説明

電磁波シールド層形成用基材の製造方法、及び光透過性電磁波シールド材

【課題】ポットライフに優れた組成物を用いて形成され、耐擦傷性、耐ブロッキング性、印刷インクに対する密着性、及び印刷インクの印刷精度に優れるアンカーコート層を有する電磁波シールド層形成用基材の製造。
【解決手段】透明基材201上に、活性水素を含む基を有する合成樹脂、少なくとも2個のイソシアネート基を有するポリイソシアネート、及び有機金属触媒を含む組成物を塗布し、硬化させることによりアンカーコート層202を形成する工程を有し、前記有機金属触媒の含有量が、前記組成物の全固形分に対して0.5〜1.0質量%である電磁波シールド層形成用基材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネル(PDP)の前面フィルタや、病院などの電磁波シールドを必要とする建築物の窓に用いられ得る貼着用シート等として有用な光透過性電磁波シールド材に好適に用いられる電磁波シールド層形成用基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、OA機器や通信機器等の普及にともない、これらの機器から発生する電磁波によりもたらされる人体への影響が懸念されている。また、携帯電話等の電磁波により精密機器の誤作動などを起こす場合もあり、電磁波は問題視されている。
【0003】
そこで、OA機器のPDPの前面フィルタとして、電磁波シールド性および光透過性を有する光透過性電磁波シールド材が開発され、実用に供されている。このような光透過性電磁波シールド材はまた、電磁波から精密機器を保護するために、病院や研究室等の精密機器設置場所の窓材としても利用されている。
【0004】
この光透過性電磁波シールド材では、光透過性と電磁波シールド性を両立することが必要である。そのために、光透過性電磁波シールド材には、例えば、(1)透明基板の一方の面に、金属線又は導電性繊維を網状にした導電メッシュからなる電磁波シールド層が設けられたものが使用される。この導電性のメッシュの部分によって電磁波がシールドされ、開口部によって光の透過が確保される。
【0005】
この他にも、光透過性電磁波シールド材には、電子ディスプレイ用フィルタとして種々のものが提案されている。例えば、(2)金属銀を含む透明導電薄膜が設けられた透明基板、(3)透明基板上の銅箔等の層を網状にエッチング加工し、開口部を設けたもの、(4)透明基板上に導電性粉末を含む導電性インクをメッシュ状に印刷したもの、等が一般的に知られている。
【0006】
このような電磁波シールド層において、優れた光透過性と電磁波シールド性を両立させるには、メッシュ状の透明電磁波シールド層を用い、極めて線幅を細くし、非常に微細なパターンとする必要がある。しかしながら、前記した従来の光透過性電磁波シールド材では、光透過性と電磁波シールド性を十分に両立させるのが困難であった。すなわち、(1)の光透過性電磁波シールド材では、細線化に限界があり、微細なメッシュパターンを得るのが困難なうえ、目ずれや目曲がりなどの繊維の配列が乱れる問題がある。(2)の光透過性電磁波シールド材の場合、電磁波シールド性が十分ではなく、金属特有の反射光沢が強いなどの問題がある。(3)の光透過性電磁波シールド材では、製造工程が長く、コストが高くなるなどの問題がある。また、(4)の光透過性電磁波シールド材では、十分な電磁波シールド性を得ることが困難であり、電磁波シールド性を向上させるためにパターンを厚くして導電性粉末の量を多くすると、光透過性が低下するなどの問題を有している。
【0007】
しかしながら、前記(4)の光透過性電磁波シールド材の製造は、例えば、金属粉末又はカーボン粉末などの導電性粉末と、樹脂とを含む導電性インクを用い、透明基板上に凹版オフセット印刷法により印刷パターンを形成する方法を用いて行われる。したがって、前記(4)の光透過性電磁波シールド材では、エッチング加工などを必要とせず、簡易な方法かつ低コストで製造できるという利点を有している。
【0008】
そこで、前記(4)の技術を改良したものとして、特許文献1および2では、導電性インクを凹版オフセット印刷法により透明基板上に印刷パターンを形成した後、さらに電磁波シールド性を向上させるために、無電解めっきまたは電解めっきなどにより、前記印刷パターン上に金属層を選択的に形成する方法が開示されている。
【0009】
また、特許文献3では、透明基体に、貴金属超微粒子触媒と反対の表面電荷をもった粒子に前記貴金属超微粒子触媒を担持させて作製した担持体を含有するペーストでパターン印刷を行い、このパターン印刷された貴金属超微粒子触媒上に無電解めっきを施して、パターン印刷部のみに導電性の金属層を形成させる光透過性電磁波シールド材の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3017987号明細書
【特許文献2】特許第3532146号明細書
【特許文献3】特許第3363083号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した特許文献1〜3による光透過性電磁波シールド材では、透明基材上に印刷された導電性インク又は触媒インクなどの印刷インクがダレたり、広がるなどして、印刷インクを精度よく印刷することができず、微細なパターンを有するメッシュ状の電磁波シールド層を形成するのが困難であった。
【0012】
そこで、本出願人は、透明基材上に特定のガラス転移温度及び数平均分子量を有する合成樹脂を含む組成物を用いてアンカーコート層を予め形成し、このアンカーコート層上に特定の無電解メッキ用触媒インクを印刷する方法により、印刷後の触媒インクのダレ、広がりを抑制できることを見出し、先に特許出願した(特願2008−290572号)。
【0013】
しかしながら、上述したアンカーコート層は、耐擦傷性、及び耐ブロッキング性が低く、後工程において、アンカーコート層の表面に傷が生じたり、透明性及び密着性が低下する問題があった。このような問題を解決するために、ポリイソシアネート化合物及び硬化触媒を用いて合成樹脂を架橋する手段が有効と考えられる。当該手段によれば、硬度及び可撓性に優れたアンカーコート層を形成することができる。しかしながら、硬化触媒を用いて合成樹脂が架橋されたアンカーコート層では、触媒インクなどの印刷インクの密着性、印刷精度が低下するだけでなく、組成物が早期に硬化して印刷に適さなくなる(ポットライフの低下)という問題を生じる場合があった。
【0014】
したがって、本発明の目的は、ポットライフに優れた組成物を用いて形成され、耐擦傷性、耐ブロッキング性、印刷インクに対する密着性、及び印刷インクの印刷精度に優れるアンカーコート層を有する電磁波シールド層形成用基材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための本発明の電磁波シールド層形成用基材の製造方法は、透明基材上に、活性水素を含む基を有する合成樹脂、少なくとも2個のイソシアネート基を有するポリイソシアネート、及び有機金属触媒を含む組成物を塗布し、硬化させることによりアンカーコート層を形成する工程を有し、
前記有機金属触媒の含有量が、前記組成物の全固形分に対して0.5〜1.0質量%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法では、活性水素を含む基を有する合成樹脂、少なくとも2個のイソシアネート基を有するポリイソシアネート、及び有機金属触媒を含む組成物を用いることにより、硬度及び可撓性に優れたアンカーコート層を得ることができる。特に、硬化触媒として有機金属触媒を所定量用いることにより、組成物のポットライフを低下させることなく、耐擦傷性、耐ブロッキング性、印刷インクに対する密着性、及び印刷インクの印刷精度に優れるアンカーコート層を形成することが可能となる。
【0017】
したがって、本発明の方法により形成されたアンカーコート層上には、優れた寸法精度でパターン状の電磁波シールド層を形成することが可能となり、これにより電磁波シールド性及び光透過性に優れる光透過性電磁波シールド材を提供することができる。さらに、アンカーコート層が耐擦傷性、耐ブロッキング性に優れることから、光透過性電磁波シールド材の透明性を向上させることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】アンカーコート層を形成する工程の一例を示す説明図である。
【図2】本発明の光透過性電磁波シールド材の製造方法の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の電磁波シールド層形成用基材の製造方法は、透明基材上に、活性水素を含む基を有する合成樹脂、少なくとも2個のイソシアネート基を有するポリイソシアネート、及び有機金属触媒を含む組成物を塗布し、硬化させることによりアンカーコート層を形成することにより行われる。
【0020】
本発明の方法では、特に、有機金属触媒の含有量を、組成物の全固形分に対して、0.5〜1.0質量%、より好ましくは0.5〜0.7質量%とすることを特徴とする。このような量で有機金属触媒を使用することにより、合成樹脂を適度に架橋させることができ、耐擦傷性、耐ブロッキング性、印刷インク(特に、無電解めっき前処理剤)に対する密着性、及び印刷インクの印刷精度に優れるアンカーコート層を形成することが可能となる。さらに、組成物は、ポットライフが十分に長く、長期信頼性に優れる。
【0021】
なお、組成物の固形分とは、有機溶剤などアンカーコート層を形成する際に蒸発する成分を除いたものを意味し、例えば、合成樹脂、ポリイソシアネート、及び有機金属触媒などが挙げられる。
【0022】
有機金属触媒としては、有機スズ触媒、及び有機チタン触媒が好ましく用いられるこれらの触媒を使用することにより、耐擦傷性及び耐ブロッキング性に優れるアンカーコート層を形成することが可能となる。
【0023】
有機チタン触媒としては、テトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネート、ジイソプロポキシチタンビス(アセチルアセトネート)、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン、1,3−プロパンジオキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、ジオキシチタンビスチタンエチルアセトアセテート、チタンテトラアセチルアセトナートなどのチタン化合物が挙げられる。
【0024】
有機スズ触媒としては、ジアルキルスズジカルボキシレート、テトラブチルスズ、四塩化スズ、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、モノブチルスズオキサイド、ジブチルスズオキサイド、テトラオクチルスズ、ジオクチルスズジクロライド、ジオクチルスズオキサイド、テトラメチルスズ、オクチル酸第一スズなどのスズ化合物が挙げられる。
【0025】
上述した有機金属触媒は、一種単独で用いられてもよく、二種以上を併用することもできる。
【0026】
なかでも、有機金属触媒としては、ジアルキルスズジカルボキシレートが特に好ましく用いられる。ジアルキルスズジカルボキシレートは、具体的には、下記式(1)
【0027】
【化1】

【0028】
(式中、R1は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ炭素原子数が1〜10個、特に3〜10個のアルキル基を表し、R2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ炭素原子数が10〜20個、特に10〜15個のアルキル基を表す)で示される。このようなジアルキルスズジカルボキシレートを用いることにより、印刷インク(特に、無電解めっき前処理剤)を優れた精度で印刷することができるアンカーコート層を形成することが可能となる。
【0029】
式(1)で示されるジアルキルスズジカルボキシレートとしては、ジメチルスズジラウレート、ジエチルスズジラウレート、ジブチルスズジラウレート、及びジオクチルスズジラウレートが好ましく挙げられる。なかでも、ジブチルスズジラウレートが特に好ましい。
【0030】
本発明の方法に用いられる組成物は、活性水素を含む基を有する合成樹脂を含む。前記活性水素を含む基としては、ヒドロキシル基、1級アミノ基、2級アミノ基、カルボキシル基等を挙げることができ、ヒドロキシル基が好ましい。
【0031】
活性水素を含む基の当量(例、ヒドロキシル価)は、樹脂(1g)に対して0.5〜10mgKOH/g、特に0.5〜5mgKOH/gの範囲が好ましい。これにより、アンカーコート層において合成樹脂を適度に架橋させることができる。
【0032】
合成樹脂として、具体的には、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、及びセルロース樹脂を好ましく挙げることができる。これらは単独で使用しても、2種以上混合して使用しても良い。また他の樹脂を少量(20質量%以下程度)併用しても良い。なかでもポリエステル樹脂が特に好ましい。
【0033】
ポリエステル樹脂としては、多価アルコールと二塩基酸とを縮合反応させて得られる不飽和ポリエステル樹脂が挙げられる。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタングリコール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールA、及びグリセリンなどが挙げられる。二塩基酸としては、無水マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、無水フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸などが挙げられる。
【0034】
ポリエステル樹脂の数平均分子量Mnは、10,000〜40,000、好ましくは10,000〜35,000、特に好ましくは10,000〜30,000の範囲内であるのが好ましい。このようなポリエステル樹脂を使用することにより、印刷インクの印刷精度に優れるアンカーコート層を形成することができる。
【0035】
本発明の方法に用いられる組成物は、少なくとも2個のイソシアネート基を有するポリイソシアネートを含む。前記ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート(TDI)、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート(クルードMDI)などの芳香族系ポリイソシアネート;ジシクロペンタニルジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4'−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、及び2,2',4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートを挙げることができる。またトリメチロールプロパンのTDI付加体等の3官能以上のイソシアネート化合物等のポリイソシアネートも使用することができる。これらの中で芳香族系ポリイソシアネート、特にポリメチレンポリフェニルイソシアネートが好ましい。
【0036】
ポリイソシアネート、特にポリメチレンポリフェニルイソシアネートの分子量は500以下、特に200〜400であるのが好ましい。
【0037】
イソシアネート基の濃度は、組成物の全固形分に対して、1〜10質量%、特に1〜5質量%であるのが好ましい。イソシアネート基の濃度が、10質量%を超えると十分なポットライフを有する組成物が得られない恐れがあり、1質量%未満であると合成樹脂が十分に架橋できず、アンカーコート層の可撓性が低下する恐れがある。したがって、このようなイソシアネート基の濃度となるようにポリイソシアネートを使用するのが好ましい。
【0038】
組成物は、シリコーンオイルをさらに含むのが好ましい。シリコーンオイルを使用することにより、印刷インクの印刷精度に優れるアンカーコート層を形成することができる。
【0039】
シリコーンオイルの含有量は、合成樹脂100質量部に対して、0.001〜1.0質量部、特に0.005〜0.5質量部とするのが好ましい。
【0040】
シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、及びエポキシ変性シリコーンオイルを挙げることができる。なかでも、ジメチルシリコーンオイルが好ましい。
【0041】
ジメチルシリコーンオイルは、一般に、末端、側鎖がメチル基のジメチルポリシロキサンであり、メチルフェニルシリコーンオイルは、末端、側鎖がメチル基のジメチルポリシロキサンの側基のメチル基の一部がフェニル基に置き換わったフェニル化ポリシロキサンであり、メチルハイドロジェンシリコーンオイルは末端、側鎖がメチル基のジメチルポリシロキサンの側基のメチル基の一部が水素に置き換わった水素化ポリシロキサンであり、これらは一般に直鎖状シリコーンオイルである。
【0042】
アルキル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、及びエポキシ変性シリコーンオイルは、一般に、上記ポリシロキサンの末端又は側鎖の一部が有機基(ポリエーテル基、アルキル基又はエポキシ基)に置き換わった変性ポリシロキサンである。
【0043】
組成物は、有機溶剤をさらに含むのが好ましい。また、前記組成物には、フィラー、界面活性剤などを適宜添加してもよい。
【0044】
前記有機溶剤としては、例えば、トルエン、酢酸エチル、酢酸イソブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、キシレン、酢酸n−ブチル、セロソルブ、セロソルブアセテート、n−ブタノール、イソブタノール、及びシクロヘキサノンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0045】
有機溶剤の含有量は、合成樹脂100質量部に対して、500〜2000質量部、特に500〜1500質量部とするのが好ましい。このような量で有機溶剤を使用することにより、十分に長いポットライフを有する組成物が得られる。
【0046】
アンカーコート層は、透明基材上に、合成樹脂、ポリイソシアネート、有機金属触媒、及び必要に応じてシリコーンオイルを含む組成物を塗布、硬化させることにより形成される。本発明の方法において、アンカーコート層を形成する工程は、長尺状の透明基材の走行下、前記長尺状の透明基材上に前記組成物を塗布し、硬化させた後、前記長尺状の透明基材を巻き取ることにより行われるのが好ましい。このように長尺状の透明基材を走行させるには、図1に示すように、ロール・トゥー・ロール(roll to roll)方式を用いて行うのが特に好ましい。
【0047】
ロール・トゥー・ロール方式は、次のように行われる。長尺状の透明基材101を巻き取ったロール100Aから透明基材101を引き出し、透明基材101の走行下、前記透明基材上にアンカーコート層形成用組成物を塗工装置110により塗工した後、硬化させることによりアンカーコート層102を形成する。塗布した組成物を硬化させるには、加熱などを行う硬化装置111により行うのが好ましい。その後、アンカーコート層102を有する長尺状の透明基材101を再度ロール状に巻き取り、ロール100Bを得る。
【0048】
アンカーコート層は、上述した手段を用いることにより効率よく量産することができる。形成したアンカーコート層をロール状に巻き取ると、傷やブロッキングの発生が特に生じやすい。しかしながら、本発明のアンカーコート層は耐擦傷性、耐ブロッキング性などに優れることから、傷やブロッキングの発生を高く抑制することができる。
【0049】
組成物の塗布方法としては、グラビアコート、マイクログラビアコート、ダイコート、リップコート、ロールリバースコート、ワイヤーバーコート、キスコートなど、既存のコーティング法のいずれでも採用することができる。
【0050】
塗布した組成物を硬化させるには、常温でも可能であり、その場合、例えば1〜5日(特に2〜4日)の間放置する。しかしながら、透明基材上に塗布した組成物は、80〜140℃、特に90〜120℃に加熱して、硬化させるのが好ましい。この際の加熱時間は、0.5〜5分、特に0.5〜3分程度とするのが好ましい。これにより合成樹脂を適度に架橋することができ、各種特性に優れたアンカーコート層を形成することができる。
【0051】
アンカーコート層の厚さは、0.1〜1μm、特に0.1〜0.5μmが好ましい。このような厚さを有するアンカーコート層は、可撓性、耐擦傷性、及び耐ブロッキング性に優れる。
【0052】
本発明の方法により形成されたアンカーコート層は、上述した通り、印刷インクに対する密着性、及び印刷インクの印刷精度に優れる。したがって、前記アンカーコート層上には、線幅や厚さが均一な、寸法精度の優れた(即ち、設計寸法との差がほとんど無い)パターン状の電磁波シールド層を形成することが可能となる。このようなアンカーコート層を有する透明基材は、電磁波シールド層形成用基材として用いられる。また、電磁波シールド層がアンカーコート層上に形成された電磁波シールド層形成用基材は、光透過性電磁波シールド材として用いられる。
【0053】
アンカーコート層上に電磁波シールド層を形成するには、アンカーコート層が印刷インクなどの種々のインクに対して優れた密着性及び印刷精度を有することから、印刷インクを用いた従来公知の方法を用いて行うことができる。特に、本発明では、電磁波シールド層は、上述した方法により形成されたアンカーコート層上に無電解めっき前処理剤を所定のパターン状に印刷した後、無電解めっきすることにより形成されるのが好ましい。
【0054】
すなわち、本発明では、図2に示すように、
上述した方法により透明基材201上アンカーコート層202を形成する工程(矢印A)、
アンカーコート層202上に無電解めっき前処理剤をメッシュ状に印刷して、パターン状の前処理層203を形成する工程(矢印B)、及び
前処理層203上に、無電解めっきにより、パターン状の電磁波シールド層204を形成する工程(矢印C)、
を有する方法によりアンカーコート層上に電磁波シールド層を形成するのが特に好ましい。
【0055】
アンカーコート層は、無電解めっき前処理剤(印刷インク)に対して優れた密着性を有し、アンカーコート層上に線幅や厚さが均一な、寸法精度の優れた(即ち、設計寸法との差がほとんど無い)パターン状の前処理層を形成することができる。したがって、上述した方法によれば、パターン状の電磁波シールド層を高精度で且つ簡易に形成することができ、これにより光透過性及び電磁波シールド性に優れる光透過性電磁波シールド材を提供することができる。
【0056】
パターン状の前処理層を形成する工程において、無電解めっき前処理剤としては、複合金属酸化物及び/又は複合金属酸化物水化物と、バインダー樹脂とを含む無電解めっき前処理剤(A)が特に好ましい。このような前処理剤(A)は、アンカーコート層に対して優れた密着性を有する。前処理剤(A)中で複合金属酸化物及び複合金属酸化物水化物は安定性及び分散性に優れ、これらが印刷時に均一に固着することにより、前処理剤(A)をほぼ設計通りの寸法の形状でアンカーコート層上に印刷することが可能となる。
【0057】
複合金属酸化物及び複合金属酸化物水化物としては、Pd、Ag、Si、Ti及びZrよりなる群から選択される少なくとも2種の金属元素を含むものが好ましく用いられる。より好ましくは、Pd又はAgの金属元素と、Si、Ti又はZrの金属元素とを含むものが挙げられる。このような複合金属酸化物及び複合金属酸化物水化物は、高いめっき金属析出能力を有し、さらに前処理剤(A)中での安定性及び分散性に優れた特性を有する。
【0058】
なかでも、前記特性が特に優れることから、下記式(2)
【0059】
【化2】

【0060】
(式中、M1はPd又はAgを表し、M2はSi、Ti又はZrを表し、M1がPdである場合、xは1であり、M1がAgである場合、xは2であり、nは1〜20の整数である)で示される複合金属酸化物水化物を用いるのが特に好ましい。
【0061】
前記式(I)において、M1はPd又はAgであるが、Pdであるのが好ましい。また、M2はSi、Ti又はZrであるが、Tiであるのが好ましい。これにより、高いめっき析出能力を有する複合金属酸化物水水化物が得られる。
【0062】
前記複合金属酸化物水化物として具体的には、PdSiO3、Ag2SiO3、PdTiO3、Ag2TiO3、PdZrO3及びAg2TiO3などの水化物が挙げられる。
【0063】
上述した複合金属酸化物水化物は、それぞれの相当する金属塩、例えば塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物、オキシハロゲン化物、相当する金属酸化物の水和物等を原料とし、これらを加熱し、加水分解する方法などを用いることによって得られる。
【0064】
また、前記複合金属酸化物としては、M1X・M23(M1、M2及びXについては、上記式(2)と同義である)で示されるものが好ましく用いられる。
【0065】
複合金属酸化物及び前記複合金属酸化物水化物の平均粒子径は、0.01〜10μm、特に0.05〜3μmであるのが好ましい。これにより、凝集が抑制された高い分散性および触媒活性を有する複合金属酸化物及び前記複合金属酸化物水化物とすることができる。
【0066】
なお、本発明において、前記複合金属酸化物及び前記複合金属酸化物水化物の平均粒子径は、前処理層の断面を電子顕微鏡(好ましくは透過型電子顕微鏡)により倍率100万倍程度で観測し、少なくとも100個の複合金属酸化物及び前記複合金属酸化物水化物の投影面積円相当径を求め、その数平均値とする。
【0067】
複合金属酸化物及び複合金属酸化物水化物の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、好ましくは10〜100質量部、より好ましくは10〜70質量部とするのが好ましい。前記含有量が、10質量部未満では十分なめっき析出能力が得られない恐れがあり、100質量部を超えるとこれらの複合金属酸化物の凝集に基づくスジやカブリが形成する恐れがある。
【0068】
前記無電解めっき前処理剤(A)は、バインダー樹脂を含む。これにより、前処理層のアンカーコート層及び電磁波シールド層との密着性を向上させることができ、前処理層が剥離し難くなり、電磁波シールド層をより精度よく形成することが可能となる。
【0069】
前記バインダー樹脂は、アンカーコート層および電磁波シールド層との密着性を確保できるものであれば、特に制限されない。前記バインダー樹脂として、好ましくは、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、およびエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂などが挙げられる。特に、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂が好ましい。これらによれば、アンカーコート層及び電磁波シールド層との高い密着性が得られ、前処理層上に電磁波シールド層を精度よく形成することができる。また、これらのバインダー樹脂は、1種単独で用いられてもよいほか、2種以上を混合して用いてもよい。
【0070】
なお、バインダー樹脂としてのポリエステル樹脂としては、アンカーコート層に使用される合成樹脂として上述したのと同様のものが挙げられる。
【0071】
バインダー樹脂の含有量は、無電解めっき前処理剤(A)の全量に対して、10〜100質量%、特に10〜30質量%とするのが好ましい。これにより、高い密着性を有する前処理層を形成することが可能となる。
【0072】
無電解めっき前処理剤(A)は、ポリイソシアネート化合物などの硬化剤をさらに含んでいるのが好ましい。
【0073】
また、無電解めっき前処理剤(A)は、さらに無機微粒子を含んでいてもよい。無機微粒子を含有することにより、印刷精度を向上することができ、より精度の高い電磁波シールド層を形成することが可能となる。前記無機微粒子としては、シリカ、炭酸カルシウム、アルミナ、タルク、マイカ、ガラスフレーク、金属ウィスカー、セラミッックウィスカー、硫酸カルシウムウィスカー、スメクタイト等が好ましく挙げられる。これらは、1種単独で用いられてもよい他、2種以上を混合して用いてもよい。
【0074】
無機微粒子の平均粒子径は、0.01〜5μm、特に0.1〜3μmとするのが好ましい。無機微粒子の平均粒子径が、0.01μm未満であると無機微粒子の添加により所望するほどの印刷精度の向上が得られない恐れがあり、5μmを超えるとスジやカブリが発生し易くなる恐れがある。
【0075】
無電解めっき前処理剤(A)における無機微粒子の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、10〜100質量部、特に10〜30質量部とするのが好ましい。これにより、高い印刷適正を持った前処理剤とすることができる。
【0076】
また、無電解めっき前処理剤(A)は、さらにチキソトロピック剤を含有してもよい。チキソトロピック剤によれば、前処理剤の流動性を調整することにより印刷精度を向上させることができ、より精度の高い電磁波シールド層を形成することが可能となる。チキソトロピック剤としては、従来公知のものであれば使用できる。好ましくは、アマイドワックス、硬化ひまし油、蜜ロウ、カルナバワックス、ステアリン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸エチレンビスアミド等を使用することができる。
【0077】
無電解めっき前処理剤(A)におけるチキソトロピック剤の含有量は、前記バインダー樹脂100質量部に対して、0.1〜20質量部、特に1〜15質量部とするのが好ましい。これにより、高い印刷適正を持った前処理剤とすることができる。
【0078】
本発明の無電解めっき前処理剤(A)は、黒色着色剤をさらに含有していてもよい。これにより、印刷精度の向上とともに、得られる光透過性電磁波シールド材において透明基材側から見た際の防眩効果を付与することができる。
【0079】
黒色着色剤としては、カーボンブラック、チタンブラック、黒色酸化鉄、黒鉛、および活性炭などが好ましく挙げられる。これらは、1種単独で用いられてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。なかでも、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック等が挙げられる。カーボンブラックの平均粒径は、好ましくは0.1〜1,000nm、特に好ましくは5〜500nmである。
【0080】
無電解めっき前処理剤(A)における黒色着色剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、0.1〜10質量部、特に1〜5質量部とするのが好ましい。これにより、防眩効果を有する前処理層を精度よく形成することが可能となる。
【0081】
黒色着色剤を用いる場合、市販されている墨インキを用いて無電解めっき前処理剤(A)を調製するのが好ましい。このような墨インキとしては、東洋インキ製造株式会社製 SS8911、十条ケミカル株式会社製 EXG−3590、大日精化工業株式会社製 NTハイラミック 795R墨などがある。例えば、東洋インキ製造株式会社製 SS8911の場合、溶剤中に、カーボンブラックの他、さらに塩化ビニルおよびアクリル樹脂などを含む。したがって、前記した市販品であれば、バインダー樹脂および黒色着色剤を含む無電解めっき前処理剤の調製を容易に行うことができる。
【0082】
また、無電解めっき前処理剤(A)は、有機溶剤を含んでいるのが好ましい。前記有機溶剤としては、具体的には、トルエン、酢酸エチル、酢酸イソブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、キシレン、酢酸n−ブチル、セロソルブ、セロソルブアセテート、n−ブタノール、イソブタノール、及びシクロヘキサノンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。これらの有機溶剤であれば、印刷された無電解めっき前処理剤に含まれる有機溶剤がアンカーコート層に吸収されても、アンカーコート層と透明基材との優れた密着性を確保することができる。
【0083】
前記無電解めっき前処理剤(A)には、必要に応じて体質顔料、界面活性剤などの各種添加剤をさらに含有させてもよい。
【0084】
無電解めっき前処理剤(A)の粘度は、印刷により微細な線幅および間隙(ピッチ)を有する前処理層を得るためには、25℃において、好ましくは500〜5000cps、より好ましくは1000〜3000cpsとするのがよい。
【0085】
また、本発明の方法では、シランカップリング剤とアゾール系化合物との混合物又は反応生成物、及び貴金属化合物を含む無電解めっき前処理剤(B)も好ましく用いられる。このような無電解めっき前処理剤(B)も、上記無電解めっき前処理剤(A)と同様に、アンカーコート層上にパターン状に印刷することにより、パターン状の前処理層をほぼ設計通りの寸法形状で形成することができる。
【0086】
無電解めっき前処理剤(B)に用いられるシランカップリング剤は、一分子中に金属補足能を持つ官能基を有するものを用いるのが好ましい。これにより、無電解めっき触媒である貴金属化合物の活性を効果的に発現する電子状態、配向とすることが可能となり、被めっき材との高い密着性が得られる。
【0087】
シランカップリング剤として、エポキシ基含有シラン化合物を好ましく挙げることができる。前記エポキシ基含有シラン化合物としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。特に、得られる前処理層がアンカーコート層および電磁波シールド層と高い密着性を呈することから、γ−グリシドキシプロピルトリアルコキシシランが好ましく挙げられる。
【0088】
次に、無電解めっき前処理剤(B)に用いられるアゾール系化合物としては、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、セレナゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、トリアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、テトラゾール、オキサトリアゾール、チアトリアゾール、ベンダゾール、インダゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、インダゾールなどが挙げられる。これらに制限されるものではないが、シランカップリング剤が有するエポキシ基などの官能基および貴金属化合物との反応性に優れることから、イミダゾールが特に好ましい。
【0089】
無電解めっき前処理剤(B)において、シランカップリング剤およびアゾール系化合物は単に混合されているだけでもよいが、これらを予め反応させて反応生成物を形成してもよい。これにより、貴金属化合物を前処理層中により高分散できるとともに、得られる前処理層の光透過性を向上させることができる。
【0090】
シランカップリング剤と前記アゾール系化合物とを反応させるには、例えば、80〜200℃でアゾール系化合物1モルに対して0.1〜10モルのシランカップリング剤を混合して5分〜2時間反応させるのが好ましい。その際、溶媒は特に不要であるが、水の他、クロロホルム、ジオキサンメタノール、エタノール等の有機溶媒を用いてもよい。このようにして得られた前記シランカップリング剤と前記アゾール系化合物との反応生成物に、貴金属化合物を混合することで、無電解めっき前処理剤が得られる。
【0091】
次に、無電解めっき前処理剤(B)に用いられる貴金属化合物は、無電解めっき処理において銅やアルミニウムなどの金属を選択的に析出・成長させることができる触媒効果を示すものである。具体的には、高い触媒活性が得られることから、パラジウム、銀、白金、及び金などの金属原子を含む化合物を用いるのが好ましい。前記化合物としては、前記金属原子の塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、アンモニウム塩などのアンミン錯体などが用いられるが、特にパラジウム化合物、中でも塩化パラジウムが好ましい。
【0092】
無電解めっき前処理剤(B)は、アゾール系化合物およびシランカップリング剤に対し、貴金属化合物を、好ましくは0.001〜50mol%、より好ましくは0.1〜20mol%含むのがよい。貴金属化合物の濃度が、0.001mol%未満では十分な触媒活性が得られずに所望する厚さを有する電磁波シールド層を形成できない恐れがあり、50mol%を超えると添加量の増加に見合った貴金属化合物による触媒効果が得られない恐れがある。
【0093】
また、無電解めっき前処理剤(B)は、有機溶剤を含んでいるのが好ましい。有機溶剤としては、上述した無電解めっき前処理剤(A)と同じものが用いられる。無電解めっき前処理剤(A)には、必要に応じて体質顔料、界面活性剤、着色剤などの各種添加剤をさらに含有させてもよい。
【0094】
無電解めっき前処理剤(B)の粘度は、印刷により微細な線幅および間隙(ピッチ)を有する前処理層を得るためには、25℃において、好ましくは500〜5000cps、より好ましくは1000〜3000cpsとするのがよい。
【0095】
本発明の方法では、上述した無電解めっき前処理剤(A)又は(B)、特に無電解めっき前処理剤(A)を、アンカーコート層上にパターン状に印刷することにより、アンカーコート層上にパターン状の前処理層を形成する。これにより、簡易な方法で所望する微細なパターンを有する前処理層を形成することができる。
【0096】
無電解めっき前処理剤(A)又は(B)をアンカーコート層に印刷するには、グラビア印刷、フレキソ印刷、グラビアオフセット印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、静電印刷等の印刷方法を用いることができる。特に、細線化のためには、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷が好適である。グラビア印刷を用いる場合、印刷速度は5〜50m/分とするのがよい。
【0097】
このように無電解めっき前処理剤(A)又は(B)を印刷した後、好ましくは80〜160℃、より好ましくは90〜130℃で加熱することにより乾燥させるのがよい。乾燥温度が80℃未満では、溶媒の蒸発速度が遅く十分な成膜性が得られない恐れがあり、160℃を超えると化合物の熱分解が生じる恐れがある。塗布後に熱乾燥させる場合の乾燥時間は5秒〜5分が好ましい。
【0098】
前処理層のパターン形状は、所望する電磁波シールド層が得られるように適宜決定すればよいが、ストライプ状及びメッシュ状(格子状を含む)、特にメッシュ状であるのが好ましい。
【0099】
前処理層におけるメッシュパターンの形状には特に制限はなく、例えば四角形の開口部が形成された格子状や、円形、六角形、三角形又は楕円形の開口部が形成されたパンチングメタル状などが挙げられる。また、開口部は規則的に並んだものに限らず、ランダムパターンとしても良い。
【0100】
メッシュ状の前処理層の線幅は、一般に25μm以下、好ましくは5〜20μmで、特に5〜15μmを有する。線のピッチは300μm以下が好ましい。また、開口率は75〜95%であることが好ましく、特に80〜95%である。なお、開口率とは、前処理層の投影面積における開口部分が占める割合をいう。
【0101】
前処理層の線で囲まれた開口部の形状は、円、楕円、角形(4角形、6角形)など任意の形状とすることができるが、一般に角形であり、特に正方形であることが好ましい。
【0102】
前記前処理層の厚さは、0.01〜5μm、好ましくは0.1〜2μmとするのがよい。これにより、アンカーコート層及び電磁波シールド層との高い密着性を確保することができる。
【0103】
無電解めっき前処理剤(A)を用いてパターン状の前処理層を形成する工程を実施した場合、前記工程の後、パターン状の電磁波シールド層を形成する工程の前に、前記前処理層に還元処理を行う工程を実施するのが好ましい。還元処理することで、前記前処理層に含まれる無電解めっき触媒である複合金属酸化物及び複合金属酸化物水化物に含まれる金属種を還元し、活性成分である金属種のみを超微粒子状で均一に析出させることができる。このように還元析出した金属種は、高い触媒活性を有し且つ安定であることから、前処理層とアンカーコート層との密着性及び無電解めっきの析出速度を向上させ、さらには複合金属酸化物及び複合金属酸化物水化物の使用量を少なくすることが可能となる。
【0104】
還元処理は、前処理層に含まれる複合金属酸化物及び前記複合金属酸化物水化物を還元して金属化できる方法であれば特に制限されない。具体的には、(i)前処理層が形成された透明基材を、還元剤を含む溶液を用いて処理する液相還元法、(ii)前処理層が形成された透明基材を、還元性ガスと接触させる気相還元法などが好ましく用いられる。
【0105】
液相還元法において還元剤を含む溶液を用いて処理する方法として、具体的には、前処理層が形成された透明基材を還元剤を含む溶液中に浸漬させる方法、透明基材の前処理層が形成された面に還元剤を含む溶液をスプレーする方法などが用いられる。
【0106】
還元剤を含む溶液は、所定の還元剤を水などの溶媒に分散又は溶解させて調製されるものである。還元剤としては、特に制限されないが、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルアクリルアミド、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、ブドウ糖、アミノボラン、ジメチルアミンボラン(DMAB)、トリメチルアミンボラン(TMAB)、ヒドラジン、ジエチルアミンボラン、ホルムアルデヒド、グリオキシル酸、イミダゾール、アスコルビン酸、ヒドロキシルアミン、硫酸ヒドロキシルアミン、塩酸ヒドロキシルアミン、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウムなどの次亜リン酸塩、硫酸ヒドロキシルアミン、亜硫酸ナトリウムなどの亜硫酸塩、ハイドロサルファイト(Na224:亜二チオン酸ナトリウムともいう)等が挙げられる。還元剤は、後工程で用いる無電解めっき浴中に含まれる還元剤と同一のものを用いると、還元処理後の透明基材を水洗処理することなく無電解めっきを行うことができ、また無電解めっき浴の組成を変化させる恐れも少ない。
【0107】
還元剤としては、高い還元性が得られることから、アミノボラン、ジメチルアミンボラン、次亜リン酸ナトリウム、硫酸ヒドロキシルアミン、ハイドロサルファイト、及びホルマリンを用いるのが好ましい。
【0108】
還元剤を含む溶液における還元剤の含有量は、0.01〜200g/L、特に0.1〜100g/Lとするのが好ましい。還元剤の濃度が低すぎる場合には十分に還元処理を行うのに所要時間が長くなる恐れがあり、還元剤の濃度が高すぎる場合には析出させためっき触媒が脱落する恐れがある。
【0109】
液相還元法において還元剤を含む溶液を用いて処理する方法としては、前処理層に含まれる複合金属酸化物及び複合金属酸化物水化物の高い還元性が得られることから、前処理層が形成された透明基材を還元剤を含む溶液中に浸漬させる方法を用いるのが好ましい。
【0110】
透明基材を浸漬させる場合、還元剤を含む溶液の温度は、20〜90℃、特に50〜80℃とするのが好ましい。また、浸漬時間は、少なくとも1分以上、好ましくは1〜10分程度とすればよい。
【0111】
一方、気相還元法を用いて還元処理を行う場合、還元性ガスとしては、水素ガス、ジボランガスなど、還元性を有する気体であれば特に制限されない。還元ガスを用いた還元処理時の反応温度および反応時間は、使用する還元ガスの種類などに応じて適宜決定すればよい。
【0112】
次に、上述の通りに形成した前処理層上に、無電解めっき処理により、パターン状の電磁波シールド層を形成する工程を実施する。無電解めっき処理を行うことにより、微細な金属粒子が濃密で実質的な連続皮膜として沈積形成されて、前処理層上のみに選択的に電磁波シールド層を得ることが可能となる。
【0113】
めっき金属は、導電性を有してメッキ可能である金属であれば使用することができ、金属単体、合金、導電性金属酸化物等であってもよく、均一な金属薄膜又は一様に塗布された微細な微粒子等からなるものであってもよい。
【0114】
無電解めっきにおけるめっき金属としては、アルミニウム、ニッケル、インジウム、クロム、金、バナジウム、スズ、カドミウム、銀、白金、銅、チタン、コバルト、鉛等を用いることができる。特に、高い電磁波シールド性が得られる導電層が得られることから、好ましくは、銀、銅又はアルミニウムが好ましく用いられる。これらのめっき金属を用いて形成される電磁波シールド層は、前処理層との密着性に優れる他、光透過性と電磁波シールド性の両立に好適である。
【0115】
無電解めっきは、無電解めっき浴を用いて常法に従って常温または加温下で行うことができる。即ち、めっき金属塩、キレート剤、pH調整剤、還元剤などを基本組成として含むめっき液を建浴したものにめっき基材を浸漬して行うか、構成めっき液を2液以上と分けて添加方式でめっき処理を施すなど適宜選択すれば良い。
【0116】
無電解めっきとして一例を挙げると、Cuからなる電磁波シールド層を形成する場合、硫酸銅等の水溶性銅塩1〜100g/L、特に5〜50g/L、ホルムアルデヒド等の還元剤0.5〜10g/L、特に1〜5g/L、EDTA等の錯化剤20〜100g/L、特に30〜70g/Lを含み、pH12〜13.5、特に12.5〜13に調整した溶液に、前処理層及びアンカーコート層を有する透明基材を50〜90℃、30秒〜60分浸漬する方法を採用することができる。
【0117】
無電解めっきをする際に、めっきされる基板を揺動、回転させたり、その近傍を空気撹拌させたりしてもよい。
【0118】
電磁波シールド層のパターン形状は、ストライプ状及びメッシュ状(格子状を含む)、特にメッシュ状であるのが好ましい。これらのパターンを有する電磁波シールド層は、パターン形成部分により導電性を確保でき、開口部によって光の透過を確保できる。
【0119】
電磁波シールド層におけるメッシュパターンの形状には特に制限はなく、例えば四角形の開口部が形成された格子状や、円形、六角形、三角形又は楕円形の開口部が形成されたパンチングメタル状などが挙げられる。また、開口部は規則的に並んだものに限らず、ランダムパターンとしても良い。
【0120】
メッシュ状の電磁波シールド層の線幅は、一般に25μm以下、好ましくは5〜20μmで、特に5〜15μmを有する。線のピッチは300μm以下が好ましい。また、開口率は75〜95%であることが好ましく、特に80〜95%である。なお、開口率とは、電磁波シールド層の投影面積における開口部分が占める割合をいう。
【0121】
電磁波シールド層の線で囲まれた開口部の形状は、円、楕円、角形(4角形、6角形)など任意の形状とすることができるが、一般に角形であり、特に正方形であることが好ましい。
【0122】
本発明の方法では、パターン状の電磁波シールド層を形成する工程の後、電気めっき処理を行って前記電磁波シールド層上に金属めっき層を形成しても良い。
【0123】
電気めっき処理に用いる材質としては、金属めっき層が優れた電磁波シールド効果を有するものであればよく特に制限はないが、例えば、銅、ニッケル、クロム、亜鉛、スズ、銀、及び、金等の金属が挙げられる。これらは、1種単独で使用されてもよく、2種以上の合金として使用されてもよい。
【0124】
金属めっき層の厚さは、0.1〜10μmが好ましく、2〜5μmがより好ましい。前記厚みが0.1μm未満であると、充分な電磁波シールド効果を付与できないことがある一方、10μmを超えると、電気めっき層が巾方向にも広がることから、線幅が太くなり、電磁波シールド層の開口率が低くなってしまうことがある。
【0125】
金属めっき層の表面抵抗率は、3Ω/□以下が好ましく、1Ω/□以下がより好ましい。金属めっき層の表面抵抗率が3Ω/□を超えると、導電性が不充分で、電磁波シールド効果が不充分となることがある。
【0126】
また、メッシュ状の電磁波シールド層、又は金属めっき層には、黒化処理を行っても良く、例えば、金属膜の酸化処理、クロム合金等の黒色メッキ、黒又は暗色系インキの塗布等を行うことができる。
【0127】
本発明の方法では、上述した通り、アンカーコート層を形成する工程、前処理層を形成する工程、電磁波シールド層を形成する工程、並びに必要に応じて、金属メッキ層を形成する工程、及び黒化処理を行う工程など各工程を行う。一方、図1に示される形態のように、アンカーコート層が形成された長尺状の透明基材を巻き取ったロールを作製した場合、後工程は、前記ロールからアンカーコート層が形成された長尺状の透明基材の走行下で実施するのが好ましい。アンカーコート層が形成された長尺状の透明基材は、後工程において、矩形状など、用途に応じた形状に裁断される。このように長尺状の透明基材を裁断する時期は、特に制限されないが、後の全工程を実施した後に行うのが特に好ましい。
【0128】
上述した本発明の方法により得られる光透過性電磁波シールド材は、透明基材と、前記透明基材上に形成されたアンカーコート層と、前記アンカーコート層上に形成されたパターン状の前処理層と、前記パターン状の前処理層上に形成されたパターン状の電磁波シールド層を有し、
前記アンカーコート層が、活性水素を含む基を有する合成樹脂、少なくとも2個のイソシアネート基を有するポリイソシアネート、及び有機金属触媒を含む組成物の硬化層からなり、
前記有機金属触媒の含有量が、前記組成物の全固形分に対して0.5〜1.0質量%であることを特徴とする。
【0129】
このような本発明の光透過性電磁波シールド材は、透明基材上に形成されたアンカーコート層によって、無電解めっき前処理剤を、ダレ、ハジキ等が発生することなく、高い精度で印刷することができる。これにより、線幅や厚さが均一な、寸法精度の優れた(即ち、設計寸法との差がほとんど無い)メッシュ状の前処理層を容易に形成することができ、メッシュ状の電磁波シールド層の形状も寸法精度の優れたものが得られる。したがって、本発明の方法により得られる光透過性電磁波シールド材は、電磁波シールド性や光透過性に優れる。
【0130】
本発明の光透過性電磁波シールド材は、電磁波シールド性及び光透過性が要求される用途、例えば電磁波を発生する各種電気機器のLCD、PDP、CRT等のディスプレイ装置のディスプレイ面、又は施設や家屋の透明ガラス面や透明パネル面に好適に適用される。この他にも、タッチパネル、光透過スイッチ、などのパネルスイッチ、ノイズ対策部品、発熱体、有機エレクトロルミネッセンス用電極、バックライト用電極などにも適用できる。なかでも、高い光透過性及び電磁波シールド性を有しているので、前述したディスプレイ装置のディスプレイ用フィルタに好適に用いられる光透過性電磁波シールド材として用いられるのが好ましい。
【0131】
本発明の光透過性電磁波シールド材をディスプレイ用フィルタとして使用する場合、光透過性電磁波シールド材を、特に制限されないが、ガラス板等の透明基材に接着剤層などを介して貼り合わせる等して用いられる。このようなディスプレイ用フィルタでは、所定のパターン、特にメッシュパターンを有する導電性パターン層の開口部は、接着剤層により埋められる。
【0132】
また、光透過性電磁波シールド材は、透明基材、アンカーコート層、及び電磁波シールド層の他、さらに反射防止層、色調補正フィルタ層、近赤外線カット層などを有していてもよい。これらの各層の積層の順序は、目的に応じて決定される。また、光透過性電磁波シールド材には、電磁波シールド機能を高めるために、PDP本体のアース電極と接続するための電極を設けてもよい。
【実施例】
【0133】
以下、本発明を実施例により説明する。本発明は、以下の実施例により制限されるものではない。
【0134】
(実施例1)
1.アンカーコート層形成用組成物の調製
樹脂成分として不飽和ポリエステル樹脂(数平均分子量30,000、ヒドロキシル価2.0)100質量部、硬化剤としてポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(イソシアネート基の含有率4.5質量%)5質量部、溶剤としてシクロヘキサノン500質量部及びメチルエチルケトン500質量部、平滑剤としてシリコーンオイル(ジメチルポリシロキサン KF−96−200CS 信越化学工業株式会社製)を混合した。得られた混合物に、ジブチルスズジラウレートを混合物の全量に対して0.5質量%添加し、十分に混合することにより、アンカーコート層形成用組成物を調製した。
【0135】
2.アンカーコート層の作製
アンカーコート層形成用組成物を、PETフィルム(厚さ100μm Sグレード (株)帝人製)上に、マイクログラビア塗工機により塗工し、平均温度100℃の乾燥炉中を60秒間通過させることにより、アンカーコート層を形成した。
【0136】
3.前処理層の作製
複合金属酸化物水化物粒子(PdTiO3・6H2O、平均粒子径0.5μm)を、2液硬化型ポリエステル系ウレタン樹脂溶液に、ポリエステル系ウレタン樹脂100質量部に対して複合金属酸化物水化物粒子を30質量部として配合して前処理剤を調製した。なお、前記2液硬化型ポリエステル系ウレタン樹脂溶液は、ポリエステル樹脂(東洋モートン株式会社製 AD−335A、Tg:10℃)と脂環族イソシアネート(東洋モートン株式会社製 CAT−10L)とを質量比で100:0.5含み、固形分濃度が10質量%のものを用いた。
【0137】
前処理剤を、アンカーコート層上にグラビア印刷によってメッシュ状に印刷した後、120℃、5分間乾燥させることにより、アンカーコート層上にメッシュ状の前処理層を形成した。なお、グラビア印刷版として、線幅30μm、線深さ0.5μm、線間隔165μmの溝を有する金型を用いた。
【0138】
4.前処理層の還元処理
次に、上述の通りにして前処理層が形成されたPETフィルムを、60℃の次亜リン酸ナトリウム溶液(NaH2PO2濃度:30g/L)に、3分間浸漬させ、前処理層の還元処理を行った。
【0139】
5.電磁波シールド層の作製
上記で還元処理された前処理層が形成されたPETフィルムを、無電解銅めっき液(メルテックス株式会社製 メルプレートCU−5100)に浸漬し、50℃、20分間で、無電解銅めっき処理して、メッシュ状の電磁波シールド層を作製し、光透過性電磁波シールド材を得た。前記金属導電層は、線幅を30μm、線間隔を165μm、開口率を67%、厚さを3μmとした。
【0140】
(実施例2)
実施例1のアンカーコート層形成用組成物の調製において、ジブチルスズジラウレートの添加量を0.5質量%から1.0質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして光透過性電磁波シールド材を作製した。
【0141】
(実施例3)
実施例1のアンカーコート層形成用組成物の調製において、ジブチルスズジラウレートに代えて、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタンを1.0質量%用いた以外は、実施例1と同様にして光透過性電磁波シールド材を作製した。
【0142】
(参考例1)
実施例1のアンカーコート層形成用組成物の調製において、ジブチルスズジラウレートを使用しなかった以外は、実施例1と同様にして光透過性電磁波シールド材を作製した。
【0143】
(参考例2)
実施例1のアンカーコート層形成用組成物の調製において、ジブチルスズジラウレートを使用せず、さらにアンカーコート層形成用組成物が塗布されたPETフィルムが乾燥炉を通過する時間を180℃に変更した以外は、実施例1と同様にして光透過性電磁波シールド材を作製した。
【0144】
(参考例3)
実施例1のアンカーコート層形成用組成物の調製において、ジブチルスズジラウレートの添加量を0.5質量%から5.0質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして光透過性電磁波シールド材を作製した。
【0145】
(参考例4)
実施例1のアンカーコート層形成用組成物の調製において、ジブチルスズジラウレートに代えて、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタンを4.0質量%用いた以外は、実施例1と同様にして光透過性電磁波シールド材を作製した。
【0146】
(参考例5)
実施例1のアンカーコート層形成用組成物の調製において、ジブチルスズジラウレートの添加量を0.5質量%から0.005質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして光透過性電磁波シールド材を作製した。
【0147】
(評価)
上記で作製した各アンカーコート層について下記評価を行った。結果を表1に示す。
【0148】
1.厚さ
アンカーコート層の厚さを、薄膜測定装置(F20 フィルメトリクス株式会社製)を用いて測定した。なお、厚さは、3箇所測定し、その測定値の平均値とした。
【0149】
2.耐擦傷性
アンカーコート層の耐擦傷性を評価するために、次の手順に従って耐スチールウール試験を行った。#0000のスチールウールを用い、100g/cm2の荷重を負荷して、アンカーコート層上をストローク50MM、速度10MM/SECで10往復摩擦させた後、傷の発生の有無を目視により評価した。表1において、傷が発生しなかったものを「○」とし、傷が発生したものを「×」とした。
【0150】
3.耐ブロッキング性
5cm×5cmに切り取ったアンカーコート層を5枚重ねた後、2枚のガラス板(厚さ25mm)で挟持した。得られた積層体を50℃の恒温槽中で10kgの重りを載せて8時間放置し、25℃の雰囲気下に1時間放置した後、最上層に配置されたアンカーコート層を1cm/秒の速度で手で上に引っ張り、その時の手への抵抗の度合いと剥がれやすさを観察した。表1において、アンカーコート層を剥がす際に、手への抵抗感覚が全くなく剥がれやすかったものを「○」とし、手へのやや抵抗感覚があったものを「△」とし、手へのかなり抵抗感覚があった又は全く剥がれないものを「×」とした。
【0151】
4.印刷特性
アンカーコート層上に形成したメッシュ状の前処理層の線幅、及びピッチを測定した。設計寸法であるグラビア印刷版が有する溝の線幅(30μm)、線間隔(165μm)よりも差が大きいほど印刷精度が低くなる。
【0152】
5.密着性
アンカーコート層上に作製したメッシュ状の前処理層上に、セロハンテープ(ニチバン(株)製のCT24)を密着させた後に剥離した。目視にて剥離状況を確認した。なお、表1において、メッシュ状の前処理層の剥離が全く見られなかったものを「○」とし、メッシュ状の前処理層が全体的に剥離したものを「×」とした。
【0153】
6.ポットライフ
アンカーコート層形成用組成物を密閉、室温で24時間放置し、放置前後の組成物の粘度を測定した。粘度の変化率が、15%以内であったものを「○」とし、15%を超えるものを「×」とした。
【0154】
6.数平均分子量Mn
アンカーコート層の形成に使用したポリエステル樹脂の数平均分子量Mnは、下記条件で測定した。
【0155】
装置:東ソー社製、高速液体クロマトグラフィー「HLC−8120GPC」、
カラム:東ソー社製、「Super H2000+H4000」、6mm I.D.,15cm、
溶離液:THF、g
流速:0.500ml/min、
検出器:RI、
カラム恒温槽温度:40℃、
ポリスチレン標準。
【0156】
【表1】

【0157】
表1に示す結果から、実施例1〜3において形成されたアンカーコート層は、耐擦傷性、耐ブロッキング性、印刷インクに対する密着性、及び印刷インクの印刷精度に優れることが分かる。したがって、このようなアンカーコート層上には、線幅や厚さが均一であり且つ寸法精度の優れた前処理層及び電磁波シールド層を形成することができる。
【符号の説明】
【0158】
100A:長尺状の透明基材を巻き取ったロール、
100B:アンカーコート層が形成された長尺状の透明基材を巻き取ったロール、
110:塗工装置、
111:硬化装置、
101、201:透明基材、
102、202:アンカーコート層、
203:パターン状の前処理層、
204:パターン状の電磁波シールド層、
矢印a:透明基材の走行方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材上に、活性水素を含む基を有する合成樹脂、少なくとも2個のイソシアネート基を有するポリイソシアネート、及び有機金属触媒を含む組成物を塗布し、硬化させることによりアンカーコート層を形成する工程を有し、
前記有機金属触媒の含有量が、前記組成物の全固形分に対して0.5〜1.0質量%である電磁波シールド層形成用基材の製造方法。
【請求項2】
前記有機金属触媒が、有機スズ触媒及び/又は有機チタン触媒である請求項1に記載の電磁波シールド層形成用基材の製造方法。
【請求項3】
前記有機金属触媒が、下記式(1)
【化1】

(式中、R1は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ炭素原子数が1〜10個のアルキル基を表し、R2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ炭素原子数が10〜20個のアルキル基を表す)で示されるジアルキルスズジカルボキシレートである請求項1又は2に記載の電磁波シールド層形成用基材の製造方法。
【請求項4】
前記アンカーコート層を形成する工程が、前記透明基材として長尺状の透明基材を用い、前記長尺状の透明基材の走行下、前記長尺状の透明基材上に前記組成物を塗布し、硬化させた後、前記長尺状の透明基材を巻き取ることにより行われる請求項1〜3のいずれか1項に記載の電磁波シールド層形成用基材の製造方法。
【請求項5】
前記硬化を、80〜140℃で0.5〜5分間加熱することにより行う請求項1〜4のいずれか1項に記載の電磁波シールド層形成用基材の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法によりアンカーコート層を形成する工程、
前記アンカーコート層上に無電解めっき前処理剤をパターン状に印刷して、パターン状の前処理層を形成する工程、及び
前記前処理層上に、無電解めっきにより、パターン状の電磁波シールド層を形成する工程、
を有する光透過性電磁波シールド材の製造方法。
【請求項7】
前記無電解めっき前処理剤が、複合金属酸化物及び/又は複合金属酸化物水化物と、バインダー樹脂とを含む請求項6に記載の光透過性電磁波シールド材の製造方法。
【請求項8】
前記複合金属酸化物水化物が、下記式(2)
【化2】

(式中、M1はPd又はAgを表し、M2はSi、Ti又はZrを表し、M1がPdである場合にはxは1であり、M1がAgである場合にはxは2であり、nは1〜20の整数である)で示される請求項7に記載の光透過性電磁波シールド材の製造方法。
【請求項9】
前記メッシュ状の金属電磁波シールド層を形成する工程の前に、前記前処理層を還元処理する工程をさらに有する請求項7又は8に記載の光透過性電磁波シールド材の製造方法。
【請求項10】
前記無電解めっきにおけるめっき金属が、銀、銅、またはアルミニウムである請求項6〜9のいずれか1項に記載の光透過性電磁波シールド材の製造方法。
【請求項11】
透明基材と、前記透明基材上に形成されたアンカーコート層と、前記アンカーコート層上に形成されたパターン状の前処理層と、前記パターン状の前処理層上に形成されたパターン状の電磁波シールド層を有し、
前記アンカーコート層が、活性水素を含む基を有する合成樹脂、少なくとも2個のイソシアネート基を有するポリイソシアネート、及び有機金属触媒を含む組成物の硬化層からなり、
前記有機金属触媒の含有量が、前記組成物の全固形分に対して0.5〜1.0質量%である光透過性電磁波シールド材。
【請求項12】
前記有機金属触媒が、有機スズ触媒及び/又は有機チタン触媒である請求項11に記載の光透過性電磁波シールド材。
【請求項13】
前記有機金属触媒が、下記式(1)
【化3】

(式中、R1は、同一であっても異なっていてもよい、炭素原子数が1〜10個であるアルキル基を表し、R2は、同一であっても異なっていてもよい、炭素原子数が10〜20個のアルキル基を表す)で示されるジアルキルスズジカルボキシレートである請求項11又は12に記載の光透過性電磁波シールド材。
【請求項14】
前記パターン状の前処理層が、複合金属酸化物及び/又は複合金属酸化物水化物と、バインダー樹脂とを含む請求項11〜13のいずれか1項に記載の光透過性電磁波シールド材。
【請求項15】
前記複合金属酸化物水化物が、下記式(2)
【化4】

(式中、M1はPd又はAgを表し、M2はSi、Ti又はZrを表し、M1がPdである場合にはxは1であり、M1がAgである場合にはxは2であり、nは1〜20の整数である)で示される請求項14に記載の光透過性電磁波シールド材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−219368(P2010−219368A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65564(P2009−65564)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】