説明

電磁波吸収シート及びその製造方法

【課題】電磁波の吸収性と放熱性に優れた電磁波吸収シート及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】マトリックス樹脂(A)中に、磁性フィラー(B)及び熱伝導性フィラー(C)が含有されている電磁波吸収シートであって、当該マトリックス樹脂(A)の一表面からその厚さ方向に向かって濃度が低くなるように当該磁性フィラー(B)が分散しており、かつ当該マトリックス樹脂(A)中に一様に当該熱伝導性フィラー(C)が分散している電磁波吸収シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波吸収シート及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、フレキシブルな電気・電子部品、例えばフレキケーブルなどのフレキシブルプリント配線板や薄層化された半導体素子等の機器に接着され、機器から外部への電磁波の漏洩、外部からの電磁波の侵入を防ぐ電波吸収シートに関する。
【背景技術】
【0002】
現在の電子技術において、民生機器の小型化から、それに使用されるフレキシブルプリント配線板はより小さく、より薄く、コンパクト化の一途を辿っている。したがって、フレキシブルプリント配線板はさらに柔軟性で、軽量であり、薄いものであることが必要であり、用途の拡大に伴い、耐熱性、電気特性等のフレキシブルプリント配線板用素材そのものの基本的性能に対する要求も高度のものになってきている。例えば、高屈曲性、柔軟性を保つには、薄型で柔軟なフレキシブルプリント配線板の適用が必要である。
【0003】
殊に最近ノート型パソコンは多機能、高機能とともに、小型、薄型化の傾向にある。それに伴い、ハードディスクやDVDドライブなどの光ピックアップ部に使用されるインターフェイスケーブルは、束ねたシールド線群からフラットで厚みの薄いフレキシブルプリント配線板へと変わりつつある。また、情報量の高速伝達が可能なようにデジタル信号を多く伝えるために、より高周波帯域の周波数を使うようになってきており、今まで以上の電磁波の吸収及びシールド特性が要求される。
【0004】
電磁波吸収シートは、電子機器が備えるCPU、高速ICなどの半導体素子に貼り付けることで外部から到来する電磁波及び半導体素子自身が発生する電磁波を吸収することで電磁干渉を抑制している。
また、半導体素子は熱を発生することから、これを冷却するために、電磁波吸収シートは放熱性にも優れていることが望まれる。
【0005】
引用文献1には、磁性フィラーがマトリックス樹脂の厚み方向に沿って変化する濃度分布を有する電磁波吸収シートが記載さており、磁性フィラーの濃度分布を付与する方法として、遠心力を用いる旨が記載されている。さらに、引用文献1には、放熱性を向上させることを目的として、熱伝導性フィラーを含ませることができる旨が記載されている。
また、引用文献2には、磁性フィラーがマトリックス内に偏在している電磁波吸収材が記載さており、磁性フィラーを偏在させる方法として、磁力を用いる旨が記載されている。さらに、引用文献2には、磁性フィラーのほかに、導電性、補強、軽量化等のために、必要に応じて繊維状導電体、繊維状物質、発泡フィラー等を混合することができる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−95829号公報
【特許文献2】特開平10−290094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
引用文献1に記載の電磁波吸収シートは、熱源との接着のための接着剤層を設ける必要がないようにするために、遠心力により磁性フィラーをマトリックス樹脂の一方面側に分布させ、厚み方向に沿って変化するように濃度分布を設けて磁性フィラーが少ない面側を形成するものである。したがって、さらに熱伝導性フィラーを加えた場合も、熱伝導性フィラーも遠心力により磁性フィラーと同じように分布することになる。
このような電磁波吸収シートは、磁性フィラーを一方面側に高濃度で存在させることができるので、電磁波を効率的に吸収することができる。
しかしながら、熱伝導性フィラーも磁性フィラーと同様に一方面側に高濃度で分布するので、熱源から発生する熱をバインダー樹脂中で効率的に伝導することができず、効率的な放熱が困難であるという問題がある。
【0008】
また、引用文献2に記載の電磁波吸収材の主な用途は室内用建材であり、熱源に接触させて用いることは予定しておらず、放熱性については考慮されていない。
本発明は、熱源等に接着させて用いる電磁波吸収シートに関し、電磁波吸収性と放熱性に優れた電磁波吸収シート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、磁性フィラーをマトリックス樹脂の一表面からその厚さ方向に向かって濃度が低くなるように分散させ、かつ熱伝導性フィラーをマトリックス樹脂中に一様に分散させることにより、上記課題を解決し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1) マトリックス樹脂(A)中に、磁性フィラー(B)及び熱伝導性フィラー(C)が含有されている電磁波吸収シートであって、当該マトリックス樹脂(A)の一表面からその厚さ方向に向かって濃度が低くなるように当該磁性フィラー(B)が分散しており、かつ当該マトリックス樹脂(A)中に一様に当該熱伝導性フィラー(C)が分散している電磁波吸収シート、
(2) 磁性フィラー(B)が、マトリックス樹脂(A)の一表面からその厚さの2分の1の領域に55質量%以上の割合で存在する上記(1)に記載の電磁波吸収シート、
(3) マトリックス樹脂(A)100質量部に対して、磁性フィラー(B)を100〜900質量部、熱伝導性フィラー(C)を5〜100質量部含有する上記(1)又は(2)に記載の電磁波吸収シート、
(4) 磁性フィラー(B)の濃度が高い側のマトリックス樹脂(A)の表面に、接着剤層を有する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の電磁波吸収シート、
(5) マトリックス樹脂(A)が、変性シリコーン系、シリコーン系、エポキシ系、ウレタン系及びポリイソブチレン系ポリマーの群の中から選ばれる少なくとも1種の反応性液状樹脂(A')を硬化させたものである上記(1)〜(4)いずれかに記載の電磁波吸収シート、
(6) 磁性フィラー(B)が、金属磁性フィラー及び金属酸化物磁性フィラーの群の中から選ばれる少なくとも1種である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の電磁波吸収シート、
(7) 磁性フィラー(B)が、平均長さ5〜200μm、平均厚み0.1〜10μmのフィラーである上記(1)〜(6)のいずれかに記載の電磁波吸収シート、
(8) 熱伝導性フィラー(C)が、炭素フィラー、酸化物フィラー、炭化物フィラー及び窒化物フィラーの群の中から選ばれる少なくとも1種である上記(1)〜(7)のいずれかに記載の電磁波吸収シート、
(9) 熱伝導性フィラー(C)が、平均長さ0.5〜100μm、平均幅0.1〜200μmのフィラーである上記(1)〜(8)のいずれかに記載の電磁波吸収シート、
(10) 液状硬化型樹脂材料(A')に、少なくとも磁性フィラー(B)及び熱伝導性フィラー(C)を添加して混合し、その後、硬化剤(D)を添加して、20℃における初期粘度が500〜5000Pa・sの樹脂組成物とし、当該樹脂組成物に磁力を作用させる上記(1)〜(9)のいずれかに記載の電磁波吸収シートの製造方法、
(11) 樹脂組成物に磁力を作用させる前、磁力を作用させると同時又は磁力を作用させた後にシートに成形する上記(10)に記載の電磁波吸収シートの製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、磁性フィラー(B)は、マトリックス樹脂(A)の一表面からその厚さ方向に向かって濃度が低くなるように分散しているので、磁性フィラー(B)を当該一表面付近に高濃度で存在させることができ、その結果、効率的に電磁波を吸収することができる。また、熱伝導性フィラー(C)は、マトリックス樹脂(A)中に一様に分散しているので、熱源から発生する熱をバインダー樹脂中で効率的に伝導することができ、その結果、効率的に放熱させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】シートに形成された樹脂組成物に磁力を作用させて磁性フィラーの分布状態を変化させる様子を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明のマトリックス樹脂(A)の主成分としては、反応性液状樹脂(A')を好ましく用いることができ、変性シリコーン系、シリコーン系、ウレタン系及びポリイソブチレン系ポリマーの群の中から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
これらの中で特に変性シリコーン樹脂が好ましく、硬化後の硬度(JIS K6253(タイプA))が20〜50度程度であるものが好ましい。
【0014】
変性シリコーン樹脂としては、特に、加水分解性ケイ素を少なくとも1分子以上有するポリオキシアルキレン系樹脂、例えば「MSポリマーS810」(株式会社カネカ製)が好適であるが、加水分解性ケイ素を少なくとも1分子以上有するポリイソブチレン系樹脂例えば「エピオンSタイプ」(株式会社カネカ製)や、加水分解性ケイ素を少なくとも1分子以上有するポリアクリル系樹脂なども用いることができる。
【0015】
加水分解性ケイ素基を少なくとも1分子以上有するポリオキシアルキレン系樹脂については多くの製法があり特に制限はされないが、例えば、特開2001−55438号公報に記載の方法にて製造することができる。
【0016】
変性シリコーン樹脂の分子量には特に制限はないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)におけるポリスチレン換算での数平均分子量が3000〜50000であることが好ましい。数平均分子量を上記範囲にすることで良好なゴム的性質を有する硬化物が得られると共に、適度な重合体の粘度が得られ、施工性のためにも好ましい。さらに、変性シリコーン樹脂は常温では液状である必要があり、数平均分子量が5000〜30000であることが、粘度の点から特に好ましい。
【0017】
変性シリコーン樹脂が有する分子末端の加水分解性ケイ素基の数は、少なくとも1個、好ましくは1.2〜4個である。かかる加水分解性ケイ素基の数を上記範囲にすることで硬化が充分になり、柔軟な弾性挙動を発現することができる。なお、加水分解性ケイ素基が分子末端に存在することにより、形成される硬化物に含まれる重合体成分の有効網目鎖量が多くなるため、高強度で高伸びのゴム状硬化物が得られやすくなる。
【0018】
また、本発明において、反応性液状樹脂(A')を硬化させる硬化剤(D)としては、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズマレエート、ジブチルスズジアセテート、オクチル酸スズ、ナフテン酸スズ等の金属カルボン酸塩及びブチルアミン、モノエタノールアミン、トリエチレンテトラミン、グアニジン、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1,3−ジアザビシクロ(5.4.6)ウンデセン−7(DBU)等のアミン化合物の群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0019】
これら硬化剤(D)の量は、触媒の種類や加水分解性ケイ素基の量などによって適宜決定することができ、例えば、反応性液状樹脂(A')100質量部に対して0.5〜10質量部、好ましくは1〜4質量部である。
【0020】
本発明においては、反応性液状樹脂(A')は、さらに所望により、ヒンダードアミン系等の光安定剤(E1)、サリチル酸エステル系、ヒドロキシベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤(E2)及びキノン系、アミン系、フェノール系、リン系、硫黄系等の酸化防止剤(E3)の中から選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。これらの添加剤を含有させることにより、得られる電磁波吸収シートの耐光性や耐候性がさらに向上する。
前記添加剤の含有量は、反応性液状樹脂(A')100質量部に対し、それぞれ通常0.05〜5質量部程度であり、好ましくは0.1〜3質量部である。
【0021】
さらに、本発明においては、変性シリコーン樹脂等の樹脂成分と反応する官能基を有しない可塑剤(F)を反応性液状樹脂(A')100質量部に対して、1〜100質量部含むことが好ましい。
可塑剤(F)としては、ポリアルキレン系可塑剤、パラフィン系可塑剤、ナフテン系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、脂肪族2塩基酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤などがあげられる。
【0022】
本発明の磁性フィラー(B)は、金属磁性フィラー及び金属酸化物磁性フィラーの群の中から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。金属磁性フィラーとしては、センダスト、パーマロイ、アモルファス合金、ステンレス鋼等、金属酸化物磁性フィラーとしては、MnZnフェライト、NiZnフェライト等が好適に用いられる。中でも、その優れた磁気特性からセンダスト系の金属磁性フィラーであることが好ましい。これらの磁性フィラーは扁平形状であり、平均長さが5〜200μm、平均厚みが0.1〜10μmであることが好ましい。この範囲であれば、反応性液状樹脂(A')と混練した樹脂組成物が十分に滑らかな展延性となるからである。また、これらの磁性フィラーのアスペクト比は高い方が望ましく、例えば、アスペクト比として、平均5〜100とするのがよい。
【0023】
熱伝導性フィラー(C)は、炭素、炭化物、酸化物又は窒化物の群の中から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。炭素としては、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等、炭化物としては、炭化ケイ素、炭化ホウ素等、酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ケイ素、酸化マグネシウム等、窒化物としては、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等が好適に用いられる。中でも、熱伝導性が高く、分散性、電磁波吸収性を有するという理由から炭素繊維、カーボンブラック、カーボンナノファイバーが好ましい。また、これらの熱伝導性フィラーは扁平形状であり、平均長さが0.5〜100μm、平均幅が0.1〜200μmであることが好ましい。この範囲であれば、反応性液状樹脂(A')と混練した樹脂組成物が十分に滑らかな展延性となるからである。また、これらの熱伝導性フィラーのアスペクト比は高い方が望ましく、例えば、アスペクト比として、平均5〜100とするのがよい。
【0024】
磁性フィラー(B)及び熱伝導性フィラー(C)の含有量は、それぞれマトリックス樹脂(A)100質量部に対して、100〜900質量部及び5〜100質量部の範囲であることが好ましい。磁性フィラー(B)及び熱伝導性フィラー(C)の含有量がそれぞれこの範囲であれば、電磁波吸収特性が得られると共に、マトリックス樹脂(A)が相対的に過多とならず、ベタツキ(粘着性)が生じることもなく、電磁波吸収シートの柔軟性が損なわれることもないからである。
さらに好ましい範囲は、それぞれ200〜900質量部及び5〜80質量部であり、最も好ましい範囲は、400〜900質量部及び5〜50質量部である。
電磁波吸収シートの厚みは、特に限定されず、柔軟性、電磁波吸収量等を考慮して、適宜決定され、例えば、20〜1000μm程度とすることができる。
【0025】
本発明の電磁波吸収シートは、マトリックス樹脂(A)の一表面からその厚さ方向に向かって濃度が低くなるように磁性フィラー(B)が分散しており、かつマトリックス樹脂(A)中に一様に熱伝導性フィラー(C)が分散している。
磁性フィラー(B)の濃度は、マトリックス樹脂(A)の一表面付近が最も高く、マトリックス樹脂(A)の厚さ方向に向かって濃度が低くなっている。これにより、磁性フィラー(B)の濃度(充填率)を高めることができ、効率的に電磁波を吸収することができる。特に、磁性フィラー(B)をマトリックス樹脂(A)の一表面からその厚さの2分の1の領域に磁性フィラー(B)全体の55質量%以上の割合で存在させるようにして、磁性フィラー(B)の充填率を高めることが好ましい。この存在割合は、特に好ましくは70質量%以上であり、最も好ましくは80質量%以上である。
また、熱伝導性フィラー(C)は、マトリックス樹脂(A)中に一様に分散している。これにより、熱源から発せられる熱をバインダー樹脂中で効率的に伝導することができ、効率的に放熱することができる。
【0026】
本発明の電磁波吸収シートは、次のような方法により製造することができる。
液状硬化型樹脂(A')に、少なくとも磁性フィラー(B)及び熱伝導性フィラー(C)を添加して混合して、これらのフィラーを液状硬化型樹脂(A')に均一に分散させた後、硬化剤(D)を添加すると、液状硬化型樹脂(A')は硬化し始め、硬化が終了すると液状硬化型樹脂(A')はマトリックス樹脂(A)となる。
【0027】
この液状硬化型樹脂(A')に硬化剤を添加したときの樹脂組成物の20℃における初期粘度は、500〜5000Pa・sであることが好ましい。初期粘度が500〜5000Pa・sであれば、容易にシートに加工することができ、厚さの均一性、表面平滑性に優れたシートとすることができる。さらに好ましくは800〜4000Pa・sであり、最も好ましくは、1000〜3000Pa・sである。
粘度は、例えば、500mlのビーカーに材料を入れ、回転粘度計を用いて測定することができる。
この樹脂組成物をシートに成形する方法は、特に限定されず、プレス法、ローラー法など公知の方法によりシートに加工することができる。
【0028】
次に、シートに形成された樹脂組成物に磁力を作用させる方法を図1に基づいて説明する。図1は、シートに形成された樹脂組成物に磁力を作用させて磁性フィラーの分布状態を変化させる様子を示す概念図であり、1はシートに形成された樹脂組成物、2は磁石、Aは硬化前のマトリックス樹脂、Bは磁性フィラー、Cは熱伝導性フィラーである。
図1の(a)に示されるように、シートに形成された樹脂組成物1に磁力を作用させる前は、磁性フィラー(B)と熱伝導性フィラー(C)は、硬化前のマトリックス樹脂(A)中に均一に分散している。この状態で、図1の(b)に示すように、樹脂組成物1の一表面(図1の(b)では下面)に磁石2を接触させる。
すると、硬化前のマトリックス樹脂(A)中の磁性フィラー(B)は、磁力により引き付けられて、樹脂組成物1の一表面からその厚さ方向に向かって濃度が低くなるように偏在して分散するようになる。
【0029】
他方、熱伝導性フィラー(C)は、磁力による影響を受けないので、硬化前のマトリックス樹脂A中に一様に分散したままの状態で存在する。
そして、マトリックス樹脂(A)の硬化により、樹脂組成物1は電磁波吸収シートとなる。
【0030】
樹脂組成物1に作用させる磁力の強さ及び時間は、磁性フィラー(B)の種類、大きさ、樹脂組成物の粘度、目的とする磁性フィラー(B)の濃度分布等により、適宜決定することができ、磁力としては、例えば0.1〜2T程度、好ましくは1〜2T程度、最も好ましくは1.5〜2T程度であり、時間としては、樹脂組成物の粘度、硬化時間にもよるが、例えば、1秒〜2時間程度、好ましくは1秒〜1時間程度である。
磁石としては、公知の永久磁石や電磁石等を用いることができ、永久磁石として、ネオジム鉄ボロン磁石、サマリウムコバルト磁石、フェライト磁石、アルニコ磁石等を用いることができる。
【0031】
また、樹脂組成物1に磁力を作用させるタイミングとしては、上記のシートに加工した樹脂組成物1に限らず、樹脂組成物1をシートに加工する前の成形体やシートに加工すると同時に磁力を作用させることもできる。
そして、磁力を作用させた後に、樹脂組成物の反応性液状樹脂(A')を硬化させると、電磁波吸収シートとなる。
【0032】
反応性液状樹脂(A')は、硬化剤の添加と共に序々に硬化し始め、通常10分〜12時間で硬化が終了するので、樹脂組成物の粘度を高めておく等、磁性フィラー(B)が移動しないようにしてシートを常温、常湿等の条件の下放置すればよい。
また、硬化促進のため加熱することもでき、加熱温度としては、例えば、50〜150℃が好ましい。
【0033】
さらに、磁性フィラー(B)の濃度が高い側のマトリックス樹脂(A)の表面に、接着剤層を形成することにより、半導体素子等に強固に接着させて、そこから発生する電磁波を効率的に吸収すると共に発生する熱を効率的に放熱することができる。
接着剤層の種類としては、特に限定されず、例えば、熱硬化性ウレタンシート、熱硬化性エポキシシート等の熱硬化型接着剤層を用いることができる。
【0034】
また、この熱硬化型接着剤層は室温から150℃程度の接着作業温度まで粘着性を有していることが好ましい。特に、熱硬化型接着剤層は、半導体素子等に接着させる場合の仮留め時温度(100℃)においても粘着性が保持されるものが望ましい。
このような条件を満たす熱硬化型接着剤層としては、東洋インキ製造(株)製TSU系(ウレタン系)などが例示される。
【0035】
この熱硬化型接着剤層は、厚みが薄すぎると十分な接着強度が得られない。また厚すぎると、接着するフレキシブルプリント配線板等と電磁波吸収シートとの間隔のため電波吸収特性が悪化する。このため熱硬化型接着層の厚さは10〜100μm、特に10〜50μm程度が望ましい。
【実施例】
【0036】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1
次の(1)の材料を用い、(2)の方法によって電磁波吸収シートを製造した。また、(3)の測定及び評価方法によって電磁波吸収シートの特性を測定及び評価し、その結果を表1に示した。
【0037】
(1)材料(配合を表1に示す。)
・反応性液状樹脂(A'):カネカ社製「MSポリマーS810」
・可塑剤(F):フタル酸ジイソノニル
・硬化剤(D):ジブチルスズジラウレートとブチルアミンとの混合物
・光安定剤(E1):チバスペシャルティーケミカル社製「チヌビン770」
・紫外線吸収剤(E2):チバスペシャルティーケミカル社製「チヌビン327」
・酸化防止剤(E3):チバスペシャルティーケミカル社製「イルガノックス1010」
・磁性フィラー(B):センダスト系の金属磁性フィラーを以下のように調製した。Siを9.6質量%、Alを5.5質量%、残部がFeからなるFe−Si−Al合金(センダスト)粉末をアトリッションミル(商品名アトライター)にて粉砕処理を行い、扁平の磁性フィラーを得た。得られた磁性フィラーの平均長さは約10〜150μmであり、平均厚みは約1〜5μmであった。
・熱伝導フィラー(C):平均長さ約15μm、平均幅約150μmの日東電工社製炭素繊維(商品名:VGCF)
・熱硬化型接着層:東洋インキ製造(株)製熱硬化型接着シート(粘着性有り)「TSU4(ウレタン樹脂シート、厚さ35μm)」
可塑剤(F)、硬化剤(D)、光安定剤(E1)、紫外線吸収剤(E2)及び酸化防止剤(E3)の割合は、反応性液状樹脂(A')100質量部に対する割合であり、磁性フィラー(B)及び熱伝導フィラー(C)の割合は、反応性液状樹脂(A')が硬化してマトリックス樹脂(A)となった場合のマトリックス樹脂(A)100質量部に対する割合である。
【0038】
(2)製造方法
プラネタリーミキサーに、温度50℃にて、反応性液状樹脂(A')、可塑剤(F)、半量の磁性フィラー(B)、半量の熱伝導フィラー(C)を投入し、10分練り、その後、1/4量投入後10分練りを2回繰り返して混合物を得た。
【0039】
次に、この混合物に硬化剤(D)を添加して混合して樹脂組成物を得た。この樹脂組成物の粘度を回転粘度計で測定したところ、20℃における初期粘度は、3000Pa・sであった。この樹脂組成物をPETフィルム上にローラーを用いて厚さ350μmのシートに成形した。そして、1.5Tの磁力を有するネオジム鉄ボロン磁石を成形直後のシートに1時間接触させて、シートに磁力を作用させた。
【0040】
次に、この磁力を作用させたシートの面に熱硬化型接着層を形成した。このシートを常温、常湿等の条件の下、6時間放置して反応性液状樹脂(A')を硬化させて電磁波吸収シートを製造した。
そして、電磁波吸収シートの接着剤層の面を半導体素子に接着させ、電磁波吸収シートが半導体素子に接着できることを確認した。
【0041】
(3)特性の測定及び評価方法
[磁性フィラー及び熱伝導性フィラーの濃度分布]
電磁波吸収シートの断面を蛍光X線により測定して、磁性フィラー(B)及び熱伝導性フィラー(C)の濃度分布の状態を調べた。
その結果、磁性フィラー(B)の濃度は、電磁波吸収シートの一表面付近で濃度が最も高く、シートの厚さ方向にしたがって濃度が低くなっており、電磁波吸収シートの厚さの2分の1を過ぎたところからは、その存在が確認されず、シートの2分の1の領域に55質量%以上の割合で存在していることが確認された。
これに対し、熱伝導性フィラー(C)の濃度は、断面の全域においてほぼ等しく存在していることが確認された。
【0042】
[電磁波吸収率]
マイクロストリップライン上のシートの吸収特性を測定した。電磁波吸収率=損失電力/入力電力、シート大きさは50×50mm、周波数は0.5GHzとした。得られた結果を表1に示す。
[放熱性]
電磁波吸収シートの放熱性は、熱伝導率計(京都電子製)による熱伝導率で評価した。得られた結果を表1に示す。
【0043】
実施例2、3
磁性フィラー(B)及び熱伝導性フィラー(C)の含有量を表1に示すような量にしたほかは、実施例1と同様にして電磁波吸収シートを製造した。この電磁波吸収シートの評価結果を表1に示す。
また、実施例1と同様に、蛍光X線により磁性フィラー(B)及び熱伝導性フィラー(C)の濃度分布を測定したところ、磁性フィラー(B)及び熱伝導性フィラー(C)共に実施例1と同様の濃度分布であることが確認された。
【0044】
比較例1
電磁波吸収シートに磁力を作用させなかったほかは、実施例2と同様にして、電磁波吸収シートを製造した。この電磁波吸収シートの評価結果を表1に示す。
また、実施例1と同様に、蛍光X線により磁性フィラー(B)及び熱伝導性フィラー(C)の濃度分布を測定したところ、磁性フィラー(B)及び熱伝導性フィラー(C)共にシートの断面の全域においてほぼ等しく存在していることが確認された。
【0045】
比較例2
熱伝導性フィラー(C)を添加しなかったほかは、実施例2と同様にして、電磁波吸収シートを製造した。この電磁波吸収シートの評価結果を表1に示す。
また、実施例1と同様に、蛍光X線により磁性フィラー(B)の濃度分布を測定したところ、磁性フィラー(B)は実施例1と同様の濃度分布であることが確認された。
【0046】
これらの結果から、実施例1〜3の電磁波吸収シートは、電磁波吸収率が0.15〜0.31と比較例1の電磁波吸収率より高く、熱伝導率が5.3〜8.4W/m・Kと比較例2の熱伝導率より高いものであり、効率的に電磁波を吸収し、放熱することができるものであった。
【0047】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、フレキシブルな電気・電子部品、例えばフレキケーブルなどのフレキシブルプリント配線板や薄層化された半導体素子等の機器に接着され、機器から外部への電磁波の漏洩、外部からの電磁波の侵入をシールドする電波吸収シートを提供することができ、特に、熱を発生する機器等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 シートに形成された樹脂組成物
2 磁石
A 硬化前のマトリックス樹脂
B 磁性フィラー
C 熱伝導性フィラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂(A)中に、磁性フィラー(B)及び熱伝導性フィラー(C)が含有されている電磁波吸収シートであって、当該マトリックス樹脂(A)の一表面からその厚さ方向に向かって濃度が低くなるように当該磁性フィラー(B)が分散しており、かつ当該マトリックス樹脂(A)中に一様に当該熱伝導性フィラー(C)が分散している電磁波吸収シート。
【請求項2】
磁性フィラー(B)が、マトリックス樹脂(A)の一表面からその厚さの2分の1の領域に55質量%以上の割合で存在する請求項1に記載の電磁波吸収シート。
【請求項3】
マトリックス樹脂(A)100質量部に対して、磁性フィラー(B)を100〜900質量部、熱伝導性フィラー(C)を5〜100質量部含有する請求項1又は2に記載の電磁波吸収シート。
【請求項4】
磁性フィラー(B)の濃度が高い側のマトリックス樹脂(A)の表面に、接着剤層を有する請求項1〜3のいずれかに記載の電磁波吸収シート。
【請求項5】
マトリックス樹脂(A)が、変性シリコーン系、シリコーン系、エポキシ系、ウレタン系及びポリイソブチレン系ポリマーの群の中から選ばれる少なくとも1種の反応性液状樹脂(A')を硬化させたものである請求項1〜4いずれかに記載の電磁波吸収シート。
【請求項6】
磁性フィラー(B)が、金属磁性フィラー及び金属酸化物磁性フィラーの群の中から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜5のいずれかに記載の電磁波吸収シート。
【請求項7】
磁性フィラー(B)が、平均長さ5〜200μm、平均厚み0.1〜10μmのフィラーである請求項1〜6のいずれかに記載の電磁波吸収シート。
【請求項8】
熱伝導性フィラー(C)が、炭素フィラー、酸化物フィラー、炭化物フィラー及び窒化物フィラーの群の中から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜7のいずれかに記載の電磁波吸収シート。
【請求項9】
熱伝導性フィラー(C)が、平均長さ0.5〜100μm、平均幅0.1〜200μmのフィラーである請求項1〜8のいずれかに記載の電磁波吸収シート。
【請求項10】
液状硬化型樹脂(A')に、少なくとも磁性フィラー(B)及び熱伝導性フィラー(C)を添加して混合し、その後、硬化剤(D)を添加して、20℃における初期粘度が500〜5000Pa・sの樹脂組成物とし、当該樹脂組成物に磁力を作用させ、その後、樹脂組成物を硬化させる請求項1〜9のいずれかに記載の電磁波吸収シートの製造方法。
【請求項11】
樹脂組成物に磁力を作用させる前、磁力を作用させると同時又は磁力を作用させた後にシートに成形する請求項10に記載の電磁波吸収シートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−251377(P2010−251377A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96331(P2009−96331)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】