電気電子部品用複合材料、電気電子部品および電気電子部品用複合材料の製造方法
【課題】樹脂皮膜と金属基材との密着性を高くすることで、打ち抜き加工や曲げ加工などのプレスによる加工性が極めて良好で、かつその後に熱処理やめっき処理などが行われても樹脂皮膜と金属基材との密着性が高い状態を保つ電気電子部品用の金属樹脂複合材料を提供する。
【解決手段】金属基材上の少なくとも一部に樹脂皮膜が形成されており、前記樹脂皮膜の残留溶媒量が1〜30質量%に調製されている電気電子部品用複合材料。樹脂皮膜はポリイミド又はポリアミドイミドであることが好ましい。
【解決手段】金属基材上の少なくとも一部に樹脂皮膜が形成されており、前記樹脂皮膜の残留溶媒量が1〜30質量%に調製されている電気電子部品用複合材料。樹脂皮膜はポリイミド又はポリアミドイミドであることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基板上に樹脂皮膜が設けられた電気電子部品用複合材料、電気電子部品および電気電子部品用複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気電子機器のプリント基板などに実装されるセラミック発振子、水晶発振器、電圧制御発振器、SAWフィルター、ダイプレクサ、カプラ、バラン、LPF、BPF、誘電体デュプレクサなどの個別部品やこれら個々の素子を複数内蔵させた各種モジュール部品、例えば、アンテナスイッチモジュール、フロントエンドモジュール、RF一体型モジュール、無線通信用モジュール、イメージセンサーモジュール、チューナーモジュール、無線LAN用途など、または、検出スイッチなどの部品は、電磁シールドのために金属製筐体内に入れたり、カバーで覆ったりして用いられる。近年では、電気電子機器の携帯化が進展する中で前記筐体などには薄型化、低背化が要求され、その高さはモジュール部品では5mm以下、個別部品では2mmを割り1mm前後に突入しつつある。液晶ドライバ(LCD)やキーボード、マザーボードなどのプリント基板側の端子接続コネクタとFPCケーブルなど側の接続コネクタは、通信ノイズや静電気防止目的から電磁波シールド性が必要とされ、導電性の金属製ケース、キャップ、カバーで覆ったりして用いられるが、同様に機器の小型薄型化が進み、コネクタ部品やソケットでも小型低背化が進んでいる。
【0003】
しかし、上記金属製筐体などは、低背化に伴って内容積が小さくなり、内蔵部品や端子、配線回路とケース、カバー、キャップ、筐体(カバー付きケース)などの電気電子部品との間の絶縁性が十分確保できなくなるという欠点があった。このような場合従来は、特許文献1に開示したように、絶縁フィルムをシート状の所定寸法に裁断してケース内部に挿入したり、特許文献2に開示したように、金属基材上に樹脂皮膜を予め形成させた金属材料から所定寸法に切り取ったりすることなどが行われている。予め樹脂皮膜を金属基材上に形成した材料を用いることは、連続的に打ち抜きや曲げの成型加工ができて生産性や経済上から好ましく、また部分或いは全面、両面など任意に高品質で連続的に皮膜形成し得る材料であることから、近年良く用いられる傾向にある。
【0004】
携帯機器やデジタル機器などが小型薄型化と共に高機能化が進むにつれて、これらに搭載使用される電気電子部品の形状はかなり制限されるようになってきている。このため必要な形状を得るための加工も厳しくなり、各種加工の際の密着性を高めることが要求される。金属基材と樹脂皮膜との密着性を高める方法として、例えば金属基材の表面にカップリング剤を塗布する方法(特許文献3)や、金属基材の表面にデンドライト状結晶を有しためっき層を形成する方法(特許文献4)が挙げられる。
【0005】
また、金属基材と樹脂皮膜との複合材料を形成するにあたり、金属箔に耐熱性樹脂溶液を連続的に塗布、乾燥してフレキシブル金属積層体を製造する際に、一定量以上の溶剤を残したまま、一旦巻き取り、更に脱溶剤と樹脂の架橋反応をコントロールしながら熱処理したフレキシブル金属積層体を製造する方法(例えば、特許文献5)や、金属導体と、一層以上のポリイミド系樹脂層とが積層された金属張積層板で、導体と接する第1層のポリイミド系樹脂層が芳香族系多塩基酸およびその酸無水物とジアミン、ジイソシアネートとを主体としてなり、第1層のポリイミド系樹脂層中の溶剤残留量を20〜30重量%とした金属張積層板(例えば、特許文献6)などの技術を適用して、製造過程におけるカールの発生を抑制することも知られている。
【0006】
ところで、金属基材上に絶縁皮膜が設けられた複合材料を、電気電子部品用の材料として適用する場合、この材料は、金属基材上に絶縁皮膜が設けられているため、金属基材と絶縁皮膜との界面を含めた箇所で打ち抜き加工等の加工を施してコネクタ接点等を形成することにより、前記コネクタ接点を狭ピッチで配置することも可能となり、様々な応用が考えられる。また、打ち抜き加工等の加工を施した後に折り曲げ加工を施すことにより、様々な機能を有する電気電子部品への適用も考えられる。
【0007】
この複合材料について、金属基材と絶縁皮膜との界面を含めた箇所で打ち抜き加工等の加工を施したところ、加工した箇所において金属基材と絶縁皮膜との間に数μm〜数十μm程度のわずかな隙間ができることがある。この隙間は金属基材と樹脂皮膜との密着性が不十分であることにより発生すると考えられる。この状態を図12に概略的に示す。図12において、20は電気電子部品、21は金属基材、22は絶縁皮膜であり、金属基材21の打ち抜き加工面21aの近傍で金属基材21と絶縁皮膜22との間に隙間23が形成されている。この傾向は、上記打ち抜き加工の際のクリアランスが大きいほど(例えば上記金属基材の厚さに対して5%以上では)、より強まる。上記打ち抜き加工の際のクリアランスを小さくすることは実際上限度があるため、上記被加工体が微細化するほどこの傾向が強まると換言することもできる。
【0008】
このような状態になると、打ち抜き加工等の経年変化などにより金属基材21から絶縁皮膜22が完全に剥離してしまうこととなり、金属基材21上に絶縁皮膜22を設けても意味がなくなる。また、微細加工後に絶縁皮膜を後付けするのは極めて手間がかかり、製品のコストアップにつながるため実用的ではない。さらに、形成された電気電子部品の金属露出面(例えば打ち抜き加工面21a)をコネクタ接点等として使用したい場合、金属露出面(例えば打ち抜き加工面21a)にめっき等で金属層を後付けすることも考えられるが、めっき液に浸漬した際に隙間23からめっき液が浸入して金属基材21から絶縁皮膜22が剥離することを助長してしまうおそれがある。
【0009】
また、打ち抜き加工等の加工を施した後に折り曲げ加工を施す場合、打ち抜き加工等の加工を施した段階で加工した箇所において金属基材と絶縁皮膜との間に隙間ができていない場合でも、折り曲げ加工を施した後に金属基材と絶縁皮膜との間に隙間ができることがある。この状態を図13に概略的に示す。図13において、30は電気電子部品、31は金属基材、32は絶縁皮膜であり、金属基材31の折り曲げ箇所の内側に隙間33が、電気電子部品3の端部(特に折り曲げた際の外側)に隙間34が形成されている。これらの隙間33、34は図13に示すとおり、折り曲げられた電気電子部品の折り曲げ箇所の側面や内表面側、電気電子部品の端部に目立ち、このような隙間があると金属基材31から絶縁皮膜32が剥離する原因となる。
【0010】
【特許文献1】特開平1−6389号公報
【特許文献2】特開2004−197224号公報
【特許文献3】特許第2802402号公報
【特許文献4】特開平5−245432号公報
【特許文献5】特開2001−105530号公報
【特許文献6】特開2005−117058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記各特許文献に記載された技術を組み合わせても、携帯機器やデジタル機器などに搭載使用される電気電子部品を製造する際の精密プレス加工や高温処理、めっき処理等を行った際に金属基材と樹脂皮膜との密着性が不十分であるという問題は解消されるに至らない。以下、詳細に説明する。
【0012】
特許文献1および特許文献2に記載された技術は、電気電子部品を製造する際の精密プレス加工や高温処理、めっき処理等の後処理を想定したものではなく、電気電子部品における金属基材と樹脂皮膜との密着性を、後処理に耐えうるほど向上させることは示されていない。
【0013】
特許文献3に記載されたカップリング剤を塗布する方法では、カップリング剤の液寿命が短いため、液の管理に細心の注意をはらう必要がある。また、金属基材表面全体に均質な処理を施すことが難しいため、前記した微細な隙間に対しては効果がないことがある。特許文献4に記載されたデンドライト状結晶を有しためっき層を形成する方法では、形成されるめっき層の結晶状態を制御するためには限定されためっき条件でめっきを施す必要があり、管理に細心の注意をはらう必要がある。また、十分な密着性を得るためにはめっき厚さを1μm以上とする必要があるため、打ち抜き加工の際にめっき層に割れが発生するなどの問題点があるほか、経済的にも好ましくない。
【0014】
さらに、特許文献5や特許文献6に記載された技術は、あくまでも製造過程におけるカールの発生を抑制することを目的として製造途中での残留溶媒量を調整することを対象としており、特許文献5や特許文献6の記載は、結果的に金属基材と樹脂皮膜との密着性を向上させることには結びつかない。
【0015】
そこで、本発明は、シールドケース、コネクタ、端子等のように加工を前提とする電気電子部品用途に適する金属樹脂複合材料(以下、単に複合材料とする)を得るにあたり、上記課題を解消するため、樹脂皮膜と金属基材との密着性を高くすることで、打ち抜き加工や曲げ加工などのプレスによる加工性が極めて良好で、かつその後に熱処理やめっき処理などが行われても樹脂皮膜と金属基材との密着性が高い状態を保つ電気電子部品用の金属樹脂複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、一般的には樹脂特性を十分に引き出すために長時間加熱し樹脂皮膜中の溶媒を極力低減する製造方法が常識であるのに対し、金属と樹脂との密着性を考慮した場合、適度に溶媒を残したほうが金属と樹脂との密着性が向上し、加工性も向上することを見出した。そして、最終的な残留溶媒量と密着性の関係を明確にして、残留溶媒量を適量残すことで特別な処理を施さずとも金属と樹脂との密着性が向上することを見出し、さらに検討を進めて本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、
(1)金属基材上の少なくとも一部に樹脂皮膜が形成されており、前記樹脂皮膜の残留溶媒量が1〜30質量%に調製されていることを特徴とする電気電子部品用複合材料、
(2)前記樹脂皮膜がポリイミド又はポリアミドイミドであることを特徴とする(1)に記載の電気電子部品用複合材料、
(3)前記金属基材が銅若しくは銅基合金または鉄若しくは鉄基合金であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の電気電子部品用複合材料、および、
(4)前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の電気電子部品用複合材料を用いたことを特徴とする電気電子部品、
(5)前記樹脂皮膜の反応硬化を100〜500℃の範囲で行うことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の電気電子部品用複合材料の製造方法、
(6)前記樹脂皮膜の反応硬化を45℃/秒以下の昇温速度で行うことを特徴とする前記(5)に記載の電気電子部品用複合材料の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の電気電子部品用複合材料は、樹脂皮膜と金属との密着性が向上することで、プレスによる打ち抜き性および曲げ加工性が向上する。また、上記のような条件で電気電子部品用複合材料を作成すると、樹脂自体が完全に硬化させたものよりも軟らかいために、プレスによる曲げ性も向上し、プレスによる加工が容易になるという大きな利点がある。
また、本発明の電気電子部品用複合材料は、樹脂皮膜と金属との密着性が向上し良好であるので、耐リフロー性、耐アルカリ性等にも優れ、加工後の後処理である熱処理やめっき処理等に十分耐えうるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の電気電子部品用複合材料は金属基材上の少なくとも一部に樹脂皮膜が形成されたものである。そしてその残留溶媒量が1〜30%、好ましくは3〜20%、さらに好ましくは5〜15%である。残留溶媒量が少なすぎると樹脂皮膜と金属との密着性が低下し、多すぎると樹脂皮膜と金属との密着性が低下するだけでなく、樹脂の硬化が不十分なため部品として成形することができない。
ここで溶媒残留量とは、でき上がった電気電子部品用複合材料の硬化後の樹脂皮膜の質量に対する前記樹脂皮膜中に残留する溶媒の質量であり、次の数式で示すことができる。
【0019】
残留溶媒量(質量%)=(残留溶媒質量/樹脂皮膜質量)×100(%)
【0020】
残留溶媒質量は、ガスクロマトグラフィー(GC)や示差熱量天秤(TG−DTA)、示差走査熱量天秤(TG−DSC)等により測定することができる。
所望の残留溶媒量は、例えば、樹脂の硬化温度や時間等の条件を適宜定めることにより得られる。
そして、これらの条件を定めて電気電子部品用複合材料を作成する。
【0021】
本発明において、金属基材は、様々な形状の金属材を採用できるが、その中でも主に金属条、金属箔または金属板である。基材厚さが薄すぎると部品に成形する際に強度が不足し、厚すぎるとプレス打ち抜き性や曲げ成形性が悪くなるので、基材厚さは、複合材料の用途により異なるが、0.01〜1mmの範囲が好ましく、0.05〜0.5mmの範囲がより好ましい。
【0022】
本発明において、金属基材には、打抜加工や絞り成形などが可能な延性を有する材料、或いはばね性を有する金属材料が用いられる。具体的には、無酸素銅、タフピッチ銅などの純銅系材料、洋白(Cu−Ni系合金)、リン青銅(Cu−Sn−P系合金)、コルソン合金(Cu−Ni−Si系合金)などの銅基合金材料、純鉄系材料、42アロイ(Fe−Ni系合金)やステンレスなどの鉄基合金材料が挙げられる。
【0023】
本発明において、金属基材の電気的特性は、複合材料の用途によって適切な値とすることが好ましい。例えば、電磁遮蔽用途(シールドケース用)の場合は、電気伝導率については電磁シールド性の観点から5%IACS以上が好ましく、10%IACS以上がさらに好ましい。また、比透磁率は1以上が好ましい。
また、コネクタ・端子用途の場合には、電気伝導率については信号伝送用、電力伝送用で好ましい範囲が異なる。信号伝送用の場合は必要な電気伝導率を確保する観点から15%IACS以上が好ましく、電力伝送用の場合は発熱を抑制する観点から60%IACS以上が好ましい。
金属基材は、例えば、所定の金属材料を溶解鋳造し、得られる鋳塊を、常法により、順に、熱間圧延、冷間圧延、均質化処理、および脱脂する工程により製造することができる。
本発明において、金属基材上に樹脂皮膜を設ける方法には、金属基材上の絶縁を要する箇所に、(a)接着剤付き樹脂フィルムを配し、前記接着剤を誘導加熱ロールにより溶融し、次いで加熱処理して反応硬化接合する方法、(b)樹脂または樹脂前駆体を溶媒に溶解したワニスを塗布し、溶媒を揮発させ、次いで加熱処理して反応硬化接合する方法などが挙げられる。(a)による方法であっても(b)による方法であっても反応硬化後の接着剤もしくは樹脂皮膜中の残留溶媒量を1〜30%とすることで、前記課題を解決する高い密着性を得ることができる。残留溶媒量の調整しやすさの観点から(b)による方法がより望ましい。
【0024】
金属基材上の樹脂皮膜を設ける位置の公差は、多数の部品に通用させることを配慮すると、望ましくは±0.15mm、より望ましくは±0.10mm、さらに望ましくは±0.05mmである。
【0025】
本発明において、樹脂皮膜を形成する樹脂には、例えば、ポリイミド系、ポリアミドイミド系、ポリアミド系、エポキシ系などの樹脂が用いられる。樹脂としては、皮膜形成後に塗装処理やリフロー実装処理等、熱処理を受ける可能性がある場合には、耐熱性の樹脂が好ましく、特に、ポリイミド系、ポリアミドイミド系が好ましい。
また、樹脂皮膜の絶縁性は、体積固有抵抗1010Ω・cm以上が好ましく、1014Ω・cm以上がさらに好ましい。
【0026】
金属基材上に樹脂または樹脂前駆体を溶媒に溶解したワニスを塗布し、加熱処理して反応硬化させる場合、加熱温度は使用する樹脂の種類に応じて100〜500℃の範囲で選択することが望ましく、200〜400℃の範囲がさらに望ましい。加熱温度が高すぎると反応硬化後に樹脂が熱分解を起こしてしまうし、加熱温度が低すぎると樹脂が硬化するまでに時間がかかり生産性が悪化する。加熱処理中の樹脂皮膜の発泡を抑制する観点からは、金属基材の昇温速度は45℃/秒以下とすることが望ましく、10〜35℃/秒の範囲がさらに望ましい。
溶媒としては、メタノール、エタノール、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド(DMF)、メチルエチルケトン(MEK)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、γ−ブチルラクトンなどが好ましい例として挙げられる。
上記塗布時のワニスにおける樹脂又は樹脂前駆体の濃度は5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。
【0027】
また、樹脂皮膜を、接着剤を用いて金属基板上などに設ける場合、接着剤にはポリイミド系、エポキシ系、アクリル系、シリコン系などの樹脂が用いられる。これらの樹脂は半田接合やリフロー半田実装をはじめとする加熱工程に対する耐熱性を有する。加熱条件が厳しくない用途では、前記樹脂以外の耐熱性能の小さい樹脂(例えば、フェノール系やポリアミド系、ポリエチレンテレフタレート系の樹脂)を用いることも可能である。
【0028】
樹脂皮膜の厚みは、薄すぎると十分な絶縁性が得られず、またピンホールが発生し易いので、2μm以上が望ましく、3μm以上がさらに望ましい。一方あまり厚いと、打ち抜きや曲げ加工などのプレス加工性が低下するので50μm以下が望ましく、特には30μm以下が望ましい。
【0029】
本発明においては、金属基材上に樹脂皮膜層を少なくとも1層有し、かつ上記樹脂皮膜が上記金属基材上に、直接、または少なくとも1層の金属層を介して設けられていることも好ましい。
【0030】
上記金属層は単層に設けても、多層に設けても良い。例えば、半田実装する用途の場合、上記金属層のうち最も表層の金属層の厚みは、半田濡れ性が良好に保たれ、リフローはんだ接合などの溶融接合が可能な1μm以上とするのが望ましい。上限は20μm程度で、それ以上厚くしても効果は飽和する。半田実装する用途以外の用途においては、耐食性や樹脂密着性などの観点から最も表層の金属層の厚みは0.1μm以上10μm以下の範囲が好ましい。表層以外の金属層についても0.1μm以上10μm以下の範囲が好まし
い。
多層の場合、コストパフォーマンスの点から2層であることがより好ましい。多層を構成するそれぞれの1層の厚さは0.1μm以上10μm以下が好ましい。
【0031】
金属基材上に設ける金属層の材料は、金属基材の材質、使用部品の種類、用途、要求特性、許容コストなどによって決まるが、いずれにしても最終的な部品として求められる基本必要特性を満たす金属が選択される。前記金属層には、通常、Ni、Cu、Sn、Ag、Pd、Auの金属のいずれか1種、または、前記金属の少なくとも1種を含む合金、共析物、もしくは化合物が用いられる。
コストパフォーマンスの観点から、単層皮膜の場合はNi、Sn、Agの各系(金属、合金、共析物、化合物)を、複層皮膜の場合は内層側(下地)にNiまたはCuの各系を、外層側にSn、Ag、Pd、Auの各系を用いるのが好ましい。3層以上の場合、中間層にはCu、Ag、Pdの各系を用いることが好ましい。
【0032】
Ni系やCu系の下地層にも合金を用いることができる。またその構成は単体または単体複層で十分である。厚みは薄過ぎるとピンホールが多くなり、厚過ぎると加工時に割れが発生し易くなるので0.1〜2μm程度が望ましい。
【0033】
下地を1層以上のNiやCuの各系皮膜とし、外層をSn系皮膜とする構成は一般的な必要特性を満足するうえ、経済的なため汎用される。
【0034】
Sn系皮膜には、光沢皮膜より無光沢皮膜が適しており、Sn、Sn−Cu、Sn−Ag、Sn−Bi、Sn−Znの各系(金属、合金、共析物、化合物)が用いられる。Sn−Bi以外は融点の低い共晶付近の組成が用い易い。
【0035】
特に、Sn、Sn−Cu系、Sn−Ag系合金は耐熱性に優れる。
前記Sn−Cu系、Sn−Ag系皮膜は合金皮膜形成のほか、Sn皮膜の上にCu層やAg層を薄く形成しておき、溶融時に合金化させて設けることもできる。
【0036】
金属層は、湿式法により設けるのが一般的である。
湿式法には浸漬置換処理法、無電解めっき法、電析法などがあるが、中でも電析法は金属層の厚みの均一性、厚み制御性、浴の安定性などの点で優れる。トータルコストも安い。
【0037】
前記電析法は、市販浴や公知のめっき液を用い、金属基材をカソードとし、可溶性または不溶性アノードとの間に適切な相対速度に前記めっき液を擁して、定電流電析により行われる。
金属層を部分的に設けるには、不要部分をマスキングする方法、必要部分のみにスポット的にめっき液を供給する方法などが適用できる。
【0038】
本発明において、金属層は、はんだ付けする箇所など必要な箇所のみに設け、他の箇所は金属基材が露出した状態にしておいても良い。
【0039】
さらに、本発明の金属基材に樹脂皮膜を形成した電気電子部品用複合材料はどのような電気電子部品にも用いることができ、その部品は特に限定されるものではないが、例えば、コネクタ、端子、シールドケース等があり、これらは携帯電話、携帯情報端末、ノートパソコン、デジタルカメラ、デジタルビデオなどの電気電子機器に採用することができる。
【0040】
以下に本発明の電気電子部品用複合材料の好ましい実施態様を、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施態様に限定されるものではない。例えば、樹脂皮膜は金属基材の片面に設けても両面に設けてもよく、また、樹脂皮膜は多層に設けてもよい。すなわち、最終製品である電気電子部品の要求特性に応じて、本発明の実施態様は適宜変更されうるものである。
【0041】
図1は、本発明の複合材料の第1の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1表面の少なくとも絶縁を要する1箇所に樹脂皮膜2が設けられている。
なお、基材表面から樹脂皮膜表面までの高さを「h」で示している(以下の図2〜7も同様である)。
【0042】
図2は、本発明複合材料の第2の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1の片面全面にわたり、樹脂皮膜2が設けられている。
【0043】
図3は、本発明複合材料の第3の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1表面の絶縁を要する2箇所に樹脂皮膜2が設けられている。
【0044】
図1、図2、および図3に示した本発明複合材料は、樹脂皮膜2が絶縁を要する箇所に設けられているので、複合材料としての機能が効果的に発揮される。
例えば、複合材料をシールドケース等の筐体部品としたとき、他部品との間の絶縁性が良好に保てるので、筐体の低背化に有利である。また、図1および図3では、前記樹脂皮膜2が設けられていない箇所は金属基材が露出しているので放熱性が高度に維持される。
また、複合材料をコネクタや端子などの電気接続部品としたとき、隣接する部品との間の絶縁性が良好に保てるので、コネクタの狭ピッチ化などに有利である。また、図1および図3では、前記樹脂皮膜2が設けられていない箇所は金属基材が露出しているので、はんだ付けが可能である、放熱性が高度に維持されるなどの利点がある。
【0045】
図4は、本発明複合材料の第4の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1上の少なくとも絶縁を要する1箇所に樹脂皮膜2が設けられており、樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材上にNi層3が設けられている。
【0046】
図5は、本発明複合材料の第5の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1上の絶縁を要する2箇所に樹脂皮膜2が設けられており、樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材上にNi層3が設けられている。
【0047】
図4、図5に示した複合材料は、樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材1上にNi層3が設けられているので耐食性が向上する。
【0048】
図6は、本発明複合材料の第6の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1上の少なくとも絶縁を要する1箇所に樹脂皮膜2が設けられており、樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材1上にNi層3およびSn層4がこの順に設けられている。
【0049】
図7は、本発明複合材料の第7の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1上にNi層3が設けられており、その上の絶縁を要する2箇所に樹脂皮膜2が設けられており、樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材1上にSn層4が設けられている。
【0050】
図6、図7に示した本発明複合材料は、樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材1上にSn層4が設けられているので半田接合やリフロー半田実装などが容易に行える。また金属基材1成分の拡散がNi層3により阻止されるためSn層4の変色が防止される。この他、図7に示した本発明複合材料については、樹脂皮膜2がNi層3上に設けられているので樹脂皮膜との密着性向上効果が得られる。
【0051】
また、図6、図7に示すように金属層を2層に設けたものは、金属基材1が良好に保護され、金属基材1の耐熱性、耐酸化性、耐食性などが向上する。また金属層外層が金属基材1成分の拡散により合金化或いは化合物化するのを抑制することができる。
特に下地にNi層またはCu層を設け、外層にSn層を設けたものは、Sn層の化合物化が十分抑制されて、耐熱性や耐ウィスカー性が高度に維持され推奨される。金属層を3層以上設けるとさらに効果的であるが、コストパフォーマンスの点で金属層は2層が適当である。
【0052】
本発明複合材料の樹脂皮膜2が設けられていない箇所には、さらに銅材などのヒートシンクを設けて、放熱性を著しく高めることも可能である。特に、図6〜図7に示す複合材料では、はんだ付けにより容易にヒートシンクを接合できる。
【0053】
図8は、本発明複合材料の第8の実施態様を示す平面図である。
金属基材1上の絶縁を要する箇所に樹脂皮膜2がストライプ状に設けられている。樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材上にNi層3、あるいはNi層3およびSn層4をこの順に設けてもよい。また金属基材1上に設けられたNi層3上の絶縁を要する箇所に樹脂皮膜2を設け、樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材2上にSn層4をこの順に設けてもよい。
【0054】
図9は、本発明複合材料の第9の実施態様を示す平面図である。
金属基材1上の絶縁を要する箇所に樹脂皮膜2がスポット状に設けられている。その他は上記第8の実施態様と同様である。
【0055】
図10は、本発明複合材料の第10の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1表面のうち一方の面の少なくとも絶縁を要する1箇所と他方の面の全面に樹脂皮膜2が設けられている。なお、前記他方の面には、図示されるように全面に樹脂皮膜2が設けられている必要はかならずしもなく、少なくとも一部に樹脂皮膜2が設けられるものであってもよい。
【実施例】
【0056】
以下に、本発明の実施例により詳細に説明する。
[実施例1]
JIS合金C5210R(りん青銅、古河電気工業(株)製)の厚み0.1mm、幅20mm、および、SUS304CPS(ステンレス、日新製鋼(株)製)の厚み0.1mm、幅20mmの条を金属基材とした。前記条に電解脱脂、酸洗処理、水洗、乾燥の各工程をこの順に施した。
【0057】
次に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶媒とするポリアミドイミド(PAI)溶液のワニス(固形分約30%)を、金属基材の幅方向中央部分に、焼き付け後に厚み10μm(±1μm)となるような塗布厚さで、Kコントロールコーター(RK Print Coat Instruments Ltd. UK 製)にて図5のようになるように塗装し、次いで所定の下記加熱処理を施して、溶媒乾燥とともに硬化させて樹脂皮膜を設けた。
【0058】
各本発明例No.1〜14および比較例No.15〜20の加熱処理は表1に記載する炉温200℃、300℃、400℃の各炉温で、炉に入れる時間を調整し、残留溶媒量を種々に変化させた。昇温速度はそれぞれ、炉温200℃→約13℃/秒、炉温300℃→約21℃/秒、炉温400℃→約32℃/秒、とした。残留溶媒量が1%〜30%のものは本発明例、1%未満および30%を超えるものは比較例である。
【0059】
残留溶媒量(質量%)の測定はガスクロマトグラフィー法により以下の条件に従い行った。装置:HP5890+フロンティア・ラボ製ダブルショットパイロライザーPY−2020D、カラム:Supelco社製SPB−20(30m×0.25mmID×0.25μm)、GC温度:50℃(5min)→10℃/min→280℃(hold)、注入口温度:280℃、注入方法:スプリット(30:1)、検出方法:FID、Det温度:280℃。
試料を2mm×10mmにカットし、ガスクロマトグラフィー(GC)にて300℃で5分加熱し発生した気体の定量を行った。ここで、試料の数は5とし、測定値はその算術平均値とした。
【0060】
得られた各実施例及び比較例No.の各電気電子部品用材料試料について、打ち抜き加工性および曲げ加工性の評価を行った。
前記打抜き加工性の評価は、クリアランス5%の金型を用いて5mm×10mmの矩形状に試料を打抜いた後、赤インクを溶かした水溶液中に浸漬し、光学顕微鏡で観察し打抜き端部における樹脂の剥離幅が、5μm未満の場合を「◎」、5μm以上10μm未満の場合を「○」、10μm以上の場合を「×」と評価した。
前記曲げ加工性の評価は、クリアランス5%の金型を用いて5mm×10mmの矩形状に試料を打抜いた後、試料端部から1mmの位置に曲げ加工が施される様に工夫された曲率半径0.1mm、曲げ角度120度の金型を用いて曲げ加工を施し、曲げ内側における樹脂の剥離の有無と曲げ外側を延長した先の端部における樹脂の剥離の有無を光学実態顕微鏡40倍で観察することにより判定した。また同時に、曲げ加工部における樹脂皮膜部分のシワ、割れ、剥離の有無を観察し、全くシワや割れがない場合を「◎」、割れや剥離はないがシワのみが観察され、使用上は問題ないレベルのものを「○」、シワ、割れ、剥離などが観察されるものを「×」と評価した。
ピール強度は、IPC−TM−650 2.4.9.(Peel Strength, Flexible Printed Wiring Materials)を参考にしてピール強度(kN/m)を測定した。引張速度50mm/minで3.2mm幅に切ったサンプルの樹脂部を228.6mmに渡って引っ張り測定した。
得られた結果を表1に示した。表1のとおり、試料No.1〜14の本発明例はピール強度、プレス加工性が良好であり、試料No.15〜20の比較例はピール強度、プレス加工性が劣ることが示される。
【0061】
【表1】
【0062】
[実施例2]
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶媒とするポリアミドイミド溶液のワニスに代えて、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶媒とするポリイミド(PI)溶液(固形分約20%)を利用した他は実施例1と同じ方法により本発明例No.21〜34および比較例No.35〜40の試料を得た。各実施例の加熱処理の炉温度は、表2に示す。
得られた試料の測定は実施例1と同じ方法により行った。得られた結果を表2に示す。表2のとおり、試料No.21〜34の本発明例はピール強度、プレス加工性が良好であり、試料No.35〜40の比較例はピール強度、プレス加工性が劣ることが示される。
【0063】
【表2】
【0064】
本発明例1、2及び比較例1、2から得られた残留溶媒量とピール強度の関係を表すグラフを図11に示す。図11より、残留溶媒量が1〜30質量%の本発明例の範囲ではピール強度が比較例に比べ明らかに高く、3〜20質量%の範囲ではさらにピール強度がさらに高く、5〜15質量%ではピール強度がより高いことが示されている。
【0065】
[実施例3]
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶媒とするポリアミドイミド溶液のワニス(固形分約30%)を使用し、実施例1と同じ方法により塗装と焼き付けを繰り返し行うことで1〜3層塗りを行い、焼き付け後の樹脂厚を5〜50μmの間で変化させ、本発明例No.41〜54および比較例No.55〜60の試料を得た。各実施例の塗工回数、樹脂厚、加熱処理の炉温度は、表3に示す。なお、樹脂を多層に設けたものについては、残留溶媒量は、最後の層を設けた後の樹脂全体の残留溶媒量を、樹脂厚はそれぞれの層の厚さの和を示してある。
得られた試料の測定は実施例1と同じ方法により行った。得られた結果を表3に示す。表3のとおり、試料No.41〜54の本発明例はピール強度、プレス加工性が良好であり、試料No.55〜60の比較例はピール強度、プレス加工性が劣ることが示され、本発明が、樹脂を多層に設けた場合についても効果があることが示される。
【0066】
【表3】
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の電気電子部品用複合材料の第1の実施態様を示す拡大断面図である。
【図2】本発明の電気電子部品用複合材料の第2の実施態様を示す拡大断面図である。
【図3】本発明の電気電子部品用複合材料の第3の実施態様を示す拡大断面図である。
【図4】本発明の電気電子部品用複合材料の第4の実施態様を示す拡大断面図である。
【図5】本発明の電気電子部品用複合材料の第5の実施態様を示す拡大断面図である。
【図6】本発明の電気電子部品用複合材料の第6の実施態様を示す拡大断面図である。
【図7】本発明の電気電子部品用複合材料の第7の実施態様を示す拡大断面図である。
【図8】本発明の電気電子部品用複合材料の第8の実施態様を示す平面図である。
【図9】本発明の電気電子部品用複合材料の第9の実施態様を示す平面図である。
【図10】本発明の電気電子部品用複合材料の第10の実施態様を示す拡大断面図である。
【図11】残留溶媒量とピール強度との関係を示すグラフである。
【図12】金属基材と絶縁皮膜との間に隙間が形成された状態の一例を示す概念図。
【図13】金属基材と絶縁皮膜との間に隙間が形成された状態の一例を示す概念図。
【符号の説明】
【0068】
1 金属基材
2 樹脂皮膜
3 Ni層
4 Sn層
20 電気電子部品
21 金属基材
21a 打ち抜き加工面
22 絶縁皮膜
23 隙間
30 電気電子部品
31 金属基材
32 絶縁皮膜
33,34 隙間
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基板上に樹脂皮膜が設けられた電気電子部品用複合材料、電気電子部品および電気電子部品用複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気電子機器のプリント基板などに実装されるセラミック発振子、水晶発振器、電圧制御発振器、SAWフィルター、ダイプレクサ、カプラ、バラン、LPF、BPF、誘電体デュプレクサなどの個別部品やこれら個々の素子を複数内蔵させた各種モジュール部品、例えば、アンテナスイッチモジュール、フロントエンドモジュール、RF一体型モジュール、無線通信用モジュール、イメージセンサーモジュール、チューナーモジュール、無線LAN用途など、または、検出スイッチなどの部品は、電磁シールドのために金属製筐体内に入れたり、カバーで覆ったりして用いられる。近年では、電気電子機器の携帯化が進展する中で前記筐体などには薄型化、低背化が要求され、その高さはモジュール部品では5mm以下、個別部品では2mmを割り1mm前後に突入しつつある。液晶ドライバ(LCD)やキーボード、マザーボードなどのプリント基板側の端子接続コネクタとFPCケーブルなど側の接続コネクタは、通信ノイズや静電気防止目的から電磁波シールド性が必要とされ、導電性の金属製ケース、キャップ、カバーで覆ったりして用いられるが、同様に機器の小型薄型化が進み、コネクタ部品やソケットでも小型低背化が進んでいる。
【0003】
しかし、上記金属製筐体などは、低背化に伴って内容積が小さくなり、内蔵部品や端子、配線回路とケース、カバー、キャップ、筐体(カバー付きケース)などの電気電子部品との間の絶縁性が十分確保できなくなるという欠点があった。このような場合従来は、特許文献1に開示したように、絶縁フィルムをシート状の所定寸法に裁断してケース内部に挿入したり、特許文献2に開示したように、金属基材上に樹脂皮膜を予め形成させた金属材料から所定寸法に切り取ったりすることなどが行われている。予め樹脂皮膜を金属基材上に形成した材料を用いることは、連続的に打ち抜きや曲げの成型加工ができて生産性や経済上から好ましく、また部分或いは全面、両面など任意に高品質で連続的に皮膜形成し得る材料であることから、近年良く用いられる傾向にある。
【0004】
携帯機器やデジタル機器などが小型薄型化と共に高機能化が進むにつれて、これらに搭載使用される電気電子部品の形状はかなり制限されるようになってきている。このため必要な形状を得るための加工も厳しくなり、各種加工の際の密着性を高めることが要求される。金属基材と樹脂皮膜との密着性を高める方法として、例えば金属基材の表面にカップリング剤を塗布する方法(特許文献3)や、金属基材の表面にデンドライト状結晶を有しためっき層を形成する方法(特許文献4)が挙げられる。
【0005】
また、金属基材と樹脂皮膜との複合材料を形成するにあたり、金属箔に耐熱性樹脂溶液を連続的に塗布、乾燥してフレキシブル金属積層体を製造する際に、一定量以上の溶剤を残したまま、一旦巻き取り、更に脱溶剤と樹脂の架橋反応をコントロールしながら熱処理したフレキシブル金属積層体を製造する方法(例えば、特許文献5)や、金属導体と、一層以上のポリイミド系樹脂層とが積層された金属張積層板で、導体と接する第1層のポリイミド系樹脂層が芳香族系多塩基酸およびその酸無水物とジアミン、ジイソシアネートとを主体としてなり、第1層のポリイミド系樹脂層中の溶剤残留量を20〜30重量%とした金属張積層板(例えば、特許文献6)などの技術を適用して、製造過程におけるカールの発生を抑制することも知られている。
【0006】
ところで、金属基材上に絶縁皮膜が設けられた複合材料を、電気電子部品用の材料として適用する場合、この材料は、金属基材上に絶縁皮膜が設けられているため、金属基材と絶縁皮膜との界面を含めた箇所で打ち抜き加工等の加工を施してコネクタ接点等を形成することにより、前記コネクタ接点を狭ピッチで配置することも可能となり、様々な応用が考えられる。また、打ち抜き加工等の加工を施した後に折り曲げ加工を施すことにより、様々な機能を有する電気電子部品への適用も考えられる。
【0007】
この複合材料について、金属基材と絶縁皮膜との界面を含めた箇所で打ち抜き加工等の加工を施したところ、加工した箇所において金属基材と絶縁皮膜との間に数μm〜数十μm程度のわずかな隙間ができることがある。この隙間は金属基材と樹脂皮膜との密着性が不十分であることにより発生すると考えられる。この状態を図12に概略的に示す。図12において、20は電気電子部品、21は金属基材、22は絶縁皮膜であり、金属基材21の打ち抜き加工面21aの近傍で金属基材21と絶縁皮膜22との間に隙間23が形成されている。この傾向は、上記打ち抜き加工の際のクリアランスが大きいほど(例えば上記金属基材の厚さに対して5%以上では)、より強まる。上記打ち抜き加工の際のクリアランスを小さくすることは実際上限度があるため、上記被加工体が微細化するほどこの傾向が強まると換言することもできる。
【0008】
このような状態になると、打ち抜き加工等の経年変化などにより金属基材21から絶縁皮膜22が完全に剥離してしまうこととなり、金属基材21上に絶縁皮膜22を設けても意味がなくなる。また、微細加工後に絶縁皮膜を後付けするのは極めて手間がかかり、製品のコストアップにつながるため実用的ではない。さらに、形成された電気電子部品の金属露出面(例えば打ち抜き加工面21a)をコネクタ接点等として使用したい場合、金属露出面(例えば打ち抜き加工面21a)にめっき等で金属層を後付けすることも考えられるが、めっき液に浸漬した際に隙間23からめっき液が浸入して金属基材21から絶縁皮膜22が剥離することを助長してしまうおそれがある。
【0009】
また、打ち抜き加工等の加工を施した後に折り曲げ加工を施す場合、打ち抜き加工等の加工を施した段階で加工した箇所において金属基材と絶縁皮膜との間に隙間ができていない場合でも、折り曲げ加工を施した後に金属基材と絶縁皮膜との間に隙間ができることがある。この状態を図13に概略的に示す。図13において、30は電気電子部品、31は金属基材、32は絶縁皮膜であり、金属基材31の折り曲げ箇所の内側に隙間33が、電気電子部品3の端部(特に折り曲げた際の外側)に隙間34が形成されている。これらの隙間33、34は図13に示すとおり、折り曲げられた電気電子部品の折り曲げ箇所の側面や内表面側、電気電子部品の端部に目立ち、このような隙間があると金属基材31から絶縁皮膜32が剥離する原因となる。
【0010】
【特許文献1】特開平1−6389号公報
【特許文献2】特開2004−197224号公報
【特許文献3】特許第2802402号公報
【特許文献4】特開平5−245432号公報
【特許文献5】特開2001−105530号公報
【特許文献6】特開2005−117058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記各特許文献に記載された技術を組み合わせても、携帯機器やデジタル機器などに搭載使用される電気電子部品を製造する際の精密プレス加工や高温処理、めっき処理等を行った際に金属基材と樹脂皮膜との密着性が不十分であるという問題は解消されるに至らない。以下、詳細に説明する。
【0012】
特許文献1および特許文献2に記載された技術は、電気電子部品を製造する際の精密プレス加工や高温処理、めっき処理等の後処理を想定したものではなく、電気電子部品における金属基材と樹脂皮膜との密着性を、後処理に耐えうるほど向上させることは示されていない。
【0013】
特許文献3に記載されたカップリング剤を塗布する方法では、カップリング剤の液寿命が短いため、液の管理に細心の注意をはらう必要がある。また、金属基材表面全体に均質な処理を施すことが難しいため、前記した微細な隙間に対しては効果がないことがある。特許文献4に記載されたデンドライト状結晶を有しためっき層を形成する方法では、形成されるめっき層の結晶状態を制御するためには限定されためっき条件でめっきを施す必要があり、管理に細心の注意をはらう必要がある。また、十分な密着性を得るためにはめっき厚さを1μm以上とする必要があるため、打ち抜き加工の際にめっき層に割れが発生するなどの問題点があるほか、経済的にも好ましくない。
【0014】
さらに、特許文献5や特許文献6に記載された技術は、あくまでも製造過程におけるカールの発生を抑制することを目的として製造途中での残留溶媒量を調整することを対象としており、特許文献5や特許文献6の記載は、結果的に金属基材と樹脂皮膜との密着性を向上させることには結びつかない。
【0015】
そこで、本発明は、シールドケース、コネクタ、端子等のように加工を前提とする電気電子部品用途に適する金属樹脂複合材料(以下、単に複合材料とする)を得るにあたり、上記課題を解消するため、樹脂皮膜と金属基材との密着性を高くすることで、打ち抜き加工や曲げ加工などのプレスによる加工性が極めて良好で、かつその後に熱処理やめっき処理などが行われても樹脂皮膜と金属基材との密着性が高い状態を保つ電気電子部品用の金属樹脂複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、一般的には樹脂特性を十分に引き出すために長時間加熱し樹脂皮膜中の溶媒を極力低減する製造方法が常識であるのに対し、金属と樹脂との密着性を考慮した場合、適度に溶媒を残したほうが金属と樹脂との密着性が向上し、加工性も向上することを見出した。そして、最終的な残留溶媒量と密着性の関係を明確にして、残留溶媒量を適量残すことで特別な処理を施さずとも金属と樹脂との密着性が向上することを見出し、さらに検討を進めて本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、
(1)金属基材上の少なくとも一部に樹脂皮膜が形成されており、前記樹脂皮膜の残留溶媒量が1〜30質量%に調製されていることを特徴とする電気電子部品用複合材料、
(2)前記樹脂皮膜がポリイミド又はポリアミドイミドであることを特徴とする(1)に記載の電気電子部品用複合材料、
(3)前記金属基材が銅若しくは銅基合金または鉄若しくは鉄基合金であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の電気電子部品用複合材料、および、
(4)前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の電気電子部品用複合材料を用いたことを特徴とする電気電子部品、
(5)前記樹脂皮膜の反応硬化を100〜500℃の範囲で行うことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の電気電子部品用複合材料の製造方法、
(6)前記樹脂皮膜の反応硬化を45℃/秒以下の昇温速度で行うことを特徴とする前記(5)に記載の電気電子部品用複合材料の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の電気電子部品用複合材料は、樹脂皮膜と金属との密着性が向上することで、プレスによる打ち抜き性および曲げ加工性が向上する。また、上記のような条件で電気電子部品用複合材料を作成すると、樹脂自体が完全に硬化させたものよりも軟らかいために、プレスによる曲げ性も向上し、プレスによる加工が容易になるという大きな利点がある。
また、本発明の電気電子部品用複合材料は、樹脂皮膜と金属との密着性が向上し良好であるので、耐リフロー性、耐アルカリ性等にも優れ、加工後の後処理である熱処理やめっき処理等に十分耐えうるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の電気電子部品用複合材料は金属基材上の少なくとも一部に樹脂皮膜が形成されたものである。そしてその残留溶媒量が1〜30%、好ましくは3〜20%、さらに好ましくは5〜15%である。残留溶媒量が少なすぎると樹脂皮膜と金属との密着性が低下し、多すぎると樹脂皮膜と金属との密着性が低下するだけでなく、樹脂の硬化が不十分なため部品として成形することができない。
ここで溶媒残留量とは、でき上がった電気電子部品用複合材料の硬化後の樹脂皮膜の質量に対する前記樹脂皮膜中に残留する溶媒の質量であり、次の数式で示すことができる。
【0019】
残留溶媒量(質量%)=(残留溶媒質量/樹脂皮膜質量)×100(%)
【0020】
残留溶媒質量は、ガスクロマトグラフィー(GC)や示差熱量天秤(TG−DTA)、示差走査熱量天秤(TG−DSC)等により測定することができる。
所望の残留溶媒量は、例えば、樹脂の硬化温度や時間等の条件を適宜定めることにより得られる。
そして、これらの条件を定めて電気電子部品用複合材料を作成する。
【0021】
本発明において、金属基材は、様々な形状の金属材を採用できるが、その中でも主に金属条、金属箔または金属板である。基材厚さが薄すぎると部品に成形する際に強度が不足し、厚すぎるとプレス打ち抜き性や曲げ成形性が悪くなるので、基材厚さは、複合材料の用途により異なるが、0.01〜1mmの範囲が好ましく、0.05〜0.5mmの範囲がより好ましい。
【0022】
本発明において、金属基材には、打抜加工や絞り成形などが可能な延性を有する材料、或いはばね性を有する金属材料が用いられる。具体的には、無酸素銅、タフピッチ銅などの純銅系材料、洋白(Cu−Ni系合金)、リン青銅(Cu−Sn−P系合金)、コルソン合金(Cu−Ni−Si系合金)などの銅基合金材料、純鉄系材料、42アロイ(Fe−Ni系合金)やステンレスなどの鉄基合金材料が挙げられる。
【0023】
本発明において、金属基材の電気的特性は、複合材料の用途によって適切な値とすることが好ましい。例えば、電磁遮蔽用途(シールドケース用)の場合は、電気伝導率については電磁シールド性の観点から5%IACS以上が好ましく、10%IACS以上がさらに好ましい。また、比透磁率は1以上が好ましい。
また、コネクタ・端子用途の場合には、電気伝導率については信号伝送用、電力伝送用で好ましい範囲が異なる。信号伝送用の場合は必要な電気伝導率を確保する観点から15%IACS以上が好ましく、電力伝送用の場合は発熱を抑制する観点から60%IACS以上が好ましい。
金属基材は、例えば、所定の金属材料を溶解鋳造し、得られる鋳塊を、常法により、順に、熱間圧延、冷間圧延、均質化処理、および脱脂する工程により製造することができる。
本発明において、金属基材上に樹脂皮膜を設ける方法には、金属基材上の絶縁を要する箇所に、(a)接着剤付き樹脂フィルムを配し、前記接着剤を誘導加熱ロールにより溶融し、次いで加熱処理して反応硬化接合する方法、(b)樹脂または樹脂前駆体を溶媒に溶解したワニスを塗布し、溶媒を揮発させ、次いで加熱処理して反応硬化接合する方法などが挙げられる。(a)による方法であっても(b)による方法であっても反応硬化後の接着剤もしくは樹脂皮膜中の残留溶媒量を1〜30%とすることで、前記課題を解決する高い密着性を得ることができる。残留溶媒量の調整しやすさの観点から(b)による方法がより望ましい。
【0024】
金属基材上の樹脂皮膜を設ける位置の公差は、多数の部品に通用させることを配慮すると、望ましくは±0.15mm、より望ましくは±0.10mm、さらに望ましくは±0.05mmである。
【0025】
本発明において、樹脂皮膜を形成する樹脂には、例えば、ポリイミド系、ポリアミドイミド系、ポリアミド系、エポキシ系などの樹脂が用いられる。樹脂としては、皮膜形成後に塗装処理やリフロー実装処理等、熱処理を受ける可能性がある場合には、耐熱性の樹脂が好ましく、特に、ポリイミド系、ポリアミドイミド系が好ましい。
また、樹脂皮膜の絶縁性は、体積固有抵抗1010Ω・cm以上が好ましく、1014Ω・cm以上がさらに好ましい。
【0026】
金属基材上に樹脂または樹脂前駆体を溶媒に溶解したワニスを塗布し、加熱処理して反応硬化させる場合、加熱温度は使用する樹脂の種類に応じて100〜500℃の範囲で選択することが望ましく、200〜400℃の範囲がさらに望ましい。加熱温度が高すぎると反応硬化後に樹脂が熱分解を起こしてしまうし、加熱温度が低すぎると樹脂が硬化するまでに時間がかかり生産性が悪化する。加熱処理中の樹脂皮膜の発泡を抑制する観点からは、金属基材の昇温速度は45℃/秒以下とすることが望ましく、10〜35℃/秒の範囲がさらに望ましい。
溶媒としては、メタノール、エタノール、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド(DMF)、メチルエチルケトン(MEK)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、γ−ブチルラクトンなどが好ましい例として挙げられる。
上記塗布時のワニスにおける樹脂又は樹脂前駆体の濃度は5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。
【0027】
また、樹脂皮膜を、接着剤を用いて金属基板上などに設ける場合、接着剤にはポリイミド系、エポキシ系、アクリル系、シリコン系などの樹脂が用いられる。これらの樹脂は半田接合やリフロー半田実装をはじめとする加熱工程に対する耐熱性を有する。加熱条件が厳しくない用途では、前記樹脂以外の耐熱性能の小さい樹脂(例えば、フェノール系やポリアミド系、ポリエチレンテレフタレート系の樹脂)を用いることも可能である。
【0028】
樹脂皮膜の厚みは、薄すぎると十分な絶縁性が得られず、またピンホールが発生し易いので、2μm以上が望ましく、3μm以上がさらに望ましい。一方あまり厚いと、打ち抜きや曲げ加工などのプレス加工性が低下するので50μm以下が望ましく、特には30μm以下が望ましい。
【0029】
本発明においては、金属基材上に樹脂皮膜層を少なくとも1層有し、かつ上記樹脂皮膜が上記金属基材上に、直接、または少なくとも1層の金属層を介して設けられていることも好ましい。
【0030】
上記金属層は単層に設けても、多層に設けても良い。例えば、半田実装する用途の場合、上記金属層のうち最も表層の金属層の厚みは、半田濡れ性が良好に保たれ、リフローはんだ接合などの溶融接合が可能な1μm以上とするのが望ましい。上限は20μm程度で、それ以上厚くしても効果は飽和する。半田実装する用途以外の用途においては、耐食性や樹脂密着性などの観点から最も表層の金属層の厚みは0.1μm以上10μm以下の範囲が好ましい。表層以外の金属層についても0.1μm以上10μm以下の範囲が好まし
い。
多層の場合、コストパフォーマンスの点から2層であることがより好ましい。多層を構成するそれぞれの1層の厚さは0.1μm以上10μm以下が好ましい。
【0031】
金属基材上に設ける金属層の材料は、金属基材の材質、使用部品の種類、用途、要求特性、許容コストなどによって決まるが、いずれにしても最終的な部品として求められる基本必要特性を満たす金属が選択される。前記金属層には、通常、Ni、Cu、Sn、Ag、Pd、Auの金属のいずれか1種、または、前記金属の少なくとも1種を含む合金、共析物、もしくは化合物が用いられる。
コストパフォーマンスの観点から、単層皮膜の場合はNi、Sn、Agの各系(金属、合金、共析物、化合物)を、複層皮膜の場合は内層側(下地)にNiまたはCuの各系を、外層側にSn、Ag、Pd、Auの各系を用いるのが好ましい。3層以上の場合、中間層にはCu、Ag、Pdの各系を用いることが好ましい。
【0032】
Ni系やCu系の下地層にも合金を用いることができる。またその構成は単体または単体複層で十分である。厚みは薄過ぎるとピンホールが多くなり、厚過ぎると加工時に割れが発生し易くなるので0.1〜2μm程度が望ましい。
【0033】
下地を1層以上のNiやCuの各系皮膜とし、外層をSn系皮膜とする構成は一般的な必要特性を満足するうえ、経済的なため汎用される。
【0034】
Sn系皮膜には、光沢皮膜より無光沢皮膜が適しており、Sn、Sn−Cu、Sn−Ag、Sn−Bi、Sn−Znの各系(金属、合金、共析物、化合物)が用いられる。Sn−Bi以外は融点の低い共晶付近の組成が用い易い。
【0035】
特に、Sn、Sn−Cu系、Sn−Ag系合金は耐熱性に優れる。
前記Sn−Cu系、Sn−Ag系皮膜は合金皮膜形成のほか、Sn皮膜の上にCu層やAg層を薄く形成しておき、溶融時に合金化させて設けることもできる。
【0036】
金属層は、湿式法により設けるのが一般的である。
湿式法には浸漬置換処理法、無電解めっき法、電析法などがあるが、中でも電析法は金属層の厚みの均一性、厚み制御性、浴の安定性などの点で優れる。トータルコストも安い。
【0037】
前記電析法は、市販浴や公知のめっき液を用い、金属基材をカソードとし、可溶性または不溶性アノードとの間に適切な相対速度に前記めっき液を擁して、定電流電析により行われる。
金属層を部分的に設けるには、不要部分をマスキングする方法、必要部分のみにスポット的にめっき液を供給する方法などが適用できる。
【0038】
本発明において、金属層は、はんだ付けする箇所など必要な箇所のみに設け、他の箇所は金属基材が露出した状態にしておいても良い。
【0039】
さらに、本発明の金属基材に樹脂皮膜を形成した電気電子部品用複合材料はどのような電気電子部品にも用いることができ、その部品は特に限定されるものではないが、例えば、コネクタ、端子、シールドケース等があり、これらは携帯電話、携帯情報端末、ノートパソコン、デジタルカメラ、デジタルビデオなどの電気電子機器に採用することができる。
【0040】
以下に本発明の電気電子部品用複合材料の好ましい実施態様を、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施態様に限定されるものではない。例えば、樹脂皮膜は金属基材の片面に設けても両面に設けてもよく、また、樹脂皮膜は多層に設けてもよい。すなわち、最終製品である電気電子部品の要求特性に応じて、本発明の実施態様は適宜変更されうるものである。
【0041】
図1は、本発明の複合材料の第1の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1表面の少なくとも絶縁を要する1箇所に樹脂皮膜2が設けられている。
なお、基材表面から樹脂皮膜表面までの高さを「h」で示している(以下の図2〜7も同様である)。
【0042】
図2は、本発明複合材料の第2の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1の片面全面にわたり、樹脂皮膜2が設けられている。
【0043】
図3は、本発明複合材料の第3の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1表面の絶縁を要する2箇所に樹脂皮膜2が設けられている。
【0044】
図1、図2、および図3に示した本発明複合材料は、樹脂皮膜2が絶縁を要する箇所に設けられているので、複合材料としての機能が効果的に発揮される。
例えば、複合材料をシールドケース等の筐体部品としたとき、他部品との間の絶縁性が良好に保てるので、筐体の低背化に有利である。また、図1および図3では、前記樹脂皮膜2が設けられていない箇所は金属基材が露出しているので放熱性が高度に維持される。
また、複合材料をコネクタや端子などの電気接続部品としたとき、隣接する部品との間の絶縁性が良好に保てるので、コネクタの狭ピッチ化などに有利である。また、図1および図3では、前記樹脂皮膜2が設けられていない箇所は金属基材が露出しているので、はんだ付けが可能である、放熱性が高度に維持されるなどの利点がある。
【0045】
図4は、本発明複合材料の第4の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1上の少なくとも絶縁を要する1箇所に樹脂皮膜2が設けられており、樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材上にNi層3が設けられている。
【0046】
図5は、本発明複合材料の第5の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1上の絶縁を要する2箇所に樹脂皮膜2が設けられており、樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材上にNi層3が設けられている。
【0047】
図4、図5に示した複合材料は、樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材1上にNi層3が設けられているので耐食性が向上する。
【0048】
図6は、本発明複合材料の第6の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1上の少なくとも絶縁を要する1箇所に樹脂皮膜2が設けられており、樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材1上にNi層3およびSn層4がこの順に設けられている。
【0049】
図7は、本発明複合材料の第7の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1上にNi層3が設けられており、その上の絶縁を要する2箇所に樹脂皮膜2が設けられており、樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材1上にSn層4が設けられている。
【0050】
図6、図7に示した本発明複合材料は、樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材1上にSn層4が設けられているので半田接合やリフロー半田実装などが容易に行える。また金属基材1成分の拡散がNi層3により阻止されるためSn層4の変色が防止される。この他、図7に示した本発明複合材料については、樹脂皮膜2がNi層3上に設けられているので樹脂皮膜との密着性向上効果が得られる。
【0051】
また、図6、図7に示すように金属層を2層に設けたものは、金属基材1が良好に保護され、金属基材1の耐熱性、耐酸化性、耐食性などが向上する。また金属層外層が金属基材1成分の拡散により合金化或いは化合物化するのを抑制することができる。
特に下地にNi層またはCu層を設け、外層にSn層を設けたものは、Sn層の化合物化が十分抑制されて、耐熱性や耐ウィスカー性が高度に維持され推奨される。金属層を3層以上設けるとさらに効果的であるが、コストパフォーマンスの点で金属層は2層が適当である。
【0052】
本発明複合材料の樹脂皮膜2が設けられていない箇所には、さらに銅材などのヒートシンクを設けて、放熱性を著しく高めることも可能である。特に、図6〜図7に示す複合材料では、はんだ付けにより容易にヒートシンクを接合できる。
【0053】
図8は、本発明複合材料の第8の実施態様を示す平面図である。
金属基材1上の絶縁を要する箇所に樹脂皮膜2がストライプ状に設けられている。樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材上にNi層3、あるいはNi層3およびSn層4をこの順に設けてもよい。また金属基材1上に設けられたNi層3上の絶縁を要する箇所に樹脂皮膜2を設け、樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材2上にSn層4をこの順に設けてもよい。
【0054】
図9は、本発明複合材料の第9の実施態様を示す平面図である。
金属基材1上の絶縁を要する箇所に樹脂皮膜2がスポット状に設けられている。その他は上記第8の実施態様と同様である。
【0055】
図10は、本発明複合材料の第10の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1表面のうち一方の面の少なくとも絶縁を要する1箇所と他方の面の全面に樹脂皮膜2が設けられている。なお、前記他方の面には、図示されるように全面に樹脂皮膜2が設けられている必要はかならずしもなく、少なくとも一部に樹脂皮膜2が設けられるものであってもよい。
【実施例】
【0056】
以下に、本発明の実施例により詳細に説明する。
[実施例1]
JIS合金C5210R(りん青銅、古河電気工業(株)製)の厚み0.1mm、幅20mm、および、SUS304CPS(ステンレス、日新製鋼(株)製)の厚み0.1mm、幅20mmの条を金属基材とした。前記条に電解脱脂、酸洗処理、水洗、乾燥の各工程をこの順に施した。
【0057】
次に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶媒とするポリアミドイミド(PAI)溶液のワニス(固形分約30%)を、金属基材の幅方向中央部分に、焼き付け後に厚み10μm(±1μm)となるような塗布厚さで、Kコントロールコーター(RK Print Coat Instruments Ltd. UK 製)にて図5のようになるように塗装し、次いで所定の下記加熱処理を施して、溶媒乾燥とともに硬化させて樹脂皮膜を設けた。
【0058】
各本発明例No.1〜14および比較例No.15〜20の加熱処理は表1に記載する炉温200℃、300℃、400℃の各炉温で、炉に入れる時間を調整し、残留溶媒量を種々に変化させた。昇温速度はそれぞれ、炉温200℃→約13℃/秒、炉温300℃→約21℃/秒、炉温400℃→約32℃/秒、とした。残留溶媒量が1%〜30%のものは本発明例、1%未満および30%を超えるものは比較例である。
【0059】
残留溶媒量(質量%)の測定はガスクロマトグラフィー法により以下の条件に従い行った。装置:HP5890+フロンティア・ラボ製ダブルショットパイロライザーPY−2020D、カラム:Supelco社製SPB−20(30m×0.25mmID×0.25μm)、GC温度:50℃(5min)→10℃/min→280℃(hold)、注入口温度:280℃、注入方法:スプリット(30:1)、検出方法:FID、Det温度:280℃。
試料を2mm×10mmにカットし、ガスクロマトグラフィー(GC)にて300℃で5分加熱し発生した気体の定量を行った。ここで、試料の数は5とし、測定値はその算術平均値とした。
【0060】
得られた各実施例及び比較例No.の各電気電子部品用材料試料について、打ち抜き加工性および曲げ加工性の評価を行った。
前記打抜き加工性の評価は、クリアランス5%の金型を用いて5mm×10mmの矩形状に試料を打抜いた後、赤インクを溶かした水溶液中に浸漬し、光学顕微鏡で観察し打抜き端部における樹脂の剥離幅が、5μm未満の場合を「◎」、5μm以上10μm未満の場合を「○」、10μm以上の場合を「×」と評価した。
前記曲げ加工性の評価は、クリアランス5%の金型を用いて5mm×10mmの矩形状に試料を打抜いた後、試料端部から1mmの位置に曲げ加工が施される様に工夫された曲率半径0.1mm、曲げ角度120度の金型を用いて曲げ加工を施し、曲げ内側における樹脂の剥離の有無と曲げ外側を延長した先の端部における樹脂の剥離の有無を光学実態顕微鏡40倍で観察することにより判定した。また同時に、曲げ加工部における樹脂皮膜部分のシワ、割れ、剥離の有無を観察し、全くシワや割れがない場合を「◎」、割れや剥離はないがシワのみが観察され、使用上は問題ないレベルのものを「○」、シワ、割れ、剥離などが観察されるものを「×」と評価した。
ピール強度は、IPC−TM−650 2.4.9.(Peel Strength, Flexible Printed Wiring Materials)を参考にしてピール強度(kN/m)を測定した。引張速度50mm/minで3.2mm幅に切ったサンプルの樹脂部を228.6mmに渡って引っ張り測定した。
得られた結果を表1に示した。表1のとおり、試料No.1〜14の本発明例はピール強度、プレス加工性が良好であり、試料No.15〜20の比較例はピール強度、プレス加工性が劣ることが示される。
【0061】
【表1】
【0062】
[実施例2]
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶媒とするポリアミドイミド溶液のワニスに代えて、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶媒とするポリイミド(PI)溶液(固形分約20%)を利用した他は実施例1と同じ方法により本発明例No.21〜34および比較例No.35〜40の試料を得た。各実施例の加熱処理の炉温度は、表2に示す。
得られた試料の測定は実施例1と同じ方法により行った。得られた結果を表2に示す。表2のとおり、試料No.21〜34の本発明例はピール強度、プレス加工性が良好であり、試料No.35〜40の比較例はピール強度、プレス加工性が劣ることが示される。
【0063】
【表2】
【0064】
本発明例1、2及び比較例1、2から得られた残留溶媒量とピール強度の関係を表すグラフを図11に示す。図11より、残留溶媒量が1〜30質量%の本発明例の範囲ではピール強度が比較例に比べ明らかに高く、3〜20質量%の範囲ではさらにピール強度がさらに高く、5〜15質量%ではピール強度がより高いことが示されている。
【0065】
[実施例3]
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶媒とするポリアミドイミド溶液のワニス(固形分約30%)を使用し、実施例1と同じ方法により塗装と焼き付けを繰り返し行うことで1〜3層塗りを行い、焼き付け後の樹脂厚を5〜50μmの間で変化させ、本発明例No.41〜54および比較例No.55〜60の試料を得た。各実施例の塗工回数、樹脂厚、加熱処理の炉温度は、表3に示す。なお、樹脂を多層に設けたものについては、残留溶媒量は、最後の層を設けた後の樹脂全体の残留溶媒量を、樹脂厚はそれぞれの層の厚さの和を示してある。
得られた試料の測定は実施例1と同じ方法により行った。得られた結果を表3に示す。表3のとおり、試料No.41〜54の本発明例はピール強度、プレス加工性が良好であり、試料No.55〜60の比較例はピール強度、プレス加工性が劣ることが示され、本発明が、樹脂を多層に設けた場合についても効果があることが示される。
【0066】
【表3】
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の電気電子部品用複合材料の第1の実施態様を示す拡大断面図である。
【図2】本発明の電気電子部品用複合材料の第2の実施態様を示す拡大断面図である。
【図3】本発明の電気電子部品用複合材料の第3の実施態様を示す拡大断面図である。
【図4】本発明の電気電子部品用複合材料の第4の実施態様を示す拡大断面図である。
【図5】本発明の電気電子部品用複合材料の第5の実施態様を示す拡大断面図である。
【図6】本発明の電気電子部品用複合材料の第6の実施態様を示す拡大断面図である。
【図7】本発明の電気電子部品用複合材料の第7の実施態様を示す拡大断面図である。
【図8】本発明の電気電子部品用複合材料の第8の実施態様を示す平面図である。
【図9】本発明の電気電子部品用複合材料の第9の実施態様を示す平面図である。
【図10】本発明の電気電子部品用複合材料の第10の実施態様を示す拡大断面図である。
【図11】残留溶媒量とピール強度との関係を示すグラフである。
【図12】金属基材と絶縁皮膜との間に隙間が形成された状態の一例を示す概念図。
【図13】金属基材と絶縁皮膜との間に隙間が形成された状態の一例を示す概念図。
【符号の説明】
【0068】
1 金属基材
2 樹脂皮膜
3 Ni層
4 Sn層
20 電気電子部品
21 金属基材
21a 打ち抜き加工面
22 絶縁皮膜
23 隙間
30 電気電子部品
31 金属基材
32 絶縁皮膜
33,34 隙間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材上の少なくとも一部に樹脂皮膜が形成されており、前記樹脂皮膜の残留溶媒量が1〜30質量%に調製されていることを特徴とする電気電子部品用複合材料。
【請求項2】
前記樹脂皮膜がポリイミド又はポリアミドイミドであることを特徴とする請求項1に記載の電気電子部品用複合材料。
【請求項3】
前記金属基材が銅若しくは銅基合金または鉄若しくは鉄基合金であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気電子部品用複合材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気電子部品用複合材料を用いたことを特徴とする電気電子部品。
【請求項5】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の電気電子部品用複合材料を製造する方法であって、前記樹脂皮膜の反応硬化を100〜500℃の範囲で行うことを特徴とする電気電子部品用複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂皮膜の反応硬化を45℃/秒以下の昇温速度で行うことを特徴とする請求項5記載の電気電子部品用複合材料の製造方法。
【請求項1】
金属基材上の少なくとも一部に樹脂皮膜が形成されており、前記樹脂皮膜の残留溶媒量が1〜30質量%に調製されていることを特徴とする電気電子部品用複合材料。
【請求項2】
前記樹脂皮膜がポリイミド又はポリアミドイミドであることを特徴とする請求項1に記載の電気電子部品用複合材料。
【請求項3】
前記金属基材が銅若しくは銅基合金または鉄若しくは鉄基合金であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気電子部品用複合材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気電子部品用複合材料を用いたことを特徴とする電気電子部品。
【請求項5】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の電気電子部品用複合材料を製造する方法であって、前記樹脂皮膜の反応硬化を100〜500℃の範囲で行うことを特徴とする電気電子部品用複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂皮膜の反応硬化を45℃/秒以下の昇温速度で行うことを特徴とする請求項5記載の電気電子部品用複合材料の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−190389(P2009−190389A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166402(P2008−166402)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【特許番号】特許第4316652号(P4316652)
【特許公報発行日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【特許番号】特許第4316652号(P4316652)
【特許公報発行日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】
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