説明

電池及び電池の製造方法

【課題】外装部材を貫通し、その外方に突出した状態で外部端子部材を固定する電池において、外装部材と外部端子部材の固定部におけるシール性に優れると同時に、外部端子部材を外装部材に固定する際の蓋部における外側への塑性流動を抑制することの可能な、電池及び電池の製造方法を提供する。
【解決手段】電池10は、バーリング部34が電池10の軸心方向外側から押圧される際に、バーリング部34の一部がガスケット溝部50aから外部端子部材40の方向に塑性変形し、外部端子部材40と貫通孔33との間に圧迫力が発生することによって、外部端子部材40が貫通孔33に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池に関し、特に、外部端子部材を外装部材に固定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電池の外装部材は、電池の発電要素を収納する。外装部材の外側面には、外装部材を貫通して外方に突出する外部端子部材(正極端子及び負極端子)が固定される。外部端子部材は、発電要素と電気的に接続されており、外部端子部材を通じて電池内部と外部との電力のやり取りが行われる。
【0003】
電池がリチウムイオン二次電池等の非水電解質電池である場合は、電池内部に水分が浸入すると電池性能に影響することが知られている。このため、電池の密閉度を十分に高くする必要がある。
さらに、外部端子部材と外装部材の固定部においては、外部端子部材が電池から抜け落ちないための抜け落ち性、外部端子部材の周囲から電池内部の電解液若しくは電池内部で発生するガスが漏れ出ないための気密性、並びに外部端子部材と外装部材との絶縁性等が求められている。すなわち、外装部材と外部端子部材の間のシール性を十分に確保する必要があり、そのための技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
特許文献1には、外部端子部材を絶縁部材でシールしつつ締結固定する技術が開示されている。具体的には、外装部材(電池ケース10)の蓋部(蓋体14)から外部端子部材(電極端子30)が突出して設けられる電池100において、蓋部における絶縁部材の周辺にバーリング部(端子固定部40)を溶接し、蓋部と外部端子部材との間に絶縁部材(シール材70)を介装する。そして、補強部材(外装部材60)でバーリング部の外周側への強度を補強しつつ、バーリング部が突出する方向から補強部材と一体に形成されたパンチ部材(加圧部64及び窪み66)でバーリング部をプレスして外部端子部材の側(内側)に塑性変形させるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−129365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1等に記載された従来技術においては、図6(a)に示す如く外装部材である蓋部と外部端子部材との間に絶縁部材としてガスケット部材を介装し、蓋部においてガスケット部材の周辺にバーリング部を設け、補強部材でバーリング部の外周側への強度を補強して、治具の上に載置する。この状態で、図6(b)中の矢印aに示す如く、バーリング部が突出する方向から、補強部材とは別のパンチ部材でバーリング部をプレスし、図6(b)中の矢印αに示す如く外部端子部材の側(内側)に塑性変形させるのである。
【0007】
前記の技術によれば、バーリング部の塑性変形のしかたにばらつきがあり、蓋部とガスケット部材との間におけるシール性能が劣る場合があった。即ち、パンチ部材でバーリング部をプレスした際に、蓋部における塑性変形が不規則な方向かつ不均一な変形量で発生するため、バーリング部とガスケット部材との間を一定の精度でシールすることが困難だった。具体的には図6(b)中の矢印βに示す如く、蓋部が外部端子部材と反対の側(外周側)など、外部端子部材の側(内周側)以外のあらゆる方向に塑性流動することにより、バーリング部とガスケット部材との間におけるシール性能が確保できなくなっていたのである。
【0008】
また、バーリング部以外の蓋部に塑性流動が発生することによって、蓋部と外装部材との接合に影響が出る場合があった。即ち前記の如く、パンチ部材でバーリング部をプレスした際に、バーリング部の内周側におけるクリアランス量の寸法誤差によって、蓋部が図6(b)中の矢印βに示す如く外部端子部材と反対の側(外周側)に塑性流動する。つまり、バーリング部が外部端子部材の側(内周側)に塑性変形するだけではなく、蓋部が外部端子部材と反対の側(外周側)に塑性流動することにより端部が膨出し、蓋部と外装部材との接合精度が低下するのである。
【0009】
本発明は、上記の状況を鑑み、外装部材を貫通し、その外方に突出した状態で外部端子部材を固定する電池において、外装部材、ガスケット部材、及び、外部端子部材の固定部におけるシール性に優れると同時に、外部端子部材を外装部材に固定する際の蓋部における外側への塑性流動を抑制することが可能な、電池及び電池の製造方法を提供する。
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0011】
即ち、請求項1においては、貫通孔と、該貫通孔の周縁に位置して外方へ向けて突出するバーリング部と、を備える外装部材と、その一端側を前記外装部材の外方へ突出させた状態で前記貫通孔に固定される柱状の外部端子部材と、前記外装部材に収納される発電要素と前記外部端子部材の他端側とを接続する集電端子部材と、前記外装部材と前記外部端子部材との間に介装され、前記外装部材と当接する面においてガスケット溝部が周方向に形成されたガスケット部材と、前記バーリング部の外周に配置されることにより該バーリング部の外周側への強度を補強するリング状の補強部材と、を具備する電池であって、前記バーリング部が電池の軸心方向外側から押圧される際に、前記バーリング部の一部が前記ガスケット溝部から前記外部端子部材の方向に塑性変形し、前記外部端子部材と前記貫通孔との間に圧迫力が発生することによって、前記外部端子部材が前記貫通孔に固定されるものである。
【0012】
請求項2においては、前記外部端子部材には、前記ガスケット部材と当接する面において、断面が略半円形状の端子溝部が周方向に形成され、前記ガスケット溝部は断面が略半円形状に形成されるとともに、その中心は前記端子溝部の中心より電池の軸心方向外側に配置され、前記ガスケット溝部の断面半径Rは、前記端子溝部の断面半径aに対して、2a/3以上かつa以下とされるとともに、前記ガスケット溝部の中心と前記端子溝部の中心との距離Yは、前記端子溝部の中心と前記バーリング部が押圧された後の面との距離bに対して、0以上かつ2b/3以下とされるものである。
【0013】
請求項3においては、貫通孔と、該貫通孔の周縁に位置して外方へ向けて突出するバーリング部と、を備える外装部材と、その一端側を前記外装部材の外方へ突出させた状態で前記貫通孔に固定される柱状の外部端子部材と、前記外装部材に収納される発電要素と前記外部端子部材の他端側とを接続する集電端子部材と、前記外装部材と前記外部端子部材との間に介装され、前記外装部材と当接する面においてガスケット溝部が周方向に形成されたガスケット部材と、前記バーリング部の外周に配置されることにより該バーリング部の外周側への強度を補強するリング状の補強部材と、を具備する電池の製造方法であって、前記バーリング部を電池の軸心方向外側から押圧する際に、前記バーリング部の一部を前記ガスケット溝部から前記外部端子部材の方向に塑性変形させ、前記外部端子部材と前記貫通孔との間に圧迫力を発生させることによって、前記外部端子部材を前記貫通孔に固定するものである。
【0014】
請求項4においては、前記外部端子部材には、前記ガスケット部材と当接する面において、断面が略半円形状の端子溝部を周方向に形成し、前記ガスケット溝部を断面が略半円形状に形成するとともに、その中心は前記端子溝部の中心より電池の軸心方向外側に配置し、前記ガスケット溝部の断面半径Rを、前記端子溝部の断面半径aに対して、2a/3以上かつa以下とするとともに、前記ガスケット溝部の中心と前記端子溝部の中心との距離Yを、前記端子溝部の中心と前記バーリング部が押圧された後の面との距離bに対して、0以上かつ2b/3以下とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、外装部材を貫通し、その外方に突出した状態で外部端子部材を固定する電池において、外装部材、ガスケット部材、及び、外部端子部材の固定部におけるシール性に優れると同時に、外部端子部材を外装部材に固定する際の蓋部における外側への塑性流動を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)、(b)はそれぞれ、電池の概略構成を示す正面断面図及び側面断面図。
【図2】(a)、(b)はそれぞれ、一実施形態に係る電池における外装部材と外部端子部材との固定部を示す拡大断面図。
【図3】(a)はプレス荷重と蓋部の寸法変化との関係を示した図、(b)はプレス荷重とヘリウムリーク値との関係を示した図。
【図4】外装部材と外部端子部材との固定部における寸法を示した図。
【図5】(a)、(b)はそれぞれ、各寸法における内側及び外側の面圧を示した図。
【図6】(a)、(b)はそれぞれ、従来技術に係る電池における外装部材と外部端子部材との固定部を示す拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、発明の実施の形態を説明する。
なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではなく、本明細書及び図面に記載した事項から明らかになる本発明が真に意図する技術的思想の範囲全体に、広く及ぶものである。
【0018】
[電池10の概略構成]
図1及び図2を参照して、本発明に係る電池の一実施形態である電池10の概略構成について説明する。本実施形態の電池10は、リチウムイオン二次電池であり、非水電解質電池である。
電池10は、発電要素20と、発電要素20を内部に収納する外装部材30と、外装部材30から外方に向けて突出する外部端子部材40・40と、外部端子部材40・40と外装部材30との間に介装される絶縁部材(上部絶縁部材50・50・下部絶縁部材51・51)と、を具備する。
【0019】
発電要素20は、正極、負極及びセパレータを積層又は巻回してなる電極体に電解液を含浸させたものである。電池10の充放電時に発電要素20内で化学反応が起こる(厳密には、正極と負極との間で電解液を介したイオンの移動が起こる)ことによって電流の流れが発生する。
【0020】
外装部材30は、収納部31と蓋部32を有する金属性の角柱型缶である。収納部31は、一面が開口した有底筒状の部材であり、内部に発電要素20を収納する。蓋部32は、収納部31の開口面に応じた形状を有する平板状の部材であり、収納部31の開口面を塞いだ状態で収納部31と接合される。
【0021】
外部端子部材40・40は、その一端側が蓋部32の外側面から電池10の外方に突出した状態で配置される柱状の部材である。外部端子部材40・40の他端側は、集電端子部材45・45を介して発電要素20の正極又は負極に電気的に接続される。外部端子部材40・40及び集電端子部材45・45は、発電要素20に蓄えられる電力を外部に取り出す、若しくは、外部からの電力を発電要素20に取り入れる通電経路として機能する。
なお、本実施形態においては、外部端子部材40・40と集電端子部材45・45とを別部材として構成しているが、これらを一体的に構成することも可能である。
集電端子部材45・45は、発電要素20の正極板、負極板と接続されている。集電端子部材45・45の材料としては、例えば正極側にアルミニウム、負極側に銅を採用することができる。
【0022】
外部端子部材40・40には、電池10の外方側に突出する部位にはねじ転造によりねじ加工が施され、ボルト部が形成される。電池10の実使用時には、このボルト部を用いて外部端子部材40・40にバスバー、外部装置の接続端子等が締結固定される。締結固定する際、外部端子部材40・40には締結トルクがかかるとともに、ねじ締結によって軸方向へ外力が付与されるため、外部端子部材40・40の材料としては、鉄等の高強度材料を採用することが好ましい。
【0023】
外部端子部材40・40は、ガスケット部材である上部絶縁部材50・50、及び、下部絶縁部材51・51を介して蓋部32に固定される。上部絶縁部材50・50は略筒状に形成され、外部端子部材40・40の周囲を巻装し、外装部材30と外部端子部材40・40とを電気的に絶縁する。
それぞれの上部絶縁部材50の蓋部32(後述するバーリング部34)と当接する面における軸方向中途部には、図2(a)に示す如くガスケット溝部50aが形成されている。ガスケット溝部50aは、上部絶縁部材50の周方向に沿って、その外周全周に亘って断面が略半円状に形成された溝であり、所定の溝幅を有する。なお、ガスケット溝部50aは溝端部にエッジラインを有する形状であればその断面形状を半楕円状やV字形状、W字形状などの他の形状とすることも可能である。
【0024】
下部絶縁部材51・51は集電端子部材45・45の上面に配設され、外装部材30と集電端子部材45・45とを電気的に絶縁した状態で上部絶縁部材50・50を支持する。つまり、本実施形態の絶縁部材は、バーリング部34の内周面である貫通孔33と外部端子部材40・40の外周面の間を絶縁する上部絶縁部材50・50と、集電端子部材45・45と蓋部32との間を絶縁する下部絶縁部材51・51との分割構造としているのである。ただし、絶縁部材は一体的に形成することも可能である。
絶縁部材の材料としては、高温クリープ特性に優れる材料、つまり、電池10の冷熱サイクルに対する長期の耐クリープ性を有する材料が好ましく、例えばPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PPS(ポリフェニレンスルファイド)、PFA(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂)等の合成樹脂(スーパーエンプラ)が挙げられる。
【0025】
[外部端子部材40の固定形態]
以下では、図2を参照して、電池10に係る外装部材30と一つの外部端子部材40の固定形態について説明する。なお、以下に示す図では、図1(b)と同様に側面方向から見た場合の断面図について示すものとする。
図2(a)に示すように、外装部材30における蓋部32は、外部端子部材40が貫通可能な貫通孔33を有し、貫通孔33の周縁に位置して外装部材30の外側に向けて突出する筒状部であるバーリング部34が形成される。つまり、バーリング部34は、蓋部32の外側面から貫通孔33の軸方向外側へ向けて突出している。本実施形態においては、バーリング部34と上部絶縁部材50は、それぞれの幅(半径方向の厚み)は略同一となるように形成されている。
【0026】
貫通孔33は、所定の内径を有する孔であり、外装部材30(蓋部32)をその厚み方向に貫通している。
バーリング部34は、貫通孔33の周縁に、外装部材30における貫通孔33の軸方向の内側から外側へ向けて垂直に突出して設けられる厚肉部位である。バーリング部34は、外装部材30の一部を塑性加工して形成される厚肉部位であり、公知のバーリング処理、深絞り法、寄せ肉法等、又はこれらの組み合わせによって適宜形成される。
【0027】
バーリング部34の外周部には、図2(a)及び(b)に示す如く、補強部材である補強リング35が嵌合される。
補強リング35は、外装部材30(蓋部32)を構成する材料よりも高強度の金属材料(例えば鉄)で成形されたリング状の部材であり、バーリング部34の径方向にかかる外力に対する外周側への強度を補強する補強部材である。
【0028】
そして、外部端子部材40を蓋部32に固定する際は、図2(a)に示す如く、外部端子部材40及び上部絶縁部材50を蓋部32の貫通孔33に挿入した状態で、治具60の上に載置する。さらに図2(b)中の矢印aに示すように、適宜の駆動装置(不図示)により移動可能に構成されるパンチ部材65により、バーリング部34を電池10の軸心方向外側である上方から押圧する。これにより、バーリング部34がガスケット溝部50aから電池10の軸心方向に垂直な水平方向内側(外部端子部材40の方向)に塑性変形される。そして、図2(b)中の矢印Aに示す如く、塑性変形したバーリング部34の一部により外部端子部材40と貫通孔33との間に圧迫力が発生することによって、外部端子部材40が貫通孔33に固定されるのである。
【0029】
この際、上部絶縁部材50は、外装部材30と外部端子部材40とを絶縁する絶縁性に加えて、電池10内部の気密性を確保するための部材としても機能する。
具体的には、貫通孔33内に上部絶縁部材50を巻装した外部端子部材40を配置し、上記の如くパンチ部材65でバーリング部34の突出側端面の内周部を押圧してかしめることによって、バーリング部34の内周側面から径方向内側、つまりガスケット溝部50aに向けて膨出する膨出部34aが形成される。
このとき、バーリング部34の外周側に位置する補強リング35は、バーリング部34よりも高強度の材料で形成されているため、かしめ時の押圧力が外側に緩和されることが防止されるため、膨出部34aが内側(外部端子部材40側)に向けて膨出する。
【0030】
内側に膨出した膨出部34aは、上部絶縁部材50を圧迫し、この圧迫力が上部絶縁部材50への面圧として付与される。上部絶縁部材50において膨出部34aによって上記面圧が付与される箇所は内側に向けて弾塑性変形し、この弾塑性変形により生じる外力が外部端子部材40への面圧として付与される。
このように、パンチ部材65で上方からプレスし、バーリング部34の端面の内周部をかしめることによって、内側に膨出する膨出部34aが形成され、膨出部34aからの面圧が上部絶縁部材50を介して外部端子部材40に伝達される。係る面圧によって外部端子部材40が圧迫されて、蓋部32の貫通孔33に固定される。
【0031】
このとき、膨出部34aは、ガスケット溝部50aからプレス方向に対して直交する方向に塑性変形し、上部絶縁部材50と外部端子部材40とを締結固定しているため、外装部材30、上部絶縁部材50、及び外部端子部材40間に強い面圧及び摩擦力を付与することが可能である。従って、電池10を使用する際の冷熱サイクルを受けても、膨出部34aは変形し難く、固定部が緩むことがない。
【0032】
外部端子部材40の上部絶縁部材50と当接する面における軸方向中途部には、気密溝として端子溝部41が形成されている。端子溝部41は、外部端子部材40の周方向に沿って、その外周全周に亘って断面が略半円状に形成された溝であり、所定の溝幅を有する。なお、端子溝部41は溝端部にエッジラインを有する形状であればその断面形状を半楕円状やV字形状、W字形状などの他の形状とすることも可能である。
上部絶縁部材50が上記のように弾塑性変形し、外部端子部材40の端子溝部41内に入り込むとともに、端子溝部41のエッジラインに食い付くことによって、上部絶縁部材50と外部端子部材40とが強固に密着し、気密性が確保される。
【0033】
このように、本実施形態に係る電池10においては、塑性変形したバーリング部34の一部により外部端子部材40と貫通孔33との間に圧迫力を発生させて外部端子部材40を貫通孔33に固定する際に、バーリング部34の塑性変形に規則性を持たせることができる。具体的には、バーリング部34の内周側への塑性変形が、上部絶縁部材50に形成したガスケット溝部50aから開始されるため、バーリング部34における塑性変形量の多くを内周側に発生させることが可能となる。つまり、バーリング部34が外周側や下側などに不規則に変形することを抑制できるのである。
このように、本実施形態においては、パンチ部材65でバーリング部34をプレスした際に、蓋部32における塑性変形を内周側に規則的かつ均一な変形量で発生させることができ、バーリング部34と上部絶縁部材50との間を一定の精度でシールすることが可能となるのである。
【0034】
また、本実施形態に係る電池10においては、外部端子部材40を蓋部32に固定する際に、上記の如くバーリング部34の塑性変形量の多くを内周側に発生させている。これにより、蓋部32における外周側への塑性流動が抑制されるため、蓋部32がその端部で膨出することがなく、蓋部32と収納部31との接合精度の低下を防止できるのである。
【0035】
[電池10における効果]
以下では、図3を参照して、プレス荷重と蓋部32の寸法変化、及び、プレス荷重とヘリウムリーク値に関する実験結果について説明する。
【0036】
図3(a)は横軸にパンチ部材65によるプレス荷重(N)、縦軸に蓋部32の短辺方向(図1(b)における左右方向)への寸法変化を示す。
【0037】
図3(a)中の実線は本実施形態に係る電池10に使用される蓋部32をプレス加工した際のデータである。つまり、上部絶縁部材50にガスケット溝部50aを形成して外部端子部材40を蓋部32に固定した際の蓋部32の寸法変化を示している。
一方、図3(a)中の破線は従来技術に係る電池に使用される蓋部(図6を参照)をプレス加工した際のデータである。つまり、ガスケット部材である上部絶縁部材にガスケット溝部を形成せずに外部端子部材を蓋部に固定した際の蓋部の寸法変化を示している。
【0038】
図3(a)に示す如く、本実施形態と従来技術の双方において、プレス荷重が増加し、所定の大きさ以上になると、蓋部32の寸法が変化している。ここで、従来技術においては、プレス荷重が9000Nとなる付近で蓋部32の寸法変化が始まっているのに対し、本実施形態においては蓋部32の寸法変化が始まるのはプレス荷重が11000Nとなる付近である。即ち、本実施形態の如く上部絶縁部材50にガスケット溝部50aを形成して、蓋部32における外周側への塑性流動を抑制することにより、蓋部32の寸法変化が開始されるプレス荷重をより大きくすることができたのである。
【0039】
つまり、蓋部32の寸法変化が始まるプレス荷重をプレス荷重基準値(その値以下でプレス荷重を加えても蓋部32の寸法変化が発生しない値)とした場合、従来技術におけるプレス荷重基準値は9000Nであったのに対し、本実施形態においてはプレス荷重基準値を11000Nにまで上げることができたのである。換言すれば、本実施形態においては、蓋部32の寸法変化を抑制することにより、外部端子部材40を蓋部32に固定する際により大きなプレス荷重を加えることが可能となったのである。
【0040】
図3(b)は横軸にパンチ部材65によるプレス荷重(N)、縦軸に外部端子部材の固定部においてヘリウムリークテストを行ったリーク値を示す。
【0041】
図3(b)中の実線は本実施形態に係る電池10に使用される蓋部32をリークテストした際のデータである。つまり、上部絶縁部材50にガスケット溝部50aを形成して外部端子部材40を蓋部32に固定した部分におけるヘリウムのリーク値を示している。
一方、図3(b)中の破線は従来技術に係る電池に使用される蓋部(図6を参照)をリークテストした際のデータである。つまり、ガスケット部材である上部絶縁部材にガスケット溝部を形成せずに外部端子部材を蓋部に固定した部分におけるヘリウムのリーク値を示している。
また、図3(b)中の一点鎖線は、所定のシール性能を確保するために必要なヘリウムのリーク基準値を示している。このリーク基準値は、水中で所定のエア圧を加えた場合にエアが漏出しない程度のシール性能を確保する値である。
【0042】
図3(b)に示す如く、本実施形態と従来技術の双方において、プレス荷重の増加に伴ってヘリウムリーク値は低減している。換言すれば、プレス荷重を大きくすれば、それぞれのシール性能は向上している。ここで、従来技術においては、プレス荷重が9000N未満ではヘリウムリーク基準値を上回っており、所定のシール性能を満たしていないのに対し、本実施形態においてはプレス荷重が7000Nから15000Nの間でヘリウムリーク基準値を上回っている。即ち、本実施形態の如く上部絶縁部材50にガスケット溝部50aを形成し、蓋部32における塑性変形を内周側に規則的かつ均一な変形量で発生させたことにより、バーリング部34と上部絶縁部材50との間におけるシール性能を向上させることができたのである。
【0043】
上記二つの実験結果から、従来技術においては、蓋部32の寸法変化の観点からはプレス荷重を9000N以下とする必要があり、ヘリウムリーク値の観点からはプレス荷重を9000N以上とする必要がある。つまり、従来技術において、蓋部32の寸法変化とヘリウムリーク値との双方を満足させるプレス荷重は9000N付近のみということになる。
【0044】
一方、本実施形態においては、蓋部32の寸法変化の観点からはプレス荷重を11000N以下とする必要があり、ヘリウムリーク値の観点からはプレス荷重を7000Nから15000Nとする必要がある。つまり、本実施形態において、蓋部32の寸法変化とヘリウムリーク値との双方を満足させるプレス荷重は7000Nから11000Nということになる。
【0045】
即ち本実施形態においては、蓋部32の寸法変化とヘリウムリーク値との双方で基準を満たすためのプレス荷重の幅を、従来技術と比較して広くすることができる。このため、本実施形態に係る電池10の生産性をより向上させることが可能となるのである。
【0046】
[外部端子部材40の固定部における寸法]
以下では、図4及び図5を参照して、蓋部32と外部端子部材40との固定部における各寸法について説明する。
本実施形態においては図4に示す如く、端子溝部41の断面半径をa(以下、端子溝半径a)、ガスケット溝部50aの断面半径をR(以下、ガスケット溝半径R)、端子溝部41の中心とバーリング部34が押圧された後の面34bとの距離をb(以下、端子溝高さb)、ガスケット溝部50aの中心と端子溝部41の中心との距離をY(以下、中心間距離Y)とする。なお、中心間距離Yは端子溝部41から上方(電池10の軸心方向外側)に向かって正の値をとり、下方に向かって負の値をとるものとする。つまり、図4に示す如くガスケット溝部50aが端子溝部41よりも中心位置が上となるように形成された場合は、中心間距離Yは正の値となる。
【0047】
図5は端子溝半径aとガスケット溝半径R、及び、端子溝高さbと中心間距離Yの相互の関係を変更して、蓋部32、上部絶縁部材50、及び、外部端子部材40の固定部における面圧(MPa)を測定した結果を示している。なお、図5(a)に示す「内側面圧」とは、上部絶縁部材50と外部端子部材40との間に発生する面圧の最大値を示している。また、図5(b)に示す「外側面圧」とは、蓋部32と上部絶縁部材50との間に発生する面圧の最大値を示している。また、従来技術における内側面圧の最大値は190MPa、外側面圧の最大値は180MPaである。
【0048】
図5(a)及び(b)の網掛け部分に示す如く、内側面圧、外側面圧のそれぞれにおいて、ガスケット溝半径R及び中心間距離Yが所定の範囲内となる場合に、従来技術における内側面圧及び外側面圧を上回る結果となった。即ち、ガスケット溝半径Rが端子溝半径aに対して2a/3以上かつa以下であり、ガスケット溝部50aの中心が端子溝部41の中心より電池10の軸心方向外側に配置され、かつ、中心間距離Yが端子溝高さbに対して0以上かつ2b/3以下の場合には、従来技術より高い面圧値で蓋部32、上部絶縁部材50、及び、外部端子部材40の固定部をシールすることができたのである。
【0049】
これは、本実施形態においてパンチ部材65によるプレス方向が下方(電池10の軸心方向内側)に向かっているため、バーリング部34の塑性変形が開始されるガスケット溝部50aを端子溝部41よりもやや上側に配置することにより、膨出部34aを端子溝部41の近傍に効果的に形成できるためであると考えられる。
【0050】
上記に示す如く、本実施形態においては、蓋部32、上部絶縁部材50、及び、外部端子部材40の固定部のシール性能をより向上させるために、ガスケット溝半径Rが端子溝半径aに対して2a/3以上かつa以下であり、ガスケット溝部50aの中心が端子溝部41の中心より電池10の軸心方向外側に配置され、かつ、中心間距離Yが端子溝高さbに対して0以上かつ2b/3以下となるように、ガスケット溝部50aを形成することが好ましいのである。
【符号の説明】
【0051】
10 電池
30 外装部材
32 蓋部
35 補強リング
40 外部端子部材
41 端子溝部
45 集電端子部材
50 上部絶縁部材
50a ガスケット溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔と、該貫通孔の周縁に位置して外方へ向けて突出するバーリング部と、を備える外装部材と、
その一端側を前記外装部材の外方へ突出させた状態で前記貫通孔に固定される柱状の外部端子部材と、
前記外装部材に収納される発電要素と前記外部端子部材の他端側とを接続する集電端子部材と、
前記外装部材と前記外部端子部材との間に介装され、前記外装部材と当接する面においてガスケット溝部が周方向に形成されたガスケット部材と、
前記バーリング部の外周に配置されることにより該バーリング部の外周側への強度を補強するリング状の補強部材と、を具備する電池であって、
前記バーリング部が電池の軸心方向外側から押圧される際に、
前記バーリング部の一部が前記ガスケット溝部から前記外部端子部材の方向に塑性変形し、前記外部端子部材と前記貫通孔との間に圧迫力が発生することによって、前記外部端子部材が前記貫通孔に固定される、
ことを特徴とする、電池。
【請求項2】
前記外部端子部材には、前記ガスケット部材と当接する面において、断面が略半円形状の端子溝部が周方向に形成され、
前記ガスケット溝部は断面が略半円形状に形成されるとともに、その中心は前記端子溝部の中心より電池の軸心方向外側に配置され、
前記ガスケット溝部の断面半径Rは、前記端子溝部の断面半径aに対して、2a/3以上かつa以下とされるとともに、
前記ガスケット溝部の中心と前記端子溝部の中心との距離Yは、前記端子溝部の中心と前記バーリング部が押圧された後の面との距離bに対して、0以上かつ2b/3以下とされる、
ことを特徴とする、請求項1に記載の電池。
【請求項3】
貫通孔と、該貫通孔の周縁に位置して外方へ向けて突出するバーリング部と、を備える外装部材と、
その一端側を前記外装部材の外方へ突出させた状態で前記貫通孔に固定される柱状の外部端子部材と、
前記外装部材に収納される発電要素と前記外部端子部材の他端側とを接続する集電端子部材と、
前記外装部材と前記外部端子部材との間に介装され、前記外装部材と当接する面においてガスケット溝部が周方向に形成されたガスケット部材と、
前記バーリング部の外周に配置されることにより該バーリング部の外周側への強度を補強するリング状の補強部材と、を具備する電池の製造方法であって、
前記バーリング部を電池の軸心方向外側から押圧する際に、
前記バーリング部の一部を前記ガスケット溝部から前記外部端子部材の方向に塑性変形させ、前記外部端子部材と前記貫通孔との間に圧迫力を発生させることによって、前記外部端子部材を前記貫通孔に固定する、
ことを特徴とする、電池の製造方法。
【請求項4】
前記外部端子部材には、前記ガスケット部材と当接する面において、断面が略半円形状の端子溝部を周方向に形成し、
前記ガスケット溝部を断面が略半円形状に形成するとともに、その中心は前記端子溝部の中心より電池の軸心方向外側に配置し、
前記ガスケット溝部の断面半径Rを、前記端子溝部の断面半径aに対して、2a/3以上かつa以下とするとともに、
前記ガスケット溝部の中心と前記端子溝部の中心との距離Yを、前記端子溝部の中心と前記バーリング部が押圧された後の面との距離bに対して、0以上かつ2b/3以下とする、
ことを特徴とする、請求項3に記載の電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−234677(P2012−234677A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101707(P2011−101707)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】