説明

電磁遮蔽空間

【課題】 建物内に電磁遮蔽構造を低コストで簡単に構築し、その後に当該遮蔽空間に到来した電磁波の周波数成分を解析し、特定の周波数成分が一定のレベルを超えたときに警報を発する電磁遮蔽空間を提供する。
【解決手段】 遮蔽する空間の電磁遮蔽構造1を、上ランナーと下ランナーとスタッドと接続板又は金網とによって構築し、前記電磁遮蔽構造1の任意の一箇所を導体2によって大地3に接地する。前記導体2に電磁誘導結合手段4を設置し、当該電磁誘導結合手段4の出力を広帯域増幅器5で増幅し、増幅された信号をスペクトルアナライアザ6に入力する。前記スペクトルアナライザ6の出力をパソコン7に入力し、モニタ7aで各周波数成分の強度を表示させ、特定の周波数成分が一定のレベルを超えたときにスピーカ7bにより警告音を発するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁遮蔽空間に関するものである。特に、構築した電磁遮蔽空間に到来する電磁波の周波数を解析し、特定の周波数の強度が或る一定のレベルを超えたときに警報を発するように構成して成る電磁遮蔽空間に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高度情報化時代にあって、事務所等が入っている建家又はビルディング(以下、単にビルと略する)は、高度情報化に対応できるように構築されている。例えば、一般の環境管理やビル管理機能の他に、オフィスオートメーション、データ処理、テレコミニュケーション等の情報通信設備を備えている。
【0003】
高度情報化に対応したビルとビルとのデータの送受信は、光ファイバを用いた高速大容量通信や通信ケーブルを用いたギガビット、テラビット伝送等により行われている。ビルの内部では、複数台のパソコンを相互に接続して、高速インターネットや電子メールの送受信が行われるように構成されている。その他にも、高度情報化に対応したビルの内部では、その他の各種の電子機器が配置され、それらを制御するための制御信号の送受信等が、配設された通信ケーブル等により行われるように構成されている。
【0004】
さらに、ビルの内部には、例えばオフィス、会議室、研究所、工場等が設けられており、一例として、研究所内では、実験装置、パソコン、プリンタ、スキャナ、サーバ等の電子機器が多数設置され、それらの電子機器が専用のケーブル等によって相互に接続され、制御可能なように構成されている。
【0005】
専用のケーブル等による各種電子機器の制御は、接続する電子機器の増加、機器の高性能化等によって複雑化し、ケーブルの誤配線や断線等の問題が発生し、各種電子機器の保守管理が一層難しくなってきている。そこで近年、有線のケーブルを廃止して無線で各種電子機器との接続を行う、所謂無線LANや無線ネットワーク等が活発化している。
【0006】
無線によるネットワークを構築した場合は、各電子機器とのデータの送受信は、簡単な送受信機を各電子機器に接続するだけで可能となり、有線ケーブル等が不必要となるので有用である。例えば、複数台のパソコンを相互に接続するためには、無線ルータ等を使用すれば良く、この無線ルータを用いてインターネットや電子メールの遣り取りが可能となる。
【0007】
しかし、ビル内の一空間で無線ネットワークを構築するためには、使用する無線の周波数帯を適切に選択する必要がある。つまり、ビル内の一空間から電波が漏れるため、使用する電波は電波法で管理されたものを正しく使用しなければならない。勝手に周波数帯を選んで使用すれば、例えば近くのビル内に設置されている医療機器に悪影響、例えば誤動作、動作停止、焼損を与えたりする。医療機器の誤動作等は人命に影響するので絶対に防がねばならない。その他にも、漏れた電波によって種々の電子機器の誤動作を招いたりする。従って、使用できる周波数帯は限定され、自由に選択することは不可能である。
【0008】
また、ビルの構造によっては、隣の間仕切った空間(部屋)に電波が漏れることもあるので、電波法で管理されている電波であって、その周波数や強度が所定のものであっても隣り合う部屋では同一の周波数帯が使用できないというケースもある。さらに電波が漏れることからデータや会話等が盗聴されるという問題も発生する。
【0009】
その他にも、ビルの外部から侵入する電波により、ビル内の一空間での無線ネットワーク、無線通信網が妨害されることも生じ得る。データの送受信を行っている場合に、このような妨害電波が侵入すると、現在送受信しているデータは破棄しなければならず、データの送受信に高いコストが発生している場合、送受信するデータの緊急性が問われている場合には、この妨害電波によるデータ送受信の停止は問題となる。
【0010】
そこで、ビル内の一空間に電磁遮蔽材等を用いて電磁遮蔽空間を構成し、使用している電波が漏れないように、且つ外部から妨害電波が侵入しないような考案がなされている。
【0011】
特許文献1の電磁シールド・インテリジェントビルには、電磁シールド部材を入れたコンクリートによりビルの躯体を構成し、該ビル内の通信機器間で電波を使って通信を行う技術が開示されている。
【0012】
電磁シールド部材を入れたコンクリートは、フェライト入りコンクリート又はメッシュ入りコンクリートであって、このようなコンクリートでビルの躯体を構築すれば、コンクリートで区切られた各室は電磁遮蔽空間或いは電波暗室となり、無線による電子機器間の通信が可能である。さらに、外部からの妨害電波等の侵入も防げる構成である。係る電磁遮蔽空間では、使用する電波がビルの外部に漏れないため、任意に周波数帯を選択することができることになる。
【0013】
しかしながら、電磁シールド部材を入れたコンクリートによって、ビル全体を電磁遮蔽空間とすることは、大掛かりであってコストが高く付くことになる。然も、電磁遮蔽する必要がない空間までを電磁遮蔽することになり、その内部にある携帯電話とビル外部の携帯電話或いは中継器との接続ができないという不具合が発生する。
【0014】
また特許文献2のインテリジェントビルには、床構造を二重にし、床下空間の内側を電磁遮蔽材で覆って電磁遮蔽空間を構成し、この床下空間に通信ラインに接続する中継器と端末に接続する伝送器を設置する技術が開示されている。この方法によって、コストを抑え簡単な施工により信頼性の面でも十分対応できるインテリジェントビルが構築されることになると主張している。この開示されている方法によれば、床下空間が電磁遮蔽空間となっているので、無線による電子機器間の通信が可能である。さらに、外部からの妨害電波等の侵入も防げる構成である。従って、係る電磁遮蔽空間では、使用する電波がビルの外部に漏れないため、任意に周波数帯を選択することができることになる。また、隣り合う部屋同士で同一の周波数帯の電波も使用可能であり、非常に有用であると言える。
【0015】
しかしながら、床構造を二重にし床下空間の内側を電磁遮蔽材で覆うことはコスト高となることは否めない。然も、中継器や伝送器(送受信機)が床下空間に設置されているため、それら中継器及び伝送器と、遮蔽空間外部の各電子機器との接続が容易ではなく、保守管理も厄介である。
【0016】
また、特許文献1及び2で開示されている電磁遮蔽空間においては、効率良く電磁遮蔽が可能であるものの、当該電磁遮蔽空間に到来した電磁波に関してその周波数解析や分析することについては何も記載されていない。
【0017】
電磁遮蔽空間を構築した後の、電磁遮蔽機能の測定評価やメンテナンスに関しては、特許文献3及び4を参照することができる。
【0018】
特許文献3の「電磁シールド室監視システム」では、「無線周波信号を発生する送信装置と、電磁シールド室の内部または外部の一方に設置され入力された無線周波信号を電波にして送信する送信用空中線と、電磁シールド室の内部または外部の他方に設置され電波を受信する受信用空中線と、受信用空中線の受信電波から無線周波信号の信号成分を被監視信号として取り出す受信装置と、被監視信号から前記受信用空中線の受信レベルを監視する監視装置」とを備えた構成が開示され、電磁シールド室の電磁遮蔽性能の評価を行っている。
【0019】
即ち、送信装置を電磁シールド室の外に、受信装置を電磁シールド室の内に設置しておき、特定の周波数の電波を送信装置で送信し、受信装置で受信したときの減衰量から、電磁シール室の電磁遮蔽性能の評価を行っている。送信する電波の周波数を変化(掃引)することで周波数特性を知ることができる。
【0020】
特許文献4では、「電磁波シールドルームの室外から電磁波を放射し、室内に設置した複数の素子を持つ2次元アレーアンテナで電磁波シールドの漏洩波源からの漏洩波を受信し、各素子で受信された漏洩波の位相差を利用して到来方向推定法(MUSIC法等)により漏洩波の到来方向(到来角θ,φ)を推定し、この到来方向と波源距離から漏洩波源位置(x,z)を特定する」技術が開示されている。
【0021】
この特許文献4に開示されている技術を利用すれば、電磁波シールドルームに漏洩箇所が生じた場合に、その漏洩箇所を特定することができることとなる。
【0022】
しかしながら、特許文献3及び4に開示されている方法では、送信装置と受信装置は必須の装置であり、それぞれの装置を電磁遮蔽空間の外と内に設置しなければならない。電磁遮蔽の性能を評価するとき、或いは電磁遮蔽空間の漏洩箇所を特定するときに、送信装置から特定の周波数の電波を送信し、当該電波を受信装置で受信することが基本となる。
【0023】
従って、送信装置と受信装置とが必須であるから評価コストが高い、それらの装置を電磁遮蔽空間の外と内に設置するための場所が必要である、周波数特性を測するためには周波数を掃引しなければならない、といった問題点がある。
【0024】
【特許文献1】特開昭62−112845号公報
【特許文献2】特開平8−338122号公報
【特許文献3】特開2002−94288号公報
【特許文献4】特開2004−205404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
従って本願発明は、以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、電磁遮蔽空間を簡単に構築することができ、その後に当該電磁遮蔽空間に到来した電磁波を簡便に解析し、特定の周波数の電磁波が到来したときに警報を発する電磁遮蔽空間を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本願発明の電磁遮蔽空間は、天井面と、床面と、前記天井面及び前記床面を囲む四方の面とに電磁遮蔽構造を施し、当該電磁遮蔽構造の任意の一箇所を導体によって大地に接地して成る電磁遮蔽空間であって、前記導体の任意の箇所に当該導体を囲んで設置される電磁誘導結合手段と、当該電磁誘導結合手段からの出力を入力し前記電磁遮蔽空間に到来した電磁波を解析する周波数解析手段とを具備したことを特徴とする。
【0027】
電磁遮蔽空間を構成する6面は電磁遮蔽材料等を用いて構成され、当該電磁遮蔽空間を構成する電磁遮蔽構造の任意の一箇所は導体により大地に接地されて電磁遮蔽空間が構築される。前記導体はケーブル、ワイヤ、導体板等、抵抗の少ないものであれば何れでも良い。
【0028】
電磁遮蔽空間に電磁波が到来すると、遮蔽されるように設計した電磁波(波長をλとする)は、一般に当該電磁遮蔽空間内では減衰して観測される。幾何光学的に説明すれば、波長λは当該電磁遮蔽空間を構成する何れかの一面で反射される。波長λより波長が長い電磁波は同様に減衰し、波長λより波長が短い電磁波は当該電磁遮蔽空間内では減衰されず自由空間と同様に振る舞う。即ち、波長λより波長が短い電磁は、電磁遮蔽空間内を減衰無しで自由に伝搬する。
【0029】
波長λを含め波長λより長い波長の電磁波が当該電磁遮蔽空間に到来すると、前述のように当該電磁遮蔽空間内で減衰するが、その理由は、当該電磁遮蔽空間を構成する面において、後述するようにスタッドと接続板により仕切られる矩形状の領域(電磁波が通過できる空間)又は金網の網目(電磁波が通過できる空間)の対角線の長さが丁度λ/2であるからである。
【0030】
故に、前記電磁遮蔽構造は見方を変えれば、効率は別としてアンテナとしての作用があり、電磁波が到来することにより起電力が発生しているが、当該電磁遮蔽構造は大地に接地されているので、仮想的にアンテナとして作用したときに発生する起電力は全て大地へ前記導体を介して流れることとなる。
【0031】
従って、前記導体には到来した電磁波に依存した電流が流ており、前記導体を流れる電流は、前記電磁誘導結合手段により電圧として取り出すことが可能である。それ故、前記電磁誘導結合手段は、前記導体に流れる電流を電圧に変換して取り出せれば、どのような構造のものであっても構わない。
【0032】
電磁誘導結合手段で取り出された電圧は周波数解析手段に入力され、各周波数成分の強度が分析される。前記周波数解析手段は汎用のスペクトルアナライザであっても構わない。高速フーリェ変換機能を備えた解析装置であればより高精度に解析可能である。なお、前記電磁誘導結合手段で取り出される電圧(信号)は極微弱であるため適宜増幅することが望ましい。
【0033】
なお、前記導体に適宜抵抗を挿入し、その抵抗の両端から電圧を取り出す方法は、電磁遮蔽構造の接地抵抗が大となるために電磁遮蔽効果が少なくなり、望ましい方法ではない。
【0034】
従って、本願発明の電磁遮蔽空間によれば、電磁遮蔽空間を構築した後に、当該電磁遮蔽空間に到来した電磁波の成分を分析することが可能となる。本願発明によれば、送信装置及び受信装置を電磁波遮蔽空間の内外に設置する煩わしさは無い。また、当該電磁遮蔽空間の周波数特性を測定するために送信装置から送信する電波の周波数を掃引する煩わしさも無い。簡便な方法で電磁波の周波数成分を解析することが可能である。
【0035】
本願発明の電磁遮蔽空間は、前記電磁誘導結合手段として導線を多重巻きにしたコイルを採用した。このコイルは全体が電磁遮蔽されており、当該コイルの出力は広帯域増幅器により増幅されていることを特徴とする。このコイルの電磁遮蔽は、簡単にはアルミ箔等の金属箔でコイル全体を覆い、前記金属箔を大地に接地する構成であっても良い。なお、前記広帯域増幅器は、検出する電磁波の周波数帯に応じてその特性を選択する必要がある。
【0036】
前記電磁誘導結合手段として導線をコイル巻きにしたものを用いたので、簡単に低コストで前記導体に流れる電流を電圧に変換することが可能となる。また、コイル全体を電磁遮蔽して、その出力を広帯域増幅器で増幅したので、ノイズの影響が少なくSN比の良好な信号を得ることができる。
【0037】
本願発明の電磁遮蔽空間は、前記周波数解析手段としてスペクトルアナライザを用い、当該スペクトルアナライザに入力された信号の特定の周波数成分が所定のレベルを超えたときに警報を発するように構成して成ることを特徴とする。
【0038】
前記周波数解析手段として汎用のスペクトルアナライザを用いたので、低コストで本願発明を構築できるととなる。なお、特定の周波数成分が所定のレベルを超えたときに警報を発するような構成は、適宜に構成することができる。例えば、スペクトルアナライザからの出力をパソコンに入力して、その信号を各周波数成分毎の信号強度に分解しておき、特定の周波数の信号強度が予め決められたレベル(スレッシュホルド)を超えたときにパソコンのスピーカから警報音を出すようにすることも可能である。係る構成を採用することで、電磁遮蔽空間に到来した電磁波の周波数成分を簡便に把握することができ、妨害電波を初めとして特定の電磁波が到来したときにそのような電磁波が到来したことを警報により知ることが可能となる。なお、この警報は音、光又はこれらの組み合わせであっても良い。
【0039】
また、前記スペクトルアナライザは、入力される信号が零の場合に警報を発するように構成しても良い。上記のような構成でスペクトルアナライザに入力される信号が零ということは、電磁遮蔽構造が正しく機能していない場合であり、係る構成を採用すれば、電磁遮蔽空間が機能していない場合に警報により知ることができ、直ちに善後策を採ることが可能である。即ち、電磁遮蔽空間の信頼性が向上する。
【0040】
本願発明の電磁遮蔽空間は、前記電磁遮蔽構造を、前記天井面に固定される金属製の上ランナーと、前記床面に固定される金属製の下ランナーと、上下に延在して前記上ランナーと前記下ランナーとの間に配設される複数の金属製のスタッドと、当該複数のスタッドを電気的に接続し当該スタッドと垂直方向に配設され、且つ前記上ランナー同士を接続し前記電磁遮蔽空間の天井面を構成し、然も前記下ランナー同士を接続し前記電磁遮蔽空間の床面を構成する複数の金属製の接続板とから構成したことを特徴とする。
【0041】
前記接続板と前記スタッドとで仕切られる矩形状の領域の対角線の長さ、前記上ランナー又は前記下ランナーと前記スタッドと前記接続板とで仕切られる矩形状の領域の対角線の長さ、前記上ランナー又は前記下ランナーと前記接続板とで仕切られる矩形状の領域の対角線の長さ及び前記接続板同士で仕切られる矩形状の領域の対角線の長さは、遮蔽する電磁波の二分の一波長以下に設定されている。
【0042】
前記上ランナーと前記下ランナーは、基部と凸部とからなる。前記基部は、金属製の平板からなり、厚さ及びその幅は遮蔽する空間の大きさ、使用する下地材や壁材の材質、重量等を考慮して適宜決定することができる。前記基部の材質は鉄、銅、アルミニュウム等から適宜選択できる。コストを考慮すると鉄が一番望ましい。
【0043】
前記凸部は、前記基部に所定の間隔を置いて設けられるが、当該凸部は金属製であって、後述するスタッドがこの凸部に嵌合して、スタッドの位置決めが為されるものである。この凸部の寸法、材質、表面荒さ等は、スタッドや上下ランナーの基部との関係で適宜決めることができる。例えば、凸部は前記基部と同じ材質の金属板で箱形、門型に形成しその両端部を前記基部にボルト締め、スポット溶接、リベット止め、釘等によって取り付けることができる。また、凸部は金属の中実体であっても構わないが、上下ランナーの重量を考慮すると中空体が望ましい。
【0044】
前記スタッドは、金属部材により直線状に延在して形成され、当該スタッドの両端はそれぞれ前記金属製の凸部に嵌合可能なように構成されている。
【0045】
前記接続板は、前記スタッドを電気的に接続し、当該スタッドと垂直方向に配設される金属製の平板である。また、前記上ランナー同士及び前記下ランナー同士を接続して前記遮蔽空間の天井面及び床面を構成するものでもある。前記接続板の材質及び幅等は適宜決めることができる。当該接続板は、前述するように、前記上ランナーと前記スタッドと当該接続板とで仕切られる矩形状の領域の対角線の長さ及び前記下ランナーと前記スタッドと当該接続板とで仕切られる矩形状の領域の対角線の長さ並びに前記スタッドと当該接続板とで仕切られる矩形状の領域の対角線の長さが、遮蔽する電波の二分の一波長以下となるように、一以上前記スタッドと直角方向でかつ複数のスタッドに沿って配置して接続される。前記接続板とスタッドとの電気的な接続は、スポット溶接、ボルト締め、リベット止め等の方法から適宜選択することができる。
【0046】
前記天井面及び前記床下面は、それぞれその外周は上ランナー及び下ランナーによって囲まれる。このとき、前記上ランナー同士及び前記下ランナー同士を繋ぎ合わせて配置して行くとき、接続の部分では上ランナー同士及び下ランナー同士が必ず電気的に接続されるように、それぞれの端部が重なり合うようにすることが重要である。
【0047】
天井面及び床面を構成する接続板は、前記スタッドを電気的に接続する接続板と同一であっても構わない。当該接続板は、前記天井面及び前記床面に縦横に間隔を置いて並べて配置され、前記上ランナー又は前記下ランナーと電気的に接続される。前述するように、前記上ランナー又は前記下ランナーと当該接続板とで仕切られる矩形状の領域の対角線の長さ及び当該接続板同士で仕切られる矩形状の領域の対角線の長さは、遮蔽する電磁波の二分の一波長以下に設定されている。前記接続板同士、前記接続板と前記上ランナー又は前記下ランナーとの電気的な接続は、スポット溶接、ボルト締め、リベット止め等の方法から適宜選択することができる。
【0048】
係る構成を採用することで、電磁遮蔽空間の天井面と床面とを簡単に構築することが可能である。それ故、建屋やビル内部で、希望する区画に電磁遮蔽空間を即座に構築することができることとなる。
【0049】
本願発明の電磁遮蔽空間は、前記電磁遮蔽構造を、前記天井面に固定される金属製の上ランナーと、前記床面に固定される金属製の下ランナーと、上下に延在して前記上ランナーと前記下ランナーとの間に配設される複数の金属製のスタッドと、前記天井面と前記床面と前記床面及び前記天井面を囲む四方の面とに配設され、前記上ランナーと前記下ランナーと前記スタッドとを電気的に接続する金網とから構成したことを特徴とする。また、前記金網の網目の最長対角線の長さは、遮蔽する電磁波の二分の一波長以下に設定されている。
【0050】
前記上ランナー、前記下ランナー、前記スタッドは前述した通りである。前記金網は、導電性があれば、金網を構成する素線の太さ、網目の模様、網目の形状は問わない。網目を構成したときの素線と素線との交差する部分の溶接方法等も問わない。従って金網として、フェンスネット、ワイヤーメッシュ、バーメッシュ、パンチングメタルを用いることができる。ここで、金網の表面に塗装等が施されていても構わないが、前記上ランナーと前記下ランナーと前記スタッドと電気的な接続を行う部分の塗装は剥がし電気的な接続を確保する必要がある。また、長さの短い金網を継ぎ足して行く場合は、その繋ぎの部分で隙間ができ電気的に絶縁されないように注意する必要がある。なお、繋ぎの部分での金網同士の接続は補助治具等を用いて適宜行うことができる。
【0051】
前記金網の網目の大きさは前述のように、角部と角部を結ぶ直線の内で最長の長さは、遮蔽する電磁波の二分の一波長に等しいものを用いる。つまり、網目が正方形であればその対角線、矩形状であれば長い方の対角線、網目が円形であればその直径、楕円形状であればその長軸径を、遮蔽する電磁波の二分の一波長に等しくする。三角形状の場合は、その辺の長さ、或いは各辺を底辺とした場合に高さが3つ定義できるが、その高さの内で最も高い高さを電磁遮蔽する電波の二分の一波長に等しくする。パンチングメタルを用いるのであれば、同様に、打ち抜かれる穴形状が矩形の場合はその対角線の長さを、円形状であればその直径を、楕円形状であればその長軸径を遮蔽する電磁波の二分の一波長に等しくする。
【0052】
係る構成を採用することで、電磁遮蔽空間を簡単に構築することが可能である。それ故、建屋やビル内部で希望する区画に電磁遮蔽空間を即座に構築することができることとなる。
【発明の効果】
【0053】
本願発明の電磁遮蔽空間によれば、電磁遮蔽する空間の電磁遮蔽構造が、上ランナーと下ランナーとスタッドと接続板又は金網とによって、作業効率良く、簡単に、然も低コストで構築できることになる。即ち、建屋やビル内部の任意の場所に、高い精度で然も低コストで電磁遮蔽空間を実現することが可能となる。また、電磁遮蔽空間を構築した後に、当該電磁遮蔽空間に到来した電磁波の周波数成分を簡便に把握することができ、例えば特定の周波数の電磁波が到来したときに警報を発するように構成することができる。従って、妨害電波の周波数が予め特定されていれば、係る妨害電波が到来したことを警報音等により知ることが可能であり、信頼性の高い電磁遮蔽空間を提供することが実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
以下、図面を参照しながら、本願発明の電磁遮蔽空間の実施の形態について説明する。
【0055】
(第一の実施の形態)
第1図は本願発明の第一の実施の形態の電磁遮蔽空間に係り、全体構成を示した説明図である。電磁遮蔽する空間は、電磁遮蔽構造1によって六面が囲まれ、当該電磁遮蔽構造1の任意の一箇所が導体2によって大地3に接地されている。導体2には当該導体2を囲んで電磁誘導結合手段4が設置され、その出力は広帯域増幅器5によって増幅されている。増幅された信号はスペクトルアナライザ6に入力され、その出力はパソコン7に入力される。パソコン7において、モニタ7a上に各周波数成分と強度の関係が表示され、特定の周波数成分の強度が一定のレベル(スレッシュホルドレベル)を超えたときに警報音がスピーカ7bより発せられる構成になっている。
【0056】
図2は、図1の電磁遮蔽構造1の拡大斜視図である。上ランナー1aと下ランナー1bとスタッド1cと接続板1dによって構成されている。これらの各部品の詳細、電磁遮蔽構造1の組み立て方法は後述する。電磁遮蔽したい空間の六面が電磁遮蔽構造1によって囲まれている。当該電磁遮蔽構造1の任意の一箇所から導体2を用いて大地3に接地されている。導体2はケーブルでも導体板でも構わないが、電気抵抗が小さいことが重要である。また、接地は電磁遮蔽構造1の一箇所からだけ行うようにする。二箇所以上で接地すると、大地へ流れる電流が分流され、信号として取り出すことが難しくなるからである。さらに、導体2に抵抗等を挿入して、その両端から電圧を取り出す方法は、電磁遮蔽構造の接地抵抗が高くなり、電磁遮蔽空間での電磁遮蔽効果が悪くなるので望ましい方法では無い。
【0057】
図3は、図1の電磁誘導結合手段4を概念的に示した説明図である。電磁誘導結合手段4は、鉄心19と極細径銅線20とから成る。鉄心19は円環状であって、前記導体2を取り囲む構成になっている。電磁誘導結合手段4は簡単にはこの鉄心19に極細径銅線20を重ね巻きしたものである。鉄心19の寸法、極細径銅線20の直径、極細径銅線20の鉄心19への巻き回数、鉄心19と導体2との隙間等は、導体2を流れる電流や検出する信号の強度との関係で適宜設計することができる。なお、電磁誘導結合手段4は全体がアルミ箔で覆われ、このアルミ箔は大地3に接地されている。このようにしてノイズの影響を小さくしたSN比の良好な信号を得ることができる。
【0058】
電磁誘導結合手段4の出力側には広帯域増幅器5が設置されている。広帯域増幅器5は検出する周波数帯に応じて選択できるように数種類用意した。なお、広帯域増幅器5の増幅度は、後段の周波数解析手段に入力される信号のSN比が所定のレベルになるように適宜調整した。広帯域増幅器の選択や増幅度の設定は、手動でも構わないがプログラム等により自動に行うように構成されている。
【0059】
周波数解析手段は、汎用のスペクトラムアナライザ6を用いた。スペクトラムアナライザ6の出力(アナログ信号又はデジタル信号、或いは両方)は、パソコン7に入力され、周波数成分毎の信号強度がパソコン7のモニタ7aにおいて表示される。特定の周波数成分が一定のレベル(スレッシュホルドレベル)を超えた場合には、スピーカ7bから警告音を発するように構成されている。また、パソコン7に入力される信号強度が零の場合のも警告音を発するように構成されている。信号強度が零である場合には、電磁遮蔽構造1の大地3への接地が不完全だからである。
【0060】
電磁遮蔽空間を係る構成とすることで、電磁遮蔽空間に到来した電磁波の周波数成分を簡便に把握することができる。妨害電波の周波数が特定されていれば、その周波数の強度に対してスレッシュホルドを設定しておくことで、当該妨害電波が実際に到来したときに警報音により知ることができることとなる。また、電磁遮蔽空間内部で無線LANを使用している場合、当該無線LANの周波数成分が強くモニタ上に現れる。このレベルが通常使用時のレベルより小さくなれば無線LANが故障しているか、又は電磁遮蔽空間から漏れ出していることを検知することができる。さらに、スペクトルアナライザ6に入力される信号強度が零或いは略零でありパソコン7に入力される信号強度も零或いは略零の場合には、電磁遮蔽構造1の接地が不完全であり電磁遮蔽機能が停止していることになる。従って、スペクトルアナライザ6又はパソコン7に入力される信号強度が零又は略零の場合に警報を発して電磁遮蔽空間の機能が停止していることを検知することができる。
【0061】
以下、電磁遮蔽構造1の詳細について述べる。電磁遮蔽構造1は、上ランナー1a、下ランナー1b、スタッド1c、接続板1dにより構成される。
【0062】
図4は、上ランナー及び下ランナーについて示したものである。前記上ランナー1a、下ランナー1bは、略同一の構造で、図4(a)〜(c)に示すように、直線状に延材する基部11と、基部11から突出された複数の凸部12を備えている。前記基部11は厚さが1mm程度で均一幅の帯状の平板鋼により形成されている。
【0063】
上ランナー1a同士を接続、又は下ランナー1b同士を接続するために、上下ランナー1a、1bの端部に、図示しないがジョイント用の穴と爪を形成している。即ち、ランナー同士を接続するときは、一方の端部に設けられたジョイント用の穴に他方の端部に設けられたジョイント用の爪を立てて差し込み、その後ジョイント用の爪を折り曲げることで接続が為される。
【0064】
前記凸部12は、前記上下ランナー1a、1bと同じ材質の平板鋼を用いて、門型に形成し、その端部15を内側に折り曲げて、スポット溶接14を行うことにより固定されている。凸部12の大きさは、スタッド1cがちょうど嵌合できる大きさである。
【0065】
凸部12の基部11への設置間隔は、上ランナー1aとスタッド1cと接続板1dとで仕切られる矩形状の領域の対角線の長さ及び下ランナー1bとスタッド1cと接続板1dとで仕切られる矩形状の領域の対角線の長さ並びにスタッド1cと接続板1dとで仕切られる矩形状の領域の対角線の長さが、遮蔽する電磁波の二分の一波長となるようにした。
【0066】
天井面は上ランナー1aで囲まれた領域に接続板1dを縦横に等間隔で設置し、交差している部分をスポット溶接により固定した。接続板1dと上ランナー1aとの接続もスポット溶接により行った。床面は下ランナー1bで囲まれた領域に接続板1dを縦横に等間隔で設置し、交差している部分をスポット溶接により固定した。接続板1dと下ランナー1bとの接続もスポット溶接により行った。
【0067】
上ランナー1a又は下ランナー1bと接続板1dとで仕切られる矩形状の領域の対角線の長さ及び接続板1d同士で仕切られる矩形状の領域の対角線の長さは、遮蔽する電磁波の二分の一波長以下に設定されている。
【0068】
前記窓13は、図2(d)に示すように、矩形状であって前記基部11を貫通して形成されており、前記基部11の間隔を置いた複数の箇所に適宜設けられている。この窓13の対向する二組の角部の内、一組の角部16、16に、墨出し線17がちょうど位置するように、前記上下ランナー1a、1bの位置を調節することで、正規の位置に上下ランナー1a、1bが配置されることになる。なお、窓13はレーザ加工により高い精度で形成されている。
【0069】
スタッド1cは角型の中空金属パイプを用いた。スタッド1cの横幅と上下ランナー1a、1bの幅とは略同一である。スタッド1cの厚さは、当該スタッド1cに取り付ける下地材や壁材などを考慮して適宜決めた。スタッド1cの断面寸法と前記凸部12との関係は、次の通りである。スタッド1cの下端と下ランナー1bの凸部12とは一旦嵌合するとその状態を保つように形成され、スタッド1cの上端と上ランナー1aの凸部12とは、一旦嵌合した後に摺動できるように形成されている。つまり、上下ランナー1a、1bとスタッド1cとを嵌合した後に、上ランナー1aの上面と下ランナー1bの下面との距離が調整できるように形成されている。
【0070】
接続板1dは、前記上下ランナー1a、1bの基部11を形成する平板鋼と同一の平板鋼を用いた。接続板の幅は、前記上下ランナー1a、1bの幅と略同一とした。しかし、必ずしも同一とする必要はなく、電気的な導通が確保されれば幅は任意に定めることができる。
【0071】
次に、電磁遮蔽空間を形成するフレーム構造の組み立て手順について以下に説明する。まず、現場に上下ランナー1a、1bとスタッド1cと接続板1dを搬入する。天井面と床面に電磁遮蔽する空間の墨出しを行い、墨出し線17を付しておく。この墨出し線17は、電磁遮蔽構造1の位置を決めるための重要な線である。
【0072】
次に、現場において、スタッド1cの下端と下ランナー1bの凸部12を嵌合し、スタッド1cの上端と上ランナー1aの凸部12を嵌合する。上下ランナー1a、1bそれぞれ一本に、数本のスタッド1cが嵌合される。これにより、スタッド1cの下端と下ランナー1bの凸部12は嵌合された状態を保持し、スタッド1cの上端と上ランナー1aの凸部12は摺動可能に嵌合された状態の、部分フレームが形成される。
【0073】
図5は、この部分フレームについて示したものであり、平面図(a)、正面図(b)、側面図(c)である。なお、図5(a)〜(c)において、凸部12は、その位置を表示するために実線で示している。工場でこの部分フレームを組み立て、現場に搬入すれば作業効率が良い。場合によっては接続板1dをスタッド1cに取り付けておくことも考えられる。図5(d)は、スタッド1cの下端と下ランナー1bの凸部12との嵌合の様子を示したものである。スタッド1cは、下ランナー1bの基部11に当接するまで嵌合されている。このようにスタッド1cは、下ランナー1bの凸部12に嵌合することによって、スタッド1cの位置決めが為される。
【0074】
この部分フレームの全体の大きさは、部分フレームを起立させて、上下ランナー1a、1bをそれぞれ天井面と床面とに固定して行くものであるから、手で持って持ち運びが可能な大きさである。その大きさは、大き過ぎては重量が大きくなり危険であるし、小さすぎては作業効率が悪くなる。従って、上下ランナー1a、1bにスタッド1cを四本程度嵌合した大きさがちょうど良い。
【0075】
次に、前記の部分フレームを墨出しした箇所において、下ランナー1bが床面に、上ランナー1aが天井面に位置するように、部分フレームを起立させる。この場合、部分フレームの起立が円滑に行われるように、上ランナー1aの凸部112をスタッド1cの上端に押し込んで、上ランナー1aの基部11をスタッド1cの上端に当て付けておき、部分フレームの高さを低くしておく。次いで、部分フレームを起立させ、下ランナー1bの複数の窓13の一組の角部16、16が床面に付された墨出し線17にちょうど位置するように下ランナー1bを位置決めする。そして、上ランナー1aの凸部12をスタッド1cから引き出して天井面に当て付け、上ランナー1aの複数の窓13の一組の角部16が天井面に付された墨出し線17にちょうど位置するように上ランナー1aを位置決めする。上記のようにして上ランナー1aと下ランナー1bとを位置決めした状態で、コンクリート釘によって下ランナー1bと上ランナー1aとをそれぞれ床面と天井面に固定する。順次、複数の部分フレームを設置して行き、電磁遮蔽空間の天井面と床面とを除く四面が組み立てられる。
【0076】
その後、接続板1dをスタッド1cに接続する。同時に天井面と床面に接続板1dを配設して行く。接続板1dは、上ランナー1a間、下ランナー1b間、及び上ランナー1aと下ランナー1bとの間で、必要に応じて複数枚配置される。即ち、上ランナー1aとスタッド1cと接続板1dとで仕切られる矩形状の領域の対角線の長さ及び下ランナー1bとスタッド1cと接続板1dとで仕切られる矩形状の領域の対角線の長さ並びにスタッド1cと接続板1dとで仕切られる矩形状の領域の対角線の長さが、遮蔽する電磁波の二分の一波長以下となるようにするために、必要に応じて複数枚配設される。スタッド1cと接続板1dとの接続はスポット溶接により行った。
【0077】
床面と天井面に配設した接続板1dも同様である。接続板1dは、前記天井面及び前記床面に縦横に間隔を置いて並べて配置され、前記上ランナー1a又は前記下ランナー1bと電気的に接続される。前記上ランナー1a又は前記下ランナー1bと前記接続板1dとで仕切られる矩形状の領域の対角線の長さ及び前記接続板1d同士で仕切られる矩形状の領域の対角線の長さは、遮蔽する電磁波の二分の一波長以下に設定されている。接続板1d同士、接続板1dと前記上ランナー1a又は前記下ランナー1bとの接続はスポット溶接により行った。
【0078】
以上のようにして、電磁遮蔽する空間の電磁遮蔽構造1が完成する。その後、電磁遮蔽構造の任意の1箇所を導体2により大地3に接地する。接地抵抗は小さければ小さい程良い。
【0079】
本願発明の第一の実施の形態によれば、電磁遮蔽構造を形成する上ランナー、下ランナー、スタッド及び接続板は予め工場において高い精度で製作することができるので、現場で上下ランナーとスタッドを組み立てて部分フレームを製作し、或いは必要に応じて接続板をも取り付けて工場で製作しておき、現場でこの部分フレームを起立させて上下ランナーを墨出し線に合わせて設置することにより、正規の位置に高い精度で然も低コストで電磁遮蔽空間を実現する電磁遮蔽構造が形成される。
【0080】
この電磁遮蔽空間内では、遮蔽するように設計した波長の電磁波を自由に使うことができ、然もこの遮蔽空間の外部にはその電波は漏れることはない。また、遮蔽空間からその波長の電波が侵入することもない。また、建物内の隣り合う空間で、それぞれ電磁遮蔽空間を形成すれば、同一の電波を用いても隣の空間に漏れることがないので、無線ネットワーク等が効率良く運営できる。さらに、電波が漏れないことから、会話の盗聴といった問題も生じない。
【0081】
さらに、当該電磁遮蔽空間に到来した電磁波が簡便に把握できるように構成したので、特定の波長の妨害電波が到来したことを警告音で知ることができる。また、電磁遮蔽構造が機能していないことも検知することができる。然も、電磁遮蔽空間内で使用している無線LAN等の無線機器の動作不良も検知することができ、信頼性の高い電磁遮蔽空間を構築することができる。
【0082】
(第二の実施の形態)
図6は、本願発明の電磁遮蔽空間の第二の実施の形態に係り、電磁遮蔽構造の拡大斜視図である。電磁遮蔽構造は、上ランナー1aと下ランナー1bとスタッド1cと金網18を用いて構成されている。第一の実施例で用いた接続板の替わりに金網18を用いたもので、その他の構成は第一の実施例と同様である。
【0083】
この金網18は、導電性があれば、金網を構成する素線の太さ、網目の模様、網目の形状、網目を構成したときの素線と素線との交差する部分の溶接方法等は問わない。従って、フェンスネット、ワイヤーメッシュ、バーメッシュ、パンチングメタルを用いることができる。図6の金網は文字通りの金網である。なお、金網の表面に塗装等が施されていても構わないが、上下ランナー1a、1bとスタッド1cと電気的な接続が必要な部分の塗装は剥がす必要がある。
【0084】
金網18の網目の大きさは、角部と角部を結ぶ直線の内で最長の長さ(最長対角線の長さ)は、遮蔽する電磁波の二分の一波長に等しいものを用いる。網目が円形であればその直径、楕円形状であればその長軸径は、遮蔽する電磁波の二分の一波長に等しいものを用いる。
【0085】
本願発明の第二の実施の形態によれば、電磁遮蔽構造を構成する上ランナー、下ランナー、スタッド及び金網は予め工場において高い精度で製作することができるので、現場で上下ランナーとスタッドを組み立てて部分フレームを製作し、現場でこの部分フレームを起立させて上下ランナーを墨出し線に合わせて設置し、次いで金網を取り付けることで、正規の位置に高い精度で然も低コストで電磁遮蔽空間を実現するフレーム構造が形成される。
【0086】
また、第一の実施の形態と同様に、この電磁遮蔽空間内では、遮蔽するように設計した波長の電磁波を自由に使うことができ、然もこの遮蔽空間の外部にはその電波は漏れることはない。また、遮蔽空間からその波長の電波が侵入することもない。また、建物内の隣り合う空間で、それぞれ電磁遮蔽空間を形成すれば、同一の電波を用いても隣の空間に漏れることがないので、無線ネットワーク等が効率良く運営できる。さらに、電波が漏れないことから、会話の盗聴といった問題も生じない。
【0087】
さらに、当該電磁遮蔽空間に到来した電磁波が簡便に把握できるように構成したので、特定の波長の妨害電波が到来したことを警告することができる。また、電磁遮蔽構造が機能していないことも検知することができる。然も、電磁遮蔽空間内で使用している無線LAN等の無線機器の動作不良も検知することができ、信頼性の高い電磁遮蔽空間を構築することができる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、建物又はビル内に低コストで簡単に構築することが可能な電磁遮蔽空間に関するものである。電磁遮蔽空間の電磁遮蔽構造は、上下ランナー、スタッド、接続板又は金網により構成される。電磁遮蔽構造の任意の一箇所は導体によって大地に接地される。導体を囲んで電磁誘導結合手段が設置され、その信号は周波数解析手段によって解析される。それ故、電磁遮蔽空間に到来した電磁波の周波数成分が簡便に解析でき、特定の周波数成分が一定のレベルを超えたときに警報を発すように構成することが可能である。従って、複数の電子機器を無線でネットワーク化している事務所や外部からの電波の侵入による誤動作があってはならない医療機器を収容している病室、手術室等を初めとして電磁遮蔽が必要な空間に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本願発明の電磁遮蔽空間の第一の実施の形態に係り、全体構成を示した説明図である。
【図2】図1の電磁遮蔽構造の拡大斜視図である。
【図3】図1の電磁誘導結合手段を概念的に示した説明図である。
【図4】図1の電磁遮蔽構造を構成する上下ランナーの斜視図(a)、平面図(b)、側面図(c)、上下ランナーに形成された窓の平面図(d)である。
【図5】図1の電磁遮蔽構造を構成する部分フレームを示したものであって、平面図(a)、正面図(b)、側面図(c)と、下ランナーの凸部とスタッドの下端との嵌合状態を示す部分拡大断面図(d)である。
【図6】本願発明の電磁遮蔽空間の第二の実施の形態に係り、電磁遮蔽構造のみを示した斜視図である。
【符号の説明】
【0090】
1 電磁遮蔽構造
1a 上ランナー
1b 下ランナー
1c スタッド
1d 接続板
2 導体
3 大地
4 電磁誘導結合手段
5 広帯域増幅器
6 スペクトルアナライザ
7 パソコン
7a モニタ
7b スピーカ
11 基部
12 凸部
13 窓
14 スポット溶接
15 端部
16 角部
17 墨出し線
18 金網
19 鉄心
20 極細径導線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井面と、床面と、前記天井面及び前記床面を囲む四方の面とに電磁遮蔽構造を施し、当該電磁遮蔽構造の任意の一箇所を導体によって大地に接地して成る電磁遮蔽空間であって、前記導体の任意の箇所に当該導体を囲んで設置される電磁誘導結合手段と、当該電磁誘導結合手段からの出力を入力し前記電磁遮蔽構造に到来した電磁波を解析する周波数解析手段とを具備したことを特徴とする電磁遮蔽空間。
【請求項2】
前記電磁誘導結合手段は、導線を多重巻きにしたコイルであって、全体が電磁遮蔽されており、当該コイルの出力は広帯域増幅器により増幅されていることを特徴とする請求項1に記載の電磁遮蔽空間。
【請求項3】
前記周波数解析手段は、スペクトルアナライザであって、当該スペクトルアナライザに入力された信号の特定の周波数成分が所定のレベルを超えた時に警報を発するように構成して成ることを特徴とする請求項1に記載の電磁遮蔽空間。
【請求項4】
前記スペクトルアナライザは、入力される信号が零の場合に警報を発するように構成して成ることを特徴とする請求項3に記載の電磁遮蔽空間。
【請求項5】
前記電磁遮蔽構造は、前記天井面に固定される金属製の上ランナーと、前記床面に固定される金属製の下ランナーと、上下に延在して前記上ランナーと前記下ランナーとの間に配設される複数の金属製のスタッドと、当該複数のスタッドを電気的に接続し当該スタッドと垂直方向に配設され、且つ前記上ランナー同士を接続し前記電磁遮蔽空間の天井面を構成し、然も前記下ランナー同士を接続し前記電磁遮蔽空間の床面を構成する複数の金属製の接続板とから成ることを特徴とする請求項1に記載の電磁遮蔽空間。
【請求項6】
前記接続板と前記スタッドとで仕切られる矩形状の領域の対角線の長さ、前記上ランナー又は前記下ランナーと前記スタッドと前記接続板とで仕切られる矩形状の領域の対角線の長さ、前記上ランナー又は前記下ランナーと前記接続板とで仕切られる矩形状の領域の対角線の長さ及び前記接続板同士で仕切られる矩形状の領域の対角線の長さは、遮蔽する電磁波の二分の一波長以下に設定されていることを特徴とする請求項5に記載の電磁遮蔽空間。
【請求項7】
前記電磁遮蔽構造は、前記天井面に固定される金属製の上ランナーと、前記床面に固定される金属製の下ランナーと、上下に延在して前記上ランナーと前記下ランナーとの間に配設される複数の金属製のスタッドと、前記天井面と前記床面と前記床面及び前記天井面を囲む四方の面とに配設され、前記上ランナーと前記下ランナーと前記スタッドとを電気的に接続する金網とから成ることを特徴とする請求項1に記載の電磁遮蔽空間。
【請求項8】
前記金網の網目の最長対角線の長さは、遮蔽する電磁波の二分の一波長以下に設定されていることを特徴とする請求項7に記載の電磁遮蔽空間。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−89927(P2006−89927A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−273242(P2004−273242)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(504158685)
【Fターム(参考)】