割合で充填した。濃縮室にも脱塩室と同様のイオン交換樹脂を充填した。脱塩室の厚みは5mm、濃縮室の厚みは5mmである。印加電圧は300Vとし、通水開始時の通水LV98m/h、通水量は15m/hとした。通水当初の差圧は0.1MPaであった。
【0032】
通水開始後、少しずつ差圧が上昇し、72h後には差圧が0.3MPaとなり、通水量が10m/hまで低下してきたので、逆洗を行った。
【0033】
この逆洗用水としては超純水を用い、表1に示すタイムスケジュールにて行った。表1には、逆洗排液の分析ないし観察結果も記入した。
【0034】
【表1】

【0035】
この逆洗により、電気脱イオン装置の通水量は15m/hにまで回復し、通水差圧も0.1MPaにまで低下した。
【0036】
この実施例より、本発明によると電気脱イオン装置を清浄水のみで十分に洗浄できることが認められた。
【符号の説明】
【0037】
1 陽極
2 陰極
3 アニオン交換膜
4 カチオン交換膜
5 濃縮室
6 脱塩室
7 陽極室
8 陰極室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換樹脂を収容した室と、該室に設けられた第1通水口及び第2通水口を有し、脱塩処理時には該第1通水口から第2通水口へ通水される電気脱イオン装置を洗浄する方法において、
該第2通水口から第1通水口へ洗浄液体を通水して電気脱イオン装置を洗浄することを特徴とする電気脱イオン装置の洗浄方法。
【請求項2】
請求項1において、イオン交換樹脂を充填した前記室が脱塩室であることを特徴とする電気脱イオン装置の洗浄方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、洗浄液体が純水、超純水、または脱塩処理時の処理水のイオン濃度以下の清浄水であることを特徴とする電気脱イオン装置の洗浄方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−91174(P2012−91174A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−4960(P2012−4960)
【出願日】平成24年1月13日(2012.1.13)
【分割の表示】特願2006−281463(P2006−281463)の分割
【原出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】