説明

電波吸収性塗料組成物および塗装物

【課題】40MHz〜3GHzの周波数帯域の電波に対する良好な吸収性能が得られる電波吸収性塗料組成物および塗装物を提供する。
【解決手段】マルテンサイト系Fe−Cr−Ni合金粉末および/またはマルテンサイト系Fe−Ni合金粉末からなる金属粉末、カーボン粉末、樹脂、および溶媒を含有する。当該電波吸収性塗料組成物において、カーボン粉末はカーボンブラックであり、金属粉末は扁平粉末である。また、塗膜の膜厚は30〜150ミクロンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電波吸収性塗料組成物、およびこれを用いて得られる塗装物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータ、携帯電話、デジタルカメラ等の携帯情報端末用電子機器に対して、情報処理の高速化が求められている。これに対応するために、回路を動作させるクロック数も高くなっており、その結果、回路モジュールや伝送路からの電磁波輻射が発生しやすくなっている。
【0003】
また、携帯情報端末用電子機器に対しては小型化も求められており、それに伴って回路の高密度実装化が図られている。その結果、回路間での電磁波ノイズによる信号干渉が生じ易くなっている。このような電磁波ノイズの発生は、携帯情報端末用電子機器の周囲にある他の機器に影響を与えたり、携帯情報端末用電子機器自身の正常な仕様を妨げる恐れがある。
したがって、これらの機器から外部への電磁波輻射抑制と、機器内部での電磁波ノイズ抑制は、携帯情報端末用電子機器において重要な課題である。
【0004】
下記特許文献1には、鉄板上に、ニッケル・亜鉛系のスピネル型フェライト焼結体粉末と樹脂を含有する組成液を用いて下層膜を形成し、その上に、グラファイトカーボン超微粉末と樹脂を含有する組成液にセメントモルタルを添加し混錬りして得られる泥状組成物を塗布して上層を形成した構成により、1〜18GHzの周波数帯域で電波吸収性能が得られたことが記載されている。
【特許文献1】特開平10−7867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているような構成では、携帯情報端末用電子機器から外部への電磁波輻射および携帯情報端末用電子機器内部での電磁波ノイズにおいて主に問題となる40MHz〜3GHzの周波数帯域の電波に対する吸収性能が不充分である。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、40MHz〜3GHzの周波数帯域の電波に対する良好な吸収性能が得られる電波吸収性塗料組成物、および該電波吸収性塗料組成物を用いてなる塗装物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の電波吸収性塗料組成物は、マルテンサイト系Fe−Cr−Ni合金粉末および/またはマルテンサイト系Fe−Ni合金粉末からなる金属粉末、カーボン粉末、樹脂、および溶媒を含有することを特徴とする。
また本発明は、本発明の電波吸収性塗料組成物を用いて形成された塗膜を有する塗装物を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電波吸収性塗料組成物によれば、40MHz〜3GHzの周波数帯域において良好な電波吸収性能を有する塗膜を形成することができる。
本発明によれば、40MHz〜3GHzの周波数帯域において良好な電波吸収性能を有する塗膜を備えた塗装物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<電波吸収性塗料組成物>
[金属粉末]
本発明では金属粉末としてマルテンサイト系Fe−Cr−Ni合金粉末および/またはマルテンサイト系Fe−Ni合金粉末が用いられる。
本発明におけるマルテンサイト系Fe−Cr−Ni合金は、Fe、Cr、およびNiを主要合金元素とするもので、これら以外の少量の金属が添加されているものも含む。マルテンサイト系Fe−Cr−Ni合金粉末として、具体的には、市販のマルテンサイト系ステンレス鋼粉末を用いることができる。平均粒子径は5〜100μmが好ましく、15〜40μmがより好ましい。
マルテンサイト系Fe−Ni合金粉末としては、市販のマルテンサイト系のパーマロイ(登録商標)粉末を用いることができる。本発明におけるFe−Ni合金は一般にパーマロイと呼ばれる軟磁性合金であり、少量のMo、Cr、Mn等の他の金属が添加されたパーマロイも含む。平均粒子径は5〜100μmが好ましく、15〜40μmがより好ましい。
金属粉末としてマルテンサイト系Fe−Cr−Ni合金粉末だけを用いてもよく、マルテンサイト系Fe−Ni合金粉末だけを用いてもよい。またマルテンサイト系Fe−Cr−Ni合金粉末とマルテンサイト系Fe−Ni合金粉末を併用しても同様の効果を得ることができる。
【0009】
本発明で用いられる金属粉末は、粒子の形状が扁平な扁平粉末であることが好ましい。扁平度は、粉末の平均粒度D50(μm)と粉末の比表面積(m/gr)の積を近似値として用い、この値が20〜50程度の範囲が好ましい。
扁平な金属粉末を用いることにより、本発明の電波吸収性塗料組成物による電波吸収性能をより向上させることができる。金属粉末の扁平度が上記範囲を超えると、混合時に粒子が割れやすくなるため好ましくない。
【0010】
本発明の電波吸収性塗料組成物において、金属粉末は樹脂(固形分量)100質量部に対して100〜400質量部含有されていることが好ましく、より好ましい範囲は150〜350質量部である。金属粉末の含有量が少なすぎると良好な電波吸収性能が得られず、多すぎると良好な塗膜を形成するのが難しい。
【0011】
[カーボン粉末]
本発明では、前記金属粉末とカーボン粉末を併用することにより、金属粉末による電波の反射を抑えて、良好な電波吸収性能を得ることができる。
カーボン粉末としては、カーボンブラック粉末、グラファイト粉末が好適に用いられる。40MHz〜3GHzの周波数帯域における電波吸収性能をより向上させるためには、少なくともカーボンブラック粉末を用いることが好ましく、カーボンブラック粉末を単独で用いるか、またはカーボンブラック粉末とグラファイト粉末の混合物を用いることが好ましい。
カーボンブラック粉末の平均粒子径は10〜100nmが好ましく、15〜40nmがより好ましい。
グラファイト粉末の平均粒子径は1〜50μmが好ましく、3〜10μmがより好ましい。
【0012】
本発明の電波吸収性塗料組成物において、カーボン粉末は樹脂100質量部に対して5〜40質量部含有されていることが好ましく、より好ましい範囲は15〜35質量部である。カーボンの含有量が少なすぎると良好な電波吸収性能が得られず、多すぎると良好な塗膜を形成するのが難しい。
カーボン粉末としてカーボンブラック粉末とグラファイト粉末の混合物を用いる場合、両者の混合割合(カーボンブラック粉末:グラファイト粉末)は質量比で90:10〜20:80の範囲が好ましい。
【0013】
[樹脂]
本発明で用いられる樹脂は、塗膜形成能を有するものであればよく、特に限定されない。熱可塑性樹脂でもよく、熱硬化性樹脂でもよい。具体例としては、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、ブチラール樹脂、塩素化ポリプロピレン等が挙げられる。樹脂は1種でもよく2種以上の混合物であってもよい。
これらのなかで、ウレタン樹脂としてポリエステル系ウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリカーボネート系ウレタン樹脂、アクリル樹脂系ウレタン樹脂が塗膜強靭性や密着性の点で好ましく、これらのエマルションを用いることが環境の点でさらに好ましい。
【0014】
[溶媒]
本発明の電波吸収性塗料組成物は、金属粉末、カーボン粉末、樹脂、および溶媒を混合することにより製造できる。
溶媒は金属粉末、カーボン粉末、樹脂等の構成成分を均一に溶解または分散できるものであればよく、既知の溶媒を適宜用いることができる。具体例としてはエタノール等のアルコール系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;トルエン等の芳香族系溶媒;水等が挙げられる。溶媒は1種でもよく、2種以上の混合物であってもよい。
溶媒の使用量は特に限定されず、採用する塗装方法により塗装可能な固形分濃度で、所望の膜厚が得られるように適宜設定される。
【0015】
[その他の成分]
本発明の電波吸収性塗料組成物には、上記の構成成分のほかに、必要に応じて酸化防止剤、防錆剤、分散剤、沈降防止剤等のその他の成分を適宜添加することができる。
【0016】
<塗装物>
本発明の塗装物は、本発明の電波吸収性塗料組成物を被塗装物に塗装し、必要に応じて乾燥処理を施して、塗膜を形成することにより得られる。
塗膜の厚さは、薄すぎると充分な電波吸収性能が得られず、厚いほど電波吸収性能は高くなるが、厚すぎると塗膜の付着性が悪くなるおそれや、基材の変形が生じるおそれがある。したがって塗膜の好ましい膜厚は30〜150μm程度であり、より好ましい範囲は50〜100μmである。
電波吸収性塗料組成物の塗装方法は特に制限されないが、刷け塗り塗装、スプレー塗装、グラビア塗装、浸漬塗装、ローラー塗装等を用いることができる。好ましくは、複雑な形状をした被塗装面に対しても簡単に塗装できる点で、スプレー塗装が好ましい。スプレー塗装を行う場合、塗料の粘度は、イワタカップNK−IIの落下秒数が23℃において20±10秒の範囲内であることが好ましい。
塗装物は特0に限定されず、各種携帯情報端末用電子機器の所望の部位に本発明の電波吸収性塗料組成物を塗装することができる。塗装面は平面でも曲面でもよい。塗膜が形成される塗装物の具体例としては、携帯電話、デジタルカメラ、DVD、小型パソコン等が挙げられ、例えばこれらの機器の部品や筐体上に塗装する。
【0017】
本発明の電波吸収性塗料組成物によれば、40MHz〜3GHzの周波数帯域において良好な電波吸収性能を有する塗膜を形成することができる。したがって、例えば携帯情報端末用電子機器における不要電波発生源の近くなど、適宜の部位に本発明の電波吸収性塗料組成物を塗装することにより、携帯情報端末用電子機器から外部への電磁波輻射および携帯情報端末用電子機器内部での電磁波ノイズを効率良く抑制することができる。
また、複雑な形状をした被塗装面に対しても、容易に塗膜を形成して電波吸収性能を付与できるという利点も有する。
【実施例】
【0018】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明する。
[試料No.1〜7]
下記表1に示す配合で、樹脂、金属粉末、カーボン粉末および溶媒をディスパーを用いて混合することにより試料No.1〜7の電波吸収性塗料組成物を製造した。No.6,7はカーボン粉末を含まない比較試料である。表1に示す配合量の単位は質量部である。
樹脂としては下記のウレタン樹脂を用い、金属粉末としては下記のパーマロイ粉末およびステンレス鋼粉末を用い、カーボン粉末としては下記のカーボンブラック粉末およびグラファイト粉末を用い、溶媒としてはエタノールを用いた。
なお、表1には樹脂固形分100質量部に対する金属粉末およびカーボン粉末(カーボンブラック粉末とグラファイト粉末の合計)の質量比を合わせて示している。
【0019】
・ウレタン樹脂:旭電化工業社製、製品名;アデカボンタイターHUX−386、樹脂固形分含有量30質量%。
・パーマロイ粉末:真善社製、製品名;KDPB−3、平均粒子径;40μm、扁平度48。
・ステンレス鋼粉末:日本治金社製、製品名;FJSU−1、平均粒子径;30μm、扁平度;25。
・カーボンブラック粉末:デグサ社製、製品名;プリンテックスL、平均粒子径;23nm。
・グラファイト粉末:中越黒鉛社製、製品名;BF−5A、平均粒子径;5μm。
【0020】
【表1】

【0021】
[試料No.8]
比較試料(試料No.8)は、金属粉末としてスピネル型フェライトを用いてなる市販の電波吸収性塗料(戸田工業社製、製品名;BSF−029)を用いた。
【0022】
[実施例1A〜5B、比較例1〜3]
実施例1A〜5Bおよび比較例1〜3では、表2に示す通りに試料No.1〜8のいずれかの塗料組成物を用いて、表2に示す膜厚の塗膜を形成し、該塗膜について、マイクロストリップライン法を用いて透過損失を測定した。透過損失は、この値が大きいほど電波の吸収性能が高いことを示す。
なお試料No.8については、膜厚が100μm程度では透過損失の値が小さくて測定が難しいため膜厚を300μmとした。
【0023】
【表2】

【0024】
図1は測定装置の概略構成図である。この装置は、フッ化樹脂基板2上に、インピーダンス50Ωの銅箔からなるマイクロストリップライン3が形成されており、該マイクロストリップライン3の両端子3a、3b間に、ネットワークアナライザ4によって交流電圧が印加されるように構成されている。
測定を行う際は、絶縁薄膜シート5上に測定対象となる塗膜1を形成し、この絶縁薄膜シート5をマイクロストリップライン3上に密着させた状態で、マイクロストリップライン3の両端子3a、3b間に所定周波数の交流電圧を印加し、マイクロストリップライン3における伝送特性の変化(透過損失)を測定する。
【0025】
マイクロストリップライン3の両端子3a、3b間に印加する交流電圧の周波数を40MHz〜4GHzまで連続的に変化させながら、透過損失を測定した。
またリファレンスとして、絶縁薄膜シート5上に塗膜を形成しない他は同様にして透過損失を測定した。
その結果を図2〜7に示す。図3、5,7は図2、4,6のグラフの一部(40MHz〜0.5GHz)をそれぞれ拡大したものである。これらのグラフにおける透過損失(透過ロス)は、リファレンスにおける透過損失(透過ロス)を基準として相対的に示されている。
【0026】
図2〜7の結果より、実施例1A〜5Bは比較例1〜3に比べて、電波吸収性能が向上していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例に係る電波吸収性能を測定する装置の例を示す平面図である。
【図2】実施例および比較例に係る電波吸収性能の測定結果を示すグラフである。
【図3】図2のグラフの一部を拡大して示したグラフである。
【図4】実施例および比較例に係る電波吸収性能の測定結果を示すグラフである。
【図5】図4のグラフの一部を拡大して示したグラフである。
【図6】実施例および比較例に係る電波吸収性能の測定結果を示すグラフである。
【図7】図6のグラフの一部を拡大して示したグラフである。
【符号の説明】
【0028】
1 電波吸収性塗料組成物からなる塗膜



【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルテンサイト系Fe−Cr−Ni合金粉末および/またはマルテンサイト系Fe−Ni合金粉末からなる金属粉末、カーボン粉末、樹脂、および溶媒を含有することを特徴とする電波吸収性塗料組成物。
【請求項2】
樹脂100質量部に対して、前記金属粉末を100〜400質量部、前記カーボン粉末を5〜40質量部含有することを特徴とする請求項1記載の電波吸収性塗料組成物。
【請求項3】
前記カーボン粉末がカーボンブラックを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の電波吸収性塗料組成物。
【請求項4】
前記金属粉末が扁平粉末であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電波吸収性塗料組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の電波吸収性塗料組成物を用いて形成された塗膜を有する塗装物。
【請求項6】
前記塗膜の膜厚が30〜150μmである請求項5記載の塗装物。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−8982(P2007−8982A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−188408(P2005−188408)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【出願人】(506083903)株式会社新日本電波吸収体 (1)
【Fターム(参考)】