説明

電池ケース用表面処理鋼板及び電池ケース

放熱特性、耐食性及びスポット溶接性に優れた電池ケース用表面処理鋼板及び電池ケースを提供することを目的とする。電池ケース用表面処理鋼板は、電池ケースの外面側に相当する面の最表層に、黒色錫−ニッケルめっき層、黒色錫−ニッケル−硫黄めっき層、あるいは黒色コバルト−錫めっき層からなる黒色層を有する。電池ケースは、これらの表面処理鋼板を、深絞り成形法、DI成形法又はDTR成形法によって成形して得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、アルカリ液を封入する容器,より詳しくはアルカリマンガン電池、ニッケル−カドミウム電池やニッケル−水素電池などの電池ケース用表面処理鋼板及び該表面処理鋼板を深絞り成形法、DI成形法又はDTR成形法によって成形して得られる電池ケースに関する。特に、熱放射性、耐食性及びスポット溶接性に優れる電池ケース用表面処理鋼板及びこの表面処理鋼板を成形して得られる電池ケースに関する。
【背景技術】
従来、アルカリマンガン電池、ニッケル−カドミウム電池やニッケル−水素電池などの強アルカリ液を封入する電池ケースには,冷延鋼帯を電池ケースにプレス成形後,バレルめっきする方法またはニッケルめっき鋼帯を電池ケースにプレス成形する方法が採用されてきた。
このように、アルカリマンガン電池やニッケル−カドミウム電池などの電池用途に,ニッケルめっきが使用される理由は,これら電池は主として強アルカリ性の水酸化カリウムを電解液としているため,耐アルカリ腐食性にニッケルが強いこと,さらに、電池に組み立てられる際,スポット溶接が行われるが,ニッケルはスポット溶接性にも優れるという利点があるからである。
近年、電池ケースのプレス成形法として、電池容量の増大を図るため、深絞り成形法に替わって、薄肉化する方法としてDI(drawing and ironing)成形法も用いられるようになった(特公平7−99686号公報)。このDI成形法やDTR(drawing thin and redraw)成形法は、底面厚みよりケース側壁厚みが薄くなる分だけ、正極、負極活物質が多く充填でき、電池の容量増加が図れるとともに、ケース底が厚いため、電池の耐圧強度の向上をも得られる利点がある。
更に、近年、特にニッケル−カドミウム電池あるいはニッケル−水素電池などの二次電池では、多数の電池を並べて充放電を行うため、この二次電池から多量の熱が発生するため、高温の状態になり、電池の充放電の効率が悪くなる問題がある。さらに、特に二次電池の場合、電池同士を導線で結ぶ際、電池の外面はスポット溶接により結線するため、良好な溶接性が要求される。熱放射性に関する従来技術として、例えば特開2002−226783号公報には、ポリエステル樹脂にカーボンブラックとチタニアを含有させた塗膜を被覆した表面処理材が開示されている。また、特開2001−335966号公報には、潤滑剤として酸化ポリエチレンを含有したウレタン系樹脂を被覆したアルミニウム合金板が開示されている。しかし、これらのポリエステル樹脂のような有機樹脂があるため、溶接性の点で問題がある。
このため、熱放射性、耐食性及びスポット溶接性に優れる電池ケース用材料及び電池ケースが要求されている。
本発明は、熱放射性、耐食性及びスポット溶接性に優れた電池ケース及び該電池ケースを作製するために好適に用いることができる表面処理鋼板を提供することを技術的課題とする。
【発明の開示】
そこで、本発明者は、このような観点から、深絞り成形法、DI成形法ならびにDTR成形法で作製した電池ケースにおいて、缶外面の最表層に黒色層を有することにより熱放射性及び耐食性に優れることを見いだした。
前記目的を達成するための請求項1記載の電池ケース用表面処理鋼板は、電池ケース外面に相当する面では、最外層に黒色層を有することを特徴とする。
請求項2記載の電池ケース用表面処理鋼板は、電池ケース内面に相当する面では、下層として鉄−ニッケル拡散層、上層としてニッケル層を有し、ケース外面に相当する面では、下層として鉄−ニッケル拡散層、中間層としてニッケル層と、上層として黒色層を有することを特徴とする。
請求項3記載の電池ケース用表面処理鋼板は、電池ケース内面に相当する面では、下層として鉄−ニッケル拡散層、上層としてニッケル層を有し、ケース外面に相当する面では、下層として鉄−ニッケル拡散層、上層として黒色層を有することを特徴とする。
請求項4記載の電池ケース用表面処理鋼板は、電池ケース内面に相当する面では、下層として鉄−ニッケル拡散層、上層としてニッケル層を有し、ケース外面に相当する面では、下層として鉄−ニッケル拡散層、中間層として錫−ニッケル合金層と、上層として黒色層を有することを特徴とする。
請求項5記載の電池ケース用表面処理鋼板は、電池ケース内面に相当する面では、ニッケル層を有し、ケース外面に相当する面では、下層として鉄−ニッケル拡散層、中間層としてニッケル層と、上層として黒色層を有することを特徴とする。
請求項6記載の電池ケース用表面処理鋼板は、電池ケース内面に相当する面では、ニッケル層を有し、ケース外面に相当する面では、下層として鉄−ニッケル拡散層、上層として黒色層を有することを特徴とする。
請求項7記載の電池ケース用表面処理鋼板は、電池ケース内面に相当する面では、ニッケル層を有し、ケース外面に相当する面では、下層として鉄−ニッケル拡散層、中間層として錫−ニッケル合金層と、上層として黒色層を有することを特徴とする。
前記黒色層は、黒色錫−ニッケルめっき、黒色錫−ニッケル−硫黄、あるいは黒色コバルト−錫めっきからなることが望ましい。前記黒色層は厚みが0.05〜3μmであることが望ましい。
請求項10記載の電池ケースは、請求項1乃至9記載の電池ケース用表面処理鋼板を深絞り成形法、DI成形法又はDTR成形法によって成形して得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
表面処理鋼板の母材となる鋼板、即ち、めっき原板としては,通常、低炭素アルミキルド鋼が好適に用いられる。さらに、ニオブ,チタンを添加し、非時効性極低炭素鋼(炭素0.01%未満)から製造された冷延鋼帯も用いられる。
そして、通常法により,冷延後,電解清浄,焼鈍,調質圧延した鋼帯をめっき原板とする。その後、このめっき原板を用い、ニッケル層は、ニッケルめっきにより形成する。鉄−ニッケル拡散層は、ニッケルめっき後、熱処理により形成する。ただし、熱処理は、全量ニッケル−鉄合金層としても良いし、一部のニッケル層が残るような条件で行う。この目的のためには、箱型焼鈍法による熱処理では、450〜650℃の温度で4〜15時間、連続焼鈍法では、600〜850℃の温度で、1秒〜3分程度の熱処理が好ましい。
錫−ニッケル合金層は、ニッケルめっき後、錫めっきを行い、さらに熱処理により形成する。また、錫−ニッケル合金めっきにより形成しても良い。
表面処理鋼板のめっき厚みは、ケース外面相当側は0.5〜4μmの範囲が望ましい。
ケース外面側のめっきの厚みが0.5μm未満では、耐食性が不十分であり、めっき厚みが4.0μmを超えると、電池ケースの耐食性が飽和に達しており、それ以上厚くすることは不経済であるからである。
その後、電池ケース外面側に相当する面には、黒色層を有する。黒色層は、黒色錫−ニッケルめっき、黒色錫−ニッケル−硫黄めっき、黒色コバルト−錫めっき、あるいは黒色錫−ニッケル−モリブデンめっきにより形成する。例えば、黒色錫−ニッケル−硫黄めっきによる黒色層の形成は、公知の塩化浴を用いて行い、黒色錫−ニッケル−硫黄めっき層を約1μm施すと、熱放射率は0.45(京都電子工業株式会社製Emmisionmeterで測定)となり、向上する。
なお、本発明は、電池ケースの成形法によらないで、例えば、深絞り成形法、DI成形法やDTR成形法によらないで、熱放射性、耐食性、スポット溶接性に優れ、好適に用いることができる。
黒色層の黒色度L値(スガ試験機株式会社製色差計、SMカラーコンピュータ モデルSM−4により測定)として、21以下が好適であると熱放射性に対して効果がある。21を越えると、熱放射性は悪く、ほとんど変化しない。黒色層の厚みとして、0.05〜3μmの範囲が良く、0.05μm未満では、熱放射性に効果がなく、3μmを越えると、スポット溶接性が劣る。
【実施例】
本発明について、さらに、以下の実施例を参照して具体的に説明する。
板厚0.25mmならびに0.4mmの冷間圧延、焼鈍、調質圧延済の低炭素アルミキルド鋼板を、それぞれ、めっき原板とした。また、板厚0.25mmならびに0.4mmの冷間圧延後の極低炭素アルミキルド鋼板をめっき原板とした。両めっき原板の鋼化学組成は、共に、下記の通りである。
C:0.04%(%は重量%,以下同じ)
Si:0.01%
Mn:0.22%,
P:0.012%
S:0.006%
Al:0.0.48%
N:0.0025%
上記めっき原板を、常法により、アルカリ電解脱脂,水洗,硫酸浸漬,水洗後の前処理を行った後,通常の無光沢ニッケルめっきを行う。
1)無光沢ニッケルめっき
下記の硫酸ニッケル浴を用いて無光沢ニッケルめっきを行った。
浴組成
硫酸ニッケル NiSO・6HO 300g/L
塩化ニッケル NiCl・6HO 45g/L
硼酸 HBO 30g/L
浴pH:4(硫酸で調整)
撹拌:空気撹拌
浴温度:60℃
アノード:Sペレット(INCO社製商品名、球状)をチタンバスケットに装填してポリプロレン製バッグで覆ったものを使用。
鉄−ニッケル拡散層を形成する必要がある場合は、無光沢のニッケルめっき後、熱処理により、ニッケル−鉄拡散層を形成する。熱処理条件は、水素6.5%、残部窒素ガス、露点−55℃の非酸化性雰囲気中で、最表層にニッケル層が0.01〜3μm残るが、全量ニッケル−鉄合金層となるように均熱時間、均熱温度を適宜変えて熱処理を施した。
電池ケース外面に相当する面において、錫−ニッケル合金層を形成する場合は、前記ニッケルめっき後、錫めっきを施す。錫めっきは、フェロスタン浴を用いて行う。
錫めっき後、熱処理により錫−ニッケル合金層を形成する。
この方法以外にも、錫−ニッケル合金めっきにより、錫−ニッケル合金層を形成しても良い。
2)黒色錫−ニッケルめっきによる黒色層
浴組成
塩化第1錫 SnCl 6g/L
塩化ニッケル NiCl・6HO (適宜)
ピロリン酸カリウム 200g/L
グリシン 25g/L
浴pH:8.5
浴温度:30℃
アノード:Sペレット(INCO社製商品名、球状)をチタンバスケットに装填してポリプロピレン製バッグで覆ったものを使用。
上記条件で、塩化ニッケルの添加量および電解時間を変えてめっき皮膜中の硫黄量、めっき厚みを変えた。
3)黒色錫−ニッケル−硫黄めっきによる黒色層
浴組成
塩化第1錫 SnCl 9g/L
塩化ニッケル NiCl・6HO 25g/L
ピロリン酸カリウム 300g/L
メチオニン (適宜)
浴pH:9.0
浴温度:25℃
アノード:Sペレット(INCO社製商品名、球状)をチタンバスケットに装填してポリプロピレン製バッグで覆ったものを使用。
上記条件で、メチオニンの添加量および電解時間を変えてめっき皮膜中の硫黄量、めっき厚みを変えた。
4)黒色錫−ニッケル−モリブデンめっきによる黒色層
浴組成
ピロリン酸錫 8g/L
硫酸ニッケル 25g/L
ピロリン酸カリウム 200g/L
モリブデン酸ナトリウム (適宜)
グリシン 20g/L
浴pH:8.8
浴温度:50℃
アノード:Sペレット(INCO社製商品名、球状)をチタンバスケットに装填してポリプロピレン製バッグで覆ったものを使用。
上記条件で、モリブデン酸ナトリウムの添加量および電解時間を変えてめっき皮膜中のMo量、めっき厚みを変えた。
(電池ケース作製)
DI成形法による電池ケースの作製は,板厚0.4mmの上記めっき鋼板を用い直径41mmのブランク径から直径20.5mmのカッピングの後、DI成形機でリドローおよび2段階のしごき成形を行って外径13.8mm、ケース壁0.20mm、高さ56mmに成形した。最終的に上部をトリミングして、高さ49.3mmのLR6型電池ケースを作製した。
また、DTR成形法による電池ケースの作製は、板厚0.25mmのめっき鋼板を用い、ブランク径58mmに打ち抜き、数回の絞り、再絞り成形によって外径13.8mm、ケース壁0.20mm、高さ49.3mmのLR6型電池ケースを作製した。
更に、深絞り成形法による電池ケースの作製は、板厚0.25mmのめっき鋼板を用い、ブランク径57mmに打ち抜き、数回の絞り、再絞り成形によって外径13.8mm、ケース壁0.25mm、高さ49.3mmのLR6型電池ケースを作製した。
(熱放射性)
表面処理鋼板の熱放射率を、電池ケースの外面側に使われる面を京都電子工業株式会社製Emmisionmeterで測定して求めた。
(耐食性)
表面処理鋼板の耐食性は、エリクセンで、電池ケースの外面側に使われる面側に8mm張り出しを行った後、塩水噴霧(JIS Z 2371)を2時間行い赤錆の発生程度で評価した。赤錆が発生した場合を不合格(表1では×で表示)、赤錆が発生しなかった場合を合格(表1では○で表示)
(スポット溶接性)
板厚0.25mmの表面処理鋼板をサイズ幅10mm、長さ50mmに切り、幅10mm×長さ10mmの部分だけを電池ケースの外面側に使われる面を内側にして2枚に重ね、スポット溶接を行った。スポット溶接は、コンデンサー型溶接機で、荷重を5kg、印加電圧350Vの2条件で行った。溶接性は、テンシロンを用いて、引張速度10mm/minで引張試験を行い、その際の破断強度でスポット溶接性を評価した。破断強度が295N以上を合格(表1では○で表示)とした。295N未満を不合格(表1では×で表示)とした。
(電池加工性)
上記3つの加工法で、電池ケースが加工できた場合を合格(表1では○で表示)、加工できなかった場合を不合格(表1では×で表示)とした。
(黒色度)
表面処理鋼板の電池ケース外面側に相当する面を色差計(スガ試験機株式会社製SMカラーコンピュータ モデルSM−4)を用いて、黒色度L値を測定した。21以下を○、21を越えると×で表した。
上記サンプルの作製条件および特性の評価結果を表1に示す。

【産業上の利用可能性】
本発明の電池ケース用表面処理鋼板は深絞り成形法、DI成形法またはDTR成形法によって電池ケースに成形可能である。また、電池ケース外面側の最表層に黒色層を有するため、放熱特性に優れるため、電池の充放電時に電池の温度上昇が抑制され、充放電効率が良好となる。スポット溶接性に優れるため、接続線で容易に電池同士を接続できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池ケース外面に相当する面では、最外層に黒色層を有することを特徴とする電池ケース用表面処理鋼板。
【請求項2】
電池ケース内面に相当する面では、下層として鉄−ニッケル拡散層、上層としてニッケル層を有し、ケース外面に相当する面では、下層として鉄−ニッケル拡散層、中間層としてニッケル層と、上層として黒色層を有することを特徴とする電池ケース用表面処理鋼板。
【請求項3】
電池ケース内面に相当する面では、下層として鉄−ニッケル拡散層、上層としてニッケル層を有し、ケース外面に相当する面では、下層として鉄−ニッケル拡散層、上層として黒色層を有することを特徴とする電池ケース用表面処理鋼板。
【請求項4】
電池ケース内面に相当する面では、下層として鉄−ニッケル拡散層、上層としてニッケル層を有し、ケース外面に相当する面では、下層として鉄−ニッケル拡散層、中間層として錫−ニッケル合金層と、上層として黒色層を有することを特徴とする電池ケース用表面処理鋼板。
【請求項5】
電池ケース内面に相当する面では、ニッケル層を有し、ケース外面に相当する面では、下層として鉄−ニッケル拡散層、中間層としてニッケル層と、上層として黒色層を有することを特徴とする電池ケース用表面処理鋼板。
【請求項6】
電池ケース内面に相当する面では、ニッケル層を有し、ケース外面に相当する面では、下層として鉄−ニッケル拡散層、上層として黒色層を有することを特徴とする電池ケース用表面処理鋼板。
【請求項7】
電池ケース内面に相当する面では、ニッケル層を有し、ケース外面に相当する面では、下層として鉄−ニッケル拡散層、中間層として錫−ニッケル合金層と、上層として黒色層を有することを特徴とする電池ケース用表面処理鋼板。
【請求項8】
前記黒色層は、黒色錫−ニッケルめっき、黒色錫−ニッケル−硫黄、あるいは黒色コバルト−錫めっきからなることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか記載の電池ケース用表面処理鋼板。
【請求項9】
前記黒色層は厚みが0.05〜3μmであることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の電池ケース用表面処理鋼板。
【請求項10】
請求項1乃至9記載の電池ケース用表面処理鋼板を深絞り成形法、DI成形法又はDTR成形法によって成形して得られる電池ケース。

【国際公開番号】WO2004/093220
【国際公開日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505379(P2005−505379)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005140
【国際出願日】平成16年4月9日(2004.4.9)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】