説明

電池外装用積層体および二次電池

【課題】亜鉛系めっき鋼板に熱融着性樹脂層を積層した熱融着可能な電池外装用積層体であって、熱融着性樹脂層の密着性に優れ、かつ環境負荷が小さい電池外装用積層体を提供すること。
【解決手段】亜鉛系めっき鋼板の表面にカルボキシル基含有樹脂、オキサゾリン基含有樹脂および塩基性リン酸化合物を含有する樹脂組成物の硬化物からなる有機無機複合処理層を形成し、その上に熱融着性ポリオレフィン系樹脂層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池外装用積層体および前記電池外装用積層体を使用した二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル−カドミウム電池やニッケル−水素電池、リチウムイオン電池などの二次電池は、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータ、ビデオカメラ、電気自動車、衛星、社会インフラ系コンポーネントなどの電子機器または電子部品に幅広く使用されている。特に、リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度および出力特性に優れているため、小型化および軽量性が求められる携帯電話やモバイル機器などに多用されている。従来、これらの小型電池の包装部材には、軽量性、成形性およびコストの観点から、アルミニウム合金が用いられてきた。
【0003】
また、近年、二次電池は、電気自動車やハイブリッド自動車、太陽電池用蓄電池などの大型機器においても採用されている。これら大型機器用の電池では、出力容量を向上させるために電解液の量を増やす必要があり、電池サイズも大型になる。このような大型電池の包装部材には、小型電池の包装部材以上の安全性(堅牢性や耐久性など)が求められる。
【0004】
従来、電池の包装部材として用いられてきたアルミニウム合金は剛性が低いため、電池内部の圧力増加に対する耐圧性を高めるためには板厚を増加させる必要があった。また、アルミニウム合金は耐座屈性に劣るため、電池セル同士を結束および固定する場合にケース周辺のフランジ部を使用するときは、補助的な結束部材が必要であった。したがって、アルミニウム合金を電池の包装部材として使用する場合、電池の省スペース化および低コスト化には限界があった。さらに、アルミニウム合金は熱膨張係数が大きいため、放充電時の発熱により、包装部材に大きな熱衝撃が加わるという問題もあった。
【0005】
上記問題点を解決する手段として、アルミニウム箔を心材とする軟質ラミネートフィルムに加えて、さらに硬質ラミネートフィルムも包装部材に使用することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、アルミニウム箔を心材とする軟質ラミネートフィルムで包装された電池素子(正極や負極、セパレータ、電解質などを含む)を、硬質な金属箔(例えば、ステンレス箔)を心材とする硬質ラミネートフィルムでさらに被覆し、軟質ラミネートフィルムと硬質ラミネートフィルムとをヒートシールすることで、電池パックを製造することが記載されている。このように軟質ラミネートフィルムで包装された電池素子を硬質ラミネートフィルムで補強することで、省スペース化と安全性(堅牢性や耐久性など)を両立することができる。
【0006】
一方、金属箔と熱融着性樹脂層を含むラミネートフィルム(積層体)を製造する際には、金属箔に対する熱融着性樹脂フィルムの密着性を向上させるために、金属箔の表面に化成処理皮膜を形成するのが一般的である。従来、このような化成処理皮膜としては六価クロムを含むものが一般的であった(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、六価クロムには環境負荷が大きいという問題がある。そこで、六価クロムの代わりに三価クロムを含む化成処理皮膜が提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、三価クロムを含む化成処理皮膜も、アルカリ性の環境下では三価クロムが六価クロムに還元されるおそれがあるため、環境負荷の観点から好ましくない。
【0007】
そこで、近年、環境負荷削減のために六価クロムおよび三価クロムを含まない化成処理皮膜が提案されている。たとえば、特許文献4,5では、クロムをまったく含まないクロムフリーの化成処理皮膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−157460号公報
【特許文献2】特開2000−340187号公報
【特許文献3】国際公開第2002/063703号
【特許文献4】特開2003−151513号公報
【特許文献5】特開2009−084516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の電池パックの製造方法では、軟質ラミネートフィルムをヒートシールした後、さらに硬質ラミネートフィルムもヒートシールしなければならない。したがって、特許文献1に記載の製造方法には、製造工程が煩雑であり、製造コストが高くなってしまうという問題がある。
【0010】
このような問題を解決する手段として、アルミニウム箔ではなく、薄いめっき鋼板を心材とする積層体を電池の包装部材として使用することが考えられる。たとえば、めっき鋼板の中でも安価な亜鉛系めっき鋼板(亜鉛めっき鋼板または亜鉛合金めっき鋼板)は、加工性および強度に優れていることから、薄い亜鉛系めっき鋼板の表面に熱融着性樹脂層を配置した積層体を電池の包装部材として使用することで、省スペース化、安全性および低コスト化のすべてを実現できると期待される。
【0011】
しかしながら、亜鉛系めっき鋼板の表面に熱融着性樹脂層を配置した積層体を電池の包装部材として使用する場合、亜鉛系めっき鋼板の表面に形成する化成処理皮膜として好適なものが存在しないという問題がある。すなわち、上記特許文献1〜5に記載の従来の化成処理皮膜はアルミニウムを基材とすることを想定して開発されたものであり、亜鉛系めっき鋼板に対する有効性は十分なものではなかった。したがって、従来の化成処理皮膜を形成した亜鉛系めっき鋼板を心材として電池外装用積層体を作製した場合、電池の使用中に熱融着性樹脂層が剥離してしまうおそれがあった。
【0012】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、亜鉛系めっき鋼板の表面に熱融着性樹脂層を形成した熱融着可能な電池外装用積層体であって、熱融着性樹脂層の密着性に優れ、かつ環境負荷が小さい電池外装用積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、亜鉛系めっき鋼板の表面にカルボキシル基含有樹脂、オキサゾリン基含有樹脂および塩基性リン酸化合物を含有する樹脂組成物の硬化物からなる有機無機複合処理層を形成し、その上に熱融着性樹脂層を形成することで、六価クロムなどを使用せずに熱融着性樹脂層の密着性を向上させうることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明の第一は、以下の電池外装用積層体に関する。
[1]第1の面および第2の面を有し、亜鉛めっき層または亜鉛合金めっき層が前記第1の面および前記第2の面に形成されている亜鉛系めっき鋼板と;前記亜鉛系めっき鋼板の第1の面に形成された、カルボキシル基含有樹脂、オキサゾリン基含有樹脂および塩基性リン酸化合物を含有する樹脂組成物の硬化物からなる有機無機複合処理層と;前記有機無機複合処理層の表面に形成された、厚みが10〜100μmの熱融着性ポリオレフィン系樹脂層とを有する、電池外装用積層体。
[2]前記有機無機複合処理層は、前記硬化物の樹脂成分を5〜800mg/m含有し、かつ前記硬化物のリン成分をリン換算で0.1〜100mg/m含有する、[1]に記載の電池外装用積層体。
[3]前記樹脂組成物における、前記カルボキシル基含有樹脂および前記オキサゾリン基含有樹脂の合計量に対する前記オキサゾリン基含有樹脂の割合は、2.0〜50.0質量%の範囲内である、[1]または[2]に記載の電池外装用積層体。
[4]前記カルボキシル基含有樹脂の酸価は、樹脂固形分換算で300mgKOH/g以上である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の電池外装用積層体。
[5]前記樹脂組成物は、塩基性ジルコニウム化合物をさらに含有し;前記有機無機複合処理層は、前記硬化物のジルコニウム成分をジルコニウム換算で0.5〜60mg/m含有する[1]〜[4]のいずれか一項に記載の電池外装用積層体。
[6]前記有機無機複合処理層と前記熱融着性ポリオレフィン系樹脂層との間に、厚みが10〜100μmの酸変性ポリオレフィン系樹脂層をさらに有する、[1]に記載の電池外装用積層体。
[7]前記亜鉛系めっき鋼板の板厚は、20〜600μmの範囲内である、[1]に記載の電池外装用積層体。
[8]前記亜鉛系めっき鋼板の第2の面に形成された樹脂層をさらに有する、[1]に記載の電池外装用積層体。
【0015】
また、本発明の第二は、以下の二次電池に関する。
[9][1]に記載の電池外装用積層体の成形品を熱融着して形成されたケースを有する二次電池。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、六価クロムなどを使用せずに熱融着性樹脂層の密着性に優れた電池外装用積層体を製造することができる。したがって、本発明によれば、より小さい環境負荷で、熱融着性樹脂層の密着性に優れた電池外装用積層体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.電池外装用積層体
本発明の電池外装用積層体は、亜鉛系めっき鋼板と、有機無機複合処理層と、熱融着性ポリオレフィン系樹脂層とを含む積層体である。有機無機複合処理層は、亜鉛系めっき鋼板の表面に形成されている。熱融着性ポリオレフィン系樹脂層は、有機無機複合処理層の表面に直接接合されているか、または酸変性ポリオレフィン系樹脂を介して有機無機複合処理層の表面に接合されている。本明細書では、亜鉛系めっき鋼板の表面のうち、有機無機複合処理層および熱融着性ポリオレフィン系樹脂層が形成されている面を「第1の面」といい、反対側の面を「第2の面」という。本発明の電池外装用積層体を二次電池に適用した場合、第1の面は内面(電解質側の面)となり、第2の面は外面(外界側の面)となる。
【0018】
以下、各構成要素について説明する。
【0019】
(1)亜鉛系めっき鋼板
本発明の電池外装用積層体の心材としては、鋼板の表面に亜鉛めっき層または亜鉛合金めっき層が形成された亜鉛系めっき鋼板が使用される。亜鉛合金めっき層の例には、Zn−Alめっき層、Zn−Mgめっき層、Zn−Niめっき層、Zn−Al−Mgめっき層などが含まれる。これらのめっき層の形成方法は、特に限定されない。めっき層の形成方法の例には、電気めっき法、溶融めっき法、蒸着めっき法などが含まれる。また、下地鋼板の鋼種も、特に限定されない。下地鋼板の鋼種の例には、シリコンキルド鋼、アルミキルド鋼、チタンキルド鋼、オーステナイト系やフェライト系、マルテンサイト系などのステンレス鋼などが含まれる。
【0020】
亜鉛系めっき鋼板の板厚は、電池外装材としての要求重量や要求強度、要求加工深さなどに応じて適宜設定することができる。電池外装材の重量を軽量化する観点からは、板厚は薄いほど好ましいが、板厚を薄くするほど、強度および加工性が低下し、かつ製造コストが上昇してしまう。電池外装材としての強度を確保する観点からは、板厚は20μm以上であることが好ましい。また、50mm程度の深絞り加工を行う場合であっても、板厚は600μmもあれば十分である。一般的に求められる電池外装材の強度および加工深さを考慮すると、亜鉛系めっき鋼板の板厚は、40〜400μmの範囲内が好ましい。
【0021】
(2)有機無機複合処理層
有機無機複合処理層は、亜鉛系めっき鋼板の第1の面に形成されている。有機無機複合処理層は、亜鉛系めっき鋼板と熱融着性ポリオレフィン系樹脂層(または酸変性ポリオレフィン系樹脂層)とを強固に密着させるとともに、電解質の劣化または加水分解により発生するフッ酸による亜鉛系めっき鋼板の劣化を防ぐ機能を担う。
【0022】
有機無機複合処理層は、カルボキシル基含有樹脂(A)、オキサゾリン基含有樹脂(B)および塩基性リン酸化合物(C)を含有する樹脂組成物の硬化物からなる。ここで「塩基性リン酸化合物」とは、水溶液がアルカリ性を示すリン酸化合物を意味する。
【0023】
カルボキシル基含有樹脂(A)、オキサゾリン基含有樹脂(B)および塩基性リン酸化合物(C)は、配位結合および化学結合により三次元網目構造を形成して相互に結合するとともに、亜鉛系めっき鋼板と強固に結合または付着する。具体的には、塩基性リン酸化合物(C)は、亜鉛系めっき鋼板と強固に結合または付着して無機処理層を形成するとともに、樹脂(A)が有するカルボキシル基と樹脂(B)が有するオキサゾリン基との反応触媒としても機能する。その結果として、カルボキシル基含有樹脂(A)、オキサゾリン基含有樹脂(B)および塩基性リン酸化合物(C)の3成分に由来する高架橋密度の耐薬品性に優れた有機無機複合処理層が形成される。また、樹脂(A)が有する極性基(カルボキシル基や水酸基など)は、有機無機複合処理層と熱融着性ポリオレフィン系樹脂層(または酸変性ポリオレフィン系樹脂層)との密着性を向上させる。
【0024】
前記樹脂組成物は、さらに、塩基性ジルコニウム化合物(D)を含有することが好ましい。ここで「塩基性ジルコニウム化合物」とは、水溶液がアルカリ性を示すジルコニウム化合物を意味する。樹脂組成物に塩基性ジルコニウム化合物を含有させることで、金属架橋により樹脂間の結合をより強固にすることができる。また、塩基性ジルコニウム化合物(D)は、塩基性リン酸化合物(C)と反応して不溶性の塩(リン酸ジルコニウム)を形成する。さらに、塩基性ジルコニウム化合物(D)が炭酸ジルコニウムアンモニウムの場合は、不溶性のジルコン酸亜鉛も形成される。すなわち、炭酸ジルコニウムイオンが熱分解されることで、ジルコン酸イオンおよび水酸化ジルコニウムイオンが生成され、めっき層から溶出してきた亜鉛成分とジルコン酸イオンが反応することでジルコン酸亜鉛が生成する。これらの不溶性の塩は、有機無機複合処理層のバリア性を向上させることにより、亜鉛系めっき鋼板の劣化を防ぎ、亜鉛系めっき鋼板と熱融着性ポリオレフィン系樹脂層(または酸変性ポリオレフィン系樹脂層)との密着性を維持する。その結果、塩基性ジルコニウム化合物(D)は、有機無機複合処理層の造膜性およびバリア性、ならびに亜鉛系めっき鋼板と熱融着性ポリオレフィン系樹脂層(または酸変性ポリオレフィン系樹脂層)との密着性を向上させることができる。
【0025】
有機無機複合処理層は、水や、酸成分(フッ酸など)を含有する酸性水溶液、有機溶剤などに対して優れた難溶性を示す。有機無機複合処理層は、上記(A)〜(C)の3成分、または上記(A)〜(D)の4成分が相乗的に作用することで、液体電解質および固体有機電解質ならびにこれらが劣化した電解質に対して優れた耐性を有し、有機無機複合処理層と熱融着性ポリオレフィン系樹脂層(または酸変性ポリオレフィン系樹脂層)との強固な密着性を維持することができる。
【0026】
有機無機複合処理層は、前記樹脂組成物の硬化物の樹脂成分(カルボキシル基含有樹脂(A)およびオキサゾリン基含有樹脂(B)に由来する)を5〜800mg/mの範囲内で含有することが好ましく、12.5〜400mg/mの範囲内で含有することがより好ましい。樹脂成分の含有量が5mg/m未満の場合、有機無機複合処理層と熱融着性ポリオレフィン系樹脂層(または酸変性ポリオレフィン系樹脂層)との強固な密着性を維持することができない。一方、樹脂成分の含有量を800mg/m超としても、密着性向上の効果が飽和してしまうため、コスト的に不利になる。なお、有機無機複合処理層における樹脂成分の含有量は、有機無機複合処理層を蛍光X線装置によって分析して得られた、炭素量(mg/m)から求めることができる。
【0027】
また、有機無機複合処理層は、前記樹脂組成物の硬化物のリン成分(塩基性リン酸化合物(C)に由来する)をリン換算で0.1〜100mg/mの範囲内で含有することが好ましく、0.25〜50mg/mの範囲内で含有することがより好ましい。リン成分のリン換算の含有量が0.1mg/m未満の場合も、有機無機複合処理層と熱融着性ポリオレフィン系樹脂層(または酸変性ポリオレフィン系樹脂層)との強固な密着性を維持することができない。一方、リン成分のリン換算の含有量が100mg/m超の場合は、有機無機複合処理層が厚くかつ脆くなり、加工時に受ける衝撃などにより凝集破壊しやすくなるため、却って、有機無機複合処理層と熱融着性ポリオレフィン系樹脂層(または酸変性ポリオレフィン系樹脂層)との密着性が低下したり、有機無機複合処理層のバリア性が低下したりするおそれがある。なお、有機無機複合処理層におけるリン成分の含有量は、有機無機複合処理層を蛍光X線装置によって分析して得られた、リン量(mg/m)として求めることができる。
【0028】
樹脂成分およびリン成分の含有量は、有機無機複合処理層を形成する際に塗布する樹脂組成物(有機無機複合処理液)中の上記(A)〜(C)の3成分の濃度を調整したり、樹脂組成物(有機無機複合処理液)の塗布量を調整したりすることで、上記範囲内に調整することができる。
【0029】
また、有機無機複合処理層を形成する際に塗布する樹脂組成物(有機無機複合処理液)における、カルボキシル基含有樹脂(A)およびオキサゾリン基含有樹脂(B)の合計量に対するオキサゾリン基含有樹脂(B)の割合は、固形分として2.0〜50.0質量%の範囲内であることが好ましく、5.0〜40.0質量%の範囲内がより好ましい。有機無機複合処理液中のカルボキシル基含有樹脂(A)とオキサゾリン基含有樹脂(B)との固形分質量比率を上記範囲内とすることで、有機無機複合処理層中におけるカルボキシル基とオキサゾリン基との比率を好適な範囲にすることができる。その結果、有機無機複合処理層におけるカルボキシル基およびオキサゾリン基による架橋密度を高くすることができ、有機無機複合処理層のバリア性を向上させることができる。また、カルボキシル基含有樹脂(A)の比率が適切な範囲となることにより、亜鉛系めっき鋼板と熱融着性ポリオレフィン系樹脂層との密着性を良好に維持することができる。オキサゾリン基含有樹脂(B)の割合が上記範囲外の場合、亜鉛系めっき鋼板および熱融着性ポリオレフィン系樹脂層(または酸変性ポリオレフィン系樹脂層)に対する有機無機複合処理層の密着性が不十分となるおそれがある。
【0030】
樹脂組成物が塩基性ジルコニウム化合物(D)も含有する場合、有機無機複合処理層は、樹脂組成物の硬化物のジルコニウム成分(塩基性ジルコニウム化合物(D)に由来する)をジルコニウム換算で0.5〜60mg/mの範囲内で含有することが好ましく、1.25〜30mg/mの範囲内で含有することがより好ましい。ジルコニウム成分のジルコニウム換算の含有量が0.5mg/m未満の場合、有機無機複合処理層の造膜性およびバリア性を十分に向上させることができない。一方、ジルコニウム成分のジルコニウム換算の含有量が60mg/m超の場合、有機無機複合処理層が厚くかつ脆くなり、加工時に受ける衝撃などにより凝集破壊しやすくなるため、有機無機複合処理層と熱融着性ポリオレフィン系樹脂層(または酸変性ポリオレフィン系樹脂層)との密着性が低下したり、有機無機複合処理層のバリア性が低下したりするおそれがある。なお、有機無機複合処理層におけるジルコニウム成分の含有量は、有機無機複合処理層を蛍光X線装置によって分析して得られた、ジルコニウム量(mg/m)として求めることができる。
【0031】
ジルコニウム成分の含有量は、有機無機複合処理層を形成する際に塗布する樹脂組成物(有機無機複合処理液)中の塩基性ジルコニウム化合物(D)の濃度を調整したり、樹脂組成物(有機無機複合処理液)の塗布量を調整したりすることで、上記範囲内に調整することができる。
【0032】
以下、樹脂組成物に含まれる上記(A)〜(D)の各成分について説明する。
【0033】
[カルボキシル基含有樹脂(A)]
カルボキシル基含有樹脂(A)は、オキサゾリン基含有樹脂(B)と共に三次元網目構造の硬化物を形成し、亜鉛系めっき鋼板と熱融着性ポリオレフィン系樹脂層(または酸変性ポリオレフィン系樹脂層)との密着性を向上させる。
【0034】
たとえば、カルボキシル基含有樹脂(A)は、カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーを重合させた、複数のカルボキシル基を有する重合体である。このようなカルボキシル基含有樹脂(A)の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸およびフマル酸からなる群から選択される1種類または2種類以上のモノマーをラジカル重合させた重合体;前記1種類または2種類以上のモノマーと、1種類または2種類以上の他のエチレン性不飽和モノマーとをラジカル重合させた共重合体などが挙げられる。
【0035】
他のエチレン性不飽和モノマーの例としては、特に限定されるものではないが、例えば、1)2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートや2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、アリルアルコール、メタクリルアルコール、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとε−カプロラクトンとの付加物などの水酸基を含有するエチレン性不飽和モノマー;2)ハーフアミドやハーフチオエステルなどの、カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和モノマー;3)(メタ)アクリルアミドやN−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジオクチル(メタ)アクリルアミド、N−モノブチル(メタ)アクリルアミド、N−モノオクチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド基を含有するエチレン性不飽和モノマー;4)メチル(メタ)アクリレートやエチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリルメタクリレート、フェニルアクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、ジヒドロジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレートエステルモノマー;5)スチレンやα−メチルスチレン、ビニルケトン、t−ブチルスチレン、パラクロロスチレン、ビニルナフタレンなどの重合性芳香族化合物;6)アクリロニトリルやメタクリロニトリルなどの重合性ニトリル;7)エチレンやプロピレンなどのα−オレフィン;8)酢酸ビニルやプロピオン酸ビニルなどのビニルエステル;9)ブタジエンやイソプレンなどのジエン、などが挙げられる。これらの中でも、他のエチレン性不飽和モノマーとして、水酸基を含有するエチレン性不飽和モノマーが含まれていることが好ましい。
【0036】
カルボキシル基含有樹脂(A)の質量平均分子量は、1×10〜5×10の範囲内が好ましい。カルボキシル基含有樹脂(A)の質量平均分子量が1×10未満の場合、有機無機複合処理層の造膜性が不十分となり、その結果として耐薬品性も不十分となるおそれがある。一方、カルボキシル基含有樹脂(A)の質量平均分子量が5×10超の場合、有機無機複合処理層を形成するための樹脂組成物(有機無機複合処理液)の粘度が高くなり、作業性が低下するおそれがある。カルボキシル基含有樹脂(A)の質量平均分子量は、ポリスチレンを標準として用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定結果から算出されうる。
【0037】
カルボキシル基含有樹脂(A)は、市販のものを使用してもよい。たとえば、カルボキシル基含有樹脂(A)としては、アロンA30(ポリアクリル酸アンモニウム;東亞合成株式会社)、ジュリマーAC−10L(ポリアクリル酸;日本純薬株式会社)、PIA728(ポリイタコン酸;磐田化学工業株式会社)、アクアリックHL580(ポリアクリル酸;株式会社日本触媒)を用いることができる。
【0038】
カルボキシル基含有樹脂(A)としては、(メタ)アクリル酸もしくは(メタ)アクリル酸誘導体またはこれらの組み合わせを、モノマー全体に対して50モル%以上用いた樹脂を用いることが好ましく、構成するモノマーの全てが(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸誘導体などのアクリルモノマーで構成されていることがより好ましい。
【0039】
カルボキシル基含有樹脂(A)の酸価は、後述するオキサゾリン基含有樹脂、塩基性リン酸化合物および塩基性ジルコニウム化合物との反応性を維持する観点より、樹脂固形分換算で300mgKOH/g以上であることが好ましい。カルボキシル基含有樹脂(A)の酸価が300mgKOH/g未満の場合、カルボキシル基含有樹脂(A)の反応性が低下してしまい、密着性および耐食性が低下するおそれがある。カルボキシル基含有樹脂(A)の酸価の上限は、樹脂固形分換算で779mgKOH/gである。
【0040】
カルボキシル基含有樹脂(A)、オキサゾリン基含有樹脂(B)および塩基性リン酸化合物(C)(ならびに任意成分として塩基性ジルコニウム化合物(D))を含む樹脂組成物(有機無機複合処理液)の経時安定性を向上させる観点からは、カルボキシル基含有樹脂(A)のカルボキシル基は、塩基性中和剤により中和されていることが好ましい。塩基性中和剤としては、有機無機複合処理層に残存しにくく、カルボキシル基含有樹脂(A)とオキサゾリン基含有樹脂(B)、塩基性リン酸化合物(C)または塩基性ジルコニウム化合物(D)との架橋反応を阻害するおそれが小さい、揮発性アミンやアンモニアなどを用いることが好ましい。揮発性アミンの例には、モノエタノールアミン、エチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モルホリンなどが含まれる。
【0041】
[オキサゾリン基含有樹脂(B)]
オキサゾリン基含有樹脂(B)は、カルボキシル基含有樹脂(A)と共に三次元網目構造の硬化物を形成し、亜鉛系めっき鋼板と熱融着性ポリオレフィン系樹脂層(または酸変性ポリオレフィン系樹脂層)との密着性を向上させる。
【0042】
オキサゾリン基含有樹脂(B)は、主鎖がアクリル骨格であり、かつ複数のオキサゾリン基を有するものであれば特に限定されない。
【0043】
オキサゾリン基含有樹脂(B)中のオキサゾリン基の数は、オキサゾリン価(gsolid/eq.)で定義されうる。「オキサゾリン価」とは、オキサゾリン基1モル当たりの重合体の質量を意味する。重合体中のオキサゾリン基の数が多いと、オキサゾリン価は小さくなる。一方、重合体中のオキサゾリン基の数が少ないと、オキサゾリン価が大きくなる。
【0044】
オキサゾリン基含有樹脂(B)のオキサゾリン価は、40〜1000g solid/eq.の範囲内が好ましく、120〜240g solid/eq.の範囲内がより好ましい。オキサゾリン価が40g solid/eq.未満の場合、オキサゾリン基含有樹脂(B)の粘度が高くなり、有機無機複合処理層を形成する際の作業性が低下するおそれがある。一方、オキサゾリン価が1000g solid/eq.超の場合、カルボキシル基含有樹脂(A)との反応が不十分となり、その結果として耐薬品性も不十分となるおそれがある。
【0045】
オキサゾリン基含有樹脂(B)の質量平均分子量は、1×10〜5×10の範囲内が好ましい。オキサゾリン基含有樹脂(B)の質量平均分子量が1×10未満の場合、有機無機複合処理層の造膜性が不十分となり、その結果として耐薬品性も不十分となるおそれがある。一方、オキサゾリン基含有樹脂(B)の質量平均分子量が5×10超の場合、有機無機複合処理層を形成するための樹脂組成物(有機無機複合処理液)の粘度が高くなり、作業性が低下するおそれがある。オキサゾリン基含有樹脂(B)の質量平均分子量は、ポリスチレンを標準として用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定結果から算出されうる。
【0046】
オキサゾリン基含有樹脂(B)は、市販のものを使用してもよい。たとえば、オキサゾリン基含有樹脂(B)としては、エポクロスWS−300、エポクロスWS−500、エポクロスWS−700(いずれも株式会社日本触媒)、NK Linker FX(新中村化学工業株式会社)を用いることができる。
【0047】
[塩基性リン酸化合物(C)]
塩基性リン酸化合物(C)は、亜鉛系めっき鋼板と強固に結合または付着して無機処理層を形成する。また、塩基性リン酸化合物(C)は、樹脂(A)が有するカルボキシル基と樹脂(B)が有するオキサゾリン基との反応触媒としても機能し、カルボキシル基含有樹脂(A)、オキサゾリン基含有樹脂(B)および塩基性リン酸化合物(C)の3成分に由来する高架橋密度の耐薬品性に優れた有機無機複合処理層を形成するために必須の成分である。
【0048】
リン酸化合物(C)は、塩基性であることが必須である。カルボキシル基含有樹脂(A)およびオキサゾリン基含有樹脂(B)を含む樹脂組成物(有機無機処理液)に、酸性のリン酸化合物を添加してしまうと、樹脂成分がゲル化してしまうため、好ましくない。
【0049】
塩基性リン酸化合物(C)は、公知のものを広く使用することができる。水溶液がアルカリ性を示す塩基性リン酸化合物(C)の例としては、トリポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0050】
[塩基性ジルコニウム化合物(D)]
塩基性ジルコニウム化合物(D)は、樹脂間を金属架橋することで、有機無機複合処理層の造膜性、バリア性および熱融着性ポリオレフィン系樹脂層(または酸変性ポリオレフィン系樹脂層)に対する密着性をより向上させる。また、有機無機複合処理層を形成する際に塗布する樹脂組成物(有機無機処理液)に塩基性ジルコニウム化合物を添加した場合、ジルコニウム同士が酸素を介して結合して高分子量化するため、有機無機複合処理層のバリア性がさらに向上する。さらに、塩基性ジルコニウム化合物(D)は、塩基性リン酸化合物(C)やめっき層由来の亜鉛成分などと反応することで不溶性のリン酸ジルコニウムやジルコン酸亜鉛などを形成して、有機無機複合処理層のバリア性をさらに向上させる。
【0051】
ジルコニウム化合物(D)は、リン酸化合物(C)と同様に塩基性であることが必須である。カルボキシル基含有樹脂(A)およびオキサゾリン基含有樹脂(B)を含む樹脂組成物(有機無機処理液)に、酸性のジルコニウム化合物を添加してしまうと、樹脂成分がゲル化してしまうため、好ましくない。
【0052】
塩基性ジルコニウム化合物(D)は、公知のものを広く使用することができる。水溶液がアルカリ性を示す塩基性ジルコニウム化合物(D)の例としては、炭酸ジルコニウムアンモニウムなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0053】
有機無機複合処理層を形成する方法は、特に限定されない。たとえば、カルボキシル基含有樹脂(A)、オキサゾリン基含有樹脂(B)、塩基性リン酸化合物(C)および水性溶媒を含有する有機無機複合処理液を亜鉛系めっき鋼板の表面に塗布し、加熱乾燥させればよい。
【0054】
有機無機複合処理液は、水性溶媒に、カルボキシル基含有樹脂(A)、オキサゾリン基含有樹脂(B)および塩基性リン酸化合物(C)を分散または溶解させたものである。有機無機複合処理液には、さらに塩基性ジルコニウム化合物(D)を添加してもよい。上記(A)〜(D)の各成分の濃度は、有機無機複合皮膜を形成したときに前述の含有量となるように調整される。水性溶媒は、通常は水であるが、有機無機複合処理液の物性を調整するためにアルコールが添加されていてもよい。水性溶媒に添加されうるアルコールとしては、公知のアルコールを広く使用できる。添加されうるアルコールの例としては、メチルアルコールやエチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコールなどの炭素数1〜4のアルコールが挙げられる。これらのアルコールの添加量は、水に対して20質量%以下であればよく、1〜5質量%程度が好ましい。
【0055】
有機無機複合処理液のpHは、7以上(中性からアルカリ性)が好ましい。pHが7未満の場合、樹脂成分が時間の経過とともにゲル化してしまうため、所望の品質の有機無機複合処理液を得ることができない。有機無機複合処理液のpHの調整には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物または水酸化物や;アルカリ金属、アルカリ土類金属またはアンモニウムの塩のうち、塩基性を示す化合物;アンモニアやアミン類などを使用することができる。これらの中でも、カルボキシル基含有樹脂(A)とオキサゾリン基含有樹脂(B)、塩基性リン酸化合物(C)または塩基性ジルコニウム化合物(D)との架橋反応を阻害するおそれが小さい、揮発性アミンやアンモニアなどを用いることが好ましい。揮発性アミンの例には、モノエタノールアミン、エチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モルホリンなどが含まれる。
【0056】
亜鉛系めっき鋼板の表面に有機無機複合処理液を塗布する場合、亜鉛系めっき鋼板の表面は、清浄化されていることが好ましい。亜鉛系めっき鋼板の表面を清浄化する方法は、特に限定されず、公知の方法を広く使用することができる。清浄化方法の例には、純水洗浄、アルカリ洗浄、酸洗浄、洗剤洗浄、溶剤洗浄、コロナ放電処理などが含まれる。これらの方法は、2種類以上を組み合わせてもよい。
【0057】
有機無機複合処理液を塗布する方法は、特に限定されず、公知の方法を広く使用することができる。塗布方法の例には、浸漬法、スプレー法、ロールコート法、バーコート法、流しかけ処理法などが含まれる。塗布量を厳密に管理する観点からは、ロールコート法およびバーコート法が特に好ましい。
【0058】
加熱乾燥は、有機無機複合処理液中の水性溶媒を蒸発させるため、および上記(A)〜(D)の各成分の反応を促進して、有機無機複合処理層を不溶化させるために行われる。加熱乾燥の方法は、電気オーブンによる加熱や、赤外オーブンによる加熱などの公知の方法を広く使用することができる。加熱温度は、80〜300℃の範囲内が好ましく、120〜250℃の範囲内がより好ましい。加熱時間は、加熱温度や、有機無機複合処理液の塗布量に応じて適宜調整すればよい。
【0059】
(3)熱融着性ポリオレフィン系樹脂層
前述の通り、熱融着性ポリオレフィン系樹脂層は、亜鉛系めっき鋼板の第1の面に形成された有機無機複合処理層に直接接合されているか、または有機無機複合処理層の上に形成された後述の酸変性ポリオレフィン系樹脂を介して有機無機複合処理層に接合されている。熱融着性ポリオレフィン系樹脂層は、電池内部を外気から遮断して密封系にする機能を担う。すなわち、本発明の積層体を用いて電池を製造する際に、一方の積層体の熱融着性ポリオレフィン系樹脂層を他方の積層体の熱融着性ポリオレフィン系樹脂層または金属製電極と熱融着させることにより、電池内部を外気から遮断するとともに、電解液の液漏れを防止する。特に外気の水蒸気ガスが電池内部に侵入した場合、電解液中の電解質が加水分解を受けてフッ酸が生成することから、二次電池自体が劣化するばかりでなく、亜鉛系めっき鋼板が腐食してしまうおそれもあり、熱融着性ポリオレフィン系樹脂層は、電解液に対する亜鉛系めっき鋼板の耐腐食性を向上させる機能も担っている。
【0060】
熱融着性ポリオレフィン系樹脂層を構成する熱融着性ポリオレフィン系樹脂の種類は、特に限定されず、公知のものから適宜選択することができる。熱融着性ポリオレフィン系樹脂の例には、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体などが含まれる。これらの中では、ポリプロピレンが特に好ましい。
【0061】
熱融着性ポリオレフィン系樹脂層の厚みは、10〜100μmの範囲内が好ましく、20〜80μmの範囲内がより好ましい。厚みが10μm未満の場合、十分な強度で熱融着させることができない。また、厚みを100μm超としても、熱融着の強度の向上は認められず、コスト的に不利になる。また、厚みが100μm超の場合、加工性が低下するおそれがある。
【0062】
有機無機複合処理層の上に熱融着性ポリオレフィン系樹脂層を配置する方法は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択することができる。たとえば、有機無機複合処理層の上に熱融着性ポリオレフィン系樹脂フィルムを積層してもよいし(積層法)、有機無機複合処理層の上に熱融着性ポリオレフィン系樹脂組成物を塗布してもよい(塗布法)。積層法の例には、熱ラミネーション法、サンドラミネーション法などが含まれる。また、熱融着性ポリオレフィン系樹脂フィルムは、市販のものを使用してもよいし、Tダイ押し出し機などを用いて作製してもよい。また、熱融着性ポリオレフィン系樹脂フィルムは、未延伸のものでもよいし、一軸または二軸延伸されたものでもよい。一方、塗布法の例には、樹脂組成物を溶融してバーコータやロールコータなどで塗布する方法、溶融した樹脂組成物に有機無機複合処理層を形成した亜鉛系めっき鋼板を浸漬する方法、樹脂組成物を溶媒に溶解してバーコータやロールコータ、スピンコートなどで塗布する方法などが含まれる。
【0063】
(4)酸変性ポリオレフィン系樹脂層
本発明の積層体は、亜鉛系めっき鋼板の第1の面に形成された有機無機複合処理層と熱融着性ポリオレフィン系樹脂層との間に、酸変性ポリオレフィン系樹脂層を有していてもよい。酸変性ポリオレフィン系樹脂層は、有機無機複合処理層とポリオレフィン系樹脂層との密着性をより向上させる。
【0064】
酸変性ポリオレフィン系樹脂層を構成するポリオレフィン系樹脂の種類は、特に限定されず、公知のものから適宜選択することができる。酸変性ポリオレフィン系樹脂の例には、不飽和カルボン酸でグラフト変性したオレフィン樹脂、エチレンもしくはプロピレンとアクリル酸もしくはメタクリル酸との共重合体、金属架橋オレフィン樹脂などが含まれる。これらの中では、耐熱性の観点から、不飽和カルボン酸でグラフト変性したオレフィン樹脂が特に好ましい。
【0065】
酸変性ポリオレフィン系樹脂層の厚みは、10〜100μmの範囲内が好ましく、15〜50μmの範囲内がより好ましい。厚みが10μm未満の場合、有機無機複合処理層への密着性を十分に確保できないおそれがある。また、厚みを100μm超としても、有機無機複合処理層への密着性の向上は認められず、コスト的に不利になる。また、厚みが100μm超の場合、加工性が低下するおそれがある。
【0066】
酸変性ポリオレフィン系樹脂層を配置する方法は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択することができる。たとえば、有機無機複合処理層と熱融着性ポリオレフィン系樹脂層との間に酸変性ポリオレフィン系樹脂フィルムを積層してもよいし(積層法)、熱融着性ポリオレフィン系樹脂層を形成する前に、有機無機複合処理層の上に酸変性ポリオレフィン系樹脂組成物を塗布してもよい(塗布法)。酸変性ポリオレフィン系樹脂フィルムは、市販のものを使用してもよいし、Tダイ押し出し機などを用いて作製してもよい。また、酸変性ポリオレフィン系樹脂フィルムは、未延伸のものでもよいし、一軸または二軸延伸されたものでもよい。一方、塗布法の例には、樹脂組成物を溶融してバーコータやロールコータなどで塗布する方法、溶融した樹脂組成物に有機無機複合処理層を形成した亜鉛系めっき鋼板を浸漬する方法、樹脂組成物を溶媒に溶解してバーコータやロールコータ、スピンコートなどで塗布する方法などが含まれる。
【0067】
(5)外層樹脂層
本発明の積層体は、亜鉛系めっき鋼板の第2の面側に樹脂層(以下「外層樹脂層」ともいう)を有していてもよい。外層樹脂層は、電池外装用材に求められる加工性、意匠性、耐突き刺し性、絶縁性などを向上させうる。
【0068】
外層樹脂層を構成する樹脂の種類は、特に限定されず、要求される特性(加工性、意匠性、耐突き刺し性、絶縁性など)に応じて公知のものから適宜選択することができる。また、外層樹脂層の厚みも特に限定されず、要求される特性に応じて適宜設定することができる。さらに、外層樹脂層は、単層であってもよいし、2層以上の複層であってもよい。
【0069】
以上のように、本発明の積層体は、亜鉛系めっき鋼板の表面と熱融着性ポリオレフィン系樹脂層との間に、カルボキシル基含有樹脂、オキサゾリン基含有樹脂および塩基性リン酸化合物を含有する樹脂組成物の硬化物からなる有機無機複合処理層を有しているため、熱融着性ポリオレフィン系樹脂層の密着性が優れている。
【0070】
2.二次電池
本発明の積層体は、二次電池の外装材(ケース)として好適に使用されうる。二次電池の形状は、直方体の角筒形状や円筒形状など、特に限定されない。二次電池の種類も、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池など、特に限定されない。
【0071】
本発明の積層体を二次電池の外装材(ケース)として使用する際には、本発明の積層体同士を貼り合わせて密閉するのが好ましい。このとき、成形加工された積層体同士を貼り合わせてもよいし、一方の積層体のみが成形加工されていてもよい。本発明の積層体を成形加工する方法は、特に限定されず、プレス加工や扱き加工、絞り加工などの公知の方法から適宜選択することができる。本発明の積層体を貼り合わせる方法としては、本発明の積層体の第1の面(ポリオレフィン系樹脂層で被覆されている面)同士を合わせて、熱融着で接着する方法が好ましい。
【0072】
本発明の積層体を用いて二次電池を製造するには、本発明の積層体を成形加工して得られるケースに、正極や負極、セパレータなどの電池素子、電解液などの電池内容部を収容し、熱融着により接着すればよい。
【0073】
以下、本発明を実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0074】
供試亜鉛系めっき鋼板として、板厚0.27mm、片面あたりのめっき付着量45g/mの溶融亜鉛めっき鋼板を準備した。各溶融亜鉛めっき鋼板を弱アルカリ脱脂(pH8.0、液温60℃、浸漬時間1分間)した後、各溶融亜鉛めっき鋼板の表面に処理液(有機無機複合処理液、有機処理液または無機処理液)をバーコータを用いて塗布し、160℃のオーブンで45秒間乾燥させて、各溶融亜鉛めっき鋼板の表面に処理層(有機無機複合処理層、有機処理層または無機処理層)を形成した。
【0075】
実施例1〜3では、処理液として、カルボキシル基含有樹脂(A)、オキサゾリン基含有樹脂(B)および塩基性リン酸化合物(C)を含有する有機無機複合処理液を塗布した。実施例4〜11では、処理液として、カルボキシル基含有樹脂(A)、オキサゾリン基含有樹脂(B)、塩基性リン酸化合物(C)および塩基性ジルコニウム化合物(D)を含有する有機無機複合処理液を塗布した(表1参照)。
【0076】
一方、比較例1では、処理液として、カルボキシル基含有樹脂(A)およびオキサゾリン基含有樹脂(B)を含有する有機処理液を塗布した。比較例2では、処理液として、カルボキシル基含有樹脂(A)、オキサゾリン基含有樹脂(B)および塩基性ジルコニウム化合物(D)を含有する有機無機複合処理液を塗布した。比較例3では、処理液として、塩基性リン酸化合物(C)および塩基性ジルコニウム化合物(D)を含有する無機処理液を塗布した(表1参照)。
【0077】
カルボキシル基含有樹脂(A)は、以下の手順で調製した。まず、加熱装置および攪拌装置を有する4ツ口ベッセルにイオン交換水775質量部を仕込み、攪拌および窒素還流を行いながらイオン交換水を80℃まで加熱した。次いで、加熱、攪拌および窒素還流を行いながら、アクリル酸120質量部、アクリル酸エチル20質量部および2−ヒドロキシエチルメタクリレート60質量部の混合モノマー液と、過硫酸アンモニウム1.6質量部と、イオン交換水23.4質量部との混合液を滴下漏斗を用いて3時間かけて滴下した。滴下終了後も、加熱、攪拌および窒素還流を2時間継続した。その後、加熱および窒素還流を止め、攪拌しながら内容液を30℃まで冷却した。次いで、25質量%アンモニア水113質量部およびイオン交換水887質量部を加えた。20分間攪拌した後、200メッシュのふるいを用いて濾過し、無色透明のカルボキシル基含有樹脂(A)の水溶液を得た。得られたカルボキシル基含有樹脂(A)の水溶液の不揮発分は、10質量%であった。また、カルボキシル基含有樹脂(A)の酸価は、固形分換算で467mgKOH/gであった。カルボキシル基含有樹脂(A)の質量平均分子量は、58000であった。
【0078】
オキサゾリン基含有樹脂(B)は、エポクロスWS−300(B1)(オキサゾリン価:120g solid/eq.、質量平均分子量:120000;株式会社日本触媒)を使用した。塩基性リン酸化合物(C)は、リン酸水素二アンモニウムを使用した。塩基性ジルコニウム化合物(D)は、炭酸ジルコニウムアンモニウムを使用した。各処理液のpHは、アンモニアを滴下して8.5に調整した。
【0079】
表1に、各処理液(有機無機複合処理液、有機処理液または無機処理液)を溶融亜鉛めっき鋼板の表面に塗布したときの、塗布層1mあたりの各成分の含有量を示す。塩基性リン酸化合物(C)および塩基性ジルコニウム化合物(D)の含有量については、蛍光X線解析装置(AXIS−NOVA;株式会社島津製作所)を用いて、各処理液を塗布した溶融亜鉛めっき鋼板における塗布層1mあたりのリン量、ジルコニウム量を測定した。また、樹脂成分の(A)+(B)合計量については、蛍光X線解析装置を用いて、各処理液を塗布した溶融亜鉛めっき鋼板における塗布層1mあたりの炭素量を測定し、換算係数を2倍として炭素量から換算して求めた。
【表1】

【0080】
実施例1、3では、有機無機複合処理層を形成した溶融亜鉛めっき鋼板の表面に膜厚30μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(パイレンフィルムCT、P1128;東洋紡績株式会社)を熱ラミネーション法で積層し、積層体を作製した(表2参照)。具体的には、有機無機複合処理層を形成した溶融亜鉛めっき鋼板を基材温度が100℃になるようにオーブンで加熱した後、その表面に無延伸ポリプロピレンフィルムを加圧ロールにて仮ラミネートし、仮ラミネートした鋼板を160℃のオーブンで60秒間加熱して、積層体を作製した。
【0081】
また、実施例2、4〜11および比較例1〜3では、処理層(有機無機複合処理液、有機処理液または無機処理液)を形成した溶融亜鉛めっき鋼板の表面に、酸変性ポリプロピレンフィルムと上述の無延伸ポリプロピレンフィルムとを2枚重ねて上述の熱ラミネーション法で積層し、積層体を作製した(表2参照)。酸変性ポリプロピレンフィルムは、酸変性ポリプロピレン(モディック、P553A;三菱化学株式会社)をTダイ押し出し機を用いて30μmの厚さで押し出して調製した。
【表2】

【0082】
得られた各積層体(実施例1〜11、比較例1〜3)から試験片(15mm×100mm)を切り出し、JIS K6854−3に準拠して引張り速度300mm/分で密着性試験を行った。無延伸ポリプロピレンフィルム(実施例1、3)または酸変性ポリプロピレンフィルム(実施例2、4〜11および比較例1〜3)の処理層に対する接着強度が15N/15mm以上の場合を「◎」、10N/15mm以上15N/15mm未満の場合を「○」、10N/15mm未満の場合を「×」と評価した。
【0083】
また、得られた各積層体(実施例1〜11、比較例1〜3)から新たに試験片(35mm×35mm)を切り出し、耐電解液試験を行った。まず、密閉可能なテフロン(登録商標)製容器内において、各試験片を85℃の電解液に7日、14日、21日または28日間浸漬した後、各試験片をエタノールで洗浄し、乾燥させた。電解液は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合液(1:1)に6フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1モル/リットルとなるように添加して調製した。次いで、セロハンテープを各試験片のフィルムに貼り付けた後、セロハンテープを剥がして、フィルム密着状態を評価した。セロハンテープ剥離試験後もフィルムが剥離しなかったものを「◎」、セロハンテープ剥離試験前はフィルムが剥離していないが試験後に剥離したものを「○」、電解液への浸漬のみでフィルムが剥離したものを「×」と評価した。
【0084】
密着性試験および耐電解液試験の結果を表3に示す。「−」は、試験継続を断念したことを示す。
【表3】

【0085】
実施例1〜11の積層体は、カルボキシル基含有樹脂(A)、オキサゾリン基含有樹脂(B)および塩基性リン酸化合物(C)を含有する樹脂組成物の硬化物からなる有機無機複合処理層が緻密に形成されているため、フィルム密着性および耐電解液性について良好な評価が得られた。特に、酸変性ポリプロピレンフィルムを含む実施例2、4〜11の積層体は、フィルム密着性および耐電解液性についてより良好な評価が得られた。また、有機無機複合処理層が塩基性ジルコニウム化合物(D)も含有している実施例4〜11の積層体は、有機無機複合処理層の造膜性、バリア性、フィルム密着性がより向上しているため、耐電解液性について良好な評価が得られた。
【0086】
これに対し、比較例1〜3の積層体は、カルボキシル基含有樹脂(A)、オキサゾリン基含有樹脂(B)および塩基性リン酸化合物(C)を含有する樹脂組成物の硬化物からなる有機無機複合処理層が形成されていないため、フィルム密着性および耐電解液性について良好な評価が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の積層体は、熱融着性ポリオレフィン系樹脂層の密着性および耐電解液性が優れているため、電池外装用材として好適に用いられうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面および第2の面を有し、亜鉛めっき層または亜鉛合金めっき層が前記第1の面および前記第2の面に形成されている亜鉛系めっき鋼板と、
前記亜鉛系めっき鋼板の第1の面に形成された、カルボキシル基含有樹脂、オキサゾリン基含有樹脂および塩基性リン酸化合物を含有する樹脂組成物の硬化物からなる有機無機複合処理層と、
前記有機無機複合処理層の表面に形成された、厚みが10〜100μmの熱融着性ポリオレフィン系樹脂層と、
を有する、電池外装用積層体。
【請求項2】
前記有機無機複合処理層は、前記硬化物の樹脂成分を5〜800mg/m含有し、かつ前記硬化物のリン成分をリン換算で0.1〜100mg/m含有する、請求項1に記載の電池外装用積層体。
【請求項3】
前記樹脂組成物における、前記カルボキシル基含有樹脂および前記オキサゾリン基含有樹脂の合計量に対する前記オキサゾリン基含有樹脂の割合は、2.0〜50.0質量%の範囲内である、請求項1または請求項2に記載の電池外装用積層体。
【請求項4】
前記カルボキシル基含有樹脂の酸価は、樹脂固形分換算で300mgKOH/g以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電池外装用積層体。
【請求項5】
前記樹脂組成物は、塩基性ジルコニウム化合物をさらに含有し、
前記有機無機複合処理層は、前記硬化物のジルコニウム成分をジルコニウム換算で0.5〜60mg/m含有する、
請求項1〜4のいずれか一項に記載の電池外装用積層体。
【請求項6】
前記有機無機複合処理層と前記熱融着性ポリオレフィン系樹脂層との間に、厚みが10〜100μmの酸変性ポリオレフィン系樹脂層をさらに有する、請求項1に記載の電池外装用積層体。
【請求項7】
前記亜鉛系めっき鋼板の板厚は、20〜600μmの範囲内である、請求項1に記載の電池外装用積層体。
【請求項8】
前記亜鉛系めっき鋼板の第2の面に形成された樹脂層をさらに有する、請求項1に記載の電池外装用積層体。
【請求項9】
請求項1に記載の電池外装用積層体の成形品を熱融着して形成されたケースを有する二次電池。

【公開番号】特開2012−212511(P2012−212511A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76315(P2011−76315)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】