電波到来方向の追尾方法及び電波到来方向追尾装置
【課題】 電波の到来方向の運動軌跡が交差する場合であっても到来方向を迅速に追尾する。
【解決手段】 前回の到来方向追尾時刻n−1における到来方向の状態ベクトル(到来方向、到来方向の変化速度及び加速度からなる。)を利用して、今回の到来方向追尾時刻nの到来方向の状態ベクトルをオブザーバで予測して、到来方向の暫定値を計算し、さらに、その暫定値と予測した状態ベクトル及び到来方向の予測値をもとに、今回の到来方向追尾時刻nにおける状態ベクトルを計算し、その状態ベクトルから到来方向の推定値を計算する。
【解決手段】 前回の到来方向追尾時刻n−1における到来方向の状態ベクトル(到来方向、到来方向の変化速度及び加速度からなる。)を利用して、今回の到来方向追尾時刻nの到来方向の状態ベクトルをオブザーバで予測して、到来方向の暫定値を計算し、さらに、その暫定値と予測した状態ベクトル及び到来方向の予測値をもとに、今回の到来方向追尾時刻nにおける状態ベクトルを計算し、その状態ベクトルから到来方向の推定値を計算する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電波到来方向の追尾方法及び電波到来方向追尾装置に関し、特に適応アレーアンテナ(Adaptive array antenna)により受信した所定数の電波の到来方向を推定する電波到来方向の追尾方法及び電波到来方向追尾装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、移動通信に適応アレーアンテナを用いた研究開発が注目されている。アレーアンテナとは複数個のアンテナ素子をある形状で異なる空間位置に配置したものである。このアレーアンテナに入射する電波(以下、信号処理の立場から信号という場合がある。)の到来方向を推定する問題は、適応アレーアンテナの重要な要素技術の1つである。
【0003】
信号の到来方向推定問題に関して、推定精度と計算演算量などの立場から信号部分空間と雑音部分空間の直交性を利用した部分空間手法(Subspace-based method)がよく知られており、その代表例としてMUSIC(Multiple signal classification)がある(例えば、非特許文献1参照。)。また、完全な相関性をもつ多重波の到来方向推定問題への対応策として、空間スムージングを用いた部分空間手法(subspace-based method with spatial smoothing)がよく知られている。その代表例として、空間スムージングMUSIC(Spatial smoothing based MUSIC)がある(例えば、非特許文献2、3参照。)。
【0004】
無相関信号の到来方向を推定する部分空間手法は、アレーアンテナに入射する信号からアレー共分散行列を求めて、このアレー共分散行列の固有値分解より信号部分空間と雑音部分空間を求める。そして、信号部分空間と雑音部分空間の直交性を利用し信号の到来方向を推定する。これに対し、相関性をもつ信号(完全な相関性を持つ多重波を含む)の到来方向の推定では、入射信号間の相関を抑圧するため、M個のアレー素子数を同じ素子間隔で直線状の異なる空間位置に配列したアンテナ(以下、線形等間隔アレー(Uniform linear array:ULA)ともいう。)をサブアレー化し、各サブアレーの共分散行列の平均操作を行うことにより、空間的に平均された共分散行列の信号部分空間の次元を多重波の個数に回復する。従って、無相関信号の到来方向を推定する部分空間手法のように信号部分空間と雑音部分空間の直交関係を利用して、相関信号の到来方向を推定することが可能となる。
【0005】
以下に非特許文献3に記載された多重波の到来方向を推定する空間スムージングMUSICを具体的に説明する。
いま、線形等間隔アレーに、p個の多重波狭帯域信号{si(k)}が角度{θi}からアレーアンテナに入射しているとする。ここでサンプリング間隔をTsとすると、各素子のアレー受信信号は以下のように表せる。
【0006】
【数1】
【0007】
ここで、f0、c、dはそれぞれ搬送波の周波数、伝搬速度、素子間隔(半波長)である。(・)Tは転置を表し、a(θi(k))とAはアレー応答ベクトルと応答行列である。wi(k)は素子ごとに独立な平均0かつ電力σ2の白色ガウス雑音とする。
【0008】
まず、信号の到来方向が時間的に不変である場合を考慮する。即ち、θi(k)=θiの場合である。ここで、アレー共分散行列は次式となる。
【0009】
【数2】
【0010】
ここで、E{・}と(・)Hは期待演算と複素共役転置を表し、Rs=E{s(k)sH(k)}は入射する多重波の共分散行列であり、IMはM×M単位行列である。さらに、観測データyi(k)とym(k)の相関rikをrim=E{yi(k)y*m(k)}で定義すると、rim=r*miという関係が存在する。(・)*は複素共役を表す。また、式(2)にあるアレー共分散行列Rは次式で明確的に表現できる。
【0011】
【数3】
【0012】
空間スムージングMUSICは完全な相関性を持つ多重波の到来方向{θk}を推定するため、全体の線形等間隔アレーを、それぞれm(1≦m≦M)個の素子をもつオーバーラップしたL個のサブアレー(Overlapped subarray)に分割する。
【0013】
図14は、線形等間隔アレーにおけるサブアレーを示す図である。
図のようにアレーアンテナ100において、アンテナ素子101は等間隔dでM個並んでおり、L個のサブアレーに分割されている。ここで、mとLはサブアレーのサイズとサブアレーの個数と呼ばれ、L=M−m+1である。式(1)より、
【0014】
のサブアレーの受信ベクトル
【0015】
は、以下の式で表現できる。
【0016】
【数4】
【0017】
また、am(θi)とAmはサブアレーの応答ベクトルと応答行列である。従って、サブアレーの共分散行列は以下の式で与えられる。
【0018】
【数5】
【0019】
さらに、L個のサブアレーの共分散行列
【0020】
を空間的に平均すると、以下のような共分散行列が得られる。
【0021】
【数6】
【0022】
この空間的に平均された共分散行列
【0023】
の固有値分解を以下のように表すことができる。
【0024】
【数7】
【0025】
ここで、eiとλiは共分散行列の固有ベクトルと固有値であり、Eは{ei}を列とする行列、Λは{λi}を要素とする対角行列である。また、信号ベクトル{e1,e2,…,ep}と雑音ベクトル{ep+1,eP+2,…,em}が張る空間をそれぞれ信号部分空間と雑音部分空間と呼ぶ。なお、信号部分空間はアレーの応答ベクトルを用いて表すことができる。信号部分空間と雑音部分空間の直交関係に基づく到来方向推定方法は部分空間手法と呼ばれる。
【0026】
式(7)の共分散行列の固有値解析により、雑音ベクトル{ep+1,eP+2,…,em}と信号部分空間に存在するサブアレーの応答ベクトルam(θi)には、次の直交関係が成立する。
【0027】
【数8】
【0028】
ここで、k=p+1,…,mである。この直交関係から、次のようなスペクトル
【0029】
を計算できる。
【0030】
【数9】
【0031】
ここで、am(θ)=[1,ejω0τ(θ),…,ejω0(m-1)τ(θ)]Tである。空間スムージングMUSIC、式(9)で与えられたスペクトルのp個最大ピークの位置から入射する多重波の到来方向を推定する。
【0032】
式(7)で明らかにように、(空間スムージング)MUSICなど到来方向を推定する部分空間手法には、信号または雑音部分空間を得るため、アレー共分散行列の固有値分解を行う必要性がある。しかし、実際のアレー実装の場合には、特にアレー素子の数が多い時や、実時間処理で変化する到来方向を推定する際に行う、固有値分解(Eigen value decomposition:EVD)或いは特異値分解(Singular value decomposition:SVD)処理の計算は複雑であり、計算時間がかなりかかる。従って、従来の固有分解(固有値分解或いは特異値分解)に基づく部分空間到来方向推定手法の実際への応用は計算の負担となる固有分解に制限されてしまう。また、実際の移動通信システムでは、建物などの地物の反射により通話者(移動端末)からの信号は直接パスと反射パスから基地局アレーアンテナに入射することがよくあるので、マルチパス伝搬環境における多重波の到来方向推定問題は非常に重要となる。しかし、上記の手法では希望する信号と干渉信号を区別できないので、多数入射波が存在する際に全ての到来方向を計算しなければならない。このため、アレーアンテナの素子数を増やす必要があり、アレーアンテナの規模やコストが増えてしまう。さらに、通話者(信号源)の移動などにより、希望波の到来方向が時間的に変化する場合には、従来の手法を利用すると高速かつ高精度でアレーに入射する信号の到来方向を推定できないし、精確な基地局の受信/送信ビーム形成できなくなるので、基地局の受信及び送信システムの性能が劣化することが生じる。
【0033】
最近では、固有値分解を利用しない適応到来方向推定および追尾手法(例えば、適応SWEDE(Subspace-based methods without eigendecomposition)法(非特許文献4参照。))が検討されている。しかし、多重波または低い信号対雑音比(Signal-to-noise ratio:SNR)または少ないデータ数の場合にはこれらの手法の性能は著しく劣化してしまう。また、これらの最小二乗(Least-squares:LS)を用いた手法の計算量が大きい。
【0034】
また、本発明者は、通信信号の周期定常性に基づく到来方向推定および追尾する電波到来方向の推定手法(例えば非特許文献5参照。)を提案しているが、このLSを用いた手法は、信号の周期定常性という時間的な特性を利用し、かなり長いアレーデータが必要となる。
【0035】
さらに本発明者は、新しい立場から固有値分解を利用しないかつ計算的に有効なSUMWE(Subspace-based method without eigendecomposition)という到来方向推定手法(例えば非特許文献6参照。)を提案したが、この手法には、オンライン到来方向推定および時間的に変化する到来方向の追尾問題が考慮されていなかった。
【0036】
そこで、本発明者は、到来方向の適応推定や時変到来方向の追尾問題への対応策として、計算的に有効なSUMWE手法を利用して、ABEST(Adaptive bearing estimation and tracking)という到来方向の適応推定追尾手法(例えば非特許文献7参照。)を提案した。
【非特許文献1】R.O. Schmidt、 “Multiple emitter location and signal parameter estimation,” IEEE Trans. Antennas and Propagation, vol. 34, no. 3, pp. 276-280 (1986)
【非特許文献2】T.-J. Shan, M. Wax and T. Kailath, “On spatial smoothing for direction-of-arrival estimation of coherent signals,” IEEE Trans. Acoust., Speech, Signal Processing, vol. 33, no. 4, pp. 806-811 (1985)
【非特許文献3】S.U. Pillai and B.H. Kwon, “Forward/backward spatial smoothing techniques for coherent signals identification,” IEEE Trans. Acoust., Speech, Signal Processing, vol. 37, no. 1, pp. 8-15 (1989)
【非特許文献4】A. Eriksson, P. Stoica, and T. Soderstrom, “On-line subspace algorithms for tracking moving sources,” IEEE Trans. Signal Processing, vol. 42, no. 9, pp. 2319-2330 (1994)
【非特許文献5】J. Xin and A. Sano, “Directions-of-arrival tracking of coherent cyclostationary signals in array processing,” IEICE Trans. Fundamentals, vol. E86-A, no. 8, pp. 2037-2046 (2003)
【非特許文献6】J. Xin and A. Sano, “Computationally efficient subspace-based method for direction-of-arrival estimation without eigendecomposition,” IEEE Trans. Signal Processing, vol. 52, no. 4, pp. 876-893 (2004)
【非特許文献7】J. Xin, Y. Ohashi, and A. Sano, “Efficient subspace-based algorithms for adaptive direction estimation and tracking of narrowband signals in array processing,” Proc. IFAC 8th Workshop on Adaptation and Learning in Control and Signal Processing (ALCOSP’04) , pp. 535-540, Yokohama, Japan, (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
しかし、信号源(通話者など)の移動による直接波や反射波の到来方向の運動軌跡が互いに交差する場合干渉が生じ、従来の電波到来方向の追尾手法では精確に追尾することができないという問題があった。
【0038】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、固有値分解など複雑な処理を必要とせずに電波の到来方向をオンラインで推定し、さらに電波の到来方向の運動軌跡が交差する場合であっても到来方向を迅速に追尾可能な電波到来方向の追尾方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0039】
本発明では上記問題を解決するために、複数個のアンテナ素子を同じ素子間隔で直線状の異なる空間位置に配列したアレーアンテナで所定数の電波を受信しその到来方向を推定する電波到来方向の追尾方法において、図1に示すように、サンプリング時刻ごとに、前記アレーアンテナにおける所定のアンテナ素子の受信データと他のアンテナ素子の受信データ間の瞬間相関を計算するステップS1と、前記瞬間相関をもとに瞬間相関行列を計算するステップS2と、前記瞬間相関行列を用いて、線形演算により雑音部分空間を推定するステップS3と、前回の到来方向追尾時刻における到来方向の状態ベクトルを利用して、今回の到来方向追尾時刻の到来方向の状態ベクトルをオブザーバで予測するステップS4と、予測した前記状態ベクトルから得られる到来方向の予測値と、前記雑音部分空間を利用して、今回の到来方向追尾時刻における到来方向の暫定値を計算するステップS5と、前記暫定値と、予測した前記状態ベクトル及び前記予測値をもとに、今回の到来方向追尾時刻における状態ベクトルを計算し、前記状態ベクトルから到来方向の推定値を計算するステップS6と、を有することを特徴とする電波到来方向の追尾方法が提供される。
【0040】
上記の方法によれば、前回の到来方向追尾時刻における到来方向の状態ベクトルを利用して、今回の到来方向追尾時刻の到来方向の状態ベクトルをオブザーバで予測して、到来方向の暫定値を計算し、さらに、その暫定値と予測した状態ベクトル及び到来方向の予測値をもとに、今回の到来方向追尾時刻における状態ベクトルを計算し、その状態ベクトルから到来方向の推定値を計算するので、信号源(通話者など)の移動による直接波や反射波の到来方向の運動軌跡が互いに交差するような場合でも、演算量を増やすことなく精確に電波到来方向の推定値が得られる。
【発明の効果】
【0041】
本発明は、前回の到来方向追尾時刻における到来方向の状態ベクトルを利用して、今回の到来方向追尾時刻の到来方向の状態ベクトルをオブザーバで予測して、到来方向の暫定値を計算し、さらに、その暫定値と予測した状態ベクトル及び到来方向の予測値をもとに、今回の到来方向追尾時刻における状態ベクトルを計算し、その状態ベクトルから到来方向の推定値を計算するので、信号源(通話者など)の移動による直接波や反射波の到来方向の運動軌跡が互いに交差するような場合でも、演算量を増やすことなく精確に電波到来方向の推定値を計算でき、その到来方向を実時間で精確に追尾できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
まず本発明の実施の形態の電波到来方向追尾方法の概略を説明する。
本発明の実施の形態の電波到来方向追尾方法は、信号源(通話者など)の移動による直接波や反射波の到来方向の運動軌跡が互いに交差するような場合について特に適したものである。
【0043】
なお、以下では、アレーアンテナを構成するM個のアンテナ素子によりp個の到来電波(なお、M>2p)を受信するものとして説明する。また、前向きサブアレー、後ろ向きサブアレー若しくは前後向きサブアレー、いずれの場合にも適用できる。
【0044】
また、以下の処理で追尾する到来波(入射する信号)は、無相関信号、相関信号、多重波(完全相関)のいずれでも良い。
図1は、本発明の実施の形態の電波到来方向追尾方法の概略を説明するフローチャートである。
【0045】
また、図2は、到来方向追尾期間とサンプリング間隔の関係を示す図である。
到来方向はサンプリング間隔Tsに比べて時間的にゆっくり変化するものとし、到来方向追尾期間(すなわち到来方向の計算更新期間)をT=NTs(NはTにおけるスナップショット個数である。)とする。また、サンプリング時刻kと、到来方向追尾時刻nとの関係はk=nN,nN+1,…,(n+1)N−1と表せる。
【0046】
図1で示す本実施の形態の電波到来方向追尾方法では、到来方向追尾時刻nにおいて、まず、到来方向追尾期間TのN個のスナップショットを用い、サンプリング時刻kごとに、アレーアンテナにおける所定のアンテナ素子の受信データと他のアンテナ素子の受信データ間の瞬間相関を計算する(ステップS1)。
【0047】
次に、各アンテナ素子に存在する付加雑音の影響を受けないサンプリング時刻k(サンプリング速度が1/Ts)における瞬間相関から瞬間相関行列である1乃至4つのHankel相関行列を計算する(ステップS2)。
【0048】
その後、固定または時変のステップサイズを用いた最小二乗平均(Least-square-mean:LMS)法または正規最小二乗平均(Normalized least-square-mean:NLMS)法などの適応アルゴリズムを用いた線形演算により、ステップS2で計算した瞬間相関行列からサンプリング時刻kにおける雑音部分空間を推定する(ステップS3)。
【0049】
また、前回の到来方向追尾時刻n−1における到来方向の状態ベクトル(到来方向、到来方向の変化速度及び加速度からなる。)を利用して、今回の到来方向追尾時刻nの到来方向の状態ベクトルをオブザーバで予測する(ステップS4)。
【0050】
そして、予測した状態ベクトルから得られる到来方向の予測値と、サンプリング時刻k=(n+1)N−1に得られた雑音部分空間を利用して、近似Newton法などの適応アルゴリズムを用い、この到来方向追尾時刻nにおける信号の到来方向の暫定値を計算する(ステップS5)。
【0051】
さらに、この暫定値と、予測した状態ベクトル及び予測値をもとに、今回の到来方向追尾時刻nにおける状態ベクトルを計算し、その状態ベクトルから到来方向の推定値を計算する(ステップS6)。
【0052】
このような本実施の形態の電波到来方向追尾方法によれば、信号源(通話者など)の移動による直接波や反射波の到来方向の運動軌跡が互いに交差するような場合でも、演算量を増やすことなく精確に電波到来方向を追尾することができる。
【0053】
なお、ステップS4の処理はステップS5の処理よりも前であれば、この順番でなくてもよい。
以下本実施の形態の詳細を説明する。
【0054】
図3は、送信源とアレーアンテナとの配置を示す図である。
送信源10から基地局のアレーアンテナ20にまっすぐ入射する電波が直接波11である。また、建物BL1、BL2などの地物によって反射されてから基地局に入射するものが反射波12である。ここでは反射波が2つの場合について示しているが、以下では送信源10からの直接波11と反射波12の個数はpとする。また、pを既知と仮定する。あるサンプリング時刻kにおける直接波と反射波の関係は、次式で表わせる。
【0055】
【数10】
【0056】
ここで、βiは直接波s1(k)に関して反射波si(k)の複素減衰を表わすマルチパス係数である。ただし、βi≠0かつβ1=1である。
図4は、電波到来方向推定システムの構成を示す図である。
【0057】
電波到来方向推定システムは、アレーアンテナ20と、ベースバンド処理及びデジタル信号処理を行うベースバンド/デジタル処理部30と、本実施の形態の電波到来方向追尾処理を行う電波到来方向追尾部40を有している。
【0058】
アレーアンテナ20は、M個のアンテナ素子21から構成されている。但し、アレーアンテナ20に入射される電波(直接波及び反射波)の個数をpとすると、M>2pである。
【0059】
図5は、電波到来方向追尾部の構成を示すブロック図である。
電波到来方向追尾部40は、瞬間相関の計算手段41、瞬間相関行列の計算手段42、線形演算子の計算手段43、直交射影作用素の計算手段44、到来方向の暫定値の計算手段45、オブザーバを用いた到来方向の予測手段46、及びオブザーバを用いた到来方向の計算手段47で構成されている。
【0060】
以下、電波到来方向追尾処理の詳細を説明する。
まず、オブザーバを用いた到来方向の予測手段46は、到来方向追尾時刻nにおいて、前の到来方向追尾時刻n−1における到来方向の状態ベクトル
【0061】
を利用して、以下のようにオブザーバで到来方向の状態ベクトル(即ち到来方向)を予測しておく。
【0062】
【数11】
【0063】
この処理は、図1のステップ4の処理に相当する。
次に、瞬間相関の計算手段41は、アンテナ素子の受信データから、ベースバンド/デジタル処理部30から得られた複素デジタル信号N個のスナップショット
【0064】
で、前述の式(1)のように受信信号ベクトルy(k)をつくる。さらに、以下の式(12)のようにサンプリング時刻kにおける信号y(k)とy*M(k)及びy(k)とy*M(k)の相関ベクトル
【0065】
を求める。
【0066】
【数12】
【0067】
一般に、アレーアンテナ20により受信した信号から電波到来方向を推定する際には、アンテナ素子21の受信信号ベクトルy(k)(=y1(k),y2(k),…,yM(k))の各受信信号間の相関r11〜rMMを演算して行列に配列したアレー共分散行列Rが用いられる。このアレー共分散行列Rは、受信信号ベクトルy(k)の複素共役転置をyH(k)とすると、無相関白色雑音環境において図6のように与えられる。
【0068】
図6は、無相関白色雑音環境におけるアレー共分散行列を示す図である。
また、xi(k)を無雑音受信信号、wj(k)を無相関白色雑音とすると、
yi(k)=xi(k)+wi(k)
E[wi(k)wj*(k)]=σ2(i=j)
E[wi(k)wj*(k)]=0(i≠j)
である。すなわち、無相関白色雑音環境ではアレー共分散行列Rの対角要素r11,r22,…,rMMに雑音が含まれている。
【0069】
図7は、瞬間アレー共分散行列において電波到来方向推定に必要な列要素を説明する図である。
また図8は、瞬間アレー共分散行列において電波到来方向推定に必要な行要素を説明する図である。
【0070】
瞬間アレー共分散行列R(k)は共役対称であるため、到来方向の推定には図7に示すように1列目と最終列のM列、または図8に示すように1行目と最終行のM行を計算するだけで十分である。すなわち、式(12a)のように第M番目のアンテナ素子の受信データと、第1、2、…、M−1番目のアンテナ素子の受信データ間の相関、または、式(12b)のように、第1番目のアンテナ素子の受信データと、第2、3、…、M番目のアンテナ素子の受信データ間の相関のみを計算すればよい。以下では式(12a)、式(12b)を両方用いた場合について説明する。
【0071】
次に、瞬間相関行列の計算手段42は、式(12a)、(12b)で得られた相関ベクトルを使って、以下の式(13)のようなサンプリング時刻kにおける瞬間相関行列である(M−p)×pHankel相関行列を計算する。
【0072】
【数13】
【0073】
さらに瞬間相関行列の計算手段42は、以下の式(14)のように、(M−p)×pHankel相関行列をそれぞれ上下2つの部分に分割する。
【0074】
【数14】
【0075】
式(12a)、(12b)〜式(14)について、より具体的に説明する。
瞬間相関の計算手段41は、式(12a)を計算することで、アレーアンテナ20におけるM番目のアンテナ素子21の受信信号と第1,2,…,M−1番目のアンテナ素子の受信信号間の、サンプリング時刻kにおける瞬間相関r1M(k),r2M(k),…,rM-1,M(k)(図7の最終列参照)を求める。そして瞬間相関行列の計算手段42は、式(13)を計算することで、以下の図のようにしてHankel相関行列Φf(k)を求め、この瞬間相関行列をそれぞれ上下2つの部分に分割する。
【0076】
図9は、瞬間アレー共分散行列の第1列あるいは最終列の要素を用いて瞬間相関行列を生成し、上下2つの行列に分離する様子を示す図である。
瞬間相関行列の計算手段42は、計算した瞬間アレー共分散行列Rの最終列の(M−1)個の瞬間相関より、信号数(=p個)の瞬間相関を上から下方向に1個ずつずらしながら(M−p)組取り出し、1行目から順番に配列することで、(M−p)×pの瞬間相関行列Φf(k)を作成する。そしてさらに、式(14)のようにΦf(k)を上下2つのp×pの行列Φf1(k)と(M−2p)×pの行列Φf2(k)に分割する。
【0077】
同様に、瞬間相関の計算手段41は、式(12b)を計算することで、アレーアンテナ20における1番目のアンテナ素子21の受信信号と第2,3,…,M番目のアンテナ素子の受信信号間の、サンプリング時刻kにおける瞬間相関r21(k),r31(k),…,rM1(k)(図7の第1列参照)を求める。そして、瞬間相関行列の計算手段42は、式(13)を計算することで、図9のように瞬間アレー共分散行列R(k)の第1列の(M−1)個の瞬間相関より信号数(=p個)の瞬間相関を上から下方向に1個ずつずらしながら(M−p)組取り出し、1行目から順番に配列することで、(M−p)×pの瞬間相関行列
【0078】
を作成する。そしてさらに、式(14)のように上下2つのp×pの行列
【0079】
と(M−2p)×pの行列
【0080】
に分割する。
以上の処理を、瞬間アレー共分散行列R(k)の行についても同様に行う。すなわち、瞬間相関の計算手段41は、式(12b)を計算することで、アレーアンテナ20における1番目のアンテナ素子21の受信信号と第2,3,…,M番目のアンテナ素子の受信信号間の、サンプリング時刻kにおける瞬間相関r12(k),r13(k),…,r1M(k)(図8の第1行目参照)を求める。そして、瞬間相関行列の計算手段42は、式(13)を計算することで、以下の図のようにしてHankel相関行列(瞬間相関行列)Φb(k)を求め、瞬間相関行列をそれぞれ上下2つの部分に分割する。
【0081】
図10は、瞬間アレー共分散行列の第1行あるいは最終行の要素を用いて瞬間相関行列を生成し、上下2つの行列に分離する様子を示す図である。
瞬間相関行列の計算手段42は、瞬間アレー共分散行列R(k)の第1行目の(M−1)個の瞬間相関より、信号数(=p個)の瞬間相関を右から左に1個ずつずらしながら(M−p)組取り出し、1行目から順番に配列することで(M−p)×pの瞬間相関行列Φb(k)を作成する。そしてさらに、式(14)のように上下2つのp×pの行列Φb1(k)と(M−2p)×pの行列Φb2(k)に分割する。
【0082】
同様に、瞬間相関の計算手段41は、式(12a)を計算することで、アレーアンテナ20におけるM番目のアンテナ素子21の受信信号と第1,2,…,M−1番目のアンテナ素子21の受信信号間のサンプリング時刻kにおける瞬間相関rM1(k),rM2(k),…,rM,M-1(k)(図8の最終行参照)を求める。そして、瞬間相関行列の計算手段42は、式(13)を計算することで、図10のように瞬間アレー共分散行列R(k)の最終行の(M−1)個の瞬間相関より信号数(=p個)の瞬間相関を右から左に1個ずつずらしながら(M−p)組取り出し、1行目から順番に配列することで(M−p)×pの瞬間相関行列
【0083】
を作成する。そしてさらに、式(14)のように上下2つのp×pの行列
【0084】
と(M−2p)×pの行列
【0085】
に分割する。
以上のようにして、4つのHankel相関行列と、それぞれを分割した8つの行列が得られる。
【0086】
次に、雑音部分空間を推定する処理に移る。線形演算子の計算手段43は、式(14)で得られた8つの行列を用いて、以下の式(15)のように2の行列Φ1(k)とΦ2(k)を形成し、式(16)のように推定誤差行列E(k)を計算する。
【0087】
【数15】
【0088】
【数16】
【0089】
次に、線形演算子の計算手段43には、以下の式(17)に示したようにLMSアルゴリズムを用いて、線形演算子P(k)を求める。
【0090】
【数17】
【0091】
次に、直交射影作用素の計算手段44で、式(17)から得られたP(k)を用いて、式(18)に示すようにQR分解を行う。
【0092】
【数18】
【0093】
また、直交射影作用素Π(k)を以下の式(19)で求め、雑音部分空間を推定する。
【0094】
【数19】
【0095】
次に、到来方向の暫定値の計算手段45は、前述の式(11)で得られた到来方向の予測値
【0096】
と式(19)で得られたΠ(n)=Π(k)|k=(n+1)N-1を用いて、以下の式(20)のようにサンプリング時刻k=(n+1)N−1(すなわち到来方向追尾時刻n)における到来方向の暫定値
【0097】
を近似Newton法で計算する。
【0098】
【数20】
【0099】
最後に、オブザーバを用いた到来方向の計算手段47は、式(20)で得られた到来方向の暫定値
【0100】
と、式(11)で得られた
【0101】
を利用して、以下の式(21)に示すようにオブザーバで、到来方向追尾時刻nにおける到来方向の状態ベクトルを計算して、到来方向の推定値
【0102】
を与える。
【0103】
【数21】
【0104】
ここで、giはオブザーバゲインである。だたし、オブザーバゲインgiはF−giCTのすべての固有値が単位円内に配置するように設定される。
以上に述べたように、電波到来方向追尾部40において、ある固定したステップサイズμをもつLMSアルゴリズム及び近似Newton法を利用して、信号の到来方向をオンラインで追尾できる。また、信号源(通話者など)の移動による直接波や反射波の到来方向の運動軌跡が互いに交差するような場合でも、演算量を増やすことなく精確に電波到来方向の推定値を得ることができる。
【0105】
ところで、上記では4つのHankel相関行列
【0106】
を求め、それぞれを上下2つの行列
【0107】
に分離し、これらを用いて2つの行列Φ1(k)、Φ2(k)を決定した。しかし、アレー共分散行列Rは共役対称になっていることから、到来方向の推定には図7に示す第1列目、最終列目、図8に示す第1行目、最終行目のみの瞬間相関、あるいは任意の2以上の行、列を用いるだけでも電波到来方向を推定できる。すなわち、4つのHankel相関行列のうち、任意の1〜4つだけを用いて行列Φ1(k)、Φ2(k)を決定することができる。
【0108】
例えば、任意の1つを用いる場合には行列Φ1(k)、Φ2(k)は以下の式(22a)〜(22d)のいずれかにより決定する。
【0109】
【数22】
【0110】
また、任意の2つを用いる場合には行列Φ1(k)、Φ2(k)は以下の式(23a)〜(23f)のいずれかにより決定する。
【0111】
【数23】
【0112】
また、任意の3つを用いる場合には行列Φ1(k)、Φ2(k)は以下の式(24a)〜(24d)のいずれかにより決定する。
【0113】
【数24】
【0114】
なお、任意の4つを用いる場合については前述した通りである。
また、上記では、ある固定したステップサイズμを持つLMSアルゴリズムを用いて、式(17)のように線形演算子P(k)を求めたが、ステップサイズμを時変としてもよい。すなわちステップサイズμをサンプリング時刻kにおける瞬間相関行列Φ1(k)に変動させて、式(17)におけるステップサイズμを
【0115】
【数25】
【0116】
により決定すると、時変ステップサイズμをもつLMSアルゴリズムが可能になる。
また、LMSアルゴリズムの代わりに、以下の式(26)により表せるNLMSアルゴリズムを用いて線形演算子P(k)を計算してもよい。
【0117】
【数26】
【0118】
以下、計算機シミュレーションにより本実施の形態の電波到来方向の追尾方法の効果を検討した結果を説明する。
図11は、到来方向の推定値の計算結果を示す図である。
【0119】
縦軸が角度、横軸が時間である。また、点線が実際の受信信号の到来方向、実線が推定値の軌跡を示している。
ここで、線形等間隔アレーの素子数はM=9素子とする。また、4つの多重波は、それぞれθ1(n)、θ2(n)、θ3(n)、θ4(n)からアレーアンテナに入射し、それぞれのSNRは15dB、10dB、13dB、13dBである。到来方向の追尾期間T=1sにおいてN=100個のスナップショットを観測し、式(26)のNLMSアルゴリズムを用いて到来方向追尾時刻nにおける直交射影作用素Π(n)=Π(k)|k=(n+1)N-1を計算し、式(20)から到来方向の推定値
【0120】
を求めた。ここで、NLMSのステップサイズは
【0121】
である。100回の計算によって得られた推定値の軌跡は、図のように電波の到来方向の運動軌跡が交差する場合であっても、実際の到来方向に精確に追尾していることがわかる。以上のように本実施の形態の電波到来方向の追尾方法では、複雑な固有値分解を使用せず、軌跡に交差する時変な完全相関信号(多重波)の到来方向を迅速かつ精確に推定できる。
【0122】
なお、上記では無相関白色雑音環境における電波到来方向の追尾方法について説明したが、空間相関雑音環境においても適用可能である。但し空間相関雑音環境では、瞬間相関行列を以下のように作成する。
【0123】
空間相関雑音環境において、雑音の空間的相関の長さを
【0124】
と仮定すると(つまり、
【0125】
の場合には、E{wi(n)w*i+k(n)}=0)、式(13)で求めた(M−p)×pのHankel相関行列の代わりに、以下のようにHankel相関行列を形成する。
すなわち、空間相関雑音環境において、アレーアンテナ20におけるM番目のアンテナ素子21の受信信号と、
【0126】
のアンテナ素子の受信信号間の、サンプリング時刻kにおける相関と、アレーアンテナ20における1番目のアンテナ素子21の受信信号と、
【0127】
のアンテナ素子の受信信号間の、サンプリング時刻kにおける相関により、図9と図10と同様の手法により、式(27)のようにサンプリング時刻kにおける
【0128】
のHankel相関行列を形成できる。
【0129】
【数27】
【0130】
ここで、
【0131】
と仮定すると、式(14)の代わりに式(27)の右側のように、これらのHankel相関行列をそれぞれp×pと
【0132】
の2つの行列に分割できる。そしてこれらの行列を用いて式(15)で示したような行列Φ1(k)、Φ2(k)を形成すれば、無相関白色雑音環境と同様に、電波到来方向の推定値を求めることができる。
【0133】
以上説明してきた電波到来方向の追尾処理を行う電波到来方向追尾部40と、推定された到来方向にピークが向くように受信ビームパターンを生成するビーム形成手段を組み合わせて基地局受信装置を構成することができる。
【0134】
図12は、本実施の形態の基地局受信装置の構成を示す図である。
基地局受信装置は、例えば基地局内に配置され、アレーアンテナ20、ベースバンド/デジタル処理部30、電波到来方向追尾部40のほかに、瞬間ビーム形成器50、チャネル受信部60を有している。
【0135】
基地局受信装置の動作を簡単に説明する。
アレーアンテナ20で信号を受信すると、ベースバンド/デジタル処理部30は、アンテナ素子ごとに信号処理して複素デジタル受信データを出力する。電波到来方向追尾部40は、複素デジタル受信データを得て、前述したような電波到来方向の追尾処理を行い到来方向追尾時刻nにおける到来方向の推定値を算出する。瞬間ビーム形成器(受信ビームフォーマ)50は、算出された到来方向の推定値を用いて信号源方向にピークを有するようにビームを形成する。すなわち、瞬間ビーム形成器50は、干渉や雑音などを抑圧しながら希望信号を抽出してチャネル受信部60に送る。チャネル受信部60は周知の方法で受信処理を行って受信データを復調、出力する。なお、瞬間ビーム形成器50として、前述のような本実施の形態の電波到来方向の追尾手法により得られた到来方向の情報を利用して種々の構成が可能であるが、例えば、O.L. Frost, “An algorithm for linearly constrained adaptive array processing,” Proc. IEEE, vol. 60, no. 8, pp. 926-935 (1975)及びJ. Xin, H. Tsuji, Y. Hase, and A. Sano, “Array beamforming based on cyclic signal detection,” Proc. IEEE 48th Vehicular Technology Conference, pp. 890-894, Ottawa, Canada (1998)などに記載されたビーム形成手法を活用して、希望の信号到来方向にビームを向けて受信することが可能である。
【0136】
また、以上説明してきた電波到来方向の追尾処理を行う電波到来方向追尾部40と、推定された到来方向にピークが向くように送信ビームパターンを生成するビーム形成手段を組み合わせて基地局送信装置を構成することができる。
【0137】
図13は、本実施の形態の基地局送信装置の構成を示す図である。なお、ここには図12で示した基地局受信装置も図示している。
瞬間ビーム形成器(送信ビームフォーマ)70は、送信部80から送信データが入力されると、電波到来方向追尾部40により推定された到来方向にピークが向くように送信ビームパターンを形成し、複素デジタル送信信号をベースバンド/デジタル処理部30に入力する。ベースバンド/デジタル処理部30は、複素デジタル送信データを無線信号に変換してアレーアンテナ20aの各アンテナ素子21aに入力する。この結果、受信局に向けてビームが発射され、誤り率を低下できる。なお、図13のアレーアンテナ20、20aは共通化することができる。
【0138】
(付記1)複数個のアンテナ素子を同じ素子間隔で直線状の異なる空間位置に配列したアレーアンテナで所定数の電波を受信しその到来方向を推定する電波到来方向の追尾方法において、
サンプリング時刻ごとに、前記アレーアンテナにおける所定のアンテナ素子の受信データと他のアンテナ素子の受信データ間の瞬間相関を計算するステップと、
前記瞬間相関をもとに瞬間相関行列を計算するステップと、
前記瞬間相関行列を用いて、線形演算により雑音部分空間を推定するステップと、
前回の到来方向追尾時刻における到来方向の状態ベクトルを利用して、今回の到来方向追尾時刻の到来方向の状態ベクトルをオブザーバで予測するステップと、
予測した前記状態ベクトルから得られる到来方向の予測値と、前記雑音部分空間を利用して、今回の到来方向追尾時刻における到来方向の暫定値を計算するステップと、
前記暫定値と、予測した前記状態ベクトル及び前記予測値をもとに、今回の到来方向追尾時刻における状態ベクトルを計算し、前記状態ベクトルから到来方向の推定値を計算するステップと、
を有することを特徴とする電波到来方向の追尾方法。
【0139】
(付記2)前記瞬間相関行列は、前記アンテナ素子の数をMとしたとき、第M番目の前記アンテナ素子の受信データと第1、2、…、M−1番目の前記アンテナ素子の受信データ間の相関から求められ、時空間的に無相関白色雑音環境における電波到来方向を追尾することを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
【0140】
(付記3)前記瞬間相関行列は、前記アンテナ素子の数をMとしたとき、第1番目の前記アンテナ素子の受信データと第2、3、…、M番目の前記アンテナ素子の受信データ間の相関から求められ、時空間的に無相関白色雑音環境における電波到来方向を追尾することを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
【0141】
(付記4)前記瞬間相関行列は、前記アンテナ素子の数をM、雑音の空間的相関の長さを
【0142】
としたとき、第1番目の前記アンテナ素子の受信データと
【0143】
の前記アンテナ素子の受信データ間の相関から求められ、時空間的に相関雑音環境における電波到来方向を追尾することを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
(付記5)前記瞬間相関行列は、前記アンテナ素子の数をM、雑音の空間的相関の長さを
【0144】
としたとき、第M番目の前記アンテナ素子の受信データと
【0145】
の前記アンテナ素子の受信データ間の相関から求められ、時空間的に相関雑音環境における電波到来方向を追尾することを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
(付記6)前記瞬間相関行列は前記瞬間相関をもとに1乃至4つ生成され、1乃至4つの前記瞬間相関行列を用いて、前記雑音部分空間を推定することを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
【0146】
(付記7)固定または時変のステップサイズを用いた適応アルゴリズムにより前記雑音部分空間を推定することを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
(付記8)前記適応アルゴリズムは最小二乗平均法または正規最小二乗平均法であることを特徴とする付記7記載の電波到来方向の追尾方法。
【0147】
(付記9)近似Newton法を用いて前記暫定値を計算することを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
(付記10)前記状態ベクトルは、前記到来方向、前記到来方向の変化速度及び加速度で表されることを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
【0148】
(付記11)到来方向の計算更新期間はサンプリング期間よりも長く、前記計算更新期間におけるスナップショット数をNとすると、前記到来方向追尾時刻と前記サンプリング時刻との関係は、前記到来方向追尾時刻をn、前記サンプリング時刻をkとすると、k=nN,nN+1,…,(n+1)N−1で表されることを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
【0149】
(付記12)時空間的に無相関白色雑音環境における多重波の到来方向を追尾することを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
(付記13)時空間的に無相関白色雑音環境における相関信号の到来方向を追尾することを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
【0150】
(付記14)時空間的に無相関白色雑音環境における無相関信号の到来方向を追尾することを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
(付記15)時空間的に相関雑音環境における多重波の到来方向を追尾することを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
【0151】
(付記16)時空間的に相関雑音環境における相関信号の到来方向を追尾することを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
(付記17)時空間的に相関雑音環境における無相関信号の到来方向を追尾することを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
【0152】
(付記18)複数個のアンテナ素子を同じ素子間隔で直線状の異なる空間位置に配列したアレーアンテナで所定数の電波を受信しその到来方向を推定する電波到来方向追尾装置において、
サンプリング時刻ごとに、前記アレーアンテナにおける所定のアンテナ素子の受信データと他のアンテナ素子の受信データ間の瞬間相関を計算する瞬間相関計算手段と、
前記瞬間相関をもとに瞬間相関行列を計算する瞬間相関行列計算手段と、
前記瞬間相関行列を用いて、線形演算により雑音部分空間を推定する雑音部分空間推定手段と、
前回の到来方向追尾時刻における到来方向の状態ベクトルを利用して、今回の到来方向追尾時刻の到来方向の状態ベクトルをオブザーバで予測する到来方向予測手段と、
予測した前記状態ベクトルから得られる到来方向の予測値と、前記雑音部分空間を利用して、今回の到来方向追尾時刻における到来方向の暫定値を計算する暫定値計算手段と、
前記暫定値と、予測した前記状態ベクトル及び前記予測値をもとに、今回の到来方向追尾時刻における状態ベクトルを計算し、前記状態ベクトルから到来方向の推定値を計算する推定値計算手段と、
を有することを特徴とする電波到来方向追尾装置。
【0153】
(付記19)複数個のアンテナ素子を同じ素子間隔で直線状の異なる空間位置に配列したアレーアンテナで所定数の電波を受信する基地局装置において、
サンプリング時刻ごとに、前記アレーアンテナにおける所定のアンテナ素子の受信データと他のアンテナ素子の受信データ間の瞬間相関を計算する瞬間相関計算手段と、前記瞬間相関をもとに瞬間相関行列を計算する瞬間相関行列計算手段と、前記瞬間相関行列を用いて、線形演算により雑音部分空間を推定する雑音部分空間推定手段と、前回の到来方向追尾時刻における到来方向の状態ベクトルを利用して、今回の到来方向追尾時刻の到来方向の状態ベクトルをオブザーバで予測する到来方向予測手段と、予測した前記状態ベクトルから得られる到来方向の予測値と、前記雑音部分空間を利用して、今回の到来方向追尾時刻における到来方向の暫定値を計算する暫定値計算手段と、前記暫定値と、予測した前記状態ベクトル及び前記予測値をもとに、今回の到来方向追尾時刻における状態ベクトルを計算し、前記状態ベクトルから到来方向の推定値を計算する推定値計算手段と、を備えた電波到来方向追尾部と、
前記推定値を入力して推定された方向にピークが向くビームを生成するビーム形成部と、
を有することを特徴とする基地局装置。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】本発明の実施の形態の電波到来方向追尾方法の概略を説明するフローチャートである。
【図2】到来方向追尾期間とサンプリング間隔の関係を示す図である。
【図3】送信源とアレーアンテナとの配置を示す図である。
【図4】電波到来方向推定システムの構成を示す図である。
【図5】電波到来方向追尾部の構成を示すブロック図である。
【図6】無相関白色雑音環境におけるアレー共分散行列を示す図である。
【図7】瞬間アレー共分散行列において電波到来方向推定に必要な列要素を説明する図である。
【図8】瞬間アレー共分散行列において電波到来方向推定に必要な行要素を説明する図である。
【図9】瞬間アレー共分散行列の第1列あるいは最終列の要素を用いて瞬間相関行列を生成し、上下2つの行列に分離する様子を示す図である。
【図10】瞬間アレー共分散行列の第1行あるいは最終行の要素を用いて瞬間相関行列を生成し、上下2つの行列に分離する様子を示す図である。
【図11】到来方向の推定値の計算結果を示す図である。
【図12】本実施の形態の基地局受信装置の構成を示す図である。
【図13】本実施の形態の基地局送信装置の構成を示す図である。
【図14】線形等間隔アレーにおけるサブアレーを示す図である。
【符号の説明】
【0155】
10 送信源
11 直接波
12 反射波
20 アレーアンテナ
21 アンテナ素子
30 ベースバンド/デジタル処理部
40 電波到来方向追尾部
【技術分野】
【0001】
本発明は電波到来方向の追尾方法及び電波到来方向追尾装置に関し、特に適応アレーアンテナ(Adaptive array antenna)により受信した所定数の電波の到来方向を推定する電波到来方向の追尾方法及び電波到来方向追尾装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、移動通信に適応アレーアンテナを用いた研究開発が注目されている。アレーアンテナとは複数個のアンテナ素子をある形状で異なる空間位置に配置したものである。このアレーアンテナに入射する電波(以下、信号処理の立場から信号という場合がある。)の到来方向を推定する問題は、適応アレーアンテナの重要な要素技術の1つである。
【0003】
信号の到来方向推定問題に関して、推定精度と計算演算量などの立場から信号部分空間と雑音部分空間の直交性を利用した部分空間手法(Subspace-based method)がよく知られており、その代表例としてMUSIC(Multiple signal classification)がある(例えば、非特許文献1参照。)。また、完全な相関性をもつ多重波の到来方向推定問題への対応策として、空間スムージングを用いた部分空間手法(subspace-based method with spatial smoothing)がよく知られている。その代表例として、空間スムージングMUSIC(Spatial smoothing based MUSIC)がある(例えば、非特許文献2、3参照。)。
【0004】
無相関信号の到来方向を推定する部分空間手法は、アレーアンテナに入射する信号からアレー共分散行列を求めて、このアレー共分散行列の固有値分解より信号部分空間と雑音部分空間を求める。そして、信号部分空間と雑音部分空間の直交性を利用し信号の到来方向を推定する。これに対し、相関性をもつ信号(完全な相関性を持つ多重波を含む)の到来方向の推定では、入射信号間の相関を抑圧するため、M個のアレー素子数を同じ素子間隔で直線状の異なる空間位置に配列したアンテナ(以下、線形等間隔アレー(Uniform linear array:ULA)ともいう。)をサブアレー化し、各サブアレーの共分散行列の平均操作を行うことにより、空間的に平均された共分散行列の信号部分空間の次元を多重波の個数に回復する。従って、無相関信号の到来方向を推定する部分空間手法のように信号部分空間と雑音部分空間の直交関係を利用して、相関信号の到来方向を推定することが可能となる。
【0005】
以下に非特許文献3に記載された多重波の到来方向を推定する空間スムージングMUSICを具体的に説明する。
いま、線形等間隔アレーに、p個の多重波狭帯域信号{si(k)}が角度{θi}からアレーアンテナに入射しているとする。ここでサンプリング間隔をTsとすると、各素子のアレー受信信号は以下のように表せる。
【0006】
【数1】
【0007】
ここで、f0、c、dはそれぞれ搬送波の周波数、伝搬速度、素子間隔(半波長)である。(・)Tは転置を表し、a(θi(k))とAはアレー応答ベクトルと応答行列である。wi(k)は素子ごとに独立な平均0かつ電力σ2の白色ガウス雑音とする。
【0008】
まず、信号の到来方向が時間的に不変である場合を考慮する。即ち、θi(k)=θiの場合である。ここで、アレー共分散行列は次式となる。
【0009】
【数2】
【0010】
ここで、E{・}と(・)Hは期待演算と複素共役転置を表し、Rs=E{s(k)sH(k)}は入射する多重波の共分散行列であり、IMはM×M単位行列である。さらに、観測データyi(k)とym(k)の相関rikをrim=E{yi(k)y*m(k)}で定義すると、rim=r*miという関係が存在する。(・)*は複素共役を表す。また、式(2)にあるアレー共分散行列Rは次式で明確的に表現できる。
【0011】
【数3】
【0012】
空間スムージングMUSICは完全な相関性を持つ多重波の到来方向{θk}を推定するため、全体の線形等間隔アレーを、それぞれm(1≦m≦M)個の素子をもつオーバーラップしたL個のサブアレー(Overlapped subarray)に分割する。
【0013】
図14は、線形等間隔アレーにおけるサブアレーを示す図である。
図のようにアレーアンテナ100において、アンテナ素子101は等間隔dでM個並んでおり、L個のサブアレーに分割されている。ここで、mとLはサブアレーのサイズとサブアレーの個数と呼ばれ、L=M−m+1である。式(1)より、
【0014】
のサブアレーの受信ベクトル
【0015】
は、以下の式で表現できる。
【0016】
【数4】
【0017】
また、am(θi)とAmはサブアレーの応答ベクトルと応答行列である。従って、サブアレーの共分散行列は以下の式で与えられる。
【0018】
【数5】
【0019】
さらに、L個のサブアレーの共分散行列
【0020】
を空間的に平均すると、以下のような共分散行列が得られる。
【0021】
【数6】
【0022】
この空間的に平均された共分散行列
【0023】
の固有値分解を以下のように表すことができる。
【0024】
【数7】
【0025】
ここで、eiとλiは共分散行列の固有ベクトルと固有値であり、Eは{ei}を列とする行列、Λは{λi}を要素とする対角行列である。また、信号ベクトル{e1,e2,…,ep}と雑音ベクトル{ep+1,eP+2,…,em}が張る空間をそれぞれ信号部分空間と雑音部分空間と呼ぶ。なお、信号部分空間はアレーの応答ベクトルを用いて表すことができる。信号部分空間と雑音部分空間の直交関係に基づく到来方向推定方法は部分空間手法と呼ばれる。
【0026】
式(7)の共分散行列の固有値解析により、雑音ベクトル{ep+1,eP+2,…,em}と信号部分空間に存在するサブアレーの応答ベクトルam(θi)には、次の直交関係が成立する。
【0027】
【数8】
【0028】
ここで、k=p+1,…,mである。この直交関係から、次のようなスペクトル
【0029】
を計算できる。
【0030】
【数9】
【0031】
ここで、am(θ)=[1,ejω0τ(θ),…,ejω0(m-1)τ(θ)]Tである。空間スムージングMUSIC、式(9)で与えられたスペクトルのp個最大ピークの位置から入射する多重波の到来方向を推定する。
【0032】
式(7)で明らかにように、(空間スムージング)MUSICなど到来方向を推定する部分空間手法には、信号または雑音部分空間を得るため、アレー共分散行列の固有値分解を行う必要性がある。しかし、実際のアレー実装の場合には、特にアレー素子の数が多い時や、実時間処理で変化する到来方向を推定する際に行う、固有値分解(Eigen value decomposition:EVD)或いは特異値分解(Singular value decomposition:SVD)処理の計算は複雑であり、計算時間がかなりかかる。従って、従来の固有分解(固有値分解或いは特異値分解)に基づく部分空間到来方向推定手法の実際への応用は計算の負担となる固有分解に制限されてしまう。また、実際の移動通信システムでは、建物などの地物の反射により通話者(移動端末)からの信号は直接パスと反射パスから基地局アレーアンテナに入射することがよくあるので、マルチパス伝搬環境における多重波の到来方向推定問題は非常に重要となる。しかし、上記の手法では希望する信号と干渉信号を区別できないので、多数入射波が存在する際に全ての到来方向を計算しなければならない。このため、アレーアンテナの素子数を増やす必要があり、アレーアンテナの規模やコストが増えてしまう。さらに、通話者(信号源)の移動などにより、希望波の到来方向が時間的に変化する場合には、従来の手法を利用すると高速かつ高精度でアレーに入射する信号の到来方向を推定できないし、精確な基地局の受信/送信ビーム形成できなくなるので、基地局の受信及び送信システムの性能が劣化することが生じる。
【0033】
最近では、固有値分解を利用しない適応到来方向推定および追尾手法(例えば、適応SWEDE(Subspace-based methods without eigendecomposition)法(非特許文献4参照。))が検討されている。しかし、多重波または低い信号対雑音比(Signal-to-noise ratio:SNR)または少ないデータ数の場合にはこれらの手法の性能は著しく劣化してしまう。また、これらの最小二乗(Least-squares:LS)を用いた手法の計算量が大きい。
【0034】
また、本発明者は、通信信号の周期定常性に基づく到来方向推定および追尾する電波到来方向の推定手法(例えば非特許文献5参照。)を提案しているが、このLSを用いた手法は、信号の周期定常性という時間的な特性を利用し、かなり長いアレーデータが必要となる。
【0035】
さらに本発明者は、新しい立場から固有値分解を利用しないかつ計算的に有効なSUMWE(Subspace-based method without eigendecomposition)という到来方向推定手法(例えば非特許文献6参照。)を提案したが、この手法には、オンライン到来方向推定および時間的に変化する到来方向の追尾問題が考慮されていなかった。
【0036】
そこで、本発明者は、到来方向の適応推定や時変到来方向の追尾問題への対応策として、計算的に有効なSUMWE手法を利用して、ABEST(Adaptive bearing estimation and tracking)という到来方向の適応推定追尾手法(例えば非特許文献7参照。)を提案した。
【非特許文献1】R.O. Schmidt、 “Multiple emitter location and signal parameter estimation,” IEEE Trans. Antennas and Propagation, vol. 34, no. 3, pp. 276-280 (1986)
【非特許文献2】T.-J. Shan, M. Wax and T. Kailath, “On spatial smoothing for direction-of-arrival estimation of coherent signals,” IEEE Trans. Acoust., Speech, Signal Processing, vol. 33, no. 4, pp. 806-811 (1985)
【非特許文献3】S.U. Pillai and B.H. Kwon, “Forward/backward spatial smoothing techniques for coherent signals identification,” IEEE Trans. Acoust., Speech, Signal Processing, vol. 37, no. 1, pp. 8-15 (1989)
【非特許文献4】A. Eriksson, P. Stoica, and T. Soderstrom, “On-line subspace algorithms for tracking moving sources,” IEEE Trans. Signal Processing, vol. 42, no. 9, pp. 2319-2330 (1994)
【非特許文献5】J. Xin and A. Sano, “Directions-of-arrival tracking of coherent cyclostationary signals in array processing,” IEICE Trans. Fundamentals, vol. E86-A, no. 8, pp. 2037-2046 (2003)
【非特許文献6】J. Xin and A. Sano, “Computationally efficient subspace-based method for direction-of-arrival estimation without eigendecomposition,” IEEE Trans. Signal Processing, vol. 52, no. 4, pp. 876-893 (2004)
【非特許文献7】J. Xin, Y. Ohashi, and A. Sano, “Efficient subspace-based algorithms for adaptive direction estimation and tracking of narrowband signals in array processing,” Proc. IFAC 8th Workshop on Adaptation and Learning in Control and Signal Processing (ALCOSP’04) , pp. 535-540, Yokohama, Japan, (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
しかし、信号源(通話者など)の移動による直接波や反射波の到来方向の運動軌跡が互いに交差する場合干渉が生じ、従来の電波到来方向の追尾手法では精確に追尾することができないという問題があった。
【0038】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、固有値分解など複雑な処理を必要とせずに電波の到来方向をオンラインで推定し、さらに電波の到来方向の運動軌跡が交差する場合であっても到来方向を迅速に追尾可能な電波到来方向の追尾方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0039】
本発明では上記問題を解決するために、複数個のアンテナ素子を同じ素子間隔で直線状の異なる空間位置に配列したアレーアンテナで所定数の電波を受信しその到来方向を推定する電波到来方向の追尾方法において、図1に示すように、サンプリング時刻ごとに、前記アレーアンテナにおける所定のアンテナ素子の受信データと他のアンテナ素子の受信データ間の瞬間相関を計算するステップS1と、前記瞬間相関をもとに瞬間相関行列を計算するステップS2と、前記瞬間相関行列を用いて、線形演算により雑音部分空間を推定するステップS3と、前回の到来方向追尾時刻における到来方向の状態ベクトルを利用して、今回の到来方向追尾時刻の到来方向の状態ベクトルをオブザーバで予測するステップS4と、予測した前記状態ベクトルから得られる到来方向の予測値と、前記雑音部分空間を利用して、今回の到来方向追尾時刻における到来方向の暫定値を計算するステップS5と、前記暫定値と、予測した前記状態ベクトル及び前記予測値をもとに、今回の到来方向追尾時刻における状態ベクトルを計算し、前記状態ベクトルから到来方向の推定値を計算するステップS6と、を有することを特徴とする電波到来方向の追尾方法が提供される。
【0040】
上記の方法によれば、前回の到来方向追尾時刻における到来方向の状態ベクトルを利用して、今回の到来方向追尾時刻の到来方向の状態ベクトルをオブザーバで予測して、到来方向の暫定値を計算し、さらに、その暫定値と予測した状態ベクトル及び到来方向の予測値をもとに、今回の到来方向追尾時刻における状態ベクトルを計算し、その状態ベクトルから到来方向の推定値を計算するので、信号源(通話者など)の移動による直接波や反射波の到来方向の運動軌跡が互いに交差するような場合でも、演算量を増やすことなく精確に電波到来方向の推定値が得られる。
【発明の効果】
【0041】
本発明は、前回の到来方向追尾時刻における到来方向の状態ベクトルを利用して、今回の到来方向追尾時刻の到来方向の状態ベクトルをオブザーバで予測して、到来方向の暫定値を計算し、さらに、その暫定値と予測した状態ベクトル及び到来方向の予測値をもとに、今回の到来方向追尾時刻における状態ベクトルを計算し、その状態ベクトルから到来方向の推定値を計算するので、信号源(通話者など)の移動による直接波や反射波の到来方向の運動軌跡が互いに交差するような場合でも、演算量を増やすことなく精確に電波到来方向の推定値を計算でき、その到来方向を実時間で精確に追尾できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
まず本発明の実施の形態の電波到来方向追尾方法の概略を説明する。
本発明の実施の形態の電波到来方向追尾方法は、信号源(通話者など)の移動による直接波や反射波の到来方向の運動軌跡が互いに交差するような場合について特に適したものである。
【0043】
なお、以下では、アレーアンテナを構成するM個のアンテナ素子によりp個の到来電波(なお、M>2p)を受信するものとして説明する。また、前向きサブアレー、後ろ向きサブアレー若しくは前後向きサブアレー、いずれの場合にも適用できる。
【0044】
また、以下の処理で追尾する到来波(入射する信号)は、無相関信号、相関信号、多重波(完全相関)のいずれでも良い。
図1は、本発明の実施の形態の電波到来方向追尾方法の概略を説明するフローチャートである。
【0045】
また、図2は、到来方向追尾期間とサンプリング間隔の関係を示す図である。
到来方向はサンプリング間隔Tsに比べて時間的にゆっくり変化するものとし、到来方向追尾期間(すなわち到来方向の計算更新期間)をT=NTs(NはTにおけるスナップショット個数である。)とする。また、サンプリング時刻kと、到来方向追尾時刻nとの関係はk=nN,nN+1,…,(n+1)N−1と表せる。
【0046】
図1で示す本実施の形態の電波到来方向追尾方法では、到来方向追尾時刻nにおいて、まず、到来方向追尾期間TのN個のスナップショットを用い、サンプリング時刻kごとに、アレーアンテナにおける所定のアンテナ素子の受信データと他のアンテナ素子の受信データ間の瞬間相関を計算する(ステップS1)。
【0047】
次に、各アンテナ素子に存在する付加雑音の影響を受けないサンプリング時刻k(サンプリング速度が1/Ts)における瞬間相関から瞬間相関行列である1乃至4つのHankel相関行列を計算する(ステップS2)。
【0048】
その後、固定または時変のステップサイズを用いた最小二乗平均(Least-square-mean:LMS)法または正規最小二乗平均(Normalized least-square-mean:NLMS)法などの適応アルゴリズムを用いた線形演算により、ステップS2で計算した瞬間相関行列からサンプリング時刻kにおける雑音部分空間を推定する(ステップS3)。
【0049】
また、前回の到来方向追尾時刻n−1における到来方向の状態ベクトル(到来方向、到来方向の変化速度及び加速度からなる。)を利用して、今回の到来方向追尾時刻nの到来方向の状態ベクトルをオブザーバで予測する(ステップS4)。
【0050】
そして、予測した状態ベクトルから得られる到来方向の予測値と、サンプリング時刻k=(n+1)N−1に得られた雑音部分空間を利用して、近似Newton法などの適応アルゴリズムを用い、この到来方向追尾時刻nにおける信号の到来方向の暫定値を計算する(ステップS5)。
【0051】
さらに、この暫定値と、予測した状態ベクトル及び予測値をもとに、今回の到来方向追尾時刻nにおける状態ベクトルを計算し、その状態ベクトルから到来方向の推定値を計算する(ステップS6)。
【0052】
このような本実施の形態の電波到来方向追尾方法によれば、信号源(通話者など)の移動による直接波や反射波の到来方向の運動軌跡が互いに交差するような場合でも、演算量を増やすことなく精確に電波到来方向を追尾することができる。
【0053】
なお、ステップS4の処理はステップS5の処理よりも前であれば、この順番でなくてもよい。
以下本実施の形態の詳細を説明する。
【0054】
図3は、送信源とアレーアンテナとの配置を示す図である。
送信源10から基地局のアレーアンテナ20にまっすぐ入射する電波が直接波11である。また、建物BL1、BL2などの地物によって反射されてから基地局に入射するものが反射波12である。ここでは反射波が2つの場合について示しているが、以下では送信源10からの直接波11と反射波12の個数はpとする。また、pを既知と仮定する。あるサンプリング時刻kにおける直接波と反射波の関係は、次式で表わせる。
【0055】
【数10】
【0056】
ここで、βiは直接波s1(k)に関して反射波si(k)の複素減衰を表わすマルチパス係数である。ただし、βi≠0かつβ1=1である。
図4は、電波到来方向推定システムの構成を示す図である。
【0057】
電波到来方向推定システムは、アレーアンテナ20と、ベースバンド処理及びデジタル信号処理を行うベースバンド/デジタル処理部30と、本実施の形態の電波到来方向追尾処理を行う電波到来方向追尾部40を有している。
【0058】
アレーアンテナ20は、M個のアンテナ素子21から構成されている。但し、アレーアンテナ20に入射される電波(直接波及び反射波)の個数をpとすると、M>2pである。
【0059】
図5は、電波到来方向追尾部の構成を示すブロック図である。
電波到来方向追尾部40は、瞬間相関の計算手段41、瞬間相関行列の計算手段42、線形演算子の計算手段43、直交射影作用素の計算手段44、到来方向の暫定値の計算手段45、オブザーバを用いた到来方向の予測手段46、及びオブザーバを用いた到来方向の計算手段47で構成されている。
【0060】
以下、電波到来方向追尾処理の詳細を説明する。
まず、オブザーバを用いた到来方向の予測手段46は、到来方向追尾時刻nにおいて、前の到来方向追尾時刻n−1における到来方向の状態ベクトル
【0061】
を利用して、以下のようにオブザーバで到来方向の状態ベクトル(即ち到来方向)を予測しておく。
【0062】
【数11】
【0063】
この処理は、図1のステップ4の処理に相当する。
次に、瞬間相関の計算手段41は、アンテナ素子の受信データから、ベースバンド/デジタル処理部30から得られた複素デジタル信号N個のスナップショット
【0064】
で、前述の式(1)のように受信信号ベクトルy(k)をつくる。さらに、以下の式(12)のようにサンプリング時刻kにおける信号y(k)とy*M(k)及びy(k)とy*M(k)の相関ベクトル
【0065】
を求める。
【0066】
【数12】
【0067】
一般に、アレーアンテナ20により受信した信号から電波到来方向を推定する際には、アンテナ素子21の受信信号ベクトルy(k)(=y1(k),y2(k),…,yM(k))の各受信信号間の相関r11〜rMMを演算して行列に配列したアレー共分散行列Rが用いられる。このアレー共分散行列Rは、受信信号ベクトルy(k)の複素共役転置をyH(k)とすると、無相関白色雑音環境において図6のように与えられる。
【0068】
図6は、無相関白色雑音環境におけるアレー共分散行列を示す図である。
また、xi(k)を無雑音受信信号、wj(k)を無相関白色雑音とすると、
yi(k)=xi(k)+wi(k)
E[wi(k)wj*(k)]=σ2(i=j)
E[wi(k)wj*(k)]=0(i≠j)
である。すなわち、無相関白色雑音環境ではアレー共分散行列Rの対角要素r11,r22,…,rMMに雑音が含まれている。
【0069】
図7は、瞬間アレー共分散行列において電波到来方向推定に必要な列要素を説明する図である。
また図8は、瞬間アレー共分散行列において電波到来方向推定に必要な行要素を説明する図である。
【0070】
瞬間アレー共分散行列R(k)は共役対称であるため、到来方向の推定には図7に示すように1列目と最終列のM列、または図8に示すように1行目と最終行のM行を計算するだけで十分である。すなわち、式(12a)のように第M番目のアンテナ素子の受信データと、第1、2、…、M−1番目のアンテナ素子の受信データ間の相関、または、式(12b)のように、第1番目のアンテナ素子の受信データと、第2、3、…、M番目のアンテナ素子の受信データ間の相関のみを計算すればよい。以下では式(12a)、式(12b)を両方用いた場合について説明する。
【0071】
次に、瞬間相関行列の計算手段42は、式(12a)、(12b)で得られた相関ベクトルを使って、以下の式(13)のようなサンプリング時刻kにおける瞬間相関行列である(M−p)×pHankel相関行列を計算する。
【0072】
【数13】
【0073】
さらに瞬間相関行列の計算手段42は、以下の式(14)のように、(M−p)×pHankel相関行列をそれぞれ上下2つの部分に分割する。
【0074】
【数14】
【0075】
式(12a)、(12b)〜式(14)について、より具体的に説明する。
瞬間相関の計算手段41は、式(12a)を計算することで、アレーアンテナ20におけるM番目のアンテナ素子21の受信信号と第1,2,…,M−1番目のアンテナ素子の受信信号間の、サンプリング時刻kにおける瞬間相関r1M(k),r2M(k),…,rM-1,M(k)(図7の最終列参照)を求める。そして瞬間相関行列の計算手段42は、式(13)を計算することで、以下の図のようにしてHankel相関行列Φf(k)を求め、この瞬間相関行列をそれぞれ上下2つの部分に分割する。
【0076】
図9は、瞬間アレー共分散行列の第1列あるいは最終列の要素を用いて瞬間相関行列を生成し、上下2つの行列に分離する様子を示す図である。
瞬間相関行列の計算手段42は、計算した瞬間アレー共分散行列Rの最終列の(M−1)個の瞬間相関より、信号数(=p個)の瞬間相関を上から下方向に1個ずつずらしながら(M−p)組取り出し、1行目から順番に配列することで、(M−p)×pの瞬間相関行列Φf(k)を作成する。そしてさらに、式(14)のようにΦf(k)を上下2つのp×pの行列Φf1(k)と(M−2p)×pの行列Φf2(k)に分割する。
【0077】
同様に、瞬間相関の計算手段41は、式(12b)を計算することで、アレーアンテナ20における1番目のアンテナ素子21の受信信号と第2,3,…,M番目のアンテナ素子の受信信号間の、サンプリング時刻kにおける瞬間相関r21(k),r31(k),…,rM1(k)(図7の第1列参照)を求める。そして、瞬間相関行列の計算手段42は、式(13)を計算することで、図9のように瞬間アレー共分散行列R(k)の第1列の(M−1)個の瞬間相関より信号数(=p個)の瞬間相関を上から下方向に1個ずつずらしながら(M−p)組取り出し、1行目から順番に配列することで、(M−p)×pの瞬間相関行列
【0078】
を作成する。そしてさらに、式(14)のように上下2つのp×pの行列
【0079】
と(M−2p)×pの行列
【0080】
に分割する。
以上の処理を、瞬間アレー共分散行列R(k)の行についても同様に行う。すなわち、瞬間相関の計算手段41は、式(12b)を計算することで、アレーアンテナ20における1番目のアンテナ素子21の受信信号と第2,3,…,M番目のアンテナ素子の受信信号間の、サンプリング時刻kにおける瞬間相関r12(k),r13(k),…,r1M(k)(図8の第1行目参照)を求める。そして、瞬間相関行列の計算手段42は、式(13)を計算することで、以下の図のようにしてHankel相関行列(瞬間相関行列)Φb(k)を求め、瞬間相関行列をそれぞれ上下2つの部分に分割する。
【0081】
図10は、瞬間アレー共分散行列の第1行あるいは最終行の要素を用いて瞬間相関行列を生成し、上下2つの行列に分離する様子を示す図である。
瞬間相関行列の計算手段42は、瞬間アレー共分散行列R(k)の第1行目の(M−1)個の瞬間相関より、信号数(=p個)の瞬間相関を右から左に1個ずつずらしながら(M−p)組取り出し、1行目から順番に配列することで(M−p)×pの瞬間相関行列Φb(k)を作成する。そしてさらに、式(14)のように上下2つのp×pの行列Φb1(k)と(M−2p)×pの行列Φb2(k)に分割する。
【0082】
同様に、瞬間相関の計算手段41は、式(12a)を計算することで、アレーアンテナ20におけるM番目のアンテナ素子21の受信信号と第1,2,…,M−1番目のアンテナ素子21の受信信号間のサンプリング時刻kにおける瞬間相関rM1(k),rM2(k),…,rM,M-1(k)(図8の最終行参照)を求める。そして、瞬間相関行列の計算手段42は、式(13)を計算することで、図10のように瞬間アレー共分散行列R(k)の最終行の(M−1)個の瞬間相関より信号数(=p個)の瞬間相関を右から左に1個ずつずらしながら(M−p)組取り出し、1行目から順番に配列することで(M−p)×pの瞬間相関行列
【0083】
を作成する。そしてさらに、式(14)のように上下2つのp×pの行列
【0084】
と(M−2p)×pの行列
【0085】
に分割する。
以上のようにして、4つのHankel相関行列と、それぞれを分割した8つの行列が得られる。
【0086】
次に、雑音部分空間を推定する処理に移る。線形演算子の計算手段43は、式(14)で得られた8つの行列を用いて、以下の式(15)のように2の行列Φ1(k)とΦ2(k)を形成し、式(16)のように推定誤差行列E(k)を計算する。
【0087】
【数15】
【0088】
【数16】
【0089】
次に、線形演算子の計算手段43には、以下の式(17)に示したようにLMSアルゴリズムを用いて、線形演算子P(k)を求める。
【0090】
【数17】
【0091】
次に、直交射影作用素の計算手段44で、式(17)から得られたP(k)を用いて、式(18)に示すようにQR分解を行う。
【0092】
【数18】
【0093】
また、直交射影作用素Π(k)を以下の式(19)で求め、雑音部分空間を推定する。
【0094】
【数19】
【0095】
次に、到来方向の暫定値の計算手段45は、前述の式(11)で得られた到来方向の予測値
【0096】
と式(19)で得られたΠ(n)=Π(k)|k=(n+1)N-1を用いて、以下の式(20)のようにサンプリング時刻k=(n+1)N−1(すなわち到来方向追尾時刻n)における到来方向の暫定値
【0097】
を近似Newton法で計算する。
【0098】
【数20】
【0099】
最後に、オブザーバを用いた到来方向の計算手段47は、式(20)で得られた到来方向の暫定値
【0100】
と、式(11)で得られた
【0101】
を利用して、以下の式(21)に示すようにオブザーバで、到来方向追尾時刻nにおける到来方向の状態ベクトルを計算して、到来方向の推定値
【0102】
を与える。
【0103】
【数21】
【0104】
ここで、giはオブザーバゲインである。だたし、オブザーバゲインgiはF−giCTのすべての固有値が単位円内に配置するように設定される。
以上に述べたように、電波到来方向追尾部40において、ある固定したステップサイズμをもつLMSアルゴリズム及び近似Newton法を利用して、信号の到来方向をオンラインで追尾できる。また、信号源(通話者など)の移動による直接波や反射波の到来方向の運動軌跡が互いに交差するような場合でも、演算量を増やすことなく精確に電波到来方向の推定値を得ることができる。
【0105】
ところで、上記では4つのHankel相関行列
【0106】
を求め、それぞれを上下2つの行列
【0107】
に分離し、これらを用いて2つの行列Φ1(k)、Φ2(k)を決定した。しかし、アレー共分散行列Rは共役対称になっていることから、到来方向の推定には図7に示す第1列目、最終列目、図8に示す第1行目、最終行目のみの瞬間相関、あるいは任意の2以上の行、列を用いるだけでも電波到来方向を推定できる。すなわち、4つのHankel相関行列のうち、任意の1〜4つだけを用いて行列Φ1(k)、Φ2(k)を決定することができる。
【0108】
例えば、任意の1つを用いる場合には行列Φ1(k)、Φ2(k)は以下の式(22a)〜(22d)のいずれかにより決定する。
【0109】
【数22】
【0110】
また、任意の2つを用いる場合には行列Φ1(k)、Φ2(k)は以下の式(23a)〜(23f)のいずれかにより決定する。
【0111】
【数23】
【0112】
また、任意の3つを用いる場合には行列Φ1(k)、Φ2(k)は以下の式(24a)〜(24d)のいずれかにより決定する。
【0113】
【数24】
【0114】
なお、任意の4つを用いる場合については前述した通りである。
また、上記では、ある固定したステップサイズμを持つLMSアルゴリズムを用いて、式(17)のように線形演算子P(k)を求めたが、ステップサイズμを時変としてもよい。すなわちステップサイズμをサンプリング時刻kにおける瞬間相関行列Φ1(k)に変動させて、式(17)におけるステップサイズμを
【0115】
【数25】
【0116】
により決定すると、時変ステップサイズμをもつLMSアルゴリズムが可能になる。
また、LMSアルゴリズムの代わりに、以下の式(26)により表せるNLMSアルゴリズムを用いて線形演算子P(k)を計算してもよい。
【0117】
【数26】
【0118】
以下、計算機シミュレーションにより本実施の形態の電波到来方向の追尾方法の効果を検討した結果を説明する。
図11は、到来方向の推定値の計算結果を示す図である。
【0119】
縦軸が角度、横軸が時間である。また、点線が実際の受信信号の到来方向、実線が推定値の軌跡を示している。
ここで、線形等間隔アレーの素子数はM=9素子とする。また、4つの多重波は、それぞれθ1(n)、θ2(n)、θ3(n)、θ4(n)からアレーアンテナに入射し、それぞれのSNRは15dB、10dB、13dB、13dBである。到来方向の追尾期間T=1sにおいてN=100個のスナップショットを観測し、式(26)のNLMSアルゴリズムを用いて到来方向追尾時刻nにおける直交射影作用素Π(n)=Π(k)|k=(n+1)N-1を計算し、式(20)から到来方向の推定値
【0120】
を求めた。ここで、NLMSのステップサイズは
【0121】
である。100回の計算によって得られた推定値の軌跡は、図のように電波の到来方向の運動軌跡が交差する場合であっても、実際の到来方向に精確に追尾していることがわかる。以上のように本実施の形態の電波到来方向の追尾方法では、複雑な固有値分解を使用せず、軌跡に交差する時変な完全相関信号(多重波)の到来方向を迅速かつ精確に推定できる。
【0122】
なお、上記では無相関白色雑音環境における電波到来方向の追尾方法について説明したが、空間相関雑音環境においても適用可能である。但し空間相関雑音環境では、瞬間相関行列を以下のように作成する。
【0123】
空間相関雑音環境において、雑音の空間的相関の長さを
【0124】
と仮定すると(つまり、
【0125】
の場合には、E{wi(n)w*i+k(n)}=0)、式(13)で求めた(M−p)×pのHankel相関行列の代わりに、以下のようにHankel相関行列を形成する。
すなわち、空間相関雑音環境において、アレーアンテナ20におけるM番目のアンテナ素子21の受信信号と、
【0126】
のアンテナ素子の受信信号間の、サンプリング時刻kにおける相関と、アレーアンテナ20における1番目のアンテナ素子21の受信信号と、
【0127】
のアンテナ素子の受信信号間の、サンプリング時刻kにおける相関により、図9と図10と同様の手法により、式(27)のようにサンプリング時刻kにおける
【0128】
のHankel相関行列を形成できる。
【0129】
【数27】
【0130】
ここで、
【0131】
と仮定すると、式(14)の代わりに式(27)の右側のように、これらのHankel相関行列をそれぞれp×pと
【0132】
の2つの行列に分割できる。そしてこれらの行列を用いて式(15)で示したような行列Φ1(k)、Φ2(k)を形成すれば、無相関白色雑音環境と同様に、電波到来方向の推定値を求めることができる。
【0133】
以上説明してきた電波到来方向の追尾処理を行う電波到来方向追尾部40と、推定された到来方向にピークが向くように受信ビームパターンを生成するビーム形成手段を組み合わせて基地局受信装置を構成することができる。
【0134】
図12は、本実施の形態の基地局受信装置の構成を示す図である。
基地局受信装置は、例えば基地局内に配置され、アレーアンテナ20、ベースバンド/デジタル処理部30、電波到来方向追尾部40のほかに、瞬間ビーム形成器50、チャネル受信部60を有している。
【0135】
基地局受信装置の動作を簡単に説明する。
アレーアンテナ20で信号を受信すると、ベースバンド/デジタル処理部30は、アンテナ素子ごとに信号処理して複素デジタル受信データを出力する。電波到来方向追尾部40は、複素デジタル受信データを得て、前述したような電波到来方向の追尾処理を行い到来方向追尾時刻nにおける到来方向の推定値を算出する。瞬間ビーム形成器(受信ビームフォーマ)50は、算出された到来方向の推定値を用いて信号源方向にピークを有するようにビームを形成する。すなわち、瞬間ビーム形成器50は、干渉や雑音などを抑圧しながら希望信号を抽出してチャネル受信部60に送る。チャネル受信部60は周知の方法で受信処理を行って受信データを復調、出力する。なお、瞬間ビーム形成器50として、前述のような本実施の形態の電波到来方向の追尾手法により得られた到来方向の情報を利用して種々の構成が可能であるが、例えば、O.L. Frost, “An algorithm for linearly constrained adaptive array processing,” Proc. IEEE, vol. 60, no. 8, pp. 926-935 (1975)及びJ. Xin, H. Tsuji, Y. Hase, and A. Sano, “Array beamforming based on cyclic signal detection,” Proc. IEEE 48th Vehicular Technology Conference, pp. 890-894, Ottawa, Canada (1998)などに記載されたビーム形成手法を活用して、希望の信号到来方向にビームを向けて受信することが可能である。
【0136】
また、以上説明してきた電波到来方向の追尾処理を行う電波到来方向追尾部40と、推定された到来方向にピークが向くように送信ビームパターンを生成するビーム形成手段を組み合わせて基地局送信装置を構成することができる。
【0137】
図13は、本実施の形態の基地局送信装置の構成を示す図である。なお、ここには図12で示した基地局受信装置も図示している。
瞬間ビーム形成器(送信ビームフォーマ)70は、送信部80から送信データが入力されると、電波到来方向追尾部40により推定された到来方向にピークが向くように送信ビームパターンを形成し、複素デジタル送信信号をベースバンド/デジタル処理部30に入力する。ベースバンド/デジタル処理部30は、複素デジタル送信データを無線信号に変換してアレーアンテナ20aの各アンテナ素子21aに入力する。この結果、受信局に向けてビームが発射され、誤り率を低下できる。なお、図13のアレーアンテナ20、20aは共通化することができる。
【0138】
(付記1)複数個のアンテナ素子を同じ素子間隔で直線状の異なる空間位置に配列したアレーアンテナで所定数の電波を受信しその到来方向を推定する電波到来方向の追尾方法において、
サンプリング時刻ごとに、前記アレーアンテナにおける所定のアンテナ素子の受信データと他のアンテナ素子の受信データ間の瞬間相関を計算するステップと、
前記瞬間相関をもとに瞬間相関行列を計算するステップと、
前記瞬間相関行列を用いて、線形演算により雑音部分空間を推定するステップと、
前回の到来方向追尾時刻における到来方向の状態ベクトルを利用して、今回の到来方向追尾時刻の到来方向の状態ベクトルをオブザーバで予測するステップと、
予測した前記状態ベクトルから得られる到来方向の予測値と、前記雑音部分空間を利用して、今回の到来方向追尾時刻における到来方向の暫定値を計算するステップと、
前記暫定値と、予測した前記状態ベクトル及び前記予測値をもとに、今回の到来方向追尾時刻における状態ベクトルを計算し、前記状態ベクトルから到来方向の推定値を計算するステップと、
を有することを特徴とする電波到来方向の追尾方法。
【0139】
(付記2)前記瞬間相関行列は、前記アンテナ素子の数をMとしたとき、第M番目の前記アンテナ素子の受信データと第1、2、…、M−1番目の前記アンテナ素子の受信データ間の相関から求められ、時空間的に無相関白色雑音環境における電波到来方向を追尾することを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
【0140】
(付記3)前記瞬間相関行列は、前記アンテナ素子の数をMとしたとき、第1番目の前記アンテナ素子の受信データと第2、3、…、M番目の前記アンテナ素子の受信データ間の相関から求められ、時空間的に無相関白色雑音環境における電波到来方向を追尾することを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
【0141】
(付記4)前記瞬間相関行列は、前記アンテナ素子の数をM、雑音の空間的相関の長さを
【0142】
としたとき、第1番目の前記アンテナ素子の受信データと
【0143】
の前記アンテナ素子の受信データ間の相関から求められ、時空間的に相関雑音環境における電波到来方向を追尾することを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
(付記5)前記瞬間相関行列は、前記アンテナ素子の数をM、雑音の空間的相関の長さを
【0144】
としたとき、第M番目の前記アンテナ素子の受信データと
【0145】
の前記アンテナ素子の受信データ間の相関から求められ、時空間的に相関雑音環境における電波到来方向を追尾することを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
(付記6)前記瞬間相関行列は前記瞬間相関をもとに1乃至4つ生成され、1乃至4つの前記瞬間相関行列を用いて、前記雑音部分空間を推定することを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
【0146】
(付記7)固定または時変のステップサイズを用いた適応アルゴリズムにより前記雑音部分空間を推定することを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
(付記8)前記適応アルゴリズムは最小二乗平均法または正規最小二乗平均法であることを特徴とする付記7記載の電波到来方向の追尾方法。
【0147】
(付記9)近似Newton法を用いて前記暫定値を計算することを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
(付記10)前記状態ベクトルは、前記到来方向、前記到来方向の変化速度及び加速度で表されることを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
【0148】
(付記11)到来方向の計算更新期間はサンプリング期間よりも長く、前記計算更新期間におけるスナップショット数をNとすると、前記到来方向追尾時刻と前記サンプリング時刻との関係は、前記到来方向追尾時刻をn、前記サンプリング時刻をkとすると、k=nN,nN+1,…,(n+1)N−1で表されることを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
【0149】
(付記12)時空間的に無相関白色雑音環境における多重波の到来方向を追尾することを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
(付記13)時空間的に無相関白色雑音環境における相関信号の到来方向を追尾することを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
【0150】
(付記14)時空間的に無相関白色雑音環境における無相関信号の到来方向を追尾することを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
(付記15)時空間的に相関雑音環境における多重波の到来方向を追尾することを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
【0151】
(付記16)時空間的に相関雑音環境における相関信号の到来方向を追尾することを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
(付記17)時空間的に相関雑音環境における無相関信号の到来方向を追尾することを特徴とする付記1記載の電波到来方向の追尾方法。
【0152】
(付記18)複数個のアンテナ素子を同じ素子間隔で直線状の異なる空間位置に配列したアレーアンテナで所定数の電波を受信しその到来方向を推定する電波到来方向追尾装置において、
サンプリング時刻ごとに、前記アレーアンテナにおける所定のアンテナ素子の受信データと他のアンテナ素子の受信データ間の瞬間相関を計算する瞬間相関計算手段と、
前記瞬間相関をもとに瞬間相関行列を計算する瞬間相関行列計算手段と、
前記瞬間相関行列を用いて、線形演算により雑音部分空間を推定する雑音部分空間推定手段と、
前回の到来方向追尾時刻における到来方向の状態ベクトルを利用して、今回の到来方向追尾時刻の到来方向の状態ベクトルをオブザーバで予測する到来方向予測手段と、
予測した前記状態ベクトルから得られる到来方向の予測値と、前記雑音部分空間を利用して、今回の到来方向追尾時刻における到来方向の暫定値を計算する暫定値計算手段と、
前記暫定値と、予測した前記状態ベクトル及び前記予測値をもとに、今回の到来方向追尾時刻における状態ベクトルを計算し、前記状態ベクトルから到来方向の推定値を計算する推定値計算手段と、
を有することを特徴とする電波到来方向追尾装置。
【0153】
(付記19)複数個のアンテナ素子を同じ素子間隔で直線状の異なる空間位置に配列したアレーアンテナで所定数の電波を受信する基地局装置において、
サンプリング時刻ごとに、前記アレーアンテナにおける所定のアンテナ素子の受信データと他のアンテナ素子の受信データ間の瞬間相関を計算する瞬間相関計算手段と、前記瞬間相関をもとに瞬間相関行列を計算する瞬間相関行列計算手段と、前記瞬間相関行列を用いて、線形演算により雑音部分空間を推定する雑音部分空間推定手段と、前回の到来方向追尾時刻における到来方向の状態ベクトルを利用して、今回の到来方向追尾時刻の到来方向の状態ベクトルをオブザーバで予測する到来方向予測手段と、予測した前記状態ベクトルから得られる到来方向の予測値と、前記雑音部分空間を利用して、今回の到来方向追尾時刻における到来方向の暫定値を計算する暫定値計算手段と、前記暫定値と、予測した前記状態ベクトル及び前記予測値をもとに、今回の到来方向追尾時刻における状態ベクトルを計算し、前記状態ベクトルから到来方向の推定値を計算する推定値計算手段と、を備えた電波到来方向追尾部と、
前記推定値を入力して推定された方向にピークが向くビームを生成するビーム形成部と、
を有することを特徴とする基地局装置。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】本発明の実施の形態の電波到来方向追尾方法の概略を説明するフローチャートである。
【図2】到来方向追尾期間とサンプリング間隔の関係を示す図である。
【図3】送信源とアレーアンテナとの配置を示す図である。
【図4】電波到来方向推定システムの構成を示す図である。
【図5】電波到来方向追尾部の構成を示すブロック図である。
【図6】無相関白色雑音環境におけるアレー共分散行列を示す図である。
【図7】瞬間アレー共分散行列において電波到来方向推定に必要な列要素を説明する図である。
【図8】瞬間アレー共分散行列において電波到来方向推定に必要な行要素を説明する図である。
【図9】瞬間アレー共分散行列の第1列あるいは最終列の要素を用いて瞬間相関行列を生成し、上下2つの行列に分離する様子を示す図である。
【図10】瞬間アレー共分散行列の第1行あるいは最終行の要素を用いて瞬間相関行列を生成し、上下2つの行列に分離する様子を示す図である。
【図11】到来方向の推定値の計算結果を示す図である。
【図12】本実施の形態の基地局受信装置の構成を示す図である。
【図13】本実施の形態の基地局送信装置の構成を示す図である。
【図14】線形等間隔アレーにおけるサブアレーを示す図である。
【符号の説明】
【0155】
10 送信源
11 直接波
12 反射波
20 アレーアンテナ
21 アンテナ素子
30 ベースバンド/デジタル処理部
40 電波到来方向追尾部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個のアンテナ素子を同じ素子間隔で直線状の異なる空間位置に配列したアレーアンテナで所定数の電波を受信しその到来方向を推定する電波到来方向の追尾方法において、
サンプリング時刻ごとに、前記アレーアンテナにおける所定のアンテナ素子の受信データと他のアンテナ素子の受信データ間の瞬間相関を計算するステップと、
前記瞬間相関をもとに瞬間相関行列を計算するステップと、
前記瞬間相関行列を用いて、線形演算により雑音部分空間を推定するステップと、
前回の到来方向追尾時刻における到来方向の状態ベクトルを利用して、今回の到来方向追尾時刻の到来方向の状態ベクトルをオブザーバで予測するステップと、
予測した前記状態ベクトルから得られる到来方向の予測値と、前記雑音部分空間を利用して、今回の到来方向追尾時刻における到来方向の暫定値を計算するステップと、
前記暫定値と、予測した前記状態ベクトル及び前記予測値をもとに、今回の到来方向追尾時刻における状態ベクトルを計算し、前記状態ベクトルから到来方向の推定値を計算するステップと、
を有することを特徴とする電波到来方向の追尾方法。
【請求項2】
前記瞬間相関行列は、前記アンテナ素子の数をMとしたとき、第M番目の前記アンテナ素子の受信データと第1、2、…、M−1番目の前記アンテナ素子の受信データ間の相関から求められ、時空間的に無相関白色雑音環境における電波到来方向を追尾することを特徴とする請求項1記載の電波到来方向の追尾方法。
【請求項3】
前記瞬間相関行列は、前記アンテナ素子の数をMとしたとき、第1番目の前記アンテナ素子の受信データと第2、3、…、M番目の前記アンテナ素子の受信データ間の相関から求められ、時空間的に無相関白色雑音環境における電波到来方向を追尾することを特徴とする請求項1記載の電波到来方向の追尾方法。
【請求項4】
前記瞬間相関行列は前記瞬間相関をもとに1乃至4つ生成され、1乃至4つの前記瞬間相関行列を用いて、前記雑音部分空間を推定することを特徴とする請求項1記載の電波到来方向の追尾方法。
【請求項5】
固定または時変のステップサイズを用いた適応アルゴリズムにより前記雑音部分空間を推定することを特徴とする請求項1記載の電波到来方向の追尾方法。
【請求項6】
前記適応アルゴリズムは最小二乗平均法または正規最小二乗平均法であることを特徴とする請求項5記載の電波到来方向の追尾方法。
【請求項7】
近似Newton法を用いて前記暫定値を計算することを特徴とする請求項1記載の電波到来方向の追尾方法。
【請求項8】
前記状態ベクトルは、前記到来方向、前記到来方向の変化速度及び加速度で表されることを特徴とする請求項1記載の電波到来方向の追尾方法。
【請求項9】
到来方向の計算更新期間はサンプリング期間よりも長く、前記計算更新期間におけるスナップショット数をNとすると、前記到来方向追尾時刻と前記サンプリング時刻との関係は、前記到来方向追尾時刻をn、前記サンプリング時刻をkとすると、k=nN,nN+1,…,(n+1)N−1で表されることを特徴とする請求項1記載の電波到来方向の追尾方法。
【請求項10】
複数個のアンテナ素子を同じ素子間隔で直線状の異なる空間位置に配列したアレーアンテナで所定数の電波を受信しその到来方向を推定する電波到来方向追尾装置において、
サンプリング時刻ごとに、前記アレーアンテナにおける所定のアンテナ素子の受信データと他のアンテナ素子の受信データ間の瞬間相関を計算する瞬間相関計算手段と、
前記瞬間相関をもとに瞬間相関行列を計算する瞬間相関行列計算手段と、
前記瞬間相関行列を用いて、線形演算により雑音部分空間を推定する雑音部分空間推定手段と、
前回の到来方向追尾時刻における到来方向の状態ベクトルを利用して、今回の到来方向追尾時刻の到来方向の状態ベクトルをオブザーバで予測する到来方向予測手段と、
予測した前記状態ベクトルから得られる到来方向の予測値と、前記雑音部分空間を利用して、今回の到来方向追尾時刻における到来方向の暫定値を計算する暫定値計算手段と、
前記暫定値と、予測した前記状態ベクトル及び前記予測値をもとに、今回の到来方向追尾時刻における状態ベクトルを計算し、前記状態ベクトルから到来方向の推定値を計算する推定値計算手段と、
を有することを特徴とする電波到来方向追尾装置。
【請求項1】
複数個のアンテナ素子を同じ素子間隔で直線状の異なる空間位置に配列したアレーアンテナで所定数の電波を受信しその到来方向を推定する電波到来方向の追尾方法において、
サンプリング時刻ごとに、前記アレーアンテナにおける所定のアンテナ素子の受信データと他のアンテナ素子の受信データ間の瞬間相関を計算するステップと、
前記瞬間相関をもとに瞬間相関行列を計算するステップと、
前記瞬間相関行列を用いて、線形演算により雑音部分空間を推定するステップと、
前回の到来方向追尾時刻における到来方向の状態ベクトルを利用して、今回の到来方向追尾時刻の到来方向の状態ベクトルをオブザーバで予測するステップと、
予測した前記状態ベクトルから得られる到来方向の予測値と、前記雑音部分空間を利用して、今回の到来方向追尾時刻における到来方向の暫定値を計算するステップと、
前記暫定値と、予測した前記状態ベクトル及び前記予測値をもとに、今回の到来方向追尾時刻における状態ベクトルを計算し、前記状態ベクトルから到来方向の推定値を計算するステップと、
を有することを特徴とする電波到来方向の追尾方法。
【請求項2】
前記瞬間相関行列は、前記アンテナ素子の数をMとしたとき、第M番目の前記アンテナ素子の受信データと第1、2、…、M−1番目の前記アンテナ素子の受信データ間の相関から求められ、時空間的に無相関白色雑音環境における電波到来方向を追尾することを特徴とする請求項1記載の電波到来方向の追尾方法。
【請求項3】
前記瞬間相関行列は、前記アンテナ素子の数をMとしたとき、第1番目の前記アンテナ素子の受信データと第2、3、…、M番目の前記アンテナ素子の受信データ間の相関から求められ、時空間的に無相関白色雑音環境における電波到来方向を追尾することを特徴とする請求項1記載の電波到来方向の追尾方法。
【請求項4】
前記瞬間相関行列は前記瞬間相関をもとに1乃至4つ生成され、1乃至4つの前記瞬間相関行列を用いて、前記雑音部分空間を推定することを特徴とする請求項1記載の電波到来方向の追尾方法。
【請求項5】
固定または時変のステップサイズを用いた適応アルゴリズムにより前記雑音部分空間を推定することを特徴とする請求項1記載の電波到来方向の追尾方法。
【請求項6】
前記適応アルゴリズムは最小二乗平均法または正規最小二乗平均法であることを特徴とする請求項5記載の電波到来方向の追尾方法。
【請求項7】
近似Newton法を用いて前記暫定値を計算することを特徴とする請求項1記載の電波到来方向の追尾方法。
【請求項8】
前記状態ベクトルは、前記到来方向、前記到来方向の変化速度及び加速度で表されることを特徴とする請求項1記載の電波到来方向の追尾方法。
【請求項9】
到来方向の計算更新期間はサンプリング期間よりも長く、前記計算更新期間におけるスナップショット数をNとすると、前記到来方向追尾時刻と前記サンプリング時刻との関係は、前記到来方向追尾時刻をn、前記サンプリング時刻をkとすると、k=nN,nN+1,…,(n+1)N−1で表されることを特徴とする請求項1記載の電波到来方向の追尾方法。
【請求項10】
複数個のアンテナ素子を同じ素子間隔で直線状の異なる空間位置に配列したアレーアンテナで所定数の電波を受信しその到来方向を推定する電波到来方向追尾装置において、
サンプリング時刻ごとに、前記アレーアンテナにおける所定のアンテナ素子の受信データと他のアンテナ素子の受信データ間の瞬間相関を計算する瞬間相関計算手段と、
前記瞬間相関をもとに瞬間相関行列を計算する瞬間相関行列計算手段と、
前記瞬間相関行列を用いて、線形演算により雑音部分空間を推定する雑音部分空間推定手段と、
前回の到来方向追尾時刻における到来方向の状態ベクトルを利用して、今回の到来方向追尾時刻の到来方向の状態ベクトルをオブザーバで予測する到来方向予測手段と、
予測した前記状態ベクトルから得られる到来方向の予測値と、前記雑音部分空間を利用して、今回の到来方向追尾時刻における到来方向の暫定値を計算する暫定値計算手段と、
前記暫定値と、予測した前記状態ベクトル及び前記予測値をもとに、今回の到来方向追尾時刻における状態ベクトルを計算し、前記状態ベクトルから到来方向の推定値を計算する推定値計算手段と、
を有することを特徴とする電波到来方向追尾装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−258615(P2006−258615A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−76716(P2005−76716)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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