説明

電波式物体検出装置

【課題】電波式物体検出装置において、クラッタ成分を有効に低減しつつ、ターゲットとなる物体の検出精度の向上を図る。
【解決手段】クラッタ処理部6は、受信アンテナ3bによって受信された受信信号と、受信信号中のクラッタ成分を除去する際の波形的な基準を与えるリファレンス信号との差分を算出することによって、クラッタ成分を除去した処理済受信信号を生成する。また、クラッタ処理部6は、ターゲットが存在しないときの受信信号をリファレンス信号として設定する。信号比較部7は、現在の処理済受信信号を過去の処理済受信信号と比較することによって、ターゲットの存在を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波方式によってターゲットとなる物体を検出する電波式物体検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車内または車両近傍に存在する物体(例えば人間)を検出する手法として、音波方式、赤外線方式またはドップラー型電波レーダ方式等が知られている。音波方式は、超音波インパルスを送信し、ターゲット(検出対象)にて反射した超音波を検出し、前後の計測で比較する方式、または、送信された超音波インパルスが反射して戻るまでの飛行時間を計測し、この飛行時間の変動に基づいて物体を検出する方式である。赤外線方式は、焦電式赤外線センサ等により、人間の体温による温度変化分を検出する方法である。また、ドップラー型電波レーダ方式は、連続波の電波を送信し、物体のドップラー効果による周波数の変移を観測し、これに基づいて物体検出を行う方法である。
【0003】
例えば、特許文献1には、ターゲットとなる先行車(障害物)に対してレーザ光を発振し、その反射レーザ光を受信して、先行車までの距離を測定する障害物検出装置が開示されている。この検出装置では、ターゲットに至るまでの距離の間に存在する受光パワーのクラッタ(外乱)成分を除去すべく、目標検出距離に至るまでの近距離範囲に対してマスク処理が施し、この範囲内のクラッタ成分をカットする。
【特許文献1】特開平8−68857号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1では、近距離範囲内のものは一律にクラッタ成分とみなしてマスク処理を施すので、この範囲内にターゲットが存在しても、これを有効に検出することができないという問題がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、電波式物体検出装置において、クラッタ成分を有効に低減しつつ、ターゲットとなる物体の検出精度の向上を図ることである。
【0006】
また、本発明の別の目的は、電波式物体検出装置において、検出領域内に存在するターゲットを有効に検出することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決すべく、本発明は、パルス送信手段と、受信手段と、クラッタ処理部と、信号比較部とを有し、電波方式によってターゲットとなる物体を検出する電波式物体検出装置を提供する。パルス送信手段は、電波パルスを送信する。受信手段は、電波パルスの反射波を受信する。クラッタ処理部は、受信手段によって受信された受信信号と、受信信号中のクラッタ成分を除去する際の波形的な基準を与えるリファレンス信号との差分を算出することによって、クラッタ成分を除去した処理済受信信号を生成する。また、クラッタ処理部は、受信信号をリファレンス信号として設定する。信号比較部は、現在の処理済受信信号を過去の処理済受信信号と比較することによって、ターゲットの存在を検出する。
【0008】
また、本発明において、受信信号の時間軸上または距離軸上に、所定の検出領域を設定する領域設定部をさらに設けて、信号比較部は、領域設定部によって設定された検出領域内の処理済受信信号に基づいて、検出領域内に存在するターゲットの検出を行ってもよい。この場合、送信手段と受信手段とを含むセンサは、車内に設置されており、領域設定部は、受信手段によって受信された受信信号を、所定のしきい値に基づいて、時間軸上または距離軸上で車内領域と車外領域とに切り分け、車内領域および車外領域のいずれかを検出領域として選択できるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、受信信号中のクラッタ成分を除去する際の波形的な基準を与えるリファレンス信号を用意し、これと受信信号との差分をとることで、ターゲットの波形的な特徴を阻害することなく、クラッタ成分を低減することができる。これにより、クラッタ成分を有効に低減しつつ、ターゲットとなる物体の検出精度の向上を図ることができる。クラッタは、本来空間における不要反射であるが、本方式においては、送信回路からアンテナまでの回路内部の不要反射も含めて低減することができる。
【0010】
また、受信信号の時間軸上または距離軸上に所定の検出領域を設定し、この検出領域以外をマスクすれば、検出領域内のターゲットのみをより有効に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本実施形態に係る電波式物体検出装置のブロック図である。この電波式物体検出装置1は、制御部2と、アンテナ3と、インパルス発生部4と、領域設定部としてのA/D変換器5と、クラッタ処理部6と、信号比較部7と、記憶部8,9と、情報提示装置10と有し、電波方式によってターゲットとなる物体を検出する。制御部2は、インパルス発生部4、A/D変換器5、クラッタ処理部6および信号比較部7の同期制御を行うとともに、後述する検出領域選択命令をA/D変換器5に出力する。
【0012】
センサとしてのアンテナ3は、送信アンテナ3aおよび受信アンテナ3bを有し、図2に示すように、車内に設置されている。インパルス発生部4は、インパルス(連続波ではなくワンショットパルス)を発生し、これが微弱電波インパルス(電波パルス)として、送信アンテナ3aよりターゲットを含むエリアに向けて周期的に送信される。受信アンテナ3bは、送信された微弱電波インパルスの反射波をTDR(Time Domain Reflectometry)方式により随時受信する。この反射波は、車内目標(侵入者等)や車外目標(歩行者等)に起因して生じる他、これらの目標以外の物体(車内の座席等)にも起因して生じる。
【0013】
A/D変換器5は、受信アンテナ3bによって受信された受信波(アナログ信号)を変換して、デジタル信号としての受信信号を出力する。図3は、受信信号の時間軸上に設定される検出領域の説明図である。同図において、横軸は送信された電波が受信されるまでの時間Tを示し、縦軸は受信信号の受信電力Pを示す。なお、以下、時間軸Tの観点より本実施形態を説明するが、時間Tと距離とは実質的に等価な関係にあるので、時間軸を距離軸に置き換えても同様である点に留意されたい。
【0014】
A/D変換器5は、後述する検出領域を車内または車両近傍のみに精度よく限定するために、車内または車両近傍と見なせるエリアに対応する時間レンジ内のサンプルのみを変換処理して出力する。また、これに代えて、A/D変換器5は、車外(車両近傍を除く)と見なせるエリアに対応する時間レンジのサンプルについては、変換処理を停止することによってマスクしてもよい。
【0015】
ここで、図3において、時間軸T上にしきい値Tthを適切に設定することにより、時間軸Tを車内領域と車外領域とに切り分けることができる。車内領域における受信電力Pは、車内に存在する物体(車内目標を含む)に起因して生じるのに対して、車外領域における受信電力Pは、車外に存在する物体(車外目標を含む)に起因して生じる。本実施形態では、制御部2からの検出領域選択命令によって、車内領域および車外領域のいずれかを検出領域として選択することができる。車内の侵入者といった車内目標を検出すべき場合、検出領域として車内領域が選択される。この場合、図4に示すように、A/D変換器5より、しきい値Tth以下の領域(車内領域)のみ出力され、しきい値よりも大きな領域(車外領域)はマスクされる(出力値=0)。一方、歩行者等の車外目標を検出すべき場合、検出領域として車外領域が選択される。この場合、A/D変換器5より、しきい値Tthよりも大きな領域(車外領域)のみ出力され、しきい値以下の領域(車内領域)はマスクされる(出力値=0)。このようにして、A/D変換器5にて変換された受信信号は、クラッタ処理部6に出力されるとともに、受信信号記憶部8にも出力され、この記憶部8に一時的に記憶される。以下、車内目標の検出時を例に説明するが、車外目標を検出する場合であっても基本的な処理の流れは同様である。
【0016】
クラッタ処理部6は、A/D変換器5より出力された現在の受信信号と、受信信号記憶部8より読み出された過去の受信信号とに対して、クラッタ処理を施して、それぞれに対応した処理済受信信号を生成する。このクラッタ処理では、リファレンス信号記憶部9より読み出されたリファレンス信号が用いられる。リファレンス信号とは、受信信号中のクラッタ成分を除去する際の波形的な基準を与える参照信号である。図5は、クラッタ処理部6におけるクラッタ処理の説明図である。同図(a)は、リファレンス信号の波形の一例を示す。受信アンテナ3bによって受信される反射波には、同図(b)に示すように、目標1,2からの反射波以外に、車両内構造物等の静止物体からの反射波も含まれる。ターゲットの反射波のみに着目した場合、静止物体からの反射波は、ターゲット本来の反射波に歪みを生じさせるクラッタ成分(外乱成分)となる。ターゲットの反射波が存在しない場合、反射波にはクラッタ成分のみが含まれることになる。このような観点より、ターゲットが存在しないときの受信信号をリファレンス信号として用い、このリファレンス信号と、処理対象となる受信信号との差分を算出する。これによって、同図(c)に示したように、クラッタ成分を有効に除去でき、目標1,2に起因した受信電力ピークのみが出現した処理済受信信号を得ることができる。
【0017】
信号比較部7は、現在の処理済受信信号を過去の処理済受信信号と比較することによって、ターゲットとなる物体の存在を検出する。ここで、一例として図6に示すように、車内に座席と動目標とが存在するケースについて考える。このケースでは、図7に示すように、現在の処理済受信信号に関しては、静止物に起因した受信電力ピークが時間t1で出現し、動目標に起因した受信電力ピークが時間t2で出現する。一方、過去の処理済受信信号に関しては、静止物に起因した受信電力ピークが時間t1で出現し、動目標に起因した受信電力ピークが時間t3で出現する。両者を比較処理した場合、共に同じ時間t1で出現する静止物に起因した受信電力ピークはキャンセルされ、結果的に、動目標に関する時刻t2,t3の受信電力ピークのみが抽出される。そして、受信電力ピークの位置的な変化に基づいて動目標の検出が行われ、両ピークに一定以上の変化が生じた場合に、動目標が存在するものと判定される。そして、動目標が存在する場合には、スピーカ等の情報提示装置10を介して、その旨が音声にてドライバーに提示される。
【0018】
また、信号比較部7は、動目標(ターゲット)が存在しないときの受信信号(現在の受信信号)を新たなリファレンス信号として設定すべく、クラッタ処理部6にその旨を指示する。この指示を受けたクラッタ処理部6は、現在の受信信号を新たなリファレンス信号としてリファレンス信号記憶部9に格納する。以後、クラッタ処理部6は、更新された新たなリファレンス信号を用いてクラッタ処理を行う。このようなリファレンス信号のフィードバックにより、クラッタ成分の経時的な変動に追従したクラッタ処理を適切に行うことができる。なお、動体目標が存在する状態でリファレンスを取得した場合においても同様に検出可能である。この場合、動体目標が移動すれば図7において符号が反転した(負)の受信電力ピークとして現れる。
【0019】
このように、本実施形態によれば、受信信号中のクラッタ成分を除去する際の波形的な基準を与えるリファレンス信号を用意し、これと受信信号との差分をとることで、ターゲットの波形的な特徴を阻害することなく、クラッタ成分を低減することができる。これにより、クラッタ成分を有効に低減しつつ、ターゲットとなる物体の検出精度の向上を図ることができる。また、本実施形態では、動体の検出について説明したが、静止物体に適用することもできる。この場合は、基準とする環境の受信信号をリファレンスとして取得することにより行う。すなわち、異常な静止物体が存在する場合は、本発明の方式通り差分を取り検出することができる。
【0020】
また、本実施形態によれば、受信信号の時間軸上または距離軸上に所定の検出領域を設定し、この検出領域以外をマスクすれば、不要な領域における物体誤検出を抑制でき、検出領域内のターゲットのみをより有効に検出することができる。その際、所定のしきい値Tthに基づいて、車内領域と車外領域とに切り分け、車内領域および車外領域のいずれかを検出領域として選択可能にすることで、検出可能な物体のバリエーションを増やすことができる。
【0021】
また、本実施形態では、電波方式を採用しているので、例えば座席等の障害物の背後といった見通し外の検出目標であっても検出することが可能になる点を含めて、超音波方式、赤外線方式および電波ドップラー方式の課題を解決することができる。また、検出目標とアンテナ3との間に樹脂等の障害物があっても物体の反応を捉えることができるので、アンテナ3の設置場所を選ばないという利点がある。また、車両の構造物内部にアンテナ3を隠蔽することも可能なので、アンテナ3を有効に保護でき、かつ、外観上の見栄えを損なうこともない。さらに、音波や熱等のノイズの影響を受けにくいという利点がある他、送信波として連続波を用いないので、送信に関する消費電力を低減できるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態に係る電波式物体検出装置のブロック図
【図2】車内外の状態の説明図
【図3】受信信号の時間軸上に設定される検出領域の説明図
【図4】車内領域を検索領域とした場合の説明図
【図5】クラッタ処理部におけるクラッタ処理の説明図
【図6】車内の状態の説明図
【図7】処理済受信信号の比較による物体検出の説明図
【符号の説明】
【0023】
1 電波式物体検出装置
2 制御部
3 アンテナ
3a 送信アンテナ
3b 受信アンテナ
4 インパルス発生部
5 A/D変換器
6 クラッタ処理部
7 信号比較部
8 受信信号記憶部
9 リファレンス信号記憶部
10 情報提示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波方式によってターゲットとなる物体を検出する電波式物体検出装置において、
電波パルスを送信するパルス送信手段と、
前記電波パルスの反射波を受信する受信手段と、
前記受信手段によって受信された受信信号と、当該受信信号中のクラッタ成分を除去する際の波形的な基準を与えるリファレンス信号との差分を算出することによって、クラッタ成分を除去した処理済受信信号を生成するとともに、前記受信信号を前記リファレンス信号として設定するクラッタ処理部と、
現在の前記処理済受信信号を過去の前記処理済受信信号と比較することによって、前記ターゲットの存在を検出する信号比較部と、
を有することを特徴とする電波式物体検出装置。
【請求項2】
前記受信信号の時間軸上または距離軸上に、所定の検出領域を設定する領域設定部をさらに有し、
前記信号比較部は、前記領域設定部によって設定された前記検出領域内の前記処理済受信信号に基づいて、前記検出領域内に存在する前記ターゲットの検出を行うことを特徴とする請求項1に記載された電波式物体検出装置。
【請求項3】
前記送信手段と前記受信手段とを含むセンサは、車内に設置されており、
前記領域設定部は、前記受信手段によって受信された前記受信信号を、所定のしきい値に基づいて、前記時間軸上または前記距離軸上で車内領域と車外領域とに切り分け、前記車内領域および前記車外領域のいずれかを前記検出領域として選択可能にすることを特徴とする請求項2に記載された電波式物体検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−145237(P2008−145237A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332008(P2006−332008)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】