説明

電磁波測定装置

【課題】微量微小な測定対象の電磁波測定でも効率良く行うことができる電磁波を用いて測定対象の情報を取得するための電磁波測定装置を提供することである。
【解決手段】電磁波を用いて測定対象01の情報を取得するための電磁波測定装置は、電磁波反射凹面鏡02と、電磁波照射部04と、電磁波検出部05を有する。電磁波反射凹面鏡02は、少なくとも一部が反射面の回転楕円面で形成されている。電磁波照射部04は、反射凹面鏡02の一方の焦点に配されてこの焦点から電磁波を射出する。電磁波検出部05は、反射凹面鏡02の他方の焦点に配されてこの焦点に集まってくる電磁波を受ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を用いて測定対象ないし試料の分析ないし情報の取得を行う電磁波測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロ波や可視光などの電磁波を試料に照射して、その試料を透過してきた電磁波を検出し、スペクトルを得る装置は、電磁波発生器及び検出器と、分光を行う為の多くの光学部品を有する光学系とで構成されている。例えば、FT-IR装置(フーリエ変換赤外分光光度計)などの赤外分光スペクトル測定装置は、多くのメーカーから市販されており、(1)光源、(2)入射孔、(3)干渉計、(4)試料室、(5)検出器で構成されている(非特許文献1参照)。
【0003】
また、近年、技術開発が盛んなテラヘルツ分光装置は、例えば、次の様な要素で構成されている(非特許文献2参照)。すなわち、(1)テラヘルツ波発生及び検出の為の半導体光スイッチや電気光学結晶、(2)半導体光スイッチや電気光学結晶を動作させる為のフェムト秒レーザーとその光学系、(3)テラヘルツ波を試料へ照射する為の光学系で構成されている。また、例えば、低コスト化及び小型化を狙って、一つの筐体においてテラヘルツ波の透過測定及び反射測定のできる装置も考案されている(特許文献1参照)。
【非特許文献1】“FT-IRの基礎と実際 第2版/東京科学同人”(40頁)
【非特許文献2】“テラヘルツ時間領域分光法 分光研究 第50巻 第6号(2001年)”(265頁、Fig.4)
【特許文献1】特開2004−205360号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の様に試料を透過した電磁波のスペクトルを測定する従来の装置は、分光を行う為に多くの光学部品を有する複雑な光学系を備えており、次の様な点が指摘される。すなわち、微量微小な試料を感度良く測定するには、電磁波を試料サイズ以下に絞って照射する必要がある為、例えば、非特許文献1の152頁に紹介されている様に、ビームコンデンサー光学系などの電磁波を集束させる為の光学系が更に必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題に鑑み、本発明の電磁波測定装置は、電磁波を用いて測定対象の情報を取得するための電磁波測定装置であって、次の構成要素を有する。少なくとも一部が反射面の回転楕円面で形成された電磁波反射凹面鏡と、反射凹面鏡の一方の焦点に配されて該焦点から電磁波を射出する電磁波照射部と、反射凹面鏡の他方の焦点に配されて該焦点に集まってくる電磁波を受ける電磁波検出部を有する。
【0006】
典型的には、前記反射凹面鏡は、その中に測定対象を保持する様に構成され、測定対象に電磁波照射部から電磁波を照射し、測定対象の透過と反射凹面鏡での反射を経てきた電磁波を電磁波検出部で受けて測定する。また、本発明の電磁波測定装置では、典型的には、周波数30GHz以上30THz以下の領域の周波数成分を含む電磁波(本明細書では、テラヘルツ波とも呼ぶ)を用いて、測定対象の分析ないし情報の取得を行う。更に、生体材料などの指紋スペクトルを取得する為には、0.1THzから10THz程度の領域の周波数成分を含む電磁波を用いるのが、好適である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電磁波測定装置おいては、反射凹面鏡内に保持される測定対象に一方の焦点位置の電磁波照射部から電磁波を照射して、測定対象を経てきた電磁波を、他方の焦点位置の電磁波検出部で受けて測定する。従って、微量微小な試料の電磁波測定でも効率良く行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。先ず、図1と図2を用いて本発明の実施形態を説明する。図1と図2は、本発明による電磁波測定の概念を2つの若干異なる実施形態を用いて説明した断面図である。図1と図2において、01は試料、02は、試料保持部を兼ねる回転楕円面で形成された凹面鏡、03は、凹面鏡表面に形成された電磁波反射膜である。また、04は、回転楕円面の1つの焦点に設置された電磁波照射部、05は、もう一方の回転楕円面の焦点に設置された電磁波検出部である。更に、06は、電磁波照射部04及び検出部05の支持体、07は、試料01を透過する電磁波の経路、08は照射電磁波、09は透過電磁波である。
【0009】
図1の実施形態では、電磁波照射部04自体が電磁波を発生する電磁波光源となり、電磁波検出部05自体が電磁波を受けて検出する電磁波検出器である。これに対して、図2の実施形態では、他の部分で発生された電磁波が支持体06を伝播して電磁波照射部04から凹面鏡02内に照射され、電磁波検出部05で受けられた電磁波が支持体06を伝播して他の部分で検出される様になっている。従って、支持体06は電磁波の伝送路を兼ねている。
【0010】
また、図3は、更に異なる実施形態を説明する断面図である。図3において、10は、回転楕円面の焦点に設置された電磁波照射部である電磁波光源、11は、もう一方の回転楕円面の焦点に設置された電磁波検出部である電磁波検出器である。また、12は、試料保持部を兼ねる回転楕円面の半分で形成された凹面鏡02の蓋を兼ねた、電磁波光源10及び検出器11の支持体である。その他の符号は、図1及び図2と同じである。
【0011】
図1及び図2を用いて、これらの実施形態の電磁波測定装置について更に説明する。試料01は、回転楕円面で形成された凹面鏡02で保持されており、この凹面鏡02が測定光学系となっている。凹面鏡02は、測定光学系の機能及び試料01の保持機能を有していれば特に限定は無く、例えば、試料01の温度制御の機能があっても構わない。試料01の凹面鏡02内での好適な保持のされ方は、図1及び図2で示す様に回転楕円面の凹面鏡02内を満たす様に保持される。しかし、これに限らず、例えば、シート状の保持部材に試料を浸透保持して、その保持部材を、電磁波照射部04と検出部05の間の凹面鏡02の中央部に隔壁状に保持する様な保持の仕方でも良い。この場合、例えば、凹面鏡02はこの中央部で分割できて、分割部を組み合わせるときに、そこに、試料を浸透保持したシート状の保持部材を挟んで保持すれば良い。
【0012】
上記凹面鏡02の表面に設けられる電磁波を反射する為の反射膜03は、所望の電磁波を反射できるものであれば特に限定は無く、使用波長と異なる波長の電磁波には透過性を持っていても構わない。また、反射膜03を形成せずに、凹面鏡02全体が、所望の電磁波を反射する部材で形成されたものでも構わない。
【0013】
上述した様に、試料01への電磁波の照射は、回転楕円面の焦点に設置された電磁波照射部04から行う。このとき、電磁波の照射は回転楕円面の焦点から行えば特に限定は無く、図1の様に電磁波光源を光学系内部の電磁波照射部04に設置して照射しても構わないし、図2の様に光学系外部からもたらされる照射電磁波08を、照射電磁波08が透過可能な支持体06と電磁波照射部04を通して試料01へ照射しても構わない。後者の場合、照射電磁波08の発生源は、本電磁波測定装置の比較的遠方にあっても良いし、電磁波照射部04の支持体06の近傍にあっても構わない。
【0014】
図1及び図2において、試料01に照射された電磁波は、試料01を透過し、回転楕円面を有する凹面鏡02で反射され、更に試料01を透過して、もう一方の回転楕円面の焦点に設置された電磁波検出部05に達する。そして、試料01を透過した電磁波の検出は、もう一方の回転楕円面の焦点に設置された電磁波検出部05で行う。電磁波の受光は、回転楕円面の焦点で行えば特に限定は無い。図1の様に電磁波検出部05に電磁波検出器を設置して光学系内部で受光・検出しても構わないし、図2の様に透過電磁波09を、透過電磁波09が透過可能な検出部05と電磁波検出部支持体06を通して光学系外部へ取り出して検出しても構わない。後者の場合、透過電磁波09の検出器は、本電磁波測定装置の比較的遠方にあっても良いし、電磁波検出部05の支持体06の近傍にあっても構わない。
【0015】
図3に示した本発明の電磁波測定装置の更に異なる実施形態について、更に説明する。本実施形態では、試料01は、回転楕円面の半分で形成された凹面鏡02で保持されている。図1と同様にこの凹面鏡02は、測定光学系となっており、測定光学系の機能及び試料01の保持の機能を有していれば特に限定は無い。また、凹面鏡02に形成された電磁波反射膜03も、所望の電磁波を反射することができれば特に限定はない。電磁波光源10及び電磁波検出器11は支持体12上に設置されており、各々凹面鏡02の焦点位置に設置されている。
【0016】
試料01への電磁波の照射は、既に述べた様に、回転楕円面の焦点に設置された電磁波光源10から行う。ここでも、電磁波光源10は、所望の電磁波を発生する素子であれば特に限定は無く、電磁波は単一波長であっても良いし、連続波長を含んでいても構わない。また、電磁波の波形はパルス状であっても良いし、連続波形であっても構わない。試料01に照射される電磁波は、試料01を透過し、回転楕円面を有する凹面鏡02で反射され、更に試料01を透過して、もう一方の回転楕円面の焦点に設置された電磁波検出器11に達して検出される。ここでも、電磁波検出器11は、所望の電磁波を検出する素子であれば特に限定は無い。
【0017】
図3に示した実施形態の電磁波測定装置では、図1で説明した実施形態の効果に加え、支持体12が設けられているので、試料01の凹面鏡02への導入の自由度、電磁波の光源及び検出器の自由度が高くなる効果がある。すなわち、試料01は凹面鏡02内に容易に効率良く満たすことができ、光源や検出器は容易かつ正確に所定の位置に取り付けることができる。
【0018】
上記各実施形態の電磁波測定装置を用いることにより、微量微小な試料においても、試料01に対して電磁波をほぼ万遍無く照射することができると共に、透過電磁波を効率良く検出できる。電磁波照射部04、10からの電磁波強度に多少の方向性があるとしても、こうした効果は得られる。従って、試料による電磁波の伝播状態の変化を正確かつ容易に検出できる。この際、電磁波照射部04、10から検出部05、11に至る電磁波の経路07の伝播距離は、電磁波照射部04から試料01を透過して検出部05に直接達する電磁波以外については、全て同じであり、検出の精度を上げるのに寄与している。ここで、図1と図2の実施形態では、検出部05に直接達する電磁波を遮蔽する何らかの手段を設ければ、後述する時間領域分光法を確実且つ容易に利用することができる。例えば、照射部04の検出部05に正対する部分からは電磁波が射出されない構造にするとか、電磁波照射部04に正対する検出器の部分にマスクを設けておく方法がある。
【0019】
また、上記各実施形態の電磁波測定装置では、光学系が極めて単純である為にその調整は殆ど不要である。更に、試料01を、凹面鏡02で形成された試料容器に満たすことができれば、大気や水蒸気の吸収の影響を避ける為のパージも不要となる。すなわち、上記従来技術では、多くの光学部品で構成されている為に光学調整が煩雑であったが、それが簡単化される。また、大気や水蒸気の影響を避ける必要がある場合、光学系全体をチャンバで取り囲み、真空引きや窒素ガスパージを行わなければならなかったが、それも必要なくなる。
【0020】
以上に述べた様に、実施形態の電磁波測定装置では、反射凹面鏡内に保持される測定対象に1つの焦点の電磁波照射部から電磁波を照射して、測定対象の透過と反射凹面鏡での反射を経てきた電磁波を、他方の焦点の電磁波検出部で受けて測定する。従って、微量微小な試料の電磁波測定でも効率良く行うことができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではなく、回転楕円面を有する凹面鏡の形態や、電磁波の発生源や検出器の構成、また使用する電磁波などは自由に変更することが可能である。
【0022】
(実施例1)
本実施例は、図3を用いて説明した上記実施形態の電磁波測定装置に対応するものであり、これを、テラヘルツ波を用いる例に応用した例である。本実施例では、テラヘルツ波の光源及び検出器として、フェムト秒ファイバーレーザーを利用した半導体光スイッチ素子を用いている。
【0023】
先ず、図4乃至図6を用いて本実施例の装置構成について説明する。図4は本実施例の装置全体の構成を示しており、試料保持部を兼ねた回転楕円面を有する凹面鏡02と、2芯の光ファイバーケーブルを有するテラヘルツ波光源及び検出器の支持体12を備える。また、テラヘルツ波光源及び検出器である半導体光スイッチ素子とフェムト秒レーザーを制御・駆動する為のコントローラー15と、半導体光スイッチ素子用のフェムト秒ファイバーレーザー16及び17を備える。更に、これらの装置は、半導体光スイッチ素子駆動用ケーブル18と、フェムト秒レーザー駆動用ケーブル19と、光ファイバーケーブル20で接続されている。
【0024】
図5の断面図は、図4の電磁波測定系の構成を示しており、回転楕円面をガラスモールドで形成した凹面鏡02と、凹面鏡02の表面に金属蒸着により形成されたテラヘルツ波反射膜03を示している。また、LT−GaAsを用いた半導体光スイッチ素子によるテラヘルツ波光源(電磁波照射部)13及び検出器(電磁波検出部)14と、2芯の光ファイバーケーブルを有する支持体12を示している。更に、光源13及び検出器14の半導体光スイッチ素子は、これを駆動する為の電気配線用ケーブル18、及びフェムト秒レーザー光を照射する為の光ファイバーケーブル20とそれぞれ接続されている。
【0025】
凹面鏡02は、テラヘルツ波光源13及び検出器14の位置が焦点となる様に形成されており、ここには試料01が充填される。テラヘルツ波光源13及び検出器14の支持体12は、光源13と検出器14を凹面鏡02に対して2つの焦点位置に精度良く設置する様になっている。その為に、支持体12の端部に楕円柱状の凸状部が形成され、この凸状部が、半分の回転楕円面の凹面鏡02の空間から上方に連続して伸びる楕円柱状の空間に嵌め込まれている。
【0026】
図6(a)、(b)は、本実施例のテラヘルツ波光源13と検出器14の構成及びその断面を示す。ここに示す様に、凹面鏡02の焦点位置に相当する光ファイバーケーブル20の端面にテラヘルツ波光源13及び検出器14が設置され、これらは、支持体12の側面から配線された半導体光スイッチ素子駆動用ケーブル18に接続されている。半導体光スイッチ素子では、図6(a)に示す様に、2つの三角形の金属膜が微小なギャップで対向したテラヘルツ波用アンテナ(ボウタイアンテナ)21が形成されている。これに代って、2本の直線で構成されたダイポール型など、周波数帯域によって様々な形状のアンテナを選択することもできる。
【0027】
更に、図6(b)に沿って、前記半導体光スイッチ素子と支持体12との断面構造について説明する。半導体光スイッチ素子は、LT−GaAs基板23上にテラヘルツ波用アンテナ21が形成されて構成され、半導体光スイッチ素子を駆動する為の電気配線用ケーブル18はこのテラヘルツ波用アンテナ21と接続されている。この半導体光スイッチ素子は、フェムト秒レーザー光が透過可能な接着材22で支持体12に固定されている。
【0028】
次に、本実施例の装置によるテラヘルツ波の発生と検出について説明する。テラヘルツ波の発生は、テラヘルツ波光源13の半導体光スイッチ素子にフェムト秒レーザー光を照射することによって行う。すなわち、先ず、半導体光スイッチ素子駆動用ケーブル18によって数μmのギャップを有する対向した三角形のテラヘルツ波用アンテナ21の間に数十Vのバイアスを印加する。次に、そのギャップにフェムト秒レーザー光を照射することで、ギャップにある半導体中に自由キャリアを生成する。この自由キャリアが生じた際にテラヘルツ波用アンテナ21間をパルス状の電流が流れ、1階微分した値に比例した電場振幅を持ったテラヘルツ波が発生する。
【0029】
一方、テラヘルツ波の検出器14では、前記テラヘルツ波の発生と同様に半導体光スイッチ素子にフェムト秒レーザー光を照射することによって検出を行う。先ず、対向した三角形のテラヘルツ波用アンテナ21のギャップにフェムト秒レーザー光を照射し、ギャップの半導体中に自由キャリアを生成させる。その際、試料01を透過してきたテラヘルツ波がこのギャップに入射すると、上記自由キャリアはこのテラヘルツ波の電磁界によって加速され、対向した三角形のテラヘルツ波用アンテナ21の間で電流が流れる。テラヘルツ波の検出は、この電流を測定することによって行われる。以上のテラヘルツ波光源及び検出器である半導体光スイッチ素子とフェムト秒レーザーの制御・駆動は、コントローラー15で行われる。
【0030】
以下に、本実施例の装置による透過テラヘルツ波の測定例について説明する。本測定例では、有機溶媒に分散させた微量のアミノ酸を試料01とし、上記半導体光スイッチ素子を用いて、テラヘルツ波の照射と、透過してきたテラへルツ波の検出を行う。
【0031】
先ず、図5の様に回転楕円面の半分で形成された凹面鏡02内に試料01を充填し、テラヘルツ波光源13及び検出器14の支持体12で上から蓋をする。次に、半導体光スイッチ素子&フェムト秒レーザー駆動用コントローラー15によって、ケーブル18を介して、テラヘルツ波光源13の半導体光スイッチ素子のテラヘルツ波用アンテナ21にバイアスを印加する。続いて、前記コントローラー15によって、テラヘルツ波光源用フェムト秒ファイバーレーザー16を駆動することで、図5の様に光ファイバーケーブル20を通してテラヘルツ波光源の半導体光スイッチ素子にフェムト秒レーザー光の照射を行う。こうして、焦点位置にある電磁波照射部13からテラヘルツ波を発生・出射させる。
【0032】
発生したテラヘルツ波は、図5に示した経路07で試料01を透過し、もう一方の楕円焦点にあるテラヘルツ波検出器14の半導体光スイッチ素子に到達する。
【0033】
次に、前記試料01へのテラヘルツ波照射と同時に、試料01を透過し凹面鏡02で反射され再び試料01を透過するテラヘルツ波の検出を検出器14の半導体光スイッチ素子で行う。先ず、半導体光スイッチ素子&フェムト秒レーザー駆動用コントローラー15によって検出器用フェムト秒ファイバーレーザー17を駆動することで、図5の様に光ファイバーケーブル20を通して検出器14の半導体光スイッチ素子にフェムト秒レーザー光を照射する。続いて、テラヘルツ波検出器14の半導体光スイッチ素子のテラヘルツ波用アンテナ21に流れた電流をコントローラー15によって測定し、透過テラヘルツ波を検出する。
【0034】
この際、前記コントローラー15により光源用フェムト秒ファイバーレーザー16と検出器用フェムト秒ファイバーレーザー17を一定の位相差をもって同期して駆動する。これにより、透過したテラヘルツ波の時間領域分光を行い、アミノ酸特有の指紋スペクトルを得ることができる。ここでは、凹面鏡02での反射を経ないで電磁波照射部13から検出器14に直接入る電磁波は存在しない構造になっているので、検出器14に到達する全ての電磁波の経路07の伝播距離は等しくなり、上記時間領域分光を有効に実行できる。
【0035】
通常のテラヘルツ波の時間領域分光法では、光源用フェムト秒レーザー光の射出と検出器用フェムト秒レーザー光の半導体光スイッチ素子への照射は一定の位相差をもって同期させて行う。この為に、本実施例においては、ファイバー型フェムト秒レーザーなどが好適に用いられる。また、レーザー光を伝搬させるファイバーは低分散のものであるか、ファイバーの分岐を考慮して、レーザーの調整をしておくことが望ましい。
【0036】
尚、電磁波を用いて測定対象の情報を得る方法は、上記測定方法以外にも種々利用できる。例えば、次の様な方法がある。先ず、測定対象が無い状態で、電磁波照射部から電磁波を出射して、凹面鏡で反射された電磁波を検出部で受けて参照用の電磁波強度のデータを得る。そして、測定対象を凹面鏡内に保持した状態で、同様に電磁波を検出部で受けて電磁波強度のデータを得て、参照用データを参照して測定データを処理して測定対象の情報を得る方法がある。
【0037】
(実施例2)
実施例2は、テラヘルツ波に応用した上記実施例1の電磁波測定装置を2次元に配列し、テラヘルツ波の光源及び検出器に共鳴トンネルダイオード(RTD)を利用した医療システムへの応用例である。
【0038】
先ず、図7乃至図9を用いて本実施例の装置構成について説明する。図7は本実施例の装置全体の構成を示す。本実施例は、試料保持部を兼ねる回転楕円面の半分を有する凹面鏡02が2次元に配列された基板と、共鳴トンネルダイオード素子によるテラヘルツ波光源と検出器の組が2次元に配列された支持体12を備える。また、テラヘルツ波光源と検出器の共鳴トンネルダイオード素子を制御・駆動する為のコントローラー28を備える。更に、支持体12のテラヘルツ波光源と検出器の共鳴トンネルダイオード素子を駆動する為のコントローラー28は、共鳴トンネルダイオード素子を駆動する為の電気配線用ケーブル26で基板12に接続されている。
【0039】
図8は、図7の電磁波測定系の構成の断面を示す。ここで示す様に、上記基板では、ガラス基板上にガラスモールドによって作製された回転楕円面を有する凹面鏡02が2次元に配列されている。各凹面鏡02の表面には、金属蒸着により形成されたテラヘルツ波反射膜03が施されている。支持体12では、共鳴トンネルダイオード素子によるテラヘルツ波光源24及び検出器25の組が、上記基板上の凹面鏡02と同様に2次元に配列されている。共鳴トンネルダイオード素子は、これを駆動する為の電気配線用ケーブル26に接続されている。更に、各凹面鏡02は、テラヘルツ波光源24及び検出器25の位置が焦点となる様に形成されており、試料01が充填される。テラヘルツ波光源24及び検出器25の支持体12では、テラヘルツ波光源24と検出器25が、各凹面鏡02に対して2つの焦点位置に精度良く設置される様に各楕円柱状凸部上に形成されている。
【0040】
図9(a)、(b)は、本実施例のテラヘルツ波光源24と検出器25の構成及びその断面を示す。ここに示す様に、凹面鏡02の焦点位置にテラヘルツ波光源24及び検出器25が設置され、これらは、共鳴トンネルダイオード素子駆動用ケーブル26に接続されている。共鳴トンネルダイオード素子27では、図9(a)に示す様に、四角のスリットのある金属膜がテラヘルツ波用アンテナ(スロットアンテナ)21として形成されており、試料01への電磁波照射と、それからの電磁波検出の効率向上を図っている。
【0041】
更に、図9(b)に沿って、前記共鳴トンネルダイオード素子27と支持体12との断面構造について説明する。半導体で作製された共鳴トンネルダイオード素子27は、テラヘルツ波用アンテナ21間に形成されており、共鳴トンネルダイオード素子27を駆動する為のケーブル26はこのテラヘルツ波用アンテナ21と接続されている。この共鳴トンネルダイオード素子27は、接着材22で支持体12に固定されている。
【0042】
この共鳴トンネルダイオード27を用いたテラヘルツ波の発生と検出は、テラヘルツ波用アンテナ21を通して共鳴トンネルダイオード素子27を駆動することで行われる。
【0043】
以下に、本実施例の装置によるタンパク質の透過テラヘルツ波の測定について説明する。本実施例では、有機溶媒に分散させた微量のタンパク質を試料01として、上記共鳴トンネルダイオード27を用いて、テラヘルツ波の照射と、透過したテラへルツ波の検出を行い、複数の検体について同時に測定を行う。
【0044】
先ず、図7及び図8の様に回転楕円面で形成された複数の凹面鏡02に異なる検体の試料01を充填し、テラヘルツ波光源24及び検出器25の支持体12で上から蓋をする。次に、共鳴トンネルダイオード素子駆動用コントローラー28によって各テラヘルツ波光源24の共鳴トンネルダイオード素子27を駆動し、テラヘルツ波を発生させる。発生したテラヘルツ波は、経路07で試料01を透過し、もう一方の楕円焦点にあるテラヘルツ波検出器25の半導体光スイッチ素子27に到達する。そして、前記試料01へのテラヘルツ波照射と同時に、検出器25の共鳴トンネルダイオード素子27を駆動し、試料01を透過したテラヘルツ波の検出を行う。上記測定により、例えば、複数の検体の中から他とは異なるタンパク質を検出することができる。
【0045】
尚、本実施例では、光学系を兼ねた試料容器を二次元に配置して、複数の検体について、二次元に配置したテラヘルツ波光源と検出器の組を用いて測定を行った。しかし、医療では多くの検体の測定が望まれる場合が多いが、本発明の装置を用いて微量検体を効率良く測定する場合、上記実施例の構成に限らなくても良い。例えば、円盤或いはベルト状の基板に光学系を兼ねた試料容器を二次元に配置したものと、一次元に配置した検体試料注入装置とテラヘルツ波光源及び検出器と容器洗浄装置の組み合わせの構造を用意する。そして、上記二次元に配置した試料容器を連続的に、上記一次元配置の組み合わせ構造の所に搬送することにより、検体試料を連続的に測定することも可能である。
【0046】
ところで、上記実施例1、2では、回転楕円面の焦点に設置されたテラヘルツ波照射部と検出部にテラヘルツ波発生素子及び検出素子を備えていた。しかし、上記実施形態の所で説明したように、これに代えて、次の様にしても良い。テラヘルツ波発生装置及び検出装置を測定光学系外部に備え、テラヘルツ波伝送路を用いた測定光学系内部の一方の焦点への導波、及び他方の焦点からの測定光学系外部への導波によって、試料へのテラヘルツ波照射、及びこれからの電磁波の検出を行っても良い。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の電磁波測定装置の概念を説明する為の一実施形態を示す断面図。
【図2】本発明の電磁波測定装置の概念を説明する為の他の実施形態を示す断面図。
【図3】本発明の電磁波測定装置の更に異なる実施形態を説明する為の断面図。
【図4】実施例1の装置全体の構成を説明する為の斜視図。
【図5】実施例1の電磁波測定系の構成を説明する為の断面図。
【図6】実施例1のテラヘルツ波光源と検出器を説明する為の図。
【図7】実施例2の装置全体の構成を説明する為の斜視図。
【図8】実施例2の電磁波測定系の構成を説明する為の断面図。
【図9】実施例2のテラヘルツ波光源と検出器を説明する為の図。
【符号の説明】
【0048】
01 試料(測定対象)
02 反射凹面鏡
03 電磁波反射膜
04 電磁波照射部
05 電磁波検出部
10 電磁波照射部(電磁波光源)
11 電磁波検出部(電磁波検出器)
13 電磁波照射部(半導体光スイッチ素子によるテラヘルツ波光源)
14 電磁波検出部(半導体光スイッチ素子によるテラヘルツ波検出器)
16 フェムト秒ファイバーレーザー(テラヘルツ波光源用)
17 フェムト秒ファイバーレーザー(テラヘルツ波検出器用)
24 電磁波照射部(共鳴トンネルダイオード素子によるテラヘルツ波光源)
25 電磁波検出部(共鳴トンネルダイオード素子によるテラヘルツ波検出器)
27 共鳴トンネルダイオード素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を用いて測定対象の情報を取得するための電磁波測定装置であって、
少なくとも一部が反射面の回転楕円面で形成された電磁波反射凹面鏡と、
反射凹面鏡の一方の焦点に配されて該焦点から電磁波を射出するための電磁波照射部と、
反射凹面鏡の他方の焦点に配されて該焦点に集まってくる電磁波を受けるための電磁波検出部と、
を有することを特徴とする電磁波測定装置。
【請求項2】
前記反射凹面鏡は、その中に測定対象を保持する様に構成され、測定対象に電磁波照射部から電磁波を照射し、測定対象の透過と反射凹面鏡での反射を経てきた電磁波を電磁波検出部で受けて測定する請求項1に記載の電磁波測定装置。
【請求項3】
前記電磁波照射部及び電磁波検出部にそれぞれ電磁波発生素子及び電磁波検出器を備える請求項1または2に記載の電磁波測定装置。
【請求項4】
前記反射凹面鏡の外部から前記電磁波照射部に電磁波を導く導波手段と、前記電磁波検出部で受けた電磁波を前記反射凹面鏡の外部に導く導波手段を有する請求項1または2に記載の電磁波測定装置。
【請求項5】
前記反射凹面鏡は、反射面とされた回転楕円面の半分の面と、回転楕円面の2つの焦点を含む平面で画された形状を有する請求項1乃至4のいずれかに記載の電磁波測定装置。
【請求項6】
前記反射凹面鏡は、反射面とされた回転楕円面の全面で画された形状を有する請求項1乃至4のいずれかに記載の電磁波測定装置。
【請求項7】
前記電磁波は、周波数30GHz以上30THz以下の領域の周波数成分を含む電磁波である請求項1乃至6のいずれかに記載の電磁波測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−89546(P2008−89546A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−273981(P2006−273981)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】