説明

電池容器用めっき鋼板、その電池容器用めっき鋼板を用いた電池容器、およびその電池容器を用いた電池、ならびに電池容器用めっき鋼板の製造方法

【課題】 電池性能の向上を保持しつつ、電池性能の向上に伴うガス発生による漏液性を低減させることが可能な電池容器用めっき鋼板、その電池容器用めっき鋼板を用いた電池容器、およびその電池容器を用いた電池、ならびに電池容器用めっき鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】 鋼板の電池容器内面となる側にニッケルめっき層を介して、または鋼板上に直接ニッケル−チタン合金めっきを施し、次いでその上に錫めっきを施した後、熱処理を施すことにより、最表面にチタン、ニッケル、錫を含む金属層を形成させて電池容器用めっき鋼板とし、それを電池容器に成形加工して電池に適用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池容器用めっき鋼板、その電池容器用めっき鋼板を用いた電池容器およびその電池容器を用いた電池、ならびに電池容器用めっき鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラ、CDプレーヤー、MDプレーヤー、液晶テレビ、ゲーム機器など、携帯用AV機器や携帯電話の発展とともに、重負荷の作動電源として一次電池であるアルカリ電池、二次電池であるニッケル水素電池、リチウムイオン電池などが多用されている。これらの電池においては、高出力化および長寿命化など、高性能化が求められており、正極および負極活物質を充填する電池容器も電池の重要な構成要素としての性能の向上が求められている。従来、これらの電池容器材料としては、強アルカリ性の電解液に対する耐食性と、電池容器内表面と正極合剤との界面における低接触抵抗の保持を可能とするため、予め冷延鋼板にニッケルめっきを施したニッケルめっき鋼板を電池容器に成形加工したもの、もしくは冷延鋼板を電池容器に成形加工した後、電池容器内外表面をバレルめっき法によりニッケルめっきしたものが用いられている。またニッケルめっき鋼板としては、ニッケルめっき層と鋼素地との密着性を向上し、成形加工時の鉄露出を抑制するため、ニッケルめっき後に、熱処理を施して鋼素地とニッケルめっき層の間に鉄−ニッケル合金層(拡散層)を設けた熱拡散処理の方法が採られているが、熱処理による拡散層を形成させる際に最表層にニッケル層が残存する場合は、ニッケル層の表面に強固な酸化皮膜が存在するようになり、接触抵抗を阻害するため、ニッケル層を全て鉄−ニッケル合金層(拡散層)に変換させる方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。また、電池容器内面となる面に有機光沢剤を添加した硬質の光沢ニッケルめっきを施すことにより、プレス成形時に楔形の割れを生じさせて、正極合剤や密着性を高めて接触面積を大きくして電池の内部抵抗を減少させる方法が提案している(例えば特許文献2参照)。さらに、本発明者らは、ニッケル層または鉄−ニッケル合金層(拡散層)の上に、ニッケル−錫合金層を生成させた鋼板を用いることにより、電池容器に成形加工する際に細かいひび割れを生じさせて電池容器内面に凹凸面を構成し、正極合剤や導電性被膜との接触面積を大きくして電池の内部抵抗を減少させる方法を提案している(例えば特許文献3参照)。
【0003】
絞り加工や絞りしごき加工を施して電池容器に成形加工する際に電池容器内面側のめっき層に割れが生じた場合、鋼素地が局所的に露出する。鋼素地が露出すると、露出部は直接強アルカリ性の電解液に接するようになり、鋼板素地近傍においては鉄よりも貴な金属であるニッケルめっき層のニッケル、活物質の二酸化マンガン、酸素が存在するために鉄の溶解が生じる。溶出した鉄イオンが亜鉛からなる負極へ移行すると、その亜鉛との反応により水素ガスが発生するようになる。このようにして生じたガスは電池内圧を上昇させて漏液発生の原因となる。また、ニッケルめっき層の厚さが薄いほど電池性能が良好であることが知られているが、その反面鋼素地の露出度合が大きくなり、ガス発生による漏液性が増大するという問題が生じる。また、特許文献2や特許文献3に記載されているように、めっき皮膜を硬質化させた場合、放電特性が向上する反面、電池容器に成形加工する際に鋼素地に達する割れを誘起させて、よりガス発生が増大する恐れが大きくなる。
【0004】
本出願に関する先行技術文献情報として次のものがある。
【特許文献1】特開平08−017406号公報
【特許文献2】特許公報 第2810257号公報
【特許文献3】特許公報 第2877957号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明においては、ニッケルめっき鋼板のめっき厚さを低減して電池特性を向上する方法や、硬質めっき層やめっき後に熱処理してめっき皮膜を硬質化させて電池容器に成形加工する際に微小クラックを生じせしめて正極活物質との密着性を高めて電池性能の向上を図る方法などの従来の方法において、電池性能の向上を保持しつつ、これらの方法に付随するガス発生による漏液性を低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的を達成するため、本発明の電池容器用めっき鋼板は、鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上にチタン、ニッケル、錫を含む金属層が形成されてなることを特徴とする電池容器用めっき鋼板(請求項1)であり、
上記(請求項1)の電池容器用めっき鋼板において、鋼板の電池容器内面となる側の鋼板側から順に鉄−ニッケル−チタン合金層、ニッケル−チタン−錫合金層が形成されてなること(請求項2)、または
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板側から順に鉄−ニッケル−チタン合金層、鉄−ニッケル−チタン−錫合金層が形成されてなること(請求項3)、または
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板側から順に鉄−ニッケル−チタン合金層、ニッケル−チタン合金層、ニッケル−チタン−錫合金層が形成されてなること(請求項4)、または
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板側から順に鉄−ニッケル合金層、ニッケル層、ニッケル−チタン−錫合金層が形成されてなること(請求項5)、または
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板側から順に鉄−ニッケル合金層、ニッケル−チタン−錫合金層が形成されてなること(請求項6)、または
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板側から順に鉄−ニッケル合金層、鉄−ニッケル−チタン合金層、ニッケル−チタン合金層、ニッケル−チタン−錫合金層が形成されてなること(請求項7)を特徴とする。
【0007】
また、本発明の電池容器は、上記(請求項1〜7)のいずれかの電池容器用めっき鋼板を有底の筒型形状に成形加工してなる電池容器(請求項8)であり、
本発明の電池は、上記(請求項8)の電池容器を用いてなる電池(請求項9)である。
さらに、本発明の電池容器用めっき鋼板の製造方法は、 鋼板の少なくとも電池容器内面となる側に、ニッケル−チタン合金めっきを施し、次いでその上層に錫めっきを施した後に、熱処理を施すことを特徴とする電池容器用めっき鋼板の製造方法(請求項10)、または
鋼板の少なくとも電池容器内面となる側に、ニッケルめっきを施し、次いでその上層にニッケル−チタン合金めっきを施し、さらに次いでその上層に錫めっきを施した後に、熱処理を施すことを特徴とする電池容器用めっき鋼板の製造方法(請求項11)である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電池容器用めっき鋼板は、鋼板の少なくとも電池容器内面となる側にニッケルめっき層を介して、または鋼板上に直接ニッケル−チタン合金めっきを施し、次いでその上に錫めっきを施した後、熱処理を施すことにより、最表面にチタン、ニッケル、錫を含む金属層、すなわちニッケル−チタン−錫合金層を形成させたものである。この金属層は硬質であり、めっき鋼板を電池容器に成形加工する際に微小クラックが生じて正極合剤との密着性が向上することにより、長期保存後においても優れた放電特性が得られる。また、チタンは鉄よりも卑な電位を有しているため、チタンの犠牲溶解により鉄の溶解を抑止することができる。そのため、鋼板素地上のめっき皮膜が薄く、またはめっき層のピンホール、もしくは硬質なめっき層を成形加工した際に微小クラックが発生して鋼素地が露出しても、鉄の溶解による負極からのガス発生が低下して耐漏液性が向上し、電池の放電性能は優れていても耐漏液性が劣る、硬質なニッケルめっき鋼板を電池容器に成形加工する従来方法における問題を解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の内容を説明する。本発明の電池容器用めっき鋼板の基板となる鋼板としては、絞り加工用の低炭素アルミキルド鋼(炭素量0.01〜0.15重量%)、またはニオブやチタンを添加した深絞り加工用の非時効性の極低炭素アルミキルド鋼(炭素量0.01重量%未満)を用いる。これらの鋼の熱間圧延板を酸洗して表面のスケールを除去した後、常法により冷間圧延し、次いで電解洗浄、焼鈍、調質圧延したものを基板として用いる。あるいは、冷間圧延し、次いで電解洗浄した後の未焼鈍材を基板として用いることもできる。
【0010】
まず、めっき基板となる鋼板の電池容器の内面となる片面に、ニッケルめっきを施し、次いでその上にニッケル−チタン合金めっきを施す。または、鋼板上に直接ニッケル−チタン合金めっきを施す。ニッケルめっきを施す場合は、ワット浴を用いて無光沢ニッケルめっきを施すか、またはワット浴に有機添加剤を加えためっき浴を用いて半光沢ニッケルめっきを施すことが好ましい。ニッケルめっきの付着量は2g/mとすることが好ましい。2g/m未満ではピンホールが生じやすく、また電池容器に成形加工する際に生じる疵などにより、鋼素地が過度に露出するようになり、上層にニッケル−チタン合金めっきを施しても、チタンの犠牲溶解による鉄イオンのアルカリ電解液中への溶解を抑止することが困難となる。ニッケルめっき付着量の上限は経済性により適宜定めることができる。ニッケルめっきに引き続き、または鋼板上に直接ニッケル−チタン合金めっきを施す。ニッケル−チタン合金めっき浴としては、チタンのイオン供給源としてフッ化チタンカリウムを用い、これに硫酸ニッケル、および錯化剤としてグリシン等のアミノ酸など有機錯化剤を添加しためっき浴を用いることが好ましい。ニッケル−チタン合金めっきのめっき付着量は0.1〜1.0g/mの範囲とすることが好ましい。0.1g/m未満では、チタンの犠牲溶解による露出した鋼素地の鉄溶解を抑止する効果が小さく、一方1.0g/mを超えても、鉄溶解を抑止する効果が飽和に達して不経済になる。ニッケル−チタン合金めっきにおいては、適用するめっき浴組成、電解条件、浴のpHなどにより、10〜30%のチタン含有率の合金めっき皮膜が得られる。
【0011】
ニッケルめっきを施した後に引き続いて、または鋼板上に直接ニッケル−チタン合金めっきを施した後に錫めっきを施す。錫めっきのめっき付着量は0.5〜5.0g/mの範囲とすることが好ましい。0.5g/m未満では熱処理により形成されるニッケル−チタン−錫合金層の厚さが薄く、電池容器に成形加工する際に微細クラックが十分に生成せず、正極活物質との十分な密着性が得られず、電池放電特性を十分に向上させることができない。一方5.0g/mを超えるとニッケル−チタン−錫合金層の厚さが過度に厚くなり、電池容器に成形加工する際に鋼板素地へ達する微細クラックが過度に生成するようになり、チタンの鉄溶解抑止効果の限界を超えてしまい、電池容器内のガス発生量が多大になり、電解液の耐漏液性が劣るようになる。錫めっき付着量としては、その下層のニッケルめっき付着量との関係において、錫がすべてニッケル−錫金属間化合物(NiSn)の生成で消費されるようなめっき量とすることが好ましい。
【0012】
ニッケル−チタン合金めっきを施し、次いで錫めっきを施した後、熱処理を施して最表面にニッケル−チタン−錫合金層を形成させる。その熱処理条件としては、箱型焼鈍法を用いる場合は加熱温度500〜600℃、加熱時間4〜12時間、連続焼鈍法を用いる場合は加熱温度650〜800℃、加熱時間1〜5分の範囲とすることが好ましい。その熱処理条件を選択するにあたっては、錫がすべてニッケル−錫金属間化合物(NiSn)に変換する条件とする。錫リッチなニッケル−錫金属間化合物(NiSn、NiSn)が生成する条件では、錫がアルカリ電解液に溶出して電池性能の劣化をきたすので好ましくない。
【0013】
上記のようにして、鋼板上にニッケルめっきを施した後に引き続いて、または鋼板上に直接ニッケル−チタン合金めっき施し、次いで錫めっきを施した後に熱処理を施すことにより、図1〜図6に示すような層構成を有する電池容器用めっき鋼板が得られる。
【0014】
本発明の電池容器は、上記の電池容器用めっき鋼板を、絞り加工法、絞りしごき加工法(DI加工法)、絞りストレッチ加工法(DTR加工法)、または絞り加工後ストレッチ加工としごき加工を併用する加工法を用いて、有底の筒型形状に成形加工して得られる。筒型形状としては、底面が円、楕円、または長方形や正方形などの多角形の形状であり、用途に応じて側壁の高さを適宜選択した筒型形状に成形加工する。このようにして得られる電池容器に正極合剤、負極活物質等を充填して電池とする。
【実施例】
【0015】
以下、実施例にて本発明を詳細に説明する。
[電池容器用めっき鋼板の作成]
【0016】
【表1】

【0017】
上記のIまたはIIの鋼種の熱間圧延板に、常法により冷間圧延、電解洗浄を施して0.25mmの板厚を有する冷間圧延板とした後、鋼種Iの場合は箱型焼鈍法を用いて均熱温度640〜680℃で均熱時間8時間の焼鈍を施した焼鈍板に、下記に示す各種のめっきを施し、そのまま用いるか、またはめっき後に箱型焼鈍法を用いて500〜550℃、過熱時間6〜8時間の熱処理を施した。鋼種IIの場合は電解洗浄を施したままの未焼鈍板に下記に示す各種のめっきを施した後、連続焼鈍炉法により加熱温度750℃、加熱時間2分の熱処理を施した。このようにして、下記のイ)〜ト)に示す工程を経て電池容器用めっき鋼板を作成した。
イ)低炭素アルミキルド鋼(I)→冷間圧延→電解洗浄→焼鈍(箱型焼鈍法)→調質圧延→ニッケルめっき(内、外面側)→ニッケル−チタン合金めっき(内面側)→錫めっき(内面側)→熱処理(箱型焼鈍法)→調質圧延
ロ)低炭素アルミキルド鋼(I)→冷間圧延→電解洗浄→焼鈍(箱型焼鈍法)→調質圧延→ニッケルめっき(外面)→ニッケル−チタン合金めっき(内面側)→錫めっき(内面側)→熱処理(箱型焼鈍法)→調質圧延
ハ)極低炭素アルミキルド鋼(II)→冷間圧延→電解洗浄→ニッケルめっき(内、外面側)→ニッケル−チタン合金めっき(内面側)→錫めっき(内面側)→熱処理(連続焼鈍法)→調質圧延
ニ)低炭素アルミキルド鋼(I)→冷間圧延→電解洗浄→焼鈍(箱型焼鈍法)→調質圧延→ニッケルめっき(内、外面側)→錫めっき(内面側)→熱処理(箱型焼鈍法)→調質圧延
ホ)低炭素アルミキルド鋼(I)→冷間圧延→電解洗浄→焼鈍(箱型焼鈍法)→調質圧延→ニッケルめっき(内、外面側)→熱処理(箱型焼鈍法)→調質圧延
ヘ)低炭素アルミキルド鋼(I)→冷間圧延→電解洗浄→焼鈍(箱型焼鈍法)→調質圧延→ニッケルめっき(内、外面側)
ト)極低炭素アルミキルド鋼(II)→冷間圧延→電解洗浄→ニッケルめっき(内、外面側)→錫めっき(内面側)→熱処理(連続焼鈍法)→調質圧延
上記イ)〜ト)の工程における各めっき処理は以下に示す条件で行なった。
【0018】
<ニッケルめっき>
浴組成 硫酸ニッケル 300g/L
塩化ニッケル 35g/L
ホウ酸 40g/L
ビット抑制剤(ラウリル硫酸ナトリウム) 0.4mL/L
陽極 ニッケルベレット(チタンバスケットにINCO(株)製Sペレッをト充填
しポリプロピレン製アノードバッグを装着)
攪拌 空気撹拝
pH 4.0〜4.6
浴温 55〜60℃
電流密度 10A/dm
【0019】
<ニッケル−チタン合金めっき>
浴組成 硫酸ニッケル 8g/L
フッ化チタンカリウム 24g/L
L−グルタミン酸 8g/L
グリシン 10g/L
陽極 ニッケルベレット(チタンバスケットにINCO(株)製Sペレッをト充填
しポリプロピレン製アノードバッグを装着)
攪拌 空気撹拝
pH 5.0〜5.5
浴温 55〜60℃
電流密度 5A/dm
【0020】
<錫めっき>
浴組成 硫酸第一錫 30g/L
フェノールスルホン酸 60g/L
エトキシ化α−ナフトール 5g/L
陽極 錫板
撹拝 めっき浴の循環
浴温 45〜50℃
電流密度 5A/dm
【0021】
上記のめっきを施した後、還元性保護ガスの雰囲気内で箱型焼鈍法もしくは連続焼鈍法を用いて熱処理を行い、めっき層の熱拡散合金化処理を施した。また、熱処理後に圧延率1.2%で調質圧延を行った。以上のようにして表2及び表3に示す電池容器用めっき鋼板の試料(試料番号1〜10)を作成した。
【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
[電池容器の作成]
これらの試料番号1〜10の試料から57mm径でブランクを打ち抜いた後、10段の絞り加工により、外径13.8mm、高さ49.3mmの円筒形のLR6型電池(単三型電池)容器に成形加工した。
【0025】
[電池の作成]
この電池容器用めっき鋼板を用いて、以下のようにしてアルカリマンガン電池を作成した。二酸化マンガンと黒鉛を10:1の比率で採取し、水酸化カリウム(10モル)を添加混合して正極合剤を作成した。次いでこの正極合剤を金型中で加圧して所定寸法のドーナツ形状の正極合剤ベレットに成形した。次いで電池容器の内面には黒鉛粉末を主剤とした導電物質を内面に塗布した。電池容器に先に作製した正極合剤ベレットを圧挿入した。次に、負極集電棒をスポット溶接した負極板を電池容器に装着した。次いで、電池容器に圧挿入した正極合剤ベレットの内周に沿うようにしてビニロン製織布からなるセパレータを挿入し、亜鉛粒と酸化亜鉛を飽和させた水酸化カリウムからなる負極ゲルを電池容器内に充填した。さらに、負極板に絶縁体のガスケットを装着して電池容器内に挿入した後、カシメ加工してアルカリマンガン電池を作成した。
【0026】
[特性評価]
以上のようにして試料番号1〜10の試料から作成した電池容器を用いて作成した電池の特性を、以下のようにして評価した。
【0027】
<短絡電流>
電池を80℃で3日間放置した後、電池に電流計を接続して閉回路を設けて電流値を測定し、これを短絡電流とした。短絡電流が大であるほど特性が良好であることを示す。
【0028】
<放電特性>
電池を80℃で3日間放置した後、作製した電池を1.5Aの一定電流に放電し、終止電圧0.9Vに到達するまでの時間を放電時間として測定した。放電時間が長いほど放電特性が良好であることを示す。
【0029】
<間歇放電特性>
重付加間歌放電の評価として、2Aで0.5秒放電した後に0.25Aで29.5秒放電する操作を1サイクルとして、間歇放電を繰り返し、終始電圧が1.0Vに到達するまでのサイクル数を測定した。サイクル数が多いほど間歌放電特性が良好であることを示す。これらの評価結果を表4に示す。
【0030】
<漏液性評価>
電池作成後、90℃、RH60%の恒温恒湿の雰囲気中に挿入し、5、10、15、20日経時後の電解液の漏液発生率(%)を求めた。これらの評価結果を表4に示す。
【0031】
【表4】

【0032】
表4に示すように、本発明の電池容器用めっき鋼板は電池容器内面となる側にニッケル−チタン合金めっきを施した後に錫めっきを施し、次いで熱処理したものであり、従来法によるニッケルめっき鋼板およびニッケルめっき後に熱処理したものに比べて短絡電流、放電特性、間歇放電特性のいずれにもおいても同等もしくは同等以上の特性を示す。耐耐漏液性については、従来法によるニッケルめっきを施した後に錫めっきを施し、次いで熱処理したものは不良であるが、本発明の電池容器用めっき鋼板は従来法によるニッケルめっき鋼板およびニッケルめっき後に熱処理したものと同等の良好な耐漏液性を示す。すなわち、本発明の電池容器用めっき鋼板は従来法による電池特性に優れる電池容器用めっき鋼板と同等以上の電池特性を有し、かつ従来法による耐耐漏液性に優れる電池容器用めっき鋼板と同等の耐耐漏液性を有している。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の電池容器用めっき鋼板は、電池容器内面となる側にニッケル−チタン合金めっきを施した後、に錫めっきを施し、次いで熱処理を施してめっき層を熱拡散合金化することにより、最表面にチタン、ニッケル、錫を含む金属層を形成したものである。この金属層を生成させることにより、電池容器に成形加工する際に微小クラックが生じ、正極合剤との密着性が向上して優れた放電特性が得られる。また、この金属層にチタンが含有しているため、チタンの鉄に対する犠牲溶解的な作用により鉄の溶解によるガス発生が抑制される結果、耐漏液性も向上する。この結果、耐漏液性を劣化させることなく、放電性能を向上させた電池容器用めっき鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の電池容器用めっき鋼板の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の電池容器用めっき鋼板の他の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の電池容器用めっき鋼板の他の一例を示す概略断面図である。
【図4】本発明の電池容器用めっき鋼板の他の一例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の電池容器用めっき鋼板の他の一例を示す概略断面図である。
【図6】本発明の電池容器用めっき鋼板の他の一例を示す概略断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上にチタン、ニッケル、錫を含む金属層が形成されてなることを特徴とする電池容器用めっき鋼板。
【請求項2】
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板側から順に鉄−ニッケル−チタン合金層、ニッケル−チタン−錫合金層が形成されてなることを特徴とする、請求項1に記載の電池容器用めっき鋼板。
【請求項3】
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板側から順に鉄−ニッケル−チタン合金層、鉄−ニッケル−チタン−錫合金層が形成されてなることを特徴とする、請求項1に記載の電池容器用めっき鋼板。
【請求項4】
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板側から順に鉄−ニッケル−チタン合金層、ニッケル−チタン合金層、ニッケル−チタン−錫合金層が形成されてなることを特徴とする、請求項1に記載の電池容器用めっき鋼板。
【請求項5】
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板側から順に鉄−ニッケル合金層、ニッケル層、ニッケル−チタン−錫合金層が形成されてなることを特徴とする、請求項1に記載の電池容器用めっき鋼板。
【請求項6】
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板側から順に鉄−ニッケル合金層、ニッケル−チタン−錫合金層が形成されてなることを特徴とする、請求項1に記載の電池容器用めっき鋼板。
【請求項7】
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板側から順に鉄−ニッケル合金層、鉄−ニッケル−チタン合金層、ニッケル−チタン合金層、ニッケル−チタン−錫合金層が形成されてなることを特徴とする、請求項1に記載の電池容器用めっき鋼板。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の電池容器用めっき鋼板を有底の筒型形状に成形加工してなる電池容器。
【請求項9】
請求項8に記載の電池容器を用いてなる電池。
【請求項10】
鋼板の少なくとも電池容器内面となる側に、ニッケル−チタン合金めっきを施し、次いでその上層に錫めっきを施した後に、熱処理を施すことを特徴とする電池容器用めっき鋼板の製造方法。
【請求項11】
鋼板の少なくとも電池容器内面となる側に、ニッケルめっきを施し、次いでその上層にニッケル−チタン合金めっきを施し、さらに次いでその上層に錫めっきを施した後に、熱処理を施すことを特徴とする電池容器用めっき鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−5157(P2007−5157A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−184624(P2005−184624)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】