説明

電波高度計

【課題】正確な残留高度を常に用いて高度の補正をする電波高度計の提供。
【解決手段】メモリ回路52には、搭載される可能性のある全ての航空機に関し、計算により求めた残留高度HOffが航空機の機体情報150に対応して予め格納してある。選別回路51は、電波高度計に電源が投入されたときに、機体情報150を読み取る。機体情報150は、航空機の機種、機体内ケーブルの電気長L,L等の当該航空機における残留高度HOffを規定する情報であり、コネクタ300に接続された電子回路の回路構成でもって、表されている。メモリ回路52から機体情報150に対応する残留高度HOffが読み出される。測定高度補正部6は、信号402で表される見掛けの高度Hから残留高度HOffを差し引くことにより、実際の測定高度Hを生成し、信号106で出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波高度計に関し、特に航空機に搭載され、送受信電波の時間差を利用して飛行高度を測定するのに好適な電波高度計に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機搭載の電波高度計は、送信部、受信部および高度演算部を備え、送信部から出力した電波が航空機搭載の送信アンテナから放射され、地上で反射され、航空機搭載の受信アンテナで受信され、受信部に入力されるまでの経過時間を高度演算部で距離に変換し、その距離の2分の1を航空機の高度とする。送信部から送信アンテナまでの高周波電波伝送用のケーブル、受信アンテナから受信部までの高周波電波伝送用のケーブル、航空機が飛行場等の地上に駐機しているときに送信アンテナから地面へ、そして地面から受信アンテナに至る間の電波伝播経路があるので、これら2つのケーブル及び駐機中の両アンテナ間の電波伝播経路における電波伝播時間に対応する距離は、航空機の高度がゼロのときにも高度演算部において高度として演算される。そこで、航空機が駐機中に高度演算部で演算により求められる高度を残留高度と称し、航空機の飛行中に高度演算部において演算された見掛けの高度から残留高度を差し引く演算を行い、実際の航空機の高度(実高度)を算出している。即ち、残留高度は、実高度を求めるための補正値である。また、残留高度は、航空機の高度がゼロ(駐機中)のときには電波高度計の高度出力がゼロとなるように、電波高度計における電波の送信から反射電波の受信までの経過時間から求められる見掛けの高度データを補正するためのデータであるので、特許文献1(特開平10−268039)では残留高度を零補正値と称している。
【0003】
図4は、電波高度計による原理的な航空機高度測定方法を説明するための高度測定システムを示す概念図である。図4では、航空機は飛行場等の平坦地に静置(駐機と通称されるので、以下では通称に従い、駐機と称することとする。)されているものとする。また、図5は、図4の電波高度計による高度測定システムにおける各部信号の時間関係を示すタイミング図である。図において、100は航空機に搭載された電波高度計、2は電波高度計100の送信部、3は電波高度計100の受信部、4は送信部2から出力された高周波の送信電波101が受信電波104として受信部3で受信されるまでの経過時間に基づき航空機の高度を演算する高度演算部、10は航空機搭載の送信アンテナ、11は航空機搭載の受信アンテナ、9は電波高度計100の出力端1aから出力された電波を送信アンテナ10に導く電気長L1の機体内ケーブル、12は受信アンテナ11で受信された電波を電波高度計100の入力端1bに導く電気長Lの機体内ケーブル、13は送信アンテナ10及び受信アンテナ11が固定される機体フレーム、14は送信アンテナ10から放射された電波を反射する地表面、Dは送信アンテナ10と受信アンテナ11との間隔、hは送信アンテナ10及び受信アンテナ11の地上高である。また、102は送信アンテナ10から放射される送信電波、103は地表面14において反射された反射電波である。図4の高度測定システムは、送信アンテナ10及び受信アンテナ11が、地表面14から同じ高さhの位置において機体フレーム13に固定されている例である(同様、後に説明する図1及び図6においても両アンテナの地上高はhとする)。機体内ケーブル9,12は誘電率εの同軸ケーブルでなる。
【0004】
図4及び図5を参照し、図4の電波高度計により航空機の高度を求める方法を説明する。高度演算部4は、送信トリガパルス信号401を出力する[図5(a)]。送信部2は、送信トリガパルス信号401に同期し、高周波の送信電波101を生成する[図5(b)]。機体内ケーブル9は、電波高度計100の出力端1aから受けた送信電波101を送信アンテナ10へ伝送する。送信アンテナ10は、送信電波101を入力し、送信電波102を地表面14に向け放射する。送信電波102は、地表面14で反射され、反射電波103として受信アンテナ11で受信される。機体内ケーブル12は、受信アンテナ11で受信された反射電波103を受信電波104として電波高度計100の入力端1bへ伝送する。受信部3は、入力端1bから受けた高周波の受信電波104[図5(c)]を復調し、受信パルス信号301[図5(d)]を生成する。図5(c) の受信電波104は、図4の電波高度計を搭載した航空機が駐機しているときの受信電波のタイミングを示している。高度演算部4は、送信トリガパルス信号401の立上り時点tから受信パルス信号301の立上り時点tまでの経過時間TOffを距離に変換し、その距離の2分の1を高度Hとして求め、この高度Hを測定高度データ402として出力する。いま、航空機は駐機しているので、航空機の高度はゼロであるはずであるが、図4の高度測定システムで高度演算部4から出力される高度データ402はHであり、ゼロではない。航空機の実際の高度Hがゼロのとき(駐機状態)に、高度演算部4で演算される高度Hが前述の残留高度である。実際の高度がゼロのときの高度Hを以下では残留高度HOffと表記する。航空機が任意の高度にあるときに図4の高度測定システムで測定した高度H(高度演算部4の出力402で表される高度)は、残留高度HOffを含むので、見掛けの高度である。そこで、以下では高度Hを見掛けの高度と称することとする。航空機の実高度Hは見掛けの高度Hから残留高度HOffを差し引いたものである(H=H−HOff)。
【0005】
なお、図4の電波高度計100では、高度演算部4から送信トリガパルス信号401が出力され、送信部2が送信トリガパルス信号401に同期した送信電波101を生成し、送信電波101が出力端1aに至るまでの時間(この時間をT01とする)、および受信電波104が入力端1bに入力され、さらに受信部3に至り、受信部3が受信電波104を復調し、受信パルス信号301を生成し、受信パルス信号301が高度演算部4に入力されるまでの時間(この時間をT02とする)が理論上は存在する。しかしながら、これら時間T01及びT02は上記経過時間TOff(残留高度HOffに対応する時間)に比べ極めて微小であり、実高度計算においては無視し得る。後述の図6の電波高度計200及び図1の電波高度計1においても同様である。
【0006】
引き続き図5を参照して、航空機の実高度Hを求める方法を具体的に説明する。航空機の飛行時には、航空機の実高度Hはゼロより大きくなるので、飛行時の受信パルス信号301[図5(f)]は、駐機時における受信パルス信号301[図5(d)]より遅れて受信される。そこで、航空機の飛行時には、送信トリガパルス信号401の立上り時点tから受信パルス信号301の立上り時点tまでの経過時間Tは、駐機時のその経過時間TOff(残留高度HOffに対応)より大きくなる。航空機の実高度Hは、経過時間の差T−TOff=Tの2分の1を距離に変換した値である。そこで、実高度Hを得るために、高度演算部4の出力の測定高度データ402で表される見掛けの高度Hから残留高度HOffを差し引き、実高度H=H−HOffを生成するための補正手段が必要となる。
【0007】
前述の特許文献1には、図6に示される自動零高度補正機能付電波高度計が開示されている。図6は、上述の図4との対応間関係を分かり易くするために、特許文献1における図[1]とは表現を僅かに変更してあるが、実質的に特許文献1における図[1]と同じである。図6において、電波高度計200は、送信部2、受信部3、高度演算部4、残留高度検出部50および測定高度補正部60により構成されている。送信部2、受信部3および高度演算部4は、図4の電波高度計100におけるものと同じである。残留高度検出部50は、脚スイッチ入力回路15、駐機状態判定回路16および零補正値メモリ回路17でなる。この特許文献1の従来例においては、航空機が駐機状態であるか否かを示すスイッチオン信号110が端子1eから入力される。駐機時に機体の脚が接地すると、接地により脚に加わる圧力が脚スイッチで感知され、脚スイッチがオンになり、脚スイッチはスイッチオン信号110を出力する。脚スイッチ入力回路15は、スイッチオン信号110の信号レベルを駐機状態判定回路16の入力回路に適合する値に変換し、脚スイッチ信号115を生成する。駐機状態判定回路16は、脚スイッチ信号115に基づき航空機の駐機状態を判定する。零補正値メモリ回路17は、駐機状態判定回路16の判定信号116を受け、判定信号116が駐機状態との判定を示すときは、高度演算部4の出力の測定高度データ402で表される見掛けの高度Hを残留高度HOffとして記憶し、残留高度HOffを表す残留高度信号117を出力する。残留高度と同じ意味の用語として、特許文献1では零補正値が用いられていることは前述のとおりである。測定高度補正部60は、高度補正手段であり、高度演算部4の出力の測定高度データ402で表される見掛けの高度Hから、残留高度信号117で表される残留高度HOffを差し引き、実高度H=H−HOffを生成し、実高度Hを測定高度信号160として端子1fから出力する。このように、特許文献1の自動零高度補正機能付電波高度計では、駐機中に電波高度計で実測した見掛けの高度Hが残留高度HOffとして利用される。
【特許文献1】特開平10−268039
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来の電波高度計においては、駐機中に電波高度計で実測した見掛けの高度Hを残留高度HOffとして利用している。然しながら、送信アンテナから放射される放射電波と、地表面で反射されて受信アンテナに捕捉される反射電波の電波伝播経路長は、各アンテナの放射特性および周囲環境に依存し、変動し易い。例えば、送信アンテナ又は受信アンテナの近傍に作業車などがあれば、放射電波又は受信電波の伝播経路が影響を受け、ひいては電波伝播経路長が影響を受ける。このように駐機中の電波伝播経路が送受信アンテナ近傍の環境により影響を受けると、測定した残留高度HOffの誤差が大きくなり、ひいては見掛けの高度Hから残留高度HOffを差し引く補正により得た高度H(=H−HOff)も、実高度とは異なり、誤差を含んだ高度となる。また、このような実測により残留高度HOffを取得する従来の電波高度計では、電波高度計に高度測定上の何らかの故障が生じている場合には、残留高度HOffが誤った値に測定されるので、飛行時もその誤った残留高度HOffで補正した高度を実高度として扱ってしまう。そこで、本発明の目的は、正確な残留高度を常に用いて高度の補正をする電波高度計の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の課題を解決するために本発明は次の手段を提供する。
【0010】
(1)飛翔体が地上静置状態にあるときの送信アンテナから受信アンテナに至る電波の伝播経路長、高周波電波出力端から前記送信アンテナに至る間の送信電波伝送用の第1のケーブル及び前記受信アンテナから反射電波入力端の間の反射電波伝送用の第2のケーブルの長さ並びに前記第1及び第2のケーブルの誘電率に基づき予め計算した残留高度を記憶する記憶手段と、
前記高周波電波出力端からの送信電波の出力から前記反射電波入力端への反射電波の入力までの経過時間に対応する高度を、前記記憶手段に記憶した前記残留高度で補正する補正手段と
を有することを特徴とする電波高度計。
【0011】
(2)電波の出力端および入力端を備え、飛翔体に搭載され、前記出力端から出力した電波を第1のケーブルで前記飛翔体搭載の送信アンテナに導き、前記送信アンテナから地上に向けて電波を放射し、地上で反射された電波を前記飛翔体搭載の受信アンテナで受信し、前記受信アンテナで受信した電波を第2のケーブルで前記入力端に導き、前記出力端から前記入力端に至る電波の伝播時間から該飛翔体の高度を測定する装置であって、前記飛翔体が地上静置状態にあるときの前記出力端から前記入力端に至る電波の伝播時間の2分の1に相当する距離を残留高度とし、前記出力端から前記入力端に至る電波の伝播時間の2分の1に相当する距離から前記残留高度を差し引くことにより、前記飛翔体の実際の高度を測定する電波高度計において、
前記残留高度は、前記飛翔体が前記地上静置状態にあるときの前記送信アンテナから前記受信アンテナに至る電波の伝播経路長、前記第1及び第2のケーブルの長さ並びに前記第1及び第2のケーブルの誘電率に基づき予め計算により取得し、記憶手段に記憶した値であることを特徴とする電波高度計。
【0012】
(3)電波高度計側コネクタが接続される飛翔体側コネクタ又はこのコネクタに接続された電子回路の回路構成が、前記残留高度を規定する情報に対応させてある飛翔体に搭載される前記(2)に記載の電波高度計であって、
前記記憶手段は複数の前記残留高度を記憶しており、
前記電波高度計側コネクタ経由で前記回路構成を読み取り、前記回路構成に応じた選別信号を生成し、この選別信号に対応した前記残留高度を前記記憶手段から読み出す選別回路を備える
ことを特徴とする電波高度計。
【0013】
(4)前記残留高度は、前記出力端から前記入力端に至る電波の伝播時間の2分の1の時間で表されていることを特徴とする前記(1)乃至(3)に記載の電波高度計。
【発明の効果】
【0014】
送信アンテナから放射される放射電波と、地表面で反射されて受信アンテナに捕捉される反射電波の電波伝播経路長は、各アンテナの放射特性および周囲環境に依存し、変動し易いが、上記の構成によれば、その電波伝播経路長に依存することなく、電波高度計が搭載される各飛翔体それぞれについて、記憶手段に予め記憶された正確な残留高度を常に利用して、高度の補正ができるから、正確な実高度を測定できる。もし、本発明の電波高度計が故障していたとしても、その電波高度計を搭載している飛翔体が着地(飛翔体が航空機であれば、駐機)しているときに測定される飛翔体の高度はゼロとはならないから、その故障は発見され、誤った高度を実高度と認識する危険な飛翔を予め防ぐことができる。
【0015】
また、電波高度計側コネクタが接続される飛翔体側コネクタの回路構成が、残留高度に対応させてある飛翔体に電波高度計が搭載されるときは、飛翔体の機種ごとの残留高度をそれぞれ記憶手段に記憶しておき、電波高度計側コネクタ経由で飛翔体側コネクタの回路構成を読み取り、その回路構成に応じた選別信号を生成し、この選別信号に対応した残留高度を記憶手段から読み出す選別回路を備える前記(3)の構成が採用できる。前記(3)の構成では、電波高度計側コネクタを飛翔体側コネクタに接続することにより、当該機種の残留高度が記憶手段から自動的に読み取られるので、正確な実高度が自動的に測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態の電波高度計を備える高度測定システムを示す概念図である。図1において、1は電波高度計、1aは高周波電波101が出力される出力端、1bは受信電波104が入力される入力端、1cは電波高度計1が搭載される航空機側の電子回路に接続されるコネクタ、1dは測定高度信号106が出力される出力端子、2は送信部、3は受信部、4は高度演算部、5は残留高度検出部、6は測定高度補正部、10は航空機の機体に固定された送信アンテナ、11は航空機の機体に固定された受信アンテナ、9は電波高度計1出力の送信電波101を送信アンテナ10に導く機体内ケーブル、12は受信アンテナ11で受信した反射電波103を電波高度計1に受信電波104として導く機体内ケーブル、13は航空機の機体フレーム、51は選別回路、52はメモリ回路、300は電波高度計1側のコネクタ1cに接続される航空機側のコネクタである。電波高度計1は、送信部2、受信部3、高度演算部4、残留高度検出部5および測定高度補正部6で構成される。残留高度検出部5は選別回路51およびメモリ回路52で構成される。
【0017】
図1の実施形態の電波高度計1は、図6の従来の電波高度計200における残留高度検出部50、測定高度補正部60、端子1e及び端子1fに代えて、残留高度検出部5、測定高度補正部6、端子1c及び端子1dをそれぞれ備え、また図6の電波高度計200におけるスイッチオン信号110に代えて機体情報信号150を入力するとともに、測定高度信号160に代えて測定高度信号106を出力する点でその電波高度計200と相違し、その他の構成は図6の電波高度計と同じである。本発明は、残留高度HOff[図5(e)に示す時間長TOffに対応する高度]を予め計算により取得し、記憶しておくことに大きな特徴を有し、高度演算部4で測定した見掛けの高度を残留高度で補正するという電波高度計の基本的な考え方は図6の従来のものと変わらない。
【0018】
図2及び図3は、図1の実施形態における残留高度の計算方法を示すための残留高度算定図である。図2は、機体フレーム13に取付けられた送信アンテナ10と受信アンテナ11の地上高が異なり、それぞれhtとhrである場合を示し、図3は、送信アンテナ10と受信アンテナ11の地上高が相等しくhである場合を示す。図1、図2および図3においては、送信アンテナ10と受信アンテナ11の配置間隔はDであり、機体内ケーブル9と12の電気長はそれぞれL1とL2である。また送信アンテナ10から送信される送信電波102と、地表面において反射されて受信アンテナ12に受信される反射電波103の伝播経路長はそれぞれL3とL4である(図2および図3では、図1における符号の一部は省略されている。)。
【0019】
始めに、図1、図2および図3を参照して、本発明における残留高度について説明する。図1および図2おいて、電波高度計1の出力端1aから出力され、送信用の機体内ケーブル9を経由し、送信アンテナ10から送信電波102として放射され、地表面14において反射されて受信アンテナ11に反射電波103として受信され、受信用の機体内ケーブル12を経由して電波高度計1の入力端1bに入力される高度測定信号の伝播経路長に対応する残留高度HOffは、図2に示されるように次式によって与えられる。
【数1】

また図3の場合には、送信アンテナ10と受信アンテナ11の地上高は等しく、共にhであるから、残留高度HOffは、図3に示されるように次式によって与えられる。
【数2】

【0020】
図2及び図3において、機体内ケーブル9の電気長L1及び機体内ケーブル12の電気長L2は、ケーブルの長さ及び誘電率に基づき計算された設計値として明確に規定されている。送信アンテナ10と受信アンテナ11の間隔Dおよび各アンテナの地上高ht,hrは、それぞれ設計値として明確に与えられている。従って残留高度HOffは、図2の場合には上記(1)式により、図3の場合には(2)式によって、機体ごとに予め規定されている。図6の従来の高度測定システムにおいては、実測によって残留高度HOffを取得したので、残留高度HOffに実測に伴う不定要素が排除できなかった。これに対し、図1の本発明の実施形態では、次に詳述するように、残留高度HOffとして設計値を用いて高度の補正を行う。
【0021】
次に、図1を参照して、電波高度計1が搭載される航空機の残留高度を使用して高度の補正をする方式について説明する。航空機の機種ごとにアンテナ10,11の地上高hが定まる。航空機の機種が同じであっても電波高度計の取付位置が相違し、ひいては機体内ケーブルの電気長L,Lが相違することもあり得るが、航空機の機種および機体内ケーブルの電気長L,Lは、機体ごとに予め設計事項として知り得る。そこで、図1の電波高度計1が搭載される航空機では、航空機の機種、機体内ケーブルの電気長L,L等の当該航空機における残留高度HOffを規定する情報は、航空機側のコネクタ300又はコネクタ300に接続された電子回路の回路構成で表現できる。いまコネクタ300がNo.1からNo.10までの10個のピンを有してなり、No.1ピンは接地され(No.1ピンと接地との間の抵抗値がゼロ)、No.2ピンは+5ボルトの電源に接続され、No.3のピンはオープン(開放、No.3のピンと接地との間の抵抗が無限大)であり、No.4のピンは1Kオームの抵抗で接地され、No.5のピンは+15ボルトの電源に接続され、No.6のピンは電圧値が0.5ボルトから5.0ボルトの間で変動する電源(信号源)に接続され、No.7のピンは接地され、No.8乃至No.10のピンは電圧値が0.5ボルトから5.0ボルトの間で変動する電源(信号源)に接続されていると仮定すると、前記の回路構成は、コネクタ300におけるNo.1からNo.10までの10個のピンの抵抗値及び電圧値で規定される。その回路構成で表現された情報は、機体情報150として、電波高度計1に電源が投入されたとき(電波高度計1の電源投入前に両コネクタが接続されている場合)或いは電波高度計1側のコネクタ1cを航空機側のコネクタ300に接続したときに(電波高度計1の電源投入前には両コネクタが接続されていない場合)、選別回路51で自動的に読み取れる。請求項3における「電波高度計側コネクタが接続される飛翔体側コネクタ又はこのコネクタに接続された電子回路の回路構成が、前記残留高度を規定する情報に対応させてある」との記載は、図1の実施の形態に関しては、「電波高度計側コネクタ1cが接続される航空機側コネクタ300又はこのコネクタ300に接続された電子回路の回路構成が、前記残留高度を規定する情報に対応させてある」と読み替えることができる。
【0022】
引き続き、電波高度計1が搭載される航空機に対応して残留高度を規定するための図1の実施形態の動作について説明する。今、電波高度計1が航空機Aに搭載されているものとする。電波高度計1の残留高度検出部5に含まれるメモリ回路52には、前述の式(1)又は(2)より予め算出された各航空機に対応する残留高度が個別に格納されている。電波高度計1側のコネクタ1cを航空機側のコネクタ300に接続したときに、選別回路51は、コネクタ1c及びコネクタ300を介して、機体情報150を読み取る。機体情報150は、航空機の機種、機体内ケーブルの電気長L,L等の当該航空機における残留高度HOffを規定する情報であり、航空機側コネクタ300又はこのコネクタ300に接続された電子回路の回路構成でもって、表されている。
【0023】
図1の実施形態の場合には、電波高度計1が搭載される航空機は航空機Aであるから、機体情報150が現す情報は、航空機Aである。機体情報150が現す情報が航空機Aであることを読み取った選別回路51は、選別信号151を出力する。選別信号151は、航空機Aを表すコードである。
【0024】
航空機Aなる情報には、航空機の機種、機体内ケーブルの電気長L,L等の当該航空機における残留高度HOffを規定する情報が一義的に対応している。機体情報150が航空機Aであれば、航空機の機体ごとに固有のアンテナ10,11の地上高および機体内ケーブルの電気長L,Lが設計事項として予め判明する。メモリ回路52には、航空機Aのアンテナ10,11の地上高および機体内ケーブルの電気長L,Lに基づき予め計算した残留高度HOffが航空機Aなるデータと対応付けて記憶してある。メモリ回路52には、航空機Aに対応する残留高度HOffだけでなく、電波高度計1が搭載される可能性のある全ての航空機に対応する残留高度HOffが予め記憶してある。したがって、電波高度計1が搭載される可能性のある航空機が航空機A、航空機B、航空機C・・・・・・であれば、機体情報150で表される航空機は航空機A、航空機B、航空機C・・・・・・の内のいずれかであるので、メモリ回路52は航空機A、航空機B、航空機C・・・・・・に関する残留高度HOffA,HOffB,HOffC・・・・・・を記憶している。今、選別信号151は航空機Aを表すので、選別信号151を受けたメモリ回路52は、航空機Aに対応する残留高度HOffAを読み出し、残留高度信号105を出力する。残留高度信号105は残留高度HOffAを表す。
【0025】
測定高度補正部6は、測定高度データ402で表される見掛けの高度Hから残留高度信号105で表される残留高度HOffを差し引く演算により、航空機の実高度Hを生成し(H=H−HOff)、測定高度信号106を端子1dから出力する。測定高度信号106は実高度Hを表す。本実施の形態では、電波高度計1が搭載される航空機が航空機Aである場合と同様に、電波高度計1が搭載される航空機が航空機B、航空機C・・・・・・の内のいずれかである場合においても全く同様に、残留高度HOffによる高度の補正が行われる。例えば、電波高度計1が搭載される航空機が航空機Bであれば、機体情報150が現す情報は航空機Bであるから、選別回路51は機体情報150が現す情報が航空機Bであることを読み取り、選別回路51は、航空機Bを表すコードを選別信号151して出力し、メモリ回路52からは航空機Bに対応する残留高度HOffBが読み出され、メモリ回路52は残留高度HOffBを表す残留高度信号105を出力する。従って、図1の実施形態によれば、電波高度計1が搭載される航空機の如何を問わず、測定高度補正部6に対しては、その航空機に対応する適正な高度補正値が常に自動的に供給され、測定高度補正部6から航空機の実高度Hが測定高度信号106として出力される。
【0026】
上述のように、図1の実施形態によれば、設計値に基づく残留高度HOffが自動的に選択され、その適正な残留高度HOffより補正した高度が測定できる。そこで、航空機の駐機中に高度測定したとき、電波高度計1が故障でなければ、測定高度信号106で表される航空機の実高度Hは、ある誤差範囲でゼロ付近となる。もし、その実高度Hが誤差範囲のゼロ付近とならないならば、電波高度計1が故障であると診断できる。すなわち、電波高度計1は自己診断機能を備えるといえる。
【0027】
また、図6の従来の電波高度計では、駐機中に測定した高度を残留高度HOffとしたから、残留高度HOffが周囲環境の影響を受ける虞があったが、図1の本発明の実施形態では、計算により得た機体ごとの残留高度HOffをメモリ回路52に予め記憶しておくとともに、電波高度計が搭載された機体の情報150をコネクタ1c経由で選別回路51に読取り、選別回路51で読取った機体に応じた残留高度HOffをメモリ回路52から読み出す。そこで、図1の本発明の実施形態では、いかなる場合にも周囲環境の影響を受けることなく、正確な残留高度HOffに基づき見掛けの高度Hを補正するので、測定した実高度Hは常に正確である。例えば、本実施形態の電波高度計を用いれば、航空機の駐機中に作業車などが近傍に存在したとしても、その影響を受けることなく、正確に実高度Hを測定できる。
【0028】
図6の従来の電波高度計200では、スイッチオン信号110の入力ごとに、脚スイッチ信号115及び判定信号116を生成し、ゼロ補正値メモリ回路17に記憶する残留高度を書き換えているので、何らかの不都合により誤ったタイミング(例えば航空機の飛行中)にスイッチオン信号110が入力されたりすると、測定高度補正部60から出力される測定高度信号160で表される測定高度は全く誤ったデータとなる虞がある。これに対し、図1の本実施形態の電波高度計1では、電波高度計1に電源が投入されたときにだけに選別回路51が機体情報150を読み取れるようにすることにより、何らかの誤操作又は誤作動に起因し、残留高度HOffが飛行中などに書き換えられる虞がない。また、図1の実施形態では、何らかの原因により、残留高度HOffが誤ったデータに切り替わったとき、或いは機体情報150で表される航空機の情報が誤っていたとすれば、駐機時の高度が誤差範囲のゼロ付近とならないであろうから、残留高度HOffのデータの誤りが発見できる。
【0029】
以上には、発明の理解を容易にするために、実施形態を挙げ、具体的に説明したが、本発明が前記実施形態に限定されるものではないことは勿論である。例えば、図1の実施形態は航空機に搭載される電波高度計であったが、本発明は、飛行機やヘリコプタ等の航空機に搭載される電波高度計だけではなく、ミサイル、気球等の航空機以外の飛翔体に搭載される電波高度計にも適用できる。
【0030】
また、上述の実施形態では、残留高度は距離の単位でメモリ回路52に記憶したが、メモリ回路52に記憶する残留高度を距離の単位で記憶することは必須ではない。電波の伝搬速度が一定であるので、電波の伝搬時間は電波の伝搬距離に対応している。そこで、例えば距離の単位の残留高度に相当する電波の伝搬時間をメモリ回路52に記憶しておき、メモリ回路52から読み出した伝搬時間に既知の電波伝搬速度を掛ける乗算回路をメモリ回路52の出力端と測定高度補正部6の残留高度信号105の入力端との間に設けておき、その乗算回路の出力を前記残留高度信号105とすることにより、図1の実施形態と同様に本発明を実施できる。請求項4における電波の伝播時間は、図1の出力端1aから入力端1bに至る電波の伝搬時間に相当している。また、請求項4における” 残留高度は、・・・・・電波の伝播時間で表されている”とは、残留高度の情報をその残留高度に相当する電波伝搬時間の2分の1という時間で表すことを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態の電波高度計を備える高度測定システムを示す概念図である。
【図2】送信アンテナの地上高と受信アンテナの地上高とが相違するときにおける残留高度の計算方法を示すための残留高度算定図である。
【図3】送信アンテナの地上高と受信アンテナの地上高とが等しいときにおける残留高度の計算方法を示すための残留高度算定図である。
【図4】電波高度計による原理的な航空機高度測定方法を説明するための高度測定システムを示す概念図である。
【図5】図4の電波高度計による高度測定システムにおける各部信号の時間関係を示すタイミング図である。
【図6】特許文献1の自動零高度補正機能付電波高度計の構成を示す概念図である。
【符号の説明】
【0032】
1,100,200 電波高度計
1a 送信電波101の出力端
1b 受信電波104の入力端
1c 機体側のコネクタ300に接続され、コネクタ300から機体情報150を受けるコネクタ
1d 測定高度信号106の出力端
1e スイッチオン信号110の入力端
1f 測定高度信号160の出力端
2 送信部
3 受信部
4 高度演算部
5,50 残留高度検出部
6,60 測定高度補正部
9,12 機体内ケーブル
10 送信アンテナ
11 受信アンテナ
13 機体フレーム
14 地表面
17 零補正値メモリ回路
51 選別回路
52 メモリ回路
101,102 送信電波
103 反射電波
104 受信電波
105 残留高度信号
106 測定高度信号
110 スイッチオン信号
115 脚スイッチ信号
116 判定信号
117 残留高度信号
150 機体情報信号
151 選別信号
160 測定高度信号
301 受信パルス信号
401 送信トリガパルス信号
402 測定高度データ
301 受信パルス信号
機体内ケーブル9の電気長
機体内ケーブル12の電気長
送信アンテナ10から放射され地表面14へ至る電波の伝播経路長
地表面14反射され受信アンテナ11で受信される電波の伝播経路長
D 送信アンテナ10と受信アンテナ11との間隔
h 送信アンテナ10及び受信アンテナ11の地上高
みかけの高度
実高度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛翔体が地上静置状態にあるときの送信アンテナから受信アンテナに至る電波の伝播経路長、高周波電波出力端から前記送信アンテナに至る間の送信電波伝送用の第1のケーブル及び前記受信アンテナから反射電波入力端の間の反射電波伝送用の第2のケーブルの長さ並びに前記第1及び第2のケーブルの誘電率に基づき予め計算した残留高度を記憶する記憶手段と、
前記高周波電波出力端からの送信電波の出力から前記反射電波入力端への反射電波の入力までの経過時間に対応する高度を、前記記憶手段に記憶した前記残留高度で補正する補正手段と
を有することを特徴とする電波高度計。
【請求項2】
電波の出力端および入力端を備え、飛翔体に搭載され、前記出力端から出力した電波を第1のケーブルで前記飛翔体搭載の送信アンテナに導き、前記送信アンテナから地上に向けて電波を放射し、地上で反射された電波を前記飛翔体搭載の受信アンテナで受信し、前記受信アンテナで受信した電波を第2のケーブルで前記入力端に導き、前記出力端から前記入力端に至る電波の伝播時間から該飛翔体の高度を測定する装置であって、前記飛翔体が地上静置状態にあるときの前記出力端から前記入力端に至る電波の伝播時間の2分の1に相当する距離を残留高度とし、前記出力端から前記入力端に至る電波の伝播時間の2分の1に相当する距離から前記残留高度を差し引くことにより、前記飛翔体の実際の高度を測定する電波高度計において、
前記残留高度は、前記飛翔体が前記地上静置状態にあるときの前記送信アンテナから前記受信アンテナに至る電波の伝播経路長、前記第1及び第2のケーブルの長さ並びに前記第1及び第2のケーブルの誘電率に基づき予め計算により取得し、記憶手段に記憶した値であることを特徴とする電波高度計。
【請求項3】
電波高度計側コネクタが接続される飛翔体側コネクタ又はこのコネクタに接続された電子回路の回路構成が、前記残留高度を規定する情報に対応させてある飛翔体に搭載される請求項2に記載の電波高度計であって、
前記記憶手段は複数の前記残留高度を記憶しており、
前記電波高度計側コネクタ経由で前記回路構成を読み取り、前記回路構成に応じた選別信号を生成し、この選別信号に対応した前記残留高度を前記記憶手段から読み出す選別回路を備える
ことを特徴とする電波高度計。
【請求項4】
前記残留高度は、前記出力端から前記入力端に至る電波の伝播時間で表されていることを特徴とする請求項1乃至3に記載の電波高度計。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−122283(P2008−122283A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307950(P2006−307950)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(000231073)日本航空電子工業株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】