説明

電磁波シールドフィルム

【課題】 微細で寸法精度の高い金属メッシュパターンを有し、モアレの発生がなく、電磁波シールド性および光透過性に優れ、簡便かつ安価に形成できる電磁波シールドフィルムを提供すること。
【解決手段】 ノルボルネン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートまたはポリカーボネートからなるフィルム基材の表面に形成された凹部内に銀および/または銅を含む導電性物質が充填されてなる格子状の金属メッシュパターンを有し、ディスプレイ表面に装着する際に、当該ディスプレイの走査線方向と格子の一辺とのなす角度が10〜60°になるように装着させて用いる電磁波シールドフィルムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネルの前面板フィルターなどに好適に用いられる電磁波シールドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大型の薄型ディスプレイとしてプラズマディスプレイパネル(以下「PDP」ともいう。)が注目されている。
PDPは、2枚の板状ガラスの間に封入したネオンなどの希ガスに電圧を加え、その時に生じる紫外線を発光体に当てることで可視光を発生させており、可視光発生の際に不要な電磁波や近赤外線なども放射される。そのため、人体に与える影響や周辺電子機器の誤作動を防止する目的で、PDPの前面には、電磁波シールドフィルムや近赤外線吸収フィルムなどが積層された前面板フィルターが設けられている。
上記電磁波シールドフィルムに求められる性能としては、電磁波シールド性と光透過性とを両立する性能が挙げられる。このような性能を有する電磁波シールドフィルムとして、たとえば、銅などの金属箔をフィルム基材上にラミネートした後、フォトレジスト法を用いてエッチング処理することにより金属メッシュパターンを形成した、いわゆるエッチングメッシュタイプの電磁波シールドフィルムが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、従来のエッチング処理法では、金属箔の積層、金属箔上へのレジスト膜の形成、露光および現像によるレジストパターンの形成、エッチングによる金属メッシュパターンの形成、レジスト膜の剥離、さらに必要に応じて金属メッシュパターンの開口部に透明樹脂を埋め込んで電磁波シールドフィルムの表面を平滑にするといった多くの煩雑な工程を経なければならないという問題があった。
また、電磁波シールド性および光透過性をさらに向上させるため、より微細で寸法精度の高い金属メッシュパターンの形成が求められるとともに、電磁波シールドフィルムの低コスト化が要求されている現状において、従来のエッチング処理法等では、線幅が20μm以下の微細で寸法精度の高い金属メッシュパターンを形成することが難しく、またエッチング処理工程における工程数の短縮や大幅なコスト削減も難しいという問題があった。
さらに、従来の金属メッシュパターンの電磁波シールドフィルムでは、ディスプレイ画面の走査ラインとメッシュパターンのラインが干渉し合いモアレが発生して、映像が見づらくなったり画像がちらついたりする原因となっていた。
したがって、より微細で寸法精度が高い金属メッシュパターンを有し、モアレの発生がなく、電磁波シールド性および光透過性に優れるとともに、簡便かつ安価に形成できる電磁波シールドフィルムの開発が求められている。
【0004】
【特許文献1】特開平11−145676号公報
【特許文献2】特開2002−258759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、微細で寸法精度の高い金属メッシュパターンを有し、モアレの発生がなく、電磁波シールド性および光透過性に優れ、簡便かつ安価に形成できる電磁波シールドフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電磁波シールドフィルムは、ノルボルネン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートまたはポリカーボネートからなるフィルム基材の表面に形成された凹部内に銀および/または銅を含む導電性物質が充填されてなる格子状の金属メッシュパターンを有し、ディスプレイ表面に装着する際に、当該ディスプレイの走査線方向と格子の一辺とのなす角度が10〜60°になるように装着させて用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、線幅が20μm以下の微細で寸法精度の高い金属メッシュパターンを有し、従来のエッチングメッシュタイプの電磁波シールドフィルムと比較して、モアレの発生がなく、電磁波シールド性および光透過性に優れ、かつ安価な電磁波シールドフィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に係る電磁波シールドフィルムについて、詳細に説明する。
本発明の電磁波シールドフィルムは、表面にメッシュ状の凹部が形成されたフィルム基材と、該凹部内に導電性物質が充填されて形成された格子状の金属メッシュパターンとを有する。このような電磁波シールドフィルムは、フィルム基材の表面に直接エンボス加工を施すことにより、メッシュ状の凹部を形成し、該凹部内に導電性物質を充填して金属メッシュパターンを形成することにより製造することができる。得られた電磁波シールドフィルムは、前面板フィルターとしてディスプレイ表面に装着する際に、当該ディスプレイの走査線方向(すなわちディスプレイの画素の並ぶ縦方向)と金属メッシュパターンの格子の一辺とのなす角度が10〜60°、好ましくは30〜50°になるように装着するものである。ディスプレイの走査線方向と金属メッシュパターンのラインが重ならないように、適度な角度を付けることで、モアレの発生を防止することができる。
【0009】
上記フィルム基材としては、可視波長領域において十分な透明性を有するという観点から、ノルボルネン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリカーボネート(PC)からなる透明樹脂フィルムが用いられる。さらに好ましくは、後述するエンボス加工に適した耐熱性および強度を有する、ノルボルネン系樹脂フィルムを用いることができる。特に、下記式(1)で表される少なくとも1種の化合物を含む単量体を開環重合し、さらに水素添加して得られたノルボルネン含有樹脂が、上記フィルム基材として好適である。
【0010】
【化1】

【0011】
[式(1)中、R1〜R4は、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30の炭化水素基またはその他の1価の有機基を表し、R1〜R4のうち少なくとも一つは、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびケイ素原子からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子を1個以上含む1価の極性基である。また、R1とR2および/またはR3とR4が相互に結合してアルキリデン基を形成していてもよく、R1とR2、R3とR4またはR2とR3が相互に結合して炭素環もしくは複素環を形成してもよい。該炭素環もしくは複素環は、単環構造でも多環構造でもよく、また芳香環でも非芳香環でもよい。mは0〜3の整数であり、pは0または1である。]
【0012】
上記フィルム基材の厚みは、通常10〜300μm、好ましくは20〜200μm、特に好ましくは40〜120μmである。フィルム基材の厚みが上記範囲にあることにより、可視光の透過率に優れるとともに、エンボス加工および金属メッシュ形成を好適に行うことができる。
上記フィルム基材の可視光線透過率は、80%以上であることが好ましく、特に好ましくは85%以上である。可視光透過率が80%未満であると、得られる電磁波シールドフィルムを構成部材とする前面板フィルターが透過率の低いものとなるため、PDPの表示画面が十分な明度を有さないことがある。
【0013】
上記フィルム基材表面に凹部を形成するためのエンボス加工は、通常、所望の凹部に対応する凸部を形成した板状、ロール状などの形状を有する金型を、該フィルム基材に圧着させて行われる。このとき、通常はフィルム基材および/または金型を加熱して圧着の工程が行われる。
なお、上記エンボス加工において、形成される凹部、具体的には格子状の溝が凹部として得られる形状は、フィルム基材の端面と該格子の一辺とのなす角度が10〜60°、好ましくは30〜50°になるように調整することが好ましい。凹部をこのように形成することにより、得られる電磁波シールドフィルムを前面板フィルターとしてディスプレイに装着する際に、フィルムのロスや切り揃えの手間を少なくすることができる。
【0014】
上記フィルム基材には、エンボス加工を施す面の反対側の面に保護フィルムが積層されていてもよい。また、前記保護フィルムの代わりに、近赤外カット、ネオンカット、色調調整、反射防止、帯電防止などの機能を持たせた機能性光学フィルムをフィルム基材に積層させてもよい。なお、このような機能性光学フィルムはエンボス加工前にフィルム基材に積層させても、エンボス加工後または金属メッシュパターン形成後にフィルム基材に積層させてもよい。さらに、エンボス加工および金属メッシュパターン形成時は上記保護フィルムをフィルム基材に積層させておき、金属メッシュパターン形成後に保護フィルムを剥離して機能性光学フィルムを積層させてもよい。上記保護フィルムまたは機能性光学フィルムには、さらにセパレーターが積層されていてもよい。
【0015】
上記凹部内に充填される導電性物質は、通常、金属粉を含有するペーストとして該凹部内に充填される。導電性物質を構成する金属としては、銀または銅を必須とし、その他の金属として金、白金、鉄、ニッケル、アルミニウム、タングステン、クロム、チタンなどの導電性を有する金属、およびこれらの金属の2種以上を組み合わせた合金などが挙げられる。上記金属は1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記金属とともに炭素を含有するものであってもよい。導電性物質をペースト化するためのバインダーとしては、溶剤、結着樹脂、可塑剤などが挙げられる。
金属メッシュパターンの形成方法としては、上記凹部内に金属粉を含有する導電性ペーストを塗布して充填させる方法が挙げられる。
【0016】
上記のようにして得られる金属メッシュパターンは、線幅が細く、線間隔(ピッチ)が広くなるほど、開口率が高くなり光透過性は向上する。しかしながら、線幅を細くした場合、ピッチが広くなりすぎると、フィルム表面の導電性が不足して電磁波シールド性が低下する傾向にある。したがって、本発明においては、線幅が1〜50μm、好ましくは3〜30μm、特に好ましくは5〜20μmの範囲にあり、線間隔(格子の一辺の長さ)が5〜500μm、好ましくは20〜400μm、特に好ましくは50〜300μmの範囲にあることが望ましい。
上記範囲の線幅および線間隔を有する金属メッシュパターンを形成することにより、良好な電磁波シールド性および光透過性が得られる。なお、本発明の方法を用いれば、線幅20μm以下のパターンを精度よく作成することが可能であり、さらには従来困難であった線幅10μm以下のパターンについても高い寸法精度で形成することも可能である。
また、上記金属メッシュパターンの厚み、すなわちエンボス加工により形成される凹部の深さは、1〜50μm、好ましくは3〜30μm、特に好ましくは5〜20μmであることが望ましい。金属メッシュパターンの厚みが上記範囲にあることにより、電磁波シールド性およびディスプレイの視野角などに優れるとともに、均一で強度に優れた金属メッシュパターンを効率的かつ経済的に形成することができる。
【0017】
上記のようにして形成された金属メッシュパターンの表面は、ディスプレイのコントラストや視認性を向上させるために、黒化処理を施してもよい。黒化処理の方法としては、電磁波シールド性を損なわなければ特に限定されず、従来公知の黒化処理方法、たとえば、金属メッシュパターンの表面を酸化処理する方法、ニッケルメッキやクロムメッキなどのメッキ処理による方法、アルカリ液等による表面処理による方法などが挙げられる。また予め導電性ペーストにカーボンなどの黒色成分を混合しておくことでメッシュパターンを黒化することもできる。
本発明においては、上記のようにして金属メッシュパターンが形成されたフィルム基材の電磁波シールド性能を向上させるため、焼成処理してもよい。この場合の焼成温度は50〜400℃の範囲内で実施することが好ましく、特に好ましい焼成温度範囲は100〜300℃である。上記条件で焼成を行うことにより、導電粒子の焼結が促進され、電磁波シールド特性の一つである電界シールド性能が向上するとともに、金属メッシュの機械的強度が高まり、電磁波シールドフィルムの屈曲耐性が向上する。
【0018】
上記のように、本発明の方法によれば、従来のエッチング処理法による金属メッシュパターンの形成方法と比較して、大幅に工程数を削減することができるとともに、寸法精度が高い微細な金属メッシュパターンを形成することができる。すなわち、本発明によれば、電磁波シールド性および光透過性に優れた電磁波シールドフィルムを、低コストで製造することができる。このような本発明の電磁波シールドフィルムは、たとえば、プラズマディスプレイパネルの前面板フィルターなどに好適に用いることができ、優れた電磁波シールド性を発揮するとともに、ディスプレイの輝度や画質についても向上させることができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
〔実施例1〕
フィルム基材として厚さ100μmのノルボルネン含有樹脂フィルム(JSR(株)製、商品名「ARTON」、サイズ;20cm×20cm、透過率92%)を用い、これに、金属板に格子状の凸部が形成された金型を、フィルムの端面と格子の一辺とのなす角度が45°になるようにプレスして、凹部をフィルム表面に形成した。
凹部が形成されたノルボルネン含有樹脂フィルム基材に、導電性ペーストとして藤倉化成(株)製のドータイトFA353を塗布して加熱することにより、凹部内に銀を主成分とする導電性物質が充填されてなる格子状の金属メッシュパターンが形成された電磁波シールドフィルムを得た。
【0020】
〔実施例2〕
実施例1において、金型として、金属製ロールの表面に格子状の凸部が形成された金型を用いたこと以外は実施例1と同様にして、電磁波シールドフィルムを得た。
〔実施例3〕
実施例1において、導電性ペーストとして下記参考例で得られた導電性ペーストを用いたこと以外は実施例1と同様にして、凹部内に銀を主成分とする導電性物質が充填されてなる格子状の金属メッシュパターンが形成された電磁波シールドフィルムを得た。
<参考例(導電性ペーストの調製)>
エポキシ樹脂であるエピコート1004(油化シェルエポキシ(株)製)10重量部を溶剤であるα−テーピネオール20重量部に溶解させ、樹脂溶液とした。この樹脂溶液に、鱗片状の銀粉であるAg540(昭栄化学工業(株)製)100重量部と、エポキシ硬化剤として2P4MHZ(四国化成工業(株)製)1重量部とを加え、これを3本ロールを用いて1時間混練し、導電性ペーストを得た。
〔実施例4〕
実施例2において、導電性ペーストとして上記参考例で得られた導電性ペーストを用いたこと以外は実施例2と同様にして、凹部内に銀を主成分とする導電性物質が充填されてなる格子状の金属メッシュパターンが形成された電磁波シールドフィルムを得た。
【0021】
〔評価〕
実施例1〜4で得られた電磁波シールドフィルムについて以下の方法で評価を行った。結果を表1に示す。
(外観評価)
形成された金属メッシュパターンの線幅、線間隔、厚みを測定した。
(電磁波シールド性)
関西電子工業振興センター法(KEC法)による評価を実施した。シールドプレートの間に試料を挟み、特定周波数の電磁波を発信させ、試料を通過する電界および磁界を他方で受信し、試料通過による減衰を測定する。測定は、温度22.5℃、湿度64%RH、気圧997hPa、測定100kHz〜1GHzの試験条件で行い、減衰率が20db以上のものを電磁波シールド性「良好」とした。
【0022】
(光透過性)
スガ試験機社製ヘイズメーター「HGM−2DP型」を使用して全光線透過率を測定した。
(表面平滑性)
プラスチィックフィルム上の金属メッシュパターンによる凹凸量を、図1に示すようにフィルムに対して垂直方向に測定した。
(表示特性)
得られた電磁波シールドフィルムを、プラズマディスプレイパネルの前面に、フィルムの端面がディスプレイの走査線方向になるように重ね合わせ、モアレの発生の有無を目視で観察した。
【0023】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例で行った表面平滑性の測定量に関する説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノルボルネン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートまたはポリカーボネートからなるフィルム基材の表面に形成された凹部内に銀および/または銅を含む導電性物質が充填されてなる格子状の金属メッシュパターンを有し、ディスプレイ表面に装着する際に、当該ディスプレイの走査線方向と格子の一辺とのなす角度が10〜60°になるように装着させて用いることを特徴とする、電磁波シールドフィルム。
【請求項2】
前記ノルボルネン系樹脂が、下記式(1)で表される少なくとも1種の化合物を含む単量体を開環重合し、さらに水素添加して得られた樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の電磁波シールドフィルム。
【化1】

[式(1)中、R1〜R4は、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30の炭化水素基またはその他の1価の有機基を表し、R1〜R4のうち少なくとも一つは、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびケイ素原子からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子を1個以上含む1価の極性基である。また、R1とR2および/またはR3とR4が相互に結合してアルキリデン基を形成していてもよく、R1とR2、R3とR4またはR2とR3が相互に結合して炭素環もしくは複素環を形成してもよい。該炭素環もしくは複素環は、単環構造でも多環構造でもよく、また芳香環でも非芳香環でもよい。mは0〜3の整数であり、pは0または1である。]


【図1】
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【公開番号】特開2006−278617(P2006−278617A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−93961(P2005−93961)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】