電界発光素子およびその製造方法
【課題】各量子ドットからの発光が高輝度で、狭帯域スペクトルで色純度の高い電界発光素子を提供する。
【解決手段】ガラス基板11上に、順次、透明電極12、第1絶縁層13、密着層14、発光活性層20、平坦化層15、第2絶縁層16、電極17が積層されて構成され、密着層14が発光活性層20の表面に、シェル層23のヤング率と同等以下のヤング率を持つ無機層でなり、かつ発光活性層20との接合面が量子ドット21同士の間隙に入り込むように突出して形成されている。
【解決手段】ガラス基板11上に、順次、透明電極12、第1絶縁層13、密着層14、発光活性層20、平坦化層15、第2絶縁層16、電極17が積層されて構成され、密着層14が発光活性層20の表面に、シェル層23のヤング率と同等以下のヤング率を持つ無機層でなり、かつ発光活性層20との接合面が量子ドット21同士の間隙に入り込むように突出して形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電界発光素子に関し、さらに詳しくは、所謂量子ドットを含有する発光活性層を有する電界発光素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自発光型フラットディスプレイへ展開させる技術として、量子ドット構造を持つ蛍光体の発光素子への応用が注目されている。通常、量子ドットとは、実空間において3次元全ての方向にキャリアの閉じ込めを実現する状態のことを云うが、ここで云う量子ドットとは、実空間において3次元全ての方向にキャリアの閉じ込めを実現する状態を作り出している構造体と定義する。この量子ドットの一例としては、直径数ナノメートルの球形状を持つ、相対的にバンドギャップ・エネルギーの小さい無機半導体粒子(コア部分)と、この無機半導体粒子の表面を覆う、相対的にバンドギャップ・エネルギーの大きな被覆(シェル層)と、から構成される複合材料がある。このような量子ドットはそのサイズ(直径)を精緻に制御することで、人為的にギャップ・エネルギーを規定し、所望の色を発光させることができるという特徴がある。
【0003】
本発明者らは、湿式の化学合成手法で作製された上記量子ドットを用いて全無機質の電界発光素子を開発した(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。この電界発光素子は、量子ドットを含む発光活性層をキャリア障壁層で挟持した二重絶縁構造を持つものであり、交流電場を印加して量子ドット内にキャリアを注入することにより励起、発光させる量子ドット発光型無機エレクトロルミネッセンス(EL)素子である。
【0004】
この電界発光素子は、基板上に、順次、第1の電極、第1の絶縁層、量子ドットを含む発光活性層、第2の絶縁層、第2の電極が積層された構造を持つ。ここで、発光活性層は、上記特許文献1に開示した所謂エレクトロスプレー・イオンビーム堆積法(以下、ES−IBD法と称する。)を用いて、多数の量子ドットを、基板上に成膜された第1の絶縁層の表面へイオンビーム状に順次照射して堆積させることにより形成される。このES−IBD法で用いる原料は、量子ドットのシェル層表面に界面活性剤として機能する有機配位子を結合付着させたものを溶媒中にコロイド状に分散した溶液である。この方法では、量子ドットをイオンビーム状に変化させる途中で有機配位子の結合が解離する。したがって、このES−IBD法では、被堆積基板側へ堆積される量子ドットの殆どは有機配位子が排除された状態で堆積するため、発光活性層中に不要な不純物が少なくなるという利点がある。したがって、この方法によれば、不純物の影響を殆ど受けることのない良質な発光活性層を成膜できる。
【0005】
また、上記特許文献1に開示された電界発光素子としては、発光活性層が無機半導体材料からなる緩衝層と量子ドットとからなり、緩衝層中に量子ドットが包含された状態のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2007/142203号
【特許文献2】国際公開2008/013069号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の電界発光素子を自発光型フラットディスプレイに応用した場合に、更なる発光強度の増加や、発光の色純度を向上するために、量子ドットにおける閉じ込め準位に由来する発光スペクトル以外の発光ピークの発生を抑制することなどの改善が望まれている。このような改善は、量子ドットにおける量子閉じ込め効果の低下、あるいは近接井戸との相互作用やサブバンドの形成などによる発光強度の低下ならびに発光スペクトルが広帯域となることを防止しようとするものである。
【0008】
上記特許文献1に記載されたES−IBD法を用いて量子ドットにエネルギーを付与して、量子ドットの堆積を行った場合、イオンビームの運動エネルギーによっては、ともすると量子ドットが絶縁層や緩衝層の表面に衝突して変形したり、損傷を受けたりすることが懸念される。この結果、量子ドットのサイズが変化して、量子ドットから放出される光の波長が変わってしまうことが危惧される。
【0009】
また、上記特許文献1に開示されるように、発光活性層を無機半導体材料からなる緩衝層に量子ドットが包含されるように構成する場合、量子ドットと緩衝層の材料(無機半導体材料)とを同時に堆積させることは、成膜装置が複雑になり、また、量子ドットイオンに付与されたエネルギーが他の被堆積種との衝突によって変化するという問題がある。
【0010】
ES−IBD法を用いて、第1の絶縁層の上に量子ドットのみを堆積させる場合は、量子ドット同士の間に緩衝層(マトリクス材料)が存在しないため隙間ができ、発光活性層へのキャリアの輸送性あるいは伝導性を低下させるという問題がある。
【0011】
さらに、量子ドットがマトリックス材料無しで単独で堆積されてなる発光活性層の表面は、球形状の量子ドットが並んで配置された凹凸面である。このため、その上に成長させる構成膜(第2の絶縁層)の平坦性を低下させてしまう。このように絶縁層の平坦性が低下すると、絶縁破壊が起こり易くなったり、電界強度の均一性が低下したりする問題が生じる。このような問題は、自発光型フラットディスプレイでは、表示領域内に部分的に輝点もしくは暗点が発生したり、表示特性の面内均一性を損なったりする原因となる。
【0012】
また、上述のように交流電場を印加する電界発光素子では、発光活性層と絶縁層の界面準位が、電子を発光活性層に供給することに寄与すると考えられているが、この観点から絶縁層と発光活性層(発光活性層に含まれる量子ドット)との界面状態を改善して、発光活性層に供給する電子放出数を増加させることが望まれている。
【0013】
本発明はこのような諸問題に着目して創案されたものであり、その主たる目的は、各量子ドットからの発光が狭帯域スペクトルで色純度が高く、かつ高輝度となる電界発光素子を提供することにある。
【0014】
また、本発明の他の目的は、発光欠陥の発生を抑制でき、発光特性の面内均一性を有する電界発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の特徴は、コア部分の表面をシェル層で覆った構造の量子ドットを含む発光活性層の少なくとも一方の表面側に絶縁層が配され、これら発光活性層および絶縁層を厚さ方向に挟む一対の電極を有し、これら一対の電極に交流電圧を印加することにより発光活性層を発光させる電界発光素子であって、発光活性層の一方の表面側に、シェル層のヤング率と同等以下のヤング率を持つ無機層でなり、かつ発光活性層との接合面が量子ドット同士の間隙に入り込むように突出して密着する密着層が、形成されていることを要旨とする。ここで、シェル層の材料とのバンドオフセットが0.1eV以下である密着層が好ましい。
【0016】
本発明では、量子ドット同士の間隙に密着層が入り込むように突出し、かつシェル層とのバンドオフセットが小さいため、密着層と量子ドットとは密に接合した状態を保つことができ、発光活性層へキャリアを輸送し易い。加えて、密着層を発光活性層と絶縁層との間に介在させる構成とすれば、密着層と絶縁層との界面でのキャリアの発生を促す作用がある。したがって、本発明では、発光活性層での発光強度を向上することができる。特に、密着層は、量子ドットにおけるシェル層のヤング率と同等以下のヤング率を持つ無機層でなるため、量子ドットが密着層により変形されたり損傷を受けたりすることが防止できる。この結果、量子ドットのサイズが変化することがなく、量子ドットから放出される光の色が変わってしまうことを防ぐことができる。また、このような構成の電界発光素子では、表面状態や界面状態の生成が抑制されるため、量子ドットからの発光スペクトルが量子ドットに由来する波長以外の光を抑えることができる。このため、発光スペクトルが広帯域となることを防止する作用を奏する。
【0017】
ここで、量子ドットのシェル層の材料が硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、硫化カドミウム(CdS)、またはZn、Cd、S、Seから選ばれる化合物もしくは混晶、またはIn、Ga、P、Si、Ge、Sn、Asから選ばれる化合物もしくは混晶のいずれかであり、この場合、密着層のヤング率は、1から100GPaであることが好ましい。
【0018】
上述のように、密着層の材料が、量子ドットにおけるシェル層のヤング率と同等以下のヤング率を持つ無機層であるため、密着層上に量子ドットのイオンビームを照射して堆積させるES−IBD法で成膜させる場合には、照射過程で量子ドットのサイズが変化してしまうことを防止できる。
【0019】
また、密着層の材料は、伝導帯端準位が、量子ドットにおけるコア部分の材料の伝導帯端準位より大きく、価電子帯端準位が、コア部分の材料の価電子帯端準位よりも小さいことが好ましい。
【0020】
さらに、密着層の材料は、II族、III族、V族、VI族から選ばれる少なくとも一種類の原子を含むことが好ましく、特にII族、VI族の原子を主材とすることが好ましい。なお、密着層の材料として選ばれる代表的な原子としては、亜鉛(Zn)、硫黄(S)、セレン(Se)、砒素(As)、リン(P)などを挙げることができる。
【0021】
また、密着層の材料は、量子ドットにおけるシェル層の材料との格子定数の差が5%以内であることが好ましい。このように、密着層の材料とシェル層の材料との格子定数の差を5%以下に限定することにより、密着層の結晶構造とシェル層の結晶構造との界面の連続性を乱さずに整合性の良い接合にすることができるため、量子ドットにおける閉じ込め準位に由来する発光スペクトル以外の発光ピークの発生を抑制する作用を向上できる。加えて、このように密着層の材料とシェル層の材料とが格子定数の観点から類似した物質であるため、量子ドットを堆積させて発光活性層を成膜する際に、シェル層の欠陥を密着層の材料が修復し、ボイドを密着層の材料で埋め込むことができるため、量子ドットと密着層との連続性を持たせることができる。また、シェル材料と密着層とのバンドオフセットを0.1eV以下とすることで、キャリアの移動を促し、空間電荷の形成を抑制できる。
【0022】
密着層は、複数層が積層された構造であってもよい。複数の密着層を積層することで、層間の界面準位からキャリアの発生を促すことが期待できる。したがって、量子ドット中において、発光に寄与する注入キャリアの単位時間当たりの数を増加させることができ、さらに高輝度を要求されるアプリケーションへの適用が可能となる。
【0023】
発光活性層の他方の表面側には、発光活性層を覆って平坦化された平坦化層が形成されていることが好ましい。そして、この平坦化層を構成する材料は、上記密着層の材料と同じ無機材料であることが好ましい。
【0024】
このように発光活性層の他方の表面側に、平坦化層を形成することにより、成膜後の発光活性層表面の凹凸を是正して、例えばその上に成膜する絶縁層の平坦性を高めることができる。したがって、絶縁層の上に形成される電極も平坦に形成することが可能となる。このため、電極と発光活性層との距離が発光領域面内で均一になるため、絶縁破壊が起こりにくくなり、また電界強度の面内均一性を向上できる。したがって、本発明を自発光型フラットディスプレイに適用することで、表示領域内に部分的に輝点もしくは暗点が発生したり、表示特性の面内均一性を損なったりする原因を取り除くことが可能となる。
【0025】
本発明は、量子ドットと絶縁層との間に密着層を介在させることを特徴とするが、密着層と絶縁層との間に、更に緩衝層を有していても良い。この場合、緩衝層は、密着層との格子定数の差が5%以内であり、かつ、密着層材料とのバンドオフセットが0.1eVとなるように設計する必要がある。このように設計された緩衝層であれば、量子ドットへのキャリア輸送性や伝導性を低下することなく、高輝度電界発光素子が実現できる。
【0026】
また、さらに平坦化層を有する構成とする場合、平坦化層と絶縁層との間に、更に緩衝層を有していても良い。この場合、緩衝層は、平坦化層との格子定数の差が5%以内であり、かつ、平坦化層材料とのバンドオフセットが0.1eVとなるように設計する必要がある。このように設計された緩衝層であれば、量子ドットへのキャリア輸送性や伝導性を低下することなく、高輝度電界発光素子が実現できる。
【0027】
本発明の第2の特徴は、コア部分の表面をシェル層で覆った構造の量子ドットを含む発光活性層の少なくとも一方の表面側に絶縁層が積層され、発光活性層および絶縁層を厚さ方向に挟む一対の電極を有し、これら一対の電極に交流電圧を印加することにより発光活性層を発光させる電界発光素子の製造方法であって、基板上に第1の電極を形成する第1電極形成工程と、この第1電極形成工程の後で、発光活性層を形成する発光活性層形成工程の前に施される、シェル層のヤング率と同等以下のヤング率を持つ無機層でなる密着層を形成する密着層形成工程と、この密着層の上に、ES−IBD法により量子ドットを密着層の表面に照射することにより堆積させて発光活性層を形成する発光活性層形成工程と、この発光活性層の上に、伝導帯端準位が量子ドットのコア部分の材料の伝導帯端準位より大きく、かつ価電子帯端準位がコア部分の材料の価電子帯端準位よりも小さい無機材料でなる平坦化層を、化学気相成長法(CVD法)、液相成長法、分子線エピタキシー法、真空蒸着法、スパッタ法のいずれかを用いて表面平坦性を有するように形成する平坦化層形成工程と、この平坦化層形成工程の後に、第2の電極を形成する第2電極形成工程と、を備えることを要旨とする。
【0028】
本発明に係る製造方法では、シェル層のヤング率と同等以下のヤング率を持つ層でなる密着層を形成した後に、量子ドットがES−IBD法にて堆積されるため、量子ドットが変形や損傷することを防止できる。この結果、量子ドットのサイズや形状が変化することがなく、量子ドットから放出される光の色が変わってしまうことを防ぐことができる。また、密着層と発光活性層との接合面において量子ドット同士の間隙に密着層の材料が入り込んだ構造となるため、量子ドット同士の間隙を埋めることでキャリアの輸送を促進して発光強度を向上させることが可能となる。また、量子ドットと密着層とのバンド構造の連続性が向上するため、発光スペクトルが量子ドットに由来する波長のみとなり、発光スペクトルが広帯域となることを防止することが可能となる。
【0029】
また、発光活性層の上に形成する平坦化層を、化学気相成長法(CVD法)、液相成長法、分子線エピタキシー法、真空蒸着法、スパッタ法のいずれかを用いて成膜することで平坦化層の表面が平坦になる。そして、平坦化層の上に例えば絶縁層を形成しさらにその上に第2の電極を形成する場合には、絶縁層も平坦に形成でき、第2の電極と発光活性層との距離が発光領域面内で均一になる。したがって、電界発光素子において絶縁破壊が起こりにくくなり、また電界強度の面内均一性を向上できる。また、この製造方法を自発光型フラットディスプレイに適用することで、表示領域内に部分的に輝点もしくは暗点が発生したり、表示特性の面内均一性を損なったりする原因を取り除くことが可能となる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、各量子ドットからの発光が狭帯域スペクトルで色純度が高く、かつ高輝度となる電界発光素子を実現できる。また、本発明によれば、表示欠陥の発生を抑制でき、表示特性の面内均一性を有する電界発光素子を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の製造方法の第1電極形成工程を示す工程断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の製造方法の第1絶縁層形成工程を示す工程断面図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の製造方法の密着層形成工程を示す工程断面図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の製造方法の発光活性層形成工程を示す工程断面図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の製造方法の平坦化層形成工程を示す工程断面図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の製造方法の第2絶縁層形成工程および第2電極形成工程を示す工程断面図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の製造方法の発光活性層形成工程において量子ドットが密着層に打ち込まれた状態を示す工程断面図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の製造方法の発光活性層形成工程において量子ドットが密着層上に堆積される状態を示す工程断面図である。
【図10】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の製造方法の発光活性層形成工程において発光活性層を平坦化層で覆った状態を示す工程断面図である。
【図11】本発明の電界発光素子の製造方法で用いるES−IBD装置の概略説明図である。
【図12】本発明の第3の実施の形態に係る電界発光素子の断面図である。
【図13】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の構成をもつ試料(実験例2:ZnSでなる密着層・平坦化層ともに有し、その膜厚が2.5nm)のPLスペクトルとELスペクトルの測定結果を示す図である。
【図14】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の構成をもつ試料(実験例4:ZnSでなる密着層・平坦化層ともに有し、その膜厚が20nm)のPLスペクトルを示す図である。
【図15】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の構成をもつ試料(実験例4:ZnSでなる密着層・平坦化層ともに有し、その膜厚が20nm)のELスペクトルを示す図である。
【図16】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の構成をもつ試料(実験例5:ZnSでなる密着層・平坦化層ともに有し、その膜厚が80nm)のPLスペクトルを示す図である。
【図17】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の構成をもつ試料(実験例5:ZnSでなる密着層・平坦化層ともに有し、その膜厚が80nm)のELスペクトルを示す図である。
【図18】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の構成をもつ試料(実験例6:ZnSでなる密着層のみを有し、その膜厚が5nm)のPLスペクトルを示す図である。
【図19】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の構成をもつ試料(実験例6:ZnSでなる密着層のみを有し、その膜厚が5nm)のELスペクトルを示す図である。
【図20】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の構成をもつ試料(実験例6:ZnSでなる密着層のみを有し、その膜厚が5nm)を交流駆動して発光強度を時間分解して観察した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態に係る電界発光素子およびその製造方法を説明する。但し、図面は模式的なものであり、各層の厚みや厚みの比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。
【0033】
[第1の実施の形態]
(電界発光素子の概略構成)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子を示す断面図である。同図に示すように、電界発光素子10Aは、ガラスまたはプラスチック等からなる透明基板11上に、順次、第1の電極としての透明電極12、第1絶縁層13、密着層14、発光活性層20、平坦化層15、第2絶縁層16、第2の電極としての電極17が積層されてなる。本実施の形態に係る電界発光素子10Aは、発光活性層20を密着層14と平坦化層15とで挟んだ構造である。図1に示すように、この電界発光素子10Aでは透明電極12と電極17とに交流駆動源30を接続して交流電場を印加することにより、発光活性層20からの発光を透明基板11側から出射させるようにしたものである。
【0034】
(発光活性層について)
発光活性層20は、図9および図10に示すように、略球形状の量子ドット21が多数堆積されて成膜されている。この発光活性層20は、ES−IBD法を用いて20〜100nmの膜厚となるように成膜されている。このES−IBD法の詳細については後述する。個々の量子ドット21は、コア部分22の表面をシェル層23で覆ったナノ結晶構造である。このような量子ドット21は、コア部分の材料および結晶サイズを精緻に制御することで、人為的にギャップ・エネルギーを規定し、所望の色を発光させることができる。
【0035】
本実施の形態では、コア部分22の直径としては、順次、1.9nm、2.4nm、5.2nmであり、シェル層23の膜厚は、順次、0.4nm、1.0nm、1.4nmとした。本実施の形態では、コア部分22がセレン化カドミウム(CdSe)で形成され、シェル層23が硫化亜鉛(ZnS)もしくはセレン化亜鉛(ZnSe)で形成された量子ドット21を用いる。また、本実施の形態における量子ドット21のコア部分22は、CdSe以外に、CdS、PbSe、HgTe、CdTe、InP、GaP、InGaP、GaAs、InGaN、GaN等やこれらの混晶で構成される材料から適宜選択可能である。
【0036】
(電極について)
透明電極12は、スズドープ酸化インジウム(ITO)で約100nmの膜厚に形成されている。電極17は、金(Au)で約50nmの膜厚に形成されている。透明電極12は、ITOの他、亜鉛ドープ酸化インジウム(IZO)、インジウムガリウム亜鉛酸化物(IGZO)、導電性酸化亜鉛(ZnO)、アモルファス酸化物導電体等、透明な導電体であれば材料は問わない。電極17の膜厚は、必要な電気伝導性が得られるよう、材料によって適宜増減する。電極17は、上記の透明電極と同様の材料であってもよく、金属電極でも良い。
【0037】
(絶縁層について)
第1絶縁層13および第2絶縁層16は、タンタル酸化物(TaOx)で約50〜500nmの膜厚に形成されている。この膜厚は、下地である透明電極12の表面の凹凸を被覆し滑らかなモフォロジーを確保できるように十分に厚く、かつ低電圧で強電界を得られるように十分に薄い厚さである。これら第1絶縁層13および第2絶縁層16は、これに限定されるものではなく、シリコン窒化物、シリコン酸化物、イットリウム酸化物、アルミナ、ハフニウム酸化物、バリウムタンタル酸化物などから選択可能である。
【0038】
(密着層について)
密着層14は、量子ドット21におけるシェル層23であるZnSやZnSeと同等以下のヤング率を持つ層でなる。一般に、ヤング率は同一材料であっても結晶方位等により異なる数値を示すことがあるが、本発明でいうヤング率とは、密着層表面およびシェル層の層表面に垂直な方向のヤング率を指す。なお、ZnSおよびZnSeのヤング率(E)は、順次74.5GPa、67.2GPaである。本実施の形態では、量子ドット21の保護および量子ドット21同士の間隙を埋める作用を奏する観点から、密着層14の材料のヤング率が1から100GPaであることが好ましい。また、密着層14の膜厚は、0.1〜20.0nmの寸法であることが好ましい。密着層14の材料は連続膜であることが好ましいが、結晶粒状の場合、量子ドット21同士の間隙に入り込めるような直径(例えば、1nm以下)を持つことが必要である。
【0039】
密着層14の材料としては、上記条件に加えて、負の電荷のエネルギー準位として伝導帯端準位が量子ドット21のコア部分22の材料(例えばCdSe)の伝導帯端準位より大きく、価電子帯端準位がコア部分22の材料の価電子帯端準位よりも小さいものを選択することが好ましい。
【0040】
また、密着層14の材料は、II族、III族、V族、VI族から選ばれる少なくとも一種類の原子を含むことが好ましい。さらに、密着層14の材料は、量子ドット21におけるシェル層23の材料との格子定数の差が5%以内であることが好ましく、シェル層23の材料と同材料であっても良い。
【0041】
具体的には、密着層14として、硫黄(S)、セレン(Se)、砒素(As)、リン(P)の単独元素でなる単一原子層や、これらの単独元素に上記条件の材料を含む層としてもよい。また、このような密着層14と第1絶縁層13との間に、さらにこの密着層14と同材料でなる第2の密着層を介在させてもよい。また、第2の密着層は、0.1〜5nm程度の膜厚を持つ金属膜であってもよい。さらに、第2の密着層と第1絶縁層13との間に、密着層14と同様の材料でなる第3の密着層を介在させてもよい。この第3の密着層の厚さは、0.1〜5nm程度が適切である。
【0042】
(平坦化層について)
本実施の形態では、平坦化層15の材料が上記密着層14の材料と同様である。平坦化層15は、量子ドット21の保護および量子ドット21同士の間隙を埋める作用に加えて、量子ドット21を積み重ねてなる発光活性層20表面の凹凸を埋めて平坦化している。
【0043】
平坦化層15の材料としては、上記条件に加えて、伝導帯端準位が量子ドット21のコア部分22の材料(例えばCdSe)の伝導帯端準位より大きく、価電子帯端準位がコア部分22の材料の価電子帯端準位よりも小さいものを選択することが好ましい。平坦化層15の材料は、II族、III族、V族、VI族から選ばれる少なくとも一種類の原子を含むことが好ましい。さらに、平坦化層15の材料は、量子ドット21におけるシェル層23の材料との格子定数の差が5%以内であることが好ましく、シェル層23と同材料であっても良い。
【0044】
具体的には、平坦化層15として、硫黄(S)、セレン(Se)、砒素(As)、リン(P)の単独元素でなる単一原子層や、これらの単独元素に上記条件の材料を含む層としてもよい。また、このような平坦化層15と第2絶縁層16との間に、さらにこの平坦化層15と同材料でなる第2の平坦化層を介在させてもよい。また、第2の平坦化層は、0.1〜5nm程度の膜厚を持つ金属膜であってもよい。さらに、第2の平坦化層15と第2絶縁層16との間に、平坦化層15と同様の材料でなる第3の平坦化層を介在させてもよい。この第3の平坦化層の厚さは、0.1〜5nm程度が適切である。また、シェル材料と平坦化層とのバンドオフセットを0.1eV以下とすることで、キャリアの移動を促し、空間電荷の形成を抑制できる。
【0045】
(第1の実施の形態に係る電界発光素子の作用・効果)
本実施の形態では、量子ドット21同士の間隙に密着層14が入り込むように突出しているため、密着層14と発光活性層20(量子ドット21)とは密に接合した状態を保つことができ、発光活性層20(量子ドット21)へキャリアを輸送し易い。加えて、密着層14が発光活性層20と第1絶縁層13との間に介在される構成であるため、密着層14と第1絶縁層13との界面でのキャリアの発生を促す作用がある。したがって、本実施の形態では、発光活性層20からの発光強度を向上することができる。
【0046】
特に、密着層14は、量子ドット21におけるシェル層23の材料のヤング率と同等以下のヤング率を持つ無機層からなるため、発光活性層20との接合面において量子ドット21同士の間隙に密着層14の材料を入り込ませることが容易となる。したがって、量子ドット21が密着層14により変形されたり損傷を受けたりすることが防止できる。この結果、量子ドット21のサイズや形状が変化することがなく、量子ドット21から放出される光の色が変わってしまうことを防ぐことができる。このような電界発光素子10Aでは、量子ドット21からの発光スペクトルが量子ドット21に由来する波長となるため、発光スペクトルが広帯域となることを防止する作用を奏する。
【0047】
密着層14が、量子ドット21におけるシェル層23の材料のヤング率と同等以下のヤング率を持つ比較的軟らかい無機層からなるため、量子ドット21をES−IBD法を用いて成膜させる場合には、衝突によって量子ドット21が変化してしまうことを防止できる。また、このようなES−IBD法を用いずに密着層14の上に量子ドット21を含む発光活性層20を成膜した場合においても、厚さ方向に加圧することで密着層14を量子ドット21同士の間隙に入り込ませることが可能となる。この場合も、量子ドット21同士の間隙に密着層14が入り込むように突出させ、密着層14と量子ドット21とが密に接合した状態となり、発光活性層20へキャリアを輸送し易い構造にできる。したがって、発光活性層20からの発光強度を向上することができる。
【0048】
また、密着層14の材料とシェル層23の材料との格子定数の差を5%以下に限定してもよい。この場合、密着層14の結晶構造とシェル層23の結晶構造との界面の連続性を乱さずに、格子欠陥や界面とそれに付随する準位を形成せず整合性の良い接合にすることができるため、量子ドット21における閉じ込め準位に由来する発光スペクトル以外の発光ピークの発生を抑制できる。加えて、このように密着層14の材料とシェル層23の材料とが格子定数の観点から類似した物質である。このため、量子ドット21を堆積させる際に、シェル層23の欠陥を密着層14の材料が修復し、表面を終端し、またボイドを密着層14の材料で埋め込むことができる。このように密着層14の材料とシェル層23の材料との格子定数の差を5%以下に限定したことにより、量子ドット21と密着層14との連続性を持たせることができる。
【0049】
さらに、上述したように、密着層14を複数積層することで、これらの層間の界面準位からキャリアの発生を促すことが期待できる。したがって、量子ドット21中において、発光に寄与する注入キャリアの単位時間当たりの数を増加させることができ、さらに高輝度を要求されるアプリケーションへの適用が可能となる。
【0050】
この第1の実施の形態のように、発光活性層20の他方の表面側に、平坦化層15を形成することにより、成膜後の発光活性層20表面の凹凸を是正して、例えばその上に成膜する第2絶縁層16の平坦性を高めることができる。したがって、第2絶縁層16の上に形成される電極17も平坦に形成することが可能となる。このため、電極17と発光活性層20との距離が発光領域(もしくは画素領域)内で均一になるため、絶縁破壊が起こりにくくなり、また電界強度の面内均一性を向上できる。したがって、本発明を自発光型フラットディスプレイに適用することで、表示領域(もしくは画素領域)内に部分的に輝点もしくは暗点が発生したり、表示特性の面内均一性を損なったりする原因を取り除くことが可能となる。
【0051】
(電界発光素子の製造方法)
次に、図2から図11を用いて、本実施の形態に係る電界発光素子の製造方法を説明する。
【0052】
〈第1電極形成工程〉
図2に示すように、予めITOでなる透明電極12が表面に形成されたガラス基板11を用意するか、ガラス基板11上にITOでなる透明電極12を成膜する。本実施の形態において、透明電極12は、膜厚が例えば100nm、表面粗さRaが例えば5nm程度である。そして、このガラス基板11には、有機溶媒による超音波洗浄を行った後、不活性ガスによりブローおよび乾燥を施しておく。
【0053】
〈第1絶縁層形成工程〉
その後、図3に示すように、透明電極12上にタンタル酸化物(TaOx)などの絶縁体で第1絶縁層13を形成する。例えばTaOx膜を用いた場合、通常の高周波(13.56MHz)マグネトロンスパッタリング装置を用い、金属TaターゲットのAr+O2混合ガス雰囲気中での反応性スパッタリングによって成膜した。堆積中の基板の温度は、常温から200℃とした。膜厚は、下地となる透明電極12の表面凹凸を被覆し滑らかなモフォロジーを確保できるように十分に厚く、かつ低電圧で強電界を得られるように十分に薄い厚さとして、50〜500nmとした。
【0054】
〈密着層形成工程〉
次に、図4に示すように、第1絶縁層13の上に、密着層14を形成する。この密着層14は、分子線エピタキシー(MBE)法あるいは通常の真空蒸着法によって、硫黄(S)を成膜した。硫黄(S)源を流量制御用バルブ付合成石英セル中で100〜200℃に加熱し、得られる硫黄ガスを400〜1000℃に加熱した後、2×10−7〜1×10−5Torrの圧力のフラックスを得た。各々を、第1絶縁層13形成後の基板上に照射し、Sでなる密着層14を形成した。基板の温度は室温〜80℃で適宜、決定し、膜厚は1〜3nm相当とした。
【0055】
ここで、発光活性層形成工程の説明に先駆けて、発光活性層形成工程で用いるES−IBD装置について図11を用いて説明する。
【0056】
「ES−IBD装置について」
ここで、実施の形態および後述する実施例を明確にするために、図11を用いてES−IBD装置について説明する。このES−IBD装置は、ES−IBD法を適用した成膜装置である。
【0057】
このES−IBD装置では、先ず、マイクロシリンジポンプに量子ドット21を含む溶液を供給する。マイクロシリンジポンプ2は、筒状本体部2b内の微粒子分散溶液1をピストン2aによって押出し、チューブ2cを通じて、キャピラリー3へ送り、キャピラリー先端3aから放出するようになっている。なお、キャピラリー3には、電圧印加手段3bによって所定の電圧が印加可能となっている。また、マイクロシリンジポンプ2による溶液供給速度は、0.5〜4μl/min(好ましくは1〜2μl/min)である。
【0058】
さらに、図示しないが、キャピラリー3には、X、Y、Z方向にマイクロメーターがついており、キャピラリー先端3aの位置の微調整が可能となっている。なお、キャピラリーとして上述のような構成を用いたが、本実施の形態においてキャピラリーは、毛管現象あるいは濡れ現象によって上記溶液の表面を露出させる溶液送出器具として定義される。
【0059】
キャピラリー先端3aから放出された微粒子分散液は、減圧チャンバー4の上流側先端部に設けられたジェットノズル4aを通じて減圧チャンバー4内に導入され、さらに、成膜チャンバー5の上流側先端部に設けられたスキマーノズル5aを通じて成膜チャンバー5内に導入されるようになっている。キャピラリー先端3aとジェットノズル4aとの距離は0〜50mm、好ましくは、4〜10mmに設定される。この実施の形態では8mmの距離に設定されている。
【0060】
なお、キャピラリー先端−ジェットノズル間は、ほぼ大気圧となっている。また、キャピラリー先端3aの内径が20μmであるものを用いた。ジェットノズル4aと、スキマーノズル5aとの中心位置は一致しており、ジェットノズル4aとスキマーノズル5aとの距離は、1〜10mmの間で適宜設定される(この実施例では3mmとした)。なお、ジェットノズル4aとスキマーノズル5aとには、それぞれ、電圧印加手段4c,5cによって所定の電圧を印加できるようになっている。
【0061】
成膜チャンバー5は、イオン光学系領域51と高真空領域52とで構成されている。イオン光学系領域51と高真空領域52とは、開口5bを有する隔壁5eによって仕切られ、その基準軸(微粒子が進行する方向の中心軸)が互いに直交するようになっている。開口部5bを通じて粒子が移動可能となっている。開口部5bの直径を20mmとした。
【0062】
減圧チャンバー4、イオン光学系領域51及び高真空領域52は、それぞれ、排気口4d,51d,52dを通じて、図示しない真空ポンプにより適切な真空度を維持するように排気されるようになっている。これらの排気には、例えば、差動排気手段が用いられ、これにより、圧力は、「キャピラリー先端(大気圧)>減圧チャンバー>イオン光学系領域>高真空領域」の関係となっている。ここでは、減圧チャンバー内圧力を1Torr、イオン光学系領域内圧力を1×10−5Torr、高真空領域内圧力を1×10−6Torr程度とした。
【0063】
ここで、差動排気は、以下のようにして行っている。すなわち、ジェットノズル4a(φ0.5mm)からスキマーノズル5a(φ0.7mm)に至る領域を100〜500[m3/h]程度の排気速度のメカニカルブースターポンプあるいはロータリーポンプによって排気し、約1[Torr]程度の真空状態に保持し、その後段に当たるイオン光学系領域51を300〜1000[L/s]程度のターボ分子ポンプ等によって排気することで、10−4[Torr]程度の真空状態に保持するようにする。さらに、イオン光学領域51と高真空領域52(成膜のための領域)間に直径φ20mm程度、厚さ数mmのオリフィスを設け、高真空領域を1000〜2000[L/s]程度のターボ分子ポンプ等によって排気することで、この領域を10−6[Torr]程度の高真空状態に保持するようにする。
【0064】
イオン光学系領域51内には、ジェットノズル4a及びスキマーノズル5aの同軸延長上に、レンズ装置としての電界型イオンレンズ6と、分離装置としてのエネルギー分離装置71が設けられている。電解型イオンレンズ6は、3つの筒状電極6a,6b,6cとからなるアインツエルレンズである。筒状電極6a,6bには、電圧印加手段6d,6eによって電圧を印加できるようになっている。筒状電極6cはアース電位にされる。電界型イオンレンズ6は、イオンビームを収束させる機能を有する。ここで、電界型イオンレンズ6は1個以上であれば機能するが、本実施の形態のように、同一の径を持つ3個の円筒形電極6a,6b,6cから構成され、各々コアキシャルな配列構造に設置されていることが好ましい。3個の電界型イオンレンズに印加する電圧を制御することにより、イオンビームの収束電極の役割を果たす。印加する電圧は、微粒子の種類(サイズ、分子量など)により適宜決定される。微粒子を収束させることは勿論であるが、溶媒分子イオンなどの軽いイオンを収束させて、後工程(例えば、磁界発生手段、エネルギー分離手段など)で効率良く除去可能とすることも有効である。
【0065】
また、本実施の形態では、分離装置としてエネルギー分離装置71を用いている。エネルギー分離装置71は、アース電位に設定された第1電極板71aとこの第1電極板71aに対して所定の距離をおいて平行に配置された第2電極板71bとを有する。
【0066】
第1電極板71aには、入射孔71cと出射孔71dとが設けられている。入射孔71cは、上記のジェットノズル4a及びスキマーノズル5aの同軸延長上にある。また、第2電極板71bは、電圧印加手段71eによって所定の電位に設定される。
【0067】
エネルギー分離装置71は、入射孔71cに入射したイオンビームを所定の角度に曲げて、所望のエネルギーを有する微粒子を分級して出射孔71dから出射させる。曲げる角度は90度が最も高分解能が得られるため好ましい。エネルギー分離装置71は、キャピラリー先端3aから放出された微粒子等が被成膜基板(ガラス基板)11に到達する前に、質量数の小さい成分(例えば、溶媒分子イオンや側鎖分子イオン)や飛来する微粒子や溶媒、側鎖の材料にもなる有機分子の一緒になった粒塊を除去する役割(質量、エネルギー分離機能)を有している。
【0068】
エネルギー分離装置71は、静電偏向を利用した分離機構である。ある一定の静電偏向量を得ようとするとき、荷電粒子の運動エネルギーに偏向電圧が比例する。よって、偏向電圧により荷電粒子の運動エネルギーを分離可能である。図11に示した装置では、平行平板電極構造のものを使用しており、一方の電極71aには二つの開孔を有しており、一方は入射孔71c、他方は出射孔71dである。開孔を有していない方の電極71bには、荷電粒子を減速する電圧±Vd(荷電粒子がプラスイオンの場合には+Vd、マイナスイオンの場合には−Vd)を与える。まず、入射孔から荷電粒子ビームが斜めに入射し、電極内に入った荷電粒子は、粒子の持っている運動エネルギーで決定される特定の値(エネルギー値)である場合に、反発されて出射孔から出射する。ここでエネルギー値は、電極間距離、開孔間距離、電圧によって決定されるため、これらのパラメータを変動させることにより、分級したいエネルギー値を決定可能である。
【0069】
ここで、上記エネルギー分離装置71の作用について、簡単に説明する。上述のキャピラリー3およびその対向電極(ここでは電圧印加可能なジェットノズル)は、溶液供給装置と減圧チャンバーとの間に電界を形成可能であり、いわゆるエレクトロスプレー装置であるということができる。そして、このエレクトロスプレーより放出されたイオンを含む流体流は、ジェットノズル4aに導入されるとき自由噴流を形成するということができる。すなわち、このエレクトロスプレーにより生成したイオン種は気体の自由噴流に乗って真空中に導入されることになるが、その時(自由噴流はλ0(平均自由行程)<D(オリフィスの口径) の粘性流領域でおこる。)、流れの速度は概ね、膨張前に気体が持っていたエンタルピーが断熱的過程によって、全て並進エネルギーに変わることで決まる。空気(窒素、酸素等の二原子分子も)の平均自由行程は約10−7[m]であり、数百μmのオリフィスを介して真空中に導入することで自由噴流を形成できる。このとき、自由噴流の速度v[m/s]はオリフィスからの距離x[m]の関数として、
v={3.65(x/D)2/5−0.82(x/D)−2/5}{γkT/m}, T=T0(P0/P)(1−γ)/γ
D:オリフィスの直径[m]≒5×10−4[m]
γ:気体の比熱比≒1.4
T: 噴流の温度[K]
T0: 導入される気体の温度[K]≒3×102[K]
P: オリフィスの低圧側の圧力[Pa]≒1×102[Pa]
P0: オリフィスの高圧側の圧力[Pa]≒1×105[Pa]
で表され、約103[m/s]程度の値である。
【0070】
混合物の場合、自由噴流中で主成分となる気体(今回は空気)の速度とその他の混合物はほぼ同じスピードで飛行することになる。よって重い成分はきわめて高い運動エネルギーを持つことになる(実際には、オリフィスでの差圧(押し圧)が大きいほど、質量による速度の違いは小さくなり、さらに重い分子の速度分布は極めて鋭くなる。また、多少の速度差、温度差と噴流の中心軸上に重いものが富むようになるが、ここでは無視出来る。)。一方、この気体中(粘性係数は約2×10−5[Pa・s])での微粒子(直径数[nm])の電界移動度η=v/E (Eは電界)は、P ≒1×105[Pa]のとき凡そη≒10−5[m2/s・V]程度、P≒1×102[Pa]のとき凡そη≒10−2[m2/s・V]程度の値である。
【0071】
したがって、オリフィスの高圧側でのエレクトロスプレーに供する印加電界(106[V/m]程度)、オリフィスの低圧側でのグロー放電に供する印加電界(104[V/m]程度)の寄与による終端速度はそれぞれ、約101[m/s]程度、102[m/s]程度である。また、エネルギー分離機構に至る以前のイオン光学系領域では、始状態と終状態で静電ポテンシャルが同じであるので、この間で電界による加減速は生じない。したがって、エネルギー分離機構に入射するイオンは、その種類にかかわらず、ほぼ同一の速度を付与する装置構成となっている。当然、この実施の形態に限らず、イオンビームの経路中に付加的な加速機構を挿入し、その機構中で付加されるエネルギーを考慮した、エネルギー分離機構の構成も可能である。
【0072】
エネルギー分離機構では、粒子が入射孔から入り、出射孔から飛び出してきた時、
L=2V0/Vd・sin2α
である。ここで、
L:電極に設けた開孔間距離(今回は26.5mm)
α:入射角度(今回は45度)
V0:荷電粒子の加速電圧(V0=Em/q、 Em:運動エネルギー、 q:電荷)
Vd:荷電粒子を減速する電圧
L、αは一定であるため、V0はVdによって分析できる。
また、V0=Em/q
Em=(mv2)/2
よりV0=(mv2)/2q=(m/q)・(v2/2)であり、vは先ほど述べたとおり、自由噴流中では全てのイオンがほぼ同じ速度をもつと考えるため、この装置によって、エネルギーを分離するということは、質量電荷比m/q(質量/電荷)を分離することになる。
【0073】
高真空領域52内には、ガラス基板11を保持する基板ホルダー52gと、このガラス基板11に向かう荷電粒子線を収束させる収束装置としての収束電極52bと、上記収束された荷電粒子線を減速させてガラス基板11に堆積させる減速装置としての減速電極52cとが設けられている。エネルギー分離装置71の出射孔71d−隔壁5aの開口5b、収束電極52a,52b、減速電極52cは、それぞれ、同軸延長上に設けられている。
【0074】
〈発光活性層形成工程〉
上述したES−IBD装置を用いて以下に説明する発光活性層形成工程の成膜を行う。発光活性層形成工程では、上記したES−IBD装置を用いて、図5に示すように、密着層14の上に発光活性層20を形成する。本実施の形態で用いる、コア部分22をシェル層23で覆った構造を有する量子ドット21の直径は、約1.9〜5.2nmであり、これが単独の一価のイオンを形成している場合でも、そのエネルギーは1.4×102〜9.8×103eV(典型的には1.7×102〜3.4×103eV)である。過剰なエネルギーを持ったイオンが直接基板表面と衝突した場合には、散逸するエネルギーによって基板およびナノ結晶の変質は免れない。そこで、基板表面を接地電位から絶縁し、到達したイオンの電荷によって自発的にポテンシャルを高め、その後に到達するイオンを減速する機構を取り入れてもよい。
【0075】
本実施の形態では、量子ドット21が密着層14へイオンビームとなって照射され堆積されるため、密着層14の上記した物理的特性により量子ドット21の変形を抑えることができる。図8は、密着層14の表面に所定深さにめりこんだ状態を示す。そして、ES−IBD装置により、連続的に量子ドット21が照射されることにより、図9に示すような発光活性層20が形成される。この発光活性層20の下面側では、量子ドット21同士の間隙に、密着層14の上面が突出してこの間隙を埋め込むように密着した接合となる。
【0076】
〈平坦化層形成工程〉
次に、図6および図10に示すように、発光活性層20の上に、平坦化層15を成膜する。なお、本実施の形態では、平坦化層15の材料は、上記密着層14の材料と同様に、硫黄(S)を用いている。平坦化層15の成膜方法としては、電子線エピタキシー法、真空蒸着法、スパッタ法のいずれかを用いる。なお、この平坦化層15の形成工程では、量子ドット21を変質させない範囲で高い温度に設定して、平坦化層15への不純物混入を防ぎ、平坦化し易く設定することが好ましい。
【0077】
〈第2絶縁層形成工程および第2電極形成工程〉
図7は、第1絶縁層形成工程および第2電極形成工程を示す。平坦化層15の上に、上記第1絶縁層13と同様の材料、方法で第2絶縁層16を形成した後、第2電極としてのAuでなる電極17を蒸着法で形成する。
【0078】
以上、第1の実施の形態に係る電界発光素子の製造方法について説明したが、発光活性層形成工程を行うことにより、密着層14と量子ドット21とは密に接合した状態を保つことができ、発光活性層20へキャリアを輸送し易くなる。加えて、このように密着層14を発光活性層20と第1絶縁層13との間に介在させる構成とすれば、密着層14と第1絶縁層13との界面でのキャリアの発生を促す作用がある。したがって、本実施の形態では、発光活性層20からの発光強度を向上することができる。特に、密着層14は、量子ドット21におけるシェル層23のヤング率と同等以下のヤング率を持つ層からなるため、図8に示すように、発光活性層14との接合面において量子ドット21同士の間隙に密着層14の材料を入り込ませることが容易となる。したがって、量子ドット21が密着層14により変形されたり損傷を受けたりすることが防止できる。この結果、量子ドット21のサイズが変化することがなく、量子ドット21から放出される光の色が変わってしまうことを防ぐことができる。このような電界発光素子10Aでは、量子ドット21からの発光スペクトルが量子ドット21に由来する波長となるため、発光スペクトルが広帯域となることを防止する作用を奏する。
【0079】
また、上記第1の実施の形態では、発光活性層20を平坦化層15で覆う構成としたことにより、成膜後の発光活性層20表面の凹凸を是正して、例えばその上に成膜する第2絶縁層16、電極17の平坦性を高めることができた。したがって、電極17と発光活性層20との距離が発光領域面内で均一になるため、絶縁破壊が起こりにくくなり、また電界強度の面内均一性を向上できた。
【0080】
[第2の実施の形態]
(電界発光素子の概略構成)
本発明の第2の実施の形態に係る電界発光素子は、上記第1の実施の形態に加えて、第1絶縁層13と密着層14の間、および平坦化層15と第2絶縁層16の間に、それぞれ緩衝層を有する構成の電界発光素子である。第2の実施の形態の電界発光素子は、より高い発光輝度が得られる素子である。
【0081】
(電界発光素子の製造方法)
本実施の形態の電界発光素子の製造方法は、緩衝層形成工程以外は上記第1の実施の形態の素子と同様に製造可能であるため、ここでは緩衝層形成工程のみ説明する。
第1絶縁層13(50〜500nmのTaOx)上に、第1緩衝層として10nmのZnSを形成した。ZnSはMBE法により形成した。第1緩衝層上に、密着層14(1〜3nmのS)を形成した。
また、平坦化層15(1〜3nmのS)上に、第2緩衝層として10nmのZnSを形成した。ZnSはMBE法により形成した。第2緩衝層上に、第2絶縁層(50〜500nmのTaOx)を形成した。
このようにして得られた本実施形態の電界発光素子は、第1の実施の形態の電界発光素子と比較して、発光スペクトルは略同等であり、さらに高い発光輝度を示した。
【0082】
〈実験例1〜5〉
上記第1の実施の形態に係る電界発光素子10Aの構成において、発光活性層20を挟む密着層14および平坦化層15が無い場合(比較例1)と、密着層14と平坦化層15の材料をともにZnSで形成したものを用意した。そして、密着層14と平坦化層15のそれぞれの厚さが、1.25nm(実験例1)、2.5nm(実験例2)、5.0nm(実験例3)、20.0nm(実験例4)、80nm(実験例5)と異なる実験例1〜5の電界発光素子を作製して、挙動を観察した。また、密着層14および平坦化層15がともに5.0nmのTa2O5(ヤング率133GPa)である素子(比較例2)も作製し、挙動を観察した。
【0083】
その結果、図13〜17に示すように、密着層14および平坦化層15が無い比較例1と比較して、実験例1〜5では挙動が変化し(異なり)、1.25nm〜5.0nmまでの電界発光素子は、発光強度が増し、発光スペクトルが狭帯域化する効果が確認できた。実施例1、実施例3の結果については図示していないが、実施例2と同等のスペクトルが観測された。一方、20.0nm以上の厚さの密着層14および平坦化層15を介在させた場合、量子ドット21の発光ピークと異なるものを含むスペクトルが観察された。したがって、密着層14および平坦化層15の厚さは、20.0nm未満が望ましいことがわかった。また、平坦化層15を堆積させることにより、量子ドット21同士の間隙を平坦化層15の材料が埋めるため、発光活性層20内のキャリア移動効率が向上することがわかった。なお、比較例2では、発光スペクトルは非常に広帯域化し、発光輝度も各実施例と比較してかなり低下していた。
【0084】
また、同様にして密着層14および平坦化層15としてZn、Se、Sを用いた素電界発光素子をそれぞれ作製した。ここで、密着層14および平坦化層15の膜厚をそれぞれ膜厚1.25nm、膜厚10.0nmとした素子を作製した。作成したそれぞれの素子について発光スペクトル測定を行ったところ、いずれの素子においても実験例1〜3と同様に、比較例よりも発光強度が増し、発光スペクトルが狭帯域化する効果が確認できた。
【0085】
〈実験例6〉
上記第1の実施の形態に係る電界発光素子10Aの構成において、平坦化層15が無く密着層14のみが介在された構造の電界発光素子を作製して、交流駆動を行って発光強度を時間分解して観察した。その結果は、図○に示す通りである。この結果から、一回の交流の往復電界のうち片側だけで強い発光が観察されることから、密着層14のみを介在しただけでも発光強度の向上には一定の効果が得られるが、両方備えるほうが望ましいことがわかった。
【0086】
[第3の実施の形態]
図12は、本発明の第3の実施の形態に係る電界発光素子10Bを示す断面説明図である。本実施の形態では、基板がガラスではなく、シリコン基板18を用いている。本実施の形態に係る電界発光素子10Bは、シリコン基板18の上に、順次、電極17、第1絶縁層13、密着層14、発光活性層20、平坦化層15、第2絶縁層16、透明電極12が形成されている。本実施の形態の電界発光素子10Bでは、透明電極12側へ発光が抜けるようになっている。
【0087】
本実施の形態に係る電界発光素子10Bの作用、動作、効果は、上記第1の実施の形態とほぼ同様であるため、その説明は省略する。
[その他の実施の形態]
【0088】
以上、本発明の第1〜3の実施の形態について説明したが、この開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0089】
上記実施の形態では、密着層14を硫黄(S)で形成したが、これに限定されるものではなく、Se、As、Pなどの単一原子層でもよいし、ZnSやZnSeなどの各種の複合原子層であってもよい。密着層14や平坦化層15の材料として、ZnSを用いると、キャリアの発生効率、キャリア移動効率、量子ドット21の修復効果などを向上でき、可視光に対して無色透明なディスプレイを実現することも可能となる。
【0090】
また、密着層14としては、伝導帯端準位が量子ドット21のコア部分22の材料の伝導帯端準位より大きく、価電子帯端準位がコア部分22の材料の価電子帯端準位よりも小さい、例えばII族、III族、V族、VI族から選ばれる少なくとも一種類の原子を含む層であってもよい。また、密着層14の材料は、シェル層23の材料との格子定数の差が5%以内である無機材料から選んでもよい。また、密着層14の材料として、シェルとのバンドオフセットが0.1eV以下になる材料から選んでもよい。また、平坦化層15においても、成膜条件により平坦化が可能な材料であれば、上記密着層14の材料と同様の材料を用いることができる。上記実施の形態では、密着層14と平坦化層15とを同一の材料で形成したが、互いに異なる材料を用いて形成しても勿論よい。
【0091】
また、上記第2の実施の形態では、基板が不透明なシリコン基板18を適用したが、不透明な材料で電極17の成膜が可能な材料であれば、他の無機材料を用いてもよいし、可撓性を有するプラスチック基板を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0092】
10A、10B…電界発光素子
11…ガラス基板
12…透明電極
13…第1絶縁層
14…密着層
15…平坦化層
16…第2絶縁層
17…電極
18…シリコン基板
20…発光活性層
30…交流駆動源
【技術分野】
【0001】
本発明は電界発光素子に関し、さらに詳しくは、所謂量子ドットを含有する発光活性層を有する電界発光素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自発光型フラットディスプレイへ展開させる技術として、量子ドット構造を持つ蛍光体の発光素子への応用が注目されている。通常、量子ドットとは、実空間において3次元全ての方向にキャリアの閉じ込めを実現する状態のことを云うが、ここで云う量子ドットとは、実空間において3次元全ての方向にキャリアの閉じ込めを実現する状態を作り出している構造体と定義する。この量子ドットの一例としては、直径数ナノメートルの球形状を持つ、相対的にバンドギャップ・エネルギーの小さい無機半導体粒子(コア部分)と、この無機半導体粒子の表面を覆う、相対的にバンドギャップ・エネルギーの大きな被覆(シェル層)と、から構成される複合材料がある。このような量子ドットはそのサイズ(直径)を精緻に制御することで、人為的にギャップ・エネルギーを規定し、所望の色を発光させることができるという特徴がある。
【0003】
本発明者らは、湿式の化学合成手法で作製された上記量子ドットを用いて全無機質の電界発光素子を開発した(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。この電界発光素子は、量子ドットを含む発光活性層をキャリア障壁層で挟持した二重絶縁構造を持つものであり、交流電場を印加して量子ドット内にキャリアを注入することにより励起、発光させる量子ドット発光型無機エレクトロルミネッセンス(EL)素子である。
【0004】
この電界発光素子は、基板上に、順次、第1の電極、第1の絶縁層、量子ドットを含む発光活性層、第2の絶縁層、第2の電極が積層された構造を持つ。ここで、発光活性層は、上記特許文献1に開示した所謂エレクトロスプレー・イオンビーム堆積法(以下、ES−IBD法と称する。)を用いて、多数の量子ドットを、基板上に成膜された第1の絶縁層の表面へイオンビーム状に順次照射して堆積させることにより形成される。このES−IBD法で用いる原料は、量子ドットのシェル層表面に界面活性剤として機能する有機配位子を結合付着させたものを溶媒中にコロイド状に分散した溶液である。この方法では、量子ドットをイオンビーム状に変化させる途中で有機配位子の結合が解離する。したがって、このES−IBD法では、被堆積基板側へ堆積される量子ドットの殆どは有機配位子が排除された状態で堆積するため、発光活性層中に不要な不純物が少なくなるという利点がある。したがって、この方法によれば、不純物の影響を殆ど受けることのない良質な発光活性層を成膜できる。
【0005】
また、上記特許文献1に開示された電界発光素子としては、発光活性層が無機半導体材料からなる緩衝層と量子ドットとからなり、緩衝層中に量子ドットが包含された状態のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2007/142203号
【特許文献2】国際公開2008/013069号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の電界発光素子を自発光型フラットディスプレイに応用した場合に、更なる発光強度の増加や、発光の色純度を向上するために、量子ドットにおける閉じ込め準位に由来する発光スペクトル以外の発光ピークの発生を抑制することなどの改善が望まれている。このような改善は、量子ドットにおける量子閉じ込め効果の低下、あるいは近接井戸との相互作用やサブバンドの形成などによる発光強度の低下ならびに発光スペクトルが広帯域となることを防止しようとするものである。
【0008】
上記特許文献1に記載されたES−IBD法を用いて量子ドットにエネルギーを付与して、量子ドットの堆積を行った場合、イオンビームの運動エネルギーによっては、ともすると量子ドットが絶縁層や緩衝層の表面に衝突して変形したり、損傷を受けたりすることが懸念される。この結果、量子ドットのサイズが変化して、量子ドットから放出される光の波長が変わってしまうことが危惧される。
【0009】
また、上記特許文献1に開示されるように、発光活性層を無機半導体材料からなる緩衝層に量子ドットが包含されるように構成する場合、量子ドットと緩衝層の材料(無機半導体材料)とを同時に堆積させることは、成膜装置が複雑になり、また、量子ドットイオンに付与されたエネルギーが他の被堆積種との衝突によって変化するという問題がある。
【0010】
ES−IBD法を用いて、第1の絶縁層の上に量子ドットのみを堆積させる場合は、量子ドット同士の間に緩衝層(マトリクス材料)が存在しないため隙間ができ、発光活性層へのキャリアの輸送性あるいは伝導性を低下させるという問題がある。
【0011】
さらに、量子ドットがマトリックス材料無しで単独で堆積されてなる発光活性層の表面は、球形状の量子ドットが並んで配置された凹凸面である。このため、その上に成長させる構成膜(第2の絶縁層)の平坦性を低下させてしまう。このように絶縁層の平坦性が低下すると、絶縁破壊が起こり易くなったり、電界強度の均一性が低下したりする問題が生じる。このような問題は、自発光型フラットディスプレイでは、表示領域内に部分的に輝点もしくは暗点が発生したり、表示特性の面内均一性を損なったりする原因となる。
【0012】
また、上述のように交流電場を印加する電界発光素子では、発光活性層と絶縁層の界面準位が、電子を発光活性層に供給することに寄与すると考えられているが、この観点から絶縁層と発光活性層(発光活性層に含まれる量子ドット)との界面状態を改善して、発光活性層に供給する電子放出数を増加させることが望まれている。
【0013】
本発明はこのような諸問題に着目して創案されたものであり、その主たる目的は、各量子ドットからの発光が狭帯域スペクトルで色純度が高く、かつ高輝度となる電界発光素子を提供することにある。
【0014】
また、本発明の他の目的は、発光欠陥の発生を抑制でき、発光特性の面内均一性を有する電界発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の特徴は、コア部分の表面をシェル層で覆った構造の量子ドットを含む発光活性層の少なくとも一方の表面側に絶縁層が配され、これら発光活性層および絶縁層を厚さ方向に挟む一対の電極を有し、これら一対の電極に交流電圧を印加することにより発光活性層を発光させる電界発光素子であって、発光活性層の一方の表面側に、シェル層のヤング率と同等以下のヤング率を持つ無機層でなり、かつ発光活性層との接合面が量子ドット同士の間隙に入り込むように突出して密着する密着層が、形成されていることを要旨とする。ここで、シェル層の材料とのバンドオフセットが0.1eV以下である密着層が好ましい。
【0016】
本発明では、量子ドット同士の間隙に密着層が入り込むように突出し、かつシェル層とのバンドオフセットが小さいため、密着層と量子ドットとは密に接合した状態を保つことができ、発光活性層へキャリアを輸送し易い。加えて、密着層を発光活性層と絶縁層との間に介在させる構成とすれば、密着層と絶縁層との界面でのキャリアの発生を促す作用がある。したがって、本発明では、発光活性層での発光強度を向上することができる。特に、密着層は、量子ドットにおけるシェル層のヤング率と同等以下のヤング率を持つ無機層でなるため、量子ドットが密着層により変形されたり損傷を受けたりすることが防止できる。この結果、量子ドットのサイズが変化することがなく、量子ドットから放出される光の色が変わってしまうことを防ぐことができる。また、このような構成の電界発光素子では、表面状態や界面状態の生成が抑制されるため、量子ドットからの発光スペクトルが量子ドットに由来する波長以外の光を抑えることができる。このため、発光スペクトルが広帯域となることを防止する作用を奏する。
【0017】
ここで、量子ドットのシェル層の材料が硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、硫化カドミウム(CdS)、またはZn、Cd、S、Seから選ばれる化合物もしくは混晶、またはIn、Ga、P、Si、Ge、Sn、Asから選ばれる化合物もしくは混晶のいずれかであり、この場合、密着層のヤング率は、1から100GPaであることが好ましい。
【0018】
上述のように、密着層の材料が、量子ドットにおけるシェル層のヤング率と同等以下のヤング率を持つ無機層であるため、密着層上に量子ドットのイオンビームを照射して堆積させるES−IBD法で成膜させる場合には、照射過程で量子ドットのサイズが変化してしまうことを防止できる。
【0019】
また、密着層の材料は、伝導帯端準位が、量子ドットにおけるコア部分の材料の伝導帯端準位より大きく、価電子帯端準位が、コア部分の材料の価電子帯端準位よりも小さいことが好ましい。
【0020】
さらに、密着層の材料は、II族、III族、V族、VI族から選ばれる少なくとも一種類の原子を含むことが好ましく、特にII族、VI族の原子を主材とすることが好ましい。なお、密着層の材料として選ばれる代表的な原子としては、亜鉛(Zn)、硫黄(S)、セレン(Se)、砒素(As)、リン(P)などを挙げることができる。
【0021】
また、密着層の材料は、量子ドットにおけるシェル層の材料との格子定数の差が5%以内であることが好ましい。このように、密着層の材料とシェル層の材料との格子定数の差を5%以下に限定することにより、密着層の結晶構造とシェル層の結晶構造との界面の連続性を乱さずに整合性の良い接合にすることができるため、量子ドットにおける閉じ込め準位に由来する発光スペクトル以外の発光ピークの発生を抑制する作用を向上できる。加えて、このように密着層の材料とシェル層の材料とが格子定数の観点から類似した物質であるため、量子ドットを堆積させて発光活性層を成膜する際に、シェル層の欠陥を密着層の材料が修復し、ボイドを密着層の材料で埋め込むことができるため、量子ドットと密着層との連続性を持たせることができる。また、シェル材料と密着層とのバンドオフセットを0.1eV以下とすることで、キャリアの移動を促し、空間電荷の形成を抑制できる。
【0022】
密着層は、複数層が積層された構造であってもよい。複数の密着層を積層することで、層間の界面準位からキャリアの発生を促すことが期待できる。したがって、量子ドット中において、発光に寄与する注入キャリアの単位時間当たりの数を増加させることができ、さらに高輝度を要求されるアプリケーションへの適用が可能となる。
【0023】
発光活性層の他方の表面側には、発光活性層を覆って平坦化された平坦化層が形成されていることが好ましい。そして、この平坦化層を構成する材料は、上記密着層の材料と同じ無機材料であることが好ましい。
【0024】
このように発光活性層の他方の表面側に、平坦化層を形成することにより、成膜後の発光活性層表面の凹凸を是正して、例えばその上に成膜する絶縁層の平坦性を高めることができる。したがって、絶縁層の上に形成される電極も平坦に形成することが可能となる。このため、電極と発光活性層との距離が発光領域面内で均一になるため、絶縁破壊が起こりにくくなり、また電界強度の面内均一性を向上できる。したがって、本発明を自発光型フラットディスプレイに適用することで、表示領域内に部分的に輝点もしくは暗点が発生したり、表示特性の面内均一性を損なったりする原因を取り除くことが可能となる。
【0025】
本発明は、量子ドットと絶縁層との間に密着層を介在させることを特徴とするが、密着層と絶縁層との間に、更に緩衝層を有していても良い。この場合、緩衝層は、密着層との格子定数の差が5%以内であり、かつ、密着層材料とのバンドオフセットが0.1eVとなるように設計する必要がある。このように設計された緩衝層であれば、量子ドットへのキャリア輸送性や伝導性を低下することなく、高輝度電界発光素子が実現できる。
【0026】
また、さらに平坦化層を有する構成とする場合、平坦化層と絶縁層との間に、更に緩衝層を有していても良い。この場合、緩衝層は、平坦化層との格子定数の差が5%以内であり、かつ、平坦化層材料とのバンドオフセットが0.1eVとなるように設計する必要がある。このように設計された緩衝層であれば、量子ドットへのキャリア輸送性や伝導性を低下することなく、高輝度電界発光素子が実現できる。
【0027】
本発明の第2の特徴は、コア部分の表面をシェル層で覆った構造の量子ドットを含む発光活性層の少なくとも一方の表面側に絶縁層が積層され、発光活性層および絶縁層を厚さ方向に挟む一対の電極を有し、これら一対の電極に交流電圧を印加することにより発光活性層を発光させる電界発光素子の製造方法であって、基板上に第1の電極を形成する第1電極形成工程と、この第1電極形成工程の後で、発光活性層を形成する発光活性層形成工程の前に施される、シェル層のヤング率と同等以下のヤング率を持つ無機層でなる密着層を形成する密着層形成工程と、この密着層の上に、ES−IBD法により量子ドットを密着層の表面に照射することにより堆積させて発光活性層を形成する発光活性層形成工程と、この発光活性層の上に、伝導帯端準位が量子ドットのコア部分の材料の伝導帯端準位より大きく、かつ価電子帯端準位がコア部分の材料の価電子帯端準位よりも小さい無機材料でなる平坦化層を、化学気相成長法(CVD法)、液相成長法、分子線エピタキシー法、真空蒸着法、スパッタ法のいずれかを用いて表面平坦性を有するように形成する平坦化層形成工程と、この平坦化層形成工程の後に、第2の電極を形成する第2電極形成工程と、を備えることを要旨とする。
【0028】
本発明に係る製造方法では、シェル層のヤング率と同等以下のヤング率を持つ層でなる密着層を形成した後に、量子ドットがES−IBD法にて堆積されるため、量子ドットが変形や損傷することを防止できる。この結果、量子ドットのサイズや形状が変化することがなく、量子ドットから放出される光の色が変わってしまうことを防ぐことができる。また、密着層と発光活性層との接合面において量子ドット同士の間隙に密着層の材料が入り込んだ構造となるため、量子ドット同士の間隙を埋めることでキャリアの輸送を促進して発光強度を向上させることが可能となる。また、量子ドットと密着層とのバンド構造の連続性が向上するため、発光スペクトルが量子ドットに由来する波長のみとなり、発光スペクトルが広帯域となることを防止することが可能となる。
【0029】
また、発光活性層の上に形成する平坦化層を、化学気相成長法(CVD法)、液相成長法、分子線エピタキシー法、真空蒸着法、スパッタ法のいずれかを用いて成膜することで平坦化層の表面が平坦になる。そして、平坦化層の上に例えば絶縁層を形成しさらにその上に第2の電極を形成する場合には、絶縁層も平坦に形成でき、第2の電極と発光活性層との距離が発光領域面内で均一になる。したがって、電界発光素子において絶縁破壊が起こりにくくなり、また電界強度の面内均一性を向上できる。また、この製造方法を自発光型フラットディスプレイに適用することで、表示領域内に部分的に輝点もしくは暗点が発生したり、表示特性の面内均一性を損なったりする原因を取り除くことが可能となる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、各量子ドットからの発光が狭帯域スペクトルで色純度が高く、かつ高輝度となる電界発光素子を実現できる。また、本発明によれば、表示欠陥の発生を抑制でき、表示特性の面内均一性を有する電界発光素子を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の製造方法の第1電極形成工程を示す工程断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の製造方法の第1絶縁層形成工程を示す工程断面図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の製造方法の密着層形成工程を示す工程断面図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の製造方法の発光活性層形成工程を示す工程断面図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の製造方法の平坦化層形成工程を示す工程断面図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の製造方法の第2絶縁層形成工程および第2電極形成工程を示す工程断面図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の製造方法の発光活性層形成工程において量子ドットが密着層に打ち込まれた状態を示す工程断面図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の製造方法の発光活性層形成工程において量子ドットが密着層上に堆積される状態を示す工程断面図である。
【図10】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の製造方法の発光活性層形成工程において発光活性層を平坦化層で覆った状態を示す工程断面図である。
【図11】本発明の電界発光素子の製造方法で用いるES−IBD装置の概略説明図である。
【図12】本発明の第3の実施の形態に係る電界発光素子の断面図である。
【図13】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の構成をもつ試料(実験例2:ZnSでなる密着層・平坦化層ともに有し、その膜厚が2.5nm)のPLスペクトルとELスペクトルの測定結果を示す図である。
【図14】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の構成をもつ試料(実験例4:ZnSでなる密着層・平坦化層ともに有し、その膜厚が20nm)のPLスペクトルを示す図である。
【図15】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の構成をもつ試料(実験例4:ZnSでなる密着層・平坦化層ともに有し、その膜厚が20nm)のELスペクトルを示す図である。
【図16】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の構成をもつ試料(実験例5:ZnSでなる密着層・平坦化層ともに有し、その膜厚が80nm)のPLスペクトルを示す図である。
【図17】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の構成をもつ試料(実験例5:ZnSでなる密着層・平坦化層ともに有し、その膜厚が80nm)のELスペクトルを示す図である。
【図18】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の構成をもつ試料(実験例6:ZnSでなる密着層のみを有し、その膜厚が5nm)のPLスペクトルを示す図である。
【図19】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の構成をもつ試料(実験例6:ZnSでなる密着層のみを有し、その膜厚が5nm)のELスペクトルを示す図である。
【図20】本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子の構成をもつ試料(実験例6:ZnSでなる密着層のみを有し、その膜厚が5nm)を交流駆動して発光強度を時間分解して観察した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態に係る電界発光素子およびその製造方法を説明する。但し、図面は模式的なものであり、各層の厚みや厚みの比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。
【0033】
[第1の実施の形態]
(電界発光素子の概略構成)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る電界発光素子を示す断面図である。同図に示すように、電界発光素子10Aは、ガラスまたはプラスチック等からなる透明基板11上に、順次、第1の電極としての透明電極12、第1絶縁層13、密着層14、発光活性層20、平坦化層15、第2絶縁層16、第2の電極としての電極17が積層されてなる。本実施の形態に係る電界発光素子10Aは、発光活性層20を密着層14と平坦化層15とで挟んだ構造である。図1に示すように、この電界発光素子10Aでは透明電極12と電極17とに交流駆動源30を接続して交流電場を印加することにより、発光活性層20からの発光を透明基板11側から出射させるようにしたものである。
【0034】
(発光活性層について)
発光活性層20は、図9および図10に示すように、略球形状の量子ドット21が多数堆積されて成膜されている。この発光活性層20は、ES−IBD法を用いて20〜100nmの膜厚となるように成膜されている。このES−IBD法の詳細については後述する。個々の量子ドット21は、コア部分22の表面をシェル層23で覆ったナノ結晶構造である。このような量子ドット21は、コア部分の材料および結晶サイズを精緻に制御することで、人為的にギャップ・エネルギーを規定し、所望の色を発光させることができる。
【0035】
本実施の形態では、コア部分22の直径としては、順次、1.9nm、2.4nm、5.2nmであり、シェル層23の膜厚は、順次、0.4nm、1.0nm、1.4nmとした。本実施の形態では、コア部分22がセレン化カドミウム(CdSe)で形成され、シェル層23が硫化亜鉛(ZnS)もしくはセレン化亜鉛(ZnSe)で形成された量子ドット21を用いる。また、本実施の形態における量子ドット21のコア部分22は、CdSe以外に、CdS、PbSe、HgTe、CdTe、InP、GaP、InGaP、GaAs、InGaN、GaN等やこれらの混晶で構成される材料から適宜選択可能である。
【0036】
(電極について)
透明電極12は、スズドープ酸化インジウム(ITO)で約100nmの膜厚に形成されている。電極17は、金(Au)で約50nmの膜厚に形成されている。透明電極12は、ITOの他、亜鉛ドープ酸化インジウム(IZO)、インジウムガリウム亜鉛酸化物(IGZO)、導電性酸化亜鉛(ZnO)、アモルファス酸化物導電体等、透明な導電体であれば材料は問わない。電極17の膜厚は、必要な電気伝導性が得られるよう、材料によって適宜増減する。電極17は、上記の透明電極と同様の材料であってもよく、金属電極でも良い。
【0037】
(絶縁層について)
第1絶縁層13および第2絶縁層16は、タンタル酸化物(TaOx)で約50〜500nmの膜厚に形成されている。この膜厚は、下地である透明電極12の表面の凹凸を被覆し滑らかなモフォロジーを確保できるように十分に厚く、かつ低電圧で強電界を得られるように十分に薄い厚さである。これら第1絶縁層13および第2絶縁層16は、これに限定されるものではなく、シリコン窒化物、シリコン酸化物、イットリウム酸化物、アルミナ、ハフニウム酸化物、バリウムタンタル酸化物などから選択可能である。
【0038】
(密着層について)
密着層14は、量子ドット21におけるシェル層23であるZnSやZnSeと同等以下のヤング率を持つ層でなる。一般に、ヤング率は同一材料であっても結晶方位等により異なる数値を示すことがあるが、本発明でいうヤング率とは、密着層表面およびシェル層の層表面に垂直な方向のヤング率を指す。なお、ZnSおよびZnSeのヤング率(E)は、順次74.5GPa、67.2GPaである。本実施の形態では、量子ドット21の保護および量子ドット21同士の間隙を埋める作用を奏する観点から、密着層14の材料のヤング率が1から100GPaであることが好ましい。また、密着層14の膜厚は、0.1〜20.0nmの寸法であることが好ましい。密着層14の材料は連続膜であることが好ましいが、結晶粒状の場合、量子ドット21同士の間隙に入り込めるような直径(例えば、1nm以下)を持つことが必要である。
【0039】
密着層14の材料としては、上記条件に加えて、負の電荷のエネルギー準位として伝導帯端準位が量子ドット21のコア部分22の材料(例えばCdSe)の伝導帯端準位より大きく、価電子帯端準位がコア部分22の材料の価電子帯端準位よりも小さいものを選択することが好ましい。
【0040】
また、密着層14の材料は、II族、III族、V族、VI族から選ばれる少なくとも一種類の原子を含むことが好ましい。さらに、密着層14の材料は、量子ドット21におけるシェル層23の材料との格子定数の差が5%以内であることが好ましく、シェル層23の材料と同材料であっても良い。
【0041】
具体的には、密着層14として、硫黄(S)、セレン(Se)、砒素(As)、リン(P)の単独元素でなる単一原子層や、これらの単独元素に上記条件の材料を含む層としてもよい。また、このような密着層14と第1絶縁層13との間に、さらにこの密着層14と同材料でなる第2の密着層を介在させてもよい。また、第2の密着層は、0.1〜5nm程度の膜厚を持つ金属膜であってもよい。さらに、第2の密着層と第1絶縁層13との間に、密着層14と同様の材料でなる第3の密着層を介在させてもよい。この第3の密着層の厚さは、0.1〜5nm程度が適切である。
【0042】
(平坦化層について)
本実施の形態では、平坦化層15の材料が上記密着層14の材料と同様である。平坦化層15は、量子ドット21の保護および量子ドット21同士の間隙を埋める作用に加えて、量子ドット21を積み重ねてなる発光活性層20表面の凹凸を埋めて平坦化している。
【0043】
平坦化層15の材料としては、上記条件に加えて、伝導帯端準位が量子ドット21のコア部分22の材料(例えばCdSe)の伝導帯端準位より大きく、価電子帯端準位がコア部分22の材料の価電子帯端準位よりも小さいものを選択することが好ましい。平坦化層15の材料は、II族、III族、V族、VI族から選ばれる少なくとも一種類の原子を含むことが好ましい。さらに、平坦化層15の材料は、量子ドット21におけるシェル層23の材料との格子定数の差が5%以内であることが好ましく、シェル層23と同材料であっても良い。
【0044】
具体的には、平坦化層15として、硫黄(S)、セレン(Se)、砒素(As)、リン(P)の単独元素でなる単一原子層や、これらの単独元素に上記条件の材料を含む層としてもよい。また、このような平坦化層15と第2絶縁層16との間に、さらにこの平坦化層15と同材料でなる第2の平坦化層を介在させてもよい。また、第2の平坦化層は、0.1〜5nm程度の膜厚を持つ金属膜であってもよい。さらに、第2の平坦化層15と第2絶縁層16との間に、平坦化層15と同様の材料でなる第3の平坦化層を介在させてもよい。この第3の平坦化層の厚さは、0.1〜5nm程度が適切である。また、シェル材料と平坦化層とのバンドオフセットを0.1eV以下とすることで、キャリアの移動を促し、空間電荷の形成を抑制できる。
【0045】
(第1の実施の形態に係る電界発光素子の作用・効果)
本実施の形態では、量子ドット21同士の間隙に密着層14が入り込むように突出しているため、密着層14と発光活性層20(量子ドット21)とは密に接合した状態を保つことができ、発光活性層20(量子ドット21)へキャリアを輸送し易い。加えて、密着層14が発光活性層20と第1絶縁層13との間に介在される構成であるため、密着層14と第1絶縁層13との界面でのキャリアの発生を促す作用がある。したがって、本実施の形態では、発光活性層20からの発光強度を向上することができる。
【0046】
特に、密着層14は、量子ドット21におけるシェル層23の材料のヤング率と同等以下のヤング率を持つ無機層からなるため、発光活性層20との接合面において量子ドット21同士の間隙に密着層14の材料を入り込ませることが容易となる。したがって、量子ドット21が密着層14により変形されたり損傷を受けたりすることが防止できる。この結果、量子ドット21のサイズや形状が変化することがなく、量子ドット21から放出される光の色が変わってしまうことを防ぐことができる。このような電界発光素子10Aでは、量子ドット21からの発光スペクトルが量子ドット21に由来する波長となるため、発光スペクトルが広帯域となることを防止する作用を奏する。
【0047】
密着層14が、量子ドット21におけるシェル層23の材料のヤング率と同等以下のヤング率を持つ比較的軟らかい無機層からなるため、量子ドット21をES−IBD法を用いて成膜させる場合には、衝突によって量子ドット21が変化してしまうことを防止できる。また、このようなES−IBD法を用いずに密着層14の上に量子ドット21を含む発光活性層20を成膜した場合においても、厚さ方向に加圧することで密着層14を量子ドット21同士の間隙に入り込ませることが可能となる。この場合も、量子ドット21同士の間隙に密着層14が入り込むように突出させ、密着層14と量子ドット21とが密に接合した状態となり、発光活性層20へキャリアを輸送し易い構造にできる。したがって、発光活性層20からの発光強度を向上することができる。
【0048】
また、密着層14の材料とシェル層23の材料との格子定数の差を5%以下に限定してもよい。この場合、密着層14の結晶構造とシェル層23の結晶構造との界面の連続性を乱さずに、格子欠陥や界面とそれに付随する準位を形成せず整合性の良い接合にすることができるため、量子ドット21における閉じ込め準位に由来する発光スペクトル以外の発光ピークの発生を抑制できる。加えて、このように密着層14の材料とシェル層23の材料とが格子定数の観点から類似した物質である。このため、量子ドット21を堆積させる際に、シェル層23の欠陥を密着層14の材料が修復し、表面を終端し、またボイドを密着層14の材料で埋め込むことができる。このように密着層14の材料とシェル層23の材料との格子定数の差を5%以下に限定したことにより、量子ドット21と密着層14との連続性を持たせることができる。
【0049】
さらに、上述したように、密着層14を複数積層することで、これらの層間の界面準位からキャリアの発生を促すことが期待できる。したがって、量子ドット21中において、発光に寄与する注入キャリアの単位時間当たりの数を増加させることができ、さらに高輝度を要求されるアプリケーションへの適用が可能となる。
【0050】
この第1の実施の形態のように、発光活性層20の他方の表面側に、平坦化層15を形成することにより、成膜後の発光活性層20表面の凹凸を是正して、例えばその上に成膜する第2絶縁層16の平坦性を高めることができる。したがって、第2絶縁層16の上に形成される電極17も平坦に形成することが可能となる。このため、電極17と発光活性層20との距離が発光領域(もしくは画素領域)内で均一になるため、絶縁破壊が起こりにくくなり、また電界強度の面内均一性を向上できる。したがって、本発明を自発光型フラットディスプレイに適用することで、表示領域(もしくは画素領域)内に部分的に輝点もしくは暗点が発生したり、表示特性の面内均一性を損なったりする原因を取り除くことが可能となる。
【0051】
(電界発光素子の製造方法)
次に、図2から図11を用いて、本実施の形態に係る電界発光素子の製造方法を説明する。
【0052】
〈第1電極形成工程〉
図2に示すように、予めITOでなる透明電極12が表面に形成されたガラス基板11を用意するか、ガラス基板11上にITOでなる透明電極12を成膜する。本実施の形態において、透明電極12は、膜厚が例えば100nm、表面粗さRaが例えば5nm程度である。そして、このガラス基板11には、有機溶媒による超音波洗浄を行った後、不活性ガスによりブローおよび乾燥を施しておく。
【0053】
〈第1絶縁層形成工程〉
その後、図3に示すように、透明電極12上にタンタル酸化物(TaOx)などの絶縁体で第1絶縁層13を形成する。例えばTaOx膜を用いた場合、通常の高周波(13.56MHz)マグネトロンスパッタリング装置を用い、金属TaターゲットのAr+O2混合ガス雰囲気中での反応性スパッタリングによって成膜した。堆積中の基板の温度は、常温から200℃とした。膜厚は、下地となる透明電極12の表面凹凸を被覆し滑らかなモフォロジーを確保できるように十分に厚く、かつ低電圧で強電界を得られるように十分に薄い厚さとして、50〜500nmとした。
【0054】
〈密着層形成工程〉
次に、図4に示すように、第1絶縁層13の上に、密着層14を形成する。この密着層14は、分子線エピタキシー(MBE)法あるいは通常の真空蒸着法によって、硫黄(S)を成膜した。硫黄(S)源を流量制御用バルブ付合成石英セル中で100〜200℃に加熱し、得られる硫黄ガスを400〜1000℃に加熱した後、2×10−7〜1×10−5Torrの圧力のフラックスを得た。各々を、第1絶縁層13形成後の基板上に照射し、Sでなる密着層14を形成した。基板の温度は室温〜80℃で適宜、決定し、膜厚は1〜3nm相当とした。
【0055】
ここで、発光活性層形成工程の説明に先駆けて、発光活性層形成工程で用いるES−IBD装置について図11を用いて説明する。
【0056】
「ES−IBD装置について」
ここで、実施の形態および後述する実施例を明確にするために、図11を用いてES−IBD装置について説明する。このES−IBD装置は、ES−IBD法を適用した成膜装置である。
【0057】
このES−IBD装置では、先ず、マイクロシリンジポンプに量子ドット21を含む溶液を供給する。マイクロシリンジポンプ2は、筒状本体部2b内の微粒子分散溶液1をピストン2aによって押出し、チューブ2cを通じて、キャピラリー3へ送り、キャピラリー先端3aから放出するようになっている。なお、キャピラリー3には、電圧印加手段3bによって所定の電圧が印加可能となっている。また、マイクロシリンジポンプ2による溶液供給速度は、0.5〜4μl/min(好ましくは1〜2μl/min)である。
【0058】
さらに、図示しないが、キャピラリー3には、X、Y、Z方向にマイクロメーターがついており、キャピラリー先端3aの位置の微調整が可能となっている。なお、キャピラリーとして上述のような構成を用いたが、本実施の形態においてキャピラリーは、毛管現象あるいは濡れ現象によって上記溶液の表面を露出させる溶液送出器具として定義される。
【0059】
キャピラリー先端3aから放出された微粒子分散液は、減圧チャンバー4の上流側先端部に設けられたジェットノズル4aを通じて減圧チャンバー4内に導入され、さらに、成膜チャンバー5の上流側先端部に設けられたスキマーノズル5aを通じて成膜チャンバー5内に導入されるようになっている。キャピラリー先端3aとジェットノズル4aとの距離は0〜50mm、好ましくは、4〜10mmに設定される。この実施の形態では8mmの距離に設定されている。
【0060】
なお、キャピラリー先端−ジェットノズル間は、ほぼ大気圧となっている。また、キャピラリー先端3aの内径が20μmであるものを用いた。ジェットノズル4aと、スキマーノズル5aとの中心位置は一致しており、ジェットノズル4aとスキマーノズル5aとの距離は、1〜10mmの間で適宜設定される(この実施例では3mmとした)。なお、ジェットノズル4aとスキマーノズル5aとには、それぞれ、電圧印加手段4c,5cによって所定の電圧を印加できるようになっている。
【0061】
成膜チャンバー5は、イオン光学系領域51と高真空領域52とで構成されている。イオン光学系領域51と高真空領域52とは、開口5bを有する隔壁5eによって仕切られ、その基準軸(微粒子が進行する方向の中心軸)が互いに直交するようになっている。開口部5bを通じて粒子が移動可能となっている。開口部5bの直径を20mmとした。
【0062】
減圧チャンバー4、イオン光学系領域51及び高真空領域52は、それぞれ、排気口4d,51d,52dを通じて、図示しない真空ポンプにより適切な真空度を維持するように排気されるようになっている。これらの排気には、例えば、差動排気手段が用いられ、これにより、圧力は、「キャピラリー先端(大気圧)>減圧チャンバー>イオン光学系領域>高真空領域」の関係となっている。ここでは、減圧チャンバー内圧力を1Torr、イオン光学系領域内圧力を1×10−5Torr、高真空領域内圧力を1×10−6Torr程度とした。
【0063】
ここで、差動排気は、以下のようにして行っている。すなわち、ジェットノズル4a(φ0.5mm)からスキマーノズル5a(φ0.7mm)に至る領域を100〜500[m3/h]程度の排気速度のメカニカルブースターポンプあるいはロータリーポンプによって排気し、約1[Torr]程度の真空状態に保持し、その後段に当たるイオン光学系領域51を300〜1000[L/s]程度のターボ分子ポンプ等によって排気することで、10−4[Torr]程度の真空状態に保持するようにする。さらに、イオン光学領域51と高真空領域52(成膜のための領域)間に直径φ20mm程度、厚さ数mmのオリフィスを設け、高真空領域を1000〜2000[L/s]程度のターボ分子ポンプ等によって排気することで、この領域を10−6[Torr]程度の高真空状態に保持するようにする。
【0064】
イオン光学系領域51内には、ジェットノズル4a及びスキマーノズル5aの同軸延長上に、レンズ装置としての電界型イオンレンズ6と、分離装置としてのエネルギー分離装置71が設けられている。電解型イオンレンズ6は、3つの筒状電極6a,6b,6cとからなるアインツエルレンズである。筒状電極6a,6bには、電圧印加手段6d,6eによって電圧を印加できるようになっている。筒状電極6cはアース電位にされる。電界型イオンレンズ6は、イオンビームを収束させる機能を有する。ここで、電界型イオンレンズ6は1個以上であれば機能するが、本実施の形態のように、同一の径を持つ3個の円筒形電極6a,6b,6cから構成され、各々コアキシャルな配列構造に設置されていることが好ましい。3個の電界型イオンレンズに印加する電圧を制御することにより、イオンビームの収束電極の役割を果たす。印加する電圧は、微粒子の種類(サイズ、分子量など)により適宜決定される。微粒子を収束させることは勿論であるが、溶媒分子イオンなどの軽いイオンを収束させて、後工程(例えば、磁界発生手段、エネルギー分離手段など)で効率良く除去可能とすることも有効である。
【0065】
また、本実施の形態では、分離装置としてエネルギー分離装置71を用いている。エネルギー分離装置71は、アース電位に設定された第1電極板71aとこの第1電極板71aに対して所定の距離をおいて平行に配置された第2電極板71bとを有する。
【0066】
第1電極板71aには、入射孔71cと出射孔71dとが設けられている。入射孔71cは、上記のジェットノズル4a及びスキマーノズル5aの同軸延長上にある。また、第2電極板71bは、電圧印加手段71eによって所定の電位に設定される。
【0067】
エネルギー分離装置71は、入射孔71cに入射したイオンビームを所定の角度に曲げて、所望のエネルギーを有する微粒子を分級して出射孔71dから出射させる。曲げる角度は90度が最も高分解能が得られるため好ましい。エネルギー分離装置71は、キャピラリー先端3aから放出された微粒子等が被成膜基板(ガラス基板)11に到達する前に、質量数の小さい成分(例えば、溶媒分子イオンや側鎖分子イオン)や飛来する微粒子や溶媒、側鎖の材料にもなる有機分子の一緒になった粒塊を除去する役割(質量、エネルギー分離機能)を有している。
【0068】
エネルギー分離装置71は、静電偏向を利用した分離機構である。ある一定の静電偏向量を得ようとするとき、荷電粒子の運動エネルギーに偏向電圧が比例する。よって、偏向電圧により荷電粒子の運動エネルギーを分離可能である。図11に示した装置では、平行平板電極構造のものを使用しており、一方の電極71aには二つの開孔を有しており、一方は入射孔71c、他方は出射孔71dである。開孔を有していない方の電極71bには、荷電粒子を減速する電圧±Vd(荷電粒子がプラスイオンの場合には+Vd、マイナスイオンの場合には−Vd)を与える。まず、入射孔から荷電粒子ビームが斜めに入射し、電極内に入った荷電粒子は、粒子の持っている運動エネルギーで決定される特定の値(エネルギー値)である場合に、反発されて出射孔から出射する。ここでエネルギー値は、電極間距離、開孔間距離、電圧によって決定されるため、これらのパラメータを変動させることにより、分級したいエネルギー値を決定可能である。
【0069】
ここで、上記エネルギー分離装置71の作用について、簡単に説明する。上述のキャピラリー3およびその対向電極(ここでは電圧印加可能なジェットノズル)は、溶液供給装置と減圧チャンバーとの間に電界を形成可能であり、いわゆるエレクトロスプレー装置であるということができる。そして、このエレクトロスプレーより放出されたイオンを含む流体流は、ジェットノズル4aに導入されるとき自由噴流を形成するということができる。すなわち、このエレクトロスプレーにより生成したイオン種は気体の自由噴流に乗って真空中に導入されることになるが、その時(自由噴流はλ0(平均自由行程)<D(オリフィスの口径) の粘性流領域でおこる。)、流れの速度は概ね、膨張前に気体が持っていたエンタルピーが断熱的過程によって、全て並進エネルギーに変わることで決まる。空気(窒素、酸素等の二原子分子も)の平均自由行程は約10−7[m]であり、数百μmのオリフィスを介して真空中に導入することで自由噴流を形成できる。このとき、自由噴流の速度v[m/s]はオリフィスからの距離x[m]の関数として、
v={3.65(x/D)2/5−0.82(x/D)−2/5}{γkT/m}, T=T0(P0/P)(1−γ)/γ
D:オリフィスの直径[m]≒5×10−4[m]
γ:気体の比熱比≒1.4
T: 噴流の温度[K]
T0: 導入される気体の温度[K]≒3×102[K]
P: オリフィスの低圧側の圧力[Pa]≒1×102[Pa]
P0: オリフィスの高圧側の圧力[Pa]≒1×105[Pa]
で表され、約103[m/s]程度の値である。
【0070】
混合物の場合、自由噴流中で主成分となる気体(今回は空気)の速度とその他の混合物はほぼ同じスピードで飛行することになる。よって重い成分はきわめて高い運動エネルギーを持つことになる(実際には、オリフィスでの差圧(押し圧)が大きいほど、質量による速度の違いは小さくなり、さらに重い分子の速度分布は極めて鋭くなる。また、多少の速度差、温度差と噴流の中心軸上に重いものが富むようになるが、ここでは無視出来る。)。一方、この気体中(粘性係数は約2×10−5[Pa・s])での微粒子(直径数[nm])の電界移動度η=v/E (Eは電界)は、P ≒1×105[Pa]のとき凡そη≒10−5[m2/s・V]程度、P≒1×102[Pa]のとき凡そη≒10−2[m2/s・V]程度の値である。
【0071】
したがって、オリフィスの高圧側でのエレクトロスプレーに供する印加電界(106[V/m]程度)、オリフィスの低圧側でのグロー放電に供する印加電界(104[V/m]程度)の寄与による終端速度はそれぞれ、約101[m/s]程度、102[m/s]程度である。また、エネルギー分離機構に至る以前のイオン光学系領域では、始状態と終状態で静電ポテンシャルが同じであるので、この間で電界による加減速は生じない。したがって、エネルギー分離機構に入射するイオンは、その種類にかかわらず、ほぼ同一の速度を付与する装置構成となっている。当然、この実施の形態に限らず、イオンビームの経路中に付加的な加速機構を挿入し、その機構中で付加されるエネルギーを考慮した、エネルギー分離機構の構成も可能である。
【0072】
エネルギー分離機構では、粒子が入射孔から入り、出射孔から飛び出してきた時、
L=2V0/Vd・sin2α
である。ここで、
L:電極に設けた開孔間距離(今回は26.5mm)
α:入射角度(今回は45度)
V0:荷電粒子の加速電圧(V0=Em/q、 Em:運動エネルギー、 q:電荷)
Vd:荷電粒子を減速する電圧
L、αは一定であるため、V0はVdによって分析できる。
また、V0=Em/q
Em=(mv2)/2
よりV0=(mv2)/2q=(m/q)・(v2/2)であり、vは先ほど述べたとおり、自由噴流中では全てのイオンがほぼ同じ速度をもつと考えるため、この装置によって、エネルギーを分離するということは、質量電荷比m/q(質量/電荷)を分離することになる。
【0073】
高真空領域52内には、ガラス基板11を保持する基板ホルダー52gと、このガラス基板11に向かう荷電粒子線を収束させる収束装置としての収束電極52bと、上記収束された荷電粒子線を減速させてガラス基板11に堆積させる減速装置としての減速電極52cとが設けられている。エネルギー分離装置71の出射孔71d−隔壁5aの開口5b、収束電極52a,52b、減速電極52cは、それぞれ、同軸延長上に設けられている。
【0074】
〈発光活性層形成工程〉
上述したES−IBD装置を用いて以下に説明する発光活性層形成工程の成膜を行う。発光活性層形成工程では、上記したES−IBD装置を用いて、図5に示すように、密着層14の上に発光活性層20を形成する。本実施の形態で用いる、コア部分22をシェル層23で覆った構造を有する量子ドット21の直径は、約1.9〜5.2nmであり、これが単独の一価のイオンを形成している場合でも、そのエネルギーは1.4×102〜9.8×103eV(典型的には1.7×102〜3.4×103eV)である。過剰なエネルギーを持ったイオンが直接基板表面と衝突した場合には、散逸するエネルギーによって基板およびナノ結晶の変質は免れない。そこで、基板表面を接地電位から絶縁し、到達したイオンの電荷によって自発的にポテンシャルを高め、その後に到達するイオンを減速する機構を取り入れてもよい。
【0075】
本実施の形態では、量子ドット21が密着層14へイオンビームとなって照射され堆積されるため、密着層14の上記した物理的特性により量子ドット21の変形を抑えることができる。図8は、密着層14の表面に所定深さにめりこんだ状態を示す。そして、ES−IBD装置により、連続的に量子ドット21が照射されることにより、図9に示すような発光活性層20が形成される。この発光活性層20の下面側では、量子ドット21同士の間隙に、密着層14の上面が突出してこの間隙を埋め込むように密着した接合となる。
【0076】
〈平坦化層形成工程〉
次に、図6および図10に示すように、発光活性層20の上に、平坦化層15を成膜する。なお、本実施の形態では、平坦化層15の材料は、上記密着層14の材料と同様に、硫黄(S)を用いている。平坦化層15の成膜方法としては、電子線エピタキシー法、真空蒸着法、スパッタ法のいずれかを用いる。なお、この平坦化層15の形成工程では、量子ドット21を変質させない範囲で高い温度に設定して、平坦化層15への不純物混入を防ぎ、平坦化し易く設定することが好ましい。
【0077】
〈第2絶縁層形成工程および第2電極形成工程〉
図7は、第1絶縁層形成工程および第2電極形成工程を示す。平坦化層15の上に、上記第1絶縁層13と同様の材料、方法で第2絶縁層16を形成した後、第2電極としてのAuでなる電極17を蒸着法で形成する。
【0078】
以上、第1の実施の形態に係る電界発光素子の製造方法について説明したが、発光活性層形成工程を行うことにより、密着層14と量子ドット21とは密に接合した状態を保つことができ、発光活性層20へキャリアを輸送し易くなる。加えて、このように密着層14を発光活性層20と第1絶縁層13との間に介在させる構成とすれば、密着層14と第1絶縁層13との界面でのキャリアの発生を促す作用がある。したがって、本実施の形態では、発光活性層20からの発光強度を向上することができる。特に、密着層14は、量子ドット21におけるシェル層23のヤング率と同等以下のヤング率を持つ層からなるため、図8に示すように、発光活性層14との接合面において量子ドット21同士の間隙に密着層14の材料を入り込ませることが容易となる。したがって、量子ドット21が密着層14により変形されたり損傷を受けたりすることが防止できる。この結果、量子ドット21のサイズが変化することがなく、量子ドット21から放出される光の色が変わってしまうことを防ぐことができる。このような電界発光素子10Aでは、量子ドット21からの発光スペクトルが量子ドット21に由来する波長となるため、発光スペクトルが広帯域となることを防止する作用を奏する。
【0079】
また、上記第1の実施の形態では、発光活性層20を平坦化層15で覆う構成としたことにより、成膜後の発光活性層20表面の凹凸を是正して、例えばその上に成膜する第2絶縁層16、電極17の平坦性を高めることができた。したがって、電極17と発光活性層20との距離が発光領域面内で均一になるため、絶縁破壊が起こりにくくなり、また電界強度の面内均一性を向上できた。
【0080】
[第2の実施の形態]
(電界発光素子の概略構成)
本発明の第2の実施の形態に係る電界発光素子は、上記第1の実施の形態に加えて、第1絶縁層13と密着層14の間、および平坦化層15と第2絶縁層16の間に、それぞれ緩衝層を有する構成の電界発光素子である。第2の実施の形態の電界発光素子は、より高い発光輝度が得られる素子である。
【0081】
(電界発光素子の製造方法)
本実施の形態の電界発光素子の製造方法は、緩衝層形成工程以外は上記第1の実施の形態の素子と同様に製造可能であるため、ここでは緩衝層形成工程のみ説明する。
第1絶縁層13(50〜500nmのTaOx)上に、第1緩衝層として10nmのZnSを形成した。ZnSはMBE法により形成した。第1緩衝層上に、密着層14(1〜3nmのS)を形成した。
また、平坦化層15(1〜3nmのS)上に、第2緩衝層として10nmのZnSを形成した。ZnSはMBE法により形成した。第2緩衝層上に、第2絶縁層(50〜500nmのTaOx)を形成した。
このようにして得られた本実施形態の電界発光素子は、第1の実施の形態の電界発光素子と比較して、発光スペクトルは略同等であり、さらに高い発光輝度を示した。
【0082】
〈実験例1〜5〉
上記第1の実施の形態に係る電界発光素子10Aの構成において、発光活性層20を挟む密着層14および平坦化層15が無い場合(比較例1)と、密着層14と平坦化層15の材料をともにZnSで形成したものを用意した。そして、密着層14と平坦化層15のそれぞれの厚さが、1.25nm(実験例1)、2.5nm(実験例2)、5.0nm(実験例3)、20.0nm(実験例4)、80nm(実験例5)と異なる実験例1〜5の電界発光素子を作製して、挙動を観察した。また、密着層14および平坦化層15がともに5.0nmのTa2O5(ヤング率133GPa)である素子(比較例2)も作製し、挙動を観察した。
【0083】
その結果、図13〜17に示すように、密着層14および平坦化層15が無い比較例1と比較して、実験例1〜5では挙動が変化し(異なり)、1.25nm〜5.0nmまでの電界発光素子は、発光強度が増し、発光スペクトルが狭帯域化する効果が確認できた。実施例1、実施例3の結果については図示していないが、実施例2と同等のスペクトルが観測された。一方、20.0nm以上の厚さの密着層14および平坦化層15を介在させた場合、量子ドット21の発光ピークと異なるものを含むスペクトルが観察された。したがって、密着層14および平坦化層15の厚さは、20.0nm未満が望ましいことがわかった。また、平坦化層15を堆積させることにより、量子ドット21同士の間隙を平坦化層15の材料が埋めるため、発光活性層20内のキャリア移動効率が向上することがわかった。なお、比較例2では、発光スペクトルは非常に広帯域化し、発光輝度も各実施例と比較してかなり低下していた。
【0084】
また、同様にして密着層14および平坦化層15としてZn、Se、Sを用いた素電界発光素子をそれぞれ作製した。ここで、密着層14および平坦化層15の膜厚をそれぞれ膜厚1.25nm、膜厚10.0nmとした素子を作製した。作成したそれぞれの素子について発光スペクトル測定を行ったところ、いずれの素子においても実験例1〜3と同様に、比較例よりも発光強度が増し、発光スペクトルが狭帯域化する効果が確認できた。
【0085】
〈実験例6〉
上記第1の実施の形態に係る電界発光素子10Aの構成において、平坦化層15が無く密着層14のみが介在された構造の電界発光素子を作製して、交流駆動を行って発光強度を時間分解して観察した。その結果は、図○に示す通りである。この結果から、一回の交流の往復電界のうち片側だけで強い発光が観察されることから、密着層14のみを介在しただけでも発光強度の向上には一定の効果が得られるが、両方備えるほうが望ましいことがわかった。
【0086】
[第3の実施の形態]
図12は、本発明の第3の実施の形態に係る電界発光素子10Bを示す断面説明図である。本実施の形態では、基板がガラスではなく、シリコン基板18を用いている。本実施の形態に係る電界発光素子10Bは、シリコン基板18の上に、順次、電極17、第1絶縁層13、密着層14、発光活性層20、平坦化層15、第2絶縁層16、透明電極12が形成されている。本実施の形態の電界発光素子10Bでは、透明電極12側へ発光が抜けるようになっている。
【0087】
本実施の形態に係る電界発光素子10Bの作用、動作、効果は、上記第1の実施の形態とほぼ同様であるため、その説明は省略する。
[その他の実施の形態]
【0088】
以上、本発明の第1〜3の実施の形態について説明したが、この開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0089】
上記実施の形態では、密着層14を硫黄(S)で形成したが、これに限定されるものではなく、Se、As、Pなどの単一原子層でもよいし、ZnSやZnSeなどの各種の複合原子層であってもよい。密着層14や平坦化層15の材料として、ZnSを用いると、キャリアの発生効率、キャリア移動効率、量子ドット21の修復効果などを向上でき、可視光に対して無色透明なディスプレイを実現することも可能となる。
【0090】
また、密着層14としては、伝導帯端準位が量子ドット21のコア部分22の材料の伝導帯端準位より大きく、価電子帯端準位がコア部分22の材料の価電子帯端準位よりも小さい、例えばII族、III族、V族、VI族から選ばれる少なくとも一種類の原子を含む層であってもよい。また、密着層14の材料は、シェル層23の材料との格子定数の差が5%以内である無機材料から選んでもよい。また、密着層14の材料として、シェルとのバンドオフセットが0.1eV以下になる材料から選んでもよい。また、平坦化層15においても、成膜条件により平坦化が可能な材料であれば、上記密着層14の材料と同様の材料を用いることができる。上記実施の形態では、密着層14と平坦化層15とを同一の材料で形成したが、互いに異なる材料を用いて形成しても勿論よい。
【0091】
また、上記第2の実施の形態では、基板が不透明なシリコン基板18を適用したが、不透明な材料で電極17の成膜が可能な材料であれば、他の無機材料を用いてもよいし、可撓性を有するプラスチック基板を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0092】
10A、10B…電界発光素子
11…ガラス基板
12…透明電極
13…第1絶縁層
14…密着層
15…平坦化層
16…第2絶縁層
17…電極
18…シリコン基板
20…発光活性層
30…交流駆動源
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部分の表面をシェル層で覆った構造の量子ドットを含む発光活性層の少なくとも一方の表面側に絶縁層が配され、前記発光活性層および前記絶縁層を厚さ方向に挟む一対の電極を有し、前記一対の電極に交流電圧を印加することにより前記発光活性層を発光させる電界発光素子であって、
前記発光活性層の下方の表面側に、前記シェル層のヤング率と同等以下のヤング率を持つ無機層でなり、かつ前記発光活性層との接合面が量子ドット同士の間隙に入り込むように突出して密着する密着層が、形成されていることを特徴とする電界発光素子。
【請求項2】
前記シェル層の材料がZnS、ZnSe、CdS、またはZn、Cd、S、Seから選ばれる化合物もしくは混晶、またはIn、Ga、P、Si、Ge、Sn、Asから選ばれる化合物もしくは混晶のいずれかであり、前記密着層のヤング率は、1から100GPaであることを特徴とする請求項1に記載の電界発光素子。
【請求項3】
前記発光活性層は、前記密着層上に前記量子ドットがES−IBD法で堆積されてなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電界発光素子。
【請求項4】
前記密着層の材料は、伝導帯端準位が前記量子ドットのコア部分の材料の伝導帯端準位より大きく、価電子帯端準位が前記コア部分の材料の価電子帯端準位よりも小さいことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電界発光素子。
【請求項5】
前記密着層の材料は、前記シェル層の材料との格子定数の差が5%以内であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電界発光素子。
【請求項6】
前記密着層の材料は、前記シェル層の材料とのバンドオフセットが0.1eV以下であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の電界発光素子。
【請求項7】
前記密着層は、複数層が積層された構造であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の電界発光素子。
【請求項8】
前記発光活性層の上方の表面側に、前記発光活性層を覆って平坦化された、無機材料でなる平坦化層が、形成されていることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の電界発光素子。
【請求項9】
前記平坦化層の材料は、前記密着層の材料と同じであることを特徴とする請求項7に記載の電界発光素子。
【請求項10】
コア部分の表面をシェル層で覆った構造の量子ドットを含む発光活性層の少なくとも一方の表面側に絶縁層が積層され、前記発光活性層および前記絶縁層を厚さ方向に挟む一対の電極を有し、前記一対の電極に交流電圧を印加することにより前記発光活性層を発光させる電界発光素子の製造方法であって、
基板上に第1の電極を形成する第1電極形成工程と、
前記第1電極形成工程の後で、前記発光活性層を形成する発光活性層形成工程の前に施される、前記シェル層のヤング率と同等以下のヤング率を持つ無機層でなる密着層を形成する密着層形成工程と、
前記密着層の上に、ES−IBD法により連続照射される前記量子ドットを前記密着層の表面に打ち込むことにより堆積させて発光活性層を形成する発光活性層形成工程と、
前記発光活性層の上に、前記シェル層とのバンドオフセットが0.1eVである無機材料でなる平坦化層を表面平坦性を有するように形成する平坦化層形成工程と、
前記平坦化層形成工程の後に施される、第2の電極を形成する第2電極形成工程と、
を備えることを特徴とする電界発光素子の製造方法。
【請求項1】
コア部分の表面をシェル層で覆った構造の量子ドットを含む発光活性層の少なくとも一方の表面側に絶縁層が配され、前記発光活性層および前記絶縁層を厚さ方向に挟む一対の電極を有し、前記一対の電極に交流電圧を印加することにより前記発光活性層を発光させる電界発光素子であって、
前記発光活性層の下方の表面側に、前記シェル層のヤング率と同等以下のヤング率を持つ無機層でなり、かつ前記発光活性層との接合面が量子ドット同士の間隙に入り込むように突出して密着する密着層が、形成されていることを特徴とする電界発光素子。
【請求項2】
前記シェル層の材料がZnS、ZnSe、CdS、またはZn、Cd、S、Seから選ばれる化合物もしくは混晶、またはIn、Ga、P、Si、Ge、Sn、Asから選ばれる化合物もしくは混晶のいずれかであり、前記密着層のヤング率は、1から100GPaであることを特徴とする請求項1に記載の電界発光素子。
【請求項3】
前記発光活性層は、前記密着層上に前記量子ドットがES−IBD法で堆積されてなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電界発光素子。
【請求項4】
前記密着層の材料は、伝導帯端準位が前記量子ドットのコア部分の材料の伝導帯端準位より大きく、価電子帯端準位が前記コア部分の材料の価電子帯端準位よりも小さいことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電界発光素子。
【請求項5】
前記密着層の材料は、前記シェル層の材料との格子定数の差が5%以内であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電界発光素子。
【請求項6】
前記密着層の材料は、前記シェル層の材料とのバンドオフセットが0.1eV以下であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の電界発光素子。
【請求項7】
前記密着層は、複数層が積層された構造であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の電界発光素子。
【請求項8】
前記発光活性層の上方の表面側に、前記発光活性層を覆って平坦化された、無機材料でなる平坦化層が、形成されていることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の電界発光素子。
【請求項9】
前記平坦化層の材料は、前記密着層の材料と同じであることを特徴とする請求項7に記載の電界発光素子。
【請求項10】
コア部分の表面をシェル層で覆った構造の量子ドットを含む発光活性層の少なくとも一方の表面側に絶縁層が積層され、前記発光活性層および前記絶縁層を厚さ方向に挟む一対の電極を有し、前記一対の電極に交流電圧を印加することにより前記発光活性層を発光させる電界発光素子の製造方法であって、
基板上に第1の電極を形成する第1電極形成工程と、
前記第1電極形成工程の後で、前記発光活性層を形成する発光活性層形成工程の前に施される、前記シェル層のヤング率と同等以下のヤング率を持つ無機層でなる密着層を形成する密着層形成工程と、
前記密着層の上に、ES−IBD法により連続照射される前記量子ドットを前記密着層の表面に打ち込むことにより堆積させて発光活性層を形成する発光活性層形成工程と、
前記発光活性層の上に、前記シェル層とのバンドオフセットが0.1eVである無機材料でなる平坦化層を表面平坦性を有するように形成する平坦化層形成工程と、
前記平坦化層形成工程の後に施される、第2の電極を形成する第2電極形成工程と、
を備えることを特徴とする電界発光素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2011−76770(P2011−76770A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224848(P2009−224848)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】
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