説明

電池

【課題】三次元網目構造を備えた新たなアルミニウム等の金属多孔体を電池用電極に効果的に利用するための構造を提供する。
【解決手段】負極にアルカリ金属、アルカリ土類金属およびアルミニウムからなる群から選ばれる1種類の金属を用い、正極活物質として酸化物または硫化物もしくはこれらの混合物を用いる二次電池であって、三次元網目構造を有するアルミニウム多孔体を正極集電体として用いた電池とした。前記アルミニウム多孔体は、三次元網目状に構成され、内部に空洞を有する略三角柱状のアルミニウム骨格であり、網目内空孔部に正極活物質を担持させると良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属多孔体を集電体として用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元網目構造を有する金属多孔体は、各種フィルタ、触媒担体、電池用電極など多方面に用いられている。例えばニッケルからなるセルメット(住友電気工業(株)製:登録商標)がニッケル水素電池やニッケルカドミウム電池等の電池の電極材料として使用されている。セルメットは連通気孔を有する金属多孔体であり、金属不織布など他の多孔体に比べて気孔率が高い(90%以上)という特徴がある。これは発泡ウレタン等の連通気孔を有する多孔体樹脂の骨格表面にニッケル層を形成した後、熱処理して発泡樹脂成形体を分解し、さらにニッケルを還元処理することで得られる。ニッケル層の形成は、発泡樹脂成形体の骨格表面にカーボン粉末等を塗布して導電化処理した後、電気めっきによってニッケルを析出させることで行われる。
【0003】
一方、電池用途においてアルミニウムは、例えばリチウムイオン電池の正極として、アルミニウム箔の表面にコバルト酸リチウム等の活物質を塗布したものが使用されている。正極の容量を向上するためには、アルミニウムを多孔体にして表面積を大きくし、アルミニウム内部にも活物質を充填することが考えられる。そうすると電極を厚くしても活物質を利用でき、単位面積当たりの活物質利用率が向上するからである。
【0004】
そこで、ニッケル多孔体の製造方法を応用したアルミニウム多孔体の製造方法も開発されている。たとえば、特許文献2にその製造方法が開示されている。すなわち、「三次元網目状構造を有する発泡樹脂の骨格に、メッキ法もしくは蒸着法、スパッタ法、CVD法などの気相法より、Alの融点以下で共晶合金を形成する金属による皮膜を形成した後、Al粉末と結着剤及び有機溶剤を主成分としたペーストで上記皮膜を形成した発泡樹脂に含浸塗着し、次いで非酸化性雰囲気において550℃以上750℃以下の温度で熱処理をする金属多孔体の製造方法」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−371327号公報
【特許文献2】特開平8−170126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アルミニウム箔に代えてアルミニウム多孔体を電池用電極として利用する案が検討されるが、従来のアルミニウム多孔体は、いずれも電池用電極の集電体として採用するには問題があった。アルミニウム多孔体のうちアルミニウム発泡体は、その製造方法の特質上、閉気孔を有するので、発泡によって表面積が大きくなってもその表面全てを有効に利用することができない。また、上述の特許文献2に記載のアルミニウム多孔体については、アルミニウムのほかに、アルミニウムと共晶合金を形成する金属が含まれざるを得ないという問題もあった。
【0007】
本発明はこのような問題に鑑みなされたものである。本発明は、後述の通り本願発明者らが開発中の新たなアルミニウム多孔体を電池用電極に効果的に利用するための構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、リチウムイオン二次電池を含む電池用途にも広く利用可能な三次元網目構造を有するアルミニウム構造体を鋭意開発している。アルミニウム構造体の製造工程は、三次元網目構造を有するウレタンやメラミン等のシート状発泡体の表面を導電化し、その表面にアルミニウムめっきを行った後にウレタン除去を行うものである。
【0009】
本願の第1の発明は、負極にアルカリ金属、アルカリ土類金属およびアルミニウムからなる群から選ばれる1種類の金属を用い、正極活物質として酸化物または硫化物もしくはこれらの混合物を用いる二次電池であって、三次元網目構造を有するアルミニウム多孔体を正極集電体として用いた電池である(請求項1)。負極金属は、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムのいずれか1つであると良い(請求項4)。
【0010】
かかる電池の正極集電体として上述のアルミニウム多孔体を用いることにより、従来よりも大きな容量を実現し、あるいは集電体と活物質との距離を短くすることによる集電性能の向上など、電池として向上が望まれていた性能の実現が可能となる。
【0011】
アルミニウム多孔体は、三次元網目状に構成されたアルミニウム骨格からなり、アルミニウム骨格は内部に空洞を有する略三角柱状の骨格であると良い(請求項2)。かかるアルミニウム多孔体は、発泡ウレタン等の連通気孔を有する多孔体樹脂の骨格表面にアルミニウム層を形成した後、熱処理して発泡樹脂成形体を分解することで得られる。アルミニウム層の形成は、発泡樹脂成形体の骨格表面にカーボン粉末等を塗布して導電化処理した後、電気めっきによってアルミニウムを析出させることで行われる。他の多孔体に比べて気孔率が高い(90%以上)という特徴がある。また、骨格内部に空洞を有することから、空洞内にも活物質を担持することや、空洞内部に電解液を通すことなどが可能となることで電池性能の向上に寄与する。
【0012】
このようなアルミニウム多孔体の網目内空孔部に正極活物質を担持させることが好ましい(請求項3)。かかる多孔体は網目内空孔部の割合である気孔率が高く、当該空孔部に活物質を担持することで、容量が大きく、かつ充放電特性に優れた電池を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、金属多孔体を電池用電極に効果的に利用した電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による電池の基本的な構成を説明する模式図である。
【図2】本発明に用いるアルミニウム多孔体の構造例を示す図である。
【図3】本発明に用いるアルミニウム多孔体の製造工程例を説明する図である。
【図4】本発明に用いるアルミニウム多孔体の製造工程例を説明する断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。アルミニウム多孔体として、ニッケルセルメット(セルメットは登録商標)と同様の骨格構造をもつ三次元網目構造を有するアルミニウム構造体を具体的に示す。なお、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0016】
(電池の構成)
図1は、本発明による電池の基本的な構成例を説明する図である。電池の全体構成は、負極集電体1及び負極活物質層2から構成される負極、電解液3を空孔部分に保持したセパレータ4,正極活物質5を正極集電体6(アルミセルメット)の空孔部分に保持した正極が順に積層されたものである。収納容器やリード電極等は通常の電池構造としてもちろん必要であるが、ここでは図示説明はしていない。また、電解液3は負極、正極においても保持される。
【0017】
負極集電体1は、導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば銅、ステンレス、ニッケル、カーボン等を挙げることができ、個々の活物質に適した材料が利用できる。負極集電体にも多孔構造のものを用いることができる。
【0018】
正極と負極は、電解液を保持可能な空孔を有するセパレータ4と電解液3により仕切られている。セパレータ4は、正極と負極とを電気的に分離する機能等を備えたものとして例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはポリフッ化ビニリデン(PVdF)等を含む多孔質フィルム、あるいはセルロースなどからなる不織布、などが利用できる。
【0019】
正極集電体6は、三次元網目構造を有するアルミニウム多孔体であり、その網目構造の内部に正極活物質5を含む正極層を有する。正極層は、正極活物質5をバインダーなどで固定したものであり、正極集電体の骨格構造内部に充填されて形成される。
【0020】
以上において負極にはアルカリ金属、アルカリ土類金属およびアルミニウムからなる群から選ばれる1種類の負極金属が用いられ、正極活物質として酸化物または硫化物もしくはこれらの混合物が用いられる。
【0021】
図2に本発明に好ましく用いることが出来る三次元網目構造を有するアルミニウム多孔体の一例を拡大写真として示す。略三角柱形状の空洞骨格が三次元的に繋がることによって空孔の大きな網目構造が形成されている。代表的な大きさとして、骨格で囲まれた空孔の径が数10μm〜500μm程度、骨格は一辺が数10μmで中空の略三角柱をなしている。
【0022】
このような正極集電体は表面積が大きいため、正極活物質5を骨格構造内部に保持する構成とすることによって、正極集電体6と正極活物質5の接触面積を極めて大きくすることができ、かつ、網目間の空孔が正極活物質で充満することなく、10〜30%程度の適度な隙間を有することで電解液を効果的に取り込むことが可能となる。
【0023】
本発明に用いるアルミニウム多孔体は骨格内部にも空洞を有することから、当該空洞を通して電解液が正極電極内部まで供給されるようにすれば、さらに好ましい。骨格には末端部分や骨格壁面のピンホール等から内部と外部が連通する部分も備えることができる。このような部分で内部を通ってきた電解液が正極層に達し、活物質として機能することができる。
【0024】
(アルミニウム多孔体の製造)
以下、金属多孔体の具体例としてアルミニウム多孔体を製造するプロセスを代表例として適宜図を参照して説明する。
【0025】
(アルミニウム構造体の製造工程)
図3は、アルミニウム構造体の製造工程を示すフロー図である。また図4は、フロー図に対応して樹脂成形体を芯材としてアルミニウム構造体を形成する様子を模式的に示したものである。両図を参照して製造工程全体の流れを説明する。まず基体樹脂成形体の準備101を行う。図4(a)は、基体樹脂成形体の例として、連通気孔を有する発泡樹脂成形体の表面を拡大視した拡大模式図である。発泡樹脂成形体11を骨格として気孔が形成されている。次に樹脂成形体表面の導電化102を行う。この工程により、図4(b)に示すように樹脂成形体11の表面には薄く導電体による導電層12が形成される。続いて溶融塩中でのアルミニウムめっき103を行い、導電層が形成された樹脂成形体の表面にアルミニウムめっき層13を形成する(図4(c))。これで、基体樹脂成形体を基材として表面にアルミニウムめっき層13が形成されたアルミニウム構造体が得られる。さらに、基体樹脂成形体の除去104を行っても良い。発泡樹脂成形体11を分解等して消失させることにより金属層のみが残ったアルミニウム構造体(多孔体)を得ることができる(図4(d))。以下各工程について順を追って説明する。
【0026】
(多孔質樹脂成形体の準備)
三次元網目構造を有し連通気孔を有する多孔質樹脂成形体を準備する。多孔質樹脂成形体の素材は任意の樹脂を選択できる。ポリウレタン、メラミン、ポリプロピレン、ポリエチレン等の発泡樹脂成形体が素材として例示できる。発泡樹脂成形体と表記したが、連続した気孔(連通気孔)を有するものであれば任意の形状の樹脂成形体を選択できる。例えば繊維状の樹脂を絡めて不織布のような形状を有するものも発泡樹脂成形体に代えて使用可能である。発泡樹脂成形体の気孔率は80%〜98%、セル径は50μm〜500μmとするのが好ましい。発泡ウレタン及び発泡メラミンは気孔率が高く、また気孔の連通性があるとともに熱分解性にも優れているため発泡樹脂成形体として好ましく使用できる。発泡ウレタンは気孔の均一性や入手の容易さ等の点で好ましく、発泡ウレタンはセル径の小さなものが得られる点で好ましい。
【0027】
多孔質樹脂成形体には発泡体製造過程での製泡剤や未反応モノマーなどの残留物があることが多く、洗浄処理を行うことが後の工程のために好ましい。樹脂成形体が骨格として三次元的に網目を構成することで、全体として連続した気孔を構成している。発泡ウレタンの骨格はその延在方向に垂直な断面において略三角形状をなしている。ここで気孔率は、次式で定義される。
【0028】
気孔率=(1−(多孔質材の重量[g]/(多孔質材の体積[cm]×素材密度)))×100[%]
また、セル径は、樹脂成形体表面を顕微鏡写真等で拡大し、1インチ(25.4mm)あたりの気孔数をセル数として計数して、平均セル径=25.4mm/セル数として平均的な値を求める。
【0029】
(樹脂成形体表面の導電化)
電解めっきを行うために、発泡樹脂の表面をあらかじめ導電化処理する。発泡状樹脂の表面に導電性を有する層を設けることができる処理である限り特に制限はなく、ニッケル等の導電性金属の無電解めっき、アルミニウム等の蒸着及びスパッタ、又はカーボン等の導電性粒子を含有した導電性塗料の塗布等任意の方法を選択できる。導電化処理の例として、アルミニウムのスパッタリング処理によって導電化処理する方法、及び導電性粒子としてカーボンを用いて発泡樹脂の表面を導電化処理する方法について以下に述べる。
【0030】
−アルミニウムのスパッタリング−
アルミニウムを用いたスパッタリング処理としては、アルミニウムをターゲットとする限り限定的でなく、常法に従って行えばよい。例えば、基板ホルダーに発泡状樹脂を取り付けた後、不活性ガスを導入しながら、ホルダーとターゲット(アルミニウム)との間に直流電圧を印加することにより、イオン化した不活性ガスをアルミニウムに衝突させて、はじき飛ばされたアルミニウム粒子を発泡状樹脂表面に堆積することによってアルミニウムのスパッタ膜を形成する。なお、スバッタリング処理は発泡状樹脂が溶解しない温度下で行うことが好ましく、具体的には、100〜200℃程度、好ましくは120〜180℃程度で行えばよい。
【0031】
−カーボン塗布−
導電性塗料としてのカーボン塗料を準備する。導電性塗料としての懸濁液は、好ましくは、カーボン粒子、粘結剤、分散剤および分散媒を含む。導電性粒子の塗布を均一に行うには、懸濁液が均一な懸濁状態を維持している必要がある。このため、懸濁液は、20℃〜40℃に維持されていることが好ましい。その理由は、懸濁液の温度が20℃未満になった場合、均一な懸濁状態が崩れ、合成樹脂成形体の網状構造をなす骨格の表面に粘結剤のみが集中して層を形成するからである。この場合、塗布されたカーボン粒子の層は剥離し易く、強固に密着した金属めっきを形成し難い。一方、懸濁液の温度が40℃を越えた場合は、分散剤の蒸発量が大きく、塗布処理時間の経過とともに懸濁液が濃縮されてカーボンの塗布量が変動しやすい。また、カーボン粒子の粒径は、0.01〜5μmで、好ましくは0.01〜0.05μmである。粒径が大きいと多孔質樹脂成形体の空孔を詰まらせたり、平滑なめっきを阻害したりする要因となり、小さすぎると十分な導電性を確保することが難しくなる。
【0032】
多孔質樹脂成形体へのカーボン粒子の塗布は、上記懸濁液に対象となる樹脂成形体を浸漬し、絞りと乾燥を行うことで可能である。実用上の製造工程の一例としては、三次元網状構造を有する長尺シート状の帯状樹脂が、サプライボビンから連続的に繰り出され、槽内の懸濁液内に浸漬される。懸濁液に浸漬された帯状樹脂は、絞りロールで絞られ、過剰な懸濁液が絞り出される。続いて、当該帯状樹脂は熱風ノズルによる熱風の噴射等により懸濁液の分散媒等が除去され、充分に乾燥された上で巻取りボビンに巻き取られる。熱風の温度は40℃から80℃の範囲であるとよい。このような装置を用いると、自動的かつ連続的に導電化処理を実施することができ、目詰まりのない網目構造を有し、且つ、均一な導電層を具備した骨格が形成されるので、次工程の金属めっきを円滑に行うことができる。
【0033】
(アルミニウム層の形成:溶融塩めっき)
次に溶融塩中で電解めっきを行い、樹脂成形体表面にアルミニウムめっき層を形成する。溶融塩浴中でアルミニウムのめっきを行うことにより特に三次元網目構造を有する樹脂多孔体のように複雑な骨格構造の表面に均一に厚いアルミニウム層を形成することができる。表面が導電化された樹脂成形体を陰極、純度99.0%のアルミニウムを陽極として溶融塩中で直流電流を印加する。溶融塩としては、有機系ハロゲン化物とアルミニウムハロゲン化物の共晶塩である有機溶融塩、アルカリ金属のハロゲン化物とアルミニウムハロゲン化物の共晶塩である無機溶融塩を使用することができる。比較的低温で溶融する有機溶融塩浴を使用すると、基材である樹脂成形体を分解することなくめっきができ好ましい。有機系ハロゲン化物としてはイミダゾリウム塩、ピリジニウム塩等が使用でき、具体的には1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(EMIC)、ブチルピリジニウムクロライド(BPC)が好ましい。溶融塩中に水分や酸素が混入すると溶融塩が劣化するため、めっきは窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、かつ密閉した環境下で行うことが好ましい。
【0034】
溶融塩浴としては窒素を含有した溶融塩浴が好ましく、中でもイミダゾリウム塩浴が好ましく用いられる。溶融塩として高温で溶融する塩を使用した場合は、めっき層の成長よりも樹脂が溶融塩中に溶解や分解する方が早くなり、樹脂成形体表面にめっき層を形成することができない。イミダゾリウム塩浴は、比較的低温であっても樹脂に影響を与えず使用可能である。イミダゾリウム塩として、1,3位にアルキル基を持つイミダゾリウムカチオンを含む塩が好ましく用いられ、特に塩化アルミニウム+1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(AlCl+EMIC)系溶融塩が、安定性が高く分解し難いことから最も好ましく用いられる。発泡ウレタン樹脂や発泡メラミン樹脂などへのめっきが可能であり、溶融塩浴の温度は10℃から60℃、好ましくは25℃から45℃である。低温になる程めっき可能な電流密度範囲が狭くなり、多孔体表面全体へのめっきが難しくなる。60℃以上の高温では基材樹脂の形状が損なわれる不具合が生じやすい。
【0035】
金属表面への溶融塩アルミニウムめっきにおいて、めっき表面の平滑性向上の目的でAlCl−EMICにキシレン、ベンゼン、トルエン、1,10−フェナントロリンなどの添加剤を加えることが報告されている。本発明者らは特に三次元網目構造を備えた樹脂多孔体上にアルミニウムめっきを施す場合に、1,10−フェナントロリンの添加によりアルミニウム構造体の形成に特有の効果が得られることを見出した。すなわち、多孔体を形成するアルミニウム骨格が折れにくいという第1の特徴と、多孔体の表面部と内部とのめっき厚さの差が小さい均一なめっきが可能であるという第2の特徴が得られるのである。
【0036】
以上の、折れにくい、めっき厚が内外で均一という2つの特徴により、完成したアルミニウム多孔体をプレスする場合などに、骨格全体が折れにくく均等にプレスされた多孔体を得ることができる。アルミニウム多孔体を電池等の電極材料として用いる場合に、電極に電極活物質を充填してプレスにより密度を上げることが行われ、活物質の充填工程やプレス時に骨格が折れやすいため、このような用途では極めて有効である。
【0037】
上記のことから、溶融塩浴に有機溶媒を添加することが好ましく、特に1,10−フェナントロリンが好ましく用いられる。めっき浴への添加量は、0.25〜7g/Lが好ましい。0.25g/L以下では平滑性に乏しいめっきで脆く、また表層と内部の厚み差を小さくする効果が得られ難い。また7g/L以上ではめっき効率が低下し所定のめっき厚を得ることが困難になる。
【0038】
一方、樹脂が溶解等しない範囲で溶融塩として無機塩浴を用いることもできる。無機塩浴とは、代表的にはAlCl−XCl(X:アルカリ金属)の2成分系あるいは多成分系の塩である。このような無機塩浴はイミダゾリウム塩浴のような有機塩浴に比べて一般に溶融温度は高いが、水分や酸素など環境条件の制約が少なく、全体に低コストでの実用化が可能とできる。樹脂が発泡メラミン樹脂である場合は、発泡ウレタン樹脂に比べて高温での使用が可能であり、60℃〜150℃での無機塩浴が用いられる。
【0039】
以上の工程により骨格の芯として樹脂成形体を有するアルミニウム構造体が得られる。各種フィルタや触媒担体などの用途によっては、このまま樹脂と金属の複合体として使用しても良いが、使用環境の制約などから、樹脂が無い金属多孔体として用いる場合には樹脂を除去する。本発明においては、アルミニウムの酸化が起こらないように、以下に説明する溶融塩中での分解により樹脂を除去する。
【0040】
(樹脂の除去:溶融塩による処理)
溶融塩中での分解は以下の方法で行う。表面にアルミニウムめっき層を形成した樹脂成形体を溶融塩に浸漬し、アルミニウム層に負電位(アルミニウムの標準電極電位より卑な電位)を印加しながら加熱して発泡樹脂成形体を除去する。溶融塩に浸漬した状態で負電位を印加すると、アルミニウムを酸化させることなく発泡樹脂成形体を分解することができる。加熱温度は発泡樹脂成形体の種類に合わせて適宜選択できる。樹脂成形体がウレタンである場合には分解は約380℃で起こるため溶融塩浴の温度は380℃以上にする必要があるが、アルミニウムを溶融させないためにはアルミニウムの融点(660℃)以下の温度で処理する必要がある。好ましい温度範囲は500℃以上600℃以下である。また印加する負電位の量は、アルミニウムの還元電位よりマイナス側で、かつ溶融塩中のカチオンの還元電位よりプラス側とする。このような方法によって、連通気孔を有し、表面の酸化層が薄く酸素量の少ないアルミニウム多孔体を得ることができる。
【0041】
樹脂の分解に使用する溶融塩としては、アルミニウムの電極電位が卑となるようなアルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン化物の塩が使用できる。具体的には塩化リチウム(LiCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化アルミニウム(AlCl)からなる群より選択される1種以上を含むと好ましい。このような方法によって連通気孔を有し、表面の酸化層が薄く酸素量の少ないアルミニウム多孔体を得ることができる。
【実施例】
【0042】
(導電層の形成)
以下、アルミニウム多孔体の製造例を具体的に説明する。発泡樹脂成形体として、厚み1mm、気孔率95%、1インチ当たりの気孔数(セル数)約50個のウレタン発泡体を準備し、100mm×30mm角に切断した。ウレタン発泡体をカーボン懸濁液に浸漬し乾燥することで、表面全体にカーボン粒子が付着した導電層を形成した。懸濁液の成分は、黒鉛+カーボンブラック25%を含み、樹脂バインダー、浸透剤、消泡剤を含む。カーボンブラックの粒径は0.5μmとした。
【0043】
(溶融塩めっき)
表面に導電層を形成したウレタン発泡体をワークとして、給電機能を有する治具にセットした後、アルゴン雰囲気かつ低水分(露点−30℃以下)としたグローブボックス内に入れ、温度40℃の溶融塩アルミめっき浴(33mol%EMIC−67mol%AlCl)に浸漬した。ワークをセットした治具を整流器の陰極側に接続し、対極のアルミニウム板(純度99.99%)を陽極側に接続した。電流密度3.6A/dmの直流電流を90分間印加してめっきすることにより、ウレタン発泡体表面に150g/mの重量のアルミニウムめっき層が形成されたアルミニウム構造体を得た。攪拌はテフロン(登録商標)製の回転子を用いてスターラーにて行った。ここで、電流密度はウレタン発泡体の見かけの面積で計算した値である。
【0044】
得られたアルミニウム多孔体の骨格部分をサンプル抽出し、骨格の延在方向に直角な断面で切断して観察した。断面は略三角形状をなしており、これは芯材としたウレタン発泡体の構造を反映したものである。
【0045】
(発泡樹脂成形体の分解)
前記アルミニウム構造体を温度500℃のLiCl−KCl共晶溶融塩に浸漬し、−1Vの負電位を30分間印加した。溶融塩中にポリウレタンの分解反応による気泡が発生した。その後大気中で室温まで冷却した後、水洗して溶融塩を除去し、樹脂が除去されたアルミニウム多孔体を得た。得られたアルミニウム多孔体の拡大写真を図3に示す。アルミニウム多孔体は連通気孔を有し、気孔率が芯材としたウレタン発泡体と同様に高いものであった。
【0046】
得られたアルミニウム多孔体を王水に溶解し、ICP(誘導結合プラズマ)発光分析装置で測定したところ、アルミニウム純度は98.5質量%であった。またカーボン含有量をJIS−G1211の高周波誘導加熱炉燃焼−赤外線吸収法で測定したところ、1.4質量%であった。さらに表面を15kVの加速電圧でEDX分析した結果、酸素のピークはほとんど観測されず、アルミニウム多孔体の酸素量はEDXの検出限界(3.1質量%)以下であることが確認された。
【0047】
(二次電池の形成例)
以下、本発明にかかる二次電池の構成例を示す。それぞれ、上述のアルミニウム多孔体を正極集電体として正極物質を塗布、担持させて電池を構成する。
<ナトリウム(Na)二次電池>
負極;Na
正極;NaFePO
電解液;NaFSA−KFSA(FSA;ビスフルオロスルフォニルアミド)
<マグネシウム(Mg)二次電池>
負極;Mg
正極;V
電解液;グリニャール試薬RMgX(R=アルキル基、またはアリール基、X=Cl、またはBr)のエーテル系溶液
Mg[Al(C)(C)ClのTHF溶液
<カルシウム(Ca)二次電池>
負極;Ca
正極;CaMn/MoS
電解液;Ca(ClO、Ca[Fe(CN)]などを非プロトン極性溶媒(例えばTHF(テトラヒドロフラン))に溶解した液
<アルミニウム(Al)二次電池>
負極;Al
正極;FeS
電解液;AlCl−NaCl−KCl 混合の溶融塩(100℃駆動)
【符号の説明】
【0048】
1 負極集電体
2 負極活物質層
3 電解液
4 セパレータ
5 正極活物質
6 正極集電体
10 電池
11 発泡樹脂成形体
12 導電層
13 アルミニウムめっき層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極にアルカリ金属、アルカリ土類金属およびアルミニウムからなる群から選ばれる1種類の負極金属を用い、正極活物質として酸化物または硫化物もしくはこれらの混合物を用いる二次電池であって、三次元網目構造を有するアルミニウム多孔体を正極集電体として用いた電池。
【請求項2】
前記アルミニウム多孔体は、三次元網目状に構成されたアルミニウム骨格からなり、前記アルミニウム骨格は内部に空洞を有する略三角柱状の骨格である、請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記アルミニウム多孔体の網目内空孔部に正極活物質を担持させた、請求項1または2に記載の電池。
【請求項4】
前記負極金属は、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムのいずれか1つである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電池。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−186160(P2012−186160A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−31187(P2012−31187)
【出願日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(591174368)富山住友電工株式会社 (50)
【Fターム(参考)】