説明

電池の製造方法及びその装置

【課題】被塗布物に対して活物質を効率よく塗着させるとともに、塗工ガンに対するメンテナンス頻度を低減する。
【解決手段】電池製造装置10は、ストリップ12(集電体)を搬入する塗着ブース14と、該塗着ブース14の側壁26、28に設置された塗工ガン16a、16bとを備える。塗工ガン16a、16bの吐出ノズル48は側壁26、28に形成された導入孔に挿入され、この導入孔を介して、活物質を含む粉体が搬送用エアに同伴されながら塗着ブース14内に吐出・噴霧される。塗工ガン16aにおける吐出パターンと、塗工ガン16bにおける吐出パターンとは互いに衝突することで干渉する。この干渉によって前記粉体の運動エネルギが相殺されることに伴い、該粉体が静電作用下にストリップ12に容易に引き寄せられるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極反応を生起する活物質を集電体に塗着させる電池の製造方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、電池は、正極として機能する正極活物質を含む正極活物質層と、負極として機能する負極活物質からなる負極活物質層とが各端面に形成された集電体を備える。ここで、正極活物質層又は負極活物質層は、正極活物質の粉末又は負極活物質の粉末と、導電を担う導電材の粉末と、これらの粉末同士を結着するバインダとを含むペーストが集電体に塗着されることで形成されることが一般的である。すなわち、いわゆる湿式塗布が広汎に行われている。
【0003】
これに対し、近時、特許文献1において、上記した各粉末及びバインダを用いて粉体塗装を行う、いわゆる乾式塗布が提案されている。特許文献1には、この場合、正極活物質層や負極活物質層の厚みを略均等にすることができ、また、高電流密度においても放電容量比の低下が少ない、内部抵抗が小さな電池が得られた、との報告がなされている。
【0004】
粉体塗装は、一般的には、塗着ブースの内部に塗装を施すべきワークを収容した後、前記塗着ブースの内方に設置された塗工ガンから粉体を吐出することで実施される(例えば、特許文献2の図1、特許文献3の図1及び図2参照)。塗着ブース内に吐出された粉体は、該粉体と前記ワークとの間に作用する静電力によってワークに引き寄せられ、最終的に、該ワークに付着する。
【0005】
前記特許文献1には、如何にして粉体塗装を実施するかについての具体的な開示がない。このため、特許文献2、3に記載されるような周知の一般的手法を採用している蓋然性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−351616号公報
【特許文献2】特開平4−126563号公報
【特許文献3】特開2002−361121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
粉体塗装には、ワークに対する粉体の塗着効率が良好ではなく、このため、塗着させる量以上の量の粉体を塗着ブース内に吐出している。通常、未塗着の粉体は回収されて再吐出されるが、回収量が多くなることに伴い、再使用のための再生処理量も多くなる。このため、塗着効率を向上させることが要請されている。
【0008】
さらに、粉体塗装では、前記特許文献2の図1、前記特許文献3の図1及び図2に示される通り、塗着ブース内に塗工ガンが設置される。この場合、粉体が塗工ガンに短時間で塗着してしまい、このために粉体を吐出することが困難となるので、塗工ガンに対するメンテナンスを頻繁に行わなければならない。メンテナンスを行う間は塗装を行うことができないため、被塗布物に対する塗装作業効率も低下することになる。
【0009】
以上から諒解されるように、活物質を粉体塗装によって集電体に塗着しようとする場合、未塗着の活物質が多量に発生するために後処理に要する作業量が多くなったり、塗工ガンに対するメンテナンス頻度が高いために塗装作業効率が低下したりするという不具合がある。
【0010】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、集電体に対して活物質を効率よく塗着させることが可能であり、しかも、塗工ガンに対するメンテナンス頻度を低減し得、さらに、正極活物質層及び負極活物質層の厚みを一層均等とすることも可能な電池の製造方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明は、電極反応を生起する活物質を複数個の塗工ツールから吐出し、塗着ブースの内部に搬入された集電体に対して前記活物質を塗着させる工程を有する電池の製造方法であって、
前記複数個の塗工ツールの中の少なくとも2個を、前記活物質が吐出される吐出口同士が互いに対向するように前記塗着ブースの壁に設置し、
前記対向する吐出口の各々から前記集電体に対して前記活物質を同時に吐出するとともに、一方の前記塗工ツールから吐出されて前記塗着ブースの内部に拡散した前記活物質を、他方の前記塗工ツールから吐出された前記活物質に衝突させることで該活物質を前記集電体に移動させることを特徴とする。
【0012】
すなわち、本発明においては、一方の塗工ツールの吐出口から吐出された活物質(粉体)に対し、他方の塗工ツールの吐出口から吐出された活物質(粉体)を衝突させるようにしている。粉体は搬送用気体に同伴されるので、結局、対向する吐出口から粉体とともに吐出される搬送用エア同士も衝突する。すなわち、吐出パターン同士が干渉する。
【0013】
この干渉が起こるため、例えば、塗着ブース内において上方に拡散しようとする活物質が、対向する吐出口から吐出されて上方に拡散しようとする搬送用エアと衝突し、その結果、活物質は、吐出の際に搬送エアから付与された運動エネルギが相殺された状態となり、集電体の周辺に分散浮遊するようになる。
【0014】
下方に拡散しようとする活物質についても同様に、対向する吐出口から吐出されて下方に拡散しようとする搬送用エアとぶつかる。これにより、この活物質も集電体の周辺に分散浮遊するようになる。
【0015】
このようにして集電体の周辺に分散浮遊するようになった活物質は、静電作用によって被塗布物に引き寄せられる。このため、活物質が集電体に対して効率よく塗着する。すなわち、塗着効率が向上する。
【0016】
また、上記したように、活物質が分散浮遊した後に静電作用を介して集電体に塗着するので、該集電体の全体にわたって塗膜、すなわち、活物質層の厚みが略一定となる。
【0017】
しかも、この場合、未塗着の活物質量が低減するので、活物質の回収量及び再生処理量が低減する。このため、再生処理に要するコストを低減することもできる。
【0018】
その上、本発明では、上記したように粉体を塗着ブース内に浮遊させ、その後に静電作用によって該粉体をストリップに塗着させるので、粉体及び搬送用気体が集電体に直接接触することが回避される。このため、集電体が振動することが回避される。
【0019】
従って、塗着ブースの出口近傍で集電体を支持する必要がなく、例えば、活物質層を硬化するための加熱装置の下流側で支持することが可能である。加熱装置を通過した活物質層は、集電体に堅牢に結着する。このため、集電体を支持するための部材(払い出しローラ等)に活物質層が接触した場合であっても、該活物質層が集電体から脱落する懸念が払拭される。
【0020】
このような理由から、本発明においては、塗工ツールから吐出された活物質を集電体の両端面に塗着することが可能となる。このため、集電体の各端面に個別に活物質層を形成する必要がないので、塗着効率が一層向上する。
【0021】
また、本発明は、電極反応を生起する活物質を集電体に対して塗着するための電池製造装置であって、
前記集電体を搬入する塗着ブースと、
前記塗着ブースに設置され、前記活物質を前記集電体に対して吐出するための複数個の塗工ツールと、
を備え、
前記複数個の塗工ツールの中の少なくとも2個が、前記活物質が吐出される吐出口同士が互いに対向するように前記塗着ブースの壁に設置され、
前記対向する吐出口の各々は、前記集電体に対して前記活物質を同時に吐出するとともに、一方の前記塗工ツールから吐出されて前記塗着ブースの内部に拡散した前記活物質を、他方の前記塗工ツールから吐出された前記活物質に衝突させて前記集電体に移動させることを特徴とする。
【0022】
このような構成とすることにより、集電体に向かう活物質の量を増加させて塗着効率を向上させることができる。このために未塗着の活物質の回収量及び再生処理量が低減するので、コスト的に有利となる。
【0023】
いずれの場合においても、塗工ツールの本体を前記塗着ブースの外壁に設置することが好ましい。これにより塗工ツールに活物質が塗着することが回避されるので、塗工ツールのメンテナンス頻度が著しく低減する。従って、塗工ツールに対してメンテナンスを行うために塗装作業を中断する頻度も低減し、この結果、塗装作業効率が向上する。
【0024】
しかも、これにより、塗着ブースの寸法、ひいては体積を小さくすることもできる。塗着ブースの内部に塗工ツールを収容する必要がなく、このため、塗着ブースに塗工ツールを収容するためのスペースを形成する必要がないからである。
【0025】
なお、この場合、吐出口を前記塗着ブースの内壁に設けるようにすればよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、吐出口同士を対向させるようにしているので、一方の吐出口から吐出されて塗着ブース内を拡散しようとする活物質(及び搬送用気体)が、他方の吐出口から吐出された活物質(及び搬送用気体)に衝突する。すなわち、吐出パターン同士が干渉する。
【0027】
この干渉によって、粉体である活物質が運動エネルギを喪失し、集電体の周囲に分散浮遊した状態となる。この状態の活物質は、静電作用によって集電体に容易に引き寄せられて塗着する。以上のような理由から、塗着効率が向上する。
【0028】
このようにして塗着効率が向上するために、未塗着の活物質量が低減する。これに伴って未塗着の活物質の回収量、及び再使用のための再生処理量が低減し、その結果、再生処理に要するコストが低減する。従って、コスト的に有利となる。
【0029】
さらに、ガン本体を塗着ブースの外方に配設した場合、塗工ツールのメンテナンス頻度が低減する。従って、塗装作業効率が向上する。
【0030】
その上、活物質が分散浮遊した後に静電作用を介して集電体に塗着するので、該集電体の全体にわたって塗膜(活物質層)の厚みが略一定となるとともに、集電体を支持する部材を、塗着ブースの出口から離間した位置に設けることができる。従って、活物質層を集電体の両端面に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態に係る電池製造装置の全体概略斜視図である。
【図2】図1の電池製造装置の概略正面縦断面図である。
【図3】図1の粉体装置を構成する塗工ガンの全体概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る電池の製造方法につき、それを実施する電池製造装置との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0033】
なお、本実施の形態では、同一の出発原料から正極活物質層、負極活物質層の双方を形成する場合を例示する。すなわち、正極活物質層、負極活物質層は互いに同一素材からなる。このため、以下の説明では、正極活物質層及び負極活物質層を一括し、単に「活物質」、「活物質層」等と表記する。
【0034】
図1は、本実施の形態に係る電池製造装置10の全体斜視概略図である。この電池製造装置10は、帯状の集電体(以下、ストリップと表記し、その参照符号を12とする)に対して活物質を塗着する際にストリップ12を囲繞する塗着ブース14と、該塗着ブース14に設置された塗工ツールとしての2個の塗工ガン16a、16bとを備える。
【0035】
塗着ブース14の上流側には、アルミニウム箔、銅箔、ニッケル箔等の金属箔が巻回されることで形成されたロール状集電体18が配置される。ストリップ12は、このロール状集電体18から引き出された帯形状体である。
【0036】
ロール状集電体18と塗着ブース14との間には、ロール状集電体18からストリップ12を送り出すとともにストリップ12を下端面側から支持するための1組の送り出しローラ20、20が配設される。これら送り出しローラ20、20と、後述する払い出しローラ22、22との協動作用下に、ロール状集電体18が塗着ブース14に対して搬入及び搬出される。
【0037】
塗着ブース14は、図1及び図2に示すように、底壁24と、前記底壁24から略垂直方向に立ち上げられ且つストリップ12の進行方向に対して略平行方向に延在する側壁26、28と、天井壁30と、ストリップ12の進行方向上流側及び下流側をそれぞれ閉塞する上流側壁32及び下流側壁34とを有する。底壁24及び天井壁30は、側壁26、28同士に橋架され、且つ、側壁26、28と同様にストリップ12の進行方向に対して略平行方向に延在する。一方、上流側壁32及び下流側壁34は、ストリップ12の進行方向に対して略直交する方向に延在する。
【0038】
勿論、上流側壁32には、ストリップ12を塗着ブース14に搬入するための入口36が形成されており、同様に、下流側壁34には、ストリップ12を塗着ブース14から搬出可能とするための出口38が形成されている。
【0039】
前記2個の塗工ガン16a、16bは、上記のように構成された塗着ブース14の側壁26、28の外方に1個ずつ設置されている。なお、塗工ガン16a、16bは同一構成であるが、説明の便宜上、互いに別の参照符号を付している。
【0040】
ここで、側壁28に設置された塗工ガン16bの全体概略側面図を図3に示す。この場合、塗工ガン16bは、ガン本体40と、該ガン本体40の各端部に接続された中空の供給チューブ42、吐出チューブ44とを有する。この中、吐出チューブ44の先端には、その内部に図示しない分岐通路が形成された分配部材46が配設される。すなわち、吐出チューブ44の内部は、前記分岐通路に連通する。
【0041】
前記分岐通路の各先端には、吐出ノズル48が設けられる。すなわち、吐出ノズル48の各々は、分配部材46に形成された前記分岐通路を介して吐出チューブ44に連通し、後述するように、供給チューブ42を介してガン本体40に導入され、吐出チューブ44及び前記分岐通路を経由した粉体(主には活物質)を吐出する。
【0042】
なお、分配部材46は、湾曲して略半楕円形状をなす円弧形状部材50を介してガン本体40に支持される。この円弧形状部材50がガン本体40に強固に支持されることによって、分配部材46の回り止めがなされている。
【0043】
好適には、分配部材46の一端面は側壁28に当接ないし接着され、且つ吐出ノズル48は、側壁28に形成された図示しない導入孔に挿入される。従って、吐出ノズル48から吐出された粉体(活物質)は、導入孔を経て塗着ブース14の内部に吐出される。すなわち、導入孔は、活物質を吐出する吐出口として機能する。
【0044】
以上の供給チューブ42、ガン本体40、吐出チューブ44、分配部材46、及び吐出ノズル48の素材は、これらの内部を摩擦しながら通過する粉体に対して摩擦帯電を生じさせるようなものが選定される。この種の素材の好適な例としては、テトラフルオロエチレンが挙げられる。
【0045】
勿論、残余の塗工ガン16aも同様に構成されている。従って、同一の構成要素には同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0046】
そして、図1に示すように、塗工ガン16aと塗工ガン16bは、各々のガン本体40、40同士が略対向するようにして側壁26、28の外方に設置されている。
【0047】
塗着ブース14の下流側には、加熱装置52、加圧装置54、払い出しローラ22、22がこの順序で配設される。
【0048】
加熱装置52は、ストリップ12の各端面に塗着された粉体に含まれるバインダを加熱するためのものである。この加熱により、バインダが一旦軟化する。その後、バインダが硬化することにより、粉体に含まれる活物質及び導電材が集電体の端面に強固に結着するとともに、活物質同士、導電材同士、活物質と導電材同士が結着して、堅牢な活物質層が形成される。
【0049】
加熱装置52は、上記したようにバインダを軟化させることが可能なものであればよく、特に限定されるものではないが、好適な具体例としては、電磁誘導加熱器や紫外線(UV)照射器等が挙げられる。
【0050】
加圧装置54は1組の加圧ローラ56、56を有し、これら加圧ローラ56、56の間に、活物質層が形成されたストリップ12が通される。このため、該ストリップ12の両端面に塗着・結着した活物質層が加圧ローラ56、56によって押圧され、その結果、所定の厚みとなるように圧潰される。
【0051】
払い出しローラ22、22は互いに並列配置され、双方ともストリップ12の下端面を支持する。上記したように、送り出しローラ20、20と払い出しローラ22、22によってストリップ12が送られる。
【0052】
本実施の形態に係る電池製造装置10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その動作並びに作用効果について説明する。
【0053】
はじめに、ロール状集電体18からストリップ12が若干引き出され、並列配置された1組の送り出しローラ20、20に載置される。このストリップ12ないしはロール状集電体18が、アースに対して電気的に接続される。
【0054】
ストリップ12の先端は、送り出しローラ20、20が回転付勢されることに伴い、塗着ブース14に指向して変位し始める。該先端は、塗着ブース14の上流側壁32の入口36を通過し、塗着ブース14内を所定速度で緩やかに移動する。
【0055】
塗着ブース14内には、この移動に先立ち、図示しない供給源から供給された粉体が、搬送用エアに同伴されながら、供給チューブ42、塗工ガン16a、16b、吐出チューブ44を経由した後、分配部材46内の分岐通路によって分配され、さらに、吐出ノズル48を通過して前記導入孔から吐出されている。
【0056】
ここで、粉体は、電極反応を生起する活物質の粉末、導電を担う導電材の粉末、これらの粉末同士を結着するバインダとを含む混合物である。
【0057】
活物質は、電池の種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、リチウムイオン二次電池を製造する場合、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム等を活物質として用いることができる。
【0058】
導電材は、十分な導電性を示す物質であればよい。この種の物質としては金属粉末が挙げられるが、軽量であること等の利点を有することから、カーボンブラックをはじめとする各種の炭素粉末が一層好適である。
【0059】
バインダとしては、比較的低温で軟化する周知の有機化合物等を用いればよい。その好適な例としては、ポリフッ化ビニリデン等を挙げることができる。
【0060】
以上のような活物質、導電材、及びバインダを含む粉体は、供給チューブ42、塗工ガン16a、16bのガン本体40、吐出チューブ44、分岐通路、及び吐出ノズル48を通過する間に、これら供給チューブ42、ガン本体40、吐出チューブ44、分岐通路、及び吐出ノズル48に対して摺接し、この際の摩擦によって帯電する。すなわち、活物質を含む粉体は、帯電した状態で導入孔(吐出口)から吐出され、塗着ブース14内に噴霧される。
【0061】
上記したように、ストリップ12はアースに電気的に接続されている。このため、帯電した状態で吐出された粉体は、静電気を介する静電作用によってストリップ12に引き寄せられ、その結果、該ストリップ12の各端面(下端面及び上端面)に効率よく塗着される。
【0062】
その一方で、塗着ブース14内に噴霧された粉体の一部は、搬送用エアが塗着ブース14内に拡散することに伴って拡散する。通常の粉体塗装装置では、例えば、天井壁30に向かって拡散した活物質に付与された搬送用エアによる運動エネルギが、前記静電作用によってストリップ12に向かおうとする運動エネルギに比して大きく、このため、この拡散した活物質を塗着させることは容易ではない。
【0063】
しかしながら、本実施の形態においては、塗工ガン16aに対して塗工ガン16bを略対向する位置に配設している。このため、図2に示すように、塗工ガン16aから吐出・噴霧された粉体及び搬送用エアの流れが、塗工ガン16bから吐出・噴霧された活物質及び搬送用エアの流れに衝突する。換言すれば、塗工ガン16a、16bからの吐出パターン同士が干渉する。
【0064】
このため、塗着ブース14内では、天井壁30に向かって拡散した粉体及び搬送用エア同士が衝突し合い、その結果、粉体は、吐出の際に搬送エアから付与された運動エネルギが相殺された状態となる。このため、粉体は、ストリップ12の周辺で分散浮遊する。
【0065】
その一方で、底壁24に向かって拡散した活物質及び搬送用エア同士も衝突し合い、これにより、粉体がストリップ12の周辺で分散浮遊した状態となる。
【0066】
以上のように、本実施の形態によれば、側壁26、28の導入孔同士、すなわち、塗工ガン16a、16bの吐出口同士を互いに略対向する位置に形成し、これにより該導入孔を介して吐出・噴霧される吐出パターン同士が干渉するようにしている。このため、粉体の運動エネルギを喪失させ、静電作用によってストリップ12側に引き寄せられ易い状態とすることができる。
【0067】
すなわち、この場合、塗着ブース14内に吐出・噴霧された粉体(活物質層の出発原料)の大部分をストリップ12に指向して移動させることができる。従って、ストリップ12に対する塗着効率が向上するので、一般的な粉体塗装で活物質層を形成する場合に比して、未塗着の粉体量が低減する。
【0068】
しかも、上記したように、粉体が分散浮遊した後に静電作用を介してストリップ12に塗着するので、塗膜、換言すれば、活物質層の厚みが、該ストリップ12の全体にわたって略一定となる。すなわち、厚みが略均一な活物質層を得ることも容易である。
【0069】
それでもなおストリップ12に塗着されない未塗着の粉体が発生する場合、周知の回収機構を介して該粉体を回収するようにすればよい。上記したように、本実施の形態では、未塗着の粉体量が少ないので、回収すべき粉体の量も少ない。このため、粉体の使用効率が向上し、該粉体に含まれる活物質、導電材、バインダを再使用するための再生処理量が少なくなるのでコスト的に有利である。
【0070】
しかも、本実施の形態においては、塗工ガン16a、16bを構成するガン本体40や吐出チューブ44、吐出ノズル48が塗着ブース14内に露呈していない。このため、粉体に含まれる活物質や導電材、バインダが塗工ガン16a、16bに塗着することがないので、塗工ガン16a、16bのメンテナンス頻度が著しく低減する。結局、塗工ガン16a、16bに対してメンテナンスを行うべく塗着作業を中断する頻度が低減するので、ストリップ12に対する塗着作業効率も向上する。
【0071】
ストリップ12の先端は、以上のようにして粉体が塗着される間、継続して下流側に送られている。従って、粉体の吐出が継続されることにより、ストリップ12の長手方向に沿って粉体が連続的に塗着される。換言すれば、活物質層が連続的に形成される。
【0072】
このようにして粉体が塗着されたストリップ12の先端は、塗着ブース14の出口38を通過し、次に、加熱装置52の内部に進入して、該加熱装置52によって活物質層ごと加熱される。この加熱により、活物質層に含まれるバインダが軟化する。加熱温度は、例えば、150℃〜200℃程度に設定すればよい。
【0073】
活物質層及びストリップ12の先端は、このようにバインダが軟化した状態を継続している間に、加圧装置54を構成する加圧ローラ56、56の間に進入する。すなわち、活物質層に対してロール成形が施され、これにより、活物質層が所定の厚みに圧潰される。また、この圧潰によって活物質層中の気孔の割合を制御することができ、結局、活物質層の見掛け密度を大きくすることが可能となる。
【0074】
加圧ローラ56、56を通過したストリップ12の先端は、互いに並列配置された払い出しローラ22、22に到達する。加圧装置54から払い出しローラ22、22に至るまでの間に活物質層中のバインダが冷却されて硬化し、これに伴い、粉体に含まれる活物質及び導電材が集電体の端面に強固に結着するとともに、活物質同士、導電材同士、活物質と導電材同士が結着する。これにより、活物質層が堅牢で崩壊し難くなる。
【0075】
ストリップ12の先端は、払い出しローラ22、22によってさらに送られる。すなわち、払い出しがなされる。
【0076】
本実施の形態では、粉体を塗着ブース14内に浮遊させ、その後、静電作用によって該粉体をストリップ12に塗着させるようにしている。すなわち、粉体及び搬送用エアは、ストリップ12に直接接触しない。このため、活物質層を形成している間、ストリップ12が振動することが回避される。
【0077】
粉体及び搬送用エアがストリップ12に接触する場合には、ストリップ12が振動することを抑制するべく、払い出しローラ22を塗着ブース14の出口38近傍に配置してストリップ12を下端面側から支持する必要がある。この場合において、ストリップ12の下端面に活物質層を形成すると、払い出しローラ22によって活物質層がストリップ12から脱落する懸念がある。該活物質層が加熱前であるため、ストリップ12に強固に結着していないからである。
【0078】
これに対し、本実施の形態によれば、上記したような理由によってストリップ12が振動することが回避される。このため、塗着ブース14の出口38近傍でストリップ12を支持する必要は特にない。従って、払い出しローラ22を加熱装置52の下流側に配設することができる。
【0079】
この場合、払い出しローラ22には活物質層が接触するものの、該活物質層は、加熱装置52を通過し且つその後の冷却によってストリップ12に堅牢に結着したものである。このため、活物質層がストリップ12から脱落する懸念が払拭される。結局、本実施の形態によれば、ストリップ12の両端面に活物質層を容易に形成することが可能となる。
【0080】
以上のようにして両端面に活物質層が形成されたストリップ12は、図示しない巻回手段の作用下に巻回され、電極ロール体60となる。
【0081】
なお、上記した実施の形態に特に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0082】
例えば、上記した実施の形態では、塗工ガン16aのガン本体40に対して塗工ガン16bのガン本体40を略対向させるようにしているが、互いの導入孔(吐出口)同士を対向させて吐出パターン同士を干渉させればよく、ガン本体40、40同士を対向させる必要は特にない。
【0083】
また、塗工ガン16a、16bに加え、さらなる塗工ガンを塗着ブース14の側壁26、28に設けるようにしてもよい。この場合においても、増設した塗工ガンの吐出口同士を対向させればよい。
【0084】
何れの場合においても、上記の摩擦帯電に代替し、コロナ帯電によって活物質を帯電させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0085】
10…電池製造装置 12…ストリップ
14…塗着ブース 16a、16b…塗工ガン
18…ロール状集電体 20…送り出しローラ
22…払い出しローラ 26、28…側壁
40…ガン本体 42…供給チューブ
44…吐出チューブ 46…分配部材
48…吐出ノズル 52…加熱装置
54…加圧装置 56…加圧ローラ
60…電極ロール体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極反応を生起する活物質を複数個の塗工ツールから吐出し、塗着ブースの内部に搬入された集電体に対して前記活物質を塗着させる工程を有する電池の製造方法であって、
前記複数個の塗工ツールの中の少なくとも2個を、前記活物質が吐出される吐出口同士が互いに対向するように前記塗着ブースの壁に設置し、
前記対向する吐出口の各々から前記集電体に対して前記活物質を同時に吐出するとともに、一方の前記塗工ツールから吐出されて前記塗着ブースの内部に拡散した前記活物質を、他方の前記塗工ツールから吐出された前記活物質に衝突させることで該活物質を前記集電体に移動させることを特徴とする電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法において、前記塗工ツールから吐出された前記活物質を前記集電体の両端面に塗着することを特徴とする電池の製造方法。
【請求項3】
電極反応を生起する活物質を集電体に対して塗着するための電池製造装置であって、
前記集電体を搬入する塗着ブースと、
前記塗着ブースに設置され、前記活物質を前記集電体に対して吐出するための複数個の塗工ツールと、
を備え、
前記複数個の塗工ツールの中の少なくとも2個が、前記活物質が吐出される吐出口同士が互いに対向するように前記塗着ブースの壁に設置され、
前記対向する吐出口の各々は、前記集電体に対して前記活物質を同時に吐出するとともに、一方の前記塗工ツールから吐出されて前記塗着ブースの内部に拡散した前記活物質を、他方の前記塗工ツールから吐出された前記活物質に衝突させて前記集電体に移動させることを特徴とする電池製造装置。
【請求項4】
請求項3記載の装置において、前記塗工ツールが前記塗着ブースの外方に設けられることを特徴とする電池製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−9170(P2012−9170A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141625(P2010−141625)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】