説明

電磁超音波探触子および電磁超音波探傷装置

【課題】電磁超音波探触子と検査対象との距離によらず、超音波を用いた探傷感度が一定となり、良好な検査精度を実現することを可能とする電磁超音波探触子および電磁超音波探傷装置を得る。
【解決手段】磁界を発生させる手段3と、検査対象に渦電流を発生させるコイル2とを備え、検査対象6との間で電磁気力により超音波を送受信し、非接触で検査対象6中の欠陥部を検出するために用いられる電磁超音波探触子1において、互いに電気的に接続され、検査対象6に対向する面に所定の面積を有するように任意の間隔を隔てて配置された少なくとも2つ以上の導体4をさらに備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触で検査対象中の欠陥部を検出するために用いられる電磁超音波探触子、およびこの電磁超音波探触子を用いた電磁超音波探傷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の板や管等の検査対象に非接触で、超音波の発生や検出を行う従来の方法の1つとして、電磁超音波探触子(Electromagnetic Acoustic Transducer:EMAT)を利用した方法が知られている。一般に、EMATは、高周波電流を流すコイルと、磁界を与える磁石とから構成されている。
【0003】
EMATは、コイルを流れる電流の高周波振動により、検査対象の表面近傍に生じる渦電流と、磁石によって検査対象に作られる磁界との相互作用により、ローレンツ力を発生させる。そして、EMATは、このローレンツ力で検査対象を振動させることにより、検査対象中に超音波を発生させる。さらに、EMATは、逆の物理現象により、検査対象中の超音波を検出することができる。
【0004】
また、検査対象が強磁性体の場合には、EMATは、外部磁界によりバイアス磁界をかけ、検査対象に近接されたコイルから発生した磁界によりバイアス磁界を変化させる。これにより、磁歪を変化させて検査対象中に超音波を発生させることができる。このため、接触媒質を必要とせず、非接触で超音波の送受信を行うことができる。また、磁石やコイルの構成により、種々のモードの超音波を発生・検出することができる。
【0005】
このEMATを利用して、金属に対する探傷や、音速測定、厚み測定、材質測定等を調べる従来技術としては、電磁超音波計測方法および装置などが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2000−266730号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術には次のような課題がある。
従来の電磁超音波計測装置では、非接触で超音波の発生・検出が可能となる。しかしながら、検査対象の表面に凹凸がある場合などでは、電磁超音波探触子と検査対象との距離を一定に保つことができない。この結果、検査対象と電磁超音波探触子間の距離により、超音波の送信感度および受信感度が変動してしまう。
【0008】
すなわち、電磁超音波探触子を用いて探傷を行う場合に、位置により検査対象と電磁超音波探触子間の距離が異なる場合があるため、超音波の送信感度および受信感度が変動していまい、正確な検査が行えない。
【0009】
本発明は上述のような課題を解決するためになされたもので、電磁超音波探触子と検査対象との距離によらず、超音波を用いた探傷感度が一定となり、良好な検査精度を実現することを可能とする電磁超音波探触子および電磁超音波探傷装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る電磁超音波探触子は、磁界を発生させる手段と、検査対象に渦電流を発生させるコイルとを備え、検査対象との間で電磁気力により超音波を送受信し、非接触で検査対象中の欠陥部を検出するために用いられる電磁超音波探触子において、互いに電気的に接続され、検査対象に対向する面に所定の面積を有するように任意の間隔を隔てて配置された少なくとも2つ以上の導体をさらに備えたものである。
【0011】
また、本発明に係る電磁超音波探傷装置は、本発明の電磁超音波探触子を用いて、検査対象に電磁気力により超音波を発生させ、検査対象中の欠陥部で散乱された超音波を受信して検査対象の探傷を行う電磁超音波探傷装置であって、電磁超音波探触子に配置された2つ以上の導体と検査対象との間に生じる静電容量に基づいて、電磁超音波探触子と検査対象との間の距離を求める計測手段と、計測手段により求められた距離に基づいて、検査対象の探傷感度を所定値に保つ探傷感度制御手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、互いに電気的に接続され、検査対象に対向する面に所定の面積を有するように任意の間隔を隔てて配置された少なくとも2つ以上の導体を電磁超音波探触子内に設けることにより、静電容量の測定値に基づいて電磁超音波探触子と検査対象との距離を特定することが可能となり、電磁超音波探触子と検査対象との距離によらず超音波を用いた探傷感度が一定となり、良好な検査精度を実現することを可能とする電磁超音波探触子および電磁超音波探傷装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の電磁超音波探触子および電磁超音波探傷装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0014】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における電磁超音波探触子(以下、EMATと記す)の概略構成図である。なお、以下に示す各図中において、同一符号は、同一または相当部分を示す。
【0015】
本実施の形態1に係るEMAT1は、コイル2、磁石3、2つの導体板4、計測手段5から構成されている。コイル2は、銅等の導線を円形、楕円形、または矩形の渦巻き状に中心部から数周から数十周巻いたもの、メアンダ状にしたもの、または、プリント基板上に同様の渦巻き状やメアンダ状のパターンを作成したものである。磁石3は、永久磁石あるいは電磁石等の磁界を発生させる手段である。さらに、磁石3は、発生する磁界が、コイル2により生じる渦電流に作用するように配置されている。
【0016】
ここで、EMAT1による超音波の送受信原理について図を用いて説明する。図2は、本発明の実施の形態1におけるEMAT1による超音波の発生原理を説明する図である。ここでは、EMAT1による超音波の駆動力として、ローレンツ力を用いる場合について説明する。
【0017】
図2に示すように、コイル2に交流を流すことにより、導電性材料からなる検査対象6の表面近傍には渦電流7が生じる。また、磁石3により、磁界8が与えられ、渦電流7と磁界8の相互作用によりローレンツ力9が発生する。渦電流7の高周波振動に従って、ローレンツ力9は周期的に変動し、検査対象6の表面近傍を振動させる。この振動により超音波10が発生し、検査対象6中を伝搬していく。
【0018】
検査対象6に欠陥や材質変化領域等の音響的不連続部11(以下、欠陥部11と記す)が存在する場合、検査対象6中を伝搬する超音波10は、欠陥部11により反射され、再びEMAT1の方向へ伝搬していく。超音波10がEMAT1の近傍へ達すると、超音波10の変位によって、磁界8が時間的に変化する。
【0019】
この磁界変化を妨げようとする方向に渦電流7が生じる。この渦電流7をコイル2により検出することで、検査対象6中に存在する欠陥部11からの反射波を受信することができる。
【0020】
上述のように、EMAT1では、電磁気力により超音波10を送受信するため、EMAT1と検査対象6との間には接触媒質を必要とせず、非接触で超音波10の送受信を行うことができる。
【0021】
本実施の形態1に係るEMAT1では、図1のように、少なくとも2つ以上の導体板4が任意の間隔を隔てて配置されており、各導体板4の検査対象6に対向した面は、所定の面積Sを有している。図3は、本発明の実施の形態1におけるEMAT1と検査対象6との関係を模式的に示した図である。図3に示すように、各導体板4と検査対象6との間には、下式(1)に示す静電容量が生じる。
【0022】
【数1】

【0023】
ここで、εは空気の誘電率であり、dは、EMAT1と検査対象6との間の距離である。
【0024】
次に、図4は、本発明の実施の形態1のEMAT1において、導体板4を電気的に接続した場合の等価回路図である。本実施の形態1において、EMAT1は、導体板4を2つ有しており、これら2つの導体板4を電気的に接続すると、その等価回路は、図4(a)のように並列接続されたコンデンサとなり、これを合成すると、図4(b)の等価回路となる。
【0025】
図4(b)において、端子12aと端子12bとの間の電圧をv、回路に流れる電流をiとすると、静電容量Cは、下式(2)で与えられる。
【0026】
【数2】

【0027】
従って、計測手段5は、上式(2)の関係から、電圧vが既知の場合には電流iを計測することにより、また、電流iが既知の場合には電圧vを計測することにより、EMAT1と検査対象6との間の静電容量を得ることができる。さらに、計測手段5は、上式(1)を用いて、計測した静電容量からEMAT1と検査対象6との距離を得ることができる。
【0028】
以上のように、実施の形態1によれば、互いに電気的に接続され、検査対象に対向する面に所定の面積を有するように任意の間隔を隔てて配置された少なくとも2つ以上の導体(導体板)が電磁超音波探触子内に設けられている。このような構成の電磁超音波探触子を用いることにより、静電容量の測定値に基づいて電磁超音波探触子と検査対象との距離を特定することが可能になる。この結果、電磁超音波探触子と検査対象との距離によらず超音波を用いた探傷感度が一定となり、良好な検査精度を実現することを可能とする電磁超音波探触子を得ることができる。
【0029】
なお、上述した実施の形態1では、磁石3を3つ用いた構成を示したが、本発明はこのような構成に限定されるものではない。発生する超音波10として所望のモードが得られるように、磁石3の個数、配置、および磁石3とコイル2との位置関係を決定すればよい。
【0030】
また、静電容量の計測方法としては、RC直列回路を構成し、RC直列回路の過渡現象を利用した充電特性から静電容量を計測してもよい。
【0031】
実施の形態2.
図5は、本発明の実施の形態2におけるEMATの概略構成図である。本実施の形態2に係るEMAT1は、コイル2と磁石3aおよび2つの表面に導電性材料が塗布された磁石3b、計測手段5から構成されている。先の実施の形態1における図1の構成と比較すると、本実施の形態2における図5の構成は、導体として、2つの導体板4の代わりに、2つの表面に導電性材料が塗布された磁石3bが用いられている点が異なっている。
【0032】
コイル2は、銅等の導線を円形、楕円形、または矩形の渦巻き状に中心部から数周から数十周巻いたもの、メアンダ状にしたもの、または、プリント基板上に同様の渦巻き状やメアンダ状のパターンを作成したものである。
【0033】
磁石3aは、永久磁石あるいは電磁石等の磁界を発生させる手段であり、先の図1における磁石3と同等である。また、磁石3bは、少なくとも2つ備えられ、永久磁石あるいは電磁石等の磁界を発生させる手段であり、表面には導電性材料が塗布されている。さらに、磁石3aおよび磁石3bは、磁界がコイル2により生じる渦電流に作用するように配置されている。
【0034】
本実施の形態2における図5の構成のEMAT1では、任意の間隔を隔てて配置された少なくとも2つの磁石3bを有している。また、磁石3bの表面には、導電性材料が塗布されており、各導電性材料が塗布された磁石3bにおいて、検査対象6に対向した面は、所定の面積Sを有している。したがって、各導電性材料が塗布された磁石3bと検査対象6との間には、先の実施の形態1と同様に、上式(1)で示す静電容量が生じる。
【0035】
本実施の形態2において、EMAT1は、導電性材料が塗布された磁石3bを2つ有しており、これら2つの磁石3bを電気的に接続すると、その等価回路は、先の実施の形態1と同じように、図4(a)、(b)となる。また、静電容量Cも、先の実施の形態1と同様に、上式(2)で与えられる。
【0036】
従って、計測手段5は、先の実施の形態1と同様に、上式(2)の関係から、電圧vが既知の場合には電流iを計測することにより、また、電流iが既知の場合には電圧vを計測することにより、EMAT1と検査対象6との間の静電容量を得ることができる。さらに、計測手段5は、上式(1)を用いて、計測した静電容量からEMAT1と検査対象6との距離を得ることができる。
【0037】
以上のように、実施の形態2によれば、導体として、導体板の代わりに表面に導電性材料が塗布された磁石を用いた場合にも、先の実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0038】
なお、上述した実施の形態2では、磁石3aを1つ、磁石3bを2つ用いた構成を示したが、本発明はこのような構成に限定されるものではない。発生する超音波10として所望のモードが得られるように、磁石3a、3bの個数、配置、および磁石3a、3bとコイル2との位置関係を決定すればよい。
【0039】
また、静電容量の計測方法としては、RC直列回路を構成し、RC直列回路の過渡現象を利用した充電特性から静電容量を計測してもよい。
【0040】
実施の形態3.
図6は、本発明の実施の形態3におけるEMATの概略構成図である。本実施の形態3に係るEMAT1は、2つのコイル2と磁石3および計測手段5から構成されている。先の実施の形態1における図1の構成と比較すると、本実施の形態3における図6の構成は、導体として、2つの導体板4の代わりに、2つのコイル2が用いられている点が異なっている。
【0041】
コイル2は、銅等の導線を円形、楕円形、または矩形の渦巻き状に中心部から数周から数十周巻いたもの、または、プリント基板上に同様の渦巻き状のパターンを作成したものである。磁石3は、永久磁石あるいは電磁石等の磁界を発生させる手段である。さらに、磁石3は、発生する磁界が、コイル2により生じる渦電流に作用するように配置されている。
【0042】
本実施の形態3における図6の構成のEMAT1では、任意の間隔を隔てて配置された少なくとも2つのコイル2を有している。これら2つのコイル2は、渦巻き状に密着して巻かれており、コイルにおいて、検査対象に対向した面は、先の実施の形態1の図1における導体板4と等価であるとみなし、その面積をSとする。この場合、コイル2と検査対象6との間には、先の実施の形態1と同様に、上式(1)で示す静電容量が生じる。
【0043】
本実施の形態3において、EMAT1は、2つのコイル2を有しており、これら2つのコイル2を電気的に接続すると、その等価回路は、先の実施の形態1と同じように、図4(a)、(b)となる。また、静電容量Cも、先の実施の形態1と同様に、上式(2)で与えられる。
【0044】
従って、計測手段5は、先の実施の形態1と同様に、上式(2)の関係から、電圧vが既知の場合には電流iを計測することにより、また、電流iが既知の場合には電圧vを計測することにより、EMAT1と検査対象6との間の静電容量を得ることができる。さらに、計測手段5は、上式(1)を用いて、計測した静電容量からEMAT1と検査対象6との距離を得ることができる。
【0045】
以上のように、実施の形態3によれば、導体として、導体板の代わりにコイルを用いた場合にも、先の実施の形態1、2と同様の効果を得ることができる。
【0046】
なお、上述した実施の形態3では、磁石3を3つ用いた構成を示したが、本発明はこのような構成に限定されるものではない。発生する超音波10として所望のモードが得られるように、磁石3の個数、配置、および磁石3とコイル2との位置関係を決定すればよい。
【0047】
また、静電容量の計測方法としては、RC直列回路を構成し、RC直列回路の過渡現象を利用した充電特性から静電容量を計測してもよい。
【0048】
また、以上示した実施の形態1〜3では、EMATにおける少なくとも2つ以上の導体として、2つの導体板(実施の形態1)、2つの磁石(実施の形態2)、2つのコイル(実施の形態3)について説明した。しかしながら、本発明における2つ以上の導体は、このような構成に限定されるものではない。EMATにおける少なくとも2つ以上の導体として、導体板と磁石、導体板とコイル、または、磁石とコイルの組合せを用いてもよい。
【0049】
実施の形態4.
先の実施の形態1〜3では、本発明のEMATについて説明した。これに対して、以下に説明する実施の形態4〜6においては、本発明のEMATを用いた電磁超音波探傷装置について説明する。
【0050】
図7は、本発明の実施の形態4における電磁超音波探傷装置(以下、探傷装置と記す)の概略構成図である。なお、以下に示す各図中において、同一符号は、同一または相当部分を示す。
【0051】
本実施の形態4に係る探傷装置は、EMAT1、計測手段5、位置制御部12、送信部13、および受信部14から構成されている。ここで、EMAT1は、先の実施の形態1〜3で説明したEMAT1のいずれかが適用されている。なお、本実施の形態4における位置制御部12は、探傷感度制御手段に相当する。
【0052】
次に、本実施の形態4における探傷装置の動作について説明する。図7において、送信と受信を兼用するEMAT1は、検査対象6に対して近接配置され、検査対象6中の欠陥部11の探傷を行う。EMAT1を駆動するための任意の駆動信号が、送信部13からEMAT1に入力される。駆動信号がEMAT1に入力されると、EMAT1が有するコイル2により、検査対象6には渦電流が発生する。また、EMATlが有する磁石3により、検査対象6には磁界がかけられている。
【0053】
これにより、検査対象6には、渦電流と磁界の相互作用であるローレンツ力が発生し、このローレンツ力により検査対象6は振動する。そして、この振動が超音波へと変換され、検査対象6中へ伝搬していく。検査対象6中を伝搬した超音波は、検査対象6中の欠陥部11により散乱され、散乱波の一部は、再びEMAT1の方向へと伝搬していき、EMAT1により受信される。EMAT1で受信された超音波は、受信部14において、信号処理され、欠陥部11の位置情報が検出される。
【0054】
本実施の形態4におけるEMAT1は、先の実施の形態1〜3のいずれかに記載のEMAT1を用いている。このため、計測手段5は、EMAT1と検査対象6との間の距離情報を得ることができる。そこで、位置制御部12は、距離情報をフィードバック量として参照し、EMAT1と検査対象6との距離が測定点によらず所定目標距離となるように補正量を決定し、この補正量によりEMAT1の位置をフィードバック制御する。
【0055】
以上のように、実施の形態4によれば、位置制御部の働きにより、探傷位置によらず、EMATと検査対象との距離を一定の所定目標距離に保つことができる。これにより、EMATと検査対象との間の距離が異なることにより生じる超音波による探傷感度の変動を抑圧した電磁超音波探傷装置を得ることができる。
【0056】
なお、本実施の形態4の探傷装置では、EMATは、送信・受信兼用の構成について説明したが、送信用、受信用、それぞれ別のEMATとしてもよい。
【0057】
実施の形態5.
先の実施の形態4においては、EMAT1と検査対象6との距離の測定結果に基づいてEMAT1の位置制御を行うことにより、EMAT1と検査対象6との間の距離が異なることにより生じる超音波による探傷感度の変動を抑圧する場合について説明した。これに対して、本実施の形態5では、先の実施の形態4とは異なる方法により超音波による探傷感度の変動を抑圧する場合について説明する。
【0058】
図8は、本発明の実施の形態5における探傷装置の概略構成図である。本実施の形態5に係る探傷装置は、EMAT1、計測手段5、送信部13、および受信部14から構成されている。ここで、EMAT1は、先の実施の形態1〜3で説明したEMAT1のいずれかが適用されている。
【0059】
また、先の実施の形態4における図7の構成と比較すると、本実施の形態5における図8の構成は、位置制御部12がない代わりに、計測手段5による距離の測定結果を送信部13にフィードバックしている点が異なっている。なお、本実施の形態5における送信部13は、探傷感度制御手段に相当する。
【0060】
次に、本実施の形態5における探傷装置の動作について説明する。図8において、送信と受信を兼用するEMAT1は、検査対象6に対して近接配置され、検査対象6中の欠陥部11の探傷を行う。EMAT1を駆動するための任意の駆動信号が、送信部13からEMAT1に入力される。駆動信号がEMAT1に入力されると、EMAT1が有するコイル2により、検査対象6には渦電流が発生する。また、EMATlが有する磁石3により、検査対象6には磁界がかけられている。
【0061】
これにより、検査対象6には、渦電流と磁界の相互作用であるローレンツ力が発生し、このローレンツ力により検査対象6は振動する。そして、この振動が超音波へと変換され、検査対象6中へ伝搬していく。検査対象6中を伝搬した超音波は、検査対象6中の欠陥部11により散乱され、散乱波の一部は、再びEMAT1の方向へと伝搬していき、EMAT1により受信される。EMAT1で受信された超音波は、受信部14において、信号処理され、欠陥部11の位置情報が検出される。
【0062】
本実施の形態5におけるEMAT1は、先の実施の形態1〜3のいずれかに記載のEMAT1を用いている。このため、計測手段5は、EMAT1と検査対象6との間の距離情報を得ることができる。そこで、送信部13は、計測手段5により測定された距離情報を参照し、EMAT1と検査対象6との距離に応じた補正量を決定し、この補正量にしたがって、EMAT1の駆動信号(電圧あるいは電流)を変更する。
【0063】
より具体的には、EMAT1と検査対象6との距離が大きい場合には、送信部13は、その距離に応じて駆動信号(電圧あるいは電流)を大きくする。一方、EMAT1と検査対象6との距離が小さい場合には、送信部13は、その距離に応じて駆動信号(電圧あるいは電流)を小さくする。EMAT1と検査対象6との距離に応じて、探傷感度が一定となるような駆動信号をあらかじめ求めておくことにより、探傷位置によらず、EMAT1による超音波を用いた探傷感度が一定となるように、超音波の送信強度を補正することができる。
【0064】
以上のように、実施の形態5によれば、送信部の働きにより、EMATと検査対象との距離に応じて駆動信号の大きさを可変することができる。これにより、探傷位置によらず、EMATによる超音波を用いた探傷感度が一定となるように、超音波の送信強度を補正することができる。これにより、EMATと検査対象との間の距離が異なることにより生じる超音波による探傷感度の変動を抑圧した電磁超音波探傷装置を得ることができる。
【0065】
なお、本実施の形態5の探傷装置では、EMATは、送信・受信兼用の構成について説明したが、送信用、受信用、それぞれ別のEMATとしてもよい。
【0066】
実施の形態6.
先の実施の形態4においては、EMAT1と検査対象6との距離の測定結果に基づいてEMAT1の位置制御を行うことにより、EMAT1と検査対象6との間の距離が異なることにより生じる超音波による探傷感度の変動を抑圧する場合について説明した。また、先の実施の形態5においては、EMAT1と検査対象6との距離の測定結果に基づいて、EMAT1による超音波を用いた探傷感度を一定にするように超音波の送信強度を補正ことにより、EMAT1と検査対象6との間の距離が異なることにより生じる超音波による探傷感度の変動を抑圧する場合について説明した。これに対して、本実施の形態6では、先の実施の形態4、5とは異なる方法により超音波による探傷感度の変動を抑圧する場合について説明する。
【0067】
図9は、本発明の実施の形態6における探傷装置の概略構成図である。本実施の形態6に係る探傷装置は、EMAT1、計測手段5、送信部13、および受信部14から構成されている。EMAT1は、先の実施の形態1〜3で説明したEMAT1のいずれかが適用されている。
【0068】
また、先の実施の形態5における図8の構成と比較すると、本実施の形態6における図9の構成は、構成要素自体は同じであるが、計測手段5による距離の測定結果を、送信部13にフィードバックする代わりに受信部14にフィードバックしている点が異なっている。なお、本実施の形態6における受信部14は、探傷感度制御手段に相当する。
【0069】
次に、本実施の形態6における探傷装置の動作について説明する。図9において、送信と受信を兼用するEMAT1は、検査対象6に対して近接配置され、検査対象6中の欠陥部11の探傷を行う。EMAT1を駆動するための任意の駆動信号が、送信部13からEMAT1に入力される。駆動信号がEMAT1に入力されると、EMAT1が有するコイル2により、検査対象6には渦電流が発生する。また、EMATlが有する磁石3により、検査対象6には磁界がかけられている。
【0070】
これにより、検査対象6には、渦電流と磁界の相互作用であるローレンツ力が発生し、このローレンツ力により検査対象6は振動する。そして、この振動が超音波へと変換され、検査対象6中へ伝搬していく。検査対象6中を伝搬した超音波は、検査対象6中の欠陥部11により散乱され、散乱波の一部は、再びEMAT1の方向へと伝搬していき、EMAT1により受信される。EMAT1で受信された超音波は、受信部14において、信号処理され、欠陥部11の位置情報が検出される。
【0071】
本実施の形態6におけるEMAT1は、先の実施の形態1〜3のいずれかに記載のEMAT1を用いている。このため、計測手段5は、EMAT1と検査対象6との間の距離情報を得ることができる。そこで、受信部14は、計測手段5により測定された距離情報を参照し、EMAT1と検査対象6との距離に応じた補正量を決定し、この補正量にしたがって、検出された信号を補正する。
【0072】
より具体的には、EMAT1と検査対象6との距離が大きい場合には、受信部14は、その距離に応じて検出信号を増幅させる。一方、EMAT1と検査対象6との距離が小さい場合には、受信部14は、その距離に応じて検出信号を減衰させる。EMAT1と検査対象6との距離に応じて、探傷感度が一定となるような検出信号の増幅率/減衰率をあらかじめ求めておくことにより、探傷位置によらず、EMAT1による超音波を用いた探傷感度が一定となるように、超音波の検出信号を補正することができる。
【0073】
以上のように、実施の形態6によれば、受信部の働きにより、EMATと検査対象との距離に応じて検出信号の大きさを可変することができる。これにより、探傷位置によらず、EMATによる超音波を用いた探傷感度が一定となるように、超音波の検出信号を補正することができる。これにより、EMATと検査対象との間の距離が異なることにより生じる超音波による探傷感度の変動を抑圧した電磁超音波探傷装置を得ることができる。
【0074】
なお、本実施の形態6の探傷装置では、EMATは、送信・受信兼用の構成について説明したが、送信用、受信用、それぞれ別のEMATとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施の形態1における電磁超音波探触子の概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1における電磁超音波探触子による超音波の発生原理を説明する図である。
【図3】本発明の実施の形態1における電磁超音波探触子と検査対象との関係を模式的に示した図である。
【図4】本発明の実施の形態1の電磁超音波探触子において、導体板を電気的に接続した場合の等価回路図である。
【図5】本発明の実施の形態2における電磁超音波探触子の概略構成図である。
【図6】本発明の実施の形態3における電磁超音波探触子の概略構成図である。
【図7】本発明の実施の形態4における電磁超音波探傷装置の概略構成図である。
【図8】本発明の実施の形態5における電磁超音波探傷装置の概略構成図である。
【図9】本発明の実施の形態6における電磁超音波探傷装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0076】
1 電磁超音波探触子、2 コイル、3、3a、3b 磁石、4 導体板、5 計測手段、6 検査対象、11 欠陥部、12 位置制御部、13 送信部、14 受信部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界を発生させる手段と、検査対象に渦電流を発生させるコイルとを備え、前記検査対象との間で電磁気力により超音波を送受信し、非接触で前記検査対象中の欠陥部を検出するために用いられる電磁超音波探触子において、
互いに電気的に接続され、前記検査対象に対向する面に所定の面積を有するように任意の間隔を隔てて配置された少なくとも2つ以上の導体をさらに備えたことを特徴とする電磁超音波探触子。
【請求項2】
請求項1に記載の電磁超音波探触子において、
前記2つ以上の導体は、導体板、磁石、コイル、またはこれらの組合せで構成されることを特徴とする電磁超音波探触子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電磁超音波探触子を用いて、前記検査対象に電磁気力により超音波を発生させ、前記検査対象中の欠陥部で散乱された超音波を受信して前記検査対象の探傷を行う電磁超音波探傷装置であって、
前記電磁超音波探触子に配置された前記2つ以上の導体と前記検査対象との間に生じる静電容量に基づいて、前記電磁超音波探触子と前記検査対象との間の距離を求める計測手段と、
前記計測手段により求められた前記距離に基づいて、前記検査対象の探傷感度を所定値に保つ探傷感度制御手段と
を備えたことを特徴とする電磁超音波探傷装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電磁超音波探傷装置において、
前記探傷感度制御手段は、前記計測手段により求められた前記距離をフィードバック量とし、前記電磁超音波探触子と前記検査対象との間の距離が所定の目標距離となるように、前記電磁超音波探触子の位置を制御する位置制御部で構成されることを特徴とする電磁超音波探傷装置。
【請求項5】
請求項3に記載の電磁超音波探傷装置において、
前記探傷感度制御手段は、前記検査対象中の欠陥部で散乱された超音波に基づく前記探傷感度が所定値になるように、前記計測手段により求められた前記距離に応じて前記電磁超音波探触子により発生させる超音波の強度を補正する送信側強度補正手段で構成されることを特徴とする電磁超音波探傷装置。
【請求項6】
請求項3に記載の電磁超音波探傷装置において、
前記探傷感度制御手段は、前記検査対象中の欠陥部で散乱された超音波に基づく前記探傷感度が所定値になるように、前記計測手段により求められた前記距離に応じて前記電磁超音波探触子により受信された超音波の強度を補正する受信側強度補正手段で構成されることを特徴とする電磁超音波探傷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−145056(P2009−145056A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319488(P2007−319488)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】