説明

電線・ケーブル被覆用樹脂組成物およびこれを用いた電線・ケーブル

【課題】樹脂に含まれる低分子量成分や、不純物として混入した微量成分などの発生を抑制し、低アウトガス性を高める。
【解決手段】ベーマイト型水酸化アルミニウムを含有する電線・ケーブル被覆用樹脂組成物、および、このような電線・ケーブル被覆用樹脂組成物からなる絶縁層12を導体11上に設けた低アウトガス電線10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体の製造を行うクリーンルーム内などで使用される電線・ケーブルの被覆材料として有用な樹脂組成物およびこれを用いた電線・ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体や液晶などの先端デバイスの製造プロセスでは、クリーンルーム内に存在する汚染物質が製品の品質や歩留まりに大きく影響する。汚染物質は、建材や装置から発生する塩化水素、フッ化水素、アンモニアなどのガスや、フタル酸エステル、シロキサンなどの分子状の有機物質などであり、一般にアウトガスと称されている。このうち分子状の有機物質は、ウェハの表面汚染や露光レンズの曇りの原因となると言われており、汚染源の1つとしてクリーンルーム内に大量に使用されている各種電線・ケーブルが挙げられている。
【0003】
このため、電線・ケーブルの低アウトガス化に対する要求が高まっており、例えばポリ塩化ビニル(PVC)やポリエチレン(PE)などをベース樹脂とした組成物を被覆した電線において、これらの樹脂組成物中に配合する可塑剤や安定剤などとして揮発性成分を含まないものを用いるなどの方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
しかしながら、樹脂組成物中には、可塑剤などの添加剤以外にもアウトガスの原因となる成分、例えば樹脂に含まれる低分子量成分(モノマーやオリゴマーなど)や、原料もしくは組成物製造時に不純物として混入した微量成分などが含まれており、従来の方法ではこれらの成分に対する対応が不十分であった。
【特許文献1】特開2002−190217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような従来技術の課題を解決するためになされたもので、樹脂に含まれるモノマーやオリゴマーなどの低分子量成分や、原料もしくは組成物製造時に不純物として混入した微量成分などの発生を抑制することができ、低アウトガス性をより向上させることが可能な電線・ケーブル被覆用樹脂組成物およびこれを用いた電線・ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、ベーマイト型水酸化アルミニウムを配合することにより、樹脂に含まれるモノマーやオリゴマーなどの低分子量成分や、原料もしくは組成物製造時に不純物として混入した微量成分などのアウトガスの発生を抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本願の請求項1に記載の発明の電線・ケーブル被覆用樹脂組成物は、ベーマイト型水酸化アルミニウムを含有することを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の電線・ケーブル被覆用樹脂組成物において、ベーマイト型水酸化アルミニウムを5〜50重量%含有することを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2記載の電線・ケーブル被覆用樹脂組成物において、ベーマイト型水酸化アルミニウムは、平均粒子径が5μm以下であることを特徴とする。ここで、ベーマイト型水酸化アルミニウムの平均粒子径は、例えば、レーザー回折散乱式粒度分布を用いて測定することができる。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項記載の電線・ケーブル被覆用樹脂組成物において、ポリオレフィンを主成分とするノンハロゲン樹脂組成物であることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項4記載の電線・ケーブル被覆用樹脂組成物において、ベーマイト型水酸化アルミニウムは、チタネート系カップリング剤により表面処理されたものであることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至6のいずれか1項記載の電線・ケーブル被覆用樹脂組成物において、ベーマイト型水酸化アルミニウム以外の金属水酸化物をさらに含有することを特徴とする。
【0013】
また、本願の請求項7に記載の発明の電線・ケーブルは、請求項1乃至6のいずれか1項記載の電線・ケーブル被覆用樹脂組成物からなる被覆を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電線・ケーブル被覆用樹脂組成物および電線・ケーブルによれば、樹脂に含まれるモノマーやオリゴマーなどの低分子量成分や、原料もしくは組成物製造時に不純物として混入した微量成分などの発生を抑制することができ、低アウトガス性をより向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
本発明の電線・ケーブル被覆用樹脂組成物に使用されるベーマイト型水酸化アルミニウムは、難燃剤などとして使用されているギブサイト型水酸化アルミニウムを水熱処理して得られる白色の針状または板状の物質で、ギブサイト型水酸化アルミニウムが単斜晶系の結晶構造を有するのに対し、ベーマイト型水酸化アルミニウムは斜方晶系の結晶構造を有する。表1に、ベーマイト型水酸化アルミニウムとギブサイト型水酸化アルミニウムの物性などを対比して示す。
【0017】
【表1】

【0018】
表1に示すように、ベーマイト型水酸化アルミニウムは400〜500℃で熱分解するため、難燃効果はギブサイト型水酸化アルミニウムに比べ小さいが、層状結晶であるため、組成物中に含まれる樹脂のモノマーやオリゴマーなどの低分子量成分や、原料もしくは組成物製造時に不純物として混入した微量成分などが、層間にインタカレーションされ、アウトガスとして外部に揮散するのを防止する。
【0019】
このような効果を得るためには、ベーマイト型水酸化アルミニウムは、組成物中に5〜50重量%の範囲で配合されることが好ましく、5〜30重量%の範囲がより好ましい。すなわち、配合量が組成物全体の5重量%未満では、樹脂中のモノマーやオリゴマーなどの低分子量成分、原料もしくは組成物製造時に不純物として混入した微量成分などのアウトガス成分の層間へのインタカレーションが不十分になり、アウトガスの発生抑制効果が低下する。また、逆に50重量%を超えると、アウトガス抑制効果はさほど変わらず、加工性が低下するおそれがある。
【0020】
また、樹脂成分との接触面積を大きくして低アウトガス性を向上させる観点からは、このベーマイト型水酸化アルミニウムは、平均粒子径が5μm以下であることが好ましい。ただし、平均粒子径があまり小さくなると十分な層状結晶構造を得られないおそれがあることから、0.5〜5μmの範囲であることがより好ましい。また、例えば無機難燃剤などの他の粉末状の添加剤を併用する場合は、樹脂中に均一に分散させるため、それら併用成分の粒子径とほぼ同じかまたはより小径の粒子径のものを用いることが好ましい。
【0021】
さらに、ベーマイト型水酸化アルミニウムは吸湿性があるため、それを低減する目的で、また、組成物中の樹脂との相互作用を緩和する目的で、表面処理剤で表面処理したものを用いてもよい。表面処理剤としては、チタネート系カップリング剤、シラン系カップリング剤、ステアリン酸などが挙げられる。チタネート系カップリング剤の具体例としては、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2‐ジアリルオキシメチル‐1‐ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイト、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネートなどが例示される。また、シラン系カップリング剤としては、ビニルトリス(β‐メトキシエトキシ)シラン、γ‐メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが例示される。ベース樹脂としてポリオレフィンを使用する場合は、カップリング剤の未反応物や副反応物がアウトガス成分の一因となり得るが、ウェハなどへの汚染性から、チタネート系カップリング剤の使用が好ましい。
【0022】
次に、電線・ケーブル被覆用樹脂組成物のベース樹脂としては、PVCやポリオレフィンが挙げられるが、燃焼時の安全性や環境保全の観点からは、ポリオレフィンが好ましい。ポリオレフィンの具体例としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などのポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン・アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン・メタクリル酸エチル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・プロピレン共重合体(EP)、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体(EPDM)、ポリイソプチレンなどが例示される。また、メタロセン触媒によりエチレンにプロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテンなどのα−オレフィンや環状オレフィンなどを共重合させたものなども使用することができる。これらは単独または混合して使用される。
【0023】
本発明の電線・ケーブル被覆用樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、難燃剤、可塑剤、軟化剤、老化防止剤、充填剤、加工助剤、架橋剤、架橋助剤、滑剤、着色剤、その他の添加剤を配合することができる。低アウトガス性のためには、これらの添加剤は、揮発性成分を含まないものであることが好ましい。例えば、難燃剤としては、前述したギブサイト型水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどが好適である。
【0024】
本発明の電線・ケーブル被覆用樹脂組成物は、以上の各成分をバンバリーミキサー、タンブラー、加圧ニーダ、混練押出機、ミキシングローラなどの通常の混練機を用いて均一に混練することにより容易に製造することができる。
【0025】
また、このようにして得られた組成物を、導体外周に直接もしくは他の被覆を介して押出し被覆するか、あるいはテープ状に成形したものを巻き付けることにより、本発明の電線・ケーブルが製造される。なお、組成物は、被覆後もしくは成形後、必要に応じて常法により架橋される。
【0026】
図1は、本発明の電線・ケーブルの一実施形態の低アウトガス電線を示す横断面図、図2は、本発明の電線・ケーブルの他の実施形態の低アウトガスケーブルを示す横断面図である。図1に示す低アウトガス電線10は、銅やアルミなどからなる導体11上に、前述した電線・ケーブル被覆用樹脂組成物からなる絶縁層12を被覆した構成となっている。また、図2に示す低アウトガスケーブル20は、銅やアルミなどからなる導体11上に、ポリエチレンや架橋ポリエチレンなどの通常の絶縁性材料からなる絶縁層12aを設け、さらに、その上に、前述した電線・ケーブル被覆用樹脂組成物からなるシース13を被覆した構成となっている。なお、絶縁層12aも前述した電線・ケーブル被覆用樹脂組成物で構成するようにしてもよい。
【0027】
本発明の電線・ケーブル被覆用樹脂組成物および電線・ケーブルは、低アウトガス性に優れており、半導体や液晶デバイスの製造を行うクリーンルーム内に配線する電線・ケーブルの用途に有用である。また、その他、同様の特性が要求されるバイオテクノロジー、医療、製薬、建築などの分野で使用される電線・ケーブルの用途にも広く用いることができる。
【実施例】
【0028】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0029】
実施例1〜7、比較例
ベース樹脂、すなわち、超低密度ポリエチレン(住友化学社製 商品名 エクセレンFX CX4002)とEVA(三井デュポン社製 商品名 エバフレックスEV180)を重量比4:6で配合したもの、3種の表面処理したベーマイト型水酸化アルミニウム、すなわち、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート(味の素社製 商品名 プレンアクトKR46B)で表面処理したベーマイト型水酸化アルミニウム(河合石灰工業社製 商品名 セラシュールBMB)(ベーマイト型水酸化アルミニウム(A)と表記)、ビニルトリス(β‐メトキシエトキシ)シラン(信越化学社製 商品名 KBC1003)で表面処理したベーマイト型水酸化アルミニウム(セラシュールBMB)(ベーマイト型水酸化アルミニウム(B)と表記)およびステアリン酸で表面処理したベーマイト型水酸化アルミニウム(セラシュールBMB)(ベーマイト型水酸化アルミニウム(C)と表記)、並びに、水酸化マグネシウム(協和化学工業社製 商品名 キスマ5A)を用い、表1に示す配合で各成分を均一に混練して樹脂組成物を得た。
【0030】
なお、上記ベーマイト型水酸化アルミニウム(A)〜(C)は、以下の手順で調製した。
すなわち、まず、各カップリング剤およびステアリン酸をそれぞれエタノールに溶解させ、10%エタノール溶液を得た。これらを、ベーマイト型水酸化アルミニウムを入れたガラス容器に、ベーマイト型水酸化アルミニウム1g当たり1mLの割合で滴下した。滴下は、ベーマイト型水酸化アルミニウムをガラス棒で攪拌しながら行い、滴下終了後もさらに攪拌を続けた。十分に混合されたところで、エタノールを自然乾燥させ、ベーマイト型水酸化アルミニウム(A)〜(C)を調製した。
【0031】
上記各実施例および比較例で得られた樹脂組成物をプレス機にて180℃×10分間、圧力20MPaの条件で加熱加圧成型して試験用シートを作製し、アウトガス成分(炭化水素類、シロキサン類、アルコール類およびエステル類)の検出を行った。検出は、アウトガスを発生させる方法としてスタティックヘッドスペース法、発生したアウトガスを検出する方法としてガスクロマトグラフ質量分析法(GCMS)を用いて行った。これらの結果を表2下欄に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
表2から明らかなように、実施例では、比較例に比べ、アウトガスの発生量が少なく、特にチタネート系カップリング剤で表面処理したベーマイト型水酸化アルミニウムを用いた実施例で良好な結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の電線・ケーブルの一実施形態を示す横断面図である。
【図2】本発明の電線・ケーブルの他の実施形態を示す横断面図である。
【符号の説明】
【0035】
10…低アウトガス電線、11…導体、12、12a…絶縁層、13…シース、20…低アウトガスケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベーマイト型水酸化アルミニウムを含有することを特徴とする電線・ケーブル被覆用樹脂組成物。
【請求項2】
ベーマイト型水酸化アルミニウムを5〜50重量%含有することを特徴とする請求項1記載の電線・ケーブル被覆用樹脂組成物。
【請求項3】
ベーマイト型水酸化アルミニウムは、平均粒子径が5μm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の電線・ケーブル被覆用樹脂組成物。
【請求項4】
ポリオレフィンを主成分とするノンハロゲン樹脂組成物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の電線・ケーブル被覆用樹脂組成物。
【請求項5】
ベーマイト型水酸化アルミニウムは、チタネート系カップリング剤により表面処理されたものであることを特徴とする請求項4記載の電線・ケーブル被覆用樹脂組成物。
【請求項6】
ベーマイト型水酸化アルミニウム以外の金属水酸化物をさらに含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の電線・ケーブル被覆用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項記載の電線・ケーブル被覆用樹脂組成物からなる被覆を有することを特徴とする電線・ケーブル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−10303(P2008−10303A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−179482(P2006−179482)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(306013120)昭和電線ケーブルシステム株式会社 (218)
【Fターム(参考)】