説明

電磁コイル絶縁フィルムおよびそれを備えたモーター、トランス

【課題】モーターやトランスに用いられる電磁コイル絶縁フィルムにおいて、その水蒸気バリア性を改善する。
【解決手段】電磁コイル絶縁フィルムを構成する液晶ポリエステルは、式(1)〜(3)で示される構造単位を有し、全構造単位の合計含有量に対して、2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位の含有量が40モル%以上である。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−O−Ar3 −O−
(式中、Ar1 は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基または4,4’−ビフェニレン基を表す。Ar2 およびAr3 は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基または4,4’−ビフェニレン基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モーター(電動機)またはトランス(変圧器)といった異常電圧が生じたときの安全性が求められる電気部品に適用される電磁コイル絶縁フィルムと、この電磁コイル絶縁フィルムを用いたモーター、トランスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、モーターにおいては、複数のコイル(電磁コイル)を互いに電気的に絶縁することを目的として、絶縁フィルムがスロットやウェッジの形に成形されてコイル間に挿入されている。また、トランスでは、モーターと同じ目的で、コイル用巻線内の層間絶縁材やスペーサーとして絶縁フィルムが利用されている。そして、これらの絶縁フィルムとしては、電気絶縁性、成形加工性に優れている点から、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルからなるフィルム、すなわちポリエステルフィルムが広く使用されている(特許文献1)。
【0003】
近年は、モーターやトランスの実用的な耐久性を高めるべく、モーターやトランスの電気絶縁材料に耐熱性および水蒸気バリア性が要求されるようになってきている。例えば、冷蔵庫やエアコンディショナーなどに用いられるモーターの電気絶縁材料としては、このモーターの使用時の発熱に耐えられるだけの耐熱性が求められるとともに、環境上の問題から、特定フロン全廃に関連して各種のフロン代替冷媒が次々と提案されているが、これらの冷媒およびそれに対応する潤滑油は水分を吸着しやすいため、水蒸気バリア性が求められている。また、ハイブリッド自動車や電気自動車に使用されるモーターの電気絶縁材料としては、このモーターの使用時の発熱に耐えられるだけの耐熱性が求められるとともに、使用環境下において水分が浸入しようとするため、水蒸気バリア性が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−35504号公報(段落〔0062〕の欄)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポリエチレンテレフタレートからなる厚さ50μmのフィルムについて、その水蒸気透過度を本発明者が測定したところ、温度40℃、相対湿度90%の条件で1g/m2 ・24h以上であり、使用環境下において水分が多く浸入することが判明した。これでは、モーターまたはトランスの電磁コイル絶縁用として使用したときに、水蒸気バリア性に劣るため、モーターやトランスの実用的な耐久性が低下する恐れがある。
【0006】
そこで、本発明は、このような事情に鑑み、電気絶縁性、成形加工性および耐熱性のみならず水蒸気バリア性にも優れ、モーターまたはトランスの電磁コイル絶縁用として有用な電磁コイル絶縁フィルムを提供することを第1の目的とし、さらに、このような電磁コイル絶縁フィルムを用いることにより、実用的な耐久性を高めることが可能なモーターおよびトランスを提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため、本発明者は、特定構造の液晶ポリエステルを電磁コイル絶縁フィルムの原料として採用することに着目し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、請求項1に記載の発明は、液晶ポリエステルから構成されている電磁コイル絶縁フィルムであって、前記液晶ポリエステルが、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位を有し、全構造単位の合計含有量に対して、2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位の含有量が40モル%以上であることを特徴とする。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−O−Ar3 −O−
(式中、Ar1 は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基または4,4’−ビフェニレン基を表す。Ar2 およびAr3 は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基または4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar1 、Ar2 またはAr3 で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。)
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記液晶ポリエステルは、流動開始温度が280℃以上であることを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の構成に加え、温度40℃および相対湿度90%にて測定される水蒸気透過度が0.1g/m2 ・24h以下であることを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、液晶ポリエステルから構成されている電磁コイル絶縁フィルムであって、温度40℃および相対湿度90%にて測定される水蒸気透過度が0.005g/m2 ・24h以下であることを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、液晶ポリエステルから構成されている電磁コイル絶縁フィルムであって、前記液晶ポリエステルは、厚さ50μmのフィルムにしたときの温度40℃および相対湿度90%にて測定される水蒸気透過度が0.005g/m2 ・24h以下であることを特徴とする。
【0013】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の電磁コイル絶縁フィルムが用いられているモーターとしたことを特徴とする。
【0014】
さらに、請求項7に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の電磁コイル絶縁フィルムが用いられているトランスとしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電磁コイル絶縁フィルムの原料が特定の液晶ポリエステルであることから、電気絶縁性、成形加工性、耐熱性および水蒸気バリア性に優れたモーター用またはトランス用の電磁コイル絶縁フィルムを提供することができる。したがって、この電磁コイル絶縁フィルムを用いてモーターまたはトランスを組み立てることにより、これら電気部品の実用的な耐久性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1に係る電磁コイル絶縁フィルムが組み込まれたモーターを示す半断面図である。
【図2】本発明の実施の形態2に係る電磁コイル絶縁フィルムが組み込まれたトランスを示す斜視図であって、(a)はその組立状態図、(b)はその分解状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
【0018】
図1には、本発明の実施の形態1(本発明に係る電磁コイル絶縁フィルムをモーターに適用した実施の形態)を示す。
<モーターの構成>
【0019】
モーター1は、図1に示すように、円筒状のハウジング2を有しており、ハウジング2内には、その内周面に沿ってステーター(固定子)3が取り付けられている。このステーター3は、円筒状の鉄心8と、この鉄心8の内側に沿って並ぶように配設された複数のコイル9とから構成されている。これらのコイル9は、各コイル9がそれぞれ電磁コイル絶縁フィルム10によって被覆された形で互いに電気的に絶縁されている。また、ハウジング2の中心部には円筒状の円柱状の出力軸5が、2つの軸受6を介して軸心CT1を中心として矢印M方向に回転自在に支持されている。出力軸5の周面には円筒状のローター(回転子)7が、出力軸5の回転に伴ってステーター3の内部空間で回転しうるように取り付けられている。
【0020】
ここで、電磁コイル絶縁フィルム10は、液晶ポリエステルから構成されており、この液晶ポリエステルは、特定構造を有するものである。なお、電磁コイル絶縁フィルム10の厚さは、モーター1の出力やコイル9の配置状況などに応じて適宜選択することができるが、あまり薄いと、電磁コイル絶縁フィルム10の本来の機能である絶縁性を損なう恐れがある反面、厚くなるほど成形加工性を消失することから、絶縁性および成形加工性の両方を確保できる範囲内(例えば、1〜1000μm)とすることが望ましい。
【0021】
以下、この電磁コイル絶縁フィルム10の原料となる特定構造の液晶ポリエステルと、この液晶ポリエステルを用いた電磁コイル絶縁フィルム10の製造方法について順次説明する。
<液晶ポリエステル>
【0022】
電磁コイル絶縁フィルム10を構成する液晶ポリエステルは、溶融時に光学異方性を示し、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位を有し、全構造単位の合計含有量(液晶ポリエステルを構成する各構造単位の質量をその各構造単位の式量で割ることにより、各構造単位の含有量を物質量相当量(モル)として求め、それらを合計した値)に対して、2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位の含有量が40モル%以上であるものである。そして、この液晶ポリエステルは、流動開始温度が280℃以上で、流動開始温度より高い温度で測定されるメルトテンション(溶融張力)の最大値が0.0098N以上であると好ましい。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−O−Ar3 −O−
(式中、Ar1 は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基または4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2 およびAr3 は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基または4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar1 、Ar2 またはAr3 で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。)
【0023】
ここで、液晶ポリエステルとは、450℃以下の温度で、溶融時に光学的異方性を示すポリエステルを意味する。このような液晶ポリエステルは、その製造段階で、2,6−ナフタレンジイル基を含むモノマーと、それ以外の芳香環を有するモノマーとを、得られる液晶ポリエステル中において、2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位の含有量が40モル%以上になるように、原料モノマーを選択して重合させることで得ることができる。
【0024】
このように、電磁コイル絶縁フィルム10を構成する液晶ポリエステルは、前記の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位を有する液晶ポリエステルにおいて、全構造単位の合計含有量に対して、2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位の含有量が40モル%以上となっているので、電磁コイル絶縁フィルム10の水蒸気バリア性を高めることができる。
【0025】
本発明に用いられる液晶ポリエステルにおいては、全構造単位の合計含有量に対して、2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位の含有量が、50モル%以上である液晶ポリエステルが好ましく、2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位の含有量が65モル%以上の液晶ポリエステルがさらに好ましく、2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位の含有量が70モル%以上の液晶ポリエステルが特に好ましい。このように、2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位をより多く含む液晶ポリエステルは、電磁コイル絶縁フィルム10の水蒸気バリア性をさらに向上させることができる。なお、液晶ポリエステルのそのような性能の観点からは、2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位の含有量の上限値は特に限定されないが、例えば液晶ポリエステルの生産性の観点をも考慮すると、95モル%以下であることが好ましく、90モル%以下であることがさらに好ましく、85モル%以下であることが特に好ましい。
【0026】
また、全構造単位の合計含有量に対して、式(1)で示される芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位の合計含有量が30〜80モル%、式(2)で示される芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位の合計含有量が10〜35モル%、式(3)で示される芳香族ジオールに由来する構造単位の合計含有量が10〜35モル%であることが好ましい。
【0027】
なお、本発明に用いられる液晶ポリエステルは、式(1)、(2)および(3)で示される構造単位を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、本発明に用いられる液晶ポリエステルは、式(1)、(2)および(3)で示される構造単位以外の構造単位を有してもよいが、その含有量は、全構造単位の合計含有量に対して、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0028】
また、本発明に用いられる液晶ポリエステルは、全芳香族液晶ポリエステルであると好ましい。ここで、全芳香族液晶ポリエステルとは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる液晶ポリエステルである。全芳香族液晶ポリエステルは、耐熱性にも優れるため、電磁コイル絶縁フィルム10の材料として好適に用いることができる。
【0029】
ここで、全構造単位の合計含有量に対する前記芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位、前記芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位および前記芳香族ジオールに由来する構造単位の含有量が前記の範囲であると、液晶ポリエステルが高度の液晶性を発現することに加えて、溶融加工性に優れるものとなるため好ましい。
【0030】
なお、全構造単位の合計含有量に対する前記芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位は、40〜70モル%であると、より好ましく、45〜65モル%であると、とりわけ好ましい。一方、全構造単位の合計含有量に対する前記芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位および前記芳香族ジオールに由来する構造単位はそれぞれ、15〜30モル%であると、より好ましく、17.5〜27.5モル%であると、とりわけ好ましい。
【0031】
式(1)で示される構造単位を形成するモノマーとしては、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、p−ヒドロキシ安息香酸または4−(4−ヒドロキシフェニル)安息香酸が挙げられ、さらに、これらのベンゼン環またはナフタレン環の水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基またはアリール基で置換されているモノマーも挙げられる。ここで、本発明の2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位を形成するモノマーとしては、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸であり、さらに2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸のナフタレン環の水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。さらに、後述のエステル形成性誘導体にして用いてもよい。
【0032】
式(2)で示される構造単位を形成するモノマーとしては、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸またはビフェニル−4,4’−ジカルボン酸が挙げられ、さらに、これらのベンゼン環またはナフタレン環の水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基またはアリール基で置換されているモノマーも挙げられる。ここで、本発明の2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位を形成するモノマーとしては、2,6−ナフタレンジカルボン酸であり、さらに2,6−ナフタレンジカルボン酸のナフタレン環の水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。さらに、後述のエステル形成性誘導体にして用いてもよい。
【0033】
式(3)で示される構造単位を形成するモノマーとしては、2,6−ナフタレンジオール、ハイドロキノン、レゾルシンまたは4,4’−ジヒドロキシビフェニルが挙げられ、さらに、これらのベンゼン環またはナフタレン環の水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基またはアリール基で置換されているモノマーも挙げられる。ここで、本発明の2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位を形成するモノマーとしては、2,6−ナフタレンジオールであり、さらに2,6−ナフタレンジオールのナフタレン環の水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。さらに、後述のエステル形成性誘導体にして用いてもよい。
【0034】
前述したように、式(1)、(2)または(3)で示される構造単位はいずれも、芳香環(ベンゼン環またはナフタレン環)に前記の置換基(ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、アリール基)を有していてもよい。これらの置換基を例示すると、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。また、炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などで代表されるアルキル基であり、これらは直鎖でも分岐していもよく、脂環基でもよい。さらに、アリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基などで代表される炭素数6〜20のアリール基が挙げられる。
【0035】
前記の式(1)、(2)または(3)で示される構造単位を形成するモノマーは、ポリエステルを製造する過程で重合を容易にするため、エステル形成性誘導体を用いることが好ましい。このエステル形成性誘導体とは、エステル生成反応を促進するような基を有するモノマーを示し、具体的に例示すると、モノマー分子内のカルボキシル基をハロホルミル基やアシルオキシカルボニル基に転換したエステル形成性誘導体や、モノマー分子内のヒドロキシル基(水酸基)をアシルオキシル基にしたエステル形成性誘導体などの高反応性誘導体が挙げられる。
【0036】
本発明に用いられる液晶ポリエステルの好ましいモノマーの組み合わせとしては、特開2005−272810号公報に記載された液晶ポリエステルが、耐熱性とメルトテンションの向上という観点から好ましい。具体的には、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する構造単位(I)の含有量が40〜74.8モル%、ハイドロキノンに由来する構造単位(II)の含有量が12.5〜30モル%、2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する構造単位(III)の含有量が12.5〜30モル%およびテレフタル酸に由来する構造単位(IV)の含有量が0.2〜15モル%であり、かつ構造単位(III)および(IV)のモル比が(III)/{(III)+(IV)}≧0.5の関係を満たすものである。
【0037】
より好ましくは、全構造単位の合計含有量に対して、構造単位(I)の含有量が40〜64.5モル%、構造単位(II)の含有量が17.5〜30モル%、構造単位(III)の含有量が17.5〜30モル%および構造単位(IV)の含有量が0.5〜12モル%であり、かつ構造単位(III)および(IV)のモル比が(III)/{(III)+(IV)}≧0.6を満足するものが挙げられる。
【0038】
さらに好ましくは、全構造単位の合計含有量に対して、構造単位(I)の含有量が50〜58モル%、構造単位(II)の含有量が20〜25モル%、構造単位(III)の含有量が20〜25モル%および構造単位(IV)の含有量が2〜10モル%であり、かつ構造単位(III)および(IV)のモル比が(III)/{(III)+(IV)}≧0.6を満足するものが挙げられる。
【0039】
また、液晶ポリエステルの製造方法としては、公知の方法を採用することができるが、特に好ましくは、前記のエステル形成性誘導体として、モノマー分子内のヒドロキシル基を低級カルボン酸を用いてアシルオキシルキ基に転換した誘導体を用いて製造することが好ましい。アシル化は、通常、ヒドロキシル基を有するモノマーを無水酢酸と反応させることで達成できる。こうしたアシル化によるエステル形成性誘導体は、脱酢酸重縮合により重合することができ、容易にポリエステルを製造することができる。
【0040】
前記の液晶ポリエステル製造方法としては、公知の方法(例えば、特開2002−146003号公報に記載された方法など)を適用することができる。すなわち、前記の式(1)、(2)および(3)で示されるに対応するモノマーを、2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位に対応するモノマーが、全モノマーの合計含有量に対して、40モル%以上になるように選択し、必要に応じてエステル形成性誘導体に転換した後、溶融重縮合せしめ、比較的低分子量の液晶ポリエステル(以下、「プレポリマー」と略記する。)を得、次いで、このプレポリマーを粉末とし、加熱することにより、固相重合させる方法が挙げられる。このような固相重合を用いると、重合がより進行しやすく、高分子量化を図ることができる。
【0041】
溶融重縮合により得られたプレポリマーを粉末とするには、例えばプレポリマーを冷却固化した後に粉砕すればよい。粉末の粒子径は、平均で0.05mm以上3mm程度以下が好ましく、特に0.05mm以上1.5mm程度以下が、液晶ポリエステルの高重合度化が促進されることからより好ましく、0.1mm以上1mm程度以下であれば、粉末の粒子間のシンタリングを生じることなく液晶ポリエステルの高重合度化が促進されるため、さらに好ましい。
【0042】
固相重合における加熱は、通常昇温しながら行われ、例えば室温からプレポリマーの流動開始温度より20℃以上低い温度まで昇温させる。このときの昇温時間は、特に限定されるものではないが、反応時間の短縮という観点から、1時間以内で行うことが好ましい。
【0043】
液晶ポリエステルの製造においては、固相重合における加熱は、プレポリマーの流動開始温度より20℃以上低い温度から280℃以上の温度まで昇温することが好ましい。昇温は、0.3℃/分以下の昇温速度で行うことが好ましい。この昇温速度は、好ましくは0.1〜0.15℃/分である。この昇温速度が0.3℃/分以下であれば、粉末の粒子間のシンタリングが生じにくいため、高重合度の液晶ポリエステルの製造が容易となる点で好ましい。
【0044】
ここで、液晶ポリエステルの重合度を高めるため、固相重合における加熱は、得られる液晶性樹脂の芳香族ジオールまたは芳香族ジカルボン酸成分のモノマー種によって異なるが、280℃以上の温度で、好ましくは280℃〜400℃の範囲で、30分以上反応させることが好ましい。とりわけ、液晶性樹脂の熱安定性の点から、反応温度280〜350℃で30分〜30時間反応させることが好ましく、反応温度285〜340℃で30分〜20時間反応させることがさらに好ましい。
【0045】
本発明に係る液晶ポリエステルの流動開始温度とは、上記製造方法で得られた液晶ポリエステル(パウダーまたはペレット)について、押出機を使用し、溶融混錬により得られたペレットについて測定した値であることを意味する。このペレットの流動開始温度が280℃以上であることが、耐熱性の向上、特に高密度実装技術としてはんだリフロー処理に耐えうる耐熱性という観点からは必須であり、特に290℃以上380℃以下であれば、耐熱性が高く、かつ成形時のポリマーの分解劣化が抑えられるため好ましく、295℃以上350℃以下であれば、さらに好ましい。
【0046】
ここで、流動開始温度とは、内径1mm、長さ10mmのダイスを取り付けた毛細管型レオメーターを用い、9.8MPa(100kgf/cm2 )の荷重下において昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルをノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポアズ)を示す温度である(例えば、小出直之編「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」第95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照)。
【0047】
こうして得られる前記所定の構造単位組成を有する液晶ポリエステルは、水蒸気バリア性に優れており、厚さ50μmのフィルムにしたときの温度40℃および相対湿度90%にて測定される水蒸気透過度が、0.005g/m2 ・24h以下となる。
【0048】
次に、上記製造方法で得られた液晶ポリエステル(パウダーまたはペレット)について、押出機を使用して溶融混錬する具体的方法を説明する。
【0049】
例えば、単軸または多軸押出機、好ましくは二軸押出機、バンハリー式混錬機、ロール式混練機等を用いて、上記液晶ポリエステルの製造方法により得られた樹脂単体(パウダーまたはペレット)の流動開始温度マイナス10℃から流動開始温度プラス100℃の範囲で溶融混練して、ペレットを得る。液晶ポリエステルの熱劣化を防止するという観点から、好ましくは流動開始温度マイナス10℃から流動開始温度プラス70℃の範囲、さらに好ましくは流動開始温度マイナス10℃から流動開始温度プラス50℃の範囲である。
【0050】
また、本発明に用いる液晶ポリエステルは、これに充填剤などを含有せしめることにより液晶ポリエステル樹脂組成物とすることもできる。
【0051】
ここで、充填剤としては、例えば、ミルドガラスファイバー、チョップドガラスファイバー等のガラス繊維、ガラスビーズ、中空ガラス球、ガラス粉末、マイカ、タルク、クレー、シリカ、アルミナ、チタン酸カリウム、ウォラスナイト、炭酸カルシウム(重質、軽質、膠質など)、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、硫酸ソーダ、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、けい酸カルシウム、けい砂、けい石、石英、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄グラファイト、モリブデン、アスベスト、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、石膏繊維、炭素繊維、カーボンブラック、ホワイトカーボン、けいそう土、ベントナイト、セリサイト、シラス、黒鉛等の無機充填剤;チタン酸カリウムウイスカ、アルミナウイスカ、ホウ酸アルミニウムウイスカ、炭化けい素ウイスカ、窒化けい素ウイスカ等の金属または非金属系ウイスカ類、これら2種以上の混合物などが挙げられる。中でもガラス繊維、ガラス粉末、マイカ、タルク、炭素繊維などが好適である。
【0052】
また、充填剤は、表面処理剤で表面処理されたものであってもよい。この表面処理剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、ボラン系カップリング剤などの反応性カップリング剤、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤などの潤滑剤その他が挙げられる。
【0053】
これら充填剤の使用量は、液晶ポリエステル100質量部に対し、通常、0.1〜400質量部の範囲であり、好ましくは、10〜400質量部、より好ましくは、10〜250質量部の範囲である。
【0054】
また、液晶ポリエステル樹脂組成物は、前記の充填剤の他に、液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂や添加剤などを含有してもよい。
【0055】
ここで、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂などが挙げられる。
【0056】
また、添加剤としては、例えば、フッ素樹脂、金属石鹸類などの離型改良剤、核剤、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、着色防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、潤滑剤および難燃剤などが挙げられる。
【0057】
液晶ポリエステル樹脂組成物は、例えば、前記のようして得られた液晶ポリエステルと上記のような充填剤、必要に応じて使用される熱可塑性樹脂や添加剤などを混合することにより、製造することができる。このときの混合は、乳鉢、ヘンシェルミキサー、ボールミル、リボンブレンダー等を用いてもよく、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、ニーダー等の溶融混練機を用いてもよく、上記溶融混錬条件にて実施することが好ましい。
【0058】
本発明に用いられる液晶ポリエステルは、上記製造方法で得られた液晶ポリエステル(パウダーまたはペレット)を溶融混錬して得られたペレットの流動開始温度より高い温度で測定されるメルトテンションの最大値が0.0098N以上(好ましくは0.015N以上、さらに好ましくは0.020N以上)を示すことが好ましい。さらに、流動開始温度より25℃高い温度で測定されるメルトテンションの最大値が0.0098N以上である液晶ポリエステルは、安定してフィルム化することができる。
【0059】
このメルトテンションとは、溶融粘度測定試験機(流れ特性試験機)に上記製造方法で得られた液晶ポリエステル(パウダーまたはペレット)を溶融混錬により得られたペレットを充填し、シリンダーバレル径1mm、ピストンの押出速度は5mm/分、速度可変巻取機で自動昇速しながら試料を糸状に引き取り、破断したときの張力(単位:N)を意味する。
<電磁コイル絶縁フィルムの製造方法>
【0060】
本発明に係る電磁コイル絶縁フィルム10は、例えば、以下に述べる方法で製造することができる。
【0061】
本発明で用いる電磁コイル絶縁フィルム10としては、かかる液晶ポリエステルを、例えば、Tダイから溶融樹脂を押し出して巻き取るTダイ法や、環状ダイスを設置した押出機から溶融樹脂を円筒状に押し出し、冷却し巻き取るインフレーション成膜法により得られたフィルムまたはシート、熱プレス法または溶媒キャスト法により得られたフィルムまたはシート、或いは、射出成形法や押出法で得られたシートをさらに一軸延伸または二軸延伸して得られたフィルムまたはシートを用いることもできる。射出成形、押出成形などの場合にはあらかじめ混練の工程を経ることなく、成分のパウダーまたはペレットを成形時にドライブレンドして溶融成形して、フィルムまたはシートを得ることもできる。
【0062】
Tダイ法では、Tダイを通して押し出された溶融樹脂を巻き取り機方向(長手方向)に延伸しながら巻き取って得られる一軸延伸フィルムまたは二軸延伸フィルムが好ましく用いられる。
【0063】
一軸延伸フィルムの成膜時における押出機の設定条件は、液晶ポリエステルの構造単位組成に応じて適宜設定できるが、シリンダー設定温度は200〜360℃の範囲が好ましく、230〜350℃の範囲がさらに好ましい。この範囲外であると、液晶ポリエステルの熱分解が生じたり、成膜が困難となったりする場合がある点で好ましくない。
【0064】
Tダイのスリット間隔は、0.2〜2mmが好ましく、0.2〜1.2mmがさらに好ましい。一軸延伸フィルムのドラフト比は、1.1〜40の範囲のものが好ましく、さらに好ましくは10〜40であり、特に好ましくは15〜35である。
【0065】
このドラフト比とは、Tダイスリットの断面積を長手方向に垂直な面のフィルム断面積で除した値をいう。ドラフト比が1.1未満であると、フィルム強度が不十分であり、ドラフト比が45を越すと、フィルムの表面平滑性が不十分となる場合がある。このドラフト比は、押出機の設定条件、巻き取り速度などを制御して設定することができる。
【0066】
二軸延伸フィルムは、一軸延伸フィルムの成膜と同様の押出機の設定条件、すなわちシリンダー設定温度が、好ましくは200〜360℃の範囲、さらに好ましくは230〜350℃の範囲、Tダイのスリット間隔が、好ましくは0.2〜1.2mmの範囲で液晶ポリエステルの溶融押出しを行い、Tダイから押し出された溶融体シートを長手方向および長手方向と垂直方向(横手方向)に同時に延伸する方法、または、Tダイから押し出された溶融体シートをまず長手方向に延伸した後、この延伸シートを同一工程内で100〜300℃の高温下でテンターより横手方向に延伸する逐次延伸の方法などにより得られる。
【0067】
二軸延伸フィルムを得る際、その延伸比は長手方向に1.2〜40倍、横手方向に1.2〜20倍の範囲が好ましい。延伸比が上記の範囲外であると、フィルムの強度が不十分となったり、または均一な厚さのフィルムを得るのが困難となったりする場合がある。
【0068】
円筒形のダイから押し出された溶融体シートをインフレーション法で成膜して得られるインフレーションフィルムなども好ましく用いられる。すなわち、液晶ポリエステルは、環状スリットのダイを備えた溶融混練押出機に供給され、シリンダー設定温度200〜360℃、好ましくは230〜350℃で溶融混練を行って、押出機の環状スリットから筒状フィルムとして上方または下方へ溶融樹脂が押し出される。環状スリット間隔は、通常0.1〜5mm、好ましくは0.2〜2mm、さらに好ましくは0.6〜1.5mmである。環状スリットの直径は、通常20〜1000mm、好ましくは25〜600mmである。
【0069】
溶融押出しされた溶融樹脂フィルムに長手方向(MD)にドラフトをかけるとともに、この筒状フィルムの内側から空気または不活性ガス、例えば窒素ガスなどを吹き込むことにより、長手方向と直角な横手方向(TD)にフィルムを膨張延伸させる。
【0070】
インフレーション成形(成膜)において、好ましいブロー比(横方向の延伸比:インフレーションバブルの直径/環状スリットの直径)は1.5〜10、より好ましくは2〜5であり、好ましいドローダウン比(MD延伸倍率:バブル引き取り速度/樹脂吐出速度)は1.5〜50、さらに好ましくは5〜30である。また、バブル形状はいわゆるB型(ワイングラス型)が好ましく選択される。インフレーション成膜時の設定条件が上記の範囲外であると、厚さが均一でしわのない高強度の電磁コイル絶縁フィルム10を得るのが困難となる場合がある点で好ましくない。
【0071】
膨張させたフィルムは通常、その円周を空冷または水冷させた後、ニップロールを通過させて引き取る。
【0072】
インフレーション成膜に際しては、電磁コイル絶縁フィルム10に応じて、筒状の溶融体フィルムが均一な厚さで表面平滑な状態に膨張するような条件を選択することができる。
【0073】
本発明で用いる電磁コイル絶縁フィルム10の厚さには、特に制限はないが、好ましくは3〜1000μm、より好ましくは10〜200μm、さらに好ましくは12〜150μmである。かかる方法により得られる液晶ポリエステルは、耐熱性、電気絶縁性に優れ、軽量で薄肉化が可能であり、機械的強度が良好であり、柔軟性があり、しかも安価なものである。
【0074】
こうして得られる電磁コイル絶縁フィルム10は、前記所定の構造単位組成を有する液晶ポリエステルから構成されることにより、水蒸気バリア性に優れたものとなる。すなわち、温度40℃および相対湿度90%にて測定される水蒸気透過度を、電磁コイル絶縁フィルム10の厚さに応じて、0.1g/m2 ・24h以下、0.05g/m2 ・24h以下、0.01g/m2 ・24h以下、0.005g/m2 ・24h以下と段階的に減少させることにより、所望の水蒸気バリア性を得ることが可能となる。
【0075】
本発明においては、電磁コイル絶縁フィルム10の表面にあらかじめ表面処理を施すことができる。このような表面処理法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、スパッタリング処理、溶剤処理、紫外線処理、研磨処理、赤外線処理、オゾン処理などが挙げられる。
【0076】
電磁コイル絶縁フィルム10は無色であってもよいし、顔料または染料などの着色成分が含有されていてもよい。着色成分を含有させる方法としては、例えば、フィルムの成膜時に予め着色成分を練り込んでおく方法や、基材上に着色成分を印刷する方法などがある。また、着色フィルムと無色フィルムとを貼り合わせて使用しても構わない。
【0077】
ここで、本発明に係る電磁コイル絶縁フィルム10の製造作業が終了する。
【0078】
なお、この電磁コイル絶縁フィルム10は、電磁コイル絶縁フィルム10として要求される特性を損なわない範囲内で、必要に応じて表面処理を施してもよい。表面処理の方法としては、例えば、コロナ放電処理、火炎処理、スパッタリング処理、溶媒処理、UV処理、プラズマ処理などが挙げられる。
【0079】
また、本発明に係る電磁コイル絶縁フィルム10は、流動開始温度が280℃以上の液晶ポリエステルから構成されていることが耐熱性向上の観点から好ましい。このような液晶ポリエステルから構成された電磁コイル絶縁フィルム10は、モーター1の作動などに伴う発熱(最高到達温度100℃程度)によっても、軟化や破断を生じることはない。
【0080】
さらに、本発明に係る電磁コイル絶縁フィルム10は、特定構造の液晶ポリエステルから構成されているため、水蒸気バリア性に優れている。
【0081】
このように、本発明に係る電磁コイル絶縁フィルム10は、電気絶縁性、成形加工性および耐熱性のみならず水蒸気バリア性にも優れることから、この電磁コイル絶縁フィルム10を用いてモーター1を組み立てれば、モーター1の実用的な耐久性を高めることができる。
[発明の実施の形態2]
【0082】
図2には、本発明の実施の形態2(本発明に係る電磁コイル絶縁フィルムをトランスに適用した実施の形態)を示す。
<トランスの構成>
【0083】
トランス11は、図2に示すように、直方体箱状のケーシング12を有しており、ケーシング12の上面は開口している。ケーシング12内には2つ(1次側および2次側)のコイル13が、その層間および上下両側をそれぞれ電磁コイル絶縁フィルム15で絶縁されて積層された形で収納されている。また、ケーシング12には一対の磁心16が、コイル13の周囲に磁路を形成するようにケーシング12を上下両側から挟み込む形で組み付けられている。
【0084】
そして、各電磁コイル絶縁フィルム15はそれぞれ、上述した実施の形態1におけるモーター用の電磁コイル絶縁フィルム10と同様、特定構造の液晶ポリエステルから構成されており、この特定構造の液晶ポリエステルは、流動開始温度が280℃以上であることが好ましい。なお、電磁コイル絶縁フィルム15の厚さは、トランス11の出力やコイル13の配置状況などに応じて適宜選択することができるが、あまり薄いと、電磁コイル絶縁フィルム15の本来の機能である絶縁性を損なう恐れがある反面、厚くなるほど成形加工性を消失することから、絶縁性および成形加工性の両方を確保できる範囲内(例えば、1〜1000μm)とすることが望ましい。
【0085】
また、この電磁コイル絶縁フィルム15の原料となる特定構造の液晶ポリエステルと、この特定構造の液晶ポリエステルを用いた電磁コイル絶縁フィルム15の製造方法については、上述した実施の形態1と同様である。
【0086】
したがって、これらの電磁コイル絶縁フィルム15では、上述した実施の形態1におけるモーター用の電磁コイル絶縁フィルム10と同じ作用効果を奏する。すなわち、本発明に係る電磁コイル絶縁フィルム15は、電気絶縁性、成形加工性および耐熱性のみならず水蒸気バリア性にも優れるとともに、優れた成形加工性を有することから、屈曲時の自由度が高いため、この電磁コイル絶縁フィルム15を用いてトランス11を組み立てれば、トランス11の実用的な耐久性を高めることができる。
【実施例】
【0087】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
<合成例1>
【0088】
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12モル)および触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、室温で15分間にわたって攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度(145℃)を保持したまま1時間にわたって攪拌した。
【0089】
次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から310℃まで3時間30分かけて昇温した。同温度(310℃)で3時間保温して液晶ポリエステルを得た。こうして得られた液晶ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの粉末状の液晶ポリエステル(プレポリマー)を得た。これを合成例1とする。
【0090】
この合成例1の液晶ポリエステルにおいて、実質的な共重合モル分率は、前記の式(1)で示される構造単位:前記の式(2)で示される構造単位:前記の式(3)で示される構造単位で表して、55モル%:22.5モル%:22.5モル%である。また、この合成例1の液晶ポリエステルにおいて、これらの構造単位の合計含有量に対する2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位の共重合モル分率は72.5モル%である。
<合成例2>
【0091】
合成例1と同様にして得られた粉末を25℃から250℃まで1時間かけて昇温した後、同温度(250℃)から293℃まで5時間かけて昇温し、次いで、同温度(293℃)で5時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、粉末状の液晶ポリエステルを得た。これを合成例2とする。
【0092】
この合成例2の液晶ポリエステルにおいて、実質的な共重合モル分率は、前記の式(1)で示される構造単位:前記の式(2)で示される構造単位:前記の式(3)で示される構造単位で表して、55モル%:22.5モル%:22.5モル%である。また、この合成例2の液晶ポリエステルにおいて、これらの構造単位の合計含有量に対する2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位の共重合モル分率は72.5モル%である。
<合成例3>
【0093】
合成例1と同様にして得られた粉末を25℃から250℃まで1時間かけて昇温した後、同温度(250℃)から310℃まで10時間かけて昇温し、次いで、同温度(310℃)で5時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、粉末状の液晶ポリエステルを得た。これを合成例3とする。
【0094】
この合成例3の液晶ポリエステルにおいて、実質的な共重合モル分率は、前記の式(1)で示される構造単位:前記の式(2)で示される構造単位:前記の式(3)で示される構造単位で表して、55モル%:22.5モル%:22.5モル%である。また、この合成例3の液晶ポリエステルにおいて、これらの構造単位の合計含有量に対する2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位の共重合モル分率は72.5モル%である。
<合成例4>
【0095】
合成例1と同様の反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸を911g(6.6モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニルを409g(2.2モル)、イソフタル酸を91g(0.55モル)、テレフタル酸を274g(1.65モル)、無水酢酸を1235g(12.1モル)用いて攪拌した。次いで、1−メチルイミダゾールを0.17g添加し、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して1時間還流させた。その後、1−メチルイミダゾールを1.7g添加した後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。こうして得られた液晶ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの液晶ポリエステルの粉末(プレポリマー)を得た。
【0096】
こうして得られた粉末を25℃から250℃まで1時間かけて昇温した後、同温度(250℃)から285℃まで5時間かけて昇温し、次いで、同温度(285℃)で3時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、粉末状の液晶ポリエステルを得た。これを合成例4とする。
【0097】
この合成例4の液晶ポリエステルにおいて、実質的な共重合モル分率は、前記の式(1)で示される構造単位:前記の式(2)で示される構造単位:前記の式(3)で示される構造単位で表して、60モル%:20モル%:20モル%である。また、この合成例4の液晶ポリエステルにおいて、これらの構造単位の合計含有量に対する2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位の共重合モル分率は0モル%である。
<流動開始温度の測定>
【0098】
合成例1〜4についてそれぞれ、粉末状の液晶ポリエステルの流動開始温度を測定した。すなわち、フローテスター((株)島津製作所製の「CFT−500型」)を用いて、試料約2gを内径1mm、長さ10mmのダイスを取り付けた毛細管型レオメーターに充填する。9.8MPa(100kgf/cm2 )の荷重下において昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルをノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポアズ)を示す温度を流動開始温度とした。これらの結果をまとめて表1に示す。
【0099】
【表1】

【0100】
また、合成例1〜4についてそれぞれ、粉末状の液晶ポリエステルを造粒してペレット状にし、このペレット状の液晶ポリエステルの流動開始温度を測定した。すなわち、合成例1〜4の液晶ポリエステル粉末各500gを用いて、二軸押出機((株)池貝製の「PCM−30」)によって各液晶ポリエステルの粉末の流動開始温度〜流動開始温度+10℃高い温度で造粒し、ペレットを得た。こうして得られた合成例1〜4に相当するペレットについて、その流動開始温度を測定した。これらの結果をまとめて表1に示す。
<メルトテンションの測定>
【0101】
電磁コイル絶縁フィルムを安定して工業的に作製するためには、ある程度のメルトテンションが必要となるので、合成例1〜4についてそれぞれ、ペレット状の液晶ポリエステルのメルトテンションを測定した。このとき、各ペレットについては、ペレットの流動開始温度より高い温度でメルトテンション測定を実施し、メルトテンションの最大値を求めた。また、試料が糸状に引き取れず、メルトテンション測定が実施できない温度についても調べた。
【0102】
すなわち、溶融粘度測定試験機((株)東洋精機製作所製のキャピログラフ1B型)を用いて、試料約10gを仕込み、シリンダーバレル径1mm、ピストンの押出速度は5mm/分、速度可変巻取機で自動昇速しながら試料を糸状に引き取り、試料が破断したときの張力をメルトテンション(単位:N)とした。これらの結果をまとめて表1に示す。
【0103】
なお、合成例1の液晶ポリエステルについては、メルトテンション測定は、測定温度が300℃以下であると、試料が糸状に引き取れず、一方、測定温度が310℃以上では、樹脂が糸状にならず流動するため、メルトテンション測定が不可能であった。測定温度300〜310℃の間においてもメルトテンション測定を試みたが、試料が糸状に引き取れる場合があるが、メルトテンションが低すぎて糸が破断してしまうため、メルトテンションを算出することができなかった。
<実施例1>
【0104】
合成例3で得た液晶ポリエステルを用いて、厚さ25μmの電磁コイル絶縁フィルムを作製した。すなわち、この液晶ポリエステルの粉末を一軸押出機(スクリュー径50mm)内で溶融し、その一軸押出機の先端のTダイ(リップ長さ300mm、リップクリアランス1mm、ダイ温度350℃)よりフィルム状に押し出して冷却し、厚さ25μmの電磁コイル絶縁フィルム(実施例1)を作製した。
<実施例2>
【0105】
合成例3で得た液晶ポリエステルを用いて、厚さ50μmの電磁コイル絶縁フィルムを作製した。すなわち、この液晶ポリエステルの粉末を一軸押出機(スクリュー径50mm)内で溶融し、その一軸押出機の先端のTダイ(リップ長さ300mm、リップクリアランス1mm、ダイ温度350℃)よりフィルム状に押し出して冷却し、厚さ50μmの電磁コイル絶縁フィルム(実施例2)を作製した。
<比較例1>
【0106】
合成例4で得た液晶ポリエステルを用いて、実施例1と同様の手順により、厚さ25μmの電磁コイル絶縁フィルム(比較例1)を作製した。
<水蒸気バリア性の評価>
【0107】
これらの実施例1、実施例2および比較例1について、電磁コイル絶縁フィルムの水蒸気バリア性を評価するため、水蒸気バリア性の指標として水蒸気透過度を求めた。すなわち、JIS K7129 C法に準拠して、ガス透過率・透湿度測定装置(GTRテック(株)製の「GTR−30X」)により、温度40℃、相対湿度90%の条件で電磁コイル絶縁フィルムの水蒸気透過度を測定した。
【0108】
その結果、水蒸気透過度は、比較例1では0.343g/m2 ・24hであったのに対して、実施例1では0.011g/m2 ・24h(つまり、比較例1の約1/31倍)であった。この結果から、比較例1と比べて実施例1は、電磁コイル絶縁フィルムの水蒸気バリア性が極めて高いことが判明した。また、実施例2では0.0030g/m2 ・24h(つまり、比較例1の約1/110倍)であり、電磁コイル絶縁フィルムの水蒸気バリア性が極めて高いことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、電車などの車両の駆動系に使用されるモーターや、発電所・変電所で用いられる大型のトランスに適用することができる。
【符号の説明】
【0110】
1……モーター
2……ハウジング
3……ステーター
5……出力軸
6……軸受
7……ローター
8……鉄心
9……コイル
10……モーター用の電磁コイル絶縁フィルム
11……トランス
12……ケーシング
13……コイル
15……トランス用の電磁コイル絶縁フィルム
16……磁心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステルから構成されている電磁コイル絶縁フィルムであって、
前記液晶ポリエステルが、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位を有し、全構造単位の合計含有量に対して、2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位の含有量が40モル%以上であることを特徴とする電磁コイル絶縁フィルム。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−O−Ar3 −O−
(式中、Ar1 は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基または4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2 およびAr3 は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基または4,4’−ビフェニレン基を表す。Ar1 、Ar2 またはAr3 で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。)
【請求項2】
前記液晶ポリエステルは、流動開始温度が280℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の電磁コイル絶縁フィルム。
【請求項3】
温度40℃および相対湿度90%にて測定される水蒸気透過度が0.1g/m2 ・24h以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の電磁コイル絶縁フィルム。
【請求項4】
液晶ポリエステルから構成されている電磁コイル絶縁フィルムであって、
温度40℃および相対湿度90%にて測定される水蒸気透過度が0.005g/m2 ・24h以下であることを特徴とする電磁コイル絶縁フィルム。
【請求項5】
液晶ポリエステルから構成されている電磁コイル絶縁フィルムであって、
前記液晶ポリエステルは、厚さ50μmのフィルムにしたときの温度40℃および相対湿度90%にて測定される水蒸気透過度が0.005g/m2 ・24h以下であることを特徴とする電磁コイル絶縁フィルム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の電磁コイル絶縁フィルムが用いられていることを特徴とするモーター。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載の電磁コイル絶縁フィルムが用いられていることを特徴とするトランス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−140638(P2011−140638A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270332(P2010−270332)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】