説明

電磁誘導加熱調理器及び電磁誘導加熱容器

【課題】 本発明は炊飯用土鍋等の電磁誘導加熱調理器又は容器に実用的なフッ素樹脂コーティングを可能とする電磁誘導加熱調理器又は容器を実現することを目的とする。
【解決手段】 セラミック鍋の表面に形成された金属層と、この金属層の上面に形成されたフッ素樹脂層とで構成され、上記金属層の形成は、予め上記セラミック鍋の表面をサンドブラストで粗化した後、又は直接、例えばアーク溶射により金属層を形成し、フッ素樹脂層の剥がれを無くし、実用性のあるフッ素樹脂コーティグが施された電磁誘導加熱調理器及び電磁誘導加熱容器を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁誘導加熱調理器に関し、特にセラミック鍋を使用した電磁誘導加熱調理器及び電磁誘導加熱容器に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、調理用セラミック容器の代表は土鍋であるが、近年電磁誘導加熱器の普及により、土鍋に非粘性の高いフッ素樹脂の塗装が要求されている。
【0003】
特許文献1は、調理容器の内面にフッ素樹脂を主成分とする非粘着層を設け、この調理容器の裏面に所定の厚みを有する熱伝導の良い非磁性金属材料からなる均熱層を設けた加熱調理器の発明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−99064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般調理用と異なり、電磁誘導加熱は磁性体の部分等において、急激な温度上昇があり、土鍋の熱分散の悪さから、繰り返しの過熱に対して剥がれが生じる。このため、電磁誘導加熱用調理器、又は電磁誘導加熱容器として、フッ素樹脂膜の実質的な実現はなされていない。
【0006】
また、一般用調理用鍋は土鍋にサンドブラスト処理を行い、粗化し、例えばポリエチレンルホンや、フッ化エチレンプロビン等を含む下塗用塗料を塗布し、その上にフッ素樹脂を塗布している。しかし、電磁誘導加熱用調理器及び電磁誘導加熱容器としては使用に耐えられず、下塗面から剥がれてしまい、炊飯用土鍋を含め、実用的なフッ素樹脂の塗布膜は得られていない。
【0007】
そこで、本発明は炊飯用土鍋等の電磁誘導加熱調理器及び電磁誘導加熱容器に実用的なフッ素樹脂コーティングを可能とする電磁誘導加熱調理器及び電磁誘導加熱容器を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は本発明によれば、セラミック鍋に配設された磁性体に対して高周波電流による電磁誘導作用によって加熱を行う加熱手段と、前記セラミック鍋の内面に形成された金属層と、該金属層の上面に形成されたフッ素樹脂層とを有する電磁誘導加熱調理器、又は電磁誘導加熱容器を提供することによって達成できる。
【0009】
また、前記金属層は、前記セラミック鍋をサンドブラストによって粗化した後アーク溶射によって溶融金属が溶射される構成である。
【0010】
また、前記金属層は、前記セラミック鍋にサンドブラストを行うことなく、直接アーク溶射によって溶融金属が溶射される構成である。
【0011】
また、前記フッ素樹脂膜は、例えば前記金属層の表面に形成されたフッ素樹脂の下層と、該下層上に形成されたフッ素樹脂の上層で構成される。
また、粗さ2〜20ミクロンの粗化が、前記セラミック鍋の表面に形成される構成である。
【0012】
また、前記金属層は、アルミニウム(Al)、又は銅(Cu)、又は銅の合金、又は鉄(Fe)、又は鉄の合金より成る構成である。
また、前記金属層は、前記セラミック鍋の表面に2μ〜400μの層厚で溶射される構成である。
【0013】
さらに、前記セラミック鍋は内面に形成された金属層の溶融温度近傍の温度で緻密性を確保する熱処理が行われる構成である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、セラミック鍋の表面を予めサンドブラストで粗化した後、例えばアーク溶射を使用して金属層を形成し、その後フッ素樹脂膜を形成するので、フッ素樹脂膜の剥がれを無くし、実用性のあるフッ素樹脂コーティグが施された電磁誘導加熱調理器及び電磁誘導加熱容器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態で使用する電磁誘導加熱調理器の構成を示す断面図である。
【図2】セラミック鍋の構造を説明する図である。
【図3】セラミック鍋の断面構成を示す図である。
【図4】アーク溶射機によるセラミック鍋へのアーク溶射を説明する図である。
【図5】アーク溶射機を回転駆動させる回路ブロック図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、本実施形態で使用する電磁誘導加熱調理器の構成を示す断面図である。尚、本例は、電磁誘導加熱調理器として電磁誘導加熱炊飯器の例を使用して説明する。
【0018】
電磁誘導加熱炊飯器1は、本体2と蓋部3で構成され、本体2内にはセラミック鍋4が設けられている。また、このセラミック鍋4の下面には電磁誘導加熱用の加熱コイル5が配設されている。加熱コイル5は、スパイラル状に旋回され直列に高周波電源に接続されており、加熱コイル5に高周波電流が供給される構成であり、不図示の制御回路によって駆動制御される。
【0019】
また、加熱コイル5に近接するセラミック鍋4の位置には磁性体11が配設されている。この磁性体11としては、磁性を有する鉄系の材料、例えばステンレス(SUS430)等の材料が使用される。加熱コイル5に電流を流すと磁性体11に渦電流が発生し、発熱してセラミック鍋4を加熱する。
尚、図1において、磁性体11を帯状に示しているが、図1の紙面に対して垂直方向にも伸びた構成であり、磁性体11はセラミック鍋4の底面に広く配設され、セラミック鍋4を加熱する。
【0020】
図2は、セラミック鍋4の構造を説明する図である。セラミック鍋4は電磁誘導加熱用土鍋(以下、単に土鍋で示す)7を基体として、土鍋7の内面に金属層8を形成し、この金属層8にフッ素樹脂の下層9を形成し、更にフッ素樹脂の下層9にフッ素樹脂の上層10を形成した構成である。ここで、上記金属層8は、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)、又は銅の合金で形成されている。
【0021】
さらに、図3はセラミック鍋4の断面構成を示す図であり、アルミニウム(Al)等の金属層8の形成は、土鍋7の表面7aをサンドブラストで粗化し、その後、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)、又は銅の合金等の金属をアーク溶射によってセラミック鍋4の表面に生成する。具体的には、2本の金属ワイヤ間でアーク放電を発生させ、この放電エネルギーによりワイヤを溶融させ、溶融金属を微粉化し、圧縮空気により土鍋7の表面7aに吹き付け、土鍋7の表面7aの表面に、例えば50μ〜150μの金属層8を形成する。
【0022】
尚、土鍋7の表面7aを上記サンドブラストで粗化する場合としては、土鍋(セラミックス)の基本成分が金属酸化物であり、高温での熱処理によって焼き固めた焼結体であることから、含まれる金属の割合が比較的少ない場合に行われる。したがって、含まれる金属の割合が多い場合にはサンドブラストで粗化する処理を省略することができる。
【0023】
図4は、アーク溶射機による土鍋7の表面7aへのアーク溶射を説明する図である。基材である土鍋7の表面7aとアーク溶射機12のヘッド部を対面して配設し、アーク溶射機12が矢印方向に回転可能に取り付けられている。
【0024】
アーク溶射機12には、陽極が印加されたアルミニウム(Al)等の金属線材13と、陰極が印加されたアルミニウム(Al)等の金属線材14が使用され、金属線材13はノズル15を通してアーク部16まで伸び、金属線材14はノズル17を通してアーク部16まで伸び、アーク部15で電気スパークを発生させ、両金属線材13、14が溶融される。また、アーク部16にはノズル18を通して圧縮空気が送られ、溶融した金属を微細化し、土鍋7の表面7aに溶射する。
【0025】
また、アーク溶射機12のヘッド部は前述のように矢印方向に回動し、土鍋7の表面7aに均一な厚さ(例えば、前述の厚さ2μ〜400μ(好ましくは50μ〜150μ)の金属層8を溶着する。例えば、同図に示すように、アーク溶射機12は上下方向(矢印a、b方向)、及び左右方向(矢印c、d方向)に回動可能であり、アーク溶射機12を後述する回路動作によって回動させながら土鍋7の表面7aに溶融金属の溶射を行う。特に、アーク溶射の場合、上記溶射材料が高温で十分溶融しているため、土鍋7の表面7aへの密着性に優れている。
【0026】
また、アーク溶射機12のヘッド部は、図5に示す制御回路によって回転が制御される。すなわち、土鍋7の内面形状記憶部20には、上記土鍋7の表面7aの形状が記憶されており、ヘッド制御部21は上記内面形状記憶部20から土鍋7の内面形状のデータを読み出し、ヘッドの溶射方向を制御する。
【0027】
ヘッド制御部21は初期位置記憶部22から土鍋7の表面7aの溶射初期位置のデータを読み出し、上記位置からスタートして、土鍋7の内面形状のデータに従ってヘッドを回転し、微粉化した溶融金属を土鍋7の内面に溶射する。このとき、ヘッド制御部21からの制御信号に従って水平方向移動用モータ駆動部23を駆動し、水平方向移動用モータ25を駆動し、またヘッド制御部21からの制御信号に従って垂直方向移動用モータ駆動部24を駆動し、垂直方向移動用モータ26を駆動し、土鍋7の内面に溶融金属の溶射を行い、土鍋7の内面に均一な金属層8を形成する。
【0028】
一方、上記処理によって形成された金属層8の上面には、フッ素樹脂の下層9、及びフッ素樹脂の上層10が塗布される。この場合、フッ素樹脂塗料を下塗りし、更にPTFE(四フッ化エチレン樹脂(ポリテトラフルオロエチレン))を上塗りする方法、又はフッ素樹脂塗料を下塗りし、150℃で10分間乾燥させた後、更にPFA(テトラフルオロエチレン)の粉を静電塗装する方法も使用される。
【0029】
さらに、フッ素樹脂(PTFE(ポリテトラフルオロエチレン))を1層で構成する方法でもよい。
【0030】
このようにして製造された電磁誘導加熱炊飯器1は、密着と熱分散の機能を有する調理器として充分な寿命をもつ。
このように構成することにより、セラミック鍋4に対するフッ素樹脂の密着性を向上することができる。また、熱の速やかな拡散を図り、フッ素樹脂と土鍋素材との間の部分温度上昇を押さえ、セラミック界面での蒸気の発生や含浸を押さえることによって、寿命の長い実用的なフッ素樹脂加工が施された電磁誘導加熱炊飯器1を提供することができる。
尚、上記実施形態の説明では、本発明の電磁誘導加熱調理器を電磁誘導加熱炊飯器1として説明したが、電磁誘導加熱炊飯器1に限らず電磁誘導加熱方式を採用する調理器全てに適応できるものである。
【0031】
また、前述のセラミック鍋4に形成される磁性体11は、例えば土鍋7の底に鉄やステンレス(SUS430)をアーク溶射によって溶射する構成としてもよい。この場合、磁性体11の厚さは0.6〜0.8mm程度に形成する。
また、上記説明ではアーク溶射機12を回動して溶融金属を土鍋7の表面7aに溶射したが、更に土鍋7側(セラミック鍋4側)を回動させる構造としてもよい。
【0032】
また、金属層8として、アルミニウム(Al)、又は銅(Cu)、又は銅の合金を使用することができ、更に鉄(Fe)や、鉄の合金を使用することもできる。
【0033】
さらに、フッ素樹脂層の代替えとして、セラミック塗装を施す構成としてもよい。この場合、セラミック塗装の材料として、シリコンやジルコニアを含むセラミック材料を使用する。
【0034】
また、本実施形態の説明では、電磁誘導加熱調理器について説明したが、土鍋にアーク溶射によって金属層8を形成し、更にフッ素樹脂層を形成する容器又は装置であれば、本発明は電磁誘導加熱調理器に限定されるものではない。
【0035】
尚、前述の実施形態の説明では、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、又は銅の合金等の金属をアーク溶射によってセラミック鍋4の表面に生成したが、アーク溶射に限るわけではなく、フレーム溶射やプラズマ溶射によってアルミニウム(Al)、銅(Cu)、又は銅の合金等の金属をセラミック鍋4の表面に生成する構成としてもよい。
【0036】
また、上記処理において、土鍋7の表面7aに生成されたアルミニウム(Al)、銅(Cu)、又は銅の合金等の金属膜の緻密性を確保するため、例えば炉の中に土鍋7を入れ、対応する金属膜の熔融温度近傍で容体化する処理を行ってもよい。この場合、例えばアルミニウム(Al)では、熔融温度が700°であり、炉の温度を700°±100°程度に設定する。
【0037】
また、上記処理は、土鍋の基本成分の金属酸化物が僅かであり、例えば50μ以上で実施するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0038】
1・・・電磁誘導加熱炊飯器
2・・・本体
3・・・蓋部
4・・・セラミック鍋
5・・・加熱コイル
7・・・電磁誘導加熱用土鍋
8・・・金属層
9・・・フッ素樹脂の下層
10・・フッ素樹脂の下層
11・・磁性体
12・・アーク溶射機
13、14・・金属線材
15、17、18・・ノズル
16・・アーク部
20・・セラミック鍋の内面形状記憶部
21・・アーク溶射機のヘッド制御部
22・・初期位置記憶部
23・・水平方向移動用モータ駆動部
24・・垂直方向移動用モータ駆動部
25・・水平方向移動用モータ
26・・垂直方向移動用モータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック鍋に配設された磁性体に対して高周波電流による電磁誘導作用によって加熱を行う加熱手段と、
前記セラミック鍋の内面に形成された金属層と、
該金属層の上面に形成されたフッ素樹脂層と、
を有することを特徴とする電磁誘導加熱容器。
【請求項2】
セラミック鍋に配設された磁性体に対して高周波電流による電磁誘導作用によって加熱を行う加熱手段と、
前記セラミック鍋の内面に形成された金属層と、
該金属層の上面に形成されたフッ素樹脂層と、
を有することを特徴とする電磁誘導加熱調理器。
【請求項3】
前記金属層は、前記セラミック鍋をサンドブラストによって粗化した後アーク溶射によって溶融金属が溶射されることを特徴とする請求項2に記載の電磁誘導加熱調理器。
【請求項4】
前記金属層は、前記セラミック鍋にサンドブラストを行うことなく、直接アーク溶射によって溶融金属が溶射されることを特徴とする請求項2に記載の電磁誘導加熱調理器。
【請求項5】
前記フッ素樹脂膜は、前記金属層の表面に形成されたフッ素樹脂の下層と、該下層上に形成されたフッ素樹脂の上層で構成されることを特徴とする請求項2、3、又は4に記載の電磁誘導加熱調理器。
【請求項6】
粗さ2〜20ミクロンの粗化が、前記セラミック鍋の表面に形成されることを特徴とする請求項2、又は3に記載の電磁誘導加熱調理器。
【請求項7】
前記金属層は、アルミニウム(Al)、又は銅(Cu)、又は銅の合金、又は鉄(Fe)、又は鉄の合金より成ることを特徴とする請求項2、3、又は4に記載の電磁誘導加熱調理器。
【請求項8】
前記金属層は、前記セラミック鍋の表面に2μ〜400μの層厚で溶射されることを特徴とする請求項2、3、又は4に記載の電磁誘導加熱調理器。
【請求項9】
前記金属層は、前記セラミック鍋の表面に50μ〜150μの層厚で溶射されることを特徴とする請求項8に記載の電磁誘導加熱調理器。
【請求項10】
前記セラミック鍋は内面に形成された金属層の溶融温度近傍の温度で緻密性を確保する熱処理が行われることを特徴とする請求項1、又は2に記載の電磁誘導加熱調理器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−240324(P2010−240324A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95357(P2009−95357)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(508353075)株式会社G.L.S (4)
【Fターム(参考)】