説明

電流検出器

【課題】電流検出器に不可避の遅れ要素があっても、その応答性を改善する。
【解決手段】電流検出器(100)は、被検出電流(If)を導通させる導体(105)の周囲に配置された環状の磁性体コア(102)と、磁性体コア(102)に形成されたギャップ(102d)内に配置されたホール素子(106)と、ホール素子(106)から出力され電圧信号を増幅する増幅器(108)と、信号経路(118)上に形成された電磁誘導部(120)とを備える。被検出電流が変化すると、それに伴う磁界の変化に応じて電磁誘導部(120)が誘導起電力を発生し、検出の応答性を向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流の測定や過電流の検出、電流フィードバック制御等に利用される磁気比例方式の電流検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電流検出器(電流センサ)は、被検出電流の導通によって生じる磁束をコア(磁心)で収束し、その磁束をホール素子で電圧信号に変換して電流値を検出する手法を採用している。また、ホール素子から得られる出力電圧はオペアンプ等の増幅器で増幅され、センサによる検出信号として使用される。
【0003】
通常、ホール素子の出力電圧は、コアギャップ(ホール素子の感磁部)を通る磁界の大きさ(磁束の量)に比例するが、ホール素子の感磁部から外れた磁束は検出に寄与しないため、実際に得られるホール素子の出力レベルは見かけ上で低くなる傾向にある。このため従来、ホール素子の両面または片面に高透磁率の強磁性体片を配置することで、ギャップ内での磁束密度を増幅してホール素子に印加させる先行技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
上記の先行技術によれば、ホール素子に印加される磁束密度を通常の2〜5倍に増幅することにより、被検出電流そのものが比較的小さい領域においても、ホール素子から得られる出力電圧を増倍し、その検出精度を向上することができると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2552683号公報(第1−2頁、図14)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電流検出器を用いた過電流の早期検出は、例えばインバータやモータ制御装置、溶接機、エレベータ等の電機システムにおいて重要な主題である。しかし、電流検出器が磁性体コアやオペアンプを用いている以上、これらに固有の遅れ要素を完全に取り除くことはできない。すなわち、磁性体コアには渦電流損やヒステリシス損といった鉄損による遅れ要素があり、また、オペアンプにはスルーレートやGB積といった電気的な遅れ要素が存在する。こうした遅れ要素は、過電流等の発生時において検出信号の出力を遅らせる要因となり、その早期検出を困難にしている。
【0007】
上述した先行技術は、ギャップ内に発生する磁界がある程度に安定している状況では検出精度の向上に有効であると考えられる。しかし、瞬間的な過電流のように被検出電流がある時点で大きく変化する状況下では、磁性体コアそのものに遅れ要素が存在するため、いくら強磁性体片を設けたとしても、それによって検出信号の応答性を向上できるわけではない。
【0008】
そこで本発明は、電流検出器に不可避の遅れ要素があっても、その応答性を改善できる技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の発明者は、被検出電流の変化に対する応答性の改善手法として、誘導起電力の大きさが磁界の変化の割合に比例するという法則に着目し、以下の解決手段を想到するに至ったものである。
【0010】
すなわち本発明の電流検出器は、被検出電流の導通時に発生する磁界の周回方向に沿って環状の磁路を形成する磁性体コアと、磁性体コアに形成されたギャップ内に配置され、被検出電流の導通時にギャップ内に発生する磁界の大きさに応じた電圧信号を出力するホール素子と、ホール素子から出力される電圧信号を増幅する増幅器と、ホール素子の出力端子と増幅器の入力端子との間を接続する信号経路上に形成され、被検出電流の変化に伴う磁界の変化に応じて誘導起電力を発生させる電磁誘導部とを備えている。
【0011】
本発明の電流検出器によれば、特に被検出電流が変化する場合に有用性が発揮される。すなわち、被検出電流が変化(例えば過電流が発生)すると、それに伴って磁界も急激に変化するため、その過渡的な変化に応じて電磁誘導部から大きな誘導起電力を得ることができる。このとき誘導起電力は、ホール素子から出力される電圧信号を底上げする方向に作用し、それによって出力電圧の立ち上がり応答性を向上する。このため、磁性体コアやオペアンプ等の増幅器にそれぞれ不可避の遅れ要素が存在していても、その応答遅れを部分的に補償して電流検出器としての応答性を大きく向上することができる。
【0012】
また本発明の電流検出器は、ギャップ内を通る磁束に対して交差する方向に実装面が配置され、ギャップ内にてホール素子を実装面上に面実装する回路基板をさらに備えてもよい。この場合、上記の電磁誘導部は、回路基板の実装面に沿ってループ状又はコイル状に形成された導電パターンから構成されていることが好ましい。
【0013】
上記の態様であれば、例えば回路基板の実装面上において、(1)ホール素子の外周を取り巻く形状の導電パターンとして電磁誘導部を配置したり、あるいは、(2)ホール素子から離れた位置で開口を形成する導電パターンとして電磁誘導部を配置したりすることができる。上記(1)の配置であれば、ギャップ内でホール素子(感磁面)を貫通する磁界の変化に応じて誘導起電力を得ることができる。また上記(2)の配置であれば、ギャップの外側を通る磁界の変化に応じて誘導起電力を得ることができる。いずれの配置であっても、被検出電流の変化時期に磁界が変化することにより、その変化の割合に応じた大きさの誘導起電力でホール素子からの出力電圧を底上げし、電流検出器としての応答性を向上することができる。
【0014】
あるいは別の態様として、本発明の電流検出器は、ギャップ内でみた磁束の通過方向に沿って実装面が配置され、ホール素子からリード状に形成された出力端子を実装面と交差する方向に接続した状態でホール素子を実装する回路基板をさらに備えてもよい。この場合、上記の電磁誘導部は、回路基板の実装面に沿ってループ状又はコイル状に形成された導電パターンから構成されていることが好ましい。
【0015】
上述した別の態様では、回路基板がギャップの外側で導電パターンによる電磁誘導部を形成する。この場合、ギャップの外側で発生する磁界(磁束)がループ状又はコイル状をなす電磁誘導部の開口を錯交して通過することにより、その磁界の変化に応じて誘導起電力を得ることができる。したがって、同様に被検出電流の変化時期に磁界が変化することにより、その変化の割合に応じた大きさの誘導起電力でホール素子からの出力電圧を底上げし、電流検出器としての応答性を向上することができる。
【0016】
上述した別の態様において、導電パターンは、回路基板に対する磁束の通過方向でみて、ギャップの中心線のいずれか片側のみに形成されていてもよい。この場合、ギャップの中心線の片側だけで電磁誘導部の開口に磁界を錯交して通過させることができるので、限られた実装面の領域を有効に活用して導電パターンを形成することができる。
【0017】
あるいは上述した別の態様において、導電パターンは、回路基板に対する磁束の通過方向でみて、ギャップの中心線を跨いでその両側に形成されており、かつ、ループ又はコイルとしてみたときの開口は、いずれか一方側の開口面積が他方側の開口面積より大きい。
【0018】
この場合、ギャップ中心線の一方側と他方側でそれぞれ電磁誘導部の開口を錯交する磁界が変化すると、両側で互いの誘導起電力が打ち消し合う方向に働くが、いずれか一方側の開口面積を大きくすることにより、有効に誘導起電力を発生させることができる。
【0019】
また磁性体コアは、ギャップ内にてホール素子を通過する第1の磁路を形成する環状の本体と、本体から分岐して形成され、回路基板を介して電磁誘導部を通過する第2の磁路を形成する分岐部とを有していてもよい。
【0020】
上記の構成であれば、ギャップ内では第1の磁路を通過する磁界(磁束)によってホール素子から出力電圧を得ることができる。一方、ギャップの外側では、第2の磁路を通過する磁界(磁束)の変化によって誘導起電力を得ることができる。これにより、ギャップの外側でも充分な大きさの磁界を発生させ、その変化に応じて有効に誘導起電力を発生させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の電流検出器は、構造上で不可避な遅れ要素の影響を軽減し、被検出電流の変化に対する応答性を大きく向上することができる。これにより、電流検出器を用いた電機システムの安全性の向上に寄与し、その信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】一実施形態の電流検出器の構成を示す概略図である。
【図2】一実施形態の電流検出器による出力特性を比較例と対比して示した出力線図である。
【図3】ホール素子を面実装タイプとした場合の構造例を示す斜視図である。
【図4】ホール素子をリード実装タイプとした場合の構造例を示す斜視図である。
【図5】回路基板を単独で示した正面図である。
【図6】磁性体コアの他の構造例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、一実施形態の電流検出器100の構成を示す概略図である。以下、電流検出器100の構成について説明する。
【0024】
〔磁性体コア〕
電流検出器100は、例えばフェライト製の磁性体コア102を備えており、この磁性体コア102は全体として略角リング形状(環状)をなしている。磁性体コア102の内側(リングの内周)には略矩形状の電流導通部102aが形成されており、この電流導通部102aにはバス線等の導体105が挿通されている。電流検出器100は導体105を通る電流を検出対象とするものであり、磁性体コア102は、導体105に被検出電流(If)が流れる際に発生する磁界の周回方向に沿って環状に配置されている。なお、被検出電流(If)が比較的低い水準(微弱電流)である場合、導体105を複数ターンにわたって磁性体コア102に巻き付けてもよい。
【0025】
〔ギャップ〕
上記のように磁性体コア102は略角リング形状をなしており、そのため磁性体コア102にはそれぞれ一対の短辺部102b及び長辺部102cが含まれている。また磁性体コア102には、例えば一方の長辺部102cの途中を部分的に切り欠くことでギャップ102dが形成されている。なおギャップ102dは、一対の短辺部102bに形成されていてもよい。
【0026】
〔ホール素子〕
電流検出器100はホール素子106を備えている。ホール素子106はギャップ102d内に挿入した状態で磁性体コア102に取り付けられている。ホール素子106は、ギャップ102d内に発生する磁界の強さ(磁束の量)に応じた電圧信号(Vh:ホール電圧)を出力する感磁素子である。なおホール素子106は、例えば樹脂封止によりパッケージされた電子部品であり、ホール素子106には、例えば図示しない電源回路を通じて制御電流(Ic)が供給されている。
【0027】
〔増幅器〕
また電流検出器100は、例えばオペアンプ等の増幅器108を備えており、この増幅器108の非反転入力端子(+)及び反転入力端子(−)には、それぞれホール素子106の出力端子が抵抗110,112を介して接続されている。ホール素子106からの出力電圧は、信号経路118を通じて増幅器108の各入力端子に入力される。
【0028】
電流検出器100において増幅器108は、ホール素子106から出力される電圧信号(端子間電圧)を増幅し、その結果を出力電圧(Vout)として出力する非反転増幅回路を構成している。なお増幅器108の反転入力端子(−)には、フィードバック抵抗114を介して出力電圧(Vout)が負帰還されている。また非反転入力端子(+)には、例えばオフセット調整回路116からオフセット電圧が入力されている。オフセット電圧は、被検出電流(If)の非導通時における出力電圧(Vout)の値を調整(オフセット)するためのものである。なお、特にこのようなオフセット調整を必要としない場合、オフセット調整回路116を設けなくてもよい。
【0029】
〔電磁誘導部〕
さらに電流検出器100は、信号経路118の途中に電磁誘導部120を備えている。すなわち電磁誘導部120は、信号経路118の一部をループ状又はコイル状に形成した導電路であり、この電磁誘導部120は、ホール素子106と同様に磁束が貫通する位置に設けられている。上記のホール素子106は、被検出電流(If)の導通により発生する磁界の大きさに比例した電圧信号を出力するものであるが、電磁誘導部120は、磁界(磁束)の変化の割合に比例した誘導起電力を発生する。なお、好ましい電磁誘導部120の配置例については、さらに別の図面を用いて後述する。
【0030】
本発明の発明者は、電磁誘導部120による誘導起電力(ε)の大きさが磁界(φ)の時間的な変化の割合(−dφ/dt)に比例するという法則に鑑み、特に被検出電流(If)の変化時期(過渡応答)において、電磁誘導部120で発生する比較的大きな誘導起電力が出力電圧(Vout)の応答性の改善に有効であることを見出した。以下、本実施形態による応答性の改善について具体例を挙げて検証する。
【0031】
〔出力特性〕
図2は、本実施形態の電流検出器100による出力特性を比較例と対比して示した出力線図である。なお、本実施形態と対比するべき比較例は、例えば図1の構成中、電磁誘導部120に相当する構成を有しない電流検出器(従来のもの)である。また図2中、横軸方向には被検出電流の導通に伴う経過時間を表し、縦軸方向には出力電圧(Vout)のレベルを表している。
【0032】
例えば、初期状態で被検出電流(If)が非導通(0レベル)であり、そこからステップ状に一定値の被検出電流(例えば過電流)を導通させた場合を想定する。このとき図2中に実線で示される出力レベルの変化は、本実施形態の電流検出器100を用いた場合の特性を示している。また、図2中に1点鎖線で示される出力レベルの変化は、比較例の電流検出器を用いた場合の特性を示している。
【0033】
〔比較例の特性〕
先ず比較例の出力特性は、被検出電流の変化(ステップ入力)に対して遅れを示している。すなわち、ここでは被検出電流の導通を開始した後、時刻t3で出力レベルが閾値(Vb)に達し、その後にある程度の時間をかけて出力レベルが定常値(Va)に近付いている。なお、電流検出器としての出力レベルが閾値(Vb)に達すれば、その時点(t3)で過電流等の発生を検出することができるものとする。
【0034】
比較例に見られる遅れは、一般的に磁性体コアやオペアンプ等の増幅器が持っている固有の遅延要素に起因して現れるものであり、電流検出器にとって構造的に不可避なものである。磁性体コアの遅延要素は、例えば渦電流損やヒステリシス損といった鉄損の要素である。また増幅器の遅延要素は、例えばスルーレートやGB積といった要素である。
【0035】
〔実施形態の特性〕
次に、本実施形態の電流検出器100による出力特性を見ると、比較例よりも早い時刻t1に出力レベルが閾値(Vb)に達しており、さらに、時刻t3よりも前の時刻t2で出力レベルが定常値(Va)を超えていることがわかる。なお、出力レベルは若干のオーバシュートを示した後に定常値(Va)で安定する。
【0036】
本実施形態の電流検出器100においても、上記のような構造的に不可避な遅延要素は存在しており、出力レベルに全くの遅れが生じていないわけではない。その上で本実施形態の電流検出器100では、被検出電流の導通初期(例えば原点〜時刻t1までの期間)に生じる磁界の変化の割合に比例して誘導起電力を得ることができる。この誘導起電力は、ホール素子106の出力端子間に生じる電位差(磁界に比例した電圧信号)を全体的に底上げし、比較例よりも出力電圧(Vout)の立ち上がり応答性を向上することに寄与している。
【0037】
以上のように、本実施形態の電流検出器100によれば、磁性体コア102や増幅器108にそれぞれ不可避の遅延要素が存在していたとしても、その応答遅れを部分的に補償し、出力電圧(Vout)が閾値(Vb)のレベルにまで立ち上がる時間を短縮することができる。
【0038】
〔配置例〕
次に、電流検出器100におけるホール素子106や電磁誘導部120の具体的な配置や形態について、いくつかの例を挙げて説明する。
【0039】
〔面実装タイプ〕
図3は、ホール素子106を面実装タイプとした場合の構造例を示す斜視図である。図3に示される構造例は、さらに電磁誘導部120の配置について異なる2つの例を示している。以下、それぞれについて説明する。
【0040】
〔配置例1〕
図3中(A):電流検出器100は回路基板122を備えており、この回路基板122にホール素子106及び増幅器108が面実装されている。面実装タイプのホール素子106には、例えばパッケージ(封止樹脂)の側面に端子106aが形成されている。また、回路基板122の実装面には導電パターン124,126が形成されており、実装面上でこれら導電パターン124,126にホール素子106の端子106aが半田付けされている。反対側の実装面にも図示しない2本の導電パターンが形成されており、これら導電パターンはビア128を介して導電パターン124,126とつながっている。そして反対側の実装面では、2本の導電パターンがチップ抵抗部品(いずれも図示していない)を介して増幅器108の各入力端子に接続されている。このため導電パターン124,126は、図1に示される信号経路118の一部を構成する。なお図3中、増幅器108は図示されていない。
【0041】
ホール素子106を面実装タイプとした場合、回路基板122はホール素子106とともにギャップ102d内に挿入して配置された構造となる。このときギャップ102d内に発生する磁束B1は、ホール素子106の感磁面を略垂直に貫通する。
【0042】
図3中(A)の配置例1において、電磁誘導部120は上記の導電パターン124,126が実装面上で形成するループにより実現されており、このようなループはギャップ102dの外側で開口を形成している。この場合、ギャップ102dの外側を通る磁束B2がループの開口を貫通する際、その磁界の変化に応じて誘導起電力を発生させることができる。
【0043】
〔配置例2〕
図3中(B):配置例2においても、回路基板122の実装面上で導電パターン124,126にホール素子106の端子106aがそれぞれ半田付けされている。また、反対側の実装面にも図示しない2本の導電パターンが形成されており、これら導電パターンは図示しないビアを介して導電パターン124,126とつながっている。そして反対側の実装面では、2本の導電パターンがチップ抵抗部品(いずれも図示していない)を介して増幅器108の各入力端子に接続されている。
【0044】
この配置例2もまた、ホール素子106を面実装タイプとした構造であるが、電磁誘導部120の配置が配置例1とは異なっている。すなわち配置例2の場合、導電パターン124,126によるループは、実装面上でホール素子106を取り巻くようにして形成されており、このようなループはギャップ102dの内側に開口を形成している。したがって配置例2の場合、ギャップ102d内を通る磁束B1がループの開口を貫通する際の磁界の変化に応じて誘導起電力を発生させることができる。
【0045】
なお配置例1と配置例2では、誘導起電力を発生させる磁束(B1,B2)が異なるため、より高い応答性を必要とする場合、より大きい磁束B1で誘導起電力を得られる配置例2を用いることが好ましい。
【0046】
〔リード実装タイプ〕
次に図4は、ホール素子106をリード実装タイプとした場合の構造例を示す斜視図である。なお図4の構造例は、電磁誘導部120の配置例3を示している。
【0047】
リード実装タイプのホール素子106には、例えばパッケージの側面から突出したリード端子106b(全ては図示していない)が設けられている。また、回路基板122の実装面には導電パターン124,126とともに図示しないスルーホールが形成されており、これらスルーホール内にホール素子106のリード端子106bを挿入した状態でそれぞれ導電パターン124,126と半田付けされている。なお図4の構造例においても、回路基板122の反対側の実装面に図示しない2本の導電パターンが形成されており、これら導電パターンはビア128を介して導電パターン124,126とつながっている。そして反対側の実装面では、2本の導電パターンがチップ抵抗部品(いずれも図示していない)を介して増幅器108の各入力端子に接続されている。ここではリード端子106bをスルーホールに挿入して半田付けする例を挙げているが、リード端子は導電パターン124,126のランド上で半田付けされていてもよい。
【0048】
〔配置例3〕
ホール素子106をリード実装タイプとした場合、回路基板122はその実装面が磁束B1の貫通方向に沿って配置された構造となる。そしてホール素子106は、リード端子106bを介して実装面から略垂直に突出した姿勢のまま、ギャップ102d内に挿入された状態となる。なお、この場合もギャップ102d内に発生する磁束B1は、ホール素子106の感磁面を略垂直に貫通する。
【0049】
図4の配置例3においても、電磁誘導部120は上記の導電パターン124,126が実装面上で形成するループにより実現されている。また、導電パターン124,126が形成するループはギャップ102dの外側で磁束B1と平行な開口を形成している。この場合、ギャップ102dの外側を通る磁束B2がループの開口を錯交して通過するため、その磁界の変化に応じて誘導起電力を発生させることができる。
【0050】
〔配置例4〕
また図5は、ホール素子106を挿入(スルーホール)実装タイプとした場合の構造例において、回路基板122を単独で示した正面図である。なお図5の構造例は、図4とは異なる電磁誘導部120の配置例4を示している。
【0051】
この配置例4においても、電磁誘導部120は上記の導電パターン124,126が実装面上で形成するループにより実現されている。ただし配置例4では、磁束の通過方向でみたギャップ102dの中心線CLを跨いでその両側にループが形成されている。ただし、中心線CLの両側でそれぞれの開口に着目すると、一方側(図5で上側)の開口面積A1が他方側(図5で下側)の開口面積A2よりも大きい。なお図5中、それぞれの開口面積A1,A2には異なる種類のハッチングを付している。
【0052】
配置例4の場合、中心線CLの両側に電磁誘導部120のループが形成されているため、図5に示されるように、磁束B2が通過したとしても、両側のループは磁束B2のUターンによって互いに誘導電流を打ち消し合う。ただし、中心線CLの両側でそれぞれループの開口面積A1,A2が異なるため(A1>A2)、上側のループにはより多くの磁束B2が錯交して通過する。したがって、配置例4についても電磁誘導部120を通過する磁界の変化に応じて誘導起電力を発生させることができる。このような配置例4は、例えばレイアウト上の都合から、実装面上で中心線CLの片側だけに導電パターン124,126のループを形成できない場合にも有効である。
【0053】
〔他の構造例〕
次に図6は、磁性体コア102の他の構造例を示す縦断面図である。この構造例では、ホール素子106についてリード実装タイプを採用している。また電磁誘導部120については、例えば配置例3のように中心線CLの片側だけにループが形成される配置を採用している。以下、より具体的に説明する。
【0054】
この構造例では、磁性体コア102に分岐部102eが形成されている。分岐部102eは、磁性体コア102の本体をなす1つの短辺部102bからL字形状に突出して形成されている。より詳しくは、分岐部102eは、その基端が短辺部102bと長辺部102cとの角部に連結されており、そこから短辺部102bの長手方向に突出して延びている。このとき回路基板122は、ホール素子106の実装面を長辺部102cと平行に向かい合わせにした状態で配置されている。分岐部102eは、回路基板122の一側縁の外側(図6では上側)を通過してホール素子106の実装面の反対側まで延び、そこから反対側の実装面に沿って長辺部102cと平行に屈曲されている。そして分岐部102eは、屈曲点からギャップ102dの位置を通過する位置まで延び、その先端は反対側の実装面に向けて鉤形状に屈曲されている。
【0055】
また、ギャップ102dが形成されている長辺部102cには、回路基板122を挟んで分岐部102eの先端と対向する位置に突起部102fが形成されている。なお分岐部102eや突起部102fは、いずれも磁性体コア102の本体(短辺部102b,長辺部102c)と同じ磁性材料で形成されている。
【0056】
上記の分岐部102eは、磁性体コア102の本体で形成される環状の磁路(第1の磁路)とは別に、そこから分岐した別の磁路(第2の磁路)を形成する。すなわち、被検出電流の導通により発生する磁界は、環状の磁路においてギャップ102dを通過し、ホール素子106に対して磁束B1を貫通させている。また合わせて磁界は、分岐部102eで形成される別の磁路にも導かれる。このとき、分岐部102eの先端と突起部102fとの間を磁束B3が通過することにより、回路基板122に形成されている電磁誘導部120(図6には導電パターンとして示されていない)の開口に磁束B3を貫通させることができる。
【0057】
図6に示される他の構造例によれば、磁性体コア102から漏れ出る磁束ではなく、磁性体コア102そのもの(分岐部102e及び突起部102fを含む)で導かれる主の磁束B3を用いることができるため、充分な大きさの誘導起電力を得ることができる。特に図6の構造例は、実装面でのレイアウト上の制約から、ホール素子106の直近に電磁誘導部120を配置できない場合にも有効である。
【0058】
本発明は上述した実施形態に制約されることなく、種々に変形して実施可能である。一実施形態では、各配置例において電磁誘導部120を平面的なループ形状としているが、導電パターンをスパイラルコイル形状としてもよいし、回路基板122の両面や内層で導電パターンを多層化することにより、立体的なコイル形状としてもよい。
【0059】
また、磁性体コア102の形状は四角リング形状だけでなく、その他の多角形リング形状であってもよいし、円形状や楕円形状であってもよい。また磁性体コア102は、フェライト以外の磁性材料(珪素鋼板、鉄−ニッケル合金等)を用いて制作してもよく、磁性体コア102にはトロイダル構造や積層構造を採用することができる。なお、磁性体コア102の具体的な形状や大きさ、厚み等の仕様は、実際に対象とする被検出電流の特性に合わせて適宜に変更することができる。
【0060】
図1に示される電流検出器100の全体構成において、電磁誘導部120は増幅器108の非反転入力端子(+)側に接続されているが、反転入力端子(−)側に電磁誘導部120が接続されていてもよいし、両方の入力端子(+),(−)にそれぞれ電磁誘導部120が接続されていてもよい。また電磁誘導部120の開口面は、ギャップ102dの断面に対して水平又は垂直のいずれの方向に形成されていてもよい。
【0061】
いずれにしても、電磁誘導部120で発生する誘導起電力が出力電圧(Vout)の立ち上がり応答性を向上するための条件は、(1)導電パターン124,126で形成されるコイルの巻き方向、(2)電磁誘導部120の開口を通過する磁束の方向、(3)電磁誘導部120を増幅器108の(+)側、(−)側のいずれに接続するか、の組み合わせから決まることになる。したがって、これら(1)〜(3)の条件の組み合わせが応答性の向上に寄与するものであれば、図1に示される配置を適宜変更してもよいし、被検出電流(If)の方向(磁束の方向)を逆にすることもできる。
【0062】
その他、図示とともに挙げた電流検出器100やその一部の構造はあくまで好ましい一例であり、基本的な構造に各種の要素を付加し、あるいは一部を置換しても本発明を好適に実施可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0063】
100 電流検出器
102 磁性体コア
102a 電流導通部
102d ギャップ
106 ホール素子
108 増幅器
120 電磁誘導部
124,126 導電パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出電流の導通時に発生する磁界の周回方向に沿って環状の磁路を形成する磁性体コアと、
前記磁性体コアに形成されたギャップ内に配置され、被検出電流の導通時に前記ギャップ内に発生する磁界の大きさに応じた電圧信号を出力するホール素子と、
前記ホール素子から出力される電圧信号を増幅する増幅器と、
前記ホール素子の出力端子と前記増幅器の入力端子との間を接続する信号経路上に形成され、被検出電流の変化に伴う磁界の変化に応じて誘導起電力を発生させる電磁誘導部と
を備えた電流検出器。
【請求項2】
請求項1に記載の電流検出器において、
前記ギャップ内を通る磁束に対して交差する方向に実装面が配置され、前記ギャップ内にて前記ホール素子を前記実装面上に面実装する回路基板をさらに備え、
前記電磁誘導部は、
前記回路基板の前記実装面に沿ってループ状又はコイル状に形成された導電パターンから構成されていることを特徴とする電流検出器。
【請求項3】
請求項1に記載の電流検出器において、
前記ギャップ内でみた磁束の通過方向に沿って実装面が配置され、前記ホール素子からリード状に形成された出力端子を前記実装面と交差する方向に接続した状態で前記ホール素子を実装する回路基板をさらに備え、
前記電磁誘導部は、
前記回路基板の前記実装面に沿ってループ状又はコイル状に形成された導電パターンから構成されていることを特徴とする電流検出器。
【請求項4】
請求項3に記載の電流検出器において、
前記導電パターンは、
前記回路基板に対する磁束の通過方向でみて、前記ギャップの中心線のいずれか片側のみに形成されていることを特徴とする電流検出器。
【請求項5】
請求項3に記載の電流検出器において、
前記導電パターンは、
前記回路基板に対する磁束の通過方向でみて、前記ギャップの中心線を跨いでその両側に形成されており、かつ、ループ又はコイルとしてみたときの開口は、いずれか一方側の開口面積が他方側の開口面積より大きいことを特徴とする電流検出器。
【請求項6】
請求項3から5のいずれかに記載の電流検出器において、
前記磁性体コアは、
前記ギャップ内にて前記ホール素子を通過する第1の磁路を形成する環状の本体と、
前記本体から分岐して形成され、前記回路基板を介して前記電磁誘導部を通過する第2の磁路を形成する分岐部とを有することを特徴とする電流検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−232041(P2011−232041A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99899(P2010−99899)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(390005223)株式会社タムラ製作所 (526)
【Fターム(参考)】