説明

電池及びこれを用いた電子機器

【課題】異常加熱による可燃性ガスの噴出時において、電池の移動距離を許容範囲内に抑えることで安全対策を講じる。
【解決手段】 電池の火中投下等、異常加熱時に電池1の内部の電解液が気化し、圧力弁等の安全機構3が働いて外部に可燃性ガスが噴出して着火した場合に、火炎状態の噴出ガスを受け止めるために移動防止用部材4を設ける。噴出ガスに伴う力を移動防止用部材4で分散させることにより電池の移動距離を充分に低減させることができる。また、移動防止用部材4に金属製タブを用い、該タブを電池の電極部に溶接して電流取出用タブと兼用させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルの加熱時に内部の可燃性電解液が気化し、ガスが噴出して着火した場合に、その際の推進力によりセル自身が著しく移動しないようにするための手段を講じることで、コストをかけずに安全性を高めるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ機器やデジタルカメラ等において、その電源にリチウムイオン電池が使用されている。例えば、円筒型電池では、電極材の間にセパレータを介在させてロール状に巻回した構成を有し、また、角型電池では、矩形状電極とセパレータを積層した構成とされる(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
リチウムイオン電解液は、消防法危険物第四類第二石油類の可燃性体であるため、ガス噴出時の着火に対して安全性を充分に確保することが必要である。通常の使用状態や使用環境では安全上の問題はないが、電池の使用中や保管時に誤って火中投下されたり、電子レンジ等で加熱するといった異常な加熱が行われた場合に危険性が高まる。つまり、異常加熱により電池内部の電解液が急激に気化し、内部の圧力が高くなると、その安全対策として講じられているセルの圧力逃がし弁が開いて内部ガスを放出する。
【0004】
【特許文献1】特開平8−96839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の電池にあっては、異常加熱により内圧が高くなって圧力逃がし弁が開弁し、ガスが噴出して着火した場合に、セルが火炎を放出し、その反力でセル自身が飛散することが問題とされる。つまり、セルの移動距離が長い場合には使用者に危害が及ぶ虞が生じ、よって、何らかの安全対策を講じる必要があるが、そのために構成の複雑化やコストの著しい増加を伴わないことが求められる。
【0006】
そこで、本発明は、異常加熱による可燃性ガスの噴出時において、電池の移動距離を許容範囲内に抑えることで安全対策を講じることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、異常加熱時に電池内部の電解液が気化し、外部にガスが噴出して着火した場合に、噴出ガスを受け止めることで電池の移動を規制し又は移動距離を低減させるための移動防止用部材を設けたものである。
【0008】
従って、本発明では、噴出ガスに伴う力を移動防止用部材で受け止めて分散させることにより電池の移動距離を充分に低減させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、異常加熱による可燃性ガスの噴出時において周辺への着火や危害が及ばないように充分な安全対策を講じることができる。
【0010】
そして、移動防止用部材に金属製タブを用いるとともに、該金属製タブを電池の電極部に溶接して電流取出用タブと兼用することにより、簡素な構成で、しかもコストをかけずに安全性を保証することができる。
【0011】
また、移動防止用部材が平板部を有する形態において、異常加熱時に、電池の電極部に形成されたガス噴出口から放出されるガスを平板部がほぼ垂直な状態で受け止めて放射状に分散させる構成にすると、ガス噴出時の反力による電池の移動距離を充分に低減させることができる。例えば、ガス噴出方向に対してほぼ直交する方向での移動防止用部材の外径を、該方向での電池外径の3分の2倍以上であって1倍以下に規定することによって、移動防止用部材を使用しない場合と比較した場合に、着火時の火炎の大きさを3分の1以下に抑えることが可能である。
【0012】
電解液が可燃性体とされる電池を電源に用いる各種電子機器への適用において、異常加熱時における人的被害の発生を未然に防止し、安全性を確保することができ、しかもそのために構成の複雑化や著しいコスト上昇等を伴うことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明に係る電池と該電池を用いた電子機器を示す概念図である。
【0014】
電池1は、例えば、バッテリパック内に収容された状態で使用され、電子機器2の電源部2aに装着される。そして、電源部2aから回路部2b、2b、…へと電源電圧が供給される。
【0015】
電池1は、その内部の電解液が可燃性体とされ、火中投下等の異常加熱時に電解液が気化し、内圧が高まった場合に安全機構3が働いて、内部に溜まったガスを電池セル外部に噴出させる。
【0016】
例えば、ガスを外部に逃がすための圧力逃がし弁が開裂して可燃性ガスを噴出させると、着火により火炎が発生した場合に、電池セルに推進力が働く。
【0017】
そこで、本発明では、外部に噴出したガスを受け止めることで電池の移動を規制し又は移動距離を低減させるために移動防止用部材4を設ける。即ち、火炎状態の噴出ガスによる推進力によって電池が長い距離を移動しないようにするために、移動防止用部材4を設けて推進力を放射状に分散させることで電池の移動距離を低減させることができる。そのために、移動防止用部材4の材質としては金属やセラミック等を用いることが好ましい。
【0018】
移動防止用部材4については、これを電池に付設する形態が挙げられ、例えば、後述するように金属製タブを用い、該タブを電池の電極部に溶接して電流取出用タブと兼用することにより、簡素な構成でコストをかけずに安全性を充分に確保することができる。また、移動防止用部材4を、電池の収容部に付設する形態では、異常加熱による噴出ガスに対向する場所に該部材を配置することで、電池に変更を加えることなく安全対策を講じることができる。
【0019】
尚、本発明の適用上では、例えば、電解液の漏れ対策として、電解液の吸収材(難燃性ポリマー等)を移動防止用部材4に付設する等(この場合に、移動防止用部材4が吸収材のベース材を兼ねる。)、各種構成形態での実施が可能である。また、本発明は、電池形状(円筒型、角型等)の如何にかかわらず、可燃性ガスの噴出時の安全対策として広範に適用可能である。
【0020】
図2乃至図4は、本発明をリチウムイオン電池に適用した場合の構成例を示したものであり、図2はセル正極部付近の要部を示す断面図であり、図3は金属製タブの形状例を示す図、図4は正極部付近の要部を概略的に示す斜視図である。
【0021】
本例では円筒型電池を示し、図2に示すように、電池5の内部には、正極材6と負極材7との間にセパレータ8を介在させてロール状に形成した巻回部がセンターピン9の周囲に配置されており、図示しない電解液が注入されている。
【0022】
電池5の正極部10は、正極キャップ11、PTC素子12、内圧逃がし弁13、正極リード14を用いて構成される。
【0023】
金属製の正極キャップ11には突部11aが形成されており、その周囲には異常加熱により電池内部に溜まったガスを外部に噴出させるためのガス噴出口11b、11b、…が電池5の長手方向に延びる中心軸回りに所定の角度間隔をもって複数箇所形成されている。
【0024】
PTC(「Positive Temperature Coefficient thermistor」。所謂ポジスタ)素子12は、正極キャップ11と内圧逃がし弁13との間に位置されており、温度上昇時に過大な電流が流れないように保護するための感温素子である。
【0025】
内圧逃がし弁13は、内圧がある圧力以上になると開裂し、例えば、十字状の亀裂が生じて、ここからガスを逃がす構造とされる。
【0026】
正極リード14は、その一端が内圧逃がし弁13の内面に接続され、その他端は絶縁板15に形成された中心孔15aを通して上記正極材6のうちセンターピン9に近接した部分に接続されている。正極リード14は内圧逃がし弁13とともに、電流遮断弁機構を構成しており、内圧逃がし弁13の開裂時に、正極リード14が断線することにより電流が遮断される。
【0027】
尚、絶縁板15は、上記巻回部のうち、正極部10側の端部に位置されている。
【0028】
円筒状をした外装缶16は負極材7に接続されることで負極とされ、外装缶16の先端部が内側に折り込まれた部分16aとされていて、この部分と正極キャップ11との間に絶縁板17が介在されている。そして、当該部分16aの外面に絶縁ポリワッシャー18が設けられるとともに、外装缶16の外周面及び絶縁ポリワッシャー18の外周縁寄りの部分が外装フィルム19で被覆されている。尚、外装缶16はその一部(ビード)が括れていて、当該部分が内圧逃がし弁13と絶縁板15との間に位置している。
【0029】
金属製タブ20は、図3に示すように、円形状をした平板部20aと、電流取出部(タブ片)20bとが一体に形成されており、図2に示すように、平板部20aが正極部10に取り付けられている。
【0030】
本例では、平板部20aの中心部が正極キャップ11の突部11aに溶接されており、上記移動防止用部材4としての機能と、電流取出用タブの機能を兼ね備えている。例えば、金属製タブ20は、ニッケルや、ステンレス等の基材にニッケルを被覆金属として形成した材料等が用いられる。尚、移動防止用部材と、電流取出用タブ(矩形板状又は棒状の導電性部材等)とを別個に用いた形態も可能であるが、部品点数の削減や作業性の向上等を考慮した場合に、両機能を1つの部材で発揮できるようにした構成が望ましい。
【0031】
電流の経路については、正極材6から正極リード14、内圧逃がし弁13、PTC素子12を介して正極キャップ11に到達し、金属製タブ20の電流取出部20bから外部回路へと繋がる。
【0032】
火中投下等の異常加熱により、外部からの熱で130°C以上の温度になった場合や内部ショート等による異常発熱時には、電池内部の電解液が熱化学反応により急激に気化し、その結果、内圧が上昇する。その圧力がセンターピン9の周囲や外装缶16の内周面を通って内圧逃がし弁13にかかる。
【0033】
内圧逃がし弁13に所定以上の圧力がかかった場合に開裂し、そこからガス噴出口11b、11b、…を通して火炎状態のガスが噴出すると、そのときの反力によって電池が飛んでしまう。
【0034】
そこで、上記金属製タブ20の付設が必要となるが、その場合、ガスの噴出方向に対して直交する方向において、金属製タブの外径を「d」(図3参照)と記し、電池外径を「D」(図2参照)と記すとき、タブ中心を電池の中心軸に合致させた状態で、d値を「(2/3)×D」以上にすることにより、火炎の大きさを3分の1以下に抑えられることが実験的に分かっている。
【0035】
例えば、円筒型電池の直径を18mmとすると、金属製タブの直径を12mm以上とすることが好ましく、実用上は16乃至18mm程度が望ましい。
【0036】
尚、金属製タブの直径に関してその上限値に限界はないが、金属製タブが電流取出部としての機能をもつことやコスト面やサイズ等を考慮した場合に、電池外径Dに等しくするか又はそれよりもひと回り(1〜2mm程度)小さくすることが好ましい。
【0037】
実用上では、電池の太さ(外径)と金属製タブの外径との関係を、「(2/3)×D ≦ d ≦ D」に規定すれば、ガス噴出口11bから出る火炎状の噴出ガスが金属製タブ20で充分に受け止められ、放射状に分散されることで電池の長手方向における推進力が減り、電池の移動距離を短くすることができる(移動距離が数センチメートル以内に抑えられることを検証している。)。
【0038】
尚、上記の説明では、便宜上円筒型電池を例示したが、角型電池等への適用においても充分な効果を奏することは勿論である。また、電池単体についてその正極部に金属製タブを付設した例を示したが、これに限らず、例えば、複数の電池を用いる場合に、図5に示すように、円形状タブを連設させ(本例では3連タブ21を示す。)、平板状の部分21a及び電流取出部21b、21bを一体に形成した構成等、幅広い応用が可能である。この他、電池の正極部からガスが噴出するとは限らない場合において、負極部に金属製タブを付設して噴出ガスを受け止める構成等、各種態様での実施が可能である。
【0039】
また、移動防止用部材の適用形態には、例えば、下記に示す構成が挙げられる。
【0040】
(A)移動防止用部材を電池の電極部(ガス噴出口を有する。)に付設した構成
(B)移動防止用部材を電池収容部において、電池ガス噴出口に対向する場所(端子部等)に付設した構成
(C)上記(A)及び(B)を併用した構成。
【0041】
いずれの構成においても、異常加熱時にはガス噴出口から放出されるガスを、移動防止用部材の平板部においてほぼ垂直な状態で受け止めた上で、平板部に対してほぼ平行な方向に沿って放射状に受け流すことが、電池の移動距離を短くするのに有効である。
【0042】
以上に説明した構成によれば、例えば、下記に示す利点が得られる。
【0043】
・異常加熱時の発火により火炎が出て電池が飛散し、周囲への着火等を誘発しないように電池の移動距離を充分に低減できること。
【0044】
・電池駆動の製品への適用において、人的被害や事故を防止できること。
【0045】
・ガス噴出時の火炎を金属製タブ等で受け止めて放射状に力を分散させることで火炎の大きさを十分に抑制し、他のセルや周辺部への類焼を防げること。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る電池の基本構成例を示す図である。
【図2】図3及び図4とともに、本発明の適用例を示したものであり、本図は電池の正極部付近についてその要部を示す断面図である。
【図3】金属製タブの形状例を示す図である。
【図4】正極部付近の要部を概略的に示す斜視図である。
【図5】3連タブの形状例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0047】
1…電池、2…電子機器、4…移動防止用部材、5…電池、11b…ガス噴出口、20…金属製タブ、20a…平板部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異常加熱時に電解液が気化した可燃性ガスを噴出させて外部に逃がすための機構を備えた電池において、
外部に噴出したガスを受け止めることで電池の移動を規制し又は移動距離を低減させるための移動防止用部材を設けた
ことを特徴とする電池。
【請求項2】
請求項1に記載した電池において、
上記移動防止用部材に金属製タブを用い、該金属製タブを電池の電極部に溶接して電流取出用タブと兼用した
ことを特徴とする電池。
【請求項3】
請求項1に記載した電池において、
上記移動防止用部材が平板部を有しており、
上記異常加熱時に、電池の電極部に形成されたガス噴出口から放出されるガスを上記平板部がほぼ垂直な状態で受け止めて放射状に分散させるようにした
ことを特徴とする電池。
【請求項4】
請求項1に記載した電池において、
上記ガスの噴出方向に対してほぼ直交する方向での上記移動防止用部材の外径が、該方向での電池外径の3分の2倍以上であって1倍以下である
ことを特徴とする電池。
【請求項5】
異常加熱時に電解液が気化した可燃性ガスを噴出させて外部に逃がすための機構を備えた電池を電源に用いた電子機器において、
上記電池の外部に噴出したガスを受け止めることで電池の移動を規制し又は移動距離を低減させるための移動防止用部材を、上記電池又はその収容部に設けた
ことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−338989(P2006−338989A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−161075(P2005−161075)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】