説明

電池用電極およびその製造方法

【課題】高出力条件下において用いられうる電池用電極において、活物質層におけるリチウムイオンの伝導を充分に確保しうる手段を提供する。
【解決手段】集電体と、前記集電体の表面に形成された、活物質を含む活物質層と、を有する電池用電極において、活物質層に、当該活物質層の他の部位と比較して厚さの小さい薄部を存在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用電極に関する。特に本発明は、電池用電極の出力特性を向上させるための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気汚染や地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、全ての電池の中で最も高い理論エネルギーを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。リチウムイオン二次電池は、一般に、バインダを用いて正極活物質等を正極集電体の両面に塗布した正極と、バインダを用いて負極活物質等を負極集電体の両面に塗布した負極とが、電解質層を介して接続され、電池ケースに収納される構成を有している(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−7345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、電池に対する高性能化の要求に呼応して、より高い出力での充放電が可能な電池の開発が盛んに行われている。その一環として、電極活物質の粒子径をより小さくすることで、反応に寄与しうる活物質の表面積を増大させる試みがなされている。
【0006】
しかしながら、活物質の粒子径を小さくし過ぎると、電解質層に存在するリチウムイオンの活物質への伝導が充分に行われない虞がある。すなわち、活物質の粒子径を小さくし過ぎると、活物質層中の活物質どうしが充分に接触できないため、活物質層における電子伝導が充分に行われない。この問題を解消するためには、導電助剤の添加量を増加させるのが一般的である。導電助剤の添加量を増加させると、活物質層における電子伝導は確保される。しかしながら、導電助剤の添加量の増加によって、電極中の活物質の割合が減少し、出力が低下する虞がある。また、現在では電池の出力密度を向上させるという観点から、活物質どうしの接触、または活物質と集電体との接触を向上させる目的で電極をプレスする場合があるが、かようなプレス処理によって活物質層の密度を一律に大きくすると、リチウムイオンの伝導経路が充分に確保されないという問題が生じる虞がある。
【0007】
このように、高出力条件下において用いられうる電池用電極の活物質層において、リチウムイオンの伝導を充分に確保することが求められているのが現状である。なお、より一層の高出力化を念頭に開発が進められているバイポーラ電池において、上記のような問題は顕著である。
【0008】
そこで本発明は、高出力条件下において用いられうる電池用電極において、活物質層におけるリチウムイオンの伝導を充分に確保しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った。そしてその際に、電極の活物質層の厚さを様々に制御することを試みた。その結果、電極の活物質層において、厚さの厚い部位と薄い部位とを存在させることで、上記の問題の解決が図られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明は、集電体と、前記集電体の表面に形成された、活物質を含む活物質層と、を有する電池用電極であって、前記活物質層において、当該活物質層の他の部位と比較して厚さの小さい薄部が存在することを特徴とする、電池用電極である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電池用電極の活物質層には、当該活物質層の他の部位と比較して厚さの小さい薄部が存在する。かような薄部の存在によって、リチウムイオン伝導が充分に確保されうる。従って、本発明の電極は、電池の出力特性の向上に有効に寄与しうる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の電池用電極の一実施形態(第1実施形態)を示す概略断面図である。
【図2】第2実施形態のバイポーラ電池の好ましい一実施形態を示す断面図である。
【図3】第3実施形態の組電池を示す斜視図である。
【図4】第3実施形態の組電池を搭載する第4実施形態の自動車の概略図である。
【図5】バイポーラ型でないリチウムイオン二次電池の概要を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、下記の形態のみに制限されることはない。
【0014】
(第1実施形態)
(構成)
本発明の第1は、集電体と、前記集電体の表面に形成された、活物質を含む活物質層と、を有する電池用電極であって、前記活物質層において、当該活物質層の他の部位と比較して厚さの小さい薄部が存在することを特徴とする、電池用電極である。
【0015】
なお、本発明の電極に類似の構造を有する電極として、集電体上に、Liと合金化する金属またはこの金属を含有する合金からなる薄膜が所定パターンで選択的に形成されてなる微細パターン化薄膜電極が提案されている(特開2004−127561号公報を参照)。この特許文献には、電極の製造方法として、フォトリソグラフィ法を用いる手法が開示されている。かようなパターン化薄膜電極は、特に電池の負極に用いられると、電池の充電時において、薄膜が形成されていない空隙が活物質である合金の膨張代として作用し、活物質の膨張に伴う活物質でのクラックの発生が有効に防止されうる。従って、前記文献2には、パターンどうしの間隔は可及的に大きいほど好ましい旨が記載されている。
【0016】
しかしながら、上記の特許文献に記載のパターン化薄膜電極は、Liと合金化する金属またはこの金属を含有する合金からなる薄膜に限ったものであり、カーボン系材料を負極として用いる場合は使えない上、粒子径も比較的大きな活物質を対象としている。粒子径が大きいと反応表面積が小さいため、高出力電池には不向きである。
【0017】
以下、本発明の電池用電極の構造について、図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、本発明の電池用電極の一実施形態を示す概略断面図である。図1に示す形態の電池用電極は、集電体11の一方の面に正極活物質3を主成分とする正極活物質層13が形成され、他方の面に負極活物質5を主成分とする負極活物質層15が形成されてなるバイポーラ電極1である。なお、後述するように活物質層(13,15)には他の成分もまた含有されうるが、図1においては図示を省略している。
【0019】
本実施形態において、正極活物質層13および負極活物質層15はともに、活物質層の他の部位と比較して厚さの小さい薄部を有する。具体的には、前記薄部には、チャネル(13'、15')が存在する。そして当該チャネル(13'、15')は、活物質層(13、15)の厚さ方向と同一の方向に存在している。なお、本発明においては、説明の都合上、図面が誇張されており、本発明の技術的範囲は、図面に掲示する形態に限定されない。また、図面以外の実施形態も採用されうる。例えば、正極または負極の少なくとも一方にチャネルが存在する形態もまた、採用されうる。また、図1においては、活物質層(13、15)においてそれぞれ3本ずつしかチャネル(13'、15')が存在していないが、本来は無数のチャネルが存在する。
【0020】
均一な厚さを有する従来の電池用電極においては、活物質の粒子径の減少に伴って添加される導電助剤の影響や、電極作製時に施されるプレス処理などによって、図1の破線に示すように、活物質層におけるリチウムイオンの伝導が(特に活物質層の集電体に近い側に位置する活物質に対して)充分に確保されず、充分な出力特性が得られないという問題があった。
【0021】
これに対し、本発明では、図1に示すような構成とすることにより、チャネル(13'、15')部位において電解質層からのリチウムイオン伝導が充分に確保されうる(図1の実線)。
【0022】
図1に示す形態においては、上述したように、活物質層(13、15)の厚さ方向と同一の方向に、チャネル(13'、15')が存在する。ただし、かような形態のみに制限されず、チャネル(13'、15')の方向は、活物質層(13、15)の厚さ方向と略同一の方向であればよい。なお、「略同一の方向である」とは、チャネル(13'、15')の方向が、本発明の作用効果が得られる程度に傾斜していてもよいことを意味する。具体的には、チャネル(13'、15')の方向が、活物質層(13、15)の厚さ方向に対して、20°程度傾斜していてもよいと考えられる。なお、かようなチャネル(13'、15')の存在やその角度、後述するチャネルの形状やそのサイズなどについては、電子顕微鏡を用いた断面観察により、確認されうる。その他の手法により確認されてもよい。例えば、集束イオンビーム(FIB)装置を用いた断面観察が用いられてもよい。
【0023】
本発明の電極において、チャネル(13'、15')が存在する形態は特に制限されない。チャネル(13'、15')は、不規則に存在してもよいし、規則的に存在してもよい。本発明の好ましい形態においては、チャネル(13'、15')は、規則的かつ周期的に存在する。なお、「規則的かつ周期的に存在する」とは、チャネル(13'、15')がある規則に従って存在し、さらにその規則が繰り返されることを意味する。なお、かような形態において、チャネルが存在する具体的な形状は特に制限されないが、例えば、千鳥配列や碁盤配列などの形状が例示されうる。
【0024】
隣接するチャネルの間隔の具体的な値についても特に制限されないが、隣接するチャネル(13'、15')の隣接平均間隔は、好ましくは、活物質層(13、15)の厚さ(図1に示す「Y」)の5倍以下であり、より好ましくは2倍以下であり、さらに好ましくは1倍以下であり、特に好ましくは0.5倍以下である。これは、チャネルの隣接平均間隔が大きすぎると、リチウムイオンが伝導すべき活物質層の平面方向の距離が長くなってしまい、チャネルを設けた意義が失われてしまう虞があるためである。一方、チャネル(13'、15')の隣接平均間隔の下限値は特に制限されないが、製造が容易であるという観点からは、活物質層(13、15)の厚さの0.1倍以上とするとよい。なお、「チャネルの隣接平均間隔」とは、チャネルの隣接間隔(図1に示す「X」)の平均値であり、電子顕微鏡写真を用いた活物質層の平面に垂直な方向の写真の一定の視野中に存在する隣接間隔をそれぞれ測定し、その相加平均を算出することにより得られる。
【0025】
活物質層(13、15)に存在する個々のチャネル(13'、15')の形状およびサイズも特に制限されず、形状については、活物質層の平面方向に垂直な方向から見た形状が、例えば、円状、正方形状、長方形状、三角形状、菱形状、星形状などのいずれの形状であってもよい。場合によっては、その他の形状のチャネルが存在してもよい。チャネルのサイズも特に制限されず、活物質層の厚さやチャネル間の間隔などに応じて、適宜設定されうる。
【0026】
活物質層(13、15)に存在するチャネル(13'、15')の合計体積についても特に制限されることはないが、活物質層(13、15)の全体積に対して、好ましくは1%以上であり、より好ましくは2%以上であり、さらに好ましくは3%以上であり、特に好ましくは4%以上である。これは、チャネルの合計体積が少なすぎると、上記と同様に、リチウムイオンが伝導すべき活物質層の平面方向の距離が長くなってしまい、チャネルを設けた意義が失われてしまう虞があるためである。一方、チャネルの合計体積の上限値は特に制限されないが、単位体積当たりの容量の低下を防止するという観点からは、活物質層の全体積の50%以下とするとよい。
【0027】
本発明の電池用電極は、例えば、バイポーラ型のリチウムイオン二次電池(以下、単に「バイポーラ電池」とも称する)に採用されうる。その他の電池に採用されても、勿論よい。
【0028】
以下、リチウムイオン二次電池に採用される場合を例に挙げて、本発明の電池用電極の構成について説明する。本発明の電池用電極は、活物質層において、活物質層の他の部位と比較して厚さの小さい薄部が存在する点に特徴を有する。本発明の電池用電極において、好ましくは、図1に示すようなチャネル(13'、15')が存在する。集電体、活物質、バインダ、支持塩(リチウム塩)、イオン伝導性ポリマー、その他必要に応じて添加される化合物の選択について、特に制限はない。使用用途に応じて、従来公知の知見を適宜参照することにより、選択すればよい。また、本発明の電池用電極は、正極および負極の双方に適用可能であるが、例えば正極に適用する場合には、集電体および活物質として、正極用の集電体および正極活物質として作用することが知られている化合物を採用すればよい。
【0029】
[集電体]
集電体11は、アルミニウム箔、ニッケル箔、銅箔、ステンレス(SUS)箔など、導電性の材料から構成される。集電体の一般的な厚さは、1〜30μmである。ただし、この範囲を外れる厚さの集電体を用いてもよい。
【0030】
集電体の大きさは、電池の使用用途に応じて決定される。大型の電池に用いられる大型の電極を作製するのであれば、面積の大きな集電体が用いられる。小型の電極を作製するのであれば、面積の小さな集電体が用いられる。
【0031】
[活物質層]
集電体11には、活物質層(13、15)が形成される。活物質層(13、15)は、充放電反応の中心を担う活物質を含む層である。本発明の電極が正極として用いられる場合、活物質層は正極活物質を含む。一方、本発明の電極が負極として用いられる場合、活物質層は負極活物質を含む。
【0032】
正極活物質としては、リチウム−遷移金属複合酸化物が好ましく、例えば、LiMn2O4などのLi−Mn系複合酸化物やLiNiO2などのLi−Ni系複合酸化物が挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。
【0033】
負極活物質としては、上記のリチウム遷移金属−複合酸化物や、カーボンが好ましい。カーボンとしては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛等の黒鉛系炭素材料、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、コークス、ソフトカーボン、ハードカーボン等が挙げられる。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。
【0034】
活物質の平均粒子径は特に制限されない。ただし、この平均粒子径が大きすぎると、活物質の反応表面積が小さくなって高出力化が困難となったり、活物質の粒子の内部におけるリチウムイオン伝導が活物質層におけるリチウムイオン伝導を律速してしまうことになり、本発明の作用効果が充分に得られない虞がある。かような観点から、活物質の平均粒子径は、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは5μm以下であり、さらに好ましくは2μm以下であり、特に好ましくは1μm以下である。ただし、これらの範囲を外れる形態もまた、採用されうる。なお、本願において活物質の平均粒子径は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定された値を採用するものとする。
【0035】
活物質層(13、15)には、必要であれば、その他の物質が含まれてもよい。例えば、バインダ、導電助剤、支持塩(リチウム塩)、イオン伝導性ポリマー等が含まれうる。また、イオン伝導性ポリマーが含まれる場合には、前記ポリマーを重合させるための重合開始剤が含まれてもよい。
【0036】
バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、合成ゴム系バインダ等が挙げられる。
【0037】
導電助剤とは、活物質層の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、グラファイトやカーボンブラックなどのカーボン粉末や、気相成長炭素繊維(VGCF)等の種々の炭素繊維などが挙げられる。
【0038】
活物質層(13、15)に含まれる成分の配合比は、特に限定されない。配合比は、リチウムイオン二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。
【0039】
(製造方法)
本発明の第2は、電池用電極の製造方法に関する。すなわち、本発明の第2は、集電体を準備する集電体準備工程と、活物質を含む活物質スラリーを調製する活物質スラリー調製工程と、前記集電体の表面に前記活物質スラリーを塗布して、塗膜を形成する塗膜形成工程と、前記塗膜の厚さ方向と略同一の方向にチャネルを形成するチャネル形成工程と、を有する、電池用電極の製造方法である。かような製造方法によれば、本発明の第1の電池用電極が製造可能である。以下、工程順に詳細に説明するが、下記の形態のみには制限されない。
【0040】
[集電体準備工程]
本工程においては、集電体を準備する。準備する集電体の具体的な形態については、上記の本発明の電極の構成の欄において説明した通りであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0041】
[活物質スラリー調製工程]
本工程においては、所望の活物質、バインダ、および必要に応じて他の成分(例えば、導電助剤など)を、溶媒中で混合して、活物質スラリーを調製する。この活物質スラリー中に配合される各成分の具体的な形態については、上記の本発明の電極の構成の欄において説明した通りであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0042】
溶媒の種類や混合手段は特に制限されず、電極製造について従来公知の知見が適宜参照されうる。溶媒の一例を挙げると、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミドなどが用いられうる。バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を採用する場合には、NMPを溶媒として用いるとよい。
【0043】
本工程において調製される活物質スラリー中に含まれる各成分の配合比についても特に制限はなく、電池の製造分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0044】
[塗膜形成工程]
続いて、上記で調製した活物質スラリーを、同じく上記で準備した集電体の表面に塗布する。これにより、集電体の表面に活物質スラリーからなる塗膜が形成される。この塗膜は最終的には乾燥し、さらに後述するチャネル形成工程においてチャネルが形成され、活物質層となる。
【0045】
活物質スラリーを塗布するための塗布手段も特に限定されない。例えば、コーターなどの一般的に用いられている手段が採用されうる。
【0046】
塗膜は、製造される電極における集電体と活物質層との所望の配置形態に応じて、形成される。例えば、製造される電極がバイポーラ電極の場合、集電体の一方の面には正極活物質を含む塗膜が形成され、他方の面には負極活物質を含む塗膜が形成される。これに対し、バイポーラ型でない電極を製造する場合には、正極活物質または負極活物質のいずれか一方を含む塗膜が1枚の集電体の両面に形成される。
【0047】
[チャネル形成工程]
その後、上記で形成された塗膜に対して、チャネルを形成する。これにより、電池用電極(例えば、図1に示す本発明の第1の電池用電極)が完成する。
【0048】
本工程においてチャネルを形成する手法は特に制限されない。本工程は、例えば、上記で形成された塗膜に対してモールド(型)を積層してプレスする工程(モールドプレス工程)と、塗膜を乾燥させる工程(乾燥工程)と、前記モールドを除去する工程(モールド除去工程)とからなる。
【0049】
まず、上記で形成された塗膜に対してモールドを積層する。ここで用いられるモールドの具体的な形態については特に制限はなく、形成を希望するチャネルの形状やサイズに対応するパターンを有するモールドが適宜使用されうる。
【0050】
モールドについては、商品が市販されている場合には当該商品を購入したものを用いてもよいし、自ら作製したものを用いてもよい。モールドを自ら作製する手法としては、例えばナノインプリンティング法が挙げられる。「ナノインプリンティング法」とは、型を樹脂に押し込むことで微細構造を転写する技術であり、大きく熱ナノインプリンティング法と光ナノインプリンティング法とに大別される。ナノインプリンティング法は広く知られた手法であるため、ここでは詳細な説明を省略するが、当該手法を採用することにより、所望のチャネルの形状やサイズに対応したナノレベルの極めて微細なモールドが作製されうる。
【0051】
モールドの積層後、塗膜とモールドとの積層体を積層方向にプレスする。これにより、モールドの有するパターンが塗膜に転写され、チャネルが塗膜に形成されうる。プレス時の圧力は特に制限されず、適宜設定されうる。
【0052】
その後、チャネルが形成された塗膜を乾燥させる。これにより、塗膜中の溶媒が除去され、塗膜がチャネルを有する形状に固化する。
【0053】
塗膜を乾燥させるための乾燥手段も特に制限されず、電池の製造分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、熱処理が例示される。乾燥条件(乾燥時間、乾燥温度など)は、活物質スラリーの塗布量やスラリーの溶媒の揮発速度に応じて適宜設定されうる。乾燥を目的とした熱処理の一例を挙げると、110〜130℃程度の温度で1〜5分間程度の熱処理が例示される。
【0054】
塗膜が重合開始剤を含む場合には、さらに重合工程を行うことで、塗膜中のイオン伝導性ポリマーが架橋性基によって架橋される。
【0055】
重合工程における重合処理も特に制限されることはなく、従来公知の知見を適宜参照すればよい。例えば、塗膜が熱重合開始剤(AIBNなど)を含む場合には、塗膜に熱処理を施す。また、塗膜が光重合開始剤(BDKなど)を含む場合には、紫外光などの光を照射する。なお、熱重合のための熱処理は、上記の乾燥工程と同時に行われてもよいし、当該乾燥工程の前または後に行われてもよい。さらに、上述したプレス処理と同時に熱処理を行ってもよい。かような形態によれば、簡便な手法によりチャネルの形成が可能である。
【0056】
最後に、塗膜とモールドとの積層体からモールドを除去する。これにより、電池用電極が完成する。モールドの除去は手動で行われてもよいし、大量生産レベルでは自動化された機械により行われてもよい。
【0057】
以下、本発明の第2の製造方法の他の好ましい形態を説明する。本形態においては、上記の塗膜形成工程においてインクジェット印刷により塗膜を形成する。これにより、塗膜の形成と同時にチャネルが形成されうる。すなわち、チャネル形成工程が塗膜形成工程と同時に行われる。従って、本形態は、電極作製時の工数の削減にも寄与しうる。
【0058】
「インクジェット印刷」とは、液体のインクをノズルから噴出させて、インクを対象物に付着させる印刷方式を意味する。インクジェット方式は、インクを噴出させる方式によって、ピエゾ方式、サーマルインクジェット方式、バブルジェット(登録商標)方式に分類される。インクジェット印刷は、現在において、非常に広く知られた技術であるため、インクジェット印刷についての詳細な説明は省略する。
【0059】
本形態の塗膜形成工程において、インクジェット印刷により塗膜を作製するには、まず、塗膜を形成するための活物質スラリーを調製する。活物質スラリーの調製は、上述した活物質スラリー調製工程と同様に行われるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0060】
続いて、塗膜を形成するための集電体を準備する。準備される集電体の形態についても上述したため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0061】
続いて、活物質スラリーを印刷可能なインクジェット装置に集電体を供給する。そして、当該集電体に対して、インクジェット方式により活物質スラリーを噴出させ、集電体に付着させる。インクジェット装置のノズルから噴出されるスラリーの量は、非常に微量であり、しかも、略等体積の量を噴出させることが可能である。したがって、活物質スラリーの付着によって形成される塗膜は、非常に薄く、かつ、均一である。また、インクジェット印刷を用いれば、塗膜の厚さや形状が、精密に制御されうる。さらに、インクジェット印刷を用いれば、コンピュータ上で所定のパターンをデザインし、それを単に印刷するだけで、所望の形状の塗膜が形成される。1回の印刷では塗膜の厚さが不足する場合には、同一面に対して、2回以上印刷を繰り返せばよい。つまり、同じ活物質スラリーを、同一の集電体に重ねて印刷すればよい。これにより、所望の厚さを有する塗膜が形成される。
【0062】
上述したようなチャネルが存在する塗膜を形成するには、例えば、集電体の全面に対して数回、活物質スラリーを噴出させることにより塗膜を形成し、その後、チャネルの位置する部位には活物質スラリーを噴出させないように塗布パターンをデザインして、このパターンで所望の厚さの塗膜(所望の深さのチャネル)が形成されるまでインクジェット印刷により活物質スラリーを塗布すればよい。
【0063】
その後、得られた塗膜を乾燥させる。塗膜が重合開始剤を含む場合には、さらに重合工程を行うことで、塗膜中のイオン伝導性ポリマーが架橋性基によって架橋される。これにより、活物質層が完成する。乾燥工程や重合工程の具体的な形態については、上述したのと同様の形態が採用されうるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0064】
本形態の製造方法によれば、インクジェット印刷の採用により、所望のパターンのチャネルを容易に作製することが可能である。また、厚さが極めて均一な活物質層が作製されうるため、活物質層の厚さの不均一性に起因する電流密度の偏りなどの問題の発生が有効に防止され、耐久性に優れる電極が製造されうる。
【0065】
(第2実施形態)
第2実施形態では、上記の第1実施形態の電池用電極を用いて、電池を構成する。
【0066】
すなわち、本発明の第3は、正極、電解質層、および負極がこの順に積層されてなる少なくとも1つの単電池層を有する電池であって、前記正極および前記負極の少なくとも一方が本発明の電極である、電池である。本発明の電極は、正極、負極、バイポーラ電極のいずれにも適用されうる。本発明の電極を、少なくとも1つの電極として含む電池は、本発明の技術的範囲に属する。ただし、好ましくは、電池を構成する電極の全てが本発明の電極である。かような構成を採用することにより、電池の耐久性を効果的に向上させうる。
【0067】
本発明の電池は、バイポーラ型のリチウムイオン二次電池(以下、「バイポーラ電池」とも称する)でありうる。図2は、バイポーラ電池である、本発明の電池を示す断面図である。以下、図2に示すバイポーラ電池を例に挙げて詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はかような形態のみに制限されない。
【0068】
図2に示す本実施形態のバイポーラ電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の電池要素21が、外装であるラミネートシート29の内部に封止された構造を有する。
【0069】
図2に示すように、本実施形態のバイポーラ電池10の電池要素21は、図1に示す第1実施形態のバイポーラ電極を複数個有する。なお、図2においては、電極の活物質層において図1に示すようなチャネルが存在するが、各活物質層は単なる1層として図示されている。各バイポーラ電極は、電解質層17を介して積層されて電池要素21を形成する。この際、一のバイポーラ電極の正極活物質層13と前記一のバイポーラ電極に隣接する他のバイポーラ電極の負極活物質層15とが電解質層17を介して向き合うように、各バイポーラ電極および電解質層17が積層されている。
【0070】
そして、隣接する正極活物質層13、電解質層17、および負極活物質層15は、一つの単電池層19を構成する。従って、バイポーラ電池10は、単電池層19が積層されてなる構成を有するともいえる。また、単電池層19の外周には、隣接する集電体11間を絶縁するための絶縁層31が設けられている。なお、電池要素21の最外層に位置する集電体(最外層集電体)(11a、11b)には、片面のみに、正極活物質層13(正極側最外層集電体11a)または負極活物質層15(負極側最外層集電体11b)のいずれか一方が形成されている。
【0071】
さらに、図2に示すバイポーラ電池10では、正極側最外層集電体11aが延長されて正極タブ25とされ、外装であるラミネートシート29から導出している。一方、負極側最外層集電体11bが延長されて負極タブ27とされ、同様にラミネートシート29から導出している。
【0072】
以下、本実施形態のバイポーラ電池10を構成する部材について簡単に説明する。ただし、電極を構成する成分については上記で説明した通りであるため、ここでは説明を省略する。また、本発明の技術的範囲が下記の形態のみに制限されることはなく、従来公知の形態が同様に採用されうる。
【0073】
[電解質層]
電解質層17を構成する電解質としては、液体電解質またはポリマー電解質が用いられうる。
【0074】
液体電解質(電解質塩および可塑剤)としては、特に制限されず、従来公知の各種電解液が適宜使用されうる。例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiTaF6、LiAlCl4、Li2B10Cl10等の無機酸陰イオン塩、LiCF3SO3、Li(CF3SO2)2N、Li(C2F5SO2)2N等の有機酸陰イオン塩の中から選ばれる、少なくとも1種類のリチウム塩(電解質塩)を含み、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等の環状カーボネート類;ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン等のエーテル類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;アセトニトリル等のニトリル類;プロピオン酸メチル等のエステル類;ジメチルホルムアミド等のアミド類;酢酸メチル、蟻酸メチルの中から選ばれる少なくとも1種または2種以上を混合した、非プロトン性溶媒等の可塑剤(有機溶媒)を用いたものなどが用いられうる。ただし、これらに制限されるわけではない。
【0075】
一方、ポリマー電解質は、電解液を含むゲル電解質と、電解液を含まない真性ポリマー電解質に分類される。
【0076】
ゲル電解質とはイオン伝導性を有する固体高分子電解質に、従来公知のリチウムイオン二次電池で用いられる電解液を含んだものであるが、さらに、リチウムイオン伝導性を有さない高分子の骨格中に、電解液を保持させたものも含まれる。イオン伝導性を有する固体高分子電解質としては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、これらの共重合体のような公知の固体高分子電解質が挙げられる。なお、これらの固体高分子電解質は、真性(全固体)ポリマー電解質に好適に用いられうる。
【0077】
ゲル電解質に用いられるリチウムイオン伝導性を有さない高分子としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリビニルクロライド(PVC)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などが挙げられる。ただし、これらに制限されるわけではない。なお、PAN、PMMAなどは、どちらかというとイオン伝導性がほとんどない部類に入るものであるため、上記イオン伝導性を有する高分子とすることもできるが、ここでは高分子ゲル電解質に用いられるリチウムイオン伝導性を有さない高分子として例示した。
【0078】
なお、電解質層17が液体電解質やゲル電解質から構成される場合には、電解質層17にセパレータを用いてもよい。セパレータの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンからなる微多孔膜が挙げられる。
【0079】
真性ポリマー電解質は、上記のイオン伝導性を有する固体高分子電解質(マトリックスポリマー)に支持塩(リチウム塩)が溶解してなる構成を有し、可塑剤である有機溶媒を含まない。従って、電解質層17が真性ポリマー電解質から構成される場合には電池からの液漏れの心配がなく、電池の信頼性が向上しうる。
【0080】
[絶縁層]
バイポーラ電池10においては、通常、各単電池層19の周囲に絶縁層31が設けられる。この絶縁層31は、電池内で隣り合う集電体11同士が接触したり、電池要素21における単電池層19の端部の僅かな不ぞろいなどによる短絡が起きたりするのを防止する目的で設けられる。かような絶縁層31の設置により、長期間の信頼性および安全性が確保され、高品質のバイポーラ電池10が提供されうる。
【0081】
絶縁層31としては、絶縁性、固体電解質の脱落に対するシール性や外部からの水分の透湿に対するシール性(密封性)、電池動作温度下での耐熱性などを有するものであればよく、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、ゴムなどが用いられうる。なかでも、耐蝕性、耐薬品性、作り易さ(製膜性)、経済性などの観点から、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂が好ましい。
【0082】
[タブ]
バイポーラ電池10においては、電池外部に電流を取り出す目的で、最外層集電体(11a、11b)に電気的に接続されたタブ(正極タブ25および負極タブ27)が外装であるラミネートシート29の外部に取り出される。具体的には、正極用最外層集電体11aに電気的に接続された正極タブ25と、負極用最外層集電体11bに電気的に接続された負極タブ27とが、ラミネートシート29の外部に取り出される。
【0083】
タブ(正極タブ25および負極タブ27)の材質は、特に制限されず、バイポーラ電池用のタブとして従来用いられている公知の材質が用いられうる。例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等が例示される。なお、正極タブ25と負極タブ27とでは、同一の材質が用いられてもよいし、異なる材質が用いられてもよい。なお、本実施形態のように、最外層集電体(11a、11b)を延長することによりタブ(25、27)としてもよいし、別途準備したタブを最外層集電体に接続してもよい。
【0084】
[外装]
バイポーラ電池10においては、使用時の外部からの衝撃や環境劣化を防止するために、電池要素21は、好ましくはラミネートシート29などの外装内に収容される。外装としては特に制限されず、従来公知の外装が用いられうる。自動車の熱源から効率よく熱を伝え、電池内部を迅速に電池動作温度まで加熱しうる点で、好ましくは、熱伝導性に優れた高分子−金属複合ラミネートシート等が用いられうる。
【0085】
本実施形態のバイポーラ電池10によれば、本発明の電極が集電体11の両面に形成されてなるバイポーラ電極が採用されている。このため、本実施形態のバイポーラ電池は出力特性に優れる。
【0086】
ここで、上述したような本発明の作用効果は、高出力条件下において用いられる二次電池において特に顕著に発現しうる。従って、本発明の二次電池は、高出力条件下において用いられることが好ましい。具体的には、本発明の二次電池は、好ましくは20C以上、より好ましくは50C以上、さらに好ましくは100C以上の出力を必要とする条件下において用いられる。
【0087】
(第3実施形態)
第3実施形態では、上記の第2実施形態のバイポーラ電池を複数個、並列および/または直列に接続して、組電池を構成する。
【0088】
図3は、本実施形態の組電池を示す斜視図である。
【0089】
図3に示すように、組電池40は、上記の第2実施形態のバイポーラ電池が複数個接続されることにより構成される。具体的には、各バイポーラ電池10の正極タブ25および負極タブ27がバスバーを用いて接続されることにより、各バイポーラ電池10が接続されている。組電池40の一の側面には、組電池40全体の電極として、電極ターミナル(42、43)が設けられている。
【0090】
組電池40を構成する複数個のバイポーラ電池10を接続する際の接続方法は特に制限されず、従来公知の手法が適宜採用されうる。例えば、超音波溶接、スポット溶接などの溶接を用いる手法や、リベット、カシメなどを用いて固定する手法が採用されうる。かような接続方法によれば、組電池40の長期信頼性が向上しうる。
【0091】
本実施形態の組電池40によれば、組電池40を構成する個々のバイポーラ電池10が出力特性に優れることから、出力特性に優れる組電池が提供されうる。
【0092】
なお、組電池40を構成するバイポーラ電池10の接続は、複数個全て並列に接続してもよく、また、複数個全て直列に接続してもよく、さらに、直列接続と並列接続とを組み合わせてもよい。
【0093】
(第4実施形態)
第4実施形態では、上記の第2実施形態のバイポーラ電池10、または第3実施形態の組電池40をモータ駆動用電源として搭載して、輸送機関を構成する。バイポーラ電池10または組電池40をモータ用電源として用いる輸送機関としては、例えば、ガソリンを用いない完全電気自動車、シリーズハイブリッド自動車やパラレルハイブリッド自動車などのハイブリッド自動車、および燃料電池自動車などの、車輪をモータによって駆動する自動車のほか、列車、二輪車、船舶、航空機などが挙げられる。
【0094】
参考までに、図4に、組電池40を搭載する自動車50の概略図を示す。自動車50に搭載される組電池40は、上記で説明したような特性を有する。このため、組電池40を搭載する自動車50は出力特性に優れ、長期間にわたって使用した後であっても充分な出力を提供しうる。
【0095】
以上のように、本発明の幾つかの好適な実施形態について示したが、本発明は、以上の実施形態に限られるものではなく、当業者によって種々の変更、省略、および追加が可能である。例えば、以上の説明ではバイポーラ型のリチウムイオン二次電池(バイポーラ電池)を例に挙げて説明したが、本発明の電池の技術的範囲がバイポーラ電池のみに制限されることはなく、例えば、バイポーラ型でないリチウムイオン二次電池であってもよい。参考までに、図5に、バイポーラ型でないリチウムイオン二次電池60の概要を示す断面図を示す。なお、図5に示すリチウムイオン二次電池60においては、負極活物質層15が正極活物質層13よりも一回り小さいが、かような形態のみには制限されない。正極活物質層13と同じかまたは一回り大きい負極活物質層15もまた、用いられうる。
【実施例】
【0096】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例に示す形態のみに制限されるわけではない。
【0097】
<実施例1>
<正極の作製>
正極活物質であるスピネル型マンガン酸リチウム(LiMn2O4)(平均粒子径:5μm)(90質量部)、導電助剤であるアセチレンブラック(5質量部)、およびバインダであるポリフッ化ビニリデン(PVdF)(5質量部)を混合し、次いでスラリー粘度調整溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を適量添加して、正極活物質スラリーを調製した。
【0098】
一方、正極用の集電体として、アルミニウム箔(厚さ:20μm)を準備した。準備した集電体の一方の表面に、上記で調製した正極活物質スラリーを自走式コーターにより塗布し、塗膜を形成させた。次いでこの塗膜に乾燥処理およびプレス処理を施し、正極活物質スラリーからなる塗膜(200μm)を形成した。
【0099】
上記で形成した塗膜の表面に、碁盤配列の針(長さ:3mm、直径:200μm、隣接針間隔:1mm)を有する剣山を用いてチャネルを形成し、試験用正極を完成させた。
【0100】
<負極の作製>
負極活物質であるハードカーボン(平均粒子径:6μm)(95質量部)、およびバインダであるポリフッ化ビニリデン(PVdF)(5質量部)を混合し、次いでスラリー粘度調整溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を適量添加して、負極活物質スラリーを調製した。
【0101】
一方、負極用の集電体として、銅箔(厚さ:20μm)を準備した。準備した集電体の一方の表面に、上記で調製した負極活物質スラリーを自走式コーターにより塗布し、塗膜を形成させた。次いでこの塗膜に乾燥処理およびプレス処理を施し、負極活物質スラリーからなる塗膜(厚さ:200μm)を形成した。
【0102】
上記で形成した塗膜の表面に、碁盤配列の針(長さ:3mm、直径:200μm、隣接針間隔:1mm)を有する剣山を用いてチャネルを形成し、試験用負極を完成させた。
【0103】
<実施例2>
剣山として、長さ:3mm、直径:50μm、隣接針間隔:0.4mmの針を有するものを用いたこと以外は、上記の実施例1と同様の手法により、試験用正極および試験用負極を作製した。
【0104】
<実施例3>
剣山として、上記の実施例2と同様のものを用い、0.2mmずつずらしながら4回孔をあけ、チャネルの隣接間隔が0.2mmの碁盤配列のチャネルを形成したこと以外は、上記の実施例1と同様の手法により、試験用正極および試験用負極を作製した。
【0105】
<実施例4>
剣山として、上記の実施例2と同様のものを用い、0.1mmずつずらしながら16回孔をあけ、チャネルの隣接間隔が0.1mmの碁盤配列のチャネルを形成したこと以外は、上記の実施例1と同様の手法により、試験用正極および試験用負極を作製した。
【0106】
<比較例1>
チャネルを形成しなかったこと以外は、上記の実施例1と同様の手法により、各電極を作製した。
【0107】
<試験用セルの作製>
試験用セルの正極および負極として用いるために、上記の各実施例および各比較例で作製した正極および負極を、ポンチを用いてそれぞれ50mm角に打ち抜き、電極にそれぞれ電流取り出し用端子(正極にはアルミニウム端子、負極にはニッケル端子)を接続した。
【0108】
さらに、セパレータとしてポリプロピレン微多孔膜(厚さ:20μm)を準備した。また、電解液として、エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)との等体積混合液にリチウム塩であるLiPF6を1Mの濃度に溶解させたものを準備した。
【0109】
上記で得られた負極、セパレータ、および正極をこの順に積層し、電流取り出し用端子が外部に露出するように電池要素をアルミニウム製のラミネートフィルム中に入れた。その後、上記で準備した電解液を数滴垂らし、次いで真空に封止して、試験用セルを作製した。
【0110】
<試験用セルの電池特性の評価>
上記の各実施例および比較例について、それぞれの試験用セルに対し0.2Cの定電流にて4.2Vの電位まで充電し、この電位に1時間保持した。その後10分間休止し、0.5Cの定電流にて3.0Vの電位まで放電した。続いて、ラミネートフィルムに孔をあけて初回充放電に起因するガスを抜き、再度真空に封止した。
【0111】
その後、再び0.2Cの定電流にて4.2Vの電位まで充電し、この電位に1時間保持した。その後10分間休止し、10Cの定電流にて3.0Vの電位まで放電した。この放電時の放電容量を測定し、理論容量に対する百分率として、放電効率を算出した。算出した結果を、下記の表1に示す。
【0112】
【表1】

【0113】
各実施例と比較例との比較から、電極の活物質層において、活物質層の他の部位と比較して厚さの小さい薄部が存在すると(具体的には、活物質層の厚さ方向と略同一の方向に形成されてなるチャネルが存在すると)、10Cもの高出力条件下においても放電効率に優れることが示される。これは、薄部(チャネル部位)においてリチウムイオン伝導が充分に確保されるためであると考えられる。
【0114】
このように、本発明の電池用電極によれば、高出力条件下においても、活物質層におけるリチウムイオンの伝導が充分に確保されうる。その結果、電池の出力特性の向上に有効に寄与しうる。
【符号の説明】
【0115】
1 バイポーラ電極、
3 正極活物質、
5 負極活物質、
10 バイポーラ電池、
11 集電体、
11a、11b 最外層集電体、
13 正極活物質層、
13' 正極活物質層に存在するチャネル、
15 負極活物質層、
15' 負極活物質層に存在するチャネル、
17 電解質層、
19 単電池層、
21 電池要素、
25 正極タブ、
27 負極タブ、
29 ラミネートシート、
31 絶縁層、
33 正極集電体、
35 負極集電体、
40 組電池、
42、43 電極ターミナル、
50 自動車、
60 バイポーラ型でないリチウムイオン二次電池、
X チャネルの隣接間隔、
Y 活物質層の厚さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、前記集電体の表面に形成された、活物質を含む活物質層と、を有する電池用電極であって、
前記活物質層において、当該活物質層の他の部位と比較して厚さの小さい薄部が存在することを特徴とする、電池用電極。
【請求項2】
前記薄部において、前記活物質層の厚さ方向と略同一の方向に形成されてなるチャネルが存在する、請求項1に記載の電池用電極。
【請求項3】
隣接する前記チャネルの隣接平均間隔が、前記活物質層の厚さの5倍以下である、請求項2に記載の電池用電極。
【請求項4】
前記チャネルの合計体積が、前記活物質層の全体積に対して1%以上である、請求項2または3に記載の電池用電極。
【請求項5】
前記活物質の平均粒子径が10μm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電池用電極。
【請求項6】
正極、電解質層、および負極がこの順に積層されてなる少なくとも1つの単電池層を有する電池であって、
前記正極または前記負極の少なくとも一方が、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電池用電極である、電池。
【請求項7】
バイポーラ型リチウムイオン二次電池である、請求項6に記載の電池。
【請求項8】
請求項6または7に記載の電池を用いた組電池。
【請求項9】
請求項6または7に記載の電池、または請求項8に記載の組電池を搭載した輸送機関。
【請求項10】
集電体を準備する集電体準備工程と、
活物質を含む活物質スラリーを調製する活物質スラリー調製工程と、
前記集電体の表面に前記活物質スラリーを塗布して、塗膜を形成する塗膜形成工程と、
前記塗膜の厚さ方向と略同一の方向にチャネルを形成するチャネル形成工程と、
を有する、電池用電極の製造方法。
【請求項11】
前記チャネル形成工程が、
前記塗膜に対してモールドを積層してプレスする工程と、
前記塗膜を乾燥させる工程と、
前記モールドを除去する工程と、
を有する、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記塗膜形成工程において、インクジェット印刷により塗膜を形成することにより、同時に前記チャネル形成工程が行われる、請求項10に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−33746(P2013−33746A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−220108(P2012−220108)
【出願日】平成24年10月2日(2012.10.2)
【分割の表示】特願2005−224485(P2005−224485)の分割
【原出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】