説明

電界発光素子およびその製造方法

【課題】各量子ドットからの発光が高輝度で、狭帯域スペクトルで色純度の高い電界発光素子を提供する。
【解決手段】透明なガラス基板11上に、順次、第1の電極としての透明電極12、第1電子捕獲放出層13、第1絶縁層14、第1緩衝層15、発光活性層20、第2緩衝層16、第2絶縁層17、第2電子捕獲放出層18、第2の電極としての金属電極19が積層されてなり、第1および第2電子捕獲放出層13、18とこれらに接する第1絶縁層14、第2絶縁層17との界面に表面準位が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電界発光素子に関し、さらに詳しくは、所謂量子ドットを含有する発光活性層を有する電界発光素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自発光型フラットディスプレイへ展開させる技術として、量子ドット構造を持つ蛍光体の発光素子への応用が注目されている。通常、量子ドットとは、実空間において3次元全ての方向にキャリアの閉じ込めを実現する状態のことを云うが、ここで云う量子ドットとは、実空間において3次元全ての方向にキャリアの閉じ込めを実現する状態を作り出している構造体と定義する。この量子ドットの一例としては、直径数ナノメートルの球形状を持つ、相対的にバンドギャップ・エネルギーの小さい無機半導体粒子(コア部分)と、この無機半導体粒子の表面を覆う、相対的にバンドギャップ・エネルギーの大きな被覆(シェル層)と、から構成される複合材料がある。このような量子ドットはそのサイズ(直径)を精緻に制御することで、人為的にギャップ・エネルギーを規定し、所望の色を発光させることができるという特徴がある。
【0003】
本発明者らは、湿式の化学合成手法で作製された上記量子ドットを用いて全無機質の電界発光素子を開発した(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。この電界発光素子は、量子ドットを含む発光活性層をキャリア障壁層で挟持した二重絶縁構造を持つものであり、交流電場を印加して量子ドット内にキャリアを注入することにより励起、発光させる量子ドット発光型無機エレクトロルミネッセンス(EL)素子である。
【0004】
この電界発光素子は、基板上に、順次、第1の電極、第1の絶縁層、量子ドットを含む発光活性層、第2の絶縁層、第2の電極が積層された構造を持つ。ここで、発光活性層は、上記特許文献1に開示した所謂エレクトロスプレー・イオンビーム堆積法(以下、ES−IBD法と称する。)を用いて、多数の量子ドットを、基板上に成膜された第1の絶縁層の表面へイオンビーム状に順次照射して堆積させることにより形成される。このES−IBD法で用いる原料は、量子ドットのシェル層表面に界面活性剤として機能する有機配位子を結合付着させたものを溶媒中にコロイド状に分散した溶液である。この方法では、量子ドットをイオンビーム状に変化させる途中で有機配位子の結合が解離する。したがって、このES−IBD法では、被堆積基板側へ堆積される量子ドットの殆どは有機配位子が排除された状態で堆積するため、発光活性層中に不要な不純物が少なくなるという利点がある。したがって、この方法によれば、不純物の影響を殆ど受けることのない良質な発光活性層を成膜できる。
【0005】
また、上記特許文献1に開示された電界発光素子としては、発光活性層が無機半導体材料からなる緩衝層と量子ドットとからなり、緩衝層中に量子ドットが包含された状態のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2007/142203号
【特許文献2】国際公開2008/013069号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の電界発光素子を自発光型フラットディスプレイに応用した場合に、更なる発光強度の増加や、発光の色純度を向上するために、量子ドットにおける閉じ込め準位に由来する発光スペクトル以外の発光ピークの発生を抑制することなどの改善が望まれている。このような改善は、量子ドットにおける量子閉じ込め効果の低下、あるいは近接井戸との相互作用やサブバンドの形成などによる発光強度の低下ならびに発光スペクトルが広帯域となることを防止しようとするものである。
【0008】
また、上述のように交流電場を印加する電界発光素子では、発光活性層と絶縁層の界面準位が、電子を発光活性層に供給することに寄与すると考えられているが、発光活性層に供給する電子放出数を増加させることが望まれている。
【0009】
本発明はこのような課題に着目して創案されたものであり、その目的は、発光活性層からの発光が高強度となり、かつ量子ドットからの発光が狭帯域スペクトルで色純度が高い電界発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の特徴は、量子ドットを含む発光活性層が無機半導体材料でなる一対の緩衝層に挟まれて、量子ドットが前記緩衝層に包含され、一対の前記緩衝層のそれぞれの外側に、絶縁層を挟むように電極が配され、これら電極に交流電圧を印加することにより前記発光活性層を発光させる電界発光素子であって、緩衝層と電極との間に、接合する層との界面に表面準位を形成する電子捕獲放出層が配置されていることを要旨とする。
【0011】
本発明では、電子捕獲放出層と接合する層との界面に表面準位あるいは界面準位が形成されるため、電子を捕獲する作用があり、交流電圧が印加されることで電子を容易に放出することができる。したがって、表面準位での電子の発生を促して、発光活性層へ供給する電子の量を増加させて発光強度を向上することができる。
【0012】
ここで、電子を発生させるための電子捕獲放出層としては、仕事関数が3.0eV以下(好ましくは2.5eV以下)の金属原子の単体もしくはその金属原子を含む化合物や、トラップ準位と真空準位のエネルギー差が3.0eV以下(好ましくは2.5eV以下)の材料や、非化学量論比の組成を持つ金属酸化物(特に酸素欠損のある組成を持つ金属酸化物)などであることが好ましい。
【0013】
仕事関数が3.0eV以下(好ましくは2.5eV以下)の金属原子の単体もしくはその金属原子を含む化合物では、金属イオン化に伴い電子が発生し易い。また、トラップ準位と真空準位のエネルギー差が3.0eV以下(好ましくは2.5eV以下)の材料や、非化学量論比の組成を持つ金属酸化物(特に酸素欠損のある組成を持つ金属酸化物)では、電気的に不安定な結合手や電子分布を持つため、電子や正孔を捕獲したり放出したりする作用を持つ。トラップ準位では、励起された電子が正電荷に捕まるため、電極間に交流電圧を印加することにより電子を放出する。このように放出された電子は、電界により加速され、量子ドットの発光の為の励起に十分なエネルギーを得る。
【0014】
電子捕獲放出層の配置位置は、緩衝層と絶縁層との間、または絶縁層と電極との間に介在されていることが好ましい。
【0015】
また、電子捕獲放出層は、複数の層が積層されたものでもよく、この複数の層が互いに異なる材料であってもよい。
【0016】
電子捕獲放出層を複数層の積層構造とすることにより、層間の表面準位からキャリアの発生を促すことが期待でき、量子ドット中において、発光に寄与する注入キャリアの単位時間当たりの数を増加させることができ、さらに高輝度を要求されるアプリケーションへの適用が可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、発光活性層からの発光が高輝度となり、かつ量子ドットからの発光が狭帯域スペクトルで色純度が高い電界発光素子を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子における透明電極を形成した状態を示す工程断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子における第1電子捕獲放出層を形成した状態を示す工程断面図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子における第1絶縁層および第1緩衝層を形成した状態を示す工程断面図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子における発光活性層を形成した状態を示す工程断面図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子における第2緩衝層を形成した状態を示す工程断面図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子における第2絶縁層、第2電子捕獲放出層、および金属電極を形成した状態を示す工程断面図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係る電界発光素子を示す断面図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態に係る電界発光素子を示す断面図である。
【図10】本発明の第4の実施の形態に係る電界発光素子を示す断面図である。
【図11】本発明の第5の実施の形態に係る電界発光素子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態に係る電界発光素子を説明する。但し、図面は模式的なものであり、各層の厚みや厚みの比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。
【0020】
[第1の実施の形態]
(電界発光素子の概略構成)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子を示す断面図である。同図に示すように、電界発光素子10Aは、ガラスまたはプラスチック等からなる透明基板11上に、順次、第1の電極としての透明電極12、第1電子捕獲放出層13、第1絶縁層14、第1緩衝層15、発光活性層20、第2緩衝層16、第2絶縁層17、第2電子捕獲放出層18、第2の電極としての電極19が積層されてなる。図1に示すように、この電界発光素子10Aでは透明電極12と電極19とに交流駆動源30を接続して交流電場を印加することにより、発光活性層20からの発光を透明基板11側から出射させるようにしたものである。
【0021】
(発光活性層について)
発光活性層20は、略球形状の量子ドットが多数堆積されて成膜されている。この発光活性層20は、ES−IBD法を用いて20〜100nmの膜厚となるように成膜されている。個々の量子ドットは、コア部分の表面をシェル層で覆ったナノ結晶構造である。このような量子ドットは、コア部分の材料および結晶サイズを精緻に制御することで、人為的にギャップ・エネルギーを規定し、所望の色を発光させることができる。
【0022】
本実施の形態では、コア部分の直径としては、順次、1.9nm、2.4nm、5.2nmであり、シェル層の膜厚は、順次、0.4nm、1.0nm、1.4nmとした。本実施の形態では、コア部分がセレン化カドミウム(CdSe)で形成され、シェル層が硫化亜鉛(ZnS)もしくはセレン化亜鉛(ZnSe)で形成された量子ドットを用いる。また、本実施の形態における量子ドットのコア部分は、CdSe以外に、CdS、PbSe、HgTe、CdTe、InP、GaP、InGaP、GaAs、InGaN、GaN等やこれらの混晶で構成される材料から適宜選択可能である。
【0023】
(電極について)
透明電極12は、スズドープ酸化インジウム(ITO)で約100nmの膜厚に形成されている。電極19は、金(Au)で約50nmの膜厚に形成されている。透明電極12は、ITOの他、亜鉛ドープ酸化インジウム(IZO)、インジウムガリウム亜鉛酸化物(IGZO)、導電性酸化亜鉛(ZnO)、アモルファス酸化物導電体等、透明な導電体であれば材料は問わない。電極19の膜厚は、必要な電気伝導性が得られるよう、材料によって適宜増減する。電極19は、上記の透明電極と同様の材料であってもよく、金属電極でも良い。
【0024】
(電子捕獲放出層について)
本実施の形態では、第1および第2電子捕獲放出層13、18は、酸素欠損のあるバリウムタンタル酸化物(BaTaO)で形成されている。第1および第2電子捕獲放出層13、17の膜厚は、0.1〜50nmである。酸素欠損のあるBaTaOxは、非化学量論比の組成を持つ金属酸化物であり、電気的に不安定な結合手や電子分布を持つため、電子や正孔を捕獲したり放出したりする作用を持つ。酸素欠損をもつBaOx、BaTaOxの仕事関数は、それぞれ0.99〜1.6eV、1.1〜2.0eVと報告されており、金属イオン化に伴い電子が発生し易い。
【0025】
第1および第2の電子捕獲放出層13、18のトラップ準位では、励起された電子が正電荷に捕まるため、電極間に交流電圧を印加することにより電子を放出する。このように放出された電子は、電界により加速され、量子ドットでの発光に十分なエネルギーを得る。
【0026】
特に、本実施の形態では、第1および第2の電子捕獲放出層13、18ともにスパッタ法で形成されるが、この第2電子捕獲放出層18を第2緩衝層16の上に直接成膜しようとすると、比較的重いBa原子がスパッタリングされて衝突することにより、第2緩衝層16を損傷させたり発熱したりする弊害がある。したがって、バリウムタンタル酸化物で第2電子捕獲放出層18を形成する場合は、第2絶縁層17の上に成膜する必要がある。なお、第2絶縁層17の上に第2電子捕獲放出層18を接合させることにより、これらの接合界面に表面準位が形成され、電子を捕獲することができる。この際、第2絶縁層17の膜厚は100nm以下程度と薄いことが好ましい。
【0027】
(絶縁層について)
第1絶縁層14および第2絶縁層17は、タンタル酸化物(TaO)で約50〜500nmの膜厚に形成されている。これら第1絶縁層14および第2絶縁層17は、タンタル酸化物に限定されるものではなく、シリコン窒化物、シリコン酸化物、イットリウム酸化物、アルミナ、ハフニウム酸化物、バリウムタンタル酸化物など、光学的な透明性と電気的な絶縁性を有する材料から選択可能である。
【0028】
(緩衝層について)
第1緩衝層15および第2緩衝層16は、量子ドットにおけるシェル層の材料であるZnSやZnSeと同じ材料でなる。これらの膜厚は1〜20nm程度である。
【0029】
なお、第1緩衝層15および第2緩衝層16は、量子ドットを包含して量子ドットと結合した状態となっている。すなわち、この結合した状態とは、量子ドットがマトリクス内に単に分散されている状態ではなく、量子ドットが第1緩衝層15および第2緩衝層16中でパッシベートされている状態を指す。例えば、量子ドットそのものを熱非平衡状態にし、量子ドットの本質である三次元量子井戸構造を保持したままで、量子ドットの表面装飾分子を脱離させ、個々の量子ドットのシェル層表面同士、あるいは、シェル層表面と緩衝層とが化学結合している状態をいう。
【0030】
以上、本実施の形態に係る電界発光素子10Aについて説明したが、電子を発生させるための第1および第2電子捕獲放出層13、18としては、仕事関数が3.0eV以下(好ましくは2.5eV以下)の金属原子単体もしくはその金属原子を含む化合物や、トラップ準位と真空準位のエネルギー差が3.0eV以下(好ましくは
2.5eV以下)の材料や、非化学量論比の組成を持つ金属酸化物(特に酸素欠損のある組成を持つ金属酸化物)などであることが好ましい。
【0031】
(第1の実施の形態に係る電界発光素子の作用・効果)
本実施の形態では、第1および第2電子捕獲放出層13、18と、これらに接合する第1および第2絶縁層14、17との界面に表面準位が形成され、この表面準位での電子の捕獲、発生を促して、発光活性層へ供給する電子の量を増加させて発光強度を向上することができる。したがって、電界発光素子10Aにおける発光活性層20からの発光が高輝度となる。また、本実施の形態では、量子ドットでの所謂量子閉じ込め効果を高めるため、量子ドットからの発光が狭帯域スペクトルで色純度が高くなるという利点がある。
【0032】
(電界発光素子の製造方法)
次に、図2から図7を用いて、本実施の形態に係る電界発光素子の製造方法を説明する。
【0033】
先ず、図2に示すように、予めITO(Indium Tin Oxide)でなる透明電極12が表面に形成されたガラスやプラスチック等の透明基板11を用意する。本実施の形態において、透明基板11はガラス基板であり、透明電極12は、膜厚が例えば100nm、表面粗さRaが例えば50nm程度である。そして、この透明基板11には、有機溶媒による超音波洗浄を行った後、不活性ガスによりブローおよび乾燥を施しておく。
【0034】
その後、図3に示すように、透明電極12上に、スパッタ法によりバリウムタンタル酸化物(BaTaO)焼結体をターゲットして用いてバリウムタンタル酸化物(BaTaO)でなる第1電子捕獲放出層13を形成する。この場合、スパッタリング装置内への導入酸素量を調整することにより、酸素欠損量を調整したバリウムタンタル酸化物(仕事関数2.1eV)を形成した。この第1電子捕獲放出層13の膜厚は、0.1〜20.0nmの範囲である。
【0035】
次に、図4に示すように、第1電子捕獲放出層13上にタンタル酸化物(TaO)などの絶縁体で第1絶縁層14を形成する。TaOx膜の形成は、通常の高周波(13.56MHz)マグネトロンスパッタリング装置を用い、金属TaターゲットのAr+O混合ガス雰囲気中での反応性スパッタリングによって成膜した。堆積中の基板の温度は、常温から200℃とした。この第1絶縁層14の膜厚は、50〜500nmの範囲である。
【0036】
続いて、図4に示すように、第1絶縁層14上に、第1緩衝層15を、例えば分子線エピタキシー(MBE)法を用いて成膜する。この、第1緩衝層15の膜厚は、1〜20nmである。
【0037】
次に、図5に示すように、第1緩衝層15の上に発光活性層20を形成する。本実施の形態では、ES−IBD装置を用いて量子ドットを堆積させることにより発光活性層20を形成する。
【0038】
次いで、図6に示すように、発光活性層20の上に、第1緩衝層15と同様の条件で第2緩衝層16を成膜する。第2緩衝層16の膜厚も第1緩衝層15と同じ1〜20nmである。
【0039】
その後、図7に示すように、第2緩衝層16の上に、第2絶縁層17、第2電子捕獲放出層18、電極19を順次積層する。第2絶縁層14は、第1絶縁層14と同じ材料で同じ膜厚に形成する。第2電子捕獲放出層18は、第1電子捕獲放出層13と同じ材料で同じ膜厚に形成する。電極19は、Auを蒸着法で例えば50nmの厚さに形成する。電極19の材料は、金属の他、透明導電性材料であってもよい。
【0040】
以上、第1の実施の形態に係る電界発光素子の製造方法について説明したが、第2電子捕獲放出層18を、第2緩衝層16の上でなくて、第2絶縁層17の上に積層したため、スパッタ法に伴って第2緩衝層16およびその下地の発光活性層20が損傷することを防止できる。この結果、量子ドットが損傷してサイズが変化することがなく、量子ドットから放出される光のスペクトルが変わってしまうことを防ぐことができる。このような電界発光素子10Aでは、量子ドット21からの発光スペクトルが量子ドットに由来する波長以外の波長の発光を抑えることができ、発光スペクトルが広帯域となることを防止する作用を奏する。
【0041】
[第2の実施の形態]
図8は、本発明の第2の実施の形態に係る電界発光素子10Bの断面図である。本実施の形態に係る電界発光素子10Bは、上記第1の実施の形態に係る電界発光素子10Aにおける第1電子捕獲放出層13の位置が異なるだけである。すなわち、本実施の形態では、第1電子捕獲放出層13を、第1絶縁層14と透明電極12との間に配置せずに、第1絶縁層14の上に配置している。本実施の形態に係る電界発光素子10Bの作用・効果は、上記第1の実施の形態と同様である。
【0042】
[第3の実施の形態]
図9は、本発明の第3の実施の形態に係る電界発光素子10Cの断面図である。この電界発光素子10Cは、第1の実施の形態に係る電界発光素子10Aにおける第1電子捕獲放出層13と第2電子捕獲放出層18とがそれぞれ2層で構成されたものであり、第1電子捕獲放出層13A、13Bと、第2電子捕獲放出層18A、18Bとで構成されている。本実施の形態における他の構成は、上記第1の実施の形態と同様である。
【0043】
本実施の形態では、それぞれ2層構造の第1電子捕獲放出層13A,13Bと第2電子捕獲放出層18A,18Bとは同一材料で形成されている。このような構造としたことにより、本実施の形態では、電子捕獲放出層同士の界面での表面準位での電子の捕獲、発生を促して、発光活性層へ供給する電子の量を増加させて発光強度を向上することができる。
【0044】
[第4の実施の形態]
図10は、本発明の第4の実施の形態に係る電界発光素子10Dの断面図である。この電界発光素子10Dは、上記第1の実施の形態の電界発光素子10Aにおける第1電子捕獲放出層13と第2電子捕獲放出層18をそれぞれの2層構造とするとともに、2層のうちの1層である第1電子捕獲放出層13Cと第2電子捕獲放出層18Cのどちらか一方を金属で形成している。どちらか一方に透明性のない金属材料を用いても、発光活性層を挟んで反対側の層を形成する材料が全て透明であれば、透明な面側から発光を取り出せる。このとき、金属材料を用いた側は全て不透明な材料を使用することもできる。本実施の形態における他の構成、および作用・効果は、上記第3の実施の形態と同様である。
【0045】
[第5の実施の形態]
図11は、本発明の第5の実施の形態に係る電界発光素子10Eの断面図である。この電界発光素子10Eは、基板がガラスではなく、シリコン基板21を用いている。この電界発光素子10Eは、シリコン基板21の上に、順次、電極19、第1電子捕獲放出層13、第1絶縁層14、第1緩衝層15、発光活性層20、第2緩衝層16、第2絶縁層17、第2電子捕獲放出層18、透明電極12が形成されている。本実施の形態の電界発光素子10Eでは、透明電極12側へ発光が抜けるようになっている。
【0046】
本実施の形態に係る電界発光素子10Eの作用、動作、効果は、上記第1の実施の形態とほぼ同様であるため、その説明は省略する。
【0047】
〈実験例〉
上記第1の実施の形態に係る電界発光素子10Aの構成において、第1緩衝層15および第2緩衝層16をZnSで形成し、第1および第2電子捕獲放出層13、18が無い場合(比較例)と、有る場合(実施例)とを用意した。そして、第1および第2電子捕獲放出層13、18のそれぞれの厚さが、5nm(実施例1)、20nm(実施例2)、200nm(実施例3)と異なる実施例1〜3の電界発光素子を作製して、挙動を観察した。
【0048】
その結果、第1および第2電子捕獲放出層13、18が無い比較例と、実施例1〜3では、挙動が変化し(異なり)、5nm〜20nmまでの電界発光素子は、発光開始電圧が80Vから40V程度に低下し、発光強度が増し、発光スペクトルが狭帯域化する効果が確認できた。
[その他の実施の形態]
【0049】
以上、本発明の各実施の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、以下のような変更も本発明の適用範囲である。
【0050】
例えば、上記各実施の形態で用いた第1および第2電子捕獲放出層13、18の材料は、伝導帯端準位が量子ドットのコア部分の材料の伝導帯端準位より大きく、価電子帯端準位がコア部分の材料の価電子帯端準位よりも小さい無機材料から適宜選ぶことができる。また、電子捕獲放出層は、単一元素でなる原子層でもよいし、これらを含む化合物であってもよい。具体的には、仕事関数が3.0eV以下であるCa、Ba、Sr、Cs、Ce、Gd、La、Ag、Pb、Zn、Al、Biなどの元素を挙げることができる。
【0051】
また、上記第5の実施の形態では、基板が不透明なシリコン基板21を適用したが、不透明な材料であっても電極19の成膜が可能な材料であれば、他の無機材料を用いてもよいし、可撓性を有するプラスチック基板を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0052】
10A、10B、10C、10D、10E…電界発光素子
11…透明基板
12…透明電極
13、13A、13B、13C…第1電子捕獲放出層
14…第1絶縁層
15…第1緩衝層
16…第2緩衝層
17…第2絶縁層
18…第2電子捕獲放出層
19…電極
20…発光活性層
21…シリコン基板
30…交流駆動源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子ドットを含む発光活性層が無機半導体材料でなる一対の緩衝層に挟まれて、量子ドットが前記緩衝層に包含され、一対の前記緩衝層のそれぞれの外側に、絶縁層を挟むように電極が配され、これら電極に交流電圧を印加することにより前記発光活性層を発光させる電界発光素子であって、
前記緩衝層と前記電極との間に、接合する層との界面に表面準位を形成する電子捕獲放出層が配置されていることを特徴とする電界発光素子。
【請求項2】
前記電子捕獲放出層は、トラップ準位と真空準位のエネルギー差が3.0eV以下の材料でなることを特徴とする請求項1に記載の電界発光素子。
【請求項3】
前記電子捕獲放出層は、仕事関数が3.0eV以下の金属原子の単体もしくはその金属原子を含む化合物でなることを特徴とする請求項1に記載の電界発光素子。
【請求項4】
電子捕獲放出層は、非化学量論比の組成を持つ金属酸化物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電界発光素子。
【請求項5】
前記金属酸化物は、酸素欠損のある組成であることを特徴とする請求項4に記載の電界発光素子。
【請求項6】
前記電子捕獲放出層は、前記緩衝層と前記絶縁層との間に介在されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の電界発光素子。
【請求項7】
前記電子捕獲放出層は、前記絶縁層と前記電極との間に介在されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の電界発光素子。
【請求項8】
前記電子捕獲放出層は、複数の層が積層されてなることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の電界発光素子。
【請求項9】
前記複数の層は、互いに異なる材料でなることを特徴とする請求項8に記載の電界発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−76726(P2011−76726A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223748(P2009−223748)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】