説明

電磁波遮蔽体

【課題】無線LANの使用周波数帯をカバーする10GHz付近までの帯域で、安定して100dB程度の高い遮蔽性能をもつ電磁波遮蔽材を提供する。
【解決手段】第1下地層と、この第1下地層の上方に積層されるカーボンフェルトと、このカーボンフェルトに積層される第2下地層と、この第2下地層の表面に積層されるシールドクロスからなることを特徴とする。そして、カーボンフェルトは80〜90dBの減衰特性を有し、シールドクロスは40〜50dBの減衰特性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁遮蔽機能を必要とするオフィスビルや工場などの建築物の電磁遮蔽建材に用いられる電磁遮蔽体に関する。
【背景技術】
【0002】
最近のIT技術やブロードバンド化による情報通信の広帯域化、ワイヤレス化が発展するなか、携帯電話機や無線LANなどのように室内で無線による情報の伝達が多く行われるようになっているが、情報を傍受され易いために情報漏洩の問題が多く発生している。このため、オフィスなどにおいては、部屋の内面全体に電磁波を遮蔽する電磁波遮蔽材を配置して、室内から室外への電磁波の漏洩と、室外から室内への電磁波の侵入を防止することが求められている。
【0003】
特に、無線LANの使用周波数帯である2.45GHz帯と5.2GHz帯では、建物内で使用する場合には、高度な機密情報を扱うパソコンと中継アンテナが設置される室内や、サーバ室などでは、最近100dB(1/100000まで減衰)程度の高い遮蔽性能が求められている。
【0004】
従来、この種の電磁遮蔽材としては、電磁波を反射する素材を用いたものとして例えば、箔状、薄板状の金属を単体で下地に貼り付けて使用するものがある。しかしながら、この金属単体は施工時に裂け易く取扱いに熟練を要し、また、施工後の下地の熱変形などにより裂けが生じ易く、電磁波漏洩の原因となる。更に、電磁遮蔽材の上には内装クロス材を別途取付けることになり、施工に手間がかかり施工コストも上昇する。
【0005】
また、電磁波遮蔽材として電磁波を吸収する素材を用いたものとして、例えば特許文献1に記載された電磁波遮蔽材がある。具体的には電磁波吸収層がフェライトや使用済みの磁気切符などの電波を吸収する素材を含み、適宜の手段によりシート状に形成されている。
【0006】
【特許文献1】特開2006−332260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、フェライトや磁気切符等の電磁波の吸収素材は整合周波数が0.3GHz〜1.5GHzであり、無線LANの使用周波数帯が十分にカバーされてないため、この使用周波数帯で高い遮蔽性能が得にくいものである。
【0008】
本発明は、上記従来例の問題点に鑑み、無線LANの使用周波数帯をカバーする10GHz付近までの帯域で、安定して100dB程度の高い遮蔽性能をもつ電磁波遮蔽材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、第1下地層と、この第1下地層の上方に積層されるカーボンフェルトと、このカーボンフェルトに積層される第2下地層と、この第2下地層の表面に積層されるシールドクロスからなることを特徴とする。
【0010】
また、上記第1下地層は、壁またはボードであることを特徴とする。また、上記第1下地層は、壁とその上に積層された断熱層から構成されることを特徴とする。また、上記第1下地層は、断熱材とその上に積層されたボードから構成されることを特徴とする。また、上記第2下地層は、ボードであることを特徴とする。上記ボードは石膏ボードであることを特徴とする。
【0011】
また、前記カーボンフェルトは700MHz〜1GHzの周波数範囲で80〜90dBの電磁波減衰特性を有し、前記シールドクロスは300MHz〜1GHzの周波数範囲で40〜50dBの電磁波減衰特性を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、上記構成により10GHz付近までの帯域で安定的に100dB程度の高い電磁波減衰特性を得ることができる。しかも、カーボンフェルトと壁紙兼用のシールドクロスによる簡単な構成により達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下図面を用いて本発明実施例を説明する。図1は、壁のない建物の柱の室内側に電磁波遮蔽体を施工した場合の実施例1の断面図である。1は複数本建てられた支柱、2は複数本の支柱1に跨って室内側に挟み込んで取付けられた断熱材で、アルミで被覆されたグラスウールで構成される。なお、断熱材2は柱1の間に挟み込まれて設置されても良い。
【0014】
3は断熱材の上に積層配置され、断熱材2を前記支柱1との間で挟み込むように、前記支柱1に固定された石膏ボード、4は前記石膏ボード3の上に接着剤(ボンドや糊)で貼り付けられたカーボンフェルト、5は前記カーボンフェルト4の上に積層配置され、前記石膏ボード3との間でカーボンフェルト4を潰し過ぎないような所定間隔をおいて前記石膏ボード3に固定された石膏ボード、6は石膏ボード5の表面に接着剤(でんぷん糊等)で貼り付けられたシールドクロスである。
【0015】
本実施例では石膏ボード3が第1下地層で、石膏ボード5が第2下地層となり、各下地層の上にそれぞれカーボンフェルト4とシールドクロス6が接着剤で貼り付けられている。ここで、石膏ボード3、4は石膏を心材としてボード用原紙でくるみ板状に成形したもので12mmのものが用いられる。
【0016】
カーボンフェルト4は、例えば日本グラスファイバー工業株式会社製の電磁シールドフェルトで、PAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維とPP(ポリプロピレン)繊維を混合し、ニードルパンチ方式で成形し、目止め処理を施したもので厚さが5mmのものを用いる。このカーボンフェルト4の単体の300MHz〜1GHzの周波数範囲での電磁波遮蔽特性(電磁波減衰特性)を図4に示す。図に示すように、1000MHz(1GHz)付近で約80dBの減衰(1/10000まで減衰)が得られ、無線LANの使用周波数帯の2.45GHz帯と5.2GHz帯では、約90dB(1/30000まで減衰)付近の減衰特性が得られ、700MHz〜1GHzの範囲で80〜90dBの減衰特性を有している。
【0017】
シールドクロス6は、アルミ箔またはアルミ蒸着したものを裏打紙と表面化粧層の間に挟んで構成されたもの(株式会社村崎製の商品名シールドプロテクター)で、電磁波シールド層であると共に室内の壁面の表面を化粧する壁紙となる。このシールドクロス6の単体の300MHz〜1GHzの周波数範囲での電磁波遮蔽特性を図5に示す。図に示すように、1000MHz(1GHz)付近で約40dB(1/100まで減衰)の減衰特性が得られ、無線LANの使用周波数帯の2.45GHz帯と5.2GHz帯では、約35〜40dB(1/100まで減衰)の減衰特性が得られ、300MHz〜1GHzの範囲で全体として40〜50dBの減衰特性を有している。このように、本実施例ではシールドクロス6も電磁波遮蔽材として用いる。
【0018】
本実施例1の遮蔽体の構成の中の一部の構成の減衰特性を図6に示す。これは、間に石膏ボードを介在させた、カーボンフェルト4とシールドクロス6のみの構成体の減衰特性である。図6では、1000MHz(1GHz)付近で90〜100dB(1/30000〜1/100000まで減衰)の減衰特性が得られ、無線LANの使用周波数帯の2.45GHz帯では100dB以上の減衰特性が得られ、さらに5.2GHz帯では100dB弱の減衰特性が得られる。このようにカーボンフェルト4とシールドクロス6を組合せることにより、各単体では得られない100dBレベルの極めて高い減衰特性が得られる。なお、本実施例1の遮蔽体では、電磁波遮蔽材としてカーボンフェルト4とシールドクロス6の他に、アルミで被覆された断熱材2を設けているので、さらに遮蔽性能は高まると考えられる。
【0019】
図7は、カーボンフェルト4とシールドクロス6の間に石膏ボードを設けない(空間を設けた)状態で測定した遮蔽性能を示す特性図である。図6と比べて全体的に性能が低下しているが、無線LANの使用周波数帯の2.45GHz帯と5.2GHz帯では、100dBに近い遮蔽性能が得られている。これは、石膏ボードにも遮蔽性能があることを示している。
【0020】
また、本実施例では前記下地層として固いボードを用いているが、これはカーボンフェルト4やシールドクロス6を施工時の貼付作業性を良くし、裂け等が起らないようにしたものである。また、ボードとして石膏ボードを用いているが、他の木質ボードやセメントボードと比べて、温度や湿度の変化に影響されず伸び縮みや歪みがほとんどないため、施工後に冷熱サイクルが加わっても、カーボンフェルト4やシールドクロス6に裂けが起ることがない。従って、施工後にカーボンフェルト4やシールドクロス6の裂け等による遮蔽性能の劣化がないため、高い遮蔽性能を長年維持できる。
【0021】
図2は建物に壁がある場合を示し、壁の室内側に電磁波遮蔽体を施工した実施例2の断面図である。7は建物を構成するコンクリートなどの壁、2は前記壁7の上に積層された断熱材で、アルミで被覆されたグラスウールで構成される。4は断熱材2の上に接着剤で接着されたカーボンフェルト、5は前記カーボンフェルト4の上に積層された石膏ボード、6は石膏ボード5の表面に接着剤で貼り付けられたシールドクロスである。石膏ボード5は、断熱材2とカーボンフェルト4を潰し過ぎないように壁7に押圧積層した形で、壁7に取付けられる。
【0022】
本実施例2では、壁7と断熱材2で第1下地層が形成され、その上にカーボンフェルト4が積層されており、石膏ボード5が第2下地層となり、その上にシールドクロス6が貼り付けられている。
【0023】
図3は建物に壁がある場合を示し、壁の室内側に電磁波遮蔽体を施工した場合の実施例3の断面図である。7は建物を構成するコンクリートなどの壁、4は壁7の上に接着剤で接着されたカーボンフェルト、2は前記カーボンフェルト4の上に積層された断熱材で、アルミで被覆されたグラスウールで構成される。5は断熱材2の上に積層された石膏ボード、6は石膏ボード5の表面に接着剤で貼り付けられたシールドクロスである。石膏ボード5は、断熱材2とカーボンフェルト4を潰し過ぎないように壁7に押圧積層した形で、壁7に取付けられる。実施例2と異なるのは、カーボンフェルト4と断熱材2の配置が逆となっている点である。
【0024】
本実施例では、壁7が第1下地層となり、その上にカーボンフェルト4が積層されており、石膏ボード5が第2下地層となり、その上にシールドクロス6が貼り付けられている。
【0025】
上記各実施例の電磁波遮蔽体は、電磁波遮蔽材としてカーボンフェルト4を接着剤で接着して積層しており、他の材料として建物の内壁材として本来用いられる、断熱材、下地(ボード)、壁紙(シールドクロス)を用いている。従って、施工は一般のクロス用の接着剤を用いてカーボンフェルト4とシールドクロス6を接着により積層しているので、工数が特別増加することがなく、また、カーボンフェルトも低価格であることから、コスト圧縮が図れる。また、下地として石膏ボードを用いているので、冷熱サイクルによりカーボンフェルト4とシールドクロス6に裂けが生じることがなく、電磁波遮蔽機能を長期間維持することができ、また、石膏ボード自身を電磁波遮蔽材料に利用できる。
【0026】
上記カーボンフェルト4とシールドクロス6は定尺のものが用いられるので、この定尺の寸法(面積)より広い面積の壁、床、天井では、複数枚をつないで貼り付けられることになる。また、前記各部の境目(例えば壁と天井の境目、壁と床の境目、等)でも、別個のシールドクロスのつなぎ目となることがある。このようなつなぎ部分では、電磁波の漏れが生じ易いので、その遮蔽対策が必要である。更に、壁と支柱の境界の取り合いや、ドアとこれを支える支柱の境界の取り合いでも電磁波の漏れが起りやすいので、上記と同様な遮蔽対策が必要である。
【0027】
以下、上記のようなつなぎ部分や境界部分での遮蔽構造について説明する。図8は、本発明実施例4の定尺の電磁波遮蔽体をつなぐ場合の境界断面図であり、(a)に電磁波遮蔽体の端部を重ね合わせることによる遮蔽構造を示し、(b)に電磁波遮蔽体の端部を突き合せることによる遮蔽構造を示す。図8では、遮蔽体としてカーボンフェルト4とシールドクロス6のみを示し、下地のボードを省略して示してある。
【0028】
図8(a)では、電磁波遮蔽体の端部を約30〜50mmの長さ重ね合わせることにより、重なり部分を遮蔽体の二重構造として、境界での電磁波の遮蔽能力が増加させている。図8(b)では、電磁波遮蔽体の端部の突合せ部分6aの下に約100mmの長さの導電テープ8を積層して貼り合わせている。導電テープ8としては、単なるアルミ箔からなるテープ、紙(裏打層)にアルミ箔を貼り付けたアルミ箔紙、または裏打紙(裏打層)にアルミを蒸着したアルミ蒸着紙がある。
【0029】
図8(b)では、シールドクロス6に接着剤が付着しており、導電テープ8のアルミ部分がこの接着剤に触れると、機械的強度の小さなアルミが破れて突合せ部分6a(クロスジョイント)が口を開く恐れがある。突合せ部分6aが開くと裏に貼り付けられた導電テープ8が見えて仕上がりが悪くなると共に、電磁波の遮蔽機能が損なわれる恐れがある。本実施例では突合せ部分6aの下に導電テープ8の裏打層10側を接着するようにし、裏打層10の下にアルミ部分11が位置するように構成している。従って、導電テープ8の機械的強度の強い裏打層10側に突合せ部分6aが接着されるので、開くことがなく、アルミ部分11が破れることがない。従って、突合せ部分6aが閉じているため仕上がりが良く、電磁波の遮蔽機能が損なわれることもない。
【0030】
次に、本発明実施例5の電磁波遮蔽体の支柱との境界の取り合い部分や、ドアとこれを支える支柱との境界の取り合い部分の処理構造について説明する。
【0031】
図9において、柱1に取付けられた厚さ12mmの石膏の下地ボード3にカーボンフェルト4が張り付けられ、その上に厚さ12mmの石膏の下地ボードを積層し、更にその上にシールドクロス6を貼り付けている。12は接地されたスチール製のドア枠、13は矢印方向に開閉するスチール製のドアで、閉じたときその端部がドア枠12に接触して停止する。14は、ドア13が閉じている状態で、ドアの端部とドア枠12の間に設置された導電性のシール材からなる導電ガスケットで、ドア枠12とドア13の間を電気的に接続して電磁波の遮蔽機能を果たす。
【0032】
15は、3〜6で構成される電磁波遮蔽体と前記ドア枠12との間に設置された略L字型の導通テープあり、電磁波遮蔽体とドア枠12を電気的に接続して電磁波の遮蔽機能を果たす。すなわち、導通テープ15は、カーボンフェルト4とシールドクロス6とドア枠12を電気的に接続している。従って、ドア13を閉じた状態では、電磁波遮蔽体、ドア枠12、およびドア13が電気的に接続されることにより電気的にシールされ、電磁波の遮蔽機能を果たす。
【0033】
上記構成によれば、電磁波遮蔽体とドア枠12の取り合い部分は、導電テープ15により電磁波の漏れがなく、また、ドア枠12とドア13の取り合い部分では、導電ガスケットにより電磁波の漏れがなく、十分な電磁波遮蔽機能を果たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施例1の断面図である。
【図2】本発明の実施例2の断面図である。
【図3】本発明の実施例3の断面図である。
【図4】本発明の実施例のカーボンフェルト単体の電磁波遮蔽特性図である。
【図5】本発明の実施例のシールドクロスの電磁波遮蔽特性図である。
【図6】カーボンフェルトとシールドクロスの間に石膏ボードを設けた場合の電磁波遮蔽特性図である。
【図7】カーボンフェルトとシールドクロスの間に石膏ボードを設けない場合の電磁波遮蔽特性図である。
【図8】本発明の実施例4の電磁波遮蔽体をつなぐ場合の境界断面図である。
【図9】本発明の実施例5の電磁波遮蔽体と支柱との取合い部分の断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1…柱、2…断熱材、3、5…下地ボード、4…カーボンフェルト、6…シールドクロス、7…壁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1下地層と、この第1下地層の上方に積層されるカーボンフェルトと、このカーボンフェルトに積層される第2下地層と、この第2下地層の表面に積層されるシールドクロスからなることを特徴とする電磁波遮蔽体。
【請求項2】
上記第1下地層は、壁またはボードであることを特徴とする請求項1記載の電磁波遮蔽体。
【請求項3】
上記第1下地層は、壁とその上に積層された断熱層から構成されることを特徴とする請求項1記載の電磁波遮蔽体。
【請求項4】
上記第1下地層は、断熱材とその上に積層されたボードから構成されることを特徴とする請求項1記載の電磁波遮蔽体。
【請求項5】
上記第2下地層は、ボードであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電磁波遮蔽体。
【請求項6】
上記ボードは石膏ボードであることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の電磁波遮蔽体。
【請求項7】
前記カーボンフェルトは80〜90dBの電磁波減衰特性を有し、前記シールドクロスは40〜50dBの電磁波減衰特性を有することを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の電磁波遮蔽体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−40640(P2010−40640A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199593(P2008−199593)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(398024631)
【出願人】(300060001)
【Fターム(参考)】