説明

電線保持具及び電線保持構造

【課題】取付溝への挿入力は小さく、取付溝への挿入後は高い保持力を有する電線保持具を提供する。
【解決手段】電線保持具10は、ブラケット40の取付溝41への挿入時に取付溝41の開口側の溝面に形成された係止部42を弾性的に乗り越えてこの係止部42に係止可能とされる弾性係止部22を有する。そして、電線保持具10は、取付溝41への挿入後に電線60が弛緩した状態で配置される初期位置と、初期位置からの電線60の引っ張りに起因して電線60が取付溝41の開口側に変位させられることにより、弾性係止部22が係止部42に押し付けられてこの係止部42との係止力を高める形態に変形させられる保持位置とに、変位可能とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線保持具及び電線保持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、従来の電線保持具(同文献中、樹脂成型品と呼称)が開示されている。このものは、ゴム製であってその全体が撓み可能な形態とされ、電線を挿入可能な電線挿入孔を有している。そして、電線保持具はブラケット(同文献中、Y字切り欠きの金具と呼称)に装着される。ブラケットの上端には取付溝が開口して形成され、この取付溝に電線保持具が挿入される。取付溝に挿入された電線保持具は、取付溝の溝面に弾性的に密着させられ、その弾性復元力によって取付溝からの抜けが規制されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−166702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の場合、弾性復元力を高めるべく電線保持具の撓み代を小さくすると、取付溝への挿入過程で電線保持具と取付溝の溝面との間の摺動抵抗が過大になり、作業負担が大きくなるという事情がある。これに対し、電線保持具の撓み代を大きくすると、取付溝への挿入後に電線保持具のブラケットへの保持力が低下するため、電線保持具が取付溝から抜け出るおそれがある。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、取付溝への挿入過程における挿入力は小さく、取付溝への挿入後は高い保持力を有する電線保持具及び電線保持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、電線を挿入可能な電線挿入孔が貫通して形成され、ブラケットの取付溝に挿入される電線保持具であって、前記取付溝への挿入時に前記ブラケットに形成された係止部を弾性的に乗り越えてこの係止部に係止可能とされる弾性係止部を備え、前記取付溝への挿入後に前記電線が弛緩した状態で配置される初期位置と、前記電線が前記初期位置からの引っ張りに起因して前記取付溝の開口側に変位させられることにより、前記弾性係止部が前記係止部に押し付けられてこの係止部との係止力を高める形態に変形させられる保持位置とに、変位可能とされているところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記弾性係止部が前記取付溝への挿入方向両端を固定端とする両持ち梁状に形成されているところに特徴を有する。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記弾性係止部が前記取付溝への挿入方向後端を自由端とする片持ち梁状に形成されているところに特徴を有する。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のものにおいて、前記取付溝への挿入方向先端部が先細り状に形成されているところに特徴を有する。
【0010】
請求項5の発明は、取付溝が開口して形成され、かつ係止部が形成されたブラケットと、電線を挿入可能な電線挿入孔が貫通して形成され、前記ブラケットの前記取付溝に挿入される電線保持具とを備える電線保持構造であって、前記電線保持具は、前記取付溝への挿入時に前記係止部を弾性的に乗り越えてこの係止部に係止可能とされる弾性係止部を有し、さらに、前記電線保持具は、前記取付溝への挿入後に前記電線が弛緩した状態で配置される初期位置と、前記電線が前記初期位置からの引っ張りに起因して前記取付溝の開口側に変位させられることにより、前記弾性係止部が前記係止部に押し付けられてこの係止部との係止力を高める形態に変形させられる保持位置とに、変位可能とされているところに特徴を有する。
【0011】
請求項6の発明は、請求項5に記載のものにおいて、前記係止部が、前記取付溝の溝面に形成されているところに特徴を有する。
【0012】
請求項7の発明は、請求項6に記載のものにおいて、前記係止部が、前記取付溝の両側縁に対をなして形成され、前記弾性係止部が、前記電線保持具の両側縁に対をなして形成されているところに特徴を有する。
【0013】
請求項8の発明は、請求項6又は7に記載のものにおいて、前記係止部が、前記取付溝の開口側の溝面に形成されているところに特徴を有する。
【0014】
請求項9の発明は、請求項6又は7に記載のものにおいて、前記係止部が、前記取付溝の深さ方向中間部の溝面に形成されているところに特徴を有する。
【0015】
請求項10の発明は、請求項5に記載のものにおいて、前記ブラケットの両端部には、一対の立上片が立ち上げ形成され、前記取付溝が、前記両立上片間に形成され、かつ前記係止部が、前記両立上片から外側に突出して形成され、さらに、前記電線保持具には、前記立上片の先端部が挿入される挿入凹部が形成され、かつ前記挿入凹部の外側に、前記弾性係止部が形成されているところに特徴を有する。
【0016】
請求項11の発明は、請求項5ないし10のいずれか1項に記載のものにおいて、前記係止部が、前記電線保持具の前記取付溝への挿入方向に沿って傾斜することで前記電線保持具の誘い込みをなす誘導面を有しているところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0017】
<請求項1及び請求項5の発明>
電線保持具が取付溝に挿入された後、電線を引っ張ると、電線保持具が待機位置から保持位置に移動させられ、これによって弾性係止部がブラケットの係止部に押し付けられてこの係止部との係止力を高める形態に変形させられるため、電線保持具の保持力を高く確保することができる。一方、電線保持具の取付溝への挿入過程で弾性係止部が係止部を乗り越える際には弾性係止部と係止部との間の摺動抵抗を小さくできるため、電線保持具の挿入力を低くできる。
【0018】
<請求項2の発明>
弾性係止部が取付溝への挿入方向両端を固定端とする両持ち梁状に形成されているため、電線保持具の保持力をより高くすることができる。
【0019】
<請求項3の発明>
弾性係止部が取付溝への挿入方向後端を自由端とする片持ち梁状に形成されているため、電線保持具の挿入力をより低くすることができる。
【0020】
<請求項4の発明>
電線保持具の取付溝への挿入方向先端部が先細り状に形成されているため、電線保持具が取付溝内に挿入される過程で取付溝の溝面(係止部を含む)と接触することに起因する摺動抵抗を小さくすることができる。その結果、取付溝内に電線保持具を挿入する際の操作性が良好となる。
【0021】
<請求項6の発明>
係止部が取付溝の溝面に形成されているため、電線保持具のうち取付溝内に挿入される部分に弾性係止部を形成することができ、電線保持具の構成を比較的簡素にすることができる。
【0022】
<請求項7の発明>
係止部が取付溝の両側縁に対をなして形成され、弾性係止部が電線保持具の両側縁に対をなして形成されているため、電線保持具の挿入姿勢が幅方向に傾くのが規制される。
【0023】
<請求項8の発明>
係止部が取付溝の開口側の溝面に形成されているため、電線保持具において係止部によって係止される係止位置と取付溝の溝底側の底面位置との間の高さ寸法を大きく確保することができる。その結果、取付溝内における電線保持具の保持力をより高くすることができる。
【0024】
<請求項9の発明>
係止部が取付溝の深さ方向中間部の溝面に形成されているため、電線保持具が取付溝内に挿入される過程で係止部と摺接する領域を小さくすることができる。その結果、取付溝内に電線保持具を挿入する際の操作性が良好となる。
【0025】
<請求項10の発明>
係止部が両立上片から外側に突出して形成され、電線保持具の挿入凹部の外側に弾性係止部が形成されているため、電線保持具が保持位置に変位させられると、係止部の根元に弾性係止部が食い込むように係止される。その結果、取付溝内における電線保持具の保持信頼性が高められる。
【0026】
<請求項11の発明>
係止部が電線保持具の取付溝への挿入方向に沿って傾斜する誘導面を有し、誘導面によって電線保持具の取付溝への挿入案内がなされるため、電線保持具の挿入動作の円滑性が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態1に係る電線保持構造の分解斜視図である。
【図2】電線保持構造の斜視図である。
【図3】電線保持具の側面図である。
【図4】電線保持具の平面図である。
【図5】電線保持具の断面図である。
【図6】ブラケットの正面図である。
【図7】電線保持具が初期位置にある場合の電線保持構造の要部破断正面図である。
【図8】電線保持具が保持位置にある場合の電線保持構造の要部破断正面図である。
【図9】本発明の実施形態2に係る電線保持構造の分解斜視図である。
【図10】電線保持具が初期位置にある場合の電線保持構造の要部破断正面図である。
【図11】電線保持具が保持位置にある場合の電線保持構造の要部破断正面図である。
【図12】本発明の実施形態3に係る電線保持具の断面図である。
【図13】本発明の実施形態4に係る電線保持具の斜視図である。
【図14】電線保持具が初期位置にある場合の電線保持構造の要部破断正面図である。
【図15】電線保持具が保持位置にある場合の電線保持構造の要部破断正面図である。
【図16】本発明の実施形態5に係る電線保持構造の要部破断正面図である。
【図17】本発明の実施形態6に係る電線保持構造の要部破断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を図1ないし図8によって説明する。実施形態1に係る電線保持構造は、自動車に装備されたABS(アンチロックブレーキシステム)の車輪速センサから延びる電線60を保持するための構造を例示するものであって、電線保持具10とブラケット40とを備えている。
【0029】
ブラケット40は金属製の板材であって、図1に示すように、その上端に取付溝41が開口して形成されている。ブラケット40の取付溝41には上方から電線保持具10が挿入される。取付溝41の開口側の幅方向両側縁には一対の係止部42が内向きに突出して形成されている。取付溝41の開口側の溝幅は、両係止部42によって奥側よりも狭められている。
【0030】
図6に示すように、両係止部42の上面は、高さ方向(取付溝41の深さ方向でかつ電線保持具10の取付溝41への挿入方向)に沿うようにして高さ方向に対し緩い傾斜角をもって傾斜する誘導面43とされている。電線保持具10は、誘導面43を摺動した後、取付溝41に挿入されるようになっている。また、両係止部42の下面は、幅方向(電線保持具10の取付溝41への挿入方向と直交する方向)に沿うようにして幅方向に対し緩い傾斜角をもって傾斜する係止面44とされている。電線保持具10は、係止面44と当接することで取付溝41からの離脱が規制されるようになっている。なお、幅方向に対する係止面44の傾斜角は、高さ方向に対する誘導面43の傾斜角よりも小さくされている。
【0031】
電線保持具10はゴム製であって、図1に示すように、その中心から外れた位置となる下部に、円形の電線挿入孔11が前後に貫通して形成されている。電線挿入孔11には電線60が挿入され、挿入された電線60はその外周面が電線挿入孔11の内周面に密着することで電線保持具10に保持される。電線保持具10の上面は略水平なフラット面12とされ、電線保持具10の外周面には両端がフラット面12に開口する断面略U字形の凹溝13が周方向に形成されている。
【0032】
そして、電線保持具10は、図3及び図4に示すように、前後両面がほぼ平坦な扁平ブロック状をなし、挿入本体部14と、挿入本体部14を挟んだ前後両側に一体に連なる一対の対向板部15とを有している。両対向板部15の対向面と挿入本体部14の外周面との間には、上記凹溝13が区画され、取付溝41への挿入時には、凹溝13が取付溝41の溝縁に嵌着されるようになっている。
【0033】
挿入本体部14は、取付溝41内に挿入される部分であって、取付溝41に対応する断面形状を有している。両対向板部15は、挿入本体部14よりも一回り大きくされ、取付溝41への挿入時には取付溝41の前後両開口を覆うように配置される。両対向板部15の上側の対向面には、左右一対(幅方向に一対)ずつの挟持リブ16が高さ方向に延出して形成されている。両対向板部15の挟持リブ16間には、ブラケット40が板厚方向に弾性的に挟持可能とされている。
【0034】
図5に示すように、挿入本体部14の上側の外周面(凹溝13の上側の溝面)には、左右一対の被係止部17が凹み形成されている。両被係止部17の内上面は、上方へ向けて拡開する斜面18とされ、両被係止部17の内下面は、幅方向に沿って緩く傾斜する被係止面19とされている。取付溝41への挿入時には、被係止部17内に係止部42が嵌合され、これによって斜面18が誘導面43と対向し、かつ被係止面19が係止面44と対向するようになっている。
【0035】
さて、電線保持具10には、左右一対の貫通孔21が形成され、さらに両貫通孔21の外側に、左右一対の弾性係止部22が形成されている。両貫通孔21は、挿入本体部14と両対向板部15をいずれも前後方向に貫通する形態とされ、電線挿入孔11の直上方に位置する高さ方向の軸芯部23を挟んだ幅方向両側に対をなして配置されている。両弾性係止部22は、電線保持具10の両側縁に沿って高さ方向に延び、その延び方向(高さ方向)の両端を固定端とする両持ち梁状をなしている。そして、両弾性係止部22は、両貫通孔21の孔幅を狭める内向きに撓み変形可能とされている。図5に示すように、挿入本体部14では、両弾性係止部22の上縁が被係止部17の被係止面19で区画されることにより、両弾性係止部22の太さ(幅寸法)が全長に亘ってほぼ均一とされている。
【0036】
次に、ブラケット40の取付溝41に電線保持具10を挿入する際の具体的な動作について説明する。
図1から図2にかけて示すように、ブラケット40の取付溝41に上方から電線保持具10を挿入する。挿入の過程では、挿入本体部14の弾性係止部22の外周面が係止部42の誘導面43を摺動し、これによって弾性係止部22がその両固定端を支点として内向きに撓み変形させられる。したがって、挿入本体部14と係止部42との間に発生する摺動抵抗が弾性係止部22の撓み動作によって緩和される。弾性係止部22が係止部42を乗り越えると、弾性係止部22が弾性的に復帰する向きに変位させられ、それに伴って被係止部17内に係止部42が嵌り込む。このとき、図7に示すように、被係止部17の斜面18は係止部42の誘導面43にほぼ面接触状態で当接する。
【0037】
こうして電線保持具10が取付溝41内に挿入された直後の状態では、同じく図7に示すように、電線保持具10の電線挿入孔11に挿入された電線60が取付溝41の高さ方向中央よりも溝底側(奥側)に弛緩した状態で配置される。また、弾性係止部22が実質的に自然状態に復帰して、弾性係止部22の被係止面19と係止部42の係止面44との間に隙間があけられる。この状態は、電線保持具10の初期位置に相当するものである。
【0038】
続いて、電線60を引っ張って緊張させると、図8に示すように、電線60が初期位置よりも上方(取付溝41の開口側)へ変位させられ、それに伴い挿入本体部14が取付溝41の溝底から浮き上がる。さらに電線60が上方へ変位させられると、弾性係止部22の被係止面19が係止部42の係止面44に緊密に押し当てられて、弾性係止部22が係止部42の係止面44との係止代(係止力)を上記乗り越え時よりも増加させる形態に変形させられる。この状態は、電線保持具10の保持位置に相当するものである。保持位置では、弾性係止部22はその弾性復元力によって係止部42と緊密に係止し合う。このため、電線保持具10がブラケット40にしっかり保持されることとなる。
【0039】
以上説明したように、本実施形態によれば、電線保持具10が取付溝41に挿入された後、電線60を引っ張ると、電線保持具10が取付溝41内を待機位置から保持位置に移動させられ、これによって弾性係止部22が取付溝41の係止部42に押し付けられて係止部42との係止力を高める形態に変形させられるため、電線保持具10の保持力を高く確保することができる。一方、取付溝41への挿入過程で弾性係止部22が係止部42を乗り越える際には、弾性係止部22の撓み動作によって、弾性係止部22と係止部42との間の摺動抵抗を小さくできるため、電線保持具10の挿入力を低くできる。
【0040】
また、弾性係止部22が取付溝41への挿入方向両端を固定端とする両持ち梁状に形成されているため、電線保持具10の保持力をより高くすることができる。また、係止部42が取付溝41の開口側の幅方向両側縁に対をなして形成され、弾性係止部22が電線保持具10の幅方向両側縁に対をなして形成されているため、取付溝41への挿入過程で、電線保持具10の姿勢が幅方向に傾くのが規制される。
【0041】
さらに、係止部42が取付溝41への挿入方向に沿って傾斜する誘導面43を有し、誘導面43によって電線保持具10の取付溝41への挿入案内がなされるため、電線保持具10の挿入動作の円滑性が確保される。
【0042】
さらにまた、係止部42が取付溝41の溝面に形成されているため、電線保持具10のうち取付溝41内に挿入される部分に弾性係止部22を形成することができ、電線保持具10の構成を比較的簡素にすることができる。しかも、係止部42が取付溝41の開口側の溝面に形成されているため、電線保持具10において係止部42によって係止される係止位置と取付溝41の溝底側の底面位置(下端)との間の高さ寸法を大きく確保することができる。その結果、取付溝41内における電線保持具10の保持力をより高くすることができる。
【0043】
<実施形態2>
本発明の実施形態2を図9ないし図11によって説明する。
ブラケット40Aは金属製の板材であって、図9に示すように、側縁に略矩形状の取付溝41Aが開口して形成されている。取付溝41Aの開口側の高さ方向両側縁には、一対の係止部42Aが内向きに突出して形成されている。両係止部42Aは、矩形板状をなし、取付溝41Aの開口幅を狭めるように配置されている。図10に示すように、両係止部42Aの奥面は係止面44Aとされ、ほぼ高さ方向に沿って配置されている。
【0044】
電線保持具10Aはゴム製であって、前後両面がほぼ平坦な扁平ブロック状をなし、挿入本体部14Aと、挿入本体部14Aを挟んだ前後両端に一体に連なる一対の対向板部15Aとを有している。挿入本体部14Aは、断面略U字形をなし、取付溝41Aに遊嵌状態で挿入される。また、両対向板部15Aは、挿入本体部14Aよりも一回り大きい円板状をなし、取付溝41Aの前後両開口を覆うように配置される。そして、電線保持具10Aの中央には、電線60を挿入可能な電線挿入孔11Aが挿入本体部14A及び両対向板部15Aのそれぞれを前後方向に貫通して形成されている。
【0045】
挿入本体部14Aは、同じく図10に示すように、高さ方向に延びる基部25と、基部25の高さ方向両端から側方(取付溝41Aの開口側)に突出する一対の弾性係止部22Aとを有している。基部25はその前後で両対向板部15Aに連結され、両弾性係止部22Aはその前後で両対向板部15Aとは非連結とされている。このため、両弾性係止部22Aは基部25を支点として高さ方向に撓み変形可能とされている。そして、両弾性係止部22Aの突出端は自由端とされ、ここに係止部42Aの係止面44Aに係止可能な被係止面19Aが高さ方向に形成されている。本実施形態の場合、両弾性係止部22Aは固定端側から自由端側にかけて次第に厚みを減じる形態とされている。
【0046】
ここで、電線保持具10Aがブラケット40Aの取付溝41Aに挿入される過程では、弾性係止部22Aが係止部42Aに摺動して撓み変形させられる。電線保持具10Aがブラケット40Aの取付溝41A内に挿入されて初期位置に至ると、電線60が取付溝41Aの溝底側(奥側)に弛緩した状態で配置される。また、図10に示すように、弾性係止部22Aが弾性的に復帰させられ、弾性係止部22Aの被係止面19Aと係止部42Aの係止面44Aとの間には隙間があけられる。
【0047】
次いで、電線60を引っ張って緊張させると、図11に示すように、電線60が取付溝41Aの開口側へ変位させられ、それに追従して電線保持具10Aも取付溝41Aの開口側へ変位させられる。すると、両弾性係止部22Aの被係止面19Aが両係止部42Aの係止面44Aに押し当てられ、両弾性係止部22Aが弾性的に拡開変形させられる。その結果、両弾性係止部22Aの自由端が取付溝41Aの開口側の両角部49に緊密に当接させられ、弾性係止部22Aと係止部42Aとの係止力が高められる。実施形態2によれば、弾性係止部22Aが取付溝41Aへの挿入方向後端を自由端とする片持ち梁状に形成されているため、電線保持具10Aの挿入力をより低くすることができる。
【0048】
<実施形態3>
本発明の実施形態3を図12によって説明する。実施形態3では、両対向板部15B、ブラケット40Aの取付溝41A、及び電線挿入孔11Bが実施形態2における対応部位と同様の形態とされるが、挿入本体部14Bが実施形態2とは異なる形態とされている。
【0049】
挿入本体部14Bは、断面略V字形の基部25Bと、基部25Bの高さ方向両端から側方(取付溝41Aの開口側)に突出する一対の弾性係止部22Bとを有している。両弾性係止部22Bは、全長に亘ってほぼ均一な太さを有し、基部25Bを支点として高さ方向に撓み変形可能とされている。そして、基部25Bには、取付溝41Aへの挿入方向に沿って傾斜する一対の傾斜面29が形成されている。両傾斜面29は、挿入本体部14Bの高さ方向中央に形成された先端部28から高さ方向両端側へ向け取付溝41Aの挿入方向に沿って後退する形態とされている。
【0050】
ここで、電線保持具10Bがブラケット40の取付溝41A内に挿入される過程では、係止部42Aの内端が傾斜面29に摺動し、これによって電線保持具10Bの撓み動作が円滑になされる。したがって、実施形態3によれば、電線保持具10Bの挿入作業性をより向上させることができる。
【0051】
<実施形態4>
本発明の実施形態4を図13ないし図15によって説明する。実施形態4に係る電線保持構造は、ブラケット40C及び電線保持具10Cを備えている。
ブラケット40Cは、金属製の板材からなり、図14に示すように、その上部に一対の立上片45が立ち上げ形成されている。両立上片45の間には断面U字形の取付溝41Cが上方に開口して形成されている。また、両立上片45には、一対の係止部42Cが外側(取付溝41Cとは反対側)に突出して形成されている。このように、実施形態4では、両係止部42Cが取付溝41C側に突出していないため、取付溝41Cの開口幅が両係止部42Cによって狭くなることはない。なお、取付溝41Cの溝幅は、開口端から高さ方向中間部にかけてほぼ一定幅とされている。
【0052】
両係止部42Cの上面は、突出端側に向けて下り勾配となる誘導面43Cとされ、両係止部42Cの下面は、幅方向にほぼ水平な係止面44Cとされている。
【0053】
電線保持具10Cは、ゴム製であって、図13及び図14に示すように、取付溝41C内に挿入される挿入部24と、挿入部24を挟んだ前後両端に一体に連なる一対の対向板部15Cとを有している。電線保持具10Cのほぼ中央には、電線60を挿入可能な円形の電線挿入孔11Cが形成されている。電線挿入孔11Cは、挿入部24及び対向板部15Cのそれぞれを前後方向に貫通する形態とされている。
【0054】
両対向板部15Cは、挿入部24よりも一回り大きい円板状をなし、取付溝41Cの前後両開口を覆うように配置される。挿入部24は、略矩形ブロック状の挿入本体部14Cと、挿入本体部14Cに切り込み形成された挿入凹部26とからなる。挿入凹部26は、ブラケット40Cの上部と対応する形状であって、両立上片45と対応する一対の立上片受け部27と、両立上片受け部27の深さ方向中間部から外側に凹む一対の係止受け部28とからなる。そして、挿入凹部26は、挿入本体部14Cの下端に開口している。
【0055】
図14に示すように、挿入本体部14Cのうち、両立上片受け部27の外側で、かつ両係止受け部28の下側(開口側)には、一対の弾性係止部22Cが形成されている。両弾性係止部22Cの立上片受け部27側の開口端には、テーパ状の一対の斜面31が切り欠き形成されている。また、両弾性係止部22Cの上端は、係止受け部28の下端を区画する被係止面19Cとされ、幅方向にほぼ水平に配置されている。
【0056】
電線保持具10Cがブラケット40Cの取付溝41C内に挿入される過程では、係止部42Cの誘導面43Cが弾性係止部22Cの斜面31を摺動して、弾性係止部22Cが外側に撓み変形させられる。そして、図14に示すように、電線保持具10Cがブラケット40Cの取付溝41C内に挿入されて初期位置に至ると、弾性係止部22Cが弾性的に復帰して、立上片受け部27内に立上片45が嵌合されるとともに、係止受け部28内に係止部42Cが嵌合される。また、初期位置では、電線60が弛緩した状態で配置される。
【0057】
次いで、電線60を引っ張って緊張させると、図15に示すように、電線60が取付溝41Cの開口側(図示上方)へ変位させられ、それに追従して電線保持具10Cも取付溝41Cの開口側へ変位させられる。これにより、弾性係止部22Cが弾性的に変形させられ、係止部42Cの係止面44Cの根元に、弾性係止部22Cの被係止面19Cが深く食い込むように係止される。したがって、実施形態4によれば、弾性係止部22Cと係止部42Cとの係止力が高められ、取付溝41Cから電線保持具10Cが抜け出るのが確実に防止される。
【0058】
<実施形態5>
本発明の実施形態5を図16によって説明する。実施形態5に係る電線保持構造は、ブラケット40D及び電線保持具10Dを備えている。
ブラケット40Dは、金属製の板材からなり、その上端に取付溝41Dが開口して形成されている。取付溝41Dの開口側の両側溝縁には一対の係止部42Dが内側に突出して形成されている。両係止部42Dの上面は、突出端側に向けて下り勾配となる誘導面43Dとされ、両係止部42Dの下面は幅方向にほぼ水平な係止面44Dとされている。ブラケット40Dの構造は、実施形態1と概ね同様である。
【0059】
電線保持具10Dは、ゴム製であって、ブロック状の挿入本体部14Dを有している。挿入本体部14Dには、電線60を挿入可能な円形の電線挿入孔11Dが貫通して形成されている。また、挿入本体部14Dの下端部には、実施形態3と同様に、取付溝41Dへの挿入方向に沿って傾斜する一対の傾斜面29Dが形成されている。両傾斜面29Dは、挿入本体部14Dの下端の幅方向中央から両側縁にかけてテーパ状に拡開する形態とされている。端的には、挿入本体部14Dの下端部は、取付溝41Dへの挿入方向に先細り状の形態とされている。
【0060】
挿入本体部14Dの上端両側縁には、一対の肩部33が切り欠き形成されている。両肩部33は、断面L字形をなし、その下側に、一対の弾性係止部22Dが形成されている。両弾性係止部22Dの上端は、両肩部33の下端を区画する被係止面19Dとされ、幅方向にほぼ水平に配置されている。なお、挿入本体部14Dは、電線挿入孔11Dを除いて中実とされている。
【0061】
電線保持具10Dがブラケット40Dの取付溝41D内に挿入される初期の段階では、挿入本体部14Dの傾斜面29Dが取付溝41Dへの挿入方向に後退していることの起因し、挿入本体部14Dが係止部42Dと干渉するのが回避される。取付溝41Dへの挿入中盤段階では、挿入本体部14Dの傾斜面29Dが係止部42Dの誘導面43Dを摺動して、弾性係止部22Dが内側に撓み変形させられる。電線保持具10Dが取付溝41D内に挿入されて初期位置に至ると、弾性係止部22Dが弾性的に復帰して、肩部33内に係止部42Dが嵌合する。それと同時に、弾性係止部22Dの被係止面19Dが係止部42Dの係止面44Dに下方から当接可能に配置される。この状態で電線60を引っ張ると、電線保持具10Dが取付溝41Dの開口側へ変位させられ、弾性係止部22Dの被係止面19Dが係止部42Dの係止面44Dに緊密に当接させられる。
【0062】
実施形態5によれば、電線保持具10Dの下端部(取付溝41Dへの挿入方向先端部)が先細り状に形成されているため、電線保持具10Dが取付溝41D内に挿入される過程で取付溝41Dの溝面(係止部42Dを含む)と接触することに起因する摺動抵抗が小さく抑えられる。その結果、取付溝41D内に電線保持具10Dを挿入する際の操作性が良好となり、作業負担が軽減される。
【0063】
<実施形態6>
本発明の実施形態6を図17によって説明する。実施形態6に係る電線保持構造は、ブラケット40E及び電線保持具10Eを備える。
ブラケット40Eは、金属製の板材からなり、その上端に取付溝41Eが開口して形成されている。取付溝41Eの深さ方向中間部の溝面における両側縁には、一対の係止部42Eが内側に突出して形成されている。両係止部42Eの上面は、突出端側に向けて下り勾配となる誘導面43Eとされ、両係止部42Eの下面は幅方向にほぼ水平な係止面44Eとされている。
【0064】
電線保持具10Eは、ゴム製であって、ブロック状の挿入本体部14Eを有している。挿入本体部14Eには、電線60を挿入可能な円形の電線挿入孔11Eが貫通して形成されている。挿入本体部14Eの高さ方向中間部の両側縁には、一対の嵌合受け部36が凹み形成されている。両嵌合受け部36は、係止部42Eと対応する断面爪状の形状をなしている。挿入本体部14Eにおける両嵌合受け部36の下側には、一対の弾性係止部22Eが形成されている。両弾性係止部22Eの上端は、両嵌合受け部36の下端を区画する被係止面19Eとされ、幅方向にほぼ水平に配置されている。なお、挿入本体部14Eは、電線挿入孔11Eを除いて中実とされている。
【0065】
電線保持具10Eがブラケット40Eの取付溝41E内に挿入される初期の段階では、係止部42Eが取付溝41Eの深さ方向中間部に位置していることに起因し、挿入本体部14Eが係止部42Eと干渉するのが回避される。挿入過程の中盤では、挿入本体部14Eの下端部が係止部42Eの誘導面43Eを摺動して、弾性係止部22Eが内側に撓み変形させられる。電線保持具10Eが取付溝41E内に挿入されて初期位置に至ると、弾性係止部22Eが弾性的に復帰して、嵌合受け部36内に係止部42Eが嵌合するとともに、弾性係止部22Eの被係止面19Eが係止部42Eの係止面44Eに下方から当接可能に配置される。この状態で電線60を引っ張ると、電線保持具10Eが取付溝41Eの開口側へ変位させられ、弾性係止部22Eの被係止面19Eが係止部42Eの係止面44Eに緊密に当接させられる。
【0066】
実施形態6によれば、係止部42Eが取付溝41Eの深さ方向中間部の溝面に形成されているため、電線保持具10Eが取付溝41E内に挿入される過程で係止部42Eと摺接する領域が小さく抑えられる。その結果、取付溝41E内に電線保持具10Eを挿入する際の操作性が良好となり、作業負担が軽減される。
【0067】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)初期位置では、電線が取付溝の開口寄りの位置に配置されていてもよい。要は、初期位置では、電線が保持位置よりも取付溝の奥寄りの位置に配置されていればよい。
(2)初期位置では、両弾性係止部の被係止面と係止部の係止面とが互いに当接し合うものであってもよい。
(3)本発明は、電線を保持する電線保持具と、この電線保持具が装着されるブラケットとを備える電線保持構造に広く適用可能である。
(4)係止部が取付溝の深さ方向中間部の溝面に配置される実施形態6の構成は、実施形態1〜3、5にも適用可能である。
【符号の説明】
【0068】
10、10A、10B、10C、10D、10E…電線保持具
11、11A、11B、11C、11D、11E…電線挿入孔
22、22A、22B、22C、22D、22E…弾性係止部
29、29D…傾斜面
40、40A、40C、40D、40E…ブラケット
41、41A、41C、41D、41E…取付溝
42、42A、42C、42D、42E…係止部
43、43C、43D、43E…誘導面
45…立上片
60…電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線を挿入可能な電線挿入孔が貫通して形成され、ブラケットの取付溝に挿入される電線保持具であって、
前記取付溝への挿入時に前記ブラケットに形成された係止部を弾性的に乗り越えてこの係止部に係止可能とされる弾性係止部を備え、
前記取付溝への挿入後に前記電線が弛緩した状態で配置される初期位置と、前記電線が前記初期位置からの引っ張りに起因して前記取付溝の開口側に変位させられることにより、前記弾性係止部が前記係止部に押し付けられてこの係止部との係止力を高める形態に変形させられる保持位置とに、変位可能とされていることを特徴とする電線保持具。
【請求項2】
前記弾性係止部が前記取付溝への挿入方向両端を固定端とする両持ち梁状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の電線保持具。
【請求項3】
前記弾性係止部が前記取付溝への挿入方向後端を自由端とする片持ち梁状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の電線保持具。
【請求項4】
前記取付溝への挿入方向先端部が先細り状に形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の電線保持具。
【請求項5】
取付溝が開口して形成され、かつ係止部が形成されたブラケットと、
電線を挿入可能な電線挿入孔が貫通して形成され、前記ブラケットの前記取付溝に挿入される電線保持具とを備える電線保持構造であって、
前記電線保持具は、前記取付溝への挿入時に前記係止部を弾性的に乗り越えてこの係止部に係止可能とされる弾性係止部を有し、さらに、
前記電線保持具は、前記取付溝への挿入後に前記電線が弛緩した状態で配置される初期位置と、前記電線が前記初期位置からの引っ張りに起因して前記取付溝の開口側に変位させられることにより、前記弾性係止部が前記係止部に押し付けられてこの係止部との係止力を高める形態に変形させられる保持位置とに、変位可能とされていることを特徴とする電線保持構造。
【請求項6】
前記係止部が、前記取付溝の溝面に形成されていることを特徴とする請求項5記載の電線保持構造。
【請求項7】
前記係止部が、前記取付溝の両側縁に対をなして形成され、前記弾性係止部が、前記電線保持具の両側縁に対をなして形成されていることを特徴とする請求項6記載の電線保持構造。
【請求項8】
前記係止部が、前記取付溝の開口側の溝面に形成されていることを特徴とする請求項6又は7記載の電線保持構造。
【請求項9】
前記係止部が、前記取付溝の深さ方向中間部の溝面に形成されていることを特徴とする請求項6又は7記載の電線保持構造。
【請求項10】
前記ブラケットの両端部には、一対の立上片が立ち上げ形成され、前記取付溝が、前記両立上片間に形成され、かつ前記係止部が、前記両立上片から外側に突出して形成され、さらに、
前記電線保持具には、前記立上片の先端部が挿入される挿入凹部が形成され、かつ前記挿入凹部の外側に、前記弾性係止部が形成されていることを特徴とする請求項5記載の電線保持構造。
【請求項11】
前記係止部が、前記電線保持具の前記取付溝への挿入方向に沿って傾斜することで前記電線保持具の誘い込みをなす誘導面を有していることを特徴とする請求項5ないし10のいずれか1項記載の電線保持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−186986(P2012−186986A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124440(P2011−124440)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】